代表候補生達と箒は、アリーナに集まってシミュレータで一夏と千早のデータと対戦していた。 本人達は、GNドライブの機能確認をするため、アリーナの別の場所で色々と試しているらしい。 少女達は一人脱落で敗北が決まってしまうとはいえ、6対2という数的優位を確保していながら、格下であるはずの一夏と千早のデータを相手に連敗を重ねていた。「つ、強い……」「二次移行した後の白式と銀華の性能は、他のISとはまるで別次元だ。 例えるなら、レシプロ機に対するジェット機といったところか。 お前達のISとの性能差が激しすぎて、今のお前達の実力では正直言ってどうにもならんぞ」 呻く箒に、千冬が答える。 一夏と千早のデータは、二次移行の時についた追加装備を巧みに操り、手数を生かした擬似的なオールレンジ攻撃を引っかかる事すら困難な極めて微かなフェイントや、0.03秒以下の一人時間差などと併用して行ってくる。 おまけに全ての、とはいかずともほとんどの攻撃が、慎重に慎重を重ね、いくつもの布石を打った上で行われているため、例え単純な戦闘能力で少女達の方が圧倒的に格上であるとされていても、一夏達の攻撃を凌ぐ事は不可能に近い。さらに言えば、彼女達が運用している飛び道具の多くよりも白式や銀華の機動の方が速く、また慣性も何もあったものではない異次元機動に磨きがかかっていては、捕捉し続ける事だけでもかなりの労力を要求されてしまう。 しかも普段から二人でシミュレータを使用している事から、二人の息の合い方も尋常ではない。 これでは、数的有利を確保した上で中身の性能差で勝っていても、対抗のしようがなかった。 実のところ、少女達が対戦しているデータは実機よりもスピードが抑えられており、速度はもとより反応速度も落とされ、さらなる異常機動を実現するトランザムも封印されていたのだが、彼女達はそれを知る由もない。 ちなみに千冬はどうかと言えば、シミュレータよりも手強い本人達二人を相手取って、ブレードだけで一方的に蹂躙する事が可能である。 白式雪羅には後れを取ったとはいえ、それでも公的には彼女は世界最強とされているのだ。 ISでの戦闘は、中身の実力の影響が戦闘機での戦闘よりもはるかに大きい為、千冬の実力をもってすればレシプロ機とジェット機程度の性能差を覆すことなど赤子の手を捻るよりも簡単である。「それにしても……織斑先生、本当に白式と銀華には高感度ハイパーセンサーやハイスピードバイザーの類は装備されていないんですか?」「ああ。 私もそう思って何度も確かめたのだがな、確かにあの二機に装備されているのは通常仕様のハイパーセンサーだけだったぞ」「どういう反射神経……」「本人達は、その反射神経でお前達に劣っていると考えているらしいがな」「……怪物呼ばわりされた時も思ったけど、アイツも千早さんも代表候補生の事を買いかぶりすぎだって」「まったくだ。 代表候補生ごときで人間を辞めた強さだなどと、大袈裟も良い所だ。それに、私だって別に人間を辞めたつもりはないんだぞ」 千冬や少女達は知る由もない事なのだが、実際には人間を辞めているのは一夏の方で、一夏はトランザムバーストのやりすぎでGN粒子の影響を大きく受けてしまい、ガンダム00では「イノベイター」と呼ばれていた高い身体能力と反射速度、脳量子波と呼ばれる特殊能力を持った新人類に変貌してしまっている。 とはいえ、それでもなお一夏の戦闘力は、千冬はおろかラウラや簪といった生物兵器として育成されただけの少女達にも劣っているのだが。 ちなみに、千早も女体化している時に限り、イノベイターとなっている。 イノベイターは常人よりも長寿とされる為、妙な軋轢が心配されるが、千早は男性の状態では常人であるし、粗悪品のクローンである一夏は元々の寿命が非常に短いと考えられるため、イノベイター化してようやく人並といった所である。 それはともかく、そんな事を言う千冬に、ラウラを除く代表候補生達と箒の視線が突き刺さる。「ん? どうした、お前ら」「「「「「いえ、別に……」」」」」 公式世界最強。 