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No.26038の一覧
[0] 東方ギャザリング (東方×MTG 転生チート オリ主)[roisin](2014/11/08 16:47)
[1] 第00話 プロローグ[roisin](2013/02/20 07:12)
[2] 第01話 大地に立つ[roisin](2012/07/01 17:54)
[3] 第02話 原作キャラと出会う[roisin](2012/07/01 18:01)
[4] 第03話 神と人の差[roisin](2012/07/01 18:05)
[5] 第04話 名前[roisin](2012/07/01 18:08)
[6] 第05話 洩矢の国で[roisin](2012/07/03 21:08)
[7] 第06話 悪魔の代価[roisin](2012/07/01 18:34)
[8] 第07話 異国の妖怪と大和の神[roisin](2012/07/01 18:39)
[9] 第08話 満身創痍[roisin](2012/07/01 18:44)
[10] 第09話 目が覚めたら[roisin](2012/07/01 18:51)
[11] 第10話 対話と悪戯とお星様[roisin](2012/07/01 18:57)
[12] 第11話 大和の日々《前編》[roisin](2012/07/01 21:35)
[13] 第12話 大和の日々《中編》[roisin](2013/01/05 19:41)
[14] 第13話 大和の日々《後編》[roisin](2012/07/01 21:37)
[15] 第14話 大和の日々《おまけ》[roisin](2012/07/01 21:37)
[16] 第15話 鬼[roisin](2013/02/20 07:27)
[17] 第16話 Hulk Flash[roisin](2013/02/20 07:27)
[18] 第17話 ぐだぐだな戦後[roisin](2012/07/01 17:49)
[19] 第18話 崇められて 強請られて[roisin](2012/07/01 17:49)
[20] 第19話 浜鍋[roisin](2012/07/08 19:48)
[21] 第20話 歩み寄る気持ち[roisin](2012/07/08 19:48)
[22] 第21話 太郎の代わりに[roisin](2012/09/23 03:40)
[23] 第22話 月の異名を持つ女性[roisin](2012/09/23 03:39)
[24] 第23話 青い人[roisin](2012/07/01 17:36)
[25] 第24話 プレインズウォーカー[roisin](2012/07/01 17:37)
[26] 第25話 手札破壊[roisin](2013/02/20 07:23)
[27] 第26話 蓬莱の国では[roisin](2012/07/01 17:38)
[28] 第27話 氷結世界に潜む者[roisin](2012/07/01 17:39)
[29] 第28話 Hexmage Depths《前編》[roisin](2013/07/24 23:03)
[30] 第29話 Hexmage Depths《中編》[roisin](2012/07/01 17:42)
[31] 第30話 Hexmage Depths《後編》[roisin](2012/07/01 17:42)
[32] 第31話 一方の大和の国[roisin](2012/10/27 18:57)
[33] 第32話 移動中《前編》[roisin](2012/09/20 20:50)
[34] 第33話 移動中《後編》[roisin](2012/09/20 20:50)
[35] 第34話 対面[roisin](2012/07/08 20:18)
[36] 第35話 高御産巣日[roisin](2013/07/25 23:16)
[37] 第36話 病室にて[roisin](2012/07/08 20:18)
[38] 第37話 玉兎[roisin](2012/07/08 20:18)
[39] 第38話 置き土産[roisin](2012/09/20 20:52)
[40] 第39話 力の使い方[roisin](2013/07/25 00:25)
[41] 第40話 飲み過ぎ&飲ませ過ぎ《前編》[roisin](2012/09/20 20:52)
[42] 第41話 飲み過ぎ&飲ませ過ぎ《後編》[roisin](2012/07/08 20:19)
[43] 第42話 地上へ[roisin](2012/09/20 20:53)
[44] 第43話 小さな小さな《表側》[roisin](2013/01/05 19:43)
[45] 第44話 小さな小さな《裏側》[roisin](2012/10/06 15:48)
[46] 第45話 砂上の楼閣[roisin](2013/11/04 23:10)
[47] 第46話 アドバイザー[roisin](2013/11/04 23:10)
[48] 第47話 悪乗り[roisin](2013/11/04 23:11)
[49] 第48話 Awakening[roisin](2013/11/04 23:12)
[50] 第49話 陥穽[roisin](2013/11/04 23:16)
[51] 第50話 沼[roisin](2014/02/23 22:00)
[83] 第51話 墨目[roisin](2014/02/23 22:01)
[84] 第52話 土地破壊[roisin](2014/02/23 22:04)
[85] 第53話 若返り[roisin](2014/01/25 13:11)
[86] 第54話 宝物神[roisin](2014/01/25 13:12)
[87] 第55話 大地創造[roisin](2014/01/25 13:12)
[88] 第56話 温泉にて《前編》[roisin](2014/02/23 22:12)
[89] 第57話 温泉にて《後編》[roisin](2014/02/23 22:17)
[90] 第58話 監視する者[roisin](2014/02/23 22:21)
[92] 第59話 仙人《前編》[roisin](2014/02/23 22:28)
[94] 第60話 仙人《後編》[roisin](2014/03/06 13:35)
[95] 第??話 覚[roisin](2014/05/24 02:25)
[97] 第24話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:27)
[98] 第25話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:28)
[99] 第26話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:29)
[100] 第27話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:29)
[102] 第28話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:30)
[103] 第29話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:15)
[104] 第30話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:15)
[105] 第31話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:16)
[106] 第32話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:17)
[107] 第??話 スカーレット[roisin](2014/12/31 18:22)
[108] ご報告[roisin](2014/12/31 18:39)
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[26038] 第33話 移動中《後編》
Name: roisin◆78006b0a ID:d6907321 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/20 20:50






