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No.26038の一覧
[0] 東方ギャザリング (東方×MTG 転生チート オリ主)[roisin](2014/11/08 16:47)
[1] 第00話 プロローグ[roisin](2013/02/20 07:12)
[2] 第01話 大地に立つ[roisin](2012/07/01 17:54)
[3] 第02話 原作キャラと出会う[roisin](2012/07/01 18:01)
[4] 第03話 神と人の差[roisin](2012/07/01 18:05)
[5] 第04話 名前[roisin](2012/07/01 18:08)
[6] 第05話 洩矢の国で[roisin](2012/07/03 21:08)
[7] 第06話 悪魔の代価[roisin](2012/07/01 18:34)
[8] 第07話 異国の妖怪と大和の神[roisin](2012/07/01 18:39)
[9] 第08話 満身創痍[roisin](2012/07/01 18:44)
[10] 第09話 目が覚めたら[roisin](2012/07/01 18:51)
[11] 第10話 対話と悪戯とお星様[roisin](2012/07/01 18:57)
[12] 第11話 大和の日々《前編》[roisin](2012/07/01 21:35)
[13] 第12話 大和の日々《中編》[roisin](2013/01/05 19:41)
[14] 第13話 大和の日々《後編》[roisin](2012/07/01 21:37)
[15] 第14話 大和の日々《おまけ》[roisin](2012/07/01 21:37)
[16] 第15話 鬼[roisin](2013/02/20 07:27)
[17] 第16話 Hulk Flash[roisin](2013/02/20 07:27)
[18] 第17話 ぐだぐだな戦後[roisin](2012/07/01 17:49)
[19] 第18話 崇められて 強請られて[roisin](2012/07/01 17:49)
[20] 第19話 浜鍋[roisin](2012/07/08 19:48)
[21] 第20話 歩み寄る気持ち[roisin](2012/07/08 19:48)
[22] 第21話 太郎の代わりに[roisin](2012/09/23 03:40)
[23] 第22話 月の異名を持つ女性[roisin](2012/09/23 03:39)
[24] 第23話 青い人[roisin](2012/07/01 17:36)
[25] 第24話 プレインズウォーカー[roisin](2012/07/01 17:37)
[26] 第25話 手札破壊[roisin](2013/02/20 07:23)
[27] 第26話 蓬莱の国では[roisin](2012/07/01 17:38)
[28] 第27話 氷結世界に潜む者[roisin](2012/07/01 17:39)
[29] 第28話 Hexmage Depths《前編》[roisin](2013/07/24 23:03)
[30] 第29話 Hexmage Depths《中編》[roisin](2012/07/01 17:42)
[31] 第30話 Hexmage Depths《後編》[roisin](2012/07/01 17:42)
[32] 第31話 一方の大和の国[roisin](2012/10/27 18:57)
[33] 第32話 移動中《前編》[roisin](2012/09/20 20:50)
[34] 第33話 移動中《後編》[roisin](2012/09/20 20:50)
[35] 第34話 対面[roisin](2012/07/08 20:18)
[36] 第35話 高御産巣日[roisin](2013/07/25 23:16)
[37] 第36話 病室にて[roisin](2012/07/08 20:18)
[38] 第37話 玉兎[roisin](2012/07/08 20:18)
[39] 第38話 置き土産[roisin](2012/09/20 20:52)
[40] 第39話 力の使い方[roisin](2013/07/25 00:25)
[41] 第40話 飲み過ぎ&飲ませ過ぎ《前編》[roisin](2012/09/20 20:52)
[42] 第41話 飲み過ぎ&飲ませ過ぎ《後編》[roisin](2012/07/08 20:19)
[43] 第42話 地上へ[roisin](2012/09/20 20:53)
[44] 第43話 小さな小さな《表側》[roisin](2013/01/05 19:43)
[45] 第44話 小さな小さな《裏側》[roisin](2012/10/06 15:48)
[46] 第45話 砂上の楼閣[roisin](2013/11/04 23:10)
[47] 第46話 アドバイザー[roisin](2013/11/04 23:10)
[48] 第47話 悪乗り[roisin](2013/11/04 23:11)
[49] 第48話 Awakening[roisin](2013/11/04 23:12)
[50] 第49話 陥穽[roisin](2013/11/04 23:16)
[51] 第50話 沼[roisin](2014/02/23 22:00)
[83] 第51話 墨目[roisin](2014/02/23 22:01)
[84] 第52話 土地破壊[roisin](2014/02/23 22:04)
[85] 第53話 若返り[roisin](2014/01/25 13:11)
[86] 第54話 宝物神[roisin](2014/01/25 13:12)
[87] 第55話 大地創造[roisin](2014/01/25 13:12)
[88] 第56話 温泉にて《前編》[roisin](2014/02/23 22:12)
[89] 第57話 温泉にて《後編》[roisin](2014/02/23 22:17)
[90] 第58話 監視する者[roisin](2014/02/23 22:21)
[92] 第59話 仙人《前編》[roisin](2014/02/23 22:28)
[94] 第60話 仙人《後編》[roisin](2014/03/06 13:35)
[95] 第??話 覚[roisin](2014/05/24 02:25)
[97] 第24話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:27)
[98] 第25話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:28)
[99] 第26話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:29)
[100] 第27話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:29)
[102] 第28話 Bルート[roisin](2014/10/26 18:30)
[103] 第29話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:15)
[104] 第30話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:15)
[105] 第31話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:16)
[106] 第32話 Bルート[roisin](2014/12/31 18:17)
[107] 第??話 スカーレット[roisin](2014/12/31 18:22)
[108] ご報告[roisin](2014/12/31 18:39)
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[26038] 第31話 Bルート
Name: roisin◆78006b0a ID:ad6b74bc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/12/31 18:16






(これが、怨恨の体現者。乾の神……洩矢諏訪子の本質……か)



 地獄絵図であったこれらの光景を見続けた綿月依姫は、思考の外。本能的な悪寒を、驚異的な精神力で押し殺し。



「―――そろそろ姿を見せたらどうだ」



 そう、周囲へと言葉を飛ばす。

 この場に居るのは、彼女自らが呼び出した、祟り神の統括者、一人のみ。己を含めれば二人だけの空間であるそこに、先の言葉は違和感を覚えるものであったのだが……。



「―――」



 依姫の視界の先。鬼が朽ちた場所より、やや後ろ。

 するり、と。

 言葉で応える事をせず、唐突に、空間の切れ目から紫の少女が現れた。

 歩み出て、何の前触れもなく出現した、虚空に浮かぶ線の上へと腰掛ける。気負った様子のない、自然体。静かな敵意を胸に秘める月の軍神と、祟り神の統括者を前にして、その光景を当然といった風に淡々と受け入れながら。

