ホテルでは令子の提案で、一度ホテルの部屋へ入らせてもらう。
エミさんが、ピートと一緒にくっつこうとしない。
さすがは冥子ちゃん効果だ。かなりぶっそうな効果だが。
部屋はピートと同じだが、六道女学院の生徒たちがくるまでまた眠らせてもらおう。
六道女学院の生徒が到着したというので、年配の男性におこされた。
多分、この人が今回つれてこられて来た、霊能力を持たない一般の先生なのだろう。
六道女学院の霊能科だけは特例で、教員免許がなくても、霊能力に関しての教育で単位扱いとなるが他校では無理な話だ。
それで今回は他校の生徒である俺たちの単位のために、教員免許をもっている普通科の教師がきている。
そして、どの教科の単位にわりふってもいいという条件もある。
今のところ休んでいないから不要なんだけど、たしか学校を休まなければいけないような事件にまきこまれた覚えがあるからな。
あまりきたくはなかったが、きてしまった以上やれることだけはやっておくか。
俺たちは授業の一環ということで、広間での六道女学院の生徒たちへ説明を一緒にうけている。
俺たちは他校からきているということで、先ほどの普通科の教師の横の方のふすま側に座っている。
六道夫人の最初の挨拶があってから他校の生徒であるが、GS見習いで除霊経験をつみにきたということで紹介が開始される。
一番はピートの紹介で一応エリートという意識が女生徒にあるのか、騒ぎはしないが熱い視線がいっている。
次からは芦八洋、鳥子、火多流の順番でGS試験での順位が下から順番に紹介をしているようだ。
一応仮にとはいえ1位となった俺の紹介だが、どちらかというと冷たい視線を感じるなぁ。
きたえはじめて2ヶ月半ばかりで貧弱なボウヤよりは、少しは筋肉もつきだしているが、肉体的にはまだまだだし、この時期はまだもてなかったもんな。
実のところこの春のGS試験が、六道女学院にてビデオで流されていたのだが、決勝戦では勘九郎とのかけあいと、あとはにげまわっているようにしか見えない。
サイキック五行吸収陣までカメラでおっていればいいのだろうが、結界の一部にみえても不思議ではない位置にある。
そんなわけで悪運だけで勝ったと、大半の女生徒に思われているのが真相だったりする。
一部のわかる人間にはわかるのだが、霊能科高校1年生にそこまでもとめるのは無理がある。
そしてそれをわかっているひのめ以外にも、1人の生徒が尊敬の眼差しを送っていたりするのだが、横島の過去のもてていなかったという記憶が邪魔をしている。
横島好みの美少女なのにあわれなり。
横島は横島で、おどろいていることがある。
なぜかおキヌちゃんがいるのだ。誰か生き返らせたのか?
死津喪比女の地震をともなった霊障事件はおきていないはずだから、無事に死津喪比女を倒していてくれたらよいのだが。
そうでなければ死津喪比女を倒す算段をはやく考え出さないといけない。
まずいなぁと思いつつも、それはこれからおこるかもしれない、組織だった霊たちを相手にして終わったときだ。
令子たち現役のインストラクターはここにきていない。
実習である除霊開始頃か、それが杞憂であったならば、夕食の時間になれば会うこともできるだろう。
臨海学校での実習の説明は、おおむねヘリの中と同じ説明をされたが、違うのは山側の状況説明をされたことだ。
説明しているのはこの女学院の除霊担当の教師だが、
