チラシの裏SS投稿掲示板




No.26037の一覧
[0] 【ネタ】トリップしてデュエルして(遊戯王シリーズ)[イメージ](2011/11/13 21:23)
[1] リメンバーわくわくさん編[イメージ](2014/09/29 00:35)
[2] デュエルを一本書こうと思ったらいつの間にか二本書いていた。な…なにを(ry[イメージ](2011/11/13 21:24)
[3] 太陽神「俺は太陽の破片 真っ赤に燃えるマグマ 永遠のために君のために生まれ変わる~」 生まれ変わった結果がヲーである[イメージ](2011/03/28 21:40)
[4] 主人公がデュエルしない件について[イメージ](2012/02/21 21:35)
[5] 交差する絆[イメージ](2011/04/20 13:41)
[6] ワシの波動竜騎士は百八式まであるぞ[イメージ](2011/05/04 23:22)
[7] らぶ&くらいしす! キミのことを想うとはーとがばーすと![イメージ](2014/09/30 20:53)
[8] 復活! 万丈目ライダー!![イメージ](2011/11/13 21:41)
[9] 古代の機械心[イメージ](2011/05/26 14:22)
[10] セイヴァードラゴンがシンクロチューナーになると思っていた時期が私にもありました[イメージ](2011/06/26 14:51)
[12] 主人公のキャラの迷走っぷりがアクセルシンクロ[イメージ](2011/08/10 23:55)
[13] スーパー墓地からのトラップ!? タイム[イメージ](2011/11/13 21:12)
[14] 恐れぬほど強く[イメージ](2012/02/26 01:04)
[15] 風が吹く刻[イメージ](2012/07/19 04:20)
[16] 追う者、追われる者―追い越し、その先へ―[イメージ](2014/09/28 19:47)
[17] この回を書き始めたのは一体いつだったか・・・[イメージ](2014/09/28 19:49)
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[26037] 古代の機械心
Name: イメージ◆294db6ee ID:a8e1d118 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/26 14:22
「……では、彼に対する試験は延期、と?」

『フン――――奴らの介入がその程度で避けられるのであれば、安いものだ……』



電灯の明かりを消した暗い部屋の中、パソコンを通じた会話。

この機械の箱を通じた向こう側に存在する男の掠れた声には、微かな怒りが交えられていた。

それを察しているからか、こちら側で相手をしている男は緊張で身体を固くしている。

だが、それでも訊かねばならない事があるのか。

こちら側の男は、箱の中の男に対し、疑問を投げかけた。



「ですが、あの試験を与えずに三幻魔をかけた闇のデュエルに参加させる事は……」

『構わん。奴らが指名したのは、あの経歴が知れぬ200番の男だ。

 もし、遊城十代や万丈目準が挑み、また闇のデュエルで敗北したとしても構わぬ。

 その程度で負けるようであれば、そこまでのデュエリストだったと言う事だ。

 もしもの時はアークティックのヨハン・アンデルセンという、より期待できる保険もある』



こちら側の男は、今挙げられた三人のデュエリストの共通項を思う。

それは、デュエルモンスターズ世界の住人。つまり、デュエルの精霊との交信能力。

箱の向こう側の男にとっては、自らが思い描く計画に必須の能力者。

しかし、周到に積み込んだ計画の中で確かな経験をさせ、育て上げてから使う筈だった。

だと言うのに、彼はその計画を崩すと言う。



「彼は逸材です……可能であれば、そのような事は」

『逸材であればこそ、その窮地でより磨かれる。

 どうせ二人を除いてただの数合わせに過ぎないのだ。一人二人、魂を砕かれた方が奴らの心も決まるだろう』



その砕かれる者にはさして興味がないように、向こう側の彼は言う。

言葉を少し詰まらせて、しかしこちら側の男は平静を装った。



「……………では、近いうちに?」

『ああ……先鋒は最も純粋な闇に近い、奴にやらせよう。

 より確実に相手を仕留めるのであれば、奴の方がよかろう……

 タイミングはおって知らせる。奴を闇のデュエルに誘導しろ、大―――いや、アムナエル』

「はっ………」



通信が切れる。

そのまま数秒、モニターの前で留まっていた男は、ゆっくりとモニターの電源を落とした。

窓を隠していたカーテンを開け放ち、月光をその身に浴びる。

思い描くのは今下された指令を実行するためのプラン。そして、僅かな苦悩。











『いやぁ、回想編は強敵でしたね』

「そうだな。もう、何だっていい! このSSにトドメを刺すチャンスだ! って感じだった」



やっとこさ里帰りの旅から帰ってきた俺。

のんびりと久しぶりのレッド寮を満喫する。

ジェネレーションフォースやらエクシーズ始動やらを愉しんでいたからしょうがないね。

イスペイル様とヴェリニーはいい悪役だった。



戻ってきてそうそう、今日はノース校との対校デュエルがあるらしい。

つまりはサンダーだ。

三沢と十代がどっちが出場するかでデュエルしたらしいが、俺は自分のごたごたで唸っていたので見逃したようだ。

いやぁ、まあいいんだけどさ。



くじらに見えなくもない潜水艦がデュエルアカデミアの港に到着している。

その中から出て来たのは、黄色い防寒ジャケットを着た頭の禿げ上がったオッサンだった。

見事に頭の天辺が禿げ上がっている。つまり、ハゲだ。



「おお、よくいらしたな。一之瀬校長」

「暫しうちの悪童らがお世話をかけますが、よろしくお願いしますよ」

「いや、私たちの方こそ」



出迎えに港に集合した俺たちの前で、にこやかに握手を交わす二人。

その根底にあるのが、トメさんのキスを求める男の本能だとは汚い大人汚い。俺も大概だけどな。



「ところで、トメさんはお元気ですかな」

「勿論。トメさんはこの対校試合にはかかせない人ですから」



考えた傍からこれである。

大体意味の分かっていない周囲の人々の中、俺は一人溜め息を吐く。

そして、渦巻く男の欲望の渦中に首を突っ込む奴が一人。



「校長先生! 挨拶はその辺にしてさ、早くオレの相手紹介してよ!」



二人の校長が腹の中で何を思っていようとも、そこは傍から見れば立派な交友。

いきなり首を突っ込み、順序を飛ばそうとする十代はどう考えても礼儀に欠いているだろう。

それを見咎める校長が、やや声を怒らせる。



「これ、十代くん。行儀が悪いぞ」

「でも、オレ早く対戦相手に会いたくってさぁ……」

「そうか。キミが噂の十代くんか」

「よっろしく! オッサンがノース校の校長先生?」



礼も儀も欠片も感じられない様子に、流石にノース校校長の笑いは渇いている。

その十代の目に余る状態に、我らが校長も頭を抱えた。

横でクロノス教諭が大分苦々しい顔をしているのも、仕方ない事だろう。

しかし十代はその態度を改める事なく、相手方の校長をせかす。



「で、誰なのさ! オレと闘う相手は!」

「それはだな……」

「オレだ」

「っ、誰だ!?」



ノース校校長の背後、潜水艦の上から声がかかる。

そちらへと視線を向けた十代の眼に映ったのは、見覚えのある顔である。

即ち、かつてのオベリスクブルー。万丈目準。

その万丈目は問い返してきた十代に対し、静かにもう一度、同じ言葉を繰り返す。



「オレだ」

「あぁっ!? お前は……万丈目! 万丈目じゃないか!?」

「万丈目さんだ」

「で、オレの対戦相手は誰だって?」



そこに万丈目が立っている事を認識しても、十代は未だ“対戦相手が万丈目”である事に気付かない。

あそこまで堂々と名乗っているのだから、普通は分かると思うのだが。

半ば勘違い系のコント染みているやり取りだ。



「目の前にいる」

「え? どこだ?」

「オレだ!」

「誰だぁ?」

「だからオレだぁッ!」

「え、オレって……それじゃあもしかしてオレのデュエルの相手って……万丈目かぁ!?」

「万丈目さんだ!」

「「サンダーッ!!」」



二人の男が万丈目の前に出て、何故かサンダーコールする。

一体何なんだ、このコントは。

その上、他の取り巻きの男たちも十代の態度にどんどん顔を怒らせていく。

中でも一際大きな身体の男が一歩前に出て、その口を開く。



「1年! さっきから聞いていればサンダーさんの事を呼び捨てにしくさって……!」

「いっちょシメてやろうかッ!?」

「放っておけ」



何やらあの中でカリスマ的存在の地位を確立しているサンダー。

やばいよな、これ。もう万丈目さんではなくサンダーさんな辺りがやばい。

主に俺の腹筋とかが。

噴き出しそうになるのを咳払いで回避しながら、その様子を見ていると、突然の突風が吹き荒れた。



行き成り襲ってきた風に驚きつつも、発生源を探して上を見上げる。

当然、あっさりと見つかった。
バババババ、とプロペラのローター音を轟かせながら飛行する、数代のヘリコプター………

ヘリコプター? あれ、数秒前に突然の突風と轟音が襲って来たのだが。

ワープしてきたのか? プロペラの音が直前まで全く聞こえなかったぞ?



「あのマークは、万丈目グループの!」



博識な三沢が、そのヘリの腹に描かれた万のマークを見て、そう怒鳴る。

丸の中に万ってどっからどう見ても百貨店と言うか万屋以外の何物でもないと思うんだが。

もっといいマークはなかったのだろうか。



「そうだぁ! 久しぶりだなぁ準!!」

「元気でやっているのかぁッ!?」



ヘリの上から二人の男性が扉を開き、声を張り上げ始めた。

ちょっと理解できないです。

まあ、見紛おう筈もないだろう。この頭の中身の出来具合といい、センスといい、流石万丈目一族。



「長作兄さん! 正司兄さん! 何しに来たんだ……!」

「勿論、お前の勝利を祝福するためにさ!」

「あまり心配をかけるなよ、準!!」



ヘリがそのまま着陸し、そこから降りる二人の男たち。

周囲にはカメラやマイクなど、TV関係の人間や機材が一気に展開されていく。

その事に驚き、色々十代が騒いでいるのも少し気になったが、それ以上に気になる事。



万丈目は自分のデッキを見て、何か沈痛な面持ちをしている。

まあ、このデュエルでは色々あるし、そんな事もあるだろう。

そう思っていたのだが。

俺はほぼ常時、Xとの通信用にデュエルディスクを装着している。

そのディスクが、ぴー、と音をたてた。



「………?」

『マスター。万丈目準のデッキに、私たちが転移する際に落としてしまったカードの反応があります』



衆目の中だからか、その声は抑え気味だった。

それよりも万丈目が俺のカードを持っている……?

俺が失くしていて、かつ万丈目と関係深いカードなど1枚、光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴンくらいか。

それが万丈目の流れ着いたノース校に落ちていて、それを拾った、と。



「気になるな」

『はい』



TV中継の準備をデュエルスタジアムで整えるまで、一時的に解散となる。

準備が終わるまでは万丈目グループの提供する万丈目準特集をやるとか何とか。見たいな、おい。

しかし、俺にはTVを見ている暇はないだろう。



『録画しときます?』

「任せた」



今度5D’sの方でロード・オブ・ザ・キングも買っときたい。

まあ、俺が行った事のある時代ではまだ出てないけど。

翔や隼人や明日香、それに三沢が十代の方に向かっていくのを見つつ、俺はどうしたものかと少し悩む。



そう言えば………











「ダメだっ! ダメだッ!! ダメだぁッ……!!! くっそぉ………!

 勝て、勝て、勝て! オレは兄弟の落ちこぼれなんかである筈がない……! 勝って勝って、勝ち続けるんだ……!

 勝つんだ、明日も明後日も……!! その次も、その次の次も……!

 くぅ……勝って勝って、勝ち抜くんだ………!!!

 く、あ、誰もオレの背負っているものの重さなんて分かりはしない……勝てと言うだけだ、いつも、勝てと……!」



会場から少し離れたトイレの中で隠れて30分。

当てが外れたか、と思ったところで万丈目はトイレにやってきた。

使用者が多くなるだろう会場近くのトイレは使うまい、と思って陣取ったのは万丈目の控室から会場と正反対に位置するトイレ。

ここでビンゴだったらしい。



俺が声をかけたところで、何が出来るわけでもない。

万丈目の言った通り、俺には万丈目の背負ったモノの重さは分からないのだから。

デュエルディスクに眼を向けると、ディスクに差しこみ、俺の耳にはめたイヤホンから声がする。



『―――――この旧型ディスクにはモーメントエンジンがあるわけではないので、正確な事はさっぱり……

 ですが、距離があっても私の本体のエンジンが感応する程度には強力なカードの筈です』



つまるところ、何も分からないと。

ならば直接訊くしかないが、とりあえず今の状況では無理だろう。

とりあえず、このデュエルが終わってから……



「………ッ! 何が、オレらしいデュエルだ!! オレは勝つ! ただそれだけを求められて、オレもまた求めてきた!!」



急に万丈目の語調が変わる。さっきまでの独白とは違い、会話のように取れる。

おじゃまイエローか?



「キサマのような雑魚モンスターに、オレの何が……!

 なに? ―――――くっ、ふざけるな! キサマらなど、元よりオレには必要のないモンスター!!