 それら二人の視線とは、精神を、魂を、心をを削り抉るものに他ならないというのに。気でも狂ったかと思わせるほどの胆力である。



「……第七小隊、目標はこちらで発見した。以降は第五、第六と同様、周囲の警戒へ移れ」



 眼前の相手から一切の視線を動かさず、依姫は通信を終えた。

 その目に油断の文字はない。体内で脈打つ血流すら視認してしまうのではないかと思える程に、並々ならぬ眼力が籠められていた。



「あの程度の騒動で我ら月の民の目を欺こうなど、片腹痛い。……何の為の時間稼ぎかは知らないが、貴様はそこまで巡りの悪い者ではなかったと記憶していたのだがな」



 既に顔見知りである事を会話に混ぜながら、依姫は紫の少女へと語り掛ける。

 一連の騒動―――侵略計画を仕掛けた―――立案した張本人であるところの少女は、仲間が全て死に絶えたというのに、それを気にする素振りがない。

 虚空に浮かぶ線の上に腰掛けて、扇子で口元を隠しながら、無言のままに、その目のみで相手を嘲笑する。

 その仕草、その態度。それらは全て、元より、この状況が予測の範囲内であると物語っていた。



「……理解した。貴様、端からそれが目的で」



 依姫は、周囲に散らばる妖怪達を見回して。



「我らに、これの処理を任せたな?」



 ―――始めから、紫の少女はこれが目的であった。

 とある結界の拡張と保持に尽力した者達は、元々が我の強い……少女が望まぬ、安定を欠く要因。恭順を見込めぬのならば、そんなものは排除してしまえばいい。

 別に、自ら手を下す必要はないのだ。

 信用とは、築きにくく、崩れやすいもの。少女はこれから数多の者達を束ねる立場に収まるのだから、そんな者が自らが望まぬ者達排除する―――信用出来ぬ者だと知れ渡れば、下々が付き従う筈もない。信頼は出来ないが信用は出来る、と。最低でもその域に留めておかなければならない。

 よって、彼らの望みを叶えるという最もらしい理由と共に、弱兵を戦場へ送るよう、ただ道案内にだけ務めれば、今回はそれで事足りる。

 とはいえ、それが出来なかったのも、その今回だ。とった行動は上等とは言い難いが、時が迫った現状では、それも仕方のない事。

 本来ならば、案内役すらしたくはなかったとはいえ。

 地球から月という真空の遠大な距離に、重力の檻。そして、穢れを持つ者が自らの意思では決して足を踏み入れられぬように張り巡らされた、フェムトファイバーの結界。それらを全て掻い潜り、月へと乗り込む為の術を、終ぞ、あれら妖怪達は取得出来なかったのだから。

 要因となってはいけない。要因の要因にならなければ、策略としては二流止まり。

 それを押してまで勧めなければならなかったのは、大結界の作成が、次の段階を迎えた為。時が経てば経つほどに人と魔のバランスは崩れ、その速度は右肩上がり。妖怪達の助力が不要となり、それらの我慢に限界が訪れた今を逃しては、目指すものの安定は望めない。





 ニマリ。少女の目尻が、より一層釣り上がる。隠していた筈の口元から、もはや隠せぬと口の端が扇子からはみ出した。

 紛れもない肯定。

 それを見た依姫は吐き捨てるように鼻を鳴らし、刀―――九十九神の宿る、神剣十拳を抜き放つ。

 正眼に構え、静止。攻防一体の構えであるところが大きいそれは、一部の狂いもなく切っ先を相手の眼前に向ける事で、その刀身の長さを……斬撃射程を計らせないという、単純にして、攻略困難な奥義でもある。

 僅かな視線の挙動に刀の先端を合わせ、修正。対峙する者が見れば、鍔だけを向けられていると錯覚に陥ってしまうだろう。

 一挙手一投足の比ではない。瞬き一つ見落としたら最後、音速を超える斬撃が繰り出され、対象の首と胴……どころか、剣撃が通過した箇所の、一切合財が吹き飛ぶだろう。



「依姫」



 ここで、沈黙を貫いていた諏訪子が口を開いた。

 体についた土埃を払いながら、胡坐から直立へと姿勢を移す。

 諏訪子が依姫へと話す姿にかつての敬称はつけられておらず、見る者が見れば、それなり以上の親しさが見て取れる空気があった。



「……そうでしたね。元より、そういう契約でした」



 スイと刀を下げたかと思えば、流れるような動作で鞘へと入れ、その牙を収めた。

 鬼と対峙していた時同様、刀を杖代わりに前方へと突き立て、直立不動のそれへと戻る。手を出す気はないという事だ。

 月の軍事力を始め、あらゆる点で、あの程度の妖怪の群れ相手に、洩矢諏訪子を呼び出す必要はない。

 それでも依姫が彼女を降臨させたのは、過去に結んだ洩矢諏訪子との契約故に、である。



「さて、こうして顔を合わせるのは初めてになるか。まぁ、コソコソ我の……いや。あれの周りを嗅ぎまわっていた汝の事だ。我の事など、今更語るまでもないか」



 帽子のツバに隠れていた瞳が現れ、黄金色の眼を見開きながら、ともすれば、それだけで魂魄が吹き飛んでしまう眼力を向けた。

 空間が淀む。穢れなき地に充満する怨恨が、内に囚われた紫の少女を食い殺さんと絡みつく。

 しかしそれを……数瞬前に消え去った鬼であっても心が軋みを上げるその視線を、然も平然と受け流す少女は、更なる深い笑みでこれに応えた。



 ―――と。

 出現する、黒い裂け目。

 歪に縫合されていた空間が抜糸されたように剥がれ落ち、まるで舞台に立つ役者に何重もの幕が下りるように、少女の姿を徐々に覆い隠す。

 そんな幕に画かれた―――爛れ、捲れた空間の奥に見えるのは、目。

 動物がある。魚類がある。鳥類がある。昆虫がある。

 それ以外にも、幾つも、幾つも。古今東西、大よそ地上に存在しているであろう種類の瞳が、その空間の奥に無数に浮かび上がっていた。

 辺り一帯を飲み込もうかという勢いで広がる裂け目のからは、十、百、千、万。もはや数えるのも馬鹿らしい程に膨れ上がった無数の視線が、たった一人の小さな神へと突き刺さる。



