次の5回戦は運もあるだろうが、雪之丞やユリ子ちゃんは、他と実力差がおおきそうだから、多分大丈夫だろう。
休憩をはさんで、ベスト4をきめる5回戦で注目する試合は、九能市氷河と鎌田勘九郎だ。
ユリ子ちゃんの試合会場のそばで、九能市氷河と鎌田勘九郎の対戦を観戦するが、霊力に差がありすぎる。
勘九郎の一方的な霊波砲でおしまいだ。
そういえば、前の世界で九能市氷河って、GSとして活躍してたかな?
ちなみに、ユリ子ちゃんも雪之丞も5回戦は何もなく突端な。
そして、いよいよ準決勝だ。決勝あるいは、3,4位決定戦を考えたとしても、それぞれあと2戦を残すのみ。
俺はユリ子ちゃんと蛮・玄人の試合の方を見る。
雪之丞と勘九郎じゃ、素の力では勘九郎だろうが、魔装術が無い勘九郎では、勝負にならないだろう。
そもそも男同士の上、マザコンVSオカマの戦いなんて興味ないしな。
ユリ子ちゃんの試合会場へ行き、試合開始を待つ。
両者すでに試合会場に入って様子をみているようだが、審判より「試合開始!」の合図がかかる。
蛮・玄人がその合図とともに、
「先ほどの試合は見せてもらった、100%だ。全力をだしてやろう」
そう言って、全身から人間とは思えないすさまじい霊力がでている。
解説の方からは
「おーっと、蛮選手の霊力数値がでてまいりました。なんと900マイトです」
900マイト? 冥子ちゃんでさえ300マイトぐらいなのに、すごいな。
本当に関心するぐらいだが、試合自体はほんのわずかな時間で終わった。
蛮・玄人の霊力の全開を見届けたところで、ユリ子ちゃんが霊刀で斬りつけたところ、相手がパンチをくりだしてきたので、その手の一部を斬りつけた。
その返す霊刀を、そのまま首筋にあてたところで、
「まだ続けますか?」
「100%のパワーで斬られるなんて~」
と言って倒れていった。
自分の血を見て気絶したようだ。
「勝者、加賀美ユリ子選手」
確かに900マイト自体の数値はすごいが、身体全体で放出しているから、部分的に強い霊力にはあたれば負けるのを理解していなかったか。
もしくは、それだけの技量をもった師匠がいなかったんだな。
対して、ユリ子ちゃんは中級魔族とも押されたとはいえ戦っているから、パワーしか考えていない900マイトぐらいの相手なら自信があったのだろう。
試合会場を降りてきたユリ子ちゃんに、
「おめでとう。あとは決勝だな」
「いえ、運です。それよりも雪之丞さんは、まだ魔装術もおこなっていないようですけど?」
ユリ子ちゃんの指摘を受けて見てみると、雪之丞と勘九郎がバトルをしていた。
ただし口でだ。おぃ。
マザコンとオカマと、どちらが正常に近いか、争っているようだ。
俺は、どっと、つかれた。
「雪之丞!! 相手の口車にのるなんていつもの悪い癖だぞ」
まあ、雪之丞が口車にのせられなくなったら、マザコンの戦闘狂だけどな。
「おお。本気で、忘れていたぜ! 去年の俺の魔装術とは違うところをみせてやるぜ!! 勘九郎」
雪之丞の極意を極めた魔装術をみて、勘九郎が、
「あたしも、去年のあたしと違うってところをみせてあげるわ」
「えっ? お前、魔装術は使えないのでは?」
「そうよ。よく知っていたわね。これもメドーサに、そそのかされたあたしが悪かったのよ」
「同情はするが……本気で行かせてもらうぜ」
「話は最後まで聞くものよ、雪之丞。魔装術をあのくそおばさん……メドーサに奪われたあたしは……」
会場へきて蛇髪に変装しているメドーサのこめかみが、ヒクヒクしているのは見なかったことにしよう。
「少年まんがの強さのインフレの大きさに負けないよう、あたしは努力したわ。けれどそれは間違いだと気が付かされたの。魔装術の極意は、潜在能力を意思でコントロールしてパワーを引き出す、という言葉を思い出してね」
その時、勘九郎が俺の方にちらっとなまめかしい目つきで一瞬みてきた。
背中が別な意味でゾクゾクするというか、お尻を抑えてにげだしたくなるというか。
けど、俺の昨年の言葉は覚えていたのか。
ただ、雪之丞は、
「話は見えないんだが、もしかして妙神山で修行でもしてきたのか?」
「いえ、霊波を纏う術は、魔装術だけで無いってね。さらに私の潜在能力を考えていたのよ。そしてわかったのよ」
勘九郎の霊力の放出がどんどん低くなっていくのが感じられる。魔装術を発動する際の霊力エネルギーの物質化の際におこる現象だ。
「そう。美しさよ。そしてあたしは……こんなに美しくなったわ」
って、その勘九郎の美的センスというのが、どっちにいったかよくわかるような、黒を基調としたエナメル質のベストにホットパンツとブーツという組み合わせにサングラス姿である。
数年後に流行るであろう「フォー」という声でもでればそっくりだ。頭イテエェーー!
