芦八洋の魔装術の姿は、薄く身体全体に張り付くような感じで霊波をまとっている。
髪の毛が伸びているのは、魔装術で防御力をアップされた部分だろうが顔はむきだしのままのように見えるな。
魔装術そのものの完成度でいえば、雪之丞を上回っているかもしれないが、魔装術の完成度に対してそれほど霊力が高まっているようには見えない。
霊力だけならまだひのめちゃんに勝ち目はあるかもしれないが、魔装術で上がった速度に身体の動きが完全に追いついていない。
ひのめちゃんの、GSとしての身体の動きが平均的なGSより下であることが原因だろう。
相手のいる位置に発火させることはできているため、近接戦での致命傷はおっていないがこのままでは、と思ったところで令子がひのめちゃんに呼びかける。
「ひのめ。遠慮はいらないわ!! 相手が魔装術でくるならこっちも本気でいくのよっ!! 必殺技よ!!」
あっ! あれか。けれど、あの技をひのめちゃんに教えたときには、
「そんな横島クンごときに教えられた技なんて不要よ!!」
そう言われたんだけど未来でのひのめちゃんが、令子から教わった技のパクリなんだから、純粋に美神家の技になる。
中間に俺が入るからややこしいだけか。
それに今の彼女ともだいたい相性は良いらしいが、それを封じていたのも半分くらいは訳がある。
こっちのひのめちゃんでも同じことができると思ったから教えたのだが、俺が未来にいたときのひのめちゃんより年上のせいかね思ったよりも……。
「こんなときのために封印しておいた『アレ』を使うのよっ!!」
不要をここで、封印にすりかえるのか。
令子はやっぱりここでも令子だな。
芦八洋は八洋で
「必殺技? あれが、最近日本のGS界で噂になりだしている美神令子……!!」
ひのめちゃんが、その令子の言葉で八洋を注意しながら結界の方へ動き出す。
八洋が必殺技を警戒しているのか、中長距離主体の霊波砲に切り替えてきた。
ひのめちゃんが結界まであと一歩のところで、自分自身と八洋の間に巨大な炎の塊をだす。
炎はひのめちゃんと霊的につながっているので、その先にいる自分以外の何かを感じることができている。
このあたりの霊力を感じる能力は令子よりもひのめちゃんの方が上なんだが、本人はまだ意識できていないようだ。
八洋が移動して身体を見つけようとしても、間にかならずその炎の塊がくるし霊波砲をはなつと、より大きな炎になる。
一種の霊力吸収能力まで付加されているのだが、あまり吸収しすぎるとコントロール不可能になるんだよな。
相手に知られなければいいんだけどさ。
八洋から霊波砲を放たれてその霊波砲を吸収した直後に、炎は八洋へとむかいつつ、形はとある姿に変貌していく。
その形は竜……炎からつくられる灼熱の火竜が相手に向かっていく瞬間、その隙を見逃さなかったのか八洋が霊波砲を放つ。
かろうじてひのめちゃんは直撃をさけたが、左腕にケガをおっている。
ただ、その間にひのめちゃんが放った火竜も八洋を襲いレジストしようとしているが、霊波砲を放ったせいでふんばりがきかずに結界の外に押し出される。
「負けたわね」
ちょっとハスキーボイスだけども、可愛らしい声とともに八洋が魔装術を解く。
衣服はあちこち焦げているが、火竜での火傷までには至って無いようだ。
あのひのめちゃんの火竜をレジストするのは、魔装術というのはやはりすごいな。
しかし、目前の炎が小さくなるときに姿が見えるのが欠点か。
ひのめちゃんの技の、この欠点は令子も見過ごさないだろうな。
もう少し運動をさせないといけないと反省するであろうし、と思っていたら、
「やっぱり横島クンの教えた技ね。欠点をなおすのに大変だわ」
おい、令子!! ひのめちゃんの動きが遅いのはあまやかしすぎたんだよ
そう大声でさけびたいが、まだここでは会ってから1ヶ月半ぐらいだもんな。
審判から勝ちの宣言をひのめちゃんは受けていたがその場に八洋から近寄り、
「今回は負けたけれど、私の霊波砲を受けたのだから、救護班に霊視してもらった方が良いわよ。私の霊波砲はあとあとまで霊体に響くらしいから」
そう告げたあとに、彼女の姉妹である芦火多流と、すでに試合がおわっているのであろう芦鳥子の方へむかっている。
そんな忠告をうけたひのめちゃんはキョトンとしていたが、俺は疑問がわいてくる。
あの八洋って少女は、すでに魔族化の段階に入っているのか?
