金行でただ言えることは、特定のものに偏っていないのと、ひとつひとつの攻撃は重たくはないだろう、ということぐらいだ。
中竜姫から「はじめ!」の声がかかるとともに、俺のシャドウには両手のセンスから、護手付き霊波刀の短いバージョンとサイキックソーサーへ、変化させて突入させていく。
これを白虎もよんでいたのか、霊力のこもった不可視の風の矢を放ちながら、さらに氷の壁をつくって防御をしやがった。
それを超えたところで、白虎からは炎の槍の攻撃がくる。
それをさけられるだけさけながら、あるいは弾きながら追いかけると今度は違う障壁を出される。
なんかひのめちゃんと小黄竜の逆転した感じの、追いかけっこっぽい展開になっている。
多分サイキックソーサーを数枚だせばすぐに終わるんだろうが、これを使うと未来のGS試験で気がつかれる恐れがあるからな。
そうすると、また歴史が微妙に崩れかねない。
令子の血清をとりに行った時にも感じたが、手のうちを見せずに戦うのは、こんなにやりづらいとは思わなかった。
時間がかかりすぎるので、何種類か違う方法をおこなってみようかと思ったら、よく考えると俺のシャドウってあの特性があるじゃないか。
思いついたが吉日、さっそくためしてみる。
霊張術ばかりつかっていたので忘れていたが、俺のシャドウには飛行能力がある。
空中戦をおこなわせればいいだけだ。
先頭時に空を飛ぶものと地に居るものでは、圧倒的に上空にいる方が有利だ。
もうひとつは護手付き霊波刀とサイキックソーサーをセンスにもどして、こいつをサイキックソーサーかわりになげつける。
こいつのセンスもサイキックソーサーのかわりにできたな。
相手の攻撃は簡単にかわせるし障壁も薄いから2枚連続でセンスを投げれば、1枚目で障壁を破壊して2枚目で相手に攻撃をあてる。
このパターンを2回繰り返しただけで、あっけなく終わった。
気がついてみれば、霊力の地力差がもろにでたな。
「以外と時間がかかったね。横島、若いわりに頭の切替が遅いね」
どうせ、中身は27歳だよ。
「それじゃあ、今の白虎の霊力を影法師(シャドウ)に付加させるから、金行の霊能力が上昇して、陰陽五行的に調整されてそれぞれの差が少なくなる。あとは、退却戦用の術だが、横島の特性にあわせた、この術専用の方円をつくらなきゃいけないから、あとは瞑想でもしてな」
出口に向かう途中で思い出したのか、
「あっちの美神とかいうのも、もし追いっかけっこが終わったら、瞑想と伝えておきな」
そう言って、今度は本当にでて行った。
しかし、修行なのに追いかけっこって、ここの中竜姫は、やっぱり魔族の時と性格は近いのかね。
午後、俺は別の異界空間につれてこられた。
この奇神山にも別な異界空間があったんだな。
「さて、本来なら、術を授けるのにも時間がかかるのだが、そのあたりは個人の特性にあわせたこの方円で補助をする。この術は、術というよりも守護鬼神によって、退却を容易にするというものだ」
「式神や眷属ではなくて、守護鬼神なんですか?」
「式神や眷属というのは、出している間中、ある程度以上の霊力を供給しないといけない」
ああ、冥子ちゃんのぷっつんが、まさしくそれだったな。
「なにやら、わかっていそうだな」
「ええ、よく、式神を暴走させていた人が近くにいたことがあったので」
「……それは、ともかく、守護鬼神だと、外にだしてある間は霊力の供給が不要な点だな。圧縮・凝縮系の霊能力者は、安定して霊能力を外部に放出するのは不得意なものが多い。それも時間をかければ可能になるが、長所をいかせなくなる」
そういえば、タイガーと一緒に冥子ちゃんのところから戻れたとき、にそんな話もあったな。
「未来では、守護鬼神ってほとんど聞かないんですけど、何か悪い点でもあるんですか?」
「守護鬼神の性格だな。相性の良い守護鬼神を見つけられればよいが、そうでなければ人間だけでは守護鬼神と安定して契約するのは、無理な場合が多いからであろう」
「そうですか……その他には?」
「霊力の供給だが、守護鬼神の種類によっては、地脈や食事などから霊力の補給源となるが、だいたいは影の中にいる間に護るべき相手から少しずつ霊力を吸収している」
「俺の場合もそんなところですか?」
