<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.26037の一覧
[0] 【ネタ】トリップしてデュエルして(遊戯王シリーズ)[イメージ](2011/11/13 21:23)
[1] リメンバーわくわくさん編[イメージ](2014/09/29 00:35)
[2] デュエルを一本書こうと思ったらいつの間にか二本書いていた。な…なにを(ry[イメージ](2011/11/13 21:24)
[3] 太陽神「俺は太陽の破片 真っ赤に燃えるマグマ 永遠のために君のために生まれ変わる~」 生まれ変わった結果がヲーである[イメージ](2011/03/28 21:40)
[4] 主人公がデュエルしない件について[イメージ](2012/02/21 21:35)
[5] 交差する絆[イメージ](2011/04/20 13:41)
[6] ワシの波動竜騎士は百八式まであるぞ[イメージ](2011/05/04 23:22)
[7] らぶ&くらいしす! キミのことを想うとはーとがばーすと![イメージ](2014/09/30 20:53)
[8] 復活! 万丈目ライダー!![イメージ](2011/11/13 21:41)
[9] 古代の機械心[イメージ](2011/05/26 14:22)
[10] セイヴァードラゴンがシンクロチューナーになると思っていた時期が私にもありました[イメージ](2011/06/26 14:51)
[12] 主人公のキャラの迷走っぷりがアクセルシンクロ[イメージ](2011/08/10 23:55)
[13] スーパー墓地からのトラップ!? タイム[イメージ](2011/11/13 21:12)
[14] 恐れぬほど強く[イメージ](2012/02/26 01:04)
[15] 風が吹く刻[イメージ](2012/07/19 04:20)
[16] 追う者、追われる者―追い越し、その先へ―[イメージ](2014/09/28 19:47)
[17] この回を書き始めたのは一体いつだったか・・・[イメージ](2014/09/28 19:49)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[26037] この回を書き始めたのは一体いつだったか・・・
Name: イメージ◆294db6ee ID:191fe6c6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/09/28 19:49
「アン・ドゥ・ドロー! アン・ドゥ・ドロー!!」

「「「アン・ドゥ・ドロー、アン・ドゥ・ドロー」」」

「アン・パン・マン、アン・パン・マン」



今日もいい朝だ。

そして、俺という存在が喋るのは随分久しぶりだ。

前の話でも微妙に喋ってたろ、と思われるかもしれないが……

しかし、あの辺りはかなり昔に書いた部分だ。

最早書いた人間が何を喋らせたかも憶えてないレベルだ。

セリフはジョジョネタだったから、多分ジョジョのアニメがやってた頃に書いてる。

オールスターバトルのPVで盛り上がってた頃に書いてる。



「声が小さい! アン・ドゥ・ドロー!! アン・ドゥ・ドロー!!!」

「「「アン・ドゥ・ドロー! アン・ドゥ・ドロー!」」」

「シャバドゥビ・タッチ・ヘンシーン! シャバドゥビ・タッチ・ヘンシーン!」



今はこうして、早朝のドロー訓練を三沢たちに誘われてやっているが…

遊星がジャックに勝利して、それからの大騒動。

マスコミが雪崩れ込み、ジャックは病院送りにされ、遊星は逃げ出して。

それはもうカオスだった。

追えない事はなかったが、あのルドガーの駒……名前何だっけ。

まあいいや。仮にトーマスとしておこう。

その、トーマス・フィッツジェラルドさんとのデュエルは、さほど気にする事じゃないと判断した。



まあなんだ。

俺って実はこう見えて、並みの人間なら余裕で死ねる事故り方したばかりなんだ。

ジャックも一時入院だし、俺もちょっと我が家(学生寮)で休息だ。

休みすぎる暇はないが、入院頻度がナッシャークさんクラスにならなければセーフ判定で。

しいてあちら側に残した問題をあげるなら、ば。

あの時の会場の混乱に乗じて、ゴドウィンとかに見つからないように逃げてきたので、

龍可ともちゃんとした話が出来ていないということだ。

また怒られるかもしれない。



「エックス! その妙な掛け声はなんだ!」

「フレイム、プリーズ!」

「プリーズじゃない!」

「ボルケーノ、ナウ!」

「ナウでもない!」

「バーニング・ナウマンダー!」

「何がだ!」



いや、何でも。

ライダーライダー言ってる割に、フォーゼやウィザードをネタに出来てないから。

こういう時にガンガン使って行きたいなって。

ハルトのせいよ! とか言ったら、フォトン・ストリームされそうだから言わないけど。



「それより、なんでいきなり俺たちまでこの朝練に巻き込まれてるんだよ。

 朝練ならほら、山に入って熊をセットするとかあるだろ?」

「何を言ってるんだ。この島は今、セブンスターズに狙われているんだぞ。

 デュエルアカデミアは、オレたちの手で守らなきゃいけない。

 だからこそ、オレたちはこうして訓練をするべきなんだ。

 セブンスターズは強敵だ。気を抜いていい相手じゃないのは、お前の方がよく知ってるだろう?」



タオルで汗を拭いながら、そんな事をのたまう三沢。

俺はもうセブンスターズと戦わないし。

そんな事を言われても、どう反応してよいのやらだ。



「あのカミューラとの戦い以来、しばらく鳴りを潜めているが、必ず次の刺客はやってくる。

 七星門は二つが開き、残りは五つ。

 絶対にオレたちの鍵を奪われるわけにはいかない」



俺の持ってる鍵とか、覇鍵甲虫くらいなもんだが。

ああ、皇の鍵もあるか。

商品説明にナッシャークさんに折られても自然に直ったりしませんって書いてあった奴。

今度はそのナッシャークさんのペンダントも出たし。

捨てられてたけど。



「そうは言ってもボクたち……」

「七星門の鍵なんて、持ってないんだな」



翔と隼人もこの始末。

というか、仮に七星門の鍵を持っていてもこの状況はおかしいのだけど。

猛る三沢が早朝特訓を一時停止し燃えていると、

今のドロー訓練で翔が引いたカードを、十代が覗き込む。



「ん? あれ、雷電娘々?

 翔のデッキでこのカード使えるのか?」

「あ、これはアイドルカードっス。

 こういうカードが手札にあると、ピンチの時に癒されるんだ」



気持ちは分からんでもないが、幾らなんでもどうも使いようのないカード入れんでも。

いやまあ、とりあえずピンでなら立たせとく事の出来る打点1900ではあるか。



「オレもそうなんだな。ピンチの時にこいつが来ると、凄く落ち着くんだな」



そう言って隼人が見せてくれるのは、ディアン・ケト。

ちゃんと実用も考えられる分、翔のよりはいいと思うが。

ピンチにそいつが来ても多分状況は変わらんしな。

んー、俺に関してはある意味デッキの中全てアイドルカードですし、言えた事じゃないけど。

やはりエースとアイドルを兼ねる青眼や時空竜こそ最強か。

……なんか違う気がする。



「ねえねえ、アニキにもあるでしょ? お気に入りのカード!」

「そりゃオレにだって…」



そうやって話しているうちに、三沢が無言で近くに歩み寄ってきていた。

怒鳴るのだろう。

いつでも耳を塞げるように、手の感覚を研ぎ澄ます。

気分は今にも白刃取りにでも挑戦するような勢いである。

ハァ、と三沢の一際大きな呼吸。

ここぞというタイミングで、耳を庇いにかかる。



「コラァーッ!!!」



ミッチーの怒号は、俺たちの耳を破壊する音波となって襲い来る。

回避できたのは俺だけだ。

あとの三人は実に死屍累々、頭を抑えて蹲っている。



「お前たち、何がアイドルカードだ!

 女の子にかまけていて、セブンスターズに勝てると思っているのか!」

「女の子って……」

「それにオレたちは、セブンスターズとは戦わないんだな」

「そもそもアイドルカードを女の子と断定するのもどうかと」



復帰した翔と隼人が燃えてる三沢に批難を浴びせる。

青眼は元々が元々だから女の子扱いでもいいけれど、

時空竜は我が生み出した分身だよォ! だし。

が、しかし。

その程度では三沢の炎は消えない様子。



「真剣にデッキを組んでいたら、そんな不純なカードは一枚も入らない筈!」



言ってから、一瞬停止してかすかに頬を染める三沢。

結局ピケルはデッキに入ったままなんだろう?

しかしどうだろうな。

翔や隼人に比べたら、実用的かもしれないが。

展開したモンスターを守るアモルファス・バリアなんかもあるし、まあいいのか?



「とにかく! アイドルカードなど、軟弱な奴の持つものだ!」

「でも、ピンチの時にこういうカードがあると落ち着くっていうか…」

「渇ッ!!!!」



威嚇する咆哮。

その勢いに圧されて引っくり返る翔たち。

なるほど。

そんな感じでピケルを守り、ライフを回復するのか。



「心頭滅却すればピンチもまた涼し。さあ、練習練習!」



涼しかろうが暑かろうがピンチはピンチだから、ピンチ時にいいカード引く特訓しようと言う事か。



そう言ってドロー練習に没頭する三沢。

そんな三沢を見て、翔が小声で呟くのは疑問。



「三沢くんって女の子に興味ないのかな」

「アイツは最後のサムライなんだよ」

「はえ?」



そしてこの回答である。

サムライだって、恋くらいするだろう。

それが実るかはともかくとして。

サムライならばやっぱり、家柄とかで決めた相手と見合いなんだろうし。

いや、知らんけどさ。

ヤリザ殿はそのあたりどうなのでござろうか。



「何か、意味が分からないんだな……」







「最強デュエリストのデェエルは全て必然!