べスパの霊波砲には妖毒を帯びていたが、あの少女の霊波砲にも?
俺はひのめちゃんに近寄りながら、
「ひのめちゃん、たいしたキズに見えないかもしれないけれど、念のため、救護班に見てもらったほうが良いと思うよ」
「私だって、自分自身のヒーリングぐらいはできるますよ」
「いや、あの対戦相手の言っていた言葉が気にかかってね。霊波砲にも毒素が混じっているタイプがあるらしいからね」
「横島さんがそういうなら行ってみるけれど、お姉ちゃんからはそんな話は聞いたことないんだけどなー」
そうは言いつつも救護班の方に、むかってくれた。
しかし、もし毒素を持つ霊波砲を放っているんだったら、八洋は本当に人間か?
知っている魔族でも霊波砲に毒素をもっていたのは、べスパだけだ。
この時間軸でのべスパに相当するのだろうか。
俺はもしかしたら、今後くるであろう過去への移動で過去を改変してしまったのだろうか。
俺は次の試合の芦火多流も気にかかるが、自分自身の体力回復と霊力回復のために観客席に移動する。
「院雅さん。ちょっとばかり体力回復したいので15分ばかり眠ります。すみませんが、まわりから茶々をいれられないようにみていてもらえますか?」
そんな試験中に茶々をいれてくるなんてと思うだろうが、俺が小竜姫さまとメドーサの方を軽く示しながら言うと、さも納得と承諾をえた。
その頃、示されていた二柱の間では、
「お前の手下たちもたいしたことないわね」
「何のことかしら」
『他に魔装術を与えられている人間は知らなかったが、しょせんクズはクズということか……!!』
雪之丞クラスでもメドーサの中ではクズよばわり。
GSとなって協会に入る計画を白状しても安全な雪之丞だが、まわりでは未だ何が進行しているか不明中。
俺は15分ばかり椅子に座りながら眠ったところで、多少は体力と昨晩からの睡眠不足のたしにする。
霊力はさして消費していないが、霊力を回復するためのイメージをする。
霊力の回復は普通の瞑想でも可能だが、今の俺の場合、煩悩が強いから妄想だけで、って自分で思っていてちょっとばかり悲しい。
今度はベスト4を決める二次試験第五試合。
ひのめちゃんは、霊体に問題がでているためのドクターストップで俺の不戦勝。
ひのめちゃんが受けた毒素は霊能力を2,3日程度使用しなければ毒が自然に抜けていくらしいが、霊能力を使用すると極端に霊体への毒素が増えていくタイプらしい。
そのため俺はすでにベスト4に確定で、次の試合相手となる芦鳥子の試合を見学していたが、戦闘開始直後の霊波砲1発でおしまい。
相手がしょぼすぎて参考にもならん。
あと、決勝の相手になりそうなのは芦火多流と勘九郎だが、これも試合開始数秒でおわらせていたために何もわからない。
試合の消化が早いので、本来の時間より15分ほど早く次の試合が開始されることがアナウンスされた。
そして二次試験第六試合の「試合開始!!」の合図とともに、芦鳥子は魔装術を発動する。
俺の試合を多分姉妹から聞いていたのだろう。
対する俺は両手に通常より少々大きめのサイキックソーサーを作る。
「あら、私には双頭剣はつかわれないのですか?」
「あれだと、必要以上にキズを負わせてしまうからな。だからといって棍だと、貴女の魔装術をやぶれそうにないしね」
「私がなめられたとは思いませんが、手加減はしませんよ」
「できたら手加減してくれるとうれしいかなと」
「……」
それ以上、言うことは無いとばかりに芦鳥子が突進してくる。
芦鳥子が突進してきながら、手と足を中心に組み立てた連打を放たれる。
その打撃のひとつひとつが重たい。
えーい、こんなのまともにうけてられるかと、サイキックソーサーで流して、受け止めきれずに後方や斜め後ろに軽く飛ぶなどを繰り返している。
この芦鳥子はこの動作を見る限りにおいて、不完全な魔装術の弱点を知り尽くしている。
霊力を肉体の外にだすことにより動きを強化するのだが、霊波砲等の放出系の霊能力を使用すると魔装術を維持できる時間が短くなる。
その欠点を補うために、体術中心できているのだろう。
