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No.26037の一覧
[0] 【ネタ】トリップしてデュエルして(遊戯王シリーズ)[イメージ](2011/11/13 21:23)
[1] リメンバーわくわくさん編[イメージ](2014/09/29 00:35)
[2] デュエルを一本書こうと思ったらいつの間にか二本書いていた。な…なにを(ry[イメージ](2011/11/13 21:24)
[3] 太陽神「俺は太陽の破片 真っ赤に燃えるマグマ 永遠のために君のために生まれ変わる~」 生まれ変わった結果がヲーである[イメージ](2011/03/28 21:40)
[4] 主人公がデュエルしない件について[イメージ](2012/02/21 21:35)
[5] 交差する絆[イメージ](2011/04/20 13:41)
[6] ワシの波動竜騎士は百八式まであるぞ[イメージ](2011/05/04 23:22)
[7] らぶ&くらいしす! キミのことを想うとはーとがばーすと![イメージ](2014/09/30 20:53)
[8] 復活! 万丈目ライダー!![イメージ](2011/11/13 21:41)
[9] 古代の機械心[イメージ](2011/05/26 14:22)
[10] セイヴァードラゴンがシンクロチューナーになると思っていた時期が私にもありました[イメージ](2011/06/26 14:51)
[12] 主人公のキャラの迷走っぷりがアクセルシンクロ[イメージ](2011/08/10 23:55)
[13] スーパー墓地からのトラップ!? タイム[イメージ](2011/11/13 21:12)
[14] 恐れぬほど強く[イメージ](2012/02/26 01:04)
[15] 風が吹く刻[イメージ](2012/07/19 04:20)
[16] 追う者、追われる者―追い越し、その先へ―[イメージ](2014/09/28 19:47)
[17] この回を書き始めたのは一体いつだったか・・・[イメージ](2014/09/28 19:49)
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[26037] 主人公がデュエルしない件について
Name: イメージ◆294db6ee ID:659e7939 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/21 21:35








「ペガサス様、海馬社長がお見えに…」

「ペガサス! どういうつもりだ、この多忙な時に―――!

 もしつまらん要件だったとしたら、どうなるか分かっているのだろうな――――!!!」



バタン、ではなくドガン!

月行の身体を押し退け、海馬瀬人の姿が現れる。

白く輝くコートで照明の光を反射させながら、ブラウンの髪の少年が随分と早い歩調でこちらへと歩みを進めてくる。

小さく溜め息を吐き、手にしていたコミックを閉じてテーブルの上に置く。



「OH…! お久しぶりデース、海馬ボーイ。どうぞそちらへ掛けて下さい。月行、彼に何か飲み物を」

「フン、そんなものどうでもいい。早く要件を話せ!」

「フフフ、そうですか。では、月行。外して下さい」



月行は頭を一度下げ、部屋を出ていく。

それを見送った後、焦らされて猛っている海馬瀬人をからかうのは余りよくないだろう。

プラチナの髪を一度掻き上げ、着席を勧める。

彼は苛立っているようだが、それでもその勧めには従った。



「では早速本題へ……海馬ボーイ。アナタは先日、南極に落下した隕石をご存じですか?」

「フン」

「おっと。どうせアナタの事ですから、宇宙から落ちて来た石ころになど興味はない―――などというのでしょう。

 どうです? 当たっているでしょう。これもまた、マインドスキャンデース。

 OH イッツジョーク! ハハハハハ!」

「黙れペガサス! 不愉快だ、オレは帰らせてもらう!!」



ガシャン。彼がテーブルを拳で叩いた瞬間、その震動でグラスが倒れて割れてしまった。

どうやらからかいすぎてしまったようだ。

立ち上がり、踵を返して立ち去ろうとする海馬瀬人。実に単純明快。



「その隕石が実は、石ころなどでなく三幻神に匹敵する神秘を持つカードだとしたら――――

 アナタはこのまま帰らないでしょう?」

「なに……!?」



腰を掛けた椅子の脇に置いてあるケースを持ち上げる。

それを海馬の拳で歪んだ机の上に置き、開く。

開放されたケースの中には、3枚の白いカードが納められている。

彼にそのケースの中身を向け、微笑んで見せた。



「――――何だ、この白いカードは…?」

「シンクロモンスター。そのカードのテキストには、そう記されています」



勿論、自分がデザインしたものではない。

口振りからそれを察した彼の表情が僅かばかりだが厳しくなっている。



「これらのカードが、デュエルモンスターズの作ったワタシでさえ知らないモンスターであること……

 それはさして大きな問題ではありまセーン」

「なに? それは一体どういう意味だ」

「そのカード、手にとって見てくだサーイ」

「…………」



彼はケースに納められたカードの1枚、“氷結界の龍 グングニール”を手に取る。

瞬間、弾けるようにそれを手放し、後ろに下がった。

その額には微かに汗が滲みでている。

本能に任せた判断力。その反応に感嘆の拍手を送る。

ぱちぱちぱちと響く音に、彼は鋭い視線でこちらを睨みつけてきた。



「矢張り、アナタには感じられるようだ。このカードに宿る、“破滅の光”の波動が……」

「“破滅の光”、だと……どういうことだ、説明しろペガサス!」

「“破滅の光”というのは、ワタシがこのカードを手に取った時に感じたインスピレーション。

 アナタも垣間見たのでしょう。このカードを手に取った時、まるでこの世界が滅亡したかのような錯覚を」



無言は、恐らく肯定の証。

その光景は地獄の様相を呈していた。いや、地獄と化していたと言っていいだろう。

滅亡を迎えた世界には、石板と化したデュエルモンスターズのカードが散乱し、空は赤く染まっていた。

絶望しか残らぬ世界の中で、嘆きを叫ぶ僅かな人々。



「ワタシも、そのカードを回収した者たちも、一様にそのヴィジョンを脳裏に焼き付けました。

 それが何を意味しているのかは、誰にも分かりませんでした……ですが、一つだけ理解出来た事がありマース。

 このカード。いえ、このカードに宿る謎の力は危険すぎる。三幻神と同じく、封印すべきだと」

「……下らん、非ィ科学的だ。3枚のカードが何だと言う! そんなもの……!」

「杞憂ならばそれでいいのデース。ですが、アナタも分かっているのではないですか?

 アナタが今、手にしたカード。それは、人の心を侵す危険な力を秘めた……」

「下らんと言った! そのようなオカルト話、聞く耳持たんわ!」



彼は手放したカードを再び手にし、それをワタシに見せつけてくる。

そのカードが放つ不吉な白い光はしかし、彼の放つオーラに呑み込まれていくように感じられなくなる。

その光景を見て、半ば以上に確信した。

矢張り、これらのカードは真の決闘者に託し、力を抑え込むべきだろう。

この力に操られず、魅せられず、御する事のできる決闘者へと。



「そんな事よりも、オレを呼び出した要件をさっさと話せ!

 でなくば、キサマがオカルト話に利用したこのカード、今この場で破り捨ててくれよう―――!」

「では、次はこちらのカードを見てくだサーイ」



もう一つ、新たなケースを取り出し、開けた状態で彼へと見せる。

その顔色の劇的な変化は、先程のそれを遥かに上回るものであった。



「こ、このカードは……!」

青眼の光龍ブルーアイズ・シャイニングドラゴン……

 ワタシが、“破滅の光”というインスピレーションの許、生み出してしまったカード。

 持ち主に輝かしき勝利の栄光を齎し、相対する敵には破滅の威光を降り注がせる……

 これを、アナタに譲りたいと思ったのが、この度の招待の理由デース」

「なにっ、このカードを……オレに?」



彼はそのカードをケースから取り出し、その手に乗せて注視する。

青眼ブルーアイズを餌にすれば、彼は至極簡単に思考が読めるのである。

千年眼ミレニアムアイを失った今でも、失った今だからこそ、斯様な少年の思考の一つは手に取るように分かる。

まるで恋する乙女のようだと、大人びてはいても未だ少年に違いない彼へと小さな笑いをこぼした。

だが、そのカードは彼を喜ばせるために用意したものではない。



「アナタにはそのカードを引き換えに、その“氷結界の龍”の1枚を預かってほしい」

「なに……?」

「これほどの力、一所に集めておくのは危険。

 人に触れられぬ場所に封印しようとしても、それが通用しないのは三幻神の時に分かりました。

 だからこそ、最強のデュエリストの手許へ預けておくのが最も安全な策。

 そう考えた結果、アナタに託すのが最上と。そう判断したのデース」



そして、自分の手元へ一体。更にもう1枚は武藤遊戯の手元へ――――

送りたかったが、彼は三幻神の所有者。

このカードと三幻神が並んだ時、何が起こるか分かったものではない為に断念。

だからせめて、1枚だけでも別の場所に。と判断した結果であった。

その口振りに機嫌をよくしたのか。彼は2枚のカードを手に、咽喉を鳴らし始める。



「クックック……いいだろうペガサス。オカルトに興味はないが、このカード―――

 オレの手中にてその力を御し、キサマが懸念している破滅のなんとやらなど、キサマの脳内で生み出された空想の産物だと証明してやる。

 フフフ、ワァーハッハハハハハ!! ハァーッハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」



彼はそう言って高笑い。実に機嫌のよいままにこの部屋を後にした。

とても大きな彼の高笑いの直前にはめていた耳栓を外し、一息つく。

これで、自身の手元には残るカードが2枚。

“氷結界の龍 ブリューナク”“氷結界の龍 トリシューラ”が残った事になる。



海馬瀬人の方は心配いらないだろう。

神を御し、唯一武藤遊戯と肩を並べるデュエリストたる彼ならば、あの光にも負けはしない筈だ。

それに、“破滅の光”のインスピレーションから書き起こした、最強の龍をも託している。

海馬瀬人と青眼ブルーアイズの間に存在する絆は、何よりも強いものを感じる。

“破滅の光”を宿した青眼ブルーアイズは、禍々しくも強靭なその力を全て彼のために使うだろう。



「これで一つ。ですがまだ問題は山積み」

「ペガサス様」



海馬瀬人と入れ替わり、月行が部屋に入ってくる。

彼は割れたワイングラスを眼に止めたが、何も言わずに本題へと移った。



「―――矢張り、リムアート氏は自分がやると」

「OH……そうですか。彼には、まだ幼い子供がいた筈デース。

 彼に託さずとも、2枚纏めてワタシが行った方が、危険は少ないでしょう……」



リムアート。

彼は、インダストリアルイリュージョン社において、カードデザイナーとして働いている男性だ。

ワタシ自身、彼の面白い発想には期待しているのだが、彼のカードデザインが採用された事は多くない。

彼が行うデザインは、少々突飛すぎるのだ。目新しさはあるのだが、既存のカードを考えていない。

新たな境地の開拓者としては、評価できるのだが。

その功の少なさに、彼自身も焦りを感じているのだろう。

彼は今回の南極カード発掘隊に参加し、そしてこの龍たちに触れて帰ってきた。



ワタシのインスピレーションに従って称して“破滅の光”

その一端に触れたにも関わらず、彼はむしろ喜び勇み、このカードを研究すべきだと訴えた。

研究する、という行為自体には賛成できる。だが……



「彼の中では、焦燥と熱意が混じり合い、どこかおかしくなっているように思えマース」

「シンクロモンスター。レベルトリックタクティクスを進化させる、新たな境地……ですか」



月行はそう言って、開けっ放しのケースに納められた2枚のカードを見る。

レベルトリック。それは彼の弟、天馬夜行が最も得意とするカードタクティクス。

しかし今、その夜行は……



「月行……あれから夜行の行方について、何か分かった事はありますか?」

「――――一つだけ」



夜行は、ある時を境にこの場所から姿を消した。

それはいつであったか。



月行は幾つかの大会の優勝をいとも簡単にさらい、パーフェクトデュエリストの名が世界に広まりかけた時。

彼は自分自身の意思で、表舞台を降りた。

完了パーフェクトしてしまった自分の実力に、悔しさと口惜しさを滲ませながらそう宣言したのを覚えている。

しかし、それは同時に自らの半身である夜行を自分より高く、自分より上へ、何よりも上へと成長させるためでもあった。

そうすることで、自分が達成できなかった夢を、魂を分け合った双子として分かち合うつもりだったのだろう。



だが彼は、夜行はそれを同情と受け取った。

月行の許を。そしてワタシの許を離れ、彼は行方を晦ましてしまったのだ。



「リッチーが全米大会の観客席に見た、と」

「全米大会……? リッチーは参加していたとは聞いていませんでしたが」

「はい。ガーディアン使いのラフェールが参加していないのならば、出る意味はないと。

 ですが観戦にはいったようで、そこで見かけたと……その、ガーディアン使いのラフェールと共にいるのを」



ガーディアン使いのラフェール。

一時期世間を騒がせた豪華客船の沈没という海難事故の唯一の生還者。

父母、そして妹と弟をその事故で亡くし、流れ着いた無人島でカードを友として生き続けていた少年。今は、青年か。

覚えている。ボロボロになったカードが送られてきた事を。

それはそのカードたちが自らの主人と生を共にしてきた証の傷であった。

傷の付いたカードは、公式で使用する事はできない。当然、不正防止のためだ。

だがそこを曲げて使用するために、目印となってしまうカードの裏面張替の依頼として送られてきたのだ。



そんなことは初めてだった。当然、勝手に行っては違法カードになるからだろう。

自らの主人とともにありたい、という声が聞こえてくるほどに深い絆で繋がれたカードたちであったように思う。

だからこそ、前例はなかったが、その想いに応えた。

カードたちを公式大会でも一緒に闘える姿へと治し、主人の元へと送り返した。



その彼と、夜行が……?