「―――小賢しい」



 ところが、並み居る大妖怪ですら尻込みするであろう光景を、洩矢諏訪子はたった一言で切って捨てる。

 その言葉の直後。……ふと、紫の少女の左の頬を風が撫でた。

 優しく、優しく。愛おしい人に触れる手のように、一瞬だけだが、不可視の手がそこを通り―――。



「ッ!」



 ―――紫の少女に、悪寒が走った。

 目前に両の手を突き出し、自身が持つ能力の中で最も堅牢な、結界という名の防壁を張る。

 数ある用法の中でも遮断や隔離という点に秀でているそれは、外界からの干渉のすべからくを分け隔てる壁と化す。

 そして、その数瞬の後。少女の周囲を暴風が襲った。

 何処からともなく発生した、【真鍮の都】の道に敷き詰められた真鍮まで巻き上げんばかりの勢いで荒れ狂う黒い大気の流動が、聖域へと逃げ込んだ少女を除く、その周りの全てを舐め尽くす。虚空に出現した無数の裂け目と、その目玉達を。



「……酷い、な」



 直立の姿勢はそのままに、眉を顰める依姫は、目前に広がる光景に畏怖を覚えながら呟いた。

 それらは元々、氷ででも出来てたのか。

 周囲の家々も、空間の裂け目も、その内部にあった瞳達も。その全てが融解し、もはや原型は保てぬと、その形を蕩けさせていた。

 既に死体となった妖怪達も例に漏れず、骨すら崩れかけている程に見境がない。

 酸の海で溺れる生き物さながらに、白煙を上げてドロドロと崩れ落ちる有象無象の中心に居る紫の少女は、再度、その口元に―――片頬が抉れ、綺麗に整った歯が覗くそれで、これまでで一番の笑みを湛えた。

 華の咲くような、と表現するのが適切であろう微笑は、しかし、欠落した左頬の為に毒々しさを振り撒くものへと変貌している。微風を受けた箇所がそこのみで留まっていなければ、周囲に散らばる蕩けた目玉と同様、既に体中を腐敗した液体へと変化させていた事だろう。

 人であれば、激痛でのた打ち回っている外傷のまま。痛々しく、赤々と爛れた頬を歪めながら、堪らなく愉快だと、少女は視線で告げる。

 何せ、目的の……真の目的の、その一端を味わう事が出来たのだ。いずれそれを我が手にと思えば、その喜びは怖気を催す程に冷たく、脳を溶かす程に熱く、甘美なもの。 



「……しかし、諏訪子様。今の黒い風は、私諸共巻き込んでいたのは承知の上ですか?」



 常人なら……否。死体であったとはいえ、上位の妖怪ですら原型を留める事が不可能であった死の暴風を受けても、髪と衣類をはためかせるだけに留まった―――平然と佇む月の軍神の瞳には、不満と呆れの感情が浮かんでいた。

 ジト目と言えるそこに満載の抗議の意を籠めながら、軽率な行動は止めてくれ。と、視線に言霊を乗せたのだが、それを諏訪子は飄々と受け止め、言葉で反す。



「問題はなかろう? 豊姫の持つ例の扇子に比べれば、可愛いものではないか。……今のお前が、あの黒き神の力を宿しているのは知ってる。二神同時降臨を成せるようになった今のお前ならば、これの風はただの黒い暴風でしかないのだから」

「仰るとおり、【マリッド・レイジ】の力は宿してはいますが……。だからといって、この地でああも易々と穢れを振り撒かれても困ります。高御産巣日様の忠告通り、辺り一帯を三重にフェムトファイバーで覆っているとはいえ、ただでさえあなたの力はそれに特化しているのです。幾ら姉上の扇子より威力で劣ると言っても、あれは一時のもの。終わってしまえば、後は楽なのです。……何よりも……」



 一際強い眼光。



「今のそれは―――あやつの力でしょう? 諏訪子様が似通った暴風を起こせるのは、過去にあやつと対峙した時に存じておりますが、この惨状はあの時の比ではない。下手をすれば、我が国は生きながらにして死国と化してしまいます。ハッキリ申し上げて、滅亡の危機です。最優先排除の対象が、あれでなく、あなたへと変わりかねない程に」



 あれと呼ばれた―――憮然とする紫の少女の機嫌など知った事ではないとする、二人のやり取り。

 ニマリと返す諏訪子に、依姫は先ほどの質問が肯定であった事を理解する。

 あの風は本来、洩矢諏訪子には起こし得ぬもの。けれどそれを起こしたという事は……。



「【疫病風】……でしたか。やはり、あやつの力は脅威ですね。……過去、あやつと対峙した時にこれを使われずに済んだ幸運を噛み締めてしまいますよ」










『疫病風』

 9マナで、黒の【ソーサリー】

 あなたがコントロールしていない全てのクリーチャーを破壊する。それは再生出来ない。



 //昇天の第二の風は、もぎ取る者の風なり。価値なき物を破壊する風なり。

 ―――輝かしきケルドの書//



 発売サイクルの一つにあった、各色ごとに存在する、風シリーズの中の内の一枚。クリーチャー破壊を得意とする【黒】らしい能力であり、自軍以外の全てのクリーチャーを墓地へと叩き込む、単純にして強力なリセットカード。

 しかしながら、コストが重く、【除去】よりも幾分か威力が劣る【破壊】である点や、呪文を打ち消す、という概念のあるMTGでは、【ソーサリー】タイミングでしか撃てないという点も相まって、確実性に難点が残る為、黒を主体とした【コントロール】デッキ以外での運用は殆ど使用は見られない。










「この【色】は我に対し親和性が高い故、そうも乱用は出来ないが、後二~三ならば、同様の術を行使出来るくらいに信仰と国力は付けたつもりだ。あれの……この力は特性の差があり過ぎる。熟考の後に使わなければ、たちまちの内に自身にすら牙を向く諸刃の剣となろう。……まぁ、その前に力を使おうとした瞬間、魂も魄も干上がってしまうだろうがな」

