帰りは方向の関係から、令子と西条、火多流と俺っていうので別れることになった。
令子はすっかり機嫌を直しているな。
「その横島クンって美人には飛びかかるから気をつけるのよ」
おい、令子。俺はそこまで無節操じゃないぞ。
「横島さんなら、大丈夫ですよ。私ら高校1年生には、絶対に覗きにもきませんから」
うーん。堂々と言わなくてもよいだろうにな。
「あら。そう? まあ、それなら、それでいいわ。でも気をつけるのよ」
「ええ。一応は」
どうせ、俺の信用なんてそんなもんさ。
芦火多流と二人きりっていうのも、同じクラスのわりには初めてだな。
夕日を一緒にみるようなタイミングもつかめないし、もしかしてさけられていたのだろうか?
まあ、若干きにかかるので、会話がないのもなんだから話かけてみようとすると、
「横島さん」
「なに? 火多流ちゃん」
「前から、なんとなく疑問だったんですけれど、私には『ちゃん』で呼んでいるのに、同じ高校の3つ子の鳥子には『さん』で呼ぶんですか?」
「ああ。火多流ちゃんは、クラスメートでそれなりに話すときもあるからね。それに対して、鳥子さんって違うクラスだからだよ」
「そう言われれば、そうですね。横島さんって八洋にも『さん』で呼んでいるらしいですものね」
「まあね。そういえば、妙神山でのアドバイスって役に立っている?」
さっきまでは一般的な話をしていて、こういう個別のことは話していなかったからな。
「ええ。結局、今は4つの段階を順番にしていくことにしました。そもそも4種類のことをおこなっていたということを気がつかなかったのが恥ずかしい限りで」
「うーん。そんなこと行ったら、俺なんて恥ずかしいことばかり」
「くすくす。そういえば、横島さんの覗きって、3年生ばかりなのは有名ですからね」
「うーん。そんなにひろがっているのか」
「だから、私も安心して、夜一緒に歩いていられるんですけどね」
「それって、俺が男ってみられていないってこと?」
「いえ、危険な狼さんにならないって安心しているんですよ」
「まあ、火多流さんぐらいの美少女なら、3年生になったら襲うかもしれないぞ」
「だから、今は安心ですよね」
そうだな。
「だね。そろそろ、見えてきているあの光は○×線の駅じゃないかな?」
「そうですね。それでは、ここまで送っていただいてくれて、ありがとうございますね」
「ここまできたら駅までは送ってあげるよ」
「ここまできたら、安全ですから。横島さんの家って、ここだと違う×○線の駅の方が近いんじゃないんですか?」
「あれ? なんで、そんなこと知っているの?」
「いえ、鳥子がですね、横島さんのことを気にしているんですよ。もう正規のGSになったっていうことでね」
「ふーん。そうか。直接GS試験で戦ったもんな。そういえば、3人の中で一番最初にGSになれそうなのは、火多流ちゃんかな?」
「実際になってみないとわかりませんね。じゃあ、ここまでですね。また学校で」
「ああ、さようなら」
令子の奴、きちんとGS協会に見習いの除霊数を報告しているのかな?
おキヌちゃんはGS試験のルールのせいで、通常のGS見習いよりも大量に除霊しているのに、GSになれなかったのはしかたがなかった面はあるけれどな。
火多流は美少女だから、令子は俺のときと違ってきちんとアルバイト料は払っているだろうけど、見習いからGSにあげるのかな。
美神除霊事務所は美智恵さんが隣にいるからだいじょうぶかな?
俺が気にしても仕方が無いんだけどな。
翌日、日曜日の仕事は分室で待機していることだ。
ひのめちゃんは考えごとをしているが、やっぱり、俺にとっては過去となっている未来を秘密にしていることかな。
俺は俺で、神族が静観しているということは、俺が積極的に、この世界へ対して能動的には動いていないからだろうか。
これぐらいなら、老師も答えてくれるかな。それなら、それで先に行ってくるだろう。
俺が考えていたことも知られているはずだから、それを黙認っていうのが正解なのか。
昼食は、おキヌちゃんと愛子が、ひのめちゃんと里目の分もつくってくれている。
きちんと考えていなかったが、こういう部分をアルバイト料として、分室の予算から2人にあげられるかもしれないな。
そういえば、
「ひのめちゃんって、料理はどうなの?」
「りょ、料理ですか?」
「うん。料理で得意なものとかってある?」
「えーと、えーと、一番得意なのは、ハンバーグです」
「へー、ハンバーグか。ひき肉の割合とかはどうしているのかな?」
「えーと、割合ですか? たしか……よくわかりません。できあいのものを買って煮るだけなので……」
「もしかすると、料理って苦手なの?」
「じ、実はそうなんです。お姉ちゃんは得意なんですけど、私って、そっち方面も苦手みたいで」
「それなら、それでいいけれど、野宿系の仕事は入れられないな」
「そういうのって、除霊で関係するんですか?」
「ああ、あらかじめ、レトルトでも食材をかってあればそれでもいいんだけどね。しかし、山林とかの仕事が入ったら、その辺りの野草とか、動物をつかまえてさばいたりとかは、万が一のための必須技能になるんだよ」
令子においてきぼりを何回くらったかな。
「まあ、院雅除霊事務所は都会での仕事がメインだから、そういうのは気にしなくてもいいけれどね」
「もしかして、横島さんって食事は得意なんですか?」
「いや、そういう感じのところでしか作らないから、あまり得意とはいわないだろうね」
その発言を聞いた、ひのめちゃんが
「男性を落とすには、手料理が一番って書いてあったわよね。まずいわ」
って、小声で言っているんだろうけど事務所って、静かなんだから全部聞こえるぞ。
けれど、ひのめちゃんが料理に自信を持つまで俺の身は安全かな?
