こちらのSSは、息抜きの一環として、メインストーリーの進行速度に影響のない範囲で書き殴ったものであり、本編とは分けてお考えいただければ助かります。
■■■■案1■■■■
「あ~……俺、何か気に触る事をしました……か……?」
「……立ち去って下さい。私達は誰とも関わりません。近寄りません、相対しません、遭遇しません、出歩きません。見えず、聞こえず、芳ず。ですから、どうか。―――私達を、そっとしておいて下さい」
それは。
心を読める少女と、心を閉ざした少女との出会い。
「何、この思考……ッ!」
「お姉ちゃん?」
「考えが読める……読め過ぎる程に……。悲哀、殺意、我欲、慈愛。まるで……まるであなたの中に幾人もの生命が営みを築いている……歩く街……いえ。国……世界そのもの。あなたは―――何?」
「もはや人扱いですらないのね!?」
「わーい♪おにーさんがまた涙流してるー。私好きなんだー、この人の泣き顔♪」
「こっちもこっちで良い趣味でございます!」
繋がりを求め、けれどそれを諦めた者は。
「ほらほら。もふもふですよー、ふかふかですよー? 撫で撫でー、撫で撫でー……はい!」
「はっ、はいっ……!」
「硬くなりすぎだよ~、勇丸も体が強張っちゃってるじゃない」
「そっ、そうは言っても……こいし……」
「いきなり接触スキンシップは難易度高かったですか?」
「そうではないのですが……。いえ、いいんです勇丸さん。私が臆病過ぎるのがいけないんですから」
「何で会話出来るのに尻込みしちゃうのかな~なんて、思わんでもないのですが。……時間を掛けるか、短時間でいくか。うぅむ……」
「あっ、また悪い事考えてる♪」
「失礼な! 世の為、人の為、そして何より俺の為と、常日頃から心掛けているワタクシに向かって、なんたる言い草! ここはもう、実姉様が監督不行き届きで責任を負うしかねぇ!」
「えっ、私!?」
「さぁ勇丸! あの大和の軍神を悶絶させた舌技を発揮する時が来たぞ! オチは俺に任せて、ズズズイとやっちゃって下さい!」
「……あっ―――」
「あっ、お姉ちゃん、良いな良いなぁ。勇丸! それ、次は私ねっ!」
「裏切ったな勇丸! ただ隣で静かに寄り添うだけとか、実は俺も結構やってほしい!」
「……あなたの場合、心を読む必要が殆どない、という経験をどう受け止めたらいいものか悩みます……」
関わりを拒み、しかし、温もりを渇望する性の果て。
「もう、誰も来ないでッ!!」
「逃げて九十九! あれは相手の心にある闇を表に出すものなの! 感情が豊かであればあるほど……激しい気持ちを持てば持つ程にその闇は大きくなる! 自分の影から逃れられないように、ただの人間がそれに敵う訳がないのよ! あなたなんていっぱい力は持ってるけれど、その最もたる人間じゃない! だから、今は!」
「これがサトリ妖怪の……さとりさんが忌み嫌う原因か! 起想シリーズの先駆けって感じだな!」
「何また意味分かんない事言ってるの! 勇丸も黙ってないで、ご主人様の安全を確保してよ!」
「まぁまぁ。ここで尻尾をまいて逃げちまったら、わたしゃーただのお調子者で終わっちまいますので」
「え、違うの?」
「違っ……うとは言い切れないので、ここでその禍根を断つ努力させて下さいお願いします!」
「こんな状況で何言ってるの!」
その少女の絶望を。
真っ正面から打ち砕く。
「―――抱え込んだ諦めを、思いつく限りの悪夢を、ありったけのトラウマを。でもそんなものは、全てどうにか出来るものなんだと。全部全部、遥か彼方にふっ飛ばしてやりますから。だから、安心して思い浮かべちゃって下さい。……発動【Eureka(エウレカ)】! さぁ、勝負だ、サトリ妖怪、古明地さとり! ―――調子に乗った俺を、止められると思うなよ!!」
『Eureka(エウレカ)』
4マナで、緑の【ソーサリー】
自分から始め、各プレイヤーは自分の手札から、場に存在出来るカードを1枚ずつ、一切のコストを支払う事なく出していく。この手順を、全てのプレイヤーがカードを出さなくなるまで続ける。
要約すると、全てのプレイヤーは、【インスタント】【ソーサリー】を除く全てのカードをノーコストで手札から場に出す事が出来るもの。出さない、という選択肢もある。
未だ緑の役割が明確に定まっていなかった、MTG登場初期の頃のもの。然るに、日本語版は存在しない。
