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No.26613の一覧
[0] 【ネタ】銀の戦姫(IS×おとボク2+AC、ガンダム他)[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2013/01/21 11:41)
[1] IS世界の女尊男卑って、こーゆーとこからも来てると思うんだ(短いです)[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/03/21 23:20)
[2] この人は男嫌い設定持ちです[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/03/28 18:12)
[3] こーゆー設定資料的なことはやんないほうが良いと分かっているんだが……[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/03/21 17:44)
[4] ちーちゃんって、理想的なツンデレヒロインだと思うんだ(短いです)[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/03/21 20:38)
[5] ハードモード入りました(短いです)[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/03/22 22:07)
[6] ハードモード挑戦者1号[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/04/29 22:59)
[7] 世の中の不条理を噛み締める[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/03/25 20:54)
[8] ハードモードには情けも容赦もありません[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/04/29 23:00)
[9] ちーちゃんは代表候補生を強く想定しすぎたみたいです。(設定変更)[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/03/28 18:18)
[10] お忘れですか? 一夏のフラグ体質[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/03/26 09:42)
[11] ハードモード挑戦者3人目入りました……あれ?[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/03/27 13:49)
[12] 織斑先生の激辛授業と御門先生の蜂蜜課外授業[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/03/28 18:40)
[13] 自重? 奴の前ではそれほど虚しい言葉もないぞ。(クロス先増大)流石に自重しなさ過ぎました。[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/03/31 06:27)
[14] とりあえずここの束はこういう人です。[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/04/03 17:10)
[15] 銀の戦姫[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/04/03 00:40)
[16] (短い番外編)本当に瞬時加速より速かったら、こうなるのは当然の帰結な訳で……[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/04/03 07:50)
[17] まあこの位は当然の備えな訳で[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/04/03 12:26)
[18] 対ラウラ戦(クラス代表選考戦最終戦)下準備回[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/04/10 00:25)
[19] 束さんはちーちゃんの事をちはちゃんと呼ぶ事にしたようです[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/04/17 08:16)
[20] 女尊男卑の仕掛け人!?(劇場版ガンダム00のネタバレあり)[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/04/24 16:41)
[21] 無理ゲー攻略作戦[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/04/29 22:56)
[22] 女心の分からない奴[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/04/30 12:27)
[23] 兵器少女ラウラ=ボーデヴィッヒ(短いです)[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/05/01 23:01)
[24] 2巻終了後に1巻ラストって[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/05/01 22:23)
[25] ちょっくらハードル上げてみよっか[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/05/05 19:40)
[26] 比べてみよう! ノーマルモードとハードモード[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/05/10 23:05)
[27] ちょっとまってよ銀華さん 副題:ちーちゃん無残 あるいは祝・心因性健忘症快癒[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/05/15 17:15)
[28] マリア様……これは褒め言葉? それとも失礼な事なのですか? ←失礼に決まってます[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/06/11 11:56)
[29] おとボク2の人達、すんなりちーちゃんの性別受け入れすぎ[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/07/12 00:18)
[30] 目まぐるしく駆け足な一日[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/07/30 21:44)
[31] 専用機同士のタッグって、運営側からすりゃ大迷惑だろうな(短いです)[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/08/27 09:52)
[32] きゃー千早お姉さまー(短いです)[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/09/20 20:26)
[33] 悪夢再び(ただしちーちゃん限定)[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/09/29 22:28)
[34] 千歳の憂鬱[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/11/28 20:49)
[35] 銀華誕生秘話……まあ銀華の話はチョイ役ですが。[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/12/03 20:54)
[36] 10年ひと昔と人は言う 前書いた話と設定が矛盾したんで削除します[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/12/17 22:58)
[37] 劇物につき取り扱い注意[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2012/01/05 00:12)
[38] マトモな出番は久しぶりかも[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2011/12/31 21:48)
[39] 異界の書物を読んでSAN値チェック→SAN値直葬[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2012/01/04 22:56)
[40] タッグマッチトーナメント1回戦[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2012/04/04 23:46)
[41] ルート確定 ヒロインの皆様、再チャレンジをお待ちしております(前)[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2012/06/02 22:29)
[42] ルート確定 ヒロインの皆様、再チャレンジをお待ちしております(後)[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2012/06/23 08:42)
[43] ちーちゃんルートじゃないよ! ホントウダヨ!![平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2012/07/14 16:41)
[44] はい、みなさんご一緒に「恋楯でやれ」[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2012/08/30 14:55)
[45] さあ、もっと取り返しがつかなくなってまいりました[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2013/01/21 09:45)
[46] 夏だ! 海だ! 臨海学校だ!! ……のB面[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2013/05/08 22:29)
[47] いや実際、一夏じゃ生きてけないでしょIS世界って[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2013/10/04 21:06)
[48] 長らくお待たせしました。コレにて終了です。[平成ウルトラマン隊員軍団(仮)](2015/05/05 00:16)
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[26613] いや実際、一夏じゃ生きてけないでしょIS世界って
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:ff05419c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/10/04 21:06
 さて、一夏をIS学園に残して出発したバスは、無事に海へとたどり着いた。
 今日は宿へと手持ちの荷物を運びこんだ後、夕食の時間まで自由時間となる。
 丁度海へとやって来ているのだから、少女達が水着に着替えて海岸に繰り出すのはごく当然の流れであった。
 ……が。










 抜けるような青空。
 白い砂浜。
 寄せては返す波音を背景に、少女達の楽しそうな声が飛び交う。

 そんな周囲の光景に似つかわしくない、暗くよどんだ空気が流れる海岸の一角で。

「おい、お前達。
 何を荒んだ表情で膝を抱えて座っているんだ」

 千冬は、体育座りで影を背負っている箒と鈴音に対して声をかけた。

「いや、だって、だって……水着を着ても、見せる一夏がいないし……」
「それなら、一夏を恨むんだな」
「それに、それに……千早さんが、千早さんが……」
「ち、千早さんの……千早さんのあのプロポーション、あの肌……
 本当にあの人は本来なら男なんですか……」

