院雅さんから、ひのめちゃんもユリ子ちゃんも問題なしとの連絡があり、出発は金曜日で南部ホールディングスへ集まる。
「エミさん。おひさしぶりです」
「ふーん。たしかにひさしぶりなワケ。横島」
「今回、俺達の事務所だけでは難しいかもしれませんので、エミさんに同意してもらってうれしいですよ」
「そう? あんたも、あの院雅って奴の下で大変なワケ」
「えっ? どこがですか?」
「知らないんだったら別にいいワケ」
うーん。エミさんって院雅さんの何かを知っているのか。
そういえば、ヒャクメも院雅さんの過去のはなしになると、露骨に話題転換に走るしな。
院雅さんに何があるんだ?
そんな疑問もあったが南部ホールディングスの屋上からヘリコプターで、でかけることになった。
一応は南部ホールディングスからの抜打ち監査を含むということで、蛇髪ことメドーサが同行する。
しかし、メドーサがザンス製の変化マスクをかぶっているのか。
チチの形状でメドーサだとわかるが、いくら霊視しても魔族だってわからん。
これで体形まで変えられる、現在まだ開発中のエクトプラズムスーツでもきられたら全くわからんぞ。
しかし、メドーサが同行といってもGSである俺達が、南部ホールディングスから依頼されたための証人であって、このままヘリコプターでUターンするそうだけど。
味方で一緒にいてくれたら、絶対に楽なんだけどな。
それで目的地である森の中の旧華族の屋敷の廃屋は、ゴシックホラーそのまんまという雰囲気をかもしだしている。
抜打ちできたのだが、お互い手のうちはわかっているようで、
「南部リゾート開発社の須狩(すかり)です。南部ホールディングスの蛇髪さんですか?」
うー、あいかわらず美しい女性だ。
是非ともお近づきになりタイプの女性だけど、今回も敵なんだろうな。
「南部ホールディングス法務部の蛇髪です。今回はここでGSが何人か死亡したという情報が入っています。南部グループの評判が悪くなる前に、今回こちらで依頼したGSに除霊を頼んだのです。こちらは院雅所霊事務所と小笠原GS事務所のメンバーになります」
「そうでしたか。それはこちらの手配が遅れました。事情がわかっているようでしたら話が早いです。そろそろ危険な時間帯になっておりますので、私どもは引き上げる時間です。そちらのGSの方々も、ご無事にすごしてください」
「挨拶が遅れましたが、今回のGS代表をさせてもらっています横島です。我々院雅所霊事務所と小笠原GS事務所におまかせ下さい」
「じゃあ、私は明朝くるので、夜間内部の調査をお願いしますね。GSの皆さん」
うーん、メドーサにそういう話をされるとなんか背中がむずがゆいんだけどな。
「ええ。では明朝」
そして2機のヘリは飛び立ったが、それぞれの帰っていく方向が違う。
まあ、須狩(すかり)さんはもどってきて人造モンスターの実験でも見ていくのだろう。
けれど、もう一人は多分あの魔族なんだろうな。
なんたって、ここにいる南部重工業の一人がプロフェッサー・ヌルだなんて書いてあったから、あのタコ魔族じゃないのか。
えーい。人造モンスターたちが、中世ヨーロッパ時代の強さだったら泣けるぞ。
人造モンスター系や、独自の呪法でくくられた悪霊や妖怪が、どんなんだか気にしても仕方が無い。
今回のメンバーなら、普通の霊力レベルSなら心配は無いはずなんだが、プロフェッサー・ヌルという名前が、魔族なのかどうか不明なのが気にかかる。
少なくとも地獄炉レベルの物があれば、ここの結界でもヒャクメが検知できると胸をはって言ってたが、それだけがたのみだな。
「横島。入るけどいいよな」
「ああ。雪之丞、頼む」
うむ、一応フォーメーションは考えてあるが、ドアを通るときには一瞬そのフォーメーションがくずれる。
この場合は前から順番に雪之丞、ユリ子ちゃん、エミさん、ひのめちゃん、俺と、俺が後方警戒をかねるのは、香港のときとあまりかわらない。
大きく違うのは雪之丞が最前衛にいることだ。
魔装術を極めた雪之丞は心強いが、まだこれからもこいつは霊力アップしていくんだよな。
ひとつめの部屋に入ったところは暗いので雪之丞が、
「灯りがほしい」
そう言うとひのめちゃんが、ライトで辺りを照らす。
1つめの部屋の雰囲気は『ドヨヨヨーン』としていかにも幽霊屋敷っぽい感じでエミさんが、
「霊圧が異常に高いワケ。何がきてもおかしくないから気をつけるワケ」
実際さらに奥の部屋に通じるはずのドアからは『ズル』『ペチャ』っという音がして、いかにも何かいますよという感じだ。
「何か向こうにいるようだな」
「ドアを開けるから、様子を見るのはまかせた」
俺が奥の部屋へと通じるドアをあけると雪之丞が、
「殺気だ! いくぜっ!」
と言うなり、突入していく。
