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No.26123の一覧
[0] 戦トロルと三つ目の悪魔[Genitivi](2011/04/11 01:06)
[1] 2[Genitivi](2011/02/24 23:11)
[2] 3[Genitivi](2011/03/17 00:04)
[3] 4[Genitivi](2011/03/17 00:03)
[4] 5[Genitivi](2011/03/21 22:09)
[5] 6【第一部完】[Genitivi](2011/03/29 00:50)
[6] 予告&あとがき[Genitivi](2011/04/01 00:14)
[7] 【短編】十年越しの花見酒[Genitivi](2011/04/11 00:35)
[8] 【短編】心が折れる音[Genitivi](2011/04/25 00:46)
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[26123] 2
Name: Genitivi◆c32eea94 ID:8c4622fa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/24 23:11
 ゲランは大きな姿見の前で今一度身だしなみを整えた。
 特注の大鏡に映っているのは、身長は8フィート(約240センチ)程で、殆ど光を反射しない緑がかった鈍い鉄色をした肌、そしてそれらが逞しい筋肉で盛り上がっている戦トロルの姿である。
 髪の毛は後頭部で縛って一つに束ねている。
 多くのトロルのようにずんぐりと猫背の巨体ではなく、ウォートロルのそれは引き絞られた筋肉質の体躯で、いかにも戦士らしい堂々としたものだ。
 背筋を伸ばしてすっくと立ったその姿は、突き出た鷲鼻と彫りの深い顔立ちもあってかなかなか精悍な様子である。
 身につけているのは身体の要所を守る簡易の革鎧と、その上からフード付きローブを着込んでいる。
 一般的な傭兵稼業の戦トロルにしては、驚くほどの軽装であると言っていい。普通ならば鋼鉄製の全身鎧に人間の背丈ほどもあるグレートソード、そしてこれも常人では弦を引くことすら出来ないロングボウを装備して、それでも物足りない奴はショートソードやメイスを腰にぶら下げもする。
 が、彼に取っては重い鉄製の胴鎧や小手はむしろ邪魔にしかならない。武器もまた同上だ。
 最後に壁に立てかけていた長さ6フィート弱の長さをしたメイジスタッフを掴む。
 魔術師の杖(メイジスタッフ)とは言っても、その外観は何の装飾もない鉄製の六角棒という質実剛健が行き過ぎたようなシロモノで、これを持って彼が歩いているところを見ても誰もコンジャラーだとは分からない。
 むしろ、軽装の武僧か普段着なのかと思うだろうが、これが彼に取っての戦闘服なのであった。

「よし、なかなかだな」

 扉を開けてリビングに向かうと、すでに準備を整えたレーゼが戦闘服で待っていた。
 ぴったりと肌に張り付くタイプの黒いインナーの上から、これもまた体の線が出るような、極小の金属片を幾つも組み合わせて作られたボディアーマーを着込んでいる。
 影鉄鋼(シャドウスチール)で作られたその鎧は、薄くて硬くてしかも軽くて錆びにくいという、戦士からすれば夢のような金属でできている。
 もっとも、これだけの量の影鉄鋼を集めようと思ったら、世界有数の大富豪でも破産は確実だろうが。

「さぁ! 出撃だぞ、レーゼ!」
「はい。まずは地蟲穴からトラン隧道を抜けて、カタコンベに侵入します」
「アンデッドの間引きだったか」
「はい、ついでに遺物の回収と、出来れば白地図も埋めたいところです」
「ふむ、ふむ、宜しい」

 満足気に頷いてから玄関の扉を開けると、ちょうど向かいの部屋からこのアパルトマントに住んでいるイーレンが扉を開けて出てくるところであった。
 ぼさぼさの胡麻塩頭に伸び放題の無精ひげ、そして彫りの深い顔立ちはまるでギリシャ彫刻のような陰影を刻んでいる。
 三十絡みのイーレンは、シミだらけのローブの下に手を突っ込んでボリボリと身体を引っ掻いて、胡散臭気な薮睨みで二人の方を見やった。

「外出か? 外出か? 「奴ら」の所に行くのか? わしの事を奴らに告げ口する気だろう?」
「いいえ、ミスタ・イーレン。私たちはこれから受けた依頼を完遂するためにダンジョンに向かいます」

 丁寧にレーゼがそう答えるが、彼は鼻で笑って両手を振り回した。

「ははぁ、そう言えと「奴ら」に言い含められたのか? わしは騙せんぞ、そうとも、それが奴らの手口だ。さあ、どうだ、当たりだろう? 次はお前だ、お前が質問する番だ。クエスチョン! クエエエェェスチョン!」
「はぁ……」

