夕方、アリーナに戻ってきた一夏と千早、そして一夏の方を離そうとしない千冬の前に、青い髪の美しい少女が立っていた。 ……どことなく切羽詰っているような、丁度今の千冬に近い雰囲気を発している。 少女は開口一番にこう言い放った。「始めましてかしら? 今日からこのお姉さんが、お話にならないくらい弱い貴方達を鍛えてあげるわ。」「え、ええと……どちら様で?」 一夏はその少女に見覚えがなかった為、少女に何者なのかを尋ねる。「……2年の更識だ、織斑。」 そんな一夏に彼女の素性を告げる千冬。 更識 楯無。 2年にして生徒会長、即ちIS学園の全生徒の中で最強の戦闘能力の持ち主であり、その若年からは想像もつかぬほど熟練した武術の達人であり、さらには世界に数十人しかいない国家代表、即ち「ブリュンヒルデ=地上最強の生物」の候補の一人である。 これでIS学園内でも千早に次ぐほどの美貌を誇り、知能程度も恐ろしいほど高く、さらには料理などの通常の女の子スキルも高いのだから反則も良い所。 また、裏の顔として対暗部用暗部「更識家」の当主という、10代後半どころか40代でも若すぎてありえないような肩書きを有する。 チートの塊のように見える千早ですら霞んで見えるパーフェクトレディ、それが彼女、更識 楯無であった。(更識 楯無ね。 確か、彼女の事をあまりにもチートすぎるって言って嫌ってた人達がいたような気がしたけど……気のせいだったかな?) 実物の楯無を目の当たりにしながら、そんな事を思う千早。 とはいえ、彼女は彼女で血の滲むような、それこそ第一空挺団のような、およそ人類に科せられるべきではない程の地獄すら生ぬるい鍛錬の果てにその驚異的戦闘能力を獲得したのだろう。 彼女にしてみれば、その努力を外野にとやかく言われる筋合いはないはずだった。 とはいえ、彼女を指してチートと言われれば否定しようが無いのも事実ではある。 そんな超絶ハイスペックを、一夏は最悪の例で例えてしまった。「え、と……ああ、まだ十代なのに地上最強の生物の候補・国家代表に上り詰めたっていう正真正銘の大怪獣で、うちの生徒会長だっていう更識楯無先輩か。 先輩、噂はかねが……げふっ!!」 千冬が流れるような動きで瞬時に一夏を羽交い絞めにした瞬間、楯無の鉄扇が吸い込まれるようにして一夏の咽喉元に突き刺さる。「な、なんで……お、俺は褒めたのに……」「女性に対する褒め言葉に怪獣なんて使うからだ。 そんなんじゃあラウラさんの事をとやかく言えないよ。」 千早はため息混じりで一夏にツッコミを入れた。「全くこの馬鹿者が、実の姉である私を一体なんだと思っているんだ。」「いで、いででででででっ!! ち、千冬姉、痛いっ、痛いって!!」 千冬が羽交い絞めに力を込めて、なお一夏を攻め立てる。「ね? これで貴方がお話にならないくらい弱い事が分かったでしょ?」「ふ、不意打ちで、しかも大怪獣2体がかりで、か弱い常人をボコっといて言う事はそれッスか……」「誰が怪獣だ、誰が!!」「痛い痛い痛い痛いいた、ヒデブッ!!」 千冬は再び羽交い絞めに力を込め直す。 そこに飛んできた楯無の鉄扇が、今度は一夏のミゾウチを抉った。「とりあえず怪獣は褒め言葉じゃないって事は憶えておいてね。」 その光景を見て、これではラウラの事を言えないと千早は頭を抱える。「まったくコイツは…… それとだ、更識。」「? なにかしら、織斑先生?」「コイツを鍛えるのは私がやるから、お前は寮に戻れ。」 その千冬の台詞を聞いた楯無は、顔色をその頭髪のように青くさせる。「そ、そんな、素人を一から鍛え直すなんて世界最強のブリュンヒルデの手を煩わせるような事ではないわ!!」「ああ、国家代表などという大物がわざわざ出向いてする事ではないな。 