俺は正式にGS免許をとったので、今まで通っていた唐巣神父の教会へ挨拶にでむいて、挨拶をする。
「唐巣神父。今度、院雅除霊事務所の分室で活動することになります。今後は中々来ることができなくなります。色々と書物を見みせていただいたり、お弟子さんの修行風景を見学させてもらって、ありがとうございました」
令子も独立したから、ここが接点になることも少ないだろう。
ここの書物もだいたい読んだが、西洋の術が多いので、どちらかというと東洋系の術になる俺には、参考程度だったかな。
唐巣神父、ひのめちゃん、芦八洋からは、次のように声をかけられる。
「そうですか。最初に会った時から、才能はあると思っていましたが、正規のGS一番のりとは、驚きものです。これからは、来れなくということですが、この教会はいつでも戸をあけていますから、いつでもたちよっていいですよ」
この教会は以前だったら、物理的にも鍵がかかっていなかったからな。
今は、鍵はあるようだけど、比較的金銭感覚のまともなひのめちゃんと、それに芦八洋もいるから普通程度には生活できるだろうから、そして身体の心配はしなくてもだいじょうぶだろう。
そのひのめちゃんからは、
「横島さんは、お姉ちゃんばかりに飛び掛っていて、単なるスケベだと思っていたんですけど、火竜のアイデアを教えてくれたり、他にもアドバイスありがとうございました」
「うーん。アドバイスっていってもたまたまだよ。俺の除霊スタイルも自分の霊力の塊を外で移動させる、というところが近いから思いついただけだよ」
「あたしゃ、その実際の除霊っていうのを、臨海学校以外でもみたかったね」
芦八洋か。霊波砲主体の除霊スタイルだから、教会の中だと見れなかったんだよな。
「八洋ちゃんは臨海学校で、あの霊団に霊波砲を使うのは抑えていてくれて、後半たすかったよ」
「長期戦になるのはわかっていたんだから、あそこで使うだけ損なのは見えていただけさ。私から言えば、まだあの生徒たちが戦い方を知らないだけだね」
同感ではあるが、実戦なれしているのは少ないだろうから仕方が無いだろうな。
ピートは同じ教室であえるからどうでもいいや。
「それで、厚かましいお願いだとは思うのですが、妙神山への紹介状を書いていただけないでしょうか」
「妙神山!! 君にはまだ早すぎる!! 下手をすると命にかかわるぞ……!!」
「入り口にいる鬼門の試しをうけて、入れれば無理なコースにするつもりはありませんよ。紹介状がなかったら、鬼門の試しがきつくなるらしいので、紹介状が欲しいんです」
「いったい、どこからそんな話を」
「ちょっと、裏情報として入手していまして」
別に紹介状がなければ、妙神山の修行が受けられないわけではない。
ただ、鬼門たちが修行にくる者を試すための自らにかせている制限をゆるくするだけだ。
実際、あそこで過去修行した時に鬼門と戦うことがあって、最初のころは何十連敗したことやら。
「だから、鬼門の試しは楽にしておきたいんですよね。紹介状をいただけなければ、それなりの手は考えていますが」
「どうしても行くというのなら、書いてあげよう。けれども、本当に無理はしないのだね?」
「ええ、無理をして大怪我でもしたら、活動できなくなって本末転倒ですから」
無理を言ってくるとしたら、小竜姫さまだな。
近接戦がある程度のレベル以上で出来るとわかったら、無理やりにでも相手をさせようとするからな。
いまだに肉体を作れていないから、小竜姫さまの目にとまるまではいかないと思うんだけど。
そして夏休み初日から、妙神山へおキヌちゃんと向かう。
山の上に道具を運ぶための裏道も知っているが、最初にくるはずの俺がそれを使うのもおかしいだろう。
途中の緩やかなところまでは、徒歩で行く。
そしてこれからきつくなっていくところで、サイキック炎の狐を使って空を飛んでいく。
これなら、肉体の疲労と霊力の消費はバランスがよい程度だろう。
妙神山の修行場入り口付近で降りて、霊力を練り上げておく。
妙神山修行場には
『この門をくぐる者 汝一切の望みを捨てよ 管理人』
とあいかわらず張ってあるな。
門には左右の鬼門の顔がはりつけられており、両脇には本人たちの肉体がある。
隠行なのかここの場の特殊性なのかまではよくわからないが、鬼門たちの霊力は門の顔からわずかにもれている分しかわからない。
「鬼門さまたちですか? ここに修行にまいったものです。紹介状もありますので通していただけないでしょうか?」
「ふむ。気がついておったか。ただし、紹介状があるからといって、ただでは通せぬ。その方たち、我らと手あわせ願おうかッ!!」
