年末年始は仕事も無いので、12月29日から1月3日は院雅所霊事務所も休みだ。
ひのめちゃんには、
「大晦日あたりから妙神山で、3日間ぐらいの修行をしてくるわ」
そう言ったらあきれたように、
「修行好きなんですね」
「うーん。そういうわけでもないんだけどなぁ……」
いまだにひのめちゃんへ、魂のエネルギー結晶のことを話す機会はみつけられない。
妙神山へ行くのも、このことが関係するんだけど今は避けておく。
お母さんはいつ仕事が入るかわからないみたいだしお姉ちゃんと二人きりの正月ってのも味気ないから、先に妙神山へ入っておいて驚かそうかしら。
ひのめちゃんの努力が報われるのは、いつの日やら。
今度はナルニアに居る両親には伝えてあるから、押しかけてきたりはしないだろう。
ただし、親父には修行場の管理人が美人だとは伝えていない。
それを親父が知ったら何をやりだすかわからんからな。
31日の大晦日、妙神山修行場へ入りは、鬼門達をあっさりとスルー。
「小竜姫さま、あいかわらず、お美しい」
と手をにぎるが、最近は拒絶反応も少ない。
けど、やっぱりこれより先にはすすめないんだな。
「横島さん!! 今回は一人のようですがどのような要件で?」
「ええ。老師に相談することにしました」
「そうですか。そうしたら私にも教えてくれますよね!?」
語尾が強いけど、
「老師次第っす!」
こういうのは責任転嫁をはかるに限る。
落胆したように、
「そうですね。老師に取り次ぎましょう」
「お願いするっす」
んで、老師の部屋に通されるが、ここって異界空間だ。
老師の部屋に通されて小竜姫さまがさがったあとに、
「何を相談しにきた。小僧」
「ええ、相談内容なんですが……ただ、その前に確認したいんです。老師ってどれくらい俺のことを、知らされているんですか?」
「そこに書類があるから読んでみろ」
こんな辺ぴな修行場にもやっぱり書類はまわってくるのね。
読んでみたけど、
「これ知らない文字なんですけど」
「面倒くさいの。一言でいえば最高指導者が知っている中で、一部のものにだしても良いというものじゃ」
「そうすると個人的な深い情報も?」
「うむ。小僧の過去の神族・魔族とも情けない状況にあったようじゃ。すまぬとはわしの身では言えないが」
「いえ、それはもう俺にとって、随分と昔の話ですので」
「そうか。ただし、お主がいた世界というのも変わっておって、人間世界でいうサ○エさんワールドのような時空が発生しておったようじゃの。たとえば高校2年生のクリスマス・イブなどは、何回もあったような記憶は残っておらぬか?」
「……あの記憶って夢とかではなくて、本当にあったことなんですか?」
「少なくとも12代ヒャクメが小僧の記憶を読みとる限りはその通りであろう」
「……」
俺って、全く持って……
「なに、人間は都合の悪いことに関する記憶は、忘れるとか、すり替えの現象が発生する。そのようにそちらの宇宙意思が、人間だけでなく世界に対して調整しておったのであろう」
「……はい。わかりました。それで俺のいた世界と言ったらいいんですかね?」
「それでよかろう」
「アシュタロスが最終的には世界規模での霊障を発生させていたのですが、こっちでのアシュタロスってどうしていますか?」
「うむ。小僧達が平安時代に行った時を境にして、過激派からデタント派にかわっておる。小僧の推測を信頼するならば、そのあたりで歴史が小僧のいた世界と分岐したのであろう」
「アシュタロスの意図は?」
「まだつかめておらん。しかし証拠は無いが、かわりにルシファーという魔族が動いているようじゃ」
