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No.26037の一覧
[0] 【ネタ】トリップしてデュエルして(遊戯王シリーズ)[イメージ](2011/11/13 21:23)
[1] リメンバーわくわくさん編[イメージ](2014/09/29 00:35)
[2] デュエルを一本書こうと思ったらいつの間にか二本書いていた。な…なにを(ry[イメージ](2011/11/13 21:24)
[3] 太陽神「俺は太陽の破片 真っ赤に燃えるマグマ 永遠のために君のために生まれ変わる~」 生まれ変わった結果がヲーである[イメージ](2011/03/28 21:40)
[4] 主人公がデュエルしない件について[イメージ](2012/02/21 21:35)
[5] 交差する絆[イメージ](2011/04/20 13:41)
[6] ワシの波動竜騎士は百八式まであるぞ[イメージ](2011/05/04 23:22)
[7] らぶ&くらいしす! キミのことを想うとはーとがばーすと![イメージ](2014/09/30 20:53)
[8] 復活! 万丈目ライダー!![イメージ](2011/11/13 21:41)
[9] 古代の機械心[イメージ](2011/05/26 14:22)
[10] セイヴァードラゴンがシンクロチューナーになると思っていた時期が私にもありました[イメージ](2011/06/26 14:51)
[12] 主人公のキャラの迷走っぷりがアクセルシンクロ[イメージ](2011/08/10 23:55)
[13] スーパー墓地からのトラップ!? タイム[イメージ](2011/11/13 21:12)
[14] 恐れぬほど強く[イメージ](2012/02/26 01:04)
[15] 風が吹く刻[イメージ](2012/07/19 04:20)
[16] 追う者、追われる者―追い越し、その先へ―[イメージ](2014/09/28 19:47)
[17] この回を書き始めたのは一体いつだったか・・・[イメージ](2014/09/28 19:49)
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[26037] らぶ&くらいしす! キミのことを想うとはーとがばーすと!
Name: イメージ◆294db6ee ID:e4b24715 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/09/30 20:53
「うひゃー……改めて見ると凄いなぁ」



だだっ広いリビングルームは、前面がガラス張りになっており、そこから庭が見える。

その部屋自体の広さも庶民の俺からすればまだ地味すぎるからシルバーを巻きたくなる、じゃない。

また筆舌にしがたいぐらいの代物なのであるが、ガラスの向こうに見える庭だ。

何やら家庭菜園なんてレベルじゃない、軽く植物園みたいな事になってる花壇がある。

昨夜はカーテンが閉じ切っていたので見ていなかったが、これは凄い。



俺がそんな光景にうひゃー、と驚嘆していると、後ろから声がかかってきた。



「そんなに凄いかな? この辺りだと普通だと思うけど」



ライトグリーンの髪を頭の後ろで結び、半ばポニーテイルみたいな髪型の少年。

つまり龍亞である。

昨夜、バカのせいでこの時代に来てしまった俺を何故か正体してくれたのだ。

寝床も貸してくれ、その上今朝の食事まで頂いてしまうという好待遇。

本気で何故なのか分からないが、もしかしたらと視線をずらす。



部屋の隅に遊星号と並べて置いてあるホープ・トゥ・エントラスト。

その真正面にしゃがんで、じっとその車体とにらめっこしている少女。

龍亞と同じライトグリーンの髪を、額の前で二つに纏めている。

龍亞と比べて個性的な髪型と言うか、まぁ例えるとすれば蛍みたい、とでも言おうか。

俺の目の前にいる龍亞の双子の妹にして、ドラゴンクローの痣を持つシグナー。

龍可である。



「俺みたいな平民には一生辿りつけない普通なんだがな」

「そんなわけないじゃん! あんな凄いDホイール持ってるって事は、エックスはDホイーラーなんでしょ?」



Dホイーラーか否か、と問われればまた微妙な答えでしか返せない。

どうやら、というか当り前なのか、Dホイーラーと言えば、普通にある程度裕福なデュエリストの進む世界らしい。

Dホイールという代物自体、潤沢な資金があってこそ持てるデュエルディスクのハイエンド。

お手製で作って見せる遊星やチーム太陽の方がぶっ飛んでいるのだ。



「いや、あれは貰いものでな……」

「え? そうなの?」



視線をXの方に向ける。

何やら、龍可が手を伸ばしてXのボディを撫でている。一体、どうしたというのだろうか。

それを同じく見ていた龍亞が腕を頭の後ろで組み、微妙に納得いかないような、珍妙な顔をする。



「それにしてもめっずらしいよなぁ、喋るDホイールなんて。

 でも、なんというか……それ以上に龍可があんなにDホイールに興味持つ、って方が珍しいけど」

「なんか、すげー近づき難いなぁ」



今度は両手で撫で始める龍可。Xの方も、龍可に触れられるのは嫌がらないようだ。

基本的に男女関係なしに俺以外が触れようとすると逃げるのだけれど。

龍亞に触れられた時もそこまで嫌がっていなかったし、子供はいいのだろうか。

溜め息を吐いて、窓越しの空を見上げる。



「……龍可ってさ、おれと一緒にテレビでやってるキングのデュエル見てても、ぜっんぜん興味なさそーなんだよね。

 キングがあのレッド・デーモンズ・ドラゴンでこう、ぐわー!ってして、ずばばー!っと相手を倒すじゃん?

 そんなの見ちゃったらさ、普通さ、自分もあんなデュエルしたい! って思う筈でしょ?

 なのに全く興味なし。あの白くてカッコいいホイール・オブ・フォーチュンを見たって反応なし。

 それなのに、なんでエックスのDホイールにはあんなに興味持つんだろ」

「んー、まぁそれは人それぞれとしか」



俺も見たいなぁ、ジャックのデュエル。あとチアガール。

龍亞のコレクションで、棚の上に飾られているジャックのフィギュアへと視線を移す。

いいなぁ、レモンのフィギュア。遊戯王のフィギュアって、あんまり無いからなぁ。

遊星号のフィギュアはクオリティがあれだし、青眼と真紅眼は値段が振り切れてるし……

それなりに見れるのが500円でDTカード付きのモンスターフィギュアくらいしかないんだよね。

レモンとセイヴァーデモンは出来いいよね、青眼も。

4はいつ出るの? そして今度の収録モンスターはなんにするの?

ZEXALにして出すのかな? って言っても、流石にすぐさまブースターのウルレア枠即再録もないだろうけどな。

まぁ、DTに遊馬とシャークさんが出てる以上、ホープやリバイスはそのうち出るだろう。

あとカイトとやらの銀河眼。どんなデザインだろうか、わくわくが止まらない。



「………なんかさ、ちょっと嬉しいかな。龍可、少し楽しそうだし」

「おぉ………いいお兄ちゃん」



龍亞の頭に手を乗せ、軽く撫でる。

その姿に遠い故郷へと想いを馳せ、別に俺には妹などいなかったと追憶を中断。

なんだ、俺の一生には感動的なエピソードの一つもないのか。

まだまだこれから。

しかしそれにしても、龍可は何をしているのだろうか。











『……あの、まだ続けますか?』

「うん、もうちょっと。―――いや?」

『いえ、別にいやではないですけど』



きゅう、っと白い車体に縋りつく。

まるで鼓動のように、その中から声が聞こえてくる。

凄く懐かしくて、凄く哀しい音。涙が溢れそうになるのを我慢して、それでも確かめる。

コォオオオ、と。何かの鳴き声のような、唸り声のような音。

エンジンの音などではない。それは、正しく声だ。

聞いた事がある。でも、何故かその声が誰の、何のものかは分からない。

絶対に知っている筈なのに、でも分からない。

精霊の声のようで、人の声のようで、どちらでもあるようで、どちらでもないような。



「ごめんね……」

『いえ、いやではありませんので。気が済むまでどうぞ』



この子はXと。一緒にきた、彼女? 彼? の身体であるマシンに乗っていた男の人と同じ名前を名乗った。

そのXは、こちらの呟きにすぐさま否定の意を返してくれた。

でも、そうではないのだ。謝らなければならない。理由は分からないけれど、ただひたすらにそう感じる。

縋るように抱きつき、少しだけ涙をこぼした。



『―――――――龍可?』

「感じる……あなたの事、わたしは知ってる」

『…………?』

「なのに、おかしいな。あなたの事、知ってるのに……分からない」

『私と貴方は、初対面です……が?』



少しだけ、Xの声が揺れた。でも、それはきっとわたしの事を知ってるからじゃない。

ただの狼狽。自分に縋りついて泣く子供を、必死にあやそうとして駄目で、困っているのだ。

わたしも、そんな迷惑をかけたいわけじゃない。でも、動けなかった。



「あー! X、なに龍可泣かせてるんだよ!」

『あ、いえ龍亞、私は別に……いや、その、すみません……』

「………Xは異様にこの二人に弱いな」

『マスター、助けて下さいよぅ』



わたしがXに泣き付いているように、Xはこの子のマスターに泣き付く。

抱きつかれた身体が移動できないけれど、その意識は全速力で彼の許へ向かった。

それが少し、哀しくて、凄く嬉しかった。

一緒にいてくれる人がいる。そう、大切な事が分かったから。



服の袖で涙をぬぐう。そして、わたしの後ろまで来ていた二人へと向き直った。



「別に、目にゴミが入っただけ。龍亞、ちょっと騒ぎすぎ」

「なんだよぉ、おれが折角……ふーんだ!」

「龍可、もういいのか? Xの事」



多分、この人はこの子の事は知らないだろう。

わたしにも分からないけれど、でもきっと、この子がこの人が選んだのには意味があると思う。

Xのデッキホルダーに入っていたデッキ。

このカードたちは、とっても大事にされている。だからこそ、Xもこの人が好きなんだと思う。

そう考えると、心配もない。

だからこそ微笑んで、その言葉に返事する。



「うん。ごめんなさい、Xを独り占めして」

「いや、いいけど。むしろそのままレンタルキャット状態にしておいてくれ。

 と、冗談はともかく。悪いな、一晩世話になっちゃってなんだけど、そろそろ行くわ」

「あれ? あの赤いDホイールの人、知り合いなんじゃないの?

 起きるまで待ってなくていいの?」



もう既にXの上に置かれていたヘルメットを取り、被っている。

その様子を見ると、すぐにでも出ていくつもりらしい。

ちょっと名残惜しいけど、仕方がない。

それでも、多分、本当に多分としか言えないけれど、また、会う事があると思った。



「ちょっと色々あってさ、俺の事秘密にしといてくれ」

「えー、なんで?」

「龍亞、いいの。いいけど、その代わりに一つお願い聞いてもらっていい?」



ぶーたれる龍亞を制して、彼に視線を向ける。

少しだけ首を傾げると、エックスは内容によるけど、という答えをくれた。

微笑んで、そのお願いを口にする。



「今度、デュエル・オブ・フォーチュンカップっていう大会があるの、知ってる?」

「え、あ、うん……その、それがお願いと何の関係が……?」



戦々恐々と何故か及び腰になるエックス。

構わずに続ける。



「その大会に、Xと一緒に観戦しに来て欲しいの」

「えー!? 龍可出ないって言ったじゃん! おれが出る気だったのにぃ!」



化粧道具も用意してた、と聞き逃せない事を言い始める龍亞。

そう言う事しても、龍亞じゃわたしに変装するのは無理だと思う。

そもそも龍亞はうるさいし、やかましいし、もうちょっと静かにできないのかな。



「その、何ででございましょうか」

「なんだか、その時になったらXと話をしたくなっちゃうかなって。

 駄目ならいいけど、その代わり、あの人に全部エックスの事言っちゃうし、宿泊費、払ってもらおうかな」

「あ、悪魔……また金か……っ!」



ふふん、と得意げにしてみる。

エックスは崩れ落ち、財布を取り出した。持ってたんだ、冗談なのに本当に払われたらどうしようかな。

だが、その中身を見ると、見事なまでに空っぽだった。

すっからかん、というのはこういう状態なのだろうと、少し利口になった気がした。



「来てくれる?」

「…………い、いいともー」

「ありがと。じゃあ、黙っててあげるね」



最後に、やれやれと自分の相棒を見ているXを撫でる。

少しだけXを見ていても哀しくなくなった。

それはこの子が、とてもいい人と一緒だと分かったから。

それでもまだ、少しだけ残るのはしょうがない。



「じゃあ、またね」

『ええ。龍可も、龍亞も元気で』



そう言って、ころころとタイヤを転がして彼らは出て行った。

ちょっとだけ寂しいけれど、また会う約束もできたからいいだろう。

その時が楽しみで、少し嬉しくなった。



「ちぇー、龍可ばっかでおれ、全然Xと話せなかったじゃん」

「だからフォーチュンカップで会えるってば。龍亞がすぐ負けてくれれば、ずっと話がしてられるし?」

「へーん、おれが出たら絶対優勝するって。

 おれのディフォーマーデッキの凄さ、キングに見てもらうんだ!」



調子に乗って笑う龍亞を見て、溜め息を一つ。

絶対無理、なんて言ってもどうせまたそんな事無い、って怒るだけなんだろうな。











「お前さ、龍可の事知ってたのか?」

『いえ、勿論初対面です。私が起動して初めて遭遇したのはマスターですから』



ゆっくりとバイクを転がしながら、エレベーターを出る。

しかし、あの龍可の態度は何かしら関係がある筈だと思うのだが。

悩んでも仕方ないのだが、それでも気になるところ……

とりあえずDホイールにまたがろうとして、



「ヒッヒッヒ……おやおや、喋るDホイールとは珍しい」

「!?」



背後から声がした。それも、とてつもなく聞き覚えがある声。

振り向くと、そこにいたのは妙チクリンな小さいおっさん。

目に縦の赤いラインを入れた、ピエロ風な相貌の男。そして声がアメザリ。

即座にバイクに跨り、車体を反転させて対峙する。

下手に逃げると色々問題になりそうだし、しかしだからと言って無防備にはなりたくない。

こいつに乗っていれば、いざという時には逃げられる。



「誰だ……」

「おっと、自己紹介がまだでしたね。

 ワタシの名はイェーガー、ネオドミノシティ治安維持局・特別調査室長の任に就く者。

 アナタに折り入って話があり、伺った次第……」



懐から証明となる身分証を示し、イェーガーはそう続ける。

俺がこの時代に来たのは二度目。それもかなり突発的で、どう考えても干渉できそうにないが。

だと言うのに、このピエロは完全に俺を目的として動いている。

昨晩突然この場に現れたこの俺を目当てに。

遊星のついでならば、どこかボロがありそうなものだが。



「―――何か御用ですか? 僕はどこにでもいる善良な一般市民ですよ?

