「ふわー……、つっかれたぁ……」
ほむらがどこかに立ち去ったあと、まどかは気の抜けた声を出してへなへなと座り込む。
「まどか!
大丈夫!?」
あんなマッスリーな肉体を持っていて大丈夫もくそもないが、そのあたりはお約束というやつである。
「うん、大丈夫だよ。
ありがとう、さやかちゃん」
にっこりと微笑むまどかであったが、笑顔と逞しい上腕二頭筋が見事なまでにつりあっていない。
「それにしても、まどかのそれって……」
若干びびりながらも、まどかの腕を指差して聞けるさやかは中々の猛者である。
普通は聞く度胸などない。
事実、マミは今も現実逃避をして会話に参加しようとしていないのだから。
言い換えれば、さやかの全力で地雷を踏み抜くことができる程度の能力が発動したとでも言うべきなのだろうが。
「あ、これ?
ごめんね……、気持ち悪いよね。
今元に戻すから……」
まどかは腕に意識を集中させるとぼこぼこと筋肉が波打ちながら不気味な音を立ててしぼんで元の少女らしい腕に戻っていく。
それはさながら身体の中でエイリアンが暴れているようですらある。
さやかとマミは思う。
筋肉気持ち悪っ!!
……と。
余談だが、今後の人生において彼女らの恋する相手がみんな細身であったのはこの光景のせいであったのかは定かではない。
「あはは……。
変なところ見られちゃったな……」
いつものように自信がなさそうなか弱い笑みを浮かべるまどかであるが、そんなありえないことをしておいて変なところで済ませるあたりが図々しいにもほどがある。
「今まで黙ってたけど、これが私の力。
身体の任意の箇所の筋肉を操作できる能力、“筋肉操作”だよ」
戸○呂かよ。
さやかは口に出さなかった自分を内心で盛大に褒め称えた。
「それって、魔法とは関係ないんだよね?」
まだキュウベエと契約していないことを知っているさやかは問う。
「うん、これは私が最初から持っていた力だよ。
ある意味、契約前から魔法少女みたいなものなのかも」
あははと、小さく笑うまどか。
さやかとマミは全力で魔法少女なめんなと突っ込みたかったが、そんなこと怖くて言えるはずもない。
たしかに不思議ですごい能力だけど、これが魔法だったら全国の魔法少女に憧れる子供の夢がゲシュタルト崩壊である。
「いつからそんなことができるようになってたの?」
会話の持っていき方が少々強引だったかもしれないとさやかは思うが、これ以上戯言を聞き続けるのは精神が死んでしまいそうであるし、なにより好奇心が全力全開で聞けと囁いて突貫させる。
やはり彼女は地雷メーカーであるに違いない。
これが別の作品だったら今頃ひき肉であること間違いなしだ。
「この力はね……、気がついたときには使えてたの……」
ふっと、空を見上げまどかが独白する。
本当は隠しておきたい能力であったが、見られてしまったのなら話してしまおうと生まれて初めて自分の過去を語り始めた。
「初めてこの力を使ったのはまだ私が5歳のとき。
川で子猫が溺れてて、助けたいと思ったそのときに私は……」
ごくりと知らず知らずにマミとさやかは息を呑んでいた。
「……川を“割ってたの”」
「はい?」
「はい?」
このとき、マミとさやかの心は完全に一つになっていた。
「意味わかんないよね。
私も驚いたもん。
気づいたら腕がものすごく太くなってて、その力で川の水を真っ二つに割っちゃってたなんて……」
うつむき、今にも泣きそうなまどかであったが、話の内容がありえなさ過ぎてそんなものは全然気にならない。
本当に意味がわからない。
というよりも、むしろ理解したくない。
二人は思う。
驚いたもんじゃすまねーし。
なにより、想像してみてほしい。
可愛らしい5歳ほどの幼女の腕にどでかい丸太のような腕がついてる姿を。
例えるならば、某霊能探偵の敵役だった筋肉な弟さんの腕だけ幼女に移植したイメージである。
もはやシュールを通り越してホラーである。
マミとさやかが同じ想像をして顔を引きつらせてしまうのも無理はない。
ここで平常心を保てるやつがいるなら見てみたい。
「そのときに……、偶然通りかかった男の子がね。
私のことを見て化け物って言って逃げていったの。
それで私は思ったんだ。
この力は使ったらだめなんだって……」
このとき、さやかは親友としてまどかを気遣うべきなのだろうが、彼女はまったく逆のことを考えていた。
目撃者の方ご愁傷様です。
きっと目撃者の人はトラウマになったに違いない。
未だに忘れられないのだろうと、同情にも似た気持ちを抱いていたが、すぐに私には関係ない人だしどうでもいいかと割り切ったあたりが実にいい性格をしていた。
だが、さやかは知らなかった。
幼少時のまどかを見たというのが、彼女の想い人である“上條恭介”その人であることを……。
『きゅっぷい』
どこかの白いナマモノはかわいこぶっても全力で誰にも相手をされていなかった。
あとがき
わけのわからない伏線張っときました☆