「ねぇ」

「……はい」

「他にもまだあるんでしょ?」

「ええ……まぁ……」

「見せなさい」

「いや……あの……これ以上はちょっと……」

「何、あなた、私を奪っただけじゃ飽き足らず、ポイ捨てまでした挙句は用済みで一切関知しませんって事?」

「奪ったって……。その……ですね……こっちにも色々と命綱的な保障が欲しい訳でして……」



 ぷちっ



「―――ってやる」

「……えっ?」

「永琳に言い付けてやる! 『あなたが呼んだ地上人が私の初めてを奪った』って!」



 ぷちっ



「てめぇ! それ言い掛かりじゃねぇか!」

「何よ! 嘘だとでも言うつもり!?」

「無罪とは言わねぇが、一部に悪意ある曲解があるだろ! それだけで罰金二十万か禁固二十年かぐらいの差だ!」

「うっさい馬鹿! あんな事されたの初めてなんだから! 後、何が二十万なのよ! 意味分かんない!」

「ばっ―――初めてくらい誰にでもあるわ! 別にいいじゃねぇか減るもんじゃなし! それと、二十万はジャパニーズ通貨だこの野郎!」

「通貨? 何処よジャパ何とかって! 私女だもん! 野郎じゃないわ! 何も無かったからまだ良かったものの、あんたがちょっとでも変態だったら色々失くしてたのよ!? その事実が消えた訳じゃないでしょ!」

「何も無かったなら良いじゃねぇか! そもそも命奪われなかっただけマシだろ! 少しは俺の立場考えてからモノ言え!」

「ごめんで済んだら世の中もっと平穏よ! それに『何も無かったから』で済むんだったら、あんたピンピンしてるじゃない! こっちは軍隊丸々一つ失ってるのよ? あんたの理屈に合わせるなら、月との交渉、とかじゃなくてそっちの土下座から入るのが筋ってもんでしょ!」

「知るか! それはそれ! これはこれだ! 大体、命かかってたんだぞこっちは!」

「こっちだってかかってたわよ!」



 ―――ぶちっ



「―――いい加減に……」



 抜刀。



「しないかっ!!」



 どっかーん(物理)

 ―――

 ――

 ―










「……双方、熱は下がったようだな」

「「……」」



 静かに怒りの形相を浮かべている依姫は、元の造形も相まって何ともさまになっており、マリさんやジェイスは分からないが、場にいる俺や輝夜は完全に彼女の空気に飲まれてしまっている。……お前、体の痛みはどうしたのよ。

 少し前までならばそんな事は皆無だったのが、戦闘による熱が冷め、彼女に対してそれなりに情が移った為に、女性経験ゼロスキルが鎌首をもたげて来てしまっていた。

 会話の流れは支離滅裂。大声を出す事が第一で、話の内容なんて二の次だった。今思い返しても、子供の喧嘩の方がまだ中身があったのではないかと思えてしまう程だ。

 荒ぶる神【マリット・レイジ】の上で正座させられ説教を受ける地上人と月の姫。それを見守る【プレインズウォーカー】。……どんな状況だこれ。

 下手すれば俺の五体がバラバラになっていた攻撃が脳天を直撃したマリさんだったが、当然というかやっぱりというか、こちらをチラと見ただけで特に気にした様子もなく、今もこうして悠々と月の都市へと移動し続けている。



(ってかジェイス、何よその微笑ましいものを見る目は。……何? ……『若いね』ってあんた……)



 彼が行動に移さない、というのは脅威が全く無いと判断して良いんだろう。

 ……良いんだろう……が……



(俺に『若い』ってのは間違いじゃないが、この二人はどっちも、お前より年上だぞ)



 それはもう圧倒的に。具体的には最低数百倍。

 一応その辺の事実を伝えてみるも、『心の問題さ』との返答が。

 PWとしての基準……なんだろうか。まぁ、君がそう思ってるんならそれで良いんですけどね……。
 


「輝夜様。初めに申し上げました通り、九十九はこれから永琳様と姉上を起こしに行くのです。その【雲のスプライト】だけで我慢して下さい。何もこれで終わり、という訳ではないのです。事が終われば幾らでもお頼みなさいませ」



 輝夜の精神掌握を解いてもらい、素に戻った彼女を依姫が説得。

 混乱する彼女に、何はともあれまずは昏睡している八意永琳と綿月豊姫を目覚めさせるのが先決。と言い聞かせ、この度の出来事のあらましを説明した、依姫。

 それを全て説明し終えた後に、俺は、俺の視点から見た今回のあらましを彼女達へと語って聞かせた。

 そもそもは依姫の殺気に反応したのが発端だが、先に手を出したのは俺の方であり、けれど謝罪の機会は一発の銃弾によって打ち消され、後は輝夜の知る一連の流れになった、と。要約すればこんなところだろうか。

 輝夜が持っていた連絡端末によって、既に月側には連絡を入れてある。

 謝罪する気なんて初めから無かったのでは、というのが疑わしかったらしいのだが、戦闘直前、俺が『土下座の用意あり』と絶叫していたのがモロに記録されたいようで。一応、その辺りは改善の余地あり風に納得してくれたようだ。

 口は災いの元とも言うが、今回は幸いにも好転の機会を得るに至ったという訳だ。恥ずかしい。



 それから、大体二時間位だろうか。

 のんびりと月への道中を進んでいると、手持ち無沙汰になったと思われる輝夜が、こちらへ接触を試みて来た。

『そういえば……私、あんたの事殆ど知らないわ』で始まり。

 機嫌―――敵意よりは薄い印象の―――を隠そうともしないままに自己紹介を済ませ、ジェイスや俺の事について聞かれ、『何が出来る』→『色々出来る』との俺的テンプレ解答の後、『何かして見せてよ』と、少し拗ねた様な口調でお願いされた。

 若干の罪悪感もあったので、色々悩んだ末、カード枚数もマナも使用しない【ジェイス・ベレレン】としての能力で、最も楽なクリーチャーを呼び出してもらったのだが、それが大層お気に召したようで。

 能力的には特筆する点の無い、青の1マナクリーチャー、タイプ【フェアリー】。

 青い肌に透き通る薄羽と、濃い金色の髪。

 体長二十センチにも満たないMTG世界の妖精、【雲のスプライト】が光の四散と共に現れ、その光の残滓を纏いながら宙を舞う光景は、彼女の存在が既知であった俺でも見惚れた程だ。

 まるで幼少期に何度も夢見た童話の世界へと来れたかのような出会いに、俺や輝夜のみならず、依姫ですらも、【雲のスプライト】が周りの事など知った事かと言うように楽しげに踊る姿に、目を奪われていた。

