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No.26037の一覧
[0] 【ネタ】トリップしてデュエルして(遊戯王シリーズ)[イメージ](2011/11/13 21:23)
[1] リメンバーわくわくさん編[イメージ](2014/09/29 00:35)
[2] デュエルを一本書こうと思ったらいつの間にか二本書いていた。な…なにを(ry[イメージ](2011/11/13 21:24)
[3] 太陽神「俺は太陽の破片 真っ赤に燃えるマグマ 永遠のために君のために生まれ変わる~」 生まれ変わった結果がヲーである[イメージ](2011/03/28 21:40)
[4] 主人公がデュエルしない件について[イメージ](2012/02/21 21:35)
[5] 交差する絆[イメージ](2011/04/20 13:41)
[6] ワシの波動竜騎士は百八式まであるぞ[イメージ](2011/05/04 23:22)
[7] らぶ&くらいしす! キミのことを想うとはーとがばーすと![イメージ](2014/09/30 20:53)
[8] 復活! 万丈目ライダー!![イメージ](2011/11/13 21:41)
[9] 古代の機械心[イメージ](2011/05/26 14:22)
[10] セイヴァードラゴンがシンクロチューナーになると思っていた時期が私にもありました[イメージ](2011/06/26 14:51)
[12] 主人公のキャラの迷走っぷりがアクセルシンクロ[イメージ](2011/08/10 23:55)
[13] スーパー墓地からのトラップ!? タイム[イメージ](2011/11/13 21:12)
[14] 恐れぬほど強く[イメージ](2012/02/26 01:04)
[15] 風が吹く刻[イメージ](2012/07/19 04:20)
[16] 追う者、追われる者―追い越し、その先へ―[イメージ](2014/09/28 19:47)
[17] この回を書き始めたのは一体いつだったか・・・[イメージ](2014/09/28 19:49)
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[26037] デュエルを一本書こうと思ったらいつの間にか二本書いていた。な…なにを(ry
Name: イメージ◆294db6ee ID:67cf16fe 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/13 21:24










完敗である。

負けたのだ。

鬱だ死のう。



「じゃあ死ぬ前にデッキ見せてくれ!」

「いやアニキ、そこは一応止めましょうよ。もう同じセリフ10回以上聞いてるとは言え」



俺に手を差し出す十代の手に、俺が今回使ったデッキを乗せる。

すると十代は俺のデッキを吟味し始めた。一喜一憂。懐かしい、こんな時が俺にもあった。

わくわくか…なにもかもみな懐かしい…



ちなみに今の俺はDホイールの運転席に体育座りしている。

前回驚くと突っ込み以外の仕事がなかった翔は、俺が気絶している間に十代をアニキと呼び始めた。

そうそう、そういえば翔は十代の事をアニキと呼ぶ前にファラオだなんだ神官がどうだと言っていたな。



俺はここでデュエルエネルギーを溜めて、次はDMの世界で遊戯と闘いにいかなきゃならないのだろうか。

まあ行けるなら行きたいな。遊星や十代とのデュエルも最早感激を通り越した領域にあるものだが…

それにも増して、デュエリストならば、武藤遊戯とデュエルできる機会があれば絶対にやりたいだろう。

首領パッチやところ天の助だってそういうに違いない。



「一回負けたからってそう落ち込むなよ…すっげー楽しいデュエルだったじゃんか」

「そうだよ、エックスくん。あんなに凄いデュエル、ボクは見た事も…」



翔はそう言った後黙り、うーんと悩んだと後に付けたした。



「そうそう見れるものじゃないよ。アニキも凄かったけど、エックスくんだって同じくらい凄かったじゃないか」



カイザーか。カイザーの生デュエルは俺も見てみたい。



「で、そのエックスくんてのは?」

「宇宙デュエリストXなんでしょ? エックスくん」



素で言ってんのかお前は。

あれか、タッグフォース5でアンチノミーは「コナミとDホイーラーか、何か用?」

みたいに大人の都合で名前が出ずにDホイーラーとしか呼ばれない仕様みたいなものか。

まあいいけどな。

ただGXにエックスって名前のキャラいるんだけどな。



「それよりアニキもだけど、何でエックスくんみたいに凄いデュエルが出来るのにオシリスレッドなんだろうね?

 三沢くんみたくラーイエローに入れても全然おかしくないと思うんだけど」

「俺は筆記実技両方ギリギリの補欠合格のサイカイザーだけどな」



そうらしい。大徳寺先生が言ってたのだから、間違いないのだろう。

その告白を聞いた二人は一度きょとんとして、驚愕した。主に翔が。



「えぇえええぇえええええぇ!?」

「へー」



十代はへーの一言である。デッキをこっちに向けて来たので、受け取り、バイクの中に戻しておく。

使うとき以外はちゃんと中にいれとかなきゃな。



「最下位ってボクより悪いの!?」

「最下位はそれより下がいないから最下位なんだぞ」



主人公はランキング的なものを最下位から始めるものとして相場が決まってるしな。

前作で世界最強になろうが宇宙最強になろうが、続編ではまた最下位からだ。

ま、主人公オレの特権というか?



そいつはともかくだ。

と言うか感想であれだけメタ止めろと突っ込まれていながらこの惨状である。

まあ前回と同じノリならここから三十行くらい使っていたところを、さっさと切り上げる分だけ自重したという事か。



「ははは、そっかー最下位かー! じゃあ翔はもっと強いのか! なあなあ翔、今からデュエルしないか?」

「ちょ、無理だってばー! ボクにはあんなデュエル…」

「なーに言ってんだよ、ほらほらディスク付けて……」



嫌がる翔を組み伏せて、十代がのしかかる。アッー!



「アニキ痛いってば! そんな無理矢理…!」

「いいからいいから! ほら始めようぜ!」



ふむ。セリフだけで書くと、ただのエロネタに見えなくもない。

腐女子歓喜。



「お?」



翔に無理矢理あれやこれやそれや○○を××していた十代は、突然視線をあらぬ方向へ向けた。

その視線と同じ方向に視線をやってみると、デュエルアカデミアの頭が見えた。

赤と青と黄、三色の屋根。三幻神のパーソナルカラーをイメージしたデザインなのだろう。



「どうした、デュエルしないのか?」

「あっちからデュエルの気配がする!」

「感動的だなといいたいが、そうでもなかった」



むしろ懐疑的だ。だが嫌いじゃないわ!

適当に思考していると、十代は翔の上からどいて、デュエルアカデミアの方へ走り出した。



「おーい、翔! エックス! 行ってみようぜ! もしかしたらスゲーデュエルが見れるかも!」

「あーもう、待ってってばぁー!」



十代に抵抗していたせいで無駄に体力を消費している翔が、ひーこら言いながらそれを追う。

そして俺はDホイールを動かす。当然の如く二人を追い抜いて行く。

ははは、のろまどもめ。

貴様らはOPでディケイダーとビートチェイサーを走って追いかけるどこぞの怪盗の気持ちを味わうがいい。



「あー、ずりぃぞ! おい待てこらぁあああ!」

「ははは、待てと言って素直に待つのはギャンドラーくらいなものだぞー」



ちなみに、デュエルアカデミアの通学はバイクOKなのだろうか?

普通に考えて通学距離的にアウトだよな。

そんな事を考えながら、俺は二人を置き去りに先へと進んだのであった。











ついた先、折角なのでまずは購買部を探す。

今頃気付いたが、俺ってば二日近く何も口に入れてないんだもの。

一応財布はあるんだが、そもそも俺の金が使えるのかどうか…

紙幣に描かれた偉人が遊戯や海馬やペガサスになっていてもおかしくない世界だから少し怖いわ。



購買部は2、3分歩き回っていたら、ほどなく見つかった。

入学式が終了し、今はどうやら昼食の時間帯のようだ。

在校生の中には、購買で買ったもので済ませるのもいるようで、

袋を持って歩いてくる人の流れに逆らうように進むだけで、簡単に見つかったのだ。



が、商品の購入は全てデュエルアカデミア生徒に配布されるPDAに入った電子マネー(デュエルポイント?)

で行っている様子で、少なくとも俺に手出しできるような状況ではなかった。

ぐあぁ、大徳寺から貰った、と言うか大徳寺が置いて行った荷物の中には、そんなものはなかった。

うぅ、ひもじいよう。

こうなったらダークダイブボンバー1キル組んで、ちょっくら誰かを襲って奪



「あら、あなた…」

「おやイケメンさん」



はぁ? とイケメンヒロイン(仮)が首を傾げた。

あらかわいい。そんな反応もできる天然産もとい天然さんなんだな。

まるで2話までとそれ以降では明らかに声の出し方が違う、明日香を見比べてしまった時みたいな衝撃だ。

2話の声は明らかに可愛すぎる。



「何やってるの、あなた」

「メタってもとい飢えてる」



必死にお腹がすいたアピールをする。腹を得よう手で押さえ、ぐぅぎゅるるぅと口に出してみた。

変な顔をされた。何やってるのこのバカ、と言いたげだ。

同情すらされないんじゃ金をくれともいいがたい。



「いやね。PDAもらってないんだ。あとディスクも」

「ああ、そういうこと。で、ずっと寝てたせいで空きっ腹って事ね」



理解が早くて助かるね。そんなわけでとりあえず、アイフルのチワワの如き視線を送ってみる。



「…その眼、殴りたくなってくるからやめてくれない?」



こうかは ばつぐんだ!(ただし逆の意味で)

流石に殴られる趣味はないので、即座にやめる。でも物乞いの視線はやめない。

俺が拳銃を持っていれば、コッペパンを要求しかねないほどに追い詰められているのは事実だ。



イケメンヒロインは自身のイケメンぶりを理解してか理解せずか、溜め息一つでPDAを取り出した。

そしてすぐ近場のドローパンのワゴンに近づき、フリーのレジにそれを通すと、適当に一つ引っ掴んで俺に投げる。

危うく俺はそれをキャッチすると、涙目でイケメンを見る。

なんて豪傑。私、この方になら一晩好きにされてもいいわ…



俺が女なら惚れてたかもしれない。



「私の方が質問、多かったからね。その分のお釣りよ」

「最早一挙手一投足全てにイケメンオーラがにじむな…」



お釣りよ、と言ってぷいと顔を背けるのだ。属性はやはりツンデレである。

溢れ出るカリスマ。そしてイケメン。嫌いじゃないわ。



まあ貰ったものは遠慮せずに頂こう。

ベリッと包装を破き、パンを取り出す。ドローパンの最大の特徴は、その中身がランダムな事だ。

食ってみれば分かる事だが、しかしそこは食う前にチェックしてしまう。



ぱかっとパンを開く。そこからなんと、黄金色が覗いた。



「おお、黄金のタマゴパン」

「!?」



黄身、むしろ金身な目玉焼きが挟まれたパン。

それはデュエルアカデミアで飼育されている、一羽の金色の鶏が生む卵を使用して作った目玉焼きを挟んだパン。

そのおいしさは筆舌にしがたく、パンドラや斎王が口にしようものなら、リアクション芸の域を超えたリアクションをするとかしないとか。

テラ子安。



しかし、まあそれがどんなものかは食ってみなければ分からないわけで。

空きっ腹もあり、それを味わうべく口に運び―――



こもうとして、止めた。



「これ返すから、も一個買ってくれ」

「え?」



イケメンヒロイン(仮)が余りにも酷い羨望の眼差しを向けるので、その手の中に帰してやる。

きょとんとしている彼女にそれを押し付けた。

それを自分の視線が理由だと気づいたか、頬をさっと朱に染め、もう一つドローパンを購入すると、俺に渡してくる。



「…ありがと」

「礼を言われる覚えはないけど、まあこちらこそどうも」



俺のイケメンレベルが1上がった。イケメンフラッシュを覚えた。

どの技を忘れますか? →ネタ発言 メタ発言 時たまシリアス 指芸Lv1



「………」



無言でBボタン。イケメンフラッシュを忘れる。

大事そうに手の中の黄金のタマゴパンを見つめる少女に、俺は幾分か満足しつつ、パンの包装を破る。

そして食む食む。



ドローパン は めざしパン だった!

呪い装備を付けた時のBGMが脳内再生される。いや別にまずかぁないけどさ。

あんまおいしいと言い切れるものでも…

落差が酷いな。イケメンヒロインは一回目のドローでLUCK値全消費したらしい。

ていうかLUCK値は消費するもんでもなくないか。

まあいいか。



うむ、見てて面白くて可愛いし。

腹満たされたし。微妙に足りないが、その辺りはしょうがない。



「あら、ユニ?」

「ん?」



どっかで聞いた声がする。主にテレビの向こうから。

声のした方向に首を振ると、そこには、



「明日香…」

「どうしたの、こんなところで?」



天上院明日香がいた。

ブロンドの髪を腰近くまで流し、イケメンヒロインと同じ女子用のブルー制服を着た少女。

それにしてもこの女子用の制服はいつ見てもけしからんな。フトモモが実にエロい。もっとやれ。

ついでに、イケメンヒロイン(笑)には足りない、胸元の膨らみも凄い事になっている。

なんてこった、いけないと分かっていながらもこれはつい目が行ってしまう。



とはいえ流石にそれはセクハラのデッドラインを超えかねないので、不自然にでも目を逸らす。

それにしてもこっちのイケメンヒロインはユニって言うのか。



どうせ書いてる人間がオリキャラの名前? しかも外国人?

そんなのが決められるセンスが俺にあるわきゃねぇだろ! と開き直って、

遊戯王→結束の力→ユニオン→ユニとか付けたに違いない。

馬鹿すぎる。



「いえ、ちょっと。今朝は料理をしている暇がなくてね…」

「へぇ、珍しいわね」



そう言いながら明日香は俺に軽く視線をくれた。

このオシリスレッド風情が! と思われているわけではないだろうが。

オシリスさん舐めるなよ、一人だけOCG化してないからって馬鹿にすんなし。



「あなたは?」

「俺は…」



持ってきていたヘルメットを被る。当然、貴様らに名乗る名前はない現象が発生する。

明日香とユニは目を丸くして、それを見ている。



「俺は、太陽の子! 仮面デュエリストBLACK! アァゥエ゛ッ!!」

「「はぁ?」」



サラウンドで正気を問われる俺。おのれゴルゴム、いやクライシスか。

流石にまあこれはない。と、俺も思う。ので、ヘルメットを外そうとして、



「あぁうえ゛…? あぁヴえ…ア、ベ…?」

「ブラック・アベ…?」



おやおや~、エックスから二転三転、また新しい名前が…

RXには聞こえないよね。だがそれがいい。

今の俺は宇宙仮面デュエリストBLACK・安部Xとなったのだった。

アーヴェエックスと言うとアールエックスに聞こえなくもない。

そしてエイベックスに聞こえなくもない。

だからなんだと。



「うん、まあいいやブラック・アベエックスで。いや、もうエックスで」

「それは本名じゃないわよね…? まあいいけど」



いいのか。

それでいいのかデュエルアカデミア。それでいいのか天上院。

サイカイザー+BLACK・アベX=でXIカイザー・BLACK安部とかかっこよくない?



かっこよくないね。



「で、安部くんはユニと知り合いなの?」



安部くんにされてしまった。別に困らないからいいのだが。

あれだ、冗談でヒポポタマスを選んだらずっとそれだったとか、つい出来心で弓矢を盗んだら名前がドロボーになったとか。

まあそんな感じ。懐かしいなぁ。DASH3楽しみだなぁ。時オカ移植楽しみだなぁ。



「や、ちょっとまあ。今日知り合ったばかりですが」

「ええ、ちょっとわけありでね…」

「へぇ…」



軽く興味ありげな明日香。

だが、ユニの表情を見てか、それを突っ込むのは控えたようだ。

恐らく秘匿するものを持ち合わせている者同士、何らかのシンパシーでもあったのだろう。



「で、あんたたちの名前は」



知ってるけど、訊いておく。



「天上院明日香、中等部からの進学組よ」

「そう言えば私も名乗って無かったわね、ユニファー・リムアート」



ユニファ―って何さ。流石にユニだけじゃ駄目だと思ったか、なんか末尾に追加してるし。

まあ別にいいけどさ。



「へー、つまりエリートさんか。

 最下位独走の俺には金輪際、縁のなさそうな美少女に会えただけでこの購買にきた意味があるってもんだ」

「あら、ありがとう。でも、ちょっと順位が悪かったくらいで諦めるのは感心しないわ。

 同じオシリスレッドにも、クロノス教諭に勝っちゃう奴もいるっていうのに」



ふふ、と楽しそうに笑いながら明日香は言う。

やっぱり主人公は違うな、っていうべきか。



「ああ、俺も今日デュエルしたんだ」

「へぇ…! で、どうだったの?」

「完敗。あれは幾ら足掻いても話にならない差があった」

「ふーん…」



考え込む明日香。俺の偽らざる感想には真剣味があったのか、どうやら心に届いた様子。

まあ十代以外のオシリスレッドの意見に参考にするほどの価値がある、と思ってはいないだろうが。

俺のデュエルの腕にしたって、見た事無い上最下位なんだから最低ランクだろうし。



それにしてもユニファ―が喋らなくなった。

とりあえずそちらに目を向けてみると、両手に持ったタマゴパンを注視している。

目がきらきらしている。



「……食えば?」

「え、ああ、うん…」

「ユニの持ってるのって、もしかして…」

「金タ……黄金のタマゴパン」



金タマパンと言おうとして流石に自重する。

この状況で下ネタ行ったらユニファー泣きそうな気がする。

男同士ならこんな気兼ねしないが。流石に美少女二人がいれば自重する。

勿論地の文では自重しないが。



「ええ!? 引き当てたの!?」



明日香のテンションが変わる。

食い入るように見つめる明日香のせいで、とても食い辛そうなユニファー。

まあ別に俺には関係ないけど。



「明日香、さん? 食い辛そうだけど?」

「あ、ええ…そうよね、ごめんなさい」



名残惜しそうにもう一度タマゴパンを見ると、明日香はドローパンのワゴンに向かっていく。

今日の大当たりはもう引かれてしまっているが、まだパンは大量にある。

ので、もしよければ奢ってくれないかなぁ…なんて思いつつ、ふらふらと後ろについていく。



「あ…」

「ん?」



ユニファーの声が聞こえたので、振りかえる。



「あ、ありがとう…」



矢張り属性がツンデレである。

頬を染めて目を逸らしながら、大事そうに抱えたタマゴパン。

しかしそんなツンデレより、俺の目はどちらかと言うと明日香のお(ry

何でもない。



「二つ買わせたお詫びだって、今度PDA貰ったらちゃんと一つ返す」

「いらないわよ」



そんなにタマゴパンが食いたかったのか。

嬉しそうにタマゴパンを口に運び始めるユニファー。

まるで子供である。



見ているのもあれなので、俺は明日香を追ってワゴンの方へ行く。

すると先程までいなかった人物、少々太めの身体の女性店員。まあトメさんである。

ドローパンのワゴンを確認しにきていたようだが、俺を見ると何か反応された。



「あら、その被りモノ…アンタ、この前流れ着いた男の子でしょ!」

「え、あ、はあ」



そう言えば変身(笑)したままだった。



「そうそう! 大徳寺先生に頼もうと思ってたんだけどねぇ、あれあれ!

 セイコちゃん、あれ。持ってきて!」

「あ、はぁーい」



カウンターの奥で、在庫の整理をしていたセイコさんが顔を出して応えた。

あれで分かるのか。と言うかセイコさんマジかわいいわ。好みです。



ぱたぱたと慌ただしく(可愛らしくと言ってもいい)セイコさんが走ってくる。

その手には、アカデミアのモノとは違う旧型デュエルディスクと、PDAがあった・

と、言う事は。



「はいっ、どうぞ!」



俺に、セイコさんの手から、PDAとデュエルディスクが渡される。

セイコさんと手が触れてしまった。何たる役得。



「それそれ! アンタ、デュエルディスク持ってなかったから取り寄せてたのよ!

 ここの特注のは今、在庫がなくてねぇ…今はそれで我慢してね」

「いえ、ありがとうございます」



やだねぇ、と手を振るトメさんとセイコさんに礼を言う。

なんか妙に都合がいい感じに流れていくな。

なんて考えていたら、暗くなっていると勘違いされたのか、トメさんに励まされた。



「ほら、そんな暗い顔していないで! これでも貰って元気だしな」

「え?」



トメさんが一枚のカードを俺に渡す。



「今朝落ちてるのを見つけてね、あたしにはよく分からないけど、きっと役に立つカードだよぉ」



ぱん、と肩を叩いて仕事に戻るトメさん。

一応セイコさんも戻る前に頑張ってください、と言ってくれたのが地味に嬉しい。

いや美人の応援とかホント嬉しいわ。



のほほんとしながらトメさんがくれたカードを見てみる。



超 融 合



「ブフゥウッ!?」



流石に噴いた。

俺が落したんだからおかしくないけど、流石にそれは俺の受け切れるボケの許容量オーバー。

せめてハネクリボーであってくれれば突っ込めたのに。



…まあ。変な奴に拾われなくてよかった。

これが悪用とか少なくともこの世界じゃ洒落にならないからな。

トリシューラとかwwwそんな雑魚に何ができるの?www

ってくらいすげーリアル効果持ってるし。



これ使って元の世界に戻れるかやってみるか…



「どうしたの、安部くん?」

「ん、ああ。ちょっとな…」

「ふぅん…あらそれ、旧型のデュエルディスク?」



俺が持っているディスクを見て、明日香は首を傾げた。

新入生は今日、アカデミアディスクを貰うのだろうから、それも当然の反応だろう。



「足りないらしくて。俺の分はまた今度ってさ」

「そうなの? うーん、そう言う事はないように学園は調整している筈だけど…」

「ま、別段困るわけじゃないし、いいさ」



ディスクを付けてみる。

適当にボタンを押してみると、ガシャン展開してぺかぺかと光り始める。

5D’sのディスクの動力はモーメントだけど、こいつは何なんだろう。電力?



