さて、千早の家からIS学園に戻った一夏と千早は、自発的にトランザムバーストを行えるかどうかを確かめるための実験をアリーナで行っていた。「「トランザム……バーストっ!!!」」 一夏と女体化した千早が両手の指を絡ませてそう叫ぶと、白式朧月と銀氷銀華の太陽炉が共鳴し合い、量子空間を形成する。 何故千早が女体化しているかというと、白式と銀華が二次移行と同時にトランザムバースト現象を起こした際、千早の肉体が女性になっていた為、その時のトランザムバーストを再現するには千早の肉体が女性になっていた方が良い、と判断されたからだ。 また、先ほど千早が本来の性別である男性のままトランザムバーストを行おうとした所、どういうわけか上手くいかなかったという事情もある。 光り輝く粒子に包まれた空間の中、一夏と千早、そして巻き込まれた楯無は一糸まとわぬ姿で対峙する。 当然、一夏は粒子のおかげでよく見えないとはいえ裸体をさらしている楯無や女性の身体になった千早から目をそらす。「一夏……その反応止めてくれないか? 僕には男色のケはないんだけど」 千早はそう言いながら、ジト目で一夏を睨む。「いや、そーはいうけどな……」 正真正銘の美少女と化した千早のパーフェクトボディに反応するな、という方がノンケの思春期男子にとっては無理な相談である。 千早自身、本来は男性の筈なのにこの辺りの機微には疎い。 自分は本来男性である、という意識が強いためだろう。「それにしても……御門さん、男の子ってホントだったんだ……」 量子空間によって千早の過去を断片的に知った楯無は、魂が口から抜け出たような呆然とした様子でそんな一言を呟く。「……あの、先輩? それじゃあ今まで僕の性別は一体何だと思ってたんですか?」「へ? えーと……性同一性障害なんじゃないかって」「はあ……」 と、千早は楯無の返答にため息をつく。「それじゃあ千早、トランザムバーストはこの辺にしとこうぜ」「……ん、ああ。 今回はトランザムバーストが僕達の任意で行えるのか、それを試しただけだからね」 一夏と千早はそういうと、トランザムバーストを終了させた。 すると、周囲の光景は光の粒子に満ちた量子空間から、IS学園のアリーナへと変貌する。 例によって楯無がかつての弾や箒、鈴音と同じような虚ろな笑みを浮かべているが、千早はそれを強引に無視した。「にしても、どうして性転換機能を使ったら上手くいくようになったんだろう?」「さあな。 ま、本番の時にはお前はいないんだから、その辺は気にしてもしょうがないだろ。 それより、今回の経験を参考にして、何とか俺一人でトランザムバーストを使えるようにしなくちゃな」 GNドライブではなくGNコンデンサーを用いたトランザムバーストならば、一夏の白式朧月だけでも可能なはず。 一夏はそう踏んでいた。 もっとも、それが出来なくとも自分が殺されるだけで、本物の一夏との入れ替わりだけは達成できる。 どちらにしたところで目的自体は達成できるのが確定しているようなものだ。 とはいえ、流石に一夏も積極的に死にたいとは思っていないため、GNコンデンサーによる自分一人でのトランザムバーストができるようにもっていきたいと思っている。(だけど……あの千冬姉より強い野郎とのタイマンだからなぁ。 生存確率が全くの0から0.00……って0が何個も付いた後に1とか2とかっていう位になる程度なんだろうけど、まあやらないよりかはマシか。 万が一、奴との戦いで生き延びれた場合に千早の世界に移住できるよう、こっちに戻ってくる前に束さんや妙子さん……はまだショックを引きずってたから、史ちゃんの曾祖母さんのまさ路さんにも話は通しておいたし、後は俺次第……だな)================================== タッグマッチトーナメントの翌週月曜。 と言ってもまだ試合が残っているのだが、試合数がぼちぼち少なくなってきている為、授業は再開されている。 千早も一夏も、周囲に一夏の行く末を悟られぬよう気を付けてはいるものの、やはり来る本物の一夏との決戦に対する不安はそうそう隠しきれるものではない。 そして、先にその不安を隠しきれずに周囲に悟らせてしまったのは、千早の方だった。「あら、千早お姉さまったら、どうされたのでしょうか?」 セシリアは暗い表情の千早を見て、怪訝そうに言う。 その彼女の一言にクラスメイト達が反応して、千早の様子をうかがう。「本当だ。どうしたんだろう?」「はぁ、でも物憂げな千早お姉さまというのも良いわぁ。 