「そうですか……分かりました。夜行の事は、自分自身でしか解決できない問題。

 少々厳しいように思えますが、もう少しの間自分で考えてもらいましょう―――

 リムアート氏は、ワタシが直接話しましょう。月行、会談の場を設けてくだサーイ」

「はい。分かりました―――」



最終的にワタシは、彼に“氷結界の龍 ブリューナク”を託す事になった。

しかしそれが、幼い少女から父親を奪い、そして世界を震撼させる事件に繋がる事には、思い至っていなかったのである―――











そこは、かつては荘厳な雰囲気漂う遺跡の内部だったのだろう。

しかし今はその見る影なく、ところどころが焼け、崩れ、半ば以上に崩落が進んでいた。

脚を進める毎に埃が舞い立ち、その服を汚していく。

だがそれには構わず、一点を目指して歩き続けた。

一際大きく盛り上がった瓦礫の山。



「フン、どうやら奴のDホイールの転移は、時間軸を著しく歪めるようだ――――

 奴を追って転移してみれば、過去の奴がいた場所に流れてしまうとは……」



だが、この時はその幸運に感謝しよう。

まさに天運とでも呼ぶべき、大当たりのクジを引き当てたのだ。

自身で引き寄せた天運、と言うべきか。それとも、彼の強運のおこぼれを貰う形となったのか。

くつくつと仮面の中で頬を揺らす。



バキリ、とその瓦礫の山が崩れ始めた。



『グゥ……オォオオオオ――――!!!

 ワタシは滅ビヌゥ……千年アイテムニ封印サレサエシナケレバ、コノ程度ノ傷ナドォッ……!!』




瓦礫より這い出たのは、全身にズタボロの布を垂らし、砕けた鎧を張り付けた骸骨。

それは頭蓋の奥に弱々しい紅の光を灯し、ゆっくりと這い上がってくる。

く、と笑いを噛み殺し、腕のデュエルディスクを起動させた。



「ならば、封印など必要のない。永遠の闇に招待してさしあげよう――――」

『ナ、ニ……!?』

「キサマが生きている以上、デュエルは続行―――前の相手を引き継ぎ、私が相手をしよう。

 フィールド、墓地の引き継ぎを行わない代わりに、手札は5枚頂く。

 さぁ、キサマのターンだ。もっとも、奴から奪ったカードは全て取り戻されたのだろう。

 どれだけのカードが残っているかは、知らないが……」

『キサマ、……! 何者ダ―――!?

 マァ、イイ……デュエルナド、モハヤ必要ナイ――――キサマハカードニデモ、ナッテイロ』




骸骨が弱々しい手つきで、掌を向けてくる。

それに一体、何の意味があると言うのか。

向けた掌が、目の前の人間の魂を封じると思いこんだ骸骨の滑稽さを笑う。



「フフフ、ハハハハハハハッ!!

 無駄だよカードの神、私にはそのような手段は効かない……私を消したくば、デュエルに勝ちたまえ」

『ヌ、グ……! 何故ダ、千年アイテムノ加護ナキ人間ガ、ワタシニ逆ラエル筈ガ……!?』

「時間切れだ。私のターン! 彼のライフは5500だったか。ならば、闇の誘惑を発動し、カードを2枚ドロー。

 その後、手札の闇属性モンスター、Sin パラレル・ギアを除外。

 そして私は手札よりフィールド魔法、Sin Worldを発動―――――!」



周囲の風景の色が反転していく。漆黒に鎖されていた空間。

塗り替えられた色はまるで、遥か過去に映された映像のように、褪せていた。

その風景こそが我が神が裁く者たちの造り上げた世界――――!



「そしてライフコスト2000を支払い、魔法マジックカード、次元融合を発動。

 互いのプレイヤーは、可能な限り除外されたモンスターを召喚する……私は、Sin パラレル・ギアを召喚」



キチキチと音を立てながら、金色の歯車が目の前に落ちてくる。

幾つかの歯車が重なり合い音を鳴らす、小さなギア。

それは初期ライフで言えば50%もの大量のライフを消費してまで、出すべき存在には思えないもの。

だが、次元融合の目的はこちらではない。今、目の前で展開される、龍の群れ。



白き身体は深淵の如き遺跡の最奥にても、眩き閃光の如く輝く。

その名に偽りなく、青き眼を持つデュエルモンスターズの象徴たる最強のドラゴン。

名は、その姿の美しさを讃えるために、見目麗しい姿そのものとされた。

故に青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイトドラゴン



それらが三頭、威光を纏いてこちらを威嚇するように、その咆哮を高らかと響かせる。

生憎、狭苦しい屋内ではその大空を切り裂く翼が存分に広がっているところは見れないようだ。

至極残念である。これが、彼らの真の姿での、最後の飛翔となるだろうに。



並び立つは、黒き身体に真紅の瞳。白き龍とはまるで反対の色を持つ者。

洗練されたシャープさの中にも、どこか丸みを帯びた印象を受けた青眼ブルーアイズとは矢張り真逆。

全身が鋭角化した鎧の如き皮膚に守られ、強力な力を持っている事が窺える。

その名は、また青眼の白龍ブルーアイズと同じ理由の許に、与えられたもの。

真紅眼の黒竜レッドアイズ・ブラックドラゴン



隕石の如き身体の、赤と紫の入り混じる小さき竜も出たが、そちらはどうでもいいだろう。



『ク、……フハハハハハハハッ!!

 何ガ、私ヲ消シタクバデュエルニ勝テダ―――! イイダロウ、今スグ、終ワリニ―――』


「矢張り、それらだけはキサマ自身のカード……そう、それが欲しかった――――!!!

 カードの神よ、キサマの生誕。その原罪Sinを、己が魂をもって償うがいい……!

 私はデッキから、2枚のカードを墓地へ送る……その名は、」



手をかけずとも、デッキより己の意思で浮かび上がるカードたち。

それは何の絵柄も書かれていない、白紙のカード。

骸骨の顔に疑念が浮かぶ。



合わさる白紙のカードから、合わせ鏡のように無限に続くカードの回廊が出来あがる。

その中に包まれていく一体の青眼ブルーアイズと、真紅眼レッドアイズ

パァッ、と一度大きな光が瞬いた後に、その二体の姿は忽然と消え失せ、白紙のカードにイラストが刻まれていた。

その光景を目撃した骸骨が、震えた。



『ナン、ダト……? バカナ…封ジタトイウノカ、人間ガ。カードノ精霊ヲ……!?』

青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイトドラゴン。そして、真紅眼の黒竜レッドアイズ・ブラックドラゴン

 二体のモンスターを墓地へと送り、私が手札から召喚するのは―――――!」



閃光が迸り、粉塵が焼けていく。先程までの戦火の被害が漸く治まったと言うのに。

再び焦熱に焼かれた地面が、焦げた臭気を周囲に充満させていく。



青みを帯びた白い閃光が集束し、その中から一体の龍の姿を曝け出した。

その姿は、何やら妙な装飾を纏わされているものの、紛う事無き青眼ブルーアイズの姿。

真紅を混ぜた黒い波濤が波打ち、弾けるように飛び出した一体の龍の姿もまた。

銀色のマスクを被せられ、翼にはまるで眼のような紋様が描かれている真紅眼レッドアイズ



「見るがいい! デュエルモンスターズが齎したモノの果てを! キサマたちの原罪シンの姿を!!」



二体の龍が咆哮を放つ。

その声は怨嗟、憎悪、絶望。様々な負の感情に彩られ、周囲を揺さぶる。

まるで自らの根幹、カードの神である事を憎むような口ぶりに、魔神の脚が一歩退いた。



『ナ、ンダ……! 何者ダ―――キサマハ……!?」

「ククク……我が名は、パラドックス――――デュエルモンスターズを憎み、裁く者。

 キサマが神であろうが、何であろうが関係はない…カードのルーツとなるモノ、私はそれらを全て、赦さない……

 レベル8のSin 青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイトドラゴンに、

 レベル2のSin パラレル・ギアをチューニング……!」



ギアが時を刻む時計のように、カチカチと音を立てながら回り続ける。

ゆるりと宙へ浮き上がったギアは、止む事のない怨嗟を繰り返し叫ぶ白龍の身体に沈んでいく。

二体のモンスターを依り代として召喚されるのは、己と同じ名を背負いし存在。

デュエルモンスターズという存在の象徴として扱われ、長らくそれらと人間を結び付けて来た龍。

それが叫ぶのは絶望の声。

己らが支えて来たものに、滅びを齎す矛盾。



「次元の裂け目から生れし闇、時を越えた舞台に破滅の幕を引け――――!」

『バ、バカナァ……! ワタシガ、恐怖シテイルトイウノカ……!?

 タ、タカガ人間如キニィ……!? ワタシノ玩具デシカナイ、人間如キニィイイイイ!?』




闇が爆ぜる。次元の彼方へと消え去った青眼ブルーアイズと入れ替わるように。

それは、姿を現した。

解き放たれた、解き放たれてしまった事を嘆くかのような咆哮を上げる龍。

その瞬間、魔神の場に残っていた三体の龍の身体が砕け、裂け、消し飛んでいく。

僅かばかり残っていた魔神のライフもまた。



『バカナ…バカナァアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 アァアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアァアアアァッ!?!?!?』








目前には既に、最期を告げる攻撃を受け、完全に消滅した魔神の姿はない。

咽喉を鳴らして、顔を覆っていた仮面を外す。

仮面を投げ捨て、デッキのカードを全て引き抜き、その様子を検めた。

――――何一つ消えていない。

つまり、自身の目的においてアレは何の意味もないデュエルだったと言う事になる。



「フ……まぁいい。この程度で解決するなどとは思っていない」



踵を返し、自らのDホイールへと向かう。

それに乗ると、これを与えてくれた―――正確に言えば、生前・・のそれを再現してくれた。

友の姿が脳裏に蘇る。



世界は破滅へのカウントダウンを振り切り、最期の時を迎えた。迎えてしまった。

その世界の中で嘆きの叫びを上げる友を見た。



大地が裂け、地中から噴き上がる溶岩に呑まれていく仲間たち。

みんなを救おうと、手を伸ばし、しかし届かぬ手。

やがて彼に救いを求めた声は聞こえなくなり、人の声のない地球の叫びのみが聞こえる世界の中。

彼は自らが信じたものを、仲間を助けられなかった手で握り潰した。



彼がその時挙げた慟哭は未だ耳に残っている。

私は、私ともう一人の仲間はその場面に立ち会い、彼と共に手を伸ばす事すらできなかった。

限界を越えた咽喉から嘆きの叫びを振り絞る憔悴しきった彼を、ただ迎えてやる事しかできなかった……



「そうだ、まだ世界は終わってなどいない……!」



最後ONE一人がいる。

彼がいる限り世界は終わっていない。世界を守るため――――?

否、世界などより遥かに大切なもの。たった一人、絶望の地で希望を目指し死闘を続ける……友。

瞼を閉じれば、彼の慟哭する姿が蘇る。彼の苦しみを思えば、なんのことはない。

彼を救う為ならば修羅になろう。悪魔に魂を捧げよう。如何な絶望とて耐えてみせよう。

彼が生きる世界を救う為、世界を滅ぼす矛盾さえ厭いはしない。



「待っていろ、Z-ONEゾーン……

 私の実験の果てに、必ず君の希望を見つけ出してみせる―――!」



未だ見えぬ明日と言う名の希望。

延々と繰り返される絶望と言う名の明日の先に、未来を見つけ出す。

見えるんだけど・・・・・・・見えないもの・・・・・・

それは眼に映る明日ぜつぼうを越え、眼に見えぬ明日きぼうを手に入れるための旅路。











「む……?」

「どうかなさいましたか、アトラス様」



いつも通り、デュエルスタジアムへと向かう道すがら。

初めて見る光景を目の当たりにした。

道端に捨てられた1枚のカード。それは、自分がサテライトにいた時を思い起こさせる。

サテライトには、シティの住民が不要と断じたカードが何枚も落ちていた。

子供の頃はそれを拾い集め、一喜一憂していたのを覚えている。



だがしかしそれは、キングとなった今恥ずべき記憶。

微かに鼻を鳴らしてそれを見なかった事にしようかとも思ったが、何か、それに惹かれるものを感じていた。

己の背に声をかける深影の声を無視し、その1枚のカードに歩み寄る。



「ふん、所詮シティもサテライトも大差ないと言う事か。

 どこにでもこんなものは捨てられている。掃除が行きとどいているかどうかの差しかない……」

「アトラス様、まるでサテライトを知っているような口振り。

 どこに耳を立てられているか分かりません。あまり、そのような事は……」

「分かっている」



1枚のカードを拾い上げ、埃を払う。

隣に並んで周囲を頻りに気にしている深影を横目で見る。

再び、微かに鼻を鳴らしてカードへと目を向けた。



高い攻撃力を誇る、最上級のモンスターカードであった。

眉を顰めて、周囲を見回す。明らかに捨てられるようなモンスターではない。

むしろ極上のレアカードである。

シティにこれだけのモンスターが落ちているとすれば、誰かが意図せず紛失した可能性の方が高い。



やはりクズの街とは違う、か。

興味は尽きた。誰のものとも知れぬカードを持ち歩く趣味はない。

そのカードを落ちていた場所に戻そうとして、―――無意識に踏みとどまっていた。



これだけのモンスター、無駄にするには勿体ないだろう。

キングの許で力を奮えるとなれば、このカードは元より元々の持ち主も満足するに違いない。

そのカードをデッキホルダーの中に差し込む。



見る事などあり得なかった筈の瞬間。

しかしデッキにそのカードを差し込む瞬間、確かにカードに描かれた魔物は嗤っていた。











ゴドウィン長官からの条件はたった一つ、けしてジャックには勝たない事……いいですね?



