<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.26038の一覧
[0] 東方ギャザリング (東方×MTG 転生チート オリ主)[roisin](2014/11/08 16:47)
[1] 第00話 プロローグ[roisin](2013/02/20 07:12)
[2] 第01話 大地に立つ[roisin](2012/07/01 17:54)
[3] 第02話 原作キャラと出会う[roisin](2012/07/01 18:01)
[4] 第03話 神と人の差[roisin](2012/07/01 18:05)
[5] 第04話 名前[roisin](2012/07/01 18:08)
[6] 第05話 洩矢の国で[roisin](2012/07/03 21:08)
[7] 第06話 悪魔の代価[roisin](2012/07/01 18:34)
[8] 第07話 異国の妖怪と大和の神[roisin](2012/07/01 18:39)
[9] 第08話 満身創痍[roisin](2012/07/01 18:44)
[10] 第09話 目が覚めたら[roisin](2012/07/01 18:51)
[11] 第10話 対話と悪戯とお星様[roisin](2012/07/01 18:57)
[12] 第11話 大和の日々《前編》[roisin](2012/07/01 21:35)
[13] 第12話 大和の日々《中編》[roisin](2013/01/05 19:41)
[14] 第13話 大和の日々《後編》[roisin](2012/07/01 21:37)
[15] 第14話 大和の日々《おまけ》[roisin](2012/07/01 21:37)
[16] 第15話 鬼[roisin](2013/02/20 07:27)
[17] 第16話 Hulk Flash[roisin](2013/02/20 07:27)
[18] 第17話 ぐだぐだな戦後[roisin](2012/07/01 17:49)
[19] 第18話 崇められて 強請られて[roisin](2012/07/01 17:49)
[20] 第19話 浜鍋[roisin](2012/07/08 19:48)
[21] 第20話 歩み寄る気持ち[roisin](2012/07/08 19:48)
[22] 第21話 太郎の代わりに[roisin](2012/09/23 03:40)
[23] 第22話 月の異名を持つ女性[roisin](2012/09/23 03:39)
[24] 第23話 青い人[roisin](2012/07/01 17:36)
[25] 第24話 プレインズウォーカー[roisin](2012/07/01 17:37)
[26] 第25話 手札破壊[roisin](2013/02/20 07:23)
[27] 第26話 蓬莱の国では[roisin](2012/07/01 17:38)
[28] 第27話 氷結世界に潜む者[roisin](2012/07/01 17:39)
[29] 第28話 Hexmage Depths《前編》[roisin](2013/07/24 23:03)
[30] 第29話 Hexmage Depths《中編》[roisin](2012/07/01 17:42)
[31] 第30話 Hexmage Depths《後編》[roisin](2012/07/01 17:42)
[32] 第31話 一方の大和の国[roisin](2012/10/27 18:57)
[33] 第32話 移動中《前編》[roisin](2012/09/20 20:50)
[34] 第33話 移動中《後編》[roisin](2012/09/20 20:50)
[35] 第34話 対面[roisin](2012/07/08 20:18)
[36] 第35話 高御産巣日[roisin](2013/07/25 23:16)
[37] 第36話 病室にて[roisin](2012/07/08 20:18)
[38] 第37話 玉兎[roisin](2012/07/08 20:18)
[39] 第38話 置き土産[roisin](2012/09/20 20:52)
[40] 第39話 力の使い方[roisin](2013/07/25 00:25)
[41] 第40話 飲み過ぎ&飲ませ過ぎ《前編》[roisin](2012/09/20 20:52)
[42] 第41話 飲み過ぎ&飲ませ過ぎ《後編》[roisin](2012/07/08 20:19)
[43] 第42話 地上へ[roisin](2012/09/20 20:53)
[44] 第43話 小さな小さな《表側》[roisin](2013/01/05 19:43)
[45] 第44話 小さな小さな《裏側》[roisin](2012/10/06 15:48)
[46] 第45話 砂上の楼閣[roisin](2013/11/04 23:10)
[47] 第46話 アドバイザー[roisin](2013/11/04 23:10)
[48] 第47話 悪乗り[roisin](2013/11/04 23:11)
[49] 第48話 Awakening[roisin](2013/11/04 23:12)
[50] 第49話 陥穽[roisin](2013/11/04 23:16)
[51] 第50話 沼[roisin](2014/02/23 22:00)
[83] 第51話 墨目[roisin](2014/02/23 22:01)
[84] 第52話 土地破壊[roisin](2014/02/23 22:04)
[85] 第53話 若返り[roisin](2014/01/25 13:11)
[86] 第54話 宝物神[roisin](2014/01/25 13:12)
[87] 第55話 大地創造[roisin](2014/01/25 13:12)
[88] 第56話 温泉にて《前編》[roisin](2014/02/23 22:12)
[89] 第57話 温泉にて《後編》[roisin](2014/02/23 22:17)
[90] 第58話 監視する者[roisin](2014/02/23 22:21)
[92] 第59話 仙人《前編》[roisin](2014/02/23 22:28)
[94] 第60話 仙人《後編》[roisin](2014/03/06 13:35)
[95] 第??話 覚[roisin](2014/05/24 02:25)
[97] 第24話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:27)
[98] 第25話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:28)
[99] 第26話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:29)
[100] 第27話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:29)
[102] 第28話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:30)
[103] 第29話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:15)
[104] 第30話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:15)
[105] 第31話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:16)
[106] 第32話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:17)
[107] 第??話 スカーレット[roisin](2014/12/31 18:22)
[108] ご報告[roisin](2014/12/31 18:39)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[26038] 第41話 飲み過ぎ&飲ませ過ぎ《後編》
Name: roisin◆78006b0a ID:d6907321 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/08 20:19