 街の入り口で『ここは ネオドミノシティ だよ!』と言うという立派な仕事にも就いています」

「おやおや、それはご立派。ワタシも見習い、職務に忠実に……働くとしましょう」



ニヤリ、と。イェーガーは顔色一つ変えずに笑う。

駄目、無理、役者違うわ。この状況の俺のボケに顔色一つ変えずに返答とか、相手のペースを崩せる気がしない。

まともにやりあったら俺は学校のディベートの授業でも負けるし。

長官の懐刀に勝てる要因など一つもない。



「それはとても立派ですね! それで、善良な一般市民の僕に、何の御用でしょうか?」

「なに、大した事ではありませんよ。こちらを、受取って頂きたいのです」



そう言って奴が懐から取り出したのは、一通の手紙。

手首のスナップで投擲されたそれは、ひゅい、と風を切ってこちらへと向かってくる。

そうやって投げられると凄まじく怖い、のだが文句を言っている間はない。

それを掴み取り、見てみると。



「デュエル・オブ・フォーチュンカップ……」

「ええ、アナタ様用の特別招待券にございます」

「………生憎、先約のデートが入ってまして」

「ご心配なく。アナタのデートのお相手も、誘ってあるのはご存じでしょう?」



………あの双子にプライベートないのか、もしかして。

っていうか隠しカメラとかあったら流石に訴えるぞ、お前。

そんな事を考えていると、イェーガーが唇を歪めた。



「若いですね。考えている事が全て分かる……

 ご安心を。アナタの浅はかな考えがお見通しなだけで、プライベートはちゃんと守っておりますとも」

「……さいですか」



とは言え、そんな強制参加などお断りだ。

明らかに危ないし。十六夜アキとかに当たった日には目も当てられない惨状だ。

サイコデュエリストとかマジ勘弁してください。

とにかく、この場を乗り切らなければならないだろう。

そのためには………



「あ゛ぁえ゛い!? 空飛ぶレッド・デーモンズ・ヌードルの大群が!?」

「なんですとっ!? どこっ! どこですかっ!!」



しめた! 後付けだろうがなんだろうが、活きている設定ならばそれを利用するまでだ。

俺の指差した方向に眼を逸らした瞬間、アクセルを限界まで叩き込み―――

しかし、



「イリアステルという組織をッ!」

「っ!?」



イェーガーの言葉に、一瞬戸惑った。

その時点で、完全に敗北していたのだ。いや、対峙した瞬間から完全敗北は確定していたのだろう。

視線を俺に戻す事無く、イェーガーは言葉を続ける。



「全て敵に回す覚悟があるならば、逃げても構わないと。確か、ゴドウィン長官は言っておられましたかな。

 では、ワタシはこれで失礼させていただきます」



踵を返し、去っていく。

その場で茫然としていた俺は、イェーガーが乗った治安維持局の車両が走り去る音で、やっと我に返った。

イリアステルを、全て。奴はそう言っていた。

そして、時間転移を繰り返す俺を、完全に予測していた上でのこのセリフ。

イェーガー自身が全てを知っているわけはない。無論、ゴドウィンだって。

だとしたら、そのセリフはどこからきた? その全ては、誰が握っている?

――――俺は、もしかしたら途方もないほどに大きな地雷の上に、茫然と立ちつくしているだけなのではないだろうか。











イェーガー、いやゴドウィンか。

あいつはどこで俺の事を知ったのだろう。俺があの世界にいたのは、双子の家で過ごした一晩。

そして、遊星と行ったデュエル一戦の時間のみ。

……スターダスト・ドラゴンを召喚したのは本気で不味かったのかもしれない。

海馬コーポレーションの本拠地、ネオドミノシティの実権を掌握するあの男の事だ。

衛星であのデュエルを監視されていたとしても、おかしくないだろう。



だとしても、ゴドウィンが相手ならば逃げる事は可能だ。

今俺はGX時代に戻ってきている。こうなれば、あいつから俺に干渉する術はない。

だがイェーガーは“イリアステル”と言った。

俺が最初についた世界、荒廃した街並みの中。あそこは、一体どこだったのか。



「……なぁ、X」

『はい』



少しだけ逡巡して、質問をした。



「お前、最初に会った人間は俺だ、って言ったよな?」

『はい。私の初起動はマスターが行った不動遊星のデュエル終了後です』



だとしたら、こいつはあのジイサンの事も知らないのだろう。

例え滅びが運命でもそれを変えようとは思わない。確かあのジイサンはそう言っていた。

つまり、俺が最初に思った通りあの時代はZ-ONEやアポリア、ブルーノちゃんの生きていた時代?

機皇帝の反乱後。いや、全モーメントの逆回転後くらいなのかもしれない。

だとしたら、俺、というかこいつがZ-ONE組に知られている……のかもしれない。



だからこそ、というか今のイリアステル動かしているのはどちらさまだ。

アポリア三分身はまだこの時代にいないと思うけど。あの白衣の奴か? 顔分からないけど。

……モーメントエクスプレスのクラークみたく、未来組とのコネクションを持った奴らが、未来からの指示で動いている、のかな?

まあそれがゴドウィンなんだろうが。



「……なぁ、もう一度お前の生まれた時代に戻れるか?」

『――――一応、可能ですが……』



そうしなければ、始まらない気がした。

どうであれ、俺をあの流れに組み込みたい奴らがいるのは確かなのだろうから。

戻ってきたばかりなのだが、また未来までとんぼ返りだ。

尤も、今度は更に遥かな未来になるのだが。



「行こう、X」

『了解。システムADX起動、―――準備完了、加速してください』

「ああ!」



アクセルを踏み込み、その速度を限界まで高める。

先程大原小原と遭遇し、未来へ高跳びしたばかりの時間に戻ってきたため、周囲はまだ暗い。

今の時刻はそれこそ丑三つ刻、くらいな感じだろう。

その夜闇を切り裂き、赤白い閃光が奔り抜ける。

スピードの限界値の抜き去り、加速するマシンが一瞬の間にこの時代から消失、転移した。







しかし、その到達点は俺たちが望んだ場所ではなかった。

ひたすらに続く真っ白い地平線。

息を呑む暇もなかった。直後の破壊の嵐に、そんな暇すら呑み込まれたのだった。

爆風と爆炎と爆音と。一斉に降り注ぐ極彩色の閃光は、俺たちの周囲を取り囲むように着弾し、弾けていく。



「な、んだッ!? また、お前間違えて……!」

『マスター! 振り切ります!!』

「はっ―――!?」



俺の手からコントロールを奪い、Xが自身の身体の繰る。

左右へと振れるように揺れ、時には急激なブレーキングで前方への爆撃を躱す。

流れる風景を認識するだけで精一杯の俺に、こんなドライビングは不可能だろう。

周囲を爆撃する攻撃は徐々に弱まり、遂には終息する。



地平線をどこまで駆けたのは、分からない。

ただ揺さぶられるだけだった俺は、まだ状況の認識すらうまくできていないのだった。

車体が横向きになり、タイヤが横滑りに流れていき、停車した。

常にシェイクされていた身体を抑え、息を荒くしつつも言葉を吐いた。



「な、んだってんだ……!?」



まるでわけがわからない。

Xも無言で、俺としてはもうどうすればいいのか。



「ここ、どこだよ……」

『マスター……どうやら、間違えてしまったみいたいです』

「やっぱりか……で、ここはどこだ」

『いえ。もっと根本的に……未来へ行くという選択を、するべきではなかった』



バキン、と。

上も下も平面だった白い地平線が罅割れた。

何もない、何一つない空間で、何かが生まれようとしている。

その光景は、酷く恐怖心を掻きたてる。

茫然とそれを見ていると、終末を告げるその咆哮が放たれた。



刃の如く鋭利な黒銀の双翼で罅割れた次元の壁を切り裂き、鬣のように幾つもの角を生やした頭部がせり出してくる。

背後から首の裏まで白い甲殻に包まれ、首から下はまるで鎧に包まれているかのような胴をしている。

長く伸びた尾の先端はまるで大剣のように巨大な黒金の刃。

黒と白を基調とした相反する色で彩られた、分別するのであれば、ワイバーンと呼ぶべき龍。



その名は――――



Sinシン パラドクス・ドラゴン………」

「フッ、成程……やはり、私の事を知っているようだな」



そのパラドクス・ドラゴンが突き破った空間から、一台のDホイールが落下してくる。

縦に長い、その意匠を見るに龍を象った造形の、白いDホイール。

それに跨るのは、金色の髪の風に靡かせる仮面の男。



「は、あっ……?」

「彼の言った通りだったようだ。異次元から呼び寄せたとの事だが、キミは踏み込み過ぎた――――

 私の実験の邪魔にならないうちに、消えてもらおうか」



俺が奴を知らないでか。パラドックス。

俗に未来組と呼ばれる、5D’sのストーリーに関わる人物。

その行動は劇場版のそれとして作られ、5D’s本編の劇中でもその存在がZ-ONEの口から語られた。

デュエリストとしてのスキルは圧倒的。シリーズ主人公3人を同時に相手取り、その技巧を見せつけた。

そんな相手が、今目前にいる。

俺の、敵として―――――



パラドックスがその手を上に翳し、自らのしもべに下す攻撃宣言。

それは確実に俺を葬るためのもの。

俺を利用していても、だからといって絶対に必要なわけではない。

つまり、深入りして一線を越えれば、それは―――――



『マスター!』

「くそっ!」



即座に車体を反転させて、逃亡を図る。

この無限に広がる白い地平線の中、どこへ逃げる事ができるというのか。

相手はこちらの時間転移を妨害する事ができるのだ。

ならば逃げ場などどこにもない。相手が直接攻撃を行ってきた以上、デュエルをする気もないだろう。

例えデュエルをしたところで、あいつ相手にどうやって勝ちを拾えると言うのか。

俺ではまともに相手などできない……!



