黒竜と斉藤さんが消えたあと、
「しかし、えらく良い能力をさずかったな」
「私って霊能力のベースは水なんですか?」
「うーん。そういえば、きちんと霊力の性質って調べてもらったことってあるかい?」
「そういえば、なかったですね……」
俺も前の時間軸でひのめちゃんの霊能力のことを、きちんと調べたことをなかったから、こっちのことは何も言えないな。
「すくなくとも神族時代のメドーサは見間違えていたしな。多分わかりづらいと思うから、帰ったらきちんと計ろう。クライアントへの説明もあるし、朝食でもとったら帰るか」
「けれど、横島さんのサイキックソーサーって、あんな使え方がしたんですね」
俺は、内心冷や汗をかきながら、
「霊を地脈にくくるなんて、令子さんでもできるだろう? 俺なんかサイキックソーサーの補助をうけないとできないんだからな」
「そうですか。郊外にきたのだし、修行はどうしますか?」
あー、あまり、この点については疑問に思われなかった。
六道女学院で1年生だと、このあたりを教わっていないのかー
それよりも、火を使っていたのに、水が霊能力って方で疑問を感じないのかな。
どちらにしても都合は良い。
「うーん。火だと思っていたけれど、水だからな。今までの感じをみていると発火と、火竜以外は全部やり直しぐらいのつもりがいいかもしれないね。水系の霊能力を修行となると、俺もきちんとおぼえていないから、とりあえずは、もどってから勉強だな」
「えー!」
「発火だけでも、それなりの相手は倒せるのと、今回の除霊は霊力レベルCではなくて霊力レベルSの仕事になる。だから、正規のGS免許までの換算数は随分かせいだことになるよ」
「それは嬉しいんでが、火から水ってまるっきりイメージが違うのですけど」
そうだよな。
しかし、今まで、火ばかりの訓練しかしていなかったってことは、美智恵さんに時間移動の能力は無いのだろうか?
「本当の基礎部分は水であろうが火であろうが一緒だから、そこまではいままで通りに瞑想までは問題ないから、そこより先だよね」
「そうなんですか?」
「ああ。あとは修行のメニューだけど、六道女学院の図書室あたりで文献をあさらせてもらった方が、いいかもしれないよ」
「あの、巨大な図書館をさがすんですか?」
「俺は噂でしかきいていないけれど、古今東西のオカルトに関する書物があるって、きいているからな」
「まずは探してみます」
「こっちでも、こころあたりを聞いてみるから。じゃあ、クライアントに報告をするか」
「はい」
ホテルに戻ると支配人も忙しそうだったが、俺がとまっている部屋へきた。
そこで、軽く話しをすると
「竜神ですか?」
「そう。多分、あそこの斉藤さんを通じれば確認することはできるから、あのあたりは荒らさないようにすることだね」
「そうでしたか。竜神さまがいるならば、あそこも安心ですね」
何かひっかかる気がするんだけどなんだろうか。
「じゃあ、忙しいので、契約は果たしていただいたことということで捺印します」
「お願いします。それと、この湖の竜神というのは有名なんですか?」
「ええ、まあ。村の外に話は普通流れていきませんが、私たちの村の守り神と言われています。だから、竜神さまにいていただけるのならば、私たちとしても安心なんですよ」
「そうでしたか」
「はい。それでは、捺印をしましたので、あとは、帰りまでごゆっくりしていってください」
「ありがとうがとうございます」
支配人もでていったが、バイキング形式の朝食も中間ぐらいの時間になったか。
「じゃあ、朝食にでもいこうか」
「そうですね。けれど、あとは暇ですね」
「そう思うなら、瞑想か、発火の訓練だけでもしておけばいいよ」
「瞑想はともかく発火ですか?」
「うん。多分だけど発火は霊能力というよりも、ESP(超能力)に近いと思んだ。ただし、その発火にも霊能力はまざっているけれど、俺の予測が間違っていなければ……」
「間違っていなければ、どうなんですか?」
「食事をしてからゆっくり帰りにでも話すよ」
「それじゃあ、食事にしましょう」
食事をしたあとにひのめちゃんの発火の訓練を見て帰りのバスの中、俺は徹夜の疲れで眠ってしまった。
ホテルからの帰りのJRでは、ひとことも話してこないひのめちゃんに、俺はどうしたかなと思いつつ自宅の最寄の駅までまた眠りにつく。
駅でわかれるときにひのめちゃんは元気が無いので、
「自分が火でなくて、水の霊能力者だったことがショックだったのかい?」
「違います!! いいんです。今度の金曜日まで、ほっておいて下さい!!」
「今度の金曜日ね。ああ。じゃあ、院雅除霊事務所でね?」
ひのめちゃんは、女の子の日かな?