「えっと、ルシファーとサタンって同一魔族じゃないんですか?」
「いや、別な魔族じゃ」
「もしかしてアシュタロスを相手にするよりタチが悪くないっすか?」
「……そのことは小僧にもいえない。ただ、こちらで小僧から情報を得た時点での、小僧の信じた方針で行動をすれば良いのじゃ」
「その自分を信じられなくて相談にきたのですが」
「それで良いのじゃ。自分が信じられなければ、他の信じられる者と手を組むのがよかろう。それが人間では、なかったのではないのか?」
そういえば、南極でのパピリオの相手って、複数人でかかっておこなうって作戦で成功したんだったもんな。
「うっす。ただ、未来に関して話して信用してもらえる人間が、どの程度いるのやら。しかも俺のいた世界と、ずれてきていますし」
「人間の方はわからないが神族なら14代ヒャクメに、魔族なら魔界から人材交流で来ているジークフリードは、ある程度までの事情を知っている」
「あの二柱なら確かに。けれど小竜姫さまには?」
「あやつは直情的だからのー。話すのはひかえた方がよいじゃろう。それにこの件では、ヒャクメやジークフリードと話しているそぶりも、見せない方がよいじゃろう」
小竜姫さまには内緒か。
そうすると、あとひとつだけ。
「ヒャクメにもあまりプライベートな過去を見られないように、プロテクトをかけてもらえますか? 過去にいたヒャクメと、こっちのヒャクメって、別な神族になっちゃいますよね?」
「それがよかろう。こちらでもそれは考えておったところじゃ」
「さっそくお願いします」
「よかろう」
そうして、老師による記憶のプロテクトをかけてもらった。
「もうひとつですが、ここの最難関コースを受けにきました」
「ようやっとその気になったか」
「アシュタロスではなくても高位の魔族が相手なら文珠がなければ、相手にすらならないですから」
「そうだろうな。菅原道真の文珠を扱うという手もあるが、自分で作るというのであればそれがよかろう。まずは、ウルトラスペシャルデンジャラス&ハード修業コースの契約書にサインをしてこい」
「そうですね」
俺は老師のいた異界空間にあるゲームだらけの部屋からでたが、小竜姫さまがいないので修行場の方へ向かったら、思いがけない人物がいた。
「お前、雪之丞!! その格好は魔装術を極めたのか?」
「おう、横島か。一目見て判るっていうのはさすが俺が目指しただけはある。だがこれで追い抜かせてもらったぜ」
今の雪之丞は、GS試験のあのオカマの魔装術よりは強いだろう。
対して俺は当時の美神さんと、まだ同等っといったところか。
「そうだろうな。いくらサイキックソーサー系が、魔装術と相性がよくても負けるな」
「あっさり認めるのかよ」
「勝てない相手からは逃げ回るさ。それよりも小竜姫さま」
「はい……」
ここで、横島さんのことを聞くのは問題があるわね。
「なんですか?」
「そちらの魔族が誰なのかの紹介と、なぜここにいるのかを教えていただけますか?」
あら、いけない。
「こちらの人間は横島さん。GSをおこなっています」
「横島忠夫です。よろしくお願いします」
「それでこちらの魔族は魔界軍情報士官ジークフリード少尉」
「ジークフリード少尉です! よろしく!」
ジークはベレー帽を被っていなければあいかわらず甘そうだな。
「彼は魔界から人材交流で派遣された留学生なんです」
「魔界とこの修行場とで人材交流ですか?」
「たしかに魔族と神族は冷戦対立中ですが――ハルマゲドンを回避するために和平への道を模索中なんです」
表向きは、そうなっているのか、俺のほうがついでなのかな?
