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No.26037の一覧
[0] 【ネタ】トリップしてデュエルして(遊戯王シリーズ)[イメージ](2011/11/13 21:23)
[1] リメンバーわくわくさん編[イメージ](2014/09/29 00:35)
[2] デュエルを一本書こうと思ったらいつの間にか二本書いていた。な…なにを(ry[イメージ](2011/11/13 21:24)
[3] 太陽神「俺は太陽の破片 真っ赤に燃えるマグマ 永遠のために君のために生まれ変わる~」 生まれ変わった結果がヲーである[イメージ](2011/03/28 21:40)
[4] 主人公がデュエルしない件について[イメージ](2012/02/21 21:35)
[5] 交差する絆[イメージ](2011/04/20 13:41)
[6] ワシの波動竜騎士は百八式まであるぞ[イメージ](2011/05/04 23:22)
[7] らぶ&くらいしす! キミのことを想うとはーとがばーすと![イメージ](2014/09/30 20:53)
[8] 復活! 万丈目ライダー!![イメージ](2011/11/13 21:41)
[9] 古代の機械心[イメージ](2011/05/26 14:22)
[10] セイヴァードラゴンがシンクロチューナーになると思っていた時期が私にもありました[イメージ](2011/06/26 14:51)
[12] 主人公のキャラの迷走っぷりがアクセルシンクロ[イメージ](2011/08/10 23:55)
[13] スーパー墓地からのトラップ!? タイム[イメージ](2011/11/13 21:12)
[14] 恐れぬほど強く[イメージ](2012/02/26 01:04)
[15] 風が吹く刻[イメージ](2012/07/19 04:20)
[16] 追う者、追われる者―追い越し、その先へ―[イメージ](2014/09/28 19:47)
[17] この回を書き始めたのは一体いつだったか・・・[イメージ](2014/09/28 19:49)
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[26037] 復活! 万丈目ライダー!!
Name: イメージ◆294db6ee ID:a8e1d118 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/13 21:41








宵闇に包まれた空の許、一隻のボートが後部を浸水させ、半ば沈んでいる。

周辺には何もない海洋のど真ん中での沈没。

その上でぽつりと佇む一人の少年にとっては、遭難という言葉が相応しい、命に関わる状況である。

だが少年はそんな事よりも、別の怒りに心を支配されていた。



「クロノスめ……三沢大地め……遊城十代め……!」

『ガッチャッ! 楽しいデュエルだったぜ!』

「うるさいッ!!」



デュエルアカデミアで初めて自分に土をつけた男。

遊城十代の腹立たしいまでに明るい顔を思いだし、思わず自分の想像に対して怒鳴り散らす。

そのまま収まらぬ怒りをぶつぶつと呟く様は、まるで本当に会話をしているようにすら見えた。



「勝ちゃあ楽しいだろうよ……なにがゲロッパだ」

『言ってない言ってない』



ゲロッパだろうがガチョーンだろうがどうでもいい。

ただ、その時からだ。成功を約束されていたこの万丈目準のデュエリスト人生が狂い始めたのは。

丸藤亮が卒業した後は、カイザーの称号を継ぐ事も夢ではなかった。

アカデミアのエリート、オベリスクブルー1年の中でも更にエリート。



何一つ汚点はなかった。

それなのに、高等部へ上がり、あの十代とのデュエルで敗北した。

その後は落ちこぼれのオシリスレッドに負けたドロップアウト以下として扱われた。

オベリスクブルーを監督するクロノス教諭にもそう扱われ、揚句に三沢大地との寮入れ替えデュエルを仕組まれた。



それを利用して目触りな三沢をデュエルアカデミアを排除してやろうと思えば、再び敗北してこの有様だ。

ギリギリと歯を食い縛り、拳を握り込む。



「だが、もう一度やればオレが勝つ!」

『お、いいなぁ! やる気満々じゃん!』

「ぬ、ぎっ!」



再び想像上の十代の憎らしい顔が脳裏に浮かび、挑発的な顔を見せつける。

そのイメージの十代に向かって腕を振るい、吹っ飛ばす。

掻き消えたイメージを、消してやったぞどうだ見たことか、と言わんばかりに笑ってやる。



「ハハハハハッ……!」



しかし、ここは絶海の浮島でしかない。

そんな事は無駄な体力の浪費に他ならないだろう。

そして、無駄な浪費は体力だけではない。

船のポケットに入った500mlのペットボトルを取り出し、キャップを開ける。

僅かばかり残った水を、そのまま咽喉へ流し込んだ。



「こいつが最後か……!」

『なぁ万丈目、早く帰ってこいよ。オレとデュエルしよううぜー』

「ぬぎぎぃ……! うるさぁいっ!!」



纏わりつくような十代のビジョンに腹を立て、一瞬我を忘れた。

そのビジョンを振り払うように思いっきり腕を振るうと、すぽんとペットボトルが手からすっぽ抜けた。

もう水は入っていないが、それでも容器はこれから何とか生き延びる事を望むなら必要な代物。

当然捨てる気など微塵もなかったものを放り投げてしまった事になる。



「ぬあ、あぁあああっ!?」



正気に戻り、それを掴み取ろうと手を伸ばし、身を乗り出す。

当然投げられたペットボトルに手が届くなんていうことはなく、霧の中に消えていく。

その上、体勢悪く乗り出してしまったが為に、万丈目の身体は船から転げ落ち、海水の中へとダイブした。



ざっぷーんと水の柱を立てて落ちる身体。

着衣は重く、デュエルディスクもつけている。その上遭難していたがために心身ともに限界。

万丈目は抵抗できずに、水底を目掛けて沈むしかなかった。



――――おのれぇ十代ぃ! 全部キサマのせいだぁっ!!