むしろ、デュエルで勝敗を明確にされるよりはこちらの方がまだ生き残る可能性がある。

もしかしたら、こちらが逃げる分には追ってこない、かもしれない。



「転移だ! 戻るぞ、X!」

『了解、システムAXD起動――――』

「クク―――逃がすと思うかね」



加速。白龍のようなデザインのDホイールはこちらの加速を上回り、肉迫してくる。

それに追従するパラドクス・ドラゴンがその顎を開き、その口腔に闇色の炎を湛えた。

完全にホープ・トゥ・エントラストの性能を凌駕している。

こちらの性能も、少なくとも遊星のマシンのそれを圧倒しているというのに。

5D’s時代の既存マシンを遥かに上回るこいつを、更に圧倒するパラドックスのマシン。

これでは、瞬く間に距離を詰められて、その攻撃を浴びる事となる。



「くそっ、間に合わないか……!!」

『―――――!』



遂には並走する。隣接したパラドックスがその腕を振り下ろす。

その合図と同時に、パラドクス・ドラゴンは蓄えた闇の炎を解き放ち、俺へと放出する。

無論、その攻撃は実体のダメージを伴うもの。当たれば恐らく、命はない。

ギリギリと歯を食い縛りながら、車体が横転しかねない勢いでハンドルを回す。



車体を地面に接触させて火花を散らしながら、何とかその炎の攻撃範囲を逃れて走り抜ける。

外れた炎は地面をごうごうと燃やし、焼き払う。

背後から襲ってくる爆炎と爆風に背中を焼かれながら、それでも視線を前から外さず、アクセルを解放する。



「フ……その程度で私から逃れられはしない。終わりだ」



瞬間、背後で炎を吐いていた筈のドラゴンが俺たちの目前に現れた。

移動ではなく、転移。当然、それは俺たちの専売特許なわけではない。

眼を見開いてそのドラゴンが開いた顎に見入る。

闇色の炎が俺に再び放たれる瞬間、それは見開いた眼を瞑る猶予さえなかった。

ゲームオーバー。分かり易く言うと、そんなところ。



俺はあそこで間違えた。ここには、きてはならなかった―――



Sinシン パラドクス・ドラゴンの攻撃!」

「―――――――」



放たれる最後の一撃。

網膜に焼き付く闇の色が、俺の眼が最期に見た風景。



白光が俺の許から満ち溢れ、この白い世界に満ちていく。

それは、間違いなく俺の許から放たれるもの。

つまりは、ホープ・トゥ・エントラストから放たれる光。

しかしそれを確かめるために下を見る時間すら、俺には残されていない。

炎は、目前。



反応する事も出来ぬまま、俺の命は終わり告げる。







事は、なかった。



目前に影が現れ、その炎と俺の間に立ち塞がったのだ。

爆炎はそれに衝突してぶち撒けられた余波のみで済み、死ぬほどのものではない。

かはっ、と口の中に入ってきた空気を吐き出して、その自分の前に立ちはだかった存在を見上げる。



「こいつ、は……!」

「バカな……!」



俺に背を向け、その場に浮遊している存在。

身体の下の方が膨らみ、上は細くなっている鉄の筒のような胴体。

赤銅の腕は、関節と直接繋がっておらずに浮遊している。

機械のような指をかしゃかしゃと動かしている以上、その腕は当然コントロールできるのだろう。

同色の肩からは何も生えておらず、二の腕から先は別のパーツとして浮いている状態。

金属のプレートのような二枚の翼を持ち、頭部には赤い角にも髪にも見える装飾が施されている。

そして、最大の特徴は、その胴に張り付けられた鏡面のプレート。

そこには、王冠を被った人の顔が映し出されていた。



そう、その身は王冠ケテルの座に位置する時械神。

その位置に身を置く存在であると、胴鏡に映し出された人面が示している。



「メタイオンだと……! どういう事だ、Z-ONE―――」

「いまだ……! 逃げるぞ、X!」

『了解―――! AXD再起動、行けます―――」



突然現れたメタイオンにパラドックスが気を取られた瞬間、俺はアクセルを再び全開にした。

即座にトップスピードに乗ったこちらが、完全に停止した相手を引き離す。

反応し、攻撃を仕掛けようとしたパラドクス・ドラゴンはしかし、メタイオンの胴鏡に映る人面に射竦められた。

ぎょろりと鏡の中で動く瞳に見据えられれば、如何に闇の次元に住まう龍とはいえ、逆らえまい。



車体を赤と白の光が包み込み、俺の身体が吹き飛ぶようにこの次元がから消えたのはその直後だった。







「くっ……! 逃したか……!」



時械神メタイオン。あらゆる破壊を退ける、Z-ONEのエースモンスター。

その突破は凡百のモンスター。いや、過去その強さを讃えられ、伝説を作ったモンスターとは言えそうそう突破できまい。

Sin パラドクス・ドラゴンとて同様。

その天災に等しきパワーの前では、自身のエースモンスターの侵攻さえまるで通用しない。



しかし、今はそんな事はどうでもいい。

振り返ると、天地が無限に続く白い地平線で作られた世界に、さかしまに一人佇む者の姿が見えた。

白い、元々Dホイールであったものを、生命維持装置と融合させた浮遊機械。

Z-ONE。



「どういうことだ、Z-ONE……!

 奴は我らの実験にとって不安要素の一つ。まして、この空間にまでやってきたのだ。

 ここで消し去るべきだった……」

『――――それが、彼の言葉を聞いた貴方の判断ですか。パラドックス』



彼は既にまともに喋る事もできない。

僅かな咽喉の震動を読み取り、それを言葉にする機械に頼らねば会話すらできない。

そう、もう彼には時間がないのだ。こんな不確定要素に振り回されている時間はない。



「ああ、そうだ。奴自身はともかく、あのDホイールは……」

『私は、本来の歴史に存在しなかった彼が―――

 この世界にどのような未来を齎してくれるか、それを見届けたいと思うのです。

 彼自身は何もできないでしょう。

 ですが、未来を知る彼が、過去の英雄たちに何か、未来を変える何かを齎すと信じたい。

 私の身体はまだ保ちます……パラドックス、結論を急がないでください』

「くっ………!」



拳を握りしめ、Z-ONEの姿を見る。

一分、一秒すら惜しい時の中で、彼は未だに過去の人間を信じ続けている。

既に間違えた進化の先に滅びた世界の中、過去の英雄たちが変える世界を望んでいる。

少し背中を押すだけで答えが変わるのならば、元よりこのような結末には至らなかっただろう。



しかし、Z-ONEがそう結論したのなら逆らうまい。

Dホイールのカードを外し、デッキに戻す。

パラドクス・ドラゴンの姿が消えるのを見届けたZ-ONEは、自らもメタイオンの姿を消した。



『……パラドックス、彼は?』

「既に他の英霊たちとともに、アーククレイドルで眠らせた。

 私たちと理念を違えた男とは言え、共に滅びの世界に生きていた者だ―――」

『そうですか―――彼もまた、逝ってしまったのですね』



――――奴に、あのDホイールを与えた男。

既に彼は逝った。それを見取ったのは己のみなのだ。

その場に放置する事はできず、他の者たちとともに――――己の基の身体と共に、アーククレイドルに安置した。



『彼が最期に遺したタマゴは、過去で一体どのような成長を遂げるのか。

 シグナー……不動遊星や、他の人間とのデュエルを経験した彼の心を読み、再び孵る時―――それは』



そう言って、Z-ONEはこの空間の中で漂い続ける。

タマゴ。そう、男の今際の言葉には、そんなキーワードが散りばめられていた。

だが、あのDホイールに乗る彼が、それを引き出せるかには疑問しかない。

微かに瞑目し、顔を上げる。



「Z-ONE。可能性は平等に在るべきとのキミの言葉を汲んで、彼の可能性を信じるのはいいとしよう。

 だが、それを目覚めさせるために何か試練を与えねば、いつまで経ってもそれは眠ったままだ」

『――――アポリアも、アンチノミーも。そして貴方も。それぞれ、目的を決めていた筈……』

「私自身の時間を裂く気はない。だが……」











「――――――一体、何が何やらだよ。ホントに」

『―――――――』



部屋の中でベッドに寝転びながら、そう呟く。

さっきまでの事がまるで夢だったかのように、何もこない。

正直、もう怖くて怖くて動きたくない。

建て付けの悪い窓がかたかた言うだけでもどこかに逃げ出したくなる。

でも、相手にとっては逃げる逃げないなんてどうでもいい筈だ。

相手はこっちが逃げても追い付けるのだから。

その上、歴史の改変を行われてしまえば、その時点で俺の存在が消滅だ。



「なんなんだ、ホントに……」

『――――――』



枕を引っ掴み、倉庫に詰まれた用具の山に投げ込む。

がちゃがちゃと音を立てて、色々な物が倒れて騒々しい悲鳴をあげた。



頭を抱えて転がる。

どうすればいい、どうすればいいんだって、この状況。

逃がされた以上は少なからず猶予はあるんだ。

パラドックスに攻撃されていたところを、Z-ONEが理由は不明だが助けてくれた。

Z-ONEが手を出してくれた以上、普通に襲われる事は考えなくてもいいかもしれない。



それだって随分と希望的な観測だ。



「なんだってんだ、くそ……!」

『――――――』



バン、とベッドを叩く。

大きく深呼吸して頭を冷やしても、答えなんて一つたりとも出てこない。

蹲って、それからどうすればいいかがぐるぐる頭を回っている。



『マスター……』

「なん、だよ」



そのXの声は、どこか震えているような気がした。

俺は転がったまま、その声を聞く。



『彼らの目的は、マスターではなく私でしょう。

 マスターも攻撃対象に含まれていたかもしれませんが、それでも。

 元々住んでいた次元で、この世界になんの干渉もしなければ相手にされない筈です。

 ですから、………』

「……なんだよ。ですから、なんだよ」

『私がマスターを元の次元に返し、その脚で先程の時間に戻れば……』



そこから先は聞かず、問答無用でこのバイクを蹴り倒す。

脚が折れるかと思ったが、気にしてられなかった。

蹴った後はタンスの角に小指とか問題じゃないくらい脚が痛くて、ベッドから転がり落ちた。

それでも、目の前にあったカラーコーンや、石灰でラインを引くアレを持ち上げ、Xに向かって投げ飛ばした。

がこっ、ガこっ、ゴガッ! とXにぶち当たり、弾き返されるグラウンド用品の数々。

そんな状態でも、あいつは文句一つ出さない。



「ふざけんな……! 俺は、お前にそんな事望んじゃないだろ!

 お前はツッコミだって言ってんだろ、俺がボケてるのをツッコメよ……!

 勝手に折れんな! 俺が折れた時に、お前が……!」



虚しくなって、投げるを止める。ごちゃごちゃの床に寝転んで、目を覆う。

泣きたくなってきた。もうわけがわからない。



「………俺は簡単に折れるんだから、お前が、それを支える役目だろ……

 お前の方が、先に折れてどうするんだよ………」

『私はマスターさえ無事ならいいです。そう、言ったつもりです。

 今回はあの白骨なんて比較にならない相手です。率直に言って、マスターじゃ何もできません。

 どう足掻いても勝てません。マスターが挑めば、絶対に負けます。分かっているでしょう』



知ってる、分かってる、見れば分かる、見なくたって理解している。

でも、と拳を握りしめて片足で立ちバイクに殴りかかる。



「そんなの分かってるに決まってるだろっ!

 でも、だからってお前を犠牲にしろって言うのか、消えるは嫌だって、自分で言った言葉だろうが!」

『あの時は、マスター自身の生命もかかっていました。

 ――――――それに、こんなにマスターの事、好きになってなかった。大切に想ってなかった』



殴った拳も痛くて、片足では立っていられなくて、Xの上に倒れ込む。

それ以上、どうすればいいのか分からない。

だって、俺に出来る事が何もない――――?

あ、ああ、そうだ。俺に出来る事はなにもない。上等だ、それでいい。



「俺だって、お前を捨てる気はない――――勝てなくても、いい」

『マスター……』

「俺には、何もできないっ……!」



微かに滲む涙を堪え、Xのボディを叩く。

悔しいのは事実だけど、それは内容も紛う事なき事実。

認めよう、悪足掻きは何もできない事を認めてからでなくては、何の意味もない。

そう、俺は何もできない。パラドックスや、ましてZ-ONEになど勝てる筈がないのだ。

だけど―――――!!!