豊富なマナを生み出す事に優れ、それによって各種カードを使用、展開する事が基本となっている現在の【緑】らしからぬ呪文の一つ。あまりに突拍子もない能力であった為、ほぼ全ての公式大会で禁止カードに指定されている。
凶悪さは為りを潜めたものの、それでも、これを元とした幾つかの亜種が存在し、それらは大会で名を残すデッキのキーカード、あるいはデッキ名となっている。故に、元となった【エウレカ】の異常性が目立つ効果を生んでいる。
尤も、後にこれ以上の効果をもたらすカードも登場してしまったのだが。
■■■■案2■■■■
音にならない、音。それは他の何にでもなく、目の前の小柄な少女―――古明地さとりにより鳴らされる、拒絶。
「もう―――嫌―――」
ギチリ、ギチリ、ギチリ。
軋みを……悲鳴を上げる空間は、もう止めてくれと泣き続け。それでも止まぬ痛みに、ただただ己を歪ませる。
頭を抱え蹲る女の子は、小さく、小さく。その体のように小さな声で、暗い感情を口から紡ぐ。
「今度こそと思ったのに……今回こそはと、信じたのに……」
直後、頭の中を覗かれた。
……いや、覗かれた。なんて可愛いものじゃない。
髪を毟られ、頭皮を剥がされ、頭蓋骨を抉じ開けられて、直接ナカミを食べられているような。
モグモグと、パクパクと、ムシャムシャと。可愛らしい擬音と共に、不可視のスプーンで無くなっていく脳ミソは、紛れもなく俺自身。
「ぎっ―――い”ッ―――!?」
「あなたには感謝しています。忌諱されるばかりだった私に対しても、あんなに優しく、暖かく接してくれたのですから。……嬉しかった。……楽しかった。……これまでの歩みなんて比較にならないくらいに素晴らしく……心が躍る……ひととき……の、夢……でした」
膝を突き、地面にこうべを垂れる自分の上から告げられる暖かな言葉は、しかし、その行動によって全てが打ち消される。
殺す気だ。
反射的に思考したものは、正確に少女へと伝わり。
クスリ、と。
小さくも可愛らしい……背筋の凍る声をこぼさせた。
「そんな訳ないじゃないですか。あなたは……あなただけはすっかり忘れてしまっているから、改めて告げておきますけれど」
幼い容姿に見合わぬ妖艶を。若き姿に見合う無垢を。全てを諦めた絶望に乗せて。
「私―――妖怪なんですよ?」
頭痛の消失。次いで、視界の正常化。
サードアイから伸びていた触角のようなものが体から離れるのに合わせ、メチャクチャであった思考が本来の形を取り戻し、徐々にこれまで通りの機能を再起動させてゆく。
やっと自分が戻って来た気がして、水の中で溺れていた時宛らに、胸いっぱい大きく息を取り込んだ。
吹き出る汗、冷えた手足、全身を襲う疲労感。痛いくらいの心臓の鼓動と、それに連動する、耳に届く血流の音が自身の存命を教えてくれていた。
とはいえ、それだけに感けていられない。
すぐさまこれ以上の事態の悪化を回避すべく【レインジャーの悪知恵】を自身へと掛ける。
1マナの緑の【インスタント】。選んだクリーチャーに+1/+1の修正を与え、対象に選べない効果を持つ【被覆】よりも柔軟性に富んだ、【呪禁】と呼ばれる、対戦相手にのみ【被覆】効果を発揮するそれを使用した。
自力の差によってはこれらを掻い潜る可能性もあるが、彼女ではそれも不可能だ。故にこれは、彼女の最大の能力である、思考を読み取る力を完全に封じられる効果を生む。
「もう、いいんです。所詮私は嫌われ者。前のようにひっそりと、誰に知られる事もない場所で過ごせれば、それで」
足音が遠ざかる。土を擦る軽い重さは、離れれば離れる程に決して埋められぬ溝へと変貌しているようで。
これはダメだ、これはまずい。
そう直感が体へと働き掛けて、何とか動くようになった腕を持ち上げ、伸ばし。
「―――来ないで!!」
他ならぬ、掴もうとした少女の言葉によって止められた。
「……けれど、もう、それも不可能でしょう。心が読めるという……忌諱される存在は、それを周囲へと知らしめたり。かくしてここに、不倶戴天の嫌われ者が、堂々誕生と相成りました」
叫びと同時に俯いた、その表情は見えない。
泣いているのか、嗤っているのか、さえ。
「害虫のようなものです。居ると分かっているだけで嫌なもの。在ると分かっているだけで消したくなるもの。それが、意図もたやすく駆除出来る非力さであるとなれば、その結末は言わずもがな。小さな……何処にでもある悲劇の完成です」
楽しげに語る少女の、努めて明るく振舞う声色は、自虐。