 オレの前から消えろ!!!」



そう言って恐らく万丈目が走り去る足音だろう、床を勢いよく駆け抜ける音が響いた。

それから数秒、周囲に動きがない事を確認してから、トイレを出る。

すると眼に留まったのは、ゴミ箱の中に入れられている2枚のカード。

おじゃまイエローと、光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴンだった。

それを拾い上げ、ディスクのイヤホンを引っこ抜いて問う。



「声、聞こえるか?」

『はい。“あにきのばかぁん”とかなんとか。“あんた誰よぅ”だそうです』

「俺は、そう。通りすがりの仮面光と闇ライダーだ」

『“あんた、このドラゴンの旦那の元の持ち主なのん?”』



む、と言葉を詰まらせる。そう訊くと言う事は、おじゃまイエローは会話ができている。

そして、こいつは間違いなく俺のカード。

だけど、多分万丈目が怒鳴ってここを出て行った原因は………



「ああ、大体分かった」

『“こっちは分からない事ばっかりよぅ……

 あにきったら、ドラゴンの旦那がもっと自分らしくやればいい、って言ったって言ったら出て行っちゃうし……”』

「そ……っか。なら、そうか。―――お前……らは、俺が万丈目に渡してやるよ」



ちょっとだけ名残惜しくて光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴンを見る。

口の中で、少しだけ口惜しいなぁ、と呟く。



『………マスター』

「いいんだよ、いいマスターに会えたんだろ? こいつは。

 お前が俺に、会えたみたいにさ」

『自信たっぷりにいいますね。でも少し違いますよ、マスターはもっといいマスターです。

 このモンスターには見る目がないんです。

 ……彼はマスターが嫌いなわけじゃないし、むしろ大好きなのも事実です。

 でも、モンスターにだって、一発でころっとなってしまう一目惚れがあるんですよ。ずっと、一緒にいたいと思うほどに』

「おお、そいつは……是非美少女モンスターに一目惚れされたいな。具体的には学園祭でブラックマジシャンガールに」

『浮気者』



笑いながら、デュエルスタジアムに向かう。

少し悔しかったが、万丈目サンダーならば、こいつの事を大事にしてくれるだろう。

きっと、ずっと俺より巧く使いこなしてくれるに違いない。

最後に頑張れと、カードに声をかけて先を急ぐ。

もうデュエルは始まってしまっているだろうか………











「どのみち次のターンが、オレの最後のドローだ。

 でもできればさ、もっと本気の万丈目……サンダーと闘いたかったぜ」

「オレが……本気じゃないだと!?」

「ああ! なんかお前は目の前のオレを見てないで、違う敵と戦っているようだったぜ……」



そう言って十代は、観客席に座する二人の男を見る。

万丈目兄弟の長兄、そして次兄。万丈目がこのデュエルを通じて、立ち向かっていた敵。

言葉を詰まらせる万丈目に向けて、十代は笑った。



「今度はもっと、楽しみながらデュエルしようぜ」

「デュエルを楽しみながら……」

「だって、デュエルをするのって無茶苦茶楽しいだろ?」



誰よりもそれを体現するデュエリストはそう言って、微笑む。

そう感じている事を近くで見て来た多くの人間たちはその十代の言葉に納得し、自らも微笑む。

デュエルというのは、自らを頂点に立たせるための過程の一部。

それだけでしかなかった筈だが、今の言葉はすとん、と万丈目の胸の中に落ちた。



「デュエルが、楽しい……か」

「そう! デュエルはわくわくする! 特に信じている仲間がそれに応えてくれた時はね!

 オレのターン、ドローッ!!!」



引き抜いたカードを確認し、十代の顔が勝利を確信した笑みに変わる。

ディスクの中に差し込まれるカード。



魔法マジックカード、戦士の生還を発動!

 墓地に存在する戦士族を一体選択し、手札に戻す。オレが手札に戻すのは、E・HEROエレメンタルヒーロー フェザーマン!!

 そして、フェザーマンとバーストレディを手札融合!!!」



十代の前に、緑色の体毛に覆われた翼を持つ戦士と、金冠を被った赤い女戦士が現れる。

その二人の戦士は時空の歪みに呑まれ、身体を新たなるものへと造り変えられていく。

右の肩口から先は赤く、拳ではなく赤竜の顎であり、背の左側からは白い翼を生やした緑色の肉体の戦士の姿。

臀部から伸びた竜尾を一振りし、その戦士は十代の前に降臨した。



「出でよ、E・HEROエレメンタルヒーロー フレイム・ウィングマンッ!!!」



十代のフェイバリット。そして、エースモンスター。

その相手を前にした万丈目は微かに声を詰まらせ、だがそれでも状況は変わらない事を口に出す。



「だがな、そんな奴を呼び出してどうする!

 オレのアームド・ドラゴン LV7の攻撃力は2800! 倒す事は出来んッ!!」



その名の通り、鎧に包まれた巨龍が十代の前に立ちはだかる。

鎧の合間から覗くのは血色の肉体。それを全て、鈍く輝く鎧の中に閉じ込めて成長した龍。

胸から股にかけ刃物を埋め込み、鋭い刃を重ね合わせ翼を見立て、全身から螺旋衝角を生やしたその姿。

半ば鎧と肉が融合した姿は正しく鎧龍アームド・ドラゴン

その戦闘力は生半可なモンスターでは太刀打ちできぬもの。



「いぃや、既にオレの必殺のコンボは完成しているぜ!

 行くぜ! トラップ発動、ミラクル・キッズ!!

 このカードは、墓地のヒーロー・キッズ一体につき、相手モンスターの攻撃力を400ポイント下げるのさ。

 よって、アームド・ドラゴン LV7の攻撃力は、1200ポイントダウン!」

「なんだとっ!?」



十代がデュエルディスクを翳すと、そのセメタリーゾーンから三つの光が飛び出した。

このデュエル中に墓地に送られたヒーロー・キッズは三体。

アームド・ドラゴンのモンスター破壊効果によって、纏めて破壊されていたのだ。

その光はアームド・ドラゴン LV7の周囲を取り囲むように配置された。



光のカタチが変わっていき、その光は子供戦士の姿を取る。

三人の子供戦士に囲まれたアームド・ドラゴンが鎧を軋らせながら首を振り、何をするかと身構えた。

子供戦士たちが行ったのは、掌を前に翳す事でエネルギー波を放つ事。

一つ一つは微力でも、三体全ての力を結集する事で、その力は戦うHEROの救いとなる。



三つのエネルギー波が形作る結界の中に囚われた龍の攻撃力が、1600まで減じる。

そしてそれは、十代の場に存在するエースを下回った事を意味するのだ。

攻撃力の差は500。よって、受ける戦闘ダメージも500となる。

ライフポイントを2100残す万丈目のライフは、1600ポイント残る。



「行くぞッ、万丈目サンダーッ!! フレイム・ウィングマンでアームド・ドラゴン LV7を攻撃!!

 フレイム・シュゥウウウウウトォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」



フレイム・ウィングマンが飛翔する。

右腕の顎に蓄えられた炎の渦が、鎧龍に向かって余す事なく解き放たれた。

結界に縛られたままの鎧龍にはそれを躱す手段など残されていなかった。

爆炎の渦に取り込まれた龍の鎧が徐々に熔解していく。

シャープに研ぎ澄まされた、攻撃性の高さを表すかのような鎧は拉げ、崩れていく。



断末魔を響かせて、金属と肉体の融合した身体を焼かれた龍は崩れ落ちた。

万丈目の後方に控えていた巨龍がくずおれたと言う事は、その下にいる万丈目がどうなるか。



「う、うわぁああああああああああああああッ!?」



龍の死骸が万丈目の頭上目掛けて落下して、その身体を圧し潰す。

フレイム・ウィングマンは戦闘で相手モンスターを破壊した時、その攻撃力分のダメージを与えるモンスター。

つまり、戦闘破壊されたアームド・ドラゴンの元々の攻撃力2800のダメージが、万丈目を襲う。

ぴぴぴぴぴっぴー、と万丈目の腕に取り付けられたディスクのライフカウンターが、0ポイントを告げる。



ノース校生徒の悲鳴が、本校生徒の歓声が、スタジアムを塗り潰した。

いつも通りガッチャ、と屈する万丈目に指を向ける十代の前で、万丈目の兄らがスタジアムに降りてきていた。

その事情をおぼろげながらに察知している十代の顔が厳しくなる。



万丈目家の長兄、長作が跪く万丈目に向かい、怒りも露わに言葉をぶつける。



「準! キサマ何をやっているんだ! 自分のやった事が分かっているのか!?」

「万丈目一族に泥を塗りおって!!」



次兄、正司も兄の言葉に続けて、敗北した万丈目に侮蔑の言葉を吐いた。

敗北した以上、万丈目はその怒りを受け止めるしかなかったのだろう。

言葉を震わせながら、それでも。



「すまない……兄さんたち」

「キサマ! 俺たちの与えたカードはどうした!!」

「何故使わない!? そうすればもっと強いデッキができた筈だ!!」



万丈目は兄らから、試合前に金に物を言わせ手に入れて来たカードを渡されてきた。

それは値段に見合うだけの性能を持ったカードたち。

単純に強力なモンスターたちを使えば、もしかしたら万丈目は勝てたのかもしれない。

だが、そんなカードでデッキを組んだところで、万丈目準は何一つ納得が出来なかっただろう。



ノース校で死に物狂いで集めたカード、そして一之瀬から託されたカードで作ったデッキ。

それらのうち、二枚ほどデュエル前に頭に血を上らせ、捨ててしまったが。

だが、自分の力で勝ち取った、既に愛着と呼ぶに相応しい、心の信を置き頼みにしたカードたちではなく、万丈目グループの。

兄たちの力で手に入れたカードなど、使う気にはなれなかったのだ。



「オレは……自分のデッキで勝ちたかったんだ……!」

「こぉのッ……バカ弟がァッ!!!」

「だからキサマは落ちこぼれだと言うのだ!!!」



いつの間にか、会場の中の悲鳴も歓声も消えていた。

その光景を見て、勝敗で歓ぼうなどと、悲しもうなどとする人間など誰もいなかった。

皆が見ているのは、健闘を讃えるべき筈の肉親から落ちこぼれと呼ばれ、非難されている少年の姿。

やがて、それを見ていた人間たちの顔に、怒りのようなものが少しずつ沸いてくる。



皮切りになるのは十代の声だった。



「やめろ、あんたたち!! いい加減にしろよ、万丈目は一生懸命に戦ったんだ!!!」



その声に弟を非難する事を中断した二人の男は、十代。

そして集った翔、隼人、明日香、三沢、カイザーたちの方へと視線を向ける。



「他人が我ら兄弟の事に口出しするのか?」

「兄弟ならなおさらそんな態度はないだろう!

 オレも万丈目……サンダーも、出来る事の全てを出し切ってデュエルしたんだ!」

「我々は途中経過などに興味はない。結果を問題にしているのだ!」



このデュエルの仕切りとしてデュエルフィールドの傍にいたクロノス教諭が、その言葉を聞いて肯く。



「そうネそうネ、結果は大事なノーネ。でもなんか癪に障るノーネ……」

「我々兄弟にとって、重要なのは結果だ。結果こそ全て! 勝利こそ全てなのだ!!!

 大体、このデュエルのためにどれだけの金を注ぎ込んだと思っているのだ!?」

「こいつは、オレたちの顔に泥を塗ったのだッ!!!」

「だけど……あんたたちには勝った……!

 サンダーはデュエルだけでなく、あんたたちが与えたくだらないプレッシャーと必死に戦ったんだッ!!

 苦しみながらも、サンダーはあんたたちを乗り越えたんだッ!!!」



元々自分の教え子だった万丈目の、その一つの敗北と一つの勝利に、クロノスは涙した。

No.1の座を保持する事だけに執心していたのは、けしてプライドからくるものだけではなかった。

周りをそれが強要していたのだ。

一番以外に意味はなく、一番でないのならばその存在にすら意味がない。いや、むしろマイナスでしかないと。

そう言われ続けて戦って、一番を勝ち取り続けた万丈目の苦心は如何程だったのか。



「そうなノーネ、その通ーリ、かきごおーリ!」

「デュエルの意味は、勝つ事だけじゃない。もっと大事な事を教わる事なんだ!」

「黙れ、十代……!」



十代の声に初めて反応したサンダーが、俯きながら、震えながらも声を出す。



「万丈目……」

「これ以上、オレを……惨めにさせないでくれ……」



戦い抜いたサンダーは、しかしその結果を受け入れた。

誰に認められずとも、誰に誇れずとも、ずっとずっと戦い抜いてきた精神力。

敗北すればそれは下の下だと、どれだけの健闘を貶められようと、サンダーは戦ってきた。

それは今までも、そしてこれからも変わらない。



「準……!」

「兄さんたち、帰ってくれ……!」

「「「「「そうだぁああああッ!!!!!」」」」」

「「「「「帰れ帰れぇえええッ!!!!!」」」」」

「「「「「万丈目サンダァー!!!!! よくやったぞぉおおおおお!!!!!」」」」」

「「「「「万丈目サンダァーッ!!!!! 万丈目サンダァー!!!!!」」」」」

「「「「「万丈目サンダァーッ!!!!! 万丈目サンダァー!!!!!」」」」」

「「「「「万丈目サンダァーッ!!!!! 万丈目サンダァー!!!!!」」」」」

「「「「「サンダァー! サンダァー!! サンダァー!!! サンダァー!!!! サンダァー!!!!!」」」」」

「「「「「サンダァー! サンダァー!! サンダァー!!! サンダァー!!!! サンダァー!!!!!」」」」」

「「「「「サンダァー! サンダァー!! サンダァー!!! サンダァー!!!! サンダァー!!!!!」」」」」

「「「「「サンダァー! サンダァー!! サンダァー!!! サンダァー!!!! サンダァー!!!!!」」」」」



観客席から、怒号が上がる。

今まで見せられてきた光景の中で堪った鬱憤が、二人の男に向けて吐き出されたのだ。

その光景を見た二人は、微かに後退り、撤退を余儀なくさせられた。



「っえぇいッ、見損なったぞ準! 行くぞ正司!」



そう、捨て台詞を残して二人の男は去っていき、またTV局の人員や機材もあっという間に引き上げられた。

誰もが健闘を称賛するその中で、万丈目サンダーはしかし苦い顔を崩さなかった。

そんなサンダーに近づいて、2枚のカードを差し出す。



「サンダー……」

「誰だ、キサマは……」



そういえば初対面だった。

自分から訊いておいて、サンダーは矢張り興味なさげにしている。

しかし、俺が持ってる2枚のカードを眼にした途端、顔色が変わった。



「お前、そのカードは……」

「あんたのカード、だろ?」



差しだすと、サンダーは少し逡巡してから、しかし受け取ってくれた。

茫然とそのカードを眺めるサンダーの様子に、十代が気付いて声をかける。



「あれ? サンダー、そのカード……もしかして!」

「あ、や……こ、こら引っ込め雑魚モンスターッ……!」



その場でダンスを始めるサンダー。

どうやら、おじゃまイエローと追いかけっこをしているらしい。

十代以外には何が何だか、という様子だろう。

が、だがしかし、それを空元気のダンスだとでも思ったのか、合わせて踊り始めるノース校、そして本校。

なんとも、修羅場と言うか混沌の坩堝とでも言おうか、凄まじい事になりつつあるスタジアム。



勿論、俺はダンスは苦手なので却下。だからと言って、スケートが得意なわけでもない。

ステップ・ジョニー呼んでこい。

最初に噴き出したのは十代で、そこから続く笑いの連鎖。

けしていい形ではなかったけれど、対校デュエルはこうして幕を閉じた。











「もう帰っちゃうんすね」

「またデュエルやろうぜ、元気でな。万丈目」



アカデミアの港で、ノース校の潜水艦の前でサンダーを出立を見送るために集う生徒たち。

その中で、十代と翔が万丈目に別れの挨拶を送っている。

だが、サンダーはその言葉に肯く事はしなかった。



「いや、オレはノース校には帰らん」

「「「「「えぇえええええええっ!?」」」」」



その言葉で驚くのはノース校の生徒たちである。

元キングを代表として、甲板に集まっていた皆がその言葉に驚愕した。



「オレはここでやり残した事がある」

「やり残した事って……」

「江戸川、キングの座はお前に返すぜ」

「か、返すって言われても……サンダー!」



それもまた、彼のカリスマの賜物か。

その光景を見て、やっぱり兄弟の中で誰よりも人心を掴むのに長けているじゃん、と少し笑う。

ほんの僅かな間でしかなかったのに、彼らは親との今生の別れを前にした子供のように動揺していた。



「校長、そういう事だ。また厄介になる」

「勿論。万丈目くんは、元々ここの生徒ですからな」

「だがそうなると、我が校に伝わる……」

『ではでーは! 出航の時間もありますノーデ、これより表彰式を始めたいと思いますノーネ!