なんというか、一枚の絵のようで」 確かに彼女の言う通り、物憂げな表情の千早というのは確かに名画のごとく絵になる情景だった。 集まっていたクラスメイト達は、セシリアも含めて一様に首を縦に振る。「それもそうですが……やはり心配ですわね」 セシリアはそう言うと、千早に話しかけてみる事にした。「あの、千早お姉さま、よろしいでしょうか?」「? セシリアさん、どうかしましたか?」 と、千早はここで気づく。「って、あの……お姉さまって、僕は男ですよ。 お姉さまはやめてください、お姉さまは」 千早はそう言ってため息をつく。 とはいえ、銀華の女体化機能がある以上、もはやセシリアたちを説得するのは不可能であった。 もっとも、千早の抗議も全く効果がなかったわけでもない。 流石に千早と共に学校生活を過ごして早数か月、いい加減「千早が女の子呼ばわりされる事に抵抗を覚えているらしい」という事は、徐々にではあるが周囲の少女達に知れ渡り始めていたのだ。 ……もっとも、彼女達はまさか千早が本当に男だなどとは夢にも思わず、せいぜいが性同一性障害かもしれない、と考えている程度なのだが。 セシリアは面と向かって千早をお姉さまと呼べない事を残念に思いながらも、彼に対する呼び名を改める。「はぁ……お姉さまとお呼びできないのでしたら、千早さんと呼ばせて頂きますわ」 とはいえ、セシリアは何とも納得がいかない様子を隠せずにいた。 そんなセシリアの様子を見て、千早はまたため息を漏らす。「それでセシリアさん、僕にどのような話があったのですか?」 その千早の一言で、セシリアは本題に戻ることにした。「いえ、先ほど千早おね、千早さんが浮かない顔をされておりましたので、それがなぜなのか、お話を伺いたいのですがよろしいでしょうか? 差し出がましいかもしれませんが、私で良ければ相談に乗らせていただきたいのです」 そのセシリアの返答を聞き、千早は一夏同士の戦いに対する不安をこんな所で露わにしてしまった自分の迂闊さを呪った。 そして、如何にしてセシリアに対する誤魔化しをするのかを思案する。(とはいえ、流石に一夏同士の戦いが近いうちにあるだとか、そのうち僕達の知っている一夏の方が偽物だとか、っていうのは、たとえ説明したくても難しいけど……) そうしてしばらく思案した千早は、自分の不安を感じているのは白状するとして、その不安の原因を偽る事にした。「浮かない顔ですか……確かに不安がないと言えば嘘になりますね。 超エリート校であるこのIS学園の期末テストに、ISに対する学習の下積みが全くない僕がどこまでついていけるのか、というのは大きな不安の原因になりますよ。 少し気が早いかもしれませんけどね」 千早はセシリアに対してそう答えた。「期末テスト……ですか? ですが、千早さんは先日の中間テストでは上位の成績を残されていたではありませんか」 ちなみに一夏の中間テストでの成績は赤点ギリギリである。「そうはいいますけれど、やはりこのIS学園に入学するため、中学校に入る以前から何年も努力して1万倍もの倍率をかいくぐってきた皆さんに比べると、やはり積み重ねた物が少なくて。 一夏もそうですけれど、事情があってIS学園に入らされてしまった僕では、下積みの質と量でどうしても皆さんに劣ってしまうんですよ」 千早はたおやかな苦笑を浮かべて、そうセシリアに話した。「なるほど……分かりましたわ。 私、てっきりもっと深刻なお話かと思ってしまったのですが、そうではなくて、ホッとしたやら肩すかしだったやら……」「ふふっ、でも大事なんてないに越した事はありませんよ」 千早の優雅なしぐさに、見惚れてしまうセシリアであった。=====================================『ふうやれやれ。 今朝のセシリアさんにはヒヤリとさせられたなぁ』『俺が言っても説得力ねえんだろうけど、気をつけろよ千早』『ああ』 一夏と千早はそんな会話をプライベートチャンネルで交わしながら、昼食をとりに食堂へとやってきていた。「それにしても、僕って皆から見られてるよなあ。 今朝のセシリアさんみたいな事がなければ、自意識過剰で済ませている所なんだけど」「それはそうだよ。 千早さんは僕達の憧れなんだもの」「? シャルロットか」 一夏達が振り向くと、そこにはシャルロットとラウラがいた。「妙な組み合わせ……でもないか? どうしたんだ二人とも」「ちょっと、この間の僕達の試合の感想戦をもう少し掘り下げてみようと思ってね。 