 ドローカードさえ、デュエリストが創造する!」



―――光が集う。

指先に載せた全感覚が輝いて、希望の道筋を照らす。

伸ばした腕を全身全霊を籠め、振り翳す。

一度握り込んだ拳の中から、滾る光がオーラと化して迸った。

今こそ、という瞬間。

集中させた全ての力を、一途のドローに収束させる―――!



「シャイニング・ドローッ!!」



紙袋が舞う。

山盛りのパンの中から選び抜いた、たった一つの包み紙。

テンテロリン、と。頭の中にテロップが浮き上がった。



「ぐっ……ゴーヤパン……!」



片膝を落とす。



「まだだ…まだ俺には、ダーク・ドローとバリアンズ・カオス・ドローが残っている……!」

「なんなんすか、それ」



三沢の早朝訓練を終え、今は購買に集合中だ。

ただし隼人は教室で就寝中。ギリギリまで寝るらしい。



……よくよく考えれば、58パンとか当たりかもしれない。

そう考えるといっそゴーヤパンがエロく思えてきた。

やったね。



そして今、俺的には珍しく黄金のタマゴパンを外した、と言ってもだ。

十代がいる以上、そっちに流れるのは自然な話だ。

ゴーヤパンを齧りながら、十代のドローに目を送る。



「ドロー!」

「……ん?」



なんだろう、今。何と言うか、“来なかった”

具体的な話ではないが、圧倒的な運命力の保持者である十代のドロー。

それを間近で見る時は、言いようのない…力の迸り、的なものを感じるのだ。

それが今、全く感じなかった。

と、言う事はだ。

包装紙を破り、パンに食らいつく十代。

その表情が、当たりを引いた時の顔ではない事は、明らかであった。



「うぇ~、甘栗パンだ……」



さっきの俺以上の落ち込みぶりを見せてくれる。

珍しい。

十代が外すなど、それ以前に誰かに引かれている場合を除いて、殆どないのだが。

俺たちが開店と同時に押し掛けたので、そんな事は無い筈だが。



「十代まで外しちゃうとはね」



そう言って、自分の手の中のパンを口に運ぶ明日香。

両手にドローを持って、そうしているのはなかなか間抜けだと思う。

いくら美少女とは言え、両手にそれぞれ開封済みのパンは駄目だ。

両手で一個のパンをしっかりと持ってれば、それはそれで萌えポイントだのに。

腹ペコと悪食はまったく違う性質なのだから、その辺りには気を遣って欲しい。



「何か言いたげね」

「いや別に」



十代に引かれる前に、と。

色々悩んだ結果、二個購入と思い切ったものの、結局駄目だった残念な美少女。

そんな彼女の名前は天上院明日香。

そも、何故彼女はこんな朝っぱらから購買にいるのか。

……ん、この流れどこかで見た気がと言うか大山の流れだコレ。



「ごめんなさいねぇ、みんな。

 実はタマゴパンはこの中には無いのよ……」

「「えぇ!?」」



案の定というべきか、トメさんが来てそう教えてくれた。

……あれ、今朝の三沢とのやり取りから、今日ってタニヤが来るとばかり……

そもそも大山ってレイより前の回じゃないっけ……

まこと申し訳なさそうに、トメさんは続ける。



「確かに作って入れた筈なんだけどねぇ……

 いつの間にか、誰かが持って行っちゃったのか……」

「ええ!? それって盗まれたって事!?」

「あ、いや……もしかしたらあたしが勘違いして、変なところに置いちゃったのかもしれないわね。

 本当にごめんね。明日はちゃんと準備しておくから……」



そう言ってトメさんは何度も謝っていった。

まだ一日目だからか。

トメさんは誰かに盗まれたなんて言いたくないし、思いたくも無い様子だ。

十代も顎に手を当て、何やら考え込んでいる。



「……う~ん、おっかしいなぁ。トメさんがそんな事するかなぁ」



そりゃまあ、自分で作っているとはいえ、だ。

包装された状態のドローパンを見て、中身を完璧に判別するプロ店員であるトメさんが。

幾らなんでもそんなミスをするのか、という話になる。

特に、トメさんは黄金のタマゴパンをみんなが楽しみしている事を知っている。

そして何より、トメさんは黄金のタマゴパンで喜ぶ生徒たちの姿を楽しみにしている。

この状況証拠……つまり。



「これは事件、だな」

「お前は、万丈目!?」

「サンダー」



いつの間にか参上した万丈目。

彼は俺たちの後ろから、急に声をかけてきた。

そのセリフを聞いた明日香が、少々当惑気味に言葉を返す。



「でも、万丈目くん。幾らなんでも、これをいきなり盗難事件だとは断定できないわ。

 トメさんだって人間だもの。ちょっとミスくらい、たまにはあるわよ」

「確かに。

 トメさんが優秀な店員である事を考慮しても、絶対にミスがないとは言い切れない。

 だが天上院くんは一つ、大きな見落としをしている」

「見落とし?」



駄目だこいつ、完全に高校生探偵モードだ。

勿体ぶる様子の迷探偵サンダーが、人差し指を立てて推理を展開する。



「まずは状況を整理しよう。

 デュエルアカデミアでは、黄金のニワトリを一羽飼っている。

 このニワトリが一日に一つだけ産む黄金のタマゴ。

 そして、それを調理した目玉焼きを挟んだ、黄金のタマゴパンが存在する。

 黄金のタマゴパンは購買名物、ドローパンに混ぜられて、日に一つのみ販売されるものだ。

 その事実を知らない奴は、このデュエルアカデミアの生徒にはいないだろう。

 事件はこの黄金のタマゴパンが盗まれた事から始まる」



まだ始まってねえよ。

盗まれてもない。



「購買は7:30の開店。

 朝飯を食いっぱぐれた奴らが、授業前にここで朝飯を食う事があるせいだ。

 8:00には授業が始まり、12:00の昼休みまでは閉店状態。

 13:00から午後の授業が始まり、放課後までは同様に閉店状態。

 放課後開店した購買が完全に閉まるのは18:00。

 18:00に店を閉めた後トメさんは机仕事。帰宅は19:30~20:00頃。

 翌日、トメさんが店に仕込みへ入るのは3:00。

 5:00までの間にドローパンその他の仕込みを終え、一時帰宅。

 そして最初に戻る。

 恐らく犯人は仕込み後で開店前。5:00~7:30に犯行を済ませたのだろうな。

 また、窃盗の被害がタマゴパンのみでカードやその他の商品には及んでいない事……

 ここから推測するに、犯人は腹を空かせて耐え切れず、突発的に犯行に及んだ可能性が高い」



はあ。



「でも万丈目くん」

「名探偵・万丈目サンダーと呼べ」

「でもサンダー、何でその犯人はわざわざドローパンを一個だけ盗んだのさ。

 お腹が空いてたなら、もっと盗めばいいのに。しかも黄金のタマゴパン」

「翔、馬鹿かお前は。大量に盗めば一発で犯行がバレるだろうが。

 しかし、そいつが黄金のタマゴパンを引き当てたのは、恐らくまったくの偶然だ」



断定していいのか、それ。



「―――十代のアホはともかく、天上院くん。

 キミも気付かないかい。

 今、この学園には本来いない筈の人間が忍び込んでいる事を……」

「……まさか、セブンスターズ?」

「そう。奴らはこのデュエルアカデミアに既に潜入し、こちらの隙を窺っている……

 だが、オレたち七星門の鍵の守護者は、百戦錬磨のデュエリスト。

 奴らもそう簡単に手を出せなかった。

 こちらの実力に、当初の潜伏予定期間を超過してしまった連中には、もう兵糧が残っていない。

 だからといって、寮の食堂を使うわけにもいかない。当然、ここでの買い物もだ。

 ならばどうするか。そう、奴らはここで盗む以外に、食料調達の方法がなかったんだ」



オブライエンを見習えと言いたいな。

っていうかこの島、バナナとか自生してた気がするぞ。



「まあ、セブンスターズもそこそこやる連中だろうからな。

 空腹が限界だった奴らの本能が、栄養が豊富だと言われる黄金のタマゴパンを引き寄せたんだろう。

 そして、この推論が正しければ―――」



それは推論ではなく暴論なのでは?