 本当、憎らしい存在だこと。

 他の事はどうでも良い。

 私にした事だって、月で巻き起こした騒動だって。

 けれど、あれは妹に手を出した。そして、永琳様にも。

 原因は分かっている。過程はともあれ、切欠は自分の妹であるのだから。

 ……だからといって、それで感情が落ち着く筈も無い。

 罪を犯した家族を、一瞬で手の平を返せる者達など居ないように。

 勿論、その不快感を前面に出す事はしない。

 やる事はやる。

 彼が地上へ帰れるように、しっかり、きっちりと。一文字たりともミスの無いよう、仕事は進めた。

 後は極力、彼に関わらないよう過ごして来たというのに。



(……謝られた)



 それだけではない。

 言葉だけでは足りないと、形としてまでその意思を示したのだから。

 何故ああも、愚かな程に下手に出れるのだろうか。

 理解出来ない。自分なら、その選択肢は無い故に。

 命まで奪われそうとしたというのに、それを無かったかのように振舞う、その行い。

 そしてトドメの、あの一言。



『大切なものを傷付けられた時の感情は、裁判とか法律とかで整理の付くものじゃないと思いますから』



 そう言い放った言葉の裏には、何の意図も見受けられなかった。

 あれは本当に、心の底からそう思っているのだ、と。

 これでは一体、どちらが愚かであるというのだろう。



(……敵いませんわ)



 負けた。完全に。

 こうまで格の違いを見せ付けられては、認めざるを得ない。

 政治に携わる者として、常に優位に立つよう心掛けて来たのだけれど。

 感情を利用し、背景を汲み取り、心情に訴えかけて、それを……あの者を飲み込もうとしたのだが。



 ―――それを、全て諦めた。



(私は……)



 そう思ってしまえば、後は否定的な気持ちを否定する要素は無く。

 自然と、彼に対して何処まで恩を返せるのかが、頭に浮かぶ。



(私は、彼に何をしてあげられるのでしょう……)



 尤も、それは結論の出ぬ案であった。

 こうまでしてくれる存在を、豊姫は知らない。よって、それに報いるべき方法を知らない。

 自分の師が、彼へとプレゼントを作製していたのは手伝ったが、それはあくまで師の行いであり、自分はそれを少し手伝っただけ。



 ―――何かしなければという思いは、答えが出ぬままに。



 そうして宴会は続き。

 浮き立つ思考に流されるままに行動していると……。



 ……気づけば、その原因たる者は完全に意識を失っていた。



「……あら?」



 自分の手には一升瓶。

 この国で造られた物ではない。九十九が出した酒であった。

 どうもこの者の出す品々は、我ら月の民にとっての琴線に触れるものが多く、今もこうして我を忘れて気の向くままに行動してしまったようだ。



(これは……ダメよねぇ)



