束が去った後の、日曜日のアリーナ。 束の話は箒と鈴音にとって色々と衝撃的過ぎた。 何よりも、彼女自身がこの女尊男卑の世界に閉塞感を感じ、絶望している事が意外だった。 ならば男性用ISの研究を完成させろと言いたい所だったが、それでは女尊男卑がなくなろうとも彼女がそれ以上に嫌っている閉塞感がなくならない。 彼女が認識できる男性である一夏と千早が現状でもISを動かせてしまっている以上、束にとって男性用ISの研究は優先度が低くなってしまっているようだった。 ……そうだ、千早だ。 束の話に思いを巡らせていた2人は、束の話の中で無意識のうちに考えないようにしておいた、千早についての話をつい思い浮かべてしまった。「「……あれで、男…………!?」」 あらゆる面で自分達よりも女性として美しく、気品に満ちて、更に母性的な優しさに満ち溢れた、IS学園でも最上位の美貌を持つ銀の少女が、実は男だという。 それなりに自分の容姿には自信があった2人には、あまりにも絶望的な話だった。 正直何かの間違いだと思いたかったが、束の話し振りは千早を完全に男性扱いするものであり、彼女が千早の性別に関して嘘をつく理由が思い浮かばなかった。「……あ、あれで男だというなら、肌のきめ細やかさなど、あれはどういう事なんだ!? 男だというのにもかかわらず、何故ああも手入れが行き届いているんだ!?」「いや、スキンケアってした事ないらしいぞ。」 一夏の返答に、紅椿を身につけた箒が衝撃と絶望のあまり、IS初心者のごとく突っ伏して倒れてしまう。「顔つきとか、髪の毛とか、ボディラインとか……」「……どれも単なる生まれつきです。」 千早の返答に、甲龍を身につけた鈴音が衝撃と絶望のあまり、IS初心者のごとく突っ伏して倒れてしまう。 そして。「「あは、あはは、あははははははっはははっはははっははっはっはははははっはっははっははっははははっははあはははははははハハハハハハはハハハハハハはハハハハハハはハアはああアはああはははあはハアはハハハハハハハはははあハアハアはハハハハハハハはハハハハハハハはあはハハハハハハハはハアは八ははははあハア八はアッははははあはハハハハハハハアははははあははははあははハアハハハハハハハアはハハハハハハはアはああはははあはハアはハハハハハハハはははあハアハアはハハハハハハハはハハハハハハハはあはハハハハハハハはハアは八ははははあハア八はアッははははあはハハハハハハハアははははあははははあははハアハハハハハハハアはハハハハハハハハアッハアははははははははははあははっはあはははははははあはアッはハハハハハハハはハハハハハハハはははははははははあははっはあはははははははあはアッはハハハハハハハはハハハハハハハ八はああはははあはハアはハハハハハハハはははあハアハアはハハハハハハハははハハハハハハ八はアッハハハハハハはハアはハハハハハハハハハハアッハアはハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハはアッハアはアはハアははハハハハハハハはハハハハハハハはハハハハハハはハハハハハハはハハハハハハハアアッハアはハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハはアッハアははははははははははあははっはあはははははははあはアッはハハハハハハハはハハハハハハハはははははははははあははっはあはははははははあはアッはハハハハハハハはハハハハハハハ八はああはははあはハアはハハハハハハハはははあハアハアはハハハハハハハははハハハハハハ八はアッハハハハハハはハアはハハハハハハハはハアははああははああはははあはあははははあはははははははははははははははははははは………………」」 二人して死んだ瞳の虚ろな笑顔で、壊れた笑いを始めてしまった。