小竜姫さまはひまじゃないのか? でてこないな。まっ、いいか。
「それで鬼門さま、ここの試しのルール……規則は?」
「我らと手あわせをして、倒すことだ」
「そうですか。おキヌちゃん、危ないから下がって」
そういいつつ、俺もおキヌちゃんと一緒に距離をとる。
立ち位置が悪かったし、近距離戦ではまだ鬼門たちを倒せそうにないからな。
それと同時に2枚ずつ3回にわけて、6枚のサイキックソーサーをつくりあげてうかばせておき、右手に霊波刀と左手にサイキックソーサーを用意しておく。
「姑息な手段を」
「いや、だって、手あわせ前に準備しちゃいけないって言わなかっただろう」
駆け引きも鬼門の試しのひとつだ。
馬鹿正直につきあう必要はないが、やりすぎると小竜姫さまの機嫌をそこねるからな。
「それでは手あわせを開始でよいか?」
「お願いします!」
俺は、視線はずらさずに挨拶をする。
そして、鬼門たちはこちらにむかってくるが、サイキックソーサー6枚を鬼門へめがけて時間差で攻撃を開始する。
単純にぶつかれば、それなりに鬼門たちもダメージ判定で倒れてくれるだろうが、今の時点のサイキックソーサーでは遅いと判定されたのだろう。
最初はさけられて、さらにつっこんでくる。
2組目もさけようとしたところで、最初のはずれた1組目のコントロールをしなおし、それぞれの鬼門の顔面にぶつける。
あとの2組目はコントロールして、後方から襲うようにし3組目を金的にたたきつける。
鬼門も男だからつらいだろう。
残りの2組目は斜め後方上から、クビ元の顔と本体をつないでいる、霊的ラインへ叩きつけるように鬼門たちにぶつける。
これで倒したことになるだろうが、念のために、すでにかなり近づいていた鬼門に霊波刀で足元を狙おうと思ったら倒れてくれた。
判定基準とかは、おおざっぱに過去にきていた修行者たちをみていて、なんとなく思っていたことだが、だいたいはあっていたらしい。
少し痛そうだが鬼門たちは、
「我らが鬼門の試しにより、通過することを許可しよう」
うん。ひさびさに小竜姫さまにあえると思ったら、門が空いてまっていたのは、人民服を着た猿こと斉天大聖老師だった。
滅多に顔をださないはずの斉天大聖老師が門の前にいるのはなぜ?
斉天大聖老師の毛から作られる分身で、ある身外身の術かなとも思ったが、よくよく霊波の感覚を研ぎ澄ますと本人のようだ。
「えーと、ここの修行場にいる管理人は、小竜姫さまという女性の神族だときいていたのですが?」
「まったく、滅多に修行者なぞ来ないのに、竜神王が小竜姫を呼び出すとは、ついとらんのぉ」
「こっちこそ。せっかく、小竜姫さまとくんずほぐれつな修行ができると思ったのに!」
「何をばかなことをいっておる。修行をしにきたのなら入れ。さもなければとっとと帰れ!」
一応、修行しにきたんだけど小竜姫さまがいないんじゃ、ただ苦しいだけなんだよな。
だからといって俺の体力や霊力を自然にまかせて伸ばしていたんじゃ、これから起こることにたいして、間に合うかわからないしな。
しかし、竜神王なら老師の方が付き合いは長いだろうにな。
「おキヌちゃん。入ろう」
「ほお。幽霊に憑かれている。っというわけでもなさそうじゃ」
「俺の保護した幽霊なので、きちんとした保護証をもたせておかないうちは、バカな霊能力者が実験かわりに除霊をするかもしれないので、今はつれて歩いているんです」
以前の場合は、おキヌちゃんは近所で有名だったし、GSトップクラスの令子にケンカを売るまねは誰もしなかっただろう。
たいして俺は院雅除霊事務所所属で、この業界では二流のGS事務所の新人GSだからな。
GS教会発行の保護証をおキヌちゃんにもっていてもらわないと、GSを目指しているもの達の除霊対象にされてしまうかもしれない。
愛子も同じだが、すでに発行済みだから今は問題ない。
「人間を教えるのは初めてだが、なんとかなるじゃろ」
今の霊力と肉体では聞きたくない一言だぞ。
「生きている者は、俗界の衣服をここで着替えるんじゃな」
おお、ひさびさの修行場だが、あいかわらず銭湯っぽい入り口だな。
「それで、小僧。色々な修行はあるが、一日で修行を終えて俗界へ帰れるコースがおすすめじゃぞ!!」
老師は俺を殺す気か。そんなむちゃなコース今の俺にできるわけが無いだろう。
「いえ、3週間ぐらいで、主に霊力の出力を、1ヶ所から集中してだせるようなコースはないですか?」
「ちっ!」
その『ちっ!』ってなんですか。老師、ゲームでもしたいのかよ?