ネオドミノシティにおいて、街の実権を握る治安維持局。

その長官であるレクス・ゴドウィン。彼からの言伝を預かってきたピエロの名は、イェーガーと言った。

奴が伝えて来た内容は、要訳すれば金の為にかませ犬になれ。そういう事だ。



例え何があろうとも、デュエリストはデュエルのフィールドにおいて全力で戦う。

その権利であり義務であり、礼義であり誇りとなる全てを、否定しろと。

奴は言ってきたのであった。

平時であれば、誇りを賭けた戦に臨む者に対しての言葉ではないと激昂しただろう。



だが、今のオレにはその誇りを捨て、魂を売り捌くしか方法がなかった。

今は自らのデッキに眠りし三極神。

極神皇トールのカードを発掘する際、突如発生した落盤事故に巻き込まれた父親の命を救う為には―――

自らの誇りなど一山幾らと扱われようとも、治療費を手に入れるためには必要とされる事であった。

そこには悔恨が残る。一生を経ても取り戻せない喪失がある事だろう。

だが、それでも……誇り如きと、父の命を比ぶれば、どちらに天秤が傾くかなど、言うまでもない。



借り物のDホイールの上で、最後となるだろうデュエルを待ち詫びる。

デッキに眠りし無敵の三極神は、恐らく使わぬままにデュエルを終幕させることとなるだろう。

そこに怒りがないわけではない。だが、どうしようもないのだ。



入場ゲートが開き、ピットに取り付けられたモニターが入場を求めてくる。

慣れぬDホイールを動かし、その車体をスタートラインへと進めた。

オレがスタートラインで停止した直後、実況者がその声を張り上げるのが聞こえる。



『さぁ! 今回、キングに挑戦するデュエリストは北欧の死神を謳われるドラガン!

 北欧神話に準えるカードと戦術を前に、我らがキング! ジャック・アトラスはどう立ち向かうのかぁー!

 キング、ジャック・アトラスの入場だぁああー!!』



オレが出て来た場所とは反対のゲートから、奴のDホイールが姿を現す。

特徴として上げ得る部分は幾つもあるが、その最大の特徴はそれが一輪車である、と言う事だ。

巨大なホイール一輪の中に乗る。という形で成り立っている、突飛なマシン。

だが、一輪車などと侮るなかれ。



一輪のみで車体のバランスを取り得る構造のため、旋回性能やバック走行の性能が他のDホイールを圧倒している。

奴は前を向いて走ると同じ要領で、後ろを向いたまま走る事ができる。

ライディングデュエルはデュエルの腕だけでは勝てない。Dホイールライダーとしてのスキルも要求される。

相手の前を走るという位置的アドバンテージを奪いつつ、後方を向いて対戦相手にプレッシャーを浴びせるバック走行。

それは、Dホイールの走行技術の中でも、最上位のスキルに位置する。

だが、奴はそれを当然の如く行ってくる―――



「待たせたなぁ! オレがキングだ!!」



惜しげなくオーディエンスへ自らの存在をアピールするジャック・アトラス。

彼は自らを称賛する歓声を浴びながら、オレの隣へとDホイールをつけて来た。



「フン……北欧の死神などと呼ばれているようだが、

 キサマ程度がこのキングに敵うべくもないという事を、その身に刻んでやろう!」



挑発も、憤りを呑み込んで受け流す。

それに乗る資格は、今のオレにはない。

ただそれを呑み下すには、余りにもオレは弱かったのだろう。



「「スピード・ワールドセット!

  ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」



互いのDホイールが火花を散らし、その車輪を回転させる。

アスファルトの大地を駆けるDホイールを身体を使って抑え込み、その加速を限界まで高めていく。

時速200キロ近くまで加速する車体を制御しながら、カードをプレイする事を必要とされる競技だ。

そこには数えきれないほどの危険が付き纏う。

Dホイール自体はスタートを終え、既に自動制御に入っている。

だが、そんな事は関係ないと言わんばかりに、ジャックは自らの腕でDホイールを繰り、こちらを引き離していく。



「チャレンジャー! その程度の加速で、このオレの相手など片腹痛いわ!!

 早々に引導を渡してやろう……オレの先攻だ! ドロー!!」

「くっ……!」



奴はこの風を全く意に介さず、余裕を保ったまま、自らのターンへと突入した。

流石にただの操り人形ではないと言う事か……!



「オレはチューナーモンスター、トップ・ランナーを召喚!」



白い光と共に、奴のフィールドにモンスターが現れる。

卵のような頭部と一体化している丸い胴体で、細い眼が爛々と光を放つ。

長い手足を疾走の構えで固定し、残像を引きずりながら空間をスライドして進むモンスター。



「更にカードを2枚伏せ、ターンエンド!

 北欧の死神だろうがなんだろうが、このキングの前では無力な羊にすぎない。

 その事を身を持って味わうがいい!」

「ヌゥ…! オレのターン!」



スピードカウンターが一つ目を刻む。

ドローしたカードと、手札を合わせる。

……これならば―――!



「オレは極星獣ガルムを召喚!」



Dホイールに追走する赤毛の猟犬が出現する。

トップ・ランナーの攻撃力は1100。対するガルムの攻撃力は800しかない。

このまま攻撃する事はできない。



「カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

「フン、攻撃表示の雑魚モンスターに伏せカードか。

 そんな小細工がキングに通用すると思うのか! 見せてやろう、追われる者の力を!

 オレの、タァーンッ!!」



そう、確かに小細工と称される戦術だろう。

だがその小細工を用いる事で、オレは自らの最強モンスターを呼び出す布石を打った。

まずはキサマの力を曝け出すがいい。

その時こそ、我が最強の極神皇の力の前に、キサマはひれ伏す事に――――



「ッ!」



できない。

そんな事はけして、行ってはならないのだ。オレはこのまま道化を演じ、敗退する必要がある。

歯を食い縛り、必死にその感情を押し殺す。



「オレは手札より、パワー・ブレイカーを召喚!」



続いて奴のフィールドに現れたのは、両腕に斧がついた腕輪を装備したモンスター。

頭を覆う兜から伸びるオレンジ色の飾り髪と、背負うくすんだ布の中には、巨大な鉄球が隠されている。

まるで囚人。全身を拘束され、動きを封じるために設けられた枷は幾つとも知れない。

囚人、今のオレも、あのようなものだろう。



「くっ……!」

「更にレベル4のパワー・ブレイカーに、レベル4のトップ・ランナーをチューニング!」



奴が宣言するのはシンクロ召喚。

そして、そのレベルの合計は8。ジャック・アトラスをキングたらしめる最強のしもべを呼び出す数値。



トップ・ランナーがその手足を大きく振りながら、加速する。

先程までのスライド移動とは違い、残像が消えた本来の疾走。

先頭を走る者という名の通りのそれに、後からパワー・ブレイカーが続く。



「王者の鼓動、今ここに列を成す。天地鳴動の力を見るがいい!!」



疾走者はその身体を四つの星に変え、弾け飛んだ。

星は円環を描いて光のリングを作り上げる。

そのリングが作る光の路を進むのは、後から続くパワー・ブレイカー。



それは、他のモンスターを新たなるモンスターへと進化させる力。

それこそが、シンクロ召喚。



「シンクロ召喚! 我が魂――――!!」



真紅の炎が破裂した。

炎の怒濤がフィールドを埋めつくし、視界を塗り潰す。

そして見た。その合間から覗く、真紅の波濤を纏う、悪魔の如き相貌の魔龍の姿を。



三本の白い角が生えた頭部は悪魔そのもの。

ドラゴンと言うには、余りにも人型に近すぎる体型を持つのは、むしろ悪魔に近い証拠か。

黒々とした筋肉の鎧は一部真紅で彩られ、その色合いからでさえ攻撃性を見いだせる。

龍以上に悪魔に近しいその翼を広げ、魔龍は雄叫びを。

そしてそれを従える王者は、その名を呼ぶ。



「レッド・デーモンズ・ドラゴォオオオオオンッ!!!」



雄々と。魔龍は王者の風格を纏い、フィールドを席巻する。



「これが、キングのエースモンスター……!」



見れば分かる。その力、その誇り、その威容。

奴はレクス・ゴドウィンにただ使われている人形などではない。

その力は紛う事なき真の王者。

だからこそ、感じる。その感情を覚えてしまう。



勝ちたいっ……! いや、勝てる―――!

俺のこのトラップを使いさえすれば、勝利をもぎ取る事ができる……!

だが、そんな事をすれば……!



ギリギリと歯を食い縛り、そのカードに伸ばした手を引き戻す。

それと同時、左眼の中に灼熱を感じた。



「っ……!?」



スリサズのルーンが刻まれた瞳が発現する。

それは神より下される神託。

下されたその言葉に、愕然として口でそれを繰り返す。



「馬鹿な……呼べと言うのか、神を!? そんな事をすれば……」

「行くぞ! レッド・デーモンズ・ドラゴンで、極星獣ガルムを攻撃!!」



悪魔龍がフィールドで翼を一つ羽搏かせ、こちらのフィールドに侵攻してくる。

黄金の瞳を輝かせ、その掌に爆炎を凝らせる。

絶対破壊の一撃。あらゆる守りを撃ち崩す苛烈なる波動。



「アブソリュート・パワァーフォォオオオオオオオスッ!!!」

「できない……そんな、事は―――!?」



Dホイールのハンドルをきつく握りしめ、反応しようとする身体を抑え込む。

だがしかし、その一撃を真正面から見据えた時に見た。



―――何かが、ある。

邪念か、あるいは邪悪そのものか。何かは判然としないが、闇色の力が。

それも、三極神に及ぶほどに巨大な力。

ルーンの瞳が発現している今だからこそ眼に映る、邪悪な瘴気。



「なんだ、あれは……!?」

「砕け散れ、雑魚モンスター!」



攻撃力3000を誇る魔龍を迎え撃つは、僅か攻撃力800のガルム。

レッド・デーモンズの攻撃が攻撃表示のガルムに突き刺さる。

その掌を打ち付けられたガルムは、断末魔をあげる間もなく焼滅した。



瞬間、消し飛ぶガルムの身体を構成していた光の欠片と共に、衝撃が身体を揺さぶった。



「グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」



衝撃が身体を襲う。Dホイールが軋み、いずこからか致命的な音が聞こえた。

ライディングデュエルにおいて、互いの攻撃が仮想立体触感バーチャルソリッドフィールとなってプレイヤーを襲う事はある。

だがそれが、実際に物質を破壊する事などありえない。

悲鳴をあげる身体が力を失い、抑え付けていたDホイールのボディに振り回される。

ライフカウンターが一気に2200ポイントのダメージを受け、急激に低下していく。

スリップしたホイールを何とか抑え込み、持ち直す。



「フハハハハハッ! どうだ、キングの一撃は!」

「グッ、ウゥッ……オ、オレは戦闘によってモンスターが破壊されたこの瞬間、極星獣タングニョーストの効果を発動!

 極星獣タングニョーストは、オレのモンスターが戦闘破壊され、墓地へ送られた時、手札から特殊召喚できる!

 守備表示で特殊召喚!」



黒い体毛に包まれた山羊が現れる。

その能力値は高くないが、このモンスターには特殊能力がある。

それこそが絶対の神を降臨させる礎となる効果。



「フン、まだ分からんか。このキングを前に、雑魚モンスターを幾ら並べようと無駄だと!」

「ならば……見せてやる! 神の姿を!!」



自身のプライドはもはや捨て去った。最早何も恐れるものはない。

父の医療費ならば、好事家に神のカードを売り払ってでも確保してみせる。

キングをも打ち破った最強のモンスターとして。



今はそれよりも、あの邪悪なオーラを振り払う方が最優先。

あれが何に侵されているかは知らないが、その闇を神の威光を持ちて消滅させる―――!



借り物のDホイールの通信機能はイェーガ―に掌握されている。

だと言うのに、奴は何も言ってこなかった。

今何を言われたとしても、止まる気など微塵もなかったが。



「ほう…? ならば見せてみるがいい、神とやらを!

 カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

「オレのタァアアアアン!!」



ルーンの瞳が光を湛え、溢れさせる。

神が呼ぶ声に応え、オレもまた、現世において神を呼ぶものとなる。



「極星獣タングニョーストを攻撃表示に変更!