ここはコイツの姉である私に任せて」「先生には教員としての仕事が」「なに、私は楽隠居の身だ。 現役の国家代表で、他にも生徒会の運営や実家の家業もせねばならんお前ほどではないさ。」 と、一夏を鍛えるのは自分の役目だと言い合って、互いに譲ろうとしない千冬と楯無。 2人とも、何やら切羽詰った焦っている様子を見せている。 そこに千冬に羽交い絞めにされたままの一夏が割って入ってくる。 何やら思うところがあるようだ。「そういや千冬姉って、昼間に妙な事を口走っている女の子達を怖がってたけど…… ひょっとして彼女達が怖くって寮で寝れないとか? それで、俺達を鍛えるって名目で、ここに泊まろうとかって思ってる?」 一夏の一言に、千冬と楯無は同時に動きを止める。 どうやら千冬のみならず、楯無にとっても図星だったらしい。「……図星?」「……みたいだね。 一夏にしちゃ冴えているんじゃないか?」「俺にしちゃって、どういう意味だよ。」 一夏は羽交い絞めにされた状態で千早をジト目で睨んだ。 千早は一夏の視線を意に介さず、彼と同じように千冬と楯無に話しかけた。「千冬さん、先輩、怖い思いをしたのは分かりますけど、アリーナに泊まりたいならまず学校の上層部なんかと掛け合った方が良いんじゃないんですか? 『鍛えてあげるから泊めて欲しい』って言われても、何の権限も無い僕達にはどうする事も出来ませんよ?」 ……どうもあまりに精神的に追い詰められていた彼女達は、今しがた千早から指摘された点に思い至らなかったらしい。 彼女達は普段の振る舞いからは信じられないことに、愕然とした表情で崩れるようにして膝を突いてしまったのだった。===============「……ってー事があってな。 やっぱ千冬姉と更識先輩を泊めてやるべきだったかな、って思ってるんだけど……」「昨日は2人して顔面蒼白で帰っていたからね…… 箒さん、鈴音さん、どう思います?」「「…………」」 朝食時、一夏と千早に話を振られた箒と鈴音は返答に窮した。(千冬さん達の精神衛生を思えば、泊めてやるのが良いんだろうが……)(私達の心情からすると千冬さんが有利になる上に、生徒会長にまで一夏がフラグ建てちゃいそうな事態は避けたいわよね。)(それに千早さんの指摘ももっともだしな。) 2人の少女がそんな風に考えていると、銀髪の少女が話に乱入してきた。「それにしても解せんな。 なぜ教官達は、怪獣と呼ばれて激昂してしまったんだ? IS装着者、しかも誉れ高いブリュンヒルデと国家代表なのだから、怪獣と呼ばれるのはむしろ喜ばしい事だと思うんだが?」 幼い風貌の銀髪の少女、ラウラはそう言いながら小首を捻る。「……怪獣呼ばわりされて喜ぶ奴なんて、あんただけだって。」 鈴音はジト目でラウラを睨む。 千冬の精神状態が不安定な現在、彼女を不用意に怒らせるラウラの発言には最大限注意したい所だった。「大体、あんたも代表候補生って事は、グラビア写真の一枚くらい撮った事があるはずじゃない。 なんで怪獣がどうのなんてズレた事言ってるのよ。」「いや、だからそういった写真は怪獣ブロマイドのような物だと思っていたんだが…… ……おい、どうした?」 ガックリと突っ伏した鈴音は、ワナワナと震えてからこう叫んだ。「どっ、どこの世界に怪獣に水着着せて喜ぶハードコアな趣味の連中がいるのよっ!!」「ああ、そういえばああいう写真を撮られる時に薄着をさせられたり、水着を着せられたりするのは何故なんだろうな?」 代表候補生は全員が全員見目麗しい容貌の持ち主である。 理由は簡単で、「美しい他国の代表VS醜い、あるいは並み程度の容姿の自国代表」という状況はどこの国も避けたいと思っているからだ。 