「……お、おい、大丈夫か!?」 心配そうに話しかける一夏。 当然だが、それしきの事で二人の笑いが止まる筈がない。 周囲の女生徒達も代表候補生がいきなり突っ伏すという異常事態に何事かと思い、続いて聞こえて来た壊れた笑いに更なる異常を感じていた。 そして元凶は。「一夏の時もそうだったけど、僕が男だって言うのはそんなにショックな事なのか…………?」 二人が壊れてしまった事に対して、ショックを受け、女の子座りで手を地面につけていた。 通常、ISを身につけてこのポーズをとる事は困難なのだが、脚部パーツが足にフィットする大きさの銀華は無理なくこのポーズを実現させていた。「返してくれ……」 箒が突然か細く呟く。「へ?」 千早が戸惑い声をあげる間もあればこそ。 箒はISの飛行能力を利用して、体勢を立て直しつつ千早に詰め寄った。「私に、女としてのプライドを返してくれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」「そ、そんな事言われても、僕にはどうすることも出来ませんよ!!」「ははっはははは、あ、ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない…………」「……鈴の方が重症だな、これは。」 きっと箒の方は他にもショックな話を聞かされていたから、鈴と違って千早が男だって事に対するショックはある程度相殺されてんだろうな。 一夏はそう当たりをつけた。「そ、それに貴女達IS学園の女性にとっての女のプライドというのは、僕達男性には本来使えないISを使えるという戦闘力の優越性の事ではないんですか?」 千早はそう口走ってしまった。 IS学園生の関心事は、どこの誰がどれほど強いか。 「インフィニットストラトス」についての話題である程度は知っていたとはいえ、IS学園で生活していてその事を強く実感した千早はそう思っていた。 ……いかに最上の美少女に見えようとも、彼は男性である。 女心が分からない時もあった。「なっ……生憎だが、私はさほど強いほうではない!! それにっ、それとこれとは話が別だ!!」「お、女らしさなんて女尊男卑の今の世の中じゃ……」「それ以上言うな千早。 火に油を注ぐだけだ。」 通常、火に油を注ぐ側に立つ筈の一夏すらも千早を止め、箒と鈴音を宥めに入る。 その間に千早は、何事かとやって来た女生徒達に対して律儀に束の話を話して聞かせ……少女達の多くは千早が男性であるとする箇所は誤情報であるとして、相手にしなかった。 いかに天才・篠ノ之 束といえども見栄があり、未だ成果の上がらないISを男性に使用させる研究について見栄を張る為、千早の事を男性とする苦しい嘘をついたのだと。 その事が箒と鈴音の耳にも入る。 そして、彼女達もそう思う事によって、精神の均衡が図られたのだった。「ちょっとまって。何、そのオチ……」「そう言うな。 大体、束さんの研究が未完成で実用化には程遠いにも程があるのは事実じゃないか。 お前みたいな奴にしか動かせないんじゃ、結局意味無いぞ。」「僕くらい女の子にしか見えない男の子ねえ、はあ……」 非常に納得がいかない千早であった。=============== 翌日月曜日の朝のSHR。 千冬に、箒がいきなり専用機持ちになったと聞かされた1組の生徒達は騒然となった。「文句がある奴がいるのは重々承知だ。 だが、あの阿呆が紅椿なるISを置いていった以上、その紅椿を所有者無しの状態で放置することは余りにも危険だ。 それに……このIS学園内で代表候補生等の国家や企業に所属する者の手に篠ノ之 束製のISが渡るというのは、IS学園が掲げている中立性を著しく毀損させてしまう。 所詮建前に過ぎないとはいえ、IS学園から中立性がなくなると大変な国際問題に発展する。 