『マスターは悪くありません。ですから、せめてマスターだけでも―――』

「それでも遊星ならっ、遊星ならなんとかしてくれるっ!」

『……は? え、他力本願ですか? 今の私の感動は?』

「知らん、そんなものドブに捨ててしまえ」



そうと決まれば、フォーチュンカップに参加するのもやぶさかでない。

ここで遊星と友好関係を結んでおけば、のちのち襲われたとしても助けてくれるに違いない。

更に問題はパラドックスだ。

奴はどの時代にも現れるから、十代と遊戯にもちゃんと友好コネクションを作る必要がある。

十代はもう友人と呼べる関係だからいいとして、遊戯ともそれなりにフラグを立てなければ。

なんと忙しい。だが、時間は待ってくれない。

今回は俺の方から未来に向かったからあれだが、パラドックス襲来は恐らくこの時間軸で言うと3年後だ。卒業後になる。

DMは詳細は不明だが、恐らく記憶編ちょっと前くらいだろう。KCグランプリ直後とかそれくらいかもしれない。

5D’sはダグナー編からWRGP編までの間。

さあ、俺は頑張ってみんなから「しょうがない、助けてやるか」と思われる男になってみせよう。



「行くぞ、俺たちの闘いはこれからだっ!」

『―――――まぁ、そんなマスターが大好きなんですけどね』











「にゃー、皆さんに紹介したい人がいますのにゃ」



いつも通り、夕食の時間に食堂に集まっていると、大徳寺先生が後から食堂にきて、急にそんな事を言い始めた。

その背後にはかなり小柄な少年が見えた。いや、知ってるから言っちゃうけど、少年じゃなくて少女な。

なんだ、龍可といい今回は幼女回か。

大きめのハンチング帽を目深に被った、男装の少女である。



「にゃ。編入テストを受けて、この度オシリスレッドに入ってきた、早乙女レイくんだにゃ」



紹介され、前にでてきたものの、ややうつむき加減で顔を隠そうとしているように見える。

ま、知っていれば原因など一発で分かるのだが。



「なんか、女の子みたいに綺麗な子なんだな」



十代は興味なさげに、レイの紹介が終わるまでおあずけの夕食とにらめっこだ。

だが隼人は紹介されたレイを前に、そんな事を言い始めるのであった。

ただの伏線なんだが、それはあいつが本当に男だったとしたらかなり危ないよな。

最近だと先導さん家のアイチくんとか? 俺はやっぱ一番先に浮かぶのが、イッキだわ。



「編入先がオシリスレッドなんで落ち込んでるのかな……その気持ち分かるなぁ」



俺が適当にそんな事を考えていると、翔が何やら神妙に腕を組み、首を縦に振る。

まるで我が事とばかりに、実感に溢れる言葉。いや、我が事でもあるんだけれど。

そして今度は飯にばかり注目していた十代だ。

よし、と何やら気合いを入れて立ち上がった十代は、その腕を思い切り振り始めた。



「フレー! フレー! レェエエイッ!」



突然の一人応援団に若干引き気味のレイ。

応援したと思ったら、今度はレイの傍まで駆けよって、肩を叩いて慰め始める十代。



「なぁーに、成績悪くても気にすんな! 俺たちと一緒に、楽しくやろうぜ!」

「なぁーにを勘違いしているんだにゃ?」



大分嫌そうなレイを見つつ、大徳寺先生はファラオを抱えたまま妙な顔をしている。



「心痛めてる編入生に、」

「っ」



肩に乗せられていた十代の手を振り払い、レイが大徳寺先生の後ろへ隠れた。

小学生の身でここまで乗り込んでくる行動力はあるのに、こういうのは苦手なのか。

って言うか普通に考えて、小学生が高校に潜り込むってどうなんだ。

俺も大概だけどさ。



「慰めの言葉をかけてるんじゃ……」

「早乙女くんは成績が悪くてオシリスレッドに入ってきたわけじゃないのニャ」

「へ?」

「中途編入生は、まずこの寮に入るんだニャ。

 早乙女くんの成績なら、近いうちにラーイエローに移るのニャ」



あのテストで良成績とったとかマジかよ。

俺最悪だったぞ、筆記テスト。

せめて詰めデュエルとかにしてくれればまだどうにかなるんだが、マニアックなカード知識が求められて困る。

あれをすらすらとこなす明日香やユニファーの意味不明ぶりは異常。

完全に場違い感溢れる状況になってしまったので、十代は照れ隠しに頭を掻きながら、ピースしてこちらを振り返った。



「い、いやぁ~っはっは、とにかくオシリスレッドの仲間が増える事は大歓迎だぜ。

 なぁ、翔、隼人、エックス?」

「「勿論!」」

「ゑ? あ、うん」



十代としても単純に照れ隠し以上の何物でもなかったろう。

だが、卑劣な事に大徳寺先生はその言葉を拾いあげた。



「よかったにゃ~、部屋が足りないでどうしようかと思ってたニャ。

 エックスくんの部屋は一人だけど、本来人が住むような場所ではないし、これで早乙女くんの住む部屋が決まったのニャ」

「え?」

「おいそこの細目」



人の住みかに対して何たる言い草。無料で提供して……もらっているのか?

って言うか俺の学費どうなってるのかな。大丈夫なのか、俺。

まあいいや。



俺が自分の立ち位置に迷っている間に、話はそこそこに進み、レイは十代たちと同室になったのであった。

高校生男子3人の部屋に、小学生女子1人。そこはかとなく危ない雰囲気がなくもない。

まぁ俺には関係ないので、とりあえず飯にありついたのであった。







『毎年恒例、デュエルアカデミアノース校との友好デュエルが近づいております。

 昨年は2年生だった丸藤亮くんがノース校代表を倒し、本校の面目躍如となりました』



ねむねむうー……何故どこも校長の朝礼はこう長いんだ。

最早概念武装的な代物だな、こいつは。

スポットライトで照らされたイケメン、丸藤亮に視線をやりつつ、校長の長い話を聞く。

要するにトメさんのキスが欲しくて張り切っているんですね、わかります。



『今年の本校代表はまだ決まっていませんが、誰が選ばれてもいいように皆さん。日々努力を怠らないように』



その言葉を最後に、講堂の正面に取り付けられたモニターから、校長の姿が消える。

やっと終わった……軽く背を伸ばして、長々と立たされていた身体をほぐす。

そんな中で、デュエル命の十代は今の校長の言葉にやる気を燃やしていた。



「よぉしっ! 代表目指して、いっちょ頑張るか!」

「幾らアニキでも、やっぱ今年も代表はカイザー亮で決まりっす!」



対して、翔はブラコン精神を存分に発揮してカイザー推しだ。

まぁ確かに今の十代ではカイザーに及ぶまい。

何せ、セブンスターズ編を経た上で互角の相手だからな。



「ちぇー……ん?」



そうして、十代はぶーたれながら、視線を横にずらす。

その先には、カイザーを見つめるレイの姿があった。

ふむ、十代の割には人心の動きを掴んでるな。

いつもだったら注目しないだろうに。











「デュエルには、人となりが現れる。その人間の心の在り様までもな」

「事情を訊く必要もなくなるってわけよ」

「「へー」」



以上、カイザーと明日香のデュエル講座(超級者編)でした。

そんなん分かるか。だったらお前がレイとデュエルして来いよ、カイザー。

そう思ってしまうのは、俺が初級デュエリストなのだからだろうか。



今レッド寮の後ろにある崖下で立ち並ぶ十代とレイ。

その会話の中で、レイが実は女子だったという衝撃の事実が明かされた。

そんな事が誰に予想できただろう。恐らく、誰一人気付いていなかったろう。

俺もビックリだ。ビックリマンのウエハースチョコが食べたくなってしまうほどにビックリした。

個人的にガンバライドチョコがウエハースでなくなったのにはガッカリだ。

だが、仮面ライダーチョコボールはキョロちゃんのより好きだ。

ついついボックス買いして、ミラクルライダーBOXに応募してしまうくらい好きだ。

さておき。



「デュエルって、そんな奥深いものなのかぁ……」

「むしろその程度入口っぽいよな」

「ほう。キミはデュエルの持つ奥の深さを、ある程度感じ取っているようだな」



カイザーに話しかけられた。そのセリフは一体どんな答えを求めてるんだ。



「いや、それはまぁ……その、も、もっと深いものかなぁー、なんて」

「ああ、デュエルは底知れぬほど奥深いもの。知っているつもりでも、どこまでも先がある。

 キミたち1年生は、これからこのデュエルアカデミアでそれを知る事になるだろう」



言っとくがカイザー、あんたの考えてる斜め上を光速で飛んでくぞ。この3年間。

何せカイザーは高等部に上がってから、大したイベント経験してないだろうしな。

JOINは大概な体験してるけど。

ま、カイザーはこれから1年後に人生を変える一大イベントを控えてるしな。



「「デュエル!」」



そうこうしている間に、二人のデュエルが始まっていた。











「ぼくのターン、ドロー!」



女の子なのに、何故か男の恰好をしてデュエルアカデミアに入学し、カイザーの部屋に忍び込んだレイ。

その真意を確かめるために始めたデュエルは、レイの先攻から始まった。

自分の手札とドローカードを見合わせて微かに笑う様は、自身の戦術が確定した事を示しているのだろう。



―――そうこなくっちゃ、どんなモンスターが出てくるかワクワクしてきたぜっ!

いつもの如く、相手の戦術に想いを馳せて、気持ちを昂ぶらせる。



「恋する乙女を召喚!」



ふわぁっ、と淡い光に包まれて、腰まで伸びた栗色の髪をウェーブさせた少女が現れた。

髪に結われたさくら色のリボン、ふわっと膨らんだスカートのドレス。

リボンと同じヒールを履いた少女は地面に降り立ち、にこりと微笑んだ。



『ふふっ♪』

「カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

「オレのターン、ドローッ! E・HEROエレメンタルヒーロー フェザーマンを攻撃表示で召喚!」



恋する乙女の攻撃力は僅かに400。

ならば、あの伏せリバースカードにこそ、何か秘密があると思うべきだろう。

だが、その程度で臆する遊城十代ではない。そのまま、正面から打ち破るのが十代。

そして、E・HEROエレメンタルヒーローだ。



緑色の体毛に包まれた、有翼の戦士がフィールドに降り立つ。

正体を隠し、正義を行う為に被ったマスクはその戦士の素顔を分からせない。

脚は鳥の脚部そのもので、左腕には鳥の爪を持っている、異形の戦士。

彼は純白の翼を大きく広げ、空を駆ける。



「バトルだ! フェザーマンで、恋する乙女に攻撃!」



相手が如何に可弱い乙女であったとしても、戦士の攻撃は緩まない。

ただ己の信じる正義のために、その翼を振るうのだ。

双翼を大きく羽搏かせ、巻き起こす風と共に鋭い刃にも等しい羽根を幾条、混ぜて放つ。

その攻撃力は1000。無論、乙女に対抗する手段はない。







「ええ……これじゃ勝負にならないよぅ」

「翔、お前どっちを応援してるんだぁ?」



崖の上でそのデュエルを見守る俺たちは、というか翔はその展開を大分嘆いている様子。

俺は、あれ? このタイミングで伏せリバースなんてあったっけ? などと思いつつ見守る。

フェザーマンはばさばさと翼を動すかぜおこしで乙女を攻撃する。

その攻撃を受ければ、レイのライフは削られる。

フェザーマン自体そこまで攻撃力は高くないから大した被害はないが、効果の関係上、数を重ねる必要がある。

そうなれば、ライフもいずれ尽きる事になる。



「でも、恋をすると女性は変わるわ」

「ふーん……」



だからと言って、まあ恋する乙女がボッコにされる展開は変わらんが。







「フェザーブレイクッ!!」

トラップ発動、スピリットバリア!」



レイが宣言するとともに、伏せられたカードが開示される。

そのカードの効果によりレイを包むようにバリアが展開され、フェザーマンが起こす風の余波を防ぐ。

しかし、守られるのはレイのみ。

攻撃対象として選ばれた、恋する乙女は守られない。



『きゃぁああああああああっ!』



吹き荒れる強風に、少女は苦痛の悲鳴を上げる。

その声を聞いた十代は、妙に生々しい、本当の悲鳴のようなそれに少し首を傾げた。

まあ、そうやって気にしてもしょうがないだろう、と。

デュエルを続行しようとして――――



『クリクリ~』

「へ?」



ハネクリボーの声を聞いた。

思わず、自分の横に現れたハネクリボーへと眼を向けると、ハネクリボーはフェザーマンを指差している。

なので今度は視線をフェザーマンに。そして、そこで衝撃の光景を見た。



『ああ……お嬢さん、大丈夫ですか――――!?』

「フェ、フェザーマン……!?」



何故かいつの間にか周囲の風景は花園に。

明るい色の綺麗な花々に包まれた園で、正義に身を捧げた男と、振れれば折れてしまいそうな可憐な少女の運命が交わる。

哀しげに伏せられた瞳には、僅かばかりの涙が滲んでいる。

あ、とフェザーマンが声を漏らしたのは、その少女の悲哀の涙に心奪われたからだろうか。



気丈にも少女は、その涙を自分の手でぬぐう。

そして何の意味もない、互いに傷付け合うその哀しい戦いに、再び赴くために立ちあがった。

――――自分が傷つく事が分かっているのに、何故立ち上がるんだ。この女性ひとは……!



フェザーマンは自身の中にある、正義の魂を揺さぶられるのを感じていた。

力を持たない、無抵抗な少女を攻撃するこの非道。これが、自分の正義の姿だと言うのだろうか。

握り締められた拳には、自分を赦せぬという怒りが集っていた。



しかし、立ち上がった少女は握り締められたフェザーマンの拳を、自分の両手で包み込む。



『あ……』

『気になさらないでください……わたしたちは戦う運命にあったのです。

 これは変える事のできない運命。あなたは何も悪くないのです……自分を責めないでください……』

「な、なんだァ―――――!?」



それに驚くのは十代である。突然、デュエル中に始まるラブストーリー。

よもやカードゲーム中にモンスター同士が恋愛関係に発展するとは、誰も思うまい。

住む世界デッキが違う、許されざる恋と言うべきか、それとも遠距離恋愛にでも例えるべきか。

ハネクリボーも愛らしいくりっと丸い瞳を、げんなりとさせている。







「しっかりしろよフェザーマン、女の子に恋するなんて、HEROらしくないぜ!」



……俺も見たいなぁ、と思いつつも。

俺には精霊視の能力など備わっていないので、今回は十代の独り言しか聞けない。

残念無念、また来週。



「アニキの様子がなんか変だ……」

「うん……」







「フェザーマン……」

「ふふふ―――恋する乙女はフィールドに攻撃表示で存在する時、戦闘で破壊されない。

 そして永続トラップカード、スピリットバリアの効果発動!

 モンスターがフィールドに存在する時、ぼくは戦闘ダメージを受けない!