「霊力は一気には吸われないし、せいぜい、最大霊力も同じ程度なので、負担にはならないはずだ。今から行うのは、火行に対して強い水行にあたる黒竜の卵を呑んでもらう」
「食べるんじゃなくて、呑むんですか?」
「丸呑みだ。そんなに大きくないから普通なら呑めるはずだ」
「守護鬼神の大きさはどれくらいになりますかね?」
「そうだな。横島の霊格からみると私の小黄竜の約半分くらいかな?」
「霊格ですか?」
「そうだ。霊格だ」
そういえば
「俺って、今、霊格のみの隠行をおこなっていますが、先ほどまでの結果とかわりますかね?」
そう言いつつ普段から行っている霊格の隠行をといてみる。
「ちょっと、まった。今までずっと、霊格の隠行をしながら修行していたのか?」
「ええ、霊格の隠行をして、通常の隠行でも完全に霊格を隠せるレベルまでになってから、霊格をあげる修行をしろといわれていたので……」
「そういうのは、最初から言え! 今日の午前中の分からやりなおしだ。他に言うことは無いだろうな」
そうなると文珠のことは話さずにおけなくなったのと、実際にシャドウで文珠をだして使ってみせたが、他のはまあいいだろう。
実際に会うのはいつだかわからないが、文珠も『模』だなんて裏技でも使わない限りは1文字じゃ上級魔族は倒せない。
2文字以上制御できなければ未来での通常のメドーサには効かないだろうと思っているだろうし。
だから未来でも1文字の文殊にはメドーサも油断していたんだよな。
「まさか、こんなのが、文珠使いになるとはね」
「行う内容がかわるんですか?」
「単純なのは魔装術だけど、あんたの場合はすぐに淫魔になりそうだから却下ね」
くそー、気にしていることを。
「あとは霊張術だけど、守護鬼神にもそれなりの能力が必要……」
「……手詰まりですか?」
「私が教えるんだから、霊格を落としてからなんて、そんなまどろっこしい方法はおこなわないよ。さっきの方円で見る限り弱かったのは、火行に対してだが、強いのは土行だから、陰陽五行で考えると全ての霊格をあげないと文珠は精製できない。ただし、さっきの方円からみてみると、他の考え方がある。四神で考えると、その四神を総べるのは中央に位置する土行の黄竜だから、その土行の霊格をあげれば、わざわざ霊格の隠行なんてしなくてもよい」
「じゃ、どうするんですか?」
「ちょっと、まってなさい」
そうすると、中竜姫は、方円の一部を消して書きなおしていた。
「これで、準備はいいわね」
「どうするんですか?」
「まずは、この方円の真ん中にたちなさい」
言われるがままに、立って振り向くと、中竜姫がいる。
「向く方向は、木行の方向なので、こっち」
そういって、中竜姫に方向を変えさせられる。
「あとは、儀式だけど、眼をつむっていなさい」
素直に眼をつむると、口元に感触がというか、舌を入れてきている。
口を離されたので、
「口付けだけなんて殺生な!!」
「これは儀式だ。あとはイットキばかり、この方円内にいれば守護鬼神が現れる。それまでこの場からでるなよ」
こっちでの人生の初めてのディープキスがメドーサかよ。
人生ってさかのぼっても、前とかわらんのか――ッ!!
しかもちょっと気持ちいいのがくやしいぞ!
とはいっても、腹部に何らかの霊体が届いたのは、以前の月と違って流し込まれたのはわかる。
月面の時は、死ぬ代わりに若返ったみたいだが、今回はどうなんだ?
方円での儀式からイットキ、現在でいう2時間ばかり、方円でのんびりとくつろいでいると中竜姫がきた。
「そろそろ、でてきてもいい時間のはずだけどね」
「まさか、お腹を裂いてでてきませんよね?」
「口から出てくるだけだから安心しな。しかし、お腹を裂いてでてくるってどんな発想だい?」
いや、月面の時にメドーサのせいで、そうなりかけたんだけどさ。
「未来での娯楽では、そういうふうにみえるものがあったんですよ」
「物騒な未来だね」
「どちらかというと、魑魅魍魎がいる今の平安京よりは安全だと思いますよ」
なんせ、3日間で令子は荒稼ぎしていたもんな。
なんか、胃からこみあげる
「ぶっ……おげえええッ!!」
俺の口の中から小黄竜ではなくてビッグ・イーターもどきがでてきた。
ビッグ・イーターと似ているが、かなり細くて小ぶりなのと、目玉が2つに歯並びがきれいなところが違うくらいか?
