GS協会のあるビルまで来るとおキヌちゃんが、
「前にもきましたけど、大きな建物ですね」
「このビルの中の1フロアだけどね」
GS協会のフロアに入りつつ、
「前はちょっとしか、見れなかったですから」
「それなりに広いし、結構、かわった格好のGSが出入りしているから、愛子が机をせおっていても目立たないからな」
「そういえば、色々な格好をしている人達がいますね」
「まあ、ひらたくいえば、ここでいい仕事がないか、職業安定所みたいにかよってきているんだな。安定した仕事じゃないから、直接クライアントにたのまれるうなGSだと、ここへ定期的にくることも多いみたいだね」
俺も昔はそうだったしな。
「あっちの依頼ファイルの中から探すことになるんだね」
俺が独立した時は、すでにコンピュータで検索できるようになっていたんだけど、今はそこまでいっていないみたいだな。
「さすがに東京地区のファイルは皆みていて、ほとんどないな。あっちの地方の地区の方をみてみるか」
「そうですよね。郊外型っていったら東京以外ですよね」
「なんか、うれしそうだね。ひのめちゃん」
「ええ、まあ、ここのところあまり遠出をしていなかったですから」
「あれ? ICPOの関係でイギリスとかは行かなかったの?」
「お姉ちゃんがこっちに残っているから、一緒にこっちにいたんです。だから遠出といっても、この前の香港での事件以外は、中学の修学旅行ぶりかな」
平安時代にいったのは旅行というより事故だもんな。
「まあ、そんなに楽しいものになるとは限らないけどね。それで、ここのファイルの見方だけど、地域別なのは棚をみればわかるけれど、古いのから見ていくんだ」
「古いのから?」
「まあね。それだけ、安いので、東京から行くと儲けが少ないとかもあるけれど、今回はお札を使わないから、霊力レベルC以下のものを中心に探していこう」
「霊力レベルC以下ですか?」
「いい物件はとっとと、誰かがとっているからね。とりあえず、気に入ったのがあったら見せてみて」
「はーい」
「ところで、おキヌちゃんと、愛子はここにいておもしろいかい?」
「うん。想像とちょっと違っていたわね。もっとはなやかだと思っていたわ」
「男女比は少し女性が多いくらいで、ちょっと変わった格好の人もいるけれど、それ以外は特徴もないからね」
「GSって、こんなにいるんですね」
「多いとみるか、どうかはなんともいえないな。静かにして聞いてほしいのだけど、ここにいるってことは、あまり仕事のとれていないGS達だから、知り合いになることもないかな」
ちょっと、小声で言っておく。
「GSの人達って、意外に普通の人が多いんですね」
「おキヌちゃん。誰と比較して普通の人なのかな?」
「あっ!」
「いや、いい。わかったよ」
「決してそんなつもりじゃなかったんですー。ひえーん」
「あーー、おキヌちゃん泣かないで。ここじゃ目立ちすぎるー!」
俺はあわてて、おキヌちゃんと愛子をつれてGS協会の出入り口に来てた。
「ごめんなさい。横島さん」
「俺の方こそ悪かった。ごめん。けどね、一応あんなんでもGSの塊だから、下手な除霊のされかたを、されかねないから気をつけてね」
「やっぱり興味本位で来ちゃだめね。もっと青春っぽいところにいってくるわね。おキヌちゃん、いきましょう」
「はい。私、ついてきてすみませんでした」
「俺も、もっと注意していないといけなかったから。おあいこということで」
「はい、横島さん。それじゃ、いってきますね」
「ああ。気をつけるんだぞ」
二人を見送りながら、GS協会の中に入ったら、さっき出て行く時はさすがに注目をあびていたらしい気配はあったが、今は無い。
そこまで余裕のあるGSは、やはりいないのね。
ひのめちゃんはファイルを3冊ほど選んでいたので見たが、
「うーん。どれも1泊2日じゃ無理な案件ばかりだな。金曜日の晩にでたとしても、片がつくかどうかわからない。今から探すけれど、だいたい、勘だとこのファイルあたりはどうだ」
「霊感ですか?」
「いや、単なる見た目がきれいなファイルだったから、そんなに、まだ見られていない資料があるかなと」
「そんな、身も蓋も無いことを」
「クライアントの前では、多少のはったりも必要だけど、そういうのは今後覚えるとして、ここでは効率よく仕事になりそうなのを見つけよう」
「そ、そうですね」
それで、ファイルの中を見てみると、湖のほとりにあるホテルのそばの一軒家に幽霊がでるらしい。
霊力レベルはCか。日付も、まだ旧くないし、ホテルが空いていれば、宿泊や料理もだいじょうぶそうだな。
火行が水に弱いといっても霊力レベルも下位のものだから、大丈夫だろう。