「祠(ほこら)が、産廃業者によるゴミの不法投棄でその中にうもれているとのことをきいています。こういう場合は、その祠の石神さまがお怒りになっている場合が多く、現在、山側は霊的に不安定になっています。ゴミの掃除はどうしようもありませんが、山側からの方にも結界をはりますので、安心して海側の除霊にはげんでください」
石神でもどの程度の霊格をもっているんだろうか。
ゴミにうもれて自分で排除できないんなら、霊力は低いんだろうな。
まあそっちはそれほど心配する必要はないのか。
山側に結界を張るということは、最悪でも山側と海側の結界の間におちてくる妖怪たちをどうにかすればいいだけだな。
楽観してたところで、俺はどのクラスの担当かなと思ったら爆弾がおちてきた。
GS組で、冥子ちゃんと組まされることになった。
「おい、まてや!!」
そうつっこみたかったが、さすがにこの場ではやめておく。
「それでは各自夕食の間までに睡眠をとっておいてください。徹夜になると思いますから寝ておかないときついですよ」
そうして解散になったところで、六道夫人へ苦情を言いに行く。
「六道夫人。俺はまだGS見習いですよ。正規のGS組に入るだなんて、まだまだですよ」
「あら。私の知っているところによると、GS試験に合格してから参加している除霊件数は16件で、いずれも霊力レベルBからCのものね~。単体の悪霊は霊力レベルBを12体、霊力レベルCを1体、霊力レベルDを33体、参考として霊力レベルEは83体の悪霊を退治したそうね~」
六道夫人はストーカーか。
霊力レベルEなんて、まともに数えていなかったから、俺よりくわしいぞ。
GS協会への最新の除霊報告書に記載されている数なんだろうな。
「正確な除霊数はおぼえていませんが、たしかにそれくらいだと思うっす。ただし所属している院雅除霊事務所って、基本的に低レベルの悪霊が多数いるようなところをひきうけているから、なんとなくそれくらいの数字になっただけっすよ」
「けどね、単独で霊力レベルBの悪霊を相手にできるGSって、普通の新人GSはもちろん中堅以上のGSでもほとんどいないのよ~」
たしかに美神除霊事務所でGS見習いをしていたころの、一般GSのレベルって知らなかったが、霊力レベルB以上の除霊だと複数のGSが協力することが多いからな。
「冥子~、横島君と一緒に組めるってうれしがってたわよね~」
こらこら、そこで自分の娘を武器に使ってくるか。
これで断ったら、冥子ちゃんのぷっつん対象になるじゃないか。
いや、まてよ、逃げ道はもうひとつある。
「冥子ちゃんと一緒というのは非常にうれしいですが、今回は授業ですし、GSとして活動するならば、院雅除霊事務所を通してもらわないと、俺の一存ではお受けできかねるっす」
うん。我ながら完璧だ。
そう思っている横島だが、六道夫人はそんなにあまくないわけで
「それなら、院雅除霊事務所は受諾して前金も入金してあるわよ~」
「聞いていないっす――っ!!」
「確認してみたら良いわよ~」
って、さっそく携帯電話だしているし。
その携帯電話を受け取ると、
「横島君、ごめんなさいね。けれど、どうせ授業として参加するのだから、これくらい問題ないでしょう。情報収集のたしになるからがんばってね」
こう一方的に言われて切れてしまった。
『例年通りの除霊実習でありますように!』
こう祈る横島であった。
少し時間がたったところで気がついた。俺ってやっぱりアホだ。痛恨のミスをしている。
単純にGSの話だけすればよかったのによりによって、
「冥子ちゃんと一緒というのは非常にうれしいです」
なんて言ってしまった。
こっちはタイムリミットまであと2年あるから、それはそっちでなんとかしよう。
タイムリミットって?
