アンテナ状の構造物へ近づいていくと、中からでてくるものがいた。
プロフェッサー・ヌルと、護衛用かどうかはわからないが、人造モンスターと思われるガーゴイルだ。
プロフェッサー・ヌルに対して、
「おーい、プロフェッサー・ヌル。すまないが、そのアンテナから魔力放出をとめてくれないかー」
「あー、いいとも」
へっ?
「君がとめられるのならね」
っと、そういうつまらないオチかよ。
俺は通信機を使って、ひのめちゃんに話かける。
「あのガーゴイルに、霊波砲を低出力で打ってみてくれないか?」
「ああ、あの幽霊屋敷の時みたいに、霊的攻撃がきかないように対処がされているかもしれないからですね?」
「そう。霊視をしてみても、あのアンテナ状構造物の魔力がつよすぎて、はっきりしないんだ」
「やってみます」
話している間に、単独でゆっくりと向かってくるガーゴイルへ向かって、ひのめちゃんが霊波砲を放つと、あっさりとはじかれた。嫌な奴だ。ただし、こちらも手ぶらできているわけじゃない。
精霊石ライフルを構えて打つと、あまり大きくは無いが、ガーゴイルの石が部分的に削れる。
「俺は、このまま、精霊石ライフルで打ち続けているから、傷を狙ってガーゴイルに霊波砲を当てる自信ができたら、まずは、低出力で打ってみてくれ。それが有効なら、可能な限り霊波砲をそこへ集中的に打ってほしい」
「そうですね。ひのめ、いきまーす」
ひのめちゃんの霊波砲で、表面が削れていっているところは霊波砲を跳ね返さないのはわかった。そして2発目の強力にした霊波砲だが、あのガーゴイルは何でできているんだ? 精霊石ライフルでも、たいした表面も削れないし、折角削った表面も中の物質は霊波砲でたいした損傷になっていない。やっかいな相手だ。
それにしても、ヌルの奴は、こちらを観察しているようで、動きが無い。たしか、魔族でも一番の魔術使いだったよな。まだ、ガーゴイルと距離があるうちに倒しておくか。
俺はヌルにむかって、精霊石ライフルを打ったが、わずかに横にそれた。やっぱりちょっと距離がありすぎたか。ヌルからは、
「おや? 私をいきなり狙うのですか? しかし、ここでのわたしの役目は終わりですから、それでもかまいませんが、最後まで見られなくなるのはつまりませんね」
「……まさか、また、お前は本体じゃないのか?」
「また? ああ、南部グループでの件ですね。その通りですよ」
俺は、頭をフル回転させてみたが、よくわからない。ヌルはとりあえずほっておいてもよさそうだから、ガーゴイルに集中することにした。
「ひのめちゃん。俺がガーゴイルに接近戦を挑むから、霊波砲で援護してくれ」
「横島さん、危険です。そんなことしなくても、ガーゴイルは損傷がでてきているじゃないですか」
「安全策も大切だけど、時間も気にしないといけない。それに『竜の牙』があるから、安心しろ」
そうして俺は『竜の牙』を長剣に変えた。竜神の力を発揮できているのもあるが、地球上よりも重力が小さい分、思いっきり振れる。
いっきに傷口を狙って、上から振り下ろしたら、身体ごと前にひっぱられてしまった。
え、え、え、遠心力のことをわすれていた!!