 さらに戦闘を行った事で、恋する乙女のもう一つの効果も発動する!」



少女が胸の前で両手を合わせ、ハートを形作る。

ぽよん、とその中にハートが現れて、フェザーマンに向けて放たれる。

ふわふわ漂うそれはやがてフェザーマンの胸に張り付いた。

フェザーマン自身、なんともない様子なのだが、如何なる効果を秘めているのか。



「恋する乙女は相手から攻撃された時、攻撃してきたモンスターに乙女カウンターを一つ乗せる」

『らぁぶっ♪』



きゃるん、と可愛らしくハートを作る少女。

―――すぐに効果の見えない以上、それを気にしていても無意味だろう。

手札からカードを1枚引き抜き、ディスクにセットする。



「カードを1枚伏せてターンエンドだ」



スピリットバリアは自分フィールドにモンスターがいる限り、戦闘ダメージを0にする永続トラップ

このカードがフィールドに存在する限り、“モンスターを排除してからダイレクトアタック”

それ以外の攻撃ではライフへダメージを与えられないのだ。

攻撃表示でいる限り、戦闘破壊されない恋する乙女とのコンボを狙ったカードだろう。

なら、戦闘破壊できない恋する乙女を破壊する。

もしくは、攻撃力の低い恋する乙女に攻撃してダメージを与えられるよう、スピリットバリアの方を破壊する必要がある。



「ぼくのターン! ふふ……伏せリバース魔法マジック! 非常食を発動!

 スピリットバリアを墓地へ送る事で、ライフを1000ポイント回復する!」

「ん? そんな事したら、恋する乙女がダメージを受けるダメージが……」

「そのためだよ! 手札から装備魔法、キューピッド・キスを恋する乙女に装備!」



童話の中にでてきそうな赤子のような天使が舞い降りる。

その天使はゆっくりと恋する乙女に近づき、その頬に祝福の口付けをした。

恋愛成就の天使から寵愛を賜った乙女には、最早怖いものはない。

レイが微かに笑い、腕を振るった。



「恋する乙女で、フェザーマンを攻撃! 一途な想い!!」

「攻撃力の低い恋する乙女で、攻撃……? おわっ!?」



『フェザーマンさまぁ―――!』



美麗な花園の中で、その花たちに負けず劣らず美しい少女が、ゆっくりと駆けてくる。

フェザーマンは動く事ができなかった。

その少女の事を攻撃しようと、思う事ができなかったのだ。

先程、彼女が触れた拳を再び握り締めて、どうしようもない自分に怒る。



その間にも乙女はフェザーマンの方に向かい、走ってきていた。

軽やかに跳ねる足取りで、スカートをふわふわと揺らしながら。

ゆらめく花々の中を、花弁に彩られながら自分に向かってくる少女の姿を見る。

――――なんと愛らしい……



フェザーマンの意識は、その可愛らしい少女の一挙手一投足全てに注がれていた。

端的に言うなれば、彼女の姿を無我夢中に見入っていた。

栗色の髪の頭の天辺から、スカートを摘まむ両手の指先、そしてフラワーロードを歩むヒールの爪先まで。

全てに心奪われていた。



『あ、ああ……』



しかし彼はHERO。

後ろに控える主人、遊城十代の許で戦うHEROなのだ。

彼女に心奪われるなど、あってはならない事。そう、あり得てはならぬ恋。

まるで石化してしまったかのような不動を貫くフェザーマンの許に、彼女はその身を届かせた。



伸ばされる手は、フェザーマンの手を求めていたのだろう。

それを取ってしまえば、最早自分が自分で無くなるのは必定。

咄嗟に手を引き、その手を躱した。



『あぁっ……』



勢いよく伸ばされた彼女の手は空を切り、勢い余ってその身体を地面に転ばせた。

フェザーマンの胸を、哀しげな声が叩く。

取ってくれると思ったのだろうか。されど、フェザーマンとこの少女は敵同士。

争う事を宿命付けられた、哀しき男と女なのだ。

しかし嗚呼だがしかし――――本当にその手を取る事は許されないのだろうか。

叶う事ならば今すぐにでもその手を取り、彼女の身体を起こしてあげたい。

だが、だがしかし、そんな事をすれば……!



使命と恋、二つの相成りえない心の葛藤がフェザーマンを蝕む。

マスクに覆われた頭を抱え、戦士は苦悩する。

その時少女は、自分の力で身を起こした。その目尻にはたっぷりと涙が蓄えられている。

きっとその涙は身体の痛みに耐えるものではない。

今、彼女の身を傷付けているのは、紛れもない己の心。



―――――ぽたっ…

彼女の瞳から流れた涙が、咲き誇る花々の中で一つだけの蕾に落ちた。

瞬間、フェザーマンの心は振り切れていた。



『う、う……うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!』

「い、一体どうしたってんだよ、フェザーマン!」

『すまない十代……私は、私は……愛を選ぶッ!!!』

「はぁっ!?」

『クリィ~!?』



フェザーマンの腕が恋の乙女を抱きかかえ、飛翔した。

彼の翼が起こす風が花園に吹き荒れ、花弁を巻き上げていく中、二人の男女は空を舞う。

乙女の流した涙をその身に受けた花の蕾が、いま、この時、花弁を開いていく。

そう、恋の花が―――――咲いたのだ。



『フェザーマンさん……!』

『十代! これが私の――――答えだッ!』

「なんだってんだよぉっ~!?」



吹き荒ぶ風が、花弁を散らしながら十代を襲う。

それは、フェザーマンが行う十代に対するダイレクトアタック。

そして、愛を選び取った戦士の決別の証。

攻撃力は1000。ガラ空きの十代に対する攻撃は当然通り抜け、そのライフを抉り取る。



襲い来る強風から、腕をかざして頭をかばう姿勢で耐える。

キラキラと周囲を包む光、恋する乙女の作りだす、何と言うか、桃色空間とでも称すればいいのか。

そんな風景の中で十代は唇を噛み締め、その一撃を受け止める。

ライフポイントのカウンターが電子音とともに急下降し、3000という数値を表示した。



「くそぉ~、フェザーマン! 女の子にメロメロになるなんて、それでもHEROか!」







「キューピッド・キスを装備したモンスターが、乙女カウンターの乗ったモンスターとの戦闘によって、

 逆に戦闘ダメージを負った場合、戦闘終了後にそのモンスターのコントロールを得る」

「乙女カウンターを乗せるために使ったスピリットバリアとの相性はよくないけど……

 非常食でライフに変換してしまえば、戦闘ダメージを受けなければならないという条件のデメリットを最低限に抑えられる」



カイザーと明日香が解説してくれる。

っていうか、俺の知らないデュエル展開なんですが。

非常食で回復していたレイのライフは、反射ダメージを受けても4400の数値。大分余裕がある。

下級モンスターの火力不足はE・HEROエレメンタルヒーローの弱点の一つ。

実は、少しまずいのかもしれない。

が、まぁ十代ならやってくれるだろう。十代だし。



「それにしてもアニキ、さっきから何言ってるんすかね」

「……やっぱり、十代にはなんか見えてるんだな」







「ぼくはカードを2枚伏せて、ターンを終了」

「っ……なんか調子狂うぜ、オレのターン。ドローだ」



デッキから引いたカードを見て、十代の顔が引き締まる。

コントロール奪取のキューピッド・キスは、乙女カウンターの乗ったモンスターにしか効かない。

そして、恋する乙女の乙女カウンターを乗せる効果は、こちらから恋する乙女に攻撃しない限り発動しない受動的なもの。

ならば、



「よしっ! E・HEROエレメンタルヒーロー スパークマンを召喚!」

『オォオオオオオオッ! ハァッ!!』



雷光が迸り、その内より青い身体に黄金のアーマーを纏った戦士が降臨する。

青いフルフェイスのマスクで正体を隠す、フェザーマンと志を同じくする戦士。

ボディアーマーの背部から突き出たプレートが雷光を弾けさせ、肩と腕の宝珠もまた雷光を放つ。

光の力を持つ戦士は、愛などと言う不埒に走った同胞に怒りの視線を向けている。



『フェザーマン……! HEROの使命も忘れ、恋だの愛だの……どういうつもりだ!』

『――――言い訳はしない。私は、この愛しい女性ひとの為に戦うと決めたのだ!』

「スパークマン! フェザーマンの目を覚ましてやれ、スパークフラッシュだ!!」



かつての仲間とは言え、そこに容赦は微塵もない。

否、かつての仲間だからこそ、今の堕落した姿を赦しておける筈がなかった。

雷光を放つ背後のプレートから、肩の宝珠へ。そしてそこから、腕輪の宝珠へ。

迸る幾条もの閃光を集束させ、一撃としてフェザーマンに向け、解き放つ。

攻撃力1600もの雷だ。攻撃力1000しか持たないフェザーマンには、防ぎようのない攻撃。

愛に生きると決めた戦士は、歯を食い縛り同胞に葬られる時を待つしかなかった。



筈、だった。



トラップ発動! ディフェンス・メイデン!」



レイの足許のカードを開かれた、その途端。

恋する乙女は、なんとフェザーマンの前に立ち塞がったのだ。

当然、それはスパークフラッシュの前に立ちはだかると言う事。

か弱い少女にすぎない彼女に、それはどれほどの勇気が必要だった事か。



だが、毅然とした姿。意思を曲げぬという強き瞳。

それを真正面から見る事となったスパークマンは、自身が強く息を呑んだ事を自覚していた。

――――美しい。ただ、そう感じたのだ。

スパークフラッシュの光が少女の身体を直撃し、その身体を焼く。



『きゃあああああああああああああああっ!』



雷撃の苦痛を、大きな悲鳴に変えて吐き出し続ける少女。

それを見た瞬間、スパークマンは何故か攻撃を止めていた。

発生源が打ち切った事で、攻撃の流れも止まる。

雷に打たれた事によって跳ねていた少女の身体が、がくりと膝を着いて倒れ込んだ。



「ディフェンス・メイデンの効果により、スパークマンの攻撃は恋する乙女に移った!」



レイのライフが攻撃力1600のスパークマンと攻撃力400の恋する乙女との差分。

すなわち1200ポイント削られ、残り3200ポイントまで減じる。

そして、レイの宣言が終わった事により、再びモンスターたちが恋の呪縛に踊らされる。



『く、スパークマン! 私を攻撃したくば攻撃すればいいだろう! なぜ彼女を攻撃したんだッ!!』

『お、俺は……ち、違うんだ、そんなつもりじゃなかった……!』



事実、割り込んだのは恋する乙女の方であって、スパークマンに何の非もない。

だがか弱い女性を傷付けた事は事実。

全身を雷に焼かれて呻く女性を苦しめたのは、紛れもなく自分の攻撃なのだ。

マスクに覆われた頭を抱え、一歩後ずさるスパークマン。



『か弱い女性を傷付けて―――それがお前の望むHEROの姿なのか!?

 答えろ、答えてみろスパークマンッ!!!』

『お、俺は……俺はぁああああああッ!!!』

『や、やめて……争わないで、二人とも……』



二人の戦士が、真っ向からぶつかるか。そう思われた時だった。

全身を抑え、件の少女が立ち上がっていた。

苦痛に歪んだ、しかし精一杯に笑顔を湛えた表情で、少女は二人に笑いかける。

痛ましく、そして哀しい顔。



『戦う事……それは宿命付けられていたの。

 だから、自分を責めないで。わたしなら大丈夫。二人が争う理由なんて、何もないの……』

『あぁ……!』

『お、俺は……! 俺は……!』



スパークマンの胸にハートマークが灯る。

それはつまり、スパークマンにもフェザーマンと同じように乙女カウンターが乗った、と言う事だ。

戦士は愛を抱いてしまったがゆえに使命と女、二つを秤にかける。

今は辛うじて使命に傾いているが、ふとしたきっかけ一つで、それは反対に傾くだろう。



「なぁんなんだよぉっ! お前ら、しっかりしろぉ~!」







「まただぁ…アニキしっかりしてくれよぅ」

「苦しいところなんだな……」



俺にあの寸劇が視聴できていたとすれば、俺の腹筋が苦しいところだったろうな。

まあ見れないものをいつまでもぐだぐだ言ってもしょうがない。

十代を見ている明日香がくすりと、小さく笑う。



「十代は、男女の心の機微に疎いようね」

「経験談ですねわかります」



睨まれた。

テニスの時の事言ってるんだろ? そうなんだろ?

とまぁ、そうやってからかいたいと思わないでもないが、殴られても敵わないので沈黙する。

もうこれでもかと沈黙する。



「はぁああああああっ!(沈黙)」

「わっ、いきなりなんなんだな!?」

「はぁああッ!(沈黙)」



俺が沈黙する事に定評のあるギャラティンさんのモノマネをしていると、カイザーが何やら珍妙な面持ちになる。



「いや、十代だけじゃない。一人の美女により国が滅びる事は、歴史も証明している」



過剰にモテると大変なんだろうなぁ、と言うしかない。

その辺りはまあ美女ほどでもなかろうが美男子も大変だろう。

あー、俺美男子じゃなくてよかった(棒)すっげーよかったー、ちょーたすかったわー(泣)

俺が沈黙レベルをギャラティンからサイレントソードマンに変更して、本気で黙りこむ。



「なるほどね。カイザーと呼ばれる男が、てこずるわけよねぇ……」







「ぼくのターン!」



ドローしたカードを見たレイの顔が綻ぶ。

今し方引いたばかりのカードを、ディスクに差し込むレイ。



「カードを1枚伏せてから装備魔法、ハッピー・マリッジを発動!」



レイの頭上にベルが出現し、大きく揺れ動く。

リンゴーン、リンゴーン、とまるで挙式であるかのように鳴り響くそのベルの元で、乙女はその衣装を変える。

装備魔法と言うのはある意味女性の専売特許、この場合は所謂お色直し、というものだろう。

純白のベールを頭に載せ、ドレスもまた純白のそれ。

両手で抱えた花のブーケも合わせて見るにそれはまるで新婦の姿。

フェザーマンとスパークマンが息を呑み、その姿に見入る。



「元々のコントロールが相手にあるモンスターを自分がコントロールしている時、ハッピー・マリッジは発動できる!