 力を使って空間を繋ぎ、自宅の棚に陳列されていた対毒物用の錠剤を取り寄せて、彼の口へと流し込んだ。

 毒物にはほぼ万能であるそれは、勿論、アルコールにも効果覿面。

 壊れ物でも扱うように、優しく、優しく。



 ―――ふと。

 これでは飲み難いだろうと、彼の頭を自身の腿へと移動させる。

 苦しくは無いだろうか。

 腿同士を擦り合わせるようにして、頭部の位置を調整した。

 何と手間の掛かる存在か。

 自分で作り上げた結果を棚に上げて、都合の良い様に思考を進める。

 けれど、彼に対して何か出来るという行為に、心が喜びを感じていたのも自覚している。



 ……不器用だ。妹の比ではない程に。



 自分で彼が困るように仕向け、そしてそれを、自分が助ける。

 このままではいけない。これは、正常な思考では無い。

 すぐにでも改めなければならないというのに……この行いは、とても心地良くて。

 これは不器用などでなく、歪だと。そう結論付けるのに、さして時間は掛からなかった。



(でも……今だけは……)



 最後にゆっくりと、口元へ水を注ぎながら、ゴクリと薬を飲み終えた彼を見届けて。



「な~に良い雰囲気出してるのよ」

「……はい?」



 良い感じに目元の緩んだ輝夜様に指摘されて、今の一連の思考と行動に、漸く認識が追いついた。

 ……自分は、何をやっているのかと気づく。

 今まで一度として、異性にこのような行為をした事など無かった事も、同時に。



(膝枕……。旦那様になったお方に、最初にやってあげるつもりでしたのに……)



 自分の考えを表に出さず、豊姫は輝夜へと問い掛けた。



「輝夜様」

「何?」



 依姫であったのなら、動揺の一つでもしたのだろう。

 だが、仮にも政治方面でその手腕を発揮する人物である。ポーカーフェイスは大得意だ。気づかれてなるものか。



 ―――思考を切り替える。空気を切り替える。そして……話題を摩り替える―――



 輝夜様の相手をしていたレイセンは、既に壁へと寄り掛かり、静かな寝息を立てている。

 何だか無償に苛めたくなる感情が沸き起こるけれど、今はダメだろうと、気を鎮めた。

 

「依姫ちゃん……フラれてしまいましたわ」



 何処に出しても恥ずかしくない、どころか、むしろ誰に対しても自慢出来る、最愛の妹であったのに。

 盗られなくて良かったと思う反面、どうしてダメなのだという気持ちも湧き上がっていた。



「そうね……。そういえば、ある意味で私もフラれたようなものだったわ」

「輝夜様も……ですか?」

「だって、九十九ったら、私の自由を奪った挙句に、何一つそれを惜しむ事なく手放したのよ?」

「そういう考え方も出来ますわね……」



 視線を落とせば、不本意に意識を失った割りには、やけに幸せそうな寝顔がそこにはあった。



「変な奴よね。こうして見ているだけなら、ホント、何処にでも居る地上人だってのに。何で気持ちが傾かないのかしら。よっぽど変な趣味か、かなりの美人達に囲まれながら育っているとでも言うの?」