「あなたがいいならいいけど…

 ねぇ、今からちょっとデュエル場までいかない? あなたの実力、見てみたいわ。

 丁度デュエルディスクもしているし」

「あ、悪い。今からちょっと用事が一件入っちゃったんだ。折角のお誘いなのに、すまないけど」

「そう、ならしょうがないわね。また今度にしましょう」



溜め息を一つ。十代の実力を測るための前座、と言ったところだったのかもしれない。

やってみたくもあるが、先にこれを確かめたいんだ。



「ホント、悪いな」



そう言って外を目指す。

そう言えばこれからデュエル場って事は、一緒に行けば青い頃のサンダーが見れたのか。

まあ青い頃のはどうでもいいから気にしない。

ただしサンダーコールは絶対に参加したい。



さて、出来るのだろうか。











アカデミアの前に止めていたバイクに飛び乗り、スロットにカードキーを投入。

起動するAIのX、めんどいから平仮名でえっくすでいいや。

そのえっくすのカードゾーンに超融合を置き、検索させる。



『起動:要求:指令を入力して下さい』

「今セットしたカードの能力で、観測できる世界が増えたりしない?」

『検索:観測、移動可能な世界の増加を確認。確認出来た移動可能かつ、移動後に搭乗者の生命を脅かす危険のない世界。

 百四十三億八千九百四十七万九千三百八十四つの世界を確認。内容を全て確認しますか?」



増えたなおい。いや、これでも少ない方なのかも。

だが流石にこれを全部チェックは出来ないし。



「……このカードが作られた世界、で逆探知とかかけられない?」

『了解:検索:―――可能。一つの世界が探知にかかりました』



解決した。

何だ、こんな簡単に解決する程度の問題だったのか。

と、なると……思い出には、もう一戦。



まあカード拾いがまだあるんだが。



「なあ、今のエネルギーで時間移動出来るか?」

『可能』

「よし、じゃあ行くぞ」

『了解:<System Advent "X" Duelist.>起動:3カウント後、発動します。3:2:1』

「GO! アクセルシンクロ!!」



ホープ・トゥ・エントラストが加速する。

流石に三度目、それもくる瞬間が分かっていれば、流石に気絶はしない…!

が、やっぱキツイ…!



「う、ぉおお……!?」

『要求:イメージしてください。あなたが辿りつきたい、デュエリストの事を』



そんな事、決まっている。俺は、……!











バキィイイイン、と歪曲した空間の壁を突き破り、新たなる時代に辿りつく。

何とか気絶はしなかったが、二度とはごめんな感覚である。



D・ホイールを降りる。

どうやら港に辿りついていたらしく、人気は感じられない。

足許に紙切れが飛ばされてきたので、それを拾ってみる。



『バトル・シティ決着! 初代デュエルキング 武藤遊戯!』

紙切れは新聞の切れ端。大きく取り上げられた、後々世界に常識とされるカードゲームの大会の事。

始まりにして至高。最強にして無敵。時代を超越して頂点に君臨する王者。



武藤遊戯。そして古代エジプトの王、アテム。



「大当たり…だな」



自然と喜悦に頬が緩み、緊張に口がひくつく。

これから無謀にも挑戦しようとしているのは、生きた伝説。未来永劫続く神話。



デッキが嘶く声が聞こえた気がする。

楽しみなのだろう。最強にぶつかれる事が。



「行こう」



再びD・ホイールにまたがる。

ドーマ編がどうなっているのかはしらないが、多分この平和そうな街並みを見る限り始まってすらいない筈。

望むところである。











「すっげー! これが神のカードかぁ!!」

「かっこいい!」

「この前のバトルシティ大会で手に入れたんだって!」

「おおー!」



お世辞にも広いとは言えない空間に歓声が高鳴る。

その原因は、もう一人のボクがバトルシティでの命がけのデュエルで勝ち取った、三枚の神のカードなのだ。

ひょほほほ! という笑い声がするのをじっとりと見つめるも、じーちゃんには効果が無い。



あのカードはもう一人のボクが勝ち抜いた証というだけでなく、

エジプトにあるという王の記憶の石板に関する、重要なカードなのだ。

それだっていうのに、じーちゃんは夜通し土下座してでも飾る事を求めてくる。

ボクは駄目だと言ったが、とうのもう一人のボクが折れてしまったのだから仕方ない。



はぁーと大きく溜め息一つ。

もう一人のボクは、じーちゃんに甘過ぎると思う。

こういうときはがんとした態度で跳ね除けなくては。



「ではいよいよ、亀のゲーム屋主催のデュエリストレベル認定大会を始めるぞい!」



じーちゃんが告げた開幕の合図と同時に、ゲーム屋に集まった子供たちが元気よく応えた。

それだけ見てると微笑ましくて、ボクも楽しめるんだけど。



「おっしゃー! ぜってー遊戯と同じレベル8になってやるぜ!」



城之内くんが昨日寝ずに考えて来た、と言っていたデッキを握りしめて決意表明。

デュエリストレベルというのは、海馬コーポレーションが定めたデュエリストの戦績と実績を8段階に評価したもの。

ボクはこのシステムが出来た時からレベル8に設定されていたのだけれど、多分それは海馬くんに勝ったのが原因なのかな。



今レベル5の城之内くんは、この大会であと3つのレベルを上げて、レベル8になろうとしている。

残念ながらレベル8の人間は参加できない大会だけど、ボクは今回城之内の応援に専念して…



「今回一番優秀だった者には、亀のゲーム屋大会特別サービスとして、ここにいる遊戯へのデュエル挑戦権が与えられるのじゃ!」

「「「「おおおおおおお!!」」」」

「ぶっ!」



突然の出来事に吹き出し、せき込む。

そんな事一言も聞いていない。またじーちゃんの悪い癖が…!



「じーちゃん! 勝手に決めないでよ!」

「ひょほっほ、聞こえなーい」



耳を塞いで知らんぷりのじーちゃん。

更に詰め寄ろうとするボクの前に、目を輝かせた小学生くらいの男の子たちが割り込んでくる。



「あの…遊戯さんとデュエルできるなんて…夢みたいです!」

「バカ、デュエルしてもらうのは俺だぞ!」

「ち、ちょっと…タンマ!」



じーちゃんが勝手に決めた事を信じて、もう一人のボクと闘えると張り切っている。

流石にこの状況でデュエルしない、とは言えず思わず店外へと飛び出した。

引き止める声が背中にかかるが、このまま為されるがままにしているわけにはいかない。



「まったくもう…じーちゃんめ! ボクを店の広告塔にするつもりだな!

 そんなのもう一人のボクも絶対に反対する筈さ!」



もう一人のボクはそんな事のために闘ってきたわけじゃない。

どうせ、もう一人のボクの事だからじーちゃんにせがまれれば折れちゃうだろうけど…

そーいうのはボクの方でシャットアウトだ。



ぶつぶつとじーちゃんへの恨み言を呟いていると、店の外からデュエル大会を観戦している子たちが目に留まる。

どうしたんだろう? 参加者なら、中に入ればいいのに。



その子たちに声をかけてみようかと、近づこうとした時。

キィイインと、いやに静かに動いているバイクのエンジン音がした。

振りかえってみると、大きな白いバイクに乗った人が、そのバイクを店の横につけている。



狭い店だから駐車場もないし、しょうがないけど…

フルフェイスのヘルメットを被ったその人は、バイクを降りるとボクの方へ歩いてきた。



「はぅあーゆー」

「え!? あ、いや…英語はちょっと」

「俺も分からないから気にするな」



え? いや、君の方から英語でいきなり…



変な人だな、と思ってよく見てみると、ヘルメット以外はまるでバイクに乗る人間とは思えない恰好だった。

まるで学校の制服のような服装で、普通に走っていたのだろうか。



「あなたもデュエリストレベル認定大会に参加しに?」

「認定大会?」



疑問そうに少し首を傾げた後、店のドアに貼られたチラシを見る。

そこに書かれたものと、店の中の様子を少し見てから、再びこちらに向き直った。



「違うんですか?」

「ああ。だけど、参加したいな。トップならあんたと闘えるんだろ?」

「え、ええ!?」



その情報、じーちゃんが今この場で解禁したものと思っていたが、実はもっと前から…?

じーちゃんの作戦に乗せられるのは嫌だけど、こうやってもう一人のボクと闘うために来ている人がいると考えると…

もう一人のボクに頭を下げて、出てきてもらった方がいいかもしれない。



「じーちゃんってば、もう…!」

「あ、あの!」



ボクの事をヘルメットの下で見つめてくる人の視線に頭を悩ませつつ、再びじーちゃんに恨み言。

そうしていると、さきほど店の中を外から覗いていた子たちが、いつのまにかボクの後ろにいた。



「え?」

「い、いますぐこの大会を中止してください!」



4人組の少年たちの中、中心にいる眼鏡をかけた子が訴える。

そのセリフは予想外で、面食らってぼうっと立ち尽くす。

ただ、続く言葉には茫然自失だったボクを一気に引き戻すインパクトがあった。



「そうしないとこの店、潰されちゃう!」

「ええー!?」



ドアごしに店内を見る。そこには、デュエルテーブルにつく城之内くんの姿。

肩を落としているのを見る限り、それは多分、負け姿。

向き合う席に座っている太った男に負けたのだろう。



「城之内くんが…!?」

「僕たち、隣町でデュエリストを目指していたんです。

 この店みたいに、みんなが集まってデュエルする場所があって…でも、そこに奴らがやってきた」



奴ら。彼らはそう言って、店の中にいる人間を見る。

城之内くんの相手をしていた太った男と、その背後に立つ角刈りのノッポと、フードで顔を隠した男。

その三人の事だろう。



少年たちの言葉を最後まで聞かず、ヘルメットの彼は店へと向かっていく。



「あ、ちょっと…!」

「奴らはデュエルが強くて、僕たちじゃまるで敵わなかった…

 でも、奴らに負けたからって大会を中止してくれって言ってるわけじゃないんです!」

「え? それはどういう…」

「僕たちからはレアカードを奪い、店からは上納金を巻き上げる…

 奴ら、『ストア・ブレーカー』はそうやって僕たちの町のカードショップを支配したんだ…

 そんな状態が続いて、僕たちの町のカードゲームプレイヤーはバラバラになってしまった!

 奴らのせいでみんなで楽しくデュエルできる場所を奪われてしまったのが悲しいんだ!!」



息を呑む。そんな奴らがいる事も、そんな奴らのせいで彼らが今、泣いている事も。

そんな事は許せなかった。



「そんなのはもう、僕たちだけでいいんだ…」



歯を食いしばる。怒りがふつふつと沸いてくるのが感じられる。

その心の怒りに、もう一人のボクが応えてくれる。



『相棒、オレに任せな。デュエリストの誇りを持たないそんな奴らには言葉はいらない』

「うん、お願い……もう一人のボク」



首から下げた千年パズルのウジャトが輝きを放ち、ボクの身体に宿る二つの心を入れ替える。

眼を瞑り、いつも通りに心に願う。



再び眼を開けた時、この身体を動かすのは相棒ではなく、オレとなっている。



「待ってな、そのストア・ブレーカーなんていうクズ共は、すぐに片付けるぜ」



4人の涙を流す少年たちに言葉をかけ、店の中に入る。

そこに広がっていたのは、オレたちには思いがけない光景だった。











ダン、とデュエルテーブルを叩く。

今座っているデュエリスト二人、太った男と城之内克也は驚いたようで、俺を注視する。



「お前がいまここで最強なんだろ。なら次は俺とだ」



太った男に対して言い放つ。そいつは軽く舌打ちして、背後のフードをうかがっている。

フードはそれには興味ないとでも言わんばかりに、顎をくいと振って勝手にしとけという仕草。



「それとも、最強なのはお前か」



太っているのから視線を外し、後ろのフードに眼を向ける。



「フン…」

「俺は是非ともデュエルキングとやりたくてね、この場の最強が欲しいんだ。

 ああ、お前が最強を賭ける代わりに、俺はこんなものでも賭ければいいのか?」



ポケットからカードを5枚取り出して、テーブルに出す。



「エクゾディアじゃねぇか…!」



俺の後ろから城之内の声が聞こえる。

よく見知ったカードであるからこそ、その価値も知っていると言う事だろう。

この時代で特別価値の高いカードと聞いて、浮かんだのはそれくらいだった。



「足りないか、ならこいつもだ」



更に3枚。



「おわっ!? 真紅眼レッドアイズがさ、3枚…!?」

「3枚で100万以上にはなるだろ」



これでどうだ、とフードを見る。

微かに口角を吊り上げたフードは太いのにやってやれ、とジェスチャーで伝えた。

太いのも太いので、100万以上になるカードの登場に下品な笑いが止まらない様子だ。



「100万か…!」

「カードが金にしか見えねぇんだな…! 人のカードを奪う奴らには」

「ど、どういう事だ…?」



話の流れについてこれないまま何故か挟まれた城之内が、疑問の声を上げる。

だがそれを丁寧に1から10まで話してられるほど、俺の頭はクールな状態ではなかった。

悪いとは思いながら、城之内の肩を引いて席から無理矢理どかす。



そこに座り、フードを指差す。



「お前がやれよ、負けたら奪ったカードを全部持ち主に返せ」

「ああ、いいだろう。だが私からじゃつまらない。まず、そいつを倒してみな」



太いのを指差す。

そんな事を言っている理由など一つしか見つからない。



「相手の手の内が見えないと勝負の席にもつけないのか。いいぜ、見ろよ」



デッキをテーブルの上で、全部開示する。

流石にそれはフードも微かな驚きを見せた。

城之内もデュエル前にデッキを全て見せる俺の態度に、はぁ!? と理解出来ないと言った声を上げる。



「ハハハハハ! そんな事をして勝てると思っているのか?

 逆上して手の内を全てさらしてくれるとはな……手間が省けた、いいだろう。私がやってやる」



太いのをどけ、フードの男が席に着く。

被っていたフードを脱ぎ、肩にかかる長い髪と充血した眼を露わにした男は、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。



「だが、私たちの持っているカードとその8枚だけでは流石にアンティの釣り合いが取れないな」

「お前……!」

「いいぜ、ならそれに3枚のゴッドカードもつけてやる」



未だなお恥知らずな発言を続ける男に対して、俺がいい加減殴りかかりかねないほどに怒りが積もった時。

後ろから声がした。

それは威風堂々、こんな雑兵どもとは比較にならないほど、誇りに満ちた声だった。



「遊戯!? おま、神のカードは…!」

「アンタ。手の内を全部さらしてたが、勝てるか?」

「強さとレアリティだけを見て自分のカードを持たずに、他人のカードに縋る奴らに負ける理由がない」

「なら、アンタに託すぜ」



俺たちのやりとりを見た上で、優男はコートをはだけ、そのコートに納められたデッキを見せつけてくる。



「お前のデッキのカラー機械メタル

 それが私にさらされた時点でお前に勝ちはない。ここまで簡単に神のカードを手に出来るとはな」

「御託はいいからとっとと座れよ、ここには後ろに居るデュエルキングに挑戦しにきたんだ。

 ゴミ拾いのためにきたわけじゃない」



ばん、とデッキをデッキゾーンに叩き付ける男。



「あ、あー!? こやつはカードショップ仲間から要注意人物としてあげられておった……!

 百のデッキを持つデュエリスト! 百野真澄じゃ!!」

「じいさん! 今更おせぇよ! ……って百ぅ!?」

「ああ、そうじゃ。その全ては対戦相手が使ってくるだろう、あらゆるデッキに対抗できるアンチデッキ…!」

「アンチデッキ…俺もそいつにやられたってわけか」



デッキをシャッフルしてデッキゾーンに置く。



「ジイサン、それは間違ってる」

「ほ?」

「こいつをデュエリストとは呼ばない。行くぞ」

「フン」


「「デュエル!」」



ディスクを使っているわけではない今は、先後攻の決定は本人たちに任される。

俺が百野の様子を窺うと、奴は先攻を取る気配がなく、後攻を望んでいる事が見て取れた。



「俺の先攻、ドロー! フィールド魔法、機皇城を発動。更にフィールド魔法ゾーンにカードをセット」



一度機皇城をフィールド魔法ゾーンに置き、直後にそれを取り除いて新たなフィールド魔法をセットする。

機皇城は当然、ルール効果によって破壊を余儀なくされて墓地へ送られた。



「何やってんだよ! 折角のフィールド魔法を…!」

「いや、恐らくあれは…」

「機皇城の効果発動。フィールド上に存在するこのカードが破壊され、墓地に送られた時、

 デッキから機皇帝と名の付いたモンスター一体を手札に加える。

 俺はデッキから機皇帝グランエル∞を選択」



デッキから手動でサーチし、手札に加えた後にシャッフル。

再びデッキゾーンにそのデッキを戻した。

最近はDホイールのオートシャッフルに頼ってばかりで、久しぶりにカードを切るデュエルだ。



「機皇兵スキエル・アインを守備表示で召喚。

 そして永続魔法、マシン・デベロッパーを発動。カードを一枚伏せてターンエンド」



機皇兵スキエル・アインの元々の攻撃力は1200。

そしてマシン・デベロッパーは永続的に機械族の攻撃力を200ポイントアップさせる。

つまり、今のスキエル・アインの攻撃力は1400となる。

まあ攻撃力がどうなろうと、守備表示では意味がないが。



「フン…私のターン、ドロー」



手札を数秒間見つめていた百野は、僅かに口角を上げる。

相手にはこちらのデッキの内容が割れている。それを思えば、じっくりと戦略を練るのも分かるが。



「私は手札のサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「サイバー、ドラゴン…!」

「サイバー・ドラゴンはレベル5だが、相手フィールドにのみモンスターが存在する場合特殊召喚できる」



フィールドに置かれたカードを見る。

この時代にもこいつがあったとは知らなかったが、ありえない話ではない。

翔の回想でGX時代の大分昔にパワーボンドなども出て…



「!?」



しかし、それは余りにも違った。

本来この時代にあり得るカードではないだろう。



黒いサイバー・ドラゴン。俗にシャドウverと呼ばれるタイプのカードイラストだ。

―――これは、もしかしたら。



「そのカード、どこで手に入れたんだ。奪ったカードじゃないだろう、拾ったのか」

「…フフ、なるほど。あいつが言ってたのは貴様の事か。

 なら都合がいい。このカードはお前を倒した後、正式に私のカードだ」

「あいつ…? まあ、いい。返してもらうカードが増えただけだ」

「出来はしないよ、バトルフェイズだ」



よりいっそう笑みを深くして、奴は宣言する。

俺にはその宣言に割り込むカードの発動があるわけではないので、そのまま流す。



「サイバー・ドラゴンでスキエル・アインを攻撃。

 マシン・デベロッパーはフィールド全体に効果を及ぼす、私のサイバー・ドラゴンの攻撃力もアップ!」



スキエル・アインの守備力は1000。サイバー・ドラゴンの攻撃力は2300。

当然、破壊されるのはスキエル・アインだ。

フィールドに置かれたカードを取り、墓地へ移動させながら、奴を睨めつける。



「履き違えんなよ。お前の、サイバー・ドラゴンじゃない」

「フ…」

「スキエル・アインの効果。戦闘破壊された時、デッキから機皇兵と名の付くモンスターを特殊召喚できる。

 俺はデッキから、機皇兵グランエル・アインを守備表示で特殊召喚。

 更にマシン・デベロッパーの効果、機械族モンスターが破壊された事により、ジャンク・カウンターを二つ乗せる」



テーブルの隅に設置されていたトレイから、カウンターを二つ取り出して乗せる。

そして、伏せたカードに手を伸ばした。



トラップ発動、デストラクト・ポーション。

 自分の場のモンスター、グランエル・アインを破壊する事で、その攻撃力分のライフポイントを回復する」



特殊召喚したモンスターをそのまま墓地へ。

ライフカウンターはないので、恐らく自力で計算しろと言う事だ。

グランエル・アインの元々の攻撃力は1600。

そこにさらに、マシン・デベロッパーの永続効果で200ポイントアップしている。



「更にこの瞬間、手札の機皇帝グランエル∞の効果発動。

 自分の場の表側表示モンスターが効果によって破壊され、墓地に送られた時、特殊召喚できる」



機皇城の効果で手札に加えたグランエルをフィールドに。

そして再びカウンターが入っているトレイに手を伸ばす。



「機械族モンスターが破壊されたこの時、更に二つジャンク・カウンターを追加する」



これでマシン・デベロッパーのジャンク・カウンターは四つ。

そして俺のフィールドには最上級モンスターに匹敵する機皇帝が呼び出された。



「機皇帝グランエルの元々の攻撃力、守備力は0だが、俺のライフポイントの半分がそれぞれの能力値に加えられる。

 俺のライフは5800。よってその半分、2900が今のグランエルの攻撃力」

「おお! 自分のモンスターを破壊してライフを回復するカードと、

 自分のモンスターが破壊された時に召喚出来るモンスターで、上手くコンボを繋げおった!」

「よっしゃあ! これであの機皇帝ってモンスターはそう簡単に倒せなくなったぜ!」



ジイサンと城之内が喝采を上げ、それにつられて背後の子供たちも喜色を浮かべた。

だが、これは相手がどう対応してくるのか見るための策。

奴の場にはサイバー・ドラゴン。奴は機械族を徹底的にヘイトしてくる筈。

ならば、ここから出てくる手は一つ。



「フ…倒す必要なんてないんだよ。

 私のデッキには、機械族を倒すどころかその力を自分のモノにしてしまえるモンスターがいるのだから」

「へ! だったらやってみやがれ!」



城之内が中指を上に立てて、百野を挑発する。

その様子を見た奴は、城之内を小馬鹿にした目で見た後に、エクストラデッキ…融合デッキか。

そちらへ手を伸ばした。



矢張りくるのか。



「ああ、今見せてやろう」

「え?」

「の、前にだ」



手を戻す。城之内に向けられていた視線は再び俺へ。



「ヘイトデッキを相手にしたデュエリストたちは、何をやっても破れない壁にいずれ絶望する。

 貴様が託した希望を、元・貴様のカードたちで絶望に染めてやろう!」



手札から2枚のカードを引き抜き、俺に見せる。



「手札のマシンナーズ・フォートレスとサイヴァー・ヴァリーを墓地へ送り、

 墓地へ送られたマシンナーズ・フォートレスの効果を発動! このカード自身を特殊召喚する」



一度セメタリーに送ったマシンナーズ・フォートレスをフィールドに召喚。

ステータスは最上級の標準値だが、それの特性は墓地からさえもコストさえ用意すれば蘇る不死性。

軽く舌打ち、対処が容易ではない。



「更にプロト・サイバー・ドラゴンを通常召喚」



更なる追加モンスター。

恐らく、これから召喚するモンスターのための下準備。

それは喰った機械族モンスターの数だけ力を得る機械獣。



「そしてぇ!」



今度こそ、奴はエクストラデッキを掴みとり、その中から一枚のカードを選び取る。

見せつけるようにさらされるカードの姿は、矢張り見紛う事なき俺のよく知るモンスター。



「フィールドのサイバー・ドラゴン、プロト・サイバー・ドラゴン、機皇帝グランエル∞を素材として……

 キメラテック・フォートレス・ドラゴンを特殊召喚!!」

「相手の場のモンスターを融合素材にするじゃと!?」

「何だそりゃ、テメェ卑怯だぞ!?」



ジイサンと城之内はこちらの言いたい事を全部代弁してくれる。

それ以上特に言う事もなく、なおかつこうなる事は見えていたので特段驚きもない。

二つ並ぶ強大な要塞は、俺のカードでありながら俺に向かい牙を剥く。

どちらも強靭な力を持っている事は何より、俺が知っている。



「…アンタは知ってたんだろ? こいつが使うモンスターの能力を」

「ああ、よく知ってる。よーく、な」

「そうか」



遊戯はそれだけ言うと、不敵な笑み。

例えどんな状況になろうと、その姿勢は崩れないだろう。



「私は最後に魔法マジックカード、タイムカプセルを発動する。

 デッキからカードを1枚選択し、裏側の状態でゲームから取り除く。

 タイムカプセルを発動してから二回目の自分のスタンバイフェイズ時、このカードは手札に加わる」



一度デッキを取り、その中から1枚のカードを選び取った奴は、裏向きでフィールド外にカードを置く。

後に並びを見たデッキをシャッフルして、元の位置へ。



「ターンエンド。フフ…貴様自身のカードたちに歯向かわれる気分はどうだ」

「完全にキてるよ。お前の面を張り倒したくてしょうがない。俺のターン」



カードをドロー。こいつは分かっていない。

得意げに俺のカードを使い、お前が俺を追い詰める度、こいつらの声がする。

一緒に闘ってきた奴らだ。簡単に分かる。



「闇の誘惑を発動。カードを2枚ドローし、手札から闇属性のモンスターをゲームから取り除く。

 機皇兵ワイゼル・アインをゲームより除外」



プレイフィールドから外れた場所に、ワイゼル・アインのカードを置く。

俺の手札から召喚可能なモンスターが消えるが、それでいい。

ああ、こいつらの声に耳を傾けさえすれば、絶対の自信をもって言える。



「マシン・デベロッパーのもう一つの効果だ。

 カウンターの乗ったこいつを墓地へ送る事で、カウンターの数以下のレベルの機械族を墓地から特殊召喚する。

 ジャンク・カウンターは四つ。俺が特殊召喚するのはレベル4のスキエル・アイン。守備表示」



フィールドにプレイされているマシン・デベロッパーに乗せたカウンターを、じゃらじゃらとトレイに返す。

そしてカウンターを取り除いたカードを墓地へ送り、墓地からスキエル・アインをフィールドに戻す。



「カードを1枚セットし、ターンエンド」

「おいおい…下級モンスター1体だけじゃあのモンスターたちは止められないぞ…!」



城之内の焦燥の声が聞こえる。

あちらからすれば、見ず知らずの俺に神のカードの運命が左右されるのだから、堪ったものではあるまい。



「私のターン。フフ…!」



引いたカードを見た奴が、低く笑う。



「いいカードを引いたかよ」

「ククク…! ああ、いいカードだ」

「本当にそうかな?」



逆に言い返すと、くつくつと嗤っていた百野はその嗤笑を止めた。

逆にくつくつと笑い返す。

ヘルメットを被っているので表情は見えないだろうが、揺れるヘルメットとくぐもった笑い声で分かるだろう。



「…ッ! このカードを見てまだそれが言えるかな?