俺はこの前16歳になったばかりだから結婚できる18歳まで、あと2年ある。
六道夫人なら俺が式神と仲が良ければ、まずは冥子ちゃんとこのまま組ませたがるだろうな。
そういうことは令子のところから一時独立していた時期にあった。
うやむやになってしまったが、婚約を匂わせる発言が当時はあった気もするしな……
アシュタロスの事件までは、そういう面ではフリーでいたい。
ルシオラを助けられるなら助けてやりたいしな。
自分のエゴだともわかっているし、俺の知っていたルシオラとも違うだろう。
それでもなぜか、この時代にもどってきたんだから俺の人生で一番後悔していたことだけは解決したい。
とりあえず、話すことは話せたとばかりに、六道夫人も冥子ちゃんもいなくなった。
まずは部屋にもどるかと思ったら結界がとぎれたのか、海上も遠くの方から膨大な霊力を感じる。
全体での総合霊力は大きくても、はっきりとはわからないが、霊力が大きく分散している感じだな。
しかし、せっかくだし念のために、処置をしておくか。
ピートには散策と言ってでかけるが、リュックを背負っていくところにつっこんでくれ。
それともピートにこういうのを期待する、俺がいけないんだろうか。
今日聞いた話と、過去の記憶を頼りに院雅さんお手製の結界札を砂浜にうめていくという地味な作業をしていく。
院雅さんって、平日は固定客の結界視察とともに、その固定客との噂話で仕事をひろってきてるからな。
令子も金成木財閥とか、地獄組みとかの固定客もいたが少数だったから、院雅さんのは、令子とは違うスタイルだけども、将来みならうべき点はこういうところにあるのかもしれないな。
その頃、海底では
「海上の霊から報告です。結界がきえました!」
その報告をきいた妖怪の海坊主は
「うむ!……GSどもは油断しているはずだ! 去年までは霊たちの動きはゆっくりだったからな……! だが、今年はちがう!! 私という指揮官がいるし、とっておきの作戦もあるからな!! 今夜は、GSにとっては長い夜になるだろう……!!」
そして、結界が切れたところで一斉に襲えるよう陣形をととのえつつある。
一方現在の横島の能力では、霊力が存在しているのはわかるが、隊列まで整えているなんていうのはわからず、せっせと結界札を海岸砂地にうめていた。
しかし、遠隔の海上の状況変化に気づき、海のかなたから霊が一斉にくることは確実だということが判明する。
まだ生徒たちは寝入ったばかりか、まだおきているだろうから一部の者は気づいているかもしれないと思いつつも、ホテルの令子たちの部屋へ向かう。
ホテルのGSチームが仮眠しているドアを、思いっきりノックというか、たたきまくりながら、
「大変です。おきてください。冥子ちゃん」
だがおきてきたのは令子で、寝起きのために目覚めが悪く、不機嫌だったが横島は自分の弟子でも、従業員でも丁稚でもなく冥子を呼んでいる。
これがひとつでも条件から外れていたら、けり倒して部屋にもどって眠りについていたであろう。
「うるさいわよ! 何なのよ!!」
「令子か。霊の一斉攻撃がむかってきている。すぐに対応を」
令子って言われると「令子様と呼べ」と普段はいうのだが、この寝巻き姿の自分に飛びついてこない横島は物理的にありえないと、寝ぼけていた頭がはたらきだした。
「それ、本当?」
「こんな緊急時に、そんな冗談とかいいませんよ」
霊力源の距離を感知すると、
「わかった。あとは、私とエミでなんとかするから冥子をよろしく」
自分の身の可愛さで万が一のぷっつんへ巻き込まれないように、横島に冥子ちゃんをおこさせ、令子はエミさんと二人で、六道女学院の体制を整えるべきうごきだした。
横島を冥子ちゃんと二人にさせるというのか。
女性が寝ているというところに、高校1年生の横島を入れるというところに、令子の男女間に対しての未熟さはあるのだが、そんなことは気にはしていられない。
俺は眠っている冥子ちゃんと二人きりにされてしまった。
今はそんな時ではないのにと思いつつも身体がつい反応して、顔と顔がちかづきそうになっていく。
そんなとき、
「んー、むにゃむにゃむ。令子ちゃん~~」
思わずにびゅううんっと少し離れたところで正座する。
『さっきフリーでいたいと誓ったばかりなのに、俺って奴は、俺って奴は――っ!!』
「あれ~? 横島クン~? 令子ちゃんとエミちゃんは~~?」
眠たげにぼんやりと寝巻きすがたで起き上がるが、着崩れがほとんどない。