「奴らは今日も同じように、食料を求めてここに現れる!」



じっちゃんの名に懸けて断言するサンダー。

どやぁ、と言わんばかりの雰囲気である。

もしそれが当たっているとするならば、最早セブンスターズ放っておいてもいいと思う。

そのうち自滅するよ、そいつら。

ほら、ほぼ内輪揉めで壊滅した七つ星とかいるじゃない。

このデュエル、バリアンが制す!(内輪揉めで壊滅しながら)

アリト一人で遊馬と4回もデュエルしているというのに、白き盾のデュエルは何故あれだけなのだ。



「おお!」

「だからだな、ここにおじゃまイエローのカードを仕掛けて犯人を……」

「じゃあ、今日はここで張り込みだな! 翔、隼人、授業が終わったら準備だ!」

「オ、オレもなのかぁ?」

「ば、誰が一晩中の見張りなんて言っ……」



サンダーはおじゃまイエローに押し付け、安眠を貪るつもりだったのだろう。

十代に肩を掴まれて、取り乱していた。

その手を振り解こうともがこうとしたものの、続く明日香の言葉で停止する。



「そうね。

 万丈目くんの言った可能性もあり得なくはないし……

 亮と三沢くん、あと大徳寺先生も呼びましょう」

「て、天上院くんも……!? ふ、二人で寮の外での外泊……!」



え、結局これはどうなんだ。

大山なのか、タニヤなのか、あるいは黒蠍だったりするのか。

……とにかく、俺も参加するしかあるまい。











トメさんに言って、従業員用の事務所を借りて詰所にする。

従業員と言っても、実際トメさんとセイコさんの二人だけ。

その上住み込みで働いてる二人のものは、殆ど置かれていない。

休憩用のテーブルと、品物管理用のパソコンくらいか。
本土への発注とかはメールなんだろうか、ここ。

あと、多分トメさんの私物だろうが……

壁に、やたらどっかで見た事があるような人物が写っているポスターが貼ってある。



「誰、これ」

「オレも詳しくはないが、最近流行りの恋愛ドラマの主演で、ヨン様と呼ばれてる役者らしい」



と、三沢が教えてくれる。

さいですか。

少なくとも俺の感覚では、流行ってたのは10年以上前だ。

雪の中で変なポーズ決めてる画のポスター。

これを見るに、きっと冬のなんたらとか言うドラマだろう。

ヨン様だか四様だかⅣ様だか知らないが、結構な事だ。

アニメスタッフの中でも、トメさんくらいのおばさんならばヨン様だという事になったのだろうか。

それとも同友だからか。どうでもいいけど。



「よーし、セブンスターズの奴らどこからでも来い!」

「奴らも少しは考えている。幾らなんでもこんな早い時間にくるか!」



時刻は18時すぎ。

準備万端の十代に、万丈目が突っ込みを入れる。

今この場にいるのは俺を含め六人。

十代、翔、隼人、サンダー、三沢だけだ。

明日香は後からくる、と言っていたからそろそろか。

あと呼ぶ予定だった二人は……



「それにしても、大徳寺先生の用事って何なんだな。

 セブンスターズほっぽってでもしなきゃいけない事があるのか?」

「ふん、どーせ恐がって来ないだけだ。

 今頃自分の部屋に閉じこもっているさ」



……なら楽なんだが。

むしろ、この大徳寺先生の行動的に実は本当にセブンスターズなのかもしれない。

首領・ザルーグとかが盗み食いをしたのが実際のトコだったり。

それを止めさせるため、急いで行動してたり?



「……流石にないか」



ダークネスはまずないだろう。

深層に閉じ込められた吹雪の意識が、黄金のタマゴパンに引き寄せられた。

とかでもない限り。

お願いしますから、そんな事では絶対にありませんように。

タニヤもまあない。虎は知ら管。

タイタン、アビドスだって考え難い。

アムナエルは、っていうか先生じゃないだろう。食堂を自由に使える人だ。

……まさか、ファラオのハート1イベントがいつまで経っても発生しないから……?



「………流石にないわ」

「えー!? お兄さんも来るんすか!? ちょっとそれって……」

「いいじゃんか。兄弟で話だってあるだろ?」



あとカイザーか。

カイザーは明日香が連れてくる、という話になっているが。さて。

と、翔がうろたえていると、明日香が事務所の扉を開き、やってきた。



「ごめんなさい。遅れたわ」

「お、明日香。あれ、カイザーは?」

「亮は……ちょっと、今日は来れないって。

 まあ、セブンスターズの仕業と決まったわけじゃないし、無理強いできないもの」



カイザー欠席。

これでダークネスだったらどうしたものか。

十代の勝ちを疑うわけじゃないが、闇のゲームが初めてのままダークネス戦。

これは余り嬉しい状況ではないのだが。

サイコショッカー戦。

そして俺とカミューラのデュエルを見たという経験を活かしてもらうしかないか。



「フッ、安心したまえ天上院くん。

 このボクにかかれば、セブンスターズなんて大した事はない」

「待て、万丈目」

「サンダー!」

「サンダー。もし相手がセブンスターズだったなら、相手はオレがやるべきだ」

「なにぃ?」



三沢が胸を張り、当然だと言わんばかりに語る。



「また相手がカミューラのように卑劣な作戦を使ってくる可能性もある。

 だったら、相手の戦略を見抜く力を考慮すべきだ。

 お前や十代ではその点で不安が残る」

「んなっ! お前、オレを十代と一緒にするのか!?

 ええいっ、だったら今ここでデュエルしろ! 戦うのはここで勝った奴だ!」

「ふむ、いいだろう。それが一番確実に正しい結果を出してくれるだろうからな」

「勝手に進めるなって! オレも参加する!」



テーブルの方で騒ぎ始める三人。

それを見た明日香が、小さく溜め息を漏らす。



「ふぅ……まだセブンスターズの仕業と決まったわけでもないのに」

「トランプ持って来たけど、アニキがあの様子じゃ出番はないかなぁ」

「あら、なら折角だしわたしが参加させてもらうわ。いいかしら?」

「明日香さんも!? じゃあ早くやろう!

 ほら、隼人くんも! ついでにエックスくんも!」

「分かったから落ち着くんだな、翔」

「あ、ああ。うん……」



しかし、どうなるのやら。











「先攻はもらうぞ! オレのターン、ドローッ!」



ディスクにセットされたデッキに手をかけ、指先でカードを掴む。

勢い反るカードを引き抜き、五枚の手札の中に加える。



夜行のデッキには、既にシンクロモンスターが投入されている。

そのカードを出す為のモンスターは自然、海馬瀬人が知り得ないモンスターの登場を意味する。

だからと言って、この男が己の戦術を曲げるわけは無く―――

まして、警戒などという姿勢をとる事を是とするわけが無い。



「オレは闇・道化師のペーテンを守備表示で召喚!」



瀬人が手札から選んだカードをディスクに置く。

途端、前方に現れた夜色の霧の中から、白い仮面が零れ落ちた。

仮面がセラミックタイルの床に落ち、乾いた音を響かせる。

一瞬だけ表情を難くした夜行の視線が、その仮面の後を追う。



と、次の瞬間。

仮面が湧いて出たかのように見えた霧の中から、細い腕がぬるりと生えてくる。

腕に続いて肩、そのまま上半身がせり出して、すぐに全身が露わになった。

褪せた黄色と緑色の道化装束が躍る。

仮面の底に顔を隠した闇道化は、頭をすっぽりと覆い隠す鍔広の赤い帽子を片手で押さえ、

その帽子の上でマゼンタのフリンジを波打たせながら、仮面の下でカタカタと嗤う。



「闇・道化師のペーテン……」



夜行が僅かに顔を顰める。

たかだか攻撃力500の下級モンスター、守備力1200の壁モンスターに対してその態度。

その心中の真相は当然、海馬瀬人を知るからこその事。

この相手においては、戦闘力を持たないからこそ、気をつけなければならない戦術が隠されている。



「カードを1枚伏せ、ターン終了だ」



道化の背後に仕込まれる伏せカード。

その正体は現状判然としないが、しかし。

あの道化師の存在が、ウィルスキャリア・・・・・・・・である可能性を考えないわけにはいくまい。



海馬瀬人のデッキに仕込まれた、究極の滅札兵器群。

ウイルスカード。

死のデッキ破壊ウイルスはもとより、何より完全破壊-ジェノサイド・ウィルス。

フィールドのモンスターをキャリアとして感染した場合、夜行のデッキがどうなるかは明白だ。



「わたしのターン、ドロー!」



ドローカードを加えた手札を見定める。

彼の手札の中にバックを処理する手段は存在せず、

つまり最も対応を優先すべき対象に手も足も出せないという事実が突き付けられる。

だが、今。天馬夜行のデッキには、氷の龍が在る。

何より融合・シンクロモンスターが収まる第二のデッキは異界。

如何なウイルスであろうとも、あちらは感染範囲外だ。



狙うべきは、と。

夜行が静かに思考を回す。

仮にあれがウイルスキャリアだったとしても、それならばそれで対抗手段はあるのだから。



「わたしは、手札のカオスエンドマスターを攻撃表示で召喚!」



夜行が手札を切ると同時、眩い後光を背負った男がフィールドに舞い降りた。

光を伴い下りてきたその背には、純白の鳥の羽。

羽と同色の衣で身を固めたその男の外見は、天使のそれと等しいと言えるだろう。



「……カオスエンドマスターだと」



疑問の響きが混ざったその声は、瀬人のもの。

何故と言うならば、そのカードを知らないからだ。

凡百のデュエリストであれば、おかしなことではないだろう。

だがしかし、ここにいる海馬瀬人においては、そんな事は有り得ない。

何故って、このデュエルディスクがリンクしているカード情報を管理しているサーバーは、

彼が作り上げたモノなのだから。

カードテキスト、効果の裁定、イラスト情報から形成したソリッドヴィジョン。

それを一括管理する装置の創造主が認知していないカード?