そう考えると、束の妹であり、束から紅椿の所有者と指名され、代表候補生のような国や企業との関わりを持たない篠ノ之というのは妥当な人選だったんだ。」「一個人にISなどという強大なものを渡すと?」「その一個人の上に全てが成り立っているのが、IS業界だぞ。 忘れたのか? 篠ノ之の姉である束が作った、奴にしか作れんと言われているISコア。 その上に全てが成り立っているのがIS業界なんだ。 それを思えば、一個人云々など今さらだぞ。」「それはそうですが……」 少女の声が小さくしぼむ。「でも一個人が最新鋭ISを所有するなんて、国際的に問題になってしまうのでは?」「どこかの国や企業と密接に関係している代表候補生に、あんなもの渡す方が国際問題になるわ。 それに……ISコアを作れない連中が貴重品として扱うから国際問題がどうのという話になるのであって、自力で作れてしまう奴に関しては話が違ってくるだろう。 あの馬鹿者は自力でISコアを作れてしまう上に、その辺の事を全く考えられない迷惑極まりない性格をしている。 正直、今回のような事はいつかはやると思っていたぞ。」 千冬も頭を押さえている。「文句の言いたい奴は言えばいい。 篠ノ之、文句は言われるだろうが、そういう奴等には言い返すな。 専用機持ちに相応しいくらい強くなる事で見返せ。 いいな。」「……はい。」「では、紅椿の件についてはこの辺にしておくぞ。」 そして千冬は話を切り替える。 束が男性にもISを使えるよう研究していたという話は、その影響力の大きさがあまりに大きすぎ慎重に扱わねばならない事柄なので、迂闊にこの場で話す事は出来ない。 ちなみに、束がその研究を中断させた理由が自分にあると知った千冬は、女尊男卑のゆがみを大きくしてしまったという自責の念に駆られた。 彼女は一夏を一般人と考えていた為、「一夏をISに関わらせたくない」という希望が、そんなにも大きく世の中に影響するとは思わなかったからだった。 千冬がその代わりに出した話題は、今日のクラス代表選考戦の事だった。「さて、憶えていると思うが、今日はクラス代表選考戦の3戦目がある。 特に御門と織斑。 気心が知れている相手だとは思うが、手加減などはするなよ。」「「はい。」」 2人とも、それはむしろ望むところだった。 何しろ、戦う事を生業にしている代表候補生という超人兵士とはいえ、戦闘行為において圧倒的に格上の相手だとはいえ、見目麗しい少女相手に刃を突き立て拳を振るうよりも、男同士でそうした方が気が楽で非常にやりやすいのだ。 もっとも、一夏対セシリア戦、千早対シャルル戦で、そういった気遣いをした憶えは2人ともないのだが。「それとオルコットとデュノア。 分かっていると思うが、ここで敗れれば3敗目だ。 後が無いと思え。」「「はい。」」 一方で、少女達の方も真剣である。 ラウラについてはある程度は仕方がない。 彼女のAICは1対1では正に無敵である。 しかしもう一つの黒星は、ド素人相手にとった不覚である。 ここで更なる醜態を曝すわけにはいかなかった。=============== 放課後、例によって大勢の生徒達がアリーナに集まっている。 1回戦目はシャルル絶対有利の下馬評が動かず、みなの興味は2回戦目、最強の運動性を誇る高機動機同士の戦いに向いていた。「なんか、今日の僕たちって添え物状態ですね。」「まあ仕方がないですわね。 あの2人のアリーナで行われているなどとても信じられないという高機動戦闘、確かにわたくしも興味がありますもの。」 セシリアはシャルルの呼びかけに応じる。 彼女は今日の自分に対する扱いに憤りを感じていたが、シャルル相手に勝ち目が薄い事も分かっていた。 何しろ彼は、あらゆる距離で戦う事が出来るのだ。 距離を詰められたらどうしようもない自分では、かなり難しい相手だった。 