俺は分室にもどったあとに今回の仕事の特殊性から書類書きで悩んでいる。
「うーん。やっぱり院雅さんと相談かな」
俺は分室からの電話で院雅さんに今回の除霊の相談をすると、
「それは、霊力レベルCのままがいいんじゃない?」
「へっ? せっかくの霊力レベルSが対象になった案件ですよ」
「いやねー。横島君がそれでいいならいいけど、六道家からの協同除霊は確実に依頼が増えると思うんだけどね」
あっ! かなりありそうな話だ。
前回はこちらのレベルにあわせてきたのだから、そのレベルをあげてこられてくる可能性があるな。
けれど、以前の六道家だとこんなまわりくどいことはしなかったはずだけど、やはり何かがかわっているんだろうか。
例えば六道夫人にこの方面のブレーンがついたとか。
まさかだよな。六道財閥の当主に霊能力のブレーンだなんて普通は考えられんぞ。
「まあ、ひのめちゃんも冥子ちゃんとの協同除霊は苦手みたいですしね」
「それもあるけれどなんとなく、今回のその除霊って霊感にさわるのよね」
「へー、院雅さんの霊感ですか」
「私にだってたまにはうかんでくるわよ」
おっ、珍しい。こんな反論の仕方なんて。
「どんな霊感ですか?」
「ちょっと、この方面をしらべてみてみた方が良いと思うぐらいよね」
「やっぱり、GSの霊感ってあいまいなのが多いですね」
「まあ、予知能力者じゃないからね」
「そうでしょうね。確実な予知というとラプラスの魔ぐらいですね」
「そっちは私でも情報は探れないよ」
そのレベルになると情報源は厄珍だろうけど、ラプラスの魔の予知にしても、あの結界の中にいる限りはあらすじだけだからな。
「ええ。わかりました」
「それで、今回の除霊は良いとして、今後のひのめの指導はどうするつもり?」
「やっぱり、妙神山ですね。あそこで、俺も昔、基礎を習いなおしましたから」
「ふーん。そのことを私に伝えていなかったわよね」
あっ! まずいかな。
「えーと、それほど重要な情報でもないでしょう?」
「たしかにね。『美神令子が勉強しろ』といってたのに、勉強していなかったらしいからね」
なんで、俺ってそんな余計なことをつたえたんだろうか。
それにしても、こういう話をしてくるってことは、ユリ子ちゃんがそばにいないのかな?
「その分は、さらに今やりなおしていますから」
「それで妙神山で修行をするならば、どのようなコースになるんだい?」
「週末の土日のみの修行コースですね。だから金曜日に除霊をして、土日に妙神山で修業を繰り返すというのが基本スタイルとなると思います」
「うーん……しかたがないわね。そのかわり、きちんと未来を見据えて、横島君も修行するのよ」
「ええ、圧縮・凝縮系の切り札ですからね」
それで、電話の打ち合わせはきられたが、もし、アシュタロスが敵にまわるとしたら、俺の能力を知っているだろうから、霊波のジャミングをしてくるだろうな。
それに対抗する方法も考えてはいるが、通じるだろうか。
その前になんで、アシュタロス自身の動きが根本的に違うんだろうな。
そして、今度の金曜日は院雅除霊事務所のメンバー4人にユリ子ちゃんがいる。
おキヌちゃんと、ユリ子ちゃんはそっくりだけど、見た目だけは少しユリ子ちゃんの方が年上っぽくみえるかな。
この二人は相性もよいらしく、ミーティングの合間のほんのちょっとの時間をつかっておしゃべりをしている。
それで、今晩は、初めての総合霊力レベルAの仕事ということで、全員で除霊にでかけることになった。
総合霊力レベルAといっても霊力レベルBの霊体が複数いて、他に霊力レベルの低い雑霊がいる家なので、それほど難易度があがったわけでは無い。
最前線にはユリ子ちゃんが結界札をもって、その後方で院雅さんが桶胴太鼓を使うという、院雅除霊事務所ではごくあたり前におこなっている方法だ。
ボスクラスの悪霊は複数いるが、それぞれは協力しあわない。
悪霊同士があわさる可能性もあるということで、ひのめちゃんは院雅さんを、俺はユリ子ちゃんの護衛をするって感じだな。