沈み行く万丈目は最後に溺れながらも十代に呪詛を吐く。

そして、そのまま意識を失ったのであった。



その万丈目の近くに、音もたてずに巨大な影が忍び寄っていた。











『あにき、ねぇあにき、あにき、あぁにきぃ、気がついてくださいよぉ』



誰かに、何か声がかけられている気がする。

それも自分の顔の目の前で。

張り付いた瞼を開けようとしながら、目の前で小蝿のようにうるさいものを手で跳ね除ける。

矢張り何か聞こえたような気がしたが、開いた瞼の先には何もいなかった。

幻聴か、などと思っていると、今度は違う場所から声がする。



「気がついたようじゃな」

「う……ここはどこだ。くじらの腹の中か? う」



起き上がり、目の前に佇んでいる人物を捉える。

マスクとマフラーで顔を隠し、全身に昆布を張り付けた謎の男。

性別は見て取る事はできないが、声の感じからして恐らく男だろうと思わせた。



周囲はくじらの腹の中にしては、妙だ。

いま万丈目が横たわっていた場所など、海藻でぐちゃぐちゃとなった鉄板らしきもの。

少なくとも何かの生物の腹の中とは考えにくい。



「誰だキサマ、何者だ!」

「ふっふっふ、ワシの名前などどうでもいい。お前、デュエリストなのか?」



両手に持ったカードを見せながら、その昆布男は万丈目に問う。

自分の腕にはめてあるディスクを見ると、セットされていた筈のデッキが無くなっている。

と言う事はあのカードは昆布男のものでなく、そのディスクに入っていたデッキだと言う事だろう。



「そのカードはオレのデッキか。返せ、昆布オバケ」

「残念だが、全てびしょぬれでダメになってしもうた」



男が手を離し、カードはばちゃばちゃと音を立てて水の中へ。

奇しくも三沢に対して万丈目が行った行為が、そのまま自身に跳ね返ってくる事になった。

ぎり、と唇を噛み締めた万丈目はその男を睨むと、声を荒げる。



「このジジイ!」



怒鳴り上げる万丈目を前に、昆布男は懐に手を突き入れると、それを勢いよく引き抜いた。

瞬間、何かが飛来するのを見取った万丈目はそれを掴み取る。

掴み取ったのは1枚のカード。



「そのカードはワシからのプレゼントじゃ」

「プレゼントだと……? ん?」



投げられたカードを見る。

そのカードに描かれているのは、黄色い体色を持つ珍妙な生物。

目玉が触覚のように突き出ており、赤い水玉パンツを穿いたモンスターだ。

名前はおじゃま・イエロー。攻撃力は0、守備力は1000。ついでに、何かの効果を持っているわけではない。

つまり、雑魚モンスターだ。



「なんだ、このカードは……!」

「こ、こら何をする!」



自分のカードを放り捨てられた腹いせに、そのカードを床の水溜りの中に叩きつけようと構える。

すると、昆布男が泡を食って止めに入ってきた。

仕方なくそちらに視線を向けると、安堵したかのように昆布男は言葉を続ける。



「そのカードを捨てると後悔することになるぞ……」

「後悔? どういう意味だ?」

「お前は強くなりたい強くなりたいとうなされていたな。

 クロノスとか、ミサワとかジュウダイとか言っておったが……お前は本当に強くなりたいのか」



自分の恥を晒す失態に唇を噛み締め、舌を鳴らす。



「オレとした事が……!」

『へへへ、言ったろ? この学園で一番はオレだって』

「当り前だ! 力を望まん男が何処にいる!」



再び浮かぶ十代のビジョンを無視して、昆布男に向けて怒鳴った。

その言葉をあざ笑うかのように、その昆布男はまだ質問を重ねてくる。



「その努力をする覚悟があるのか?」

「努力だと……キサマ、誰に向かって―――! オレは万丈目準、万丈目さんだ!!」

「ふふふふふ……努力は嫌い、だが強くなりたい。呆れ果てた奴だ。

 が、まあいい。お前には人と違った能力があるようじゃ。いい場所に連れて行ってやろう」



その瞬間、万丈目の頭上に穴が開いた。

流れ込んでくる海水の渦に、万丈目は頭から呑み込まれた。

ごぼっ、と呼吸しようとした肺に侵攻してくる海水を咳き込みながら吐き出し、

こちらに背を向けた昆布へ射殺さんばかりの視線を送る。



「ぬ、あ……キ、さまぁごぶっ……!?」

「しっかりやるんじゃぞ!」



昆布男はすぐさま別のエリアに退避したようで、こちらの水などお構いなしだ。

周囲を満たすほどに注水され切った空間で、万丈目は口を抑えて、周りを見回した。

どこにも出口らしきものはない。水が流れ込んで来た場所も、既に閉まっている。

このままでは、窒息死する以外の道がない。



そう感じた瞬間、先程の水の入り口が再び開いた。

即座にそちらへと向かおうとした途端、満たされていた水が、急に流れを持って外へ向かう。

なんだ、と首を傾げている暇などなかった。

万丈目の身体は波に浚われて、外へと押し流されたのだ。



流れるプールとかそんな生易しいものではない。

身体が砲弾にされて撃ち出されたかのように、思い切りシャッフルされて放出された。

息を堪えてそれに耐えていると、身体に突然の浮遊感が襲ってくる。

目を開くと、射出された自分が海面を突き抜け、大きく打ち上がった状態なのだと理解できた。

無論、そこからは自由落下である。



「ぐぁっ……!? ぁ!」



地面に叩き付けられた万丈目は頭を横に振りながら起き上がる。

海面から上空に放り出され、そのまま地面に落ちたと言うのに頑丈なものである。



「昆布オバケめ……無茶苦茶やりやがって……!」



起き上がった場所は、まるで日本と思えぬ雪と氷に閉ざされた極寒の大地。

そんな余りに突然な光景に、万丈目は驚きで言葉を漏らす。



「こ、ここは一体どこなんだ……あの建物は……!?」



視線の先に映るのは真っ白な氷原の中に佇む、黄色の建物。

塔のような背の高い建造物を中心に構成されているので、この白一色の風景の中で一際目立っている。

―――昆布の男はいいところに連れて行ってやる、などと言っていた。

そしてこの風景の中に、明確な“場所”として示す事ができるものがあれ以外あるとも思えない。

なら、まずはあそこを目指していくべきか。



「ふん、ジジイめ。オレ様を試す気か。よかろう、この万丈目準を舐めるなよ……!」



どちらにせよ、そこ以外に行くところはない。

その上食料も飲料水も、そしてカードも持ち合わせていない今、それ以外の選択肢もないだろう。

制服の襟を直し、海水を払ってその建物へと向け、歩み始める。











その建物を目前とすると、そこは正面の木製の門以外ただ壁が続いているだけだった。

わざわざ周囲を一周する気もなかったので、その門の前に行き、叩く。

ダンダンダンと断続的に門を揺らし、声を張り上げる。



「開けろ! おい、誰かいないのか!?」

「無駄じゃ……」



門からの反応はなかったが、横合いから声がかかってきた。

そちらに視線を向けると、頭頂部の禿げ上がった眼鏡をかけた男性の姿がある。

所々破けたボロボロのジャケットにズボン、擦り切れたブーツ。そして腕のデュエルディスク。

生きる事に疲労し切ったと言わんばかりの生気のない表情。



「ここはデュエルアカデミアノース校……その門は、40枚のカードがなければ開かない……」

「ここがノース校……? オレはここに来るまでにデッキをなくしたんだ」



どうやらこの男性はここの事をよく知っているようなので、話を聞くべくそちらに足を向ける。

男性はどこからか乾いた木を持ってきて、火を焚いて温まっている。



「扉は40枚のカードがなければ開かない。それがここの入学条件だ」

「ふん……」



海の中に放りだされ、極寒の大地を歩かされ、万丈目の身体は冷えていた。

折角なのでその火で身体を熱する。

どちらにせよデッキのない万丈目ではこの中に入る事は叶わない。

どうしたものかと考えていると、男性は言う。



「だが入る方法はある。この学園の周りのクレバスや洞窟にカードが隠されている。

 それを見つければいい……でなければ、ワタシと同じ運命だ」



そう言って彼は万丈目に目を向け、小さく自嘲の笑みを浮かべた。

つまり、彼は40枚のカードを持っていないのだ。

しかし、デュエルディスクにはカードが納められている。



「お前、それは?」

「このデッキには39枚しかない……

 これだけ集めるのに、ワシは体力・気力を全て使い切ってしまった……」

「ふん、要はただの脱落者か。ならばジジイ、これでそのカードを売れ」



懐からクレジットカードを取り出し、男性に向けて差し出す。

万丈目準としての個人資産だ。

この男が使わないのであれば、自分が有用に扱ってやるまでだ。

一応、万丈目の懐にはあの昆布から貰い受けたモンスターカードが1枚ある。

それでジャスト40枚。条件はクリアできる。

だがしかし、



「い、嫌だ……! これはワタシの生きた証なんだ! お前はそれを奪うというのか!?」



男はそれを拒否し、デュエルディスクを庇うように抱え込む。

それを見た万丈目は軽く鼻を鳴らし、立ち上がった。



「まぁいい、自分の事は自分でやる」



男の言うとおりならば、この周辺一帯には様々なカードがある筈。

どうせならば自分好みのカードを拾い集め、デッキを作るのがいい。

最後に男性が、声を張り上げているのを聞きながら、万丈目は冒険の旅に身を投じたのであった。



「気をつけろ! 強いカードは、より険しい場所にある!!」







それからの万丈目は、一心不乱にカードを拾っていった。

氷山を上り巨大ネズミを獲得し、氷柱の中に封印された逆切れパンダと破壊輪を氷を粉砕してゲット。

氷が浮かんでいる極寒の海水を泳ぐ事でリミッター解除を手に入れ、次なるカードを求めて底の見えないクレバスを降りていく。



――――見てろよ十代、オレは絶対にドロップアウトなんてしない!











そうして、彼は戻ってきた。

40枚のカードを手に入れ、スタート地点であるノース校の門の前に。

そこまでくると見えてくるのは門だけではなく、焚火の前の男性も見えた。

未だに当たり続けているのを見ると、カードを拾うでもなく、諦めるでもなく、ただ茫然としていたのだろう。



「まだいたのか、ジジイ」

「おお! 帰ってきた!? カードを40枚集めたのか!?」

「ああ。北海のシャチと闘い、果てしない断崖を上り、白クマと闘い、吸血コウモリと闘い、遂に揃えたぜ!!」



一体ここはどこなのか、と言わざるを得ない環境であった。

よもやシャチと白クマはともかく、その二種が生きる環境でコウモリがいるとはとても変わった地域である。

元より、ここが地図上でどこに分布されるかなど関係ない。いるんだからしょうがない。



「そうか、では晴れて門の中に入れるのだな!

 よかったよかった……ワシは、キミが去った後ずっと後悔しておった」



男はかけた眼鏡を外し、目頭の涙をぬぐう。



「後悔?」

「ワシはあの時、キミにカードを譲るべきだったのだ!

 若いキミは、ワシのようになってはならん! だが、キミは無事に戻ってきてくれた……

 さあ行きたまえ。扉はキミを迎え入れるだろう」



その言葉に、微かに感じ入る。

万丈目の中で他者とは蹴落とす、あるいは自身を讃える存在でしかないものであった。

純粋に、他者を慮る事ができる人間など自分の周りにはいなかった。

しかも、この男は自分の事などどうでもいい、と。



―――――そんな事を言われて、



「ジジイ……お前も一緒に行くんだ」

「え?」

「オレがカードを1枚恵んでやる。それでお前も40枚揃うんだろう?」

「な、なんと。ワシにカードを……! だが―――」

「41枚揃えたのさ。勘違いするな、オレのデッキには不要なカードだ」



デッキの中から1枚。

あの昆布から貰い受けた、おじゃまイエローのカードを抜きだす。

万丈目のデッキはいずれも行くだけでも凄まじく難易度の高い場所から集めて来たカードで作られている。

そのカードたちに比べれば、攻撃力0のモンスターなど、要らないカード以外の何物でもない。

そうして、男の前にそれを思い切り突き付けてやる。



「そら!」

「おっ?」



万丈目の突き出した腕は横に逸れ、男の目の前から遠ざかる。



「く、くれるんじゃないのか?」

「な、なんだ……この手が、勝手に……!」



勝手に動く手をもう一方の腕で抑え込み、無理矢理動かそうとする。

すると―――ぼふん、と謎の煙がカードのイラストから噴き出す。

その煙の中には、触覚のように目玉を生やした珍妙な生物が現れた。



『ねぇねぇあにきぃ、なんでオイラを他人にあげようとするうんだよぅ』

「な、なんだお前!?」



その珍妙な生物、カードイラストに描かれているおじゃまイエローだ。

そいつはくねくねと気持ち悪く動きながら、万丈目の方に向かってくる。



「どうかしたのか?」

「見えないのか!?」

「なにがです?」



男には見えず、万丈目にのみ見えているらしい。



『あにきにしかオイラの姿は見えないよぉ』

「なにぃ!?」

『ねぇねぇ、オイラを他人にあげたりしないでよぉ』

「ええい、鬱陶しい……!」



目の前でくねくねと動いているおじゃまイエローを振り払うと、今度は後ろに回ってきた。



『お願いだよ、オイラにはホントの兄弟がいるんだ。一緒に探しておくれよぉ』

「ぬ、ぐぃ……! ―――えっと、カードをやるんだったな……ほら」



おじゃまイエローをデッキに戻し、自分のデッキの中で抜いても大丈夫そうな無難なカードを選ぶ。

それを男の手に掴ませ、デッキをデュエルディスクに戻す。

すると男は歓喜し、そのカードを自分のデッキに納めた。これで40枚。条件はクリアできたわけだ。



「ありがたや……! あ、アナタのお名前は……?」

「オレの名は万丈目、万丈目準だ。ジジイ、先に行け。オレは疲れた」



そう言って男が焚いていた焚火に向けて歩きだす。



「おお、万丈目さん! アナタは優しい人だ! だが、ホントにいいのか……?」

「うるさい。言った筈だ、オレはまだ40枚カードがあるんだ。早く行かないとカードを返してもらうぞ?」

「で、ではお先に……中で待っておりますぞ!」



そう言って男は門の前に駆け寄る。

すると、硬く鎖されていた門が開き、カードを集めた者にその門戸を開放した。

駆けこんでいく男を尻目に、万丈目は焚火の前に座る。



「ちくちょう……1枚足りなくなっちまったぜ……」



何をやっているのか、と自嘲の笑みを浮かべる。

ジャスト40枚しかないメインデッキのカードを恵んでやれば、こんな事になると分かり切っていたというのに。



『へへへ! お前さぁ、いい奴じゃん!』

「やかましいッ!!」



また浮かんできた十代のビジョンに、その拳を振るう。

思い切り笑っている奴の面をはっ倒す気持ちで振るった拳は、当然空振りして突き抜ける。

その拳はただの空振りに終わらず、背後の氷の壁にぶつかった。

ぐしゃ、と。いい音をたてる拳。



「い゛っ、たぁああああああああ!?」

『うっわぁ、痛そうだなぁ……大丈夫か、万丈目』

「ええい黙れ! 何もかもキサマのせいだ! ―――ん?」



しかし、その拳を叩き付けられた氷の壁が、びきびきと罅を走らせて、割れた。

氷の破片が飛び散るのを見ていた万丈目は、その氷の中に埋まっていた1枚のカードを見つける。



「なるほど。灯台下暗し、ってわけか……それにしてもお前もラッキーだったな。

 こんなところにあるカード、オレ様じゃなければ気付かなかったろうよ」

『いやいや、偶然じゃん』



氷の破片とともに落ちたカードを拾い上げる。

そのカードを見た万丈目の顔が僅かに、驚きに染まる。



「ククク……あのジジイに感謝しなきゃな……おかげでいいカードが手に入ったぜ」

『なぁなぁ、オレにはないのか? おーい、万丈目ー?』

「お、ま、えは……うるっさぁーいっ!!!」







「よく見ろ! カードは40枚あるぞ!」



門の前に立ち、デュエルディスクを示す。

すると門の上から赤い光が降り注ぎ、ディスクを照らした。

その光に導かれるかのように起動するディスク。

それは門がその者をこの門を通ってよいデュエリストだと認めた、と言う事に他ならない。



ギギギ、と木製らしい音を立てて開く扉。

その中に広がるのは木造建築の家々。西部劇で見そうな拵えに、その並び。

まるで時代錯誤なそのセンスにも驚くが、この極寒の大地の中でこの建築様式……?