まだ他にもいるかもしれないのに、さっき言ったエミさんの話しも忘れていやがる。
それで奥にいたのは男性型の悪霊だが、以前の記憶ではここで俺の煩悩を刺激してくれたはずのヌード姿の女性の悪霊だったんだけどな。
雪之丞が魔装術を発動して、一殴りで成仏させやがった。
あいかわらず、魔装術っていうのは近接戦では規格外だな。
そんな悪霊を退治した瞬間に窓ガラスが割れる音がする。
「犬のゾンビなワケ!」
俺はこのレベルの霊圧からサイキック双頭剣とサイキックソーサーを2枚は浮かせて、さらに1枚は盾にする。
そのあいだにひのめちゃんが聖水の霊能力を使用して、犬のゾンビを弱らせ雪之丞がたたきつぶしていくのを中心に、エミさんがブーメランで倒していく。
俺はひのめちゃんを守るようにして、2枚のサイキックソーサーを犬のゾンビを倒し、ユリ子ちゃんは、エミさんに近づいてくる犬のゾンビを切っている。
「最初に霊、そのあとにゾンビって変なワケ。脈絡が無いからその謎を解く必要があるワケ」
表向きは除霊だが、裏ではここが新しい心霊兵器や人造モンスターの研究・開発をしているのは全員わかっている。
それゆえにどこで監視されているかはわからないので、それっぽいことをエミさんには言ってもらっている。
これをモニター越しで見ていたプロフェッサー・ヌルと須狩(すかり)の間では
「第一波はやすやすと突破されてしまったのはしかたがないです」
「予想はしていましたが、霊力レベルAの除霊ができるGS事務所が協同ですからね」
「今回のGSの評価を改めて知らせてもらえますか」
「はい」
『小笠原エミ。小笠原GS事務所所長。
呪術師としては世界でも3本指に入り、GSとしても霊体撃滅波と呼ばれる全方位への攻撃は類を見ないものです。今は美神令子に連敗してGS助手がいないようですが、新しいGS助手が入れば、また日本でもトップクラスのGSにかえりざくでしょう』
『横島忠夫。院雅所霊事務所分室室長。
昨年の春のGS試験にトップ合格で、すでに正規のGSで霊力レベルAの上位を相手にできるほどなっています。一見女性に弱いように見えますが、どこか一線を引いている節があります』
『美神ひのめ。院雅所霊事務所分室所属。
昨年の春のGS試験にベスト8入りで、唐巣GSより院雅所霊事務所へ移籍して、現在はGS見習い。GS試験の頃までは発火能力者だと思われていましたが、水に関する霊能力も扱えるようです』
『伊達雪之丞。院雅所霊事務所分室所属。
最近までフリーでGSもどきのことをしていましたが、つい先日、院雅所霊事務所分室でGS助手になった魔装術の使い手です。昨年のGS試験は棄権したということですが、最近までは東南アジアを付近で除霊活動をしていて、ダテ・ザ・クラッシャーの異名をもっています』
『加賀美ユリ子。院雅所霊事務所所属。
オールマイティな霊能力者だと思われていましたが、本日持参してきている武器として霊刀をもってきていることから、近接戦が得意なタイプかと思われます。現在、六道女学院から、次のGS試験にでるのではないかとの評価です』
「思ったよりも、南部ホールディングスから依頼されてきたGSの、質量ともにありますね」
「通常の軍隊相手でも、並のGS相手でも効果は絶大だったけど――日本でトップクラスのGSにはどこまで通用するか楽しみだわ」
「これは我々の切り札が、ためせるかもしれませんよ」
「そんなに警戒する相手ですか?」
「ええ。あの中には香港で魔界が、広がった時のメンバーが半分くらい入っています。油断はできません。しかも、南部ホールディングスが動いたということは、サンプルデータだけは集めさせてもらいましょう。それが終わったら、ここの施設は処分する必要がありますね」
「そうですか。もったいないですわ」
モガちゃん人形を相手に戦っている、横島たちを見ながら語り合っていた。
モガちゃん人形との対戦のあとにひのめちゃんが、
「先ほどのゾンビとの戦い後と同じく、後ろのドアが閉まっていてあきません」
「建物自体が妖怪とかの感じはしないワケ」
「困りましたね。一応ここの屋敷事態の除霊をまかされているんですがね」
「二部屋だけじゃ困るワケね? ある程度進んで、状況が変わらないようだったら朝まで待つワケ」
「それでOKっす」
本当はよくないけれど、明朝という南部ホールディングスからのタイムリミットがあるからな。
須狩(すかり)と、あのタコ魔族だと思われるプロフェッサー・ヌルも動かざるをえないだろう。
「それじゃ、次の部屋へ行くぜ!」
ドアを開けて雪之丞が突進しようとしたところまでは見えたが、急遽見えなくなった。
正確に言えば、落ちていくところを確認できたが、それ以降はどうなったかわからん。
