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No.26090の一覧
[0] 【完結】Muv-Luv 茜色に染まる空 【シャナクロス:旧題 対の炎】[悠理](2011/03/17 10:47)
[1] Muv-Luv 茜色に染まる空 【シャナクロス】前編[悠理](2011/08/10 01:37)
[2] Muv-Luv 茜色に染まる空 【シャナクロス】後編[悠理](2011/08/10 01:38)
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[26090] Muv-Luv 茜色に染まる空 【シャナクロス】前編
Name: 悠理◆be57115b ID:7a2db340 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/10 01:37
マブラブで最強俺TUEEEEを今までで無さそうな『灼眼のシャナ』とのクロスでやってみたいと思ったのでちょろっと。
既に書いてる作品があったらスンマセン。他意はないのです。
Muv-Luvだったら何でもよかった。
今は反省している。




 突然だけど、俺のあだ名は「厨弐(笑)」っていうんだ。
 何故だか判る?

 そうだな……
 龍康殿って読み方判るか?
 「りゅうこうでん」って読むんだぜ。
 別に何か建物を指す名前や小説に出てくる架空の殿様じゃなくてさ、実在する苗字なんだ。
 珍しいだろ?日本で100人も居ないんだぜこの苗字。
 で、下の名前が彼方。
 遥か彼方のカナタ。

 リュウコウデン カナタ。
 そう、俺の名前さ。
 どんだけカッコイイんだよ。
 俺苗字は山田が好きなんだよ。


 さて、自己紹介が済んだ所でさっそくなんだけどさ……………


 俺今ちょっと死にそうなんだよね。
 というか、多分死ぬ。
 しかもあと2~3分で。

 ヤツですよ。
 トラックのヤローです。
 えぇ、撥ねられました。

 こっちも250kgの重さのアメリカンバイク乗ってたんですけどね、KAWASAKIの。
 バルカンのクリーム色、サイコーにイカス相棒ですよ。
 でもね、そんなイカス相棒でも流石にトラックには勝てないワケですよ。

 俺は今地面に転がっている。
 とりあえず痛い。
 声を大にして言いたい。
 痛い。
 あと気持ち悪い。
 気持ち悪くて死にそう。
 ガチで死にそうなくらい気持ち悪いってある意味凄い。
 いやもう死ぬけど多分。
 吐きそう。

 少なくとも右足と右手が折れてる。
 折れてるのが見える。
 あと内臓をやったらしくて鈍い激痛というよく解らない痛みが凄い。
 胆石で倒れた時の痛みの10倍近くある。
 声が出ない……と思ったら肺がやられてるのか、そもそも息が出来ない。
 吸えない。
 そして吐けない。

 死ぬ。
 このままじゃ確実に死ぬ。

 クソッ死んだらどうなる?
 いや、死ねばわかるか。
 待てよ、脳が動かなくなれば自我も意志も感じるもあったもんじゃない。
 それじゃ解らないじゃないか。
 解った所でどうにもならないが。
 それ以前に待ってくれそうもない。
 心臓は動いているみただけど呼吸が出来ない、酸素が脳に行かない。
 まだだ、まだ止まるな、俺の脳。
 こんな所で死ぬのか、俺は。
 そうだ、せっかくトラックに撥ねられたんだ。
 次に気付いたらきっと天使だか神だかが目のm―――――――






 パタンと、後ろでドアの閉まる音がした。
 音で判る、木製のドアだ。

 ――ドア?

 ばっと振り返るとそこには確かに木製のドアがあった。
 特になんら装飾の無い木製の板にドアノブ。
 あぁ、やっぱり木製か……

「って違う!」

 違う違う違う、そうじゃない。
 頭に浮かんだたった一つの重大な疑問。

『何で俺は立っている?』

 少なくとも一瞬前まではとても立てる状態じゃなかった筈……

 もう一度振り返る、今度は先程向いていた方に。

「うあっ!!」

 そして、視界に入ってきた物に驚き、一歩下がり、ドアに背があたった。

 視界を埋め尽くすのは白。

 そう、白だ。
 壁も床も天井も、皆白い。
 いや、壁や床や天井なんて『あるのか?』
 まるでパソコンのペイントでベタ塗りしたかのように完全に同じ色で埋め尽くされていて、床と壁、壁と天井の境界も判別できない。
 ドアだけが白い空間に浮いているような錯覚を受ける。
 そう、錯覚だ。
 だって俺は足が確かに地面についているから。
 だから床がある。

 さっき扉の音がした時、初めてこの場所に居ると気付いた時、何故俺は驚かなかった?
 今まで見たことの無い程一点の汚れを許さないこの白い空間に。
 いや、何も無い白い空間があるとすら認識して居なかった気がする。
 真の意味で何も無かった。俺は何も知覚していなかったのだ。
 ならば俺がドアから振り返るまで、ここには白すらなかったのだろう。

 思考がまとまらず、後頭部をドアにつけ、上を向いて目元を揉む。

 とりあえず……

 まさかこの先永遠にここに居るなんて事はないよな?

 顔を下ろす、とりあえず現状認識だ。
 この場所は―――――――


「うおおおっ?!」


 ゴンッ

 良い音がした。
 俺の頭がドアを叩いた音だ。
 オイ、それにしても良い音がしたがこのドアの先は空洞なのか?
 開けたらどうなるのだろう。
 なんとなく開ける事は不可能な気がする。
 
 だめだ、思考を止めるな。

 いいか、さっきも言ったがここには『何も無かった』。
 ただ真っ白い空間が何処までも続いている……もしくは判らないだけですぐ目の前に壁があった……
 どちらでもいいが、兎に角目の前には白以外の何物も無かった筈だ。
 これだけ白いなら、10メートル先に居るアリにだって気付くだろう。
 それくらいここは白い。
 だから断言できる。
 さっきまでここには白以外何も無かった。

 ナノに何故―――――――

 何故目の前に机があり、あまつさえ向こう側に此方をむいて座っている女がいて――――


「龍康殿 彼方」


 俺の名を呼ぶ。

 酷く高い音だ。
 かといって高周波のようなわけでもない。
 人間のもっとも声が高い女がいたら、そいつより更に上という事はないだろう。
 だけど同時に機械的に作成されたような、人間の喉から出る音とは思えないような、兎に角イヤな音だ。
 頭にキンキンと響き、頭痛すら感じる気がするのは気のせいだろうか。

 女はスチールで出来た安物の事務机の向こう側で椅子に座って此方を見ていた。
 他に椅子は無い。
 俺には立ってろって事か。


「龍康殿 彼方」

 もう一度、女が口を僅かに開いた。
 如何にも、怪しい。
 こんな所に居る時点でどんなヤツでも怪しいのだが。
 なんせ高校生なのだ。
 真っ黒なブレザーに真っ黒なネクタイ、それがスーツでは無く制服だと感じるのは細部のデザインか、それとも女の容姿か。
 恐らく日本人だろう髪は長い。
 こちららからは見えないが腰までは届くのではないだろうか。
 縛りもせずにただ流している。
 前髪は眉の辺りで切りそろえてあり、その下にある切れ長の目が……
 そうだ、この目が怪しいのだ。
 やけに長い、やや上まぶたをおろし気味で目が細くなっているから一瞬気付かなかったが、目の長さを見るに眼球のサイズが通常人類のソレを確実に超えてる。
 マンガで言うとHellsingみたいな目というか、いや、放課後プレイのヒロインか、そういえば格好も同じだ。
 口がうまく動かない。
 なんと応えれば良い?


