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No.26038の一覧
[0] 東方ギャザリング (東方×MTG 転生チート オリ主)[roisin](2014/11/08 16:47)
[1] 第00話 プロローグ[roisin](2013/02/20 07:12)
[2] 第01話 大地に立つ[roisin](2012/07/01 17:54)
[3] 第02話 原作キャラと出会う[roisin](2012/07/01 18:01)
[4] 第03話 神と人の差[roisin](2012/07/01 18:05)
[5] 第04話 名前[roisin](2012/07/01 18:08)
[6] 第05話 洩矢の国で[roisin](2012/07/03 21:08)
[7] 第06話 悪魔の代価[roisin](2012/07/01 18:34)
[8] 第07話 異国の妖怪と大和の神[roisin](2012/07/01 18:39)
[9] 第08話 満身創痍[roisin](2012/07/01 18:44)
[10] 第09話 目が覚めたら[roisin](2012/07/01 18:51)
[11] 第10話 対話と悪戯とお星様[roisin](2012/07/01 18:57)
[12] 第11話 大和の日々《前編》[roisin](2012/07/01 21:35)
[13] 第12話 大和の日々《中編》[roisin](2013/01/05 19:41)
[14] 第13話 大和の日々《後編》[roisin](2012/07/01 21:37)
[15] 第14話 大和の日々《おまけ》[roisin](2012/07/01 21:37)
[16] 第15話 鬼[roisin](2013/02/20 07:27)
[17] 第16話 Hulk Flash[roisin](2013/02/20 07:27)
[18] 第17話 ぐだぐだな戦後[roisin](2012/07/01 17:49)
[19] 第18話 崇められて 強請られて[roisin](2012/07/01 17:49)
[20] 第19話 浜鍋[roisin](2012/07/08 19:48)
[21] 第20話 歩み寄る気持ち[roisin](2012/07/08 19:48)
[22] 第21話 太郎の代わりに[roisin](2012/09/23 03:40)
[23] 第22話 月の異名を持つ女性[roisin](2012/09/23 03:39)
[24] 第23話 青い人[roisin](2012/07/01 17:36)
[25] 第24話 プレインズウォーカー[roisin](2012/07/01 17:37)
[26] 第25話 手札破壊[roisin](2013/02/20 07:23)
[27] 第26話 蓬莱の国では[roisin](2012/07/01 17:38)
[28] 第27話 氷結世界に潜む者[roisin](2012/07/01 17:39)
[29] 第28話 Hexmage Depths《前編》[roisin](2013/07/24 23:03)
[30] 第29話 Hexmage Depths《中編》[roisin](2012/07/01 17:42)
[31] 第30話 Hexmage Depths《後編》[roisin](2012/07/01 17:42)
[32] 第31話 一方の大和の国[roisin](2012/10/27 18:57)
[33] 第32話 移動中《前編》[roisin](2012/09/20 20:50)
[34] 第33話 移動中《後編》[roisin](2012/09/20 20:50)
[35] 第34話 対面[roisin](2012/07/08 20:18)
[36] 第35話 高御産巣日[roisin](2013/07/25 23:16)
[37] 第36話 病室にて[roisin](2012/07/08 20:18)
[38] 第37話 玉兎[roisin](2012/07/08 20:18)
[39] 第38話 置き土産[roisin](2012/09/20 20:52)
[40] 第39話 力の使い方[roisin](2013/07/25 00:25)
[41] 第40話 飲み過ぎ&飲ませ過ぎ《前編》[roisin](2012/09/20 20:52)
[42] 第41話 飲み過ぎ&飲ませ過ぎ《後編》[roisin](2012/07/08 20:19)
[43] 第42話 地上へ[roisin](2012/09/20 20:53)
[44] 第43話 小さな小さな《表側》[roisin](2013/01/05 19:43)
[45] 第44話 小さな小さな《裏側》[roisin](2012/10/06 15:48)
[46] 第45話 砂上の楼閣[roisin](2013/11/04 23:10)
[47] 第46話 アドバイザー[roisin](2013/11/04 23:10)
[48] 第47話 悪乗り[roisin](2013/11/04 23:11)
[49] 第48話 Awakening[roisin](2013/11/04 23:12)
[50] 第49話 陥穽[roisin](2013/11/04 23:16)
[51] 第50話 沼[roisin](2014/02/23 22:00)
[83] 第51話 墨目[roisin](2014/02/23 22:01)
[84] 第52話 土地破壊[roisin](2014/02/23 22:04)
[85] 第53話 若返り[roisin](2014/01/25 13:11)
[86] 第54話 宝物神[roisin](2014/01/25 13:12)
[87] 第55話 大地創造[roisin](2014/01/25 13:12)
[88] 第56話 温泉にて《前編》[roisin](2014/02/23 22:12)
[89] 第57話 温泉にて《後編》[roisin](2014/02/23 22:17)
[90] 第58話 監視する者[roisin](2014/02/23 22:21)
[92] 第59話 仙人《前編》[roisin](2014/02/23 22:28)
[94] 第60話 仙人《後編》[roisin](2014/03/06 13:35)
[95] 第??話 覚[roisin](2014/05/24 02:25)
[97] 第24話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:27)
[98] 第25話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:28)
[99] 第26話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:29)
[100] 第27話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:29)
[102] 第28話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:30)
[103] 第29話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:15)
[104] 第30話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:15)
[105] 第31話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:16)
[106] 第32話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:17)
[107] 第??話 スカーレット[roisin](2014/12/31 18:22)
[108] ご報告[roisin](2014/12/31 18:39)
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[26038] 第26話 Bルート
Name: roisin◆defa8f7a ID:ad6b74bc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/10/26 18:29