 涙をためて二人が視線を送るその先には、千早……否、千早に憑依した千歳の姿がある。
 当然、女性物の水着に身を包み、美しく整った巨乳以外は男性時とまったく変わらないにもかかわらず、女性の理想といって良いプロポーションとガラスのような素肌をさらしている状態である。
 そう、銀糸の髪と菫色の瞳に彩られた神秘的な美貌も、魅惑的な脚線美も、そこからのマーメイドラインも、色気のあるうなじから背中にかけてのラインも、まろみのある体つきも、男性時と変わらないのだ。

 中身は千早ではなく千歳である為、女性物の水着を恥ずかしがる様子はなく、眩しいくらいの笑顔で水遊びを楽しんでいた。

「……二人とも、アイツについてはあまり深く考えるな。
 頭の出来で、あそこにいる阿呆と張り合うようなものだぞ」
「「ふぇ?」」

 千冬が指さした方向に2人が視線を向けると、その先には束に手を噛まれようとしているセシリアの姿があった。
 当然だが、噛みつかれたセシリアは悲鳴を上げる。

「……は? 姉さん?」
「……なんでセシリアに噛みついてんのよ、あの人?」
「偽物ほど真人間じゃないからな、アイツは」
「へ?」

 千冬はそういうと、束に噛みつきを止めさせるべく束とセシリアの方に走って行った。

「いた、痛い、痛いですわっ!!
 ちょ、私が一体何をしたって言うんですか!?」
「馴れ馴れしく私に話しかけるんじゃないよ。
 束さんには毛唐の知り合いなんかいないんだから」
「オルコット、また噛まれたくないなら距離をとっておけ」

 千冬はそう言いながら、手を押さえているセシリアを背中に庇うようにして、束とセシリアの間に割って入る。

「まったくお前は、久しぶりに顔を見せたと思ったら、私の生徒に危害を加えおって」
「いやあ、だって馴れ馴れしかったんだもん」
「は?」
「ええと、久しぶりって程じゃないはずよね?
 だってこの間、IS学園に来ていたし」

 千冬と束のやり取りに困惑する周囲の女生徒達。
 束が度々IS学園に来ている所を見た事があるので、千冬の「久しぶり」という言葉に戸惑ったのだ。

「……最近IS学園に出入りしているのは、コイツが製造したアンドロイド、偽物だ。
 この間、自分が偽物だという事を知ってしまったショックで寝込んでいたぞ」

 思いもよらない千冬の言葉に、しばし唖然としてしまう一同。
 ややあってから、鈴音が絞り出すような声でツッコミを入れた。

「……アンドロイドって、ショックで寝込むんですか……」
「って、偽物って……確かあの姉さん、ISコアを作ってませんでしたか?」
「ええ~~~? 箒ちゃん、ISコアを作れなかったらこの天才科学者、束さんじゃないよ?
 偽物でもISコアが作れなかったら、すぐに偽物だってバレちゃうじゃない」
「い、いや、確かにそうかも知れませんけど……」

 箒は若干引き気味な様子で束に受け答えをする。
 言われてみれば、目の前にいる束はここ最近の彼女に比べて、刺々しい以前の彼女に近い。
 彼女が認識できる相手は、織斑姉弟と自分のみ、両親すら認識できているのか怪しいとまで言われているのが以前の束なのだ。
 それを思えば、千早の家に居候し、史との仲も悪くないここ最近の束の方がおかしかったのかもしれない。
 ……とはいえ、流石に偽物だとは思わなかったが。

「いやあ、でもねえ。
 正直言って失敗作なんだよね、アレ。
 デコイの癖に異世界に逃亡とか、一体何考えてるのやら。
 束さんが作る物は全て完璧っ、ぱーふぇくとだったのに、あんなのがあったんじゃ汚点なんだよねえ」
「その偽物なんだがな、お前が怖くてこちらの世界に帰れないそうだぞ。
 もう二度とこちらの世界の土を踏む気になれんそうだ」
「ええ~~、ノコノコ戻って来た所を廃棄処分にしようと思ってたのに」
「……だから怖がられるんだろうが」

 そんな千冬と束のやり取りの横では。

「セシリアさん大丈夫?
 私がね、いたいのいたいのとんでけーしてあげるね!
 いたいのいたいのー……とんでけーっ!!」

 とセシリアの手についた束の歯型にいたいのいたいのとんでけをする千歳と、そんな彼女の姿に萌えるセシリア他女生徒たちの姿があったのだった。










 その後、しばらく千冬と不毛なやり取りをしていた束は、話が一段落した所で箒の手を引っ張って海へと駈け出して行った。

「へ? ちょ、ちょっと姉さん!?」
「ちーちゃんとの積もる話もいいけど、せっかく海に来てるんだから、一緒に遊ぼうよ。
 ほーら、ちーちゃんも一緒にーーーっ!!」

 束はそう言いながら、千冬に向かって大きく手を振る。

「……どうするんですか、織斑先生?」
「篠ノ之もついているとはいえ、またオルコットのような被害者を出すわけにもいかないでしょう。
 私は向こうで束を見張っていますから、山田先生には他の生徒達の事をお願いします」

 千冬はそう言って、山田先生など他の教員に後の事を任せて束と共に過ごす事にした。

 箒は「束が最近真人間になってきたと思ったら、それが偽物で本物は相変わらずだった」という現実に直面した直後という事もあり、束を災厄の源のように感じていた。
 ……なのだが、強引な形にせよ束とごく普通の姉妹としての水遊びをする事になり、やはり彼女もまた家族を必要とする一人の人間なのだと再認識する事となった。
 これについては、千冬も似たようなものである。

 そして自由時間終了後、束はしれっと宿にもついてきた。
 どうも一緒に宿泊するつもりらしい。
 本来なら部外者としてつまみ出すのが筋なのだが、「束の所在は分かっていた方が安全だ」という判断から、本来なら一夏に割り振られるはずだった部屋を束の部屋にする事になった。











