決勝戦の前に3,4位決定戦があるから、観客席で少しでも体力と霊力を回復させておこう。
火多流と鳥子の姉妹対決だが、魔装術はなしだ。
うん。そのほうが良いぞ。少女同士の少しは揺れる胸を見れるから。
結果は体術の差で、火多流の勝ち。
先ほどまでの魔装術をつかった派手な展開とは違って地味な展開だ。
絵的には、あまりおもしろくないだろうなと、3,4位決定戦を写している霊能力対応ビデオカメラをみながら思っていたりする。
そういえば、勘九郎はどうしたんだっけ?
もしかしたら、俺がうごかないとまずかったかな。
あわてて雪之丞が運ばれているはずの救護室の方へ移動する。
しかし、途中で勘九郎と唐巣神父がむかいあっている。
ここって、令子がいるシーンじゃなかったっけ?
あっ! エミさんがいないから、変化しているのね。
勘九郎の心が力にのっとられたら、こちらの戦力って、エミさんも、タイガーもいないってことは前より激減じゃないか。
もしかして、対戦をぎりぎりひきのばしても俺ってピンチ?
勘九郎の心が力にのっとられたらまずいぞ。
エミさんがいない分は、俺の霊力アップとひのめちゃんをあてにしていたのに、ひのめちゃんが参加できない。
俺が所属している院雅除霊事務所所長の院雅さんは、ここまでくると問題外の実力っぽいしなぁ。
今の令子はまだ妙神山で修行前だし、あとは唐巣神父が幸いなことに小竜姫さまとメドーサの間ではなく、こちらに来ていてくれることだ。
エミさんよりも実力で上なのは確かだが、近距離よりも遠距離攻撃型なので、勘九郎との相性はやはり悪そうだ。
芦の三姉妹が味方になってくれるとしても、いくら魔装術のパワーがあっても見た感じでは勘九郎に対抗するのはむずかしそうだ。
途方にくれているうちに「横島選手!! いないのかね!!」と試合開始で呼び出される。
やるだけやって、駄目なら最後は逃げ出すか。
大きくみて、月からの魔力送信事件から本格的にアシュタロスが動き出している。
あの悪運の塊の令子が、その事件まではだいじょうぶだろう。
だから、やっぱり死ぬのはイヤだぞ。
皆で、会場から逃げ出せば怖くない。
今回はこれでいこう。
『そんな作戦がうまくいくわけが無い』とは、誰にもきこえていないのだから突っ込める者はいなかった。
「試合開始!!」と審判の声が響く。勘九郎が
「魔装術はね、みがきをかけて完成させると……」
「オカマやマザコンになるのか?」
「ちがうわよ――!!」
「どうやってみても、今日の男の魔装術使いは変なのしかいなかったけどな」
ついでだから、陰念も変態なかまにしといてやろう。
「そうじゃなくて、美しくなると言いたかったのよ!!」
「その格好を鏡でみたことがあるのか? 美しいというより、まだカッコよくと言う雪之丞の方がまともに思えるぞ?」
「あんなマザコンと一緒にしないで……それよりも魔装術よね」
勘九郎とかけあいをしているうちに、俺は霊力を最大限の出力でだせるように両手に集めておいたのを出す。
サイキックソーサーとしては小型版で、霊力は手にあつまったうちの一部しかつかわない。
しかし、その小さめのサイキックソーサーを両手からノーモーションでとびださせて、続けて同じ大きさのサイキックソーサーをつくりまた放つ。
全部で六連発のサイキックソーサーを放ったが、すべて避けられた。
しかもコントロールして攻撃させたのも含めてだ。
「それで全力かしら。あまりがっかりさせないでね」
勘九郎の後ろから襲わせたサイキックソーサーは俺の手元にもどして、霊力の損失を防いでいる。
左手に通常のサイキックソーサーと、右手にサイキック双頭剣の体勢をとる。
一応奇襲攻撃だったんだが、ワン・スーミンへのラストの攻撃をみられていたか。
「完成された魔装術と、まともに戦うと思っているのかい?」
現在の戦力差は出力マイト換算で約4倍なんだから、まともに相手なんてしてられるかよ。
「そんなことを言ってられるのも今のうちよ。死になさい。横島忠夫」
「イヤだ――!!」
そう言っておっかけっこをはじめるとみせかけて、せっかくしかけた術を始動させる。
「何!! 身体が急に重く…!?」
魔装術相手では未来の雪之丞にしか使ったことはなかったが、やはり勘九郎にも効くか。
「俺がただ単にサイキックソーサーをなげつけたと思ったのが、お前の敗因だ!!」
まだ勝ったわけじゃないけど、プレッシャーはかけておかないとな。
「サイキックソーサーの位置をみてみるんだな」
「五角形、しかもあの霊の盾までも?」
「その通り、俺の奥の手さ。サイキック五行吸収陣という」