 その効果により、デッキからタングニョースト以外の極星獣と名のついたモンスターを特殊召喚する!

 オレはデッキより、極星獣タングリスニを特殊召喚!!」



メェエエというタングニョーストの鳴き声に応えるのは、デッキに眠りし新たな極星獣。

タングニョーストとは真逆。白い体毛の山羊こそ、極星獣タングリスニ。

二体の供物の山羊、そしてもう一体。



「更に極星獣グルファクシを召喚!」



漆黒の馬が黄金の鬣を振り乱しながら、雄叫びを上げる。

蹄でで大地を蹴り穿ち、オレが駆るDホイールを追走する。

グルファクシは巨人に従えられし名馬。

その巨体はレッド・デーモンズのそれには僅かに及ばぬものの、その力強さは他の馬とは一線を隔す。

勿論、真正面からレッド・デーモンズに勝てるわけではない。



だがその力は、神を呼ぶ。



「レベル3のタングリスニとタングニョーストに、レベル4のグルファクシをチューニング!」

「レベル10のシンクロモンスター、だと…?」

「星界の扉が開く時、古の戦神がその魔槌を振り上げん―――!

 大地を揺るがし、轟く雷鳴とともに現れよ。シンクロ召喚!」



白山羊、極星獣タングリスニと黒山羊、極星獣タングニョーストが宙へと躍った。

その名の通り、タングニョーストが自らの歯を軋らせる。

二体の山羊に続くのは巨体の馬。

光と化したグルファクシは、リングとなり、二体のモンスターを包み込んでいく。

眩く発光するその先には、新たなるモンスター。否、神を呼ぶ力が宿っている。



「光臨せよ、極神皇トォオオオオオオオオオオオオルッ!!!」



天が裂け、雷光を纏いてその姿を現す者こそ、三極神が一柱。極神皇トール。

タングリスニとタングニョーストが牽引する戦車の車輪が鳴らす音こそ、雷鳴と言われるもの。

三体のモンスターが供物として自らの身を捧げる事で、神は現世へと降りる。

自身の力に絶大なる自信を持つからこそか、その鎧は軽装。

鉤爪のような角が三本生えている肩当てと、胴のみを覆う鎧。

そして雷をイメージする黄金の二本角の兜。

風を受けて暴れるマントを背負い、最強の力を持つと云われる神は舞い降りた。



その能力は如何なるモンスターの能力をも封じ、戦闘能力のみで競う事。

最強と謳われるトールの攻撃力の前では、それが最強の特殊能力となる。



「フン、なるほど。これがキサマの言う神か……」

「神の力、存分に味わうがいい―――! 極神皇トールよ、レッド・デーモンズ・ドラゴンを…」

トラップ発動! スクリーン・オブ・レッド!」



奴の伏せリバースが開放される。



「スクリーン・オブ・レッドがある限り、相手モンスターは攻撃宣言を行う事ができない。

 神などと謳われてはいても、所詮その程度だ!」

「……ならば、カードを1枚伏せ、Spスピードスペル-オーバー・ブーストを発動!」



瀕死のDホイールが限界に迫るスピードを捻り出す。

借り物の安物Dホイールではこの程度。

邪気を纏ったレッド・デーモンズの攻撃により、追い詰められていたDホイールが悲鳴を上げている。

だが、こいつが使い物にならなくなる前に決着をつける―――



「オーバー・ブーストの効果により、オレのスピードカウンターを4つ上昇させる!

 オレのスピードカウンターはこの効果により、5となる!」

「ふん、キサマのスピードカウンターは元より1つ。

 代償としてエンドフェイズにスピードカウンターが1つとなる効果も、デメリットとして働かないか」



スクリーン・オブ・レッドはこちらのモンスターの攻撃宣言を封じるカード。

その攻撃無効効果は優秀であるが、毎ターンのエンドフェイズにプレイヤーのライフを強制的に1000削る。

奴がその維持を許されるのは3回。その間に状況を整え、神を攻略するつもりなのだろう。



だが甘い。



Spスピードスペル-運命の呪縛を発動!

 スピードカウンターが2つ以上ある時、オレの場のモンスター一体に呪縛カウンターを二つ与える!

 極神皇トールに呪縛カウンターを二つ与える。

 その効果により1ターンに一度、攻撃を行わない代わりに呪縛カウンターを一つ取り除く事で、

 呪縛カウンターの乗せられたモンスターの攻撃力の半分の数値のダメージを相手に与える!

 キサマのスクリーン・オブ・レッドは攻撃宣言前に発動されたもの。

 よって、このターンの使用が可能となる。行け、極神皇トール!!」



トールがその腕で巨槌を振り上げ、その槌に雷光を蓄えていく。

天より降る雷撃が槌に集中して狙いを定め、幾条もの閃光が降り注いでくる。

その光景は天が怒る様。天に刃向かう傲慢な王者に対して下される、神の裁き。

トールがその鉄槌を振り下ろし、地面に対して叩き付ける。

その瞬間、雷光が解き放たれた。



大地を奔り、その雷光は過たずジャックの身体に直撃した。

オレ自身がレッド・デーモンズの攻撃を受けた時のように、それは実際の威力を伴ったもの。

ホイール・オブ・フォーチュンの車体の塗装がバチリと弾けて、微かに覗く鉄の色を曝け出す。

だがしかし、ジャック・アトラスは微塵とて揺るぎない。



「フン、極神皇トールの攻撃力は3500。よって、オレは1750のダメージを受ける。

 オレの残りライフはこれで、2250となったわけだ」

「これで次のターン、キサマがスクリーン・オブ・レッドを維持したとすればライフは1250……

 2つ目のカウンターを取り除いた効果で、キサマのライフは0となる!」

「ク……」



こうなってしまえばスクリーン・オブ・レッドは奴の枷にすぎない。

奴は次のターン、スクリーン・オブ・レッドが持つもう一つの効果を使用せざるを得ない。

レッド・デーモンズがいる時に、自身を破壊し、墓地のレベル1チューナーを蘇生する効果。

これはオレのターンでも使えるが、奴の墓地にレベル1チューナーが存在しない今は無力。

恐らく何らかの手段でこのターン、レベル1のモンスターを墓地へ送るだろう。

だがそれは無意味だ。



オレがこのターン伏せたカードは、ミョルニルの魔槌。

次のターン奴はスクリーン・オブ・レッドの効果で特殊召喚するチューナーと合わせて、モンスターの壁を並べるだろう。

だがしかしそんなものは神の前では無力。

二回の連続攻撃を可能とするミョルニルの魔槌でそれらは全て粉砕される。

例え数ターン、モンスターの壁で凌いだとしても奴にはいずれ限界が訪れるだろう。

何故ならば神は不死。

奴が幾ら足掻こうと、神が降臨した以上このフィールドの支配権は神の手に握られたのだ。



「ククク…フフハハハハハハハ! ハァーッハッハッハッハッハッハッ!!

 次のターン・・・・・だと? キサマに次のターンが与えられるとでも思っているのか?

 キングの前ではキサマの浅はかな戦略など何一つ通じぬわッ!!

 キサマのようなノロマに、キングに挑戦する資格などないと痴れェッ!!!」

「なにっ……!?」

「オレのターン!!」



奴の纏う闇色のオーラがより強大なものとなる。

それは余りにも大きく、トールの力以上のものすら感じるほどに、大きい。

馬鹿な、そんな事はありえない。神をも超越する力など―――!



トラップ発動、強化蘇生!

 墓地のレベル4以下のモンスターを特殊召喚し、このカードを装備。

 蘇生させたモンスターのレベルを1、攻撃力・守備力を100ポイントずつ上昇させる。

 オレは墓地のトップ・ランナーを特殊召喚!」



疾走者が再びフィールドに舞い戻る。

その攻撃力は強化蘇生の効果を受けても僅か1200。無論、トールには及ばない。

だがその狙いは見えた。トップ・ランナーは自分のシンクロモンスターの攻撃力を600ポイントアップさせる。

つまり、これでレッド・デーモンズの攻撃力は3600となった。

攻撃力3500のトールを戦闘破壊する事が可能となったのだ。



微かに口許を吊り上げ、ジャックの攻撃宣言を待つ。

このターン、トールは破壊される。

しかしそれは、奴に更なる悪夢が訪れる事に他ならない。

トールが、三極神が持つ絶対の不死性。破壊されたターンのエンドフェイズに再生する能力の発現に繋がるからだ。

更にその際、トールは奴に800ポイントのダメージを与える効果が備わっている。

奴がこのタイミングでスクリーン・オブ・レッドを維持すれば残り450。

維持せずとも残り1450ポイント。

しかし維持しなければ、蘇ったトールがトップ・ランナーの効果を吸収し、レッド・デーモンズを粉砕する。

無論、ミョルニルの魔槌の効果でトップ・ランナーをも纏めて、だ。



さぁ、こい。ジャック・アトラス―――!



「更にオレは、手札のバリア・リゾネーターの効果を発動!

 このカードを墓地へ送り、チューナーを一体指定。そのモンスターはこのターン戦闘で破壊されず、ダメージも受けない。

 オレが指定するのは勿論トップ・ランナーだ」



トップ・ランナーの前方に青白い膜が現れる。

文字通り、戦闘で発生するあらゆるダメージを無効にするバリア。

バリア・リゾネーターはレベル1のチューナーモンスター。

なるほど、これでスクリーン・オブ・レッドを破壊する、という魂胆か。



「そして、スクリーン・オブ・レッドのもう一つの効果!

 レッド・デーモンズ・ドラゴンがフィールドに存在する時、このカードを破壊し、墓地のレベル1チューナーを特殊召喚する!

 バリア・リゾネータ―を特殊召喚!」



背にバリアの発生装置のようなものを背負った、三頭身程度の小悪魔が現れる。

手には音叉を持ち、頭の触覚を横に揺らしながら、バリバリと鳴くモンスター。

これで奴のフィールドに、攻撃を防ぐ壁はなくなった。

次のターンで、ジャック・アトラスの敗北は揺るがない―――!



「ククク……オレは言った筈だ。このキングの前に、雑魚モンスターを幾ら並べようが無駄だとな!」

「なに……!?」



今奴は、フィールドに降臨した神を雑魚、と。

この神が放つプレッシャーの中でそうのたまったというのか。

何と言う侮辱か。

歯を食い縛り、前を行くジャック・アトラスを睨みつける。



「キサマが神を信奉するのは勝手だが、神すらしもべとして従属させてこそ、王者!!

 神の許にひれ伏すキサマ如きが、このキングに敵うべくもないという事を、その身に刻み込むがいい!

 オレは、レッド・デーモンズ、トップ・ランナー、バリア・リゾネーター、この三体のモンスターをリリース!」

「リリース、だと……!?」

「神とは絶対者。絶対の力を持ちて、人の世を支配する者。

 王者とは超越者! 森羅万象全てを超越した次元に君臨する、世界を遍く席巻せし者!!

 キングの称号を持つ頂点、このジャック・アトラスを前にすれば、神すらもその頭を垂れる。

 絶対の力を従え、人の世を超越せし者。故に、絶対王者キング!!!」



レッド・デーモンズがその悪魔の如き顔面を歪め、闇色の力に呑まれていく。

当然、トップ・ランナーとバリア・リゾネータ―もそれに続く。

奴の身体から滲み出るように放出される闇色の気配は留まる事を知らず、たちまちオレたちを全て包んだ。



「なんだ、何が起きている……!」

「さぁ、降臨せよ! 邪神ドレッド・ルート!!」



瞬間、闇が膨れ、弾けた。

闇の奥から現れたのは悪魔そのもののような、しかし悪魔を超越した果てに神域まで達した存在。

悪魔の頭蓋骨を被っているのか、それともその頭蓋骨も自らの身体の一部なのか。

どちらにせよ膨張した筋肉に鎧の如く張り付いた様々な骨格は、既に身体と一体化している。

トールと並ぶ同等の背丈を持つモンスターの、その頭蓋の兜に覆われた顔が、一瞬嗤った。



「邪神、だと……」

「バトルだ! 攻撃力4000に及ぶ邪神の攻撃、その身でとくと味わうがいい!」



攻撃力4000。それは、トールの攻撃力3500すらも上回る。

三体に及ぶモンスターをリリースしたとはいえ、その攻撃力は破格のものだろう。

だがしかし、神にはその程度の攻撃力の差は意味をなさない。



「ならば、トラップ発動! 極星宝ブリージンガ・メン!!

 互いのモンスターを一体ずつ指定し、こちらのモンスターの攻撃力を、相手モンスターの元々の攻撃力と同じにする!