これだったらサイキック棍で、少しずつダメージを与えていく戦法でもよかったかなと思いつつも、この攻撃の回転をいなすのがようやっとな状態。
このままだと思ったよりも長くなりそうだ。
って、ローキックはだめー。
魔装術でローキックなんてされたら、足が一発で折れるやん。
自身の体力を鍛え始めてまだ1ヶ月半ちょっと。
この連打を続けられると、先にまいってしまうのはあきらかに俺の方だ。
外からは見えないことを良いことに、あることをしたいのだが無理っぽいな。
目の前の鳥子は美少女といっても過言ではなく、霊力なら煩悩をフル活用すれば煩悩エネルギーをためられても不思議ではないはず。
比較的薄い霊波で覆われている魔装術なので、身体のラインがはっきり見えてそれなりにメリハリのあるボディに目をうばわれても不思議ではない。
しかし今の俺にとっては、ちょっとばかり幼く見えてしまう。
俺の基準からみると煩悩を満たす対象になりにくい。
だってな、ひのめちゃんより幼く見えるからな。
美少女とはいえ、どちらかというと小柄ながら見かけによらずにパワーファイタータイプである鳥子。
もう少し色気があれば多少は別なのだろうが、通常戦いながら色気を期待するなんてそんなことは無理である。
実際、色気を振りまきながら戦っている美神令子が異常ともいえるのだが。
しかし、本当に単調とはいえ連打の回転がはやい。
「このままじゃぁ、らちがあかないな」
これだと、体力と霊力を一方的に消費していくだけだから、長期戦はまずい気がする。
斜め後ろにとんだところで中央にもどり、俺は戦法を変えることにする。
さっきから中央に戻るのはくりかえしているのだが、この瞬間は多少の間があくのでこれがチャンスだ。
可能なら栄光の手を使いたいところだが、まだそこまで体外へ霊力を一箇所からだせる出力には足りない。
しかたがなくサイキックソーサーを小さくして、その2枚を足へ移動させつつサイキックトンファーを作りだす。
うん? 見た目がかっこ悪いって。
しかたがない、ゴキブリよりはマシだろう。
「その格好は……」
「受けてばかりいてはらちがあかないから、ちょっと痛い目にあうかもしれないけど、ごめんな」
昔の俺ならこんなことは言えなかっただろう。
この前あった昔の俺は、コンプレックスがめちゃくちゃ強かったからな~
そんな今でも、どちらかというと反射神経だけでさばいているだけのつもりなのだが、まわりは中々信じてくれねぇ。
とはいっても、実戦で目だけは肥えている。
この鳥子は2戦目であたったワン・スーチンよりは、技術面で劣るのがはっきりとわかる。
だからこの相手のパワーをいかさない手はない。
サイキックトンファーを攻撃に使うが、やはりたいして効かない。
確かに効くとはおもっていなかったが、これだったらサイキック棍だったかなとおもいつつも攻撃を続ける。
一方的に受けにまわるよりは相手にプレッシャーになっているはずだが、やはり相手のパワーの方が上だ。
なんだかんだといいつつ、結界に追い詰められる。
鳥子はよけられないと思ったのか、最速の拳を打ってくる。
ワンチャンス。まっていたのはこれだ。
相手のその拳をサイキックトンファーでひっかけながら、身体を泳がせ俺は鳥子の外側に立つ。
さらに反対の手で首にサイキックトンファーをひっかけて体制をくずさせながら、その上に、結界へぶつかる寸前で足の裏まで移動させたサイキックソーサーで一押しだ。
場外への押し出しだな。
まさしく魔装術なんて、簡単にここの結界をやぶってしまう装甲を身にしているからこそ遠慮なくたたきこめる連続技。
「乙女のお尻を足蹴にして場外負けだなんて!! 納得いかないわ!! 再戦を要求する――!!」
この手のタイプにつきあっていたら、どうしようも無いのは身にしみている。
結婚する前の雪之丞とか、雪之丞とか、雪之丞とかって、あいつだけか。
似たような性格っぽいから、違う方面で相手をしよう。
「夜のベッドの上での相手ならいくらでも」
一瞬キョトンとしてたが、意味が通じたのか顔を真っ赤にさせながらも考え込んでいる。
まさか本気か?