そしたら、千早さんがあんな事を言ってたから」「あんな事って……」 千早は納得できていなさそうな表情を浮かべる。「あんな事も何も、千早さんって一夏にも負けない位の注目の的だよ? 千早さんって言えば、IS学園で一番きれいで頭脳明晰、優雅で優しくて多芸、しかもIS学園に来てからISに触れたのにもう僕達代表候補生と戦える才能まで備えたミスパーフェクトなんだもん。 僕達IS学園の生徒だけじゃなくて、もう色んな国が千早さんに注目していて、どうやって千早さんをスカウトしようか、って考えているはずだよ」「……そんな大事になっているんですか…………」「ああ、そう言えば何故だか軍の上の方から、『女らしさを磨くためのコーチとして御門千早をブラックラビットに引きずり込め』などと訳の分からない命令が来ていたんだが、それはそういう事だったのか」「うっわ、狙われてんだな、千早。 ……って、ラウラ、それ話してよかったのか?」「別に機密指定はされていない任務だ。それに内容から考えて御門千早の耳に入れておかねばならない話でもあるから、大丈夫だろう」 千早はシャルロットとラウラの言葉を聞いてため息をつく。 恐らくはシャルロットの言っている理由は建前で、各国の思惑としては束の助手たる史との関わりが深い千早の身柄を確保しておきたい、というのが本当の所なのだろう。 自分がもろに政治的なゴタゴタに巻き込まれかけている事に、千早はげんなりしてしまった。「まったく。 大体、僕や一夏のIS装着者としての才能は、そう大した事のないものですよ? 少なくとも鈴音さん辺りには大きく劣る筈です。 いくら僕達が貴女達と戦えると言っても、それには『白式や銀華に特有の、ものすごく素直なマンマシンインターフェース』っていうからくりがあるんです。 多分、普通のISを装着したら、僕達なんかまともに身動きが取れないと思いますよ」 千早は妙な過大評価を改めるべく、自らの見解を口にする。「何? そうなのか?」 ラウラは千早の言葉に驚き、一夏に尋ねる。「ん? ああ。 ほら、白式や銀華ってとんでもない高機動戦闘ができなきゃ単なる欠陥機じゃないか。 そんな高機動戦闘中に、一つの動作を行うたびにいちいち複雑な計算を5個も10個も処理するなんて芸当、それこそ千冬姉や更識先輩みたいな大怪獣でもなけりゃ絶対無理だろ?少なくとも俺みたいな常人には一生不可能だ。 流石の束さんもそこには気が付いてたみたいでさ、なるべく感覚的になんとなくで動かせるようマンマシンインターフェースを改良してくれたんだってよ。 そのかわり、普通のISとは違って機械じみた正確な動作ってのは、できなくなってんだけどな」「ふむ、ということはセミオート操作しかできないマンマシンインターフェースなのか?」「いや、主に脳の運動を司る所から俺達がどう動きたいのかを受け取って、それをIS側にほぼダイレクトに伝えるマンマシンインターフェースで、むしろフルマニュアル入力しかないらしいぜ。 オートっぽい所は、IS側の処理じゃなくて俺や千早自身の反射をISが受け取って実行しているって話だし。だから、まあ、確かに白式や銀華以外のISを使わされたら、マンマシンインターフェースの違いのおかげでマトモに動けなくなっちまうと思う」「なるほど」「でも白式や銀華のハイパーセンサーって、高感度ハイパーセンサーじゃない普通のハイパーセンサーって聞いてるよ? それであの高機動戦闘ができるのは凄いと思うんだけど」「そんな、ちょっとくらい人より反射神経が鋭い程度で戦えるほど、IS戦闘は甘くないのは、僕達以上に貴女達の方が良く知っているでしょうに」 千早は苦笑しながらシャルロットに突っ込んだ後、話を続ける。「それにもう一点。 僕はこの世界の住人じゃないんですよ。 いずれは僕が元いた世界に帰るのですから、スカウトなんて出来ませんよ」「「……あっ」」 千早の一言によって、とても珍しいことに全く性格が異なるラウラとシャルロットの声がハモった。 彼女達は「インフィニットストラトス」の存在を知っており、また読んだ事があるので、千早が異世界人であることもまた知っており、千早の一言でその事を思い出したからだ。「でも、偉い人達って政治力が」「異世界人である僕には関係ありませんよ。 帰ってしまえば、彼らからの干渉を一切受けずに生活できますからね」「じゃあ、政治力で千早さんをどうこうしようと思っても、何もできないんだ」「そうなりますね。