それがバグ以外の何だというのだ。



―――武藤遊戯とデュエルをした正体不明の男と、同じ不自然。



だがそれを咎めるどころか、瀬人はその顔に不敵な笑みを浮かべる。

ちょうどいい、この現象の真相を見極めてやる。

と。



不敵に笑む瀬人を前に、夜行が腕を振り上げる。

指先を指揮者のタクトの如く揮い、自らに従う魔物への指令とする。



「カオスエンドマスターで、闇・道化師のペーテンを攻撃!」



純白の翼を羽搏き、戦士が来る。

白光と化した
道化は飄々とした態度を崩さぬままにそれを迎え、一瞬だけの交錯。



瞬きの暇さえ許さぬ、その一合で既に勝敗は決している。

体が解れて崩れていくのは、闇の道化ペーテン。

その身は、笑い顔を浮かべる仮面を張り付けたまま、断末魔を上げる異様を晒す。

社内で反響する金切り声を聞いてしかし。

対峙する二人のデュエリストはその表情をまるで変えない。



光と消えるペーテンの姿。

そのカードが墓地へ送られた、段階となって。



「「この瞬間!」」

「闇・道化師のペーテンの」

「カオスエンドマスターの」

「「効果発動!!」」



互いの宣言に呼応して、デュエルディスクが光を帯びる。

デッキホルダーのロックが解除され、デュエル最中でありながら、その手にとる事を許された。



瀬人が自身のデッキを取り出して、扇状に広げた。

その中から選ぶ一枚は、先にフィールドにあったカードと同じもの。



「闇・道化師のペーテンが墓地に置かれた事により、そのテキストに記された効果が発動する!

 墓地からペーテンを除外する事で、デッキから同名モンスターを特殊召喚させてもらうぞ」



再び仮面の道化。

闇道化の名に反した明るい道化衣装に身を包んだそれは、けらけらと嗤い踊る。

仮面の顔を隠すように、帽子の縁を両手で握って下に引く。

その様子は守備態勢を示すものなのだろうが、その嗤い声を聞くに、嘲弄であるようにもとれる。



続いてデッキを手にするのは夜行。



「カオスエンドマスターは、戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った時!

 デッキからレベル5以上、攻撃力1600以下のモンスターを特殊召喚する事ができる!」



デッキを浚い、その中から1枚を選び抜き、その手に取った。

片手の薬、小指だけで器用に手札を保持しながら、デッキをシャッフル。

それをデッキホルダーへ再セットする。

そして、選んだモンスターをディスクへと滑り込ませる。



「わたしが選んだのは、深海の戦士!」



夜行の足許から水が湧き立つ。

大地から、天を突き刺すがごとく迸る鉄砲水。

水流を掻き分けて侵出してきたのは、緑の鱗に覆われた半人半漁の怪人。
戦士、という称号に恥じぬ鎧と槍を携えて、それは夜行のフィールドに現れる。



「深海の戦士。ふぅん……気に食わんモンスターだ」



瀬人の視線が、バイザーに隠された深海の戦士の顔に突き刺さる。

その眼光を無いものと、深海の戦士の様子に揺るぎは無い。

自身のモンスターを見て苛立つ瀬人に、夜行は笑み、言葉を飛ばす。



「確か、この会社の重役の一人でしたか。

 名前は……すみません。聞いていたのですが、忘れてしまったようだ」

「―――――」

「BIG5の、何という方でしたか?」



瀬人の中で、天馬夜行という人間から感じる違和感が膨れ上がる。

BIG5の顛末を知る者は、精々がバトルシティ決勝トーナメント参加者に限られる。

だというのに、これはなんだ。



「……ふん。貴様と変わらん。

 わざわざ憶えておく価値もない、貴様が出したそのモンスターと同じ。

 あれは愚にも付かんクーデターを企てた挙句、何ら成果をあげられず敗北した雑魚だ」



あれは、ただ兄への嫉妬と劣等感で暴走しただけではない。

裏に何かがある。

少なくとも、海馬コーポレーションと比肩し得る何かを有するものが。



瀬人の言葉を聞いた夜行が、ふと視線を泳がせた。

それを見た瀬人が、視線を鋭く澄ます。



「そうですか。貴方にも忘れられてしま……」

「ふん、何を勘違いしている」

「っ」



割り込む瀬人の口。

それに押し留められた夜行が、瀬人を正面から見据えた。

その夜行を嘲るように。



「オレが貴様と変わらん、と言ったのは貴様に同意したのではない。

 貴様が。今、ここでそうして振る舞っているその有様。

 つまり、兄への劣等感から暴走し、挙句の果てにこのオレへ楯突くという身の程知らずの所業。

 そのあまりの無様さ加減が、あの無能どもと同じレベルだと言ったのだ」

「な、に……!」



ギリ、と。夜行が歯を食い縛る。

その言葉で爆発したのは怒り、だけではない。

溜め込まれた相当量の感情が錯綜し、その頭の中で暴走した。

夜行のそんな様子を見てとりながら、瀬人は言い淀む事もなく当り前に続ける。



「月行以下の雑魚デュエリストが、オレに刃向かうなど……

 恥を痴れ、天馬夜行」

「黙れっ……! 海馬、瀬人……!」



瀬人に向けられた静止の声は、掠れながら絞り出されたものだ。

―――夜行の様子は、明らかに異常だった。

瀬人が月行の名を出した途端、その様子どころか人相までも劇的な変化を遂げている。

目を見開き、息を荒げ、明らかに正気ではない様子で瀬人を睨む。



「まだバトルフェイズは終わっていない……!

 行け、深海の戦士っ!」



戦士が動く。

中空をまるで泳ぐように滑り、手にした三叉槍でペーテンを狙う。

道化にはそれを防ぐ手段はない。

緑黄の衣装がわたわたと慌てるように騒ぎ、すぐさま襲い来た槍に貫かれた。



ペーテンの胴体を貫いた槍を、獲物を突き刺したまま横に薙ぐ。

力任せに振り抜かれた刃が、道化の身体を上と下とで斬って別ける。

光を撒き散らしながら崩れる姿。

その末期の死骸を、しかしペーテンと同じ姿をしたものが、すぐ背後で眺めていた。



「ペーテンは深海の戦士に破壊され、墓地に送られる。

 そいつを除外することで、オレは同名モンスターを再び守備表示で特殊召喚させてもらう」



自身の前身を両断した深海の戦士を前に、3体目の道化は嘲り笑う。

その様子を気に留める事もなく、自陣に引き返す深海の戦士。

様子が狂った夜行は、その変調を更に大きくしていく。

モンスターからの煽りにさえ怒っての激昂。



「わたしは、カードを1枚セットしターンエンドッ!」



まともな精神状態ではない。

瀬人が夜行に対し、降した判断はそれにつきた。

スイッチは月行との比較だろう。

そのコンプレックスを指摘され、刺激された事での崩壊。



瀬人はひとつ鼻を鳴らし、しかしどうでもいい事と斬って捨てた。

今、重要な事はそこではない。

夜行が盗み出したカードの事の方が、遥かに重い。

当然、引き摺り出す。



「オレのターン、ドローッ!」



ドローカードを手札に混ぜ、状況を見渡す。

既に、強靭にして無敵なる切り札は手札に舞い込んでいる。

だがまずは、奴に切らせる方が先だ。



「オレは、闇・道化師のペーテンを生贄に捧げ、カイザー・グライダーを召喚!」



ペーテンが嘲笑したままに、その身体を打ち捨てる。

その魂を糧に、新たな魔物がこの世界へと進出するのだ。

光を帯びた黄金の竜。

燃え立つ炎が如く光を立ち上らせる姿は、荘厳な雰囲気を醸し出している。



「攻撃力は2400!

 過去の亡霊を消し飛ばすには、十分だ!」



機械的な黄金色の翼を広げ、空を斬り進む。

カイザー・グライダーが、夜行の傍に控える深海の戦士を標的に定めた。



「バトル!