どちらかというと手足がないからヘビっぽいな。
「うまく地竜が産まれたみたいだね」
「うまくって、うまくいかないこともあったんかい」
「男性なら細かいことは気にしない」
「こっちは少年だ」
「少年? みたところ16,7歳ぐらいだけどね」
「ああ、未来での成人……元服に相当するのは20歳なんだよ」
俺はエセ少年だけどな。
「それじゃ、あっちの娘も、まだ結婚適齢期にもいたっていないというのかい?」
「そうだけど」
「……」
中竜姫はショックを受けているようだ。
ショックに呆けている中竜姫をみていると思わず
「俺が何しよーがおかまいなしっスね!?」
そういいつつ飛び掛っていくと
「かまうわいっ! この横島!」
あー、声をださなきゃ、あのちちを堪能できたのかもしれないのに、俺ってやつはー
「あ…こほん。こんなところで説明を、途切らすわけにはいかないね」
「そうだった」
一応真面目なふりだけはしておく。
「それで、これは地竜で、巻き付く力が強く、能力は石化をもっている。地に特化しているから空を飛ぶ能力は弱いかね。けれども再生能力は高いから、いくら斬られても中々死ぬことはないので、退却戦で最後方にいさせるには格好の守護鬼神といえよう」
「うーん。なんかそういうのって、使い捨ての道具みたいであまり好きじゃないんだけど」
「あくまで一般例をだしたけど、あとは、おまえの育て方や使役の使方しだいさ」
「……それで、肝心の文珠ですけど、この地竜が霊張術をおこなってもらうのですか?」
「ああ、霊格ね。それは、この地竜を着るというか、丸呑みされるとその間中は、地竜が服のようになって、その間はおまえの霊格があがる」
「霊張術と同じで時間制限つきっすね」
「まあ、そうだね。その方法で地竜を使うと、地竜が外で動ける時間は短くなるから気をつけるんだね。そしてその地竜だが、食事は地脈から栄養もとれるし、それができなければ人間と同じくらいの量の食事を与えれば、だいたいはいいだろう」
ああ、なんか、扶養家族が増えた感じだな。扶養家族といえば
「この地竜ですけど、人間にばけるとかしないんですか?」
「そこまで高等な竜族じゃないからね」
これ以上、おふくろにややこしい説明しなくてほっとするやら、若いバージョンのメドーサがでてこないのが残念なことやら。
「それじゃ、基本的な説明は終わったから、早速、地竜と協同での修行をおこなうんだね」
「少し一緒にいて、なれるというのは無しですか?」
「おまえらは、未来にはやくもどりたいのだろ? そうならば、ここで、基本的な技術の収録と応用についての方法論だけはおぼえておかないといけないね。どうも、未来でこの方法を教えていないようだから」
うーん。たしかに小竜姫さまって、竜族としてはまだ修行中の身らしいから、ここまでいたっていないのかもしれないな。
「はい。わかりました。あらためてよろしくお願いします」
そうして修行を続けて1週間あまりした時に、待ちに待ったヒャクメはきたが、俺の知っているヒャクメよりも少し大人っぽい。
おや? っと思ったところで、
「そんなにかまえなくてもいいわよ。心の中まで読まないからね」
「へっ?」
「この神族について何か知っているんですか? 横島さん」
「ふむ。俺の知っている妙神山にきてたヒャクメは好奇心旺盛だったから、よく俺の心の中をのぞいていたんだよ」
夏休みの妙神山での修行後半は特にだれもきていなかったが、そういうことにしておこう。
それにこの、ヒャクメに心を覗かれている感じもしないしな。
「あなたたちって、約1100年後からきたっていう話だったわよね」
「ええ、今が延喜(えんぎ)4年というと西暦でいう904年なので、西暦1997年からきた俺たちからいうとそれぐらいです」
「そうすると、私の孫ぐらいなのね~。便宜上、ヒャクメで通しているけれど、私が12代ヒャクメだから、14代目ぐらいかしらね」
「もしかすると、失礼かもしれませんが、妖怪の百目鬼(どうめき)と何か関係するんですか?」