「あれが、魔装術でなければ、霊装術あるな」
厄珍が真面目に解説している。
霊装術って、俺も極めようと思ったけれど、いくら修行しても、
「煩悩が強すぎるから、意志でコントロールできないのねー」
って、ヒャクメにダメだしされたのに、勘九郎はだいじょうぶなのかよ。
俺って、オカマに負けるのか。ちょっと悲しいぞ。
魔装術対霊装術の戦いは開始したが、術そのものは魔装術の方がわずかにパワーは高くなる。
しかし、素の霊力の違いで、霊波砲のパワーは勘九郎の方が上である。
雪之丞の霊波砲は勘九郎に比べるとパワーは少ないが、収束率が高くなっている。
雪之丞の性格を考えると無意識なんだろうが、実践で魔族と対抗するのに自然と覚えていったのだろう。
体術は勘九郎の方が上で、スピードは雪之丞か。
全体では、ほぼ互角に戦っている。
多分、勘九郎がこの霊装術を身に着けてからの実践が少ないのだろう。
まぁ、互いに、GSバスターとしての訓練も受けていないが、ある程度手の内を知っているから互いにやりにくいのか、やりやすいのかわからないが。
しかし、すでにこれだけの全力攻撃を1時間半もお互いに続けているのは、二人ともすさまじい精神エネルギーだな。
今の調子だと試合が、5,6時間ぐらいかかってもおかしくはない。
まぁ、それだけ二人とも精神面の疲れを感じなければだが、雪之丞はすでにこの戦いを楽しんでいそうだし、勘九郎はなんで腰を時々前後させるいんだよー。
見てる方が疲れてくるわ~
時間制限の無いのがこのGS試験の問題点だな。
次回から時間制限付きにされるといいなぁと思いつつ、今度は、おキヌちゃんの試験の時か。
一応ネクロマンサーの笛が主力武器だから、こういう1対1の実戦形式には向かないから、推薦枠ができるまで、やっぱり無理かな。
そう思っていたところ、雪之丞が突然動作を変えた。
「霊装術かなんかは知らないが、やっぱりこれか」
そう言って見せたのは、サイキックソーサー。
いつの間に魔装術を行いながらも、サイキックソーサーができるようになったんだ?
「本当は、横島との対戦用にとっとくつもりだったんだが」
って、俺との対戦用かよ。
「魔装術にはサイキックソーサーは効くけど、霊装術にはどうかしら?」
そう言いつつも、勘九郎もサイキックソーサーを作っている。
魔装術で装甲が物質化に近いレベルまでできる奴って、だいたいはサイキックソーサーもできるからな。
ここで、サイキックソーサーを出すってことはお互い、魔装術や霊装術を維持できるほどの精神力や霊力がなくなったということか。
霊波砲の打ち合いだったもんな。
お互い致命傷になっていなくても、それぞれかすっては、修復の繰り返しだったし。
一応膠着状態になったが、どっちがどう動いたら、どうなるかわからん。
サイキックソーサーは前回のGS試験で勘九郎は見切っていたし、雪之丞は普段から俺のサイキックソーサー系列を見慣れているからな。
そして、近くに近寄ってくる霊気を感じたが、誰だろうとちらっと振り返ったら銀ちゃんだった。
「なんか、すさまじい戦いやなー」
「ああ、俺でもこの試合形式なら、あいつらに勝てる気がしない」
「へー、Sランクの除霊を受けている事務所の分室長ではっきり言っていいのか?」
「ああ。俺たちには成功率というのも重要だから、無理だと思ったら受けない。なんせ自分たちの命がかかっているからな」
「ふーん、そうやな。やっぱり、GS試験にでてみてよかったけれど、途中で負けてもっとよかったわ」
「そういえば、銀ちゃんはGSになるのか?」
「正式にはならないけれど、自衛のために霊能力があるのは、持っていた方が好いって言われてやな」
「どうして?」
「悪霊のストーカーに、狙われることがあるからやて」
そういえば、前の世界で、銀ちゃんと再会した時は、悪霊のストーカーに狙われていたもんな。
雪之丞と勘九郎の動きはないが、目を離したら一瞬で何かがおこりそうなので、銀ちゃんを確認したあとは、また試合会場を見ながら話している。
そして銀ちゃんが、再び話はじめた。
「本当は、選手待合室で話そうと思ったのやけど、ヨコッちの除霊現場をみせてくれへんか?」
ちょっとばかり、意識を銀ちゃんに向けるが、