「彼はそのためのテストケースってわけ」
「もっとも魔族にはそれを嫌う勢力もあります。そういう武闘派は以前にも増して過激な行動に出ようと暗躍していて……」
「たとえば香港の時みたいなのかい?」
「あれは油断していました……」
「それはいいので、俺にウルトラスペシャルデンジャラス&ハード修業コースを受けさせてもらいたいのですが」
「えっ? 老師との相談ってそれですか?」
「……ええ、まぁ、そうです」
小竜姫さまには、正直に話せないしな。
「折角、横島を越えたと思ったら同じコースを受けるのか」
「同じコースを受けて、それでその魔装術を完成させたのか?」
「おお。まあ、がんばれや。俺は受かると思うけどな」
これ以上、話を複雑にする必要も無いだろう。
「それでは契約書を用意しますので、横島さんは一緒にいらして下さい。それからジークフリードさんと雪之丞さんは、武闘場以外で訓練を続けていてもらえますか?」
そうして修行者の休憩室で待っていると契約書をもってきたので、一応目を通しておく。
以前は霊的成長期も終盤にもう一度受けたが、内容的には同じだな。
契約書にサインをしていつもの修行場に戻って武闘場に入る。
「まずはテストをさせてもらいます。妙神山修行場、最高にして最難関に挑むに値するかどうかをね」
本当は、もっと中間のコースでも俺としてはいいんだけど、文珠だせるのはこれしかなさそうだもんな。
「思いっきり、いってみますよ」
「人間で始めておこなったばかりなのに、続けて行うっていうのは楽しみですね」
いや、楽しまなくてもいいですから。
「禍刀羅守(カトラス)!!」
「初めのあいずの前に、かかってこないですよね?」
「大丈夫ですよ。時間制限は60秒!! 初め!!!」
御手付きの霊波刀とサイキックソーサーをだすとカトラスが襲ってきたが、小竜姫さまの神剣に比べるとやはり遅い。
少し様子見をしようと思ったが以前と似た方法を行う。
「のびろ」
霊波刀をカトラスのチャクラにむけて一直線にだす。
間合いが近いので、カトラスは避ける余裕もなく気絶した。
「倒すまでの所要時間30秒ちょい。合格です」
「俺は40秒だったのにな」
訓練もしないで、俺の対戦を見ていたらしい雪之丞が言う。
「いや、禍刀羅守(カトラス)の動きは以前見ているからな。その差かな」
「この後を楽しみに待っているぜ。横島」
「ああ」
俺って生きて帰ってこれるよな。
「これから師匠どののところへ行きます。横島どの」
「ジークフリード少尉についていけばいいんですね?」
「ええ、私はこちらの管理人として、雪之丞さんをみないといけないですから」
中では2ヶ月だけど、外では一瞬だというのをさとらせないためか。
ジークの横にある別な異界空間への入り口に入ると椅子が2つ並んでいる。
小竜姫さまとジークが入ってきて
「それじゃ、横島どのここに座ってください」
そう言って椅子に手をかけている。
俺はその椅子に座ると残った椅子に、ジークが腰掛け、
「椅子にかけたら気分をラクにして下さい」
「横島さんがんばって」
そりゃあ、死にたくないから、このあとがんばるけどね。
さて、老師の精神エネルギーを魂へ大量にうけている状態に入ったわけだが、横にいるジークに聞いてみる。
「ジークフリード少尉。俺の事情は知っているんだよな?」
「ええ、横島ど……くん。初めてお会いするのですが、君の世界ではそれなりに親しかったみたいなんですが」
このジークと、俺の知っていたジークで魔族としてはあまい性格はかわらないんだな。
「俺のいた世界でいたときのことは、気にしてもらわなくていいよ。ジークフリード少尉」
「君は軍人では無いから少尉はつけなくてもいいですよ。ジークフリードか、親しい者にはジークともよばれています」
「じゃあ、なれているのでジークと呼ばせてもらうよ。それと俺のことも横島くんがむずかしかったら横島どのでもかまわないし」
「いえ、この中での2ヶ月間は実質話せる相手が横島……くんしかいないので、慣れるようにします」
まあ、律儀というか。
そのまま老師の部屋へ挨拶だけはしたが、やっぱりゲーム猿モードに入っているので、俺は俺がこの中でできる修業を開始する。
魂に過負荷がかかっている状態では通常の能力はだしづらくなっていく。
それに対抗するために、可能な限り霊力を絞り出す訓練だ。
こうしておけば魂への過負荷から開放された時に、魂からのエネルギーの出力があがるので潜在能力を出しやすくなる。
とはいっても、死ぬ確率が下がるだけだけどな。
あとは老師の力加減しだいだから、今の俺だと結構危ない橋をわたることになる。
しかし、単純な霊的成長をまっていて、アシュタロスの事件と同じ頃に事件がおこるとしたならば、今頃には文珠がだせるようになっていないとな。
元はその計算だったが老師の話をきいていると、時期がもう少し遅くなる可能性は高そうな気がする。
どうだろうか?