=======================================










 夜。
 夕食も入浴も済んでしまい、消灯時間も少し先というフリーの時間。
 千冬は宿の廊下を歩いていた千早に声をかけた。

「御門」
「? なんですか、千冬さん?」
「……少し話がある」
「話、ですか?」
「ああ……お前と、束にな」
「……え?」

 千早にとっては意外な組み合わせである。
 そもそも千早は本物の束とは今日が初対面で、碌に話もしていないのだ。

 それを知ってか知らずか、千冬は千早を連れて束の部屋を訪ねる。

「邪魔するぞ、束」
「ん~~? ちーちゃん?」

 束は千冬を歓迎しようとするが、千早を見て露骨に顔をしかめる。
 千早が彼女の認識対象ではないからだ。

「……相変わらずだな。
 だが御門には同席してもらう……私はお前達二人に話があるからな」
「……私と、このオカマに話?」
「……オカマって……」

 千早は男性扱いされてうれしいやら、変態呼ばわりされて悲しいやらと微妙な心境になってしまう。

「それで、話ってなあに?」
「……束、お前は何を考えて本物の一夏に偽の一夏を襲わせたんだ?」
「っ!!」「え? 何の事?」
「ふん、お前がとぼけて見せても、御門の方は図星を衝かれて反応していたぞ」

 千冬がそういうと、束は恨みがましいジト目で千早を睨みつける。
 千冬はその視線を無視して、千早に話の続きをした。

「……御門、お前も知っていたな?」
「千冬さん、なんで……」

 千冬は千早の呻きに応える。

「一番最初のきっかけは『インフィニットストラトス』だ。
 アレを読んで、自分の滑稽さに気付かされたんだ」

 千冬は自嘲気味にそう吐き捨てる。

「ちーちゃんが……滑稽?」
「ああ滑稽だ。
 『インフィニットストラトス』の『織斑 千冬』は、箸にも棒にもかからない単なる雑魚の『織斑 一夏』が決して勝てるはずのない絶対的な格上の『セシリア=オルコット』相手に不自然なほど善戦している場面で、「流石私の弟だ」などという過大評価をしていた。
 正直はじめは目が点になったよ。
 この私と同じ名前の女は、一体何を言っているんだ、とな」
「「……」」
「だが、一夏が雑魚ではなく、あんなにも強かった小学生の頃の一夏の延長と考えれば、確かに過大評価でもないな……そう思った瞬間に、私も同じくらい滑稽な真似をしている事に気付いたんだ。
 自分は今の弱い一夏と昔の強かった一夏を分けて考えていた。
それなのに、その二人の一夏を混同していたんだ……その二人が同一人物ではない、という現実を直視したくないばっかりにな」
「……千冬さん……」
「私は、本当はずっと前から気付いていたんだろうな……だが怖くて気付いていない振りをしていたんだ……
 だから、白式雪羅と、本物の一夏と戦うまでは気のせいだと思い込もうとしていた。
 だが、小学生の頃に比べて上達こそすれ癖がほとんど変わってないアイツと剣を交えては、もう誤魔化しがきかん……」
「そっか……ちーちゃんだもんね、そこで分かっちゃうよね」

 束は感慨深げにそう言う。
 千冬も本物の一夏には及ばないにしろ、それでも剣聖と言って差支えない次元違いの達人なのだ。
 指紋で個人判別をするように、太刀筋で個人判別する事も彼女のレベルならば造作もない。

「でも、それじゃあ話は簡単だよねっ。
 安心してちーちゃん。
 あーーんなできそこないの偽物、ちょちょいのちょいでぶっ殺して、本物のいっくんをちーちゃんに返してあげるよ」
「……それで私には、本物の一夏に続いて、偽物の一夏まで守れなかったふがいない姉になれ、とでも言うつもりか?」
「……え?」

 千冬から感謝の言葉が来るとばかり思っていた束は、思いもよらぬ返答に呆けてしまう。

「お前に言っても無駄かも知れんがな、世の中には『情が移る』という言葉があるんだ。
 ……あいつは、何年も私の弟だったんだぞ。
 しかもあの悲惨な弱さからして、工作員としてマトモに教育されている様子もない。
 本当に、自分の事を私の弟だと思い込んでいたんだ……
 それなのに、偽物だからと叩き殺すつもりになど到底なれんわ……」
「でも、でもずっとちーちゃんの事を騙してたんだよ?
 許せないし許しちゃいけないよ!!
 それにあんな偽物がいたら、本当のいっくんが帰って来れないんだよ!?」
「…………」

 本当の一夏が帰って来れない。
 その言葉に、千冬は辛そうに押し黙った。
 そこに千早が追い打ちをかける。

「それに、そもそも偽物の一夏では、この世界で生きていく事は不可能です。
 ド素人の僕や頭脳労働が専門の束さんよりも、貴女が一番良く分かっているんじゃないんですか?
 偽物の一夏は、そもそも鍛え始めたスタートラインが致命的なほど遅すぎて、もう『こちらの世界で織斑一夏として暮らしていくために最低限必要な自衛能力』を手にする事が出来なくなっているっていう事は」

 英才教育、幼少の頃からのたゆまぬ鍛錬は、実力以上に伸びシロ、あるいは才能を伸ばす。
 英才教育の効果は分野によって程度に差があるのだが、フィギアスケートなどの顕著な例の場合だと、幼少時から努力していた者はある程度以上の年齢になってから始めた者では到底到達できない高みに至る。
 そしてISの操縦については、英才教育を受けていない男性諸氏から見ると狂気じみた計算能力が要求される。
そのため、根本的な数学能力の土台自体を学習能力の高い幼少時を利用して高めておかねば、IS操縦技術の習得は困難を極める。
15歳で初めてIS及びISにまつわる専門知識に触れたにも拘らず、他の登場人物達とは比較にならないほど弱いとはいえ一応ISを不自由なく動かす事ができる『インフィニットストラトス』の『織斑一夏』は、紛う事なき天才なのだ。
 その割に千早や偽の一夏が自在に飛び回れているのは、銀華と白式のマンマシンインターフェースが極めて素直な特殊仕様だからに過ぎず、それでも自分の運動エネルギーを加味しての弾道計算をはじめとした複数の高度な計算を一瞬で処理する事を一射ごとに要求される射撃戦闘などとても出来たものではない。
 またIS戦闘では計算能力のみならず戦闘技術なども要求され、戦闘技術の熟成にかける時間は長ければ長いほど良いのだ。
 その為、IS戦闘はフィギアスケートなどと同様、英才教育の効果が非常に顕著な例だと考えて良い。