 東方世界なら妖精なんて見慣れている筈じゃあ、と思ったんだが、ここ月では妖精達はおらず、地上から移住して来た古参でも無い限りは、妖精はおろか、動物ですら数十種類程度しか実際に目にした事は無いんだそうだ。

 気分は子供の初めての動物園デビューを見守るお父さん。

 それならば、こういったクリーチャー……生き物は、完全に未知の領域の存在である事だろう。目を見張るのも仕方ない。



 だが、それも一時間ともたなかった。……輝夜が。

 後は月へと向かうだけだ、と、これからの出来事に考えを巡らせていた俺へ『もっと見せろ』と言ってきたのだ。

『ねぇ』と呼ばれた時に嫌な予感がし、案の定の展開に、初めこそ俺の口調も穏やかだったものの―――。

 まぁ、そんなこんなで、今に至る。



(ここまで自己主張の強い奴だったとは……)



 断言しよう。

 今のまんまじゃ、コイツに敬語どころか丁寧語すら使う気は無い。

 ……見た目はそれこそ月の至宝と言える容姿。

 真っ白な肌は真珠を連想させ、月光を反射する黒髪は黒い金剛石。幾千もの人形を作り上げても可能であるのか疑わしい程に、なるほど、美とはこういうものかという芸術が集約されていた。これで体にメリハリがあれば永琳さんに勝るとも劣らない存在へと昇華していた筈だ。



(そういや時代によって美の基準って変化してたんだよなぁ。中世ヨーロッパなんかじゃ胸の大きな人は、それだけで醜悪って認識だったらしいし)



 だからコルセットなんかで思いっきり締め上げていたとか何とか……? あれ、コルセットって腹にするもんだったか。記憶が曖昧だ。

 もしかしたら、コイツが地上へと降りた時にはスレンダーこそ美人という共通認識があったのかもしれない。

 ま、それを抜きにしても素晴らしいと思えるのは、本当女性として最大限の武器なのではないかと思えてならない。

 何の事前知識もなく会っていたのなら、竹取物語に出て来た者達よろしく、俺も我を忘れて求婚を申し込んだ幾人の男達の仲間入りをしていたに違いない。

 だが、それら想像をバッサリと切り捨てるコイツの性格は、ある意味でとても希少なものなんじゃないかと思えてならない。

 勿体無い。

 俺は今、心からそう思っている。



「……で、そっち側としては、俺にどうして欲しいと思ってるんだ?」



 思考が変な流れになったので、本来の目的である路線へと話を戻す。

 今からの行いで、月を敵に回すか否かが分かれるのだ。決して手を抜いていいものでは無い。



「私としては、お二人を起こした後ならば、一撃くれてやる程度で構わないと思っているが、月の国としては……どうだろうな」



 ……ちょっと突っ込みを入れたい箇所もあったが、ここは俺が自重しよう。

 一端言葉を切り、依姫は真剣にこちらへと目を向けた。



「原因の一端は私にある。最大限の便宜は図らせてもらうが、民達の感情の方向性までは保障出来ない。……すまない」



 こちらも意固地になっている部分があるとはいえ、それでもまだ相手の方に非がある、と俺は思っている。

 けれど、それはあくまで月の上層部に対してであり、依姫個人に対してはさっきボコボコにした事も相まって、皆無とは言わないが、殆ど無くなっている。

 そんな彼女に一方的に謝罪をさせて、澄ました顔をし続けるのは男としては、まぁ、思うところがあり。

 軽くではあるが頭を下げる依姫に、思わずたじろぎながら、言葉を返す。



「え、っと……その……だな……」



 一息。

 深く息を吸い込んで、声が小さくならないよう、尻すぼみしないように意識しながら、言葉を発した。



「―――こっちこそ、先に手を出して悪かった。不用意に能力使って、周りに及ぼす影響なんてこれっぽっちも考えてなかった。……すまん」



 依姫から完全に視線を切って、頭を下げる。

 屈む直前。チラと視界に入ってきた輝夜は、目を細めてこちらを見つめていた。

 彼女は彼女で思うところがあるんだろうが、今のが、俺の現状の偽りの無い気持ちだ。

 納得しようがしまいが、そこはまた別の問題である。

 ……尤も、軍隊を壊滅させた事に関しては、謝罪するつもりは全く無い。あれは銃弾さえ無ければ、手を出すどころか完全に投降する気満々だったのだから。

 そのまま数秒。

 屈めた姿勢はそのままに、互いが同時に顔を上げ、再び視線が交わった。

 少し屈んだ姿勢のままで交差する目線に……僅かながら、可笑しさが込み上がって来た。



「―――ふ」

「―――は」



 互いに鼻で笑い、口元を吊り上げる。



「不思議な気分だ。数刻前までは、私は我を忘れ、全力でお前を拿捕しようとしていたのが、この様か」

「あれが拿捕のレベルかい……まぁいいか。不思議な気分ってのについては、同感。ちょっと前までは命が掛かってたってのに、今じゃあそれが嘘みたいだ。……まぁ、まだ油断出来ない状況ってのは変わりないんだが」

「安心しろ。もし仮に、お前に危害が及びそうになったら、全力で防いでみせよう。まぁ、上の決定でそういう行為に及ぶ場合ならば諦めてくれ。―――ただし私がお前を守るのは、永琳様達を目覚めさせてくれるのなら、だがな」

「そういう事なら、それこそ安心してくれ。そこだけは絶対に違えない。例えお前らがまたこっちの命を狙ってこようが、立ち塞がる奴全員ぶっ倒してでも起こしてやるさ」

「あぁ、それは安心だ。……しかし、物騒な物言いだな。もう少し穏やかに出来ないものか?」

「何言ってやがる。命掛かってたんだからな、それくらい当たり前だ。怨んだら最後、俺の中で燃料が切れない限りは相応以上の行動に移る性質だから。怨み辛みってのはそんなもんだろ? ……こうして話して、お前達の事情が分かってなかったら―――ぶっちゃけ、月の都市、壊滅させてたかもしれねぇし」