 カイザー・グライダーで、深海の戦士を攻撃!」



瀬人の頭上遥かまで舞い上がり、カイザー・グライダーが口を開く。

その奥、竜の体内で生成された黄金の光が、収束されていく。

眼下で攻撃の気配を察知し、深海の戦士が身構える。

掲げられる三叉槍で迎え撃つ心算―――



否。



槍を持つ手を、半身ごと後ろに反らせる構え。

狙いは無論、投擲によって撃ち落とす事。

天空を駆ける竜を狙う、バイザー越しの戦士の眼が輝いた。



ドン、と。

前につんのめるほどの、一気呵成な踏込み。

踏み込んだ脚から昇る勢いが、後ろに引いていた半身を前へと突き出した。

全身ごと振り抜かれる腕が投槍を解き放つ。

それは、一条の閃光と化し天の竜へと突き進み―――



逆流してくる竜の吐息。

黄金の爆裂破に、融かされ押し流された。

カイザー・グライダーのそれは留まる事を知らず、そのまま武器を手放した戦士に直撃する。

体勢を立て直す間もないまま、深海の戦士の存在は一欠け残さず蒸発していた。



2体の攻撃力の差は800ポイント。

夜行のライフにそれだけのダメージを負わせ、バトルは終了した。



竜のブレスの残光が残るフィールドから、夜行がゆらりと顔を上げる。

その視線の先にあるのは、カイザー・グライダー。

海馬コーポレーションの広い通路で、限界一杯まで高く飛ぶドラゴンの姿。

睨むようにその姿を見て、小さく歯軋りを鳴らす。



「……わたしは、貴方のバトルフェイズ終了後。

 このカードを発動させてもらう。速攻魔法、光神化!」



夜行のフィールドのセットカードが開く。

そのカードから光の柱が立ち上り、天界への階を繋いだ。

更に手札から1枚を選び取り、それを瀬人へ見せつける。



「光神化は、手札から天使族モンスターを攻撃力を半分にして特殊召喚するカード。

 わたしはこの効果で、堕天使アスモディウスを特殊召喚します」



光の柱の中を下りてきたのは、紫翼の天使。

堕落し闇色に染まった翼と反する、神々しいまでの白光。

大いなる罪源の一つを司りし、堕天使にして魔神。

その威容は尋常の範疇に収まるものではない。

デュエルモンスターズ界においても、最強を名乗って遜色のないパワーを感じさせる。



が。

それは何の縛りも無い場合だ。



「アスモディウスの攻撃力は光神化の効果により半減し、1500になる」



無理な光臨によってパワーを消耗した天使の力は、半分が関の山。

本来であれば発揮される圧倒的な力は、けして奮われる事は無い。

その非力さを無様と断じ、瀬人は失笑する。



「フン、オレはこれでターンエンド。

 よって、アスモディウスはそのまま破壊される」



光神化の効果は一時に限る。

可及的速やかに天使を降臨させるこの術は、天使が現界する為の寄り代の強度に難がある。

降ろした天使に全力を奮わせる事は叶わず、挙句時間制限まで設けられている。

光神化による特殊召喚は、エンドフェイズに破壊されるというデメリットを背負う。



紫翼の堕天使の身体に罅が奔る。

それは瞬く間に全身を駆け巡り、端から崩落していく。

堕落した天使の魂はここに失墜し―――



「そして、アスモディウスの効果が発動されます」



夜行の言葉。

それと同時に、掌を崩れる堕天使に向ける。

瞬間、残骸が泡立ち、アスモディウスの身体が湧き出した。

それも一つではない。

赤と青。二色の魂に分離して、それは現世へと舞い戻ってきた。



「アスモディウスが墓地ヘ送られた時、わたしのフィールドにアスモとディウス。

 二体のモンスタートークンを特殊召喚するのです。

 アスモは効果破壊を受け付けず、ディウスは戦闘による破壊に耐性を持つ」

「要するに雑魚を二体並べただけか。

 破壊耐性を持っていようが、所詮攻撃力1800と1200のトークン。

 それではオレの、カイザー・グライダーさえ倒せんぞ」

「では」



ターン宣言はなく、夜行がデッキからカードをドローする。

そのカードに眼を送る事すらせず、手札の1枚と入れ替えた。

その途端。赤と青、二色の魂の残滓が燃え上がる。



「わたしはアスモとディウス、二体のモンスターを生贄に!

 闇の侯爵ベリアルを召喚!!」



二つの魂を供物とし、降霊されるのは黒い悪魔。

端麗な容姿に、背中の翼。

或いはこれが天使だと感じる者もいるだろう。

しかし、純粋なまでに黒い翼が、何よりもこの存在が悪魔だと語る。

闇の中で支配権を得る邪悪と罪悪の化身。



ベリアルは手にした大剣を片手で振るい、夜行の許に舞い降りる。

夜の闇に染み込むように馴染む光景。

第二の位階を与えられた悪魔を従える彼のその姿は、まるで―――

と、一瞬瀬人の思考が乱れる。



「闇の侯爵ベリアル……」

「ベリアルの攻撃力は2800。

 貴方のカイザー・グライダーの攻撃力2400を上回ります」



カイザー・グライダーに、剣の切先が向けられる。

夜行の指令が下れば、ベリアルは悠々と彼の竜を斬り捨てるだろう。

ならば、と。

瀬人は腕を挙げ、己の隣に金竜を呼び寄せる。

床スレスレまで高度を落した竜は、一度羽搏くとベリアルに眼光を射向ける。



「だがカイザー・グライダーには、破壊され墓地に送られた時、発動する効果がある。

 フィールド上のモンスター一体を手札に帰す効果がな。

 ベリアルには攻撃・効果を自身以外を対象として選べなくする効果があるのだったな……

 つまり当然、ベリアルを対象にこの効果が発動する事になる。

 べリアルがカイザー・グライダーに戦闘を仕掛ければ、カイザー・グライダーは破壊される。

 カオスエンドマスターのダイレクトアタックも受ける事になるだろう。

 だが、ベリアルには手札に戻ってもらう」



ピクリ、と夜行の眼が僅かに眇められた。

その反応に気分を良くしたかのように、瀬人は悪辣にすら感じる笑みを浮かべ続ける。



「ククク、手札の特殊召喚魔法と最上級モンスターを犠牲に出したベリアルだ。

 どうするか、慎重に選ぶんだな」



残りの手札は3枚。

仮にベリアルが返されても、カオスエンドマスターはフィールドに残る。

そして、海馬瀬人のフィールドにモンスターはなくなり、ライフは2100まで消耗する。

圧倒的に優位なのは言うまでも無い。

が、その後に残されるのは、攻撃力1500の下級モンスターのみ。

海馬瀬人のパワーデッキを前にして、耐えられるモンスターだとは思わない。

カイザー・グライダーの効果に対抗する策は無い。



選ばなくてはならない。何を残し、何を捨てるのか。

何を得る為に、何を犠牲にするのかを。

フィールドにはベリアルと、カオスエンドマスター。

最上級モンスターであるベリアルは、容易に倒せるモンスターではない。

ただそこにいるだけで、フィールドを席巻する魔神に違いない。

対するもう一体は下級モンスター。

それ一つでは、夜行を守る事など出来はしないだろう。

だが、ベリアルを犠牲にして手に入るものもある。

カイザー・グライダーの破壊だ。

あれに出てこられた以上、効果は発動は覚悟せねばなるまい。

ならば今、他のモンスターが存在しない今、発揮させてフィールドを空けさせるべきだ。

だが、相手を制するベリアルが消えれば、どうなる。

返しの攻撃は下級モンスターでしかないカオスエンドマスターを襲う。

そうなれば、ガラ空きを晒すのは夜行。



―――さあ、天馬夜行。おまえはどうする。



「……わたしはこれで、ターンエンド」



不服そうにベリアルが剣尖を降ろす。

如何な悪魔侯爵であろうとも、召喚者には反逆できない。



その判断を見た瀬人は、無言で己のターンに移行させた。

引いたカードを見るまでも無く、手は決まっている。

手札の中にドローカードを混ぜ、代わりに2枚を選び抜く。

しかしそれを切る前に、言うべき事があると。

瀬人はゆっくりと口を開く。



「所詮、月行にすら及ばぬ出来損ない。

 ペガサスの寵児ミニオンとして教育されていながら、何の功績も残せなかった無能か」

「ギ、月行……! あれと、わたしを……!」



夜行の顔が明確に歪む。

そんな様子に目もくれず、1枚目のカードをディスクへと投入する。



「オレは永続魔法、冥界の宝札を発動!

 このカードはの存在によりオレは、2体以上の生贄を捧げた召喚に成功した時、

 デッキより2枚の追加ドローを行う権利を得る」



それはつまり、彼が続ける戦術が一つしかありえないという事。

海馬瀬人の擁する最上級モンスター。

この世界の住人に訊けば、100人が100人その名を挙げるだろう。



「更にオレは魔法マジックカード、デビルズ・サンクチュアリを発動!」



評して、神を封じ神を呼ぶ魔の聖域。

瀬人の目前に浮かびあがる魔法陣から、もうもうと黒い霧がのぼる。

その霧中から現れたのは、金属の人形らしきなにかだった。

金属の光沢に映る夜行の姿。

鏡のように綺麗に、それは夜行の姿を写し取る。

それはまるで、瓜二つの双子が向かい合うかのように。



ギリ、と。

夜行が奥歯を砕かんばかりに噛み締める。



「デビルズ・サンクチュアリの効果により、オレのフィールドにメタルデビル・トークンを特殊召喚!

 そして、カイザー・グライダーとメタルデビル。

 2体のモンスターを生贄とし、オレは最上級モンスターを召喚させてもらう」

「最上級、モンスター……」



手札から抜く、更なるカード。

ディスクへと当てる前に、瀬人がその手札を公開する。

未染の純粋な力。バニラ色のカード背景。

描かれたイラストは、蒼銀に照る白龍の姿。

記されたテキストは、高い攻撃力を誇る伝説のドラゴン。

どんな相手でも粉砕する、その破壊力は計り知れない。



「それは―――」

「我が最強にして絶大なるしもべ!

