うーん。すでに分室としては、神魔族事務所と連携しているから、かなりの額がはいっているが、大部分は雪之丞がかせいできているようなものなんだよな。
そろそろ、今年度のGS試験だ。
雪之丞がでれば、今度のGS試験はまずトップ合格だろう。
ユリ子ちゃんも、六道女学院からGS試験を受けることの許可はもらっている。
まずはGS見習いには確実になれると、ふんでいるのだろう。
たしかに1対1の対人戦なら、加賀美円明流独特の霊的死角に入っていく動きをもっている彼女だから、GS試験程度なら中途半端な魔装術でも負けないだろう。
そんな楽観をしながら今年の春のGS試験に雪之丞と、ユリ子ちゃんは受験をするが、1次試験を見に行くのは院雅さん。
一応師匠ってことになっているのは院雅さんだからな。
おキヌちゃんは分室側の除霊助手ということになっているので、俺が見ていることになっているが、実際には院雅さんの方でみていることが多い。
気にかかるのは色々と各国の情報を入手しているが、昨年の春のGS試験以後から他国でも魔装術の使い手が、GS試験にでてきだしているらしい。
これは現在のアシュタロスがデタント派として、これからおこるであろう世界的霊障に対する準備工作なのか、それとも別な狙いがあるのか。
あと、もうひとつ。
本当なら、GS試験はヒャクメに出向いてもらって視てもらおうと思ったのだが、今は思わぬ事件でヒャクメは動けない。
今まで南部グループ以外で、この日本では魔族に関する動きはなかったのに、この時期に動きが見えてきたというのは、今度のGS試験でも何かあるのか?
俺はGS試験1日目の2次試験開始時刻を目指して、学校を早退した。
2次試験会場にむかってみるとすでに院雅さんはいたが、他の雪之丞とユリ子ちゃんが見当たらない。
「院雅さん。二人はどうしたんですか?」
「雪之丞なら知り合いを見つけたといって、そっちにでかけていったわ。ユリ子ちゃんなら六道夫人のところでしょ?」
「ユリ子ちゃんなら確かにそうでしたね。それにしても雪之丞の知り合いって誰ですか?」
「まっていれば、今にわかるんじゃないの?」
あいかわらず、院雅さんは全部を教えてくれないな。
2次試験にでてくる128名の名前は張り出されるはずだから、それでも見てみるか。
幸いユリ子ちゃんが前半側で、雪之丞が後半側だから決勝まであたることは無い。
とりあえずは決勝まで気楽にみていられるかなと思っていたら、いきなり第一試合がタイガー寅吉だって?
同じ高校にこなかったよな。
師匠はエミさんでいいのだろう。
たしかピートが最近、
「エミさんがGS見習いに来ないかって誘いがこなくなったんですよね」
って言っていたもんな。ピートの言っていた言葉その通りか記憶は定かじゃないが。
もう一人気にかかるといえば、鎌田勘九郎だ。
メドーサの言葉を信じるならば魔装術はもう使えないが、雪之丞の魔装術を除けば、魔装術なしでも2位になって不思議ではない実力だろう。
ユリ子ちゃんにとっては幸いなことに、勘九郎は後半にいるから雪之丞とあたるのが先だな。
俺としては勘九郎と同じ試験場にいるのはさけたいが、そうも言ってられない。
雪之丞はともかく、ユリ子ちゃんの近接戦は、半分は俺がみていたようなものだからな。
そして対戦表を見終わって、院雅さんの方にもどろうとしたらとある人物と目があってしまった。
これだから、院雅さんは一緒に対戦表を見にこなかったのか。
「あら、横島君。加賀美ユリ子さんの応援にきたの~。一緒に見学しない~」
六道夫人に悪気が無いのはわかっているんだ。
一緒にいるだけなら、まあ多少は目立つがそれくらいのはずだ。
分かっているんだが、他人便りの癖のあるこの六道夫人が、何か変なことを言ってこないよな。
ここのところ大きな除霊もなかったので、災難は忘れた頃にやってくるという言葉を今さらの事ながら思い出した。
六道夫人から、
「ええ、ちょっとユリ子ちゃんの1回戦の対戦相手が判ったので、アドバイスをしてきますので、その後でなら」
「よかったわ~。断られるかと思ってたのに~」
先にそれを言ってくれ。まあ言うわけがないけれどな。
俺自身の判断ミスに悔やみながらも、まずは院雅さんのところに出むくと、院雅さんは途中まできていた。
「院雅さん。相手があのタイガー、タイガー寅吉なんですよ。あいつの幻覚は強力だから、ユリ子ちゃんの霊力では対抗しきれないはずです」
「それは大丈夫よ。幻覚封じの札をもうユリ子に持たせてあるから」
「はい?」