ひのめちゃんが、俺の部屋へ行って、おキヌちゃんから料理の本を借りて読んでいたが、その程度はいいか。
しかし、料理のことばかり考えられても困るから、除霊中は気をつけていないな。
日曜日は結局待機のままで、PM7時になり仕事もないので分室を閉めることにしたが、ひのめちゃんを先に帰して院雅さんに昼食代のことを確認してみた。
「えーと、おキヌちゃんと、愛子が食事をつくってくれるので、その分を彼女らにアルバイト代としてだせないかな、と思うんですがどうですか?」
「普通のアルバイト料金としてはだせないわね。けれど、食費代としてある分から店屋物と同じ程度までなら上限としてだしてもいいわ。きちんと食材費もあわせるのよ」
院雅さんもやっぱりシビアだな。まあ無いよりも高校生程度のお小遣いなら、それでもいいか。
「はい。わかりました。ちょっとあとで計算してみます」
そうして、一旦外にまわって2階にあがると愛子もまだのこっていた。
ちょっとばかり食事のことをいうと意外にも愛子が
「それは気にしなくてもいいわよ。一般の店屋物の方が食材を定期的に大量購入しているから、安く仕入れる分、売値も安くなっているのよ。だから、私たちが1回あたりにつくる量からするとせいぜい2人で100円分あるかどうかだから、そこまでする必要はないわよ」
「そっか。余計な期待をさせちゃったな」
「ううん。私たちのこと気にしていてくれているんだってわかって、うれしかったわ」
「ところで、そういえば、今日は愛子、何時に学校に帰る?」
「もう7時もまわっているんだし、学校でも誰もいないから、今日はこのまま、ここにいちゃ駄目?」
計算外だったな。
「まあ、いいか。その分、少し上乗せするな」
「横島くん。気をつかいすぎもよくないわよ。どちらかというとおキヌちゃんという友だちと、月曜の朝、一緒に学校に行く。こういうのも青春よね」
「俺が悪かった。じゃあ、そういうことでよろしくな」
まあ、月曜の朝、おキヌちゃんと愛子と一緒に登校したが、男どもの声は以前より少なくなってきている。
こういうのは状態の慣れだな。
月曜日の帰りは、おキヌちゃんにはアパートにもどってもらったが、俺は院雅除霊事務所に向かう。
特に仕事ではないので、学校から直接でむいてみたらそこに院雅さんと一緒にいたのは、メドーサだと?
月曜日の学校帰りに院雅さんから呼ばれていたので、院雅除霊事務所に行くと、院雅さんといたのはメドーサって、それはなんだー。
魔族の目の前で弱みをみせてはいけないとは思うのだが、このメドーサは俺の感覚では10日前までは神族だったんだよな。
いかんいかんとは思いつつも、
「メ、メドーサ、ここまで来るとは、おまえ、俺にほれとったんか――」
「こ、こいつは、そういえば、こんな奴だったな……」
そう言ってメドーサのちちをめがけてむかったら、刺又(さすまた)をだしてきてあっさりと横一線でたたきのめされた。
平安時代と刺又(さすまた)の筋が少しかわっているぞ。
同じ筋だったら、うまくとびつける自信はあったのに(ぐすん)
あの数日間の訓練はなんだったんだよー
さすがの院雅さんもあきれたように、
「しかし、魔族とわかっているだろうに、飛びかかるって本当に横島君ったら」
「1000年たってもええ、ちちしてるし」
「そこからはなれろ、この横島」
「調子がくるわされているんじゃないの? メドーサ」
このメドーサから殺気も感じないが、そういえば、この院雅除霊事務所にいて院雅さんってメドーサはどんな魔族かって知っているんだよな。
なのにこの状況ということは、
「院雅さんの魔装術をさずけたのってメドーサなんですか?」
「やっと気がついたのかい?」
「えっ? だって、何回かきいたのに、きちんと教えてもらったことなんかないですよ」
「GS試験の時に、軽く睡眠をとろうとしたときに小竜姫とメドーサへ指を指したのを覚えていない?」
「……そういえば、そんなこともあったような」
「普通あのときのメドーサを見て魔族だと気がつくかしら?」
たしかに、メドーサの名前だけは有名だが、人間界で顔は知られていなかったよな。
「あああ、俺ってそこまで、あの日はぼけていたのか――!!」
「けれど、今の今まで気がついていなかったようね」
「横島はわかっていないだろうが、院雅はなぜ今日こいつとあわせる気になったんだ?」
おや? メドーサもわかっていないのか?
