それは1時限目が終了した直後の事。 一夏は、千早と箒の顔色が悪い事に気がついた。「ん? どうしたんだ箒、千早。 お前ら、なんか顔色悪いぞ。」「い、いや、なんだかさっきから悪寒がして……」「私もだ。」「お、おい、大丈夫か?」 心配したクラスメイトや山田先生が千早と箒の方に寄ってくる。「風邪、ですかね?」「いえ、篠ノ之さんはともかくとして、御門さんの方は夜眠る時にISを身につけて眠ってますから、体調不良は考えられないですよ。」 そうはいうものの、千早は明らかに寒そうにしている。 そんな中、セシリアとシャルロットだけは冷静だった。「あれ、かあ……」「あれ、ですわね……」「ん? なんだ、2人とも。 私達のこの悪寒に何か心当たりでもあるのか?」 箒はセシリアとシャルロットにそうたずねる。 すると帰ってきた返答は……「箒さん、世の中には知らない事が良い事も沢山ありましてよ。」「……うん、あれは知らない方が良い……」 セシリアは何かを諦めたような表情でそう言い、シャルロットもゲンナリした表情で彼女に続く。 千早も箒も、先日の『魔法少女プリティ☆ベル』の一件で、世の中には知らない方が良いこともあるのだと思い知っている。 そしてセシリアとシャルロットの反応を見る限り、彼女達は本当に知らない方が良い事だと思っているようだ。 なので無理には聞けなかったのだった。 とはいえ、気になってしまうのが人情と言う物である。 そこで……===============「っつーわけで、セシリアとシャルロットは箒と千早の悪寒の正体を知ってるっぽいんだ。 あの2人の共通点は代表候補生って事だから、同じ代表候補生のお前なら心当たりがあるんじゃないか?」 昼休み、千早と箒から依頼を請けた一夏は、鈴音にこんな質問を投げかけた。 すると彼女も苦笑いを浮かべ、なんとも話し辛そうにし始める。 そして周囲を見渡した後。「まあ、その2人がこの場にいないみたいだし、何ともなかったあんたになら話しても良いか。 でも、これって本当に本人にとっては知らない方が良い事よ。 あたしも知っちゃった後、ものすっごく後悔したし。」「……そうなのか?」「うん、個人的にはコレよりショックだった事って、最近じゃあ千早さんが男だって事くらいだもの。」「……それなら千早当人はともかく、箒は大丈夫じゃねーの? なんだかんだ言って、箒ってお前や弾と一緒にそのショックを乗り越えただろ?」「駄目よ、怖気がハンパじゃないんだから。」「はあ……んで、具体的にはなんなんだ? あいつらの悪寒の正体って?」 一夏は脱線した話を本題に戻す。「ああ……その2人が感じている悪寒ってね、不特定多数の男ドモの妄想の対象になってる事による悪寒よ。」「……は?」「まあ普通はそういう反応よね。 そんな風に妄想されたって、普通ならそんな悪寒は感じない筈だもの。 でもね、IS装着者のブロマイドって全世界規模でばら撒かれる代物だから、妙な妄想のネタにする男の数が半端ないのよ。 しかも、枠としてはスポーツ選手のカードみたいな扱いで、いかがわしいって言う扱いじゃないから、表立って買い易いのが出回りやすさに拍車かけててね……」「……でもあれって、撮ってからまだ一週間経ってねえんじゃないか?」「あの手のブロマイドって、ISに関しては商品化されるのがすっごく早いのよ……」「……」「あ、あたしだってね、こんなん知った時には自殺しようかと思うくらい気持ち悪かったわよ!! こんなの……こんなの知らないですむなら、そっちの方が良いじゃない!!」 鈴音は最早涙目だった。 大方、この悪寒を始めて感じた時の事と、その原因を知ってしまった時の事を思い出してしまっていたのだろう。「あ、ああ、そりゃあ確かに知らない方が良いわな。 一応男の千早なんざ、マジで自殺モノだ。」「……でしょ?」「でもな、鈴音……」「何よ?」 今度は一夏の方が酷く言い辛そうに言った。