「それでも、この規模のものをまだ幾つか唱えられる、というだけで勘弁願いたいものです」



 ほんの少しの呆れを言葉に乗せながら、次の台詞に、依姫は己が目的を上乗せするのだが。







「大分、あやつの力の扱いにも慣れたようで……。では、いよいよ次は私の「イヤ♪」ば……ん……」







 それは、最後まで言い切る前に遮られた。

 体は前方に向けたまま。諏訪子は顔だけ振り返り、とても良い笑顔で、何かの問いに拒絶する。

 引き攣る頬を隠そうともせず、それを非常にイイ笑顔で応える依姫に、これまでの真剣な……真面目な空気は……さて。ひゅるり、ひゅるり。何処かへと流れていってしまっていた。

 こちらを無視したようなやり取りに、紫の少女も怪訝な顔は浮かべているものの、自らは事を起こす気はないようで、静観を貫いている。むしろ、依姫や諏訪子の交わす言葉に聞き耳を立てて、一言一句すら漏らさぬように集中しているくらいであった。



「それに、依姫はもう【マリット・レイジ】を……【暗黒の深部】だっけ? “例の方法で”それを譲り受けているじゃない。これ以上求めなくたって、力は十二分に持っているじゃないか。あれはあいつの、最上級の信頼の証。それを不服とするような物言いは、褒められたものじゃあないと思うけどね」










『Ante/アンティ』

【飛行】や【プロテクション】などのMTG内の能力(ルール)の一つ。あるいは墓地や手札といった、領域の名前。MTG登場初期の頃に存在していたもので、正式な意味は、ポーカーの掛け金を指す。



 詳細なルールを省いて説明すると、これが記載されたカードを使用し、ゲームに勝ったor負けた場合、何かしらのカードを奪うor奪われる事になる。

 ようは、賭博行為。

 この能力が記載されたカードは全九種あり、【アンティ】ルールを採用しない場合は事前にこのカードをデッキから抜いて戦う、という【アンティ】の能力がある。

 その副次効果を狙い、【アンティ】の採用されない対戦であえてこれら投入し、『デッキは最低でも六十枚以上で構築しなけれなばらない』という条件をクリアして、デッキの圧縮を図る事もあった。これによって、欲しい(使いたい)カードを引く確立を、少しでも上げる為である。

 当然ながら、現在は……そして今後も、禁止カード(能力)であり、再登場する事はないだろう。法的に怪しい意味も含めて。










「ジャンケン……でしたか。まさかあのような単純な遊戯で、ああも易々と、あやつの力の片鱗を得るとは夢にも思いませんでしたが」

「『お前パーな! 俺はグー!』とか、毎度毎度意味がよく分からない発言や行動だったから流していたけど、あれはあれで、しっかりと意味があったんだねぇ」

「砂漠の中の一粒。大海の一滴。森の中のひとひらの木の葉。その殆どが無意味なものでありますので、真意を測るのは不可能かと。……まぁ、あやつなりの信頼の証だとは思っています」



 小さく、咳払い。



「高みに天上はありません。弛まず、止まらず、慢心せず。あやつとの戦いで思い知らされました。ですので―――」



 不満な表情を一転し、清々しい顔を浮かべ。



「あやつの秘中の秘―――あなた様が終えた、あれの能力全てを共有する儀式とやらを、早く体験してみたいものです」



 そう言い切る依姫に、洩矢諏訪子は慌てふためいた。



「ッ!? だっ、だめっ! それだけは絶対にダメッ!!」



 どういう訳か、その頬は綺麗な朱に染まっている。何か、平常心ではいられない記憶を思い出したようであった。



「……この話題になると、何故そうも拒絶なさるのですか。始めこそ、あやつの力を渡したくないから、との考えでしたが……今では、行為そのものを嫌がっている、と推測出来ます」

「……え、えぇ~……と……」



 目が泳いでる。

 心なしか、当人のもののみならず、形容し難い帽子に付随されているそれすら泳いでる風であった。



「懐の広さを見せるのも、神格を高める要因になりましょう。これにはかなりの利が含まれていますので。それに……」



 額にジワリと汗を浮かべ、依姫は苦々しい表情を作る。

 攻守一転。これまでの攻勢が嘘であったかのような変わり様に、諏訪子は抗議の声を静止させ、言葉の続きを促すよう口を噤んだ。



「その……そろそろ一例を作っておきませんと、他の側室達の制御が困難になっておりまして……」

「それって、作った時点で行き着くところまで行く道じゃない!」

「しかし、もはや八意や蓬莱山、綿月の家々で取れる手段はあらかた出し尽くし、今は高御様個人がこれを担っている始末。此度の妖怪達の侵略計画の的中により、あの方の罪の払拭や、その発言権がある程度は強まるのは確かでしょうし、今しばらくは、どうにか手綱を握れている状態ではありますが……。これをしなかった場合、蓬莱の国指折りの……折るには多すぎな気はしますが……おほん。指折りの百八の名家が、各々の方法であやつへと接触を図るでしょう」



 あらゆる点において突出した能力を持つ、綿月、八意、蓬莱山の御三家ではあるものの、それ以下が皆無であるという事はない。

 人が増えれば増える程に生まれる多様性。それに伴い、それらを担う人物が生まれるのは必然。欠く事の出来ない存在からの頼みを無碍に出来る筈もなく、御三家は身銭を切る行為を続けるしかなかった。

 尤も、その切り売りを続けていた身の部分は、とある地上人モドキによって、ここ数百年で急速に肥えた箇所。それを考慮したのであれば、痛手とすら言えない程度の出費ではあるのだが。



「あーうー……」



 目を閉じて、困ったような呟きをもらした後。



「……でもそれ、意図的に手綱を緩めているよね?」



 薄く目を開き、洩矢諏訪子は、依姫のそれまでの発言を、全て嘘だと告げるよう尋ね返した。



「当然です。かつて、あやつにも言いました。『側室の管理は私に任せるが良い』と。それを反故にする気はありません。手に余る状況であるのに違いはありませんが、御し切れぬ訳ではありませんので」