 レーゼはこの気狂いをどうしたものかと溜息を付いた。
 見かねたゲランは横から彼に声をかける。

「ひどい格好だな、イーレン。最近は姪御さんは来ていないのか?」
「質問か? それが質問か? 戦トロルめ、飽く無き闘争と流血に支配された邪悪な種属め。いいだろう、答えてやる、誰も来ていない、誰も、だ」
「そうかそうか、ならいい事を教えよう。今日の夜あたりに様子を見に来るそうだ、良かったな」
「……」

 イーレンは唐突にピタリと口を閉じると、ゲランの顔をじろりと睨みつけてから地団駄を踏んで部屋に戻った。
 ひょいと肩をすくめると、ゲランはそのまま出口に向かって歩き始める。

「やれやれ、魔道士としては特級の腕なんだがな、アレさえなければ」
「……ブラッドメイジ(流血魔道士)はどうしてああも人格の破綻したのが多いんでしょうか」
「人格の破綻というより、アレは狂気のたぐいだ。イーレンだとて最初からあんなエキセントリックな性格なわけではなかったろうよ。いくら強大な力が得られるからと言って、禁術扱いされるのも納得だ、常人に耐えられる世界ではなかろうて。流血界に魔道を繋げようなんて考える奴らは最初からテンプラーに首を半分差し出しているようなものだ」

 そう言って、ゲランは殆どダンジョンの中と言っていいような危険極まりないアパルトメント――《ウィカンのトラップハウス》を出た。
 常人ならば決して借りようなどと考えないこの物件の利点は大きく二つ。
 一つ、余りに危険な所に建っているので、無用の訪問者や空巣のたぐいは絶対来ない。
 二つ、部屋が広く施設も揃っているが、月の借賃はかなり安い。
 そして付け加えるならば、ダンジョンに直通で向かうことが出来る。最もこれは、利点と考える人間はよほど頻繁に潜っては財宝探しや小銭稼ぎに汲々としているようなやつであろう。
 さて、二人が向かった先は通称「地蟲穴」と呼ばれるダンジョンで、大塔都市の中心にそびえ立つ万年樫の根が複雑に絡み合った地下迷宮である。湿った土と虫の掘ったワームトンネルが延々と続くダンジョンで、大地蟲が気まぐれに掘り進むために思わぬ所に繋がったりもする。
 そんな隧道の一つが、古代王国の兵士達が多く埋葬されているカタコンベに繋がっているのだ。
 人集まれば気集まるといったのは、さて、帝都の筆頭魔道士であったか。
 大塔都市となったララクがアンデッドの被害に悩まされるようになったのは、都市が今のような形になる遥か前だという。
 大勢の人が集まれば、そこには多種多様の感情が集まる。感情に惹かれてやって来た悪霊にとって、地下墳墓に膨大な数が横たわる戦士たちの亡骸は丁度良い仮宿であったのだろう。
 そんなわけで、迷惑な生ける屍共が居住区画に迷い出さないように、定期的にそれらを粉砕してあちらの世界にお帰り願う仕事が頻繁に依頼に出された。
 ただ、そんな依頼だけではろくな稼ぎにはならないので、この二人の場合はカタコンベで受けられる他の依頼も二三纏めて受けるというのが通例となっている。
 
「ええい、邪魔臭い蟲どもめ」

 大量の根と土で出来たトンネルを抜けながら、辺り構わず湧いてくる地蟲の群れを面倒くさげに押しのけて先に進む。
 尋常の冒険者なら、このトンネルに入って一時間も立たないうちに地蟲に食い荒らされてしまうだろうが、ゲランに抱きかかえられたレーゼが二人の周囲に張る力場の壁に押しやられ、殆どの地蟲は二人に到達する前に焼き潰された。
 ゲランの両腕の中で、レーゼは高強度の力場を常に展開し続けるという難行を、いとも容易く実行してのける。
 ただ、やはり移動しながらというのは難しいので、抱き上げてもらわねばならないが。
 ゲランはやや腰を屈めながら、力場の放射する淡い水色の光を光源にしてずんずんとトンネルを先に進むのであった。