千冬の圧倒的な戦闘力は、人外の領域に足を踏み入れているように思えてならない少女達だった。======================================== 一方の一夏達はというと、トランザムバーストに関する実験・検証・練習を行っていた。 とはいえ、実際にそれを行っているのは一夏一人で、千早は隅の方で膝を抱えてうずくまっていたのだが。「ど、どうして女性化してないと一夏とトランザムバーストが出来ないんだろう、と思っていたら……2基のGNドライブを同調する対のGNドライブにする為には、ISの中身の性別まで対じゃないといけないとか、なんだそれ………… い、いくらISは機動兵器であるMSよりも中身の占める割合が大きいパワードスーツだって言ったって……あんまりだ……」「……声がかけ辛いわね…………」 一夏と千早の護衛として二人と一緒にいる楯無は、どんよりと影を背負った千早の様子を見守る事しかできないでいた。「ま、まあソイツも一応男ですからね。 流石にその理屈は嫌でしょうよ」「……一応、ってどういう意味だ?」 千早はジト目で一夏を睨む。 どう見ても銀髪碧眼の可憐な美少女が、ほほえましく不機嫌になっているようにしか見えない。 すると、一夏は千早に向かって話し始めた。「へこんでいるお前にゃ悪いとは思うけどよ、それがとっかかりになって俺一人のトランザムバーストが出来るようになったんだから、良しとしてくれないか? おかげで本当なら100%確実に叩き殺される所を、少しは生き延びられる芽が出たんだからさ」 一夏が「叩き殺される」と言った所で、千早と楯無の表情が曇る。 一夏が生き延びる為には、本物の一夏との戦闘中にトランザムバーストを起こして本物の一夏の人格を回復させた上で、見逃してもらう以外に方法はない。 その為、トランザムバーストが使えなければ、一夏の死亡は確定事項と言ってよかった。 とはいえ、トランザムバーストが使えてもなお、千冬をも大きく凌駕する本物の一夏との戦いで助かる見込みは、0.01%以下、文字通り万に一つもないと考えて良い。 一夏の主人公補正が実際に確認され、千冬ですら本物の一夏に及ばず、また千冬には死亡フラグが存在する疑いがあるのを考えれば、それでもなお一夏が自分で戦った方が千冬が戦うよりも勝算と勝率があるのだが。「そんなに心配すんなよ。俺には主人公補正がついているんだ。だから、ほんの少しでも助かる見込みがあれば大丈夫だって」「「始めからそんなモノに頼らないで欲しい(な)(わね)」」「あう」 公式世界最強さえ凌ぐ達人VSド素人という戦力差がある以上、一夏自身の実力など誤差にすらならない。とはいえ、最初から補正頼みというのは問題があると、千早と楯無は同時に釘を刺す。 流石にそう言われてしまうと、一夏も二の句を上げる事が出来ない。 なので、一夏は補正に関する発言をここで打ち切った。「そ、それに千歳ちゃんのおかげで少なくとも死後の世界があるって事は分かっているからさ、死んだらそれまでって思っている奴よりかは気が楽だよ」「……でも、千歳さんは化けて出てきたのであって、生き返ってきたわけじゃない」「それに彼女本人も、いずれ成仏する必要があると感じているみたいよ。 やっぱり、生きている人間と幽霊は違うわ」 一夏が死ぬ事に対してタカをくくっていると思った千早と楯無は、そう言って再び一夏に釘を刺す。 一夏も今の自分の発言には問題があると気付いたのか、恥ずかしそうに後頭部を掻いた。「そりゃそうですけどね」「とはいえ、相手はあのブリュンヒルデ・織斑千冬さえ圧倒する超強敵。 死んだ所で何とかなる、くらいの気持ちじゃないと戦えなくなってしまうのかも知れないわね」 楯無は一夏の立場を省みて、単純に一夏がタカをくくっているわけではない事に理解を示した。 その彼女の反応を見て、ホッと一息つく一夏。「それで話は変わりますけど、臨海学校って今週末からでしたっけ?」「そういう事は、別学年の私に聞かないでもらいたいわね。 