 これによりトールの攻撃力はキサマのドレッド・ルートの4000と並んだ!!」



これにより相討ちさせれば、奴のモンスターは消滅。

だがこちらのトールにはエンドフェイズに蘇生する効果が備わっている。

次のターンにダイレクトアタックを仕掛ければ、それで終わり。



そう考えた刹那、邪神と呼ばれたモンスターが嗤う。

勝利を齎す女神の首飾りをかけられたトールの力が増大し、漲る。

力を得たトールがその腕で雷撃を纏いし巨槌、ミョルニルを振るった。

向かってくる邪神は、横合いから来たその一撃を躱すでもなく、受け止めるでもなくただそれを甘受した。

雷撃が解放され、邪神の身体を焼き払う。



「やったか!?」

「フン……」



ガシン、とミョルニルを邪神の腕が掴み取った。

メキメキと音を立てて拉げていく雷撃の槌。

撃ち込まれた一撃に、邪神の身体は傷一つ負っていない。



「馬鹿な、トールの一撃を受け止めた、だと……!?」

「フン、だからわざわざ忠告してやったのだ。雑魚を出しても意味はない、となぁッ!!

 邪神ドレッド・ルートよ、その雑魚モンスターごと、絶対王者キングに刃向かう愚者に裁きの鉄槌を振り下ろせ!」



邪神の双眸が輝き、その拳を振り上げる。

その時に、命令を下すジャック・アトラスの腕に、赤く輝く何かの紋章が見えた。

赤く輝く腕の紋章は、徐々にその輝きを赤から黒へと変えていく。

武装を失ったトールが膝を着く。

その頭上から、邪神の拳が振り落とされた。



「フィアーズ・ノックダウン!!!」



粉砕。そして、圧壊。デュエルスタジアムが震動し、鳴動する。

邪神の一撃により神は葬り去られ、オレのライフは一瞬で尽きた。

何故、と考えている暇もなかった。

奴の攻撃により発生した実際の衝撃が、Dホイールを損壊させたのだ。

外れるホイール、炎を上げるモーメントエンジン、本体も半ばから真っ二つに折れ、空中へ放り投げられた。

その直前、デッキだけはホルダーごともぎ取る。

爆発、炎上。200キロ近いスピードで放り出された身体は、

その反動で大地へ叩き付けられた後も数十メートル以上転がり続け、漸く止まった。

朦朧とした意識の中、最後に聞いたのはあの男の声だった。



「畏れよ! 慄け!! 圧倒的な力で相手を組み伏せ、その頭を踏み付けて頂上に君臨する!!!

 これぞ絶対王者キングのデュエル!

 フフフ、ハァーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」







「ハ、ハァア……邪、邪神ですと……!?

 ゴドウィン長官。まさかあれが、ドラガンが三極神を出すのを止めなかった理由……!」

「ええ、私も半信半疑でした。が、どうやら正解だったようですね」



窓際に歩み寄り、その硝子に手をあてる。

義手からはなんの感触も伝わってはこない筈だが、まるで灼熱に触れたかのように熱さを覚えた。

ジャック・アトラスの腕。赤き竜の痣が黒く染まる瞬間に覚えたこの昂ぶり。

絶対の存在に思えていた赤き竜すらも塗り替える力。それが、邪神。

ならば、赤き竜と邪神の力。双方を手にすれば、それは運命などいとも簡単に捻じ伏せる事ができるだろう。



「救護班を。彼を医務室へ運んで下さい」

「はっ」

「それに、契約金の方も彼の指定した口座に。

 ああ、彼自身の治療費の方も上乗せしておいて下さい」



イェーガ―副長官がその指令を受け、すぐさま動き始めた。

彼は十分以上に役目を果たしてくれた。



兄さん、矢張り貴方は間違っていた。

貴方の元々持っていた力は、今のジャック・アトラスに等しい、いやそれ以上のものだった筈。

神すら凌駕する力を、有効的に使えなかったのは貴方の過ち。



故に、今度は私が――――――











「ふぅ、なんだな。何だか凄い疲れた気がする」

『私たちは何もやってませんが、何だか凄く物語の根幹に関わってきそうなイベントがあった気がします』

「うん」



何でだろうな。俺たちはまだ何もやってないのに。

まるでこれを書いてる奴がもう疲れたという毒電波を送っているようだ。

まぁ俺にはそんな事関係ないので、のんびりとマスターガイド3を読みふける。

やっぱりマスターガイドで一番面白いのはイラストの影に歴史ありだよな。

今回はDTのストーリーが解説されててマジ面白い。

これが3年に一回しか出ないとかホント何でだろうな。

DTのストーリーとかの解説本出してくれればいいのに。



遊戯王はホントにカード以外の展開しないから困る。面白いのに。

月刊遊戯王とか出せば買うのに。毎号カード付属にすれば、OCG化されないカードも減るし。

更に毎回リミテッドエディションも出してくれれば、言う事はない。



『月刊遊戯王はあるじゃないですか』

「もう言いたい事は分かったけど、どこに?」

『Vジャ「違うから。分かるけど違うから」



まさしく大体あってる。

というかあそこまで間違いだらけの専門誌なんて嫌だ。

このSSのデュエルレベルで間違えてる事があるなんて、一体どういう事だ。



『ところでマスター、いつになったら帰るんですか』

「帰るも何もこっちが俺の世界だがな」



今俺は自分の家に帰省中だ。

超融合を手に入れた時点でこうする事ができるようになったので、ホントに困らない。

もし打ち切りになっても簡単にエンディングを迎えられるのだ。

そして外に置くわけにはいかないので家の中にくそでかくて邪魔なこいつも置いてる、というわけだ。

まぁ今回の帰省はマスターガイド3とスターターデッキ2011を買いに来るためだったが……

発売日に直行、というわけにもいかないので、俺が向こうの世界に行ってしまった日に戻り、今まで過ごしてきたのだ。



『マスターマスター』

「なに」

『マスターがあちらの世界に転移したのは、2月15日ですよね』

「そうだな、投稿日的にそんくらいだな」

『2月26日発売のムービーパックのカードを3話で使ってたのはいかがなものか』

「黙れ、大人の事情だ」



ついでに俺はジャンプフェスタに行ってないので、3月発売のヴェイパーを持っているのもおかしい。

しかしそんな道理、私の無理でこじあけた結果である。

言わなければ分からない。もう遅いが。



「ああ。目的は果たしたし、そろそろ向こうの世界に行こうかー。

 それにしてもこっちに帰ってくるまで、色々あったよなぁ」

『回想でセブンスターズ編までカットですね分かります』



俺の目的を的確にあててくる。何と言う奴だ。流石は俺の思考を元にしたAI。

かわいくない育ち方をしてやがる。











「おーい、エックスー? いるかー?」

「ふぁ……アニキ、こんな朝早くから尋ねるのはどうかな」

「いいじゃんいいじゃん。エックスがやったデュエルの結果が気になるし!」

「アニキがデュエルの気配がするって勝手に言ってただけなのに……」



本当にデュエルしてたかも知れないのに、いきなり部屋に押し掛けて「デュエルどうなった!?」である。

流石の非常識もここまでくると清々しい朝、を迎えるに相応しい言葉になる。

わけがないだろう、などと思っている。

そんな翔に、来訪を察知(Xさんマジ便利)し、扉の横合いに潜んでいた俺は声をかけた。



「オイテケ~オイテケ~ おいしいポリポリできれば5つ オイテケ~オイテケ~」

「ギャァアアアア!? ミイラ男ぉおおおお!?」



いきなり跳び上がって俺のベッドに突っ込んでいく翔。

人のベッドを荒らすな。



「な、何だぁ!?」

「オイテケ~オイテケ~ 元気が出る青いもの オイテケ~オイテケ~」



全身が包帯に包まれた俺は、ゆらゆらと二人に歩み寄っていく。

当然である。あの魔神に、と言うか主にラーにこんがり焼かれた俺は全身火傷状態である。

志々雄状態である。実際焼けてるわけではないし、肌がヒリヒリするくらいだが。

状態的にはむしろ日焼けである。太陽に焼かれただけに。



「あ、リボーンゾンビか!?」

「違う。死者への手向けごっこだ」



魔神追悼の会。ざまぁw二度とこの世に戻ってくんな。

そのままオシリスレッド制服の上着を羽織る。

そこまでくればこのミイラの正体が俺だと気付いたようで、気が抜ける二人。



「エックスくん、何してるんすか?」

「俺に質問するなぁああああああ!」



あの人は全身火傷からの全身包帯が妙に印象に残ってる。何故か。

ああ、もうアクセルタービュラーカッコよすぎるだろ。

同じバイク同士で何故ああもプラシドと差がつくのか。

初めて見た時シャアザクwとか言ってた奴誰だよ、謝れ。サーセン。



「で、結局何してるんだ?」



向こうは向こうで俺の扱いに慣れ始めているらしく、スルーである。

悲しくなってきた。



「いや、特に意味はないけど。まぁ赤いから。バイクだし」

「なんのこっちゃ」



まぁそうだな。俺の存在的にはどれかと言えばギャレンだな(ただしジャックフォーム)

空飛ぶし。ついこの前、初登場促販に近い勝利をもぎ取った後なので、後は負ける予感しかしない。

フュージョンジャーック、フュージョンジャーック、フロート。

まあ最強のライダーはフュージョンジャックしてもゾウだしな。

ダンボなら飛べたかもしれないが。

残念ながらガーネシア・エレファンティスの地割れ攻撃は、飛行エレファントには無効だ。

どっちもゾウじゃねーか。でもトムの勝ちデース。

砦を守る翼竜は35パーセントの確率でその攻撃を回避するぜ!



「なぁなぁ、そんな事より昨日のデュエル、どうだった!?」

「俺に質問するなぁああああああ! 勝ったぞ」

「へー! どんな相手だったんだ?」

「ゴギガワイト」



はい? と十代は首を傾げた。俺だってあいつの正体なぞ詳しくは知らん。

自称カードの神で、かつ骨太で犬の前に立たせたら襲われそうな外見をしている。

しかしその能力は俺程度に負けるレベルの神(失笑)であり……

あ、自分で言ってて悲しくなってきた。



「まあつまりワイトだ。いや、さまよえる亡者か」



ワイトは強いもんな。

ミノタウロスに握り潰されたりと、原作での出番もあるし。

しかし何故遊戯はワイトを入れていたのだろう。

相手モンスターと融合させて腐らせるためだろうか。

オベリスクと融合させたらもう巨神兵ってレベルじゃねーぞ。早すぎたんだろうな。



「ふーん、アンデットデッキ使いとか?」

「間違ってないな」



基本的に墓地から這い出てくるモンスターたちだったし。

行動パターンがゾンビである。

アニメ効果の三極神ほどではないが。

ラー? 太陽神は犠牲になったのだ……古くから続くコナミの暴走……その犠牲にな。

オシリスはホントにどうにかしてくれ。せめてオベリスクと肩を並べるくらいに。



オベリスクはハムド食わせればほぼ無敵だしな! ハムドは青眼と共存できるし、社長デッキのお供である。

トリシューラ? 知った事かそんなものは。



「ま、いいや。そろそろ行こうぜ、学校」

「そっすね、そろそろ出ないとまた走らなきゃいけなくなっちゃう」

「じゃあ歩きながらどんなデュエルだったか教えてくれよ」



そんなこんなで駄弁りながら、のんびりと歩き始める。







「デュエルモンスターズのカードには、

 モンスターカード、融合モンスターカード、儀式モンスターカード、効果モンスターカード。

 そして、トラップと、魔法マジックカードカードがあります。

 更にトラップには通常トラップ、カウンタートラップ、永続トラップ

 そして魔法マジックカードには、通常魔法、永続魔法、装備魔法、速攻魔法、儀式魔法。

 そしてフィールド魔法と分ける事ができます」

「ベリィッシモ! 非常によろしィノ!

 オベリスクブルーのシニョーラ明日香には、優しすぎる質問でしたぁーネン」

「基本ですから」



そう言って着席する明日香。しかし何故モンスターにだけ通常をつけなかったし。

うむむ、これから更に6年ほどでシンクロとエクシーズも追加されるんだからなぁ。

つーかデュエルモンスターズって基本を理解してからが長いカードゲームナンバー1だと思うわ。

効果処理がめんどくさいカードゲームナンバー1と訳してもいい。

あとテキストの理解が一番難しいとも言える。抜け道が多いとも。

遊戯王のはじめて教室とか、一体どれだけ効果があるのだろう。



包帯の端をひらひらさせて、何故か教室にいるファラオと遊びながら考えていると。



「それでは―――そこで猫と遊んでるシニョール……包帯ぐるぐ~る誰なノーネ?」

「ひでぇ!? それが生徒にかける言葉か!?」



まあ初登校なんですがね。

ぺらぺ~らぁなどと口にしながら、生徒の名簿をめくっているクロノスはそれを完全に無視。

ま、オシリスレッドの生徒など覚えないのかもしれない。



「おかしいノーネ、名前が全く見当たらないノーネ。

 ………ま、いいでしょう。シニョール。フィールド魔法の説明をお願いしますーノ」

「いいのか……? ではこの負傷、

 もとい不肖仮面デュエリストBLACKアーヴェッ! ロボ光と闇ライダーが」



まあ別にいいけど。

とりあえず名前を前より長くしつつ、立ち上がる。



「フィールド魔法は、永続魔法等と同じくその名の如くフィールドに残り続けるカードです。

 フィールド魔法の特徴は、フィールドカードゾーンと呼ばれる専用のカードゾーンを持っている事。

 そして、基本的には互いのフィールドに効果を及ぼす魔法効果を持っている事です。

 最初期には草原、海、荒野、森等、デュエリストキングダムにおいて採用された、

 特定種族に対するフィールドパワーソースとなるフィールド魔法が主流でした。

 後々には特定属性のフィールドパワーソースとなる、バーニングブラッド、ガイアパワーなども作られています。

 最近では、特定のテーマに対応したフィールド魔法も次々と登場しています。

 例えば、E・HEROエレメンタルヒーロー専用の魔天楼-スカイスクレイパー-」

「よ、よろしい。そこまでいいノーネ。引っ込みなさいーノ」

「これはフレイム・ウイングマンとコンボさせる事で、攻撃力3100となります。

 そうする事によって攻撃力3000の古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムを戦闘破壊できます。

 更にフレイム・ウイングマンの効果により、3000ポイントのダメージが発生するので、とても強力です。

 他には魔天楼-スカイスクレイパー-などがとても強力な効果を持っており、

 なんとあの超強力モンスター古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムをフレイム・ウイングマンで倒せるようになります。

 あとは魔天楼-スカイスクレイパー-も有用なフィールド魔法と言えるでしょう。

 なにせあの古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムをフレイム・ウイングマンで倒せてしまうのです。

 他に挙げるとすれば、矢張り魔天楼-スカイスクレイパー-も外せないでしょう。

 あの効果は、古代の機械巨人アンティーク・ギアゴーレムを倒せる事で有名です。

 フレイム・ウイングマン等と積極的なコンボを狙うのが望ましい運用方法ですね。

 それから―――――」

「もういいノーネェ!! 黙らっしゃい!」

「はーい」



座る。あー、楽しかった。

あ、でもこれって元々十代に立ってたフラグが俺に……?