セシリアは前回の反省を踏まえ、戦闘開始前からレーザーライフル・スターライトmkⅢを出している。 未だに千冬に指摘された癖を直せていないため、少しでも隙を少なくする為だった。(こうして考えてみると、ラピットスイッチとはとんでもない代物ですわね。) シャルルの修得している高難度技術、ラピットスイッチの難度を思うと、自分が彼より格下なのは明らかなように見えた。 セシリアは目の前にいるシャルルの、少女のような可憐な少年のどこにそこまで凄まじい修練の跡が潜んでいるのだろうと思った。 が。(今、そんな事を考えていては負けますわね。) 本日の第一試合、セシリア対シャルルが開始された。「っ!!」 二人は中距離での撃ち合いを始める。 やはり射撃戦専業であり、第三世代機を使用しているセシリアの方がやや優勢ではある。 だが。「レーザーライフルはチャージが分かりやすくて避けやすいですよ!!」「くっ!!」 発砲を事前に察知される為、一夏のように素直に当たってはくれない。 彼は代表候補生なのだ、発砲のタイミングさえ見切ればレーザーをも避ける。その訓練は受けている筈だった。 回避能力において彼は、素人の一夏とではあまりにもモノが違った。 他方、シャルルの射撃精度も高く、得意の中距離で優勢に戦えているとはいえブルーティアーズのシールドエネルギーも無傷ではいられなかった。 と、シャルルが一気に距離を詰めてくる。「瞬時加速!? ここで?」 代表候補生なのだから、その位使えて当たり前だ。 驚きを一瞬で制したセシリアは判断するが、その一瞬の間にかなり詰められてしまった。 あまりに距離を詰められすぎると、勝ち目のない接近戦に持ち込まれてしまう。 セシリアはスターライトmkⅢだけでは手数が足りないと判断し、リスクを承知でブルーティアーズを展開させたその瞬間。「っ!!!!」 正確な狙撃のように、アサルトライフルの弾丸がブルーティアーズ制御の為に動けないセシリア目掛けて襲い掛かってくる。 通常の狙撃と違う所は、単発ではなく、夥しい数の弾丸による物であるという事だった。 シールドエネルギーが一気に削られた。 一夏が指摘したブルーティアーズの弱点。 シャルルのそれを見切っていると思うべきであり、一夏以上に容赦なくその弱点をついてくると思うべきだった。 射撃戦での命中精度はセシリアの方が上とはいえ、シャルルの射撃によって彼女のシールドエネルギーも確実に削られていく。 また徐々に苦手な接近戦に持ち込まれ、そこから逆転する術をセシリアは持ち合わせていない。 彼女達の戦いは、下馬評通りの結末を迎えた。=============== 第二試合開始前。 初めて銀華装備状態の千早を見る女生徒達が、その美しさにため息をつく。 既に見た事がある者も、彼女達にその美しさを説かれ、改めてその美しさに気付く。 銀糸の髪を棚引かせる、その美貌に神秘的な輝きの瞳を持つ銀の少女。 その瑞々しく均整の取れた、女性的な柔らかさを持った肉体を覆うのは、銀の装甲。 通常のISより小さな腕部パーツは気品ある長手袋のように、二の腕半ばまでを覆い、大きなユニットではなくブーツのように足にフィットした脚部パーツは太股半ばまでを覆う。 そこから覗く白い太股は、女性ならば誰もが憧れるような優雅な脚線美を持ち、視線を上に向けると腰部装甲と胸部装甲が目に入る。 腰部装甲の脇に控える非固定浮遊部位のスラスターは優雅なスカートのような八の字を描き、胸部装甲はしかし動きの邪魔になっていない事は明白。 背中には唯一ISに相応しい大きさを留める大きな非固定浮遊部位のウィングスラスター。 そして頭部パーツはまるでティアラのように見えた。 ため息をするほど美しい、それは戦場に立った銀の姫君だった。 しかし、その機動を見たものは皆、その美しさの中に秘められた運動性という力がいかに凄まじいかを知っている。 