と、万丈目は意表を衝かれた気分だった。



なんにせよ、この中でとりあえず誰かに話を聞こう。

そう思い至った万丈目は、歩き始めた。

その途端だった。



一軒の家から、ガラスの割れる音が響いてきた。

そちらへと眼を送ると、その家から放り出される一つの人影。

当然、万丈目はそちらへと駆け寄っていく。

その影の正体は、先程外にいた頭の禿げ上がった男に相違なかったからだ。



「おい、ジジイ! 何があった!?」

「おお、万丈目さん……」

「ふふふ……ちょっと新入生を歓迎したまでよ」



声は、先程この男が放り出された家の中から。

そこにはこの学園の生徒と思しき、大量の人の群れ。

誰も彼も、その男と万丈目を見て嘲笑うかのような表情をしている。



立ち並ぶそいつらを見ていると今度は背後に気配を感じ、振り返る。

同じく、この学園の生徒だろう奴らが万丈目たちを取り囲むように現れていた。



「ようこそ! デュエルアカデミアノース校へ」



再び家屋の中から声がした。

そちらに目を向けると、一際体格のいい男が揺り椅子に座り、万丈目たちを見ている。

明らかに抜きん出た四人の取り巻きを侍らせ、ゆらゆらと椅子にもたれかかっている男は、かなりの手練と見える。



「……お前は?」

「オレはここの生徒会長、人はオレをキングと呼ぶ。

 新入生はここの仕来たりに従い、歓迎を受けなくちゃならねぇ」

「仕来たりだと?」



そうやって笑う顔には、隠しきれない嫌味が現れていた。

尤も隠す気もないのだろうが。



「名付けて死の五十人抜きデュエル。この学園は力こそが全て」



キングとやらがそういうと、周りの四人の取り巻きが、その後を継ぐような言葉を続ける。



「厳格なランク付けが存在する」

「新入生は順列が格下の者から戦い」

「負けたところでランクが決まる」

「五十人抜けたら」

「オレ様が相手をしてやる」



つまりはこの五人が上から数えたトップ5。

この五十人の中でも、天辺に君臨する男たちなのだろう。

そいつらを見ていると、横合いから別の男の声がかかってくる。



「そいつは最初のデュエルで負けた。だから一番ランクが下だ」

「存分に扱き使ってやるぜ」



そいつ、というのはこの頭の禿げ上がった男の事だろう。

最初のデュエルの相手をした、ということはそいつが一番下のランクだったのだろう。

漸く下位の存在ができた男は、嫌味に笑っていた。



力が全て。力無き者には何もない。

分かり易く、公平な不公平を齎す強引なルール。

しかし、その程度で万丈目準が怖気づくかと言えば、それは否だった。



「ふん、オレも暫くぶりのデュエルだ。腕が鳴るぜ」

「テメーの最初の相手はオレだ!」

「テメーじゃないッ!!!」



先程、禿げ頭の男を倒したのだろう男は、一歩前に出て万丈目の前に立ち塞がる。

そいつを睨み返して、自分のデュエルディスクを構えた万丈目は、大きく声を張り上げた。



「オレの名はぁ、一! 十!! 百!!! 千!!!!」



天頂に向け、拳を突き出して名乗りを上げる。

その気迫に一歩、相手となるべく前に出てきていた男は後退した。

流石の気迫、流石の威容。その名は――――



「万丈目さんだぁああッ!!!!!」











圧倒的なパワーで相手を葬っていく万丈目。

そのデュエルタクティクスは五十人のデュエリストを相手にして冴え渡り、全てのデュエリストをねじ伏せた。

いや、たった一人を除き、全てのデュエリストを。



四天王と名乗る四人の取り巻きを同時に相手し、瞬く間に倒して見せた万丈目。

それを揺り椅子の上で見ていたキングは、漸くその重い腰を上げてデュエルディスクを起動した。



「さぁ! 残るのはお前だけだ!」

「ふふっ、よくぞ生き残った。ここまで上り詰めた気力・体力、褒めてやろう。

 しかし、これまでの闘いで手の内を晒しすぎたなぁ。身の程を教えてくれるッ!」



立ち上がったキングの放つ闘気はかなりのもの。

万丈目は、漸くまともな相手のようだと口端を僅かに上げて、笑う。

その万丈目の許にまたまた、十代のビジョンが浮かんできた。



『おぉ~! 強そうじゃん、大丈夫かぁ? 万丈目~?』

「っ……万丈目さんだ……!」



殴ってそのビジョンを打ち消し、自分もディスクを再び構える。

確かに五十連戦に及ぶ闘いで、デッキのカードは九割知られてしまっている。

だが、まだ使っていないカードがある。

そいつを使えば、もう正体を知られたカードの能力もまた、活きるのだ。



「行くぞ、万丈目!」

「万丈目さんだッ!!」

「「デュエルッ!!!」」



「オレの先攻! オレは魔法マジックカード、デビルズ・サンクチュアリを2枚発動!

 二体のメタルデビル・トークンを召喚」



キングと名乗った男の前に、闇色の霧が立ち上る。

その霧は徐々に凝り固まっていき、金属の球体を繋げて作ったヒトガタらしきものになる。

頭部の球体が万丈目の顔を鏡のように映し出し、呪詛を発する。

あれはメタルデビルに相手の写し身を宿らせ、相手から放たれた攻撃をそのまま相手に返す呪いの悪魔。

下手に攻撃すれば、傷つくのは万丈目と言う事になる。



しかし、あれは維持をするのに術者の命を削らねばならぬ魔術。

毎ターンのスタンバイフェイズに1000ポイントのライフを捧げなければならない。

それを二体と言う事は、当然二倍の2000ポイント。

初期ライフの4000のままであれば、僅か2ターンで底を尽く重積。



ならば、それは目的が呪詛にはないことが明白だろう。



「この二体を生贄に、出でよ! デビルゾア!!」



金属悪魔がまるで錆びるようにぐずつき、崩れていく。

それらを動かしていた魔力を収集し、キングは新たな悪魔をフィールドに呼び寄せる。

地面を暗黒に包み、その中から這いずり出て来たのは、悪魔と言うに相応しい魔人。



体色はシアン。

隆々と盛り上がる筋肉の鎧は上半身、特に両腕で発達し、重心は前にずれているようだ。

頭部からは翼飾りにも見える耳、或いは触覚らしきものが突き出ている。

更に肩や肘、首から生えた琥珀色の角の存在が、より一層悪魔としての相貌を完成させている。



黄金に輝く瞳でその悪魔は万丈目を見下ろす。

攻撃力2600を誇る最上級モンスター。生半可な攻撃では崩れまい。

そして、これまでの五十連戦で万丈目は最上級モンスターを1度も使っていない。

だからこその戦術でもあるだろう。



「カードを2枚伏せ、ターンエンド。さぁ、オレの前に屈するがいい―――万丈目!」

「万丈目さんだ! オレのターン!!」



カードをドローすると、そのカードの正体は……おじゃまイエローだった。



「またお前か……!」

『あにきぃ……相手が悪すぎるよぅ、いいじゃんかよぅ、ナンバー2でさぁ』



そのイラストから浮かび上がってくる黄色い生命体は、デビルゾアの強面を見て怖気づいた様子。

ただでさえの雑魚モンスター、その上臆病者でデュエルの邪魔。

などという存在ならば、手札にいられるだけで目障りでしかない。



「うるさい! ガタガタ言わず戦って来い! オレはこの雑魚を守備表示で召喚!!」



おじゃまイエローを守備表示でフィールドに出す。

フィールドに現れるソリッドビジョンでも、いやぁん、などと言って尻を振って抗議をしてくる。

当然、そんなものは無視してデュエルを続行していく。



「更にカードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」

「ふはははははっ! キサマのデッキにまともな上級モンスターがいないのは分かっている。

 オレのターンだ、更なる地獄を見るがいい!!」



そう言ったキングはデュエルディスクのボタンに手を伸ばし、発動スイッチを押しこむ。

展開される伏せリバースカードの正体は、



トラップ発動、メタル化・魔法反射装甲!!」



それは、装備カードとして扱われる特殊なトラップ

装備したモンスターが相手モンスターを攻撃する際、その特殊金属化させた身体が相手の攻撃力を吸収し、己が物にする。

実質、相手は攻撃力を半減されたに等しい状況で戦闘を強要される事となるのだ。

それだけでこれが強力なトラップだと言う事は分かろうが、これには更にもう一つ、隠された効果がある。

それこそ、今キングが行おうとしている戦術に他ならない。



デビルゾアの肉体が特殊金属に覆われていく。

元より圧倒的な攻撃力を備えていたデビルゾアだが、このメタル化を施した事によって、更なる強化がなされた。

しかし、それで終わりではない。



「そして、魔法反射装甲を装着したデビルゾアを生贄に!」



メタリックな身体を揺り動かして、デビルゾアが咆哮をあげる。

メタル化した肉体が、それ以上に機械化していく。

肉と金属が混ざり合う変容は、デビルゾアの肉体を全て別物に変化させた。



「メタル・デビルゾア、召喚!!」



その威容は最早完全に先程の悪魔とは別物。

全体の意匠のバランスは似通ってはいるものの、肉を一部たりとも残さず削ぎ落された身体。

完全な機械悪魔として存在するそのモンスターは、唸るように声を上げた。



『おぉおおお……』

「ちっ……!」

「まだだ! 更にトラップカード、正統なる血統を発動!

 このカードは墓地の通常モンスターを攻撃表示で呼び覚ます!!

 当然、蘇るモンスターはデビルゾアだ!!」



地面を突き破り、冥府の底から悪魔が這いずり出てくる。

闇色の吐息を吐き出しながら這いずるその様は、まさしく悪魔のそれだろう。

機械化した悪魔と、生身のままの悪魔。

二体のデビルゾアの攻撃力はそれぞれ2600と3000。

どちらも、万丈目のデッキではそうそう届かないモンスターたちだ。

だが、それでも万丈目準には微塵も諦念はなかった。



『うぉお……攻撃力2600と、3000のモンスターか。さぁどうする万丈目』

「ふっ、おもしれぇ―――!」



自然とまた浮かぶ十代のビジョンに答えていた。

もう答えるのも面倒なのか、或いは逆境こそ愉しむべき、というデュエル馬鹿に毒されたのか。

二体の悪魔を揃えたキングは唇を歪め、万丈目を見据える。



「見たか! キサマのデッキにはこのデビルゾアを凌ぐ攻撃力を持つモンスターはいない!