 ……あ、今のは言わなくてよかったのに。

 余裕の出来た心境であったが故に、迂闊にも変なプライドが出てきてしまった。

 常に何処かで優位に立とうとし、それを実行に移してしまう思慮の浅さが、少なからず自己嫌悪を引き起こす。

 けれどそれに反応したのは目の前の依姫ではなく、横で聞き手に回っていた輝夜である。



「確かに、永琳も豊姫も居ない。私も依姫の力も殆ど通用しない。軍隊も壊滅。となれば容易だったんでしょうけど……。あ~あ、ちょっと納得いかないわ」

「……すまん、考えが足りなかった」

「いいわよ別に。理屈はどうあれ結果はこちらの完敗。こうしてある程度の自由が保障されているだけでも驚愕ものだしね。……そりゃあ、さっきも言ったとおり納得出来るものじゃないけど、今はこうして、この経験を次へと生かせる機会が与えられただけで良しとするわ」

「……そう思うなら、さっきはもう少し自重しても良かったんじゃないか?」

「それはそれ。これはこれよ」



 さいですか。



「けれど……凄いわね、この【マリット・レイジ】は。こちらの攻撃を全く受け付けず、その攻撃力は目を見張るものがある。おまけによく分かんない能力まで持ってるし……外殻ゴツゴツね……冷たくて気持ち良い……。これ、何処の神様?」



 輝夜が正座しているマリさんの頭部を撫でながら、そう問いかけてきた。

 MTGの神様……っぽいポジションにいるお方です。……なんて言えたら楽なんだが。

 確かにその辺は疑問が尽きないだろうが、うぅん、何処まで答えて良いもんか。

 あんまり詳しく話すと不利な要素が増えて嫌だなぁ。



 ―――と。

 唐突に、【マリット・レイジ】がその歩みを止めた。

 地響きと共に不時着する茨山に何事かと動揺していると、



「あら……効いちゃった……」



 この場に居た誰よりも、蓬莱山輝夜が困惑の声を上げた。俺からしてみれば、その声の内容は実に不吉な台詞である。



「ちょ!? お前何した!」

「えっと……何しても効かない神様ならと思って……ほら、あんたと初めて会った時に私、能力使ったじゃない? あんな感じの応用で思考を停滞させてみたんだけど……」



 まさか効くとは思わなかった。

 感心と歓喜の声を上げながら、モロに効果覿面であった事実に満足するように頷く輝夜に、俺や依姫―――のみならず、ジェイスまでもが薄く口を開いて唖然とした表情を浮かべていた。

 彼は彼でしっかりと思考リーディングはしていたらしいのだが、完璧に不意打ちな、唐突過ぎる思いつき&行動であった為に、何も対処出来なかったのだとか。



「……とりあえず、能力解いて。じゃないとまたお前の精神奪取する羽目になる」

「これくらい冗談と受け取りなさい。余裕の無い男は嫌われるわよ?」

「マリさんは俺の生命線その二だぞ! そんなの余裕とは言わねぇ。慢心ってんだ! 死ぬよりはマシ!」



 その一は、当然ジェイス様。

 困惑しながらも表情の隅に愉悦の色が見て取れる輝夜に、『やっべー弱点ばれた』と内心で汗を掻く。

 少し前にも思ったとおり、マリさんが有利なのは馬鹿馬鹿しいまでの力押しの場面であって、搦め手にはとことん弱い。

 それが原因で、MTGにおいてのコンボデッキ【ヘックスメイジ・デプス】の戦績は安定しないのだ。

【ハルクフラッシュ】の時に懸念していた、パワーキャラへの対処法が確立したものの、今度はトリックスター的なキャラへの対応策を考えておかねば、との案件が浮上してしまった。スキマ妖怪とか、亡霊姫とか、一人百鬼夜行辺りも危ないだろうか。

 今のところは即座に【プロテクション】か【被覆】を持たせることで凌ごうと思うが、さて……



「とりあえず、これで月の都市が壊滅しそうになる展開を防ぐ手段が見つかったわね」



 能力が解除されたようで、不時着していた事に『?』と疑問の念は思ったようだが、特に気にする風でもなく【マリット・レイジ】は再びホバリングを開始して、ぼんやりと移動し始めた。

 さっきといい今といい、良くも悪くも色々と気にしなさ過ぎですマリさん。大らかにも程がある。

 ニマリと笑う月の姫に頭を抱えそうになるが、コイツの前でそれをやってはいけないと思い、俺の月対策がそれだけではない事を匂わせるように―――はたから聞いたら負け惜しみや負け犬の遠吠えレベルで―――ぼそりと呟く。



「……別に、都市をどうこう出来るのはマリさんだけじゃないし」

「またまた。そんな事言っちゃって~」



 こちらの頬をプニプニと突きながら、輝夜は余裕の笑顔を浮かべる。

 ……おいこら。俺らはいつからそこまで親しくなったんだ。ちょっとドキっとしたぞコンチクショウ。



「うっせ! こちとら月をどうこうする手段なんて幾つもあるんじゃあ!」

「ひゃわっ!」



 癪に障るので、お返しに彼女の頬を両の手で引っ張ってやる。

 むにむにと柔らかな感触が伝わり、いつまでもこうしていたい感覚に囚われそうになった。

 ……ほう……これは中々……。



「ふふふ、男を離さぬ魔性の体(頬)よのぅ」

「にゃに言っへふのひょ! はにゃしにゃしゃい!」



 抗議を無視して上下左右と自由時際に頬を操る俺は、手に伝わる心地良い感覚を更に味わおうと、その行為に没頭しそうになる。

 が、



「―――そこまでだ」



 俺の首筋。

 触れるか触れないかの位置で、いつの間にやら抜刀していた獲物を宛がっている依姫と、それを静止せんと、彼女の頭部に片手を突き出しているジェイス&依姫の足元を切断せんほどに鋭さを増した、幾本かの【マリット・レイジ】の触手があった。

 立ち上がるのも困難であった筈の依姫が抜刀している事実に鬼気迫るものを感じて、大人しく行動を取り止める。



「……あれ、お前、体痛むんじゃねぇの?」

「もうそれなりには回復している。無理な運動はきついがな」



 素直にお答え頂きありがとうございます―――というかもうある程度まで回復してんのか。



(何という回復力……依姫、恐ろしい子!)