 それを思えば、幼少時からIS装着者になるべく血のにじむような努力を重ね、1万倍もの倍率を乗り越えてIS学園に入学してきた少女達や、その彼女達を実力のみならず才能の面でも圧倒する千冬をはじめとする各国代表や元国家代表、軍人IS装着者達や工作員達の領域に、15歳の肉体で初めてISとそれに関連する専門知識や訓練、その他軍事訓練に触れたド素人である偽の一夏や千早が辿り着く事は困難を極めるか、あるいは完全に不可能だと考えられる。

 そんな中で偽の一夏や千早がある程度マトモに戦えているのは、二人のISが他のISでは比較にもならない次元違いの超高性能機だからにすぎず、少女達の腕が上がって性能差による誤魔化しがきかなくなったり、IS同士の性能差が小さくなったりすれば、たちまち二人は一方的に蹂躙されてしまうようになり、二度とマトモに戦う事は出来なくなる。
この事は、他の誰より当人達が一番良く理解していた。
模擬戦などを通じて肌で実感している事であり、IS同士の性能差が小さい格上との戦闘である対マドカ戦で実際に身をもって体験している事でもある。

一時は努力すればいずれは代表候補生達に追いつけるかもしれない、と思っていた千早と偽の一夏だが、今ではそれが彼女達の積み重ねてきた夥しい量の努力を侮辱した高慢な妄想にすぎない事をよく理解している。
それに、もし仮に、主人公補正の助けによって10年程度の年月をかければ現時点の少女達に追いつける可能性があるとしても、そんなに長い時間をかけてしまえば、それだけ千冬の死亡フラグが回収されてしまう可能性が高まる。
よって、そんな長期間にわたる鍛錬など、既にこの世界から去る事を決めている偽の一夏にとっては無いも同然の選択肢である。

 そして、この世界で工作員の襲撃をものともせずに織斑一夏が生きていくために要求される戦闘力の最低ラインは、偽の一夏が決して到達し得ない高みの更に遥か上に位置する。
 また、戦闘力の他に諜報戦能力についても、束や楯無といった世界最高峰レベルとはいかずとも、それなりの能力を備えている必要がある。

 つまり、非力な偽の一夏にとって、このIS世界とは生存不可能な危険地帯に他ならないのだ。
 にも関わらず今もって彼が生きているのは、ひとえに主人公補正によって厳重に守られているからにすぎない。
 無論、偽の一夏を陰から守っている護衛もいるにはいるのだが、偽の一夏の身柄や遺伝子、命を狙う輩はそれこそ山のように存在するので、彼らが少し刺客の数を増やせばたやすく護衛の対処能力を超えてしまう。
 その為、護衛達が未だに偽の一夏を守り切れている事もまた、主人公補正の恩恵と断言できるのである。

 千早や偽の一夏、楯無に本物と偽物の二人の束はこれらの事をハッキリと理解しているし、千冬も薄々だが感づいている。
 そして、前回のマドカの襲撃によって主人公補正の実在がハッキリと確認されている以上、別の舞台装置、例えば死亡フラグの実在も想定せねばならず、そして死亡フラグは実際に確認されてしまっては手遅れなのだ。
 その死亡フラグをへし折る為にも、偽の一夏はたった一人で本物の一夏という絶望的な相手に立ち向かわなければならない。
 勿論、偽の一夏に勝ち目は皆無に近いのだが、敗北して殺されてしまっても千冬の死亡フラグ破棄という目的自体は達成できるのが、救いと言えば救いである。

「そうはいうが、一般的な兵士は国にもよるが大体15~18辺りで軍学校や兵学校に入学して鍛え始めるんだ。
 アイツはまだ15歳、いやクローンか何かだったらもっと若いかもしれん。
これからだぞ?」
「……織斑一夏という立場は、そんな悠長な事を言っていられる立場ではありませんよ。
 それに今の世の中、軍事英才教育を受けている女性がとても多くて、そんな時期になってから急に鍛え始めた男の軍人では、生身同士でだって同じくらいのキャリアの女性軍人には敵わないんでしょう?」
「……お前、よくそんな裏事情を知っているな。
 ボーデヴィッヒか更識辺りから聞いたのか?」

 千早がこの事を理解しているのは、彼が以前からある事を感じていたからだ。
 千早はそれを千冬に話して聞かせる。

「いえ、いくつかの判断材料からの、簡単な推測ですよ。
 「インフィニットストラトス」のような戦闘要員の大半が女性という物語では、往々にして男性は女性の引き立て役として、戦闘能力をはじめとしてあらゆる面で女性に劣る存在として描かれるケースが多いんですよ。
 なら、その「インフィニットストラトス」の舞台とほとんど同じこの世界でも、事情は似たようなものでしょう。
実際、10代の女性であるにもかかわらず対暗部用暗部更識家の当主となっている更識先輩や、いくら素人相手とはいえショットガンやサブマシンガンで武装した男性を素手で問題なく制圧できてしまう代表候補生の皆さんなんて実例もありますからね。
 ……そして偽の一夏や僕は、そういった女性達より非力な男性です。
本物の一夏のような例外ではないんですよ」
「……ちーちゃん、いつまでそのオカマと話し込んでるの?」