「龍康殿 彼方」

 女はもう一度名前を呼んだ。
 リュウコウデンカナタ、そう、無駄にカッコイイ俺の名だ。

「あぁ……」

 絞り出すように返事をした。
 が、聞こえているのか居ないのか、女は反応を起こさない。
 いや聞こえていないなんて事は無いだろう。
 ここには俺と女以外音を発する物が何一つ無いのだから。

「…………」
「…………」

 こちらからも何か話しかけるべきだろうか?
 その場合何を聞けば良い?
 俺は本当に……死んだな、アレは助からないだろ。
 ここは何処か?
 君は誰か?
 俺はどうなるのか?

 まず何を聞けばいいか思考の渦に囚われかけていた時、視界に変化があった。

 女が、何かを左手に持っている。
 黒い、プラスチックのような……そう、まるでテレビのリモコンのような……

 そう思った瞬間、女はリモコンのようなものを俺から見て右方向に振り、何かのスイッチを押した。
 その腕の動きにつられて視線を移すと、其処にはテレビがあった。
 念のため言っておくが、さっきまでは無かった。絶対に。
 しかもアレ、俺んちのテレビにそっくりなんだが……

 テレビにスイッチが入り、一瞬の砂嵐の後に映像が映る。
 何故かアニメのコードギアス。
 天国だか地獄でもはやってるんだろうか、コードギアス。
 俺は反応に困った。
 どうすればいいのだろうか、まさかコレを見ればいいのだろうか。
 そうこうしている間に、画面に映ったブリタニア皇帝、シャルルは演説を始めた。
 それにしても相変わらず中世の王族のようなロール頭だ。
 映像はシャルルの息子クロヴィスの葬儀演説シーンだった。


『人は、平等では無い。
 足の速い者。
 背の高い者。
 容姿の優れた者。
 頭の良い者。
 技術の取得が速い者。
 運が良い者。
 親の地位が高い者。
 平和な国に生まれる者。
 出会いに恵まれる者。
 人は皆、生れ落ちた時に既に違っておる。
 不平等が悪では無い……平等こそが、悪なのだ。
 生まれる時に既に決まっている事は、生まれてからは覆せぬ。
 ならば、生まれる前に獲得せよ。
 その果てに、未来がある!!
 オールハイルブリタァァニアァァァァァ!!!』


ブツンッ

 シャルルの話が終わった途端にテレビの映像がブツリと切れ、俺はビクッと跳ねるように女に視線を戻していた。
 リモコンをテレビに向けている。どうやら彼女が電源を落としたようだ。
 テレビの方をちらりと見ると、其処には白い空間しかなかった。
 もう出たり消えたりでいちいち驚くのは無駄な気がしてくる。
 
 しかし、先程の映像で気になる所がある。
 違うのだ、言ってる事は似てるけどアニメとは言っている事が違う。
 大体なんだ?生まれる前に獲得って。


「なぁ、今の「今の映像は龍康殿 彼方の現状を解り易く伝えるために、龍康殿 彼方の記憶野にある映像、音声を組み合わせて作成したものです」



 なんか遮られつつ今サラリと凄い事言われた。
 アレってMADだったんだ……って違う。
 全然解り易くないんだが!


「それは龍康殿 彼方が理解しようとしていない為です」


 先に言われた。
 心でも読まれてるんだろうか。
 それとも笑う所なんだろうか。


「…………」
「…………」


 女は先程の言葉を最後に口を閉ざした。
 瞬きすらしてないのではと思わせるほど動かず、どこか人形めいた雰囲気を発している。
 そもそも何やってんだろ俺こんな所で……
 って現実逃避すんな俺!
 アレ?それ以前にここ現実?
 あぁ違う、そうじゃない、さっきのシャルルの話だ。
 たしか大枠に別けると

・人生には生まれた時から勝ち組が居ます
・生まれた後にはその要素はひっくり返せません
 (特に才能とか。才能は生まれた後は発揮するもので、獲得する物じゃない)
・ならば生まれる前に獲得せよ
・オールハイルブリタニア

 4番目は置いておくとして、1番目と2番目は当たり前の事だ。
 となると、問題は3番目になる。

 生まれる前に獲得する?

 才能やら境遇やら運やらを?

 そんな事が、まさかここで……
 獲得しろという事は、獲得できるという事。
 いや待て、それなら何故―――――?


「龍康殿 彼方の理解を確認。疑問にお答えします。龍康殿 彼方の持つ疑問、個人によってレートが違うためです。同じ事をしても、より多く才を手に入れる者、少ない者が存在し、レートを変えるためには魂の派生前に遡って改変する必要があります。また、自らの才にに気付かない者もまた、存在します」

「彼方でいいです」

「では彼方と」


 間違いなく心を読んでる。
 俺が思ったのは『ここで全ての人が才を獲得するチャンスがあるとして、何故人によって才の有無や数が異なるのか』。
 レートが何なのかはよくわからないが、ようするに10のナニカで才を獲得する際、10のナニカで10の才を得るか、1の才しか得られないといった差だろう。
 なんだそりゃ、それこそイージーモードじゃないか。
 大体こういった話じゃそのレートってのは……

「ここではレートを変更する事はできません」

「そうかい」

「こちらへ」


 俺が何となく先程の言葉にアタリをつけた瞬間、女が俺を呼んだ。
 もう女とか呼びにくいな、名前とかあるんだろうか?
 俺は女の机に近づきながら、疑問に思った事を口にしようとして……


「ありません」


 やっぱり先に言われた。


「無いのか」

「今、彼方の前に居る存在はコミュニケーションを円滑に行うために存在するツール、もしくは手段に過ぎず、個の定義を有しません。現象や数式、あるいは機能そのものでもありながら、意思を持つ存在になります」