立った。

鮎川先生の体育の授業を終えてロッカー室に帰ってくると、妙にでかいキスマークで閉じられた便箋が入っている。

ぺリ、と何だか嫌な気分になりつつも開けてみる。



「ん……?」



差出人の名前が明日香じゃなくて、ユニファーになっている。

ちらっと翔の方を見る。なんとなーく浮かれているように見えなくもない。

なるほど、俺と十代二人まとめて、って事か。

よし。



くしゃっと丸めてぽいっと捨てる。行く必要はない!

俺は寝る。ただでさえ包帯男なのに、夜遊びなどやっていられるか。

ついでに言うと確実にXがうるさい。私はただの遊びだったのかうんぬんなどと。

お前は遊び以前の問題だ無機物。



「さぁって、ドローパン買って帰るか」











「へー、そんなことがあったのかー(棒)」

「大変だったんだよ。ボクは覗いてなんかいないのに、覗き犯にされちゃって…」



包帯だけなのも味気ないので、鉢金と着流しを装備してCCOモードになってみる。

着流しの上から制服のジャケットを着るという、微妙にとあるツンギレの真似をしつつ。

頭に鉢巻きをして、死者蘇生を何やら祀り上げている翔を横目に、欠伸する。

最近Xが夜遅くまでじゃれてきて困る。

俺がボケに対してツッコミを返さねば気が済まない体質だと知って、ボケまくってきやがる。



十代はまだ寝ている。今日がテストだと分かっているのだろうか。

俺もテストの前日だろうが夜更かしして、テスト当日寝てた事あるけどな。

隼人も出る気ないみたいだし、ぶっちゃけ出ないでもいいんじゃないかと……

オシリスレッドって進級に出席日数関係ないし。テストの成績は関係あるのか?



「まあサボる理由もないし、行くか……俺は先に行くぞ。早く十代起こせよ」

「んー、うん。ほらアーニーキー、起ーきーてーってばぁ!」

「んぁー、……ダイレクトアタックぁー!」



十代がベッドの上で両腕を振り上げる。

翔の額にゴッドハンドクラッシャーが直撃し、吹っ飛ばされた。

あらまぁ。



「いっつつ……! 何するんだよ、アニキ! ほら早く起きないと遅刻しちゃうよ! あーにーきー!!!」

「ふぅ……翔、お前そんなんで大丈夫なのか?」

「え?」



三段ベッドの最上段からコアラ、もとい隼人が声をかけてくる。

悪魔のささやきタイム開幕である。

わざわざ言わんでもいいのに。



「試験っていうのは競争だ。結果が優秀なら、オシリスレッドからラーイエローに行く事もできる。

 クロノス先生を倒した十代の実力は、一番ラーイエローに近いってみんな知ってる。

 だからみんなラーイエローに上がるために、十代を蹴落とそうとしてるんだ。

 ここで十代を寝かせたままにしておけば、確実に順位は一つ上がるんだな」

「何を言うのさ隼人くん! ボクは十代のアニキの弟分だぞ! そんな事できるわけないじゃないか!

 ほら起きてよアニキ! アニキってば! アニキィイイイイイイイイイイ!!!」



声は徐々にフェードアウト。

叫びながら寮の部屋を出ていく翔には、弟分としての姿を見る事はできなかったのだが。

他者より強く! 他者より先へ! 他者より上へ! 競い、憎み、妬んで、その身を喰いあう!

だから知る! 自ら育てた闇に喰われて人は滅ぶとなぁ!

とまぁあれもダークネェス…の一片なわけか。

あらやだ、こんな日常の風景にラスボスに片鱗を見てしまった。

心の闇なだけに日常に紛れ込み過ぎだ、ラスボス。



「ま、そういうもんだよな」

「エックスはいかないのか?」

「行くよ? 十代はどーせ実技で満点だから学科0でも問題ないっしょ」



だって今回あいつラーイエロー進級デュエルじゃん。

青いのに勝って結局レッドに帰ってくる話だったし。

というわけで、志々雄モードの俺はデュエルアカデミアに向かうのであった。







……むぅ、難しいなおい。

テキスト文の問題…現代文みたいに言うなよ。

「青眼の白龍」のテキストを全て書き出せ……?

なんの意味がある。おぼえてないぞ。社長じゃあるまいし。

……海馬瀬人が最も愛し、誇りとするモンスター。その攻撃は魔力を帯びているらしい。

よし、次。



英語の問題、「魔神 ダーク・バルター」の英名を書け。

なんっ、でそんな中途半端なカードを選びだしてくる……!

正規融合限定なせいで簡易融合にも使われないモンスターじゃないか。

分かるわけがない。英語って何だよ、英語って日本語か? 日本語でおk。



数学の問題は、

自分のライフポイントが3600。相手のライフポイントが5000です。

「マハー・ヴァイロ」を召喚し、「進化する人類」と「デーモンの斧」を装備して、相手の場の「青眼の白龍」に攻撃しました。

その戦闘のダメージステップ時に相手が「プライドの咆哮」を発動し、「青眼の白龍」の攻撃力を上昇させました。

この戦闘の終了時の自分のライフポイントの数値を書きなさい。

な、ん、で、進化する人類を使った…! なくても倒せるだろ……

めんどくせぇ……!



歴史の問題、か。

初代デュエルキング、武藤遊戯の生家であるゲームショップの名前を答えろ。

社会の問題になってらっしゃるよ、あのお方。

亀のゲーム屋ね、はいはい。



科学の問題。

時速160kmの速さでデュエルモンスターズのカードを木の板に対して投げました。

この時、カードは木の板に何cm刺さるか答えろ(木の板に対し垂直に投げたものとする)

知った事かそんなものはぁああああああああああああッ!!!



カオスすぎる……色んな意味で、カオスすぎる。

もう駄目だ、俺この世界でやっていく自信がないよ。

そんなこんな、カオスの坩堝を紙面にぶちまけたテスト用紙に突っ伏した。



そんな中で大遅刻の十代と翔が騒ぐのを聞きながら、もうしょうがないので寝た。







そんなわけで、学科試験終了後。

午後からは実技試験との事で、とりあえず飯を買いに購買に行こうかと。

何やら馬鹿みたいに厳重な警備で新カードが運ばれて来たらしく、他の奴らも購買に一直線である。

俺はドローパン目当てだが。

ああ、でもアニメ効果の打ち出の小槌は欲しいな。あれ禁止級だろ。



まあどちらにせよクロノスが買い占めているので関係ない。

とぼとぼと逆流してくる人の流れに逆らい、ドローパンのコーナーまで。



「お」

「あら」



ユニファーがいた。凄く久しぶり感がある。

どうやらこいつは自分で弁当を作るくせに、結構な確率でドローパンを買いに来るらしい。

弁当+ドローパンとか。



「太るぞ?」

「黙りなさい」



ぴしゃりと一声。

たった今買ったドローパンの包装をびりびり破き、一口。

微妙な顔。どうやら目当てのパンじゃなかったらしい。

ま、狙いは黄金のタマゴパンなんだろうが。

俺は正直ステーキパンとかニクニクしたのが喰いたいのだから、関係ない。



「ドロォーッ!」



PDAをピッとレジに通してドロー。

叫ぶのはお約束と言うか礼義である。

俺も同じく包装を破き、パンを開いてみる。

喰わずに開くのは礼義を欠いているのではないか、と言われれば確かにそうだが。

まあ、こっちは癖である。



「「あ」」



また黄金のタマゴパンである。

最近よくくるが、黄金のタマゴパンがまだ引かれていない時にくるといつもこうである。

っていうか俺はこれほどの運命力を持っていながら、何故十代たちに勝てないのだろう。

運命力と言うかドロー力では負けてない筈なんだけどなぁ。

デュエリストレベルの格が違い過ぎるのだろう。

ちなみに十代と同時に引くと十代が引く。黄金のタマゴパン。

やっぱ運命力でも負けてるのか。



それはそうと、睨まれている。



「……なにか言いたげだけど」

「別に……」



むっすーとしている。

可愛くない奴だな、欲しいと言えばやるのに。

別に黄金だろうが何だろうがタマゴにゃ変わりないんだし。

美味いは美味いがそんな毎日食う気はでない。

ま、いつでも食えるから譲ってやるよ(笑)という余裕の顕れでもある。



「あら、また二人? 仲がいいのね」



そしてまたこの状況で明日香である。なんだこれ。

そう言えば取り巻き二人はまだ見てないな。

青いのの取り巻きの片割れの名前は確かそのまま取巻なんだっけか。



「明日香殿、これを受け取るでござる」

「え? っていうか試験の時も思ってたけどそのミイラ姿は何?」

「二重の極みを喰らったのでござる。ヤリザ殿がいなければ即死でござった」

「はぁ……」



内容など考えないで発言しているので、意味を問われても困る。あしからず。

そう言いながら黄金のタマゴパンを押し付ける。

ユニファーの視線がぎゅうっときつくなった、ざまぁ。素直じゃないからだ。



「これって……黄金のタマゴパン!?」



あんたのテンションも大概おかしいと思うんだ、俺は。

俺の姿を窺うようにちらっと見ると、そのまま一口。

ハムスターのようでたいへん可愛らしい。



「美味しい……ありがとう、エックス?くん」



うむ、素直でよろしい。俺の名前が疑問形なのが気になるが。

どちらもツンデレ風味だが、この辺り明日香の方が素直だよな。

基本的にツンを発揮するのは十代に対してのみだからか。

その辺り俺としては明日香の方が評価高いな。あと胸の大きさとかも含めて。



などと考えながらうんうん、と肯いているとだ。

徐々に鋭くなっていく後ろからの視線。言うまでもなく貧乳ユニファーの視線だが。



「さってと、自分の分でも買うかー」

「………ふぅん」



どうやら怒っているらしい。

俺は俺の分のパンを追加でドローしつつ、再び彼女に視線を向ける。



「だから何怒ってんだよ…」

「怒ってなんかないわよ。ただ、なるほどねーって」

「なにが……」

「明日香みたいな娘が好みなの?」

「うん」



コンマ2秒での返答である。

そしてそこまできて腕のデュエルディスクがビービー鳴り始めた。うるさい黙れ。

軽く一回叩くと鳴り止むデュエルディスク。

その返答は実にユニファーを怒らせる要因になりえたらしい。ついでに馬鹿AIも。

更に悪化する機嫌。

対して、好みのタイプと言われた明日香はにっこり微笑んで、



「あら、ありがとう」



である。完全に流されてますよ、旦那。



「で、それがどうしたよ」

「そうでしょうよ。翔くんから聞いたけど、貴方は私を騙ったラブレター貰ってたらしいわね。

 翔くんと同じように、女子寮の大浴場の裏に呼び出される手紙を。

 で、こなかったわけね?」



何話してんだあの馬鹿は。つーか人の捨てた手紙を拾って読むな。

はぁはぁなるほど。

未来人で優しくしてくれたちょっと気になる男の子にそんな風に扱われて怒ってます、と。

わっかり易くて可愛い反応じゃないか。おじさんは嬉しいよ。

これも黄金のタマゴパンをプレゼントしてハートが一つ貯まってたおかげか。

つまりこれがハート1イベントってか。



「うん」

「…………」



ジト目で睨まれる。

そんな姿もタネが割れればただの駄々っ子にしか見えない。



「本物だったら行ってたよ。本当にユニファーに呼び出されたら、行かないわけがないだろう―――?」



流し目によるダイレクトアタック。

それを受けたユニファーの反応は、身震いをして一歩下がる事だった。



「気持ち悪いんだけど」

「お前ひどいなぁ」



俺も気持ち悪いと思うが。それを直で言わなくてもよくないか?