どうしようもないのだと。変えようのないものだと。
求め、願い、追いかけて……無理なのだと理解した……してしまった、答え。
「皮肉なものですね。なまじ温もりを知ってしまっただけに、今まで耐えてきたものに耐えられなくなるなんて……。もうイヤなんです。逃げ続けるのも、隠れ続けるのも……嫌われ続けるのも。なので―――」
悲哀と達観の入り混じる感情のままに、真っ黒の真理が乗り移ったかのような声で。
「―――みんな……みんな。消えてしまえば良いのかなぁ、と」
俺にとっても、彼女にとっても。誰にとっても最悪であろう回答を口にした。
「これまであなたの傍に居たんです。その力の強大さは十二分に実感出来ました。……けれど、足りない。私の願いを叶える為には、それだけでは不十分なんですよ。ですから、あなた自身も全てを把握し切れていないと仰っていたそれに、探りを入れさせていただきました」
頭の中身をグチャグチャに掻き回されたような感覚は、まさに彼女の仕業であったらしい。
そこから推察される能力は―――想起。対象の記憶を読み解き、トラウマを再現する力。
けれど、分からない。
もしこちらの力を使えるのだとしたら、確かに強大だ、確かに強力だ。海をも割き、山をも砕き、命すら創り出す、集められた魔法の力であるのだから。
しかしそれに対抗する手段を、全てこちらは持ち合わせている。
現にもう、俺自身への【呪禁】の付与は実行済み。自力がこちらより圧倒的に上の相手ならいざ知らず、彼女だけでは、もはや能力による干渉は不可能だ。継続してトラウマを読み取る手段は途絶えたと判断出来る。
そしてそれは、彼女も織り込み済みの筈。
つまるところそれは、こちらのトラウマに準ずる何かを、先に読み取ったであろうそれ――― 一つしか実行出来ないという事。
たった一つの呪文で他の全てに対処するなど、MTGでは不可能。それが出来るのならば、MTGはゲームとして成り立たず、その存在意味を失ってしまうのだから。
「普通の方法では、あなたの心を覗くのは不可能でした。無数とも言える他者の意思が邪魔をして、どれがあなたのものなのか、辿り着く事すら叶わないんですから。……けれど、直接触れ合っていたのなら、話は別」
先程の、サードアイの一端が触れていた事実を思い返す。
恐らくその事かと当たりを付けていると―――。
その手をこちらに。まるで、この手取って御覧なさいと―――決して無理だという意思を込め―――差し出して。
「もはや心が読めなくても、あなたの考えは解ります。こんな妖怪ですもの。例え能力が通用しなくたって、これまでの経験から、大概の相手ならば、思考の機微くらいは感じられる。それでなくても、あなたは自分の考えが口からこぼれ出ていたんです。……困りましたよ。何せこれまでずっと……二重の意味で、能力を使う必要がなかったのですから」
このMTGの能力故か。【被覆】や【呪禁】など無くとも、彼女の力は俺に対して、その効果を殆ど消失させていた。
効果もあるし、効かない訳でもない。
ならばどういう事かと問われれば、心を読む力を使った場合、俺を通してMTGに関する何かの思考を覗いてしまうのだと言った。
無限の欲望を抱く者。激しい怒りで世界を焼き尽くした者。慈愛を以って、自らの滅びすら善しとする者に、ただ大らかであれと体現し続けた者まで。
木を隠すのなら森の中。砂漠で一粒の砂を見つけるかの如き確立故に、心を読むという能力に対して、鉄壁とも言える防御力を誇っていた、のだが。
「今のあなたに思い当たる節はないでしょう。既存の知識の上に思考を巡らせている、その状態でならば」
彼女が差し出した手の先。その僅かな前方に、周囲の空気が渦巻くように集っている。
死ぬぞ、と。喉元まで出掛かった言葉を飲み込んだ。
過去、この力に目をつけて奪おうとした者の末路は、1マナのものですら満足に発動させる事もなく、一瞬にして干乾びたミイラと化した。
それはそうだ。そもそもこの1マナという基準は、広大な【土地】一つが生成するであろう力を糧とするもの。それを安直に使おうとすれば、そうなるのは当然と言えた。
だからこそ、分からない。
こちらの記憶を読み解いたであろう彼女が、それを知らない筈がないのに。
可能性としては、呪文を始めとした全ての記憶を把握するには至らなかった、という線が濃厚か。
だとしたら、それをさせてはならいと。
(【オアリムの詠唱】!)