「そうね。親戚にあたるのよ。けど、わたしたちヒャクメ族は神族を代々ついでいるから、若いうちは興味がつきないのよ」
「もういいです。なんか、その話し方で、未来のヒャクメと同じだってなんとなくわかってきましたので」
「それで未来へ戻すのに、正確な座標を知りたいのだけど、やっぱり一度はついていかないといけないわね。あなたたちの時代に行くのは誰かを座標にしないといけないの。けれど、こっちに戻ってくるときには自分でわかるのよ」
「じゃあ、ひのめちゃん。1997年8月29日の金曜日の正午の食事の時間で、自分のイメージしやすいところを思いうかべるといいと思うよ。それでいいですよね? ヒャクメ」
「一応、これでも神様なのに呼び捨てなのね~」
ああ、以前からの呼び方が。
「けど、それだけ友だちになってくれているんでしょうから、孫にも将来きいてみるのね」
俺は思考を読まれないように霊力で防御しながら、ふー。あぶなかった。今は、まだヒャクメにあっていないからな。
「それで、イメージはできたかな? ひのめちゃん?」
「はい。これでいいと思います」
「じゃあ、今から3人でいくのね」
へー、ヒャクメ専用のカバンも無しで時間移動の能力をつかえるって、すごいんだな。
そして、現代についたのは、俺の知らない比較的高級そうなマンションの1室だった。
「ひのめちゃん。ここでいいのね?」
「日時さえあっていれば、ここでだいじょうぶです」
「日時だけ、念のため確認させてもらおう」
「私には間違いは、ないはずなのね~」
この時代のヒャクメを知っているだけにちょっと不安だったが、丁度、ひのめちゃんのイメージ通りの日時と場所らしい。
「じゃあ、現代で会えたらまた会いましょうね」
なんか不吉なことをいわれた気分だが、
「はい。ありがとうございました」
「それから、ひのめちゃんの霊力はもうほとんど残らないから、今日は無理しないことなのねー」
そう言って、ひのめちゃんの時間移動の際に発生する時空震のポイントをヒャクメ自身にあわせて帰って行った。
まあ、あの調子なら多分、無事に戻ったのだろう。
「過去にもどる前の時間にきたわけだが、時間移動をとめるのは、しない方がいいから時間移動した直後に現場に現れるようにしよう」
「そうですね。横島さん」
そうして、夏休み最後の仕事となる冥子ちゃんとの分室としての初仕事の現場にいくことにした。
遠くからみていると、俺たちと、冥子ちゃんや、クライアントとは名ばかりの六道家の下請けの担当者がいる。
遠くからでもわかる時空震をキャッチしたので、すぐさま現場であるマンションに駆け寄って、
「冥子ちゃん、だいじょうぶ?」
「あれ~、横島さんとひのめちゃんが~、いきなり消えてこまってたのよ~」
半べそをかき始めていたところだったようで、目に涙をうかべ初めていたが、なんとかぎりぎりでぷっつんはなくなったようだ。
「なんか、電撃をうけるとひのめちゃんが瞬間移動をしちゃったようなんだ」
「メキラちゃんみたいのかしら~?」
「トラのメキラと似たものだと思うよ。これで、ひのめちゃんの霊力が使いはたされちゃったっぽいので、このマンションからはやくでよう」
「そうよね~」
なんとかごまかしきれたようだ。
翌日は、予定よりも早く午前中から除霊作業に入って、残りの霊も少なくあっさりと除霊は終わった。
浄化の札は、冥子ちゃんが使えないから、ひのめちゃんと俺とで貼っていく。
こうして冥子ちゃんとことの、初めての協同除霊は無事に終わった。
一応2日間の予定が、こちらの感覚的には過去へとんでいるから10日間だもんな。
冥子ちゃんとの2日目の除霊を早くしたのは、ひのめちゃんの時間移動を小竜姫さまに封印してもらうためだが、妙神山でも一騒動があったんだよ。
*****
守護鬼神はGS美神’78でちらっと言葉だけでてきます。
この中での守護鬼神の話はオリ設定となります。
ヒャクメはヒャクメ族ということで代々神族をつづけているということにしました。
2011.04.19:初出