サンチラの電撃を受けて、ひのめちゃんの時間移動能力が目覚めたようだ。
そして通常空間にでたようだが、空中からの落下を感じる。
空を飛ぶためにあわててサイキック炎の狐をつくろうとしたら、背中から地上にたたきつけられたが、落ちた距離は1mぐらいだったのだろう。
たいした痛みはない。
「ひのめちゃん、だいじょうぶかい?」
「ええ。横島さんが下にいてくれたおかげで」
うん。今の体勢を見た目からいうと、ひのめちゃんの尻の下に敷かれているって感じか?
ちょっと、感触はいいけど、ひのめちゃんだしな。
「悪いけど、どけてくれるかな?」
「いつまでものっててごめんなさい」
うん、顔を赤らめているけど、ちょっとはずかしそうにしてる。
なんせ、馬乗りだ。
俺も立ち上がったところでまわりを見回してみると、暗くてわからないが、森林の中にいるようだ。
「うーん。さてここはどこで、どの時代なんだろうな~」
「何を言っているんですか?」
「いや、どこに移動して、どの時代に移動したのかなっと思って?」
「瞬間移動も珍しいながら知っていますけど、時間移動なんて特殊能力をもっていたんですか?」
あっ、ぼけてしまった。
どう、フォローしよう。
そう思っているとさほど遠くない場所から、
「貴様らよくも私を――!」
知らない声だが、いらだっている感じだな。
「げっ! 元に戻っている!?」
令子、西条に、もうひとつ重なっているのは俺の声か?
はて? こんな記憶は無いけれどな。
「アシュタロスさまは!?」
アシュタロスだって? よくわからんがきっとまずい。
俺はさっそく隠行をおこなおうと思ったが、ひのめちゃんはそういう訓練をしていない。
両手の指先から小型のサイキックソーサーをだしサイキック五行隠行陣を即席でつくる。
指先からのサイキックソーサーは威力が小さいのと、サイキック五行隠行陣は以前はおこなっていたが、一々霊力を使うので隠行ができる今は使っていない。
他人をまわりから感じさせないために、サイキック五行隠行陣を使うのはそういえば初めてだな。
「横島さん、今の声って、お姉ちゃんと西条さんじゃないですか。あと二人のうちの1人は横島さんの声に似ていましたけど……」
「今『アシュタロス』って上位の魔族の名前も聞こえたのでまともな状況じゃない。まずはこの陣で霊力を感知されないようにして偵察する」
納得したのか、声の聞こえた方へ行こうとすると、
「今日のところはひきわけにしといてやる――!」
そんな声が響いてきた。
「なんか昔のまんがに出てくる不良みたいな逃げ口上ですね」
状況はよくわからないが、令子、西条に俺たちに敵対してた相手が逃げたのだろう。
記憶に無いということは、新しい時間軸での未来に移動したのか?
「もう一人の声が俺とそっくりなのに、俺の記憶に無いから時間移動した可能性がある。
ちなみに俺自身は時間移動の能力は無いけれど、2回ばかりまきこまれたから、なんとなく感覚はわかる」
文珠での時間移動も感覚的には同じなのだが、現時点ではつかえないし、昔巻き込まれたことがあるのはたしかだからな。
そう言って声の聞こえてきた方に移動していきながら、サイキック五行隠行陣は内部の隠行が可能な上に、外からの気配は通じるから霊波もさぐってみる。
感じるのは俺自身の霊波と、西条の霊波に、神族らしき霊波と、声は令子なのに霊波は令子にそっくりなひのめちゃんだけど2人?