愛子の時につかったのとは違って、単一色の五角形型のサイキックソーサーを結界内のぎりぎりに設置させている。
6枚の同時制御はきびしかったが、単純に奇襲攻撃と思って壊されなかったのがよかったな。
まあ6枚ともあたってくれたらかなりなダメージになるはずだが、それは期待のしすぎだろう。
「そんなの関係ないわ。完成された魔装術こそ人類最強のはずよ」
魔装術の極意は力にのっとられないことなんだが、この勘九郎に届くだろうか。
「その魔装術が完成されたものだと思っている時点で、間違いをおかしている。魔装術は潜在能力を意思でコントロールして、パワーを引き出すのが極意だ」
さも、知ったかぶりでいう。
実際にはそういうものだと知っているんだけど、ここの世界では、今日までに相手をしたことがあるなんて、現役GSにいないだろうしな。
ただ、院雅さんの視線が食い入るようにいたい。
あとで、なんか追求されそうだ。
「それに魔装術と、俺の術との相性の問題もある。俺自身のパワーは少なくとも魔装術に効果的な技が、サイキックソーサーやこのサイキック五行吸収陣さ」
単純に五角形のサイキックソーサーを五角形においただけにみえるだろうが、霊視がしっかりできるものや、霊視ゴーグルを使えば見えるだろう。
サイキックソーサーが霊的な線で五芒星と真円でむすばさっているのを。
このサイキック五行吸収陣の特徴は、中にあるものの霊力を吸収してさら吸収陣を強化していく性質がある。
ただし、例外はやはりあって俺は吸収の対象にならないし、普通の人間や妖怪からも霊力や妖力は吸収しづらい。
対象は魔装術などの身体の外部が霊的存在であるもの。
悪霊や魔族が対象で、神族にもきいたりするんだな。
まあ、魔族や神族でもメドーサや小竜姫さまみたいに強すぎるとほとんど役立たずか、下手をすると逆にふりまわされるんだが。
勘九郎がそれでも攻撃に移ろうとしているが、迷いもあるのか予想より速度が遅いのでかわし続けている。
霊力は多分半分程度までしかおちていないはずだから、まだ俺よりも倍程度の霊力での出力はだせるはず。
「そこまで、メドーサに義理立てする必要はあるのかな?」
その言葉に敏感に反応する勘九郎。
「メドーサ? 何の話かしら?」
攻撃とめているぞ。
魔装術のせいで顔はわからないが、状況証拠としてはかなり有力なんだけどな。
その時外部から、
「鎌田選手、術を解きたまえ! 君をGS規約の重大違反のカドで失格する!!」
待ちに待っていたときだ。
令子が「証拠は手元にあるわよ」と続ける。
勘九郎の選択はどっち?
ちゅうちょのでている勘九郎にまわりからは、
「やったか……?」
との声が小さく聞こえてくる。
対して勘九郎の答えは、
「証拠…? それがどうしたっていうの?」
少しばかりおそかったようだ。勘九郎の心が力にのっとられたのか。
「人間ごときが、下等な虫ケラがこのあたしにさしずすんじゃないよ!」
通常の結界はすでに解除されているので勘九郎はいまだサイキック五行吸収陣の中だが、俺はその言葉をきくとともに、サイキック五行吸収陣から抜け出す。
さて、残るか逃げ出すかそれの問題だが、以前戦っている勘九郎よりはサイキック五行吸収陣のせいでそれほどパワーはだせないだろう。
「こいつ魔装術の使いすぎで、力に心をのっとられかけて魔族化が開始しようとしかかっている!!」
そうさけんだのだが、GS協会の審判たちが集団では波魔札で対抗しようとして一蹴されている。
審判たちって、やっぱり実戦から遠ざかっているのね。
そんなのんきなときじゃないけど、そう思わずいられなかった。
人はそれを現実逃避という。
心が力にのっとられかけている勘九郎とは、令子が戦っている。
令子は弱った魔族をどつくのが好きだからな。
そんな様子を安全なサイキック五行吸収陣の外から眺めていると、院雅さんが声をかけてくる。
「戦いに参加しないのかい?」
「えー! だってもう1位決定しているようなもんだし、あとは正規のGSにまかせておく方がどうやってみても安全そうだし」
「まあ、それでもいいけれど、1位っていうのはどうかしらね?」
「へっ?」
「GS試験の規約をよくよんでおくことね。こういう場合は、
1位っていうのは名目で、通常の1位とは扱いが異なるはずよ」
「そうすると、俺が1位を目指した努力って無駄?」
「あの契約書のことをいうのならその通りね」
つらーっとした顔で院雅さんに言われると、せっかくのディープなキスのチャンスが……
「もしかして、あの中に入って戦わないと1位じゃなくなる?」
「そんなわけは無いでしょう」
んじゃ、何のために院雅さんは聞いてきているんだ?