彼らの組織力を駆使すれば、たとえば人質を取るだなんて選択肢もあるかもしれませんけれど、この世界での僕の係累といえば束さんやの千冬さんやのですよ? どう考えても僕本人を狙った方が簡単ですけど、それにした所で、僕のISである銀華は機動性能だけなら最強です。だから、格上相手でも十分逃げられる余地がありますよ」「だが、それならコイツを狙えば済む話では?」 ラウラはそう言って一夏を指さす。「……いやラウラ。 そりゃ確かに俺はただの雑魚だけど、俺に手ぇ出したら千冬姉を敵に回すぞ。 そればっかりは流石に拙いだろ」「……確かにそのリスクはとてつもないな」「それを考えると、前に一夏を誘拐したっていう誘拐犯の人達って、ものすごいチャレンジャーだよね……」 シャルロットの一言に、一夏と千早の表情がかすかに曇る。 実際には本物の織斑一夏は誘拐されたきり戻ってきておらず、ここにいる一夏が替え玉として送り込まれているからだ。 一夏は無自覚だったとはいえ、千冬をはじめとする周囲の人間達を年単位の長期間にわたって騙し続けてしまってきた罪悪感を感じずにはいられない。 シャルロットの一言は、その罪悪感を刺激する一言だった。 とはいえ、この表情、動揺を読まれるのは拙い。 千早はそう判断して、優しげな笑顔を浮かべてシャルロットやラウラに話を振った。「さ、二人とも立ち話はこの辺にしておきましょう。 早くしないと食堂の席の確保も難しくなりますよ」「それもそうだね」「あ、ああ、そうだな。 お前らも一緒に食うか?」「ああ、元々お前らとこの間の試合の感想戦をするつもりだったからな。 一緒に行かせてもらおう」 そうして一夏達4人は連れだって昼食をとる事にしたのだった。======================================= さて、そんな4人が食事をしている所を、他の生徒達が遠巻きに見ていた。 一夏が世界唯一の男性IS装着者である事もその注目の一因ではあるのだが、やはり生徒達が女性として御門千早という少女に対して抱いている憧憬の念の方が大きい。 いくら強い事が良い事だとされているIS装着者とはいえ、彼女達も女性なのだ。 ラウラのように「可愛いとは一体何の事なんだろう?」と真顔で言う感性の持ち主ではない以上、ミスパーフェクトとも呼ばれる千早に対して憧れを抱いてしまうのは当然であった。 そんな少女達の中には、千早の性別を知っている筈の箒や鈴音もいた。「ラウラさんのほっぺたにくっついたご飯粒を取ってあげてる千早さんって、もう完全にお姉ちゃんよね」「まあ、あの二人はそろって銀髪だからな……」 難しい表情を浮かべて一夏達の食事風景を眺めていた箒と鈴音は、そろってため息をついた。「「…………あれで、男って………………」」 女らしさ。 そんな、男に対して絶対に負けるわけにはいかない分野で、話にならないほど男性である千早に劣っている我が身を振り返った箒と鈴音は、ため息をついて突っ伏してしまった。「本当よね。 あんな素敵な女の子が男だなんて、千早お姉さまもそんな妄言を信じてもらえるなんて本気で思っているのかしら?」「いえ、千早お姉さまは性同一性障害かもしれない、って話もあるわ。 障害で自分の事を本気で男だと思い込んでしまっているのなら、ない話じゃないんじゃないの?」「い、いくら障害のせいとはいえ、あんな素敵な女の子を男と誤認する千早さんの認識って、どうなっているのかしら……?」「さ、さあ?」 その一方、他の女生徒達は千早が聞けば奈落の底まで落ち込むような話をしていた。 とはいえ、全員が全員そのような話をしているわけでもない。 セシリアら、今朝の千早の物憂げな様子に気付いた少女達は、別の話題を話していた。「それにしても、千早お姉さまが異世界人って、そりゃ男の人だっていう話よりはずっと説得力があるけどそれにしたって……」 シャルロットやラウラとの立ち話の途中から様子をうかがっていた彼女達は、千早が異世界人であるというくだりも聞いてしまっていた。 戸惑う少女達に対して、千早の世界に行った事のある鈴音が重たげに頭を上げながら話しかける。「ああ、あたしも最初は信じられなかったんだけどね、どうも本当みたいよ。 篠ノ之博士が作った変なドアを使って異世界に行き来できるのよ」「し、篠ノ之博士ですか……確かに彼女ならばできそうな話ですけれど」 鈴音の話に、少女達はうろたえながらも納得した。 そこで、鈴音と同じように頭を上げた箒が話に加わってきた。