それはか弱くたおやかな姫君ではなく、戦場に立つに相応しい力を秘めた美姫であった。 相対するは白き鎧武者。 同じく小さな腕部パーツと脚部パーツは銀華に比べて、力強く無骨。 非固定浮遊部位の各種スラスターは、まるで背に無数の武具を背負っているかのよう。 しかして、この白武者の獲物が、たった一振りの刀でしかない事は周知の事実であった。 胴体部の装甲も、ISの標準よりは多いようだった。「噂には聞いていたけど、本当にお姫様みたい……」 誰かがそんな事を言う。 千早にとっては知らないほうがいい事である。(男だなんてありえるはずないよねぇ……) 昨日の束の話でアイデンティティが崩壊しかけた鈴音は、そう呟いたクラスメイトの隣で、向かい合う想い人と銀の少女に目をやった。 これから行われるのは、闘争という名の銀と白の超高速の舞踊だった。 試合開始の合図の直後。 代表候補生など一部戦闘力が非常に高い生徒を除いて、殆どの生徒が一夏と千早の姿を見失う。 彼女達の目には、二人が忽然と消えたように見えた。 やがて聞こえてくる衝撃砲の音に、二人が確かに戦っている事を悟った彼女達が二人を探すと、2機のISが信じられない超高速でアリーナ中を縦横無尽に飛びまわりながら切り結んでいる事に気付く事が出来た。 一方、当初から目で二人の動きを追い、理解できた生徒達もその凄まじいスピードに舌を巻く。 何しろ時速850kmと時速940km。 いかに地上最強の兵器であるISと言えども、直径400m程しかないアリーナの中で出せて良いスピードではない。 白い850kmの曲線的な機動と銀の940kmの鋭角的な機動が、時に並行するように、時に正面からぶつかるようにして複雑な軌道を描きながらランデブーを重ねる。 その一瞬のランデブーの度に、千早が雪片弐型の斬撃を避けつつ簡易衝撃砲を一夏に打ち込んだり、突っ込んでくる千早に対し忽然と一夏の手に現れた雪片弐型がカウンター気味に突き出され、千早が辛うじてそれを避けるといった攻防が繰り返される。 その攻防の内容を把握できる生徒など、それこそ代表候補生や生徒会といったごく一部に限られていた。 そして終局。「白式 シールドエネルギー0。 勝者 銀華。」 一般の生徒でその宣言に気付けた者が果たしてどれほどいただろうか。 戦闘自体が凄まじいスピードで行われているのだから、その終結もまた早いのは当然。 分かってはいたが、あまりにもあっけなかった。(2人とも穴がないわけじゃない。 あたしみたいな代表候補生なら、なんとかあの2人のIS相手でも戦える。 ……けど、初めてISに触って2ヶ月経ってないのにコレはないわよね。) 鈴音はそう胸の中で呟く。 かつて一夏は、彼女の事を凄い才能の持ち主だと言っていた。 だが、彼女には一夏と千早の方がチートじみた才能の持ち主のように思えた。 何故だか剣技などの戦闘技術の面に関してはさほどのものではないように見えたが、それにしたところであの馬鹿げた超高速である。 敵として戦う事を想定してみた場合、馬鹿に出来た相手ではなかった。 勝負が終わり、高速機動を止めた2人の息は荒い。 流石にあれだけの高機動戦闘、消耗がないはずがなかった。 しかし、流れ落ちる汗さえも、千早の美貌を宝石のように引き立たせていたのだから、反則だった。 鈴音は、近くの誰かがこう呟いたのを聞いた。「戦うお姫さまってとこかしら?」 その彼女が一夏と共にいる。 絵になる所が悔しかった。「戦うお姫さまね、それイタダキ!!」「へ?」 ふと鈴音が声のしたほうを見ると、慌しく立ち上がった少女が携帯電話をかけながら走り去っていく様子を見る事ができた。 その瞬間、千早が言い知れぬ悪寒を感じた事など、鈴音が知る由もない。 その後、木曜日に第四戦、あくる月曜日に第5戦が行われる事となった。 