 そして、ご褒美を渡すノーハァ、ミス・デュエルアカデミーアッ!!』



港に建造された、デュエルアカデミア友好試合用の壇上でクロノス教諭がマイクを使って声を張り上げた。

その中に聞き慣れない単語を聞きとめた十代たちは振り返り、首を傾げる。



「ミス・デュエルアカデミアだって?」

「そんな人がいたんすか?」



ステージ上に作られた奈落から、一人の女性が競り上がってくる。

暖色のチャイナドレスを纏った、少々太目の女性。

いや、もう言うまでもないけど。まあ、トメさんだった。

厚く塗られた口紅が強調されて、とても、その、何と言うかいつもより、その、変わっておられます。



「メイクアップモンスターだ…!」

アームド・ドラゴンレベルアップとかけても巧くはない」

『では勝者の校長はこちらーに』



羽でも生えたかのような軽い足取りで、校長はトメさんの横まで躍り出る。

すると、トメさんの唇が吸い込まれるように校長の頬に押し当てられて、むちゅーっと。

茫然自失とその光景を見守る生徒諸君。



「オレたち、こんな事のために闘ってたのかよ……!?」

「うぐぉおおおおおおおおおおおおおっ!?」



二年連続で負け、トメさんの唇を逃したノースの校長が涙溢れる瞳を腕で隠し、万丈目の肩を強く掴む。

突然の事に驚愕を顔に張り付けた万丈目に対して、校長は逃げるように別れの言葉を渡していく。



「万丈目くん! 強くなれよ、来年こそもっと強くなれよッ!!

 おあぁああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」



逃げ去る校長の背中を見送り、万丈目はただ茫然とするばかりである。

タイミングが最悪だったがために、あの校長はアームド・ドラゴンを返してもらい忘れる、と。

校長が乗り込んですぐ、出航する潜水艦。

その甲板にはノース校の生徒たちが集合し、サンダーとの別れを惜しむサンダーコールをずっと叫び続けていた。



「し、しまった……アームド・ドラゴン返してって言うの忘れた……

 う、うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

「こ、校長が泣いておられる……! うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

「男泣きだなぁ!」

「「「「「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!! 万丈目サンダァアアアアアアアアアアッ!!!!!」」」」」

「「「「「さようならぁああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」」」」」



延々と、こちらから姿が見えなくなる水平線の彼方まで、その雄叫びは続いた。

なんだろうな、ここまでくるともう宗教団体みたいなもんじゃないのか、これは。

まあ、人徳が生んだんだからそれもまた、サンダーの魅力と言う事だろう。



「これでよかったのかね?」

「勿論」

「だが……」



少しばかりすっきりした様子のサンダーに、どこか言い辛そうな校長。

しかし言わねばならぬ事、と。

大徳寺先生が前に歩み出て、万丈目サンダーにその言葉を通知する。



「ここに残っても、万丈目サンダーは3カ月もの欠席で、オベリスクブルーでは進級出来ないのにゃー」

「うぇえっ!?」

「もしも進級したければ、出席日数の関係ないオシリスレッドに入るしかないのにゃ」



オシリスレッドは出席日数に関わらず進級できる。

その上、オシリスレッドはそもそも成績が下の生徒たちの集まり。

つまり、テストの成績が芳しくなくとも一応進級は出来る筈。



…………何故隼人はダブった。



「なにぃ!? このオレがオシリスレッドだと!? こいつらと同じ……!」

「文字通り、同寮になるんだね」

「うるさい!」



うまい事言った翔を怒鳴りつけるサンダー。

そのセリフを引き継いで、十代は笑いながら万丈目の肩を叩いた。



「よろしく頼むぜ、同寮!」

「断る! なんでオレがこいつらとぉおおお!!」

「ダブるよりマシだろ、サンダー」

「黙れ! そもそもキサマは誰だ!?」



ここまできてメインキャラに誰だと言われる辺り、俺の扱いが見えてくる。

いいもんいいもん、俺には専用ヒロインがいるもん。

ぶーたれる俺を尻目に、十代が周辺の皆に聞こえるように声を出す。



「それじゃあ万丈目の入寮を祝して!」

「勝手に決めるな!」

「「「「「一! 十!! 百!!! 千!!!!」」」」」

「ぐ、ぅ……! 万丈目―――サンダァアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

「「「「「万丈目サンダー!!!!! 万丈目サンダー!!!!!」」」」」



耳元と水平線の彼方、延々と続くサンダーコールに、万丈目は応え続けた。

それは間違いなく、万丈目グループの三男だからでなく、万丈目準。

万丈目サンダーが戦って、勝ち取ったものだったろう。

頭を抱えるサンダーを、誰もが讃える。その強さと、誇りの高さを。



「十代、胴上げだ! サンダーを胴上げしよう!」

「おぉっ! いっちょやるかぁ! 翔、三沢、明日香、クロノス先生に校長先生! それにみんな!

 万丈目サンダーを胴上げだぁ!」

「「「「おおー!」」」」

「あぁ、ちょ! 待てお前ら!? どこを触って……て、天上院くん! キミまで何を……!

 あ、いや、しかし天上院くんに触られるのならばそれも悪くは……!」

「「「「「わーっしょい、わーっしょい、万丈目サンダーッ!!! 万丈目サンダーッ!!!!!」」」」」



日がどっぷりと暮れるまで、そうやってみんなで騒いだのであった。











それから数日後の夜。その日は、天気が荒れに荒れた。

土砂降りに強風、雲間では雷鳴が轟き、夜闇を白く染め上げる。

まあ俺は気にしないで寝たのだが。



次の日、いつも通りの大徳寺先生の錬金術の授業。

俺は万丈目サンダーの一件があったのだから、そろそろ墓守の課外授業かな、と思っていた。

これまたいつも通りに授業を寝て過ごした十代が、昼休みのチャイムと同時に置き上がり、弁当を取り出す。

流石の胆力である。一片たりとも悪びれない。



「今日はトメさんお手製の弁当だぜ!」

「ああ、遊城十代くん? お昼はちょっと待つのだにゃあ。私と校長室に行くのだニャ」

「ふぇ?」



トメさんお手製のエビフライを銜えながら、十代は変な声を出した。

………いや、十代の声なんてどうでもいい。

横目で十代の首を見る。勿論、消化していないイベントなので、あの闇のアイテムは持っていない。

当然だろう。あれは、大徳寺先生が連れて行ってくれる墓守の世界で手に入れるものだ。



どうなっているんだ。これは、どう考えてもセブンスターズ戦の開幕。

この時点でもう十代は闇のアイテムを持っていた筈。

………だとすれば、俺のせいか。だが俺は十代の行動、或いは大徳寺先生の行動の深い所に何ら関与していない。

バタフライの起こすそよ風すら、起こしていない筈なのだ。

いるだけで、そよ風?

そこまで深いものが発生するか……?



そもそもあの墓守は闇のアイテム云々だけでなく、闇のゲームをセブンスターズ前に経験させる。

そんな目的が理事長、そして大徳寺先生にあった筈だ。

だとしたら、あれの前にセブンスターズ、ダークネスを送り込んでくる筈がない。



「………………」

「十代、お前またなんか不味い事やったんじゃないか?」

「まふぁって?」

「校長室だって……アニキ、まさか退学とか……?」



寝ている事を隠すためにか、明らかにありえない表情を描いたお面をしている十代。

昼食を食べるために上げていたそのお面がずり落ち、エビフライの尻尾もぽろりと落ちた。

口の中のエビフライを租借しつつ、悩む十代。



「うーん、憶えがないぞ?」

「はっはっは! 十代、短い付き合いだったな。さよならだ」



何故かサンダーが遠く離れた席で立ち上がり、十代を指差す。

しかし、その立ち上がった万丈目に向き直った大徳寺先生が続けた。



「万丈目くん、貴方も来て下さい」

「うぇっ!?」



絶句するサンダー。

その様子を気にせず、大徳寺先生は他の生徒にも声をかけた。



「それから、三沢くん。明日香さんも」



決定打。完全にこれは、セブンスターズ戦のための招集だ。

学園では特段何もしていないのは確かだから、当然俺には声がかからない。

ここでは大人しく、シンクロなど使わないユニファーだって同様だ。

精霊と繋がりのある十代、万丈目は確定事項。

かつ、1年トップの三沢。そしてダークネス、つまり吹雪の妹である明日香……

ここに学園最強……校長を除き、最強のカイザー、大徳寺自身、そしてクロノス。

メンバーは原作と変わりないだろう。



ところでカイザーと並び称されたテニス男はどうした。

いや、そんな事どうでもいいか。



とにかく、じゃあ何であの課外授業がないんだ………?











「んなわけで、その7人の一人にオレ、選ばれたんだぁ!」

「凄いよアニキ!」

「ふぅん。でもオレは、その三幻魔のカードに興味があるんだな。一度見てみたいんだな」



隼人は十代の話、今日の昼に十代が校長から受けて来た話を聞いて、そう呟いた。

言われた十代は自分の首にかけた七星門の鍵を手に、肯く。

勿論その首にかかっているのは鍵だけで、闇のアイテムは存在しない。



「うん、どんなすげーカードなんだろうなぁ」

「…………」

「ん? なんだよ、エックス。今日の昼から変だぞ?」

「あ、いや………ああ、その、なんだ……ん、なんでもない。

 ちょっと調子悪いだけだから、気にしないでくれ」

「そっか、なら無理すんなよ? ふわぁ……じゃあオレは寝るかぁ」



欠伸をしてベッドの中に転がり込む十代。

十代が寝ると言うのなら、俺は帰った方がいいだろう。

いや、そう言えば、ダークネスはこの部屋の住人ごと連れていく……



「あれ? そのセブンスターズって強い人から襲ってくるんでしょ?

 アニキが待ってないでいいの?」

「さあ、今頃鉢巻きして待ってるんじゃないか? お前のアニキがさ」

「鉢巻き? アニキ、鉢巻きなんてしてないじゃない」

「いや、だからお前のアニキだって」

「ボクのアニキは十代のアニキだよ。お兄さんはアニキじゃなくてお兄さん」

「いや、だからアニキだろ?」

「だからアニキはアニキでお兄さんはお兄さんで……」



堂々巡りを続ける二人に、悩んでいた事に答えを出し、声をかける。



「なあ、今日俺もここで寝ていいか?」

「へ? 別にいいけど……珍しいな、エックスが泊まるなんて言い出すって」



首を傾げる十代に苦笑いで誤魔化し、何とか納得してもらう。

俺は別に床で転がれればいいので、と。

翔と隼人もそれでいいのか、と心配してくれつつ、納得してくれた。

もし、くるとすれば今日。ダークネスがくる。

唾を呑み込み、緊張した肩から力を抜く。



大丈夫。十代なら、大丈夫だ。

他の三人が寝付くのを待ちながら、俺は今の状況での事を考える。

闇のアイテムがなければ、ダークネスが誰に対してデュエルを挑むか分からない。

もしかしたら十代ではなく、関係の深い明日香かカイザーかもしれない。

だが、明日香はこの日、夜間に十代を訪ねてくる筈だ。

カイザーならばより安心。ダークネス相手とはいえ、問題なく勝利できるデュエリストだ。



だが、ダークネスを無事に終えたとしてもカミューラがいる。

あいつの幻魔の扉は、使用されれば誰か一人生贄に捧げられてしまう。

それを防ぐための闇のアイテムだったが……

単純にカイザーが単独で殴り込みをかけ、倒してくれるのが理想としか言えないか。



そうやって、色々と考え事をしていると。

ドンドンと玄関の扉を叩く音がした。三人もその音で起きる。



「うぅん……なんだなんだ、こんな時間に……」



明日香、か? だがそうであれば、ダークネスがきてもおかしくない筈。

もしかしたら、明日香でも十代でもない場所。

かつ、同じレッド寮で騒ぎがない以上サンダーでも、当然大徳寺先生でもない。

つまり、カイザー、三沢、クロノスに限られる……か。



一番近い俺が玄関の鍵を開け、扉を開く。

雪崩れ込んできたのは、矢張り明日香だった。



「大変よ十代! 湖の上に、セブンスターズが現れたって……!」

「何だって!?」

「大徳寺先生が夜になっても戻ってこないファラオを探している時に見つけたって……

 今、三沢くんとクロノス先生、あと亮にも話をして、現場に向かってもらってるわ!」



―――――なん、だと……?

大徳寺先生が……誘導をかけてきた? しかも先鋒がダークネスじゃなくて、カミューラ……!?