故に、その代表を選ぶ際の候補となる代表候補生達も、若く美しい少女ないしは女性で固められている。 また、どういうわけかIS適正が高い者は容姿的にも優れている傾向がある、という事情もある。 その為、代表候補生達はアイドル的な扱いを受ける事も多く、写真撮影もまたそういったアイドル活動の一環なのであるが…… それをラウラに説明したところで、ラウラがきちんと理解できるとは、鈴音には思えなかった。 何しろ彼女は「インフィニットストラトス」を2巻まで読んだ後、「なるほど、何かにつけて織斑一夏に当り散らすのが女らしいという事なのか。」 とのたまった問題人物なのである。 余談だが、ラウラがこの発言をした直後「そんなわけあるか、この馬鹿者が。」 と千冬からのツッコミが入り、ラウラの中に芽生えた誤った認識はその場で正されていた。 そんなラウラなので、女性の水着姿を好む輩がいるらしいという事も、想像の範囲外に違いなかった。 箒と鈴音はそんなラウラに頭を抱えてため息をつく。「それにしても、お前怪獣は分かるのか? あれってミリタリーじゃないだろう?」 ミリタリーに関わる事しか知らない・分からないはずのラウラから、「怪獣ブロマイド」などという単語が出てきた事を訝しく思った一夏は、そうラウラに訊ねる。「ん? ああ、かつて教官を我がドイツ軍に招くにあたって、多少は教官の母国である日本について調べておいた方が良いという話があってな。 それと同時期に、我がドイツはかつて映画大国だったという話も聞いていたから、日本の映画にも目を通していたんだ。 それで怪獣映画は日本で盛んに撮られていたものだから、怪獣映画を見れば日本に対する理解が深まると思って、他の映画より怪獣映画を優先して見ていたんだ。」「「「「…………」」」」 ラウラの斜め上を行く発言に、言葉が出ない4人。「今思えば、確かに単一のジャンル……というのか? 一種類の映画に偏っていては、日本に対する見方も偏ってしまうと反省してはいるのだが……ん? どうした?」「……い、いや、なんでもない。」 一夏は苦笑いを浮かべて生返事をした。「そうか。 しかし、怪獣映画は素晴らしいな。 怪獣の圧倒的戦闘力といったらどうだ。 既存の兵器など気にも留めず、怪獣を討てる者は怪獣のみ。 動きが鈍重な点が少し気になるが、あれこそまさしくIS装着者の、白騎士事件で全世界の兵器を圧倒した白騎s……むぐっ!!」 非常に不穏当な発言をしそうになったラウラの口を、真っ青な顔をした箒が塞ぐ。 今まで話に入って来れなかった為にノーマークだったのが幸いしたらしく、ラウラの発言をキチンと遮る事ができた。「そ、その辺にして黙れ!! また千冬さんの逆鱗に触れたいのか!!」 箒の一言に、まだ納得のいかないラウラではあったのだが「……この続きを言うと教官の怒りに触れてしまうというのか?」「でなきゃ昨日、一夏がボコられてるわけないでしょ……」 ジト目の鈴音のフォローにより、渋々納得したのだった。=============== その日の授業は、何やら追い詰められている様子の、寝不足気味な様子も見せている千冬によって行われた。「……千冬姉、大丈夫か?」 放課後、一夏が心配そうに千冬に話しかける。「ふ、ふふふ、はははっはははははははははははははは…… な、なんというかな、山ほど肉食獣が入っている檻の中に入れられた草食獣のような気分だったぞ、昨日は。」(千冬姉なら、草食獣ったって、草食性の怪獣だと思うんだけどなぁ。) 流石に昨日の今日である為、そんな事を思ってはいてもおくびにも出さない一夏。 それはそれとして、やはり昨晩の千冬は相当怖い一夜を過ごしたようだった。「正直な話、身が持たん。」 千冬はそう言ってガックリと項垂れてしまった。