1マナで、白の【インスタント】。対象のプレイヤー1人は1ターンの間呪文を唱えられないという、呪文を唱える事を主とする者達には効果絶大のそれを使用した。
駄目押しとばかりに【キッカー】コストも支払う。本来の呪文コストとは別に、【キッカー】という能力に書かれたコストを注ぎ込む事で、更なる別の効果を付随さるそれが今回発揮する効果は、1ターンの間、対象となったプレイヤーがコントロールするクリーチャーは攻撃に参加出来ないというもの。
呪文も唱えられず、クリーチャーによる攻撃も出来ず。
もはや“積み”である状況だというのに、彼女の顔には、微笑が張り付いたまま。
この状況を理解していないのだろうか。あぁ、そうに違いない。
―――という考えに辿り着こうとする、その少し手前で。
「ッ!?」
絶句。それが俺の口から出た反応だった。
少女の前方に変化が生じた。少しの砂埃と、微風。それらが凝縮され、四散する。
―――そこには、一人の女性が居た。
風の化身とでも言うべき青白い肌。それらを構成する一部であるかのようにまとわり付く風が、下半身を覆い隠し、地面から轟々と立ち上っていた。
体は愚か、髪ですらも風で編まれたそれは、悩ましく、不敵に。その顔をこちらへと向け―――哂っていた。
(【大気の精霊】……?)
これで何度目か。
分からない、と頭が告げる。
あれは、5マナのクリーチャー。青の【エレメンタル】であり、4/4。特別な【フレーバーテキスト】が記載されているでも、MTGの物語の中で強力無比の力を振るっていた訳でもなく。備わっている能力は【飛行】のみという、中級【フライヤー】以外に説明のない……特筆すべき点が一つもない、ただのクリーチャーであるのだから。
青のアタッカーとして代表的なクリーチャーとはいえ、他に優秀なカードは五万とある。だからこそ、それを選ぶ意味が分からない。理解出来ない。思い当たらない。
(……違う、そうじゃない)
疑問は多々あれど、最も初めに考えるべき点は、何故“呪文を唱えられない状況で、クリーチャーが召喚されたのかという事”。
別に、クリーチャーを出す行為は不可能ではない。けれど、それをクリアする為には他のカードを駆使しなければならないのだ。だが、そういった素振りはしていなかった。
「分からないですか? 分からないですよね。何せ今まで、一度としてこの人を召喚した事がなかったようですから」
言葉による翻弄を楽しんでいる。
そんな口調で話し掛ける様は、こちらの不利を……あちらの圧倒的な勝利を確信しているからだと理解させられるもので。
「では、ヒントを上げましょう。たった一つだけですけれど、あなたならこれで、答えに辿り着けるでしょうから」
恐らく、答えに辿り着いてもなお、それは攻略不可能なものなのだろう。
絶望を知らしめる事で―――他人の負を好むところが多い妖怪らしい動機からか。
それとも。
「―――この人。実在しないらしいですよ?」
それは一体、どういう意味での“実在しない”なのか。様々な憶測が頭を駆け巡り、それが彼女の戯れなのかとすら思い始め。
馬鹿にしているのか。
そう、喉元まで出掛かった台詞であったが。
「……ぁ」
それを寸でで飲み込んだ。
未完成であったパズル。それの最後の一片が、すとんと絵図にはめ込まれた感覚に似て。
……ああそうだ。ああ、そうだった。
それは実在しない。けれど、それは存在している。
それはカードではなく、しかし、それはMTGのものとして認知されている。
現状、救いがあるとすれば、二つ。
こちらが【呪禁】を発動させている事。そして、相手が他にカードを使えないという事。
あれは個別対象にしか効果を発揮出来ず、他に使えるカードがあればある程に、その力が加算されていくのだから。
最強のカードとは何か。
使われる環境によって。対戦する相手によって。場や手札にあるカードによって。次にデッキから引くものによって。
『そんなもの、所詮は状況次第だ』と。幾千、幾万ものプレイヤーがそう結論付けてきた。
無駄だと知っている。無意味だと理解している。だというのにその討論をしてしまうのは、もはや愛とすら呼べるだろう、MTGプレイヤーの性のようなもの。
ああ、しかし。それでも、なお。それは唯一無二の力を持つ―――最強と呼ぶに相応しい。
「安心して下さい。この方の力があれば、あなたを生け捕りにするのは容易です。あなたの知識を。あなたの経験を。あなたの力を。私の為に。私の、為だけに」
その三つの目がこちらを捉える。