 そのモンスターの攻撃力分の数値を、装備したモンスターの攻撃力に加える!

 フェザーマンの攻撃力は1000! よって、恋する乙女の攻撃力は1400!!」



少女は傍らに佇む戦士の手を取り、微笑む。

有翼の戦士はそれに応え、少女の前で跪いてみせる。

さながら、姫と騎士と言ったところとでもいいたいが、強くなったのは騎士でなく姫である。

カイザー亮の例えた通り、十代のデッキで完結しているHEROという国は、一人の美女の手により瓦解しようとしている。

傾国の美女ならぬ、傾デュエルの美女とでも語呂の悪い呼び方をすればいいのか。



傍から見ても冗談やギャグでしかないが、デュエルに臨んでいる当の十代にとっては死活問題。

レイの次の行動が分かり切っているために、身構えた。



「くっ……!」

「恋する乙女の一途な想い! スパークマンに見せてあげなさい!」

『スパークマンさまぁ――――!』

『あ、ああ……』



ブーケを片手に、空いた手を振りながら駆けよってくる少女。

その姿を見ても、未だにスパークマンの悩みは晴れないでいた。

フェザーマンのように振り切ってしまえば、悩みを捨てて愛に生きれればどんなに楽な事か。

だが、それを選んでしまえばもう自分はHEROとは言えない。



だからこそ、先のフェザーマンのように差し出された手を避け、退いてしまった。

あ、と間の抜けた声を上げて倒れる少女。

その姿を見た瞬間、己の過ちに気付いて即座に跪き、少女を起こそうと手を差し出す。



『す、すまない……大丈夫か……? はっ!?』



少女の瞳から涙がこぼれる。

乙女は寂しげに、しかし優しく、差し出されたスパークマンの手を彼に胸に押し戻した。

それはいけない、と。敵同士で助け合うなど許されないと。

言外に、涙で濡れた瞳がそう語っていた。

乙女の涙は、周辺一帯に広がる花園で揺れる花々の中に呑まれ、消え去るのみ。



花はただ流れ落ちる涙を呑む事しかせず、少女の瞳はいつまでも濡れたまま。

その瞬間、スパークマンに電流が走る。

もはや、俺は戦士などではない。男なのだ、と。



ゆっくりとスパークマンは少女の手で押し退けられていた手を動かす。

すぅっと、少女の瞳に溜まった涙のしずくを、その手ですくい取る姿は最早、ただの男であった。

少女が驚きの顔でスパークマンを見つめ、男はそれに小さな肯きで応えた。



『スパークマンさま……』

『……スパークマン』

『フェザーマン……俺はもう、E・HEROエレメンタルヒーローではない。

 惚れた女のために戦う男、ただのスパークマンだ!!!』

『ああ! 私も、ただのフェザーマン! 一緒に戦おう、スパークマン! 戦友ともよ!!!』

「あぁもう……なんなんだよぉ」

『クリィ~』



戦士。いや、戦士である事を捨て、男となった二人が並び立つ。

敵は元の主である十代。そこに罪の意識がないと言えば嘘になる。

だがしかし、許してくれ十代。これは、我らの愛の為なのだ。

などと、考えながら二人の男、と言うかオスは跳び上がった。



『『ラァアアアアアアアアアアアアッブ!!!』』



果たして、それは正しくスカイラブハリケーンとでも呼べばいいのか。

もう技名などどうでもいい域に突入した二人の攻撃が、上空から十代を襲う。

風と雷の複合攻撃。ここに水のエレメントを混ぜようものなら、それは最早嵐となる。

嵐一歩手前の攻撃力は、二体の攻撃力の総計2600ポイントに及ぶ。

残りライフ3000であった十代には、致命傷一歩前の威力の攻撃なのだ。



「うわぁああっ!?」



二体の織り成す完璧なコンビネーションの衝撃に、十代は堪らず膝を着いた。

恋する乙女の許に降りる二体の元HEROの攻撃には、微塵の容赦もなかった。

その十代の姿を見届けた後、レイは頭にしていた帽子とスカーフに熱が籠って身体が火照ったか、それを脱ぎ捨てた。

風に舞う帽子とスカーフ。

上気した頬を冷ますように顔を一度振って、しかしその眼は十代を捉えている。



「女の子は恋をすれば強くなる。不可能なんてないの!」







「流石の十代も、レイの前ではたじたじだな」



あんたが言うか。



「デュエルのモンスターを夢中にさせるくらい、簡単でしょ?

 初恋の人を追いかけて遥か南の島まで飛んできちゃうんだもの」

「えぇ!?」

「そうだったのぉ!?」

「そんな事よりブラマジガールや霊使い等々のモンスターを夢中にさせる方法プリーズ」

「しかも、難しい編入試験まで突破してね……」



シカトされた。

誰だって知りたい事だと思うぞ? 評価☆5つ貰えるぞ?

何と……! 明日香の奴はその秘法を俺らに教える気はないらしい。

なんということだ、それさえ知れば明日から俺もモテモテだと言うのに。



カイザーの顔が少しばかり険しくなり、崖下のデュエルを見下ろす。

何を想っているのかは、俺には分からなかったが。







『クリ~……』

「ああ、女の子に男のHEROをぶつけたのが間違いだったぜ……オレのターン、ドロー!」



相棒であるハネクリボーの心配する声を聞き、十代は再び立ち上がる。

確かに限界ギリギリ、追い詰められるところまで追い詰められている。

だが、だからこそだ。



「くぅ~っ! ワクワクしてきたぜ!」

「はぁ? 十代、今の状況分かって言ってるの? 大ピンチじゃない」

「だから燃えるんだろ? 行くぜ、女の子の恋する乙女に対抗するにはこいつだ!

 E・HEROエレメンタルヒーロー バーストレディを召喚!!」

『アァアアアアアッ! ハァッ!!』



十代の足許から爆炎が噴き出し、その中から女戦士が姿を現した。

腰まで伸びた黒い髪をバサリと靡かせ、白い身体に赤い紋様が絡みつく肢体を晒す。

黄金の冠にはエメラルド色の宝玉が埋め込まれており、自身の瞳もそれと同色の輝かしいエメラルドグリーン。

そのエメラルドグリーンの瞳がギロリと、相手のフィールドで童女を愛でているオス二匹に向けられた。

ビクリを身体を揺らす二人。



恐怖? 否、怯えている暇があるなら平伏しろと本能に諭される。

だがしかし、既にプライドを捨てた男と言う名の獣に、そんな道理など通用しない。



『バーストレディ、私たちは今は敵同士!』

『俺たちが彼女には指一本触れさせは――――!』

『あ゛ァ――――?』



瞬間、二体の男は少女の後ろに隠れた。

その属性の通りに烈火、火山の噴火のように噴き出した、ドスの効いた一声だけで男が折れた。

カタカタと少女の後ろで震える様は、HEROとしての姿を欠片も思わせない見事な怯えようであった。

そんな情景、ある種の修羅場であるその光景を見た十代は、うへぇという感嘆を漏らすほど。



「気合い入ってるな、バーストレディ……」

『く、くりぃ』



ハネクリボーも怯えて、十代の影に入ったまま出てこない。

しかし、急にナイトが怯える子犬と化した少女の驚きは如何程だったろうか。

ブーケを抱えたままにおろおろとしている。

目の前に立つのは憤怒の火炎を宿した、悪鬼羅刹も裸足で逃げ出す鬼神。

そんなものを前にすれば、か弱い少女でなくても庇護者を欲するだろう事は間違いない。

勿論、背後のナイト様は役に立たない。



『たかが小娘を相手に愛だ恋だのと現を抜かして何をやっているかと思えば……

 恥を痴りなさい、バカども!』

『『ヒィッ!?』』

「オ、オレは魔法マジックカード、バースト・リターンを発動!

 自分の場にバーストレディがいる時、フィールドに存在する全てのE・HEROエレメンタルヒーローを持ち主の手札に戻す!」



つかつかと歩き始めるバーストレディの歩みは、間違いなく丸まって震える二体を目指してのもの。

恋する乙女から恐怖の眼差しを送られながら、後ろの二体のHEROの許へ。

蹲っているフェザーマンの後頭部を右手で鷲掴み、左手でスパークマンの頭部を鷲掴む。

ギリギリ、ミシミシと唸りを上げる頭部にも、反論を許されない二体。

頭を持たれて、引き摺られながら十代の許へ連れて行かれるのは、如何な気分だったろうか。



『お子様の恋愛ごっこはお終いだよ!』

『ひっ……!』



恋する乙女が築いていた、ピンク色の花園が瓦解する。

その瞬間だろうか、掴まれていたままの二人が、どこか正気らしきものを取り戻した。

だが取り戻そうが戻すまいが、バーストレディに掴まれていては二人に自由がない。

バーストレディは二人を十代の許まで投げ捨てる。

直後に消える二人。十代の手札に戻ったのだ。



「えーと、HEROの絆はこんな恋愛ごっこより強い……って事かな?」

『くりぃ?』



ハネクリボーの声もどこか怪しげだった。

どう見ても強いのは、バーストレディの肝っ玉である。

先程までの光景を見ていたレイからの視線も怪しげだと言わざるを得ない。



「と、とにかくこれで一気に逆転だぜ! 手札から融合を発動!

 手札のスパークマンとクレイマンを融合し、E・HEROエレメンタルヒーロー サンダー・ジャイアントを召喚!」



球体の粘土状のボディで作られた地の力を持つ戦士。

そして先程まで、バーストレディの言う恋愛ごっこをやっていた光の戦士。

ぐぐっ、と自分の頑強さを示すようなポーズを取るクレイマンとは対照に、スパークマンは縮こまっている、

ギヌロ、などという擬音が聞こえてきそうな鋭利な視線にさらされては、流石に仕方あるまい。

その二体のモンスターが融合する。



現れるのは、クレイマンと同様に球体のボディの戦士。

雷の属性を宿したからか、その色は黄色。胴体の中心には澄んだ青色の宝玉が見える

クレイマンの身体を模した丸々の鎧を被っている、といった風情の戦士の姿。

掌には空色の宝玉が埋め込まれており、そこから雷光を放っている。

頭部は口許だけしか見えず、鼻から上はバイザーに隠されてしまって、その顔をうかがい知る事はできない。

そのサンダー・ジャイアントは両の拳を打ち合わせ、やる気満々と言った感じの雰囲気を漂わせている。



それを冷ややかな眼で見る以上は、バーストレディには誤魔化しにしか見えてないだろうが。



「そして、サンダー・ジャイアントの効果発動!

 1ターンに一度手札を1枚墓地へ送る事で、サンダー・ジャイアントより元々の攻撃力の低いモンスターを破壊する!」



送られる手札の正体は、フェザーマン。

その効果処理のためかフェザーマンの姿がうっすらと十代の許に映し出された。

視線が泳ぎ、けしてバーストレディとは眼を合わさないように努めている。

だが、フレイムウィングマンなどよく力を合わせる事の多いコンビ。

スパークマンに対するそれより、ずっと大きかったのかもしれない。



バーストレディの脚が伸び、フェザーマンを蹴倒す。

その烈火のようでありながら、絶対零度の視線にさらされ、だらだらと冷や汗を流すフェザーマン。

当然、サンダー・ジャイアントにとっても他人事で無いので、必死に眼を逸らしている。

蹴り倒したフェザーマンに対して、びっ! と親指を下向けに振り下ろす。

とっとと墓地に逝け、と。言外に、しかし言葉に出して言うより強く求めている。



勿論、これはコストとして墓地に送られたフェザーマンを早く墓地に送る事で、デュエルを円滑に進めるために他ならない。

何一つおかしくないので、別になんともないのだ。

こくこくと赤べこのように首を振るうフェザーマンの姿が消える。

そしてコストが正常に払われた事で、サンダー・ジャイアントの効果が発動する。

おろおろまごまごしていた巨体を蹴飛ばし、早く進める事を要求するバーストレディ。



「バ、バーストレディ……こえぇ―――あ、とヴェ、ヴェイパー・スパークだ!」



サンダー・ジャイアントが怯えながらもその両手を突きだし、雷光を放出する。

2400の攻撃力を持つサンダー・ジャイアントのヴェイパー・スパークは、攻撃力2300以下のモンスターを悉く粉砕する。

それは戦闘破壊の耐性を持った恋する乙女とて例外ではない。



『きゃあああああああああっ!?』



雷光が少女の身体を焼き払う。

純白のドレス姿は一瞬で炎に包まれ、呑み込まれていく。



「そんな……ぼくの恋する乙女が」

「よしっ、これでガラ空きだぜ! バーストレディとサンダー・ジャイアントでレイにダイレクトアタック!!」



巨体が動く。

両手に埋め込まれた雷の発生源が激しくスパークし、その威力を高めていく。

攻撃力2400に及ぶダイレクトアタックは、レイのライフ全てを削り切る事は敵わない。

だがしかし、その巨体に追随して掌に炎を灯す女戦士の追撃と合わせれば、削り切る事が可能。

一撃目の、雷撃破がレイに向かって解き放たれた。



「くっ……!? トラップ発動! パワー・ウォール!!」

「パワー・ウォール?」

「ダメージ計算時に発動し、デッキから任意の枚数直接墓地に送る事で、その数×100ポイントのダメージを軽減する!