 その力を以て絶対の支配者となりて我が領域に降臨せよ、青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン!!」



黄金の竜と、銀色の悪魔の写し身が、消滅する。

しかしそれらを構成していた光の粒子は消えず、集う。

瀬人の頭上で収束する光の粒。

それは確実に定められた形状に変貌していく。



翼を成す、爪を成す、尾を成す。

青味を含む輝きを帯びた白の身体が、光を集わせ再構成されていく。

完成するのは曲線的なフォルムが特徴的な、白龍の姿。

ただひたすらに美しいと感じさせる造形、輝き。

その姿を仰ぎ見て、瀬人は高らかに笑ってみせた。



「冥界の宝札の効果により、カードを2枚ドローさせてもらうぞ。

 ……フゥン。ミニオンの出来損ないの分際で、このオレに刃向かったのだ。

 覚悟は出来ているだろうな、天馬夜行!」



白龍が身をよじる。

揺らめくようにとる進路は、夜行の許へ続く道。

その間に立ちはだかるのは闇の貴族。

龍が動いた事を察知したベリアルの対抗は、一瞬の暇すら置かれず行われた。



即座に夜行の前を陣取り、その手の大剣を目の前に翳す。

あれがそこに立ちはだかる限り、夜行の陣地へ攻め入る事は不可能だろう。

ベリアルには、フィールドに存在する限り発揮される効果がある。

攻撃、効果問わず、対象をベリアル以外に設定出来なくする仁王立ち。

故にこそ、彼はそこで立ちはだかり――――



「バトル!

 青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴンで、闇の侯爵ベリアルを攻撃!

 滅びのバースト・ストリィイイムッ!!!」



終わりを迎えるのだ。



真正面に見据えたベリアルを撃つ為、青眼のドラゴンは顎を落とす。

大きく開かれた口の中に、体色と同じ色をした光が溢れる。

時を経る事で魔性を帯びた龍の息吹。

それは、純粋な一個の生命が辿り着いた極致。

最早放たれる事それ自体が、凱歌といって間違いない。



解き放たれるドラゴンのブレス。

口腔にて収束していたエネルギーが解放され、光線となって迸った。



魔神の対応も即時だ。

放たれたと同時、剣を奮って瘴気を撒く。

噴き出す瘴気の密度は、視界を塗り潰すほどに濃密で広範囲。

魔神の名を冠するに相応しい邪悪性の発揮だ。



―――さりとて、そんなものは何の意味も無い。

奔る極光は瘴気の壁を撃ち抜く。

光を塗り潰し、世界を溶かす瘴気の渦はしかし。

白龍の一息で容易に薙ぎ払われ、その意味を失くして霧散する。

前に張った壁を撃ち抜く光が、そのままベリアルの肉体をも巻き込んだ。



断末魔をあげる間もなく致死。

瞬時に蒸発まで到ったが故に、ベリアルはそこで終わった。



ベリアルを突き抜けてきた衝撃が、夜行の身体を襲った。

押し寄せる爆風から顔を庇うような体勢で堪える。

ものの、余りの風圧によろけて尻餅をつく。

その腕に嵌められたデュエルディスクの盤上で、デジタル表示が残りライフ3000を示した。



倒れた夜行を睥睨し、瀬人は腕を組みながら余裕を語る。



「せっかく盗み出したカードを使う間もなく、ライフを0にされるのが望みか?」



反応はない。

腰を落した姿勢で、顔を伏せている夜行が今、どんな顔をしているかは知れない。



「だんまりか。いいだろう、サレンダーでも何でもするがいい。

 貴様の微塵ばかりのプライドがサレンダーを許さんというのなら、

 オレが、最強無敵を誇る青眼ブルーアイズが引導を渡してやる。

 好きな方を選べ。

 カードを1枚セットし、ターンエンドだ」



瀬人の足許にカードのソリッドヴィジョンが現れる。

どうするものか、と。

瀬人の視線が夜行に向けられる。

その姿勢のまま固まった彼が微動だにせず、5秒、10秒とすぎていく。



何の行動も起こさず、そのまま終わるか。

侮蔑混じりに考えた。その時。

クッ、と。嗤笑するように咽喉を鳴らす音が耳に届いた。

誰が発したかなど確認するまでもない。

その声を上げた人物は、ゆっくりと立ち上がり、それにつれ笑い声の音量も上げていく。



「ふぅん……?」

「ク、ククク、フハハハハ……! 最強、無敵、です、か……

 なら、わたしが手に入れた力とどちらが勝るか、試してみましょうか!」



面を上げた夜行の顔は、既に正気かどうかすら疑わしい。

血走る眼で、瀬人の前に君臨する龍の姿を睨む姿は、最早狂気に触れている。

デッキからのドローカードを手札に混ぜ、1枚のカードをディスクへと奔らせた。

瞬間、光と共に人型が出現する。



「わたしが召喚するのは、水属性にしてレベル4! アトランティスの戦士!!」



四肢を持つ人型のそれはしかし、人としての外見は持っていない。

青い鱗に覆われた全身。

頭部から角のように生えた鰭。

臀部から伸びる尾。

それら全てが、この存在が人とは隔たったものであるという事を如実に示している。



だが、戦士の武器は右腕に括り付けられたボウガン。

その小さな武器の一つで、何が出来るだろう。

目の前に立ちはだかる白き龍に。

―――けして何も出来はしないだろう。このままでは、何も。



「アトランティスの戦士……」



天馬月行、夜行のデッキは、海馬瀬人の知る限り天使をテーマにしたもの。

深海の戦士時点でも感じたが、あまりに大きな違和感。

無理矢理に水属性モンスターを積んでいるような。

……それだけではない。

深海の戦士にまつわるエピソードを知っていた事もだ。



僅かばかり思考の中に落ちていた瀬人を、夜行の声が引き戻す。



「……海馬瀬人。貴方は超古代文明……アトランティスを信じますか?」

「貴様、何を言っている。気でも触れたか……?」



表情から感じる狂気は、その声の中には無い。

純真なまでな質問口調。



「……まぁいい。

 先史時代に栄えた超古代文明、オーパーツ。結構な事だ。

 そして、それを信じるかと訊いたな。ならば答えてやる。

 オレにとって過去に海へ沈んだ遺物など、何の意味もない。

 信じる価値も、まして疑う価値も無い。

 そして、そのような無価値極まるオカルト話に使う為の時間など――――

 このオレは持ち合わせてはいないッ!!」

「フフフ、そうですか。ですが、それは実在するのです。

 貴方は何度も経験している筈だ。

 武藤遊戯を通じて貴方が出合った超常の現象。

 武藤遊戯の千年パズル、ペガサス様の千年眼、イシュタール姉弟の千年タウク、千年ロッド。

 そしてバトルシティ準決勝、武藤遊戯とのデュエル。

 この世には、けして常識では計り知れない力が存在している。

 そうは思いませんか? 海馬瀬人」



徐々に陶酔していく夜行の顔。

それが何を意味しているか、などと最早考える気にもならない。

妄想話を断ち切る為に、瀬人は叫ぶ。



「海に没した大陸と云われる与太話を信じるというのであれば、好きにしろと言った!

 このデュエルに惨めに敗北した貴様を大西洋の底へ沈めてやろう!

 貴様の大好きなオカルト話は、海の底で深海魚相手にでも話していろッ!!」

「ですが、それは出来ない! 何故ならば……!」



夜行が腕を掲げ、同時にフィールドに動きが生まれる。

フィールドに残っていたカオスエンドマスターだ。

白翼の戦士はアトランティスの戦士と並び立ち、光を放つ。



「なにっ……!?」

「わたしは!

 水属性・レベル4のアトランティスの戦士に、レベル3のカオスエンドマスターをチューニング!」



カオスエンドマスターの身体が、輪郭を残して光に帰す。

その輪郭は三つに別れ、それぞれが円環を描く。

そして並んだ三つの輪へ潜るアトランティスの戦士。

輪に囲われた魚人の身体は解れ、光の星と化す。

三つの光輪と四つの星。

合わさった光は次第に眩いほどに輝いて、やがて混ざり合い光の柱を成す。



「――――永久の氷河に鎖されし世界にて眠りし龍よ。

 今こそまどろみの中より覚醒し、その息吹で世界の全てを凍て尽かせよ!

 シンクロ召喚――――氷結界の龍 グングニールッ!!」



光の柱に冷気が奔る。

拡大していた光が、その凍て付く風に呑まれ、一息で氷柱へと変貌した。

空中で生まれたその氷柱は、重力に引かれて地面に落ちる。

そして、夜行の目前へと突き立った。



――――大地に突き立った氷柱は、氷山が如く聳え立つ。

白む巨大な氷塊の中では、赤光が鼓動のように脈打っている。

鼓動の如き光の明滅が徐々に激しさを増し、氷柱が罅割れていく。

砕けた氷は滑り落ち、それに内包されていた形状を露わにする。



覚醒した龍はゆっくりと地に足を降ろす。

足を降ろした傍から、バキバキと社内の床を氷結させていく四足龍。

体内から溢れ出る赤光で照らされる姿態には、一切の澱みも汚れもない。

純粋かつ無垢な氷の龍。

顔の洞で明る橙色の三つ眼で、氷龍は白龍を見上げる。



「これが、氷結界の龍 グングニール……!?」

「そう。これこそわたしの手に入れた、最強のモンスター!

 グングニールの効果発動! 1ターンに一度、手札を2枚まで墓地へと捨てる!」



夜行が残る3枚の手札の内、2枚をディスクのセメタリーゾーンへと流し込む。

瞬間、氷の龍の体内で凍気が膨れた。

氷の翼を大きく広げ、四足で床を踏み縛り―――顎を開いて、冷気の息吹を解き放つ。

煌々と輝く明るい赤光が強さを増すのに反し、色から連想されるのと真逆の温度が吹き荒れる。

寒波は瞬く間に周囲へ広がり、デュエルフィールドを凍結させた。



「そして、この効果で捨てた手札と同じ枚数だけ相手フィールドのカードを破壊する!