読みが外れるなんてものではなく、最早前提から覆される展開。

明日香の声に反応し、即座に跳び起きる十代が、机の中からデッキホルダーを取り出し、腰に巻く。

俺もまた、すぐに立ち上がって部屋の外へと躍り出る。

こちらへと声をかけ終わった明日香は、続け様に万丈目の部屋へと向かっていた。



俺が出てくるのを待ち侘びていたかのように、Xがエンジンをグオンと鳴らす。

階段を駆け下りて、そいつへと向けて走り寄る。

既にいつでも最高速でスタートできる状態のDホイールに乗り込み、背後を振り返る。

明日香に引っ張り出されてきた、寝ぼけてる寝巻の万丈目と、十代と翔と隼人。



――――流石に、全員を乗せての走行は無理だ。

それが万丈目サンダー以外の全員には分かっているのだろう。

翔と隼人が、十代を見て肯く。

ここは、選ばれし7人が行くべきだと言っているのだ。

生憎俺は違うが、運転手である以上しょうがあるまい。



「悪い! 頼むぜ、X!」

『マスター以外を乗せるのは嫌ですが、仕方ありません』

「ごめんなさいね。ほら、起きて万丈目くん!」

「てんじょういんくんがオレのへやに……こ、これはゆめか、ゆめなのか~……」



寝ぼけているサンダーに軽く溜め息。

しかしそんな眠気など、爆走するバイクの上で振り回されれば吹き飛ぶだろう。

感涙しているサンダーを振り落とさない程度に手加減はして、アクセルを解き放った。

即座に時速100km近くまで達する疾走。

漸く眠気を置き去りにして、覚醒を始めたサンダーの悲鳴が迸った。











「「デュエルッ!!」」



その瞬間、俺たちの乗るDホイールが、二人のデュエリストが対面する湖畔へと躍り出た。

丁度そのタイミングで開幕したデュエル。

それは、エメラルドグリーンの髪の女性、つまりカミューラとクロノスが行うものであった。



「くっ、もう始まってやがる……!」



寝巻姿のサンダーがバイクを飛び降り、集まっていたカイザー、三沢、大徳寺の方へと駆け寄った。

十代と明日香もまた、飛び降りてそちらへと向かう。

俺もまた、停車した後にそれを追った。



「おいおい……クロノス教諭が出たのか? てっきりオレは、カイザーがデュエルしているものと……」

「ああ、クロノス教諭が自分から買って出たんだ。生徒にやらせるわけにはいかない、ってな」



ナイトキャップを被ったサンダーに一瞬口籠った三沢だったが、すぐに対応して簡単な状況説明をしてくれる。

俺が知っている展開とそう変わるものでもない。

自ら進んで前に立ったクロノス教諭が、カミューラ相手に名乗り上げをしたそうだ。

固唾を呑んで見守るカイザーの姿を見て、俺は僅かに顔を歪めた。



「大丈夫さ、クロノス先生なら」



クロノス教諭の強さは、何より自分が知っている。

そう言わんばかりに十代のクロノスを見る眼は、確信に溢れていた。

しかし、と。矢張り俺は苦い表情を戻す事は出来なかった。



「でも……あの、カミューラというセブンスターズは闇のゲームと言ったのよね?」

「その上、自称吸血鬼ヴァンパイアだったか。胡散臭いデュエリストだ、が……」



明日香が、この世界でまだ片鱗にしか触れていないだろう存在に疑問を抱く。

俺のせいか、ダークネスは元より墓守の掟にも接触する事なくここまできた皆。

せいぜいタイタンとデュエルした十代が僅かに干渉した程度で、他の皆はその存在を信じていまい。



だが、サンダーは視線を頭上の虚空に投げる。

もしかしたらおじゃまイエローの精霊が、鋭敏な感覚でその危険性を捉えているのかもしれない。

精霊という存在からそれを伝えられれば、サンダーも何か思う事だろう。

恐らく、ハネクリボーの声を聞く十代もまた、このデュエルに隠れた何かを感じているのかもしれない。







カミューラの腕に取り付けられた黄金の、吸血鬼の牙を連想させる造形のディスクが展開される。

対してクロノスが身に纏うデュエルコートを起動させ、その機能を発揮させた。

自身の指で5枚のカードを引き抜くカミューラと、

ディスクが機能を十全と発揮させて、オートで5枚のカードをスライドさせるクロノス。

互いの手札が5枚となり、デュエルディスクが通信して、先攻を決定する。



「ワタシの先攻! ドロー!」



先手を取得したのはカミューラ。

6枚となる手札を見合わせて、一手目のそれへと手をかける。

引き抜かれた1枚のカードが、ディスクのモンスターゾーンへと。



「不死のワーウルフを攻撃表示で召喚!」



アォオオッと。

今宵の三日月に向けて、青白い毛色の二足で立つ人狼が光とともに出現した。

それは如何なる経緯でそのような存在となったのか。

手首には牢に繋がれていた名残と思しき拘束具が鎖を引き千切られ、ぶら下がっている。

血のように紅く染まったその眼光は、敵として対峙するクロノスを射る。



しかし、クロノスはそのモンスターに睨み据えられても、微塵たりともたじろがない。

クロノス・デ・メディチは猫は嫌いだが、犬なら大丈夫なのだ。

もし猫であったとすれば、生徒たちに少々情けない姿を晒したかもしれないが。

どちらにせよ、今目の前にいるのはキャットではなくドッグ。

何の問題もない。



「カードを1枚伏せて、ターンエンドよ!」

「なパッ、不気味ぃな、犬っころモンスターはブラフですね。

 弱小モンスターをおとりに、トラップを仕掛けるなんて、見え透いていますーノ!

 ワタシのターン、ドロー!!」



カミューラが召喚した不死のワーウルフの攻撃力は1200。

下級モンスターの中でも、けして高い攻撃力とは言えない能力値だ。

その状態での、1枚の伏せリバースカード。

こうなれば、攻撃を誘いトラップに落とすという狙いがあると見るべきだ。



だが、だからと言ってトラップを恐れて仕掛けないのは臆病者。

そのトラップごと相手の戦術の上を行くのが、デュエリストとしての誇りとされるべき行動だ。

故に、クロノスは一片たりとも恐れない。



先程のカミューラと同じく、手札の6枚のカードを確認してその中から1枚を選別する。

引き抜かれたカードは、モンスターゾーンではなく、魔法マジックトラップゾーンへと。



「永続魔法、古代の機械城アンティーク・ギアキャッスルを発動するノーネ!」



クロノスの背後に、地中から古びた城塞がせり出してくる。

苔の生えた古めかしい岩の城壁、各所に造られた敵を迎え撃つ為の砲台。

キチキチと軋みを上げながらも、確実に駆動する古代の歯車の数々。

古代に栄えた文明の残り香を放つそれは、自身と出所を同じくする同胞を援護する城壁。



「更に、古代の機械兵士アンティーク・ギアソルジャーを召喚しますーノ!」



かつて古代に栄えた文明が造り出した、幾つもの歯車を噛み合わせる事で動く兵士。

右腕が砲口となっているその兵士は、歯車で駆動するフレームに鉄板を張り付けた装甲を持つ。

その装甲は今や大小様々な損傷耗で造り出されたばかりの頃の姿は、見るべくもない。

だが、戦うために造られたその兵士の行動原理は今でも、変わらずに残っている。



更に、自身の同胞を見つけた城塞が駆動を開始する。

背後から唸りを上げて回るギアの音が響く。

幾つもの砲塔がカミューラの場に向けられ、兵士が攻め込む時を待ち望む。







古代の機械城アンティーク・ギアキャッスルはアンティークと名のつくモンスターの攻撃力を300アップする。

 これで古代の機械兵士アンティーク・ギアソルジャーの攻撃力は1600」



三沢が呟く声が聞こえる。

その城塞は古代の機械兵士たちの砦だったのだろう。

砦の支援を受ける事で、兵士の攻撃は苛烈さを増す為に、攻撃力の上昇が発生する。

古代の機械アンティーク・ギアの特性と合わせ、高攻撃力。

そうなれば、この軍勢を阻む手段などない。



THE LOST MILLENNIUM

滅亡した王国で、千年の時を眠り続けた機械の軍勢が今この時、再度現世で侵略を開始する。

暗黒の時代においてその猛威を奮ったのは、圧倒的な攻撃力でもなければ、けして揺るがぬ防御力でもない。

ただ心なき機械、完全に統率されたシステマチックな侵攻には、戦場において人心の隙間を衝いて配置されるもの。

意表を衝き、統率を乱し、果てには崩壊へと導くトラップが何一つ通用しなかった。

畏怖の念を込めてか、カイザーは言う。



古代の機械アンティーク・ギア……

 クロノス教諭の暗黒の中世デッキは、魔法マジックトラップでは止められない。

 あのカテゴリのモンスターには、攻撃時に魔法マジックトラップの発動を封じる効果がある」

「つまり、攻撃を止めたいのであれば、攻撃宣言をされる前に対応する事を要求される」



明日香が継ぐセリフは、実に分かり易く対処法となっていた。

しかし、攻撃を止める方法は数あれど、最も普及しているのは攻撃時に発動するカード。

それが軒並み使用不可能に追い詰められれば、自然相手にも苦渋が浮かぶ筈。

だと言うのに、カミューラはただ不敵に笑むだけで、焦りなど微塵もなかった。







古代の機械兵士アンティーク・ギアソルジャーで、不死のワーウルフを攻撃するノーネ!

 プレシャス・ブルィイットッ!!!」



機械の兵士は右腕の砲口を人狼に向け、砲撃を開始するべく腕のギアを回転させた。

ガリガリと軋みを上げ、唸るギアの回転が加速し、砲口から炎が噴出する。

硝煙を撒き散らしながら、連続で吐き出される鉄の塊が不死の怪物へと迸った。



途切れる事無く放たれてくる弾幕を前に、その身一つの人狼には対抗する事は敵わない。

生憎な事に銀の弾丸ではないが、その弾幕の前では肉塊どころか粉々に砕け散るのも時間の問題だろう。

ならば、と。その肉体の強靭さに任せて、人狼は脚力を全開にして機械兵士に跳びかかる。

鉄の弾丸の混じる逆風を突き抜け、その怪物は一瞬で機械兵士の前へと躍り出た。



瞬間、背後に聳える城塞の砲口が火を噴いた。

一兵士の放つ弾丸とは比べ物にならぬほどの威力の大砲。

それが、二体のモンスターの間へと撃ち込まれる。

弾け飛ぶ大地に僅か人狼の体勢が揺らぎ、かつその攻撃で前進を止めた。

その瞬間、濛々と舞い上がった粉塵を貫き、ギアの音と、風を打ち砕く音が轟く。



音に後れ、遮られた人狼の視界の先から巨大な杭が向かってきた。

タイミングを合致させ、神速で突き出された杭は人狼に反応も許さず、その胴体を撃ち貫いた。

巨大な杭は撃ち抜くに留まらず、その身体を上と下、二つに両断して吹き飛ばす。



杭の巻き起こした旋風が粉塵を晴らして、その正体を露わにした。

古城の正面に設けられた、ギアで駆動するパイルバンカー。

それが、役目を終えてゆっくりと引き戻されていく。

両断された人狼の身体が、杭に吹き飛ばされた事で光と化し、霧散した。



古代の機械城アンティーク・ギアキャッスルの効果で、古代の機械兵士アンティーク・ギアソルジャーの攻撃力は1600。

 攻撃力1200ぽっちの犬っころなど敵じゃないノーネ。

 デュエルはビー! 闘いは華麗でなければありませんノーネ」







「流石クロノス教諭、見事に先制を取った」



………蝶のように舞い、蜂のように刺すって事とかけてる、のか?

まあ、そんな事はどうでもいい。

ここまでは俺の知っている通りだ。しかし、この状況からして俺の知っているものと大きく違っている。

決められた運命。そんなものに、それこそ蜂ように踊らされなければいいのだが。







「ではワタシも。華麗なる反撃を! 蘇れ、不死のワーウルフ!!」



そう言って、カミューラは腕を振るう。

古代の機械が発揮するコンビネーションの前に粉砕され、砕けた筈のワーウルフ。

それが地中から這いずり出て来た。オォオオンと、夜闇に吼える人狼の姿は、両断される前と何ら変わりない。

いや、むしろその肉体に漲る力は、再度の死を経験する事で、増したようにすら見える。



「なにィ!?」

「フフ……お忘れかしら、このカードは戦闘で破壊された時、

 デッキから同名カードを攻撃力を500ポイントアップさせて、召喚出来ると言う事を」

「ヌゥ……!」



見間違いなどでも、勘違いなどでもなく、その肉体には死を迎える前以上の力が充足している。

機械兵士ギアソルジャーの攻撃力は1600。

1700までアップした相手モンスターに覆される攻撃力の優位、それには僅かばかりたじろぐクロノス。

その効果を知らなかった様子だ。







「おいおい、知らなかったのか……?」



ナイトキャップを取ったサンダーが、まさかと言った風情で漏らす。

実技主任ともなれば、カード効果の熟知くらいしているべきだと思われていたのだろう。

勿論、クロノスは知らなかったと言えまい。

そんな事は計算通りだと嘯き、カードを1枚セットし、ターンエンドを宣言した。







「ワタシのターン、ドロー! ヴァンパイア・バッツを召喚!!」



翼を広げれば2メートル以上の体長となる、巨大吸血蝙蝠がフィールドで羽搏く。

全身を包むのは闇色の体毛だが、頭頂部だけは血色の毛で包まれている。

闇の中で不気味に輝く紅の双眸でクロノスを見据える蝙蝠。



それは大きく口を開いて、咽喉の奥から人間には感じ取れない音波を発する。

すると、蝙蝠と隣り合っていたワーウルフの肉体が膨れ上がり、その筋肉をより強靭にした。

より力強く昂ぶった肉体を誇示し、狼を闇夜に咆哮を轟かせる。

その轟音に耳を塞いだクロノスが、猛る人狼を見る。

人狼の足許に映し出されるATK値のカウンターが1700から1900に。



「な、なんなノーネ!?」

「ヴァンパイア・バッツがフィールドに存在する時、ワタシの場のアンデット族モンスターの攻撃力は200アップ!」



アンデット族なのは、ワーウルフだけではない。

ヴァンパイア・バッツ自体もアンデット族である。その元々の攻撃力800に上昇分を加え、その攻撃力は1000に至る。



「フン、狼男の次ぃはコウモリーとは、ワタシにそんなまやかしなんーて、通じないノーネ」

「これでもまやかしなんて言えるのかしら?