決して逃さないと。決して離さないと。
こんな暖かさを教えてくれた事を。こんな木漏れ日の存在を知ってしまった事を。
決して、ユルサナイと。その目に宿し。
「優しい夢の中で。永久の安らぎを枕とし、とこしえの温もりを子守唄に。この世の果ての、更に果て。世界が瞳を閉じる、その日まで」
僅かの、間。
「―――共に」
まるで、誓いの言葉。
風の女が起こしたであろう大地の崩壊に巻き込まれながら、絶望に折れそうになる自分を見てる別の自分は、そう、場違いな感想を抱いていた。
「加減など不要。配慮など必要ありません。私すら滅ぼす気概でやって下さい。宜しくお願いしますね。―――【Library of Congress】さん」
『Library of Congress(アメリカ議会図書館)』
【土地】【基本地形】
●あなたは、あなたが唱える全ての呪文を、コストゼロとしてもよい。
●あなたは、あなたのターンに追加で【土地】を最大9枚まで出してもよい。
以下、全てコストゼロで使用出来る起動型能力(任意で発動出来る能力、の意)。
●ゲーム外の、あなたが所有権を持っているカードを最大9枚まで手札に加える。
●このターンを終了する。
●あなたのライブラリーからカードを1枚探し出し、それを手札に加える。その後、ライブラリーを切り直す。
●カードを1枚引く。
●クリーチャー1体かプレイヤー1人に、1点のダメージを与える。
●場に出ているカード1枚を対象とし、それを【タップ】する。
●場に出ているカード1枚を対象とし、それを【アンタップ】する。
●あなたは50点のライフを得る。
●場に出ているカード1枚を対象とし、それを破壊する。
●場に出ているカード1枚を対象とし、それを、そのカードの所有権を有するプレイヤーの手札に戻す。
●あなたの墓地にあるカード1枚を対象とし、それを手札に戻す。
●【白】【青】【黒】【赤】【緑】のマナを出現させる。
●好きな色のマナを一つ生み出す。
●対象のクリーチャー1体に、ターン終了時まで【速攻(召喚したターン、【タップ】を要する行為が不可能だが、それを無効化にする)】を持たせる。
決して、名も知らぬ誰かが考えた『ぼくのかんがえた さいきょうカード』などではない。ならばこれは。と問われれば、オンラインゲーム『Magic Online』に存在するもの、が答えになる。
つまるところ、テストプレイ用のカードデータ。
この【Library of Congress】を大量に投入したデッキに、使用したいカードを混ぜ込む事で、デッキの稼働状態を把握しようという目的の為に生み出されたもの。
何故絵柄が【大気の精霊】であるのかは、MTG登場初期のセットの中で、【大気の精霊/Air Elementel】が、英語のイニシャル順の最初であったから。
こんなものが実在し、かつ、対戦で使用出来ようものなら、堪ったものではないのである。
「………………【真髄の針】(ぷすっ)」
「あっ」
『真髄の針』
1マナの【アーティファクト】
これが場に出る際、カード名を1枚指定する。指定されたカードの、マナ発生能力以外は、それが起動型能力である限り、使用出来ない。
通称『針』。
過去、類似する能力を持つカードは幾つか存在していたが、【アーティファクト】かクリーチャーの二種のみに効果があるだけという、範囲が限られているものであった。
その点で言えば、これも同上か、それ以上に制限されていると言えるようなものだが、1マナという出しやすさ&【アーティファクト】であるが故にデッキを問わず採用できる&相手のカードデッキの傾向さえ分かれば、という前提の、三重の高い汎用性。そして何より、場に存在していないカード(手札や墓地にあるカード)に対しても効果を発揮するという特性が大きく買われ、幾つものコンボデッキや強力な【プレインズウォーカー】を死地へ追い遣る結果となった。しかしながら、戦闘を鈍足化させるこのカードによって、対戦の幅に広がりが出たのも事実である。
その性質上、指定カードがマッチしなければ、ただの物置と化す。MTGに対する知識と経験が直接戦闘に左右される為、プレイヤーの腕が問われる瞬間でもある。よって、内部事情を良く知っている者同士が行う対戦―――身内殺しの異名を授かる事となった。とはいえ、数ある身内殺しの中でも控え目の部類であるのだが。
「針があるから」「針さえなければ」。そう呟かれた数は、良い意味でも悪い意味でも、決して少なくはないだろう。