「つっても……束さんからの説明がIS学園に来てるんじゃなかったのか? 銀華の機能じゃ男を女にするかそれを元に戻すしかできなくて、生粋の女性を男にする事は出来ないって。」「御門の事を女だと固く信じている連中が、その説明で納得すると思うか?」「……」 一夏は首を横に振らざるを得ない。 一応、束の方でも銀華に付いてしまった機能を再現して試してみたらしいのだが、性別を変える事が出来たのは瑞穂のみであり、女性を男性に変える事は出来なかったらしい。 瑞穂以外の男性にいたっては、そもそもISが使えないから論外という話になってしまっていた。 性別を変える機能はISの機能である為、ISを動かさなければ作動させる事が出来ないのだ。「いやあ、ISコアが男の子を拒否するなら、男の子を女の子にしちゃえば良いじゃないって思ったんだけど、世の中そんなに甘く無かったよ~~」 とは束の弁である。 一夏としては言外に「IS動かせる男の子なら行けるんじゃないか? つまり一夏でもいけるんじゃないか?」と言外に言われているようで、非常に心臓に悪い物言いである。「とりあえず今週の土曜には、束の奴にあんな機能が出来てしまった下地を作った苦情を言いに行くとしてだな……」 千冬の目が据わっていた為、ストッパーとして着いて行かねば拙いと思う一夏。 束がいるのは千早の家なので、千早も連れて行かねば拙いだろう。 それに千早に関しては、ボチボチもう一度家族に会いに行かせてやるべきだとも思っていた。「さっきも言ったが、このままでは私の身が持たん。 寮監には私の代わりに山田君に入ってもらって、私はお前達のアリーナに泊まるぞ。 今度はきちんと上の方の許可をとってあるから大丈夫だ……今週限りと言う期限付きなんだがな。」 千冬はうつむいてため息をついてしまった。 おまけに山田先生の書類仕事をある程度肩代わりするのが、彼女に寮監を代わってもらう条件だった為、一夏を彼女直々に鍛える為の充分な余裕は確保できそうにない。 その為……「私が今日から貴方達の専属コーチとしてミッチリ鍛えてあげるわ!!」 楯無が一夏達を鍛える千冬の補佐としてアリーナに避難する余地が生まれたのだった。 まあ、現在の状況で楯無に寮暮らしを強いるのも酷というものである。 男女が一緒に暮らすのはどうかとも思ったのだが、幸いにしてアリーナには多数の部屋が存在するので、千冬と楯無にはそちらで寝泊りしてもらえれば問題は無い。 一夏と千早は、こころよく楯無をコーチとして迎え入れてあげたのだった。===============「それじゃあとりあえず今日は、普段の練習風景から見せてもらおうかしら。」 そう言った楯無の目の前で、一夏と千早はISを装着して柔軟を行った後、ウォーミングアップとしてホログラムターゲットの訓練ゲームを1時間ほど行う。 その動きは小刻みかつ複雑であり、箒が始めてこの訓練を目の当たりにした頃に比べて、二人の動きは明らかに洗練・高度化している。 それでいて個別連続瞬時加速の常時使用により850Kmと940Kmという高速を維持し続けているのだから、二人の長足の進歩が見て取れる。 その為、2人の被弾率は大幅に低下しており、またターゲットの色の変化もかつてより明らかに目まぐるしくなっていた。 ウォーミングアップを終えた二人は、今度はシミュレータで戦う事の出来る強敵達に戦いを挑む。 一方が休んでいるという状況を好まなかった2人は、2人がかりでやっと勝負になる強敵に挑んだり、ザコオービタルフレームやナインボールが延々と沸いてくる荒野乱戦を骨身を削りながら戦い続けたりしている。 一方が力尽きて動けないときにのみ、彼らは一人でシミュレータに挑んでいた。 