 束は憮然とした表情で千冬に話しかけてきた。

「束……」
「そんな奴に同意するのは正直シャクなんだけど、ちーちゃんの弟でなおかつ世界中でたった一人のISが使える男の子、っていう立場は、それこそちーちゃん並の強さじゃないと務まらないよ?
 あんな虫けらには到底無理だって」
「なら、何故アイツは現時点でまだ生きているんだ?
 お前達の言う通りなら、とっくの昔に死んでしまっているはずだぞ!!」

 千冬は声を荒げる。
 それを、束は冷静に返した。

「そんなの主人公補正に決まってるじゃん。
 なんであんな偽物が本物のいっくんを差し置いて主人公扱いされているのか分からないけど、もし主人公補正がなかったら3日も生きられないよ、あんなの」

 千早はその美貌を曇らせながら、束に同意する。

「……でしょうね。
 それに主人公補正が一生ついて回ってくれるとも限りませんし、やはりこちらの世界は偽の一夏にとっては生存不可能な危険地帯だと思った方がいいですよ」
「主人公補正だと?
 ばかばかしい、そんなものが実際にあってたまるか。
それに偽物の方の一夏があまりに弱すぎるというのなら、誰かがアイツの事を守っていればいいだけの話じゃないか」
「……世界最強の実力者である貴女が、偽物よりも遥かに高い自衛能力を持っていた本物の一夏を守りきれなかったのに、ですか?」
「…………っ!!」

 千早の切り返しに反論できない千冬。

「分かって下さい。
 貴女の弟だっていう時点で、もうそれだけ危険なんです。
正直、偽の一夏では織斑一夏は務まりません」
「…………」
「大体、あの時点で「いっくんもISが使えますよ」って分かってたら、そもそも本物のいっくんが誘拐されるなんて馬鹿な事にはなんなかったと思うよ?
 本物のいっくんって、小学生の時点でもムッチャクチャ強いもん。
 絶対、「襲われたいっくんがISで誘拐犯を返り討ちにして終了っ!!」って、身も蓋もない事になってるって」
「……つまりあれか?
 一夏をIS業界から遠ざける事で奴を守れていたと思っていた私がマヌケで、全ての元凶だったという訳か……?」

 千冬の打ちひしがれた様子に怯む束。
 彼女としては事実を述べたまでだったのだが、それが結果的に千冬を責める内容になってしまっているのに気付けなかったからだ。
 この辺りは、彼女のコミュニケーション障害が祟ったと言える。

「……まあいい。
 そういえば以前、偽物の方のお前にも指摘されたな。
 「私のせいで弱虫になった一夏が自分の弱さに苦労させられる「インフィニットストラトス」を読んでしまった以上、私を責めないわけにはいかない」か……
 確かにな…………気付くのが、年単位で遅かったが…………」
「あのポンコツ、そんな事ちーちゃんに言ってたの?
 やっぱり解体処分……」
「するなするな。
 奴の指摘は、そしてお前の指摘は正しかったんだ。
 一夏に関しては、私が、全ての元凶だった……」

 千冬の脳裏には自虐的な考えがとめどなく浮かび、いやがおうにも彼女を消沈させてしまう。
 千早は、そんな千冬の思考を他に向けさせようと、彼女に話しかける。

「それで千冬さん。
 僕にも話があると言っていましたよね?
 それは、どんな話なんですか」
「ん……ああ。
 お前、いやお前達は、なんのつもりで私と一夏を、偽の一夏を引き離した?
 今回のアイツの赤点がわざとなのは、分かっているんだぞ」

 今回一夏がIS学園に残った理由は、本来なら千冬に隠すはずの情報である。
しかし、ここまで千冬本人に感づかれていては隠しておく意味がない。
 その為、千早は素直に白状した。

「……本物の一夏が、貴女に介入される事なくもう一度襲撃できるようにする為です。
 偽の一夏も、自分が本物と入れ替わる必要があると思っていましたから」
「なんだと?」
「さっきも言った通り、この世界自体、偽の一夏にとっては生存不可能な危険地帯なんですよ。
 だから、これ以上偽の一夏が織斑一夏であり続ける事はできません。
 それに無自覚であったとしても、貴女を騙し続けてきた罪悪感もあります」
「ふざけるな!!
 だからといって、ド素人があれほどの達人の襲撃を敢えて受けるというのか!?
 助けの一つも」
「その助けとして貴女が来る事が一番拙いんですよ。
 先ほども言った通り、一夏は主人公補正で守られています。
 それなら、別の舞台装置……死亡フラグもある筈ですから」

 鎮痛に呟くように言う千早に、千冬は若干興奮気味に応じる。

「主人公補正に死亡フラグだと?
 さっきも言ったが、そんなものが現実にあってたまるか!!」
「では、何故この間の襲撃で、僕と一夏はこの束さんが作った紅椿に勝てたんですか?
 2機同時二次移行やGNドライブの生成、トランザムバーストも含めて、いくらなんでも都合が良すぎて、主人公補正の介入以外の可能性は考えられないんです。
 主人公補正が実在していなければ、あの日あの時、とっくに一夏は殺されてしまって本物と入れ替わっていましたよ」
「そんな事はない。
 この間、偽の束から聞いたぞ。
お前の銀華と偽の一夏の白式の単一仕様機能は、経験値の共有と二重取りだ。
 お前達が同じペースで強くなっていき、どちらか一方がもう一方を引き離す事がなかったのはこの単一仕様機能のおかげだ。
 だから、白式と銀華が2機同時二次移行をしたのは、むしろ当然の結果なんだぞ」
「……あんな、ご都合なタイミングで、ですか?」
「二次移行は強敵に追い詰められたり、敗北を喫したりした時にこそ起こりやすい現象だ。
 あのタイミングの二次移行がご都合主義なものか」