「……ようは長門?」

「個性を獲得した彼女とは厳密に言えば大分違いますが、通常のヒトでは無いという観点からは大きく間違っては居ません」

「じゃあサユリで」

「ではサユリと。私に個性を与える人は少ないのですが」


 彼女は、サユリは初めて自分に対して使う言葉、私を使った。


「どのくらい?」

「100名に1名程です。大抵は名前が無いという事を信じず無意識から汲み上げた名前を名乗る事になるか、一部の人は名前が無い事に納得します」

「成る程」


 俺がサユリの机の直ぐ前まで移動すると、こちらに書類――ホチキスで右上が止めてある紙束――をついっと滑らせた。
 文字が此方から読めるように反転して。

 その書類の表紙、一番上にある紙の中央に書かれたタイトルを見て、俺はもう一度上を見上げて目元を揉んだ。
 数秒そうして、目線を戻す。
 変わらずに書類は其処にあった。
 消えるか変わるかしてくれればいいのに。

 タイトルにはこう書いてあった。

 『課題:Muv-Luv UNLIMITED 担当者:鍛冶屋敷 雪』

 もう一度上を見上げてみる。
 天井があるのか無いのか、ただ白い空間だけが広がっていた。
 重力こそ感じるものの、本当に何一つさえぎる物の無い頭上の景色というのは、どこかそこに向かって落ちていくような不安に駆られる。
 この場合は文字通り天に向かって落ちていくのだろうか。
 気付いたら天国とか何それ素敵。

 目線を戻す。

 やはりタイトルにはこう書いてあった。

 『課題:Muv-Luv UNLIMITED 担当者:鍛冶屋敷 雪』

 なんでフィクションの世界が出てくるのか。
 つか何この死亡フラグ臭がプンプンするタイトル。
 てっきり海岸のゴミ広いをするとか砂漠で植林するとかそういうのだと思ってたんだが。


「そういう課題もあります」

「そういう課題がいいんですが」

「個人によって課題は決められています」


 頭が痛くなってきた。
 そういえばサユリの声が最初に比べて落ち着いてきている気がする。
 個性を獲得したからだろうか、ごく自然な声だった。
 まぁそれは置いといて。

 何担当者の鍛冶屋敷さんて。
 カジヤシキとかお前また珍しい苗字が来たな。
 岩手の方に何十人か居るだけの希少苗字だろコレ。

 ん?
 目の前の彼女はサユリだ。
 俺がそう命名したから。
 苗字が付いたとしても鍛冶屋敷 サユリになるはずである。
 この書類が彼女に名づけてから発生した存在だとしても、なぜ鍛冶屋敷 雪なる人物名が存在するのだろうか。

「彼女、鍛冶屋敷 雪は彼方の前にここに来た女性です」

「俺の前の……」

 何かの参考になるかも知れないので読んでおく事にしよう。
 ぺらりと表紙をめくると、達成条件という項目があった。

 1、地球上に存在するBETAの反応炉、及び個体数が0となる事。
 2、白銀タケルが幸せになる事。

 おそらくこの項目をクリアすると何かよくわからないが兎に角課題をクリアした事になり、才をGETして人生勝ち組になれるワケか。
 しかしゴミ拾いとBETA相手の戦争では随分と差があるのでは無いだろうか。
 人間は生まれてからも不公平だったが、実は生まれる前も不公平だったのか。


 っていうか今気付いたけどあるのか、来世。
 あるんだなぁ……記憶引継とかどうなるんだろう。


「記憶引継も才に当たります。といっても、「以前ここに来た事がある」といったデジャヴに近い程度ですが」

「ちなみにこの課題クリアしたらその才取れるの?」

「彼方の場合はそのクラスの難易度の課題を5万回ほど達成すれば可能です。一度でも失敗した場合、そこで終了となりそれまでの成績で評価が決まりますが」

「何その無理ゲー」


 ノーコンテニューなのか。
 失敗してもそこまでの成績で才が貰えるならまぁいいのか?
 というか記憶も引き継げない来世の才とか俺に要るんだろうか。
 いや待てよ、待てよ彼方。
 そういう考えのヤツが要るから才に差が出るんじゃないのか?


「確かに要素の一つではあります」


 ホラ見ろ。
 まぁ、ダメ元ならいいのかな。
 俺もまだ消えたくないし。
 記憶が消えるってことは『俺』が消えるって事だし。
 俺はさらに次のページを捲った。

 ・世界設定 UNLIMITED
  備考:世界としての制限として、00ユニットに必要な理論が完成しない。
     オルタネイティブ5が発動する。

 ハイ、詰んだ。
 コレ詰んだ。

 00ユニット無しでBETAをどうにかしろとか無理だろ。
 まだ宇宙船で他の星に行って開拓とかNAISEI……は科学技術が発達してるから無理か……とにかくそっちの方が夢が見られる。
 そんでもって鑑が00ユニットとして復活しない限り、白銀は因果導体から開放されないし、好きな人に二度と会えない。
 つまり幸せになれない。
 いや、鑑以外の女と幸せになればいいのか?基準が解らない。


「コレ因果導体理論の話をして白銀の精神を元の世界とかに飛ばしてもダメなのか?」

「機材の故障、電源の不足、操作ミス、コーディングミス、その他あらゆる要素により、強制的に失敗します。また、自身の理論の完成が事実上不可能になった香月博士との関係が悪化します」


 恐ろしい世界の修正力だ。
 じゃあアレか、純粋に衛士として頑張るとかそういうのなのか。
 なんという無理ゲー。
 ちなみに……


「XM3は開発が可能です。開発した場合オルタネイティブ5の発動が半年伸びます」


 そうか半年……ってだからどうした!
 何の解決にもなってないじゃないか。

 ページの下の方を見る。

 オプション:キャラクターエクステンド(詳細は次項)

 何だ?キャラクターエクステンドって。
 次のページを捲った。

 そして俺はまた天井を見上げ、目元を揉んで目線を戻した。
 どうやら俺が見たくない物に限って消えてくれないらしい。

 ページの一番上にはこう書いてあった。

 キャラクターエクステンド

 これは、まぁいい。
 ページタイトルみたいなもんだ。
 問題はその下の行。


 ワールドエクステンド:灼眼のシャナ

 クロス設定か!
 まさかのクロス設定か!!
 っていうかシャナじゃ無理だろ!!
 最低でドラゴンボールのサイヤ人とか!ナデシコ主人公サイドご一行とか!真ゲッターとか!そういう存在自体が化け物か未来っぽい技術か不思議技術じゃなきゃダメだろ!!