ACシリーズをした事のある者にとっては「ナインボールが延々と沸き続ける」という光景は悪夢以外の何者でもないのだが、それでもこのシミュレータでは脅威度が下位なのだから恐ろしい。 やろうと思えば、ラインの乙女とラインブレイカーが大挙して押し寄せてくるという人知を越えた悪夢さえ現出させる事が出来るのが、このシミュレータの恐ろしさだった。 ……さすがにそこまで無謀な事は一夏達もしていないが。 そんな狂気染みた訓練が行われる事4時間、一夏と千早は全ての体力を使い尽くしてその場に倒れ伏してしまったのだった。「……いや、こんなに気合を入れた訓練をしろだなんて、お姉さん言った憶えは無いんだけど……」 しかし、一夏は毎日こんな具合なのだと息も絶え絶えに言った後、そのまま意識を手放してしまった……ISを身につけたままで。 一応自分も同じ位過酷な訓練を毎日のように受け続けた経験があるとはいえ、流石にちょっと信じられない楯無。 彼女は対暗部用暗部としての圧倒的な戦闘力を生まれた瞬間から求められ、人間ではなく強靭な生物兵器として育て上げられたのに対して、一夏達はIS学園に来るまで一般の民間人だったのだ。 ここまで過酷な、それこそ彼女自身のような生物兵器用の訓練が、少し前まで一般人だった彼らの常態とは考え辛かった。 そこで楯無はアリーナに残されている映像記録を確認し、一夏が話した事が真実である事を確認する。「……これからビシバシ鍛えようと思ってたのに、これ以上過酷な鍛錬ってどんなのよ……」 一夏を鍛え続ける事で一週間といわず、その後もずっと卒業までアリーナに居座り続け、女の自分に孕ませてほしいなどと言う理解不能な事を口走る連中から身を守ろう、という彼女のプランが出だしで頓挫したような気がした。 ISについて鍛えるのは、とりあえずIS用火器を引っ張り出して射撃訓練をさせるくらいしか思いつかない。 シミュレータがある以上アグレッサーとして二人を鍛えるのは論外だった。 「動きがパターン化されていない、より強い敵との勝負でレベルを上げさせる」という名目でアグレッサーをするのであれば、ラインの乙女やラインブレイカー以上の戦闘力が要求されてしまう……少なくとも現時点の彼女ではお話にならない。 さらによりレベルの低い、彼らのレベルに合わせたアグレッサーというのであれば、多少下限が高すぎるような気がするとはいえ様々なレベルの敵と対戦できるシミュレータの方が、一人しかいない楯無よりも良好な相手であるのは明らかだった。 マニューバについての訓練も考えないではなかった。 というか、当初は素人という事もあり、アリーナ内を高速で飛びまわれるとはいえ大雑把な所も見られた一夏達のマニューバを重点的に鍛えようと思っていた。 素人がISを使うに当たって、第一の障壁となるのがマニューバであるからだ。 しかし、2人はクラス代表選考戦の時よりも複雑化した機動を平然と行っていた。 流石にあんな真似ができる相手にマニューバに関する指導を行うのは、釈迦に説法も良いところだった。「できるとしたら、生身での指導かしらね……」 まあ、それでもあの反射神経がある以上、滅多な相手には負けないんだろうけど。 楯無は、内心そうこぼした。 と、ふと、楯無はあることに気付く。 一夏「達」は、毎日このように体力を使い尽くして眠っている……つまり一夏と「千早」は、毎日シャワーも浴びずに倒れ吹いて眠っているという事になる。「……毎晩汗まみれで眠っていて、それであの美肌……!?」 楯無は信じられない気持ちを抱き、ありえないと思いながらも千早の様子を確認しに行く。 向かった先に倒れ伏していた千早は、ISを装着したまま、汗まみれで意識を手放していたのだった。