 と、そこで束が千早と千冬の会話に入ってきた。

「ん~~、でもちーちゃん。
 どう考えてもあの時点での二次移行は不自然だよ。
 あの二機のISの蓄積データって二次移行に必要な分揃って無い筈だし、それにあのGNドライブだっけ? あんなのが唐突に出来上がっちゃうのもご都合主義極まりないよ?」
「……それは蓄積データの二重取りで、互いに重力量子エンジンとモノポールエンジンのデータを共有していたから、それらの発展形として出来上がったんじゃないのか?」
「う~~ん、それを加味しても、GNドライブは流石に主人公補正によるご都合主義じゃないと有り得ないよ」
「それらのデータが他に転用されるにしても、融合してGNドライブになるより、重力量子やモノポールを使った追加兵装になる方が自然ですしね」
「…………お前達は主人公補正が実際に存在すると思っているんだな?」

 千冬は、確認するように束と千早に言う。
 すると、問いかけられた二人は同時に頷いた。

「はい。そう考えないと不自然な事が多すぎます。
 その中でも一番不自然なのは、ああも弱い偽の一夏が『織斑一夏』と名乗って通用してしまっている事です。
 織斑一夏という立場に対して、偽の一夏はあまりに弱すぎるんですよ」
「ふん、私の弟だというだけで強くなれれば苦労はないわ」
「そうは言いますけれど、例えば更識先輩のあの立場で、戦闘力や諜報戦能力が一般人と変わらないとしたら、こんなに不自然な事はありませんよね?
 程度の差はあるかもしれませんが、一夏の方もそれと事情は同じなんですよ。
 小学生の時点で零拍子という奥義を体得している神童の数年後の姿が、箸にも棒にもかからない完全なド素人、というのは、いくら何年間も鍛えていないと言っても有り得なさすぎます」
「そうそう。
 大体、あーんなに弱っちい偽物を、なーんでみんなして小学生の時点で零拍子が使える本物のいっくんと見間違えるんだか。
 正直、束さんには不思議でしょうがないよ。
 多分、それも主人公補正なんだね」
「……」

 千冬は、本物と偽物の二人の一夏を区別するようになってからずっと不思議に思っていた事を千早と束に言われ、言葉を返す事が出来なくなってしまった。

「…………分かった。
 100歩譲って「主人公補正が実在する」という話は受け入れよう。
 だが、主人公補正は確認されていても、死亡フラグは確認されていないのだろう?」
「死亡フラグに関しては、確認されてしまっては手遅れだからですよ。
 死んでしまった人を生き返らせるなんて出来ませんからね。
 ですから、主人公補正が実在しているのが確認されている以上、死亡フラグも実在すると考えて対策を立てなければならないんです」

 千冬はここまでの話で、そういえば、と偽の束が異様なまでに自分と白式雪羅、つまり本物の一夏が戦う事を恐れていた事を思い出す。
 彼女もまた、千冬の死亡フラグ回収を恐れていた、という事なのだろう。

「……それで、偽の一夏には私の身代わりになって死ね、と?」
「……本人の意思ですよ。
とはいえ、確かに貴女の死亡フラグ回収を阻止する為に死地に赴く以上、そういう事になるんでしょうけどね」
「そして私には動くな、と言いたい訳か」
「ええ。
 これは最初で最後の、貴女を守るための一夏の戦いです。
 貴女にだけは邪魔をさせるわけにはいきません。
 それに忘れたんですか?
 この間、偽の束さんと交わした約束とその理由を」
「ぐっ……」

 これを言われると、千冬もぐうの音も出なくなる。
 千冬は死亡フラグの存在自体は信じてはいないものの、本物の一夏が容易ならざる相手である事は十分承知している。
 そして本物の一夏が感情と人格を持たない工作員と化しているのは、前回剣を交えた時に確認してしまった。
 本物の一夏が感情と人格を持たない工作員と化している以上、千冬が本物の一夏に敗れた場合、勢い余って殺されてしまう可能性も皆無ではないのだ。
 そんな事になればどうなるか。
 目の前にいる天災がどう暴走するのかは分からないが、その結果は考えるまでもなく碌でもない代物になる事だけは断言できる。
 こと、ここに至っては、千冬は動く事ができないのだ。

 と、ここで千冬は現在の本物の一夏が人格を失っている事に思い至る。

「おい束。
 この間の本物の一夏の対応、あれを見る限りアイツは……人格を失っているのか?」
「……うん。
 束さんも手を尽くしてみたんだけど、いっくんの人格は根こそぎ破壊され尽くしていて治しようがなかったんだよ」

 そこで千冬と束は一様に辛そうに顔を歪める。
 否、実際に二人は辛い思いをしている。

「人格を失った一夏を、どうやって偽物と入れ替えるつもりなんだ?
 まさか感情と人格を持たない工作員のまま、偽の一夏と入れ替える訳ではないだろうな」
「ん、それは偽物をバックアップに見立てて、偽物の記憶をいっくんに移植してみるつもり。
 平和な世界でマトモに生活していた偽物の記憶があれば、工作員としての『教育』で消滅させられたいっくんの人格もきっと再構築されてくれるよ。
 そしたら、偽物はお役御免で殺処分っと。
 いっくんを差し置いてちーちゃんの弟としてのほほんと暮らしていたんだから、そのくらいの報いは当たり前だよね」
「偽の一夏も、最後に自分が殺されるという点を除いては、大体彼女と同じ方針ですよ。
 トランザムバーストを使って、記憶の移植以外にも手を尽くす予定です……もっとも、本物がトランザムバーストに引っかかってくれるかどうかは、成功率1%どころかその100分の1にも満たない分の悪すぎる賭けなんですけどね。
 ですが、偽の一夏が生き延びる為には、他に手がありません」
「……文字通りの万に一つ、というわけか」
「とはいえ、主人公補正の事を考えれば、そう馬鹿に出来た確率ではありませんよ。
 それでも……たとえ助かったとしても、一夏はもうこの世界にはいられませんけどね。
 貴女の死亡フラグをへし折る為には、主人公である一夏を排除して、この世界で小説の中と同じように物語として進行している「インフィニットストラトス」そのものをぶち壊しにする位しか思いつけませんでしたから」