 ぐにぐにと頬を引っ張る輝夜は、何処か満足そうだ。

 楽しげにそれを繰り返す彼女を他所に、豊姫も、頷く事で同意した。



「何でも……地上に思い人が居るのだそうです」



 ついこの前知りえた情報。

 何を思うでもなく漏らした言葉に、輝夜が目を大きく見開いて、驚きの表情を作る。



「……それ、本当?」

「え、えぇ。依姫ちゃんが断られた理由が、それであったとかで……」



 何やら真剣に考え込んだ後で、



「……ま、でも時間が経てば解決するわね」



 輝夜は、そう結論を下した。



「どういう事です?」

「九十九についての実験の結果が、少し出たのよ。あいつ、寿命が無いみたいだわ」

「私達のような存在であるので?」

「いいえ。それよりも上。完全な不老よ」



 不死ではないようだけれど、と。

 また一つ、驚異的な―――けれど、その程度ならもはや驚く気すら起きなくなっていた両名は、横からやって来た永琳に顔を向けた。



「依姫ったら、あんなにお酒弱かったかしら」

「あれよ。九十九の出した酒だからだわ。とっても美味しいんだけれど、どうも色々と感情の箍が外れやすくて敵わないわ」



 なるほど。と同意する永琳だったが、既に外れていた結果の、この膝にて昏睡する男なのではないかと。

 そう、豊姫は突っ込みたい衝動を堪えた。



「それで」



 永琳が、確認するように、輝夜へ声を掛ける。



「何が時間が経てば解決するのかしら?」

「だって、九十九の相手の寿命が尽きるまで待てば、その問題は解決するじゃない? その時にまた声を掛ければ、あいつが拒否する理由が無いわ」



 これで万事大丈夫。

 そう顔に表れている輝夜だったが、永琳が溜め息と共に、その言葉を否定した。



「確かに、それなら問題は解決するでしょう」

「でしょ?」

「でもね。その相手が、寿命のある者だとする根拠が何処にあるの」

「ぁ……」



 その考えは無かったとする輝夜とは反対に、豊姫は納得の意を示す。



「そうですわね。あれだけの力を持っている者ですもの。他の力ある者が、放っておく筈がありません。穢れの蔓延する地でありますけれど、九十九さんを見ていれば、その理由も参考程度にもなりませんわ」

「あ~あ。良い手だと思ったんだけどなぁ」



 ダメだったか。と九十九の鼻を摘んで、嫌そうに眉を顰める反応を楽しんだ後、輝夜はその手を離して、畳へとその身を横たえた。



「……こいつ、本当に帰しちゃうの?」



 唐突な言葉だったが、それは、この場にいる者が皆、抱いている考えでもあった。



「そういう約束でもあるし、こちら側のミスが原因でもあるのだし。何より、彼、弁済どころか過剰とも言える利益をもたらしてくれているじゃない。これで契約を反故にしてご覧なさい。私達は畜生以下に成り下がるわよ?」



 そう言う永琳であったが、内心は輝夜に同意している。



「それについては、依姫ちゃんに何か案があるようです」

「あの子に? 何かしら。フラれた理由を盾に、永住でも持ち掛けるとか?」

「それが、詳細は話してくれなくて……」



 それを提案した本人は、幸せそうに寝息を立てている。

 ぬぼっと佇む【カルドラチャンピオン】だけが、石像のように無言で佇んでいるものの、初めの頃の威圧感は、慣れてしまえば気になるほどのものでもなかった。

 雰囲気の緩和に拍車を掛けているのは、その存在の足元で寝息を立てているスロバッドである。

 すやすやと眠り扱けるその小さな姿は、何処か愛らしさを感じる。



「で、永琳は、そんなもうすぐ帰る奴の為に、何を寝る間を惜しんで造っているのかしら」



 知ってるわよ、と暗に秘めながら、輝夜は尋ねたものの、当の永琳はそれをこれっぽっちも気にした様子はない。

 結果的にこそこそやっているように見えていただけで、別に隠すほどのものでもないと思っているからだ。



「【宝石鉱山】もそうだけど、【森】が出現した事によって、首脳部が本腰を入れて彼との友好を結べないか、と打診があってね。高御様も似たような事は行ったけれど、あれはあくまで個人同士の関係が大きい。よって、上のやんごとなき方々は、かつて失った故郷の再誕を夢見ながら、けれど自分達での案は全て無理だと判断して、私に依頼して来たのよ」

「……方針を決めるのが上ではありますけれど、そうも丸投げされてしまいますと、溜め息しか出ませんわね」



 永琳に同意する豊姫であった。



「金銭でもダメ。権力は興味が無さそう。物品系は、この【カルドラチャンピオン】さんや【森】【宝石鉱山】などを見ていても絶望的。後は異性くらいのものだったんだけど、依姫とのやり取りを聞くに、その辺りの貞操観念は強い。……あれだけの力を持っているのだから、それを可能にする力を持つ彼なら、欲望に忠実であると思ったのだけれど……。余程面白い環境で育ったのね」