 このような出来事は、もう、何十万年も前の事だ。

 月の象徴の一端たる、八意永琳と、その親族である、綿月依姫。

 前者が後者の能力を見たいが為に、実験と銘打った模擬戦闘は、三日三晩、月の大地を揺らした後、詰め将棋のように外堀をじわじわと埋めていった月の頭脳によって、八百万を降ろす軍神は―――敗北した。

 その当時の様子は、未だに高画質の映像データとして、各家庭に一つ以上は保存されているほどの人気を誇り、度々、『またやらないのか』といった要望が沸き起こる程である。

 けれど、それに応える者達ではない。

 互いにそれぞれの理由はあるのだが、その最もたる理由が、その危険性である。

 幾ら悠久の時を生き長らえようと、幾ら強大な力を持ちようと。彼女達は、限りなく不老に近くとも、決して“不死身ではない”のだから。

 悪戯に命を危険に晒すような真似はしない。

 こと、八意永琳に関してはその節が顕著である。

 親しい者を決して失いたくないが故の、臆病とも言える、慎重さ。

 それは、永遠を歩む彼女にとって、絶対に譲れないものの一つである。



 つまりは。

 それらの危険が無ければ、再び行っても良い、という、一種の逆説的な考えが出来る。

 具体的には、身内の安全が保障されている場合。

 そこには、それ以外の者―――例えば、地上から来た人類の一人の命は、含まれては……いない。



「お時間です。永琳様。……今ならまだ、止められますが……」



 一面が無色の壁―――ガラスのような面を有した部屋には、二人の女性。

 窓際で外の様子を伺う、銀髪の月の偉人。

 それに声を掛けたるは、薄い金糸を編み込んだ髪を湛えた、治世の職に就いている者。

 大小様々な電飾が、赤青黄色と、色取り取りの瞬きを繰り返しながら、薄暗い室内を僅かに照らしている。

『ロケットの管制室みたいだ』なんて、とある地上から来た者が見たのならば、そう感想を漏らすだろう。

 ここは、一種の観測室。

 ありとあらゆる事象を観測し、記録し、測定し続ける、月面で最高峰の調査機器が揃っていた。



「……構わないわ。どのような理由があるにしろ、もう、私は見てしまった。知ってしまった。彼の―――地上人、九十九の、異常性を。危険性を。それらを容認出来るほど、私は月に、愛想も尽かしていなければ、達観もしていない。私は私として、ここ、月の都に災いが降りかからない様……そして、九十九さんにも可能な限り危害の及ばぬよう、配慮したつもりよ」

「それが、これですか……」



 彼らの視界の先。

 無色の壁のその奥には、二つの影が、距離を取って相対していた。



「綿月依姫と、地上人九十九との、能力検査という名の、命の掛かった戦闘行為。……考えうる限りの生命の保証はあるけれど、そこに絶対は無い……」



 今回の歌い上げるように、綿月豊姫は、今回の名目を読み上げる。



「彼が……九十九さんが、依姫に負けてくれるのが、最も望ましい展開。そうすれば、幾ら彼の危険性が大衆の目に触れようが、依姫が勝ったという実績が、その不安を取り除いてくれる」

「首輪のついていない猛獣は、容認出来ない……ですか。永琳様がされるのでは、いけないのですか?」

「ええ。……私は命綱。私さえ居れば、まだ私が居るのだから。という、存在自体に意義のある、最後の希望。故に私は、ただの一度たりとも負けてはならず、危険に陥ってはならず。相対する域に何者も達してはならず。絶対の勝者でなければならない……」



 少し、悲しげな眼をして、永琳は豊姫へと、正面へと向けていた視線を戻す。



「勝てる、勝てない、では無いの。もし何かあった時には、『まだ大丈夫』という可能性を、常に残しておかなければならないのよ。そうでなければ、今の月の人々は、簡単に心折れてしまうでしょう……」