「……さっきの話のままだと、それも不可能になる、と取れるんだけどねぇ」

「確かに、そのままでは難しいでしょう。しかし、私が言ったのは“家”としての手段のみ。高御様のように、個人で動く分にはその限りではありません」

「わー……依姫ったらズっこいんだー」

「何を。諏訪子様ならこの程度の言い回しを見抜けずして、負の面を担う神などやってはいないでしょうに。これくらいの言葉遊びは、神の寛容な御心で、平にご容赦の程を」

「もう……。今はちょっと違うとはいえ、自分を棚に上げ過ぎじゃない? 種族的な意味で。それに、ちょっと前の依姫ならこんな言い回しなんてしなかったよね?」

「ええ。月面騒動の頃より、姉上や永琳様に、政や交渉術についての教鞭を振るっていただきましたから。付け焼刃でお恥ずかしい限りではありますが、このくらいならば、どうにか」

「だからって、それを私に対してやらなくても良いでしょうに……」



 呆れ顔の諏訪子に対し、依姫は満足気に胸を張る。学んだ事を実践出来たので、充実感を覚えたらしい。

 態度こそ控えめながらも、とても嬉しそうにする依姫に、諏訪子はこれ以上の追求を避ける事にした。

 許容する事には慣れている。不快な思いをするのなら話は別だが、神各的にも年齢的にも実力的にも。殆どの点において上位である筈の依姫であった為か。諏訪子は悪い感情を持ち合わせていなかった。

 一生懸命に学び活かす姿勢が、自らが治める国の民達と重なる。

 それがとても、微笑ましくて。愛おしくて。



(やれやれ……)



 一体、どちらの方が年上なのやら。

 さて。と内心呟いて、割り切るように、小さく溜め息。

 そして。



「―――返してもらおうか」



 その温度、極寒の如く。

 依姫から視線を切った諏訪子はそう投げ掛けながら、目の前で沈黙を貫いていた紫の少女に向き直る。

 返してもらう。その言葉から推測出来るのは、目の前の者が、何かを奪ったという事に他ならない。



「あれが、近年懇意となった宝物神への使者としてあの地を離れ、行方知れずとなり、はや一月。我が眷属達が直前まで、お前があれの近くに居た事は見ている。……何かに巻き込まれれば、年単位で戻らぬ事に慣れたとはいえ、それを易々と見逃す気概は持ち合わせてはいない。何より、あれは我が半身となった者」



 一拍の間。

 これまでの飄々とした雰囲気は、既に無い。

 あるのはただ、極東の地を治める、上位神の姿のみ。



「素直に応えるなら良し。さもなくば―――」



 カチカチと、キチキチと。大よそ生物が出せぬであろう鳴き声が、一つ、二つ、三つ、四つ。

 何処から現れたのか。どうやって這い出て来たのか。

 ありとあらゆる地の影から姿を見せるのは、大小様々な神白蛇の祟り神。真紅の眼球を見開きながら、たった一人の存在へとそれを向ける。

 先に出現した無数の目、同様か、それ以上か。その数を上乗式に膨れ上がらせ、紫の少女の周りを囲み、覆い、頭上以外の逃げ道を塞いでしまった。

 赤と白の入り混じる壁は、蠢き、嘶き、脈動し。

 まるで巨大な生物の体内に囚われてしまったかのような錯覚すら……いや。事実それは、怨という形なき獣の腹の中なのかもしれない。





 ―――ああ、祖は神、坤の神。

 崇め、讃え、畏れ、伏せよ。

 汝の目に映るのは、怨の結晶、負の権化。

 生きとし生けるもの全てに潜む、最も暗き闇の象徴である。





「長くは待たぬ。早々に―――……?」



 けれど、その厳かな雰囲気もそこまでであった。

 何故なら、紫の少女の反応が、諏訪子の予想していたどれでもなかったのである。

 恐怖に顔を引き攣らせるでも、嘲笑と共に構えるでも、能面の如く居直るでもなく。



「ぇ……?」



 初めて聞く、小さな……本当に小さな声をこぼした。

 丸々と見開かれた少女の顔には、呆気の二文字がクッキリと。

 数瞬前の大胆不敵な態度は成りを潜め、代わりに現れたのは、外見相応の無垢な驚き。

 ぽかんと明けられた口を隠そうとも……隠す事すら忘れ、信じられぬと、理解出来ないと、その表情が物語る。ともすれば、手にしていた扇子すら落としそうな勢いであった。

 このあまりの変わり様に、さしもの諏訪子も訝しげな顔を作る。

 それは依姫も同様で、緊張だけは解かないようにしつつ、怪訝に眉を潜めていた。





 ―――そして。

 その疑問に答えるように―――。





『―――依姫ちゃん! 聞こえる!?』



 依姫の耳に取り付けられた受信機から、その姉、綿月豊姫の切羽詰った声が鳴る。

 今回の作戦では裏方に回り、フェムトファイバーや『海と山を繋ぐ能力』によって、あらゆる穢れと敵対者の逃走経路を阻害しようと待機していたのだが、仕事モードの真面目さは何処へやら。その口調は既に、最愛の家族へと向ける―――最も呼び慣れたそれへと戻りきってしまっていた。



「何が」



 普段ならば、公私の切り替えは完璧におこなっている姉の豹変ぶりに並々ならぬものを感じ取った依姫は、疑問や抗議を置き去りにし、何があったのかと、先を促すよう言葉を返す。



『上を―――地球を見て!』



 躊躇はない。

 一部の隙も見逃さぬとの気概を以って対峙していた敵対者からの視線を完全に切り、依姫は頭上に輝く青き星を仰ぎ見る。

 釣られる形で、残りの二人も後に続く。たった今、殺すか殺されるかの雰囲気をなかったものとする行いに、これを他の者が見ていたのならば、その切り替えの速さと判断力に、常人では不可能なものを感じ取るだろう。

 三人の視線の先。そこには、青い海と、白い雲と、緑や茶が散りばめられた大陸に……。



「……黒い……人……?」



 それは誰の呟きか。

 大小存在する大陸の一つに、ぽつんと一人。黒い人型が佇んでいた。

 黒い色をしていたのは全身を覆う毛であり、頭部より生える幾本かの角の内、特に巨大な二本には、それぞれ一対。アクセサリの類だろう何かがぶら下がっていた。

 別に、それだけならば兎角注意を向けるものでもない。



 ―――ただ唯一……。そう、唯一にして最大の問題は。

 この月からでも容姿がしっかりと確認出来る程に…………いっそ馬鹿げているとすら思える程の、その途方もない大きさであった。










『B.F.M(Big Furry Monster)/巨大なけむくじゃらの怪物』

 15マナで、黒の【The-Biggest-Baddest-Nastiest-Scariest-Creature-You'll-Ever-See(史上最強最凶最驚最恐生物)】クリーチャー 99/99

 二枚で一組のカードであり、左右に並べると一枚の絵が完成する仕様となっている。片方が15マナ、もう片方がゼロマナ。場に出す際には両方同時に出さなければならず、どちらか片方が場を離れた場合、もう片方は墓地へと送られる。

 三対以上のクリーチャーでなければ、これの攻撃を防げない。



 //大きい。実に、本当に大きい。あれより大きなものはまず存在しないわ。もっともっと大きいの。それ以上ないほど。見て、話してたクラーケンやドレッドノートを飾りにしてるわ。とにかく大きいの!