「何のために?」
「俺、ちゃんとした役者になりたいんや。それで今回の踊るゴーストスイーパーの為に、きちんとした役作りをしたいんや」
そこで、動きの無い試合会場を見ながら考えるが、銀ちゃんの試合でのスタイルは神通棍だ。
一方、俺のいる事務所で、神通棍を主力とする者はいない。
役作りというのなら、他のGSがよいだろうけど、誰かというと令子を思い出した。
アイドル好きだし、ひのめちゃんの家で食事のときの話題によくアイドルとかの話もでてくるから、こっちでも気合いの入った格好で受けてくれるだろう。
「銀ちゃんって、踊るゴーストスイーパーでも、神通棍を使うのか?」
「ああ、そうやけど」
「そうしたら、別口を紹介するよ。美神令子除霊事務所なら神通棍と破魔札を主体にしているから、役作りの勉強にはぴったりだろう?」
「美神令子というと、業界では大金がかかるって……」
「多分、先にサイン入り生写真でも持参して、交渉に入れば比較的安く請け負ってくれると思うぞ。それで駄目なら、こっちの所長と相談してみるけれどな」
「業界なりの情報があるんやな。今日はGS試験に専念するためにオフだったはずのだけど、仕事が入ってな。ほんまに助かったわー」
「銀ちゃんも大変だな」
「この埋め合わせはいつかするわ」
「気にするなよ」
「まあ、そう言わんとな」
そうやって、銀ちゃんとの会話は終わって、銀ちゃんは仕事へむかったようだ。
試合会場は少しも動きがなく時間が過ぎているが、すさまじい緊張感に満ち溢れている。
そう思った矢先に雪之丞が動いた。
サイキックソーサーを投げようとしたところで、冥子ちゃんが
「先に動いたっ!! ひのめちゃん、あの人、先に動いたわ~~!! 馬鹿ね~~負けるのね~~!?」
って、冥子ちゃんってこういう知識って、ひのめちゃんより知識が無いのかよ。
んで、ずっこけかけてすっぽ抜けたサイキックソーサーをなげた雪之丞が、勘九郎へ突進している。
勘九郎は、サイキックソーサーを保持したまんまで、さらに手から物質化した刀をだしている。
二重のコンボで雪之丞がやられると思ったら、雪之丞も手から物質化した刀をだしていた。
切り札を出す時には、さらにもうひとつの切り札をっていうのが、白龍寺の本来の戦い方らしかったが、魔装術を覚えたてのころはそうではなかったようだ。
先に、雪之丞の奇襲がきまるかと思ったが、リーチの差で勘九郎が、雪之丞の腹部の付近を差した。
そのまま、刀を消したから、致命傷ではないが、重症だろう。
そのままひねれば雪之丞の命も危なかったのに、勘九郎も案外良いやつだな。
だけど、勘九郎は、この時に致命的なミスをした。
先に雪之丞が投げていたサイキックソーサーが、勘九郎の後頭部にくるのを読めていなかったことだ。
あのルートだと、霊的死角に入った可能性がありそうだな。
雪之丞の運が強いのか、ユリ子ちゃんの行動パターンを無意識に覚えつつあるのか。
結果は、ダブルノックダウン。
3,4位決定戦と、決勝は結局全員医務室からでてこなかったので、最後の表彰式はユリ子ちゃん一人1位ということで、俺としては予想外の結果になった。
雪之丞がてっきりトップになると思ったんだけどな。
まぁ、雪之丞は決勝終了後に、ひそかに文珠で治『癒』したので、すぐに元の状態になったが、
「優勝をねらっていたのに、勘九郎と引き分けとは」
って、俺からみると贅沢な悩みだな。
こうして、GS試験は閉幕したのだが、まだ順位とかを院雅さんに報告しなきゃいけないんだよな。
一応、パーティをしてくれるはずなんだけど、メドーサがいるからどうなることやら。
メドーサとの話もあるが、今回は人数もいつことなので、院雅除霊事務所の方で、合格祝いをかねて、メドーサから情報も受け取ることになった。
ただ、ひとつ、雪之丞から
「そういえば、あの近畿銀一ってやつの動きの謎はわかったのか?」
すっかり、忘れていた。
やっぱり俺って、こういう諜報戦とかに向かないんだよな~。
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踊るGS試験編終了です。
次話投稿まで、しばらく、間があきます。
2012.03.03:初出