 キサマのデッキを把握したオレが、圧倒的に有利というわけだ」



確かに、万丈目のデッキにはメタル・デビルゾアの攻撃力3000を越えるモンスターはいない。

だが、一体だけ。一体だけ五十連戦のデュエルで一度も使わず、このデュエルのために温存したモンスターがいる。

そこまで繋げれば……



「喰らえッ! デビルゾアの攻撃! デビルエクスシザースッ!!!」



デビルゾアが両腕を開き気味に地面に着くと、頭の翼状の耳の形状と合わせ、

まるでX字を描いているような体勢となる。

闇の魔力を宿したデビルゾアの咆哮が共鳴し、その体勢で身体が閃光を放った。

それこそデビルエクスシザース。

悪魔の持つ魔力で、敵を断斬する衝撃波。



『ひぃいいいいいいっ!』



それは身体を震わせているおじゃまイエローに向けて殺到し、一瞬で消し飛ばす。

当然だろう。僅か守備力1000程度しか持たないおじゃまイエローでは、最上級の悪魔の攻撃に耐え切れる筈もない。

更に、衝撃波が巻き上げた粉塵を一掃し、機械悪魔が万丈目の許へ向かい来る。

相手の攻撃力は3000に及び、初期ライフの実に3/4の数値。



それをそのまままともに直撃させられれば、万丈目のライフは一撃の許に瀕死手前まで追い詰められる。

陽光に照らされ、金属の鈍い輝きとして跳ね返すボディ。

地面に引き摺られ、大地を削りながら迫るクロー。

その脅威を前に、万丈目はしかし笑う。



トラップ発動! 体力増強剤スーパーZ!!」



万丈目の眼前に現れる毒々しい液体の詰まったボトル。

キャップのようにボトルの上部にくっついている蝙蝠の翼を持った骸骨がカタカタ笑う。

突然自分の敵の前に現れたそれに反応したメタル・デビルゾアの身体が僅かに揺らぐ。

が、しかし。



機械悪魔は立ちはだかるそのボトルに向け、自身の爪を振るう。

最早元々持っていたものか、或いは強化された時に持たされた金属なのか。

それすらも分からなくなってしまった爪の一撃。

下から振り上げられたそれは、毒々しい液体の容器を微塵に粉砕し、その中身をぶち撒けた。

撒き散らされた液体は万丈目の身体にかかり、蒸発するように消えていく。



そしてキャップのようについていた骸骨も砕け、狂笑を遺して消え失せる。

その場で爪を振るう事で、勢いの全てをそこで消化した機械悪魔は動かない。



「こいつは2000ポイント以上の戦闘ダメージを受ける時発動できるトラップだ。

 そのダメージを受ける前に自分のライフを4000ポイント回復させる。

 つまりそいつの攻撃を相殺し、オレのライフは1000ポイント回復するのさ」

「ふん、やるじゃないか万丈目」

「さん、だ!」



4000ポイント分の命の水を内包していた容器は粉砕され、飛沫となって飛び散った分だけ万丈目のライフが回復する。

攻撃力3000の威力を持つ爪で引き裂かれた容器の水は、その分だけ蒸発し、効力を失くした。

しかしその破壊力では内容物全てを蒸発させる事はできず、万丈目にライフの回復を許したのだ。

ゴガガ、と軋むような音を咽喉らしき部分から捻り出したメタル・デビルはそれ以上何もできず、引き下がるより他はない。



自身の許まで帰還する機械悪魔を迎えたキングは微かに口を歪め、相手の健闘を称賛する。

それは当然自身が相手の上に君臨しているとの自覚であり、自信であり、確信ですらあった。



「くくく……そのデッキでどこまでやれるかな? ターンエンドだ」

「オレのターン、ドローッ! ふん、その態度が負けた時どう崩れるか、今から楽しみにしておいてやる。

 這い蹲る準備をしておけ、この万丈目さんの許になッ!!」



だがしかし、そのキングの前に立ちはだかるのは凡百のデュエリストではない。

凡百。否、万般のデュエリストの中で一つ大きく輝く雷光の如き綺羅星。

たかが五十の上に立つ半端なキングでは、万の中で最も輝く万丈目準には及ばない。

それこそが万丈目の持つ誇りであり、驕りであり、厳重に己に化す明確な立ち位置ですらあった。



「手札より、サンダー・ドラゴンの効果を発動!

 このカードを手札から捨てる事で、デッキより同名カード、サンダー・ドラゴンを2枚まで手札に加える」

「なに……? そのカード、効果を使った事は一度も……! まさか、揃えたのか――――!

 あの極寒の大地の中から、3枚の同じモンスターを――――!」



万丈目がカードを墓地に送り、デッキをホルダーから取り外す。

無論、引き抜かれるカードは2枚。2枚しかないなどと、中途半端な事にはなっていない。

そうして舞い込む2枚のサンダー・ドラゴン。

それをキングに見せつけながら、万丈目は不敵に笑う。



「揃えた? 違うな、最強のデュエリストの手には、常に最強のモンスターが舞い込むものさ……

 それに、わざと使わなかったわけじゃない。こいつを使うに値する奴が一人もいなかっただけの事だ。

 更にそれだけじゃあない! オレは手札から更なるカード、融合を発動する!!」



この学園の外で出会った男に言った、41枚揃えたというのはけして嘘じゃない。

ただしそのうちの1枚は、融合デッキにしか居場所のないモンスターだけだっただけの事。

つまり何が言いたいかと言うと、あの男のためにわざわざ嘘を吐いてまでカードをくれてやったわけではないと言う事だ。

そもそも、万丈目準にとってあんな男に何かを恵んでやって何の得があるのだ。

何もない。つまり、それはくれてやる理由がないと言う事だ。

そう。ただデッキの中に気にいらないカードが1枚あったから、それを奴のデッキの中に捨てただけの事。

おかげで、更なる切り札がデッキに舞い込んだのだ。

つまり、それはこの万丈目準の先見の洞察力の賜物としかいいようがない。



『またまたぁ、照れちゃって』

「キサマは黙っていろッ! 手札に眠る二体のサンダー・ドラゴンを融合する!!

 出でよ、双頭の雷龍サンダー・ドラゴン!!!」



雷光が奔り抜け、万丈目の直前に落雷する。

大地を砕き、隆起させ、氾濫を起こす電撃の波動が弾けて柱のように立ち上った。

白光の中で真逆の朱色が身を乗り出してくる。それは、首から先を二つ持つ雷光の巨龍。



双頭の鼻先には落雷を導き、蓄電するためのホーン。

ずしりと巨大な体格に比べ、小さな翼は飛行に適しているようには見えない。

しかし、その本領は龍としての飛行能力などではなく、その角に宿る雷の力に他ならない。

その破壊力はデビルゾアのそれを凌駕する、攻撃力2800に達する。



だが、それでもメタル・デビルゾアのそれには届かない。



「くっ……なるほど、オレと闘うまで温存しておいたってわけか。

 だが、そいつでもオレのメタル・デビルゾアは倒せないぞ!」

「そいつはどうかな、フィールド魔法・シャインスパークを発動ッ!!」



万丈目の背後から溢れる光の波動が、フィールドを覆い尽くす。

目が痛くなるほどに白く染まった世界。それは、光に属する者たちの力を後押しする光明。

当然、雷光の力を宿す龍はその恩恵を掴み取る。

双頭の鼻先から生えたホーンの蓄える電撃が増幅され、その威力を高めていく。



「シャインスパークは光属性のモンスター全ての攻撃力を500アップするフィールド魔法。

 つまり、こいつの効果でキサマのメタル・デビルゾアを上回ったのさ……

 オレのサンダー・ドラゴンの攻撃力が!」

「ちぃっ……!」



到達する攻撃力の数値は、3300。

デビルゾアはおろか、メタル・デビルゾアすら凌駕するパワー。

最上級モンスターの高攻撃力の基準とされる3000の壁を越える、圧倒的な威力。



今、正しくそのパワーを証明せんと雷龍サンダー・ドラゴンは双つの顎を開く。

突き立つ双角に帯電していた雷は、龍の体内を駆け巡って口腔の中へ放出される。

渦巻くように口の中で暴れる雷光を抑えながら、雷龍はその脚部で大地を踏み縛り、胸を張る。

立ち誇るその巨体の威容に、機械化した理性なき悪魔は一歩後退った。



「双頭の雷龍サンダー・ドラゴンで、メタル・デビルゾアを攻撃!

 さあ、この万丈目さんを呼び捨てにした罪を裁く雷で消し飛べ!

 いいか! オレは、万丈目さん! だぁあああああッ!!!」



雷撃が解き放たれる。

雷光が放たれた以上、光速で迫りくる閃光の回避は最早不可能。

故にそれは、生存にしがみ付くために悪魔が行う反逆。



金属の腕を交差させ、自らの前に突き出す。

理性なき存在にも理解できる。それに直撃すれば蒸発するのは自身の存在だと。

ならば、狙うべきは回避。正面からの衝突を回避するより他にない。

光速のそれからは鈍重な身体は逃れられない。ならば、答えは一つ。



雷撃が交差させた両腕に到達し、その威力で持ってメタル化した腕を溶解させていく。

機械化し、本能でなく演算で行動を決定するそのシステムが、そのタイミングだと判断した。

腰部の駆動部が最速で回転し、上半身を捻り上げる。

正面から雷光が衝突したその瞬間、身体は即座に反転していた。

メタル化は元より魔力を反射するための措置。

その能力は許容量を越える龍のブレスに通じずとも、効力が絶無なわけではない。

捻り上げた身体の動きに沿って、雷撃は流れを変えて後ろへ受け流された。



溶解した両腕を犠牲にしたとは言え、その瞬間的な危機判断能力。

それは本能のままに貪る悪魔のそれを越えていると言える。

しかし、龍にとってその程度の反逆はなんの意味も持たない。

続け様に、双つ目の顎から雷撃が解き放たれた。



一撃目を防ぐため、両腕を肩口まで消失した機械悪魔にそれを防ぐ術などない。

決死で繋ぎ止めた生命線は、いとも容易く龍のブレスに吹き飛ばされる。

メタル化など成されていようがいまいが関係ない、と。

双頭で雄叫びながら、光の中に消滅していく悪魔に咆哮する。



その攻撃力の差分は300。

けして動かぬ差ではない。しかし、それを制するのは二体のうち、ただ一体。

爆散するメタル・デビルゾアの巻き起こす風の中で、キングは微かに歯を食い縛った。

その表情に見て取れる僅かな焦燥は、恐らく見間違いなどではあり得まい。



キングのライフは3700。ダメージとしては微々たるもの。

しかし、今の攻防で流れを握っているのがどちらなのか、理解できない実力ではない。

この覇気、この闘気。奴は―――万丈目準は、強い。或いは自身よりも。

だが、と唇を歪める。



この戦場を支配するのは、このフィールドのキングである江戸川遊離!

アウェイな環境で五十連戦を戦い抜いたそのタクティクス、スピリッツ、それは驚嘆に値する。

しかし、蓄積された疲労、晒された構築、狭められた戦術、どこをとってもキングの勝利は揺るぎない。

勝者は全てを手に入れ、敗者は地に這い蹲るのがここのルール。

そのルールの許、徹底的に叩き伏せて、敗北を味あわせてみせよう。



「オレはこれでターンエンドだ」

「ならばオレのターン! ドローッ! 魔法マジックカード、強欲な壺を発動して更に2枚をドロー!」



万丈目が徹底抗戦を望むと言うのならば、それを悪魔の如きパワーで粉砕するのがキング。

手札に加えた更なる2枚を見て、口元を歪める。

そのうちの1枚を手札より引き抜き、万丈目の前に晒す。



「オレは、デビルゾアを生贄に捧げる事で更なるモンスターを召喚する!

 見るがいい、万丈目! 伝説の三幻神、オベリスクの巨神兵をも越える可能性を秘めた悪魔!

 いや、神にも悪魔にもなれる最強のモンスターをその眼に焼き付けろ!!」

「なに……! オベリスクの巨神兵を越える、だと……!?」



オベリスクの巨神兵と言えば、デュエルモンスターズ界で知らぬ者はいなかろう。

伝説。否、生ける神話に等しきデュエルキング・武藤遊戯のしもべ、三幻神の一体。

ペガサス・J・クロフォードがデュエルモンスターズの起源として語る、エジプトの石碑に描かれた王の力の化身。

そのカードはただのカードではなく、神秘的な力を内包する、カードを越えたカードとされている。

無論、かつて万丈目が属していた学園のオベリスクブルーの名も、そこからきている。



一度オベリスクが降臨すれば現世は灼熱の疾風に見舞われ、大地の蔓延る魔物全ては屍と化すと云われている。

それほどまでに強力な力を秘めたモンスターが、自身の手にあるとキングは語る。

万丈目の身体が、その言葉を受け緊張に固まり、キングの挙動を見守る体勢となった。

ニヤリ、と唇を吊り上げたキングはそのカードとデビルゾアを入れ替え、ディスクに差し込んだ。



「デビルゾアの血肉を喰らいその姿を現せ、最強の魔神獣!!