 ―――― 飛空騎士、アーナ・ケネルッド//



【フレーバーテキスト】に登場する【Polar Kraken (極地のクラーケン)】(11/11)と【ファイレクシアン・ドレッドノート】(12/12)は、当時登場していた中で最大級のパワー&タフネスを持つクリーチャー。ただそれも、【B.F.M】にとっては単なる角飾りの一つでしかなかったようだ。

 20/20という、攻守にておいて最強クラスであった【マリット・レイジ】ですら足元にも及ばぬパワー&タフネスであったり、最高クラスに激高な召喚コストであったり、あまりに長くてカード枠に綺麗に収まり切らなかったクリーチャータイプ名であったりと、能力的にも、カードの絵柄的にも、あらゆる点で既存のMTGから逸脱しているクリーチャ-。通常の公式大会ではこれを使用出来ない。

 あまりに規格外―――ふざけたカードであるところのこれは、事実、ふざけたカードセットの中に収録されていたもの。

 その名も、【アングルード】。

【ジョーク・エキスパンション】として部類されるそれは、大の大人が大真面目に大馬鹿……もとい、エンターテイメントの本質を追求した結果である。

 これを取り扱う大会では、

・人が奇声を上げたり(ニワトリの鳴き真似&羽ばたく仕草をすると【飛行】を持つクリーチャーが居る為)。

・対戦相手が服を脱ぎ始めたり(相手がデニム生地の衣類を身に付けているとダイレクトアタック扱いになるクリーチャーが居る為)。

・ジュースを買いに、コンビニや自販機へダッシュするプレイヤーが現れたり(プレイヤー1人に指定したジュースを買ってこさせる呪文がある為。料金はこちら持ち)、等々。

 カードゲームの枠を超え、もはや何をしているのか分からない、非日常的な光景が散見されること受け合い。

 決して生半可な気持ちでこのセットをプレイしてはいけない。

 やるからには忠実に。馬鹿は、全力でやるから楽しいのである。












 いくら諏訪子ら彼女達が人間を遥かに凌ぐ視力を有しているとはいえ、月から地球までの数万キロを、そう易々と埋められるものではない。けれど三人が目にしたそれは、きちんと人型を保っているのみならず、その頭部に付いた付属品まで確認出来る程に鮮明であった。

 小部屋に立つ人を、真上から見ている気分だ、と。

 縮尺を度外視した、かなり無理矢理な例えだが、祟り神の統括者は、大陸にそびえ立つ怪物を、そう、頭の中で……自身の理解に収まる形で捉える事にした。

 一体どれだけの大きさがあれば、しっかりと人の形を視認出来るのか。位置の関係で主に頭上しか見えないものの、それでも、鼻で笑ってしまいたくなる体躯であるのは疑いようもない。我が目を疑う、を地で行く光景である。

 紫の少女はいざ知らず、諏訪子や……特に依姫は、遠大とも言える生を謳歌して来た者達だ。

 しかし、誰もがそんな生物を過去に見聞きした例もなく。

 よって、それが突如として現れたとなれば。



「九十九だな……」

「九十九だね……」

『九十九さん……よねぇ……』

「……」



、必然、答えはそこへと辿り着く。

 三者……否。四者四様のそれに対する反応は、三人の呆れと、一人の更なる唖然であった。

 ……ただそれも。



「あ」



 すぐに、別の反応へと移行してしまうのだが。

 先程同様、誰が発したのか分からない声は、黒い巨人が高々と腕を振り上げた事に起因する。

 大きさとは、それだけで脅威。

 それが明確な意思を以って振るわれた場合……どうなるか、は。



「あああっ!?」



 振り上げた拳の行く末など、火を見るより明らかである。

 何に対して振るったのかは分からないものの、それがもたらす結果だけは、彼女らは月面という特等席のお陰で、とてもしっかりと確認出来た。





 巨人の足元に拳が突き刺さり―――。

 ―――天が裂け、海が割れ、地が砕けた。





 周囲に漂っていた雲は消え、足元を支えていた大地は割れた大皿の如く線を走らせて、そこに海水を呼び込んだ。

 あまりの威力に飛散する無数の礫は方々へと撒き散らされ、海面に絨毯爆撃でもしているかの様に、幾重もの波紋を海面へと刻み込む。

 あの分では、すぐにではないだろうが、大なり小なりの津波が起こり、広範囲の沿岸部を襲うのは必須であろう。



『………………お姉ちゃん……ちょっと急用が出来たから……。依姫ちゃん、後、お願いね……』



 一方的にプツリと切れる通信は、当人がこの場に居ないというのに、憂鬱な空気を周りに振り撒いていた。

 依姫は考える。

 多少の災害ならば沈黙を貫く月ではあるけれど、あれは世界レベルでの危機。それを黙って見過ごすのは、地上との交流が完全に途絶えていない事もあり、得策ではない。

 よって、自分の姉は恐らく、あの人災……津波を最小限へと抑えるべく、地上の主だった神々へと連絡を入れるのだろう。然も『私の連絡がなければ危ないところでした』という風を装って、相手へと恩を売る為に。

 職場放棄は如何なものかと思うが、起こった事が事だ。これくらいの無理は許容出来るよう準備は整えてきた事でもあるし、まだ容認出来る誤差の範囲内。

 鎮痛な面持ちの依姫は皺の寄る眉間を揉みながら、何故だか心が挫けそうになっている自分と比較し、我が姉は何と切り替えの早い事だろうと、その尊敬を一層深めていたのは、また別の話として。

 色々と、考えなければならない事があるようだ。

 たった今その面積を半分以下に減らした大陸の名などは、後で報告書に記すとして……。



(アト……アトランタ……アトラン……ティス?)