ひのめちゃんが2人いないと無理な事件だったんだな。
しかし、今から何年かするとひのめちゃんも令子と声がそっくりになるのか。
同じ人物は顔をあわせない方が良いと聞いているが、未来の情報をつかんでおくのはいいだろう。
「うんと、霊波的には、西条と神族と俺に令子さんでなくて、ひのめちゃんが2人だから、声の感じから未来に移動したっぽいな」
「じゃあ、あっても安心ですね。行きましょう」
「いや。そうじゃないよ。未来はあくまで可能性のひとつだから、まるっきり同じになるとは限らないんだよ。
だから、今、何がおこったのかを、直接聞いても、教えてくれない可能性の方が高い。
ひのめちゃんが2人いるのは、1人が現時点の未来からきたのじゃないのかな。
こういう場合は、こっそり、聞いて将来の参考にする方がいいはずだよ」
「ふーん、そういうもんですか」
今の俺自身がその体現者だけど、そのことは元始風水盤の事件で思いっきり感じたからな。
ここが俺の未来なら、どの程度アドバイスがもらえるか不明というか、ひのめちゃんや俺に気がつかれているかもな。
「うん。もしかして、俺たちのことに気がついていながら話すことも考えられる。
具体的なことはわからないかもしれないけれど、その分そこだけはかわらないと判断して話すんじゃないかな?
それから、この隠行陣はそんなに強い陣じゃないから、霊力を出すとかはしないようにしてね」
「はい。わかりました」
さて、声のあった方に隠れながら移動してみると、烏帽子(えぼし)を被って平安時代にみかけた陰陽師の服装姿である西条にそっくりな西郷だ。
他には今の俺はしていないが、赤いバンダナをした俺に、令子と令子に似ている魔族のメフィストがいる。
神族といいきったが、ヒャクメだな。
ヒャクメならまわりの感覚は霊波にピントをあわせているから、このサイキック五行隠行陣で充分だろう。
どうも何かを埋めているようだが、烏帽子(えぼし)が地上にあるから俺の前世である高島でも埋葬しているのかな。
そうか平安時代にきたのか。
令子とひのめちゃんのの霊波は非常に似ているが、今いる令子、メフィスト、ひのめちゃんの三人の霊波に違いは無い。
最初に似ているとは思ったが、霊波をきちんと感じるまでにはいたっていなかったからなのか、外見だけで判断してしまったらしい。
「あれ、お姉ちゃんですよね? 横にいるのは魔族? けれどさっき、私がいるっていませんでしたか?
それに、全体的に服装も変ですよね? 横島さん」
「……」
正直にはなすか、ごまかすか。
ごまかすには一緒にいる時間が長くなってからわかったのだが、比較的直情的な面も強いひのめちゃんだから理由を考え付くには時間が足りなさすぎる。
じゃあ、正直に話して信じるだろうか?
「横島さん! 何か知っているんじゃないんですか?」
声を低くして、胸ぐらをつかんでくる。
こういうことはひのめちゃんは普段しないから、状況については正直に話してみるか。
「烏帽子(えぼし)、あの独特の帽子をかぶっているのと、俺自身が烏帽子(えぼし)を被っていないから、多分平安時代だと思う」
「いえ、そんなことを聞いているんじゃありません。さっき西条さんと言ったり、横島さん自身だと言った……
それに私が2人だといってましたが、お姉ちゃんと魔族じゃないですか。このことについて何か知っているんじゃないんですか?」
「なんでそう思う?」
「勘、もしかしたら霊感なのかもしれませんが、そう感じるんです」
霊能者の霊感ってやっかいなんだよな。
これは話せそうな範囲で素直に話してみるか。
「……あくまで、推測だけど、多分平行世界、あるいはパラレルワールドともいうけれど、そこから令子さんと俺がきているんだと思う。
そして今話している感じからは、あのバンダナをしている俺は、俺自身ではなくて、俺の前世である高島が一時的に意識を支配している状態なんだと思う」
この時のことはアシュタロスの記憶にのこっていないし、令子からもあまり話してもらっていないからな。
「じゃあ、あの魔族は、私の前世なんですか?」
以外に冷静だな。
そういえば、魔族に母親が殺されていたと思い込んでいないし、魔族に対しても比較的寛容な世界だったもんな。
「うん。多分だけど、あの魔族の転生先は、あっちの平行世界では令子さんに転生したのだと思う。
それに対して、こっちの世界では令子さんではなくてひのめちゃんに転生したんじゃないんだろうか」
時間移動の座標を俺は文珠がなければ特定できないから、俺が補助してこの時代にきたというよりも、ひのめちゃん自身が自分の前世にひかれてきたのだろう。
問題は、どうやって現代にもどるかだな。
「それで前世の横島さんが、前世の私に対して『俺にホレろ』って願ったんですね」
「いや、それは前世だし、今の人生とは関係ないよ!?」
「けど、あそこの私の前世は『ホレさせたらちゃんと責任とれ!!』って言ってますよ」
うん? なんでひのめちゃんが、前世のことで気にしている?