「そうね。せっかく過去にさかのぼってさずかった竜装術も役立たずだったみたいだし、メドーサの名に恥じないかしらと思ってね」
「当時は竜装術で、下位の竜族になるなんて知らなかったからね」
「今ならどうするの?」
「文珠使いとは珍しいからね。だけど、10日前に過去からもどってきて、竜装術を封印されているところ見ると、まだ、文珠は精製できないみたいだね」
「悪かったな。ふがいない弟子で……弟子といえば、勘九郎はどうした?」
「ああ、頭が切れると思っていたんだが、力に魅入られたようでね。魔装術をとりあげて、とっととおいだしたよ」
ああ、俺のお尻は安心かな。けれど、
「なのに、力を失っている院雅さんと契約を続行しているのは?」
「……」
ふむ。なぜ、黙秘をしているんだろうか。
「まあ、そこは色々あるから、地上にでてこられる中では上級の魔族であるメドーサにとっては話したくないんだろうさ」
「って、院雅さんも俺に教えてくれる気は無いの?」
「メドーサが同意すれば話すけど、彼女の性格じゃ無理だろうね」
しかし、メドーサと対等の契約しているっぽい院雅さんって、以前はどれくらいの力量があったんだ?
「それなら仕方がないけれど……」
院雅さんの本当の目的はなんだろうな?
「それで、メドーサに契約の範囲内での願い事があるんだけどね」
「ほう。院雅の願いというのは珍しいな。何だ?」
「里目……横島君の守護鬼神についてなんだけど」
「横島の守護鬼神? 地竜のことか。そうか里目と名をつけたのか。それで?」
「その地竜なんだけど、もう少し強くすることは可能よね?」
「不可能じゃないが、代償はなんだ?」
「最初に言ったでしょ? 竜装術は役立たずだったってね」
「くっ! しかし、それは神族の時の話で、今の魔族である私には関係ないね」
「ふーん。そうしたら、どうやって、メドーサとの契約を続行できているか、この横島君に教えてもいいのかな?」
「まさか、契約を譲る気でいるのか?」
「あら、譲れるなんて、私はひとことも言ってないのに」
ああ、院雅さんの方が魔族のメドーサより1枚はカードが多いらしいな。
「ああ。わかったよ。まったく、こんな人間と契約するはめになったなんて、私も落ち目だね」
「ほとんど、依頼はしていないし、依頼をするにしても無理な内容はしたことが無いはずよ」
「ふん。そういうところが気に入らん。私ほどの上級魔族をつかまえて、下級魔族でもできるようなことしか言ってこないなんて」
「それも、契約のうちでしょ」
「……それで、その地竜の強化だが」
「強化じゃないわよ。言葉は曲解しないようにね」
「ふん。じゃあ、はっきりとした内容を言え」
強化じゃない?
まあ、今の地竜て、まだ俺の霊力の半分くらいだよな。
院雅さんは、どういう方向を考えているんだ?
「地竜の地中での移動能力、もしくは地中での攻撃能力をあげてもらいたいわね」
地中……死津喪比女対策か。
院雅さんもひとこと言ってくれればいいのにな。
「地竜のままじゃ、無理だね」
「残念ね。まあ、メドーサ本人も、地中での同様の能力が無いんじゃ仕方がないわよね」
挑発か?
「なぜ、地中にこだわる? そんな、相手なんかほとんどいないだろうに」
「死津喪比女って知っているかしら?」
「さあてね。聞いた覚えはあるが、何だったかね?」
「約300年前にいた、地脈を栄養源にしている妖怪よ」
「ああ。そういえば、あのときのつまらん、妖怪か」
「そのつまらない妖怪をあなたにはまともに戦うことはできないんでしょ?」
「っていうか、死津喪比女は死んだんじゃないのか?」
「それが生きているらしいのよね」
「生きているからなんだというんだ?」
「私たちが一応GSだというのは、覚えているわよね?」
「そういえば、そんなことをしてたらしいな。おまえといるとそんなことを感じさせられるのは、こういう願い事の時だけだがな」
「それで、どうも、死津喪比女を封じていた結界をそこの横島君が偶然にもといちゃったようなのね」
おいおい。同意のもとじゃなかったのかよ。
けれど、以前、院雅さんは契約している魔族、つまりこのメドーサには、そういった方面では協力は期待できないようなことを言ってたんだけどな。
「それが、私と何か関係でもあるのか?」
「直接はないけれど、弟子の不始末は師匠の不始末でもあるからね」
「神族の時代の弟子なんて、知ったこっちゃないね。それにその程度ならその地竜で充分だろう!」
はて? この地竜……里目で死津喪比女に対応できるのか?