 永琳は脳裏に、ここに暮らす者達を思い描く。

 皆楽しそうに。皆嬉しそうに。皆安堵と共に。

 けれど皆、何処か生への渇望を―――生きる気力を失っている。

 与え続けられる平和。それを鵜呑みにするだけの日々。決して自らは何も生まず、ただ日常を回すだけの歯車になる。

 それが悪い事だとは言わないし、思う事も無い。

 そうする事で、穢れから開放されたここ月の都市では、悠久に近い時を生きる我々は過ごしていけるのだ。―――何の危険も存在しなければ。

 穢れの蔓延。地上人達の侵略。非友好的な、未知の生命体襲来の可能性。

 この土地に移住して来て、それらの脅威には未だに一度たりとも出会ってはいないけれど、今後とも絶対に無い、とは、さて、誰が断言出来ようか。

 もし、その時が来たのなら。

 危機回避とは、平時である時にこそ重要視するものだ。

 そうでなければ、そうであらねば、全てにおいて手遅れとなるのだから。



「依姫の方が私より強かったのなら、それでも良かったんだけれど……」

「……あの子、負けちゃいましたもんねぇ」

「そうなのよねぇ……」



 若干緊張が解れる。

 二人の脳裏に思い起こされるのは、数多の神々を呼び出し、その力を借り受け、永琳の知略の数々を、力技で突破していった依姫の姿だった。

 しかし、その力も本人の容量に左右されてしまう。

 能力を行使し続けて、終に依姫は、己の限界を超え、自壊に近い状態にまで陥ってしまったのだ。

 その時の光景は、……あまりに、その……あれであったので、一般映像としては出回っていないが―――血反吐を吐き、体中から出血し、それでも瞳を爛々と輝かせ、直立し続ける依姫は、それはそれは凄い光景であった、と。

 その当時を知る者は、異口同音に、そう感想を述べるだろう。 



「……今更ですけれど、永琳様の能力って、『ありとあらゆる薬を作る』能力でしたよね?」

「ええ、そうよ」

「……本当。どうして殆ど戦闘面で関係の無さそうなお力ですのに、この月でも三本の指に入る戦闘力を有しているのか、不思議でなりません……」

「そうかしら。私からすると、この『○○する』能力って、弱点なんじゃないかと思ってしまうくらいなんだけれど」

「……と、言いますと?」

「だって、名前が判明した段階で、それ系の能力を使えます。と、公言しているようなものじゃない? 囮として使う手段もあるけれど、情報は少ない方が好ましいわ」



 ……通常なら、その項目は脅威になりこそすれ、弱点には成り得ないのだけれど。

 永琳の弟子たる豊姫は、口には出さずに飲み込んだ。

 確かに言っている事は最もなのが、それを補ってなお、能力持ちというのは絶大である……筈なのに。

 この人の思考の異常性は、今に始まった事ではない。

 この方の基準で他の物事を計っては、色々と綻びが出てくる事だろう。

 そう思っていると。



「それに……」

「?」



 この理論には、まだ続きがあるようだ。

 再び耳を傾けてみれば、信じられない言葉が飛び出した。



「そもそも、能力を使わなければならない事態に陥るのが良くないわ」



 一瞬、体中の力が抜けそうになった。

 能力という強力な武器を、強者の証などではなく、手段の一つ―――と言うよりも、弱さの一種だとと考えているような、その胆力。

 決して短くない間、このお方の教えをこうて来たが、まだまだ自分の理解は及びそうにも無い。と、豊姫は改めて考え直した。



「……あぁ、でも、ジェイスさんの力には対抗し切れなかったのよね。……今後は精神面を鍛えなきゃ。怠っていたつもりじゃあ無かったのだけれど、まだまだでした。って事かしらね」



 自力のみで名だたる神々を相手に勝利を収められる者が、その成長に、さらなる躍進を視野に入れたようだ。

 どうにも……その……。そんなお方が、同じ月の民である事が段々と疑わしくなって来てしまうのは、致し方のない流れではないだろうか。

 そう、自分自身に言い訳する豊姫であった。



「そういえば……」

「何かしら」



 ふと疑問に思った事を、永琳へと問い掛ける。



「あの者が、全力を出してくれる、とは限らないのでは?」



 あの地上人の相手は、この地でも最上位に部類する戦闘能力を有している者。生半可なものでは戦闘と呼べる行為になるかどうかすら怪しいだろう、と。可能性は薄そうではあるが、もしかしたら、の懸念事項を豊姫は口にする。

 それに対し、永琳は少々考え込む仕草をした後で、こう答えた。



「ん~、大丈夫だと思うんだけれど……」

「……勝負事に熱くなりやすい性格、などですか?」

「いいえ。彼に、勝負に勝ったら『依姫を好きにして良い』って伝えてあるのよ」



 しばしの間。

 一瞬のみとはいえ、時の止まった状態が続き……。




「―――はぁ!?」



 普段の豊姫からは想像も付かない声が発せられた。

 当然だ。

 当の彼女にだって、こんな声が自分で出せるものかのかと、困惑している節がある。

 数えるのも億劫になるほどに生きてきたけれど、何せ、今まで一度もこのような声を出した事など無かったのだから。



「……あれ、言ってなかったかしら?」

「聞いておりません! 何を考えていらっしゃるのです!?」



 室内に響く怒号も何処吹く風。

 永琳は飄々とした顔で、再び目の前の依姫と九十九の相対する場へと顔を向けた。



「一応、あの子も了承済みよ? 『手加減されるかもしれない相手に勝って満足?』って聞いたら、こちらを飲み込まんばかりの勢いで口を大きく開けて、了解の返事をしてくれたわ」