新しいドローパンはピザパンだった。

それを一口、租借して味わいつつも再びユニファーに視線を向ける。



「ま、実際お前のじゃないのは分かったし。

 お前だったら絶対にラブレターなんか書かないだろ。敵にも想い人にも、手袋投げて決闘するって奴だ」



図星なのか、ユニファーが顔を顰めた。



「なら、果たし状だったらきた、と?」

「行くわけないじゃんめんどくさい」



結局はそこに行きつくわけだが。

明日香も含めてジト目で見つめてくる二対の視線。

やれやれだぜ。



「押しかけてきたら断れないかな」

「弱いのね」

「そりゃあもう」



知ってる事だ。

何か勝手に納得してくれたユニファーが、硬化させていた態度を和らげた。

何やらデレ期がきたらしい。

パンを食いながらけらけら笑っていると、購買に十代と翔が走り込んできた。



「レアカードは!?」

「SOLD OUT~」

「えー、もうかよ!? ちぇー、見たかったなぁ」

「まあ俺はカード買いにきたんじゃないし、店員さんに訊いてみれば?」



ここで十代が進化する翼手に入れないとのちのち問題になってくるだろう。

当然今日のデュエルもだが。

レジに向かって走る二人を見届け、俺は一度身体を伸ばしてパンの包装紙をゴミ箱へ放った。



「さって、じゃあ行くか」

「最下位の割に余裕あるのね?」

「負けないさ、ずっと強い奴らから学んだ事があるからな。

 こんなとこで負けちまったら、それが無駄だったって否定する事になっちゃうから。

 まあどこぞの骸骨野郎とのデュエルで理解したってのがあれだけど」



首を傾げる二人の美少女に手を振り、カッコつけながら歩き去る。

さて、まあどっちにしろ俺のデュエルの結果など見えてる。

何故ならば――――







「くそっ、最下位の補欠合格なんかに負けられるか!」

「俺の先攻! そして、俺のスタンド能力発動!

 このデュエルの時間は消し飛び・・・・・・そして全ての人間は、この時間の中のデュエルの内容を覚えていないッ!

 ついでに言うならデュエルの内容を作者は考えていないッ!

 キングクリムゾン・ヘル・フレアァアアアアアアアアアアアッ!!!」







「ノヴァマスターでダイレクトアタックッ! 弐の秘剣、紅蓮腕ァッ!」

「ぐぁああああああっ!?」



そんなこんなで全カットである。

だって、別にこいつとのデュエル書いてもしょうがないし。

特別重要な話じゃないし。カッコつけた後にこれじゃカッコつかない?

そっちの方が俺らしいし、いいじゃない。



「く、くそっ……なんで最下位のこんなふざけた包帯野郎がこんなに強いんだ……」

「ククク……そう。俺は、ワースト1。つまりサイカイザー!

 えーマジ最下位!! 最下位が許されるのは小学生のマラソン大会までだよね! 絶対に許さない!

 つまりはそういう事だ!!」

「な、何言ってるか分からない……」



俺も意味は考えていないのでそれが正しい。



「頂点ってのは上にも、下にもあるものさ……俺こそ下の頂点サイカイザー!

 弱いからって、勝てないからって諦めるのはもう止めた。

 オシリスレッドだからって腐ってるお前なんかに負けはしない!!!」



キリッ!! 決まった……



がっくりと崩れ落ちたレッド生へと背を向け、デュエル場を後にする。

十代が空いたデュエルスペースに下りてくるのと、丁度すれ違う。

軽く手を上げると、十代も同じく手を上げる。

パンッ! と打ち合わせる掌が小気味いい音を弾けさせた。



「いいデュエルだったぜ!」

「カットしたけどな!」



十代には分からないメタボケをかまし、もう一言。



「勝って来い」

「おう!」











「あー、懐かしいなぁ。あったあったそんな事」

『で、何であの貧乳とフラグ立ててるんですか? 私とも立てましょうよう』



誰が立てるか。

結局十代はアニメ通りに万丈目に勝ったわけだが。

うん、その後語るべきは……次にやったのは、あれか。

若本編。偽千年パズルを使う若本に対し、アイテムなんぞ使ってんじゃねぇ!

と言いたいがための話にしかならないけどな。











「ここらで一杯お茶が怖い」

「いきなりそれっすか。幾らレベル1でも酷いと思う」



流石の翔である。矢張りツッコミは翔がいないとな。

まあ俺は真面目に怖い話などする気はないのだが。

そもそも怖い話など持っていない。せいぜい箱にくっついたシュウマイの話くらいだ。



そんな中、ぐだぐだと隼人のみが無駄にビビる中で進行する怖い話inレッド寮食堂。

やれ泉の中に映った欲しいカードに手を伸ばすと泉に引きずり込まれるやら。

あるいは昔はユベルというカードの精霊のヤンデレ嫁がいたっていう話やら。

なんだ、また俺か。



カードをドローする。ゴッド・ファイブ・ドラゴンを引いた。間違ってるわけじゃないぞ。

この中にあのエロペンギンやら悪徳弁護士が入ってるかと思うと破きたくなるな。

レベル12の話か。じゃあ今度は骸骨騎士の話でもしてやろうか……

などと、考えていると。



「なーにをやっているのかにゃ?」



後ろから大徳寺先生にカードを取り上げられる。

お、これは大徳寺先生が幼馴染で同級生の女学生と遊園地に行った帰りに遭遇した事件の話が聞けるのか?

後ろから襲われてジガンテ・ウンギャー!? ってか。

いやぁ、グレート雷門は強敵でしたね。



「あ、大徳寺先生。今引いたカードのレベルだけ怖い話をしてるんだ」

「折角だから大徳寺先生も怖い話してくれよ。レベル12の、とびっきりの奴!」

「ふぅむ」



俺の隣の椅子を引いて座る大徳寺先生。

抱えられたファラオがくぁと欠伸をして顔を掻いている。



「それじゃあ、この島の奥にある廃寮の事を知っているかにゃ?」

「「廃寮?」」



っていうか隼人何処行った。完全に見えないぞ。どこ隠れた。

辺りを見回すと、台所の奥にまで避難している。ビビりすぎだろ。



「その寮では、何人もの生徒が行方不明になっているそうだにゃあ」

 かつて、その寮の地下深くでは闇のゲームと呼ばれるデュエルの研究がされていたそうですにゃ」

「闇のゲーム!?」



闇のゲームの名前を聞いた途端に隼人が台所から顔を出し、反応してきた。



「そう。伝説の千年アイテムを用いたデュエルの事をそう呼ぶ、と言われているのにゃ」

「千年アイテムねぇ、でもそんなの迷信だろ?」

「ほっほっほ、真実は私も知らないのにゃ。

 私がこの学園に来た時には、あの寮は立ち入り禁止になってたのにゃ」



トラップ発動、進入禁止! No Entry!!



そこでファラオがぶみゃーと一鳴き。

その声を聞いた大徳寺先生は立ち上がり、



「そろそろ部屋に戻る時間だにゃ。では、おやすみ」



ファラオを抱えたまま、自分の部屋に戻っていくのであった。

翔はその姿を見送ると、難しい顔をして言葉をこぼす。



「やだなぁ、ホントにこの島にそんな場所があるのかなぁ」

「おっもしれぇ! 俺スッゲー興味わいてきたぁ、早速明日の晩にでも行ってみようぜ!」

「えぇ!?」

「こ、怖いけどオレも行きたい…」



隼人が無言で翔の背後につき、そこで声を出す。

と、同時に跳ね上がる翔。確かに突然真後ろで呟かれたら怖いだろう。



「よーし、決定!」

「けってーい!」

「おー……」



まぁ俺は行かないが。

行ったら確実に制裁デュエルに巻き込まれるもの。







「ふー、でも若本の声は聞きたいなぁ」

『マスター』



既に↑でやってた怪談大会の次の日の夜。

誘いにきた十代たちに断りを入れて、ベッドの上で寝ころんでいた。

ところ、いつも通りXが声をかけてくる。

またか、今度はどんなボケをかましてくるか、などと思っていたら。



『できる子“X”はマスターのために準備しておきましたとも』



何やらボディの横から伸びているロボットアームがぐいんぐいん。どこについてたんだオイ。

そのアームの先につままれているのは、紙袋であった。

顔を顰めながらそれを受け取り、中を開けて覗いてみる。

その中には何かの服が入っていた。



「こ、これは……!?」

『どうですか?』

「なるほど、そういうことか……! うむ、よくやった相棒。褒めてつかわす」

『わーい』







「ダーク・カタパルターの、特殊能力を発動する!

 このカードが守備表示でいたターンの数だけ墓地からカードを除外する事で、

 同じ数のフィールド上のトラップ魔法マジックカードを破壊する事ができる!

 俺はフェザーマンを墓地から除外し、フィールド魔法・万魔殿パンデモニウムを破壊!!」



ずっしりとした黒い機甲がその身体を四つん這いにして、背面の角を高く掲げた。

竜をイメージされた頭部にの顔面は紅のレンズになっており、その中に灯るほのかな輝き。

レンズの中で光る輝きが薄れていくと同時、背面のカタパルトホーンに雷光が集っていく。

狙うは、対峙するデュエリストの腕に嵌められたデュエルディスク。



「フォーリン・シュゥウウトォオオオオオッ!!!」



カタパルトから閃光が奔る。

放たれた光は十代の対峙する相手、闇のデュエリスト・タイタンのディスクへと直撃した。

フィールドカードゾーンが展開し、万魔殿のカードが吐き出される。

同時に周囲に広がっていた悪魔の巣窟そのものな光景が、元の廃寮のそれへと戻っていく。



ぐぬっ、と息を詰まらせたタイタンが懐に手を入れ、その中から黄金の逆三角睡を取り出す。

それはまるで彼のデュエルキングが身につけていた事で知られる、千年パズルそのもの。

三角睡に刻まれた眼の紋様から、怪光が放たれる。

それは視覚を介して脳を侵す代物。



本来であれば、ここで十代がフェザーマンを投げるという暴挙にでる。

なだが、それは余りにも過酷。

と言うか金属に刺さるなよ。理科の問題で木の板にどの程度刺さるか、と言われてたが実際どのくらい刺さるんだ。

大木が丸々両断されても驚かない。



というわけで、



「レベル5のTGテックジーナス パワー・グラディエイターに、

 レベル5のTGテックジーナス ワンダー・マジシャンをチューニング!

 リミッター開放レベル10! メイン・バスブースター・コントロール、オールクリア!

 無限の力、今ここに解き放ち次元の彼方へ突き進め!!

 GO! アクセルシンクロ!! カモン、TGテックジーナス ブレード・ガンナー!!!」



白光を引きずりながらライトグリーンの閃光が舞い降りる。

洗練され、スマートながらも力強さを感じさせるボディ。

肩部は胴体よりも巨大なほどで、その不釣り合いなように思えるデザインが、力強さを感じさせる要因なのだろう。

ウイングの飛び出たバックパックもまたボディ以上のサイズ。その巨大な身体でありながらの超スピードを実現するためのもの。

臀部から生えた二枚の尾翼で体勢を整え、右腕に構えた銃剣を振るう。

二つ、両頬から伸びるアンテナの際立つ頭部で、ツインアイが真紅の閃光を灯し、漲った。



「え?」

「なぁにぃっ!?」



ブレード・ガンナーがタイタンの目前まで迫る。

そちらに全員の視線が集中した瞬間、俺はこっそりと足許に落ちていた石ころを拾う。

銃剣を振るい上げるとその銃口に光の刃が発生した。



その瞬間、叫ぶ。

と、同時に石ころを投げた。



「シュート・ブレードッ!」



タイタンの手にした千年睡を掠めるように光の刃が通り過ぎる。

当然、ソリッドビジョンなので意味はない。が、同時に俺の投げた石ころがタイタンの手首に当たった。

狙いは完全に外れてたらしい。残念だ。

が、タイタンが怯んで放してしまったようで、ぽーんと吹っ飛んでいく千年睡。

壁に思い切りぶつかり、地面に落ちる。



その千年睡が放っていた催眠光の影響が失せ、消えていたように見えた身体が元に戻る。

自らの催眠術の要を吹き飛ばされたタイタンが、悲鳴を絞り出す。



「な、なぁ……私のぉ、千年パァズルがぁああっ……!?」

「フッ―――」



ブレード・ガンナーが俺の隣へと帰還する。

それ眼で追った十代が俺の姿を捉えた。



「誰だ!」

「―――――」



無言。同じく、しかし遅れて俺の姿を見つけた翔と隼人が、俺の姿に絶句した。



「あ、あれは……め、冥府の使者 ゴーズ……!