 魔法マジックカード、システム・ダウンを発動!!

 1000ポイントのライフを支払い、相手のフィールドと墓地の機械族モンスターを全てゲームから取り除く」

「…スキエル・アイン、グランエル・アイン、グランエル∞をゲームから除外」

「やべぇ! 壁になるモンスターまで消されちまった…!」



三枚のカードをフィールドと墓地から、ワイゼル・アインに重ねるようにゲーム外へ。

俺の場はこれでガラ空き。伏せリバースはあっても、それは二体の攻撃を止められるものじゃない。

ニタァと顔を崩した百野は、高らかに宣言する。



「キメラテック・フォートレス・ドラゴンの攻撃力は融合素材の数×1000。よって3000!

 そしてマシンナーズ・フォートレスの攻撃力は2500! 合わせて5500のダメージだ!!」

「300残るな。で、もう終わりか?」

「ッ!! 幾ら強がろうが、この状況は逆転しない!」

「なら、俺のターンだ」



カードをドローする。

機械族のメタデッキを謳う以上、キメラとシステム・ダウンは分かり切っていた。

そして、俺のデッキはそんな程度の逆境で負ける筈がない、そう言っている。

奴は気にしていないのだろう。その場で凌いでしまえば、逆転などできないと思って。



だから、俺のデッキを見ていながらシステム・ダウンを使った。



伏せリバースカード発動オープン! 異次元からの帰還!」

「な!?」

「見ていた筈だぜ? 俺のデッキに1枚入っているのを。それとも、こんなに都合よく引いている筈がないとでも?」

「ぐぅ…!」

「ライフコスト。全ライフの半分を払い、効果を発動。

 除外されている自分のモンスターを可能な限り特殊召喚する。

 グランエル∞は召喚制限を持っている為召喚出来ないが、ワイゼル・アイン、スキエル・アイン、グランエル・アインを特殊召喚だ」



元々残り300のライフが150になったところで、痛くも痒くもない。

ゲームから取り除いていた三体の機皇兵たちをフィールドに並べる。

だが、幾ら並んでも二機の移動要塞には届かない。



「だが、幾ら雑魚が並んだところで…!」

「どうかな。フィールドに三体の機皇が並んだこの時、新たなる機皇が呼び覚まされる…

 俺は手札から機皇神龍アステリスクを特殊召喚!」



アステリスクを特殊召喚すると同時、奴が失笑した。



「その攻撃力0の壁にもならない雑魚で何をするつもりだ」

「機皇神龍は召喚された時、自身の攻撃力を持たない。

 だが、三体の機皇兵たちが己を供物とし、その眠りし力を呼び起こすのさ。太陽神のカードのようにな」



城之内が店の壁に掲示されたラーの翼神竜へと目をやる。

そして再びアステリスクへと目を移し…



「確かに色は似てるような…ってもそんなに似てないような…」

「城之内くん…」



遊戯が僅かに肩を落とした。



「ワイゼル・アイン、スキエル・アイン、グランエル・アインの三体を墓地へ送り、アステリスクの力とする!

 三体のモンスターの攻撃力、それぞれ1800、1200、1600の合計。4600がアステリスクの攻撃力となる!」

「ああ! そーいうことか!」

「…城之内くん」



遊戯が更に深々と肩を落として見える。



これでアステリスクの能力値は二体の要塞のそれを越えた事になる。

ギリ、と歯を食いしばった百野の顔には、驚愕と焦燥が浮かんでいる様子。

メタを張って、相手の戦略を見ずに潰してきた奴の限界か。



「アステリスクでキメラテック・フォートレス・ドラゴンを攻撃!」

「くっ…!」



キメラテック・フォートレスは戦闘破壊され、攻撃力の差分1600ポイントが奴のライフから引かれる。

ライフが1400となった奴は、フィールドに置かれたカードを墓地へ送る。

その表情は苦渋に満ちていた。



「どうしたんだ? 追い詰められてるぜ、お前」

「フン…! だがこの程度で…! 私のターン!」



ドローしたカードを見ずに、奴は焦りを見せたままの顔で俺の嘲笑う。



「タイムカプセルを発動してから二度目のスタンバイフェイズだ!

 フィールドに残っていたタイムカプセルを破壊して、除外していたカードを手札に加える!

 そのカードは、未来融合-フューチャー・フュージョン!!」



単純な機械族メタだけではなく、それで封じた上での1ターンKillのギミック。

未来融合を使い、墓地の機械族を肥やす事で墓地融合のオーバーロード・フュージョンに繋げるコンボ。

だが……



「フューチャー・フュージョンの効果!

 私はデッキから、サイバー・ドラゴンを含む14体の機械族モンスターを墓地へ送る。

 そしてこのカードの発動から二回目のスタンバイフェイズを迎えた時、キメラテック・オーバー・ドラゴンを融合召喚する!」

「じゅ、14体!? なぁじいさん…そんな融合モンスターがいるのか!?」

「い、いやぁ~…ワシには何とも」



手札にキーパーツは揃っていない。

オーバーロード・フュージョンだけではない。墓地の機械族を利用できるサイバー・エルタニンもないのだろう。

俺のカードを利用している以上、どちらも1枚しか入っていないだろうから、引き当てる確率は高くない。



だが、カードが奴に応えるのであれば、不可能なんかじゃない。

そして絶対に言える事が一つ。カードは奴の声には応えない。

他人のカードで闘っている事じゃない。

カードを奪い、デュエリストとカードの間に存在する絆を壊す奴に、カードとの絆は築けない。



「強欲な壺を発動! カードを2枚ドローし、…マシンナーズ・フォートレスを守備表示に!

 カードを1枚伏せてターンを終了する…!」

「俺のターン!」

「この瞬間、トラップ発動、サイバー・シャドー・ガードナー!」



百野が伏せていたカードを開き、モンスターゾーンに出す。

モンスターとして扱う事の出来るトラップ



「サイバー・シャドー・ガードナーは相手ターンのメインフェイズにのみ発動可能なトラップ

 このカードが戦闘の対象にされた時、このカードの攻撃力、守備力は攻撃宣言したモンスターと同等となる」

トラップモンスター…リシドが使ってたみたいな奴か…

 どっちのデッキも見た事無いカードの応酬だぜ…」

「幾ら攻撃力4600の機皇神龍アステリスクと言えど、奴に攻撃しては相討ちされてしまうと言う事か…」



ドローしたカードを見て、微かに逡巡。

こちらの手が遅いのは、まあ俺の実力が低いせい。

もっとも相手があのザマなのでは気にかける必要はないのかもしれないが。



「ターンエンド」

「私のターン。カードをドローし、ターンエンド」



次のターン、奴の場にはキメラテック・オーバー・ドラゴンが降臨する。

それを皮切りに何らかの攻撃に転じる手段があるのか、奴の口許は微かに余裕を湛えていた。



「俺のターン!」

「サイバー・シャドー・ガードナーを発動!」



再び奴の場に現れる鉄壁。

その写し鏡の壁は、如何にアステリスクとはいえ突破不能。

しかし次のターンには、キメラテック・オーバー・ドラゴンが出る。

出た瞬間、それの効果によりその写し鏡は砕け散る事となるのだから、わざわざ今、どうこうするものでもないだろう。



「永続魔法、冥界の宝札を発動。

 二体以上のモンスターを生贄に、最上級モンスターの召喚に成功した時、カードを2枚ドローする」



行うべきは、奴が自滅以外の行動を許すカードの発動をした場合の対策。

そして、更に続くターンにおける主導権の奪取。

そのために――――神を喚ぶ。



「そして、神を喚ぶ悪魔の聖域―――デビルズ・サンクチュアリを発動!

 メタルデビルトークンを一体、俺の場に特殊召喚する!」



神を喚ぶための聖域。それは、三幻神のみならず、他の神を冠する者たちをも呼び寄せる。

このデッキに唯一混ざる、機械族以外のモンスター。

それを手札から引き抜く。



「機皇神龍アステリスクと、メタルデビルトークンを生贄として捧げる事で……!

 ――――時械神メタイオンを攻撃表示で召喚!」

「また攻撃力0のモンスターか…!」

「冥界の宝札の効果、カードを2枚ドロー。

 時械神メタイオンは戦闘及びカード効果による破壊を一切受け付けない。

 そして、このカードが行った戦闘で発生するダメージを0にする」

「おお! こいつなら次のあいつのターンも耐えられるぜ!」

「じゃがそんな強力なモンスターにデメリットがないわけがない…」

「ああ。メタイオンは次の俺のターンのスタンバイフェイズに、俺のデッキに戻る。

 ターンエンドだ」



その説明を聞いた百野は憐れむような視線で俺を一瞥し、カードを引く。

そして新たに引いたカードを見てより笑みを深くし、エクストラデッキに手を伸ばした。



「僅か1ターンの延命に随分と必死なようだ。

 この私のターンでフューチャー・フュージョンの効果が発動し、キメラテック・オーバー・ドラゴンが召喚される」



フィールドに出されたキメラテック・オーバー・ドラゴンは複数体の機械族を融合させたモンスター。

その攻撃力は、融合素材とされたモンスターの数で決定する。



「キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は融合素材の数×800ポイント。

 14体の餌を食わせた事で、その攻撃力は――――!」

「14×800!? え、えーと幾つになるんだ…?」

「攻撃力11200じゃと!?」

「い、11200ぅ!?」



驚くテンポがずれている城之内の隣で、しかし遊戯は表情一つ崩さない。

後ろの子供たちも最早俺の勝利を諦めたのだろう。

遊戯さんが闘ってれば、という空気が肌で感じられる。



「キメラテック・オーバー・ドラゴンが召喚されたこの瞬間、私のフィールドのカード全てが墓地へ送られる。

 未来融合-フューチャー・フュージョンがフィールドから離れた瞬間、

 その効果で召喚したモンスターも道連れとなるが、このカードを発動させてもらおう。

 速攻魔法、禁じられた聖槍。

 このカードの効果対象となったモンスターは攻撃力を800下げる代わりに、禁じられた聖槍以外の効果を受け付けなくなる。

 よって、道連れ効果も無効だ」



それでも攻撃力は10400。

アステリスクの倍以上の攻撃力を持つモンスターには、攻撃力が多少ダウンした所で問題はないのだろう。

だとして、どんな攻撃力もメタイオンを相手取るには何の意味もない。



「で、攻撃するのか?」

「フン…そんな意味のない事はしない。

 手札から古代の機械巨竜アンティークギア・ガジェルドラゴン、を墓地へ送る。

 それにより墓地からマシンナーズ・フォートレスを守備表示で特殊召喚し、ターンエンド」

「俺のターン。スタンバイフェイズに時械神メタイオンの効果発動。

 このカードをデッキに戻す」



フィールドに君臨していた絶対者。機械の神はデッキに戻される。

デッキとメタイオンを合わせ、シャッフル。再びデッキゾーンに置いた。



「壁はなくなったようだな…で、次はどうするんだ?

 ギャラリーもそろそろ諦めているようだぞ?」

「どうするも何も、どうもしないさ」

「フ、ハハハハハハ! 万策尽きていたか!

 私の手札にはまだ貴様の攻撃に対する備えがあったんだが、どうやら無駄になったようだ」



店内から悲鳴が上がった。

正面の百野からは俺たちを嘲る哄笑。背面ではカードを奪われた子供たちの悲痛な叫び。



「なら潔くサレンダ―するんだな…これ以上手間を、」

「何を勘違いしているんだ?」

「!?」

「何も特別な事なんてしない。ただ、俺はお前を倒す。最初からそれだけは決まってる。

 フィールドゾーンにセットされていたSin Worldを発動オープン

 そして融合デッキより、サイバー・エンド・ドラゴンをゲームから除外!」

「なに!? 融合モンスターを直接除外……!」



それはあいつが使っているカードたちにも関係の深いカード。

サイバー・エンド・ドラゴン。

サイバー・ドラゴンを三体融合させる事で生みだされる、機皇神龍アステリスクと並ぶ最強格の機械竜。

それをエクストラデッキから直接除外する事で召喚条件を満たす、特別なモンスター。



「Sin サイバー・エンド・ドラゴン!!」

「……そ、そんな機械族モンスターのカードは、私の持つカードの中には……!

 っだが、たかが攻撃力4000程度のモンスターで今更何ができると……!」

「未来への祈りさ。更に魔法マジックカード、アドバンス・ドローを使用。

 レベル8以上のモンスターをコストに、カードを2枚ドローする。

 勿論、コストとなるのはSin サイバー・エンド」



召喚したばかりの最上級モンスターをそのまま墓地へと。

フィールドはガラ空き。だが、これで発動条件を満たしたカードもある。



「たった今墓地へ送られたSin サイバー・エンド・ドラゴン。

 そして機皇兵ワイゼル・アイン、機皇兵スキエル・アイン、機皇兵グランエル・アイン、機皇神龍アステリスク。

 選択した五体をデッキに戻し、シャッフル。後にカードを2枚ドローする。

 このドローで祈りが、未来へと通じる」

「ハッ! その希望の未来とやらがどんなものかは知らないが……

 私のデッキにはまだ2枚のキメラテック・フォートレス・ドラゴンがいる事を忘れたのか?

 ヘイトデッキと言うのは、相手が縋った一筋の光明を絶望に変えるデッキだと言う事を教えてやろう!」

「……何度も何度も。言った筈だぜ、それはお前のデッキじゃない。

 俺は、貪欲な壺の効果でカードを2枚ドロー」



シャッフルしたデッキの上からカードを2枚ドローする。

不安なんかある筈がない。繋がらない筈がない。

疑った事なんて、一度とすらありはしない。



「―――再び俺の前に姿を現せ、時械神メタイオン!」

「なに…!? 最上級モンスターを生贄無しで…!」

「メタイオンは自分フィールドにモンスターがいない時、生贄無しで通常召喚できる」

「…ちっ、また時間稼ぎか…!」

「時械神メタイオンでキメラテック・フォートレス・ドラゴンを攻撃」

「お、おい攻撃力0のモンスターで攻撃力10400のモンスターに攻撃したって…」



この瞬間、神はその本当の力を発揮する。



「互いに破壊されず、ダメージを受けず、バトルフェイズは終了。

 この瞬間機械仕掛けの神、時械神メタイオンの効果が始動する……

 フィールドのモンスター全てを手札へと戻し、戻した数×300のダメージを受けてもらう。

 キメラテック・オーバーは融合モンスター。よって融合デッキへ。

 そしてマシンナーズ・フォートレスは手札へと戻ってもらおうか」

「なっ…あ…!」



奴のライフはこれで800。

少しずつ追い詰められていく奴の顔に焦燥が色濃く浮かんでいる。

メタイオンが次のターンに俺のデッキへ帰るまで、奴は攻撃を仕掛ける事はできないのだ。

だが、そんな事をして保身を計るのが俺たちか?



「違うよな」



デッキから声がする。来いと。



魔法マジック発動、二枚目のアドバンスドローだ。

 自分の場に存在するレベル8以上のモンスターを生贄に、カードを2枚ドローする。

 俺は時械神メタイオンをコストにする事で、その効果を得る」

「なにぃ!? 何やってんだ、次のターンのフィールドがガラ空きじゃ…」

「城之内くん。任せよう、これは彼のデュエルだ」

「遊戯! おま、神のカードがかかって…」

「ええい、男らしくないぞ城之内! それでもワシの弟子か!」

「そういう問題じゃ…」



いい加減外野がうるさいな…



「カードを3枚伏せ、ターンエンド」

「くっ…! 私のターン!」



切羽詰まった顔でドローしたカードを見た瞬間、奴の顔が崩れた。

数秒間固まった奴は、突然堰を切ったかのように笑いだす。



「貴様の悪運も尽きたな。私がドローしたのは、サイバー・エルタニン!」



プレイされるカードはおおよそ、この状況下ではフィニッシュを宣言するに近いモンスター。



「自分のフィールド、墓地の光属性・機械族のモンスターを全て除外!

 11体のモンスターコストを生贄に、サイバー・エルタニンは特殊召喚される!!」

「またそんなモンスターかよ!?」

「サイバー・エルタニンは召喚された時、このカード以外の表側表示モンスターを全て墓地に送るが…

 今この場に存在するのはサイバー・エルタニンのみ。そちらの効果は発揮しない。

 だが、その攻撃力は召喚時に取り除いたモンスターの数×500、よって、5500ポイント!!」



キメラテック・オーバー・ドラゴンの融合素材にするため、デッキから取り除かれたモンスターたち。

それらの中で、サイバー・エルタニンの召喚条件を満たすモンスターたちがゲームから取り除かれた。



「や、やべぇ!? たった150のライフじゃ…!」

「サイバー・エルタニンでプレイヤーへダイレクトアタック!」

「ま、まずいぞい…あの伏せリバースカードが攻撃を防ぐものでなかったら…!」

「さぁ! そのカードは何だ、ただのブラフか!?」

「リミット・リバース。墓地から攻撃力1000以下のモンスターを特殊召喚する。

 時械神メタイオンを特殊召喚」



言うまでもない。こちらがメタイオンを何の考えもなく墓地へ送った筈がない。

攻撃を続行したところで、メタイオンは倒す事ができない。どころか、サイバー・エルタニンが手札に帰されるだけ。

当然、奴は攻撃宣言を撤回する。



「…ターンエンド、悪足掻きを…! 貴様に希望などないというのに…!」

「悪足掻き、か」

「ハン、そいつはどうかな?」



ここにきて、遊戯が口を出す。

自身の神のカードがかかっているというのに、彼は余裕綽々に腕を組み、俺たちのデュエルを見ている。



「最後まで悪足掻きできない奴に、勝利という結果が引き寄せられる事はない。

 カードにはオレたちデュエリストの誇りが乗せられている。

 誇りある闘いに臨めない奴に、カードは応えちゃくれないのさ」

「希望はある。絶望っていうのはな、一人じゃない奴には許されてない行為だぜ。俺のターン」



そう。俺にはまだ、一緒に闘うこのカードたちがいる。

絶望などない。希望を繋ぐカードたちがいる限り。



「メタイオンはこのターンのスタンバイフェイズ、デッキに戻る」



このターンへと希望を繋いでくれたメタイオンをデッキに戻し、シャッフル。

さあ、ラストターンだ。



トラップ発動、ゴブリンのやりくり上手。

 それにチェーンし、二枚目のゴブリンのやりくり上手を発動、そして更にそれにチェーンさせ、非常食を発動!」

「………っ」

「ゴブリンのやりくり上手を二枚、そして冥界の宝札を墓地へ送る事で、ライフを3000回復。

 そして墓地に送られたゴブリンのやりくり上手の効果。

 チェーンし、墓地に送った状態で効果を処理する。墓地のゴブリンのやりくり上手の数+1枚のカードをドロー。

 二回分の効果で、それぞれ3枚。合計6枚のカードをドローし、その後2枚のカードをデッキに戻す」



これで手札は5枚。そして失われたライフの補充も。

とはいえ、そんなものは必要ない。このターンで終わり。ライフは1ポイントあれば十分。



「例えどれだけライフを回復しようが、その程度一撃で…!」

「例え絶望の最中でも、光はある。気付くか気付かないか、掴むか掴まないかは人それぞれ……

 俺は、俺たちはそれを掴み取る。限界を越えた先にあるものを。真の勝利を…!」

「何を…ごちゃごちゃと…! 攻撃力5500のサイバー・エルタニンを倒してから言ってみせろ!