月曜日といえばもうクラス対抗戦と同じ週になってしまうが、ISの修復などは充分間に合うという目算であった。 そして第4戦の組み合わせは……第一回戦 一夏 対 シャルル第二回戦 千早 対 ラウラ という組み合わせに決定したのだった。===============「いっくんには燃費対策の強化をしてあげるとして、千早君には切り払いができるようにしてあげよっかな?」 一夏と千早の戦いをIS学園にハッキングして見ていた束は、そんな事を呟いていた。 彼女はその高速戦闘を見て取る事が出来、またその気になれば自由に映像をスロー再生させる事も出来たため、ジックリ見る事ができた。 ……彼女の呟きを千早が聞けば、「そんな事を言う位なら最初からIS用ブレードの一つくらい持たせてください」と抗議する事請け合いである。 今回の対白式戦でも、千早は雪片弐型を避ける他なく、機動力で銀華に負けている一夏とはまた違った苦労を背負っていたのだ。 所詮彼の武器は衝撃「拳」でしかなく、刃物とは打ち合う事が出来ず避けるしかない。 しかし、単なるブレードを銀華に持たせるつもりは、束には毛頭なかった。 銀華には通常とは少し趣の異なる物を持たせようと構想している。「にしても、ほんっとうに女の子にしか見えないなあ千早君。 もーちーちゃんってよんじゃおっかな? あーでもちーちゃんはちーちゃんだから、千早君はちーちゃん2号ってとこ?」 ちなみに、この時の映像は御門家の人々にも提供された。 千早の無事を知らせ、彼の近況を知らせる事が、御門家滞在の条件だったからである。=============== 翌日、千早は校内新聞を見て悶絶した。 その校内新聞の見出しにはこうあった。『女神の美貌を持つ銀の戦姫、神速の激闘を制する。』「な、何だこれーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」 『銀の戦姫』という二つ名がIS学園新聞部から千早に贈られた瞬間であった。==FIN== 時期的に見ると、この時点で対セシリア戦の筈なんだよな…… ちなみに白式が銀華に負けたのは相性の問題です。 中の人の性能も、対代表候補生よりかはマシな差とはいえ銀華の方が上ですし。 ちーちゃんと一夏が大分強そうに見えますが、実の所そうでもないです。 何しろここの一夏、実は単純な剣技に関しては2巻や3巻時点の「一夏」に劣ります。 理由は、4月~6、7月までの長期に渡る、箒による剣道指導がないため。 一夏と千早はISをごく自然に扱えるようになる事を最優先し、剣技などのISを使って戦う為の戦闘技術が後回しにしてしまっています。 その為、ISの操縦で一見凄そうに見えても、戦闘技術の差が大きく代表候補生に負けます。 前の話で千冬が言っていた 「接近戦しか出来ないのに、その接近戦で技術差で敗北する」 というお寒い状況がこの2人なわけです。 とはいえ、やっぱり少し強くしすぎたかな? そしてちーちゃんについては合掌w※訂正 流石に2,3巻の「一夏」に負けるほど見下げ果てた強さではないですね。 一夏にはちーちゃんがついていて、訓練密度が濃い事を忘れてました。 とはいえ、代表候補生は年単位で地獄の底で強さのみを追い求める毎日を過ごしている筈なので、やはりただのチート一般人に過ぎないちーちゃんや一夏では到底彼女達には歯が立ちません。 後回し云々を抜きにしても、範馬さんちのバキ君とその辺の腕利きの喧嘩屋くらいの巨大な差が、代表候補生とちーちゃん・一夏の間に横たわっています。 そして更にどうしようもない代表候補生と千冬姉の壁があるわけですが……もうこの人、範馬さんちの勇次郎さんくらい強いだろ、生身でも。 やっぱり一夏;千冬=抗核エネルギーバクテリア:ゴジラってー印象は結構適正なような……これは良い過ぎにしても一夏:千冬=げっ歯類:ゴジラくらいはあるような気がする……