「あっ、いっくんちはちゃん、いたいた♪」 束が、燃え尽きている千早とそれを遠巻きに見ていた一夏やラウラ(千歳入り)の元に駆け寄ってきた。 どうも一夏と千早の事を探していたらしい。「ん? どうしたんですか、束さん?」 一夏がそう訊ねると「んーとね、箒ちゃんに頼まれていた打鉄弐型の開発が一段落着いてその後の目処も立ったんで、今度は前から言ってた白式の追加スラスターを取り付けようと思って、いっくんを探してたのっ。 後、銀華用にも追加スラスター作ってきたから、それもね。」「はあ。 あれ、でも銀華って現状でも無茶苦茶早いし燃費だって白式ほど悲惨じゃない筈じゃ……」「いやぁ、白式って攻撃力も重視してるISでしょ? 銀華は運動性特化機なんだから、白式の運動性を上げたなら、銀華の運動性も上げて運動性面の優位を保っておかないとバランス悪いじゃない。 一応ちはちゃんにはいっくんのライバルをしてもらう為にIS学園に入ってもらってるんだから、いっくんがパワーアップするならちはちゃんもパワ―アップしないと。」「なるほど。」 束の話に納得する一夏。「そんじゃあ、って、あれ? ちはちゃんどうしたの?」「……遅いですよ、束さん…………」 束はすっかり燃え尽きている千早の様子にようやく気が付いた。「じゃあちーちゃんの事は私に任せて、一夏君は先に改造してもらえば良いんじゃない?」「ん~~、そうだな。 じゃあ千歳ちゃん、千早の事頼んだぜ。」「うんっ。」 こうして、一夏は束と共にハンガーへと向かって行ったのだった。=============== IS学園のハンガーの一角。「んで、今くっつけてるのがこないだ言ってた追加スラスターですか?」「ん? ああ、あれ? ごめん、あの時言ってた『銀月』はお蔵入り。」「は?」 白式に追加スラスターを装備させる作業をしている束の意外な返答に、一夏は素っ頓狂な声を上げてしまう。「いやあ、量子波動エンジンの欠陥を直せないかって弄っている内に、次のステップに移る目処が立っちゃってね。 私が作りたいのは量子波動エンジンじゃなくて太陽炉だったから、太陽炉へのステップ2に早々に取り掛かっちゃったの。 まあ、欠陥品をそのままにしておく趣味はないから、太陽炉が出来た後に量子波動エンジンの続きをやるつもりだけど。」「はあ。」「んで、今つけている追加スラスターについているのが、太陽炉へのステップ2、重力量子エンジンね。 量子波動エンジンを取っ掛かりにして理論構築して作ったんだけど、ま、作り自体は全然別物なのだよ。 でね、パワー自体はちょっと量子波動エンジンより弱くなっちゃったんだけど、その分「エンジンさん動いて!!」って思う必要がなくなったから、使いやすくなってると思うよ。」「いや、俺、量子波動エンジン使った事ないんで、そう言われても……」 やはり自分の研究の成果物の話となると、束の口は非常に饒舌になるようだ。「それで、この重力量子エンジンがどうなれば太陽炉になるって言うんですか?」「ん? んーとねぇ、ガンダム00の設定で、純正太陽炉を作る為には木星の高重力とトポロジカル・ディフェクトが必要ってされててね、多分それってあってると思うの。 それで重力量子エンジンとモノポールエンジンのデータを取れば、太陽炉に行き着くんじゃないかなー、なんてね。」「はぁ……」 流石にISというぶっ飛んだ代物を作った女性である。 思考回路が普通ではない。(……ロボアニメの設定を真に受けてどうすんですか、って俺如きがこの人に言ったってなぁ…… 大体、そんな事言い出したら、そもそもISがおかしすぎる代物だし……)「ま、そういうわけで、白式の追加スラスターは、銀華の追加スラスターと対になってるんだよ。 こっちは重力量子エンジン搭載の『半月・上弦』、銀華用のはモノポールエンジン搭載の『半月・下弦』だよ。」「へぇ~~、じゃあ作りも?」「うん、大体一緒。 もっとも上弦の方にだけは、鋭角機動が出来るようにする細工をしておいたけどね。」 ちなみに銀華の方は最初から鋭角機動が出来るため、束が言った「細工」を必要としていない。 その為、半月・下弦からは、その機能が削られていた。「そうなんですか。」「でねでね、いっくん。 この半月には、銀月にはなかった新要素がっ!!」「いやだから、俺、その銀月ってーの使った事ないですから。」「まあ良いじゃない。 いっくん、半月・上弦のスラスターノズルを見てみてっ!!」 そう言われて一夏がスラスターを見てみると、複数のスラスターノズルが円形に配置されているのが見て取れた。「これは?」「個別連続瞬時加速の使用を前提としたリボルバースラスターっ!! なーんて、ダウンサイジングして複数くっつけただけなんだけどね。 まあ、本当に個別連続瞬時加速はやりやすくなるから、いっくんやちはちゃんには嬉しいんじゃない?」「個別連続瞬時加速がやりやすくなるって、どう確かめたんですか?」「ん? みーちゃんにテストしてもらったよ。 