まあ、確かにそうだったはずだけど」「じゃあ、どのみち俺がIS学園に……いや、この世界にいられるのもあと少し、っていう事ですね……」 そう呟く一夏の胸には、名残惜しいという思いが去来していたのだった。======================================== 一夏がそんな事を呟いた一方で。 臨海学校を機に一夏との距離を縮めようと考えた箒や鈴音が、千冬に「アイツはこの間の期末試験で赤点を食らったから、IS学園に居残りだぞ」 と言われ、愕然としたのは完全に余談である。======================================== そして、その臨海学校当日。 IS学園の1年生達は、唯一赤点を取って居残る事になった一夏に見送られて、バスで海へと向かって行った。「あ゛、あ゛あ゛ああああ…………」「ほらほら、いつまでそうしているんですか、箒さん。 頭を上げてくださいって」 出発したバスの中では。 箒と近い席になった千早が、一夏との距離を縮められるはずのイベントが流れてしまったというショックを引き摺っている彼女をなだめていた。 何故か千早の体は女性化している。「ええい、鬱陶しい。 御門、そいつはもう放置しておけ。 あの馬鹿者が赤点食らって臨海学校に行けなくなったことは、もう何日も前から分っていた事ではないか」「は、ははは……それは、まあ確かにそうですけど」(もっとも……僕は期末試験よりずっと前から分ってましたけどね) 千早達の席は比較的前にあるせいか、教員である千冬や山田先生との距離も近い。 これは先日襲撃された千早や束の妹である箒が何者かに狙われても、技量の高い教員で対処できるように、と配慮された結果の席順であった。「それで、御門さん海で泳ぐのは大丈夫ですか? 水着を着るのを嫌がる御門さんの話を何度か聞きましたから、その辺りが心配なんですけど」「ああ、それなら大丈夫ですよ。 海水浴の時には、姉に代わってもらいますから」「…………へ?」 山田先生は思いもよらない千早の返答に目を丸くさせた。「ああ、確か死んだ姉の亡霊に取りつかれているのだったな」「へ? ボーデヴィッヒさんまで何を言い始めているんですか?」 近くにいたラウラまでトンデモナイ事を言い始め、山田先生のみならず千冬や周囲の少女達まで吃驚する。 ギョッとしたショックにより、箒も復活する。「いえ、本当にコイツには亡霊が憑いています。 実際に、その亡霊が私に憑依した時の映像も残っていますよ」 ラウラはそういうと、手持ちのハンディビデオカメラで、千歳に憑依されている自分の映像を一同に見せる。 天真爛漫な笑顔を振りまくその姿は、普段の軍人然とした振る舞いよりもはるかにラウラの外見にマッチしていた。しかし、ラウラの性格から言って、それがラウラ本人の振る舞いとしてはあり得ない代物である事は全員が良く分かっている。演技だとしても、ここまでハイクオリティの演技はラウラには不可能。確かにその映像は、ラウラの姿をした別人の映像であった。その映像を見て、箒は思い出したように千早に話しかけた。「……もしや、千早さんに水着を着せようとしたら千早さんの性格がいきなり変わったという話も…………」「ええ、姉に乗り移られてたらしいんですよ。 本人は僕に対する助け舟のつもりのようでしたけど」「「「「「…………」」」」」 一同絶句。「今日、僕が女体化しているのも、僕に憑依する姉の負担を軽くするためなんですよ」「いや、女体化って、御門さんは元々女の子なんじゃ」「……僕の素の性別は男ですよ、山田先生」「そうは言いますけど、胸元以外は普段と全く変わりありませんよ」「…………」 その後、そこから話が発展するようにしてガールズトークが展開される。 本来は男性である千早には彼女達についていく事が出来ず、窓から車外を眺めながら一夏の無事を無言で祈る事にしたのだった。======================================== そんな風に和気あいあいと臨海学校が行われている裏では、一年生の中で唯一IS学園に残った一夏が補講と追試を受けていた。 