 それともまた時械神メタイオンを引き当ててでもしたか!?」

「いや。サイバー・エルタニンを倒しても、もう言う事はない。これで終わりだ。

 手札の機皇帝ワイゼル∞、機皇帝スキエル∞、機皇神龍アステリスクを墓地へ送る事で――――

 機皇神マシニクル∞を特殊召喚する」



そして最強の機皇帝が姿を現す。

三体の機皇を捧げる事でのみ、その力を発揮する絶望の魔人。

しかし、俺とともに闘うこいつは絶望を力にするわけではない。

他の機皇たちから託された希望を糧に、力を奮う。



「更に速攻魔法、リミッター解除を発動。機械族であるマシニクルの攻撃力は倍、8000となる」

「こ、攻撃力8000、だと……!?」

「お前の手札は2枚。1枚はメタイオンの効果でバウンスされたフォートレス。

 そしてもう1枚。どうせ、後生大事に温存していたサイバー・ドラゴンなんだろう?」



奴は手札のサイバー・ドラゴンを取り落とした。



「ヘイトデッキを組んで相手の戦術を、人がカードに託す夢や希望を破壊する事だけにしか眼を向けないお前らしい。

 それを使って、闘いたいわけでも、勝ちたいわけでも、楽しみたいわけでもない……

 ただ人を苦しめたい。他者から搾取したい」



背後の気配たちも悲哀から歓喜に変わる。それは、俺の勝利に誘発されて起きた現象だ。

うつむく百野。

その姿を見た城之内とジイサンが、互いに手を取って笑った。



奴の顔が上がり、俺を捉える。

敗者となった略奪者へと、俺が送りえる最後のセリフを送る。



「そんなお前に、俺が与えてやるのはたった一つ。―――これがお前の絶望だ」

「あ…うぁ…」

「終わりだ」



故にこれで終幕。

奴は放心してうなだれ返し、俺は奴の使っていたデッキを取り上げた。

同時に、カードを奪われた子供たちがこいつらに向かってくる。

デブとノッポはそうそうに逃げようとしたところを、城之内に殴り倒されている。

ジイサンは心臓に悪いデュエルじゃった、と立ちっぱなしだった身体を椅子に預け―――



そして、武藤遊戯は、



「今のデュエルで、アンタがこの大会のトップになった。闘ろうぜ」

「望むところだ」



デュエルディスクを手に、俺を外まで導く。

俺はそれに後ろからついて行くと共に、外へ出るとすぐ近くにあるバイクからディスクを取った。

取り戻したカード、今まで使っていたデッキをDホイールに収納し、新たなデッキを取り出す。



「へぇ、面白いもの持ってるんだな」

「まぁ、な」



ディスクを装着し、デッキをシャッフルしてホルダーにセットする。

既に相手は臨戦態勢。

ギャラリーは先程から続いて、城之内にジイサン。子供たちと、縄にふん縛られたストア・ブレーカー三人。



互いがカードを五枚引き、先程以上の緊張を持って始められる決闘。

それこそ俺が今、この場にいる理由。望んでいた事。



「行くぜ」

「ああ」



「「デュエル!!」」



互いの声を皮切りに始められた決闘の先攻が与えられたのは遊戯。

彼はドローを済ませると、即座に手札の内容から流れを決めたか、迷いなくカードをプレイした。



「クィーンズ・ナイトを守備表示で召喚!」



赤く輝く鎧に身を包む女剣士が現れる。

鎧の色とは違う金色の輝きは、その腰まで伸びた長い髪が光を返す輝き。

名の通り女王の威風を持つ剣士は、右手に持つスペード、クラブ、ダイヤ、ハートが意匠された盾を構えた。



絵札の三剣士。トランプに存在する絵札。

キング、クィーン、ジャックをモチーフに作られた、高速召喚能力を持つ下級モンスターたち。

クィーンがいる時にキングを呼ぶ事で、二人はジャックを呼び出す。



「カードを2枚伏せて、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」



だがそれは遥か昔の高速召喚。

俺はそれを越え、一撃を確実に叩き込む。



魔法マジックカード、コンバート・コンタクトを発動!

 手札及びデッキより1枚ずつ、ネオスペーシアンと名の付くモンスターを墓地へ送る」



手札から引き抜くのはネオスペースに住まう有翼の戦士。

ネオスペーシアン・エア・ハミングバード。

更にデッキホルダーの中からディスクが選別した、条件に見合ったカードの中から1枚を。



ネオスペーシアン・エア・ハミングバードとネオスペーシアン・グラン・モールを墓地ヘ。

 その後、デッキからカードを2枚ドローする!」



事実上、手札2枚をトレードするカード効果。

その効果は当然、そこだけに留まらない。

残されるのは交換されたが故に墓地ヘ送られた、二枚のネオスペーシアンの名を持つカード。



「そして、魔法マジックカード。コクーン・パーティを発動!

 墓地に眠るネオスペーシアン一種につき、コクーン一体をデッキから呼び出す!」



ごうごう、と。背後で渦巻く風と、隆起する大地。

風のネオスペーシアンと、地のネオスペーシアンの二体が道を織り成す。



「エア・ハミングバードとグラン・モールの二種につき、二体のコクーンをデッキから特殊召喚する!」



風の中から、あるいは地中から染み出すように泡が浮き上がってくる。

二つの道を辿り、デッキよりフィールドへと招来されるのは、繭の内に眠る生物の幼生。

シャボンのような透明な殻に包まれた子猫のような存在と、淡く光るヒトガタが現れた。



「デッキより、コクーン・パンテール、コクーン・ピニーを特殊召喚!」

「一気に二体のモンスターを並べやがった……! 上級モンスターを召喚する気だぜ!

 気をつけろ、遊戯!」



城之内の声が聞こえていないわけではないだろうが、遊戯は俺から眼を外さない。

俺がいかように攻めるか、見届けようと構えているのだろう。

ふ、と小さく口を歪めて更に1枚手札を切る。



「更に魔法マジック、コンタクトを発動!

 フィールドのコクーンを全て墓地へ送り、そのテキストに記されたネオスペーシアンを一体、特殊召喚する。

 俺が呼ぶのは、コクーン・ピニーに記されているネオスペーシアン



俺の頭上から先端にレーザー照射設備を備えたアームが下りてくる。

二つの繭のうち、アームが向けられたのはピニー。

パンテールは同時に降りて来た、キャッチャーに捕まり、そのまま上へと運ばれていった。

ぱちぱちと数瞬雷光が弾け、直後にレーザー光線がコクーンに向けて照射される。

剥けていく透明な繭の中から出現するのは、ヒトガタを描く光の輪郭。



繭の中でたゆたっていた時よりも遥かに明確に、人のカタチをとる光は立ち上がった。

空洞のような眼を奮わせて身体を揺する光の戦士。



ネオスペーシアン・グロー・モスッ!」



続けて、手札のカードを弾き上げ、指で取る。



「更に! 進化せよ、魔法マジックカード、NEXネオスペーシアンエクステント!」



グロー・モスの姿が発光の度合いを高め、閃光を放つ。

俺のも、遊戯の視界をも塗り潰す大きな光が炸裂し、その中に在るヒトガタの姿を造り変えていく。



ネオスペーシアンを墓地へ送り、

 同名扱いのネオスペーシアンを融合デッキより、特殊召喚する――――現れろ、ティンクル・モス!」



すらりと伸びた光の手足。

起伏の乏しい体型から、女性的な丸みを帯びた姿へと変貌していく光の身体。

空洞の瞳を僅かに眇め、変化した光の戦士は降臨した。



「そして、手札より魔法マジックカード、スペーシア・ギフトを発動。

 自分フィールドのネオスペーシアン一種類につき、カードを1枚ドローする。

 ティンクル・モスはルール上、グロー・モスとしても扱われる。よって二種類、デッキより2枚をドロー」



デッキから2枚のカードを引き抜く。

ドローしたカードに眼を送り、続く戦術を練り上げていく。

選ぶべきは一つ。故に選ぶカードは一択。



「そして、ジャンク・シンクロンを召喚!」



橙色の装甲の戦士。四肢を繋ぐフレームは金属骨格で、背中にはエンジンを背負っている。

ヘルメットの下に覗く二つの目には感情が見え、そこには戦士特有の意思が滲む。



「ジャンク・シンクロンの効果! 召喚時、墓地からレベル2以下のモンスターを特殊召喚する!

 俺はレベル2のコクーン・パンテールを特殊召喚!」



ジャンク・シンクロンが指揮者の如く手を奮う。

すると、ジャンク・シンクロンの手元に冥界と現世を繋ぐワームホールが開く。



そこから浮き出てくるのは泡のような殻に包まれた獣の子。

こことは別の宇宙に住まう戦士、ネオスペーシアンとなる生命のタマゴが浮遊する。

タマゴの中で黒毛の猫が一つ鳴く。



「これで一気に三体ものモンスターを並べおったか……」

「だがどいつもクィーンズ・ナイトを倒せる攻撃力は持ってないぜ、次のターンまで待たなきゃ上級モンスターも出せねぇ」

「レベル2のコクーン・パンテールに、レベル3のチューナー、ジャンク・シンクロンをチューニング!!」

「「え?」」



城之内とジイサンの疑問符が見えた。

当然、この世界にはまだないものなのだろう。GX時代に出来ていたからとはいえ、それがこの世界でもあるとは限らない。

だが、出来れば問題ない。



ジャンク・シンクロンが身体の下に付いたスタータを引き、エンジンを揺り起こす。

ドドド、と唸りを上げるエンジンを背負ったジャンク・シンクロンは宙に跳び上がる。

それに続き高く舞い上がるパンテール。



やがて臨界を越えたエンジンの唸りは一気に弾け、ジャンク・シンクロンの姿を三つの光の星に変えた。

光の星は後から続くパンテールの周りを回り、円を描く。

星の軌道によって作られた光のリングは、パンテールの身体を呑み込む光の柱を立てる。



「シンクロ召喚!!」

「シンクロ、召喚…」



初めて遊戯の顔が驚愕に染まる。



光の柱を切り裂き、中から現れた戦士のカメラアイが一際強く、赤く発光させた。

青い装甲の機械戦士は、首に巻かれたマフラーを風になびかせながら光の渦を左の拳で打ち抜く。

天空高く降臨した戦士は、背部のブースターの炎を抑え、俺の許まで下りてくる。



「ジャンク・ウォリアーの攻撃力は2300!

 クィーンズ・ナイトでは止められない。ジャンク・ウォリアー!!」



ジャンク・ウォリアーがブースターを噴かせ、翼で風を切りながらクィーンズ・ナイトを目掛ける。

飛び上がる事はせず、クイーンズ・ナイトを真正面から打ち倒すために直進のブースト。

クィーンの守備力は1600。



だがそうそう、通してくれる筈もない。



トラップ発動、重力解除!」



炎を吐くブースターの火力で重力に逆らっていたジャンク・ウォリアーが、突然の重力喪失を受けてバランスを崩す。

上に上に向かおうとする身体を抑えようとしての推力を用いての姿勢制御はしかし。

トップスピード中に起きた突然過ぎる現象への対応の要求だったためか、巧く御しきる事が出来ずに失敗。

上昇を抑えるために、ジャンク・ウォリアーは地面に激突しての停止となった。



「フィールド上の表側表示モンスター全ての表示形式を変更する。

 攻撃表示だったお前のジャンク・ウォリアーとティンクル・モスは守備表示に。

 クィーンズ・ナイトは攻撃表示に変更されたぜ」

「おっし! これで次のターン、守備表示のあいつのモンスターをクィーンズ・ナイトが破壊できるぜ!」

「…なら、装備魔法を発動、プリベント・スター!」



地面に突っ伏したジャンク・ウォリアーの身体の周りに、シンクロ召喚の際のものとは違う星が取り巻く。

その星は二重に巻かれており、ゆらゆらと揺らめいていた。



「プリベント・スターは自分の場の表側表示モンスターの表示形式が、攻撃表示から守備表示に変更されたターン。

 表示形式が変更されたモンスターを対象に、発動する事のできる装備魔法。

 プリベント・スターの効果の番いとなる対象を、クィーンズ・ナイトに指定!」



二重の星の片割れがジャンク・ウォリアーを外れ、クィーンズ・ナイトの元へと訪れる。

その星に取り巻かれたクイーンは何やら不思議そうにした直後、突然手にした剣と盾を落としてしまった。

力が抜けたかのように跪き、苦悶を浮かべる。



「な、なんだぁ!? 装備したのはジャンク・ウォリアーなのに、クィーンズ・ナイトが…」

「…プリベント・スターがモンスターに装備された時、相手の場のモンスターを一体指定する。

 指定されたモンスターは表示形式の変更と攻撃ができず、

 また、プリベント・スターを装備したモンスターが破壊された時、ゲームから取り除かれる事になる」

「つまり、次のターン。

 遊戯が守備表示のジャンク・ウォリアーを破壊してしまえば、同時にクィーンズ・ナイトも除去されてしまうと言う事か」



例え次のターン、絵札の三剣士を揃えたところで、ジャンク・ウォリアーを破壊してしまえば一枚は消える。

そうなればリリース要員としての役目を果たせず、次の返しのターンで破壊できる。



「だが、その程度の守りじゃオレは止まらないぜ?」

「!?」

トラップカード、砂塵の大竜巻を発動!

 相手の魔法マジックトラップゾーンのカードを1枚破壊する。破壊するのは勿論―――」



ジャンク・ウォリアーを竜巻が襲う。

地面に突っ伏していた身体が巻き込まれ、纏われていた星が消し飛んだ。

同時に、クィーンを捕らえていた星も消失。

正気を取り戻した騎士は足許に放られた武具を急いで取り直すと、盾の方を構える。



「くっ…」

「砂塵の大竜巻の効果で手札のカードを1枚、セットさせてもらうぜ」

「俺はカードを2枚セットし、ターンエンド」

「オレのターン、ドロー!」



引いたカードを手札に加え、残る1枚を二本の指で挟み、指の動きだけで裏返して俺に見せる。

そのモンスターこそ、フィールドに新たな騎士を導くキーカード。



「キングス・ナイトを召喚」



黄金の騎士が召喚される。

左手に構えるは中央に星が装飾された円形の盾。右手に構えるは無骨な長剣。

王冠をイメージした拵えの兜を被り、肩当てから広がるマントを翻す身。

年月の蓄積を思わせる顎に蓄えられた白髭は、威厳の印。



クィーンと並ぶキング。それは、今この場に新たな騎士の招来を告げる。



「キングス・ナイトの効果を発動!

 クィーンが場に居る時にキングが召喚された場合、デッキから新たなるナイトを召喚出来る!」



デッキをホルダーから取り外した遊戯は器用にそれを片手で広げ、その中から1枚を選び取った。

選択されたカードはそのままディスクにプレイされ、キング。そしてクィーンの間に降臨する。



「ジャックス・ナイト!!」



西洋の王と王妃、そして騎士がモチーフの二体とは違う性質。

浅黒い肌が目立つ顔の目元と口許に施されたフェイスペイント。

青く煌びやかな鎧を纏うのは他の二人とは違い、威厳は持たずとも威風を連れるただの騎士。



「絵札の三剣士…!」

「行くぜ―――! バトル!!」



三剣士が剣を構え、俺を目掛けて疾駆した。

その連撃を浴びせられれば如何に今無傷とは言え、致命傷に近いものとなる。



「三剣士の攻撃! クィーンズ・ナイトでジャンク・ウォリアーを攻撃!」



先陣を切るのは女王騎士。

大地に伏すジャンク・ウォリアーはその攻撃に対し、反抗する事はできない。

攻撃力1500のクィーンズ・ナイトに対し、ジャンク・ウォリアーの守備力は1300程度。

特別鋭くも、重くもない剣。

平時、それを拳で迎え撃つとすれば勝利を掴むのは、言うまでもなく鉄屑の戦士。



しかし、今この状況。

既にそれを塗り替え、潰すためにデザインされたフィールドの環境。

ちぃ、と小さく舌を打ってその攻撃を待ち受ける。

身体を軋ませながらジャンク・ウォリアーが重力の縛りを強引に跳ね除け、立ち上がろうとし―――

瞬間、地を踏み切り、加速した女王の剣尖が戦士に向け、奔る。



「クィーンズ・セイバー・クラッシュッ!」



ぐしゃりと鉄塊を拉げさせる音。

半ばまで身体を起こしていたジャンク・ウォリアーの頭部に、突き刺さる剣の刀身。

その衝撃でカメラアイのレンズが弾け割れ、青色の身体が大きく後ろに反り返る。

突き刺したままの剣を上へ向け、思い切り振り上げる事で両断される戦士の頭部が中身をぶち撒け、爆発した。

爆風と炎を寸前に構えた盾で凌ぎ、クィーンズ・ナイトは戦闘を制した。



「ジャンク・ウォリアー撃破ッ! 更に、キングス・ナイトでティンクル・モスへ追撃!」



続くのは王者の剣。

身体を丸め攻撃を待ち受ける光のヒトガタに向かい、突撃を仕掛ける。

隆々と盛り上がった筋肉の鎧の上から更に黄金の防具を鎧った王者は、その筋力に任せて大地を蹴り砕き、跳ね上がる。

振り翳される剣閃を前に、ティンクル・モスはゆっくりと両腕を前に出した。

途端、灯り燃え上がる三つの光。

赤、青、黄。信号機と同じ色で輝くシグナルは、不規則に光を揺らしている。



「――――!?」

ネオスペーシアン・ティンクル・モスの効果!

 戦闘を行う時、デッキよりカードを1枚ドローして、そのカードの種類により発動する効果を決定する!

 魔法マジックならばティンクル・モスはダイレクトアタックの能力を得る。

 トラップならば守備表示になる――――」



キングス・ナイトが、ティンクル・モスの目前まで迫り、その剣を全力の許に振り下ろす。

それは俺がデッキに手をかけて、カードを1枚引き抜いて見せるのと同時。

引き抜かれたカードにより決定する効果。その正体は、



「引いたカードは―――ターボ・シンクロンッ! モンスターカード!」



叩き付けられる。

豪快に奮い落とされた剣撃がティンクル・モスに殺到した。

突き出された腕の前に光る輝きは、黄色いランプ。

王者の剣がティンクル・モスに届く間際、その光から迸る衝撃波がキングの身体を弾き飛ばした。



「―――――!」

「モンスターカードならば、バトルフェイズを終了させる……!」



吹き荒れる風は、不動のジャックス・ナイトの追撃すらも封印する。

三騎士の侵略をもってしても、このターンで俺のフィールドは落とせなかったのだ。



「…躱されたか。カード1枚セット、ターンエンドだ」

「俺のターン!」



カードをドローし、即座に手札のカードと入れ替える。

新たに召喚するのは、新たな星となるべきチューナーモンスター。



「チューナーモンスター、ターボ・シンクロンを召喚!」



レーシングカーのそれを模したフォルムの胴体に二手二足。

ライトグリーンの車体色が光を返し、輝きを放つ。

ジャンク・シンクロンとよく似た顔に、ボディと同色のヘルメットに付けられた黒いバイザーが下りた。

肩のホイールから生えている腕が引き込み、脚部も胴体に格納される。



「更に! 伏せリバースカード発動オープン、リミット・リバースッ!

 墓地より攻撃力1000以下のモンスター、ネオスペーシアン・エア・ハミングバードを特殊召喚ッ!」



朱い身体、有翼の戦士が墓地より復活する。

身体の色とは反する白く大きな翼を広げ、飛び立つ戦士の向かう先は遊戯の許。

僅かに身構えた遊戯の構えた手札から、一輪の花が咲いた。



「これは―――!」

「エア・ハミングバードの効果発動! 相手の手札1枚につき、ライフを500ポイント回復する!

 よって、手札1枚分500ポイントのライフを回復! ハニー・サックッ!」



エア・ハミングバードが羽搏きながらその黄色い嘴を花の中に突き込み、蜜を吸う。

徐々に増えていく俺のライフポイント。

俺のライフカウンターが4500を示すと、エア・ハミングバードが俺のフィールドに帰還する。



「そして行くぞ、ターボ・シンクロンッ!」



ぶるるんとエンジンを啼かせて応えるチューナーモンスター。

その様子に僅かばかり口許を緩め、相対するデュエリストを見つめる。

そんな中にこのデュエルの外から声が入ってきた。



「チュ、チューナー…? っつーことは…」

「新たなシンクロ召喚という奴じゃな…!」

「――――そうだ! こいつこそが俺のデッキの片翼を担うモンスター!