あと一番らくなのは、一軒家は壊れてしまっても良いってところだな。
「ひのめちゃん。ファイルの中でもこの案件なんかは条件にあいそうだけど、どうだい?」
「水があるところなんですね」
「けど、霊力レベルは普段相手にしていようとしていたBよりも低いCだし、遠距離からの訓練にも丁度いいだろう?」
「……横島さんが、そういうなら」
「じゃあ、これホテルからの依頼だからさっそくGS協会で、これを予約して来週の土日でこなそう」
「ええ、そんなはやくに予約できるんですか?」
「ここはそういうところだからね」
GS協会で仲介を頼んで、連絡がついたら分室のFaxに届くように手配をしてきた。
分室にもどったらすでにGS協会からのクライアントであるホテルが承諾してきたとFaxが入ってきている。
ホテルに温泉が無いのは残念だけど、食事はいいものらしいから良いだろう。
院雅さんにはFaxを送ってから電話をしてみると、
「あら、意外にはやかったわね」
「ええ、なんかとんとん拍子にいきましてね。場所は湖の上に建った一軒家ですが、霊力レベルも高くないし、研修として少し試してみたいものもありますし」
「あなたみたいに、いきなり実戦でというのは無しよ」
「はっはっはっ。郊外なので、その地で少し訓練をしてから行いますよ。無理そうだなと思ったら、火竜で対応できますし」
「それで、他の依頼は?」
「忘れていました……」
「全く、ドジなんだから」
「すんません」
「まあ、いいわ。今度の金曜日のは探してあげるから、まずは、ひのめちゃんの修行と、あなたもきちんと修行をしておくのよ」
「ええ、それは当然」
それで、今晩の除霊だが、地竜である里目を実戦で試してみることにした。
相手が霊力レベルBでも下位の方だったが、里目ってきりつけられてもすぐに再生していくし痛がる様子も無い。
それに一口パクリと悪霊をかんだら、あっさりと悪霊が石化して落下した瞬間に壊れてしまった。
こんなんでいいのかっていうぐらいにあっさりで、部屋にはいいてからでていくまでに5分とかからなかったな。
ちょっと書類を書くのに工夫の必要があったけれども。
翌金曜日の除霊は霊力レベルCと普段よりレベルは低かったが、特筆すべき内容もなかったぐらいにサイキックソーサーでおしまい。
自分の霊力があがっているのがわかるな。
それで、その翌日はひのめちゃんの郊外型の除霊ということで、某県にある湖のホテルhe
むかう。
JRの駅から、送迎バスがあるのがいいね。
さてひのめちゃんが、この案件を楽しみにしていたはずなのに思ったより静かだけど、霊能力を湖の上で使うということで緊張しているのかな?
目的のホテルに入り、すぐに支配人にはあわずに、宿泊する部屋で会って話をするという。
除霊関係の話だし、従業員にもあまり話しを聞かせたくは無いのだろう。
部屋に入ると小人数向けなのだろうが、けっこうよさそうな感じの部屋だ。
部屋に荷物をおいたら、ひのめちゃんにこちらの部屋にくるように言っておいたが、
「同じくらいの部屋の大きさなのに、こっちの方がいい部屋ですね」
「GS協会で正規のGSと見習いのGSで行くと伝えておいたから、そのせいかもな」
「うーん。こっちの部屋がいいな」
そうだろうな。
「そう思うんだったら、早く正規のGSになるんだよ」
普通の状況なら素直に譲るのだが、これもGSとして正規になるための動機のひとつになる。
「がんばりますから、霊力レベルの高い相手をしたいな」
「どうしても、広い範囲を使うなら、こういう風に地方にでかけることが多いし、霊力レベルが高いのは収入が良いので、有力なGSのところに行っちゃうからね」
「いまのままだと、正規のGSにあるのは年をこしちゃいそうですよね?」
「これから院雅除霊事務所で、研修のために郊外の霊力レベルCばかりを相手にするとしたら最低で8ヶ月ぐらいはかかるね。けれど、六道女学院って2年生になったらGWの前後あたりで林間学校の除霊実習が、たしかあるだろう? そこで1ヶ月以上は早く正規のGSになれるんじゃないのかな?」
「やっぱり、高校1年生のうちはきびしいんですね」
「あとは、冥子ちゃんと協同で除霊をするという手もあるけれど」
「……え、遠慮しておきます」
いつ爆発する危険性のある冥子ちゃんと一緒にいるのは、神経をすり減らすからな。
会話でとぎれたところへ、ホテルの支配人がきて、
「お若い方がいらっしゃるとは聞いておりましたが……」
多少困惑気に話だそうとしたので、
「除霊事務所として霊力ランクレベルAをうけられますし、相手は霊力レベルCです。俺たちのコンビで、何回も除霊実績がありますからご安心ください」
