「――そのおキヌという娘の話、古文書に記されている神社の由来と符合します」
おキヌちゃんのことは、追加で説明済なのね。
「300年前の元禄の頃、この土地にはほかに例をみないほど強力な地霊が棲み、地震や噴火をひきおこしていました。その名を『死津喪比女』といいます」
「地霊ですか。今回は妖怪らしいですから、地霊って地脈からエネルギーを吸い取るのと、東京まで影響を与えているのを考えるなら、どんな妖怪になりますかね」
「これだけ広域となると少ないわね。だけど元禄当時に妖怪と言っているのだし、今回も同じなら、まずは根をはる植物タイプの妖怪になりそうね」
まあ、知っていての問答だが、ひのめちゃんと、ユリ子ちゃんへの勉強にはなるだろう。
あとは、これだけの広域だと土の系統の黄竜か、四神でいえば玄武があげられるだろうが、普通は妖怪とは言われないものな。
「続けますが、土地は荒れ、困った藩主は公明な道士を招いて死津喪比女の退治を依頼したのです」
「あれ、車の中では江戸から妖怪退治の命令ってなっていたみたいですけど」
「まあ、どっちかが、都合の言い様に変化させて書いているのでしょうね。昔からよくある話だから気にすることはないわよ」
おお、そういえばそんな細かい違いがあったな。ユリ子ちゃんよく気がついたな。
「では、続きまして……しかし――退治は不可能ではありませんが…敵は強い…! 退けるには大きな代償が必要です」
「その代償っていうのが……」
「ええ! 人身御供です…!」
今ならともかく、昔ならよくあった話らしいからな。
「道士は、怪物を封じる装置を作り、それに生命をふきこむために一人の巫女を地脈の要に捧げました。彼女の名前は記録に残っていませんが――」
「それが、ユリ子ちゃんそっくりの氷付けの仏さま、おキヌちゃんってわけですね」
「さっき、ほこらをみせてもらったけれど、間違いないです」
おっ、ひのめちゃんか。分担して、作業することにしたのかな。
「この装置は彼女の意思と霊力で永久に作動する。本来なら人の命をこのように使うべきではないが、この地にはどうしても新しい神が必要だ。いずれ娘は地脈とひとつとなり、山の神になる。そうすれば、邪悪な地霊は退治されることになる。こう残っています」
さて、ここまでは昔の記憶とぶれが無いから、どうするかだよな。
「これだけ条件がそろっていれば、あとは本当に死津喪比女がでてくれればいいんだけど……オカルトGメンに連絡とってくれるかしら、ひのめ」
「連絡するのはいいんですけれど、どうまとめて伝えたらいいんでしょう?」
「それは、貴女の師匠である横島君に相談してみて御覧なさい」
ここで話を振られるとは思わなかったが、早苗さんとその父はポカンとした表情をしているので、GS免許をだしながら、
「俺もGSで、院雅除霊事務所に所属しています。相手の妖怪が植物系だとわかりましたので、火が弱点でしょう。ただ、地下にもぐっているので、そのあたりはオカルトGメンに説明をして、もう少し対策をねってもらいますのでご安心を」
とは言ってみたが、俺の予想より院雅さんがオカルトGメンと連絡しようとするのが早い。
電話をかりるが、連絡をするのにひのめちゃんは、
「ところで、なんて言ったら言いでしょう?」
「うん。そうだな。西条さんに、今、オロチ岳のそばの氷室神社にきていて、元禄時代の妖怪の記録が残っている。江戸の元禄時代の文書にもここの妖怪退治の命令の記録が残っている。名前は死津喪比女で、同一妖怪なら特徴からいって、植物系の妖怪。エミさんがいるなら、地下の植物妖怪にきく呪術を考えてほしい。こっちでは確認できしだい再度連絡すると言って、ここの電話番号でも伝えるぐらいかな」
「なんで、こっちにきているのか聞かれたら、どうしましょう?」
「温泉旅行の予定だったとでも言っておこう」
どうせ、ばれるんだけど、今おキヌちゃんのことを正直に言うと、本当に霊体ミサイルにされかねないからな。
西条とうまく連絡とれたみたいだけど、途中で令子が割り込んだみたいで、
「何を勝手につっぱしっているのよー」
って、離れた電話越しにも大きな声が聞こえてきたぞ。
令子がいるということは、芦火多流もいるのか?