 偉大魔獣グレートまじゅう ガーゼットォオオオッ!!!」



大地を砕き、赤銅色の五指が地中より生えて来た。

地上のデビルゾアの首を掴み取ったその腕が、悲鳴を上げる悪魔を地中に引き摺り込み、その魔力を己が物とする。

魔神は、供物として捧げられた魔物の魔力を自身に取り込む事で力を得る。

つまり、その攻撃力を決定するのは生贄に捧げたモンスターの攻撃力。



「ガーゼットの攻撃力は、生贄にしたモンスターの攻撃力の二倍となる。つまり―――」



地中より、供物を喰らった魔神がその姿を地上に顕現させる。

ダークブルーの肉体に、赤銅の骨格を張り付けた魔神獣。

その頭部には二本の角が聳え、雷鳴を響かせている。

角に帯電させる、という性質こそ万丈目の従える龍と似通ってはいるものの、その破壊力は段違い。

デビルゾアの魔力は2600。つまり、それを喰らった魔神獣の攻撃力は5200を誇る。



「こ、攻撃力5200……だと……!?」

「さっきの言葉、キサマに返してやろう! キングに刃向かった裁きの雷を受けるがいい!

 さあ偉大魔獣グレートまじゅう ガーゼットよ、万丈目にその雷撃を喰らわせてやれ!!」



魔神は両腕を胸の前に組んだまま、不動。

しかしその角に蓄えた雷撃を解放し、周囲に余波を撒き散らしていく。

偉大なる魔獣の角に宿る雷は、龍の角に宿るそれを遥かに凌駕している。

光明の後押しを受けてなお、その差は覆すどころか相殺する事すら敵わない。



組まれていた両腕が解かれ、ゆっくりと腕が下ろされる。

赤銅の指で示すのは万丈目のフィールドに存在する雷龍の姿。

角から零れ落ちた光の破片は、魔獣の指示で敵の許に殺到するのを待つ猟犬。

魔獣の瞳が一際大きく輝くと同時、それらの暴力は解き放たれた。



それらの閃光は当然雷速で迫り、双頭の雷龍サンダー・ドラゴンを撃ち抜くためのもの。

元より高い知性を持つ龍であり、かつ自身が雷を操るが故にその攻撃の脅威も熟知している。

突き出される双頭の双角が、その中に秘められた力を限界まで行使し、雷光を解き放つ。

爆発的に解放された雷光の壁は龍の周辺一帯を塗り潰し、迫る同属の攻撃を防ぐための壁として用いられる。



だがしかし。

顔面をピクリとも動かさず、魔神は自身の放つ雷撃に更なる力を込めた。

未だ余裕を保ちながら、何の事はなく、微かに五指を動かした程度で雷撃の威力は倍する。

最早極光と呼ぶべき雷光は、全能力を行使し立ち向かう雷龍の電撃をいとも簡単に撃ち抜いた。



悲鳴を上げて、極光に呑み込まれた雷龍が暴れ狂う。

焼き払われ、その頭部の角を打ち砕かれた巨体が大地に転げた。

しかし、それでも同属の力を持っていたが故か、虫の息で永らえる巨龍の姿を認めた魔神が動く。



解いた腕を胸の前で組み直し、その顎を開く。

まるで呼気を吐き出すかのように噴き出す竜巻が、瀕死の雷龍に向けて放たれた。

大地を抉り取りながら向かい来るそれに、瀕死の龍が反応できる筈もない。

肉体を引き裂かれ、粉微塵に吹き飛ばされる雷龍。



そして当然、攻撃表示同時のモンスターの戦闘による結果は、プレイヤーに叩き付けられる。

攻撃力5200の魔神に対して、雷龍の攻撃力は3300。

その差、1900ポイントが万丈目の負うダメージとなり、身体を襲う。



「ぐぅうううううううううッ!!」



竜巻は龍を消し飛ばした勢いのまま、万丈目に襲い来る。

足が地面から引き剥がされそうな突風の中で、顔の前に腕を翳し、何とか耐え抜く。

しかし、温存していたエースは薙ぎ払われ、回復させていたライフも3100まで削られた。

更に相手の場には攻撃力5000オーバーの魔神。

状況は悪くなるばかりで、好転させられる状況を導く手はない。



――――上等だ……! 十代などにできて、オレに出来ない筈がない……!



「オレは、これでターンエンドだ。どうした、万丈目? 顔色が悪いようだが?」

「ふん、黙っていろ! オレのターン、ドロー!」



手札に舞い込んだカードを見て、デッキの中に眠るカードと照らし合わせる。

今の状況を打開するために必要なのは――――最後の切り札。

氷の中に眠っていたカード、メインデッキに唯一投入した最上級モンスター。

だが、あの魔神を前にそう簡単に生贄を揃える事はできないだろう。

ならば、



「オレは魔法マジックカード、貪欲な壺を発動!

 墓地のおじゃまイエロー、三体のサンダー・ドラゴン、双頭の雷龍サンダー・ドラゴンの五体をデッキへ。

 その後、デッキをシャッフルしてカードを2枚ドローする!

 更に魔法マジックカード、強欲な壺を発動してカードを2枚ドロー!!」



必要限のカードは揃った―――――後は、文字通り、次のターンのドローカード次第。

手札は4枚。より確実に、手札を揃えるためには手札は可能な限りだ。



「オレはカードを3枚伏せる。そして、永続魔法、悪夢の蜃気楼を発動!」

「ちっ……手札を増やす気か」



悪夢の蜃気楼は相手ターンのスタンバイフェイズに手札が4枚になるようにドローするカード。

その代償として、次の自分のターンのスタンバイフェイズに前のターンに引いた数と同じだけ、手札をランダムに墓地へ送る。

自分のターンに手札を持ちこせず、かつドロップのランダム性から手札交換としては使い辛いデメリットはある。

しかし、コンボパーツとしての有用性は、デュエリストであれば知るところだろう。

伏せたカードが、その悪夢の蜃気楼の能力を最大限に活かすカード。

キングはそう読んだ。



「ターンエンドだ」

「オレのターン、ドローッ!」

「キサマのスタンバイフェイズ、オレは手札が4枚になるようドローする」



引き抜くのは4枚のカード。

それらのカードに目を通した万丈目は微かに唇を歪めた。

ここまではクリア、しかし最も重要な1枚が足りない。

その上、当然これを狙う上で最も重要な、次のスタンバイフェイズの事もある。

次のターン。ドローフェイズでドローしてその1枚を引き当て、かつそれを手札に残せるか……



「バトルだ! ガーゼットで万丈目に―――!!」

「させるかぁッ! キサマの攻撃宣言前にトラップを発動、威嚇する咆哮!!」



万丈目の背後に二足で立つ魔獣が降臨する。

獅子の肉体、烏の翼、蠍の尾、それらを持ち合わせる魔獣の姿に、一瞬だが魔神すら僅かに怯んだ。

その瞬間を見逃さず、双眸の中で真紅の瞳を爛々と輝かせ、その魔獣は咆哮を上げた。

大地を鳴動させるそれは、周辺を音の結界で蹂躙する。



ガーゼットがその威力に鼓膜を叩かれ、音を認識する能力を一時的なれど消失する。

魔獣の咆哮を喰らった魔人には、攻撃指令を受け取る事ができなくなったのだ。

その様子に笑いながら、万丈目はキングに声をかけた。



「キサマの攻撃宣言をモンスターは受け取れない。さあ、どうする」

「……ターンエンドだ!」



悔しげにエンド宣言を行うキングを見て、万丈目はデッキに目を向けた。

ここで引けなくば、恐らく敗北しかない。

ならば、引き当てるだけだ。それ以外に道が開けないのであれば、導くのみ。



目を瞑る。

そうして、デッキから1枚のカードを引いた。眼は、まだ開けない。

引いたカードを確認しないまま、それを4枚の手札と合わせて、5枚のカードをシャッフルする。

今ドローしたカードが万丈目の望むカードであり、かつそれを手札としなければならない。



ならば、と。

目を閉じたままに、5枚のカードを頭上に放り投げた。

キングの驚愕の声にも心を揺らさず、一つだけ念を思い描く。

勝つ。ただ、勝利を求める。最強の座を求める。

オレとともに闘う気があるならば、オレの手にこい。来たならば――――勝利をくれてやる。



天に手を伸ばすと、1枚のカードが手に触れた。

口許が知らず、凶悪に歪んでいく。そのカードを手に取り、瞼を開いた。

オレと共に闘う事を選ぶか。ならば、行くぞ―――――!



はらはらと散っていく4枚のカードを見て、その中の1枚に眼を留める。



「オレのスタンバイフェイズ! 悪夢の蜃気楼の効果で、手札4枚をランダムに墓地ヘ!!

 更に、この効果で墓地に送った、ミンゲイドラゴンの効果を発動!

 スタンバイフェイズ、ドラゴン族以外のモンスターが自分の墓地に存在せず、自軍のフィールドにモンスターがいない時!

 このカードは墓地より特殊召喚する事ができる!!」



舞い散るカードの1枚を掴み取り、ディスクに叩き込む。

黄色い首長の竜が冥界の門を潜り抜け、万丈目のフィールドに舞い戻る。

亀のような造形。長く伸びた首では大きな口が開き、無感情な白い眼が光っている。



その他、3枚のカードを墓地に掴み取り、墓地へと送りこむ。

無論、これらのカードはミンゲイドラゴンの効果を阻害するモンスターではない。

そして、最後に残った1枚の手札を相手に見せる。



「ミンゲイドラゴンはドラゴン族モンスターを召喚する時、一体で二体分の生贄となる……

 つまり、オレの手札に残った最上級モンスターを召喚する事ができる」

「最上級モンスターだと……? お前は一度も……大した奴だ、万丈目。

 死の五十人抜きデュエルを、こうまで余力を残して打ち破るとは―――――!」

「違うな。お前に勝って、五十一人抜きだ。

 ミンゲイドラゴンを生贄に捧げ―――――! 来い、我がしもべ光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴンッ!!!」



光が降り注ぎ、闇が沸き立つ。

ミンゲイドラゴンの身体がその二色に呑み込まれて、新たな形を描いていく。

身体を縦に二分して、正面から向かって左を白。右を黒で染めた竜の姿が現れる。

天使と悪魔の翼を羽搏かせ、白黒二本の尾を振るい、その竜は万丈目の頭上で生誕の息吹を上げた。



「ラ、光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴンだと……!?

 オレの知らないカードが、この学園の周りに落ちていたのか……?」



万丈目の耳に、声が響いてくる。

この場で会えた事に、この場で闘える事に歓喜する咆哮。

まるで先程から見えていたおじゃまイエローと同じく、精霊でも宿っているかのように。

あれほどまでに明確に声を発しているわけでもないが、それでも咆哮の中に心を感じる。

行ける、勝てる、と。確信できるほどに力強く響く竜の声を耳にし、笑う。



「ククク……これでオレはターンを終了する。見せてやる、オレの力をな……!」

「ぐ、……だが、そいつの攻撃力は僅か2800程度。フィールド魔法、シャインスパークの効果を受けても3300!

 オレの場に存在するガーゼットの5200にはまるで届かない!」

「そいつはどうかなぁ? まあ、やってみれば分かる話だ。ガタガタ言わずにかかってこい!」



キングはその自信を漲らせる万丈目を見て、微かに怯む。

だが、どう考えてみたところで奴にガーゼットを倒す事はできない。

攻撃力の差は1900。

これまでのデュエルで、そこまでの攻撃力上昇を促すカードを持っていない事は分かっている。

しいて言うならばリミッター解除を持っている筈だが、あれは機械族にしか効果はない。

つまり、奴に逆転の手段はないという事だ。



「オレのターン!!」

「キサマのスタンバイフェイズ、悪夢の蜃気楼の効果でカードを4枚ドロー!」

「―――オレは更に、魔法マジックカード天使の施しを発動!