 破壊するのは、貴方が前のターンに出した2枚のカード。

 青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴンとセットカードの2枚!!」



氷龍が首を薙ぐ。

吹き荒れる吹雪はフィールドを支配していた青眼ブルーアイズへと向けられ、その威力を発揮する。

それに逆撃を喰らわせるべく、白龍は己も最強のブレスで迎え撃とうとし――――

しかし、既に凍結の始まった身体では、ブレスを撃つ為に口を開ける事すら叶わなかった。

超低温の息吹。

相手の動きを奪うには、一瞬の先手が譲られれば十分すぎる。



「くっ……青眼ブルーアイズ……!

 ええい! 貴様がその効果の対象としたトラップを発動する、凡人の施し!」



息吹で凍り付く寸前に、選ばれたカードが立ち上がった。

破壊されるという未来が決まっているが、それでもなお効果は十全に発揮される。



「カードを2枚ドローし、手札より通常モンスター一体を除外する。

 オレは手札よりガジェット・ソルジャーを除外!」



瀬人の手札を充足させる目的を果たし、そのトラップも凍り付く。

凍り付いた板と化したそれは、息吹の勢いを受けて折れ崩れた。



ついで、盛大な音を立てながら氷像となった龍が地に落ちる。

破砕音とともに砕け散る身体。

それは光の粒子となって消えていく。



青眼ブルーアイズ…! おのれ……!」

「セットカードは……手札交換効果、でしたか。

 さて。セットカードはもう1枚残っていますが……」



そう言って瀬人が1ターン目にセットしたカードに視線を送る。

が、すぐに外して瀬人を正面から見据えた。



「構いません。さあ、グングニールのダイレクトアタック!」



自身の命に匹敵するモンスターを破壊された事による怒り。

瀬人の顔は、憤怒の一色に染められている。

それを真正面から見返し、告げる言葉は追撃の宣言。



グングニールが前脚を上げる。

凍り付かせた足の置き場所から無数に伸びた氷柱。

それを思い切り振り上げた前足で――――殴り抜く。

粉砕された氷の飛礫が、一斉に瀬人に向かって押し寄せる。

身体を叩く無数の氷塊。

それが実感の痛みであると気付くのに、一秒と必要なかった。



「ぐっ……! 馬鹿な、この痛みは……!」

「フフフ……」



飛礫の乱打を受け切り、痛みに悲鳴を上げる身体を押さえる瀬人。

LPは2500減少し、1500まで低下しているが―――

幾ら触ったところで、外傷はない。

有ったのは痛覚を直接刺激するような、鋭く荒々しい痛みだけ。



「……シンディア様が亡くなられた悲しみから、ペガサス様はエジプトへと渡られました」

「…………なに?」



一体どんな脈絡なのか。

痛みに痺れた身体を支えながら、突然の独白に困惑する瀬人。

その困惑を知っているのかいないのか。

夜行の奇行は止まらない。



「そこで千年アイテムを宿し、デュエルモンスターズの生みの親となった。

 ……やがてデュエルモンスターズを通じ、二人の決闘者がライバルとしての関係を築く事になる。

 そのうちの一人は、千年アイテムの所有者である武藤遊戯。

 もう一人は………言うまでもないでしょう。

 貴方は武藤遊戯と決闘した時に行った、闇のゲーム……

 更に、敗北して受けた罰ゲームである死の体感から得たインスピレーションを糧に、

 ソリッドヴィジョンシステムを完成させた。

 そしてデュエルモンスターズ、ソリッドヴィジョンシステムが合わさり辿り着いたのです」



それは異常であるという以外に、どう表現すればいいのか。

彼は、誰も知らない筈の事を当り前のように語る。

オカルト論など論外としても、自身の敗北の歴史を得意気に語るアレには業腹だ。

怒りを隠しもせずに声を荒げ、相手の語りに割り込もうとし―――



「何を言っている……」

「――――貴方はバトルシティ以前、古代エジプトの様を記した石版を見たでしょう?

 そこに描かれていたのは、石版から魔物を呼び出し戦わせている様子だった筈だ。

 知っていますか?

 石版に封じられていた魔物は、元は人の心の闇が生み出したものだという事を」



オカルトとしか言い表せない何かを感じさせた、あの石版を思い出した。

石版に描かれていた光景。あの魔物が全て、心の闇より生まれた物?

ただの法螺話と切って捨てるのは容易い。

アレは既に正気を喪失した狂人に踏み込んでいる。

だがしかし、何をおいても。

青眼ブルーアイズと言う存在が、心の闇より生まれたなどと――――



「――――現代における石版はカードです。

 イラスト、ステータス、効果……全てはカードデザイナーが決めているものです。

 ですが本当に? 今日、最初の1枚目が作られたカードは、本当にそれが最初なのでしょうか?

 かつて全く同じ魔物の石板が無かったと言えるでしょうか?

 今まで生み出されてきたカード達は、もしかしたら、かつての石版を現代において再現しただけなのでは?」



語る。

その言葉は疑問の色を混ぜてはいるが、彼自身は疑っている様子はない。

台詞を紡ぐその口許には、確信の色が見える。



「グッ……!

 ええい、オカルトを並べ立てる以外にする事がないのであれば、エンド宣言をしろ!

 貴様のその口から出る言葉を、すぐに命乞いの台詞に変えてやる!」

「―――過去に在ったものが現代において、知らずと再現される?

 そんな事がある得るのでしょうか。

 もしそうであればどうやって? そうなる事が運命だとでもいうのでしょうか?

 では、運命によって再現された彼らは一体何をすべく生み出されたのでしょう?」



夜行が傍に控えるグングニールに視線を送った。

周囲に冷気を落しながら、四足の龍は体内で橙色の光を鼓動させている。



「――――海馬瀬人、遊星粒子というものをご存じでしょうか。

 いえ、知る筈がないでしょうね。今、この時間では発見されていないものだ」

「この時間では、だと?」

「遊星粒子は人の心に反応して性質を変える特性を持っている粒子です。

 人間という存在のあらゆる感情に反応し、様々な現象を発生させる……」



夜行が残る最後の手札をディスクへとプレイする。

電子音とともに現れるカード。



「……苦痛から生まれる憎悪、恐怖故の猜疑。一言で言い表すならば、心の闇。

 かつてはその心の闇自体を魔物と捉え、自身の外へ投影する手段があったのです。

 それが古代エジプトで用いられた召喚術。

 人の本性を外側に発露する魔術。

 その魔術に、遊星粒子といつか呼ばれるであろう粒子が協力しているのですよ。

 人の魔性を現世において魔物という形で存在させるために。

 遊星粒子は、未知でありながら確かにこの世界を構成する一つの要素。

 “彼ら”は識っている。いえ、憶えているというべきでしょうか。

 あるいは刻まれている、とでも。

 ――――かつて自分達が描いたものを。

 そして、世界を支える柱の一つであるこの粒子は、もう一つ重要な特性があるのです」

「――――いい加減にしろ。

 貴様がどこでその妄想を垂れ流そうと、それは貴様の自由だ。

 だがこのオレに、そんなものを聞かせて怒りを買って、まさか生きて帰れるとは思って……!」

「氷結界の龍グングニール。

 このシンクロモンスターもまた、今に無く、いずれ生まれるカードでした」



氷龍が天に吼える。

一瞬、その言から推察した事に瀬人は息を呑んだ。

その様子に粘着くように気味の悪い笑顔を浮かべ、夜行は咽喉を鳴らす。



「遊星粒子には時間を超越する性質があるのですよ。

 その粒子の中に刻まれた情報量は膨大。

 ですが、その情報を精査してみれば今のこの世界にあっていい情報でない事が分かります。

 例えば、存在しないカードのサーバーへの登録データ、とか。

 フフフ、遊星粒子は科学的に突き詰めればタイムマシンすら可能となるほどのもの。

 良かれ悪しかれ、人の想いは時代を越える。

 貴方と武藤遊戯の魂を交差させた直感。

 それももしくは、この遊星粒子が原因かもしれません」



トランス状態から帰還した夜行は、すっきりとした様子でデュエルを続行する。

情緒不安定なのはまあいい。

だが、おかしさが膨れていくばかりだ。

知っている筈の無い情報。それを自分の知識のように喋る。

瀬人と対面しているのが、夜行ではないような感覚。



「おっと。わたしはこのカードを発動し、ターンを終了します」



プレイされたカードの映像が出現する。

表示されたそのカードは、魔法。

ミスト・ボディ。



装備魔法カードであるそれは、グングニールへと確かに装備された。

が、見た目が変わるという事はない。

氷龍の周囲を取り巻く冷気の流れが渦巻いているが、特別な変化は見られなかった。



プレイヤーのターン譲渡が完了する。

理解不能なほどに楽しげに、語り終えた夜行は晴れ晴れしている様子だ。

なるほど、それはいい。しかし、どうあれ。



ターンプレイヤーとなった瀬人が、カードをドローする。

それを見て、デッキが正しく己の怒りを察している事を理解した。

ならば、出し惜しむ必要などあろうものか。



「……貴様の言う所によると、最近の不可思議現象。

 サーバーへの不正データの追加なども、遊星粒子とやらが原因という事になる。

 しかも、時間を無視して存在するその粒子が未来のデータを持ってきた、などと言う方法でな」

「ええ、その通りです。
 わたしとしても、信じていただけたのであれば幸い、というところですが」



ゆるりと表情を柔らかくする夜行。

その言葉を遮るように、断ち切るように吼える―――



「オレを前に吐くだけ吐いたその御託!