 敵とも味方とも取れない相手だけれど、もう少し自分に有利になるような発言をするべきなんじゃないだろうか、と思えてならない。

 依姫は言葉に頓着しない奴。

 そんな印象が、俺の中では膨らんでいた。



 輝夜から手を離し、依姫が刀を降し、ジェイスが手を下げ、マリさんが触手を引っ込める。

 不満気な目線を向け自身の頬を擦る輝夜に何とも言えぬ心境になりながら、ちょっと羽目を外し過ぎたかと自身を諌めた。



(未だに一触即発状態は継続中、か。……エアリーディングの精度低過ぎだな、俺)



 というか依姫のメンタルが未だに読み切れないのが一番ウェイトを占めている。

 蓬莱山輝夜や姉の豊姫、そして八意永琳にかなりの信頼と忠誠心があり、生真面目で、竹を割ったような性格。だが、それ以上に優先されるのが輝夜や永琳さんといった仕えている者の命を守る事……といった感じなのだろうか。

 あれか。職務や忠義>自己の意思、と見ておくのが妥当な線だろうか。



「あれ、そういやその刀っていつの間に回収したんだ?」



 ならば今のところは輝夜に害を及ぼさなければ問題は無いだろう。

 空気を変える意味も含めて、ふと疑問に思った事を口にした。

 亜空間的な場所から予備の武器を取り出したんだろうか。それとも呼べば来る的なもんなんだろうか。もしくは能力の応用とか。

 今し方まで俺の首に添えられていた獲物についての謎について、聞いてみた。



「あぁ、【マリット・レイジ】殿のエネルギードレインが切れたから呼び寄せたんだ。思ったよりも時間が掛かってしまったがな」

「呼び寄せた……ねぇ……。落し物なんかを拾ってくれる神様の力でも借りたのか?」

「居るには居るが、そんな真似をせずとも問題はない。それはこの者のお陰だ」



 そう言って、腰に据えてあった刀―――日本刀を鞘ごと引き抜き、こちらへと放る。



(この者って……何、刀の事……?)



 面食らいながら何とかキャッチしたものの、仮にも武器の一つをこちらに投げて寄越す行動の意図が読めずに困惑する。



「気をつけろよ九十九。―――噛み付かれないようにな」

「……はい?」



 なにやら嫌な言葉を耳にした。

 不安と共に今し方ゲットした長刀へと視線を向ければ……



(げぇ!? 人食いサーベル!)



 某虚無の使い魔の武器宜しく、いつの間にか勝手に鞘から刀身が露出していた。

 そこから本来見える筈の刃の部分と一緒に【マリット・レイジ】の戦闘で俺の思考を混乱の極みへと到達させてくれた鋭利な牙を持つ口が、再び開いてケタケタとその存在をアピールしていた。



「ちょいやっ!」



 流れるような動作で投球フォームへと移行。そのまま刀を投げ返した。

 こりゃ洒落にならんばい!



「ぬ、人のものを全力で投擲するのは感心せんぞ」

「そんな危険なもん寄越すからだ!」



 相手が怪我人どころか重傷な人かもしれないのを完全に無視して、ピッチャー返し。

 こちらのフルスイング投球(刀)を余裕でキャッチする依姫に睨みを利かせ、『説明しろ』とのニュアンスを持たせて抗議の目を向ければ、先程と同じように、完全に鞘に収まった状態の武器を目の高さまで上げて、説明を始めた。



「私の神々の依り代となる能力が判明した時に、父上と母上から頂いたものでな。別にどういう事の無い単なる剣だったんだが―――」



 そうして、こちらの質問に答える形での応答は、しかし、段々と依姫から伝わる印象が、説明から思い出を懐かしむ様なものへと変化していった。

 得々と語られる、彼女が持つ剣の経歴。

 それを聞く内に、俺は何故自分が彼女に勝利出来たのかが不思議でならなくなった。










『十拳剣(とつかのつるぎ)』

 十束剣、十握剣などとも呼ばれている、握り拳十個程の長さであるという意味の剣。

 固有の名詞などではなく、長剣、長刀といったカテゴリの名称として呼ばれている日本固有のそれは、草薙や叢雲といった有名な剣から、名も知れない数々の日本刀の代名詞とも言えるだろう。










 これもその十拳剣なのだが、彼女が持つそれにはある能力が付与されていた。

 それは『十拳剣である能力』。

 何を当たり前の事を―――と、侮る無かれ。

 その剣とは拳十個程の日本産の剣全てを指し………詰まる所、そう呼ばれていた時代の刀であれば―――もとい、『刀であれば何にでも成れる能力』を所持しているのだ。

 先に言った、叢雲、草薙の剣は勿論の事。

 ヤマタノオロチを倒した『布都斯魂剣(ふつしみたまのつるぎ)』、農業の神であるアヂスキタカヒコネが持っていたとされる『大量剣(おおはかり)』など、多種多様。

 西洋風に言うのなら、デュランダルでも、エクスカリバーでも、グラムでも、といった具合に。

 それが日の出ずる国で作られた剣ならば、その姿を、能力を、何もかもを、自身に宿らせ行使する。

 そのあまりの汎用性の高さには、目を見張るものがあるだろう。どこぞの赤い弓兵に持たせて上げたくなる代物だ。



 ―――そして、依姫はその十拳剣をとても大切にしている。

 十年、二十年の話ではない。

 それこそ、百を優に超えて、千で飽き足らず、万年単位で使い続けているそれは、物であるにも拘らず、もはや彼女の体の一部だと言っても過言ではない域へと達していた。



 故に、それには神が宿る。



 奇しくも近年、名を授かった名無しの某俺と同じ名前である、九十九という神。

 人工物、自然物問わず、幾年も月日が流れ、それでも残り続けた物に宿る、神や霊魂の総称。

 大切にし、感謝の心を持って接していれば、座敷わらしやお稲荷様などの幸せをもたらす存在となり。

 ぞんざいとし、無碍に扱っていれば、災いを振り撒く祟り神や九尾の狐のような不幸の権化になると言われている。

 これら神々は程度の差はあれど、周りに影響を与え、良かれ悪かれその存在を誇示して来た。

 この十拳剣は、紛い物などではなく、多種多様な意味での“つくも”と、物に憑く意味での“つくも”の二つの意味を併せ持つ、まごう事なき“つくも”神であると言えよう。










 何ともまぁ厄介な武器であったものだ、と考えをまとめた。



「九十九神ってのは、宿ると牙が生えるもんなのか?」



 一通りの話を聞き終えて、『そういやあの時……』と、そこから再び疑問に思った箇所を訪ねてみる。



「いや、それは刀本来の能力だ。小さな雪国の刀で『マッネ・モショミ』といってな。山に巣食っていた魔神へ刀を投げたなら、たちまちの内にそれを食い殺し、そのまま山へと封印されてしまった妖刀だった筈だ。本来なら自立行動の後、例え金剛石であってもそれを食い破り、対象へと喰らい付くものだったんだが……」