 不死のワーウルフで古代の機械兵士アンティーク・ギアソルジャーを攻撃! 吼えろ、ハウリング・スラァッシュ!!」



人狼が機械兵士に向けて駆ける。

機械城が自軍に攻め入るモンスターに対し、迎撃行動を開始する。

一斉に砲口が駆ける人狼に向けられ、砲火が迸った。

無論、威力はあれど速さに欠けるその攻撃では、神速で迫りくる人狼は捉え切れない。

しかし、その攻撃で速度を削られれば、一撃に込める破壊力が落ちる。

更に機械兵士はその腕から弾丸を吐き出した。



だがその程度では止まらない。

ただばら撒かれる鉄の塊の合間をすり抜け、その怪物は機械兵士に肉迫する。

前に突きだされた右腕を殴り飛ばし、その構えを崩した瞬間。

狼はその咽喉の奥から暴力に等しい音の塊を叩き付けた。



大気を震わせる咆哮は機械兵士を殴り付け、物理的な破壊を齎す。

全身に亀裂を奔らせて蹈鞴を踏む。

人狼の双眸から紅の光が放たれ、その鋭い爪が閃く。

まるで素通りしたかのように爪は機械兵士の身体を通過した。

途端、まるでガラスが割れるかのように砕け散り、飛散する古代の機械兵士アンティーク・ギアソルジャー



「おぽッ、誇り高き古代の機械兵士アンティーク・ギアソルジャーに噛み付くとは……

 無礼な犬っころコロなノーネ」

「まだまだ、愉しみはこれからよ! ダイレクトアタックッ! 舞え、ブラッディ・スパイラルッ!!」



翼を広げた巨大な蝙蝠の眼光が一際大きくなり、その身体が無数の小さな蝙蝠に分裂した。

ばらばらにクロノスを目掛けて殺到する蝙蝠の大群を阻むモンスターはいない。

蝙蝠が掻き鳴らす高周波の超音波がクロノスを襲う。

まるで頭がシェイクされているかのような、平衡感覚を吹き飛ばす音の雪崩。



「ヌ、ヌヌゥ……!? こ、この痛みは……! まさか闇のデュエルとやらは、げ、現実ぅー……!?」



耳から侵入して、その内部を悉く乱す音波は、耳を抑えた程度で止まりはしない。

平衡感覚は破壊され、ただまっすぐ立つ事すら出来ないくらいほどに。

故に両の膝を地面に落とし、その攻撃が収まるのを待つより他になかった。



「クロノス教諭!?」



カイザー亮の声が、クロノスに向けて放たれる。

しかし物を聞きとる能力を喪失していたクロノスに、その声は届かなかった。



「超マンマミーア……!」

「ウフフ……どうかしら、悪魔の手先にいたぶられた気分は?」



無数に分裂していた蝙蝠が一つに集合し、その身体を再び巨大な蝙蝠に戻す。

大きな翼を一度羽搏かせて、巨大蝙蝠はカミューラの許へと後退する。

未だ膝を落としているクロノスから目を逸らし、このデュエルを見ている一人の少年に視線をやる。

その視線の先にいるのは、カイザー亮。



「でも残念。ワタシとしては、どうせいたぶるのならあちらの彼がよかったのだけれど」







「おいおい、敵さん。あんたが好みらしいぜ?」

「………」



万丈目の微かにからかいの混じった言葉を、カイザーは聞き流していた。

そう言えば、と。大徳寺先生もそのセリフからこの二人がデュエルを始める前の言葉を思い出す。



「さっきもチェンジがどうとか言ってたしにゃあ」

「今からでも遅くないわ! こちらはチェンジOKよ!」



ギラリと吸血鬼の瞳が怪しく輝く。その眼光は、確実にカイザーの姿を捉えていた。

まるで餌を狙う肉食獣のそれに、カイザーは身構える。

が、その二人の視線の交錯を、クロノスの叫びが引き裂いた。



「冗談ではないノーネ! 彼はワタシの大事な生徒、指一本触れさせはしませんーノ!!」

「クロノス教諭……!」



覚束ない足取りで、しかし確りと地面を踏み締めて立ち上がるクロノス。

その瞳の奥には、怒りと誇りによって燃え盛る炎が覗いていた。



「そして、ワタシは栄光あるデュエルアカデミア、実技担当最高責任者。

 断じて、闇のデュエルなど認めるわけにはいきませんーノ!!」



しかし、足取りは危なげで、また上半身も揺れているさま。

そんな状態でデュエルを続行しても、これ以上のダメージを受ければ倒れてしまいかねない。

残りライフは2700。まだ半分以上ライフを残しているとは言え、彼自身が倒れればそこまでなのだ。

明日香がその様子を見て、懇願にも似たセリフを放つ。



「でも、もう先生の身体はボロボロ……! これ以上闇のデュエルを続ければ……!」

「心配いらないノーネ。デュエルは光、ワタシが正統なるデュエルで、闇を葬ってみせますーノ!

 伏せリバースカード発動オープン! ダメージ・コンデンサー!!

 手札1枚をコストに、効果を発動!

 その効果により、今のダイレクトアタックによるダメージ以下の攻撃力のモンスターを、デッキから攻撃表示で特殊召喚するノーネ!!」



クロノスの前方に透明な円筒状の物体が現れる。

今のヴァンパイア・バッツの攻撃により、受けたダメージは1000。

よって、1000ポイント分のダメージがそのシリンダーの中にはチャージされている。

バチバチとシリンダーの内部で放電現象が発生し、唸りを上げた。



「ワタシは、デッキより攻撃力100の、古代の歯車アンティーク・ギアを特殊召喚!!」



シリンダー内部が臨界し、周囲を白光に包みこんでいく。

溢れるような光の渦が晴れた先には、大小の歯車を繋いで造った玩具のような物体が存在していた。

能力の低い、戦闘用ではないモンスター。

だが、カミューラのフィールドには追撃でそれを撃破できるモンスターが残っていない。

故に、それを見逃してターンエンドするしか方法はないのだ。



「そしてワタシのターン、ドロー! 魔法マジックカード、強欲な壺を発動!

 デッキから更にカードを2枚のカードをドローするノーネ!

 古代の歯車アンティーク・ギアを生贄に、古代の機械獣アンティーク・ギアビーストを攻撃表示で召喚するノーネ!」



歯車人形が光に包まれ、崩れていく。

その存在が残した歯車のパーツを自身に取り込み、機械の獣が出現した。

千年の眠りから目覚め、起動するギアで駆動する獣。

ギアで形作られるフレームを覆うのは、永い時を越えて来た鉄の鎧。



その攻撃力は2000ポイント。

更に機械城の援護攻撃を含めれば、その突破力は2300ポイントに達する事となる。

吸血蝙蝠の放つ超音波を受け、不死の肉体を更に強化した人狼とは言え、敵うべくもないパワー。



「かぁくごッ! シニョーラ・カミューラ!

 古代の機械獣アンティーク・ギアビーストで、不死のワーウルフを攻撃するノーネ!」

「ちょ、ちょっと待った! 不死のワーウルフは、やられたらパワーアップして蘇るってさっき……!」

「ノンプロブレンムァ。

 古代の機械獣アンティーク・ギアビーストの効果は、戦闘で破壊したモンスターの効果を無効化するノーネ」



機械の獣が駆動する。目掛けるのは立ちはだかる青白い人狼。

関節部が火花を散らし、ギギギと久しくの回転に悲鳴を上げる歯車たち。

しかし、そんな状態だとしても古代の兵器たちはその威力を存分に発揮する。



古城に設けられた火器類が一斉に照準を合わせ、人狼に向けて撃ち放ち始めた。

周囲を取り囲うような断続的な弾幕に、脚力を活かす高速移動が封殺され、ただ正面から相手を迎え撃たざる得ない状況。

故に咆哮。夜闇の空を鳴動させる、物理的な破壊力すら帯びた音波。

咽喉の底より放たれたそれは、確かに己に向けて駆けてくる機械獣を打ち据えた。



鉄板が歪み、拉げる音が響いた。

狼の鋭敏な聴覚がそれを捉えた瞬間、弾幕を潜り抜けて人狼の姿はそちらを向き、奔っていた。

一瞬の静止すら、この獲物を喰らう不死人狼の前では自害に等しい。

僅か半秒に満たない時間で音源の獣の場所まで奔り抜けた狼は爪を振るい――――



ぐしゃり、と。腕が噛み砕かれていた。

確かに咆哮と言う名の音響兵器は機械獣を打ち据えていた。

間違いなく、ダメージを与えていた。

だが、だからなんだと。



人格を持たず、ただ敵と闘い続ける最強の兵器群の前で、そのような牽制など何の意味もない。

それを悟った人狼が後ろに飛び退こうとした瞬間に、二度目の咬撃が人狼の首を捕っていた。

ぶしゃああと血の代わりに光の粒子を噴き出して消え去る不死のワーウルフ。

先程とは違い、消え去った光の後から新たな人狼の姿が現れる事はない。

カミューラのライフポイントが3200まで削られ、そのままバトルは終了した。



「ホホホのヒューッ! かくして闇のデュエルなるまやかしは、葬り去られたノーネ!」







「……よほどなかった事にしたいらしいな」

「クロノス先生、ずっとそう言い続けてたからな」



万丈目と三沢が言葉を交わす。

しかしそれを見ている明日香の表情は明るくない。

恐らく、その原因を知るのは俺と、当事者だった十代だけだろう。



「……でも、カミューラは自身が行っているのが闇のデュエルだという態度を崩していない」

「自分から進んでバラす事でもないだろうし、気にしすぎじゃないか?」



明日香の心配を三沢は否定する。確かに、非科学的なそれを三沢は認めないだろう。

少なくとも、その現象を目の当たりにするまでは。



「闇のデュエル……か」



十代はそのデュエルを見て、微かに悩んでいる様子だった。

そうか。十代は墓守のデュエルを経験していなくとも、サイコ・ショッカーには出会っている。

ならば片鱗だけでも、それを唯一味わっている人間なのだ。







「フフフ……ワタシのターン―――手札よりフィールド魔法、不死の王国-ヘルヴァニアを発動!!」



カミューラの背後、湖の底から古びた城がせりだしてくる。

まさしくヴァンパイアの居城に相応しい雰囲気と年季を帯びる城の姿。

周囲の大地から枯れ木が生えてきて、湖は城を取り巻く樹海へと姿を変えた。



「ヘ、ヘルヴァニア……!? 禁断のフィールド魔法なノーネ……!?」



デュエルモンスターズではしばしば環境整理が行われる。

新規カードが参入すれば、組み合わせによって既存のカードが思わぬ性能を発揮する事がある。

それを考慮し、一定期間ごとにバランスを崩す原因となっているカードを規制する。というものだ。

基本的にカード一種類につき3枚まで投入することを許されている。

だが、規制の対象となったカードは2枚、1枚、或いは使用禁止とされる事があるのだ。



不死の王国-ヘルヴァニアは言うまでもなく、ヨーロッパの吸血鬼伝承を元に製造されたカード。

その能力は強力であり、手札のアンデットモンスターを一体コストに捧げる事で発動する。

効果と言うのが、フィールドに存在する全てのモンスターを破壊するというものだ。

無論、その強力な効果にはそのターンの通常召喚を封じられると言う大きなデメリットがあるが……

否、デメリットを塗り潰してでもそのメリットの大きさは計り知れない。

その破壊力故に禁断とされ、使用する事を禁じられたカードなのだ。



尤も、今まで眠っていたヴァンパイアのカミューラが新制限リストを知っているかどうかは怪しいのだが。

彼女が本当に闇のデュエリストであり、そのヴァンパイアとしての力が結晶化したものがあのデッキなのだとすれば、

そのような事もあり得るのかもしれない。



「その通り! 手札のアンデット族モンスター一体を墓地に送る事で、フィールド上の全てのモンスターを破壊する!」

「おいおい、そんな事をすればあんたのモンスターも破壊される上に、効果を使用した後、通常召喚ができなくなっちまうぜ」



万丈目の言葉は、至極真っ当なモノ。

フィールドを全滅させたとて、モンスターが召喚できなければ次のターン無防備を晒すのはカミューラだ。



「でもこれで終わりじゃない。そうでしょう? クロノス先生」

「――――そ、そうだったノーネ……! シニョーラのモンスターは、ヴァンパイア・バッツ……!」

「いかにも!」



カミューラが手札のカードを1枚墓地へ送り、その効果を起動する。

周囲の風景の樹木が氾濫を起こし、その土地に存在するモンスター全ての魂を奪い去らんと触手の如く暴れ出した。

暴れ狂う蔦に囚われた機械獣の身体が、メキメキと悲鳴を上げて潰れていく。

同時に、カミューラのフィールドで滞空していた巨大蝙蝠をその蔦に捕まり、轢き潰された。

互いのモンスターはこれで破壊。

その上、カミューラはこの効果を発動させるために召喚の権利を放棄している。

だが、



「ヴァンパイア・バッツは破壊される時、デッキの同名カードを墓地に送る事で破壊を無効にする!

 その効果こそアンデットの真価、不死の特殊能力!」



カミューラのデッキからカードが1枚飛び出した。

そのカードが墓地に送られると、ディスクのセメタリーゾーンから無数の小さな蝙蝠が飛び立っていく。

小さな蝙蝠たちは潰され、地面に落ちた巨大蝙蝠の死骸を目掛けて飛んでいく。

砕けていた身体の中に溶け込むように、混ざり合っていく小さな蝙蝠の大群。

墓場からの使者を全て取り込んだ。

既に光を失っていた紅の瞳が光を取り戻し、再びその巨大な翼が広げられた。



全てを破壊する力でも破壊される事なくフィールドに留まり続けるモンスター。

それこそ、カミューラが不死の王国と組み合わせて使うカード。

そして再び、空を舞う蝙蝠はその姿を無数の小さな蝙蝠へと変えた。



「舞えッ! ブラッディ・スパイラルッ!!」



ガラ空きとなったクロノスのフィールドへ蝙蝠が進軍を開始する。

散らばった蝙蝠たちがクロノスを取り囲み、超音波を発してその脳を侵していく。

頭を内部から揺さぶれ、平衡感覚を失った身体が、堪らずに倒れ伏した。

ピピピ、と。ライフカウンターが削られて、その指し示す数値が1700となる。







「くっ……矢張りオレが出るべきだった……!」

「亮……」

「だからチェンジなさいと言ったでしょう。このワタシに、こんな弱くて無様な男を宛がうなんて……」



カイザーが苦渋を滲ませて放った言葉。

それを耳で拾ったカミューラが、うつ伏せで地面に倒れるクロノスを見下ろして言う。

しかし、それを今まで黙ってクロノスを見ていた十代が否定した。



「それは違う! クロノス先生はけして弱くなんかない!」

「十代……?」

「闘ったオレが言うんだ、間違いない! クロノス先生、見せてくれよあんたのターンを!」







その言葉を受け取ったクロノスは、力を失くしていた四肢に再び力を注ぐ。

握られた拳は震えるほどに硬く、力がこめられていた。



「………シニョーラ・カミューラ」

「あら、お目覚めかしら。クロノス先生?」

「このクロノス・デ・メディチ、断じて闇のデュエルなんかに敗れるわけには行きませんーノ!

 何故なら! デュエルとは本来、青少年に希望と光を与えるものであーリ、恐怖と闇を齎すものではないノーネ!!」



その身体が、苦痛を凌駕して立ち誇る。

痛みの波に襲われてなお崩れないクロノスを見て、カミューラの顔が顰められた。



「だよな、クロノス先生!」

「そうか……だから闇のデュエルなどないと」

「存在してはならぬと、言っていたのか」

「ワタシのターン、ドロー!」



デュエルコートの胸部にあるデッキホルダーから、1枚のカードがスライドする。

それを手に取ったクロノスの顔が変わる。

一瞬だけ目を閉じたクロノスは、すぐさま目を開けてそのカードを天に掲げた。



古代の機械城アンティーク・ギアキャッスルは発動後、モンスターが通常召喚されるたびにカウンターを乗せる。

 ワタシが召喚したのは、古代の機械兵士アンティーク・ギアソルジャー及び古代の機械獣アンティーク・ギアビーストの二体!