あとは以前だと、魔鈴さんは関連していなかったが、今回は関係していそうだ。
そうするとなんとなくパピリオっぽい気がする、芦鳥子もいるだろうな。
うまくすれば、パピリオなら死津喪比女の花粉の毒に対抗できるかもしれない。
希望的な観測すぎるかな。
ひのめちゃんと一緒に社に戻り、
「オカルトGメンは向こうで調べるので、危なくない範囲で、引き続き調査を続行していてほしいそうです」
院雅さんはここまで、西条の性格を読んでいるのか?
そして社の調査に入るが、どこが地下への入り口かさっぱりわからん。
霊的には完全に隠蔽されているようだ。
あとは音響測定機器でもあればよいのだろうが、普通の除霊でそんなものは使わないから院雅除霊事務所には無いしな。
壁に骨とか埋められた事件とかの時には丁度いいから、今度、頼んでみようか。
結局、その日はみつからなかったし、どこで地下にはいったかまでは覚えていないのでここまでにしておく。
地震の時間が遅かったから、明日は床下をはいずりまわるのかなー
そして、早苗さんの誘いで女性4人は露天風呂に行くらしい。
俺は単独行動だ。
きちんと湯浴みを用意しているんなら、俺だって一緒に入りたいぞー
それにたいして、俺の方は死津喪比女が万が一でた時のために、隠行を行いながら待機をしている。
露天風呂の中までみえているのになー
山だから、この時期の外は結構寒いんだぞ。
露天風呂では早苗さんが気楽そうに、
「調べている間、家に泊まるといいべ! 父っちゃも母っちゃも遠慮はいらねって、言ってるがら! その化け物さやっつければ、地震もなくなるんだべ!?」
言うのは簡単だが、こちとら全体の調和まで考えておかないといけないんだよな。
それに道士にもひとこと言っておきたいからな。
その中で一番最初に気がついたのは、俺のいた過去では霊媒体質である早苗さんで、
「そこで何か動いた……」
暗闇だが月明かりに照らされた早苗さんシルエットとともに、霊力は抑えつつも霊格の高さをうかがわせる影が見える。
俺はA-1のトランクから多弾ロケットランチャーをとりだし準備をする。
美神さんの所にいた時にもロケットランチャーを扱ったことはあるけれど、多弾式は初めてだぞ。
「匂うな。あの巫女と同じ匂いがする……300年間わしを封じた、あの小娘……!!」
「これが、死津喪比女!!」
ひのめちゃんが思わず反応している。
「わしを知っておいでかえ? おまえの名は?」
名前がでてきたので隠行をときながら作戦通りに多弾ロケットランチャー、正確には焼夷弾入りのもの。
それを、遠慮なくといきたいが、予算の関係で単発しか撃てない。
令子と一緒なら、こんなチマチマした武器の使い方はしないんだけどな。
そうぼやきたいが、これだけの密集隊形だから花さえ退治すれば葉虫はザコだし、引火もするかもしれないというアバウトな作戦だ。
「ちっ、こんなオモチャがあったのかえ」
死津喪比女の花一輪と、葉虫たちの大半は第一発目の焼夷弾で消失したが、残りはひのめちゃんが発火で対処して全滅する。
発火能力を修行場で霊能力ではなくESPと認識したことにより、水行のマイナス要素がなくなっている分、火力があがっている、
ここまでは事前にたててあった作戦の通りだが、2弾目にでてくるであろう花たちに通じるか?