 いやぁあの円盤は硬いな、と。

 照れ臭そうに自分の失敗を語る彼女の心境とは裏腹に、下手すれば鮫やら鰐やらピラニアやらの群れの中へと放り込まれた生肉状態になっていた可能性があって……俺は青褪めた。



「てめぇ! 拿捕とか言っておきながら、絶対俺の事、殺す気だっただろ!」



 ふざけんな的に声を荒げて抗議をぶつけてみる。

 けれどぶつけられた張本人の表情は、何を馬鹿な、と言わんばかりの疑問が浮かんでいた。



「あの程度では足止めくらいしか見込めない、との判断からだ。現にお前は足止めどころかあれを歯牙にもかけずに、私を打倒したではないか。……せめて後一日か二日、時間があれば良かった……のかもしれんがな……」

「……時間があれば俺に勝てます。ってか」

「どうだろな。あの時私は憤怒の炎に思考が焼かれて冷静な判断が出来ず、力押しの手段ばかり取ってしまったからな。次があるなら真っ先にお前自身を狙う事にするよ」



 それはまずい、勘弁して頂きたい。



「それに……」



 少し躊躇った後、一言。



「時間があれば、この者が目覚めてくれただろうしな。―――少なくとも、あの時よりはこちらを倒すのは手間だぞ」



 腰へと戻した刀へ目線を落としながら、残念だとの言葉と共に、依姫は苦笑した。



「目覚め……え? 何?」

「あまりに久々に宝物庫から出したせいで、まだ九十九神が起きてないんだ。早くて一日二日。遅ければ、後一月は目覚めないだろうな。過去に起こした時は……覚醒までに、十日は掛かったのであったか」

「じゃあどうやってそれ呼び寄せたんだ。九十九神、起きてたなかったんだろ?」

「それはさっきも言ったように、『マッネ・モショミ』の力だな。自立行動位ならば、九十九神に頼らずとも刀の力でどうにか出来る」



 そのまま、俺と依姫はその刀を中心とした話を膨らませた。

 本来、依姫の戦闘スタイルは、自身に降ろした神と、その神が持つ剣のセットで完成するものなんだそうだ。

 剣を使わない神であれば、十拳に宿る九十九神が自分の判断で行動し、遊撃手となり手数を増やすらしい。何というフラガラッハもどき。

 もしも健在だったならば、変幻自在の二つの存在に翻弄されながら、相手は何も出来ずに屠られる事になる。

 ただそれではあまりにワンサイドゲームであった為、微温湯に浸っていては拙いと自分を鍛える意味で、依姫はその片方の手段―――十拳剣を封印していたんだそうだ。数千年間も。

 そりゃあ九十九神も冬眠? するわ。というかよく冬眠レベルで済んでいると言いたい。並の存在なら『そうして○○は考えるのを止めた―――』とか台詞が流れそうな年月だってのに、その辺りは流石神様、というところだろう。



「思い出した。永琳と一戦した時に、実験区画丸ごと粉微塵にしてたわよね。その剣も使って」



 今までの話を横から聞いていた輝夜が、ぽんと手を叩く。

 過去の出来事を思い出したようだ。



「そうですね。……懐かしい。もう数万年前になりますか。出来ればまた、もう一戦行ってみたいものです」

「ダメよ。永琳ったら身内には結構甘いんだから。あの時にあなたが勝っていれば再戦もあったんでしょうけど」

「……完敗でした」

「でしょ? だから、もう永琳は闘わない。あなたの命を奪いかねない行為には、余程の何かでも無い限りは及ばないでしょう」



 ……待った。

 今何か、本来当てはまる箇所―――人名―――の単語がおかしかった気がするぞ。

 誰が―――誰に負けた……って?



「……ちょっと待て。今の話だと、依姫は永琳さんに負けたってのか?」



 聞き捨てならない台詞に面食らいながらも、何とか質問をしてみれば、何言ってるんだコイツ的な顔をされた後で、



「そうだけど?」

「その通りだ。あの方に勝つには、私と姉上、そして輝夜様の内二人が連携しなければ困難だな。下手な共闘は、返ってデメリットになる」



 なんて事を、さも当たり前のように答えてくれた。



「……あれか? 学力テストとかそんな方面で?」

「まぁ、ピンと来ないのも分かるけど、ちゃんと戦闘面での話よ」



 ピンと。どころの話じゃなくて、単純に信じられないんだっつぅの。



 その後、永琳さんの戦闘方法を聞こうとしたのが、刀の能力をさらっと言ってくれた依姫ですらも口を噤み、『それは秘密だ』と笑顔で拒否された。

 だが甘い。

 こっちにゃ君達の思惑なんぞ筒抜けよ! と内心でほくそ笑みながらジェイスへと事の次第を尋ねてみた。



 しかし―――



(え……『分からない』って……)



 彼女達の思考に永琳さんの戦闘が思い浮かばれていないだけなんだろうかと思ったが、何やらそういう事では無いらしく、話を聞いている内に、どうも彼の力―――【プレインズウォーカー】としての力は勿論、魔法含む、一切の能力が使えなくなってしまっているようなのだ。