 カードを3枚ドローし、その後手札から2枚のカードを選択して墓地に送る!!」



天使がキングの前に現れ、デッキからカードを引くように促そうとし――――

その瞬間、竜が吼えた。



翼を大きく広げ、その身体から明暗の光を解き放つ。

白と黒の光は交わらず、二色のまま天使を目掛けて殺到し、その姿を呑み込んだ。

光に包まれた天使は、その力を発揮せぬままに崩れていく。



「な、なんだ!?」

光と闇ライトアンドダークネスの効果発動!

 魔法マジックトラップ・モンスター効果が発動した時、攻守を500ポイント下げ、発動を無効にする!」



宿した力の一部を解き放った竜は、その攻撃力を2800、守備力を1500ポイントまで減じさせた。

それを見たキングは驚きの中にも即座にその弱点を見つけ、ニヤリと嗤った。

そのドラゴンの能力を説明されたにも関わらず、2枚のカードを手札から引き抜き、ディスクに差し込む。



「ならばオレは、魔法マジックカード、黙する死者と3枚目のデビルズ・サンクチュアリを発動!

 そいつは強制効果なんだろう? さぁ、無効にしてもらおうか!」

「っ……!」



キングの目論見通り、光と闇ライトアンドダークネスは効果の使用選択はできないが故、その2枚を無効化する。

自信の能力を犠牲にして、発動する魔力の凝りを霧散させる。

二回連続で発露した光と闇の波動の分だけ、竜の力は減衰する。つまり1000ポイント攻守を失ったのだ。

これで攻撃力は1800。守備力は500ポイント。

あと一度でも効果が発動すれば、守備力は0ポイント。その効果すら失う事となる。



その上、攻撃力5200のガーゼットと攻撃力の差分は3400。

ライフポイントが3100しか残っていない今、その戦闘を成立させられれば決着がつけられる。



「しかも、お前は自分のモンスター効果のせいで、攻撃を防ぐトラップを発動しても無効になる!」



光と闇ライトアンドダークネスの効果は強制であり、かつ相手を選ばない。

万丈目が攻撃を防ぐための準備をしていても、この竜の効果が生きていればその効果に無効化されるのだ。

これで幕だ、と。キングは最後になるだろう指令を下す。



「ガーゼット! そのドラゴンを吹き飛ばせ!!」



魔神がその身体を揺り動かし、角から雷光を解き放つ。

狙い澄ましたその攻撃が向かう先は言うまでもなく、光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴン

雷撃は弾けながら目標へ向けて迸り、その威力を発揮せんとうする。



だが、万丈目がそれを見逃す事はない。



「カウンタートラップ、攻撃の無力化!!」



光と闇の波動を潜り抜け、その異次元の孔は出現する。

全てのモンスター効果を越え、一つ上の次元で発動するトラップ

如何なる強力なモンスター効果とはいえ、ベースとなるステージが違う以上、効果を及ぼす事は敵わない。



ドラゴンの前に開かれた異次元に通じる孔は、放たれた雷光を全て呑み込んで消え失せる。

荒れ狂う雷光を呑み干した孔が消え去った後、僅かに帯電した空気が爆ぜる。

唸りを上げる魔神を見据え、万丈目は微かに笑う。



「カウンタートラップに対抗できるのはカウンタートラップのみ。

 つまり、強制効果であろうともモンスター効果は発動できない」

「くっ……! 巧く逃げやがって―――ターンエンドだ」

「オレのターン! ドローした後、悪夢の蜃気楼の効果で4枚を墓地ヘ!」



目を瞑り、5枚の手札をシャッフルした後、1枚を選んで残りを墓地へ送る。

残った1枚のカードを目を開けて確認し、唇を歪める。



「カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

「オレのターン! ドロー!」

「悪夢の蜃気楼の効果! 手札が4枚になるようにドローする!!」

「ふん、キサマが唯一この状況で攻撃を防ぐ事のできるトラップを使ってしまった以上、関係ない!

 さあ、最後のバトルフェイズだ!」



ガーゼットの角から溢れる雷光が、シャインスパークで塗りたくられた世界を更なる白に染め上げる。

僅か攻撃力1800まで貶められた竜には、それを防ぐ事など敵わない。

もし、万丈目がサポートを行おうとすれば、逆に彼の竜の攻撃力を低下させる悪手にしかなりえない。

だがしかし、万丈目はそれを宣言する。



「キサマの攻撃宣言時、前のターンに悪夢の蜃気楼の効果で墓地に送られたネクロ・ガードナーを除外する!」



ネクロ・ガードナーの効果は、相手のターン中にこのカードを除外する事でそのターンに行われる攻撃を一度だけ無効にする。

その効果は墓地で発動するが故に阻害するのは難しく、墓地に送られた時点で攻撃を一度無効にされるのを前提にせねばならないほど。

しかし、それすらも凌駕するのは光と闇の力を併せ持つ、白黒の竜。



万丈目の前にぼんやりと浮かぶ、攻撃無効を促す幻影。

それを睨み据え、光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴンは高らかに吼えた。

途端、崩れ落ちていく幻影が力を失い、攻撃無効効果が消え失せる。



「バカめ! 自分のモンスターの効果を見失ったのか!」

「いぃやぁ? これで、準備は整った……!」



それを無効にした光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴンの攻撃力は1300。

そして、守備力は0。つまり、もう効果を無効にする効果は発動しようがない。

万丈目の場に残る2枚の伏せリバースカードは、その力を余す事なく発揮する。



トラップ発動! 反転世界リバーサル・ワールド!!」

「なんだと!?」



全てを逆さまに改変する逆転の呪いがカタチを成す。

それは効果モンスターの攻撃力、守備力にを真逆にする、世界の転覆。

引っ繰り返されるのは両軍全ての効果モンスターに及ぶ。

つまり、どちらのモンスターも守備力0の今、互いの攻撃力が示すのはともに、0。



「バ、バカな……! オレの最強の魔神の攻撃力が、0にされただと!?」

「最強だのなんだのと、そんなものは1枚のカードであっさりと覆るのさ……!

 オレは、そう。あの十代のバカさえいなければ、いまもデュエルアカデミアのキングとして君臨していた……!

 分かるか、キサマにオレの苦しみが……!

 だが、今のオレはその経験をも克服し、奴を越える新たなる次元に踏み込んでいる!

 我武者羅にカードを集め、この最悪の環境の中でオレは、新しい自分の姿を見つけた!

 それを奴に見せつけろ! 光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴン!!!」



力を消失した二体の魔物が交差する。

黒白の体色の竜がその顎を開き、白光の息吹を解き放つ。

魔神の角が震え、招雷する。

互いが放つ攻撃はしかし、威力を持たない張りぼて。



白光と雷光は真正面からぶつかり合い、その外見をぶち撒ける。

眼も眩むような白い攻撃のエフェクトが弾け飛び、二人のデュエリストの視界を塗り潰していく。

魔神が胸の前で組んでいた腕を解き、その顎を開く。

弾け飛ぶ閃光の中で、竜はその咽喉の奥から闇を溢れさせながら、魔神へと向け飛翔した。



開かれた魔神の口腔から放たれるのは、偉大魔獣の咆哮グレートタイフーン

本来ならばそれは周辺一体を荒野に変貌させる暴風であるが、今その力は完全に失われている。

しかし、その威力に逆らって飛ぶ能力が竜の翼に残っていない事も、事実。

相討ちか、と。身構えるキングとは反し、万丈目の眼はそんなものを見ていなかった。



「オレは全てを持っていた。

 ただ、何一つ落ちぶれる理由は持っていなかった。だが、今オレはここにいる………!

 誰もが羨み、誰もが望み、誰もが妬む場所に立っていたオレは今、誰もが避け、誰もが蔑み、誰からも見下される場所にいる。

 だがオレは諦めない……諦めてたまるものか!

 オレは返り咲く! この苦しみ、この憎しみ、この怒りを全て糧にして、それを燃料に新たなる万丈目準へと!!!

 手札1枚をコストにトラップ発動! ライジング・エナジーッ!

 オレの怒りを宿したその翼で、そんな逆境など超越してみせろ! 光と闇ライトアンドダークネスよ!!」



ライジング・エナジーは、エンドフェイズまでモンスター一体の攻撃力を1500アップする効果を持つ。

互いに攻撃力を失くした状況で、その効果をどちらか片方が得ればどうなるか。

言うまでもなく、簡単にその結果は結実する。



竜が吼える。

竜巻の渦中に在りながら、己の主の命令を聞きとった竜がその双眸の輝きを一層強くした。

白き翼が雷光を纏い、黒き翼が雷鳴を裂く。

咆哮とともに、戦場を翔ける一陣の閃光と化した竜の姿が、風の檻を引き千切り飛翔する。

魔神の口腔から放たれていた竜巻は中断し、その攻撃を霧散させていく。

効かぬ攻撃を取りやめた魔神の次なる行動は、両腕を前に差し出しての防御であった。



瞬間、閃光と化した竜の姿が魔神の眼前に出現する。

鋭利な牙の生え揃う顎が、敵対するモノに剥けられた。

黒白の竜の首が、翳された腕の一本に喰らい付いた。

腕を銜えこむ竜の咽喉から、闇色の光が溢れ出すと同時、その腕が蒸発していく。



腕一本を持って行かれた魔神が後ずさる。

だが、自身と相手の距離を少しでも開けるべく突き出されたもう一本の腕を目掛けて更に牙が剥かれた。

ぐちゃりと肉が潰れ、千切られる音を響かせながら残る腕が噛み砕かれる。

口腔の中で弾ける白い閃光が、その残骸を消滅させた。



両腕を失った魔神がそれでもと、角に宿る雷光を解放した。

溢れ返るように噴出する雷の流れを白い翼で断ち切る。

なおも魔神は攻撃を続ける。口腔で渦巻く竜巻が、目前の竜を目掛けて放たれた。

荒れ狂う風の暴力の中に突き込まれる黒い翼が閃き、砕く。



全ての力を使い果たし、しかし相手を止め切れぬ魔神の動きが止まる。

その瞬間、胸を膨らませるように身体を逸らし、竜はその顎の中に光と闇と、雷を蓄えていく。

既に決した勝敗は、覆らない。それを察した魔神は、ただその竜の攻撃を見送る。

雷を交えた、白と黒の二色が描く螺旋光。

それは相手の目前で放たれたが故に、回避の間も与えず魔神の姿を呑み込んだ。

ドロドロに溶解していく魔神の姿を見て、更に襲い来るダメージに気圧されたキングが唸る。



「ぬぅうううううう……!」

「ガーゼットの攻撃力は0。対して、光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴンの攻撃力は1500。

 キサマには、そのまま1500ポイントのダメージを受けてもらおうか!!」



キングのライフは3700であり、2200まで命が削り落されていく。

万丈目のライフは3100。逆転された様であるが、それでもキングの優位は揺るがない。

彼はガーゼットを倒すために自分の切り札を完全に犠牲にした。

光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴンの攻撃力はエンドフェイズには0となる。

続くのは万丈目のターンだが、ライジング・エナジーのコスト確保に手札1枚を使用した。

それ故、次のターンドローしたカードを含め、悪夢の蜃気楼の効果で墓地に送らねばならないのだ。

万丈目は次のターン、何もする事ができない。



「……オレは、カードを1枚伏せてターンエンド!」

「キサマのエンドフェイズ時、光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴンの攻撃力は0に戻る。

 そして、その瞬間オレは最後の伏せリバースカードを発動させてもらう!!」

「なにっ!? このタイミングで、何をする気だ……!」

「見ろっ! この本来気高く、空を制する竜が周りの重圧に翼を折られ、その力を失っている姿を!」



そう言って万丈目は自身が侍らせる竜の姿を指す。

元の攻撃力2800は全て消え失せ、その攻撃力は今や0。

尤も、本来0になったのは守備力であって攻撃力ではなかったのだが、その本来の力が失われているのは確かであろう。



万丈目が何が言いたいのか測りかねたキングが、怪訝な表情で万丈目を見ている。

が、見られている当人はキングの視線など関係なしに、己の感じた言葉ばかりを吐き出していく。



「この竜は正にオレ自身! オレは、オレ自身を破壊する! 今までの、万丈目準をッ!!!