それはともかくとしても、
「あとはゆっくりあの中にいてもらえば、勘九郎の霊力が吸収されて魔装術は維持できなくなるだろうから、令子さんが勝つんじゃないかな?」
のんびりと院雅さんと会話しているが、サイキック五行吸収陣の中で戦っているのは勘九郎と令子だけだ。
あとは遠距離からの支援攻撃の唐巣神父、冥子ちゃんの式神のみで、他は様子を見守っている。
だってあの中の二人の動きが速すぎて入れ替わり立ち代りで下手な支援は、逆に令子の方を攻撃してしまいそうだからな。
遠隔攻撃をしかけている唐巣神父と冥子ちゃんの式神もサイキック五行吸収陣の結界の強化するために吸収されて、勘九郎にたいしたダメージを与えていない。
冥子ちゃんの式神が中に入ろうともがいているから、それだけはやめておいてもらうか。
「六道冥子さん、式神をあの陣の中へ入らせようとするのはさけてもらうとうれしんですが……」
ちょっと下手にでておく。
「なぜ~? 令子ちゃんは~、ひとりでたたかっているのよ~」
いつもの間延びした感じだ。いきなりぷっつんはなさそうだな。
「六道家の式神って、式神のダメージが術者にもどってくるんでしょう? あの勘九郎のパワーって並大抵じゃないから、近くで戦わせると六道冥子さんにダメージがもどってくると思うんだよね」
俺の話の合間にこのぷっつん娘のそばから、ひとっこひとりいなくなったぞ。
すでに、そういう方面で有名だったのか?
「う~ん。じゃあ~、近くにいかない式神で~、戦うのは~、いいのね~」
「そうするのが、安全だと思うよ」
主に俺の安全のためにだけどさ。
余裕があった俺は観客席の方を見ると、なぜか小竜姫さまがメドーサに刺又(さすまた)で動きを封じられている。
えーい。神様が人間に迷惑かけるなよ。
以前の世界では偶然横島がたすけたんだけど、そんなのは知らなかった横島なのも仕方がないだろう。
今の手持ちの戦力でどうにかするならあの手か。
「今、陣を解くから注意してくれ――!! 令子」
俺はサイキック五行吸収陣を構成しているサイキックソーサーを戻しつつ俺自身の霊力に戻す。
「重かった身体が、元にもどったわ」
「なにやるのよヨコシマ――ッ!!」
令子、怒るなよ。
勘九郎も充分にパワーダウンしているようだしって、まだ強いな。
それでも、小竜姫さまがいないと色々と困る。
俺はできるなら使いたくなかった技を使う。
「外道焼身霊波光線ー!!」
霊波砲なんだがこの声をださないとなぜか出せない。
声がきこえていた範囲の人間達には、かわいそうにと見つめられる視線がいたい。だから嫌なんだ。
最初に韋駄天の八兵衛が霊波砲を放ったイメージで、俺の霊波砲を放つイメージになったみたい。
しかも通常の霊波砲ではなくて、収束型になっちゃうんだよな。
元々が神様の技で、俺との霊力の強さが違うからそうなるんだろう。
狙った先はメドーサ。
霊力に差がありすぎるから、まともなケガはしなくても嫌がらせレベルにはなるだろう。
あたったメドーサは予想外からの衝撃に思わず刺又(さすまた)を取り落としてしまい、小竜姫の神剣に身をさらすことになった。
「形勢逆転ってやつね…!! 勝手なマネもここまでよ、メドーサ!!」
「……たしかにここまでのようね」
『っち、まさかザコに邪魔されるとはね』
会場で反撃をしだしている勘九郎を見ながらも、自身の身のためだろう。
「勘九郎!! 撤退するわよ!!」
「――わかりました!」
うん? 撤退? 前の時はたしか違う言葉だったような。
「仕方がないわ! 次は決着をつけてあげる。横島!」
「いらんわい!!」
「生きてそこからでれたらね…!!」
火角結界なら今日になってからみつけたので、発動しないように小細工をしてある。
純粋な魔族ならこれぐらいつくれるだろうが、まだ人間をやめていない勘九郎には種が必要だ。
見つけたのは決勝の結界の下に隠すようにあったのだが、今起動した火角結界はもっと広い範囲でたっている。
安全だと思っていた俺はその広く放たれた火角結界の結界内にいるし、残り爆発までの時間は120秒とカウントダウンを開始している。
前回なら令子の勝負下着の色と同じ黒を斬れば良いのに、今度のこの火角結界はどちらかわからんぞ。
「全員で霊波をぶつけるんだ!! 霊圧をかけてカウントダウンを遅らせる!!」
唐巣神父、それ無理っす。
これだけ大型の火角結界なら小竜姫さまでもとめられるかどうか。