「はいはい、前提条件は察しが付いたから」



 早く結論を。と急かす輝夜に、詰まらなそうに永琳は答えた。



「彼は彼自身の力の制御に興味があるようなのよ。私との実験に付き合って貰っていた時から、そういった兆候が見受けられた。本人は別に隠している様子も無かったようだけど……。まぁ、そういう訳で」



 懐から何かを取り出して、それをテーブルの上に置く。
 
 彼が身に着けていた、滑る様な白い外套に、とても馴染む色をした純白の大理石のようなそれは、コトリと見た目通りの重さである音を鳴らした。



「腕輪?」

「要約すると、ワームホールの発生装置。もしくは、パイプラインね。豊姫の力を応用したもので、豊姫との距離が開けば開くほど安定性に難が出てきちゃったから、安定性優先で造ったのだけれど、そのせいで色々と組み込みたかった機能が全て破棄になってしまったわ」

「……何を組み込む予定だったのよ」

「通信端末としては勿論、いつでもこちらに来れるような転送装置に、彼の力を使った局所的な次元断層や空間断裂を引き起こす―――」

「分かった。もう分かったから。……一つで無理なら、腕輪を二つ三つ造って送れば良いじゃない。そんなに大きなものでも無いのだし。嵩張るものでもないでしょう?」

「一つ目の機能が周囲に及ぼす影響が強過ぎてね。互いに干渉しあっちゃって、断念したわ」

「もう試してたのね……。……それで? その組み込みたかった機能を全て省かなければいけない程重要な機能―――ワームホールを作り上げて、何のやり取りを行おうと言うの?」



 空間操作系の機能はかさ張るとはいえ、通信機能など、それこそ豆粒一つ以下程度の容量で事足りる筈なのだが。

 そう訝しむ輝夜に、永琳はきっぱりと、



「エネルギー供給」



 そう答えた。



「知らなかったわ。あいつってアンドロイドなんかの機械の類だったのね」

「違うわよ。純粋に、活力や体力の元となっている物質を精製して、彼へと流し込むの」



 一端言葉を止めて、永琳は二人の顔に目をやった。



「彼が、彼の言うクリーチャー達の基点になっているのは知っているわね?」

「はい。次に何か事が起こる場合は、彼に考える間を与えず、速やかに意識を刈り取るなどするように、との結論でありましたわよね」

「過去の出来事のデータを見るに、彼が何か一つ行動を……能力を使う度に、彼は大小の差はあれど、それが大きければ大きい程に、彼のエネルギーは消費されている。まぁそれは万事全ての事象に当てはまるけれど。出した後で色々するのは得意のようだけれど、出す前の段階であれこれするのは苦手のようなのよね。そして―――」

「あの、永琳様、また……」



 またも話が横道に逸れそうであったのを、今度は豊姫が恐縮そうに呼び止めた。

 この師の悪い癖である長話は、依姫は兎も角として、その弟子の姉にとっては、可能な限り避けたいものであった。



「輝夜はあれだとしても、まさかあなたから止めに入られるとは思わなかったわ。―――やっぱり、その膝の重みのせいで、腰が据わっているからかしら?」





 ―――しかし、元の会話に戻そうとした行いは、その言葉によって失敗する事となる―――





 足を崩している輝夜に、永琳と豊姫は正座。

 ただしその豊姫の膝には、先と変わらず、意識を失わせたままの体勢で、九十九の頭が乗ったままである。



「自分でも不思議なのですけれど……。一度認めてしまえば、また新しい視点から物事は見れるものなのですわね。……どうにも、こう、出来の悪い弟の世話をしている心境でして……」