それはおいといて、
「霊が一斉にむかってきているので、令子さんとエミさんは先に動きだしました。多分、六道夫人とか生徒とかをおこして、緊急で除霊の準備や作業をしているじゃないかなと」
「そ~、それじゃあ~、私も急がないといけないわね~」
緊張感もなく、寝巻きを脱ぎ始めようとする。
「ちょっと、まって――っ」
俺はくるりと反対方向を向くが、身体は部屋からでようとするのをこばんでいる。
『俺の煩悩ってやつあ……」
「横島クン~、何をしているの~」
「いえ、着替えなので、そっちを向いたら駄目かなと思って」
「う~ん、だって、今は水着よ~」
せっぱつまっていた俺はすっかりわすれていた。
そういえば、先ほどの令子もエミさんもすぐに水着姿ででてきたことを。
「そうでしたね。はっはっは」
ちょっと笑い声がかわいている。
「じゃあ~、私たちは海岸に向かいましょう~」
「へーい」
俺の精神的危機はさったが、なんかどっと疲れた。
霊の団体様ご一行がくるのに、こんなんじゃあいけない。
自業自得なんだけど。
ホテルの出口で冥子ちゃんはウマの式神であるインダラをだして横のりしているのはいいが、
「横島クン~、一緒にのらないの~。普通に走っていたら~、遅くなるわよ~」
間延びした口調ではあるが、それは正しい。
しかし、ウマタイプのインダラへ一緒に乗るということは、肌が密着しているわけで、俺の煩悩がもつだろうか。
「横島クン~、はやくしないと~、大変なことになるんでしょう~」
俺はなるべく冥子ちゃんに触れないようにインダラに乗ると、
「腰に手をまわさないと~、途中で落ちちゃうわよ~」
冥子ちゃんは俺に対しての危機感が無いんだろうな。
俺がそういうそぶりをみせていないからな。
しぶしぶだが、ちょっとばかり水着越しに冥子ちゃんの身体を堪能していたら、
「いくわよ~」
そう間延びした声とともに、インダラが走り出すと、その加速感のすごいこと。
思わず振り落とされないように、冥子ちゃんへつかまっていると、冥子ちゃんを堪能するほどの時間もかからないで砂浜についた。
さすが時速300Kmをだすインダラだ。
初めてのってみたけれどインダラの速さをなめていたみたいだな。
俺が砂浜についた時にはすでに令子とエミさんはきていて、令子は防御結界を展開している。
それとエミさんは霊体ボウガン班へ指示をして、幽霊達の上陸阻止を開始しだしている。
六道女学院の女生徒たち全員というわけではないが、俺が設置しておいた結界札も発動していて本格的な上陸を阻止している。
クラスの子達はまだきていない娘たちもいるようだが、霊能科教師、GS見習いの全員がいた。
ひとまず第一波は安心だろうが、第一波が舟幽霊?
はて? 記憶では悪霊が第一波だと思っていたのだが。
「冥子ちゃん。これなら、まずは安心かな?」
「そうね~~、私もそう思うわ~」
第一波がひいたころには六道女学院の女生徒たち全員と、六道夫人も最後の生徒をつれて到着していた。
普通科の先生は、ホテルで待機してもらっている。
いてもできることってあまりないどころか、邪魔だからな。
各クラス単位で、霊能科教師が前衛と後衛に、班のわけなおしを指示していた。
そのどちらへも動けるようにと、2クラスの間の後衛の前の方にGS見習いメンバーが配置されている。
本来のチーム編成になるところで、俺たちGSチームは六道夫人と一緒に作戦会議を開いている。
「舟幽霊が大量にきたのにあっさりひっこむのは、げせないワケ」
「私がここの生徒だったときは散発的だったし、種類もばらばらできていたわ。例年、そうですよね? 六道のおばさま」
「そうね~。今年は普段と違うわね~」
「また、霊気、いや妖気も近づいてきていますよ」
「まずは例年通りにおこなって様子をみましょう。防御側というのは、そんなに手段も多くないのだから」
思ったより現時点での令子って、集団戦も理解しているんだな。
この臨海学校での実習を経験しているからか?
それで、様子をみているとおかしい。
海上を移動してきているのではなく、海中をすすんでいるようだ。
しかも線とか面とか立体ではなく2つの点として霊力を感じる。
これはなんかまずい予感がする。
*****
六道夫人に悪意はないのですが、横島君逃げられませんね。
美神令子は六道女学院卒業生で、臨海学校の除霊にも参加したことがあるということにしています。
2011.03.31:初出