みーちゃんのIS『古鉄』のスラスターをリボルバースラスターに改造して、みーちゃんにテストしてもらったんだよ。」 一夏は瑞穂の愛らしい顔を思い浮かべる。(100m6秒台とか、こんなもんのテストとか、本当に無茶苦茶な人なんだな、あの瑞穂って人…… 本気で千冬姉並みの規格外じゃないかよ……) 一夏は瑞穂のチート具合に戦慄したのだった。=============== 一方。「ちーちゃん大丈夫?」「え、ええ、大丈夫ですよ、千歳さん。」 千早はショックが抜け切らない頭を振ってから、千歳に微笑んで応える。「ねえちーちゃん、わたしが今日した事……迷惑だった?」 上目遣いでそう千早に聞いてくる千歳。 発言途中に何に気付いたのか、間を空けて訊ねる。 そんな姉の姿に千早は苦笑する。「いいですよ、別にそんな風に考えなくても。 どの道あの状況じゃあ、無理やりにでも女物の水着を着せられてしまっていたと思いますし、それなら千歳さんに乗り移ってもらった方が被害が少ないってものですから。」「う、うん、ありがとうね。」 と、千早は千歳の態度に違和感を覚える。「……あの、千歳さん?」「なんだ?」「へ? ……ラウラさん?」「そうだが? どうも今まで、御門 千歳に乗り移られていたようだな。 奴がどうしたんだ?」「……いえ、なんでもありません。」 直接千歳に問いただしたい気分だった千早は、ラウラにはそう言う他なかった。 と、千早の元にプライベートチャンネルで通信が来る。 一夏から、束製の追加スラスターについての件だった。 千早は、千歳がラウラに乗り移っていない以上、彼女と話す事は無理だと判断し、ハンガーへと向かった。 ……道中、こんな事を思いながら。(やっぱり、今日の千歳さんは少し様子がおかしかった。 あんなにも唐突にラウラさんから離れてしまうなんて、どうしたんだろう。 まさか、亡霊の自分が何時までもここに居てはいけないとか考えていた? でもそれだったら死んでしまってからもう大分立ってるから今更だし、成仏するにしたってあんな様子じゃ……)===============「そっかあ、あの明るい千歳ちゃんがなあ。」 銀華にも追加スラスターを取り付けた束が打鉄弐式の作業に戻った後、千早から千歳の話を聞いた一夏はそうコメントした。「僕も意外だったけど、考えてみれば千歳さんは成仏せずに化けて出ているんだ。 何かしら鬱屈した感情があるのは当たり前なのかもしれない。」「……明るいだけの子じゃないって事か。」 一夏の一言に、千早は辛そうに頷く。「千歳さんに乗り移られたラウラさんを始めて見た時、僕は千歳さんは自由に走り回ることが出来なかった事が未練になって化けて出てきたと思っていたんだ。 何しろ、生前の千歳さんは病弱でベッドからマトモに動く事もできなかったからね。」「でも、今は他の何かなんじゃないかって思ってるのか?」「……ああ。」 千早は小さく頷く。「でも今は、死んだ後の事が原因で落ち込んでいるようにも見えた。」「確かに、さっきまではあんなにもハツラツとしていたもんな。 ……とはいえ、お前やラウラに乗り移ってない千歳ちゃんと話をするのは難しいだろ?」「……今は、千歳さんが気持ちを整理して話をしてくれるのを待つしかない、か。」 これ以上千歳の話をしていても何の進展も得られないと判断した二人は、追加スラスターの慣らし運転をする為にアリーナへと戻っていった。 そして。「「き、機動力についていけないィィィィィィぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」」 一夏と千早は3月頭以来久しぶりに、2人して機体の機動性能についていけなくなってしまっていた。 ちなみに一夏の方は今回初めて鋭角機動が出来るようになった為、以前から鋭角機動を使い、馴れていた千早よりも苦労の度合いは上であった。 ちなみに現在の白式の最高速は1020Km/h、銀華の最高速は1100Km/h(共に個別連続瞬時加速アリ・競技用制限アリ)となっている。 普通ここまで来るとハイスピードバイザーや高感度ハイパーセンサーの出番なのだが、一夏と千早は普通のハイパーセンサーを使用している。 その為……実は一般的な意味でのISによる高速戦闘というものを、一夏と千早は知らなかったりするのであった。==FIN== お久しぶりです。 時系列的には前回ラスト直後です。 んで今回は、千歳ちゃんはやっぱり幽霊、いずれは成仏してお別れをしなければならない事をちーちゃんが意識する話でした。 まあその前に、彼女には彼女の未練があるわけですが。 もっとも今回の千歳ちゃんは、弟のちーちゃんに盛大に迷惑をかけているのではないかと思い、それを引け目に感じているだけなんですけどね。 誤解したまんまだとIS学園でのちーちゃんの立場が物語るようにドンドン状況が悪化してしまうので、一夏とラウラには早急な対応が求められます……まあ、ラウラ以外のヒロインが絡んでも良いんですけどね、一応。