「人間の霊力と同じ程度の力しか無い地竜が、死津喪比女に対抗できるっていうの?」
「たかだか、地脈に寄生しないと力が蓄えられない妖怪なんか、本体は人間とおなじ程度の霊力しかないさ」
いや、比べる人間をきっと間違えているぞ。
現在なら、冥子ちゃんクラスの霊力だろうな。
「まあ、いいわ。メドーサができないことを、地竜ができることがわかっただけでも面白い収穫だわ」
「私ができないわけじゃない。やらないだけだよ」
「はいはい。私との契約ではそこまで力は使わない契約だからね」
本来の力をだしたなら、メドーサなら死津喪比女と対抗できるのか。
おしいが、無理強いは出来ないな。
「ふん。しかし、GS試験で文珠使いをみつけたと思ったら、文珠をもっていただけか。さて、どうなっているのやらね」
GS試験で文珠使いを見つけた?
「GS試験の文珠使いって、もしかして俺のこと?」
「そうだと思っていたんだが、竜装術をつかわなきゃできないし、どこでその文珠をもらったのか興味があるね」
まだ、俺がまともに文珠を精製できていたということを知らないんだ。
「GSが契約もしていない魔族に教えられると思っているのかい?」
「魔族といっても、一応デタント派なんだけどね」
そういえば、平安時代に言ったか。
「神魔間の情報は人間にはつたわっていないっていっただろう。今の俺にはわからない。院雅さんも知らないですよね?」
「そういえば、メドーサからきいたのは、初めてな気はするね」
「ふーん。私からはきいたことは無いということは、他からきいたことがあるってことかい? 院雅よ」
「あなたが、いくらつよがっても、契約がある限り無理でしょう?」
「いまいましい契約だ」
そういえば、話をずらされたな。
「GS試験で文珠使いをみつけたってどういうことだ?」
「そこまでいう必要は無いね」
「あら、私は興味があるわよ」
「しかたがないね。あるお方が文珠使いを探しているだけさ。それであの火角結界もどきで文珠使いを検知できるようにしておいたら、あのときの、貧弱そうなボウヤが文珠を使ったというのがわかってね」
あれは、確かに起爆装置だったはずだが、たしかに爆発物かまでは視なかったからな。
「どうせ貧弱なボウヤですよ」
「けれどもあのGS試験からも伸びているね。たとえ、昔の私の修行を受けていたとしても、面白いぐらいに成長が早いね。どうだい、神族ではなくて、魔族の私の弟子になってみないかい?」
「それだけは、やめとくよ」
「どうしてだい? 私の肉体を好きにできるのかもしれないんだよ?」
えーい。このメドーサめ。自分の肉体まで武器にするのか。
「いや、俺ってボウヤだからさ。その先はいわなくてもわかるだろう」
「それはヘタクソとゆう意味かい?」
「まぜっかえさんでくれッ!!」
「そのあたりは、どうでもいいとして、今度は魔界産のお酒でももってきてね。メドーサ」
「そんなのばかり頼んで……わたしゃ、おまえのお使いか」
「だって、高度なことをたのめないんだからしかたがないでしょう」
高度な内容を頼めない契約?
変わった契約だな。
俺がまともに知っている魔族って、ワルキューレとかジークだから、あまりあてにならんか。
「ふん。まあ、今度もってきてやるさ」
「今度は一緒に飲みましょうね」
「やれやれ、なんでこんなことになったのかね」
そういって、メドーサは消えたが、どこに移動したんだろうな。
「それでメドーサと契約してたわけですね?」
「そうね、横島さんの世界ではもっと悪辣だったみたいだけど、こっちのメドーサは少なくともここ30年ぐらいは人を殺してはいないはずよ」
「竜族は?」
「それ以上は、契約の関係で話せないわね。多くは語れないけれど、これも契約の都合ね」
「都合のいい契約ですね」
「その通りね」
メドーサの言葉を信じるならば里目で死津喪比女に対抗できるらしいが、本当か?
*****
1000年を超えた師弟の再会です。まあ、横島の感覚では10日ぶりぐらいです。
ここのメドーサは契約にしばられていますが、味方にできるほどの強制力をもった契約ではないです。
2011.04.24:初出