思いっきり、ガーゴイルをきりつけられたのは良いが、途中で長剣はとまっている。そして、そんなガーゴイルは俺に向かって、手と羽で振り払おうとする。それを利用しようとするが、長剣が外れない。別な形にしようと、棍にしたら、長剣よりも長さが短くなったら、抜けるんじゃなくて、逆に俺の身体が引っ張られた。
ガーゴイルは、そんな俺を爪で狙ってくるので、しかたがなく、棍になっている『竜の牙』をてばなして、相手の爪を避けるようにして、ななめ後ろにとんだ。
そうしたら、棍は『竜の牙』にもどっている。なんだ。元に戻せばよかったのか。
使い慣れていないものを扱った俺はやはり馬鹿だよな、っと思う間ぐらいはあるが、この距離なら、長剣で大きく避けた傷口をサイキックソーサーで狙って放つ。サイキックソーサーも、普段より霊力が高いのかはっきりと物質上になって、しかも大きさも少々大きいようだが、大きすぎない。
微妙にコースが外れたので、立て直そうとしたが、傷口をそれて、霊的攻撃を反射する表面にあたった。
まずい。こっちにもどってくるかと思ったら、あっけなく、貫通した。
もしかするとこいつって……
「ひのめちゃん、全力で霊波砲を打ってみてくれ」
俺は、その間にサイキックソーサーを2枚だして、ひのめちゃんの霊波砲が反射されるのに備えたが、ひのめちゃんの霊波砲はガーゴイルを貫いた。竜神の力がやどるアイテムが霊力をあげているから、地球上で人間が出力できる霊波砲に比べて、威力がかなり高いのが原因だろう。
俺も手持ちのサイキックソーサーを2枚とも放って、精霊石ライフルに持ち替えてヌルの胴体を打った。
「あー、ここまでですね。頭から伸びているチャクラをやられてしまっては」
って、俺は、そこまで考えて打ったわけじゃないんだけどなぁ。やっぱり、これって理○なのか、やっぱり○力だよな。って、ここでつっこんでくれるはずの令子はいないから、やめておこうっと。
ガーゴイルと、ヌルが倒れたらというか、ガーゴイルが倒れた瞬間からだが、丁寧にも
「警備員の消失を感知!」
なんて、わざわざ念話で知らせてくる奴がいる。
アンテナ状の構築物が、動き出そうとしているが、やっぱり改造魔族なのね。
俺とひのめちゃんの距離は約150mだから、走るにはこの重力の中では無理だから、サイキック炎の狐だ。これなら、約5秒で到着だ。ってそんな時間的な余裕はない。
『護』の文珠を発動させると数秒後に、強力な霊波を浴びせかけられる。
こちらもただまっているだけじゃなくて、この作戦の切り札ともいえるアレだ。
「ひのめちゃん、アレいくぞ」
「合体ですね」
なんで先に言うだよー
しかも、うれしそうに。
俺は、心の中でちょっとばかり泣きながら、両手に文珠を出して右手に『合』と、左手に『体』の文字を込めていた。
文珠の結界の外では、ちょうどアンテナ状の魔族ともいえる、こいつの巨大な手が向かっているところで、『合』『体』を発動した。
俺は、ひのめちゃんに吸い込まれるようにはいっていくと、ひのめちゃんは多少成長したようになる。特に胸のあたりは顕著だなぁ。腰回りもけっこういいしって、そんなんじゃなくて、まあ、令子との合体と同じような姿になっていると思ったら、身体の表面で黒くなるはずの部分が赤くなっている。そういえば、竜神の力となっているが、これは小竜姫さまの本性である赤竜の赤なのだろう。
って、なんか合体の割には、気持ちが良すぎるぞ。小竜姫さまの力が底上げをしているのと、同じ霊波だからシンクロ率があがっているのか。ひのめちゃんからも
「なんかパワーがあがっていませんか?」
「コントロールできる時間が、身近そうだから、手早く頼む」
「は、はい」
そう言って、ひのめちゃんは、向かってくる手に霊波砲を一発撃つと、文珠の結界をあっさりとつきやぶって、アンテナ状魔族の手も消失させた。
「そのまま練習通りに本体へ連続霊波砲を」
「わかってますよ」
俺は、なんとか意識を保たせているが、ぎりぎりの状態だ。はやく終わらせてくれー