「うむ、そういうことであるならばしかたがあるまい。まずはお主の霊力を鍛えよう」
「えっ? 霊力をですか?」
「そうすれば、霊力の総量があがるのだから、必然的に1ヶ所からだせる霊力もあがるのじゃ」
確かにまちがっていないけれど、それって力技じゃないか。
老師ってこんな性格だっけ?
昔の老師との修行の時との差に違和感はあるが、今の俺の霊力が低すぎるせいかな?
「その方円を踏むのじゃ」
銭湯で着替えて修行用の異空間に入ると、さっそく言われる。
そういえば、この方円に入るのって初めてだったよな。
「もしかして早速修行ですか?」
「その通りじゃ」
「えーと、さっきの鬼門さまたちの試しで、霊力がかなり減っているんですけど」
「まったく、最近の若い神族や妖怪だけでなく、人間もなさけなくなっておるのか」
「そうは言われても事実ですし。ちなみに、貴方様をどのように呼べば良いでしょうか?」
「うむ。さっかり忘れておったわ。斉天大聖だ」
「斉天大聖というと、あの西遊記で有名な孫悟空ですか?」
「そういう名もあったが、ここで修行する気ならば、老師と呼ぶのじゃな」
「では、老師。すぐに修行に入るのですね?」
「その通りじゃ。だが、霊力の減っているのも加味して相手はだすから、死ぬことはあるまい」
老師の死ぬことあるまいって、令子の9割殺しと同じくらいだからな。
令子ならまだいいけど、男からなんて嫌だぞ。
そう思いつつも最初に言われた通り、方円を踏む。
そうやって出てきたのは、いつものシャドウで三頭身のなさけない姿だ。
昔だした時のように勝手にうごきまわらなくなった分、コントロールはできるようになっているはずなのだが。
どうせならこいつをそのまま、おれの身体の外に張り付かせれば、魔装術もどきになって、まだ戦いやすいんだけどな。
「中々おもしろそうな影法師(シャドウ)じゃの」
「へっ?」
「小僧の鬼門との試しで感じておったが、こういう影法師(シャドウ)なら納得じゃ」
うーむ。老師には勝手に納得されているけれど、さっぱりわからん。
「影法師(シャドウ)をみただけでわかるんですか?」
「ふむ。影法師(シャドウ)だとわかっておるようじゃの」
「ええ、まあ、時々使いますから」
とはいっても、過去に戻ってきてから3回か。
「影法師(シャドウ)を使うとは珍しい。この影法師(シャドウ)からは、そのように感じぬのじゃが」
「自分の力ではなくて、他人の式神のなかで影法師(シャドウ)を引き出す能力があるんです。その式神に俺の体の表面にはわせてもらうことがあるんですよ」
本当の最初はそうだったからな。嘘は言っていない。
「ふむ、霊張術か。珍しい式神がおるものじゃの」
「霊張術ですか?」
「本人自身の霊力をおのれにかぶせられないので、使い人を前鬼や後鬼のかわりとして使っておった者はいたはずじゃが、廃れて久しい。懐かしいのぉ」
勝手に感傷にひたっているのはよいけれど、俺のシャドウをどうするんだろうか?