 豊姫は、眉間に寄せた皺を伸ばすように、片手を額に当てる。

 そう言われ、あの子が肯定の意を示さない訳がない。依姫の性格を良く理解し、けれどその真意を把握していない、このお方らしい物事の運び方であると思った。



「彼、幾ら特異な能力を持っているとしたって、生物学上はオスじゃない? 基本だけを見れば男性って、性欲とかには滅法弱いから。観察していた限りでは男色の毛は無さそうだし、あなたもそうだけど、依姫もかなり求婚されていたでしょう? 一定以上の効果は見込めるんじゃないかしら?」



 年甲斐も……。と、誰が思ったのかは定かではないけれど。

 支配階級のほぼ頂点に君臨する者は、妙齢の女性が口にするにはやや危険な内容で、仄かに頬を染めながら、気恥ずかしげに言葉にした。

 その手の関係にあまり頓着しないお方であるとの認識が豊姫にはあったが、まさかここまでであったとは。

 新たに生まれた要素……。それが異国の者を招き入れてしまった責任なのか、異性という点から生ずる問題なのかは、未だ追及には至らないが、少なくとも、悠久にも等しい年月を過ごして来たこれまでの生活の中では、まず見る事の無かったであろう面を、彼女は我が師に垣間見る。

 貴重な体験ではある筈なのだが、これっきりで終わりにしたい。

 心の内で、そう締め括りながら。



「やめてあげて下さい……」



『かしら』ではありません、と。

 もはや、そう反論する気力も無い。否定に近い言葉を口にするだけで綿月の姉は精一杯だった。

 この師は、いつも何処かが抜けている。完璧に見えて、完璧に抜けている。それが、今回はここで現れてしまったようだ。

 一応、万が一の可能性も考慮して、何とかこの事態を回避出来ないものかと提案を投げ掛ける。

 何とかならないかと思って言ってはみたものの、どうにも難しいようだという事だけは判明した。

 要らぬ答えだと思いながら、豊姫は考えの続きを口にする。



「周りに証明するためだけならば、九十九さんには、それこそ手加減をして頂いて、それを記録として残せば良いのでは?」

「さっきも言ったけど、それじゃあ、周りが良くても、私がダメなの。私は彼の能力を知ってしまった。そして、危険と判断してしまった。……この思考に決着をつけなければ、最悪、私が彼を処分してしまう」



 物騒な事この上ない台詞の後、永琳は少し遠い眼を虚空へと向けて。



 ―――それだけは、嫌なのだ、と。



 殺しても構わない。殺める事は避けたい。

 近くに居た豊姫ですらも聞き取れない小声で、そのチグハグな心中を呟いた。










 眼下に広がる、巨大なドーム。

 荒野に近い空間は、月の大地をそのまま利用した地面を除く、周りの全てが白い壁で囲まれて、一切の出入り口―――逃げ場が無い。

 そこに流れる空気は張り詰めて、大地の下を脈動するマグマを連想させる、それは、表面では判断出来ない高温を伴っている戦気に満ち満ちていた。

 音声伝達装置を起動させる。

 これで、今から話す言葉全ては、彼らの元へと、しっかり届く事だろう。



「依姫、九十九さん。準備は良いわね」



 空間に響く、月光を編みこんだ銀髪の女性の声。

 それを聞いた名を呼ばれた二人は、声には出さず、互いに小さく頷くのみ。



「制限時間は無し。行動の制限も無し。どちらかが行動不能になるか、降参の意を表した場合まで、戦闘を続行します。お互い―――全力で挑みなさい」



 それが合図であった。

 両の目を見開いて、それぞれの暴力を具現化する。

 それは―――。















 最近のトレンドは、熱血青春ドラマよろしく、殴り愛なんだろか。どうなんだろか。教えて偉い人。

 殺し愛……なんかだったら、某キノコな人などが製作を手掛けている、F○teやら月○姫やらを手掛けているゲームメーカーで散々お世話になったジャンルでもあるので、理解出来るんだけど……。



(殴る方のコミュニケーションは、男同士しか知らんぞなもし)



 師弟の絆やら戦闘描写が色々と濃いロボット同士のGガン○ムであったり、日本に突如として現れた異能者が生まれる土地ロストなんちゃらを舞台にしたスクラ○ドあれであったり。

 七つ集めると夢を叶える玉を散策する旅なんかを描いた超有名な作品ドラゴンボ○ルは、個人的には何か違うな、と思うので、除外する方針で。

 

 身に着けているものは、こっちで貰った衣類のみ。他には寸鉄一つ帯びてはいない。諏訪で貰った外套だって、破れてしまったら嫌なので、控え室に置いてきた。

 ある意味、裸一つで挑んでいるようなものだ。



「―――逃げずに良く来た。と、褒めてやろう。弱き者よ」



 ―――この、月の軍神様に。



「おいおい、どんだけ上から目線なんだよ。……間違っちゃいないけどな」



 認めよう。俺“だけ”が弱いのは。

 挑発的な台詞は、挑発的な言葉遣いで対応しましょう。

 ……そう思って、謙虚なところは抑えつつ、言葉を返してみたのだが、返された側の依姫は、怪訝な表情を作ってしまった。



「……地上の者達の間では、こういう話の流れの後で、戦闘に及ぶものでは無いのか?」

「いや違ぇよ!? 誰だよ! このお姫様にどこぞの魔王みたいな知識教えたの!」



 目尻を下げて、不安に揺れる表情を作ったと思ったら、これだ。



(……ん?)