当然、護衛役の楯無も一緒である。 だが、楯無は一夏との事前の打ち合わせにより、もし襲撃者が来たとして、それが白式雪羅=本物の一夏だった場合、一切手を出さない事にしていた。(……とはいえ、片腕がふさがった状態で織斑先生と互角に打ち合う化け物なんて、私じゃ手を出した所で鎧袖一触にされてしまうんでしょうけれどね) 楯無は内心そう呟いて、己の無力を嘆く。 そんな楯無に、一夏が話しかけてきた。「更識先輩、今日の分の補講と追試が終わりました。 それで、ちょっと勉強を見てもらえませんかね? そっちの方が更識先輩も護衛しやすいでしょうし」「……そうね、そうしましょうか」 そうして、一夏と楯無は二人して普段一夏と千早が生活しているアリーナの一室に向かう。 その途中、二人はプライベートチャンネルで何時白式雪羅の襲撃があるのかを話し合っていた。(それで先輩、臨海学校のうちに襲撃があるっていう俺の目算通りに行ってくれますかね?)(ここにきてそんな事を言い始めないで欲しいわね。 でも、まあ本物の篠ノ之博士にしても、本物の貴方と織斑先生の姉弟対決は避けたいと思っているでしょうし、狙うとしたら織斑先生が不在の今が一番なのは確かね)(じゃあ問題は、「今」の何時なのか、ですね。 今日中なのか、明日以降なのか、昼なのか夜なのか)(セオリーとしては夜ね。 『インフィニットストラトス』での襲撃は昼間に集中していたようだけど、あれらは多分にパフォーマンス的な要素が強いように思うわ。 翻って今回は、なるべく貴方と本物との入れ替わりを隠密裏に進めたいでしょうから、ああ派手には来ないでしょうね。 だとすると、やはり夜かしら。 正確に判断するには、少し判断材料が少ないけどね)(そういや、前回の襲撃も派手なアピール的な要素がありませんでしたね) そしてその夜、楯無が言った通りに白式雪羅が襲撃してきた。 事の発端は、一夏が一通り楯無に勉強を見てもらった後、普段通りに訓練を行おうとISを装着した事に始まる。 一夏がISを装着した途端、護衛をしていた楯無の目の前で一夏の姿が一瞬揺らいだかと思うと、忽然と姿を消してしまったのだ。 ISを装着した途端に通常の空間から消える。 それは前回のマドカの襲撃と全く同じシチュエーションだった。 その事から、今回の襲撃もマドカと同じクチ、すなわち本物の束の差し金であると考えられた為、楯無は一夏との打ち合わせの通りに、祈るような思いで静観をする事になった。(……織斑君、どうか無事で…………)======================================== 一夏は二度目となる湾曲空間の中で周囲を見渡した。 すると、白い全身装甲型のISが悠然と飛んでいる姿が目に入ってきた。 表示されるISネームは「白式雪羅」。 それは、本物の織斑一夏だった。(良かった。姿を確認させてくれたか。 実力差を考えれば、殺された事に気付く事すらできず、いつの間にかあの世にいたって可能性の方が高かったからな。 生き延びる為の第一関門はクリア、って所か) 一夏がそんな事を考えていると、本物の一夏が機械のような無機質な口調で彼に話しかけてきた。「捕獲目標及びデータ収集対象を確認。 データ収集の為、本機との戦闘行為を要請する」「んなっ、実力差考えろ実力差!!」 彼我の戦力差を考えればあまりに無体な事を言われ、一夏は狼狽する。 とはいえ、先方がデータ収集を目的としている以上は、圧倒的な実力差に物を言わされて、一瞬で叩き殺される可能性だけは低いという事。(つまりは……トランザムバーストに巻き込みやすい!!) 一夏はそう判断すると、トランザムシステムを起動させる。 と、唐突に一夏の体に激痛が走ったかと思うと、凄まじい衝撃で吹っ飛ばされてしまった。 一夏が先ほど自分がいた場所を確認すると、そこには本物の一夏がブレードを片手に佇んでいた。(ちょっ、なっ、今、何がっ!!) 戸惑う一夏を尻目に、一夏に認識できない猛攻が襲い掛かる。 避けるも何も、あらゆる攻撃が何の前兆もなしに唐突に一夏に命中し、一夏にクリーンヒットしたという結果だけを残して消えていく。 