 オレは再び手札1枚をコストにする事で、トラップを発動、サンダー・ブレークッ!!!

 このカードの効果により、フィールドのカード1枚を破壊するッ!!」

「オレの場のカードは、伏せリバースカード1枚のみ……!」

「何を勘違いしている! 言った筈だ、オレが破壊するのは、オレ自身だぁッ!!!

 今までの万丈目準はこの日、この時、この場所で破壊される!

 これからのオレは、ただの万丈目準を越えた、万丈目準!!」



万丈目がその指を天に向けて突き出す。

その直上に急激に集束していく雷雲の影が、漂いながらその中で雷鳴を轟かせた。

目掛けるのはモンスターの姿ではなく、天を指す万丈目準の姿。

落雷が放出され、それは紛う事なく真下に存在する万丈目に向けて放たれた。

それが自身に直撃する寸前、万丈目が吼える。



「万丈目・サンダァアアア・ブレェエエエエエエエエエィイクッ!!!!」



雷が万丈目の頭上に落ちた。

大地がめくれ、空気が弾け、炎が周囲に巻き上げられる。

その威力の中に巻き込まれ、光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴンの姿が焼き払われていく。

サンダー・ブレークの対象として選ばれたのは、そのドラゴンに他ならない。

破壊の雷の勢いで消滅していく竜は、最後に万丈目に向かい、その声を高らかに響かせた。



「自分のモンスターを破壊するだと!? どういうつもりだ、万丈目!」

「違ぁうッ! 今のオレは―――今からのオレは最早万丈目ではない! その名は―――――!!!」



光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴンが燃え尽きた場所を基点に、光と闇が渦を巻く。

まるでマグマを噴き上げる火山の如く、二色を噴き出すそれは万丈目を覆い隠すほどに氾濫する。

そして溢れる光と闇の中に姿を覆われた万丈目の声が、その壁を打ち崩す。



「万丈目――――サンダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」



光と闇の氾濫が吹き飛ばされる。

万丈目のフィールドを余す事なく包み込んでいたそれが消えた先、そのフィールドに存在していたカードは消えていた。

フィールド魔法・シャインスパーク。そして無論、本来ある筈の永続魔法・悪夢の蜃気楼も。



「な、なんだ……どうなった―――!?」

光と闇の竜ライトアンドダークネス・ドラゴンは、破壊され墓地へ送られた時、隠された効果を発動する!

 自分のフィールドに存在するカードを全て破壊し、墓地よりモンスターを一体特殊召喚する!!!」

「くっ……! 悪夢の蜃気楼で墓地のカードを増やしたのは、そういうわけでもあったのか……!」

「そうだ! 見るがいい! 万丈目サンダー生誕のデュエルの勝利を飾る、オレのモンスターを!!!」



万丈目の目前に開いた冥界へ通じる門。

その中から現れるのは、一体如何なモンスターなのか。

しかし、最上級モンスターはもう万丈目のデッキには存在していない筈。

あのドラゴンを除き、メインデッキで攻撃力が最も高いモンスターでも、2000ポイントに及ばない。



何が、くる。

そうやって身構えていたキングの予想は、可能な限り高い攻撃力を持ったモンスターがくる、といったものだった。

だがしかし、その予想は大きく裏切られる事となる。



「来い! おじゃまイエロー!!!」

『あぁん、あにきったらやっとオイラの事を名前で呼んでくれたぁ』

「こ、攻撃力0、だと……?」



現れたのは、黄色い体色を持つ小さなモンスターだった。

その外見に違わず非力で、攻撃力を持ち合わせていない弱小モンスター。

そんなモンスターしか呼べないのならば、キングの杞憂もまるで無駄だろう。

微かに唇を歪め、僅かばかり余裕を取り戻した。



「そして、オレのターンだ!! 悪夢の蜃気楼は光と闇ライトアンドダークネスに破壊され、効果は発生しない!

 オレは魔法マジックカード天使の施しを発動する事でカードを3枚引き、2枚を墓地ヘ!!」



手札に加えた3枚を見て笑い、そして即座に2枚のカードを墓地ヘ。

その次に万丈目サンダーが下すのは、敵対者への攻撃指令だった。



「いけぇ、雑魚モンスター! 奴にダイレクトアタックだ!!」

『えぇ!? あにき、オイラ攻撃力は0だよぅ?』

「バカな……攻撃力0のモンスターでダイレクトアタックして、なんの意味がある!?」

「ククク……その答えを今から見せてやると言っているんだ。とっとと行け、雑魚モンスター!」



余りにも自信に満ち溢れた表情は、キングから再び余裕を奪う。

勿論攻撃力0のモンスターに攻撃されたところでライフは削られない。

その上、ダイレクトアタックで発動する効果を持っているわけもない通常モンスター。

ならば、万丈目は何を狙っている?

ギリ、と歯を食い縛り半秒悩みこむ。だが、どちらにせよ万丈目が攻撃を行おうとしている事は事実。

だとすれば、それを邪魔してしまえば問題あるまい。



「ならば、トラップ発動! リビングデッドの呼び声!!

 オレは墓地のメタル・デビルゾアをこの効果で特殊召喚する! どうだ、これで攻撃できまい!!」



大地を金属の爪で抉り取り、その身体が地上に進出してくる。

金属化した悪魔の攻撃力は3000。

無論、攻撃力を持たないおじゃまイエローでは返り討ち。万丈目が大ダメージを負う事になる。

巨大な悪魔を目の前にしたおじゃまイエローは退け腰でじりじり下がってくる。



『ひぃいいい……! あんなのにこられちゃ攻撃なんて無理だよぅ』

「クク―――ならば、メタル・デビルゾアにおじゃまイエローで攻撃だ!!」

「なんだと!?」



だが、万丈目は攻撃を撤回する事なく続行させる。

それに驚愕、そして全力で拒否するのはおじゃまイエロー。

誰もわざわざ勝てる見込みのない相手に挑みかかりたいとは思わないだろう。



『そんなの無理だよあにきぃ…』

「大丈夫だ。言った筈だ、お前がオレの勝利を飾るモンスター、だとな―――!」

『あにき……!』



決死の覚悟を決めたのか、おじゃまイエローはメタル・デビルゾアに向けて疾駆した。

顔に組みつくように跳びかかったその弱小モンスターを、メタル・デビルゾアは鬱陶しげに払おうとする。

しかし強くしがみ付いたおじゃまイエローはけして離れない。

唸り声を上げる機械悪魔に対する恐怖の叫び声が、おじゃまイエローの口から絶え間なく吐かれる。



『ひぃいいいい!? 万丈目のあにきぃ、攻撃したよぅ! 早くこいつを何とかしてくれよぅ!!』

「あぁ……! オレは手札から速攻魔法を発動! ヘル・テンペストォッ!!

 自分が3000ポイント以上の戦闘ダメージを受けた時、互いのデッキ・墓地から全てのモンスターを除外する!!」

「なんだとッ!?

 そのためにわざわざ攻撃力0の雑魚を呼び出し、攻撃力3000のメタル・デビルゾアに特攻させたのか!?」

『あにきぃっ! そんな、オイラをダマしたのかいっ!?』



おじゃまイエローの悲痛な叫び声を聞きながら、万丈目は不敵に微笑む。



「騙した? 違うな、間違いなくこの瞬間にオレの勝利は確定した……!

 よくやった雑魚モンスター、キサマの役割は終わりだ! さあ、オレの勝利に礎になれ!!」

『あにきのばかぁああああああああん!?』



振り払われ、砕け散るおじゃまイエローのソリッドビジョン。

反射ダメージによって、万丈目のライフは残り100。

そして、万丈目とキング、ともにデッキの中及び墓地に存在するモンスターカードをゲームから取り除く。

あとは、手札のカードを発動するだけで、万丈目の勝利が確定する。



「くっ、だがキサマの場にはもう何もカードはない! 手札も僅か2枚!

 それで一体何ができる! 次のターンになれば、メタル・デビルゾアがキサマにダイレクトアタックを叩き込むぞ!」

「言った筈だ、オレの勝利は確定した、とな。バトルフェイズは終了!

 オレは手札から――――――トラップ発動、異次元からの帰還!!!」

「なにぃッ!? 手札からトラップだとぉッ!?」



トラップカードは一部の特殊なルールを持つカード以外、一度セットしなければ使えない。

勿論異次元からの帰還はその効果も持つカードではない。

ただのルール無視ならばデュエルディスクが警告音を発し、キャンセルがかかる筈だ。

だが、その効果は正しく処理された。



万丈目の頭上から五体のモンスターが降ってくる。

顔に1と描かれたバイオレットの悪魔と、顔に2と描かれたブルーの悪魔。

双子の悪魔として存在するモンスター、ヂェミナイ・デビル。

海色の装甲を纏っている蟹を模して作られた戦闘マシーン。

両の鋏で相手を断ち切り、頭部から毒性のバブルを吐き出すKA-2 デス・シザース。

笹を持ったパンダそのものモンスター。

その気性の荒さを示すかの如く、『んじゃこるぁあああ!』と喚いているのが、逆ギレパンダ。



そして、両腕に断砕のクローを引っ提げ、その頭部にウジャト眼を光らせる処刑人。

鎧に包まれたその存在はゆっくりとフィールドに降りてくると、そのウジャトでキングを見据えた。

そのモンスターを見た瞬間、キングは理解する。



「しょ、処刑人-マキュラ……!? 墓地に送られたターン、手札からのトラップを可能にするモンスター……!

 まさか、天使の施しで手札を捨てた時、墓地に送っていたのか………!?」

「正解だ。そして、ライフ半分をコストに、除外されたモンスターを可能な限り召喚する異次元からの帰還。

 その効果によって、オレの場に五体のモンスターが一斉に特殊召喚された」

「五体……残り一体は……!?」



最後に降りてくるモンスターを見上げ、今度こそキングは絶句した。



紫色のボディに、砲台を背負ったマシーン。

両腕は鉤爪のようになっており、胴体の真ん中のガラスの中で、赤いランプが激しく明滅している。

その姿は見紛おう事もない。



「オレはヂェミナイ・デビル、KA-2 デス・シザース、逆ギレパンダ、処刑人-マキュラ、キャノン・ソルジャー!

 この五体のモンスターを特殊召喚! ククク……ここからは言うまでもないな?

 キャノン・ソルジャーはモンスター一体を生贄に捧げる毎に、500ポイントのダメージを与える……!