 過去に九十九から、その大陸の名を耳にした記憶はあるのだが、その詳細が霞んでしまっている。



(いかんいかん。まだ全てが終わった訳ではないのだ)



 目の前の事も終わっていないのに事後のあれこれに思考を巡らせるのは、我ながら思い上がった考えだ。諌めなければなるまいと。

 現実逃避し掛かっている意識を辛うじて引き止め、手繰り寄せる。

 普段ならばまずならない思考状態に、引かれる後ろ髪を振り払いながら、大きく一息。意識を元の状態へと入れ替える。

 ……の、だが。


「む」



 それが、遅すぎたものだと知ったのは、目前にいた紫の少女が忽然と姿を消していたからである。

 無人も無人。視界には洩矢諏訪子以外、人っ子一人見つけられるものではなかった。

 コロコロと、どこからともなく回転草―――タンブルウィードなどと呼ばれる、西部劇で見られる枯れ草の集合体が幾つか横切るのみ。

 そんな植物、月面はおろか、【真鍮の都】ですらあり得ないもの……光景を前に、“こめでぃぱーと”を理解している依姫には分かった。……分かってしまった。

 あぁ。これはもう、色々と台無しになったんだな、と。



「あ~……やられたね」

「やはり、あの少女は油断ならぬ者です。我らすら呆けている間を突き、冷静にこの場からの離脱をしたのですから」

「というか、あいつの事をよく知っている私達だから。の、間だったって感じだけどねぇ」

「……むぅ」



 現状を放り投げたくなって来た諏訪子の口調に、もはや威厳は……気力はない。

 デフォルメされた汗を貼り付けんばかりの坤の神に、頭上にこんがらがった線の吹き出しが現れそうな月の軍神。

 その二人の視線の先には、再度拳を振り上げる黒い巨人。どうやら、残りの大地も同様に破壊するらしい。



「九十九はあそこだろうけど……今行ったら……危なよねぇ?」

「そう、ですね……。あやつが何をしたいのかは検討もつきませんが、周囲にまったく配慮していない様子でありますので、仮に我らがあそこへと転移した場合、ともすれば、一瞬の内にあの巨人の稼動範囲に巻き込まれて……はい……」



 みなまで言うまい。

 言葉を濁す依姫に同意する形で、諏訪子は大きく息を吐く。



「とりあえず、九十九が行方不明なのはアレのせいじゃなくて、他の何かが原因。と考えて良さそうだね」

「まぁ、その何かの原因もたった今、大陸ごと粉微塵になったような気はしますが。……しかし、あやつは確か、インドへと旅立っていった……の、でしたよね?」

「そうだね。間違っても大海のど真ん中にある……あった、あそこへは行かないよね」



 洩矢諏訪子が住まう島国から見て左側が目的だとすれば、今、騒動が起こっている大陸は右側。正反対もいいところである。

 はぁ、と一つ。重なる吐息。

 何かを諦めた代わりに手に入れた冷静さを糧に、依姫と諏訪子は、吐き出した空気を再び胸にと入れる為、大きく息を吸い込んだ。



「―――よしっ。じゃあ私は戻って、事が落ち着いた頃合に向かおうと思うけれど、結果はこんな感じだったから、契約は継続ということで」

「はい。今後ともあやつに関わる事が起き次第、諏訪子様をお呼び致します」

「うん、よろしくねー」



 ひらひらと手を振り背を向ける諏訪子に、依姫は思い出したように静止の声を掛ける。



「おっと、そうでした。もしあのお二方と会う機会がありましたら、レイセンを遣いとして向かわせると。そう、お伝え下さい」

「ん、りょーかい。……でもあの二人、顔を合わせる機会もそうそうないし、何処に居るのか……そもそも、国内に居るのかすら、まったく分からないよ? 特に依姫のお師匠様の方。仮に私の治める国に訪れたとしても、まず気づけない。坤の神様が地に足を付けた者を微塵も把握出来ないってどうなのさ。ホント、何者?」

「私の……いえ。月の誉れです。レイセンの件は、こちらで勝手に進めている事ですから、大して問題はないでしょう。が、事前報告はするに越した事はありません。不安要素はなるべく消去しておきませんと」

「そうなんだ。……そういう根回しというか気配りというか事前準備というか、その辺りは是非とも、あいつに依姫の爪の垢を煎じて飲んでもらいたいかも」

「爪の垢……何かの言い回しですか?」

「ふふん。我が国の言葉に対して些か不勉強だな、月の軍神よ」



 冗談めかして話す諏訪子に、目元だけが笑った真面目さ……芝居がかった態度で軽く会釈をしながら、依姫は応えた。



「面目次第も御座いません。つきましては、あの騒動が治まるまで、どうか」



 国語を……日本語を教えて欲しい。

 意図的に中身を抜いた依姫の言葉に、諏訪子はそう解釈を示した。



「……まぁ、すぐ戻ったところであれの騒動に巻き込まれるだけだし……鎮圧は出来るだろうけど、私単体の力じゃあ足りない。ならばあいつの力を使わなきゃ、だけど、そうすると必要以上に国力を使っちゃうし……。……良いよ。ここであれが終わるまで、語学への理解を深めるとしようか」

「感謝致します。実は、あやつの出した【森】への研究を重ねていた副産物として、少量ながら、穢れを含まない地上の動植物の生産に成功しました。が、我が綿月の名に掛けて、下手なものを流通させる訳には参りません。ですので」

「切り替えが良いのか、元からそのつもりだったのか……。分かった分かった。地を熟知した、この乾の神、洩矢諏訪子がそれらの評価をしてやろうじゃないか。神奈子ほどではないが、我の品評は中々に厳しいぞ?」

「頼もしいかぎりです」



 踵を返し歩き始める両名の背には、宇宙空間を挟んでいても幻聴として鼓膜を震わせる程の光景……ドカン、バキンと、冗談じみた擬音が乱舞していた。

 間違いなく大災害。下手をすれば、地球滅亡の危機。

 だというのに、どういう訳か。まぁ大丈夫か、と思い浮かべた両名の歩みは軽い。

 過程はどうあれ、勝手に良い感じの落とし所へと落ちていくあれの事だ。悪いようにはなるまい、と。そう思えてならないのだ。何の事はない、単なる経験則によって。



「……まったく。うちの旦那様は、ホントにもう」



 立ち止まり、最後に一度振り返る。

 案の定、完全に粉砕されてしまった大陸に溜め息をこぼし、口元に緩い笑みを浮かべながら、『知~らない』と内心で呟き、それら大惨事を視線と共に思考から切り離し、その歩みを再開した。