縁側で俺の訓練をボーっと見ているジークに、
「アシュタロスって本当にデタント派なのかな? 彼についていたはずのメドーサが今はデタント派だと、メドーサ自身のことは言っているんだが」
「横島……くんから情報からくるまでは誰もうたがっていませんでしたが、今は調べている最中です」
「うーん。そんなに簡単に情報をもらえるのかい?」
ちょっと、ジークが考えてから
「ええ。今は僕の上司が最高指導者なので、そこから協力できる範囲での情報提供は、かまわないと言われています」
「最高指導者が直属の上司?」
「ええ。ルシファー様までが疑われる範囲となると、一から信頼のおける者を、おくしか無いようで僕に白羽の矢がたったようです」
「じゃあ、アシュタロスがおこした霊障に相当することがおこることに関しては、あまり期待できないと考えるべきなのかな?」
「いえ、今は詳しく話せませんが、現在は方策をたてています。しかし、魔族で動ける者が少ないので、やはり人間側がメインになってしまうでしょう」
「人間側でもそれに事前に対抗しておくのには、俺の手の届く範囲はせますぎるんだ。誰か人間で、今の段階から仲間にできそうなのを知らないかな?」
「……そちら方面の情報は集め損なっていました。この修業が終わり次第、最高指導者に要望をだしてみます」
修業が終わり次第って、生きて修業を終えるって信じていてくれるのね。
老師ってそこまできちんと手加減できるのかな。かなり心配なんだが。
人間での味方として院雅さんは既に良いとして、雪之丞は現状を聞く必要はあるが、あの性格なら……多分大丈夫だろう。
ひのめちゃんも自身の命の問題だろうから、協力はしてくれると思うんだよな。けれど何か別な悪い予感がするんだが。
あとは、おキヌちゃんは今のうちなら幽霊時代の好意を持続できているから、問題ないけれど……なんか詐欺師のような気がするな。
その他というと唐巣神父だけど、また髪の毛がって……唐巣神父の髪の毛を心配するだけ無駄なのはこちらの世界で未確定だけど、多分心配する必要はないだろう。
せいぜい今の時期で信用できるってこれくらいか。
あとは、令子は金さえつめば大丈夫だろうけど、資金源は神族や魔族に頼むか?
正直、他はエミさんとかは付き合いが少ないからよくわからんな。
この老師が精神エネルギーをかけて魂に過負荷をかけている間に、食事はジークがつくるようになった。
なんせ俺より格段にうまい飯をつくるもんな。
どうせ、ここの正体はわかっているんだから、こういうところのリアルさを老師もなくしても良いだろうに。
全く老師って、こういうところばかりは手をぬかないんだからな。
しばらく訓練をして合間に老師とゲームもするが、基本的には暇だ。
サイキックソーサーさえも、つくりづらくなってきていた翌日、
「横島くん。今日で丁度60日だけど」
ジークも、もう俺の呼び方になれてきたな。
「うーん。今日はひさびさ、一日老師相手にゲームでもするよ。どっかの時間で人間の魂の限界がくるだろうから」
「ひさびさ? ああ。以前の世界でのこの修業のことを言っているんですね」
「あっ、そっか。そういえば今回はたまに相手はしていたけれど、一日中ゲームってこっちではなかったな」
のんびり老師とゲームをするが、あいかわらず勝てねえ。昔やりこんだけど、いまだに一勝もしたことが無いんだよな。
昼食後をのんびりしていると、それはきた。
魂が過負荷にたえきれなくなって、体調の感覚がくるう感じだ。
老師が、
「やはり、人間にはこのあたりが限界じゃのう」
そう言いつつ如意棒を出して空間をきりさくと、小竜姫さまが出入り口でこちらの方を向いている。
「じゃあ、魂の出力が下がらないうちに、修行場へ行きましょう」
俺は命がかかっているんだ。少しでも生き残れるようにするぞ。
「そんなにあせらずとも良い。小僧!」
「そうなんですか?」
「はじまってみればわかる」
うーん。以前の2回とも無我夢中だったからな。
時間の感覚がくるっていたのだろうか。
「わかりました。老師」
「本当の意味での己の潜在能力をひきだせ! できぬ時は死ぬのじゃ!!」
「本当の意味での?」
そのまま老師は異界空間からでていったが、俺の現在の潜在能力って何だ?
*****
っというわけで、ラスボスっぽい名前がでてきました。
GS二次設定では魔族の最高指導者=サッちゃん=サタンという図式が多いので、ルシファーとサタンはここでは別としてあつかっています。
2012.01.29:初出