僅かの間、まどかは間違いなく気を失っていた。
かつてない衝撃に脳を揺さぶられ、落ちていたが、それは決して恥ずかしいことではない。
むしろ、気を失っても原型をとどめ、ほとんど傷という傷を負っていないのがありえないのだから。
「うぅ……、仁美ちゃん……」
まどかは身を起こし、目の前の光景に絶句しそうになった。
目の前では“あの”仁美が恐怖に慄き、今にもマッスル神によって殴殺されそうになっているのだ。
たとえ敵対していたとはいえ、まどかにとって仁美は大事な友達であり、好敵筋肉。
その彼女が目の前で失われるなど許せるはずがない!
「うわあああああ!!!
80%ォォォォッ!!」
筋肉が倍化し、進化する。
80%はまどかがまどかでいられる限界ぎりぎりのフォーム。
これ以上の筋力操作はまどか自身どうなるかはわからない。
ゆえに、これで決めなければならなかった。
「はぁっ!!」
足の筋力を叩きつけるようにして、ロケットのごとき速度でマッスル神へと飛び、全力で拳をたたきつける。
「何っ!?」
突然の不意打ちにマッスル神は吹き飛ばされ、地面を数回バウンドする。
まどかの手はそこで止まらなかった。
「はああああぁぁぁ!!
どらららららら!」
とてもいまさらで突っ込むのすら無駄であるが、女性とは思えない声で地面に転がったマッスル神の全身を叩き潰す勢いで拳を振るう。
そのあまりの圧力に地面がへこみ、クレーターと化していく。
「……これがまどかさんの本気」
仁美はまどかの底力に戦慄する。
自分はこんな規格外の人間に戦いを挑もうとしていたなんて。
己の修行不足を思い知らされた気がした。
「もう、私では戦いに介入はできませんわね……」
まるでフリーザ戦のときのピッコロのように、魔人ブウ戦のべジータのようにまどかの戦いを見守る。
「……あなたがNO1よ、まどか」
いろいろ突っ込みどころが満載な展開だが、とりあえず三つ巴の戦いはいつの間にか一対一へともつれ込んでいた。
「なんでいつの間にか少年漫画展開!?
マミわかんないっ!!」
そろそろ錯乱してやばそうなのもいるが、そのあたりはスルーである。
キュウベエすら反応していないのだから、真実、今の彼女の相手は誰もいない。
実に損な役回りであった。
「ふぅ……、はぁっ、はぁっ!」
荒く息を吐き、まどかは一旦距離をとる。
これでもダメなら打つ手がない。
「……ここまでやられたのは奴以来か」
「やっぱり……」
当然、この程度で終わるはずもなかった。
クレーターの中から立ち上がってくる人影。
掛けられていたサングラスを失い、何よりも先ほどまでその威容を誇っていた筋肉の鎧が解かれて細身の姿になっていた。
「なに……あれ……」
まどかにはそれが弱体ではないことがわかっていた。
たとえるのならばまるで、臨界を迎えそうになってる危険物のような感覚。
悪寒が止まらない。
「見せてやろう。
神の力をな……」
にやりとぞっとするほど暗い笑みを浮かべるマッスル神。
「これが……」
そして……。
「……100%だ」
絶望の扉が開かれた。
「ねえ、キュウベエって食べられるの?」
『うん、食べられなくはないよ。
僕もたまに自分を食べてるし』
「あ、そうなんだ……」
マミはドブ川の水のような濁った目で現実逃避に勤しむ。
「暁美さんもこっち来ればいいのに……」
だが、犠牲者という名のお仲間に誘うあたりがまだまだ余裕がありそうだった。
「こっちはこっちで絶望的な戦いに身を投じている気がしてならないわね……」
マミを見ていろいろと悩むのはいいが、そうしているうちにもまどかがピンチになっているのに気づいてないあたりが無意識に現実逃避をしているのかもしれなかった。
だが、このとき誰も気が付いていなかった。
誰もが予想しない思わぬ伏兵が目覚めようとしている。
「…………」
その名も美樹さやか!
そう、彼女もまた必死に戦っていたのだ!
このわけのわからない現実で自分の精神と!
安全なところに寝かせられ、誰も見ていないのをいいことに薄目を開けて事態の把握を図り、気を失っている振りを続けようと決めた。
一瞬、マミがこっちを見て縋っているように見えたが気にしない。
気にしないったら、気にしない!
「変ね……、さやかさんが起きていた気がしたけど……」
必死に仲間を探すマミの勘はハンパなく精度が高かった。
ここで気づかれないようにスルーするあたりが汚いさすがさやか汚い。
そんなのマミの壊れっぷりを見てたら当然だなんて突っ込んではいけない。
みんな必死なんだから!
あとがき
ほむほむ迷う。
さやか逃げる。
そして、このナレーター?はどこまで行く気なんだろうってたまに思うww
次回作はさやか魔改造とか、マミ魔改造とかマッスル以外でやってみようかな・・・。