「神様……あんた、やっちゃならないことを……」
誰に向かって言う訳でもなく、一人つぶやく。
聞く者のいない独り言は、夜の闇に吸い込まれる。
通る者とていない夜の農道。
大学生、東雲浩二は目の前で起こった事態に、成すすべもなく立ち尽くす。
辺りには東雲の乗ってきた車のエンジン音だけが響き、その音さえも深深と降り積もる雪に吸い込まれていく。
「……冗談……だよな?」
彼の疑問に答えてくれる者など誰もいない。
何か悪い冗談だと思いたかった。目の前で起こっていることは、幻だと思いたかった。
しかし、農道に横たわる少女がそれを否定している。
──後で二つにまとめたブラウンの髪
──旧ドイツ軍を想起させる衣装
──足には見慣れた、しかし現実にはあるはずの無い機械
『ゲルトルート・バルクホルン』
見間違えようはずがない。
彼女のことはいつも見てきた。
テレビで、パソコンで、DVDで、BDで、ゲームで、漫画で、同人で。
どのくらい呆けていたのだろう。冷静になって振り返れば、わずかな時間だったかも知れない。
北海道の冬の寒さが、東雲の頬を突き刺し、現実へと引き戻す。
「と、とりあえず。あれか? 言っておかないとダメか?」
誰に問うわけでもない独り言。
答えが返ってこないことは分かった。しかし問わずにはいられなかった。
返ってきたのは、静寂。
農道に横たわるバルクホルンを見つめると、東雲は何か意を決したように、彼女が現れた夜空を仰ぎ、息を吸い込む。
「親方! 空から女の子が!」