GS試験初日の夜。
唐巣神父の教会で慰められている少年が一人。
それは金髪の美形でなく青いジージャンとジーパン姿の横島。
「今日のことは気にすること無いですよ」
「この横島、一生の不覚なんだ。ひのめちゃん」
「そこまで落ち込むこともないですよ」
「ピート。自分がそうじゃなかったからって、そんなこと言えるんや」
発端は二次試験第一試合4番コート。
相手は、オーソドックスな大陸の導師風の格好をしたソロバンを武器にしてる奴だった。
試合開始の合図とともに、その場でソロバンを使って占いを始めやがった。
普通、対戦前にやっておくものだろう!!
思わずあっけにとられてしまって隙ができていたというか、ほおけていたんだな。
「計算完了――!! 私の計算では君は2分40秒で敗北するッ!! 私の計算は完璧ィィィ――ッ!!」
そんな声にハッと我に返ったら相手が目の前に来ていたので、思わずカウンター気味だが霊力はほとんどこもっていなかったパンチを見舞っていた。
そこまではいい。
こんな霊力のこもってもいないパンチにも、打たれ弱いのかこちらに倒れかかってきたので、男を支える趣味なんかない俺はさけようとした。
ところが足元に相手が先に落としたらしいソロバンがあって、それにひっかかって倒れてしまったところに相手が倒れこんできて……
思い出したくねぇぇ!!
文珠があれば『忘』の文字でも入れて記憶を消したいところだ。
「そんな、たまたま、男同士で、口を合わせただけじゃないですか」
なんか、そういうのを逆にうれしそうに話しているような気がするぞ。ひのめちゃん。
俺にうらみでもあるのか。手はだしていないはずだぞ!!
「そんなわけで口直しに令子、お願いします――ッ!!」
「何回言っても呼び捨てか――!!」
服はきたままだが、ル○ンダイブを令子にかましたら、いつものように撃沈された。
それでも不憫に思ったのか、普段よりは霊力がこもっていなかったな。当社比0.92倍だけど。
他方、その横島の試合を見ていた男たちの中で、
「あら、うらやましい。私もあの手をつかおうかしら」
「それはやめておけ、勘九郎。変態GSっていうことで、依頼人がこなくなる」
「雪之丞のいけずぅ」
「お前といっしょにいるのが嫌になってくる」
「そんな友だちがいの無いこと言わないのよ」
そんなやりとりがあったとか、なかったとか。
そんなわけで俺は試合の後に、院雅さんからのひとことは、
「ご愁傷様」
と言われて所長に逃げられるし、落ち込みっぱなしで怪しい選手を探すどころか、次の相手となる試合も見ていなかった。
そしてこの唐巣神父の教会でのやりとりにも、まともに参加していない。
令子にぼこられて逆にようやく精神的にも復活したところで、
「ほう、ニキ家からひさびさにGS試験にでてくるのですね。もしかしたら魔族がGS業界をコントロールすることらしいという情報は、この動きのせいかもしれませんね」
「ニキ家って懐かしい名前ですね。」
「ニキ家って何ですか?」
以前には聞いたことの無い情報だ。
「漢数字の二と、鬼と書いて二の鬼で、二鬼(ニキ)と呼ぶのだよ。二鬼家では鬼を扱うので、現代では魔族として分類されて情報が流れたのかもしれないね」
「式神もベースが鬼であることがありますよね? 二鬼家は違うのですか?」
「式神の鬼と二鬼家の鬼の大きな違いは、調伏させて使役するのが式神で、調伏もしないで自己の霊力だけや契約でコントロールするのが二鬼家の鬼だね」
「それなら、フラウロスも一緒のようなものじゃありませんか?」
「西洋の悪魔に対抗する人間に仕える悪魔フラウロスのことだね」
「ええ、たしか、そうでしたよね」
「どちらかというと、二鬼家の鬼は前鬼や後鬼に近いね。ただ、鬼との関係が式神というよりは悪魔使いに近いというところが大きな違いだけどね」
ふえー。魔装術よりリスクが高そうな気がする。
「だから、二鬼家は平安時代からつらなっている名門と呼ばれているが、GSや昔なら陰陽師になっている人数は極端に少ないよ」
平安時代か。何か細かい違いがあったせいで、現代では二鬼家の扱いが前にいた世界とこの世界では違うんだろうな。
前の世界か。ここまできたらいくら考えても無事に戻る手段は無いのだろうしな。