「横島君。新聞くらい読んだら? 地獄組の組長が自主してきたって、大きくのっていたわよ」
令子の顧客に地獄組の組長は、今回もいるはずだから、結果としては似たようなものがあったのだろう。
「……それならば、たしかにタイガーが日本にきていた可能性は高いですよね」
「だからもう対策用の札を用意してあったから、能力がそれだけなら安心よね?」
幻覚封じの札は、未来で令子の父のテレパシー能力を抑えるために開発された札だ。
その原理をつかって、院雅さんがアレンジしているのか、中々具合がいい。
なにせ、ヒャクメに心を読まれないというところがあるからな。
ヒャクメにはまだ内緒だけど。
「まあ、そうですね。あいつがGS試験を取得できたのは、おキヌちゃんと同じく、補助系霊能力者への特別推薦枠によるGSへの道がひらけてからですからね」
「ところで、六道夫人がむかっていたようだけど、やっぱりつかまった?」
「見てたなら何とかって……してくれないですよね?」
「ここのところ無理を言ってきていないみたいだから、今日のユリ子の試験だけでも一緒に見学しているのね」
「へーい」
うーん。六道夫人と一緒に見学していても、あまりいいことは無いんだけどな。
六道夫人に一緒に見学すると答えた以上は、ユリ子ちゃんの試験までは一緒に見学するか。
GS試験の見学席である2階にあがって六道夫人はどこだろうと思って探そうとすると、
「横島君。こっちよ~」
声の聞こえる方向を向くと六道夫人はいるが、なんで冥子ちゃんまでいるの?
「冥子ちゃん。今回は救護班の方にいかなくていいの?」
「お母さまが、今回から救護班にいかなくてもいいって言うの~」
最近六道GS事務所の除霊成功率があがっているからか。
「よかったね。冥子ちゃん」
「え~、何が良かったのかしら~?」
冥子ちゃんの天然ぶりも忘れていた。
下手な話をするとぷっつんしかねないからな。
「六道女学院の生徒の応援に専念できるでしょう?」
「そうね~。そういえば~、今回の加賀美ユリ子さんって~、院雅所霊事務所でアルバイトをしているんだったわよね~」
「そうですけど何か?」
「正規のGS3人とGS助手3人って~、結構な人数がいるのね~」
「正規のGSっていっても内2人は高校生です。だから所長の院雅さんとGS助手が、普段動いているようなものですよ。それよりも六道GS事務所からカオスのおっちゃんはでないんですか?」
「ドクター・カオスね~。お母さまがでなくてもいいって言ってたのよ~」
俺は六道夫人の方をみると、冥子ちゃんと二人きりで話しているのをにこにこ見ているだけだ。
マリアに聞いてみたのか?
そうすると、この大会でマリアの計算で受からない可能性がある何かの要素があるのか?
単にカオスのボケがすすんでいるだけという可能性も否定しきれないが。
「とりあえず、ユリ子ちゃんの試合が第一試合なのでそれを見ましょう」
「おばさんも興味があるのよね。あの霊刀を持つ様になってから、めきめき成長しているみたいだから」
「あれを探し出してきた院雅さんの腕でしょうね」
俺にこれ以上ちょっかいをかけられるのはごめんだ。
だいたい今でも1ヶ月に1回ぐらいの頻度で、冥子ちゃんと一緒にいるのって、いくら除霊の成功率があがっているからといっても心臓に悪いんだぞ。
そういえばユリ子ちゃんの試合相手にタイガーが居るんだから、エミさんもいるはずだよな。
六道夫人のそばにいたく無いはずだから、ここらにはいないと思うけれど。
本当は雪之丞と見学する予定だったのだが、まあ仕方が無いだろう。
試合開始の時間となり各試合会場に人はそろっている。
「六道夫人。ユリ子ちゃんのこの第一試合って、どうなるか予想していますか?」
「勝ち負けじゃないわよ~。これも経験よ~」
「だって、六道女学院って春の試験で出るのは実力がある生徒をだすんでしょう?」
「組み合わせを決めるラプラスのダイス次第ね~。あれって霊的な実力よりも運が関係してくるから~、絶対1位になるほどの実力がないと、勝つとは断言できないわ~」
意外と冷静な目で見ている六道夫人におどろかされた。
「けど、皆には内緒よ~」
「はい。六道夫人」
ここで、変なことを言ったら、何をおしつけられるかわからない。
そうして各試験会場から「試合開始」の声が聞こえる。
ユリ子ちゃんとタイガーの試合は、さっそくタイガーが、霊的ラインをユリ子ちゃんにのばしているが、幻覚封じの札がきいているので、ユリ子ちゃんには届いていない。
その間にユリ子ちゃんがタイガーに一直線に近づいて、タイガーはユリ子ちゃんへ幻覚の能力がきいていないことに、動揺がおさまっていない。