 その二体分のカウンターが乗った古代の機械城アンティーク・ギアキャッスルを生贄に捧げる事ぉーで、最上級モンスターを召喚するノーネ!!」

「そうだ、あんたの強さ見せてくれよ! クロノス先生!」



城壁が吹き飛び、崩れ落ちていく。

それは外からの攻撃で破壊されたのでも、まして自壊を始めたのでもない。

内部に眠っていた、千年間眠り続けた、最強の巨人が目覚めた事を意味していたのだ。



砕けた城壁から巨大な腕が突き出され、その縁に手をかける。

ギチギチと歯車の音を鳴らし、鉄が擦れるような音を撒き散らし、巨人は廃城から姿を現した。

複雑に噛み合った歯車のフレームに、古びた鉄の鎧を張り付けた巨人兵。

その力は敵対した相手の万軍を蹴散らし、鉄壁の守勢をいとも簡単に打ち崩した伝説の存在。



「出でよッ! 我らがデュエルアカデミアの守護神・古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレム!!!」



頭部を覆う兜の奥で赤いカメラアイが闇夜の中で輝いた。

肩口に見えるギアが重々しく回転を始め、それに連動するように肩から先が動き始めた。

少しずつ握られていく拳が遂には硬く握りしめられて、同時にその拳を振り上げ始める。

狙いはただ一つ、目前に存在する巨大な蝙蝠の姿。



古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムで、ヴァンパイア・バッツを攻撃ッ!

 アァルティメット・パウンドゥッ!!!」



蝙蝠は翼を大きく広げ、相手を侵す超音波を巨人に向けて放出した。

しかしそんなものがその機械巨人相手になんの効果があろう。

そんな虫の羽音と何ら変わらぬものでは、ただ侵略攻勢を仕掛けるのみの巨人は揺るがない。

突き出された拳は過つ事なく蝙蝠に衝き込まれ、その身体をそのまま地面へと叩き付け、圧し潰した。

その威力を受けた地面が砕け、その場が爆発でもしたかのような突風が吹き抜ける。



最上級モンスターとしてもハイレベルとされる高攻撃力の基準となる、3000ポイント。

それほどの威力がこめられていた拳は、あっさりと蝙蝠を粉砕した。

僅か1000ポイント程度の攻撃力しか持たないヴァンパイア・バッツでは、まるで届かない力。

大地に半ばまで埋まってしまっている拳を引き抜き、巨人は姿勢を立ち姿へと戻した。



古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムのパワーを一身に受けた蝙蝠は、今やあのクレーターの中で原型をとどめていないだろう。

だがしかし、どのような形で破壊されようが、跡形も残らぬほどに滅されようが、あの蝙蝠は不死存在。

ライフポイントを一撃で2000も削られたカミューラには、闇のデュエルらしく相応のバックファイアがあった筈。

だと言うのにカミューラは表情を崩さず、デッキの中から3枚目のヴァンパイア・バッツを墓地に送る事でその破壊を無効にした。



「幾ら上級モンスターを召喚しても、次のターンには再びヘルヴァニアの効果でそのモンスターは破壊される!」



カミューラのライフは1200。クロノスのライフは1700。

どちらも半分以上のライフを失っており、決着の時はそう遠くない事が窺える。

その状況でクロノスが勝利を勝ち取るために魂を託したモンスターこそ、古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレム

しかしその最強の切り札も、ヘルヴァニアの破壊効果の前では無力な羊。

この土地に根付く怨霊の呪いに、その力を失う事となるだろう。



「そうはいかないノーネ―――魔法マジックカード、大嵐を発動しますーノ!」



クロノスを中心に巻き起こる、周囲の木々を薙ぎ倒しながら狂う暴風。

それは、デュエリストと言う名の魔術師がフィールドに用意した魔術・罠を全て破壊する災禍。

無論、それは両プレイヤーのフィールドに及ぶ暴力。

カミューラが1ターン目から後生大事に伏せていたカードも、そしてヘルヴァニアと呼ばれるこの土地も。



その全てを呑み込む暴風が吹き荒れて、枯れ木の群れも背後に聳える城も、全てを浚っていく。

情景が普段通りのデュエルアカデミアの湖畔に戻り、不死の王国の破滅を示す。

その様子に満足げに、そして勝利を感じるかのようににやりと笑うクロノス。

だがしかし、



「この瞬間、墓地に送られた不死族の棺ヴァンパイア・ベッドの効果を発動!」

「墓地からのトラップなノーネ!?」



カミューラの前方の土が盛り上がり、地面の中から錆びた棺がせり上がってくる。

ぐずぐずに崩れたその箱を見下ろすカミューラは、微笑むと驚愕の声を上げたクロノスに対してそのカードの効果を説明した。

それは教師であるクロノスを貶めるためのものであったのか、実に愉しそうに。



「教師の割にお勉強が足りなかったようね。

 セットされたこのカードが破壊された時、ワタシは墓地からアンデットモンスターを一体特殊召喚できる!

 さあ、現れなさい! カース・オブ・ヴァンパイアッ!!」



棺の蓋を蹴り破り、そのヴァンパイアが現世の空気の中に帰還する。

土気色の肌に、水浅黄色の頭髪。漆黒の翼を外套のように扱い、身体を包む男。

棺の縁に手をかけて、彼はゆるりと起き上がる。

紅に輝く瞳でクロノスを睥睨する呪われし吸血鬼が、カミューラのフィールドに降り立った。



「し、しかーしそのモンスターでは我が古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムを倒す事はできないノーネ!」

「勿論! そんな事は承知していますわ、クロノス先生? ワタシのターン!」



クロノスのフィールドには依然、最強の巨人が存在している。

あらゆるモンスターに破壊の呪詛を与える不死の国は滅ぼされ、カミューラには手はないように見えた。

しかし、引いたカードを見たカミューラはその口を大きく歪め、微笑んだ。

待っていたカードが来たかのような様子に、クロノスも身構える。



だが、彼女はそのカードを手札に加えると、別のカードを手に取った。



「ヴァンパイア・バッツを生贄に捧げ、ヴァンパイア・ロードを召喚!」



ヴァンパイア・バッツの無数の小さな蝙蝠が集ってできた身体がバラけていく。

闇のみを残して消滅した蝙蝠の残骸が集束し、新たなる身体を造り上げた。

漆黒の翼を外套のようになびかせて、呪われし吸血鬼と似た姿の青年が姿を現す。

生気のない、土気色の肌に水浅黄色の毛髪。口の中から微かに覗く牙。

二人目のヴァンパイアがフィールドに並ぶ。



しかし、どちらもヴァンパイアが持つ攻撃力は2000。

攻撃力3000を誇る、古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレム相手には力不足である事には間違いない。

だが、カミューラのライフポイントは残り1200。

しかも古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムの攻撃は貫通効果が付与されている。

つまり、彼女はこのターンヴァンパイア・バッツを放置すれば敗北が確定するのだ。

それを回避するために生贄に捧げ、攻撃力1800以上のモンスターを召喚したのだろう。



「ウフフ……ワタシの方こそ、アナタに教えて差し上げますわ。闇のデュエルと言うものを!

 カードを3枚伏せ、ターンエンド!」

「ワタシのターンなノーネ! ドロー!」



どのような伏せリバースカードであろうと、攻撃を防ぐためのトラップは古代の機械に意味を成さない。

だが、相手は仮にもセブンスターズと呼ばれる、裏のデュエル集団に名を連ねるデュエリスト。

下手に時間を与えれば、どのような戦略をとってくるか分からない。

ならば、このターンで全てを終わらせる。



そのドローカードを見た瞬間に、クロノスはそう結論を出した。

本来ならばデッキの中に含めてはいても、けして召喚する事はないと思っていたモンスター。

だがこの状況。このデュエルにおいて、クロノスに対峙するのはこの学園の生徒を害する存在。

だからこそ、そのカードの封印を解く事に、クロノスは躊躇いは覚えなかった。



けして、千年の眠りから目覚めさせる事はないだろうと思っていたモンスター。

出来れば、永遠に眠らせておきたかった。

このカードを使わなければならない状況など、望んではいなかった。

だがしかし、刻は来た。生徒を脅かす、闇の使者が現れた。

ならば今こそ目覚めの刻。

再びその歯車を回し、駆動せよ―――――



3枚の手札全てをカミューラに見せつけ、クロノスは宣告する。

最強にして無敵、無欠の巨人の目覚めを。



「ワタシは手札より魔法マジックカード、融合を発動するノーネ!」







「融合!? クロノス教諭のデッキに、その魔法マジックが含まれているのか……!」



そのモンスターの降臨を前に、カイザーの驚愕の声が響く。

古代の機械たちとは真逆の方向へ行く、サイバー流の継承者であるカイザー亮をして、未だ知らぬモンスター。

今からこの場に現れるのは、そんな存在。



「融合……噂だけだが、聞いた事がある。アンティーク・ギアに伝わる、最強の機動兵器……

 かつて栄華を極め、そして凋落した国の守護者だったものたち、古代の機械アンティーク・ギア

 千年の時を眠り続けた彼らの身体は既に錆つき、その本来の力を失っている。

 だが、彼らは真に守るもののために再び決起する時、それぞれの身体の無事な歯車パーツを一つに集める。

 歯車を受け取るのは古代の機械アンティーク・ギア最強の機械巨人ゴーレム



三沢が滔々と説明してくれている間にも、クロノス教諭の前方にいる機械巨人の周囲に無数の、大小様々な歯車が取り巻いている。

高速で回転する歯車が生み出す竜巻に取り込まれ、機械巨人の姿が見えなくなっていく。

だが、周囲の歯車が次々にその身体に取り込まれているのか、竜巻の中の陰がその巨大さを増していく。



「……つまり、これから出てくるのは」

「ああ、融合。いや、これこそが古代の機械アンティーク・ギアが誇る、真の能力……!」

「スゲー……やっぱスゲーよ! クロノス先生! くぅ、何でオレとのデュエルの時使ってくれなかったかなぁ!」



十代の興奮が抑えきれないという声に、クロノスはデュエル中にも関わらずこちらを見た。

僅かに首を縦に振り、再びデュエルに向かうその姿。

その背は、確かに生徒を導く教師としての姿だった。







「シニョーラ・カミューラ、ワタシはけして闇のデュエルなどというものは認めないノーネ!

 それは、教師とは常に生徒を照らす存在でなくてはならないからこそ!

 そこに闇があると言うのなら、我がしもべとともにその闇を蹴散らし、光で照らしてみせますーノ!」

「フ、フフフ……! アハハハハハハハッ!! キィヒハハハハハ!!

 クロノス先生? 闇とは常に光と共に在るもの。消し去る事など出来ないモノ!

 例え吹き飛ばしたと思っても、カタチを変えてアナタの背後忍んでいるのよ!!」

「黙らっしゃーい! ならば、何度でも吹き飛ばすまで!

 ワタシの生徒に忍び寄る闇など、この我が最強のしもべの手で―――否、このクロノス・デ・メディチの手で振り払って見せるノーネ!!」



クロノスが墓地に送ったカード、古代の機械騎士アンティーク・ギアナイト。そして、古代の機械合成獣アンティーク・ギアキメラ

その二体のモンスターのパーツを、融合の魔法で自らの身体に取り込んだ巨人が生誕する。

下半身は二脚から四脚へ。その鈍足を、高速移動を可能とする状態にしつつ、更に脚部が安定した事によりパワー効率も上がる。

そして、ギアが発揮する拳の破壊力を更に高めるべく、右腕は更なる肥大化。

左腕は、三本爪のクローで敵を掴み、粉砕するためのグローブと化していた。

最強の機械巨人。その名は、



古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムと二体のアンティーク・ギアを融合する事で、

 古代の機械究極巨人アンティーク・ギア・アルティメット・ゴーレムを特殊召喚するノーネ!!」



歯車がかみ合い、唸りを上げ、火花と紫電を散らしながら駆動する。

頭部の兜の中で一層輝きを増す真紅の眼光が、敵の吸血鬼を見下ろした。

二体の吸血鬼の攻撃力はともに2000。

究極巨人の攻撃力4400の拳を直撃させれば、カミューラの残りライフを一気に消し飛ばす。

決着の一撃を下すために、巨人がその拳を振り上げた。



「フフフ……その攻撃宣言が行われる前に、ワタシはトラップを発動!」

「うぬぅ!?」



古代の機械たちはバトルに突入してしまえばあらゆるトラップ魔法マジックを許さない。

しかしバトルに入る前に、敵軍が周到に準備していたその罠を無視する事はできないのだ。

クロノスには成すすべなく、そのカードの効果を見送るしかなかった。



「デストラクト・ポーション!

 その効果により、ヴァンパイア・ロードを破壊してその攻撃力分、ライフポイントを回復する!」



カミューラの足許から黒い布のようなものが噴き出し、前方に立っていたヴァンパイアを縛った。

それに何やら驚いた様子の吸血鬼が、強引にカミューラの手元まで引き寄せられた。

自身の前に捧げられた供物にニヤリと嗤ったカミューラは、その肩を抱き寄せ、モンスターの首筋に自分の牙を突き立てた。



ヴァンパイア・ロードの顔が凍る。するとズブリと、どんどん沈んでいく牙。

穴の開いた首からつぅと流れてくる血液。

生気を感じさせなかった肌がより、土に近しい色へと変わっていく。

カラカラに干からびていく吸血鬼の身体。



何秒間そうしていたか、最早ミイラとなった吸血鬼の首筋から口を離すカミューラ。

唇をぬぐい、抱えていた死骸を放ると、ヴァンパイア・ロードだったものは砂のように崩れ去った。



「血、血ィを……!」

「うふふ……この効果で、ワタシのライフは2000回復し、3200。

 例えカース・オブ・ヴァンパイアを破壊したとしても、ワタシのライフは削り切れない」

「そ、それでも攻撃なノーネ……!

 古代の機械究極巨人アンティーク・ギア・アルティメット・ゴーレムでカース・オブ・ヴァンパイアを攻撃なノーネ!!」



機械巨人が大地を踏み砕きながら残ったヴァンパイアの姿を目掛けて侵攻する。

人間大の吸血鬼と同程度の大きさを持つ右腕を、四脚で疾駆している速度のまま、叩きつける。

瞬間的に膨れ上がった吸血鬼の身体が、ッパァンと弾け飛んだ。

黒い血液のようなものをぶち撒けて消し飛ぶヴァンパイア。

その破壊力はモンスターを突き抜け、背後のカミューラの身体を襲う。

攻撃力の差分は2400ポイント。



振り抜いた拳の余波だけでも、それは凶器となりえる威力だった。

大地を抉り、湖面を弾けさせ、周囲の木々を撓らせる暴風がカミューラに襲いかかった。

チィ、と舌を打って身構えるカミューラ。

ハイヒールが地面を削り、その身体を後方へと圧し飛ばそうと暴れ狂う。

何秒間か続いた暴風に耐え抜き、カミューラは乱れた髪を直しながら、ディスクのライフカウンターを確認する。



ぴぴぴ、と。僅か800の数値まで持って行かれたライフポイント。

しかし、この一撃で決着させる事を望んでいたクロノスの願いは外れた事になる。

今この場、どう見ても圧倒しているのはクロノスであり、カミューラは絶体絶命。

だがしかし、その表情に余裕を湛えているのはクロノスではなく、カミューラの方であった。



「カース・オブ・ヴァンパイアが破壊されたこの瞬間、その効果が発動する!