■■■■■■



 フィリップは困惑していた。
 とは言うのも、いつもは温厚を絵に書いたようなリリアナが顔を真赤にして声を大にしているからだ。

「なんだよ、そんなに怒鳴らなくたっていいだろ」
「ダメったらだめ! 相手はあのアセイル属なのよ?」
「だから、そのアセイル属って言うのがよく分からないんだけど」

 そう言って首を傾げる彼に向かって、今の今まで真っ赤だった顔を蒼白にしながら、リリアナはアセイル属の恐ろしさを語ってみせた。
 曰く、古代王国の滅亡に一役かった。
 曰く、帝都インペリウムでかの名高き《魔道士の円環》が行った召喚実験では、12人の高等魔道士が持てる力を振り絞っても抑えきれず、天文学的な損害をもたらした。
 曰く、影界において最も強大で凶悪な悪魔。いかなる取引にも応じず、まともな会話が成立した記録すら殆ど無い。
 曰く、彼らの存在のせいで影界の魔道を使う魔道士はほぼ皆無と言っていい。魔道をつなげた瞬間にそれを感知したアセイル属が飛んでくるから。
 曰く、よしんば会話に成功しても、契約を結ぶのは至難の業。そして契約に漕ぎ着けたとしても、殆どの願いを都合よくねじ曲げて結局は破滅的な結果になる。
 曰く、召喚しようとした時点で魔道士の円環と教会から処刑魔道士とテンプラーがすっ飛んでくる。
 などなど。

「とにかく! とんでもない奴なのよ! いつだったか、あのアセイル属は「お前の態度が気にくわない」とかいう理由で商人をミンチにしたことだってあったのよ!」
「でも、俺は生きてるぜ? まあ、耳元でちょっとした殺し文句は囁かれたけど」
「それは……」

 リリアナは言葉に詰まり、椅子に座ったままじっと彼の方を見た。燃えるような赤毛をシニヨンにして纏めた彼女は、その鳶色をした両目で彼の全身を舐めるように見つめる。
 ベッドに腰掛けたままフィリップは自分の壮健ぶりを見せるように両手を広げてみせるが、それでもリリアナは疑わしげに彼を見やった。
 まるで、そうして見つめていれば彼にかけられた呪いを見つけ出せるのでないだろうかというように。

「運が、良かったのよ。わざわざ警告してくれたんだから、今日は留守番をしていて」
「ええー……」

 不満げに唇を尖らせる彼をギロリと睨みつけて黙らせて、リリアナは白木製のロングボウに弦を張ると、有無を言わせずに立ち上がった。

「とにかく! 今日の依頼は私一人で行くから」
「だから、危ないって。それだったら明日にすればいいじゃないか」
「だめ、明日は別の依頼が入ってるの。大丈夫よ、フィリップが来る前はこれくらい一人でこなしてたわ」

 そう言って笑う彼女に、フィリップはむっと押し黙って小さく「俺は足手まといってことかよ」とふてくされた。
 全くそんなつもりはなかったが、失言だったと臍を噛んでももう遅い。
 リリアナは肯定も否定もせずに踵を返すと最後に「おとなしく待っててね」と言い残して部屋を出て行った。
 一人残されたフィリップは当然ながら面白くない。
 つまるところ、彼はまだまだ歳若い、少年に近いような青年であるし、恋焦がれる相手に守ってもらうという関係が癪に障る程度にはプライドも持ち合わせていた。
 そして、これもまた経験不足の若者にありがちで、こうと決め付ければ思慮が足りず、いわゆる一つの若さ故の過ちというというやつだ。

「へっ、見てろ、俺だって……」



■■■■■■



 ドカンと爆炎をまき散らしながら、レーゼの投げつけた火球が炸裂する。
 団子状態になっていた不死者の兵士達は、強烈な火属性の一撃を出し抜けに受けて吹き飛ばされ、あっという間に炎上した。
 爆発の衝撃でバラバラになった敵はそのまま動かなくなったが、四肢が欠損した程度では止まらない不死者たちが全身を炎にまかれて黒煙を吹き上げながらよろよろと進む。
 アンデッド特有の死ににくさに思わず彼女が舌打ちを漏らすと、ゲランがずんずんと死に損ないの群れに向かって歩み寄っていく。

「かっ! 大人しく死んでおけ!」

 風を切る音を辺りに響かせながら六角棒が振るわれると、戦トロルのとんでもない膂力で振るわれたそれはまるで案山子をなぎ払うようにバタバタと敵を叩き伏せていく。
 中にはそれらを掻い潜ってゲランに襲いかかるものもいるが、振るわれた鉄拳で文字通りちぎっては投げちぎっては投げという具合に、全く相手にならない。
 先程まで30体ほどいたアンデッドの群れは、あっという間に焦げ臭い残骸の塊へと変貌した。