 その一言に、千冬は目をむく。

「一夏を排除する……だと?」
「ええ。本物と入れ替わった後に僕の世界に移住させ、偽の束さんにどこでもドアを破棄してもらうんです。
 もちろん、僕もどこでもドアを破棄してもらう前には帰りますよ。
 それ以降、偽の一夏や束さんは、もう二度とこちらの世界に戻らないようにします」
「結局……奴が居なくなる事には変わりないのか」

 千冬は消沈した様子でうなだれる。
 そして千冬がふと視線を動かすと、その先には束がいた。

「束……お前の狙いも同じなのか?」
「うん。
 ちーちゃんだって、「インフィニットストラトス」の「織斑千冬」が死亡フラグの塊なのは分かっているでしょ?
 それと同じ死亡フラグが、現実のちーちゃんにもあるかもしれないんだよ?
 だったら頑張って死亡フラグをへし折んなきゃ。
 それで、あそこまでごん太の死亡フラグをへし折るためには、お話自体を打ち切りにする以外にないよ。
 そしてそのお話の主人公は、私にとってはむしろぶっ殺しちゃいたい相手。
 だったらちーちゃんを守るための方法は、主人公排除一択しかないじゃない」

 その返答を受け、千冬は今の状況をまとめた。

「そう、か……
 つまり今、私が一夏、偽の一夏と引き離され、私の手が届かない所で一夏同士が戦うのは、お前達が敵同士でありながら共通の目的のために共謀した結果、というわけか」
「ええ。そうなりますね」
「だって正直、ちーちゃんにはいっくんが偽物から本物に入れ替わった事になんて気付いて欲しくなかったし、ましてやこないだみたいにちーちゃんを巻き込むなんて論外だったんだもの。
 だから誘いだって分かっていても、こんなチャンス見逃すわけにはいかなかったんだ。
 それで臨海学校から戻ってきたちーちゃんには、いきなりいっくんが強くなってたけど、流石私の弟!! って流して欲しかったんだよねえ」
「……それはお前、いくらなんでも私の事を馬鹿にしすぎだ。
 あんなド素人とあれほどの達人が入れ替わっていたら、流石に気付くわ。
 安堵と直前までの焦りで正常な判断能力を失っていた、誘拐事件の時の私ではないんだぞ」
「「あー……」」
「御門、お前もか……」
「そこはVTシステムの暴走で、VTシステムが起動しっぱなしでOFFにできない、って言って言い訳する予定だったんですよ。
 もっとも、一番ばれてはいけない貴女にここまでばれている以上、半ば以上意味を失った偽装なんですけどね」
「なるほどな……」

 とはいえ、何にしろIS学園に戻った時に千冬達を出迎える一夏は、偽物から本物に入れ替わっている事が既に確定している。
 もう偽の一夏は、この世界の住人である事を辞めてしまっているのだ。

(……結局、私はアイツにとって良い姉だったのか?)

 千冬は自分が生まれ落ちた世界に住む事が出来ず、異世界へと移住しようとしている偽りの弟の事を思い浮かべ、そう自問するのだった。













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「さて、流石に千冬さんにあそこまで把握されてしまっていたとは思わなかったけど」

 おかげで彼女に秘密にしておくはずだった話を、洗いざらい彼女に話してしまった。
 束の部屋を後にした千早は、果たしてそれで良かったのか、秘密に出来る範囲の事は秘密にしておくべきではなかったのか、と思いながら廊下を歩いていた。

 すると、千早の部屋の前でラウラ……否、ラウラに憑依した千歳に出くわす。

「何をしているんですか、千歳さん」
「あれ? 見ただけで分かっちゃうの、ちーちゃん?」
「ええ。いくら見た目がラウラさんのままでも、中身が千歳さんに変わっていては、雰囲気が全然違いますから」
「……そうなんだ」

 と、そこまで言った千歳は、何事かを考え込む。

「? どうしたんですか?」
「ふぇ?
 ええとね、だったら一夏君が本物の一夏君と入れ替わったら、雰囲気でみんな分かっちゃうんじゃないかな、なんてね」
「……そうかも知れませんね」

 それは千早も楯無も、そして一夏当人も懸念していた事だ。
 とはいえ、こればっかりはどうしようもない。
 入れ替わった後の方が本物である以上、この手の話で定番の「本物を出せ」という話にはならないだろう、と強引に楽観視する他なかったのである。

「それでどうしたんですか?」
「ん? ちょっと千冬さんとお姉さん同士のお話ししようかなって、思って」
「?」

 千早は姉の物言いに、小首をかしげる。

「千冬さんってば、私はいいお姉さんだったのかな? なんて悩んでいるようだったから、同じお姉さんの立場で……ね?」
「そうですか……」

 思えば、千歳は千早に取り憑いていると言って良い状態なのだ。
 当然、彼女だって一夏が半ば死ぬつもりで本物の一夏に挑んでいる事も、そこに至るまでの経緯も全て把握している。

 それなのに彼女が今日、千早に乗り移った状態で天真爛漫に振る舞っていたのは、彼女なりに一夏の覚悟を受け入れていたからだ。

「私ね、一夏君からは千冬さんが落ち込まないように、あんまり暗くならないで、むしろ明るく振る舞って、って頼まれていたんだ。
 でも、流石に最初から千冬さんにああいうふうにバレていたら、誤魔化しきれないよ。
 だからそれを千冬さんと話して、ちょっとでも取り戻そうと思うの」
「それで昼間の千歳さんは明るく振る舞っていたんですね……」

 千早は一夏の想いを汲んだ姉の精いっぱいの演技を、人づてに聞いているだけだ。
 何しろ、その演技をしている時、千歳は千早の肉体に憑依しており、千早はその間の事を認識できないのだ。
だが、その演技に彼女が幼いだけではない、人の事を思いやれる少女である事を改めて再認識する千早だった。

(千歳さんの振る舞いが幼かったから僕はすっかり千歳さんの保護者気取りだったけど、よくよく考えれば千歳さんの方が姉で僕が弟なんだよな。
 それに、母さんと向き合えた事で一皮剥けたのかも知れない。
 ……本当なら、ほんの少しだけ僕より大人のはずなんだよな)