 ライフ500ポイントを彼のヴァンパイアに捧げる事で、その肉体を再び墓地より蘇生するわ!!」



黒い血液の雨が作り出した水溜りの中から、ヴァンパイアの首だけがカミューラの首筋を目掛け、奔った。

首を僅かに傾け、首筋を晒していたカミューラに、その牙が突き立てられる。

再び減り始めるライフカウンターが800から300まで減少すると、そのヴァンパイアの首が崩れ、血溜まりの中に還った。



「再生までに時間を要するため、再び召喚されるのは次のターンのスタンバイフェイズ」



牙が突きたてられ、食い破られた自分の首をそっと撫でるカミューラ。

しかし、撫でていた手が首を離れた時、その傷は既に消え失せていた。

ぐむむ、と息を詰まらせるクロノスに対し、カミューラは笑みを崩さない。



「……ターンエンドなノーネ」

「ならばワタシのターン! デッキよりカードをドローし、カース・オブ・ヴァンパイアが蘇生する!!」



血溜まりの中から腕が、次いで首が、翼が生えてきて、ずるずると下半身まで引き摺り出てくる。

バサリと一度蝙蝠の翼を羽搏かせ、その不死者は再びフィールドに舞い戻ってきた。

紅の瞳は、まるでクロノスを嘲笑うかのように爛々と光っている。



「更に魔法マジックカード、強欲な壺を発動! デッキより2枚のカードをドローする!」



追加でドローしたカードを確認したカミューラは僅かに顔を顰め、再びデッキへと視線を移した。

そのドローで敗北が決定した、というわけではないように見える。

だが、明らかに欲しいカードが出てこなかった、という顔をしている。

その顔を見咎め、クロノスもまた、顔を顰めさせた。



「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

「ワタシのターン、ドローなノーネ」



引いたカードを見たクロノス。

フィールドに再び召喚されたカース・オブ・ヴァンパイアは攻撃表示。

貫通効果を持ち合わせている古代の機械究極巨人アンティーク・ギア・アルティメット・ゴーレムに守備表示は通用しないからだろう。

カース・オブ・ヴァンパイアは自身の効果で蘇生すると、攻撃力を500ポイントアップする。

つまり、今の攻撃力は2500となっているのだ。

尤も、ライフは残り300。更に、攻撃力4400を誇る究極巨人の前では、何の意味もない。



――――の、だが。

未知数の伏せリバースカードが存在するのも事実。

ここは、打てる手は全て打ってから攻撃へと移るべきだろう。



「ワタシは、手札より魔法マジックカード。蜘蛛の糸を発動するノーネ!

 このカードは1ターン前に、相手の墓地に送られたカード1枚を、ワタシの手札に加える事が出来るカードなノーネ。

 この効果により、1ターン前、シニョーラの墓地に送られた強欲な壺をワタシの手札に加えますーノ! びろびろーん!」



ビロビローンという掛け声と共に、クロノスの手からソリッドビジョンの蜘蛛の糸が飛び出した。

それはカミューラのディスクのセメタリーゾーンに張り付き、その中からカードを1枚引き摺り出す。

勿論、それは宣言された通り、強欲な壺のカードであった。



強欲な壺を張り付けたまま、クロノスの手まで引き戻される蜘蛛の糸。

そのカードがクロノスの手に渡った瞬間、その蜘蛛の糸は消滅してしまった。

手札に加えたそのカードを、温存などする理由もなくそのまま自分のデュエルコートに差し込む。



「くっ……!」

「そしてワタシは、強欲な壺を発動!

 蜘蛛の糸のテキストに従い、このカードは再びシニョーラの墓地に送られるノーネ!」



クロノスが発動した強欲な壺をカミューラに対し、投げ渡す。

カミューラはそれを受け取り、自分の墓地に再び送った。

そうして、クロノスの手札が2枚増加する。

2枚の手札に何を見たか、クロノスはその2枚のカードと、カミューラを交互に見て、決心したかのようにディスクにセットした。



「カードを2枚セットしーノ、バトルフェイズに突入するノーネ!」

「ならば、永続トラップ発動! スピリットバリア!

 このカードがフィールドに存在する限り、ワタシはモンスターがフィールドにいる時戦闘ダメージを受けない!」

「ヌヌぬッ……!? 小癪な手ぇを……ええい、それでも攻撃するノーネ!」



モンスター同士の戦闘の場合は、モンスターの破壊判定の前にダメージ計算が行われるため、スピリットバリアは効果を発揮する。

つまり巨人の持つ貫通効果はこれで、無効化されたと言っていい。

ダイレクトアタック以外の攻撃では、もうカミューラにダメージを与えられないのだ。

しかしそれでも、モンスターを破壊する拳を止める手段にはなりえない。



四脚のギアを火花を散らしながら駆動させ、鋼の巨人がカース・オブ・ヴァンパイアを目掛け、疾駆する。

翼の外套を靡かせ、吸血鬼は向かってくる機械巨人の姿を見止める。

血を啜り、魔力を充実させたとはいえ、この実力差は如何ともし難いという事実。

抵抗も反撃も無意味。

吸血鬼は翼で自身の身体を覆うように包まれると、その一撃を待ち受ける。



振り抜かれる巨大な拳が、漆黒の翼ごと吸血鬼の肉体を撃ち抜く。

原型を留めぬほどに粉砕された身体が黒い液体となり、周囲に飛散する。

本来ならばその不死性を活かし、彼のヴァンパイアは血を糧に復活が可能。



「アナタのライフは残り300。もうカース・オブ・ヴァンパイアを蘇生する事はできないノーネ!

 ターンエンド! 次のターンでシニョーラはワタシに敗北する事になるノーネ!」



贄となる血を用意できないのであれば、その復活が成される事はない。

飛散した黒い血液は、ごぽごぽと音を立てて蒸発していく。

その様子を見送ったクロノスは、フィールドの状況を検める。



カミューラは自身の周囲に張られたバリアの効果でダメージを無効化したが、既に追い詰められている。

フィールドにモンスターはなく、スピリットバリアと、伏せリバースカードが2枚。

今までそのカードが使われなかったという事は、恐らく攻撃誘発のトラップ

そして、手札に残っているのは1枚のみ。この状況から究極巨人を打倒し、逆転する術はあるまい。



「――――ワタシのタァーンッ!!」



そう確信して、クロノスは最後のドローカードを行うカミューラへ視線を移した。

だが彼女は、そんな状況で、実に愉しそうに嗤っていた。

口が裂けたのかと思うほど開き、鋭利な牙を惜しげなく見せつけ、嗤っていた。



「キ、――――キヒヒヒヒヒッ! 確かに、もうアナタの勝利が見えてきているわ。

 でもね、クロノス先生。残念だけどこのターンでこのデュエルは終わりよッ!

 最後に教えてさしあげますわぁ……! 闇のデュエルの恐怖を。その混沌をッ!!

 魔法マジックカード発動、幻魔の扉ァッ―――――――!!!」

「幻魔の扉……!? 聞いた事のないカードなノーネ――――!」



瞬間、世界が闇で満たされた。

いつの間にかカミューラの背後に現れていた青銅の門が、中に秘められていた闇を吐き出しながらゆっくりと開いていく。

見た事も、聞いた事もないカードの出現にクロノスが目を細め、その門の中を覗き込んだ。

闇の陰の奥で何かが蠢く。

紅々とした溶岩の中の邪龍、氷壁の中で眠る魔獣、奈落の底で叫ぶ悪魔。

三つの影が渦巻く向こう側から溢れだした邪気が、このフィールドを侵食していく。



「な、なんなノーネ……!」

「ワタシは己の魂を賭けてその効果を発動する……

 その効果は、相手フィールドに存在するモンスター全てを破壊するッ―――!!」



その瘴気は、クロノスのフィールドに存在する最強の機械巨人。

古代の機械究極巨人アンティーク・ギア・アルティメット・ゴーレムの身体ですら、瞬く間にその巨体を呑みこんでいた。

蠢く闇に囚われた機械の巨人は、その鋼の身体を融かされ、ボロボロに崩れ落ちていく。



「うヌゥ……! しかーし、ワタシの古代の機械究極巨人アンティーク・ギア・アルティメット・ゴーレムには、更なる特殊効果が秘められていますーノッ!!

 破壊された時、墓地に存在する古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムを特殊召喚するノーネッ!!」



究極巨人が、自身に取り込んだ他の古代の機械たちのパーツをパージし、闇の中から這いずり出た。

巨大化していた腕の歯車や、四脚となっていた脚部のパーツ。それらを全て放棄した状態。

確かに幻魔の扉によって、究極巨人は破壊された。

だがしかし、究極巨人には破壊された時、融合素材として墓地に送られている筈の古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムを目覚めさせる力がある。

これぞ、究極の名を冠する巨人が秘めた、隙の存在しない二段構えの無敵の布陣。

たとえ相手の死力で究極巨人が倒れたとしても、力尽きた相手を機械巨人が粉砕する。



その布陣の強力さ故に、クロノスは教師として生徒にこれを見せる事はないだろうと考えていた。

まともにやれば、これを正面から打ち破る事は不可能だろう。

それこそ―――――



カミューラのフィールドで開かれた幻魔の扉の中から、鋼で出来た手が出て来た。

ゆっくりゆっくりと姿を現すのは、闇色に染まった鉄と歯車の集合体。

鈍く輝いていた鉄はすっかりとその色を失い、最も強い黒という一色に潰されている。

巨大な右腕、三本爪のアームになっている左腕、そして四脚の下半身。

兜の内側でどんよりと揺らめく真紅の光が、クロノスへと向けられる。



クロノスもまた、その存在を茫然と見返した。

その姿はまさしく、今まで自分の許にいた、古代の機械究極巨人アンティーク・ギア・アルティメット・ゴーレムに他ならない。



「ア、古代の機械究極巨人アンティーク・ギア・アルティメット・ゴーレム……!」

「キヒヒァハハハハハハッ!!

 幻魔の扉は、相手フィールドのモンスター全てを破壊した後、このデュエルで使用されたモンスターを一体。

 召喚条件を無視してあらゆる場所から特殊召喚する事ッ! ワタシが選んだのは勿論、墓地の古代の機械究極巨人アンティーク・ギア・アルティメット・ゴーレム!」







「なんだそのふざけた効果はッ!?」

「デュエルモンスターズの中でも禁止カードとして名高い、サンダー・ボルト……

 そして更に死者蘇生の魔法マジック……いや、召喚制限を無視した蘇生が行えるのであれば、その性能を上回る……!

 間違いなく禁止カード級の効果だ……!!」



カミューラのフィールドには、古代の機械究極巨人。

そしてクロノスの場には古代の機械巨人。

互いのモンスターの攻撃力の差分は、1400ポイント。

クロノスのライフは1700残っているために、まだ耐え切れる……

だが、もし追撃を仕掛けられたら、終わりだ。



「――――その、バカみたいに強いカードが闇のデュエルの恐怖だってのか……」



俺が漏らした言葉に、ヴァンパイアは耳聡く反応を返してきた。



「フフフ……その通りよ。

 このデュエルには今、勝敗だけでなくワタシ自身の魂を賭けているのよ。

 敗北すればワタシは、永劫の奈落へと引きずり込まれる……尤も、この状況下でそんな事はありえないのだけれど」



にたりと表情を崩したカミューラは、クロノスを見据えた。

そのまま攻撃宣言に移るか、と思われたがカミューラは最後の手札をディスクに置いた。



魔法マジックカード、死者蘇生を発動し、ヴァンパイア・バッツを攻撃表示で召喚!」



――――これで、ダメージの総計がクロノスのライフを上回った。

カミューラのフィールドに再び出現する、巨大な蝙蝠。

元々の攻撃力800に加え、自身の能力を受けてその攻撃力は1000に及ぶ。

だがしかし、それでは終わらぬと更に、カミューラはディスクの伏せリバースカードを開く。



魔法マジックカード、威圧する魔眼を発動!

 攻撃力2000以下のアンデットモンスターに、直接攻撃の権利を与える!!」



蝙蝠の紅の眼光が迸り、機械巨人を睥睨した。

能力の下回るモンスターの眼光を浴びせられ、しかし巨人は蹈鞴を踏んで一歩後ずさる。

そのカードの効果により、このターン、ヴァンパイア・バッツはダイレクト・アタックが可能となったのだ。

伏せられていたカードの事実に、カイザーが歯を食い縛る。



「……あのカードは、4ターン前に伏せられていたカード……!

 あのターン、奴の場には攻撃力2000のカース・オブ・ヴァンパイアと、ヴァンパイア・ロードがいた……!」

「――――カミューラは、勝てたのに、勝たなかったというの……?」

「ええ、そう。折角の闇のデュエルだと言うのに、余りにも簡単に決着をつけてしまうのもどうかと思って。

 どうかしら、クロノス先生。ワタシの演出は気にいって頂けたかしら?

 本来生徒を守るべきアナタのしもべが、アナタを踏み潰す様……アナタの大事な生徒たちに見せて差し上げましょう」

「ぬぅ……!」



カミューラがラストターンの、ラストバトルの開幕を告げる。

最初に動くのは、直接攻撃の権利を得たヴァンパイア・バッツ。

そのモンスターが身体を分裂させ、無数の小さな蝙蝠となってクロノスを目掛けて飛翔する。



「さあ、ヴァンパイア・バッツよ! ダイレクトアタックッ、ブラッディ・スパイラルッ!!」

「この瞬間、トラップを発動するノーネッ!」



しかし、クロノスの場には2枚の伏せリバースカードがある。

究極巨人アルティメット・ゴーレムの攻撃に対しては使用できないが、ヴァンパイア・バッツの攻撃に対してならば、使用できる。

微かにカミューラが顔を顰め、ゆっくりと開いて行く伏せリバースの正体が晒されるのを待つ。

開いたカードに描かれていたのは、



トラップカード、立ちはだかる強敵なノーネ!