 ……永琳さんの研究所に顔を出すようになった際に、研究員の人(男)達と娯楽についての話で、ジャパニーズなRPGの話……ドラ○エやF○なぞの話題を零し、そんな台詞を俺自身が漏らした気もするが、些細な問題だろう。ふと気づいた事実から、全力で顔を背けようと思います。

 一瞬、依姫がショボーン(AA略)的な顔をしたものの、すぐに気持ちを切り替えたようで、今の腑抜けた空気は、一瞬で四散した。



「……ジェイス殿は、無事に戻られたのか?」

「あ、あぁ。あの後、しばらくしてな」



 具体的には、今朝方に。

 壁に表示されている時計に目をやれば、時刻はもうすぐ、正午に指しかかろうとしていた。

 正直、今回の戦闘で、彼の助力を得られれば、と思っていたんだが、【プレインズウォーカー】には様々な制限が掛かっていたようだ。



 判明した制限は三つ。

 一つ。彼が使う能力は、一日しか行使出来ず、効果を維持出来ない。

 一つ。彼が使う能力は、ものによっては、こちらの体力をさらに使う。

 一つ。PWは……一度召喚したのなら、再度、召喚は出来ない。

 大雑把に分かった事は、これくらい。



 彼の能力が使えないと分かり、再度召喚すれば元に戻るか、と思って試してみたのなら、それが出来ませんでした、という流れである。

 あまりに早過ぎた別れに、それなりに大きな穴が、心にぽっかりと開いてしまったが……別にこれが、今生の別れになる、と決まった訳では無いのだ。と思う事にした。

 よって、今回の戦闘では見送る羽目になってしまったが、またいつか、能力的に余裕が出来たら―――制限が解除されたのなら、、戦闘云々もそうだが、今後は一緒に、酒でも飲みたいと思う。




「その、だな……」

「あん?」



 ぽつり。

 こちらにしか届かないであろう音量で、目を閉じながら、月の軍神様が語りだす。



「始めは、お前を真っ二つにしようと思っていたんだ」

「……うん、まぁ、それはジェイスから聞いたよ」



 それが原因で、色々と面倒な事になったのだ。

 切欠くらい覚えている。



「あれから一睡もせずに考えたんだが……あの時の気持ちは大分薄れて来たが―――私は未だに、お前が嫌いだ」



 おぉう……そんなカミングアウトいらねぇ……。



「私が幾年、お前の立ち位置に憧れ、渇望し、精進を続けて来たのか……」



 ……それを俺に言われても。と思うんだが、とりあえずは、話を最後まで聞く事にしよう。

 ぶっちゃけ、今ここでこの感情を、そのまま言葉にしたのなら、この先色々とコミュニケーションが取れなくなるだろう、と予想しただけの結論なのだが。



「だがな」

「ん?」

「お前を見て分かったよ。私には、その位置には辿り着けそうにない。そこまで自分を曝け出す事も、主張する事も、我が侭を言う事も……な。私には、無理だ」

「……遠回しに馬鹿にしてんのか」

「誤解しないするな。お前が羨ましい、と言っているんだ。少なくとも、私はそのつもりで言っている」

「お前、ホントに上から目線だな!」



 誤解を与えておいて“するな”とか、思い上がりも甚だしい。



 ―――と。普通ならば思うんだろう。時と場合と相手さえ違えば、そう感じる事の方が、当たり前な筈なのだ。

 だが。こいつ―――この月の軍神様は、それを何の嫌味もなく、こちらに伝えて来るときた。

 自信に満ちた瞳。言葉に偽りなど無い、と断言する表情。

 羨望と諦めの色が見え隠れを繰り返し、本当に残念そうに、羨ましいそうに、それらを言ってのけたのだ。



(……なんかもう、言葉の揚げ足取りみたいな事でムキになってる、こっちが馬鹿なんじゃないかと思えてくるんだが)