白式雪羅の速度は銀華とは比較にならないほど遅いにもかかわらず、一夏にはその動きを捕捉し続ける事が全くできない。いつの間にか一夏の傍にいて、一夏に気付かれる事なく斬撃を浴びせてくるのである。 それならば、と動き回ろうとしても、正確無比な偏差射撃による荷電粒子砲は確実に一夏を捉え、プラネイトディフェンサーによるGNフィールドでそれを防げば、何故か全く見当違いの方向から、絶対避けられない斬撃がGNフィールドを切り裂いて襲い掛かってくる。 絶望的な実力差は、あらゆる攻撃、防御、回避を全く無意味化させていた。 トランザムバーストを発動させる余裕など、あろうはずもない、 データ収集を目的としている、という宣言通りなのか、白式雪羅は攻撃力を極端に抑えながら戦っている。 そうでなければ一夏は、この数分間だけで何十回殺されたか知れたものではない。 そして、一夏が何もできないまま時間だけが過ぎていき、トランザムシステムの機動限界は刻一刻と迫ってくる。(やばい、トランザムが終わっちまったら、本物の俺がそれ以上データ収集できないっ!! そしたら、奴に三味線弾いている理由がなくなっちまう!! そうでなくてもトランザムバーストが発動できなくなりゃ、確実にお陀仏だ!!) そこで一夏は、一か八かで本物の一夏の攻撃を敢えて無防備に受けつつトランザムバーストを行う事を試みる。「トランザムっ……バーストぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 一夏は無数の斬撃、砲撃を浴びつつも、全身を襲う激痛に耐えつつなんとかトランザムバーストを敢行する事に成功。 しかし……形成された量子空間の中に、本物の一夏の姿は見られない。 トランザムバーストを攻撃の一種と判断した本物の一夏が、その間合いを見切って回避した、という事らしかった。(じょ、冗談じゃねえぞ。 こんなやってる本人もどこまで届くかわからない、広範囲に影響するトランザムバーストを見切るとか、どんだけなんだよ!? つーか、トランザムバーストを発動させる直前に俺は奴に斬られたはずだぞ? なんでそれで巻き込まれずに済ませられるんだ!!) そして、不発に終わったトランザムバーストの量子空間が消えると同時に、白式朧月のトランザムも終了する。(まいったな……ここで詰みかよ) 一夏は打つ手を無くし、観念して悠然と佇む白式雪羅に目を向ける。 白式雪羅は、本物の織斑一夏は、絶対的強者として一夏を睥睨していた。 と、そこで白式雪羅に変化が見られた。「データ収集終了。 これより……?」「?」「白式雪羅の三次移行を確認。 戦闘行為を一時中断、三次移行終了まで待機」 そう、白式雪羅は三次移行によって新たな姿へと新生しようとしていたのだ。「おいおい……今の時点で無敵じゃねえかよ。 さらに強くなってどうするつもりなんだ」 と、一夏はそこで白式雪羅が見覚えのある粒子を大量に放出している事に気付く。(こいつは……まさかGN粒子か!? なら、今、奴はトランザムバースト状態なのか?) となれば、やるべきことはただ一つ。(トランザムバーストになってない可能性もあるけど、それは今は考えないっ!ここで奴に接近して、奴が形成している量子空間に突っ込む事が出来れば……っ!!) 一夏は白式雪羅めがけて突っ込む事にした。======================================== そこは、一夏にとって見覚えのある、否、ここ最近は毎日のように見ていた光の粒子に満ちた空間だった。「よしっ、やっぱりトランザムバースト中だったか。 後は、奴の意識を見つけて……ん?」 一夏の視線の先には、一人の少女が佇んでいた。 この戦場には二人の一夏しかいなかったはずなのに、である。 と、少女は怪訝そうにしている一夏の姿に気付いて近づいてきた。「……君は?」「……私の声は、本物の貴方には届かなかった。 けれど、貴方には届いているみたい」 少女は一夏の質問に答えず、自分の言いたい事だけを言ってきた。 