「ふん、こんなモノか」

 つぶやいて周囲をゲランが睥睨する。
 辺りには死体の焼ける不快な匂いと、炎のくすぶる小さな音が響いていた。

「討伐対象はこれで全部です」
「相変わらず歯応えのない奴らだ。いつだったか、ほら、シェゴラス平原で戦った奴らみたいのと戦わんと、腕が落ちてしまう」
「まさかとは思いますけど、それってインペリウム・レギオンと殴り合ったときの話ですか」
「おお、そうそう、そんな名前だったか。装備も指揮も練度も最高の奴らだったな、全くあの時には死にそうになった。あんな強敵は後にも先にも奴らだけだったな」

 そういう割には、ゲランは嬉しそうに笑っている。
 他の同属よりはましとは言え、ゲランもしっかりと戦トロル特有の戦争中毒にかかっている。もっとも、それが極々軽度に留まっている故、ゲランは骨卜師に見込まれたわけであるし、レーゼに慕われてもいるのだ。
 そのレーゼはというと、ウランフ傭兵団が帝国軍団と真正面からのガチンコ勝負を行うハメになったその時を思い出したのか、うんざりとした顔で水筒の中に詰まった蜂蜜酒をがぶりと飲んだ。

「トヴィールッツ将軍が退いてくれなかったら、全滅していたかも知れないんですよ」
「ばか、あの将軍があの場で死守なんて選択肢を取るものかよ。たかが属領一つのちっぽけな政治的諍いで、まさかあの将軍が第五軍の精鋭を使い潰すものか、しかも」

 ゲランはレーゼの手から水筒を奪うと、喉を鳴らして中身を一気に呷る。

「……しかも、だ、相手はベリバランとこの俺に率いられた、ウランフ・トロル傭兵団だッ! 俺だったら割に合わなくてすぐに撤退する」
「じゃあ、どうしてあの時、将軍は直ぐに撤退しなかったんでしょう」
「決まってらぁ」
「なんです?」

 首を傾げる彼女に向かって、ゲランはニヤリと牙を剥いて獰猛に笑ってみせた。

「俺達と一戦やらかしてみたかったのさ」

 さて、事の真偽はさておいて、二人はカタコンベをぶらりぶらりと歩き回りながら他の依頼を着々とこなした。
 アンデッドの心臓を25個、大蜘蛛の刺状突起を10個、ウィスプの灰を10ストーン、ホッピングビートルの筋組織を少なくとも30アームスパン、錯覚獣の血液を4ポンド、アラクネの新鮮な糸を最低でも50フィート……。

「それにしても……」
「はい?」

 ちょうど、アラクネの糸をその生産者から物々交換で手にいれている最中に、手近な椅子に腰掛けたゲランが不満顔で溜息を付いた。

「ストーンだのポンドだのオンスだのガロンだの、アームスパンだのハンドスパンだのペースだのフィートだのヤードだのインチだの、どいつもこいつも好き勝手な単位ばかり使いやがって。ちょっとは統一しようという気がないのか。だいたい何だ、指の先から肘までの長さってのは」

 そう言ってゲランがスッと手を伸ばして見せると、隣で黙ってそれを聞いていたアラクネがその繊細で美しい腕を同じように差し伸ばしてみせた。
 比べるまでもなく、両者の腕の長さは歴然としている。

「こんな物が商取引の場で使えるか! いや、そもそもそんな基準の曖昧な単位を使うなという話だ。重量も容積も、温度も、せめて水で基準を作らんか、水で! 長さも、これだけ天文学が発展しながら、何故未だに天動説なんだ、子午線弧長の概念が生まれんじゃないか……」

 ぶつぶつと更に何かを呟きながらドシドシと足を踏み鳴らすゲランを見て、なにか自分が粗相をしたのかというような顔でアラクネがレーゼの方を見た。
 みられた方のレーゼは、呆れた溜息を突きながら糸巻きにしっかりと束ねられたアラクネの糸をバッグに詰め込みながら肩を竦めた。

「いつもの発作です、気にしないで下さい」

 よく分からないといった顔で首を傾げるアラクネをよそに、レーゼは主人の「発作」が収まるまでの間、暇つぶしに取り出した異界札を広げて、魔道と運命の流れを詠むのであった……。










――――――――――――――――
われながらマラザンとかにすごく影響をうけているなとおもう。


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