 所詮。言葉など、意志を伝える為の手段の一つ。

 例えそれを間違えようとも、伝えたい何かが全て伝わるのならば、それら手段は形骸化する。

 依姫の本心を理解してなお、先程の言葉に拘り続けるのは、少しだけ……ほんの少しだけだが、何とも大人気ない気がしてならなくなってくる。



「……で、その俺の事が嫌いで、羨ましいと思っていらっしゃる軍神様は、一体なんでこんな話を切り出したのでしょーか?」

「ああ。それなんだがな」



 少し息を吸い、呼吸を整えて、言葉を続ける。



「私は私で、私のままに、私が望むものを手に入れようと思う。私は私だ。お前じゃあ無い。その位置へは辿り着けないが、また別の、違う場所を目指す事にしたよ」

「……それを俺に言って、何だってのさ」

「ああ、だから―――」



 そう言って、姿勢を正し、服装を正し。

 先程とは全く別の……表情を真剣なものに変えたかと思えば、



「ありがとう、九十九。お前のお陰で、私は先に進めそうだ」



 彼女の頭はこちらに垂れて。きっかり、しっかり、九十度。

 土下座とまでは行かずとも、直立で出来る最高位の謝罪&感謝の姿勢に、たまらずたじろぎ、困惑に後押しされた音量で、疑問の言葉を口にする。



「お前、俺の事が嫌いじゃなかったのかよ!?」

「ん? 先程、そう言ったではないか。何だお前、痴呆の気でもあるのか?」



 ……今のはこっちが呆れられるもんなんだろうか。



「お前が嫌いな事と、お前に感謝している事は、別だ。私はお前が嫌いだ。だから」



 ニマリと釣り上がる口。不敵に細められる目。

 ふふん。とでも幻聴が聞こえてきそうな表情のままに、ともすれば、そっち系にも聞き取れる言葉を口にした。



「―――これからお前の足腰が立たなくなるまで、取り分け念入りに扱いてやろう」

「……今までの会話を聞いてて思ったけど、お前、少しは言葉に頓着しろよ。今のは要らん誤解を生むぞ」

「……? まぁ、それは置いておいて、だ」



 置いておくんかい。



「私はお前が嫌いだ。で、私はお前に感謝もしている。―――あれだな、『それはそれ。これはこれ』だ。確かそんな言葉だった」



 理解が、追いつかない。



(……何なんだ、こいつは)



 気持ちの切り替えが早いとか、そういったレベルのものじゃあ無い気がする。

 もっとこう、全てを受け入れてなお、混同する事は無く、別々の感情を同居させるかの如く。

 感謝には感謝を。敵意には敵意を、あます事無く反射する、感情の鏡。

 ここまで極端ではなくとも、俺自身にもそういった面があるし、そうと考えれば多少は理解も深まる……とは思うのだが。

 ―――人間、一つの対象に、好き嫌いの考えが入り混じって、その対象を見続ける。

 あの人のココが好き。でも、あそこは嫌い。

 そんな思いなど、それこそ万人が抱いているものに違いない。

 それが当たり前。それが普通。それが常識……の、筈だった。



(こいつを見るまでは……)



 あまりに真っ直ぐな、その信念。

 良いものは良い。悪いものは悪い。

 何の感情にも流されず、完全な白黒をつけられる人物が、一体どれだけ居るというのだろう。

 そういう考えは、白黒付けるのが得意な閻魔様くらいだと思っていたが。

 そんな判断を下す相手が、こうも滑稽で、愚直で、視野の狭いだけとしか思えない、そんな相手が―――



(うん、何か……)



 ―――羨ましいと。

 そう思えてならないのは、何故なんだろうか。



「はははっ―――。お前、馬鹿だろう」

「ぬ、何を言うか。これでも勉学において、他のものに遅れを取った事は、そうそう無いんだぞ?」



 そう言って、再び自信満々な表情を浮かべ、不敵に笑みを浮かべる。



(違うさ……そういう意味の“馬鹿”じゃ無いんだ……)



 こいつは、言葉に頓着しない。

 伝えたい事、教えたい事、知ってほしい事を、考えるより先に言葉にする。

『分かってくれるだろうか?』という疑問すら挟まずに、伝えなければ伝わらないという、至極当たり前の理念を実践するのだ

“分かってくれる”などという、受動的な選択肢など、はなっから存在していないのだろう。

 自分で傷つく事を恐れずに、自分で決めたルールに則り、それを行い、突き進む意志の強さ。

 何処か鬼と通ずるそれに、尊敬にも似た念が胸に芽生えるのを実感しながら……。



「そろそろ時間だ」



 依姫の言葉に反応し、顔を遥か遠くの壁に備え付けられた、大きめに作られた時計へと向けた。

 予定の時間まで、後数分。これから起こるのは、この世界に訪れてから最も激しい戦いになる。

『神々の依代となる』能力は、汎用性、戦闘力、etc。多種多様の面で、脅威以外の言葉が出てこないだけの代物だ。普通に戦闘すれば、まず間違いなく、打ち負かす事は出来ないだろう。



「九十九。もしお前が望むなら、多少は手心を加えてやっても良いぞ」



 侮るでも、馬鹿にするでなく。純粋に、こちらと自分の力量を比較した後の発言なのだろう。

 淡々と告げられた弱者宣言に、『言葉には注意するように』との忠告は、全く無意味であったのだと実感させられる。



「おぉ……。そりゃあ……ありがたいな……」



 現状の、自分の状況を省みる。

 使用最大マナ、6。

 維持マナ、【今田家の猟犬、勇丸】の1のみ。

 使用最大カード枚数、9。

 気力、体力、共に上々。

 永琳さんとの実験で分かった、新たなカードルールも幾つかある。

 つまりは、全力を出せる、といっても過言ではない。



(勝利条件は、対象を戦闘不能状態に持っていく事、もしくは降参宣言。の二つ)