「セキュリティの関係上、一夏達姉弟と姉さん以外のこちらの世界の人間には、その扉の使用権はないらしいんだがな」 箒は以前、弾と共に千早の家で寝込んだ時に束から聞かされたどこでもドアのセキュリティについて少女達に話す。 その厳重なセキュリティが、話により一層の真実味を与える。「それじゃあ、本当に千早お姉さまは異世界人?」「ああ」「そ、それじゃあ千早さんの世界には妖精とか、メルヘンチックな生き物がいたりして?」「いや、ISが存在せず全体的な技術レベルがこちらより僅かに低い以外は、あまりこちらと変わらないようだ」「そうなの。残念」 と、ここでセシリア達は今朝の物憂げな表情の千早の様子を思い出す。「もしかしたら……」「ん? どうしたのよ?」 考え込む表情を見せたセシリアに対して、怪訝そうな表情を浮かべる箒と鈴音。「いえ、皆さんは今朝の千早お姉さまの物憂げな様子は憶えていますわよね?」「え? 千早さんが、そんな顔を? なんかあったのかしら?」 セシリアの言葉に吃驚する鈴音。 その隣では、箒が鈴音と同じように目を丸くしている。「ええ。本人は、私達より少ない下積みで期末テストに臨まねばならない不安、とおっしゃっておりましたが、それにしては少し表情が深刻すぎるような気がしていたのです」「ふむ……」 セシリアから伝え聞く千早の様子に、箒と鈴音も先ほどのセシリアのように考え込む。「それで、もしかしたら、と思うのですが……」「何よ。 もったいぶらずに本題に入りなさいよ」 鈴音の一言に、周囲の少女達も頷く。 それに促されるように、セシリアは話を続ける。「もしかしたら、千早お姉さまが物憂げな顔をしてらしたのは、期末テストが原因などではなく、異世界人である為にいずれはこちらの世界の住人である一夏さんと別れねばならない事を儚んでおられたからではないのでしょうか?」「「「「「「なるほど」」」」」」 セシリアの話に、他の少女達はもとより千早の性別を知っているはずの箒や鈴音までもが納得してしまう。 いくら千早が本来は男性だと言っても、銀華には女体化機能がついており、さらに箒と鈴音は弾が口にしたあまりにも不吉すぎる一言を聞いた事があるからだ。『……いや、一夏の奴って理不尽な位モテますよね……女の子を惹き付ける妙なフェロモンでも出してるんじゃないかっていう位の勢いで…………』((や、やっぱり有り得ないほど強敵ぃぃぃぃぃいいぃっ!!)) そんな風に箒と鈴音が衝撃を受けているのを横目に、少女達は「ああ……なんて悲しくてロマンチックなのかしら……」 と陶酔していたり「千早お姉さまったら一人で抱え込まずに、私達に相談してくれても良かったのに……」「でもあんな事情じゃ、相談するにできなかったのかもしれないわ」「千早お姉さまが織斑君のそばを離れたがらないのも、一緒にいられるうちに少しでも一緒にいようとしているのかしら……」 と、見当違いに千早の心情を慮ったりしていた。 様々な反応を見せる少女達であったが、彼女達に共通していたのは、これ以降千早を見る彼女達の視線に、優しさが多く混入するようになった事だった。====================================「ん? どうしたんだ、千早?」「いや、何かが取り返しのつかない事になったような気がして…… 命には別条ないのは妙に確信できるんだけど……」「命に別条がないなら、別にいいんじゃねーのか?」「う~~~ん」==FIN== ええ、遅くなりました。 前回の後すぐに最終決戦を書こうと思ったんですけど、上手くつながってくれなかったので、今回はつなぎの話。 遅筆化が激しい上に一からの書き直しもしたので、もっと遅くなってしまいました。 そして、より本格的に取り返しがつかなくなってしまったちーちゃんですが、もうすぐお役御免ですので傷は広がらないでしょう……本人には。(千早は一夏を強くするためのパートナーですので、その一夏が史上最強の本物の一夏に入れ替わった時点で、IS世界にいる理由がなくなります。 妙子も千歳の問題が解決したこともあって、説得不可能が癒えてきていますので、千早は問題なく元の世界に戻れます) 自分がいなくなった後のIS世界などというものを想像しないよう、千早には強く勧めたい所ですねww もしうっかり想像してしまったなら、SAN値がガリガリ削れる所でしょう。 さて、今回は思いもかけずラブコメパートをする事になりましたが、次こそは最終決戦に入ると思います。 最強対最弱、まるで上条さん対一方通行みたいな触れ込みですが、実際問題似たような戦力差ですので、マトモなバトルパートにはなりませんけどね。