 ぼくはデッキから24枚のカードを墓地に送り、サンダー・ジャイアントの攻撃で発生するダメージを0に!」



ごっそりとデッキからカードを引き抜いたレイが、それを全て墓地に送る。

その途端にレイの前に現れる24枚のカードの壁。

カードの障壁に阻まれた雷撃は、その威力を僅かもレイに届かせる事なく消滅した。

だが、それは一度のみ。

追撃に放たれているバーストレディの攻撃は防ぐ事ができない。



「きゃああああああああああああああっ!?」



ぐぉおん、と爆炎が足許に着弾したレイがその爆風に吹き飛ばされる。

へたりこむように地面に尻餅をついたレイを見て、やりすぎたかと十代が駆け寄ろうとした時だった。

バーストレディのそれに勝るとも劣らぬかと思われる、何やら嫌な雰囲気が十代を縛り付けた。



「レ、レイ……お、おい大丈夫か?」

「フ、フフフフ……もぅ怒った……」







「パワー・ウォール……?」



カイザーを見上げる。何やら、カイザーは微妙な顔をしていた。

間違いなくこいつがあげたカードだと思うけど。



「えぇ? 幾ら攻撃を防ぐためでも、あんなにデッキを捨てちゃうなんてもったいない……」

「もうレイのデッキはあとちょっとしかないんだな」

「いや、墓地利用が豊富なデッキなら、最早相手が終了のお知らせっていうか……

 普通に考えて、あんなぶっ飛んだ墓地肥や、し、を……あれ、嫌な予感」



早乙女レイ+墓地肥やし=?

そんな事分かり切っていると思うが、いやこれアニメのストーリーなんですが。

あれはゲーム設定だよね?







背筋を嫌な汗が流れていく事を感じつつ、十代は最後の手札を伏せリバースカードにセットする。

レイの残りライフは1800。

十代の残りライフは僅か400だから気を抜けないが、それでも戦術の要を失ったレイに逆転の手があるとも考えにくいだろう。



「カードを1枚セットして、ターン終了、だ」

「ぼくのターン! 見せてあげる……怒った女の子は、何より怖いって事!!

 トラップカード、マジック・プランターを発動!

 ぼくのフィールドに残っている永続トラップ、ディフェンス・メイデンを墓地に送る事で、カードを2枚ドロー!」



既に恋する乙女が破壊された現状で、そのカードは用を成さない。

しかしレイのデッキは最初に用いた戦術の通り、役割を果たしたトラップをコストとして利用するためのカードが入っている。

永続トラップをコストに、ドロー効果を得るマジック・プランターの効果で、レイの手札は充実した。

そして、それは早乙女レイ最強にして、最後、そして怒れる乙女の代行者を呼び寄せたのであった。



「きた……! ぼくの墓地にはパワー・ウォールの効果で墓地に送った、

 ライトロードと名のつくモンスターであるウォリアー、サモナー、パラディン、プリーストが存在する―――!

 ライトロードが4種類以上墓地に置かれている時、裁きの龍ジャッジメント・ドラグーンは特殊召喚できる!!!」



夜の闇に、光が差し込む。

まるで日光が破壊の力を持ったかのように、その暴虐は他の追随を許さない。

神像がそのまま動き始めるかのような、そんな鈍重な風に身体を揺り動かし、それは君臨した。

人間大のバーストレディやサンダー・ジャイアントなど、腕一本の大きさにも満たない。

そんな巨大な神龍は後光を背負い、フィールドに降り立ち、敵を睥睨する。



ずおぉっ、と。古さを感じさせるくすんだ白色の翼が羽搏く。

瞳と爪のみ真紅。それ以外は全て古びた白の身体は、その積み重ねた年月の重さを持ち合わせている。

神に最も等しき存在、古より生きる龍。



「すっげぇええ……なんだよ、レイ! まだこんなスゲーモンスター隠してたのか!?

 くぅー! すっげぇすっげぇすっげぇー!! 来いよ、レイ! 全力で!!」

「いいの? 十代、乙女の恋を邪魔する奴は、龍に喰われて地獄に落ちるのよ!!」



龍の攻撃力は3000。

バーストレディはおろか、サンダー・ジャイアントを破壊しても十代のライフを削り切れる。

だが、十代のフィールドには2枚の伏せリバースカード。

にやり、とレイは小さく口を歪めた。十代はきっと、先程伏せたカードでその攻撃を防ぐつもりなのだろう。

だからこそ攻撃が決まれば負け、なんて状況であんな事を言えたのだ。

でも、十代は知らない。この龍の持つ、最強の特殊効果を。

古龍が咽喉を鳴動させる。



「ぼくは裁きの龍ジャッジメント・ドラグーンの効果を発動!

 ライフを1000ポイント支払う事で、このカードを除くフィールド上の全てのカードを破壊する!!

 一途な想いを邪魔された、乙女の怒りッ!!

 この効果のあと、この子のダイレクトアタックでこのデュエル、ぼくの勝ちだよっ!」

「そいつはどうかな? 頼むぜ相棒! 伏せリバース魔法マジック、クリボーを呼ぶ笛!!」

「前のターン伏せたカードが、攻撃を防ぐためのトラップじゃない!?」



クリボーを呼ぶ笛は、自身のフィールド、または手札にクリボー、もしくはハネクリボーを呼び出すカード。

ハネクリボーが持っている効果は、破壊されたターンに戦闘ダメージを全て0にするというもの。

つまり、使われても攻撃表示のバーストレディかサンダー・ジャイアントを狙っていれば、ライフを0にできた。

ならば、効果を使わずに最初から攻撃していればよかった?



いや、でももう1枚の伏せリバースがある。

最初のターンからあるカード。ここぞと言う時に取っておいたに違いない。



『クリィー!』



十代の場に、ハネクリボーが出現する。

ブラウンの毛に包まれた、一頭身の小悪魔の姿。身体とは対照的な白い翼を羽搏かせて、フィールドに舞い降りた。

その直後に、古龍がその口を開いて光を吐き落とした。

瞬間、世界が眩い光に塗り潰される。ライト・オブ・デストラクション。

全てを破壊する極光はその発生源である古龍自身を除き、全てを破壊する。

サンダー・ジャイアントも、バーストレディも、ハネクリボーも。

全てが光に呑み込まれた。



それが収まった時、フィールドには当然裁きを下す龍以外の存在はない。

しかし、十代のフィールドにはハネクリボーが破壊された時に残す、特殊効果が残っていた。



「っ……でも、これで十代は場にも手札にもカードはなくなったよ。

 もう逆転なんて無理だ。サレンダーしてもいいよ?」

「へっへー、そいつはどうかな?

 裁きの龍ジャッジメント・ドラグーンの効果で破壊され、墓地に送られた時、セットされていたヒーロー・メダルの効果が発動!」

「それも攻撃を防ぐトラップじゃないの!?」

「なんだよ、攻撃を防ぐトラップだったらもっと前に使ってるぜ」



何を当り前の事を、と言わんばかりの十代にレイは衝撃を受けた気分だった。

まさか、あの状況で攻撃を防ぐ手段があるように見せかけ、こちらの破壊効果を誘われたとは。

十代にはそんな頭脳プレーが出来ると思っていなかっただけに、豆鉄砲を食わされた気分だ。



「あの状況……裁きの龍ジャッジメント・ドラグーンの攻撃を防ぐために、効果発動に誘導するなんて……」

「ん? なにがだよ、攻撃すれば勝てるのに効果使ったのはレイの方だろ?」

「だ、だって十代そんな状況で笑ってたし……なんかあると思うでしょ!?」

「誰だって楽しかったら笑うだろ? 相手がそんなつえーモンスターを出したんだ、デュエリストなら燃えなきゃ嘘だぜ!」

「はぁ……!?」







「なるほど。天然の心理トラップね……」

「ふ―――デュエルは常に、相手をリスペクトして行うもの。

 それは互いの戦術の読み合いもまた、当然の事ながらデュエルの内だと言う事だ。

 読み違えたのは、レイに十代の心がリスペクトし切れていなかったから」

「アニキ……やっぱ凄い」

「………人知を越えたデュエル馬鹿、か」



レイの戦術におかしなところはなかった。

俺が裁きをコントロールしていても、やはりその効果で不安要素である伏せリバースを取り除いただろう。

むしろ、この場合はその不安を乗り越えて真正面から十代にぶつかれるデュエリストスピリットが必要だった、と。

さて、それだけのデュエリストがどれだけいるのやら。



「でも、十代は手札にもフィールドにもカードがないんだな。

 これじゃあ、次のターンにやっぱりあの効果を使われて、やられちゃうんだな」

「いえ、裁きの龍ジャッジメント・ドラグーンの効果にはコストとなる1000ポイントのライフが必要よ。

 残りライフが800ポイントしかないレイちゃんには、もう使えない」

「いや、よく見ろ」



カイザーがレイのはめているデュエルディスクを指差す。

何を見ればいいのか分からん。



「――――あ、ライフが1000ポイントある!」

「本当なんだな、さっき確かに800ポイントになった筈なのに……」



え、この距離でお前らあれ見えるの?

俺は眼を凝らして見ようとしてみるものの、矢張りさっぱり見えない。



「これも先程のパワー・ウォールだろう。恐らく、堕天使マリーを墓地に送っている」

「そうか……! 堕天使マリーは墓地にある時、スタンバイフェイズごとにライフを200回復するカード……!

 次のレイちゃんのターンになれば、ライフは1200。もう一度、あの効果を使う事ができる」

「そんなぁ~!? それじゃあアニキはもうどうしようもないよ!」

「いや、それでもまだ十代は諦めていない」



カイザーがレイから十代に視線を移す。

十代のもう1枚の伏せリバースの正体、ヒーロー・メダル。

これは相手の効果で破壊され、墓地に送られた時にデッキへ戻し、シャッフル。

その後、1枚カードを引く事ができる効果を持っている。

つまり、この後のドローフェイズと合わせて2枚。

2枚の手札で、この状況をひっくり返す事が求められているのだ。



「……強欲な壺、天使の施し……せめてバブルマン。

 何か、手を回してくれるカードがくれば、あるいは反逆の糸口になるだろうな」

「そうね……十代のHEROデッキは融合主体。手札がなくては、反撃もできない」

「それはどうかな?」



俺と明日香の言葉を聞いたカイザーが、小さく微笑んでそれを否定する。

二人で眼を見合せ、首を傾げた。







「オレはヒーロー・メダルの効果でカードを1枚ドロー!」

「……ぼくはこれでターンエンド」

「ならオレのターン! もう1枚ドローだ!」



手札を2枚見合わせ、十代は――――笑った。

その笑みを見て、レイは何か仕掛けてくる事を確信する。

だが、自分の場には裁きの龍ジャッジメント・ドラグーンがいる。

攻撃力3000。更にフィールドを壊滅させる効果も持った、最強のしもべ。

そして、自分は手札に死者転生を温存している。



もしこのターン、何らかの方法で裁きの龍ジャッジメント・ドラグーンを倒せても、次のターン再び召喚できる。

これならば、先程心理戦で上を行かれ、凌がれてしまったのも小さな失敗で済む。



「行くぜ、レイ! 魔法マジックカード発動、戦士の生還!!

 その効果で墓地の戦士族モンスター、バーストレディを手札に戻し、再び召喚する!!」

「バーストレディ? 守備表示で凌ごうとしたって、次のターンに効果で破壊して直接攻撃するだけよ!」

「守備表示? いいや、違うぜレイ! バーストレディは攻撃表示! このターンで決着を着けるためのHEROだ!!」

「え?」



先程、破壊の光の威力で葬られた女戦士が再臨する。

その瞳は怒りの炎で燃え滾っているのが、いとも簡単に見て取れる。

あるいは、この龍のせいでなくてどこかの二体のモンスターかもしれないが、今はそこまで関係ないだろう。

そして、と最後に十代は残る1枚の手札をディスクに差し込んだ。



「言ったよな、レイ! 怒った女の子は何より怖い、ってさ!」

「え、う、うん……?」

「見せてやるぜ、これがオレの最後の手札! そして女の子HEROの怒りの業火!!