 千早は感慨深げに姉の振る舞いを眺める。

「それでちーちゃん、私もちーちゃん達のお話を聞いてたけど、その後ラウラさんに乗り移りに行っちゃったから、千冬さんがどこにいるのか分からないの。
 ちーちゃん知ってる?」
「いえ、正確には。
 でもそれなら、僕と千冬さんが一緒にいる時点で僕に乗り移れば良かったんじゃないんですか?」
「あー、それはちーちゃんともちょっとお話をしたかったから」
「僕にも、ですか?」

 いぶかしげに尋ねる千早に、千歳が答える。

「うん。
 私ね、お母さんも立ち直ってくれたし、生きてた頃からの夢だった外で思いっきり遊ぶ事もできたから、私たちの世界に帰ったら成仏しようと思うんだ」
「……っ!!」

 姉の一言に、絶句し、沈うつな表情になってしまう千早。

「……やっぱり、お別れは辛い?」
「ええ……頭では千歳さんは成仏するべきだと分かってはいるんですけどね……」
「うん、そう言ってくれるのは嬉しいよ?
 でもこれ以上こうしていたら……私、多分幸せすぎて、その幸せを手放したくなくなって成仏できなくなっちゃうから……」
「そう、ですか……」

 千早は千歳に悲しげな視線を送る。
 見れば、千歳の方も千早と似たような表情をしていた。

「ちーちゃん……」
「千歳さん……僕は、『織斑一夏』の同類でした。
 そんな力もないくせに、母さんを、史を、そして千歳さんを守る、守るんだって思って、結局何もできないで……
 一夏に辛く当たった時だって、一夏にはそんな僕や『織斑一夏』と同じになって欲しくなかったから、っていう気持ちもあったんです。
 千歳さん……僕は、千歳さんを守れなかった僕は、千歳さんに何かをする事が出来たんですか?」

 千早とて、千歳の死因が不治の難病であり、当時小学生だった自分にどうにかできるものではない事は十二分に承知している。
 だが、そんな理屈では到底納得できるものではなかった。

 そんな千早に、千歳は微笑みながら応じた。

「そう思ってくれるだけで十分だよ、ちーちゃん。
 だから、自分を許してあげて」
「千歳さん……」

 千歳は小柄なラウラの体で千早を抱きしめ、千早はそれを抱き返した。
 そして千早は、自分と同じ銀の髪に顔をうずめて嗚咽する。

 どのくらいそうしていたのだろうか。
 千早が落ち着くのを見計らって、千歳は千早に千冬の居場所の心当たりを尋ねた。

「それでちーちゃん。
 話は戻るけど、千冬さんって今どこにいるのかな?」
「そうですね……まだ束さんの部屋にいるか、そうでなければ千冬さんに割り当てられた部屋だと思いますよ。
 確かしおりには教員の部屋割も記載されていましたから、それを見れば分かると思います」

 千早はそういうと、自分の荷物からしおりを取り出し、千歳に渡す。
 千歳は千冬の部屋がどこにあるのかを確認すると、千早に一言言い残して去って行った。

「それじゃあ、千冬さんの所に行ってくるよ、ちーちゃん」
「ええ。いってらっしゃい、千歳さん」

 千早は千歳の後姿を見送ると、その視線を窓の外の星空に向けた。

(……僕は、千歳さんにも一夏にも何もできなかった。
 でも……生き延びろよ、一夏…………)

 千早は、一夏の無事を祈るしかない自分の無力さに歯噛みするのだった。

 ……なお、千冬は千歳との話ではなく、千歳が放つ癒しオーラによって落ち着いたことをここに記載しておく。












FIN



 ええと、遅くなりました。前回の話のB面です。
 一夏の安否は引っ張ります。

 本当はこの夜が明けた後、千冬のISの紹介でもやろうかと思ったんですが、そのIS紹介で話が終わりそうで、ちょっとすわりが悪いかな~~とオミットしました。
 結局、彼女がどんなISを持っているかが話に全く関係なくなっちゃいましたんで。

 ちなみに千冬のISはこんなんでした。(ほぼ没ネタですがw)
ISネーム:GPコンプリート
 機動戦士ガンダム0083のGPシリーズをモチーフにした「拡張領域特化型IS」。分類的には第二世代ISとなる。
 ここ最近拡張領域を犠牲にしたISを多く生産していた束(偽)が、ここらで拡張領域に目をむけようと思ったところ、ちょうど彼女がその当時見ていたのが0083だった為に出来上がったISである。
 本来ならパクリを嫌う束(偽)だが、それでもこのようなISを作った理由としては、あまりに女性偏重になっているIS世界に男臭さを持ち込んで欲しかったから、とのこと。(瑞穂ちゃんが使用しているアルトアイゼンも同様の理由で制作)
 建前上は換装によって全領域制覇をして第四世代と同等となる、をコンセプトにしているものの、誰が見てもそんなモノはただの言い訳だと分かるほど偏った換装システムを有する。
 素体となるすっぴん形態「ゼフィランス」に、拡張領域内にしまってある装備パックを装備させる事で鋭角機動が可能な「フルバーニアン」、面制圧能力特化な「MLRSサイサリス」「バズーカサイサリス」、ドでかいブースター兼ウェポンラックで圧倒的突撃力を実現する「デンドロビウム」の4形態を適宜付け替える事が可能。
 ちなみに千冬は他の形態があまりにとんがりすぎている為、フルバーニアン以外の装備は全く使用しない。



 さてこれからの事なんですが、もうIS世界でやるべき事は全部やっちゃったので、次で最終回にしようかと思います。
 正直、ここまで更新ペースを落としている身としては、後4~5話でもかなり読者の皆様を待たせてしまうと思いますので。
 ここから最終回に流せる状態にはなっていると思いますので、以前のように次にやろうと思っていた回の前にもう一つ別の話を入れなければならなくなる、という事はないと思います。

 それでは、まだ読んでくださっている方には感謝を。
 そして、最終話投稿まで今しばらくお待ちください。


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