外部から娘のためだろう、六道夫人も霊波をぶつけている。
芦の三姉妹も魔装術をつかって霊波をぶつけているが、それでも焼け石に水だ。
まあ火角結界って、上下を破壊するから火角結界の外にいる分には安全だけどな。
メドーサと勘九郎もいなくなり、かわりに小竜姫さまが霊波をぶつけてカウントダウンを遅らせている。
「私の霊波でもカウントダウンを遅くするしかできません。
美神さん、左側の結界板の中央に神通棍でフルパワーの攻撃を…!! 急いで!!」
「こ…こう!? 穴があいた…!?」
「そいつは結界の霊的構造の内部よ!! 分解しているヒマはないけど活動をとめるチャンスはあります!! 中に二本、管があるでしょう!?」
「あるわ! 赤いのと! 黒いの!」
「どちらかが解除用、どちらかが起爆用です! 切断すればことは終わるわ! 選んで!」
令子の悪運を信じる手もあるが、俺はもうひとつの手を使うことにする。
「六道冥子さん、俺に魔装術を授けてくれないか。そうしたら、この火角結界をどうにかできると思う」
「え~、冥子、そんなの知らないわよ~~」
「六道家の式神の中で、夢の中に入れる式神っているはずだけど」
「ハイラちゃんね~」
「それが短時間なら、他人に魔装術を授けてくれるはずなんだ」
十二神将の遊び相手をしょっちゅうする時があったのだが、偶然なのかそれともハイラの好意なのか遊び相手の間は魔装術もどきを使っていた。
ただハイラがそばにいないとか、冥子ちゃんの影の中に入るととぎれるので、ときどき残りの式神にボコボコにされていたりしてたが。
「ハイラちゃ~ん、できるの~」
「キィッ」
そう鳴き声を出して、俺の影法師(シャドウ)が抜き出されて、俺の身体の外を覆うように展開されていく。
この魔装術もどきだが、やってることは魔装術と同じようなものだから、まあいいんだろう。
完全なコントロールをおこなって鏡をみないと実際にはわからないが、和服と変な帽子にピエロっぽい顔をしているだろう。
まわりが混乱におちいっている中、そんな俺と冥子ちゃんの様子を正確にきいて見ていた六道夫人がいたりするのもわかっているが、今はこの危機をぬけだすことが先だ。
影法師(シャドウ)は霊力を100%使いこなせるが並のGSなら肉体から出力できるのは、影法師(シャドウ)が出力できる20%をこえれば良いほうだ。
超一流といわれるGSでも普通30%を超えない。
たまに六道家みたいに霊力を100%しょっちゅう出しているのではと思う相手もいるが。
この影法師(シャドウ)をだす前の俺は30%ぐらいの霊力で、コントロールだけなら超一流だが、霊力の総合出力がいまだ低いのでサイキックソーサーどまりだ。
霊力を1ヶ所から一気に出せるようになれば栄光の手もつかえるかもしれないが、未だ肉体の方がそこまでついていってない。
しかし、この魔装術もどきなら、どこからでも100%の能力をだせる。
俺は火角結界の開いた穴の部分が多少せまいので、魔装術もどきの馬鹿力で穴を大きくする。
そしてその穴の中に入り、他人からは見えないように『視』の文字が入ったビー球くらいの大きさの球体で確認する。
そう、俺の本当の奥の手の文珠で今回の解除用の線は赤か。
赤を切断するとまわりから、
「止まった……!?」
との安堵の声がきこえる。
このあと院雅さんから追求されそうなのと、六道夫人は何かしてくるかな。
他からもきそうだけど、六道家の式神のせいにすればいいだろう。
しかし六道夫人の行動パターンって、原則、人頼りなのはわかるのだが、どっちの方向からくるのかわからないのが困ったところだ。
何はともあれ府に落ちないところもあるが、無事解決したと思いたい。
しかし、これからが本格的な始まりなのだろう……今後のアシュタロスへの戦いにそなえての。
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サイキックソーサーをベースにした変形バリエーションを多くだしています。
サイキック五行吸収陣ですが、サイキックソーサーと前世である陰陽師高島の陰陽五行術との合体技です。
ハイラによる魔装術もどきは、ナイトメアの話で影法師(シャドウ)に変化させられたことの拡大解釈によるオリ設定です。
これで六道夫人に眼をつけられたっぽいので、横島クンへ合掌。
GS試験編はこれで完結です。
2011.03.28:初出