「あなた弟なんて居ないじゃない」

「例え。ですよ。輝夜様も、ちょっとやられてみます?」

「あ、それ良いわね」



 呆れる永琳を他所に、輝夜が豊姫の位置と入れ替わる。

 異性の上半身はそれなりに重いものの、豊姫は兎も角として、輝夜にとってはその重さなど有って無いようなものだ。

 静かに自分の膝の上に、重みを加える。

 何とも安らかな寝顔をしているその者は、建国以来最大の混乱を招いた一端を担っているのだから、何とも変な印象を受けた。



「……こうして眠っていれば、ホント、あれを引き起こした張本人だとはとても思えないわ」



 そうして、豊姫に習って頭を撫でた。

 手入れなど度外視だ、と主張する、やや強張った髪を触りながら……



「乱雑な髪の手入れだ事……。この辺が男の子、なのかしら。……永琳もやってみなさい」



 呆れつつも、何処か興味深げに目線をくれていた師に対して、その弟子であり上司は、面白そうに命令した。



「……え?」

「あなたよあなた。そんなに興味があるなら、やってみれば良いじゃない」

「え……でも……それは……」

「……何でそんなに躊躇しているのよ」



 言われ、何故だろうという疑問が沸き起こるものの、それの結論を出す前に、



「はい、ここ」



 ぽんぽんと自分の座る位置を叩き、来い、と指示された。

 どうしてこうも尻込みするのだろうかと自分で自分に疑問を持ちながら、言われるがままに、場所を変わった。



「……」



 膝の上に乗る顔を見続け、



「……」



 見続け……



「……」



 見続け……



「……」

「……あの、永琳様……?」

「永琳、どうしたの、戻って来なさい」



 おーい、と顔の前で手を振って、放心していた彼女を起こそうとする輝夜であったが、それでも何の反応も示なさい対象に、首を傾げる。

 別にこいつにそんな魅力など無い筈だが、と思考する輝夜であったが、



「え?」



 永琳は、膝の上の頭を包み込む様に抱きついた。

 誰もが言葉を発せられない中、月の抱擁は続く。

 一秒か、一分か。

 どれだけ時が経ったか分からないけれど、何の前触れも無く、その抱擁は終わりを告げた。



「永琳……あなた……」

「永琳様……」



 我に返った二人が、口々に理由を尋ねる声を上げた。



「……これで、最後だから」



 何が、と追求する二人では無かった。

 この月の中で最も付き合いの長かった彼女は、誰よりも自分の役目を心得ているばかりに感情を前面に出す事なく、こうして別れの時まで……いや、この機会が無ければ、このままずっと心中を吐露する事は無かったのだから。



「良い相手を見つけたと思ったんだけどね」

「あら、永琳、あなた、やっぱり歳下が好みだったの?」

「そういう意味では無いわ。今こうして改めて自分の気持ちと向き合ってみても、心が燃える様な感情などではない。あえて言葉として一言で纏めるのであれば、さっき豊姫が言っていた、出来の悪い弟。というのが最も適切かしら。異性としては……どうかしら? 今ひとつ実感が持てないわ」

「あら。永琳様も、ですの?」

「たった一週間程度ではあったけれど、とても心地良かったのよ。家族という付き合いは、時間が取られるだけで手間の掛かる関係だと思っていたけれど……。こういうのも存外悪くないと。そう、思えた」