「…………」 その瑞々しい肢体を濡らす玉の汗は、汗であるにもかかわらずまるで宝石のように煌びやかに銀の少女の美しさを演出している。「……嘘……よね……?」「……あまり御門について深く考えん方がいいぞ。 頭の出来で束の阿呆に挑むようなものだからな。」 そう言われて振り向いた楯無の背後には、タオルを手にした千冬が立っていた。 彼女の背後には、千早と同じくISを身につけたまま倒れた一夏の姿がある。 どうも、一夏の身体を拭いてやった直後のようだった。 千冬は、手にしたタオルで千早の身体を拭き始める。 そんな千冬に、楯無はこう言った。「そうは言うけれど先生、毎日この生活を送っていてそのお肌っていうのは」「五月蝿い黙れ。 私だって葛藤しているんだぞ。」 千冬と楯無は示し合わせたかのようにため息をついた。「大体、お前だって人の事を言えた義理か。 生まれてこの方ずっとコイツ等並みかそれ以上に過酷な訓練漬けになっているお前がその肌だという事も、十二分に驚異的なことだと思うんだがな。」 千冬はジト目で楯無を睨む。「その容姿と地上最強の称号を併せ持つ人がそういう事言う?」 楯無からもカウンターが飛ぶ。 しかし、そんな彼女達も基本的に寝る前は綺麗に汗を流していた筈だった。「……IS着けて寝るのって、お肌の美容に良いのかしら?」「……試してみるか? こいつ等の話によると、寝違えたらエラい事になるらしいがな。」 と、その時。「う……ん…………」 と、千早が寝返りを打つ。 その寝顔もまた、輝くほどに美しかった。「「…………」」 もはやため息も出ない。「……今日は私もISつけて寝ようかしら……?」 楯無がそう思って実行に移したのは当然の帰結と言えた。 ……しかし人体とは、ISの脚部などという巨大な高下駄を履いて眠るようには設計されていない。 翌朝、楯無は足を寝違えて立てなくなってしまっていたのだった。 楯無より明らかに錬度が低い筈の一夏や千早が眠れていたのは、単純に「ISを装着した状態での睡眠」については楯無よりも彼らの方が慣れていたこと以上に、2人のISが小型軽量である事が大きいらしく、小型ISでない≪霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)≫を専用機とする楯無ではISを身に着けて寝る事は難しいようだった。 その事を楯無が知ったのは、マッサージで彼女の足を復旧させてくれている一夏からその話を聞かされた時の事だった。「ぐっ、そ、それでもお姉さんは貴女のような玉のお肌を諦め切れないの……」「貴女みたいな凄い美人が、一体何を言ってるんですか。」 こんな痛い思いをしてまでも美肌を得ようとするなんて。 男性である一夏と千早は、女性の美しさへの執念を垣間見たような気がしたのだった。==FIN== え? こんなん生徒会長違う? 彼女はもっと泰然としている筈だって? 百合(と書いて「捕食者」と読む)の恐怖に怯え震えるお姉様(と書いて「被捕食者」と読む)に泰然としていろというのは酷な話なのでは……? まあそれはともかく。 彼女のような暗部の人間はちーちゃんが男の子だって言うのは一目見て気付いていました。 が……第1段階「へ? あれで男? いや男だって自分で見抜いていてなんだけど……」第2段階「は、はははっははは、あらゆる面で女の子として男に劣る私達って一体何なのかな……」第3段階「なーんだ、女の子が妙な機能で男に化けてただけだったんだ。」 という経過を辿っていまして、彼女たちですらちーちゃんの事を女の子だと思っているという惨状になっていますw え? 瑞穂ちゃんですか? 皆さんご想像の通りの目に遭ってますが何か? ただでさえ紫苑さまがいらっしゃるというのに、まだまりやが日本にいますからね……