それどころか、少女の方が一夏に質問を投げかけてくる。「貴方は何をしにここに来たの?」「へ? 俺は……」 こんな質問をされる状況など全く想定していなかった一夏は、少し言いよどむ。 とはいえ、量子空間内では隠し事もできないだろうと、一夏は素直に白状することにした。「本物の俺に、奴が本来満喫するはずだった、俺が奴から取り上げてしまった平凡な日常を、記憶だけでもくれてやるためだよ。 俺の記憶を、本物の俺に移植するんだ。 人間としてマトモな、日常の記憶が手に入れば、今の人格が完全に失われた本物の俺の状態もいくらかはマシになると思ってさ」「……本物の貴方を、貴方のカーボンコピーにしてしまうつもり?」「……確かにそういう事なのかもしれない けど、それでも人格を持たない工作員なんてのよりはマシな状態なはずだ。 それがとっかかりになって、後は『織斑一夏』ってえ立場を取り戻せば、後は千冬姉や箒、弾や鈴音なんかとの生活で、奴自身の人格が再構築されてくれるさ」 一夏の返答を聞いた少女は、さびしげに微笑む。「……貴方は、本物の貴方の事を本気で思いやってあげているのね。 自分自身が犠牲になっても構わないほどに」「いや、そもそも俺が『織斑一夏』をやっている事自体がおかしいのさ。 それを正すだけだよ」「そう……分かったわ」 少女は改めて一夏に向き直ると、こう宣言した。「貴方に協力するわ。この空間も可能な限り維持するし、他にもサポートするから、その間に貴方の記憶で本物の貴方の人格を取り戻して」 少女はそう言い残すと、掻き消えるようにして消えてしまった。「ちょっ…… なんだったんだ、今の子は?」 とはいえ、本当にトランザムバーストの時間を引き延ばしてくれるというのならば、一夏としてはありがたい話である。 一夏は気を取り直して、本物の一夏を探そうとして……光の粒子に満ちたこの空間内で、あからさまに「虚ろ」な場所が存在している事に気付いた。 見れば、そこには一夏と全く同じ容姿の少年がいる。「アイツか」 量子空間内だからこそ分かる。 その少年、本物の一夏にはおよそ人格などの「内面」と呼べる代物が全く存在しない事が。 一体、何をされればそんな状態になり果てるのか。 一夏は、本物の一夏が受けたであろう工作員としての「教育」に恐怖した。「こいつにも、誘拐される前までの思い出だってあったはずだろうに。 それまでの思い出や、形成された人格が完全消滅しちまうなんて、ホント何されたんだよ」 とはいえ、それは今回の本題ではない。 一夏は、自分の記憶を本物の一夏に転写する事にした。 この転写もぶっつけ本番ではあったものの、先ほどの少女がサポートしてくれているのか、思いのほかはかどる。「俺の記憶を得た所で、人格って呼べるもんが構築されてくれる保証はどこにもないんだよな」 何しろ、本物の束すらも匙を投げなければならないほどに、徹底的に人格を破壊されているのである。 たかだか数年の記憶ごときで回復できるとは、到底思えなかった。「となると……俺の人格の転写、か。 できればやりたくない最終手段だけど、それも、奴が回復の兆しを見せてくれなかった場合の話だな」…………そうして、一夏は量子空間内で可能な作業をすべて終えた。 そして通常空間に復帰した一夏に待っていたのは、回避不能の斬撃とそれに伴う意識の喪失だった。==FIN== お久しぶりです。 最近マインクラフトにハマってしまって執筆が遅れに遅れた平成ウルトラマン退院軍団(仮)です。 こんな終わり方ですが、一応まだ続きます。 しかし……彼我の実力差がありすぎるせいで、ホントにマトモなバトルパートになりませんでしたねww まあ、世界最強クラスVSど素人ですから、こんなもんでしょう。 翻って、普通に臨海学校に行っている連中との温度差がすごいことになってます、 まあ、一夏は一人で戦っているのは、彼女達を巻き込まないためですから、仕方がないんですけどね。 千早達、臨海学校に普通に行った面々の話は次回にしようかと思っています。 それでは、また。