だから、桶胴太鼓に雑霊の除霊が終わったら、院雅さんは全員に指示をくだして、ユリ子ちゃんは霊波砲、ひのめちゃんは発火、俺はサイキックソーサーで各個撃破している。
ちなみに予想していた通りだが、おキヌちゃんって霊力レベルが高くて、院雅さんの桶胴太鼓による霊波をうけても、まるっきり成仏する気配がない。
おキヌちゃん本気で悪霊になったら、霊力レベルAからSぐらいになりそうだな。こわこわ。
除霊も終わりひのめちゃんが、院雅さんによる桶胴太鼓や梓弓(あずさゆみ)による除霊のことをあらためて聞いている。
「そんな、方法もあるんですか?」
「昔は、こういう方法も主流だったって、私は聞いているんだけどね」
なぜか、院雅さんが苦笑しているが、俺も江戸時代ぐらいの除霊のスタイルはよく知らないからな。
「今度図書館で調べてみたらどうだい?」
「あの図書館、苦手です」
「あれ、ひのめちゃん、勉強嫌いだっけ?」
「いえ、あそこには、霊的トラップがしかけてあるんですけど、私だと火を思わずつかってしまうから、本を焼いてしまうんですよ」
「はあ?」
「それ、本当です」
ユリ子ちゃんがフォローに入る。
一体どこの図書館島だよ。
「一応、学校としては霊視の訓練をかねているそうなので、オカルト関係のところだけなんですが」
「けれど、最近、学校がおもしろくないんですよねー」
「うん。なんで?」
「GSの免許をとったから、霊能力の特に対人関係の実技の授業が、別枠になっちゃうんです」
「えー、それって、みんなうらやましいって言っているんですよー」
「そうなの?」
「はい。今GSの免許とっているのって、ひのめさんだけですから」
「だけど、私もみんなと一緒に実技をうけたいんだけどなー」
「そんな。ひのめさんって、みんなのあこがれなんですから」
これって、女子高特有の「お姉さま」現象の一種か?
「けれど、別枠で授業をうけている先生が最低なのよ。GSの免許をもっていることを鼻にかけているのに、いざとなったら実戦の訓練もしてくれないし」
「いや、ひのめちゃんの火を相手に余裕をもって相手できるのは、日本でもトップクラスに近いぞ」
「えー、だって、GS試験では八洋さんには手傷を負わされてドクターストップだったでしょ。それに普段は、お母さんやお姉ちゃんに横島さんはともかく、あの神父にさえまともに勝てないんですよ?」
「唐巣神父には、俺もまともに勝てる気はしないぞ?」
「えっ? なぜ?」
「なぜって言われてもねぇ。唐巣神父が、この業界でトップ10に入るって話を知らないのかい?」
「いえ。聞いてはいるんですけど、それって本当なんですか?」
たしかに、普段は貧乏人を相手にしているから、強力な相手をしているところを、見たことがないだろうしな。
俺も唐巣神父が国外にまで呼ばれているのは、相手が霊力レベルSだというのを知っているだけだけど、
「多分、俺の知っている範囲で準備をした同士なら、唐巣神父に直接の戦闘で勝てるのは、ひのめちゃんのお母さんぐらいしか思い浮かばないけどね」
「えー、うそー」
「唐巣神父自身の霊能力は、すでにピークをすぎて下がっているかもしれないけれど、そのかわり神への信仰を元に自然の力を借りている。時間をかけたら、自分の霊力だけと、自然の力まで自分の力にできる者のレベルって、どうなるかは予測はつくだろう?」
「あのさえない、生え際の危ない神父が?」
生え際が危ないのは霊能力じゃなくて、なぜか令子をあずかったせいだと思うんだけどな。
「っというわけで、唐巣神父には正攻法では勝てる気が全くしないね」
「神父って、そんなに評価が高かったんだ」
唐巣神父って普段がさえないからなぁ。
「神父のことはおいといて、この夏休み明けに新しく入ってきた先生なら、まともに実技指導してくれそうな気がするの」
へー、ひのめちゃんの相手ができそうな先生か。
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ここのひのめちゃんは、発火能力がESP(超能力で)で、霊能力は水行がメインとなっていきます。
設定にチルドレンがまざっています。
2011.05.01:初出