5%目 好敵筋肉
今日はまどかたちは魔女退治にやってきていた。
言ってみれば今回がはじめてのコンビでの魔女退治であり、まどかは魔女たちを相手に筋肉を振るっていた。
結果を一つだけ言うならば、マミのソウルジェムに穢れは一切ない。
その一言に尽きる。
「魔女ってこんなに脆いんですね」
まどかの無邪気な声が魔女よりも怖いと思うさやかとマミであった。
同時刻。
「へえ、あいつやるじゃん」
ビルの上から一連の戦闘を見ていた赤髪の少女……杏子はまどかの見事な、芸術ともいえるほどに昇華された上腕二頭筋を見て呟く。
「……けどさ」
お前はナンバー1じゃねえ。
杏子は猛獣のような気配を纏い、ビルの上から飛び降りる。
「うっらあああぁぁ!
邪魔するぜぇ!」
上空から飛び降りたにも関わらず、ほとんど着地音すら立てずに立っている少女。
まどかも、マミも、さやかも彼女がどんな存在であるかはすぐにわかった。
「あなた、私の獲物を横取りに来たのかしら?」
少しばかり物騒な物言いで戦意を滲ませるが、マミは口調を崩さずに問う。
「わりぃけどさ。
巴マミ、フヌケちまったあんたには用はないんだよ」
にぃと好戦的な笑みを浮かべた杏子はまどかの方に向き直る。
「あたしが用があんのはあんただ。
鹿目まどか!!」
びしぃっと指をさされて宣戦布告。
「え?
え……、ええ!?」
急な展開についていけずにおろおろと戸惑うまどか。
一見するとか弱い少女が気の強い少女に絡まれてあたふたしてほほえましい光景であるが、事実はそんな生易しいものではない。
彼女はこの中で最も高い戦闘能力を持っているのである。
それこそ、まどかを倒したいのなら一個師団でも投入しなければ戦いにすらならない。
口にこそ出さないが、マミとさやかはこいつ死んだなと、早速冥福を祈るほどであった。
「あんたさ……」
口元に好戦的な笑みを見て皆はごくりと息を飲む。
緊張感が張り詰める中、ためをもって再び口を開く。
「……いい筋肉してんじゃん」
……また変なのが現れた。
マミとさやかの心は一つであった。
そして、誰も気がついていないが、いつもどおりまどかのストーキングをしていたほむらも同様に心を一つにしていた。
「あ、ありがとう……」
誰よりも戦闘能力が高いくせにおどおどするのは相変わらずで、この場における主導権は杏子といってもいい。
「あたしの名前は佐倉杏子だ。
もうわかってっと思うけど、あたしもマミと同じ魔法少女だ」
緊張感の欠片もなく、懐からブロック栄養食を取り出し、がりがりと噛み砕いていく。
常になにかしら口にしていないと落ち着かないらしい。
「それで、私になんの用が……」
「そう焦んなって。
……食うかい?」
まどかの質問を遮り、手にしたブロック栄養食を差し出す。
箱には“プロテインメイト”と書かれていて、略してプロメは今世界中のマッスルたちに愛されている大人気のヒット商品であった。
「ありがとう」
その姿を見ていた傍観者三人はそれ以上筋肉つけてどうすんだよと思うが、やっぱり怖くて口に出せなかった。
「さてと、腹ごしらえも済んだことだし、殺りあおうぜ!」
「危険だからやめなさい!」
槍を構え、攻撃態勢に移ろうとした杏子を止めたのはマミであった。
何が危険かは言うまでもない。
彼女たちはまどかが怪我をするなどと微塵も思っていないし、逆にまどかを傷つけられる相手がいたら見てみたいと思うほどである。
「そんなの関係ねえんだよ!!」
静止を振り切り、猛烈な踏み込みでまどかに紅い槍を振るう。
「ぬるいよ」
振るわれた槍はいつの間にか膨れ上がった筋肉によってせき止められ、まどかの腕には傷一本ついていなかった。
「こんなものならいくらやっても無駄だからやめてくれないかな?」
マッスルにしては比較的平和主義のまどかは親切のつもりで忠告をする。
事実、この程度の攻撃ならば20%も必要ないのでだから。
「はっ……、やっぱこのままじゃ無理か。
見せてやるよ。
あたしがキュウベエと契約して得た力をさ!
はああああぁぁぁ!!」
瞬間、杏子の身体から強烈な波動が湧き上がる。
「まさか!?」
それはまどかにとって慣れ親しんだ波動。
「筋力の強化ができるのがあんただけと思うなよ!!」
大気が震えとともに、彼女の肉体がぼこぼこと肥大し、筋肉が波打っていく。
「そう……、それが杏子ちゃんの魔法少女としての力なんだね」
まどかもまた、筋肉のギアを入れ替えていた。
肉体が、筋肉が、本能がこのままでは負けると警告してるのだ。
「それなら、私もそれ相応の力を魅せないと失礼だよね。
……50%」
ドンっと、大気が爆ぜる。
まるでまどかを中心にした爆心地ができたかのように足元はひび割れている。
杏子は笑う。
これがあたしの求めていた聖戦だと。
「……第二ラウンドだ。
いくぜ!」
そして、人外の戦いが始まった。
筋肉は筋肉に引き寄せられる。
魔性が魔性を呼ぶように、運命は放ってはおかない。
ゆえに、優れた肉体を持つものは己が宿業を切り開くために戦う運命を課せられる。
そう、これは必然の戦い。
新たなる時代の幕開けに等しいのかもしれない。
天が叫ぶ。
地が唸る。
今ここに……。
筋肉の時代……来たる!
今……、歴史が動こうとしていた。
『……もうわけがわからないんだよ』
感情がないはずのキュウベエの声が疲れているのは気のせいなのか。
それは誰にもわからなかった。
わけがわからないのも誰にもわからなかった。
あとがき
杏子ファンごめん
マジごめん。
ほんとごめんorz
ちなみに、好敵筋肉と書いてライバルと読むw
ダイ大ネタはついこの間にまた全巻読んでたから導入してみたw
後悔はないw(わかる人少ないかもだけどw