「能力の元になる世界はランダムに決定されます」


 あぁそうか、だよな。
 自分で選んでシャナだったら救えない。
 ちなみに灼眼のシャナっていうのは、メインの舞台になる現実とほぼ同じ"この世"と、歩いて行けないもう一つの世界"紅世"の2つの世界からなるラノベだ。
 紅世に住む者は紅世の徒(グゼノトモガラ)と呼ばれる一種の精神体というか妖怪のような存在で、この世においては人や動物が本来持つ存在するための力である"存在の力"を食らって生きている。
 通常の人類は紅世の徒を認識できず、一方的に食らわれる存在だ。
 そして"この世"から存在の力が急速に失なわれ、世界間のバランスが崩れかけた"この世"と"紅世"は一度崩壊しかけ、それを止めるため、"紅世"で王と呼ばれる力を持つ徒が"この世"の人間と契約し、存在の力を無差別に食らう本来は同胞たる徒を討滅する。
 シャナは紅世で天罰神とも呼ばれる強大な王と契約した「フレイムヘイズ」の少女である。

 シャナの世界観は大筋でこんな感じかな。
 んで問題なのはこのフレイムヘイズだ。
 フレイムヘイズは紅世の徒と契約する事で成る。
 存在の力はゲームで言うMPに近い物で、これを消費してフレイムヘイズは奇跡を発揮する。
 たとえば筋力を底上げしたり、飛んだり、炎を出したり自在法と呼ばれる結界を張ったり回復の術を使ったりといった具合に。
 また名前の通り、フレイムヘイズが使うのは基本的に全て炎だ。
 余談だがフレイムヘイズや紅世の徒によって炎の色が全員違う。

 で、何が問題なのかと言うとだが、足りないのだ、火力が。
 フレイムヘイズはあくまでも対個人向けの能力である。
 多数を相手にできる場合は、その場において自分が圧倒的に強いだけであり、事実ストーリの過去であった大規模な戦いでは、紅世の徒とフレイムヘイズがそれぞれ連合を組んでぶつかり合っている。
 フレイムヘイズは確かに強い。
 要塞級1匹くらいなら単独で倒せるかもしれない。
 だがそれだけだ。
 仮にマブラヴ世界の主要人物が全員シャナやヴィルヘルミナクラスのフレイムヘイズになったとして、BETAに勝てるかとなるとそれは絶対に無理だろう。
 ん?いやいや、待てよ。
 正面から戦う必要なんて無いんだよな別に。

 自在法の中で最も有名な術が2つある。
 これは全てのフレイムヘイズ、およびほぼ全ての紅世の徒が使える非常にポピュラーな術だ。
 そのうちの1つに結界の自在法、『封絶』と呼ばれる自在法がある。
 これは結界の範囲内を現世から完全に切り離す自在法で、結果内の紅世に関わらない物は全て灰色になり、時が止まったように動かなくなる。
 コイツはモノによっては範囲を小さくすれば張ったまま移動できる上に、存在の力を知らない者には絶対に気付かれないという特徴を持つ。
 いや、だけど応用したタイプを使える奴って確かすげぇ少ないんだよな。
 基本的には発動時にこめる力で範囲を変えられるだけだった筈だ。

 コレじゃハイヴに結界張ったまま潜って反応炉だけ破壊して終了には成らないか。
 できるのは最強のミステスである天目一個と封絶の開発者である螺旋の風琴リャナンシーくらいか?

 リャナンシーは自分が望んだ効果を発揮する自在法を作る能力を持ってるから、彼女に憑依できれば存在の力さえあれば開発できるだろう。
 ……人間が極端に少ないオルタ世界で人間を食らってか?
 存在の力を食われた人間は死ぬ、というか存在できなくなって消える。
 その場合は最初から存在しなかった事になり、誰もがその存在を忘れてしまう。
 一応残りカスでトーチと呼ばれる代理構成体を作る事が可能だが、でも人に良く似たソレは人が急速に消えるという世界に対する違和感をごまかすために数ヵ月かけて消えてしまう。
 ダメだな、リャナンシーの自在法開発はかなり大きい存在の力を使う筈だし。
 そもそも紅世の徒はこの世に存在するだけで存在の力を消費してしまう。

 次の行を見てみる。

 タイプエクステンド:フレイムヘイズ

 で、鍛冶屋敷さんはフレイムヘイズに成ったのね。
 ん?フレイムヘイズ以外にもなれるのか?
 例えばそう、紅世の王とか……
 そんで原作の誰かと契約してフレイムヘイズにするとか。


「可能です」

「ヘタしたら王になって誰かと契約した方が強いんじゃないか?」


 契約した人間が死んだら乗り換えればいい。
 マブラヴ世界には紅世なんて無いはずだから、強制送還も無いだろう。


「ですが王クラスの徒を受け入れられる器を持つ人物は限られます」

「具体的には?」

「御剣姉妹、白銀タケルの3名」

「少なっ」


 っていうかダメだ、確かフレイムヘイズってのは本来成ってから修行が必要な筈だ。
 いや幼少期に契約すればいいのか?
 どの道姉妹の方は戦場に出れ無さそうだし、白銀の場合は平和な"元の世界"のうちから契約して修行すればいいのか?
 それはそれで面白そうだけど。
 どの道王になって人間と契約ってのは難しいか。

 次の行に目をやると、契約している徒の名前が記載してあった。

 コントラクトエクステンド:牙刃のレリル(ガジンのレリル オリジナル)

 聞いた事のない名前だな。
 オリジナル?
 イラストが書いてある。
 水色の狼か。
 炎の色は空色。
 どんな色だそれ。
 空色デイズか、ドリルでも使うのか。
 オリジナルだけあって設定も書いてあるな。
 生後30年の幼い紅世の徒、切断力を上げる自在法を得意とする、か。
 戦術機で使うには便利な能力だが……しかしオリジナルって何でまた。

「鍛冶屋敷 雪の器では王と契約するに足りなかったため、通常の徒を新規作成しました」

「そこはサービスしてやれよ」

「それもまた鍛冶屋敷 雪の魂の本質です」


 シャナに出てくる人間には精神だか魂の器みたいのがあり、それがデカくないと強い王とは契約できないのだ。
 無理をすれば器が壊れて死んで終わり。
 するとつまり、これはさっき話してたレートみたいな魂が発生した時点で決まるどうにもならない要素か。
 もしかしてこの子他のどのクロスでもあんまり強い能力持って来れないんじゃないか?
 例えばドラゴンボールだとサイヤ人は無理で最強の地球人クリリンとか。
 いやクリリン好きだけどね。
 クリリンかぁ……なんとかできそうでできなさそうだなぁ……

「その通りです」


 そうかい。
 所でそれは、クリリンにしか成れない事に対してなのか、クリリンじゃ勝てない事なのか。
 それとも両方なのか……。
 だんだん鍛冶屋敷さんが可愛そうになってきたな。


 ちなみに王にはなれるってさっき言ってたけど、『シャナ側の原作キャラになる』っていうのは?
 例えばシャナになるとか。

「可能です」

「ちなみに彼女は何でそうしなかったか解る?」

「その場では思いつかなかったようです」


 せっぱ詰まってたんだなきっと。
 俺も他人の書類だから冷静に突っ込めるけど、自分の話だったら間違いなく取り乱してると思う。

 ん?