 レベル4のティンクル・モスと、レベル3のエア・ハミングバードに、レベル1のターボ・シンクロンをチューニング!!」



ゆらゆらとたゆたっていたティンクル・モスが確りと体勢を直し、ターボ・シンクロンの背後につく。

ターボ・シンクロンが上を向き、加速に乗る。

大きく広げられた白い翼で羽搏き、それを追うのはエア・ハミングバード。

遥か上空まで、速度の限界に挑むターボ・シンクロンの姿がやがて一つ星と化す。

それに遅れる事数秒、追い付いたエア・ハミングバードは星が描く円環を潜り抜け、己の身体も星とする。



ティンクル・モスの身体は伸ばした腕の指先からゆっくりと、はらはらと解けていく。

たっぷりと数秒かけて光の粒子と化したティンクル・モスの身体の欠片が四つに塊を星を生む。

合わせれば七つの星と一つの円環。

それらを束ね、新たな力とする呼応。天空に叫ぶのは、そのモンスターの名。



「シンクロ召喚! 来い、スターダスト・ドラゴン!!」



八つの星が集束し、光の柱を立てる。

眩く一帯を照らす星はやがて消失し、その中心に残る一頭の竜の姿のみを残していく。

白銀の身体。サファイヤの如く煌びやか胸板。線の細い、星の残光に照らされた竜。



黄色の瞳に光が宿る。



「スターダスト・ドラゴンの攻撃! クィーンズ・ナイトを撃ち抜けッ!!」

「!」



遥か上空。その場で、スターダストは首を大きく傾け、一度翼を羽搏かせた。

口腔に蓄えられた白い閃光は圧縮された音波の衝撃砲。

対象として指定された女王騎士は上から来る一撃に備え、剣を構え――――

瞬間、音が消えた。



音波の奔流は世界の音という音全てを塗り潰し、昂ぶる空気振動は轟音を越え、無音へと達する。

衝撃と爆音はコンマ三秒後に一気に襲い来る。



衝撃波は僅かな照準のブレさえなく正確にクィーンを目掛け、それを察知していた剣閃に直撃していた。

一瞬の交錯で溶解た剣。もろとも、クィーンズ・ナイトの身体を呑み込んだ。

口惜しそうな表情を残し、鎧の後欠片も残さず吹き飛ばされる女剣士。



スターダストは2500。そしてクィーンは1500。

攻撃力の差は1000に及ぶ。その差分はダイレクトに遊戯の残りライフに響く。

これで、遊戯のライフポイントは3000。



「これがこのデッキのエース、スターダスト・ドラゴン」



上空からゆるりと舞い降りてくるスターダスト。

バサッ、とめいっぱいに広げた翼を少し折り、俺の隣で低空飛行を続ける。

その姿を見た遊戯は微かに口端を吊り上げ、微笑んだ。



そう、この程度でビビる相手じゃない。



「カードを1枚伏せ、ターンエンド」

「そいつがお前のエース……なら、こっちも呼ぶとするぜ。

 このデッキのエースをな! オレのターン!!」



カードをドローした遊戯が、笑う。



「行くぜ、キングス・ナイト、ジャックス・ナイト。二体のモンスターを生贄に捧げ―――」



二人の騎士が剣を大地に立てる。

身体を取り巻くように噴き上がる渦巻きが、二体が持つその力を昇華し、新たなしもべのための呼び水となる。

黒い魔力が氾濫し、二体の姿が呑み込まれた。

来るのは、三幻神と呼ばれるデュエルモンスターズ中最強の名を受ける三柱。

それらを従える最強のデュエリストである武藤遊戯。

そのデュエリストが従えるしもべの中で、神すらさしおき、最強と称される魔術師。



「来い、ブラック・マジシャン!!」



弾け飛ぶ。凝り固まっていた黒い魔力が霧散し、全て黒装束の魔術師の身に宿った。

名の通りに黒一色。頂点が高いためか、僅かに前に傾く尖った帽子。そして一繋ぎの黒い導衣。

右手に構えた先端に碧色の宝玉の埋め込まれた魔杖を回し、鋭い眼光をスターダストに奔らせた。



「よっしゃあ! ブラック・マジシャンさえくれば遊戯には怖いもんなしだぜ!」



城之内の声が聞こえる。俗に言う、ブラマジキタ―――(゚∀゚)――――!!

という奴だ。



「更に、装備魔法・魔術の呪文書をブラック・マジシャンに装備!

 攻撃力を700ポイントアップ!」



ブラック・マジシャンの手元にハードカバーの分厚い本が一冊現れた。

それは魔術師の手に取られると、自動的にページを送り、あるページを開示する。

古代神官文字で記されたそれは特定の魔術師にしか解読できない魔法書。



開かれたページに一通り目を通した魔術師は、小さく口を動かし、何事かを呟く。

するとその魔力は格段に跳ね上がり、数段攻撃力を上昇させる。

その攻撃力は3200。



使うか? いや、そうなれば相討ちになりかねない…



「ブラック・マジシャンでスターダスト・ドラゴンを攻撃!」



黒魔導師が身体を捻り、左腕を突き出す。

風景を暗転させる光。その衝撃を受け、空中に放り出されるスターダスト。

翼を広げ、体勢を即座に立て直す。

が、その間にブラック・マジシャンは魔杖を掲げていた。



黒・魔・導ブラック・マジック!!」



紫電を伴う魔力弾が放出される。狙いは過たずスターダスト。



「通さない! トラップ発動、荒野の大竜巻!

 フィールド上に表側表示で存在する魔法マジックもしくはトラップを1枚破壊する!

 対象は当然、魔術の呪文書!」



暴風が巻き起こる。

それは吐き出された魔力の波動と、ブラック・マジシャンの近くに浮遊している魔法書を目掛けたもの。

竜巻は呪文書を滅ぼし、同時に魔力波の威力を削ぎ取る。



「相討ち!?」

「いや、よく見るんじゃ城之内」

「へ?」



魔術書に与えられていた魔力を散らすだけではなく、竜巻はその攻撃自体を全て削ぎ落としていく。

その原因は―――



「更に発動した瞬間、荒野の大竜巻をコストとして扱い、

 永続トラップ・強制終了を発動し、その効果を使わせてもらった」

「強制終了―――なるほど。文字通り、戦闘を強制終了させるトラップか」



強制終了は、自分フィールド上の強制終了を除くカードを1枚墓地へ送る事で、バトルフェイズを終了させるトラップ

その効果の波動を受けた魔力波は完全に散らされ、互いのエースでの決着は持ち越しとなった。



「魔術の呪文書はフィールドから墓地に送られた時、プレイヤーのライフを1000回復する。

 どうやら、ここで仕切り直しらしいな」

「そうらしい」

「オレが攻撃する前に呪文書を破壊すれば、無駄な攻撃をされずに済んだんじゃないか?」



ライフカウンターが4000になるのを確認した後。

からかうように遊戯が問うてくる。

わざわざ窺い考えてみるまでもない。その眼には―――



「アンタは臆さない。確実に相討ちを選んでいた」

「フッ…いい読みだぜ。ターンエンドだ」

「俺のターン!」



完全に、上を行かれている。

5ターンも攻防すれば分かる。絶望的なまでにデュエリストとしての差がある。

運命力、勘の良さ、勇気、全てが相手の半分の数値だ。

だけど―――カードとの揺るぎない絆だけなら足許、まで行かずとも天井として見える所まで及んでいる。



魔法マジックカード、調律を発動!

 デッキからシンクロンと名のついたチューナーを手札に加え、シャッフル後にデッキトップを1枚墓地へ…」



手札に加えるべきチューナー。俺にはこのカードしか手札はない。

この状況を変え得るのは、調律の効果によって墓地へ送られるカード。



俺は闘いたい…もっと、もっとだ。目の前の壁に対して、もっと、更なる全力をぶつけてみたい。

お前はどうだ…? スターダスト。



クォオオ、という彼の嘶きが聞こえる。

そうか、お前もやりたいよな。なら、取るべき戦略は一つ。



「手札に加えるのは、チェンジ・シンクロン!」



デッキを外し、中から探したチェンジ・シンクロンを抜き、再びシャッフル。

ホルダーにデッキを設置すると、デッキトップのカードに手をかける。



「行くぞ、俺たちの全力で」

「ああ、かかってきな!」

「墓地に送られるカードは……!」



デッキトップを確認する。そのカード、それは…



「レベル・スティーラー!」



繋いだ。ここから更に、もう一つ。



「レベル・スティーラーの効果発動!

 自分フィールドのレベル5以上のモンスターのレベルを1つ下げ、墓地から特殊召喚できる!」

「墓地からの特殊召喚。そして、手札に加えたチューナーモンスター…くるか?」

「ああ、必ず叩き込んで見せる…! チェンジ・シンクロンを召喚!」



白いボディを所々オレンジで縁取られた小型の人型機械が飛行しながら現れた。

頭部にはその名の示す通りの、何かの切り替えスイッチらしきものが付いている。

小さい身体とのバランスにあう手足を振り回し、二枚の翼を揺らす新たなシンクロン。



スターダスト・ドラゴンのレベル7にして、その一つ分の星を食んだ天道虫が墓地から浮かんでくる。

キーは揃い、あとは開いた扉によりけりだ。



「そして、レベル1のレベル・スティーラーに、レベル1のチェンジ・シンクロンをチューニング!」



チェンジ・シンクロンがブラック・マジシャンを睨み、頭の上のスイッチをカチリと切り替えた。

すると、まるでブラック・マジシャンのスイッチが切り替わったかの如く、彼は膝をついた体勢となる。



「チェンジ・シンクロンがシンクロ素材となる時、相手モンスター一体の表示形式を変更する!」

「……!」

「そうか…! 攻撃力は互角じゃが、相手を守備表示にしてしまえば容易に戦闘破壊することができる…!」

「や、やべぇ、これじゃブラック・マジシャンはスターダスト・ドラゴンのいい的だぜ…!」



スイッチを切り替えたチェンジ・シンクロンは星と化す。

その星と同化し、レベル・スティーラーの身体が解けていく。



「そして、シンクロ召喚するモンスターは―――!」



光が新たなカタチを編み出す。

その姿はターボ・シンクロンをより力強くしたようなフォルム。

胴体はF1カーそのもの。身体からは太く力強い腕が二本。脚部だけではなく腰まで含めた下半身。

目元だけを露わにしているヘルメットの下からは、限界へ挑む為の意思を宿す瞳。

肩より後ろに付いているボディの後輪が高速で回転し、火花を散らす。



「シンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロン!!」

「シンクロチューナー…? シンクロモンスターで、チューナーって事か?」

「フォーミュラ・シンクロンの効果! このカードのシンクロ召喚に成功した時、カードを1枚ドローする!」



もう1枚。ここで繋がりさえすれば……行けるか…!



「ドローッ!!」

「………」



遊戯は何も言わず、ただ静観している。

まずは俺の全力を見極めようと言う事だろう。ならば、俺のすべてをさらけ出すさ。

それがデュエリストとしての最大の礼でもあるのだから。



「引いたカードは…魔法マジックカード、スター・チェンジャー!!」



レベル・スティーラーに喰われた星が、再びスターダストの胸に灯る。

他のカードの効果で変わった数値をリセットされ、本来の状態を取り戻した星龍。

それを歓喜するかのように、あるいはここから先の展開に奮い立つかのように。

風を凪ぐ。翼が広がり、周囲の空気を弾き出した。

身体から毀れ落ちる星光の残照を自ら起こす風で払い、白銀の竜は高らかに咆哮した。



「レベルを変えただけじゃあこのターン、ブラック・マジシャンを破壊する事はできても、

 遊戯のライフを削る事はできねぇ……

 それどころか、攻撃力の低いフォーミュラ・シンクロンを攻撃表示のままで遊戯のターンになりゃあ一気に逆転だぜ!」

「うむ…しかし彼もそれは分かった上でやった事じゃろう。つまり、あれは次なる攻撃の布石」

「ああ、これでレベル・スティーラーの効果が消えたスターダスト・ドラゴンのレベルは8に戻った。つまり―――」

「そう。これで――――!!」



身構える遊戯。デュエリスト特有の感という奴で、全て悟っていたのだろう。

それほどの、あらゆる戦略を見透かし攻略し乗り越える最強のデュエリストに。

挑む。

それは常に自身が為し得る最強の戦略とモンスターでなければならない。



スターダストが空を翔ける。

俺の頭上へと飛び上がったスターダストを追い、フォーミュラ・シンクロンも翔け上がった。

天空を目掛け、走り征く二体の身体が赤光に包まれ、更なる加速を得る。



「な、なんだ…!」



風が啼き、差す太陽光すらも二体のモンスターが放つ光越しに歪む。

閃光と衝撃を伴った疾翔はやがて限界点へと達すると同時に白雲を破り、吹き飛ばした。

スターダストが嘶く。

呼べ、と。叫べ、と。



「行くぞォッ!!

 レベル8、シンクロモンスター。スターダスト・ドラゴンに、レベル2、シンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニングッ!!」



瞬間に消失。眩い赤るい光を放っていたスターダストとフォーミュラ・シンクロンの姿が消えさる。

くぉおん、と突然の消失に暴れる事を止めさせられた風の声が虚しく響き、

直後に来る衝撃を察知した遊戯が、微かな戦慄を混ぜた言葉をこぼした。



「来る……!」



こぉ、と一つ息を吸う。

光と共に生来される次なるエースの登場を迎えるに使われるべき、キーワード。



「アクセルシンクロォオオオオオオオッ!!!」



背後に異次元より通じる光の門が開く。

微かに翠色の混じった光を打ち破り、フィールドに現れる流星。



細身の身体はそのイメージを残したままより洗練され、より強靭に。

頭部はまるでマスクを被ったように口を失い、胴体と繋ぐ首も鎧を纏っているかの如く太く。

筋肉が増大した胴、そして四肢の中でもより力強さ増した太腿には左右それぞれにサファイヤに似た宝玉が埋め込まれているのが見て取れる。

最大の力、飛翔するための翼はまるで、ドラゴンが羽搏くためのものではない。

それは風を―――光さえ切り裂く刃。



「来ぉいッ!! シューティング・スター・ドラゴンッ!!!」



弾ける風が衝撃となり、世界を震撼させる。

光さえ置き去りにして翔ける翼の登場に畏怖するかの如く。

世界を満たす光をして、退かせる力。

しかし最強はそれを前に、更なる闘志を滾らせる。



「そいつがアンタの新しいエースか…!」

「ああ、そうだ! そして、行くぞッ! シューティング・スターの効果発動!!

 デッキを上から5枚確認し、その中に存在するチューナーモンスターの数だけ、このターン中に攻撃する事ができる!!」

「なんだとぉ!? じいさんいいのか! あんなズッケェモンスター!!」

「ワ、ワシに言われてものぅ…」



デッキから5枚を指にかけ、それを一気に引き抜く。

それを流し見て、その後に遊戯に見せつけ、告げる。



「上から、くず鉄のかかし、ニトロ・シンクロン、オー-オーバーソウル、クイック・シンクロン、融合。

 チューナーモンスターはニトロ・シンクロンとクイック・シンクロンの二体。よって、合計二回の攻撃権を獲得!」

「やべぇ、遊戯の場にはブラック・マジシャンしかいねぇ…一回目は通らねぇが、二回目は…!!」

「シューティング・スター・ドラゴンで、ブラック・マジシャンを攻撃! スターダスト・ミラージュ!!」



シューティング・スターが身を捻り、閃光を放つ。

放たれた光は二色。薄い赤色とシューティング・スター自身の身体と同じ白色。

腕と脚が折り畳まれ、その身体を光速飛行を可能な姿にする。と、同時。

光の色と同じ数、未来デッキに眠るチューナーたちからの力を得て、二体へ分身する。



迫る相手は光速。

ブラック・マジシャンとはいえ。いや、ブラック・マジシャンですらそれは対応仕切れぬ進撃。

赤く発光する竜が瞬きの間すら与えずに肉迫し、最強の魔導師を打ち貫いた。

弾け飛び、ガラス片のような欠片を残してフィールドを去りゆく王のエース。



「くっ…!」

「シューティング・スター・ドラゴンの追撃! ダイレクトアタック!!」



流星が奔り抜ける。

星は軌跡のみを後に残し、一瞬の交錯のタイミングすら理解させずに遊戯からライフを削ぎ取った。

衝撃で僅か後退し、たたらを踏んだ遊戯の表情が流石に少しだけ厳しいものを含んだ。



4000のライフはシューティング・スターの一撃でその攻撃力分。

つまりは3300分、残り僅か700まで一気に削り取られたと言う事だ。

無傷の状態からたった一撃で瀕するライフ0のリミット。

いかな最強とて俺とカードたちが力を結集した一撃ならば、揺らぐ―――!



「ターンエンド!」

「オレのターン、ドロー!」



手札はそれで1枚。如何なる逆転手か。

それは確信に近しい。たった1枚で覆らないならば、逆転のカードたちは自ずと手の内に舞い込む。



魔法マジックカード、強欲な壺を発動。更にカードを2枚ドロー!」



だがそれでも、この状況をどう覆す。

戦闘力はいわずもがな、効果破壊を受け付けず、万が一つに攻撃を受けてもスピードの極致に至った流星には、回避する術がある。

フィールドを席巻するシューティング・スターはそれこそ、俺がこれまでのターンで重ねた手段の奥義。

例えブラック・マジシャンが復活しても、それを凌駕する威力を持つ。



「今のターン、いい攻めだったぜ」

「ああ、俺の全力だった」



然もあらん。そうでなければ、武藤遊戯には傷一つ付けられない。

だが、その一撃を受けた方はまるで焦りはなく、微かに残念さを隠し切れていない様子だった。



「……?」

「だが、一撃を入れた時点での油断は命取りだぜ。オレは、魔法マジックカード、戦士の生還を発動。

 キングス・ナイトを手札へ戻し、召喚する」



黄金の鎧を纏った騎士が再臨する。

巌の面をより厳しくし、盾を構えながら膝をついた。

しかしそれではシューティング・スターの怒涛を止められる筈もない。

次のターン、二体のチューナーを引き当てればそれで閉幕。



「更に魔法マジックカード、天よりの宝札を発動!」

「―――!!」



更なる手札増強を呼んでいた。

それは…いや、だとして簡単に攻略出来るものではない。

そう。簡単になど出来はしない。だが、相手は最強のデュエリスト。

常に最高の一手をその手に――――



「互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにデッキからカードをドローする」



――――呼び込む。



伏せリバース魔法マジック! 闇の量産工場を発動!

 墓地の通常モンスターを二体、手札に加える。オレはクィーンズ・ナイトとジャックス・ナイトを手札に」

「絵札の三剣士!?」



そう。簡単にでも、偶然にでもない。

既にフィールドには…いや開幕よりこの布陣を導くためにデザインされたプレイ。

微かに歯を食い縛り、決まり切った次の一手を待つ。



魔法マジックカード、融合を発動!

 絵札の三剣士を束ね、今ここに天に位置する騎士を呼ぶ―――」



手札より現れたクィーン、ジャック。そしてフィールドで跪くキング。

三騎士は立ち誇り、その剣を高く高く掲げた。キン、と打ち合わせた刀身が澄んだ音を鳴らす。

剣士たちの身体が光を放ち、その姿が見えなくなる。

煌々と立ち上る光の柱が三つの影を一つに束ね、新たな騎士の姿を形作る。



「天位の騎士、アルカナ ナイトジョーカー!!」



光が切り裂かれた。

浅黒い肌に目元と口許のフェイスペイント。その顔はジャックス・ナイトそのもの。

しかしその装備は大きく違った。

黒を基本色とした鎧。胸にかかるほどに伸びた黒髪。肩当てから広がるマント。

それは、三騎士の力の結集。戦士の中でも指折りの能力を持ち合わせる、最強の一角。



彼は霧散していく光の中、ゆっくりと眼を開くと、シューティング・スターと対峙する。



「ぐ…う…!」



思わず苦悶の声を漏らす。

この状況は、



「アルカナ ナイトジョーカーで、シューティング・スター・ドラゴンを攻撃!」

「…ッ、シューティング・スターの効果発動…!」



アルカナ ナイトジョーカーが身体を沈め、今にも駆け出す構えへ。

だが速さの極み、シューティング・スターはあらゆる攻撃に先取を取る。

シューティング・スターの身体が発光し、真上へと向かって翔け上がった。

キィイイン、という音が鳴り響く中、光となり消え去る身体。



「シューティング・スター・ドラゴンは、相手モンスターの攻撃宣言時に一時的にゲームから除外する事で、

 そのモンスターの攻撃を封じる事ができる……」

「フッ…その様子じゃあ分かっているみたいだな。

 アルカナ ナイトジョーカーがシューティング・スター・ドラゴンの攻撃無効効果の対象となったこの時、ジョーカーの効果が発動するぜ。

 手札のモンスターカードを墓地へ送る事で、ジョーカーを対象とするモンスター効果を無効にする!

 オレは手札のバスター・ブレイダーを墓地へ送り、効果発動!!」



ジョーカーの剣が力を得て輝く。

風を巻きながら掲げる剣を薙ぎ払い、腰を捻り上げるように背後に剣閃を流した。



「戦闘続行! 次元を斬り裂け、アルカナ ナイトジョーカー!!」



捻り上げた身体を捻るに使った速さに倍する速度で返す。

閃く剣尖が描いた軌跡が裂け目。異なる次元とこの世界の境目の印。

バリン、と鏡のように割れる空間の亀裂の先に、白竜の姿が見えた。



シューティング・スターの嘶きが轟く。

不可侵の領域に切り込む最強の騎士に向けての威嚇か、あるいは純粋な驚愕か。

腕と脚部を折り畳み、飛行形態へとシフトする。

逃れ得ぬと察した流星は、その名に恥じぬ衝突力を見せつけるべく、速度に任せての先攻を取る。



光速に至る突撃は初速からトップスピードに乗るための僅か半秒に満たぬ隙間にしか死角はない。

放たれれば必中。そしてその攻撃力は必殺に値する。

だがそれは天の騎士ほどの力の持ち主と当たるとなれば、別次元の話。



流星が迫るのは真正面より。

光速の機動ともなればそれはけして自在ではない。元より、光速に至るのは突撃においてのみ。

微かに合致した互いの目線から軌道を探るは必要としない。

ジョーカーはただ剣を構えるのを両手にし、頭上に掲げるよう構えるのみ。



瞬間、交差。

光速の一撃は視認する事はできず、同時に神速で放たれた迎撃も視認は不可能。

ただ結果として右の肩口から右の股関節にかけ、翼もろとも斬断された流星龍の姿が遺された。

ぱぁ、と弾けて消える身体。



攻撃力3800、戦士族最強モンスターに次ぐ攻撃力。

その壁は如何にシューティング・スター・ドラゴンとは言え天井の見えない絶壁。

光速を持ってしても埋まらぬ差。

シューティング・スターの攻撃力は3300。

その差500ポイントが俺のライフから間引かれ、4000を指し示す。



「…シューティング・スターが、僅か一瞬で…!」

「あんたの場にはレベル10のモンスターと強制終了。そして、墓地にはレベル・スティーラー。

 確実に二段構えの防壁さえ築いていれば、このターンの攻めは通らなかったかもな。

 カードを1枚伏せ、ターンエンド」



それこそ油断。遥か頭上の相手を前にしての、致命的なまでの隙。

それがシューティング・スター・ドラゴンを敗北へと追い込んだ。

油断できるような余裕があったとは、俺自身も知らなかった事だ、何という無様。



「アンタのデュエリストレベルは認めるぜ。だが、決定的に足りないものがある」

「足りないもの…?」

「戦術を展開する知恵も、カードに命を託す勇気も、天運を呼び込む力も、勘の鋭さもある。

 だけど、アンタの攻めにはデュエリストが持っている闘いの中で鋭く、厳しく磨かれていく本能ってのが混じってない。

 アンタはもっと闘れる筈だぜ。きっと、さっき店の中でやってた時の方が強かった」



怒りで染まっていた時とは違う。感覚で感じていたさっきとは違う。

今相手と対峙している俺の中には理性と、打算で凌ぎ合うデュエルしかない。

俺が挑む相手は、心底見透かしてくる。



「天よりの宝札は相手もカードを十分に補充するカード。

 これでアンタには次の手が舞い込んだ筈だ。戦術に本能が導きだす力を織り込みな。

 アンタはそれを乗りこなすだけの勇気も勘も持っている。

 全力で来な――――」



風がざわめくのは最強の持つ威風か。それとも、自然すらも彼を讃えるのか。

ゴクリと唾を呑み、遊戯を見た。



「オレの全力デッキが粉砕するぜ―――!」



渦巻く風も、ざわめく木々も、それは世界の讃称。



…なるほどである。どうやら俺は自惚れ、気負いすぎていたようだ。

俺に出来る事は何の代わりもない。

こいつらと一緒に、全力でぶつかる事。信じる事。託す事。受け取る事。



「行くぞッ! 俺のターン!!」



天よりの宝札の効果で舞い込んだカードも含め、手札は7枚。

全力でぶつかる事ができる。尽くす。ただ尽くす。

それはそうだ。誰だって勝ちたい。やる限りは勝利を手にしたい。こいつらと白星をもぎ取って歓喜したい。

だがそれは結果だ。



デュエルの中で互いが凌ぎ合う緊張、理を詰め合う思考。

その中で通じる事がある。今はただ感じる事で、その光明を見晴らす。



魔法マジックカード、ワン・フォー・ワン!