 このカードは、相手の攻撃宣言に発動し、自軍モンスター一体を選択するカード。

 このターン、相手はこの効果で指定されたモンスター以外に攻撃できず、攻撃可能なモンスターは全て攻撃しなければならないノーネッ!!」



クロノスのフィールドに存在するのは、古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムのみ。

よって、クロノスを目掛けて放たれていた蝙蝠の攻撃は、狙いを強制的に変更され、その巨人に向けられる。

無数の蝙蝠の集合を、腕の一振りで薙ぎ払う機械巨人。

潰れて地面に落ちていく蝙蝠の大群をそのまま踏み潰し、機械の巨人は相手のフィールドに存在する究極巨人と対峙した。



「……ヴァンパイア・バッツは破壊されても、スピリットバリアの効果でダメージは0。

 そして、この古代の機械究極巨人アンティーク・ギア・アルティメット・ゴーレムの攻撃力は、4400。

 攻撃力3000の古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムでは壁にしかならない!

 どうやらほんの少し寿命を延ばしたようね、クロノス先生」

「いいえ、ワタシはその攻撃の前に、最後の伏せリバースカードを発動するノーネ」



そう言ってクロノスは、最後の伏せリバースカードを開くため、デュエルコートのスイッチを押した。

そのカードは、リミッター解除。

自分フィールドに存在する機械族モンスターの攻撃力を倍にするカード。

その代償にエンドフェイズ、この効果を受けたモンスターは全て破壊される事となるが。

無論、古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムは機械族。

その効果を受けて、攻撃力は倍加し、究極巨人のそれすら凌駕する6000に達する。



カミューラが眼を見開き、鋼の身体を灼熱させる巨人に驚愕の眼差しを送った。



「シニョーラのフィールドにスピリットバリアがある以上、この反撃でライフを0にする事はできないノーネ。

 しかーし、次のワタシのターン。アナタのフィールドから全てのモンスターが姿を消している事となりますーノ。

 つまり、次のドローでワタシがモンスターを引き当てれーば、このデュエル。ワタシの勝ちなノーネ」

「フ、フフフ……!」



静かに告げるクロノスのセリフを聞いて、カミューラが堪え切れないと言った風情で嗤いを漏らす。



「そう。次のターンのドロー、それがアナタの光……アナタの託す希望……!

 でも残念ね、先生。このターンでお終いだって言ったでしょう?

 アナタの最後の失敗は、ワタシの最後の伏せリバースカードを見逃していた事……

 伏せリバース魔法マジック発動オープン!! リミッター解除!!!」



寸前のクロノスと全く同じカードが、カミューラのフィールドで開かれる。

そのカードに何より驚愕したのは、恐らくカイザー亮だったのだろう。



「バカな……! アンデット使いの奴のデッキに、何故機械族サポートのカードが……!」

「本来はサイバー・エンド・ドラゴンのためのカードとして渡されたもの……

 ワタシにこの場でのデュエルを指示した者からね。尤も、クロノス先生に使う事になってしまったけれど」



四脚の機械巨人もまた、灼熱する。

限界を越えた駆動を可能とする最後の手段、その効果を得て、その攻撃力は8800に至る。

言うまでもなく、このまま立ちはだかる強敵の効果により、強制戦闘に繋がるのだ。

――――クロノスの希望は繋がらず、カミューラは徹底的にクロノスのデュエルを貶める。



「フフフ……古代の機械究極巨人アンティーク・ギア・アルティメット・ゴーレムで、古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムを攻撃ッ!」



四脚が火花を散らし、灼熱の雄叫びを上げる。

両腕を振りかざした格好のままに、機械の巨神は巨人を目掛けて殺到した。

巨人も崩壊を約束する代わりに引き出した能力を、限界を越えて発揮する事でそれに立ち向かう。

上から抑え付けるような状態で、巨神は巨人の腕を掴み取る。

巨神の右手と巨人の左手が指を絡ませて、押し合うような体勢に入るかと思えば、

巨神の左腕、三本爪のアームが巨人の右腕を掴み取り、爪を動かすための歯車を回して圧迫していく。

まるで粘土のように引き潰されていく右腕。しかし、巨人は一歩も引かずに力勝負に挑んでいく。



見えてしまっている勝負を見守りながら、クロノスはその瞳でカミューラを見据えた。



「……シニョーラ・カミューラ。

 アナタは、光と闇は共に在るもの、と言った。その言葉はけして、ワタシの意思を否定する事にならない」

「―――――――?」



敗北を確信した中で、クロノスは静かに語り続ける。



「どこかに闇が生まれようともワタシは、生徒たちを導く光として護り続ける。その意思は変わらない。

 ワタシが敗北しても、それは変わらないノーネ。

 何故ならば、ワタシたち教師は、自分が光となり生徒たちを導きながら、生徒たちという光に照らされているからですーノ。

 けして、闇になど堕ちはしない。この敗北が生徒たちの歩む道を照らす光となる事を信じ、それを受け入れるノーネ」



そうして、クロノスは自分の生徒たちに向き直った。



究極巨人が、巨人の右腕を引き千切り、内部のパーツをばら撒いた。

その勢いで体勢を崩した瞬間に、左腕が握り潰される。

更に、後部の脚二本で身体を持ち上げた究極巨人は、二本の前脚で巨人の胴体を蹴り破った。

ぐちゃぐちゃに折れ曲がった鉄板と、砕けた歯車が宙を舞う。

既に内部はいかれており、このまま崩れ落ちる以外に巨人の行動はありえない。

だがしかし、



「諸君、よく見ておくノーネ。そして約束してくださーい。

 ワタシはこれより、闇のデュエルに敗北します。……しかし、闇はけして光を凌駕できない。

 その事を胸に刻み、どのような状況に至ってもけして諦めず、心を折らぬ事。

 これをどんな時でも、絶対に忘れない事……それが、敗者であるワタシに教えられる、最後の授業なノーネ」

「クロノス教諭……!」

「クロノス先生!」



それでもなお、立ち上がる。

今にも崩れそうな身体を、最早中身など残っていない鉄の塊が、より一層眼光を強めて立ち上がる。

疾走するだけで大地を揺らし、湖を氾濫させる究極の機械巨人を前に、一歩も退かぬ。

否、退かぬばかりか前に出る。

それはただ、自重を支えきれぬ鉄屑と成り果てた巨人の崩壊だったのかもしれない。

しかし、後ろに吹き飛ばされるような攻撃を幾度も受けていても、倒れる方向は相手に向けて。



「そう! 行くノーネ、古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレム!!

 ワタシたちはけして折れないというところを、最後の最期に、みなに見せつけねばならないノーネ!!!」



主人の声に反応した鉄屑が、変形し、潰れた兜の中でまた真紅の光を灯す。

べきべきと音を立てて折れる脚部。しかし、それでも前へと。

究極巨人を押し倒す勢いで、鋼の弾丸となって突っ込む。

しかし、その巨人の頭部を、究極巨人の右腕が掴み取る。

その右腕が持ち上げられると、巨人の身体も自ずと持ち上げられていく。

宙釣りにされた巨人が、それでも前へと身体を揺する。

しかし、灼熱の究極巨人のパワーの前には、最早足掻いたところで何もできなかった。



「ヌヌゥ……!」

「最後の授業、いいお話だったわクロノス先生! トドメを刺しなさい、古代の機械究極巨人アンティーク・ギア・アルティメット・ゴーレム!!」



ぐらぐらと巨人が宙で揺れる。

その頭部を握り潰し、地に落ちた胴体を踏み砕けばそれで終了。

――――だと言うのに、究極巨人は動かなかった。



「――――――ッ!」



何よりも、誇り。

主人に反逆して暴れ狂う究極巨人の動作が、誇りと光に突き動かされている巨人の姿を見て、止まっていた。

それを見たカミューラは微かに歯軋りし、その瞳を紅々と輝かせる。

途端、カミューラの背後に開かれていた幻魔の扉から再び闇が溢れだし、究極巨人の身体を侵していく。



「動かないと言うならば、共に朽ち果てなさい!」



崩れ落ちていく二体の巨人が、クロノスの頭上に降り注ぐ。

二体の攻撃力の差は2400ポイント。

そのダメージがクロノスのライフを直撃し、カウンターが0を指示した。

ぴー、という音とともに、クロノスの姿は黒い鉄と歯車の中に埋もれ、見えなくなった。











「クロノス、教諭………!」

「かっこよかったぜ……クロノス先生―――!」



カミューラが倒れ伏すクロノスから、七星門の鍵を奪う。

その鍵が、デュエルの勝者であるセブンスターズの意思に従い、七星門の許へと消えた。



「やっと一つ、約束通り彼の魂はワタシのコレクションになってもらいましょうか」



そう言ってカミューラが取り出したのは、粗末な人形だった。

ぼう、と紫色の炎に包まれたその人形に呼応するようにクロノスの身体も燃え上がり、消えていく。

その途端、ただの粗末な人形だったものが、クロノスの人形へと変わっていた。



「それにしても、好みじゃないわね……ま、いいわ。

 さ、次の対戦相手はどなたかしら?」

「オレが――――!」



真っ先に名乗りを上げた十代を制し、カイザーが前に出る。



「フフフ……どうやらやる気十分のようね。

 いいでしょう。今宵の第二幕、ならば、アナタにお相手願おうかしら!」

「ああ、そのつもりだ」



パチン、とカミューラが指を鳴らす。

すると背後の湖を覆う霧の中から、巨大な城の影が姿を現した。



「あれは……!」

「城……! あんなもの、どこから……!?」

「今宵の舞踏会は余人禁制。ワタシと、アナタ。二人きりで愉しむとしましょう――――」



その言葉に息を呑む。

それはつまり、幻魔の扉の最大にして最凶の効果を捨てるに等しい。

そうだとすれば、あとはカイザーに任せれば、カミューラを倒してくれる、筈だ。



「いいだろう」

「では、始めましょう――――あの我が居城で!」

「オレが証明してやる。クロノス教諭の繋いでくれた光を」



そう言って、二人は湖にかけられた真紅のカーペットを渡っていった。

二人が渡った傍からそのカーペットは消えていく。

そして二人が城の中に消えると同時、城は外から見えなくなってしまった。







「………カイザーなら、大丈夫」

「ええ、亮なら」



俺の確認するような呟きに、明日香が応える。



「――――当然だ、カイザーの名には、それだけの重みがある」

「デュエルアカデミア最強。そして、カイザー亮はアカデミア歴代のカイザーの中でも最強と謳われる実力」



万丈目と三沢もまた、それを疑う事などない。

無論、十代だってそうだろう。

カイザー、丸藤亮の実力ならばカミューラを相手取っても勝ちを取れる。

実力面でも間違いなく、かつクロノス先生がカミューラに使わせた幻魔の扉の対処法も間違いなく考えているだろう。

今、カイザー亮が負ける要因は皆無。



「おーい、十代!」

「隼人!」



隼人が湖畔の前で立ち尽くす俺たちに向けて、隼人が駆け寄ってくる。

レッド寮に残ってもらった二人は、普通に奔ってきた様子だ。

―――――二人、は?



「隼人……翔はどうした?」

「え? 翔なら、急に行かなきゃならないトコがあるって言って、どっかに行っちゃったんだな」

「自分のアニキが戦っているって言うのに呑気な奴だ」



溜め息を吐く万丈目の言葉も気にせず、すぐさま湖の城へと目を送る。



「まさか……まさか―――――!?」



何故、カミューラはリミッター解除などデッキに入れていたのか。

サイバー・エンド・ドラゴンが彼女の好みの男のデッキに入っているなど、彼女自身知らなかった筈だ。

カミューラは今までで蝙蝠によるデッキの盗み見などする時間はなかった筈なのだから。

だとすれば、彼女の言う“この場でのデュエルを指示した者”――――!



サイバー・エンドに対する備えを与えた者。

そいつから、丸藤亮と、丸藤翔の関係を聞いていれば……?



「カイザー……! 翔……!!」











夜明けも間近な頃。

再び出現した真紅のカーペットを渡り、戻ってきたのは、

翔の姿だけであった。











後☆書☆王



喋らない主人公。あぁ、主人公はクロノス先生だったよね。

ま、次回は主人公回だからという事で。主人公VSカミューラは久々20ターン越えだぜ。

まあ主人公VS遊星以外で20ターン越えた事ないけど。

俺の憧れる教師ランキング第二位、クロノス先生。一位はぬ~べ~。



クロノスの魂を幻魔の扉のコストにするカミューラVSカイザー、とかもやってみたかったけど。

ま、カットで。カイザーはどうせ大きく変わらないし。



冒頭の謎の会話。一体奴らは何者なんだ……(棒)



ライダー持たせても、やっぱりサンダーの本領はVS長作戦からだから投入せず。

十代とのデュエルは原作通りに消化。本番は黒蠍からかな。



THE LOST MILLENNIUM(キリッ!

なんのこっちゃ。

そういえば小説版の遊戯王で社長が機械巨人っぽいのを使ってたなぁ。



ヘルヴァニア……このくらいならOCG化できると思うけどなぁ。

むしろこのくらいプッシュがあってもよかったんじゃなかろうか。

OCG混沌期の真っ只中だったんだから。サイエンカタパは消えたけど。

主力のヴァンパイアロードは派遣されすぎたせいで制限食らってた中、その時の改正でようやっと準制限に帰還。

攻撃力が上かつぽんと出てくるサイドラが出た事も大きかったか。

これ放送してた頃は確か開闢、混黒、サイバーポッド、強奪、破壊輪、現世と冥界の逆転なんかが制限。

突然変異とサンザントアイズ無制限。

めざせデュエルキング辺りに手を出すとこの頃のカオスの片鱗が味わえる。

追放開闢原初ショッカーリミ解の無限ループ。みんなやったよね。



ギアキャッスル「撃ち抜く、止めてみろ!」

ギアキャッスルの支援を受けて、ギアソルジャーで攻撃なノーネ。

ツインドライブチェック! トランザムトリガー発動!



アビドス戦を主人公にやらせたら、

「アブソルートZeroだろうがウルティメイトゼロだろうがガンダムOOダブルゼロだろうが!

 余のスピリット・オブ・ファラオには敵うまい!」とか言わせてたかもしれない。

ダブルオーはまだしもウルティメイトゼロは無理だと思う。

他にもインターセプトデーモン(CV:パラドックス)「YAーHAー!」とか。

アストラル「デビルバット幽霊ゴーストとはどんな効果だ、いつ発動する?」とか。

ちなみに泥門デビルバッツにはアストラル、パラドックス、フレア・スカラベ、大徳寺、

ジャック、鮫島校長(磯野・ロットン)、カイザー亮、ガーディアン・バオウ、牛尾、剣山が所属している。

まぁ、だからなんだと。



ほうとう様よりの指摘。

>>ダークネス、つまり吹雪の弟である明日香……
おっと明日香が男になっていた。

こりゃ困っちまうな。そりゃもうあれとかこれとか……あれ、困る?

修正しました。


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