それよりもまだ見果てぬ美人を追い求めているほうが俺らしいさ。
「ところでその二鬼家の人って女性ですか? しかも美人とか」
「横島さんはそんなことばっかりですね」
小竜姫さまには、あきられてしまったが、他のメンバーはまたかという感じだ。
今日の段階ではこれが最後の方の話だったので、結局はおとなしく帰ったが、昼の試合のことを思い浮かべると眠れなかったことしかり。
このGSという仕事に徹夜はつきものだが、この身体はそこまでなれていない。
つまり翌日は、
「ああ太陽が黄色い。何もしていないのに……」
徹夜明けみたいなものなので、ちょっと気分ハイになっているかもしれない。
会場についたら意外と試合までの時間が少なくて院雅さんから、
「昨日のことで、てっきりGS試験に出るのをあきらめるかしらと思ったら」
「……さすがに、そこまでは」
血の涙を流しながら答えていたかもしれないな。
「ああ、いいから受付にいってらっしゃい。今度の対戦相手は女性よ」
「そっ、それをはやく言ってください!!」
入れ替わり防止のための本日の受付を通過して、さっそく二次試験第二試合の2番コートに入ることになった。
2番コートに入ると丁寧に挨拶をしてくる。
「ワン・スーミン、18歳です。お手やわらかにお願いしますわ。うふっ」
やっぱ、これっすよ。中国美人がなんか「ドキドキしてますわ」とか言ってまっている。
審判から、
「試合開始!!」
「横島いきま――す」
おもわずとびかかったら、神通三節棍でなぐりつけてきやがったのでサイキックソーサーで避けたけど、
「あぶないじゃないか」
「あら、これは死合ですわ」
「字が違~う」
「わたし、こういうふうに日本語をおそわったんですけど……」
「どこのバトルジャンキーにならったんだ――ッ!! そんな難しい武器なんかあつかわないで、組んずほぐれつお願いしま――す!!」
「皆様の目の前で行う趣味はありませんわ」
そりゃあそうだが、昨日のせいでちょっとばかり煩悩パワーが足りない気がする。
仕方が無いので、サイキックソーサーからの変形であるサイキック棍を作り出す。
名前にひねりが無いって。ほっとけ。
「あら、あなたも棍術を扱われますの?」
「我流だけどな」
老師の毛の分身である身外身の術でいじめられてばかりだったけどな。ルルルルルル~~
ワン・スーミンも中国武術の本家としては負けるわけにはいけないのだろう。
相手の霊力が増していくのがわかる。
油断してもらった方がいいんだけどな。
だしてしまったものは仕方が無い。
栄光の手の系列である霊波刀だと、相手を本当に斬ってしまうからな。
我流なんて言っていたけど、かなりできそうね。
三節棍より、普通の神通棍の方がよかったかしら。
武器はひとつしか持ち込めない、この大会のルールがあるから、相手の慣れていない武器でと思ったのが間違いのもとかしら。
「ねぇーちゃん、こないならギブアップしないかい?」
「あら。女性から誘うだなんて、はしたないと思いませんか? あなたこそどうなのかしら」
「貴女みたいなきれいな人に声をかけられたら、ほいほいついていきますよ」
ちっ! 相手の動きになれる必要があるから簡単に身動きできないのにな。
まあ、そうはいってもお見合いをしていてもしかたがないから、美神流の戦いでいってみるか。
試合相手のワン・スーミンのチャイナドレス風の霊衣からの足が見えて、なんとなくチラリズムを感じさせてくれる。
神通三節棍をもっていなければ組んずほぐれつっといって、煩悩エネルギーをためておきたいところだが、次の試合のためにも美神流で短時間で終わらせたい。
「女性に優先権をと思っていたのですが、誘ってくれないので行きますね」
「おわかりね。そのほうが私もうれしいわ」
カウンター系か、何か特殊能力があるんか。
様子見で、サイキック棍を数回ばかり突きだす。
突きはその先より内側に入られさえしなければ、一対一ではもっと効率の良い対人方法のはずだが、しっかりと避けたりさばかれたりしているな。
こちらもわざと飛び込みこまれやすいように、隙をつくって誘っているのに。
「受けているだけだと、体力と、霊力がもたないんじゃないですか?」