 手札のモンスターカード、ボルト・ヘッジホッグを墓地へ送る事で、効果を発動。

 デッキからレベル1のモンスターを特殊召喚する! 来い、チューニング・サポーター!」



鉄鍋らしきものを被る小さな機械人形が現れる。

マフラーを細いアームで掴み、ばさりとはためかせている人形。



「更にニトロ・シンクロンを通常召喚!」



白の上から赤いペイントを施された、液体ボンベに顔が付いたような身体。

黄色い手足を生やし、身体の上には圧力計とバルブが据えられている。



「ニトロ・シンクロンはチューナー!

 フィールドにチューナーがいる時、墓地のボルト・ヘッジホッグは特殊召喚できる!!」



セメタリーゾーンからスライドしてきたカードを引き抜き、フィールドに。

黄色い体毛のネズミが現れる。その身体には名の通り、ハリネズミの針代わりにボルトが突き立っている。



「更に! 手札のドッペル・ウォリアーは墓地のモンスターが特殊召喚された時、特殊召喚が可能!!」



黒い軍服らしく装束で、服と同色のヘルメットを目深に被った兵士が現れる。

両手でアサルトライフルを構えて、それはまるで敵を威嚇するように。



これでフィールドのモンスターは一瞬で四体。

新たな手筋の展開には滞りなく、着実な侵攻の手段を充実させていく。



「フィールドが空っぽの状態から、一気に四体のモンスターを並べちまったぜ…!」

「ふむぅ…彼もここからが更なる本領と言ったところか」

「レベル2、ボルト・ヘッジホッグと、レベル2、ドッペル・ウォリアーと、レベル1、チューニング・サポーターに、

 レベル2、ニトロ・シンクロンをチューニング!!」



ニトロ・シンクロンが頭上のバルブを解放し、圧力計が一気に振り切れた。

に~! という唸り声とともに弾ける身体が二つの星と化し、それがリングを描きだす。

チューニング・サポーターが舞い、ボルト・ヘッジホッグが跳び、ドッペル・ウォリアーがそれを追う。

三体の姿が輪郭の光のみを残し、二重のリングに包まれた。

並ぶは五つの星。リングと合わせ、七の光が混ざり合う。



「シンクロ召喚! 来いッ、ニトロ・ウォリアー!!」



ライトグリーンとディープブルー、二種の体色に飾られた戦士が爆現する。

今までの戦士たちに感じられた機械的要素は見えず、ただマッシヴな筋肉の威容を見せてくる。

悪魔の如き様相に、頭からは二本の白い角が聳え立つ。

その最大の特徴は臀部から突き出た大きなブースター。



「二トロ・シンクロンがニトロと名の付いたモンスターのシンクロ召喚に使用された時、

 そしてチューニング・サポーターがシンクロ素材となった時、それぞれデッキから1枚ドローする!

 カードを2枚ドロー!」



止まらない。けして、止まってやれる暇なんて持て余してはいない。



「ドッペル・ウォリアーがシンクロ素材になったこの時、二つ目の効果が発動する!

 自分の場に、ドッペル・トークンを二体攻撃表示で特殊召喚する!」



ドッペル・ウォリアーがデフォルメーションされた姿。

二頭身で黒い制服に身を包んだ可愛らしい兵士が出現する。

攻撃力は僅か400であるというのに、攻撃表示で放置されてしまうデメリット。

返しのターンまでに処理できなくば、自身の枷として機能する。

しかしそのリスクに見合う存在だ。

シンクロ召喚にレベル1のモンスターを二体、自由に扱える権利を得ると言う事は。

だが、まだ使えない。使わない。



「レベル・スティーラーの効果!

 ニトロ・ウォリアーのレベルを7から6へ下げる事で、墓地から特殊召喚する!」



ニトロ・ウォリアーの胸板から染み出すように星が一つ。

浮かび上がる星に導かれるように、ニトロ・ウォリアーの足許にゲートが開き、天道虫が現れた。

身体と星を重ね、何も描かれていなかった背に、一つ星の紋様を描きだす。



「ん? なんでわざわざ…」

「強制終了のコストはカードを墓地に送る事。

 トークンは墓地には送れんから、レベル・スティーラーでトークンを守る気なんじゃ」



次のターンで大ダメージを防ぐには、攻撃そのものを行わせなければいい。

その為の手段はある。先程は行使する事が出来なかったが、今度はもう油断しない。

ただ、出来る全てを出し尽くす。



「更に、手札から魔法マジックカード、融合を発動!

 俺は手札のE・HEROエレメンタルヒーロー ネオスと、ニトロ・ウォリアーを融合!」

「融合!?」



銀色の体色に、赤いラインと紺のアクセント。

胸部には空色の宝珠とそれを囲うように配置された赤のトライアングル。

ニトロ・ウォリアーと同様に強調される筋肉からはその力強さを見せられる。

黒い拳を握りしめ、ブルーの瞳と額に輝くイエローの宝石から光を放つ。



その身体がニトロ・ウォリアーのそれと重なり、空間の歪みに吸い込まれていく。



「融合召喚―――!!」



歪んだ空間が斬り捨てられた。

体色と同じ色合いで揃えられた鎧。胸部に輝くのは本体のそれより遥かに大きい空色の宝玉。

両の肩当てにも同様の宝玉が一つずつ。頭部を鎧う兜には二本の白角が聳え、オレンジ色の飾り髪が膝裏まで伸びている。

左腕には紺を金で縁取り、サファイヤのような宝石が飾られた盾。

右腕には柄にも刀身があるツインブレードを持つ。



E・HEROエレメンタルヒーロー ネオス・ナイト!!」



空間を切り捨てた一閃の返す刃で光を断ち、その姿を見せつける。

対峙するは同系統で最強に次ぐ一体。しかし、それに後れを取る能力ではない。

ネオス・ナイトの持つ剣に炎が盛る。



「ネオス・ナイトの効果!

 このカードの融合素材となった、ネオス以外の戦士族モンスターの攻撃力の半分を得る!

 ニトロ・ウォリアーの攻撃力は2800、よって1400ポイントの攻撃力を得たネオス・ナイトの攻撃力は―――

 3900だ!!」



ネオス・ナイトが舞う。

全身鎧に身を包む戦士とは思えぬ爆発的な脚力で跳ね上がり、手にしたツインブレードを振りかざす。

眼下のアルカナ ナイトジョーカーを目掛けて、落下に合わせた神速の振り抜き。

対処は意味がない。互いに持ち合わせる刃の切先の強さは、数値化した戦闘力によって測られる。

僅かに、微かに、上回るのはネオス・ナイト。



「ラス・オブ・ネオス・スラッシュッ!!」



ジョーカーは不動。それに一瞬、呆ける。

今まで見て来たソリッドヴィジョンによるバトルは理由は知らずともバトル、という表現が最も似合う体裁をとってきた。

棒立ちでやられる事は一度たりともなかった。

つまり…



「カウンタートラップ、攻撃の無力化!」



互いのモンスターの間に次元を歪める渦が発生する。



それは同じフィールドに存在するカードを知り、主人の取る戦略を識るが故の態度。

しかも、今開かれたゾーンは遊戯は砂塵の大竜巻で伏せた場所のカード。

つまり、ブラック・マジシャンを守る事もできた、と言う事だ。

彼は俺の全力を受け止める事を選んだ。その上で、全力で叩き潰す事を。

エースの一時離脱すら惜しまずに。



寒気が足許からじわじわと立ち上ってきていた。

どこまで、見透かされているのか。



歪みに剣撃を弾かれたネオス・ナイトが後退し、俺の目前に降り立つ。

それを見て、なおも不安が残るような事はない。

たとえ何が来ても、一緒に立ち向かう。力の全てを出し尽くして。



「ターンエンド」

「一進一退の攻防じゃな…どちらも最上級モンスターを惜しげなく召喚しあっておる」

「それにしても、あんな奴この町にいたか…? 遊戯と闘えるレベルなら、バトルシティにもいたんだろうけどな」

「オレのターン!」



引き抜かれるカードを横目で確認した遊戯が、微かに口の端を上げ笑う。

何ら疑う事無き、次の攻め手だ。



魔法マジックカード、天使の施しを発動。

 カードを3枚ドローし、その後手札を2枚墓地へと送る」



セメタリーに呑み込まれていくカードたち。

その瞬間、ネオス・ナイトが膝を屈した。



「ネオス・ナイト!?」



呻き声のようなものを絞り出すネオス・ナイトの身体には、黒い靄のものがかかっていた。

その足許に攻撃力のカウンターが現れて、数値が3900から3400までダウン。



攻撃力の低下、天使の施し、効果処理として捨てられた手札。

即座にディスクで確認する。ネオス・ナイトを対象とした装備カードが1枚。



「くっ…! ギルファー・デーモン…!!」

「暗黒魔族ギルファー・デーモンの効果は、このカードが墓地へ送られた時に発動する。

 魔族の魂が攻撃力を500ポイントダウンさせる呪詛となり、モンスターを侵食するぜ」



ぐぉおお…! という呻き声は大きくなるばかり。

例え破壊しても、墓地に送られた瞬間に再度効果を発現するこの呪詛を振り払う事はできない。

この環から抜け出すためには、墓地に送った直後に被る別の効果処理を割り込ませるしかない。



「アルカナ ナイトジョーカーで、ネオス・ナイトを攻撃!!」

「通すかっ! 強制終了のコストにレベル・スティーラーを使用し、バトルフェイズをスキップさせる!」



レベル・スティーラーが光の粒子と化し、煙幕の如くフィールドに撒き散らされる。

光のカーテンの中は視界の確保が出来ないほどに濃密で、また身体に絡みつき動きの自由を奪う。

顔を顰めたジョーカーは踏み込みかけた空間から遠ざかるためにバックステップ。

遊戯は言うまでもなく予測していたそれには反応せず、そのままメインフェイズ2へと。



「カードを1枚セット。ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」



手札は4枚。

…繋がる手がないわけではない。

だがそうすればアルカナ ナイトジョーカー討つ代わりに俺の場には強制終了しか残らない。

レベル・スティーラーを事前に蘇生すれば1ターンは持つ。

だが、それは余りにも無謀な賭けに思える。



どちらにせよ、強制終了が破壊されれば攻撃を受ける。

ならば、この1ターンを何もせずに過ごし、更なるターンに備え、手札を1枚でも増やすべきか。

どちらが勝率が高いか。当然、それは手札を増やして備えた方がいい。

どちらがリスクが重いか。当然、1ターンの時間を最強のデュエリストに与えるという自殺行為。



ならば、



「ネオス・ナイトのレベルを7から6へ! レベル・スティーラーを特殊召喚!!」



選択はハイリスク・ハイチャンス。

ネオス・ナイトの胸からこぼれ落ちた光が、昆虫の姿となる。

セメタリーのカードをフィールドに移動させ、その姿を見届けた後。

手札のカードをフィールドへ。



「カードを1枚伏せ、トークン二体の表示を守備に。ターンエンド!」

「オレのターン、ドロー! アルカナ ナイトジョーカーでネオス・ナイトを攻撃!」

「だが強制終了がそれを通さない!」



それは先程と全く同じ光景。

コストとされたレべル・スティーラーは光のカーテンとなり、侵略者に対する防壁となる。

ジョーカーもその中に踏み込む気はない。ただそのまま、バトルフェイズを終了し、メインフェイズへと。



「カードを更に1枚セット。ターンエンド」

「俺のターン!!」



ドローしたカードを見、微笑む。

これで、もう一歩。



魔法マジック発動、融合解除!」



それは融合モンスターに対する魔法マジック

相手の場の融合モンスターを対象とすれば、その身をデッキに帰還させ、素材モンスター、そして融合魔法分の損害を与える。

だがしかし、それは通常の融合モンスターであればの話。

相手は天位の騎士。自身に向かう魔力を斬り払う事すら可能としている。



故に解除するのはネオス・ナイト。



「ネオス・ナイトの融合を解除し、E・HEROエレメンタルヒーロー ネオスとニトロ・ウォリアー。

 二体の戦士を墓地から特殊召喚する!」



ネオス・ナイトの身体が歪み、二つの光に分かたれた。

ベースとなっていた銀色の身体の戦士、ネオス。そして剣として力を与えていたグリーンの体色を持つニトロ・ウォリアー。



「融合解除の効果でデッキに戻ったネオス・ナイトに装備されていたギルファー・デーモンは墓地に送られる。

 だがその効果は、融合解除の効果によって墓地のモンスターが特殊召喚される処理が入る為、タイミングを逃す!」

「………」



怨念はここに死滅。遊戯がカードを墓地に送っても、その怨霊が地獄から這い出る事は出来ない。

しかし二体の戦士が降臨するのは、天位の騎士が席巻するフィールド。

そのままでは如何に屈強なモンスター勢と言えど、殲滅されるのは必定。



「だが、希望を繋ぐ道がある…! 魔法マジックカード、貪欲な壺!

 墓地のモンスターを五体選択し、デッキに戻した後シャッフル。その後、カードを2枚ドローする。

 俺が選択するのは、ジャンク・シンクロン、ティンクル・モス、ターボ・シンクロン、ドッペル・ウォリアー。

 そして、スターダスト・ドラゴン!!」



墓地から5枚のカードが吐き出される。それをデッキに合わせ、切り直した後に再びホルダーへ。

2枚のカードをドローしながら、告げるのは新たな戦略の一端。



「スターダストはシンクロモンスター、メインデッキに戻らない。だがこれで、再度のシンクロ召喚が可能となる!

 更に魔法マジックカード、調和の宝札!

 攻撃力1000ポイント以下のドラゴン族チューナーを墓地に送り、カードを2枚ドローする。

 攻撃力0のドラゴン族チューナー、救世竜 セイヴァー・ドラゴンを墓地へ。そしてカードを2枚ドロー!

 続いて、魔法マジックカード、魔法石の採掘を発動!

 手札のカード2枚をコストに、墓地の魔法マジックカードを1枚手札へ!」



選ぶべきはこのカードが持つ手札アドバンテージの喪失を埋めるためのカード。

遊戯のように天よりの宝札や強欲な壺があれば迷う必要はない。

が、生憎なところ俺のデッキにはそんなカードは入っていないのだ。

手札の損失を抑えるために間違いのない選択は、



「加えるカードは貪欲な壺!」

「ん? なんでそんな手札が減るだけの使い方…」

「いや、彼の今までの闘い方を思い出すんじゃ。重要なのは回収したカードではない」

「…そうか、墓地に送ったモンスターに特殊効果が!」



ここまでターンを過ごせば、デッキの特性はもうバレている。

だがしかし、と。戦慄を含む笑みを浮かべた。

知っているからこその対応。知っているからこその予想。

武藤遊戯・アテム。彼のデッキからはまるで、次の手が見えてこない。

それでいてこちらの最高を上回る力で打ち破ってくる。



「フィールドのモンスターを除外する事で、異次元の精霊は手札から特殊召喚できる!

 ドッペル・トークンを除外し、特殊召喚!!」



ふよふよと緑色の髪の赤子が浮遊しながら現れた。

頭部から二本の触覚を生やした赤子は、身体を全く動かす事なく滞空している。



「行くぞッ! レベル7のニトロ・ウォリアーに、レベル1の異次元の精霊をチューニング!!

 再び俺のフィールドに舞い戻れ…スターダスト・ドラゴンッ!!」



白銀が再び星の光を散らしながら舞い踊る。

銀色の戦士、ネオスと並ぶ姿は言うまでもない、壮観の一言に尽きる。



だが二体の攻撃力は共に2500。このままでは及ぶべくもない。

しかしこちらの手は未だ尽きていないのも、事実。



「スターダスト・ドラゴンのシンクロ召喚に成功したこの瞬間、墓地のスターダスト・シャオロンの効果が発動!

 このカードはスターダストのシンクロ召喚時、墓地より特殊召喚できる。

 攻撃表示で特殊召喚!」



光と共に墓地より昇り出たのは、西洋のドラゴンと言うよりは東洋龍。

蛇に近しい身体のカタチ。緑色の鱗に包まれ、青い背毛を立ち上らせる細い身体。

髪の毛のように青い毛を振り回しながら、強くはないものの雄叫びを鳴らす。



「これが、墓地に送ったモンスターの正体…?」



疑問の声は、この状況を変える能力を持っていないシャオロンに対するもの。

わざわざの手間、もっと何らかの強力な効果を秘めているものと、思われていたのだろう。

攻撃力僅か100ばかりの戦闘において全く頼りにならなそうなモンスター。



「魔法石の採掘の効果で墓地へ送った、ADチェンジャーの効果。

 このカードを墓地から除外することで、フィールドのモンスター一体の表示形式を変更する!」



遊戯の伏せリバースは3枚。

これから行う攻撃が成功すれば必要なくなるだろうが、低攻撃力モンスターの攻撃表示での放置は避けたい。

この効果をアルカナ ナイトジョーカーに使用したところで、やはり確実に通るとは言えない効果なのだ。

遊戯の手札3枚中、1枚でもモンスターがあれば防がれる。

手札を削れるというメリットにもなるが、墓地に送られるとこちらの不利益と化すモンスターもいないわけではない。

先のギルファー・デーモンほどに直接的ではなくても、それだけで何らかの抑止力として機能するカードもある。



「スターダスト・シャオロンを守備表示に変更!」



シャオロンが身を縮こめる。



「そしてトラップ発動、エンジェル・リフト!

 墓地よりレベル2以下のモンスターを一体、特殊召喚させてもらう!」

「レベル2!? つーことはまたあのシンクロチューナーっていう…」

「いや、じゃが彼はシューティング・スター・ドラゴンをデッキに戻さなかった…」

「呼ぶのは新たなドラゴン。忘れてもらっちゃ困る、このターン俺が墓地へ送ったのは、3枚のカード!

 墓地より、救世竜 セイヴァー・ドラゴンを特殊召喚!」



透き通る赤。ピンクと言った方が近しいかもしれないほどに明るい赤。

両眼のイエローを残せばそれ一色の小さき竜が顕現する。

頭から繋がる短い胴体に、二枚羽。それだけのパーツしか持たないモンスター。

それはデュエルを見るものたちにどう映ったか。



恐らくはその姿の真の意味を悟れた者はいないだろう。

それは、奇跡の結晶。



「見せてやる…! これが、最高の竜、最高の戦士に次ぐ俺の全力。奇跡の力!

 レベル8のスターダスト・ドラゴンと、レベル1のドッペル・トークンに、

 レベル1のチューナーモンスター、救世竜 セイヴァー・ドラゴンをチューニング!!」



スターダストが舞い上がる。続くドッペル・トークン。

普段のシンクロ召喚であればチューナー。この場合、セイヴァー・ドラゴンが光の星となる事で星を束ねる。

だが今回のそれは違った。



セイヴァー・ドラゴンは薄いとすら言える明るさを更に薄くし、広がっていく。

ドッペル・トークンと同サイズ程度だった身体は、中にスターダストを内包してもなお余裕がある巨大さ。

二体のモンスターを包んだセイヴァー・ドラゴンの姿が光度を増し、輝光そのものと化す。



「来たれ、セイヴァー・スター・ドラゴンッ!!!」



光が破れ、中から光よりも眩い蒼銀が飛び出した。

同じスターダストを源流とするモンスターでも、白を基調とするシューティング・スターとは違う。

鮮明な蒼。闇を照らす白光とは違う、闇の中でも輝く蒼の光。



その身体は先程のスターダスト・シャオロンのようにドラゴンより東洋龍に近しい。

顔はスターダストのそれに近いが、蛇のような形状になった身体には鎧のような胴体。

背後まで長く突き出た肩からは、それぞれ四枚一組の翼が二組ずつ。左右で四組十六枚の翼。

脚部は足としての機能を求められていないとでもいいたげな形状。



奇跡の龍は俺の頭上でその翼を大きく広げ、滞空する。

救星竜という名を冠する龍は、その力を現世で発揮し続ける事が出来ない。

僅か1ターンのみ。それが地上で行動する限界。

だがその攻撃力、効果、共に強力。

故に彼が留まれる1ターンで如何なる手を打つか、そしてその一手を後にどう生かすかは全てデュエリスト次第。



「シューティング・スターすら軽々と乗り越える。

 俺が闘う為には、常に刹那的なまでの死力でなきゃ、同じ舞台にすら立てやしない…」



全力じゃ足りないなら、死力を尽くすだけだ。

それでも足りなければ……



「セイヴァー・スターの効果! 相手モンスターの効果を無効にし、その効果を得る!

 アルカナ ナイトジョーカーの効果を奪わせてもらう!!

 これで、ジョーカーは効果に対し無力、対してセイヴァー・スターは万全となる!