 カチリカチリと、巡りの悪い頭を使い、脳内で多種多様のカードを組み合わせ続ける。

 あの【シナジー】はどうか。この【コンボ】は効くだろうか。

 他のプレイヤーが居たのならば、それこそ他に、もっと効率の良い組み合わせを思いつくんだろうが。



(……うん、この戦法は、面白いかな)



 相手が手加減までしてくれるというのだ。その心意気を汲んでもバチは当るまい。

 ―――最も、単純に『手を抜いてくれ』という気など、サラサラ無いのだが。



「よっちゃん」

「何だ……ん? よっちゃん?」



 ちょっと好意を持ったので、フランクな呼び方を口にしてみる。相手に拒否権は無い。今のところは。敵みたいなもんだし。

 一方、呼ばれた方は反射的に反応したものの、今の呼称には思うところがあるらしい。疑問の声を上げた。



「まぁ気にするな。で、さっきの手加減云々って奴なんだがな」

「……まぁいい。で、何だ。やっと決まったのか。両手を使わないでも、目を閉じてやるでも、それなりの事なら聞き入れてやるぞ?」



 はっ。随分と下に見られたもんだ。

 間違っちゃいない。俺自身の力なんて、誰がどう評価したって、一般人止まり。

 むしろそれ以上の評価をしようものなら、俺はその相手の正気を疑うだろう。



「違ぇよ」



 ……それに。

 舐めていてくれた方が、それを負かした時の爽快感は、より格別なものになるだろう。



「―――逆だ。月の軍神、綿月の依姫。御託はいい。最初の一合から、全力で来い。手加減なんて、真っ平御免だ。手を抜くな、油断をするな、“出し惜しみをするな”―――その慢心、根元から圧し折ってやる」



 戦姫の目が爛々と輝き、その顔が、牙を剥く猛禽類を連想させながら、獰猛に歪む。

 受ける重圧に拍車が掛かり、チリチリと肌を焦がす闘気を肌で感じる。



「良く吼えた! 地上から来た者よ! 良かろう! お前の期待に応え、そして―――その応えた期待ごと、圧し折ってやろう!」



 背筋を伸ばし、両の手に力を込めて。

 こちらが告げた『圧し折る』を、更に『圧し折る』気概を感じながら。



(……あれは、例の能力発動しました、ってところか)



 こちらの期待通り、一合で全てを決める勢いで、体に何処かしらの神を降ろそうとしている。

 それは強大で、絶大で、壮大で。

 諏訪の神。大和の軍神。妖怪の纏め役、鬼。

 それらを見ていても、なお、最強と呼ぶのはこういった存在なのだと予感させるだけの何かである。



「依姫、九十九さん。準備は良いわね」



 永琳さんの声が響く。

 それに答えるのは、互いに僅かに頷くのみ。

 どちらも、臨界点一歩手前なのだ。

 今何か、一言でも言葉を洩らそうものなら、すぐにでも爆発し兼ねない。



「制限時間は無し。行動の制限も無し。どちらかが行動不能になるか、降参の意を表した場合まで、戦闘を続行します。お互い―――全力で挑みなさい」



 それが、始まり。

 依姫の体に、何かしらの神が降りて来るのが分かる。

 頑丈そうなドームの内壁が悲鳴を上げて、パラパラと、白い粉のようなものが、辺り一面に降り注ぎ始めた。





 ただ、それを成しているのは、彼女だけではない。





 俺の背後。

 いつものように集まりだした光は、その光量が、今までの規模とは段違いであった。

 広大な空間である筈なのに、既にそれには収まりきらないとばかりに、後ろのスペースは、その光によって埋まってしまった。

 四散する光。

 そこに現れるは―――巨大で、長大な首の、龍。

 首幅、数メートル。その全長は、百メートルをゆうに越えるであろう。

 祟り神の統括者が従えていた巨大な蛇を思わせる、ぬめる様な灰色の光沢の鱗を持つ、灼熱の眼力を湛えたその顔立ちに、見る者全てが平伏すであろう存在である事が確信出来た。



 けれど、それは依姫も同じ。……いや、むしろ、それ以上だ。

 何の神を降ろしたのかは不明だが、あれは紛れも無く唯一無二の力を持つものである事が、その姿を見ずとも、存在感だけで理解出来た。

 これでは及ばない。まだ、届かない。

 あれは、遥かな高み。決して人では絶対に辿り着けぬ、神の名の頂点に君臨する者。彼女が全力と宣言するのに相応しい、人知未踏の絶対者。



 ―――だがそれは、俺には当てはまらない。

 もう一つ。新たな長首の龍が出現する。

 姿形は先程出現した龍首と同様だが、唯一、異なる点がある。目だ。

 その瞳は、白。

 純白でも尚足りぬ、満天の輝きを伴った―――光がそのまま塊になったかのような瞳を備えていた。

 流石に二体目の召喚は予想外でったのか、僅かながらに、依姫の表情が、驚きに彩られる。

 それでもまだまだ力不足である、とは思っているようで、未だにこちらを脅威とは認識していないようだ。

 しかし。



(まだだ。これだけじゃねぇぞ)