「おいおい、まさか本気にしているわけじゃないんだろうな」
「そちらが言った条件でシミュレーションをしてただけよ!!」
「けど、試験結果はこの通りだろう?」
本気で寝技で勝負するシミュレーションとかしていたんじゃないだろうかと多少は心配したが、結局は冷静にもどったのかひきさがった鳥子だ。
しかし、本気で考え出すとは思わなかったぞ。
「横島君、余裕をもっていたわね。魔装術相手ってなれているの?」
突然院雅さんからかけられた声に、嘘は得意なつもりだが、な、な、なんかまずいことしたかなと思いつつ、
「そんなわけないじゃないですか。だって霊力に目覚めて、まだ1ヶ月半ぐらいですよ。魔装術は唐巣神父の協会の文献で、なんとなく覚えていただけっす」
「ふーん。まあ、柔よく剛を制すともいうから、対処方法としてはあってるけれど……」
「次の相手の試合をみたいので」
俺は院雅さんの言葉の途中で口をはさんで、そそくさとまだ続いていた鎌田勘九郎対芦火多流の対戦をみることにする。
あの子、何かやっぱりかくしているようね。
けれど、今の私じゃぁ……
横島の方へ目をむけながら、今後どうするのがよいか考える院雅だった。
鎌田勘九郎対芦火多流は勘九郎が魔的に完成された魔装術を展開しているのに対して、芦火多流も不完全ながら魔装術をだしている。
普通ならば同じ魔装術でも完成度は高いし、武術の面でもそれなりの腕がある勘九郎の圧勝するはずなのだが、芦火多流にかすりもしない。
芦火多流の特徴はスピードにありそうだが、それだけではなかった。
勘九郎は、芦火多流の光を使った幻術にまどわされている。
タイガーのテレパシーは、直接脳へ刺激がいくが、霊能力の防御力が高ければそれも届かない。
それに対して光をつかった幻術となると、見破るのは困難だろう。
それでも勘九郎よりは、芦火多流と対戦する方が気分的にらくだ。
俺の後ろの純潔を護るためにがんばってくれ!! 火多流!!
オカマあいてより女性相手の方が絶対にいいんだ――っ!!
火多流の方はというと幻術とともに、たまに霊波砲をまぜてくる。
思わぬ方向からくる砲撃だけに、勘九郎もダメージをおっているのだろう。
ルシオラを思い浮かばせる戦い方だが、麻酔の能力がないのだろうな。
それでも、勘九郎にあせりがみえない。
絶対の自信にあふれているのか?
右手に剣を持ちながら先ほどまでの剣をふるっていた様子とは変わって、スタスタスタと中央に移動していく。
それって相手が見えないんじゃ、好きにしろ、といっているようなもんだぞ?
実際中央にいる多分幻術でつくられた火多流を斬ると、消えてみえなくなった瞬間に霊波砲が勘九郎の左後方からあたった。
それを待ち受けていたのか、左手から特大の霊波砲を、攻撃を受けた方向にむかって放っている。
「きゃぁ!!」
かわいらしい悲鳴とともに、霊波砲で結界の外へおしだされた火多流がいた。
「勝者、鎌田選手!!」
俺の願いもむなしく、勘九郎が勝った。
どこにかくれていたのか知らないが、審判が勝者である勘九郎の手をあげる。
しかし、とっとと勝利者の手を離す。
どこか追っていきそうな雰囲気のある勘九郎だが、俺はやっぱり次の試合を棄権はできないかな。
まったくもってまともな方法では勝てる気がしないぞ。
*****
第五試合は決勝までさすがに魔装術5連戦はやりすぎなので、中間で不戦勝をはさみました。
2011.03.27:初出