 サプリメイション・ドレイン!!」



セイヴァー・スターが頭部から放つ光線に当てられ、ジョーカーが呻く。

それは相手モンスターの効果を略奪する対モンスター戦最強級の能力。

だが、それは奪えればの事。

ジョーカーは効果対象にされた時点で、それを切り払う事が出来る。



だがそれを、遊戯は行わなかった。

モンスター効果を無効にするにはモンスターカードが必要。それがなかったか。

あるいは…一体、どこまで読み切ってくると言うのか。



「セイヴァー・スターでアルカナ ナイトジョーカーを攻撃! シューティング・ブラスター・ソニックッ!!」



彗星が騎士に向かい奔った。

互いの攻撃力は互角の3800。このままいけば相討ち。だが、こちらはそれが狙い。

遊戯がフィールドに伏せたカード。あれらのうち、攻撃に誘発されるトラップがあれば…

発動した時点で、セイヴァー・スターの効果が遊戯のフィールドを蹂躙する。



だが、遊戯は動かない。



セイヴァー・スターの突撃に対し身構えるジョーカーが、剣を返し振り被る。

直線に軌道を取るセイヴァーの突撃は、シューティング・スターの時と同様、ジョーカーには簡単に捉えられる一撃。

軌道と速度を合わせ、剣を奮うだけならばむしろシューティング・スターを相手にする時より容易い。

だがそれは、その彗星の威力を鑑みない的当ての結果。



彗星は地に立つ騎士に迫り、騎士はそれを全力を乗せた大上段からの一閃で迎え撃つ。

衝突により光の波紋が広がり、霧散していく。

衝撃波に巻き上げられた星の欠片たちが、幻想的な輝きを放つ戦場。

その光の中で、二体のモンスターたちは命を賭けた衝突の果て、

そのまま互いの身体が交差して、ぱさぁと光となってばらけた。



相討ち。それが結果。

だがそれはつまり遊戯の場のモンスターの喪失と、トラップが張られている可能性の薄弱さを示した。

遊戯のライフポイントは風前の灯。

一撃さえ、叩き込めればそれで―――



E・HEROエレメンタルヒーロー ネオスで、ダイレクトアタック!!」



ネオスが跳ねる。拳を解き、手刀を作り、その一撃を遊戯へと向ける。

攻撃力は2500。僅か700のライフを削り切るには十分すぎる攻撃力だ。

ネオスの一撃ラス・オブ・ネオス。は紛う事なく遊戯を打ち据え、俺に勝利をもたらすだろう。



なんて、そんなものはただの虚勢だ。

対策がないわけない。対応が出来ない筈がない。あれは、そういう眼だ。



トラップ発動、聖なるバリア-ミラーフォース-!」

「…は、」



遊戯を覆うように虹色に輝く半透明の結界が出現する。

それにより、ネオスの一撃は威力を全て吸収され、自身のフィールドにその破壊を反射される。

ミラーフォースの放つ波動に巻かれ、ネオスの身体が分解した。

これで互いのエースは消失。



攻撃に反応し、攻撃表示モンスターを全て破壊する反射鏡。

これで俺の場には、守備表示のシャオロンのみとなったわけだ。

しかしその事自体より、今、このタイミングで。そのカードを使う理由だ。



ジョーカーを守るためにそれを使っていれば、フィールドが全滅した。

セイヴァー・スターにはその力がある。そして、遊戯はそれを知らなかった筈だ。

何故、セイヴァーに対してそれを使わなかったか。



「フェイクが見え見えだぜ。アンタの手札は1枚、それも魔法マジックだと分かっている。

 この状況で一番警戒すべきトラップに対する防御にはなりえない。

 恐らく、セイヴァー・スター・ドラゴンにはトラップを破る隠された効果があったんだろうが…

 そう簡単には引っかからないぜ」



完全だ。ここまで読み切られていれば、いっそ清々しい。



「ターンエンド…」

「オレのターン、ドロー…次は、オレの攻めだ」



それは侵略。正しく、相手の領地を侵す攻撃。

冷や汗で身体が凍るのも最早何度目か。そこから続く恐怖には、膝を屈し、心を折ってしまいそう。



「熟練の白魔導師を召喚!」



白装束に身を包み、魔石の埋め込まれた杖を奮う魔導師が出現する。

その胴と肩を守るために付けられたプロテクターには、杖に据えられた魔石と同じものが三つ。



伏せリバースカード発動オープン

 凡人の施し! カードを2枚ドローする」

「んなにぃ!? 凡人!?」

「あ、いや…別に城之内くんの事を言ったわけじゃ…!」

「黙っておれ、城之内」



うるさい凡骨にたじたじになりながら、遊戯はカードを2枚ドロー。

だがそれはただ、2枚のカードをドローさせるだけのものではない。

その効果に見合うデメリットも持ち合わせている。



「その後、手札の通常モンスター。幻獣王ガゼルをゲームから取り除く」



実質的には2枚の手札交換。

それもトラップであるが故、1ターン待たねば発動出来ない速攻性にかける交換方法。

ドローが重要とされるこのゲームでは、しかしそれも一つの戦術。

ブラフとしての役割も持ち得ている。



魔法マジックカード、トレード・イン!

 手札のレベル8のモンスターをコストにし、デッキから更に2枚ドローする!

 オレは手札のマジシャン・オブ・ブラックカオスを墓地へ」



またも2:2で行われる手札交換。しかし今度は魔法マジック

それはつまり、フィールドに存在する魔導師の力を発揮するための備え。



魔法マジックカードの発動により、白魔導師の効果が発動!

 発散された魔力を集束させ、魔力カウンターを生成する能力により、カウンターが一つチャージされる!」



白いフードに隠された精悍な顔立ちの魔導師は、魔力を蓄える能力を持つ。

右肩のアーマーに付いた、魔石が淡く光り始めた。

それこそが魔力カウンター。



「そして更に魔法マジックカード、死者蘇生を発動!」



光のアンクが出現する。エジプトにおいて生命を象徴するエジプト十字。

それは冥界から死した者の魂を呼び寄せ、現世での器を与える。

墓地より現れるのは最強のデュエリストが誇る、最強のしもべ。

黒い渦が立ち上り、その中から黒い魔導衣に身を包む魔術師が出現した。



「ブラック…マジシャン…!」

「更に白魔導師にカウンターチャージ!」



左肩の魔石が点灯する。プロテクターに埋め込まれた石はあと一つ。

それが点灯した時、更なる力が出現する事だろう。

だがそれでも、まだ俺の場にはバトルフェイズをスキップさせる強制終了が…!



魔法マジック発動! 黒・魔・導ブラック・マジック!!」

「っ!」



ブラック・マジシャンが杖を掲げる。それは、攻撃ではない。

最高位の魔術師だからこそ可能な、主人より解放を許されたが故に可能な、魔術の奥義。

眼を見開いた魔術師の魔力が、眼に見えて分かるほどに膨れる。

彼は俺に向け、一直線に飛来し、杖を振り抜いた。



ドッ、と足許から黒い極光が広がっていく。

紫電を帯びた暗闇の拡大は俺の周囲一帯を包み込み、炸裂した。



「ブラック・マジシャンがいる時、相手フィールドの魔法マジックトラップを全て破壊する」

「は…!」



黒魔術の光の中から視力を取り戻した時、見出したのは破壊された強制終了の姿。

ディスクからカシュゥと音を立てて吐き出されたカードを取り、セメタリーへ送る。

これで完全な防壁消失。

あと、残るのはモンスターが一体のみ。



「そしてこの瞬間、三回目の魔法マジックが使用された事で、白魔導師のカウンターが生成」



胸を覆う鎧に埋め込まれた魔石。最後のそれが光を灯し、その力を最大限まで高めた。

魔力がオーバーフローし、雷に似た光が魔導師の身体を取り巻くように暴れる。

この瞬間、高められた魔力は冥界と現世を繋ぐ境界にすら影響を及ぼすほど。

あとはそれを、道筋を決めて放出させるのみ。



「熟練の白魔導師の効果により、魔力カウンターを三つ蓄えたこのカードを墓地に送る事で―――

 竜破壊の剣士、バスター・ブレイダーを墓地から特殊召喚する!!」



紫紺の鎧の剣士が立ち上る光を斬り、現れる。

自身を呼び出すために魔力を蓄えたその身を引き換えに差し出した魔導師の遺志を受け取り、立ち誇る姿。

黄色く縁の取られた紫紺の鎧は巨大で、並ぶブラック・マジシャンを二周り上回っている。

頭部からは触覚のような角が二本突き出ており、こちらを見据えるのは真紅の瞳。

竜を斬るための大剣を片手で持ち、剣の背を肩に乗せて支えている。



「くぅ…っ…!」

「バスター・ブレイダーは相手フィールド、及び墓地のドラゴン族一体につき、攻撃力を500アップする!

 スターダスト・ドラゴン、シューティング・スター・ドラゴン、スターダスト・シャオロン、セイヴァー・ドラゴン、セイヴァー・スター・ドラゴン!

 合計5体のドラゴンが存在する今、バスター・ブレイダーの攻撃力は、5100ポイント!!」



俺のフィールド、そして墓地から放たれる竜の気に当てられた剣が、その本領を発揮する。

鳴動するドラゴンバスターブレイドはその高鳴りを抑えもせず、獲物の気配に雄叫びをあげた。



じゃり、とバスター・ブレイダーが大地を足裏で踏み躙る。



「バスター・ブレイダーでスターダスト・シャオロンを攻撃! 破壊剣一閃!!」



爆ぜる地面が土砂をばら撒いた。

突撃力の強さに応じてか、まるで地雷でも作動したかのような炸裂。

それは同時にその脚力から生まれる速度で振り抜かれる剣閃の苛烈さを示す。

シャオロンの身でそれを防ぐ事など出来はしない。

身を縮めていた龍に容赦なく振り下ろされる凶刃が、龍の身体を両断した。



「だがっ、シャオロンの能力はそれすら通さない!

 龍の再生能力をもって、1ターンに一度だけ破壊を免れる事ができる!」



両断された身体が光を放ち、寄せ付けあい、ぴたりとくっついた。

傷口から泡を噴きながら急速に再生されていく肉体は、1ターンあれば完治する。

だがそれは、更なる追撃によって許されない。



「ブラック・マジシャンによる追撃! 黒・魔・導ブラック・マジック!!」



バスター・ブレイダーの攻撃が未だ完治せぬ龍の身では耐えられない。

急接近し、目前まで迫った魔術師は杖を翳し、振り抜く。

先程俺のフィールドを破壊したそれより圧縮された魔力の波動。

黒い魔力はスターダスト・シャオロンの身体を呑み込み、その存在を欠片残さず蒸発させた。



「スターダスト・シャオロン撃破!」

「くっ…!」

「カードを2枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン!」



まだだ。まだやられて堪るか。まだ俺たちは闘える。

まだ尽くせる力が残っているのだから。



魔法マジックカード、貪欲な壺を再度発動!

 戻すのはセイヴァー・ドラゴン、スターダスト・シャオロン、ニトロ・シンクロン、チェンジ・シンクロン、異次元の精霊!

 墓地のドラゴンが二体減り、バスター・ブレイダーの攻撃力は1000ポイントダウンだ!」



それでもなお4100ポイント。並みではまるで届かない強さ。

ここで引く2枚のカード、こいつらにかかっている。



「貪欲な壺の効果でカードを2枚ドロー! ―――!」



この状況でこのカードは…いや、遊戯の手札は今0枚。

だとすれば、ここでエース二体を破る事が出来れば、次のターン。遊戯は新たな手札を補充するしかない。

強欲な壺、天使の施し、天よりの宝札、最高の手札増強はいずれも墓地。

だとすれば次に出てくるモンスターは…



ブラック・マジシャンを見る。

だとすれば、これで…!



「カードを2枚セット!

 そして手札から魔法マジックカード、ミラクルシンクロフュージョンを発動!

 墓地、フィールドから融合素材モンスターを除外する事で、シンクロモンスターを素材とする融合モンスターを召喚する!」

「墓地のモンスターを融合!?」

「なんと…!」

「指定するのは墓地のドラゴン族シンクロモンスター、シューティング・スター・ドラゴン。

 そして、戦士族モンスター、ジャンク・ウォリアー! この二体のモンスターを除外する事で―――

 融合召喚、波動竜騎士 ドラゴエクィテス!!」



次元の彼方へ送られた二体のモンスターが融合し、新たなる力となって呼び覚まされる。

空間に孔を穿ち、蒼い鎧竜が異次元の底よりその翼を躍らせた。



竜の背を借りる騎士ではない。騎士の姿をした竜。

蒼い鎧は全身を覆いつつもそのシルエットの細さを隠す事はない。

左右二枚の翼を大きく広げ、右手には長大なランスを引っ提げている。

頭部はフルフェイスの兜のようであり、オレンジ色の角がトサカのように五本並んでいた。

シューティング・スターとはまた別のカタチの鎧をスターダストに着せたかのような外見。

それが竜騎士の姿。



「シューティング・スターが取り除かれた代わりに、

 ドラゴエクィテスが召喚され、バスター・ブレイダーの攻撃力変化はない」

「ああ、だがまだエクィテスには強力な効果があると知れ!

 ドラゴエクィテスの効果、墓地のドラゴン族シンクロモンスターを除外し、その名と効果を得る!!

 セイヴァー・スター・ドラゴンを除外し、その効果を会得!

 サプリメイション・ドレインによって、バスター・ブレイダーの効果を無効にする!!」



エクィテスが左の掌を翳し、バスター・ブレイダーへと向けた。

途端、眼を苦しげに歪めて膝を着く。微かに遊戯の顔も、歪んだ。

エクィテス、いやセイヴァー・スターの効果奪取能力は永続効果に対しては無効化能力としてしか働かない。

つまりエクィテスはドラゴン族を相手にする際の攻撃力アップ効果は得られない。

だとしても、2600に攻撃力を低下させたバスター・ブレイダーならば、攻撃力3200のエクィテスが撃破できる。



だが、遊戯の残りライフは700。

同じくフィールドに並ぶ攻撃力2500のブラック・マジシャンならば撃破し、ライフを削り切れる。

ならば迷う事は、ない。



「波動竜騎士 ドラゴエクィテスで、ブラック・マジシャンを攻撃!」



エクィテスが槍を引いた。それは上空から相手を目掛けた投擲の体勢。

それを放たれれば目標とされたブラック・マジシャンは貫かれ、消し飛ばされるが必定。

ぐぐぐ、と臨界まで引き絞った弦のようにエクィテスの身体が悲鳴を上げた。

その瞬間、解放される一撃。



「スパイラル・ジャベリンッ!!」



それは過たずブラック・マジシャンの許へと奔る。

このまま行けば、半秒必要とせずに魔術師は槍の餌食となり、食い破られるだろう。

だが、



トラップ発動!」



その遊戯の声が遮った。

そう、この瞬間こそがエクィテスをコピーしたセイヴァー・スターの力が存分に発揮される時。



「シフトチェンジ!

 ドラゴエクィテスの攻撃対象をブラック・マジシャンからバスター・ブレイダーへ変更!」

「シフトチェンジ…!」



攻撃対象の変更カード。それは、ドラゴエクィテスに授けられたもう一つの効果を使うに足る効果か。

もし使ったとすれば俺のフィールドには伏せリバースが2枚のみ。

だが遊戯のフィールドは壊滅し、手札も0枚。次のターンの1枚だけでは、如何に遊戯だろうと…



――――如何に彼だろうと? どうなる。

切り札をこのタイミングで失った俺は、逆転の一手を打つ為のキーカードをフィールドから失い、次のターンで遊戯の勝利となる。

そうだ、奴の強さは侮る余地など一片たりとも介在しない。

常に死力を。そう言ったのは俺自身。

次の手に繋がる要素が残らない一手を打てば、その時点で俺の敗北。



「攻撃続行…だ!」



ブラック・マジシャンの前にバスター・ブレイダーが立ちはだかる。

その身体がエクィテスの槍に貫かれて、地面に縫いつけられるように衝突した。

バキバキと割れてく紫紺の鎧がたちまち光の粒子となって消えゆく。

これで、遊戯のライフは残り100。



「ふっ…いいのか? トラップに対する備えはあったんだろう?」

「…エンドフェイズ、セイヴァー・スターの能力をコピーしたドラゴエクィテスは、デッキに戻る」



すぅと消えていくドラゴエクィテスを見送った後、続く効果の宣言をする。

セイヴァー・スターの効果を継いだエクィテスには、その翼から毀れる星屑をフィールドに呼び戻す。



「そして、墓地からセイヴァー・スターのシンクロ召喚に使用したスターダストを特殊召喚する!」



光の欠片が集い、竜の形を成していく。

この局面、互いのエースが会するこの場で、次に打たれるべき手は…

次のターンがきっと終幕。ここで凌げれば俺が勝つ道が開く。だがしかし、



「オレのターン!!」



アレを相手にどう凌げと言うのか。

増す事しか知らないように、際限なく膨れ上がり続ける闘気は最早俺の知覚外。

天井が遥か高くにでも感じられた十代と遊星はまだ、低位置だったのだ。

ランク評価すれば遊戯をS。それと比べれば二人ともギリギリA、下手したらBだ。



手は尽くす。死力を持って。だがそれでも、足許すら見えてこない。



魔法マジックカード、光と闇の洗礼を発動!」



矢張り、きた。確信はなかったが、手札1枚とブラック・マジシャンからならばこの流れこそ、最高の布陣。

黒魔導師の身体が混沌の闇に包まれていく。ゆっくりと眼を閉じ、己の魔力をその闇に委ねる。

取り込まれた魔力は異界を通り、魔術師を新たなる次元へと導く。



闇が晴れる。

天を突くように伸びていた帽子は二股に分かれ、左右に流れていた。

魔導衣は黒いタイツのような身体のラインを確かに現す意匠となり、手足に拘束衣のようなベルトが巻かれている。

黒紫と緑だったカラーはより黒く、そして差し色が赤紫色に。

体色が薄青く変色し、黒い髪が風に靡いていた。

鋭い眼光はスターダストとその先の俺を捉え、光る。



「ブラック・マジシャンを生贄に捧げ、デッキから混沌の黒魔術師を特殊召喚。

 更に混沌の黒魔術師の効果により、墓地の魔法マジックカードを1枚、手札に加える。

 選択するのは天よりの宝札だ」



混沌の黒魔術師の肩の横に、黒い光がゆらめく。

彼はその中へとゆっくりと手を突き入れ、同じくゆっくりと引き抜いて見せた。

人差し指と中指に挟まれたカード、それを指遣いだけで綺麗に取り回し、俺に見せる。

遊戯が宣言した通り、天よりの宝札。



俺が肯くと魔術師はそれを指の動きだけで巧く投げて見せ、

遊戯はそれを魔術師と同じように人差し指と中指のみで挟み取った。

受け取ったカードはそのまま、デュエルディスクへ。



「天よりの宝札を発動し、互いのプレイヤーの手札を6枚に。

 オレは、通常のドロー以外でワタポンをドローした事により、ワタポンを特殊召喚!」



白い毛玉に、青く大きな瞳のモンスターが現れる。

わたぽん、と可愛らしく鳴き声を上げているが、こちらはそれに和んでいられるほど優しい状況じゃない。

リリース要員が出現したこの瞬間、次に来るのは…



「そして、魔法マジックカード、ディメンション・マジックを発動!」



これだ。破壊効果を有しているにも関わらず、ここまで止め難い効果もそうあるまい。

破壊効果を無効にするスターダストとは言え、この魔法攻撃の名が相応しいカードを止める事はできない。

そう、それは見えていた。この魔法マジックの脅威が如何程か。



「オレの場に魔法使いがいる時、モンスター一体を生贄に捧げ、手札の魔法使いを特殊召喚する!

 ワタポンを生贄に、来い! ブラック・マジシャン・ガール!!」



混沌の黒魔術師が手を翳し、ワタポンの身体を同胞を呼び出すための魔力へ変換する。

わたぽーん、という最期まで可愛らしい断末魔を残して消える毛玉のモンスター。

そしてそれが残したものもまた。



ワタポンの命を呼び水に、黒魔導を継ぐ魔術師の見習い娘がフィールドに降臨した。

黒に近しいブラック・マジシャンのそれより青に近い明るい魔導衣。

それは肩から胸元にかけ、大きく露出したワンピース状のもの。

肩にかかる程度の金色の髪と、師匠の被るものとよく似た帽子を頭に乗せた少女が、混沌の横に降り立つ。



「そしてディメンション・マジックの追撃効果、モンスター一体を魔術師の攻撃で破壊させてもらうぜ!

 スターダスト・ドラゴンに混沌の黒魔術師とブラック・マジシャン・ガールの連携攻撃!!」



混沌の黒魔術師が杖を掲げ、それを見た少女も慌て続くように杖を掲げた。

ガールの杖は同族の持っていた杖に比べると、まるで玩具のような外見。

だがその杖から放たれる一撃は、師には及ばずとも黒魔術の破壊力に違いはない。

掲げ、魔力を集中させた杖を同時に振り下ろす。



瞬間、スターダストを包み込むほどに巨大な黒魔導の波動が炸裂した。

立ち上る漆黒からは逃れ得ず、それに直撃するスターダスト・ドラゴン。

あらゆるモンスターを破壊する魔力波は一気に膨れ、その内に捉えた竜を破壊する。



「よし、これであいつのフィールドはガラ空き! 二体のモンスターでダイレクトアタックが決まるぜ!」

「この瞬間、トラップ発動! チェーン・マテリアル!

 このターン融合召喚を行う場合、除外する代わりに融合素材をデッキ、手札、フィールド、墓地から使用できる!」

「んだと!? そんな融合ありかよ!? って、今は遊戯のターン。このタイミングじゃ融合は…」

「…オレは魔法マジックカード、貪欲な壺を発動。

 墓地のブラック・マジシャン、キングス・ナイト、クィーンズ・ナイト、ジャックス・ナイト、ワタポンをデッキへ戻すぜ」



そしてシャッフルした後に、デッキよりカードを二枚ドローする。

墓地にある事でガールの攻撃力を上昇させていたブラック・マジシャンをデッキに戻す。

フィールドにはブラック・マジシャン・ガール。そしてデッキにブラック・マジシャン。

その状況で活きるカード。そんなもの、1枚しかないだろう。



「オレはまだ、このターン通常召喚の権利を残している」

「通常召喚…?」



デッキに戻したブラック・マジシャンを呼び戻すためのカードではない?

遊戯が手札から選び取るカード。



「オレは混沌の黒魔術師を生贄に捧げる!」

「なに…一番攻撃力の高いモンスターを?」

「召喚するのは、闇紅の魔導師ダークレッド・エンチャンター!!」



混沌の黒魔術師はその場に杖を突き立て、自身の身体を魔力に変える。

その魔力に導かれるのは、その魔術師の魔力を糧として現れるには些か以上に頼りなく見えた。



その名の通り全身をダークレッドの衣装に身を包む魔導師。

頭部を二本角の兜のような装備で守り、肩には大きなアーマーを装着している。

三日月状の杖の先端には赤い宝玉が飾られ、同じものが肩のアーマーにもそれぞれ…



「!!…ま、魔力…カウンター…! まさか、バスター・ブレイダーを墓地に送ったターンに伏せたカード…!?」

「そう。闇紅の魔導師ダークレッド・エンチャンターは召喚に成功した時、自身に魔力カウンターを二つ溜める」



両肩の宝玉が赤く淡い光を帯びる。

魔力カウンターが二つ。

そしてこの瞬間を待っていたかのように、遊戯のデッキに存在する切り札の鼓動が高鳴る。



デュエル中盤に伏せられた1枚のカード。それがこの場にあって、今その力を解放する。



「アルカナ ナイトジョーカーを従えていて…!