「弟……弟かぁ……。私の場合はな~んか違うのよねぇ」

「あなたの場合は暇潰しの道具、みたいなものじゃない?」

「始めはそうだったんだけど、それもちょっとしっくり来ないのよねぇ」



 自分の弟(仮)を物呼ばわりする永琳だったが、輝夜はそれを気にしない。

 豊姫だけがそこに疑問を持つものの、それに対して口を挟む事はしなかった。



「―――そうね。こいつの言葉を借りるなら……」



 永琳の膝で幸せそうに熟睡しているものの頬を、ちょんと、突く。




「九十九曰く、『友と書いて、ライバルと読ませる』といった感じかしら」

「なに? それは」

「さぁ? 『敵と書いて友と読む場合もある!』とかも言っていたけれど」

「……危険対象をこちら側に寝返らせる為の戦術かしら。ジェイスさんの力を考えれば、彼に対しての敵は、敵足り得ない、と」

「それ最悪ね。もしかしたら、私と永琳と、豊姫や依姫が四つどもえのデスマッチを演じていたかもね」

「彼の性格かしてその線は薄そうではありますけれど、ジェイス様でしたら、それ位は行いそう、と思わせるだけのお方ではありますわね」



 しばし彼女達の雑談は続き、当初の目的は誰もが意識していたものの、それに戻る事はせず。

 テーブルに置かれたグラスに残った氷が解けて、澄んだ音を立てた頃に漸く、一通り言い切って満足した永琳が、話を戻した。



「ええと。それで、何処まで話を進めたのだったかしら。【カルドラチャンピオン】さんの武器である【カルドラの剣】を豊姫の扇子に応用する話?」

「九十九がクリーチャー達の基点になっている、というところまでよ。……あなた、そんな事やろうとしていたの?」

「まぁそれは追々ね」



 そこはあまり深く話す気は無いようだ。

 こほんと一つ咳払いをし、姿勢を正して―――九十九の頭を膝に乗せたまま―――人差し指を立てて、漸く話を纏めた。



「彼がクリーチャーやジェイスさん達を呼び出し、維持し続けるのにはエネルギーを消費する。法廷で、ともすれば過労死―――とも言える死因になってしまうほどの疲労をして昏倒してしまっていたわね? それは言い換えれば、そのエネルギーを補填出来るのであれば、幾らでも強大な存在をこちらへと招き入れられるのよ。……まぁその基準が今ひとつ良く分からないんだけれど」

「【マリット・レイジ】や【カルドラチャンピオン】は難なく維持出来ていて、【ジェイス・ベレレン】やその他のクリーチャー……何だったかしら?」

「【極楽鳥】に【ターパン】。後は、クリーチャーではないけれど、【ジャンドールの鞍袋】が最もなものね」

「そうそれ。それに対しては、大小の差はあれど、前者二つと比べれば、疲労具合が飛び抜けて高くなっている様子が見て取れた。存在の強大さとかが関係しているのかと……というよりそれが通常である筈なんだけど、あいつの場合、やっぱり何かしらの基準に沿って、その疲労具合が決まっているのね」

「いずれ、九十九さんはその事を話して頂けるのでしょうか……」

「どうかしら。余程親身になれば可能だとは思うけれど。あいつの場合、一度、信頼という名の懐に入ってしまえば
、幾らでも助力を得られそうだもの。じゃなかったら、豊姫に対してあれだけ過剰とも言えるプレゼントは無かったでしょうし」



 輝夜は横目で、そのプレゼントたる青き幻影の戦士を見つめた。

 これといって反応する素振りも無い。無言&無関係を貫く姿勢のようだった。



「いつかは、このお礼は致しますわよ……。輝夜様、そうやって人の過去を穿り返すの、やめて頂けません? 我ながら何とも意固地であったと思っていますし、反省もしていますから」

「良いじゃない、ちょっとくらい。こういった失態を犯したあなたを弄れる機会なんて初めてなんだもの」

「あら。じゃああなたが地上人(仮)にコテンパンにされた挙句にポイ捨てされた、という話で、私はしばらくあなたを弄ろうかしら。何せ初めての事ですから。教え子の矯正は徹底的にしておいた方が、後々楽ですもの、ね」

「……悪かった。もう言わないわ……」



 他愛のない会話で、彼女達は盛り上がった。

 話題は主に、月の頭脳の膝で眠り扱けている存在について。

 良かった事、悪かった事、色々あったものだと一頻り話していく内。

 月の夜は緩やかに更けていった。










(ま、素直に帰す気は無いんだけどね)



 とか思う者と。



(あの子がこんな存在をみすみす見逃す筈が無いわ。……はぁ。九十九さんの帰還の時の為に、何手か打っておかないと)



 なんて頭を抱える者。



(そう永琳様は考えていらっしゃるでしょうから、それを考慮に入れつつ、あの方の手助け致しませんと。……もう、唯でさえ通常業務にすら差し支えが出始めていますのに)



 そう思考を巡らせる者に。



(……うわぁ、不味いところで起きちゃった……。聞かなければ良かったかなぁ……でも綿月様達のご恩と――― 一応、彼にもお礼……は、しないといけないし……。うぅ、輝夜様相手に何秒持つか……)



 人知れず、この場で最も苦悩する者が一人。

 後は、この場を無言で見守る【カルドラチャンピオン】

 それぞれの思惑の中。

 月の夜は穏やかに―――表面上は―――更けていった。




前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.033252000808716