そしてタイガーの四肢を斬りつけて、倒れたところで首元に霊刀シメサバ丸を突きつけている。
「私としては、これを動かさないですむといいんですけど……」
「ギプアップするケン」
そのまま、ユリ子ちゃんの「勝ち」が宣言される。
打倒な線か。タイガーってやっぱり運がないんだよな。
「横島君。加賀美ユリ子さんにあの強力そうな霊的ラインを、防げるはずがないんだけど~、何か知っているかしら~」
いつのまにやら、霊視ができるクビラを頭の上にのせている六道夫人からそんな話をされるが、
「院雅さん特性の結界札じゃないんですか? 俺達が除霊するときも、普段から身につけていますからね」
持ち込める道具は一つだが、お札に関しては制限が特にない。
一時期、神通棍を使う人間はお札をもちこめないこともあったが、それだと複数の霊具というか特に神通棍とお札を使う通常のGSが圧倒的に不利になる。
現在ではこれがオーソドックスなスタイルなので、このような方法に改められている。
まあ、そのGS試験ルールの隙間をぬったような作戦だけど、院雅さんに情報をあたえておいてよかったな。
「じゃあ、第一試合も終わったので、ユリ子ちゃんのところに行ってきますね」
「おばさんも声をかけるから一緒にね」
げっ! そういえばユリ子ちゃんは六道女学院なんだから自然な行動だよな。
六道夫人や冥子ちゃんと一緒にいると、なんか視線がささってくるんですけど。
GS業界の有名人と一緒にいるとつらいな。
2階からおりて、あらかじめ聞いていた院雅さん、ユリ子ちゃんとの待ち合わせ場所に移動したが、院雅さんの姿は見当たらない。
「ユリ子ちゃん、一試合目突破おめでとう」
「おばさんからもね~」
いいや、ユリ子ちゃんとは院雅除霊事務所で話すことにしよう。
「具体的なことはあとで事務所の方で話すとしよう」
「あれ? 院雅さんは、明日の試合相手の情報収集を横島さんと、一緒にしてなさいって言ってましたよ」
院雅さん、それってまた嫌な相手を避けやがったな。
以前、六道夫人からの除霊は断りをいれ続けていたから、会うのも気が重いのはあるんだろうけど、露骨に俺の方に興味くるようにしなくてもよいだろうに。
「おばさんも一緒にみてあげたいけれど~、お仕事の方があるから~、また明日あいましょうね~。加賀美ユリ子さん」
「はい。六道理事長」
「冥子もきちんと見ておいて~、横島君の解説があったら~、聞いておくとタメになるかもしれないわよ~」
こらこら、娘の教育を俺に押し付けるな。
今さら遅いんだが。
結局は、雪之丞も試合は最後なので、冥子ちゃんとは一緒に2階で見学をすることになる。
二次試験第一試合で注目するのは前半組では、蛮・玄人(ばん・くろうと)か。
「今の蛮・玄人って、本当に言っていた通りに霊波を、10%しか出力していないと思うか?」
「わからんが、それが本当なら、パワーだけなら俺の魔装術を超えているな」
「まあ、霊力はある方が良いけれど、それだけならでくの坊だしな」
しかし、以前の時にあんなGSいたかな?
それに対して後半組は、色々といるな。
鎌田勘九郎のパワーは圧倒的だが、蛮・玄人(ばん・くろうと)には見劣りするな。
それに九能市氷河は名前を見ただけじゃ思いだせなかったが、あの危ない人格で霊刀ヒトキリマルによって人を斬りたがっていた。
以前の俺って、よくこの九能市氷河っていうねーちゃんに勝てたよな。たとえ、心眼がついていたとしても。
それに昨年のGS試験で試合をしたワン・スーミンが、いるのはなんでだろうな。
あの実力なら秋のGS試験で受かると思うのだが、運でも悪かったのかな?
あと前半組なのだが、一人よくわからないのは近畿銀一だ。
顔を見るまで確証はなかったが、俺の大阪での小学校時代の友人で、以前は俳優をしていて今頃は
『踊るゴーストスイーパー』
のテレビ版にでていたはずなのに、ここではなんでGS試験にでているんだ?
声をかけてみるか、かけないでいるかだが、GSに確定しているわけでないし、もしかしたらユリ子ちゃんとぶつかるかもしれないから声はかけずにおくか。
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院雅除霊事務所から2名のGS試験出場です。
ヒャクメの事件対応はGS試験のあとで続きます。
蛮・玄人、九能市氷河は原作にでてるキャラです。
近畿銀一は銀一まではわかりましたが、苗字が原作でも不明なので、芸名の苗字をそのまま使いました。
2012.02.22:初出