もうだめだー、っと合体を解いたところで、アンテナ魔族が倒れてくれた。ひのめちゃんは勘違いしているようで、
「きちんと、倒れるのを見計らって、合体を解いたんですね」
「い・や・ち・が・う・か・ら」
というのが精いっぱいだった。意識はあるが、ぜーぜーと呼吸が荒い。心配そうにしているひのめちゃんだが、今の段階で*ひのめちゃん*からの霊的治療は、逆効果だからということで、地上での訓練でとめられている。だってなぁ、ひのめちゃんを襲ってしまうぞ。少なくとも、現段階でそれはまずい。
俺の呼吸がととのってくるうちにマリアがきた。
「マリアさん、きてくれたのね」
「イエス! ミス・ひのめ。帰還制御用装置の・部分をもってくるのに・時間が・かかりました」
ようやっと、俺の息が整ってきたのと、なんとか外へ意識を向ける精神力がもどってきたところで、
「マリア、悪いがけれど月神族とコンタクトをとってくれないか」
「イエス! 横島さん」
マリアが月神族と交信し始めて2,30秒程度で、空間に穴が開いた。月神族の住んでいる物質界と霊界の境目である亜空間だろう。
そこに入らせてもらって、迦具夜姫(かぐやひめ)に一室につれていってもらうと、やっぱり、やたらとメーターがある部屋だった。どういうのを情報源にしているのか、一度きいてみたいのだが、なんか「宇宙戦艦ヤ○ト」とか言われそうで、別に2199とか数字がうかんだのは、もっと気のせいだろう。
この部屋では呼吸ができるということで、ヘルメットを外した。さらに迦具夜姫は、朧(おぼろ)と神無(かんな)という前にも見た官女と月警官の長がでてきて自己紹介をしている。
「竜神の装具をこちらへ……エネルギーの補充をいたします」
素直に預けようとしていると、官女の朧(おぼろ)が
「こちらステキな方ね♡」
そういえば前もって思ったら、ひのめちゃんが
「横島さんは私の恋人です」
おお、改めて人前で言われてみるとけっこう新鮮だが、とたんに朧(おぼろ)が、
「ちっ!」
っと、思わず声をだしてしまったようで、さらっと竜神のアイテムを持って行った。
そのあとだが、迦具夜姫からは、
「地球から、悪い知らせが届いています。
って、それを早く言ってほしいぞ。
「どんな知らせですか?」
「地球と連絡を取るのが一番でしょう」
「それじゃ、早くお願いします」
地球との連絡がとれたところで西条が、
「霊的拠点在住の神魔族と連絡がとれなくなった。さらに魔族が各地であばれているのと、それに対応するはずのGSが思ったより少ないらしいというところまでしかわかっていない」
「他の拠点はともかく、妙神山は?」
そうすると小竜姫さまが画面の中に現れて、
「老師は竜神王に呼ばれていて、私が妙神山を離れている間は、代わりの神族が一時的にいたのですが……」
まさか、こちらの動きを探知されていたのか?
「とりあえず、月からの魔力送信が止まったから、魔族の数は減ると思うのだが、君たちも早めにもどってきてほしい」
西条が、たよってくるなんて、かなり切羽つまっているようだ。
ただ、画面をよく見ると、ようも無いのに、うろうろと画面に映っていたメドーサが見当たらない。ちょっと霊感を感じるので、
「そういえば、メドーサは?」
「どこかへ緊急で呼ばれたらしい。こちらに行き先もつげずにだ」
「うーん。そうか……」
「ただ、良い知らせがひとつある」
「良い知らせ?」
「ああ、令子ちゃんが、隊長と一緒に最前線で魔族を退治し始めたという話だ」
っていうことは、美智恵さんが令子を隠していたな。あの人の行動はさすがによめないぞ。
「わかった。こちらもなるべくはやく、こちらにある船で戻る」
「できる限り早くだ」
そう言って、一方的に通信を切られた。うーん、西条があせっているということは、言葉でいうより、状況は悪いのか?
そこで、迦具夜姫がやってきて、
「これをお読みください」
そう言って、封筒を一通渡された。
なんの手紙だ?
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そろそろ最終章に入ります。
2013.09.02:初出