 皮肉な事に、あれが騒動に巻き込まれれば巻き込まれる程、あれの背後に居る事になってしまった諏訪子への信仰が増えていくのだから、当人はそれを褒めれば良いのか咎めれば良いのか悩むところであった。

 圧倒的な力による畏怖と、それによって捻じ伏せられた不条理から生じる憎悪と。あれが救ったであろう、ほんの少しの笑顔によって。

 尤も、過去に自分を下した神奈子が相対的に力を得てしまっているのは、諏訪子にとってみれば思わぬ誤算ではあったけれど。

 九十九は強い。それが使えている神(自分)はもっと強い。ならその神に打ち勝った神(神奈子)は更に強いだろう、といった具合に。





 さて。今度はあれの口から、どんな物語が聞けるのだろう。

 場合によっては、また自ら出張る必要もあるだろうと思いながら、小さな神様は月の都市へと向かうのだった。




















 一方。その頃。



「―――もう! いい加減、大人しくして頂戴っ!」

「いやです! そうしたが最後、また魔界に逆戻りじゃないですか!」

「えっ? 当たり前じゃない。そうしたくてやってるんだから」

「キョトン顔して、何しれっと言っちゃってくれてんですか! だーかーらーっ! 俺はお使いの途中なんです! アイアムジャパニーズ代表! クベさんに会って、インドラ様とか交えながら、極力宗教対立を起こさないようにしましょうね、ってお話しなきゃいけないんですから!」

「? それをやられると私達が困るから、こうしてるんじゃない。魔族的な意味で」

「……あ」

「ツクちゃんって、そういうところがホント抜け抜けよねー。頭が緩いってよく言われない?」

「ぐはっ!」

「でも大丈夫! こっちに来ればそれも長所だから! そしたら魔界神の権限で、ツクちゃんに相応しい立場を……七つの大罪にもう一つ役職を加えてみるのも吝かじゃないわ!」

「あれって職業だったのか……。嫉妬とか暴食とかでしたっけ? ……ちなみに、どんなのを?」

「馬鹿」

「ぜってーいかねぇーーー!!」

「えっー! なんでなんでー!」



 話の内容だけを見てみれば、どこにでもありそうな、ただの戯れ。

 けれど、その周辺の悲惨さと、現在進行中な現状の苛烈さは、言葉とは裏腹もいいところであった。

 男がとある場所より逃げた先。そこにあった大陸は、今やその面積の半分以上を海面へと没せしめていたのだから。

 そんな原因をつくった要因の片方である、天を覆い隠す黒い巨人の攻撃を、往なし、交わし、逸らし、防ぎ。時に押し返すかの者は、三対六翼、紅染めの法衣を纏う、白銀髪の女。赤々と脈動する漆黒の羽をはためかせ、その体躯からは考え付かない豪の力を振るう者。

 神綺(シンキ)。

 前後はない。それが、この黒い巨人と互角に渡り合う、人外の超越種の名前である。



「なんでもいいから……」



 力を、溜めて。



「戻って、来なさーい!!」



 その六翼から放たれる、六筋の閃光。真っ直ぐに【B.F.M】の頭上にいる弱点―――九十九へと襲い掛かる。

 まともに受ければ人間の軍隊の1つや2つは消し飛ぶであろう威力を持つそれであったのだが、それは黒い巨人にとってみれば、攻撃の域にすら届かぬ、ただの輝き。その巨体からは信じられぬ程の俊敏さで、日の光を遮る程度の仕草が成され、意図も容易く防がれてしまう。

 けれど、その余波までは完全に消し去る事は叶わなかった。

 大地を赤い海と化す熱量が空間を埋め尽くし、大気に舞っていた土埃を発火させ、瞬間的に空を紅に染め上げた。

 本来ならば、土が燃える事など在り得ない。放たれた光線の威力がどれほどのものかが窺える。

 ともすれば見惚れてしまうような光景ではあるのだが、それが通り過ぎた箇所は文字通りの灼熱地獄へと変貌させられるだけの力を持っていた。

 しかし、その熱量も一瞬にして四散してしまう。

 小指一本で大型輸送タンカーや超高層ビルに比肩する巨漢の生物が、機敏に動く。それの一挙手一投足は、もはや本人の意思とは無関係の攻撃―――天災の域だ。

 腕を動かした事によって発生した大気の流動は、嵐。周囲に留まる筈であった灼熱を、あっという間に方々へと散らし、かなりの熱量が低下した。



「あっぶねッ! いくら今が破壊不可っつっても、怖いもんは怖いんですよ!?」

「えー? だってツクちゃん、その程度なら全然効果ないでしょ? 外からはもちろん、内からも。『何でも食べられる能力』だったかしら? それの恩恵で、口から取り入れるもので有害なのは全部が無力化されちゃっているじゃない。普通の生き物だったら今ので内臓が火傷しちゃって、それはもう悲惨な事になってる筈なんだから」



 その台詞に何かを思い出した神綺は、ふつふつと腹の奥底より込み上がって来る不満を言葉へと変換する。



「……そのせいで魔界の瘴気とか睡眠薬とか媚薬とかまったく効果なかったんだから! 死体でさえ跳ね起きて三日三晩はっちゃける秘伝の薬まで仕込んだのに、『おぉ、あっという間に体がポカポカして来ます! 凄い料理ですね!』とか言われた夢子ちゃんの気持ち、分かる!? 魔界でも最強クラスの魔人メイドのプライドが粉々になったの! 『お暇を……』とか言い出したあの子慰めるの大変だったんだからね!」

「分からんわ! というか、分かりたくもないわ! ってか、いつのまに一服盛られてたんだコンチクショウめ!」

「え、うちに来てからずっとだけど? ……分からないって、それは、知能が足りない的な意味で? やっぱり大罪に一つ追加するなら、馬鹿しかないんじゃないかなーって思うんだけれど」

「全部ひっくるめて一言で感想言ってやる! ―――あんたマジ最悪です!」



 ―――後はただ、荒れ狂う天候が在るばかり。

 当然ながら、その地が後の世に残る事はなかった。





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