 アイテムエクステンド:零時迷子


 ちょ、チートきたこれ。
 零時迷子ってのは毎日午前零時に持ち主の存在の力を最大まで回復するアイテムだ。
 肉体を持つフレイムヘイズは基本的に寝てれば回復できるが、それでもドラクエと違って1日寝たからって全部回復するワケじゃない。


「まぁコレあっても無理だろ、便利だけど」


 1日1回存在の力が全回復する?
 それがどうした。
 1時間に1回でもBETA殲滅するには足りんわ。


「その代わりですが、存在の力の保有上限は高めに標準的な王クラスが設定されています」


 王クラスねぇ……
 ちなみに王つっても国持ってたりする訳じゃないから。
 紅世の世界は全員が二つ名持ってたり強くなると王を自称したりする痛い世界ですから。

 次のページを捲る。

 経緯
 横浜市の市議の1人娘として生まれる。
 横浜侵攻時は疎開しており、BETAの襲撃から逃れる。
 白銀の登場の3年前、15歳の誕生日と共に牙刃のレリルと契約。

 ふむふむ、まぁフレイムヘイズになると年取らなくなるからな。
 ある程度手足が伸びないと……幼少の時に契約しても戦えないだろうし。

 その後、故郷を奪還する事を名目に横浜基地に志願。
 207小隊B分隊に配属。
 また、その際に衛士適正試験で歴代最高記録を樹立。
 後の白銀でもこの記録は超えられなかった。

 まぁフレイムヘイズはデフォで体力にブースト掛かってる上に術使わなくても存在の力を集中するだけで強化できるからな。
 人間と比べたら人間が可愛そうだ。

 その並外れた適正能力と正規兵20人を相手に1人で勝利する人外じみた白兵戦闘能力か香月博士に興味を持たれ、何度か会話の機会を持つ。
 反面、分隊ではその強すぎる力が災いし、浮いた存在となっていた。

 白銀が現れてからは彼を後ろから補佐し、衛士適正の高い白銀と共にXM3の開発の切欠を作る。
 XM3は効果が認められた後はすぐさま世界中に配布され、特に帝国軍は斯衛の武御雷すら即座に換装される。
 オルタネイティブ5発動後は白銀と共に地球に残留し、白銀と共に207小隊A分隊に編入、共に日本の防衛戦に従事する。
 また、オルタネイティブ5発動と共に香月博士と助手である社霞は姿を消す。

「他のB分隊の連中は?」

「本人の意思とは関係無く宇宙に上げられました」

「残る気はあったのか」

「A分隊、B分隊は共にXM3のシミュレーターテスト等で開発や教導マニュアル作成、3次元機動パターン蓄積に貢献し、A-01部隊とも交友がありました」

「成る程ね」


 戦闘時には自分の小隊の戦術機が扱う長刀に切断能力を上げる自在法を使用していた。
 オルタネイティブ5発動から2年後、佐渡島から横浜へBETAの大侵攻が発生。
 横浜基地は3日間の防衛後に陥落し、BETAの支配下に置かれた。
 白銀とA分隊の生き残りと共に帝都へ脱出、帝国軍へ編入。
 その後5回の横浜基地奪還作戦に従事するも作戦は全て失敗。
 しかしながらその戦闘能力の高さと横浜市議の娘だった事、全員が日本人だった事を買われ、斯衛軍へ編入、黒の武御雷を得る。
 この時横浜基地出身衛士の生き残りは白銀、神宮寺、柏木、涼宮を含めた5名。
 この内武御雷を与えられたのは鍛冶屋敷、白銀の2名。
 神宮寺、柏木、涼宮は撃震から不知火へと乗り換える。
 一方A-01部隊は各地の激戦区を転戦し、その命を消していった。


「ちょっと……これは………」


 横浜基地が陥落?
 B分隊のメンバーが宇宙へ?
 もう殆どどうしようも無いじゃないか!!

 あとは死ぬのを待つだけだ。
 戦って勝って後で死ぬか、戦って負けて今死ぬかしかない。
 指先が震えてきた、こんな事を俺も今から体験するのか?


 横浜基地陥落から半年後、BETAの大規模帝都侵攻が発生。
 住民は北日本に疎開、北海道の釧路に政府を移す。
 横浜基地陥落から始めていた疎開だが、帝都侵攻までに完了する事が出来ずに居た。
 征夷大将軍である煌武院悠陽は斯衛の一部に帝都残留と機動防御を勅命として発令、自らも指揮官として帝都に残る。
 斯衛に編入された白銀らもこのメンバーに含まれる。
 悠陽の戦死、武御雷の反応消失を持って征夷大将軍は返上。
 以後将軍家から新しい者を選抜し、征夷大将軍を引き継ぐものとする。
 また、帝国軍の一部が転戦命令を無視し帝都に残留。
 この部隊の中には狭霧という名前の衛士が確認されている。
 
 鍛冶屋敷は自身が特別な力を使える事を初めて打ち明け、斯衛の機体全てに自在法を掛ける。
 長刀の切れ味が上がるだけの自在法だったが、鍛冶屋敷の存在は受け入れられた。
 また、今まで能力を隠していた事を責められる事は無かった。
 長刀の切れ味が上がった程度ではBETAに勝てない事を誰もが理解していたからである。
 しかし、接近戦を得意とする斯衛が命を捨てる場においては、感謝される事はあっても拒絶される事は無かった。

 帝国軍は帝都外周に陣を配置、BETAを迎え撃つ第一波を押し返す事に成功するが、その後のBETA増援で全滅した。
 斯衛は帝都城に一度集結しBETAを誘引。
 その後城ごとBETAを大量のS11爆弾で吹き飛ばし、8千のBETAを撃破する事に成功する。
 この時の撤退において涼宮、柏木が戦死。