 手札のトラップカードがジョーカーの耐性を万全にすると知っていて…

 それでも、長時間使われない事でブラフの可能性すら疑うこのタイミング、この状況で…切り札を呼び出すキーカード…!!」

伏せリバーストラップ発動オープン!!

 奇跡の復活!!」



魔導師の両肩から光が消失し、展開されたカードに、二つの赤い光が吸収された。

魔力を取り込んだカードが中でその力を循環させ、研ぎ澄ませていく。

冥界に送られた黒き魔術師、あるいは竜破壊の剣士の魂を宿す、新たな器を造り上げるほどの魔力。

少しずつ人型に凝り固まっていく魔力の渦が、紫紺の色を帯びていく。



黒き魔術師はいまやデッキの中に転生している。

墓地に眠るのは、竜破壊の剣士の魂のみ。故に召喚される魂も思考の余地なく、それでしかありえない。



「二つの魔力カウンターをコストに、墓地よりバスター・ブレイダーを特殊召喚!!」



竜破壊の剣士が、現世に再臨する。

ドラゴエクィテスの槍に貫かれる前、滑らかな曲線を描く紫紺の鎧は傷一つない姿で。



「そして魔法マジックカード、賢者の宝石を発動!

 フィールドにブラック・マジシャン・ガールが存在する時、デッキからブラック・マジシャンを特殊召喚する!」



ガールが掌を天へ向けると、その中にまるで水の雫のような宝石がどこからともなく現れた。

それを掌の上に浮かせた少女は喜色の微笑みを浮かべ、もう片手で杖をくるくると回し、真上へと放り投げる。

くるくると回りながら空へ飛んだ杖は、魔力の線で円を描き、やがて重力に捕まり、落下していく。

危なげなくその杖を手に取ったガールは、今度は代わりに宝石を天に掲げた。



宝石が輝きを放ち、魔力円の中に魔法陣を投影する。

魔力が描きだす五芒星はデッキに戻された黒き魔術師を呼び出す標。

力を放出し切った宝石が少女の手の中で音もなく砕け、散っていく。

直後、魔術師が魔法陣の中から浮かび上がってきた。



「っ…!」

「そして、アンタが融合を使って最強の切り札を呼んだように。

 オレも場のエース二体を融合し、最強の切り札を呼び寄せるぜ! 魔法マジックカード、融合!」



言うまでもない。融合されるのは…



「ブラック・マジシャンと、バスター・ブレイダーの力を一つに束ね、究極の魔導剣士を降臨させる!!」



ブラック・マジシャンが光を纏う。同じように、バスター・ブレイダーの身体も光を。

遊戯の目前、二体のモンスターがゆっくりと空へと舞い上がり、その身体を重ねた。

光は留まる事を知らず、その二体が重なり合った事に誘発され、氾濫する。



「超魔導剣士-ブラック・パラディン!!」



そのベースは紛う事なく黒き魔術師。

魔導衣は魔力によって鎧と完全に同一化し、それは竜に対する耐性を帯びた魔導鎧と化した。

全身碧色がかった黒。

魔導鎧自体とほぼ同色の宝玉がところどころ埋め込まれ、金色の装飾模様が全身に奔っている。

武具も双方のもの、魔杖と竜破壊の剣とが合わさり、自身の身長の半分ほどの長さの刃に、それと同じ長さの柄。

槍か長刀か、という風に見える武器を手にしている。



その能力は、竜破壊の剣士のものを受け継ぎ、ドラゴンの数だけ能力を上げる。



「手札のエフェクト・ヴェーラーの効果を発動!

 このカードを墓地へ送り、相手モンスターの効果を無効にする!!」



俺の前に肩を露出させた白い着物の少女が現れる。

彼女が纏っていた半透明の羽衣を、ブラック・パラディンに向け差し向けた。

如何に魔力を征服する超魔導剣士とはいえ、モンスターの特殊能力は防げない。

それに取り巻かれたブラック・パラディンは微かに顔をしかませた。



「これで攻撃力の上昇する永続効果はこのターン失われる!」

「ここでトラップを発動させてもらう、強欲な瓶!」

「か、め…?」



カードを1枚ドローする。それだけのトラップ

多分オシリスの天空竜用のブラフトリックのためのカードだ。

セイヴァーの効果をエクィテスに使わせていれば、その時に発動し、次のターンで手札は2枚。

手札から使われたカードの位置からすると、あの時点で光と闇の洗礼の次のカードは、貪欲な壺だった。

そのカードで矢張りブラック・マジシャンを戻せば、……恐らく黒魔術のカーテンが彼の手に舞い込んだろう。

紙一重、あそこで行っていれば、そのまま逆襲されていた。



「くっ…ぅ…!!」

闇紅の魔導師ダークレッド・エンチャンター魔法マジックの発動の度、

 最大二つまで魔力カウンターを復活させる効果を持つ。賢者の宝石、融合の分。二つのカウンターが復活!

 そして、装備魔法、団結の力を発動し、闇紅の魔導師ダークレッド・エンチャンターに装備!!」



団結の力。自身の場のモンスター一体につき、攻撃力を800ポイント上昇させる装備魔法。

遊戯の場のモンスターはブラック・パラディン、ブラック・マジシャン・ガール、闇紅の魔導師ダークレッド・エンチャンター

合計2400ポイントの攻撃力が加算された魔導師の攻撃力は元々の攻撃力1700に合わせ4100。

そして溜め込んだ魔力カウンター一つにつき、300ポイント。二つのカウンター分を合わせると4700。



闇紅の魔導師ダークレッド・エンチャンターでダイレクトアタック!」

「この瞬間、速攻魔法・超融合を始動! 融合を越えた究極の融合、超融合!

 手札1枚、ネクロ・ガードナーを墓地へ送る事で効果を発揮!!

 ドラゴン族シンクロモンスター、スターダスト・ドラゴンと、戦士族モンスター、ニトロ・ウォリアー! 二体のモンスターを束ねる!!」



冥界の壁を打ち破り、星の光が現世へと舞い戻る。

星光の路を後から続くニトロ・ウォリアーと共に、スターダスト・ドラゴンが拡大する次元の歪みへと身を投じた。

超融合が発生させる超次元の渦は融合の魔法マジックのそれとは規模が違う。



「何を召喚するかは言うまでもないだろう」

「フッ…そいつがお前の命運を託されたエースって事か。ならば、打ち破ってみせるぜ」

「来い、波動竜騎士 ドラゴエクィテス!!」



黒い魔力の渦が内側から引き千切られた。

腕を奮い、竜の力としての爪を用い、邪魔な障壁を裂いての登場。

霧散していく魔力の光越し、二体の魔術師の奥にいる王の姿に臨む。

その視線を受け止め、かつ、かかってきなという視線を返した遊戯。



「チェーン・マテリアルの効果で呼び出した、融合モンスターはエンドフェイズの自壊が確定している。

 だが、このターン。こいつを突破しなくては俺を倒す事はできない!」



そして、次のターン。

天よりの宝札で俺の手札に舞い込んだミラクル・フュージョンと次元誘爆が発動すれば……

ミラクル・フュージョンで墓地に残したネオスを使い、ネオス・ナイトを召喚。

そのネオス・ナイトをデッキに戻すことで次元誘爆を発動すれば、除外されたセイヴァー・スターとシューティング・スターが再臨する。

相手のゲームから除外されたカードは、フィールドから離れる時除外される混沌の黒魔術師と、コストとして除外されたガゼル。

ブラック・パラディン。もしくはブラック・マジシャン・ガールを戦闘破壊すればわずか100のライフしかない遊戯は……

それで俺の勝ち―――!



「なら行くぜ! 闇紅の魔導師ダークレッド・エンチャンターで波動竜騎士 ドラゴエクィテスを攻撃!!」



三日月の杖を振りかざし、ドラゴエクィテスへと向ける。

月の中心に存在する紅の宝玉がその名の通り、闇紅色の光を灯し、徐々にそれを大きくしていく。



闇紅衝撃波動ダークレッド・ショック・ウェイブ!!」



攻撃力4700まで高められた魔導師の攻撃は、攻撃力3200のドラゴエクィテスを遥かに上回る。

このまま破壊される事を許せば、ライフは1500削られ、かつ続く二体の魔術師の連撃を受ける事だろう。

だからこそ、ここで止めるしかない。



「墓地の、ネクロ・ガードナーの効果を発動! このカードをゲームから除外し、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする!」



地中から瘴気の煙幕が発生し、視界を塗り潰す。

闇色の光の魔導波はそれの中に呑み込まれ、徐々に力を散らされ、消滅した。

これで攻撃力がドラゴエクィテスの攻撃力を上回るモンスターはいない。

もう、攻撃する事はできないだろう。

ドラゴエクィテスを問答無用で除去できる融合解除があれば、既に使っている筈。



「これで……!」

「ああ、これで終わりだ―――速攻魔法、移り気な仕立屋の効果で、装備魔法・団結の力をブラック・パラディンへ移譲!!」

「はっ……!?」



すぅとブラック・パラディンが杖を引く。魔導師がパラディンに向けた掌から光が奔る。

フィールドに存在するモンスターたちが結束する事により発生する驚嘆すべき、絆の力。

それを引きだす最強の装備魔法は、ここでブラック・パラディンに渡された。

ブラック・マジシャン・ガールも、魔導師と同じように手を翳す。

杖の先、刀身に極彩色の魔力が集束し、決着に繋がる一撃を放つため、凝り固まった。



「う、ぐ……!」

「超魔導剣士-ブラック・パラディンの攻撃―――超・魔・導・無・影・斬!!!」



魔力を帯びた刃が振り抜かれ、三日月状に凝り固まった魔力刃を放出する。

ドラゴエクィテスが手にした槍を奮い、それを迎え撃つ。

魔力の剣閃は最早嵐の如き苛烈さで、大地を抉り取りながらまっすぐに奔り抜けてきた。

突き出される槍の一撃の切先が、閃光と衝突し魔力の爆風と衝撃波を撒き散らす。



しかし今となっては、あまりにも大きすぎる能力差。

槍が穂先から曲がり、折れ、潰れて拉げてくる。

魔力風の破裂に引き裂かれた翼が飛翔能力を喪失し、細い足で地面に降り立ってでも攻撃を迎え続ける。

引き潰された槍が、限界を迎え、完全に粉砕される。柄のみとなった槍には何の力もない。

止めきれない衝撃はドラゴエクィテスの身体を今度こそ蹂躙し、斬断する。



竜の悲鳴が、耳に残る。

くそっ、と口の中で呟いた瞬間。エクィテスを貫いてきた衝撃波が今度は俺を襲う。

身が引き裂かれるほどの突風が、数秒に渡って荒れ続けた。

ブラック・パラディンの攻撃力は2900。それが団結により、5300まで高められている。



「ぐぅ、ぁああああああっ……!!



これでライフは1900。

もう、手はない。



「そして、ブラック・マジシャン・ガールによるダイレクトアタック!」



ブラック・マジシャン・ガールが杖を掲げる。

桜色の魔力が杖の先端に灯り、紡がれる魔導の奥義の一端。

ゆっくりとその杖がこちらに向けられる。



死力を尽くしても駄目ならば、その時は……

完全な、完璧な、完膚のない、決定的な敗北を味わおう。

それが俺を悔しがらせる。泣かせる。そして、強くなろうと思わせる。



「さあ来い! この負けで、俺はもっと……!!」

黒・魔・導・爆・裂・波ブラック・バーニング!!!」



魔術師の少女が放った波動が俺に直撃する。

攻撃力2600に及ぶ、一時的に師の魔力すら凌いでいる魔力の奔流に呑まれ、俺は衝撃で吹き飛ばされた。

背後に置いてあったDホイールにぶつかり、漸く止まる。

ずる、と背中をぶつけた姿勢から滑り落ちるように地面に。



これで言うまでもなくライフは0。

全力は尽くしたが。なるほど、一歩どころかスタート地点さえ見えなかった。

別格だった。俺は十代や遊星の足許どまりだと感じていたが、この人と比べればあの二人だって足許だ。

もっともそうすれば俺は地球の反対側まで突き抜けるほど下だが。



デュエルが終了し、地面に座っている俺に遊戯が近づいてくる。

そして手を差しだした。



「いいデュエルだったぜ」

「ありがとう、と言っておく」



手を取り、そのまま握手などしてもらう。

もし、出来得るならば……



「また、デュエルしてもらっても?」

「ああ、いつでも来な」



帰れるのが分かったなら、そんな約束だってありだろう。

帰ったってあのバイクさえあれば、またこれるのだから。

時間軸の移動だって出来るんだから、帰るのはもっとここでデュエルしてからだっていい。



遊戯は軽く応えた後、ふとゲーム屋の方に眼をやり、少しだけ表情を曇らせた。

俺が小さく首を傾げると、それは杞憂だと気付いたように態度も戻す。

すると、そんな間に。



「遊戯さん! 今度は俺とデュエルして下さい!」

「あっ、おい待てよ順番だろ!」

「遊戯さん、僕も…!」

「え、あ、ちょ、ちょっと待ってくれ……あ、相棒! か、変わってくれ…! あ、相棒? 相棒…!?」



返事がない。ただの留守のようだ。

必死にパズルに視線を向ける決闘王は、実に愉快な事になっていた。

俺はそれを少し笑いながら流すと、Dホイールに乗る。

カードキーは挿しっぱなし。駆動音も殆ど残さず、動き始めた。











「なんだこれは!(ジャック風」

『要求:「これ」の意味を入力して下さい』



↑のデュエルの事だよ。何だこのネタ成分とメタ成分の欠如した展開は。

あ、ここから先は完全にネタメタだから読まなくても問題ないよ。



「大体、俺からネタとメタを取ったら……ただのイケメンしか残らないじゃないか……!」

『要求:「イケメン」の意味を入力して下さい』

「ゑ?」

『予測結果:大衆的美的センスにおいて、顔の造形が整っており、美しいと判断される格好の良い男性。

 この分類に俗する男性は特別とされ、異性である女性及び、特定の性癖を持つ同性に好まれる事が多い。

 特定の事柄において優遇されるとされ「ただしイケメンに限る」などの言葉が存在する。

 搭乗者がこの分類に当て嵌まるものかどうかの判断基準を提示して下さい』

「な、なんでさ!」

『回答:AI“X”の所有情報に、人間の顔の造形に対する判断基準が入力されていません。

 そのため、搭乗者からもたらされる情報、外界から得られる情報を統合し、フォーマットを作成します』

「うるさいばーか! 泣くぞ、俺は泣くぞ! それ以上言ってみろ泣くからなばーか!」



そして泣く。ボケがそんなに悪いと言うのか。

俺はただちょっと緊張感を振り払うジョークを言っただけだって言うのにこの仕打ち。



『要求:理由を入力して下さい』

「てめーは俺を怒らせた」



テメーが売った、俺が買った。だからテメーをボコる。徹底的にだぁ!

殴ったら俺の拳が壊れるけどな。こんなビルを粉砕するバイクのボディ。

はぁ、疲れた。もう少し俺を気付かってくれてもバチは当たらんぞ?



「お前さぁ、もう少し砕けた喋り方できない? そんな、要求だの回答だの……聞く方が面倒だわ」

『了解:音声ガイドの形式を変更します……変更完了』

「めんどくさい奴……とりあえず、GX世界に戻ろうか」

『はい、分かりました』



あ、変わってる。

まあ、こいつもカードたちと同じ、共にデュエルする俺の仲間。

そして俺のタイムマシン。仲良くしようじゃないか。



さあ、折角だからデュエルアカデミアで授業受けてみるか!











後☆書☆王



何故かデュエルが二本立て。何故書き足したし。



エクィテスVSパラディンと言ったが、あれは嘘だ。

この二体がちゃんと闘わなかったのは私の責任だ、だが私は謝らない。

のちのちにこの二体がちゃんと活躍してくれると信じているからだ。



次のデュエル、どっちが先攻かすらも決めずに次回予告などするからこうなるのである。

ストーリーをまるで作っていないから急遽デュエル回数が増えたりするのである。



今回のテーマその1は欲望。コンセプトはアポリア(プラスZ‐ONE)。メインはキメラテック・フォートレス・ドラゴン。

キーモンスターは時械神メタイオン。メッセージはクリアマインドォッ!。


アステリスク→(*)<この書き込みはイリアステルによって修正されました。



今回のテーマその2は右手のカード誇りプライドを、左手のディスクに魂を宿せ。

コンセプトはネオス+シンクロン。メインはネオス+スターダスト。キーモンスターはドラゴエクィテス。

メッセージは全力でかかってきな、オレのデッキが粉砕するぜ!



主人公の負けは揺るがないが、遊戯が様子見してなければ多分1ポイントもライフ削れなかったね!



スターダストが優秀な破壊無効効果を持っているのに全然使わないのも私の責任だ、だが私は謝らない。

ネオスが活躍できなかったのだって私の責任だ、だが私はあ(ry

ネオス・ナイトは相手のフィールドによるけど、

ネオス軸には無理なく入るヒーローマスクとネオスフォースで6000以上のバーンが決まったりするから大好きです。

シリアスじゃなければルイズコピペをネオスにして使ってたくらい好きです。



ちなみに遊星が使うシューティングスターはアニメ効果になる予定?

その辺りは主人公→アクセルシンクロォオオッ!! 遊星→ゥアァクッセルッシンクロォオオオオオオオオオオゥッ!!!!!

の差なのでしょうがない。

遊星のシャウトはホントかっこいいよねー



次のデュエルの流れは最初くらいしか出来てないけど…

セフィロンとクェーサー書きたいなぁ。

セフィロン二体と正位置のザ・ワールド並べてずっと俺のターン無駄無駄とかロマンだ…。

攻撃力的に決まれば1ターンだが。

ああ書きたい書きたい。

残り9体の時械神出ないかなぁ…プレミアムパック14とかで。絶対組むのに…



ふふふ、またでっかく失敗したなぁ。

うん、多くの人から言われたのでお名前の方は省略させていただきつつ一言で纏めると。



>>未来キメラ自壊しろ。



カード処理のタイミングを逃すとかの勘違いはまだしも並行世界融合といい何故テキストに書いてある効果を間違えるし。

バカなのか、俺はバカなのか。バカですね。バカイザーですね。ちょっとTF2やってくる。



あと、

>>フォートレスの効果破壊のタイミングはダメージステップなのでワイゼル無理。

>>シャオロンは攻撃表示。これもテキストに書いてある。

>>ディメンションマジックは効果解決時の選択だからチェーンして回避無理。

とうとう、デュエリストレべル1の馬鹿に様々な助言の数々…



長ネギ様、アンデビ様、ぷろぱー様、ガトー様、山川様。ありがとうございます。



一戦目はテーマ(笑)消去。しょうがない。もともとアステリスクとマシニクルが出せればそれでよかった。

ワイゼルの出番などなかった。

やりくりターボは多分きっともしかしたらおそらくグランエルのためさきっとそうさ。

しょうがないじゃない、賜与が仕事できないんだもの。

きっとあれだ、真っ二つになったプラシドをゾーンがあのでかい手でちくちく裁縫で直してるイメージ。

かーさんがーよなべーをしてー、みたいなノリで、やりくり上手。

それより冥界の宝札なんか対応してるモンスターメタイオンしか…

Sinは…エンドしかいないけど、

まあコストダウンでレベル下げてパラレルギアとでパラドクス出して、強制転移で送りつけて機皇神で頂きますバズーカするんでしょう。

多分。

ああ、サイバーエンドとアステさんが並んでいるのはレベルと召喚制限満たした後の出し易さくらいです。念の為。

メタルリフレクトスライムがサイバーエンドに突然変異したあの頃が懐かしい。

ネオバブルマンは犠牲になったのだ。突然変異禁止の犠牲にな…

泣けるぜ……



遊戯戦は……むしろ綺麗に纏まった…?

わざわざADチェンジャーをジョーカーでなくてスターダストシャオロンに使ったのはあれだ。

超電磁タートルを警戒したんだ。OCG化してないけど、っていうかしろよ。

変更前はぶられてた闇紅さんもちゃんとバトルに参加したし……パラディンでエクィテス倒せたし。

団結は結束の力っぽいし、魔導師の力を使った事はあったからまだあれだが、移り気な仕立屋がどうも…

うーん力の集約は本編で使ってたから、ホントはそっちを使いたかったけど。罠だし、流れがまたあれで…うーん。



>>3話の遊戯とのデュエルでドッペル・トークンを1体異次元の精霊のコストに使ったのに、

>>セイヴァー・スターのシンクロにドッペル・トークン2体をシンクロ素材にしてレベル11になってる。

>>『レベル1のドッペル・トークン二体を・・・』のところを一体に直すべき。



一応「星屑龍とトークンの二体に…」と、星屑を含めた二体のモンスターにセイヴァーをチューニング。

となっていました。が、分かり易い方がいいので修正。

GFX様、すみませんでした。ありがとうございます。



レン様よりご指摘。

>>第三話の、主人公VS遊戯戦ですが、主人公の1ターン目の行動は、

>>1,カードフリッパーの使用(手札コストで1枚墓地へ)

>>2,ジャンク・シンクロンの召喚(手コスで墓地に送ったスピード・ウォリアー蘇生)

>>3,ジャンク・ウォリアーをシンクロ召喚(遊戯の重力解除で守備表示に)

>>4,プリベント・スター発動(砂塵の大竜巻で破壊される)

>>5,リバースカード2枚(次のターンで発動される強制終了とリミッター・ブレイク)

>>つまり主人公の初ターンの手札6枚は、

>>『カードフリッパー』・『スピード・ウォリアー』・『ジャンク・シンクロン』・『プリベント・スター』・『強制終了』・『リミッター・ブレイク』となり、

>>このターンで全て使ったことになります

>>そして次の主人公のターンですが、

>>『カードをドローし、即座に手札のカードと入れ替える。』

>>とありますが、手札ないですよね?

>>しかしこのターン主人公は、『ターボ・シンクロン』の召喚とリバースカードのセット(荒野の大竜巻)となぜか二枚の手札が存在します。



なん……だと……?

ホントだ。ホントに最初の方の話間違い多いなぁ。修正しました。

ご指摘、ありがとうございました。



>>第三話

>>>「だが、私たちの持っているカードとその5枚だけでは流石にアンティの釣り合いが取れないな」⇒(エクゾ+紅眼×3=)8枚だけでは?

>>>そしてマシンナーズ・フォートレスは手札経と戻ってもらおうか」

>>⇒手札へと

ファンゴ様より指摘ありました。修正済み。ありがとうございます。



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