「もしかして、ひのめちゃんも多少は前世のことを覚えているの?」
俺がサイキック五行吸収陣をGS試験でだしたことから、多少は前世の記憶があるということを事務所の他のメンバーにも話してある。
実際には思いだしたわけじゃないが、アシュタロスの記憶やサイキック五行陣のため、多少の前世の記憶は表面にでているが、主に術だけだからな。
そのこをはまわりに多少は話してあるが、結局つかえる陰陽五行術で一般のお札に転用できる人材はいるが、まだ伝承できていないよな。
「前々から横島さんのことは気にかかっていたんですけど、この時代にきて今のを見ていたらなんとなく思いだしたんです」
「それは、単なるデジャブかもしれないし、現代にもどれるかどうかによる不安からの吊り橋効果かもしれないよ。
現代にもどれてからゆっくり結論をだすといいよ」
「現代にもどったら、考えてくれるんですね?」
「それよりも、まずは、現代にもどれる方法だね。なんとかなるとは思うけれど……」
うん。この年齢の時に、俺ってもてていないはずだからな。
確か普通の人にも、もて始めたのは高校3年生からだと記憶しているが。
それにひのめちゃんって、まだなんとなく10歳の頃の面影があるんだよな。
こっちで話しているうちに、昔の俺は向こうの現代にもどっていったのだろう。
多少ドジな面はあるにしてもヒャクメがついているからな。
さて俺たちはというと、この時代でどうするかというと、
「さて、あちらの令子さんと俺は、元の時代にもどったようだけど、時間移動の能力は令子さんが持っていたようだ。
こちらだと、多分、ひのめちゃんが時間移動能力を持っているのだと思うけれど、この時代にくることを意識したのかな?」
「いえ。平安時代にきたいと思ったこともないし、私自身時間移動についてのことをほとんど知らないし」
そうなんだよな。時間移動能力者を魔族が狙っているかどうかって情報がいまだに手に入らないから、アシュタロスが何を考えているか確証がないんだよな。
「ここで、だまっていてもしかたがないから、まずは先ほどのひのめちゃんの前世と、西条の何代前の前世かはわからないけれど、あってみるか」
そうひのめちゃんに声をかけて移動をしようとすると、
「それはこまるな」
男の声が聞こえる。
このサイキック五行隠行陣に気がつかれた?
声は背後からしてたが、殺気は特に感じない。
俺は後ろをふりかえると、ロープをかぶった霊格の高そうな人物がいる。
霊波は隠しているようだが、これだけ霊格が高いのは隠し切れないらしい。
とはいっても、霊格そのものをわかるようになってきたのは妙神山での修行からだけどな。
それにしても神族か? それとも穏健派の魔族か?
この隠行陣の中の会話を聞ける実力のある者なら、声もかけずに俺らの命を奪えているだろう。
命の即時危険性は無いと判断して、
「俺は横島、そっちの子は、きこえていたのならわかるだろうがひのめ。それで貴方はどなたかな?」
「ああ、フードをかぶったままだったね」
そういってかぶっていたフードをはずしながら
「私の名はアシュタロス」
俺の記憶に残っているアシュタロスなら、この時に未来へとばされたはず。
まさか魔界にいる分霊がわざわざきたわけじゃないだろう。
どちらにしても、こんな至近距離まで近寄られていたうえに、用意……文珠がなければ相手にすらならないぞ。
目前のアシュタロスの霊格の高さに、冷や汗を背中にかきながら、無駄とわかりつつもひのめちゃんを俺の背後にでかばう位置に移動し、
「なぜ、彼らにあってはこまるのかな?」
「きみにはこれは見えていないのかね?」
よくみると、なぜか、右手に白旗をもってぱたぱたとひらめかしている。
「えっ? 白旗? もしかして降参?」
「違う!! おまえら未来の人間の世界では交渉するときにも、白旗をかかげるんじゃなかったのか?」
このアシュタロスはなぜ交渉をするんだ? そして未来?
*****
さてアシュタロスが原作とは違う形で登場です。
2011.04.16:初出