 まさか闇のゲームに負けた方の魂を連れていくためにぃ……!?」

「あ………」



つまりはコスプレである。

でもこれ、レッド寮名物のあれだから隼人は完全に気付くよな。

今の反応も気付いたっぽい感じだし。もしかしたら、俺だとは気付いてないかもしれないが。



まぁミスターブシドーの正体がグラハム・エーカーだと見抜く程度の洞察力は必要だろう。

この関係に気付けたとしたら、それはもうコナン並みの推理力と直観力を持っていると言えるだろう。

サングラスとかつけてるし、看破するのはまず不可能な筈。



「あ、でもあれってエッ…」

「さぁ遊城十代! 奴が騙る闇の力は消滅した! 今こそ君の力を見せてみろ!!」



気付かれてた。前田隼人、ただものではないな……



「誰だか知らないけど、おぉッ!!」

「ヌゥ、グゥッ……!?」

「思った通り、お前の言う闇のゲームはインチキだ。

 あんたの本当の正体はマジシャンかなんかで、今までの事は全部その偽パズルでオレたちで見せてた幻だ!」

「なぁにをほざく…私は本当に闇のゲームをぉ……!」

「なら当然知ってるよなぁ! あんたが持つ千年アイテム、それが幾つあるのか!」



今日の心理フェイズ。

心理フェイズを仕掛けられたタイタンは一歩後退り、ヌゥと呻いている。

そのくらいに下調べはしておくべきだと思うの。



「千年アイテムの…数だと…!?」

「答えてみろよ」



ちなみに現代における千年パズルの所有者だった遊戯がそれを知ったのはバトルシティ前の筈である。

別に持ってるから知っているという理由にはならない。

知らずに手の入れたって何もおかしくない。

それっておかしくないかな? である。

まあタイタンの持ってるあれは分割線が全くない「パズル」ではない代物なので、そんなの関係ないが。

つーかパズルは遊戯の写真か何かで簡単に見れるんだから、ちゃんと作れよ。



「そ、それはぁ…な、7……!」

「!」



十代の顔が知ってたのか! と言わんばかりに変わる。

別にここで「違うな、間違っているぞブリタニア皇帝!」とでも言えば、確実にごまかせるのに。

その表情から確信したのか、いやに自信ありげになるタイタン。



「フフフフフ……なぁーなだぁ……!」



大事な事なので2回言いました。別にそんな何回も言わんでもいい。



「当たりだ…」



そして正解を漏らす隼人。だからそんな事を言うなと…



「フフフ…どぉうだ、これで分かったかァ。私は本物の闇のゲームの使い手……」

「ク―――フフフ…」



とりあえず嗤ってみた。その嗤笑に反応して、タイタンの眼がこちらを向く。

正解を当て、気が大きなった上でのそれが、実に気に障ったのだろう。

奴は烈火の如く俺に牙を剥いた。



「なぁにぃが可笑しいッ!!」

「7の光からなる千年アイテムの先に、選ばれた聖者にのみ扱う事を許される隠された8つ目の千年アイテムがある!!

 無は無限となり、無限の光から生まれる究極の千年アイテム――――」

「究極の千年アイテム!?」

「馬鹿な…なんだな」

「アイン・ソフ・オウルの効果発動! 究極千年アイテム 千年の盾を特殊召喚!」



みんなのノリがいいの調子に乗る。

懐から出したカードを上に向かって放り投げた。

当然それはひらひらと風に流され、飛ばされる。ですよねー。

しかしそれはゆっくりと十代の許へと流され、十代の手の中へ。



「なるほど、千年アイテムには千年アイテムって事か!」



千年の盾のカードを手にした十代が、それを地面に落ちた千年睡に対して投げつけた。

カツン、と高い音を立てて突き刺さるカード。何故だ。

恐らく壁に叩き付けられた衝撃で既に内部が壊れていたのだろう、それは簡単に砕け散った。

中から出て来たのは何らかの機械。恐らく、暗示に使う発光装置だろう。



ただ俺はそんな使い方をするために出したわけじゃなかった筈だが。



「へっ、タネが割れたぜ! お前がインチキ野郎だって分かった以上、もうビビる事なんてないぜ!」

「グヌゥ…! 私の仕掛けが効かない以上、貴様とデュエルを続ける事など、無意味な事ォ!」



ばふん、とタイタンの足許に煙幕が広がる。

それを逃がすまいと追う十代。

そして二人が闘っていたデュエルフィールドの周りに設置された、蛇の石像の口が光を灯していく。

これはまずい。巻き込まれる前に退避せねば。

ブレード・ガンナーをディスクから取り外し、デッキに戻す。

そして来た道を戻る全力疾走を開始した。











「いやぁー気分はまるでシンデレラ」

『じゃあ衣装を用意した私は魔女ですね。ソウルジェムがグリ』

「黙れ」



ふむ、とりあえず思い出話はまずここまでで引き上げるか。

しょうがない。大したデュエルなぞしていないのに、長くなりすぎた感がある。

続きは次回だなぁ。











「わー今日の最強カードはなにかな、なにかなー」

『おい、デュエルしろよ』



だからその手のツッコミは書いてる人間にいれろ。

そして今回はデュエルを俺以外の他の方が担当して下さったと天よりの声がかかったので問題ない。

誰が誰とデュエルしたのかは知らないが。



「うるさい黙れ。今週はー………Sin 青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイトドラゴン…?」

『テキストが劇場版ですね。



 効果モンスター

 レベル8/闇属性/ドラゴン族/攻 3000/守 2500

 このカードは通常召喚できない。

 自分のデッキから「青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイトドラゴン」1体を墓地へ送る事でのみ、

 手札のこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 フィールド上に「Sin Worldシン ワールド」が存在しない場合、このカードを破壊する。



 やたら回りくどいテキストですね。

 「手札のこのカードを自分フィールド上に」とか間違いなく要らない一文ですね。

 OCG化されたものと違い、他のモンスターへの攻撃制限や、Sinと名のつくモンスターの展開制限がありません。

 ただし、Sin World以外のフィールドでは破壊されるようになってしまいましたが』



ただそれでも、いやむしろそれでこそな感じがする。

超大型モンスターたちが次々とフィールドに並んでいく様は、何と言うか例えようのないわくわく感に満ちている。



「SinカッコいいよSin。WCS2011では常に使ってる。

 ライディングでSinエンドもしくはSinボーにファイナルアタック使ってソニックバスター×2で1Kill。

 躱されてもエンドフェイズにはトゥルースでてくるし。………という毒電波を天から受信した。

 まぁそれはともかく、なんで劇場版のテキストなんだ」

『マスター、お気を確かに』



妙に心配そうな声なので、ついこちらも安心させるよう、優しく応えた。



「もう大丈夫だって」

『ですよね、Sinボー採用はないですよねー』

「よしキサマ、そこになおれ。俺がキサマに天誅をくだしてくれるわ」



だというのに、あろうことかこやつめはSinボーさんをディスりやがった。

Sinを使う上で当然入るだろ。常識的に考えて。

重い? エンドでいい? そんな事は知らない。レインボーさんが入ってないデッキなど、Sinとは呼ばん。



『重い上に月の書エネコンで終了なんて軽い上に守備力2800のサイバーエンドを少しは見習ってから出直して下さい。

 機械族で未来組という共通点を持ち、無理なく共存できるワイゼルアインまでいるあっちは、劇場版の再現だって難しくないのに』

「Sinボーさんはすげーんだよ! 劇場版では! 間違いなくトゥルース以外では最強だって!」

『はぁ……



 効果モンスター

 レベル10/闇属性/ドラゴン族/攻 4000/守 0

 このカードは通常召喚できない。

 自分のデッキから「究極宝玉神 レインボー・ドラゴン」1体を墓地へ送る事でのみ、

 手札のこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 自分フィールド上に存在するこのカード以外のモンスターを全て墓地へ送る。

 墓地へ送った「Sin」と名のついたカード1枚につき、このカードの攻撃力は1000ポイントアップする。

 この効果は相手ターンでも発動する事ができる。

 自分の墓地に存在する「Sin」と名のついたモンスターを全てゲームから除外する事で、

 フィールド上に存在するカードを全て持ち主のデッキに戻す。

 フィールド上に「Sin Worldシン ワールド」が存在しない場合、このカードを破壊する。



 確かに強力ですね。

 特に4000しかライフがないので、トレードインでSin嫁、Sin星屑を捨てて、

 それを除外して発動した二つ目の効果の直後にSinエンドが出てきたら一瞬でお終いです』

「そう、強すぎたんだよ。だから仕方ない。仕方ないんだ」

『Sin Worldもデッキに戻りますがね』

「テラフォで戻せ。異論は許さんSinボーさんは最強だ」

『レインボーネオスがE・HEROエレメンタルヒーローなら、

 ミラクル並行世界融合でネオスナイトとレインボーネオスとか出来たんですけどね』

「うるさい黙れ、レインボーネオスは戦士族最強のお方だぞ。そう簡単に出せちゃいけないんだ」

『ファンカスでおk』

「黙れと言った」



なんと夢のない奴。前回ファンカス使ってネオスワイズマン出した俺が言っていい事かって?

ワイズマンはいいんだよ、ユベルなんだから。

ファンカスはユベルのカードだからな。



『言い訳乙』

「してない。脳内で考えただけだ」

『きゃっ、私とマスターの思考がアクセルシンクロしました』

「黙れ気持ち悪い」

『ぶぅ』



セルフクラクションを鳴らすXをスルーし、オチもなくここで終了。

ちゃんちゃん。







後☆書☆王



ペガサスが死のうが死ぬまいが夜行の事件は起こせる。流石ダーツ様!

今回はデュエルが短いので、特に語る事ないかもしれない。

そもそもパラさんのはデュエルと言っていいのか。格が違うからしょうがない。



ジャックは絶対王者タイム発動。

今回の被害者はドラガン。爆発しおった。説明フェイズになんて入るから…

手札は原作から変えてしまったが、うん。仕方ない。

ちなみに代わりに消えたのはバーニングリボーンと反応召喚。丁度アニメオリカが両方消えた。

代わりにアニメオリカの強化蘇生を入れてみたが、OCG化縛りなら別にリビデやリバイバルギフトでもよかった。

ジャックっぽいカードの方がよかったし、ギフトデモンが相手の場に残るのがなんとなく気にかかったので。

強化蘇生はTFで使えるわけだが……アニメオリカはアニメオリカで、基本的にアニメのままで。

レモン以外にレベル8以上のシンクロモンスター入ってないのに、リボーンは何で入ってたんだ。

クリムゾンブレーダーか?

まぁドレッドルートが入ったから並び順が変わったに違いない。

でもドラガンのカードも変わっているという……神の威光が最後の進軍にね。

だって神の威光じゃスクリーンオブレッド無視できないもの。

何故だ!? そうだ、絶対王者キングだからだ!



復讐も何も完全に負けてしまった。

まあアニメのトールは永続効果も奪えるコピー能力持ちなので、ライフさえ残れば返しのターンでやり返せたわけですが。

ブリージンガ・メン使って最初のダメージを抑えていれば、復活するトールでそのまま邪神を倒せたでしょう。

別にOCG効果でもよかったが、やっぱり無限に再生し続けてくれないと盛り上がらないよねー。

折角驚異のアニメ効果があるんだから、調整されたOCG効果などいらん。

と言うか普通にThe SUNくらいの効果くれてもいいだろ。

せめて「相手によって破壊」だけでも消してくれ。なんてな! ができないじゃないか。

レーヴァテインが涙目すぎるだろ。



と言うかドラガン1戦目ってジャックがシティにいった半年後くらいの筈。

原作開始まであと1年半も余ってるじゃん。



そして初の主人公がデュエルしない回。してないわけじゃないが。影が薄い。

正直GXはサンダー辺りまで飛ばすのが早い。どうせ主人公デュエルしないし。

わざわざ十代をのけてデュエルする理由がない。まあ全シリーズの導入のための回が続く、と言う事で。



VS翔、VSカイザー、隼人の親子デュエル、制裁タッグ、三沢VS青いの、VSSAL、VSショッカー、

VS上田修造、VSキングゴブリン、VS大山、VS神楽坂、VSレイ、VS三沢、VSもけお。

この辺りは主人公全く出番がない。なんでこれが主人公なんだろう。

後半の主人公の回想的なものがいらないなら、もうサンダー編まで飛ばしてもいいような気がする。

今回みたいなメイドインへヴンと完全なキングクリムゾンどっちがいいか。

そのうち自然消滅するかも分からんね、主人公。

まあ主人公書くのは楽だからいいけどね。行間が簡単に埋まるし。メタとネタで。



ドーマ編+夜行=王様スーパーハートフルボッコフェスティバル開催のお知らせ。

うむ、それにしても折角のトリシューラは破滅の光、光の結社のあれこれまで関わってこないのか。



楽様よりのご指摘。

>>ちょいと疑問点が出たので質問します。

>>第二話でカードデザイナーに託され、結果暴走したのがブリューナク。

>>最新話でリムアート氏(多分カードデザイナー)に託されたのはトリシューラ。…あれ?

あれ? あー、俺ってば二話でそんな事書いてたんだぁ。すっかりわ(ry

すいません、修正しました。紅蓮の悪魔の仕業でございます。



ひふみ様よりのご指摘。

>>最後の進軍

>>速攻魔法なので、ライディングでは発動した時点で二千ポイントのダメージです

わお、ついにカードの種類を間違え始めた。

だがしかし、こんな短いデュエルでも間違えていてこそ俺のSS! と最近思い始め(ry

ごめんなさい、修正しました。

それにしてもレベル4のモンスター出されたらその時点で負けなのに、なんでドラガンはこんなに余裕があるのか。


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