魔法マジック発動、バースト・インパクトッ!!」

『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ………!!!』



唸るような声を放ち、バーストレディの身体が炎上する。

立ち上る業火は先程十代が言ったように、女の子としての怒りのものか。

ギンッ、とそのままHEROの一人二人破壊できそうな鋭利かつ、怜悧な視線が古龍に向けられる。

神に最も近い位置に存在する古き龍は、その戦士を逆に射殺さんとしているような眼で見返し、

そして、最早憎悪とか呪詛とか侮蔑とかそういう負の感情を超越した“乙女の怒り”に触れた。



自分から睨んだくせに、何見てるんだと言わんばかり。

跳躍したバーストレディの燃える拳が、裁きの龍ジャッジメント・ドラグーンの横っ面に突き刺さる。

めきょり、と軽く変形した顔が吹き飛ばされ、崖に叩き付けられる。

壁際に倒れ込んだ龍の姿を見た瞬間、バーストレディの表情がいいサンドバックだ、と言わんばかりに凶悪に歪んだ。

ここにきて、古龍は初めて恐怖を覚えたのかもしれない。

大地に降り立ったバーストレディは、横たわる龍の胴に拳を叩き込む。

お腹と背中がくっつきそう、なんて空腹を例える表現に使われる代物を、物理的な現象として再現する。



中身がどうなったかなど考えたくもない殴られ方をしている龍は遂に、

きゃうんっ! と可愛らしく鳴き許しを乞う。

止めを刺してくれと、早く終わらせてくれと。なまじ強力なステータスを持つが故の苦痛。

しかし、バーストレディは首を横に振った。



最早邪神と何が変わろう。

墓地でフェザーマンとスパークマンは一体どのようなさまになっているのか。

恐れているのか、慄いているのか、祈っているのか、既に諦めているのか。

それから、見ている者の良心の呵責が限界に来る前に、古龍は止めの爆炎をもらい、消え去った。

約10秒程度の時間だったが、それが無限に感じられる程度には、彼女は純粋に怖かった。



すっかりとストレスを吐き出した感じのバーストレディは、大人しく十代の隣に戻る。

その割とショッキングな映像に位置する物を見ても、十代は特に何も言わない。

無論、レイもだが。デュエルでは、よくある事なのかもしれない。



「っ……そんな、ぼくの裁きの龍ジャッジメント・ドラグーンが―――!」

「バースト・インパクトは、フィールドに存在するバーストレディ以外のモンスターを全て破壊し、その数×300ポイント。

 オレがダメージを負うカード。この効果で、オレの残りライフは100。

 だけど、レイのフィールドはこれでガラ空きになったぜ!

 さぁ行くぜっ! バーストレディでレイにダイレクトアタック! バァアアストッ・ファイアァアアアアアッ!!」



バーストレディの掌で集束された火炎弾が、レイを目掛けて解き放たれる。

レイのライフは放っておけば回復し続ける状況を作り出していたとはいえ、今は僅か1000ポイント。

攻撃力1200のバーストファイアーを耐えきる事はできない。

ライフカウンターが0を刻み、勝敗が決したのであった。



「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ、レイ!」

「十代、ぼく……」

「おっと、みなまで言うな。そこから先は、ずっと見ていた後ろの奴に言ってくれないか?」

「え?」



そう言って十代はレイの後ろを指差す。

言われたレイは背後を振り返り、そこに自らが追い求めて来た一人の男性が立っていた。







ここで凡骨風に「おれかぁ!?」とか言ったらフルボッコなんだろうなぁ。

なんて思いつつ、カイザーの後ろに控えて、成り行きを見守る。

明日香が、カイザーの背中を押す。



「出番よ」

「む」

「男の責任でしょ?」



難しい顔をして黙りこむカイザー。

その姿を見つけたレイは、振り返り、胸の前で自分の掌を合わせた。

頬がほんのりと赤いのは、デュエルで興奮した上気だけではあるまい。



「亮さま……!」

「ん、む……」

「……ごめんなさい。昼間、寮に忍び込んだのはぼくだったんだ。

 十代はそれを止めようとしただけなんだ」

「分かっている」



微かに肯いて、気にしていない風を見せるカイザー。

でもこの「お前が来ていたのは分かっていた」ってある意味口説き文句だよね。

髪留めがあったとはいえ、お前が来た事くらいわかる、お前の事はよく覚えている、って言ってるようなもんなんだし。

つまりナチュラルでこれがイケメンの条件か。



「亮さまがデュエルアカデミアに進学なさってから、会いたくて会いたくて……やっとここまでやってきたの」

「「ふぇー……」」

「素直に感嘆してていいのか、翔。お前のお義姉さんになるんだぞ?」

「え、あ、そう言う事になるのか」

「………」



カイザーに妙な顔された。



「十代とのデュエルには負けたけど、亮さまへの想いは誰にも負けない!

 乙女の一途な想いを、受け止めてっ!!!」

「んあっ……!」



このカイザー面白いなぁ。見ているだけで2828できるし。

十代もこちらに歩いてきて、そのスーパー2828タイムに参加してくる。



「なぁんか、カイザーもたじたじだなぁ。それにしてもすげー迫力! デュエルと同じだ」

「デュエルじゃないもん……」

「そうね、一途な想いは素敵よ。

 でもいま貴方が言ったように、デュエルのヒーローと違って、本物の男性はウィンクや投げキッスじゃ駄目なの。

 デュエルも恋も、気持ちが繋がって初めて実るんじゃないかしら?」



(十代に対する)経験談ですね、わかります。

ま、恋もデュエルも共同作業って事ね。

どっちか一人が凄いデュエリストであっても、面白いデュエルは生まれない。

互いに互いをリスペクトし合う、ライバルと呼べるデュエリストがいて初めていいデュエルが生まれるのだ。

と言うような事を、ヒカルの碁で読んだ気がする。



「あなた、亮さまのなんなのっ! まさか恋のライバルッ!?」

「そ、そんなんじゃないわ……あはは」

「レイ、お前の気持ちは嬉しいが……」

「亮さま……!」



レイが明日香を押し退けて、カイザーの前に出る。

なんと押し退けられた明日香は、レイの隣で話を聞いていた十代の横に押し出される。

どんまい、みたいな感じの十代と、苦笑いの明日香のツーショット。

おお、これはなかなかいいショット。

―――――やれ、相棒。

―――――了解。



レッド寮の近隣であるこの場ならば、あの馬鹿が隠しカメラを設置している。

十代と明日香のいい感じのショットだ。これはモモエにプレゼントするしかないな。



「今のオレには、デュエルが全てなんだ」

「亮さま……」



今と言うかデュエルが全てで無い時はいつになるのかな。

多分ずっとこないんだろうなぁ。

そんな事を思いつつ見守る。



カイザーは自分の部屋で拾った髪留めを、レイの手の中に握らせる。



「レイ、故郷に帰るんだ」



それは離別の時に送る言葉に違いなく、その意味を理解した途端、レイの瞳に涙が溢れた。

それまで黙っていた十代が、そのレイの様子を見て、堪らず口を挟んだ。



「そこまでする事無いだろ! 女の子だってオベリスクブルーの女子寮に入れてもらえば……」

「レイはここにはいられない」



十代の言葉を断固とした口調で遮り、カイザーは否定する。

それは明らかに何かここに留まれない理由というものが存在する事を十代に理解させた。



「レイにはまだ秘密があるのか……? 男に化けた女と見せて、実は男だったりして!」

「ふふ……」



おうおう、今夜は十代と明日香のツーショット普通に見れるな。

十代の冗談に笑う明日香を、ともにフレームに入れての1枚の要請。

うちの子は優秀なので、声に出さずとも勝手に俺がやって欲しい事をやってくれるのだ。

モモエ飯うま状態だな。



「レイはまだ小学5年だ」

「―――――はぁあああっ!?」

「「えぇええええっ!?」」

「えへへへっ」



驚愕の声は、三つ。明日香知ってたのかよ。

ってそうか、明日香はカイザーから直接相談されてるのか。



「なぁんなんだよぉっ! オレってば、小学生に苦戦してたのかよぉ! ……はぁ」

「ごめんね♪ ガッチャ、楽しいデュエルだったよ!」

「うへぁっ!」



十代がショックに地面へ転がる。

しかし、そんな状態で十代は大声で笑い始めた。



「あはははははっ! 最ッ高だ、これだからデュエルは楽しいんだよっ! あっはっはっはっはっは!」











翌朝、本島とデュエルアカデミアを繋ぐフェリーでレイは帰る事となった。

当然の事だが。

その見送り、っていうか俺が来る意味が分からないんだが。

そんなことより昨日撮った写真を、モモエに渡して騒動を起こしたい。

まあ俺は高みの見物しかしないが。



「来年小学校卒業したらぁ、またテスト受けて、入学するからねぇー!」



出航したフェリーの中で、レイが別れの挨拶を告げている。

適当に手を振りながら見ていると、こちらで十代がこれから先に起こるイベントも知らず、珍しくからかいの笑顔を浮かべている。

無論それはカイザーに向けられたものだが、腕を組んで見送っているカイザーは、特に気にした様子もない。



「へへ、だってよ」

「その時は、オレはもういないけどな」

「いやぁ、あの迫力には負けるぜ」

「ふふ……」



まるで他人事のように笑う十代に、俺の方が噴き出しそうだ。

だ、ダメだ…まだ笑うな……しかし……!



「待っててね、十代さまぁー!!」

「ぬあぁっ!? な、なんでオレなんだよぉ!」

「きっと、アナタのデュエルに惚れたんでしょ」



くすくすと笑う明日香はまるで、こうなる事がわかっていたかのようだ。

流石、十代の魅力は分かっていると言う事か。

自分もデュエルして惚れたからですね、わかります。



「後は任せる」

「じゃあアニキ、先に帰るね」

「ゆっくり見送ってあげるんだな」

「船が見えなくなるまで見送ってあげなきゃね」

「ニア……僕の勝ちだ」

「待っててね、きっとよ! 十代さまぁ~!!」



延々と続く恋する乙女の告白を聞きながら、十代は船が見えなくなるまでその場で手を振り続けたのであった。



「えぇ、あれぇ、うそぉ……?」











後☆書☆王



むぅ、急ぎすぎてて読み辛いかぁ……確かに常にメイドインヘブンだしなぁ。

主人公の活躍にしても、こいつが活躍してる場面がまるで浮かばないと言うか。

ならちょいちょいカットして、カミューラまでクロックアップ!

すると余計読み難くなるんだろうね。

現状で大きく改変する予定のセブンスターズ戦はカミューラ、タニヤ、アビドス。



難しいねぇ。解決策はちゃんと質を落とさず、量を書く! はい無理ゲー。

大山と神楽坂は犠牲になったのだ。

レイだけ扱いがおかしい? ははは、そんなはずないさー。

神楽坂はセブンスターズ中に出てくるよ、多分。

どっかで出てくるでしょう。

って言うか、今のところ神楽坂メインで二本くらいやっちゃいそうなんだが。

いやほら、最近クロウと一緒にマジンカイザー乗ってたしさ。

何の関係があると訊かれてもその、困る。



レイは書きたかったから。っていうか裁きをはっ倒すバーストレディ書きたかった。

バーストインパクトOCG化マダー?

恋する乙女→ダメージを受けて相手のコントロールを得る。だってそれが恋だろう?

ユベル→攻撃してきた相手にその攻撃力のダメージを与える。だってそれが愛だろう?

ってか恋愛とか書くのムズ過ぎるんだが。俺には無理だとスパークマンを書いてて思った。



言うまでもないだろうが、“らぶ”→“恋する乙女”。“くらいしす”→“裁きの龍”。

勿論、“キミの事を想うと”→“これから姐さんにしばかれるかと思うと”

当然の事ながら“はーとが(物理的に)ばーすと!”→ “(((;゜Д゜)))<gkbr”



あとユニファー不人気すぎワロタ。俺は気にいってるけど。

キャラの不安定感とか。書いてる側も何故か理由が分からない動き方するし。

デュエルは凄まじく書きづらいけど、氷結界だから。



書いててキャラが分からない、ってのは逆に凄い個性だよね。

前回のデュエルだって、デュエルしましょう!→デュエル!→きゃーやられたー!

にしようと思ったら、何故かああなった。

復讐とかいきなり何言い始めたんだこいつ、とか書いてて思ったもん。



この状態から個性として纏めて、やっとキャラが完成するんだろうね。

やー、こうやって勝手に動いてくれる奴は最終的にどこまでいくのかね。

まともに作品書き上げた事なんてないから、自分自身結構楽しみではあります。

その前に失踪しなけれ(ry



パラさんは骸骨戦前のパラさんだね。時間行き来してる分、時系列はごっちゃりしてるから。

まだ青眼と真紅眼は持ってないよ。どうやってパラドクスだしたんだろう。



>>らぶ&くらいしす!のスピリットバリアの説明読んでて思ったんだけど、

>>直接攻撃でしかダメージを与えられない、ってあるけどモンスターがいる状態だったら

>>直接攻撃でもダメージ通らないよな?

>>モンスターがいない状態で、っていう風に書かないと駄目じゃね?



シキ様よりのご指摘。ちょこっと書き換えてみました。

ご指摘、ありがとうございました。


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