 斯衛は機動防御を行いつつ帝都から離脱。
 以後、押し寄せるBETAに攻撃を加えつつ長い撤退戦を行う事になる。

 噴射剤がほぼを底を付いた時点で悠陽は撤退を断念。
 千葉の市街地に陣を敷き、僅かでもBETAを倒し北日本への侵攻と疎開する民への追撃を抑える事を命じる。
 この時の戦力は武御雷13機、不知火26機。
 帝都防衛時の戦力の5分の1以下であった。


 経緯に書かれているのはここまでだった。
 この後それでも生き残って戦い続けるのか、それとも千葉で死んだのか。
 最後まで書かれていない。
 ページの途中で記述が終わっているので、この書類に書いてある経緯はここまでなんだろう。

 次のページを捲って凍りついた。
 そこには恐ろしい事が記載されていた。
 たった一行。
 たった一行だ。
 ここまで恐ろしい文章が今まであっただろうか。


 紙の中央にはただ一行、こう記されていた。


『増援 龍康殿 彼方』


 何かの間違いだろ?
 そう思いたくて震える手で次のページを捲り、思わずぐりゃりと握り潰した。

 キャラクターエクステンド
 ワールドエクステンド:灼眼のシャナ
 タイプエクステンド:______←


「俺が?」

「そうです」

「増援?」

「そうです」

「………やり直しで?」

「違います」


 俺は握りつぶした書類をなんとか広げ、ページを2ページもどして机に置き、ページの真ん中、つまり経緯の最後を指差した。


「………ここにか?」

「そうです」

「もう詰んでるだろ!!!!」

 叫んだ。
 それはもう絶叫に近い。
 遊園地で叫ぶのとは違う。
 俺は、生まれて、初めて、ただ1人に対して叫んだ。


「そうです」


 そしてサユリは無慈悲だった。
 ぶっちゃけ避けたい。
 っていうか詰んでるって終わってるって事だろ?
 だったら俺が行く意味なんて無いじゃないか!!


「あくまで現時点での話です。彼方が増援となった場合、可能性は生まれます」

「じゃあ何でこんなに追い詰められるまで誰も増援に行かなかったんだよ!」

「帝都城崩壊までは可能性が残っていたからです。少なくとも片方は」


 BETA殲滅の?それとも白銀が幸せになる方?
 どちらでも関係ない。
 今問題なのはこのままほっとけば鍛冶屋敷が死ぬ――失敗する――って事だ。
 そして断れば、俺の才はゼロで、俺の記憶は消されて、新しい命に転生する。
 受けて失敗しても受けない以上のデメリットは無い……と思う。
 だが失敗すると解っていて行うと言うのも……意味が無い気がする。


「意味はあります」

「本当か?」

「この部屋の機能は基本的に善意で作られていますから」

「意味が解らない」

「才を態々人々に与える部屋を作る必要があるんですか?」

「それが善意だとしてもコレは俺と鍛冶屋敷に対するイジメだろ」

「少なくとも彼方の場合には意味があります」

「何の」

「因果の流入。あの世界において『介入しておきながら失敗したという事象』を発生させるのは今後のあなた方の負担になります」

「そうくるのかよ」


 俺はまた天井を見上げて目元を揉んだ。
 ここに来てこの動作を何回しただろうか。

 とりあえず、と り あ え ず 、失敗してもデメリットは無い。
 いや、才を受けられないというデメリットは存在するが、それは受けなくても同じだ。
 そして課題は変わりそうにない。
 これは諦めてやれるだけやってみようと思った。
 危なくなったら毒でものんで死のう。

 とりあえずタイプエクステンドからだ。

 鍛冶屋敷のタイプはフレイムヘイズ、そして俺は空欄。

「タイプの一覧は?」

「人間、トーチ、ミステス、紅世の徒、燐子、フレイムヘイズです」

「とりあえず人間とトーチと燐子は無いな」


 人間は文字通りただの人間。
 トーチは徒が人間を食い殺した際に作る代理構成体、燐子は徒が作る下僕だ。
 どれも脆弱で弱い。
 特にトーチと燐子は存在の力を自ら生産する事も、他者から奪い取ることも出来ない。
 消えていくだけの存在だ。
 ミステスも微妙。
 ミステスは宝具をその身に宿した特別なトーチだ。
 宝具はミステスが死ぬと無作為に転移するのだが、上手く取り出せれば強力な武器になる……可能性がある。
 それが武器でありかつミステスに使える程度の低燃費であり、しかも強力だったらだ。
 ギャンブル性が高すぎる。


「徒か、フレイムヘイズか……」


 問題は、徒とフレイムヘイズのどちらが強いかだが………


「徒だろうな、実際問題」


 フレイムヘイズはいかに強大な王と契約した所で、所詮は人という制限がある。
 例えばシャナと契約している紅世の王アラストールだが、彼が本気を出すとシャナが死ぬ。
 天壌破砕だかなんだかという技なのだが、これはただシャナという器から出てアラストールが本来の姿で全力で戦えるようになるというだけの技だ。
 コレを使っただけで確かシャナの前任の契約者は砕け散って死んだ。
 アラストールは契約相手を厳しく選び、肉体的、精神的に屈強な、誰よりも大きな器を持ち、誰よりも魂が輝いている者としか契約しない。
 その基準で選んだ前任者が砕け散ったのだから、シャナでもムリだろう。
 つまり、契約した状態のフレイムヘイズより、契約相手の王単品の方が強いのだ。
 さらに言うならばフレイムヘイズは基本的に炎を操るだけで、あまり契約している王の恩恵を受け切れていない。
 契約時に契約相手の王が宿る神器を手に入れる事が出来るが、戦闘に使える物が少ない。
 万条の仕手のリボンと極光の射手の鏃くらいではないだろうか?
 あと剣花の薙ぎ手の剣もあるか。
 しかし万条の仕手は使い手が戦技無双と称される程の戦闘技能を持っているからだ。
 年を取らないせいで100年とかそういう単位で戦い続けるフレイムヘイズの技能がそうそう手に入るとも思えない。
 極光の射手の場合はロケットみたいに巨大化した鏃に乗って突っ込むだけだから楽っちゃ楽なんだが。
 あとは本とか宝石とか、特に追加能力の無い杖とかバッヂとかである。
 なによりヒロインのシャナが特に特殊能力を持たないのだ。
 まぁアラストールが選んだだけあって本人が結構チートなので余計な技術が要らないだけかもしれないが。