「実はな……そこの柱の反対側に箒と千早がいるんだ……」「へ?」 2人が恐る恐る一夏が言った柱の反対側を除いてみると……「「…………」」 気の毒なほど真っ白に燃え尽きた千早と箒の姿があった。 と、同時に再起動を果たした二人は「「う、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアああア!!!!!!!!!!!!!!!!」」 2人して絶叫したのだった。===============「……だから知らない方が良いって言ったのに。」 保健室のベッドでうなされている千早と箒を見て、シャルロットはそうこぼす。「そ、そうはいうがな……」「まあ、わたくし達も初めてブロマイドが出回った時には、貴女やお姉さまのような反応でしたわ。」 セシリアは箒に対して相槌を打つ。「でも千早さん、雑誌であれだけ写真が出回ったのに、その時にはこんな怖気は感じなかったの?」「……た、ただのド素人の僕を特集する雑誌なんて、想像もしてませんでしたから……」 千早は呻くように鈴音に返す。「なるほどね。それである程度鈍感になれていた、と。 今回は出回るのが前提のブロマイドだものねえ……」「まあ、これはある意味通過儀礼みたいなものだから。」「そういえば、私も少し調子が下がった事があったな。」「……ラウラさん、よくその程度の被害で……って、何を読んでいるの?」 シャルロットはラウラに、彼女が読んでいる漫画らしき物についてたずねる。 生物兵器としての傾向が強すぎる彼女が漫画を読むなど、あまりにミスマッチなため、シャルロットのみならずセシリアや鈴音も気になってしまった。 タイトルは『魔法少女 プリティ☆ベル』。 どうやら魔法少女物のようだ。「ん? ああ、これか? これは『インフィニットストラトス』同様、異世界で書かれた物らしい。 中々興味深い内容でな。」「へえ、アンタが軍事以外の事に対して興味深いっていうなんて、珍しいじゃない。」 とはいえ、彼女が魔法少女物に興味を示す事は良い傾向だろう。 「よく言われるんだが、可愛いとは一体どういう事なんだ?」などと真顔で言う少女よりは、魔法少女に興味を示す少女の方が真人間だと言えるからだ。 鈴音のみならず、セシリアもシャルロットもそう思う。「ふむ、『厚志さんはバリア付きミサイル付きのエアボーンレーザーです』か…… なるほど、おそらく白騎士事件の時にも、教官はこの高田 厚志のように戦ったのだろう。 強靭な肉体に技巧派の戦闘力、そして理知的な頭脳、確かに教官のような男だ。」 ラウラがそこまで言った時点で、一気に保健室の体感気温が氷点下まで下がった。 一同がガタガタ震えながら保健室の入り口の方を見やると、そこには35歳男性ボディビルダーと一緒にされた怒りを露にしたうら若き女性の姿があったのだった。===============「ふ、ふっふっふっふっふっふっふ………… 一夏にしろ、ボーデヴィッヒにしろ、あいつら一体何を考えているんだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」「そ、それについてなんですが、織斑先生………… 織斑君とボーデヴィッヒさんの教育方針について、ちょっとお伺いしたいのですが……」「へ?」 その日の職員会議は「女の子を怪獣呼ばわりするなど、無神経な発言を改めない織斑 一夏及びラウラ=ボーデヴィッヒの教育方針について」と題し、二人の人格形成に多大な影響を与えた千冬に対してあれこれ問い詰める内容になったという……==FIN== 厚志さんは男の中の男です。 あの格好でも、やっている事だけを切り取ってみれば凄くかっこいいんです。 でも流石に女の子が厚志さんと一緒にされたら怒りますww ラウラさんは今日も元気に地雷を踏み抜いてしまいましたww っつーか地雷原のタップダンサーっていう一夏とラウラのキャラ付けも、そろそろ修正した方が良いかも…… そうはいっても、2人にとって千冬≒ゴジラなのは、彼女が紛れも泣く世界最強である以上どうしようもないんですがねwww