 あまりに唐突なトラブルにこちらの思考が真っ白になり掛けるものの、表面上は何とか平静を取り繕う。



「……どうした九十九。顔色が悪いぞ」



 取り繕えてなかったようだ。

 眉の上げ下げやら目元口元の力加減などといった表情の差異なら力技でどうにかカバーしていたのだが、顔色だけは無理だったようで。

 心配している、と他意の一切無い視線を向けてくる依姫に、便乗する形で、



「……あら、そういえば、【雲のスプライト】は何処へ行ったのかしら」



 少し前まで【マリット・レイジ】含む俺達の頭上をふよふよと飛んでいた存在を思い出した輝夜が、疑問の声を上げる。

 ジェイスが出した存在は、ジェイスがその力の源であるのは当然。

 よって、こうして彼の力が使えなくなってしまった結果が、こうして目に見える形で彼女達に示されてしまった。

 まだ感づかれてはいないようだが、何とかバレないようにしなければならない。こちらの生命線やら命綱やらが消えかねない。



「【雲のスプライト】は還した。顔色は……まぁ、あんな事があったからな。多少なりは疲れるさ」



 壊れ掛けた橋を急遽舗装しながら横断するかの如く、その場凌ぎの返答をする。

 一応、嘘は言っていない。まぁ、嘘を言っていないからといって、何がある訳でもないのだが。



 ……彼女達や月側が何か仕掛けてきた様子は無い。

 これはつまり、問題がるのは、こちら側。



(やばいな……原因が分からんぞ……。これ以上事態が悪化しない内に色々進めておかないと)



 最悪、永琳さん達を起こすまではこちらの優位性を失いたくない。月側との交渉は二の次だ。

 チラとジェイスを見てみれば、念話で感じた焦りの感情など微塵も感じさせずに、先程と同じ様に無言の存在へと徹している。

 この辺は見習わないと、と思いながら、状況を進める為に【マリット・レイジ】―――ではなく、俺の横で消えた【雲のスプライト】の軌跡を探していた輝夜へと言葉を投げ掛けた。



「なぁ」

「何よ?」

「お前の力を使って、すぐにでも月の方へと行けないか?」

「……どうして急にそんな事を言うの?」



 その疑問はご尤もなんだが、今は正直、その質問はこっちにとっては最悪の部類です。

 何とかそれらしい返答を考えるものの、何処まで通用するかどうか……。



「疲れて来たんだよ。精神的にもそうだが、体力的にな。面倒な事はとっとと終わらせて、枕を高くして寝たい」

「それって私達からしたら絶好の反撃のチャンスじゃない。何でわざわざそんな事を」



 そりゃそうだ。

 だが、そこで頷いてしまっては状況の好転は見込めない。

 輝夜だって、俺が本当に疲労の極みに達しそうになっていると思ってないが故の、今の言葉である筈だ。今の段階ならばせいぜい、疲れたからとっとと終わらそうぜ、程度のニュアンスにしか聞こえていない事だろう。

 そんな思惑の中、無い頭振り絞って即興で思いついた言い訳……というか虚言が、



「……あんまり時間が経つとな、永琳さん達を目覚めさせられなくなるからさ」

「なっ! 何故それを早く言わん!?」



 依姫の尤もな怒号に内心でビビリながら、あながち間違いでもないグレーゾーンの受け答えで対応する。



「まだ大丈夫かと思ったんだが……予想以上に疲労が溜まってたみたいなんだ。一応、休めば回復するんだが、仮に今寝たとして、次に起きるのが数時間後、なんて保障が出来ねぇ。数日間昏倒する、なんて場合も考えられるんだ。今ならまだ余裕があるからな。……出来ない状況になるまで黙っているつもりも無い」



 真偽の配合を加減しながら、尤もらしい理由を話す。

 先程と違和感の無い程度の誤差を含ませた疲労声で、最後の一押しを口にした。



「―――頼む。お前の力なら、あっという間に移動が出来るだろ?」

「……仕方ない、か。良いわね、依姫」

「元より」

「都市へ連絡を入れておきなさい。『すぐに行く』ってね」

「はっ!」



 テキパキと動き始める二人を他所に、こちらの提案を受け入れて貰った事に安堵したと同時、徐々に思考の熱が冷め切っていくのが分かる。



 ―――永琳さん達を起こすのは、ジェイスの力が必要だ。

 あまりに根本的な理由であった為か、選択肢としてすらも微塵も思い出される事が無かった。

 その彼が力を使えないというのは、それが不可能だという事実にイコールで結ばれる。



(やばいな、判断間違えたか)



 地上から発見し後は回避するだけとなった地雷原へ、進路も変えずにわざわざ加速までして向かってしまったようだ。

 その場を凌ごうとした事が原因で、一気に現状がスライドし、結末へと辿り着こうとしている。

 準備なり精神統一なりの理由を言って、後で一人になる時間を貰おうと画策してみるか。





 しかし、ジェイスの行動に制限が掛かった事で自ら自爆しそうになっている現状を何とか回避しようとしたこの行動は、最悪への第一歩などではなく。

 むしろ、俺にとっては最善に近い行動であったのかもしれない。と。後々思う事になるのだが―――










 能力、という代物は本当に便利である。と実感出来た。

 痒いところに手が届く的な安っぽい意味合いだが、事実そう思ってしまうのだから仕方が無い。



「輝夜~、生きてるか~?」

「……あんた、後で覚えてなさい」



 顔すら起こせない程に疲労した蓬莱山は、それでも怨嗟の声を上げる気力は残っていたようだ。

 比喩抜きで、一瞬。

 月側の体制が整った、との報告を受けた輝夜が能力を行使し、【マリット・レイジ】含む俺達を一瞬で月の都市付近へと連れて来た。

 ただやはり輝夜の能力にも限界がるようで、全長1キロを超える躯体をここまで運ぶのは、かなりの力を使ったようだ。

 精神だか体力だか何のエネルギーを使ったのかは分からないが、着いたと同時、捨てられたヌイグルミ(うつ伏せのたれパンダ)のように【マリット・レイジ】の上で伸びている彼女を見るのは、場違いながらも少し可笑しい気分になった。



(あー、体制が整った、って、やっぱそういう事か)



 念の為にと、もう一度【死への抵抗】を使う。

 遠目であるが、しっかりと分かる。

 目前数百メートル先には煌びやかな月の都市が視界いっぱいに広がって、その手前には、恐らく最後の力を掻き集めたかのような月の軍隊が集まっていた。

 恐怖を顔に貼り付けた兵隊達の中には、顔や体のどこかしらを包帯だと思われるもので巻いている者が疎らに見受けられた。きっと、【マリット・レイジ】の会戦時に居て撤退して来た戦力をこちらに当てて来たのだろう。