 逆に徒になると……
 対軍相手だと2名ほど心当たりがある。
 両方とも範囲攻撃と防御力に定評がある王だ。
 シャナを読んだ事があるなら真っ先に思い浮かぶと思う。
 嵐蹄のフェコルーと壊刃のサブラク。
 特にサブラクがヤバイ。
 存在の力さえあれば唯一BETAの大軍と正面から殴り合えるのではないだろうか。
 だめならハイヴまでコッソリ近づいて反応炉を奇襲してしまえばいい。
 というか紅世の徒ならその時点でBETAに気付かれずに反応炉を破壊できる。
 ………アレ?意外と簡単?
 あぁだから存在の力の補給が出来ないってさっき結論が出たばかりじゃないか。
 存在するだけで消費する燃費事情は長期戦に向かなすぎる。


「一つ聞くけど、紅世の徒になった場合零時迷子は貰えるのか?」

「その場合は不可能。ただし現在は既に1つ零時迷子が存在してしまっているため、あらゆる条件下において不可能」


 って早々上手くいかないか………ん?
 そうだ、持ってるヤツが居るじゃないか。
 毎日死ぬ直前まで存在の力を出し切っても直ぐに回復するヤツが。


「鍛冶屋敷はまだ生きているんだよな?」

「鍛冶屋敷雪の課題ですから」

「じゃあサブラクで」

「解りました」

「………デメリットは?」

「ありません」

「鍛冶屋敷は制限があったけど」

「一時的にせよ人間をやめるというのはそれだけで対価を払っている事になります」

「じゃあそれで。能力の練習をする暇は?」


 くしゃくしゃに皺がついた書類を見る。
 タイプエクステンドの欄が紅世の王となり、その下に壊刃のサブラクと文字が浮かび上がる。


「ありません。御武運を」

「ハァ?」


 次の瞬間、視界が暗転した。
 最後に見たサユリの口元が笑っていたのは気のせいだろうか。
 哂っていたのかもしれないが。








 side 白銀

 悠陽がこの地に留まり死地とする事を決めたのが5分前。
 BETAと接敵するまでの時間がおおよそあと10分。
 突撃砲なんて弾切れでみんなとっくに捨ててる。
 頼りになるのは長刀のみ。
 噴射剤も既に無く、俺達に出来るのは距離をとって三角陣形となり、あとはその場で死ぬまで戦う事だけだ。

 俺は2振りの長刀を持ち、刃を眺めた。
 水色、自在法とやらで強化してくれた雪曰く、空色の火の粉がチリチリと刀身から浮かび、空へと消えるのを眺める。
 思えば波乱万丈な人生だった。

 BETAの居ないあの楽園のような世界からこの地獄のような世界へ。
 初めて牢屋に入れられ、初めて銃を持って、初めて戦術機に乗って。
 そして初めて友達が殺された。

 クソッタレだ。
 この世界の何もかもが。

 だけど、それだけじゃない。
 素晴らしい出会いも確かにあった。
 ただ生きる事に対し苛烈なまでに厳しいこの世界に生きる人々の、剥き出しの魂に触れた。
 自分の命よりも他人の命を護るために本当に死ぬ事が出来る人間が沢山居た。
 今日を生き延びた喜びを分かち合う仲間が沢山居た。
 自分が助けられる人たちが居た。
 自分を助けてくれる人たちが居た。

 俺はこの世界は相変わらず嫌いだったけど、この世界に住む人達は確かに好きだった。
 けど、一つだけ不満があるとすれば……

 何故、何故アイツだけが……


『白銀中佐』


 スピーカーからの音声にハッとする。
 どうやら2~3分自失していたらしい。


「どうしました?月読さん」


 網膜投影の映像には、月詠真耶大佐が映っていた。
 真耶さんを見ると、真那さんをどうしても思い出してしまう。
 冥夜は元気にしているだろうか?


『貴様……まぁいい。こんなやり取りも今回が最後かもしれん』

「そうですか?俺は生き残って北海道でカニ鍋を食べる予定なんですが」

『……そうだな、その時は私もご相伴に預かろう』

「鮭とイクラの親子丼も付けましょう、楽しみにしてますよ。で、どうしました?」

『頼みがある』

「殿下を連れて2人で逃げろとかだったら拒否しますよ」

『違うさ』


 月読さんはそう言うと、頭を下げた。
 網膜投影に月読さんの頭頂部が映る。


「月読さん、何を――――」


『突撃砲はもう無い、噴射剤も底を付いた。その現状でこんな事を頼むのは非常識であると重々承知している。だがそこをどうか曲げて頼む』


 そこで俺は気付いた。
 月読さんの赤い武御雷、その右手に握られた長刀が、半ばで折れ無くなっている事に。


『未熟者と笑ってもいい。恥知らずと軽蔑してもいい。それでもどうか、どうかお前の長刀を1振り譲って欲しい』


 月読さんはさらに頭を下げた。
 俺は黙って左手の長刀を渡す。

『すまない、感謝を―――――』

「いいんです。殿下を護る衛士がみんな倒れて、最後の最後にBETAが迫ってきた時に、側にいて護るのは月読さんの仕事だと俺は思うから」

『……いいか、白銀。私は絶対にこの恩を忘れない。絶対に、絶対にだ。これが終わったらお前のために何だってしてやる』

「じゃあさっきのカニ鍋みんなでやりましょうよ。月読さんのオゴリで。雪やまりもちゃんにも旨いもの食わせてやりたいし。あ、もちろん天然モノで」

『確約しよう。楽しみにしている。この場を死地と決めた我々がこんな事を言うのは可笑しな話だが……死ぬなよ、白銀』

「えぇ、月読さんこそ」


 俺たちが生き残るには、帝都からさらに追いかけて来た1万のBETAをこの地で全て倒し、その後噴射剤の切れた戦術機で歩いて青森まで撤退しなければならない。
 つまり、無理だ。
 どうあがいても。
 今から反転して逃げようにも、戦術機の走る早さじゃ突撃級は振り切れない。

 いや、もしかしたら1人。
 1人だけならこの地獄から逃げ切れるかもしれない。

 そう思ってカメラをズームアップする。
 1kmほど先の国道のど真ん中に、1人の少女が居た。
 彼女の戦術機は仲間を庇ってとっくに大破している。
 今この部隊にいる唯一の生身だった。
 通常、戦場で戦術機から出る事は死を意味する。
 だか彼女はそれがどうしたと突撃級の間を走りぬけ、戦車級を切り裂き、要撃級を焼き殺した。
 その力は存在の力と呼ばれる魂を削りながら行使する奇蹟。