2弾目にでてくるであろう死津喪比女の花たちに対しては、
「社の結界まで撤退よ!!」
そんな院雅さんの声に対して、早苗さんは、
「コシがぬけてうごけねぇだー」
作戦に承諾していてくれていたのに……さっき一番最初に死津喪比女のことに気がついていたのもビクついていたからなのね……
「ユリ子。早苗さんを運んであげて! 横島君はしんがりよ」
「はい」
「へーい」
俺は土行が強いから、木行である植物系の妖怪とは相性がよくないんだよな。
まあ、そうも言ってられないかと思ったら、
「早苗!? 今の爆音は何事だ!?」
「早苗ちゃん!?」
「父っちゃ! 母っちゃ! 死津喪比女さでただ」
「それよりも、社の結界に!」
おキヌちゃんが、中々でてこない。
皆がピンチにおちいってから、でてくるような性格じゃないはずなんだけど。
そこへ『ズン』っと重たい振動とともに死津喪比女の花たちが現れる。
「花を一輪つまれてしもうた……痛かったぞ…! とてもな」
ユリ子ちゃんと、早苗さんが遅い。
ひのめちゃんも警戒しながら下がっているが、襲われるのも時間の問題だ。
焼夷弾入り多弾ロケットランチャーの残り三発を連射する。
「そのような、オモチャで、この数を相手に―― 万に一つでも勝ち目があるのかえ!?」
半減はさせたが、たしかにひのめちゃんの火の力だけでは無理だし、俺のサイキックソーサーは死津喪比女との相性が悪くて、とめるのが手一杯だ。
そうして、死津喪比女がつっこんでくる。
しかし、ここで院雅さんのカバンにつめてもってきた結界札がようやく役に立つ。
事前にしこんでおいた、対植物系妖怪用の専用結界札だ。
それを多重にはってあるから、さすがの死津喪比女も一気にこれない。
その間に、
「ひのめちゃんも、早苗さんを社の結界の中へつれていく手伝いをしてあげて!」
「横島さんは?」
「俺はこれ!」
そう言いつつすでに2枚作ってさらに2枚つくっている最中の五角形のサイキックソーサーを見せる。
「無理はしないでくださいね」
「ああ、俺の撤退する時の速さを知っているだろう?」
一度とんでもない相手にあってひのめちゃんをかかえてにげだした、もとい戦術的撤退したことがあったからな。
単なるイタチの妖怪だときいていたのに、この時代に雷獣なんているなよ。
「それ、陣にするんでしょうけど、さけられませんか?」
「いや、そんなに冷静につっこまないでくれ。それに、本来の使い方じゃないけど、こういうこともできるんだよ」
そう言いつつ、俺の霊波より赤色の方向へ波長をずらした五枚のサイキックソーサーをならべ霊的ラインで五芒星を描かせる。
『サイキック五行赤竜陣』を地面で描かせるのではなく、俺の目の前で垂直に立つよう並べてだすのは炎だ。
地面に描く陣でだす炎よりも弱いが、植物系妖怪の死津喪比女にはこれで充分効果がある。
地脈を補助にして炎をだすから変換効率の関係で、強力な火力ではない。
まあ全力をだしても、ひのめちゃんの火竜よりもはるかに弱いけどな。
火竜は強力だけど、いまだに一直線にしかだせないので、横展開される物量作戦には弱い。
なんとか近よらせないように右へ左へと炎をあやつっていると、院雅さんの援護がようやっと入ってくれた。
破魔札マシンガンならず、発火札マシンガン。
本来は破魔札を入れることが多いのだが別に同じ大きさの札なら破魔札以外でも使える。
破魔札を入れて使うことが多いから一般的には破魔札マシンガンといわれているが、札マシンガンが正式だな。
発火札だが、元々は俺の前世である高島の知識にあった火行の札だが、俺が札を書いても安定して霊力をだせないのでしょぼい札しか作れない。
それにたいしてユリ子ちゃんが院雅さんの結界札も作れるから、俺がもっている知識にある札をつくってもらったらそれらを全部作れる。
購入する札よりも自分で作った札の方が、自分の波長とあうので霊能力を充分に発揮してくれるから、将来のGS試験では役に立つだろう
そう思っていたが、こういう形で院雅さんが発火札をいつのまにか大量につくらせていたのね。
ひのめちゃん、ユリ子ちゃん、早苗さんも社の結界の中に入って、援護にまわってくれている。
院雅さんの結界札も限界なので、そろそろ俺もひきあげどきだ。
『サイキック五行赤竜陣』をその場に維持しつつ、後退して行き、もう少しで社の結界というところで、思っていなかった方向から花の手がきた。
他のところから花たちがでてきてその中の一匹が、ツルのような腕になっている手をいきなり伸ばして俺の脚をつかまえた。
『まずい!』
ひっぱられた瞬間になんとか霊波刀でたちきれたが十メートル近く、社の結界からひきはなされた。
維持していた『サイキック五行赤竜陣』から、横方向に引き離されたので、全花たちとの間には何も無い。
これでは、つかまってしまうのは目にみえている。
しかたがないので、文字は空にしていた文珠へ文字を入れようとしている最中に、
「おまえを、まずは人質に!」
このままでは文珠に『護』の字を入れる前につかまると思った刹那、
「ぐっ!? 結界かえ!? ここは社の結界の外のはず……!!」
覚えていたタイミングと異なるが、社の結界が間に合ってくれた。
これで道士がでてくるはずだと、思ったら……
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早苗の方言は、よくわからないので、このあたりはご容赦を。
2011.05.05:初出