こっちは、あいてのドレスの脇から見える足の上を想像しながら戦っているで、体力はともかく霊力はいっこうに落ちない。
「みぞおちをガードしないで、隙を見せているつもりなのでしょうけど、私そんなお安い女ではないですわ」
あら、お見通しってわけね。
通常の武術は、どうも相手の方が上手のようだ。
未来での知識があるから作戦等もたてられないことは無いが、1ヶ月ちょっとでは肉体の強化までにはいたっていないからな。
「それじゃ、こんな手はどうですかね」
サイキック棍を突きだしたあと、突きの引き際でそのまま一旦さがると見せかけて、サイキック棍を投げつける。
そしてつっこんでいき、もう一本のサイキック棍を作りだして突くが受け止められた。
「あら、器用ですわ」
「普通の武術家なら、武器を手放すと思わないだろうから、ひっかかると思ったんだけどね」
「そうね。さっきのが神通棍なら虚をつかれたかもしれないけれど、貴方の棍は貴方自身でつくった棍ですから、予測はついていましたわ」
「次回のための参考にさせてもらいますよ」
「次回が貴方にあった……」
この話はここで途切れた。
最初に投げたサイキック棍が、彼女の後頭部にぶつかったためだ。
サイキックソーサーと同じく、サイキック棍も遠隔操作が可能だ。
もどってくるための時間と、相手の注意をひきつけておくために話していたのだがね。
俺は手に持っていた方のサイキック棍の霊力を体内にもどしながら移動して、倒れこむワン・スーミンの身体を支える。
彼女から霊力の出力がなくなっているのと、内部に練り上げていた霊力が霧散しているのも確認している。
胸のあたりに手のひらがあったりとか、なんか指先が動いているように見えるのは気のせいだぞ。
そんなところへ無粋なことに、
「勝者、横島!!」
審判がワン・スーミンの様子を確認して声をかけられる。
救護班がすぐによばれて霊的治療のためにひきはなされた。
こんなんばっかりや~
「横島選手ゴーストスイーパー資格取得――っ!!」
一部の外野からは「ずるーっぃ」とかいう声が聞こえていたが、霊力はともかく体術や棍術は相手の方が上だったしな。
それにもっと嫌なのはこの試合をみていたのが雪之丞ではなくて、なぜか勘九郎だったことだ。
お尻をおさえて逃げ出したくなる衝動を抑えながら戦っていたんだが、俺の戦い方はサイキック棍のみだと思ってくれると良いんだけどな。
対戦相手のワン・スーミンを倒したあとに、試合場からおりていくと院雅さんが、
「GS取得おめでとう。あまりうれしそうじゃないのね」
「いえいえ、うれしいですよ」
本当なら来年取得したかったのだが、今年でよかったのかもしれない。
勘九郎がいるということは、メドーサとつながっている可能性が高いということだ。
アシュタロスがGS協会の上層部に、子飼いのGSを送り込もうとしているのも、いつの時代から平安時代にきたのかはっきりしなかったからなのだろう。
GS協会上層部から情報が入れば、時間移動能力者である令子の情報も手に入れられるかもしれないし、ってとこか。
「これからは、愛子の面倒はしっかり見るのよ」
「あっ!」
「あら? 愛子のためにGS資格に挑戦していたのでは?」
意味深にきいてくる感じだが、
「いえ、うれしくてそっちまで頭がまわっていませんでした。気分を落ち着けるのに、ちょっとトイレへ」
横島がトイレに向かう方向を見つめていた院雅だが「横島君もよくわからない子ね」と呟いていた。
机妖怪の愛子を助けるのが、目的だと思っていたのに、今回のGS試験で神様からも何か依頼をうけているようだしね。
しかも彼の霊的能力の発達は異常な速度ね。
本人は隠しているつもりらしいけれど、すでに私より強いみたいだし知識面では偏っているけれど、除霊方式が異なるのだから教えられることも無いしね。
あの女好きで妖怪でもかまわないという考えっぽいのに、愛子のことを忘れていた様子。
単純な女の色気でなんとかできると考えていたのは無理かもね。
そうすると私の手にはあまるかしら……
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対戦相手はオリキャラが多くなっています。
2011.03.24:初出