「それで、この影法師(シャドウ)はどうするんですか?」
「何、これから1体と戦ってもらうだけじゃ」
「相手次第ですけど、6割以上霊力が減っていると思うんですよ。命だけは保証してくれますよね」
「さてな。そんな根性だと、ここの修行はついていけないぞ?」
老師もどこまでが本気かわからないからな。
「それに、本体の霊力は減っていても、霊体の中に補助のような塊があるじゃろう」
げっ! 文珠のことがばれている。
「もしかして、凝縮された霊力の塊がわかるんですか?」
「そうじゃの、4つばかりあるようじゃのぉ」
にやりと答える猿……もとい老師がいた。
「だからじゃ。これぐらいの相手なら問題なかろうて。いでよ、出座戸(デザート)」
こいつ、砂系妖怪じゃないか。
2mを超える背の高さにたいして、こっちは三頭身だぞ。
しかも相手は両刃剣で、こちらはセンスが2本。
通常戦力の差もあるが、こいつの特殊能力を考えると早めに叩かないとまずい。
そんな俺の考えとは別に老師からは、
「初め!!」
その合図とともに出座戸(デザート)が動きだしたのにたいして、俺のシャドウは初動が遅れる。
相手が剣をふると、その剣先から霊波がこもった砂が叩きつけられる。
こちらはそれをかわしきれないので、左手のセンスをサイキックソーサーかわりにして右手に逃げる。
その逃げ道をまっていたかのように、俺のシャドウの正面にもうまわりこんでいる。
離れた場所からみているからこそ、誘導されているのがわかる。
ただ、こちらも伊達に難波のペガサスと言われていたわけじゃない。
遠隔操作もお手の物だ。
一見追い詰められたようにみえるが、文珠にはすでに『速』をいれておいたし、それを発動させる。
これで動く速度は、互角にもっていける。
本当なら『加』『速』か『超』『加』『速』でも入れて一気にけりをつけたいところだが、2文字以上の文珠の発動には、精神力の集中が必要な分、発動まで時間がかかる。
この出座戸(デザート)の速度を相手にしていたら、そんな余裕はない。
そして俺は左手のセンスはサイキックソーサーにして、右手のセンスは双頭剣にする。
出座戸(デザート)は霊波がこもった砂を振りまきながら、剣をふってくる。
速度は互角だが、相手の霊波がこもった砂があちこちにばらまかれはじめている。
こいつらが本格的に動作する前に対処しないと、こいつらが何かをしてくるはず……結局あきらめてさらに文珠を使う。
まずは相手の妖気に満ちた霊波の砂を『浄』化させて、相手が驚いた一瞬を突いて『遅』くなるように文珠を出座戸(デザート)に叩き込む。
あと2つ文珠があれば完璧なのだが残りは一つ。
遅くなった相手に文珠をたたきつけて『弱』くなるようにし、相手の胴体に双頭剣を突き刺す。
ここで、普段の俺だと感知はできないが、このシャドウまで霊力があがれば可能な、相手の霊力の核を探査する。
こちらの『速』と、出座戸(デザート)にかけた『遅』『弱』の霊力差にまかせて、相手の本体の中に手をつっこむ。
そうはいっても、霊波につつまれた砂なんだが『弱』のおかげで核にまで手が届いて、核をひっぱりだす。
核になっているのは、ほんの一握り大のさそりだ。
これを床にたたきつけて核をぬいてから踏むと動きのとまっていた、出座戸(デザート)が崩れ去り砂の山となってのこった。
「これで、もう文珠は使えまい」
やっぱり、わかっていたのか。
「ええ、虎の子の文珠でしたんですけどね。折角、魔装術もどき……霊張術ですか。その時にこつこつとためていたんですけどね」
「小僧が『霊力の出力を1ヶ所から集中してだせる』ようにしたいというのも、この文珠のためじゃな?」
「ええ、そうです。俺の場合、凝縮系統に分類されるし、この霊張術の時には文珠がつくれるものですから、自分自身のみで作れるようになりたくて」
「借り物の力ではなく、おのれの力によってうみだそうとするのはよかろう。ただし、それだけでは文珠は多分つくれぬぞ」
老師の言葉からいうと、俺は何か見落としをしているのか。
そこへ、きょとんとしていたおキヌちゃんが、
「横島さんって、あんなに早く動けたんですね。おどろいちゃいました」
いや、文珠なんだけどね。天然が入っている幽霊のおキヌちゃんには、違う方向へ勘違いしてもらおう。
「あれは、自分の身体を使わないで、俺の身体から抜き出された影法師(シャドウ)だから、あそこまで早くうごけるんだよ」
「そうなんですか」
まあ、いまのところおキヌちゃんにもれても大きな影響はないだろうが、念には念をだな。
老師はどうしようか。
「素直に言わないところをみると、何かあるな、小僧。面白そうだな。小竜姫が帰ってくるここ2,3日の間はみっちりしごいてやるとするか」
いや~。猿だなんて、男だなんて。せめて女性である小竜姫さまにして~
そう思っていても、ここにきた以上は逃げ場なんて無いのもわかりきっているんだけどな。
小竜姫さま、はやくもどってきてください。
女っけが幽霊のおキヌちゃんだけじゃ、物足りないっす。
*****
鬼門の試しが、紹介状の有り無しで変わるというのはオリ設定です。
今までの魔装術もどきに霊張術という名前をつけてみました。
2011.04.06:初出