 まだ、首が出現した。

 これも同様に見た目は同様で、その目の色だけが、他の二体とは別である。



「なっ―――!?」



 けれど、それ“だけ”に驚く間は、依姫には残されていなかった。

 その色を確認する間もなく“また”現れる、新たな首。

 さらに、それに意識を集中する事も出来ずに出現する、首。

 首、首、首、首、首。

 依姫が、一体どのタイミングで驚きを表せば良いのか分からないままに、全部で五つのそれが出現し切ったところで、その現象は止んだ。

 五指が俺をボールでも握り込むかのように、その首達は展開し、それぞれの指先―――龍の頭が、絶対者となった依姫を見下ろす。

 黒、青、白、緑、赤の眼をそれぞれに備え、確固たる者としてこの場を支配する、目前の絶対者とはまた違った、五色の象徴たる絶対者。



 ―――動揺する依姫に好機を見出し、静かに、さり気なく、とあるカードを実行する。

【インスタント】呪文であるそれは、時間が経てば経つ程に。相手が力を使えば使う程に効力を発揮する事だろう。100%は掛からないだろう、という不安要素があるものの、半分でも効果が現れてくれたら御の字だ。

 それに彼女は気づいた様子もなく、不敵に、その表情を浮かべた。



「―――はっ!」



 面白い。

 言葉に出した訳ではないが、獰猛である依姫の顔が、そう哂って、こちらに訴えかけて来ていた。

 周囲に起こる、帯電現象。

 漫画やアニメでよく見られる光景を、こうして体験出来る日が来ようとは夢にも思わなかった。

 強大な存在を目の前にして、後ろへとひっくり返そうになる体を、後ろにいる存在が、触れてはいないというのに、背中をそっと押さえてくれている気がする。

 

「消えてくれるなよ、九十九!」



 依姫が腰を深く落とし、何もない空間を掴むように、その指先を閉じた。

 それに連動して現れる、炎。

 足から、胴体、から、特に腕から噴出すかの如く輝きを発し……それの影響だろうか。その炎達が、閉じられた依姫の掌に結集し、巨大な―――あらゆるものを一刀両断の名の下に切り裂くであろう、灼熱の剣を形成した。

 空間が悲鳴を上げるように嘶き、一瞬後には次元崩壊でも起こしそうな音源となって、辺りを蹂躙する。



(世界を裂いたレヴァンティンってか!?)



『炎の剣』に該当する知識が、それ位しか知らないのを少し悔やむ。

 後ろの存在が居なかったのなら、こんなにも思考に余裕など生まれなかっただろう。



(フランちゃんと被ってますよー!)



 テンションに任せた心の叫びとは別に、呼び出した召喚コストの高さから、急激に失っていく体力に、“時間制限”の四文字がチラチラと脳裏を掠める。

 炎の剣の見た目は、吸血鬼の妹が所持していたものとは全くの別物なのだが、性質的には似たようなものだと思われる。違うかもしれないが。

 それに、年代的にはよっちゃんのが最初だ。今の発言は筋違いというものだろう。なんて、どうでもいいことを考えてしまった。



 ……ただ、彼女はそんな力など使えたであろうか。

 日本の神様しか使っていないイメージだったが、北欧なんかの辺りもいけるのかもしれない。……というか、地上の神様、全部。

 驚きと同時に零れる、ほんの少しの絶望感。

 ……この上から目線も、いい加減もう慣れた。

 しかも、“死んで”などではなく、“消えて”とは。

 さて、この戦姫は一体何をカマしてくれるつもりなのだか。

 挑発し過ぎたか、と、若干後悔するけれど、これも作戦の内なのだ。

 彼女には、常に全力を出し続け、疲労困憊レベルにまで陥ってもらわなければならないのだから。

 雰囲気も上々、気分もノリノリ。後はドンパチするだけで。

 相手がそれなりの台詞を吐いたのなら、こちらだって、答えない訳にはいかないだろう。





 ―――ずっと前に、卒業したとばかり思っていたのだが。

 これでは、俺の邪気眼も疼き出すというものだ。





「哀れ。そして、愚かだ、小さき者よ。

 幾千の神を従えようと、幾万の力を総べようと、所詮は星にすがる者。

 活目せよ。その眼に映るは、無数の次元世界において上位に座する、終極の一端の顕現である。

 ―――力の差を、知るがいい」










 ―――雰囲気に流されてモノを言うのは止めましょう。

 それっぽい単語を並べて口に出した言葉に、我ながら『何言ってんだ俺』と羞恥心が襲う。

 それがたった今学んだ、俺の教訓である。




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