 この世界唯一のフレイムヘイズ、牙狼(ガロ)の裂き手、鍛冶屋敷雪。
 空色の炎を操る少女。
 15歳で時を止めた少女。
 気付けばお互い20歳を超えているのにも関わらず、彼女は少女のままだった。
 それがフレイムヘイズとして人外と契約したからだと知ったのは、つい3日前の事だ。
 彼女だったら、彼女だけなら、BETAを振り切って逃げる事も出来ただろう。
 元々この場に残る意味なんて殆ど無い。
 逃げ切れないから最後の抵抗をするだけ。
 なら逃げられる奴は逃げればいいと言ったら、誰が逃げるかとコックピットをこじ開けられて笑って殴られた。
 そして結局、その魂と引き換えにせめて突撃級を道連れにすると三角陣形の頂点、先鋒に笑って歩いていった。
 雪には世話になりっぱなしだった。
 訓練について行けない時は付き合ってくれたし、新OSを作る計画だって後押ししてくれた。
 アイツが居なきゃ絶対に無理だったろうし、そもそもあの頃に戦術機に触る事も出来なかっただろう。
 そして何より、この世界にもきっとアイツが、純夏が居ると、一緒に探そうと笑ってくれた。


『ソード00から各機へ。BETAとの接触まで3分を切りました。戦の支度を。そして、最後まで私に付き従ってくれたそなたらに感謝を』

『『『『『はっ!』』』』』


 悠陽からの通信を受け、最後の時を過ごしてきた衛士達は長刀を構える。
 そして視線の先で、空色の炎が燃え上がった。



SIDE 鍛冶屋敷 雪

 私は失敗した。
 最初から普通の手段で無理だって解ってたのに。
 私は普通にフレイムヘイズになり、普通に1番の衛士になり、普通にB分隊のみんなと強くなり、普通に負けて横浜基地から逃げ、さらに普通に負けて帝都からも逃げ、そしてここで普通に戦って負けて死ぬんだろう。
 何かもっと、もっと他に手段がなかったのだろうか。
 例えば紅世の王、払の雷剣タケミカヅチとなり殿下と契約するとか。
 もっと、何か別の手段が必要だったんだろう。

 もはや、それを後悔する時間も残って無さそうだ。

 私はずっと空を見ていた。
 そのまま、腰の左右に無理矢理2本づつ計4本くくりつけた軍刀を撫でる。
 先程同僚から分捕ってきた分だ。
 1本は私の。
 1本は白銀の。
 1本は神宮寺の。
 1本は月読の。
 私はその内の1本を抜き出し、天に掲げる。
 視線はまだ空を捉えていた。

 次ヤツらを見る時は、全てをぶつけて叩き斬る時だと決めてた。
 涼宮は死んだ。
 築地も、柏木も死んだ。
 一瞬トーチとして蘇らせる事も考えたけど、やめた。
 トーチになってさらに消えたら、この世界から彼女達が存在した事実が消えてしまう。
 誰も彼もが彼女達を忘れて、思い出せなくなってしまう。


 ――――――殺してやる。

『それでは鍛冶屋敷。露払いをお願いできますか』

「御受け致します、殿下。斯衛軍が少佐、鍛冶屋敷雪の炎を御覧に入れましょう」


 ヘッドセットから聞こえる殿下の声に答え、私は軍刀の切っ先を睨み付ける。


「ようようアネゴ、面白くなって来たジャネーカよ」


 その時私の髪を纏めて縛っている紐からレリルの声が響いた。
 この紐が私の神器。
 何の能力も無いただの紐だけど、私とレリルの絆だ。


「面白く無い、全然面白く無いわ。アイツら殺してやる。絶対に」

「アァアァいいじゃねぇかソレで。俺は戦うのが好きでお前と契約したんだからよ」

「そうね、じゃあ……」

「派手にやるわ」
「派手にヤロウぜ」


 瞬間、私の腕からボウ、と空色の炎が燃え上がり、掲げた軍刀に絡みつき、包み込む。
 炎の剣となり、さらに上へ上へと龍が昇るかの如くそびえ立ち、次の瞬間には20m程の巨大な炎の柱になっていた。

 手に握った刃が力に耐えられずギシギリと鳴き、炎は空気を焦がしで吼える。
 フレイムヘイズとしての訓練をする時間が短すぎた。
 体が出来てからでは時間が足りず、体が出来る前では戦えない。
 毎日就寝前に封絶を張って訓練はしていたけど、丸で足りなかった。

 目線を降ろし、見る。
 ヤツらを、BETAを、その先頭に居る、突撃級を。
 距離約150m。
 その瞬間、私の中で、何かが弾けた。

「やっちまえ、ヤッチマエよ。アイツら纏めて殺してやろうぜ」

「ラアァァァァアアアッッ!!!」

 刃を振り下ろす。
 瞬間、巨大な炎の剣は解けるように霧散し、そのカケラひとつひとつが高速で散弾銃のように前方に降り注ぐ。


「燃えて刻まれて灰になっちマエよぉ!!」
「嘆きの雨!!」


 レリルの切断の自在法「キリサキ」が乗ったその火の粉はその無数のカケラがひとつひとつの刃。
 突撃級の外殻すら文字通り切り裂き、打ち抜く、弾丸の雨。

 轟音と共に倒れる突撃級。
 今こちらに向かってきている突撃級の数は2千。
 今ので百は行けただろうが、足りない。
 全く足りない。
 倒した死体を踏みしめ、さらに次の次の次の突撃級が現れる。

 刃が燃え尽き、柄だけになった軍刀を捨て、更に1本抜刀。
 構え、炎を纏わせ振りぬく。


「嘆きの雨!!」


 舞い落ちる炎の刃。
 足りない、足りない、足りない、全然足りない!!
 さらに1本抜刀。


「嘆きの雨!!」


 合計で3百はやった。
 だけどそれだけだ。

 私は最後の軍刀を引き抜き、存在の力を流し込んで強化し、自在法「キリサキ」を掛ける。
 あとは封絶を張り、この身が燃え尽きるまで戦うだけだ。
 封絶の世界は存在の力が扱えない者は全てが停止する。
 もっとも、精密機器が使えないため戦術機も停止してしまうのだけれど。

 でも私なら、生身でも動かないBETAなら倒せる。
 流石に突撃級や要塞級を大量に破壊するのには存在の力が足りないかもしれないけれど、それでもやるしかない。
 単純な引き算でも、相手はあと9千と7百はいるのだから。


「いくよ、レリル」

「おうさ」

「封―――――」


 次の瞬間、轟音と共に5つの火柱が上がった。


 炎の色は夕日の色。
 私の戦友と同じ名前を持つ色。




「茜……色の……炎……?」




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