 つまり、キャノン・ソルジャー自身を含み五体のモンスターを生贄に、キサマに2500ポイントのダメージを与えるのさ!!」



キングの残るライフは2200。

それを防ぐ手段も残っていなければ、それに耐え切る事の出来るライフポイントも残っていない。

つまり、敗北するのは―――――



キャノン・ソルジャーを取り囲む四体のモンスター。

それぞれが光の欠片となり、キャノン・ソルジャーの身体に吸収されていく。

そして、四体ともを吸収したキャノン・ソルジャーは自分の身体をも光に変え、敵に向かって弾け飛んだ。



「ひ」

「吹き飛べぇ! 万丈目サンダースペシャルキャノンショットォッ!!!」

「うわぁああああああああああああああッ!?」



光弾と化した五体のモンスターの魂が、反応する間もないキングの身体を撃ち貫いた。

思い切り吹き飛ばされ、荒野のような大地を転がるキング。

そのデュエルディスクに表示されたライフカウンターが一気に減退し、0を示す。



絶叫と共に仰向けに倒れ、口から煙を吐き出すキング。

否、この時点をもってキングは万丈目サンダーに与えられる称号。

江戸川遊離は、眼を回して倒れてしまった。



「どうやら、新しいキングの誕生じゃな」



既にこの学園のデュエリストは全て万丈目とのデュエルで倒れている筈。

だと言うのに、まだ別の声がする。

万丈目がすぐさま視線をそちらに向けると、そこには意外な人物が立っていた。



「お前……! お前は、くじらの腹の中で会った昆布オバケ……!」

「校長の一之瀬じゃ」



そういって、フードとマスクで顔を隠した男はその変装を解く。

その中から出て来たのは、頭の禿げ上がった眼鏡の男。

つまり、万丈目がこの学園の外で出会い、ここで最下位に負けていた筈の男だった。



「あぁ……!? ジジイ、これはどういう事だ!?」

「急くな、順に説明しよう。

 まず、お前を呑み込んだのはくじらではなく、この学園の移動手段である潜水艦じゃ。

 お前にやったカードが、お前が漂流しているのを察知して助けたのじゃ」



そう言われて、デッキを見る。おじゃまイエローが、自分を助けた。

そもそもカードが喋るだのなんだの、その時点でおかしい。

先程までは流していたが、落ち着いてみれば全く意味不明な現象である。



「………寝ぼけた事を言うな……!」

「ふっ、まあよかろう。ただ、お前が新しいキングとなったからには、お前がこの学園の代表と言う事になるな。

 デュエルアカデミア本校との対校試合の」

「デュエルアカデミアとの、対校試合」



知らいでか。去年はカイザーが務めたと言う、互いのトップでデュエルを行う親善試合。

流石に今年はカイザーがまだいるため、その座を奪うのは自分でもまだ不可能だと考えていた。

一之瀬は大の字で倒れる江戸川の許にしゃがみこみ、話を続ける。



「そうじゃ。こっちの代表は1年生になるじゃろうと言ったら、向こうも1年生を用意したようじゃ」

「んぉ……」



江戸川が眼を覚まし、眼をパチクリさせて状況の把握を行っている。

そんな姿を気にも留めず、万丈目は一之瀬を睨み据える。



「お前……オレがここのキングになると最初から―――!」

「ふん、言ったろう? お前には人とは違った力があると」



江戸川が漸く再起動したところで起き上がり、万丈目の前に頭を垂れる。

土下座の体勢で自分に向かう江戸川の姿も眼に入らぬ様子で、万丈目は言葉の続きを促した。



「それで、オレの対戦相手の名は?」

「確か……遊城一桁? いや遊城二十代だったか?」

「遊城? 遊城十代か!?」

「おぉおお、そいつじゃ!」



江戸川が跪くのであれば、当然この学園の全ての生徒は万丈目に跪く。

五十一人のデュエリストたちが自分に頭を下げている状況で、万丈目はそんな事おかまいなしに自分の世界に没頭していく。



「十代―――! ククク……このオレに、奴ともう一度闘うチャンスがきただと……?

 フフフフフ、フハハハハハハハハッ、ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」



極寒の空に、万丈目の歓喜の高笑いが溶けていく。

そして一之瀬は、その姿を頼もしげに見つめるのであった。











後☆書☆王



ツンデレ枠のうちの一人、サンダー誕生。

アニメ万丈目にもライダーは似合うと思う。でもやっぱ一番はおじゃまだけど。

ライダー破壊→おじゃま蘇生が基本フィニッシュ時のテンプレ化しそうな気配。



で、いい加減双頭のサンダードラゴンのイラスト直さない?

いつまで双口のサンダードラゴンなんだよ、あの子は。

アニメで首二つにしてあるからって……

うちの子の描写は社長VS凡骨戦でできた時のデザイン。

そういえばオシリスも双口のサンダードラゴンだよね。色も似てるし。



マキュラは確かアニメでこの話がやってた頃だったかね、禁止くらったの。

俺は気にしないけど。主人公以外には禁止制限守らせたってしょうがないし。

まあ書いてて思ったけどマキュラは100パーセント帰ってこないよね。

いまさらだけど。



偉大魔獣ガーゼット「オレは戦闘のプロだぜ。サンダーブレーク!」

万丈目サンダー「負けるか、万丈目サンダーブレーク!」

今回のデュエルはこれに集約される。

ライダー→サンダーブレーク→おじゃま→ヘルテンペストにこだわったせいか、デュエル内容自体がなんとも微妙な。



まあ神にも悪魔にもなれる。って言いたかっただけだよね、要するに。

マジンカイザーSKLかっけぇよなぁ。

隻眼ウイングクロスの超合金でないのかな。



何気に名前に遊がついてるノース校のキング。

この人が万丈目のデッキの中で知らなかったのは光と闇、反転世界、双頭、マキュラ、ヘルテンペスト、帰還くらいか?

自分で書いててもよく分からん。



そして万丈目のデッキに投入されているメカ遊星。

何気にこの後のカミューラが蝙蝠でデッキを盗み見ているシーンでも入ったまま。



主人公はねー。どうしよっかな。

まあ、デュエルさせようかなって。うん、まあ……いろいろ使って。





bavuさんよりのご指摘。

>>ちなみに光と闇の竜は四回目まで無効化できるのは正しいけれど攻守は0になりませんのであしからず。

>>よって最後の時点では攻:800、守:400でこれに反転世界、ライジングエナジーで功:1900、守:800です。

何の効果も受けてなければ、守備力が400になって4度で打ち止めですね。

でもシャインスパークで攻撃力3300守備力2000になっているので、

4回効果使った時点で1300:0になってます。

ご指摘ありがとうございます。

うーん、やっぱフィールドの状況分かりづらいですよねー

後書きの前にその回のデュエルの流れとか書いた方がいいですかね。



こんなん。



1ターン目キング。手札6枚
         デビルズサンクチュアリ×2発動、手札4枚。
         メタルデビル×2リリース、デビルゾア召喚。手札3枚。
         R2枚セット(メタル化、正統なる血統)手札1枚。

2ターン目サンダー。手札6枚。
          おじゃまイエロー守備表示。手札5枚。
          R2枚セット(体力増強剤スーパーZ、威嚇する咆哮)手札3枚。

3ターン目キング。手札2枚。
         メタル化発動、デビルゾア装備。デビルゾアリリース、メタルデビルゾア召喚。
         正統なる血統発動、デビルゾア召喚。
         BPデビルゾア→イエロー、イエロー破壊。
         メタルデビルゾア→サンダー、スーパーZ発動サンダーLP5000。

4ターン目サンダー。手札4枚。
          サンダードラゴン効果、手札5枚。
          融合発動、サンダードラゴン×2=双頭のサンダードラゴン。手札2枚。
          シャインスパーク発動、手札1枚。
          BPサンダードラゴン→メタルデビルゾア、メタルデビルゾア破壊。キングLP3700。

5ターン目キング。手札3枚。
         強欲な壺、手札4枚。
         デビルゾアリリース、偉大魔獣ガーゼット召喚。手札3枚。
         BPガーゼット→サンダードラゴン、サンダードラゴン破壊。万丈目LP3100。
         手札3枚。

6ターン目サンダー。手札2枚。
          貪欲な壺発動、おじゃま、サンダー×3、双頭。手札3枚。
          強欲な壺発動、手札4枚。
          R3枚セット(サンダーブレーク、攻撃の無力化、反転世界)手札1枚。
          悪夢の蜃気楼発動、手札0枚。

7ターン目キング。手札4枚。万丈目手札4枚。
         BPガーゼット→万丈目、威嚇する咆哮。

8ターン目サンダー。手札5枚。悪夢の蜃気楼効果、手札1枚。
          ミンゲイドラゴン効果発動、ミンゲイ特殊召喚。
          ミンゲイリリース、光と闇の竜召喚。手札0枚。

9ターン目キング。手札5枚。万丈目手札4枚。
         天使の施し発動、光と闇の竜効果発動。手札4枚。
         黙する死者発動、光と闇の竜効果発動。手札3枚。
         デビルズサンクチュアリ発動、光と闇の竜効果発動。手札2枚。
         BPガーゼット→光と闇、攻撃の無力化発動。

10ターン目サンダー。手札5枚。悪夢の蜃気楼効果、手札1枚。
           R1枚セット(ライジングエナジー)手札0枚。

11ターン目キング。手札3枚。悪夢の蜃気楼効果、手札4枚。
          BPガーゼット→光と闇、ネクロガードナー効果。光と闇効果発動。
          反転世界発動、ライジングエナジー発動。
          ガーゼット→光と闇、ガーゼット破壊。万丈目手札3枚。
          サンダーブレーク発動、光と闇破壊。万丈目手札2枚。
          おじゃまイエロー特殊召喚。
          R1枚セット(リビングデッド)手札2枚。

12ターン目サンダー。手札3枚。
           天使の施し発動、手札3枚。
           BPおじゃまイエロー→キング、リビングデッドの呼声発動、メタルデビルゾア召喚。
           イエロー→メタルデビルゾア、イエロー破壊。サンダーLP100。
           ヘルテンペスト発動。カオスエンド発動。手札1枚。
           異次元からの帰還発動、万丈目サンダースぺシャルキャノンショット

レン様よりのご指摘。

>>それから大したことではないのですが、一つだけ気になりました。

>>万丈目回で、攻守が逆転し攻撃力が共に0になったガーゼットとライダーのバトル。

>>キングは「相打ちか」と身構えたそうですが、ルール上攻撃力0同士のバトルでは、モンスターは破壊されません。

>>何せ攻撃力0ですからw



べべべ別に勘違いしてたとかじゃなくて、素で知らなかっただけなんだからね!

いや、本気で。攻撃力0同士の戦闘なんて、最近経験してなかったからなぁ。

言われると多分昔そんな事があったような気はしないでもない。

ま、修正はいらないかなと。展開は変わらないし。

キングも勘違いしたのでしょう。

誰だって勘違いはあるんです。彼らだって勘違いするさ、人間だもの。流離のギャンブラー・みつをキッド。



トーマ様よりご質問。

>>久しぶりに一話から読んでいたのですが、

>>万丈目vsノース校キングのデュエルでライダーが召喚された次のキングのターンで、

>>悪夢の蜃気楼が破壊されず、他のカード四枚を破壊していましたが、

>>そのあとの万丈目の台詞に破壊されているから手札は捨てないとあります。

>>いつの間に悪夢は破壊されたのでしょうか?



悪夢の蜃気楼は光の闇の竜がサンダー・ブレークの効果で破壊された際に発動した、

『このカードが破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。

 自分フィールド上のカードを全て破壊する。選択したモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。』

この効果により破壊されました。

それまでは発動してから相手のスタンバイフェイズごとに4枚引き、自分のスタンバイフェイズごとに4枚捨ててます。


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