情報の抜けはあるが、勘違いするのは相手の勝手だ。
「こちらとしても、除霊さえきちんとしていただけるなら、問題ありませんので」
「それで、除霊依頼書には記載されていないような情報がございましたら、どんな些細なことでも聞かせていただきたいのですが」
GS協会にきていた除霊依頼書を見てもらいながら確認していくと、
「子どもの幽霊がでる?」
「ええ。あそこには子どもはいなかったはずなのですが、いつのまにかいて、中で暴れていると思われる幽霊の除霊は邪魔をされそうなんです」
「そうですか。ただ霊力はあまり高くは無いと?」
「ええ。それはここの住職も弱いですが霊能力をもっていて、そうだと言っておりましたので」
「それはそうしまして、あとは、一軒家は壊れてしまってよいというのは条件付きなのですね」
「ええ、このホテル側から見える部分は、あまり壊れたように見えないという風にしてもらえますと」
「たとえば、窓ガラスが割れるとか、内部が焼けていても大丈夫とか、極端なところまでいくとホテル側と反対側の壁は全部なくなっていても良いってところですか?」
「ええ、こちらから表面上見えるところが無事なら、窓ガラスぐらいはこちらで補修いたしますので、それで結構です」
「わかりました。その条件で行わせていただきますので、依頼内容の詳細修正ということにいたします。こちらが依頼契約書の詳細修正ということで、今書く別紙になりますが、内容に間違いがなければサインもしくは、押印をお願いいたします」
令子あたりは収入をごまかすのにこういうのを書かなかったけれど、院雅さんからはきちんと書くように言われているからな。
内容的には最終手段が屋敷の丸焼きから、屋内の内部のみを焼くという霊力特有の焼き方だから、問題は無いので依頼契約書の正式な修正を取り交わし終わった。
せっかくひのめちゃんの練習ができる、広そうなところにきたので、
「ひのめちゃん、夕食前に訓練ね」
「はい。中々めいっぱいの訓練はできないので、がんばります」
「いや。今日は、除霊があるから軽くね。本格的なのは、明朝にするから」
「あっ。そうでしたね」
近くの川原がホテルから見えないようなので、今晩の除霊で実行する技を練習する。
「この川でうまくできているし、今晩の除霊もこの方法でうまくいきそうだね」
「はい。なんとか自信をもって、いけそうです」
「じゃあ、時間もせまってきたし、ホテルの夕食でもご馳走になろうか」
「こういう時の楽しみってそうですよね」
ここの夕食は部屋食で、ひのめちゃんとは俺の部屋で食事をともにする。
「なんか、こういうのって、日本旅館っぽい料理ですね」
「懐石風の夕食だからね。それでも、このてんぷらはここの地場の食材を使っているんじゃないかな?」
「見てわかるものですか?」
「はっきりとはわからないけれど、これくらいの小さめの川魚だったし、ここは湖だからとれても不思議じゃないからね。それ以外はわからないけれど、おキヌちゃんたちが買ってくる食材で見たことの無いものがあるから、ここらあたりの独特の食材かなと思ってね」
「へー、よく見ているんですね」
「なんとなくかな」
わりあいにゆっくりめの会話を楽しみながら夕食を行い、除霊の準備の最終確認だ。
ひのめちゃんは一旦部屋にもどって、着替えてきたひのめちゃんを見て忠告しておくべきことを、すっかり忘れているのに気がついた。
「ひのめちゃん。キュロットスカートなのはかまわないのだけど、素足がでているよ」
「えっと。何か問題でも?」
「普通のズボンか、今の格好をメインにすえるなら、逆にタイツか長めのソックスとかを用意した方が良いだろう。今日は直接関係ないけれど、山奥に入る時には枝とかで切れるし、時期によっては虫にさされるとかもあるからね」
「はい。次回から気をつけて用意しておきます」
「今回は致命的じゃないから、そのままでいくか」
令子というと世間ではボディコンで有名だったけれど、きちんと時期と場所で服装を使い分けていたからな。
今の令子は、宣伝をしだしているが、以前より少し地味目かな。
とはいっても肌の露出が多い格好で、宣伝しているけどな。
屋敷に向かうと、
「はでにポルターガイスト現象を、おこしていますね」
「そうだね。ラップ音まで外部に響いているし、日本の幽霊では珍しいんじゃないのかな?」
このあと、特定のエリア内に入ると
「おじちゃんたちも、お母さんをいじめに来たのかー」
聞いていた少年の幽霊か。さて説得に応じてくれるかな。
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どさまわり編といったらいいのかな
2011.04.27:初出