前でもここにトラップはあったが、狙われたのは後方だったぞ。
さらに奥の部屋では動いていないマネキン人形が、待ち受けている。
ただし、霊圧を感じるから部屋の中に入るか、時間がたてばこいつらも動きだすだろう。
「須狩(すかり)やってくれるワケ」
「雪之丞だと相手が心配なんですけどね」
「そっちはマネキン人形を相手してから考えるワケ」
「フォーメーションは?」
「万が一分断されてもいいように2人一組だけど、前後を入れ替えるワケ」
確かに攻撃力ならユリ子ちゃんと俺なら俺の方が上だし、全体をみるならエミさんは後ろにいてもらう方が良いよな。
「了解。良いよねひのめちゃん、ユリ子ちゃん」
「「はい」」
マネキン人形は、着せ替えられた事件を経験しているので好きじゃないんだが、そうも言ってられない。
俺はサイキックソーサーを先行させてから、足元に注意しながらひのめちゃんと一緒に移動する。
ひのめちゃんとユリ子ちゃんは、札マシンガンのマガジンに水行の浄化札と院雅さんの結界札を交互につめたもので応戦している。
対人相手の装備だけど、人間は傷つけないタイプだから二人とも兵器で使っている。
エミさんもブーメランを一回投げて終わったところで、作戦会議を始める。
「やっぱり後ろのドアは閉まっています」
「雪之丞が無茶をしないでいてくれると、いいんですけどね」
雪之丞の魔装術なら通常のマシンガン程度なら問題ないからな。
「普通なら、ここでとどまっているのがベストなワケ」
裏を知っていてこういうふうにいうエミさんだが何か打開策はあるんだろうか。
雪之丞ならグーラー(食人鬼女)が相手でもかまわず戦うだろうしな。
「けれどここでとどまっていたら、相手が何をしでかすかわからないワケ。罠があったとしても食い破るワケ」
そうきましたか。さすがエミさん。
「そうですね。人工的なトラップがあったわけですから、須狩(すかり)さんが何かやっているのは確実ですね」
「横島さん。さんなんかつけないで須狩(すかり)でいいわよ」
ひのめちゃんが、ちょいとお怒りモードに入りかけているか。
だけど、もう俺の知識ってあてにならない可能性が高いんだよな。
そうするとあとは、でたとこ勝負になるな。
「そうだね、ひのめちゃん。1部屋行く毎に少し休憩をしながら行ってみますか? エミさん」
「相手の手に乗るようでシャクだけど、それしか選択肢は無いワケ」
「じゃあ、今のところつかれていないでしょうし、次の部屋に行ってみますか」
そうして次の部屋へ入っていくのは俺にひのめちゃん、エミさん、ユリ子ちゃんの順番で入っていくが特に霊圧も邪悪な波動も感じない。
「拍子抜けですね」
「うーん。意外とここが休憩用の部屋としてつくられているのかもな」
「じゃあ、つぎの部屋で」
「うーん。妙な霊圧があるから、今までの相手よりワンランクは、上だと思った方がいいかもしれないな」
今までのが、霊力レベルB相当ばかりだからな。
今度のは、霊力レベルAとはいいがたいが、霊力レベルBの上位はあるか?
そっとドアをあけて覗いてみると、オモチャの陸上兵器がならんでいて、霊力がそれぞれもっているのはわかる。
ここは、そろそろあれでいくか。
「となりの部屋は、見た目はオモチャの陸上兵器ですね。多分砲弾の威力は、通常の拳銃レベル以上はあるんじゃないですかね」
「軍事仕様ね。通常の戦闘向けじゃない私達じゃ、突破は難しいわね」
「そんなわけで、これっすよ」
「それって、物理攻撃を無効にする結界魔法円?」
「ええ、これは院雅さん特性の結界フィルムで、これを通して光で投影すれば相手の物理的力は無効にできます。あとはこちらの霊的防御力が相手の攻撃力を上回っていれば、問題ないのですがそこはこれでカバーします」
そうして俺は五角形のサイキックソーサーを5枚浮かべて見せる。
「それって、昨年春のGS試験決勝戦でみせていたもののワケ?」
「まあ、その通りです。映像をみていたんですか?」
「この業界ライバルは、上よりも下からくるワケ」
ちょっとテレ気味に話してくれるエミさんが、可愛らしく思える。
「ライバルだなんて思っていないですし、ピートと一緒に業界の先輩としてエミさんを尊敬していますよ」
「口だけは達者なワケ」
そうはいってもまんざらでもなさそうだ。
ピートの名前が効いているかな?
肝心のピートは今のところエミさんとつきあうのはのり気じゃなさそうだけど、こっちの世界では将来どうなるだろうな。
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中世ヨーロッパ偏をすっとばしたので、ここでプロフェッサー・ヌルがでてきます。
ちょっとばかり『ヒカルの碁』ネタがはいっていたりします。
2012.02.13:初出