 人手不足というか戦力不足を何とか補おうとした結果なのかもしれないが、敗残兵とも言える者達を送り出さなければならない事態になっているとう事実が、チクリと、こちらの心を突き刺した。

 数台の四脚戦車と、同じく数台の円盤。

 都市を守るよう、扇状に展開している二百を僅かに超える程度の兵達の最前線に、その者は居た。

 純白の軍服をキチリと着こなし、胸には煌びやかな勲章が。

 両の手は水平よりもやや下方に伸ばされていて、手の平を合わせるように重ねられている。そして、その手の平で一振りの剣―――だと思う―――を支え棒のように持ち、その場に直立に構えていた。仁王立ち武器持ちバージョンといったところか。

 白髪は見事に整えられて、その顔立ちは、その者の歴史が皺となって眉間や目元に刻まれている。



(分っかりやすいねぇ……。親玉登場ですか)



 地鳴りと共に、彼ら月の軍の少し手前に着陸する茨山。

 これほどの距離に近づいたにも関わらず、誰一人として逃げ出す者は居ない。

 けれど、皆恐怖で顔を引きつらせて、今にも崩れ落ちそうになる四肢に鞭打っているのが、手に取るように分かってしまう。

 唯一の例外は例の白髪の親玉モドキだけだが、あれは瞑目していてその感情までは読み取れなかった。



 ―――こいつらを見たら、額に受けた銃弾の感覚が蘇って来た。

 交渉に来たというのに、再び灯る憎悪の炎。

【ダークスティール】化で全く効果が無かったとはいえ、それが無ければこちらの頭部には新たに穴が一つ完成していたか、あるいは見事に消え去っていたのだ。

否応無しに燃焼を開始した怨恨の灯火を、何とか鎮火、ないし低音を維持するように調整すするが。



(てめぇらが一発入れなけりゃ……)



 それでも理性とは別の力によって、段々と熱が上がっていくのが分かる。



「君が、地上から来た者で相違無いかね」



 低いながらも、良く通る声。

 相手の親玉は、見た目通りの声色であった。



「……どいつだ」



 無意識だった。

 親玉からの台詞を完全に無視して、こちらの言葉をぶつける。



「……何のことだね」

「俺を撃ったのは、どこのどいつだって聞いてんだ」



 明らかに先程の空気とは違う。

 それを感じ取った輝夜や依姫は、けれど、同じく空気の変わったジェイスや【マリット・レイジ】に牽制されて、動くに動けないでいる。

 月の大地から見上げる者と、その遥か頭上から声をぶつける者。

 互いの立場を言葉にするなら、それが尤も当てはまる。



「その者は、営巣にて拘束中だ」

「連れて来い」



 その言葉で、こちらの言わんとする事を理解したのだろう。

 刻まれた眉間の皺をより一層深くした後、月の親玉は、こちらの質問に答えた。



「殺すか?」

「さぁな」



 曖昧な返答だが、こうして絶対優位を貫いている今の立場では、正直、今の感情は誰かの命を奪うまでには至っていない。せいぜいボコボコにぶん殴る程度のものだ。

 尤も、それを素直に言う気はサラサラ無い。


 
「……自己紹介が、まだだったな」

「はぁ?」



 あまりに唐突な台詞に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 お前は何を言ってるんだ。今はそういう話じゃない。

 だがこちらの疑問の視線を無視して、その者は言葉を続けた。



「月の治安維持―――軍を指揮してる。高御産巣日(たかみむすび)だ。今回の出来事の全権を預かっている」

「……へぇ」



 おにぎりかお相撲さんっぽい名前だ、と。場違いながら思った。

 何かの神様だった気はするが……そんな奴など全く知らない。少なくとも、東方プロジェクトの中には出てきていなかった。つまりは、俺にとっては数日後にでも忘れてしまいそうなほどに、どうでもいい存在。

 ……今の流れでその話を切り出す。

 それは意図と辿れば、この度全ての結果は自分の行いによるものだ、と宣言しているに等しい。



「それで、その軍のトップ様が何の様ですか?」



 おちょくる様に、ですます口調で問いかけた。

 繭一つでもピクリと動かしてくれたのなら愉快な気分に浸れる筈だったが、けれど、相手はそれを気にする様子は無い。

 何の感情も表さないままに、淡々と応答する。



「何、些細な用事だ。すぐに済む」



 そう言って、両の手でしっかりと持っていた剣を鞘から抜き出して―――こちらに向けて構えた。



「なっ、司令!」



 信じられないという風に、動けなかった依姫が驚愕の声を上げた。

 こちらはジェイスの力は使えないものの、破壊されない20/20の要塞は未だ健在。

 スタミナこそ心許ないが、マナもカード枚数も満タンに近い状態で、今の俺には【ダークスティール】化に加え、事が起これば即座に【プロテクション】か【被覆】を発動させる準備がある。

 それに、あの依姫が声を荒げているのだ。

 それはあいつが何かしらの切り札を持っている訳ではなく、むしろ、丸く収まりかけていた事態を悪化させ兼ねない、という懸念からの叫びだろう。



 なるほど。そういう行動に移る相手ならば、今回のような事態になったのも理解出来る。

【マリット・レイジ】を召喚する前。月の兵から銃弾を受けた時の心境に似て。

 またも謝る気があったというのに、それを反故にされようとしている事実。

 月の軍のトップとは単なる老害であったか、と。侮蔑を込めて睨みつけてみれば。



「―――ぁ」



 その老害は正眼に構えた剣を一瞬で反転させて、自身の首へとその刃を向けた。

 彼の腕が動く。

 その者以外の時間が止まってしまったかの様に、俺を含むその場に居た全員が、限界まで己の眼を見開いていた。



 ―――誰かの悲鳴。



 近くから、というのが分かる音源だというのに、何処か遠くで聞こえている感覚に襲われる。

 自分の頭と体が完全に乖離いて、瞬き一つ、呼吸すらも出来ないその最中―――
 



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