 それが真実であるか虚偽であるか、そんな事は今はどうでもいい!

 今ここに、確かな事はただ一つ!

 貴様が、オレという最強の龍を従えし決闘者の逆鱗に触れたと言う事だ!

 行くぞ、すぐにその息の根を止めてくれる!!」



手札から選び取るまずは一手。



「オレはロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-を守備表示で召喚!」



瀬人が宣言し、デュエルディスクにカードを差しこむ。

瞬間。光と共に龍骨の兜、鎧を纏った人型が浮かび上がった。

魔法使いとしての風格を演出しているマントを突風に靡かせ、

ロード・オブ・ドラゴンは身を縮こめるように防御姿勢に入る。



「そして! 魔法マジックカード、ドラゴンを呼ぶ笛を発動!

 手札より2枚までドラゴン族モンスターを特殊召喚する!」

「二体の、ドラゴン……!」

「出でよ!!」



龍骨から彫り出されたろう、龍を象った笛がロードの手元に現れる。

それを引っ掴むと、ロードは高らかにそれを吹き鳴らした。



龍笛から轟く音響は次元を揺るがし、世界に敷かれた法則を捻じ曲げる。

本来、その存在の大きさ故、供物を捧げねば現世に降りられない魂のサイズを有する龍。

それを、この音色は強制的に引き摺り出す。



「二体の! 青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン!!!」



支配者の吹き鳴らす音楽に導かれ、瀬人の手札より2体の龍が舞い降りる。

その威容は先に降臨していた同種と全く同じ。

最強の龍の名に相応しい荘厳。



降臨した二体の迫力に気圧され、僅かに夜行が目を細める。



「まさか、二体の青眼ブルーアイズを手札に控えているとは……」

「最強のデュエリストの許には、常に最強の手札が舞い込む。

 バトル! 行け、青眼ブルーアイズ! グングニールを攻撃!!」



二体の龍が空中で円を描く軌道で舞い、同時に口腔に光を蓄え始めた。

双龍が瀬人の直上で同時に静止し、その首を向ける先にグングニールを捉える―――

龍の顎が開かれて、爆裂。

一瞬の静寂を粉砕し、光の奔流が一気に迸った。



「っ……ミスト・ボディの効果発動!

 装備モンスターは姿を霧へと変化させる能力を得る!

 霧化の特殊能力によって、グングニールは戦闘では破壊されない!」



夜行がそう口走ると同時、グングニールの姿が解けた。

氷塊に等しい巨体が、一瞬の内に消滅する。

いや、消えたのではない。

確かにそこにある。が、目視では認識出来ないほどに細かく、分散しているのだ。

グングニールが居た場所を、二条の光流が突き抜ける。

霧はその爆裂波に吹き飛ばされて散り散りになるも、すぐに集結していく。



標的を通り過ぎ突き抜けた爆裂疾風弾が、夜行のすぐ近くに着弾する。

弾け飛ぶフィールド。

ミスト・ボディはグングニールの破壊を確かに防ぐが、それ以外は防げない。

つまり、夜行へと突き抜けてくる戦闘ダメージまでは免れない。

青眼ブルーアイズとグングニールの攻撃力差は500。

二体の青眼ブルーアイズが行うそれぞれの戦闘によって発生するダメージは500。

よって、二体の攻撃によって夜行が受ける戦闘ダメージは1000。



夜行のライフカウンターが2000まで減少する。



「……オレはこれでターンエンドだ」

「わたしの、ターン……!」



最早、これ以上交す言葉も無い。

瀬人の瞳には既に、夜行を叩き伏せた先の未来しか映っていない。

攻撃を防がれた事への怒りも無い。

今のはただの足掻き。往生に至るまでの呼吸の回数が一度増えただけでしかない。



何故ならばグングニールの攻撃力は2500。

青眼ブルーアイズの攻撃力3000には遠く及ばない。

その上、グングニールの効果も対象を指定するが故に、ロード・オブ・ドラゴンがいては意味がない。

ドラゴンの支配者たるあの魔法使いは、存在するだけのその能力を発揮する。

彼がフィールドに存在する限り、ドラゴン族モンスターを効果の対象に出来ない。

大見得を切り放ったグングニールではあるが、その破壊力を発揮出来ないように布陣されているのだ。



グングニールの効果は1ターンに一度。

そも、手札はこのドローフェイズに追加される1枚のみ。

ライフポイントが2000の夜行は、青眼ブルーアイズのダイレクトアタックを許すわけにはいかない。

今はミスト・ボディを装備したグングニールが支えているが、それを破壊されれば夜行はがら空きだ。

だからこそ、今グングニールが破壊されないからと言って、守備表示で時間を稼ごうというのは愚作。

活路を拓くためにはまず、あの白龍を破壊しなければならない。

攻撃力で負けている以上、グングニールの効果を使ってだ。

だがその為には、まずロード・オブ・ドラゴンを処理しなくてはならない。



戦闘によってロード・オブ・ドラゴンを破壊。

効果耐性の消えた青眼ブルーアイズを、メインフェイズ2に効果で破壊。

そこまではいいだろう。

だが、次のターンにグングニールは残った青眼ブルーアイズの攻撃を受ける。

ロードに攻撃しなければいけない都合上、攻撃表示でだ。

その戦闘でダメージを受け、残るライフは1500。

……瀬人の手札は今1枚、次のドローで2枚。更にセットカードも1枚ある。

それが、残る1500を削り切る手段足り得た場合……



「ドローッ……!」



引いたカードを覗く。

瞬間、その正体に顔を歪める。



「どうやら、最強の手札に恵まれたようです。

 わたしは手札から、貪欲な壺を発動!

 対象はカオスエンドマスター、深海の戦士、アスモディウス、ベリアル、アトランティスの戦士。

 この五体をデッキへと戻しシャッフル。その後、カードを2枚ドロー!」



セメタリースペースから吐き出されたカードをデッキに収め、シャッフルする。

再びデッキホルダーに戻したところで、2枚のカードを引き抜いた。

そのカードに視線一閃、大した感慨もなく続く行動に移る。



「バトルフェイズ!

 グングニールで、ロード・オブ・ドラゴンを攻撃!」



夜行の指示を受け、氷龍が首を振る。

開かれた顎の奥、咽喉の底から極低温の風が吹雪く。

浴びたロードの姿は、瞬く間に氷像と化す。

攻撃に抵抗反撃の余地は一切無く、一瞬の内に果たされた。

ただ一体を狙った局地的寒波は、その威力を存分に発揮した結果だ。



「そして! バトルフェイズを終了し、グングニールの効果発動!

 手札を2枚墓地へと送り、フィールドのカード2枚を破壊する!

 砕け散れ、青眼ブルーアイズ!!」



攻撃を仕掛けた勢いのまま、グングニールはその首を横に薙ぐ。

吹き荒れる氷雪乱舞。

それは大気ごと舞う龍の姿を氷漬けにし、大地へ墜とす。



目の前で砕け散る龍の姿。

それを間近で見た瀬人の眉が、僅かに顰められる。



「貴方のドラゴンは、全てわたしのグングニールの力で破壊された。

 どうですか? この力、まさしく最強の名に相応しいとは思いませんか」

「オレのターン!」



無視。

確かに夜行には既に手札も、フィールドに効果を発動出来るカードもない。

最早エンド宣言をする以外に行動選択肢は無い。

だがその行動に、夜行は顔を強く歪ませた。



瀬人はデッキに手をかけて、ドローカードを指で取りかけている。

その状態で、夜行へと向けた言葉が放たれた。



「そのモンスターが最強のモンスターだと?

 言った筈だ。最強のモンスターは常に、最強のデュエリストと共に在るとな!

 貴様に、真に最強を見せてやる――――! ドローッ!!」



引いたカードを見た瀬人の顔が、凶悪なまでに凄惨に輝いた。

その表情を生んだドローカードはキープし、残る1枚の手札をデュエルディスクへ。



「オレは魔法マジックカード、貪欲な壺を発動!

 墓地の三体の青眼ブルーアイズ、ロード・オブ・ドラゴン、ペーテンをデッキへ戻す!

 その後、シャッフルしたデッキから2枚のカードをドローする!」



宣言した5枚をデッキに加え、シャッフルする。

シャッフルされたデッキはホルダーに正しく収められ、その天辺から2枚を引く。

手札に舞い込んだカードを見て、すぐさまその中から1枚。



「手札のサンダー・ドラゴンは墓地に送る事で、デッキの同名カード2枚を手札に加える事が出来る!」

「二体の、サンダー・ドラゴン……!」



夜行の表情に微かな驚愕が混じったのは、そのモンスターの特性故。

サンダー・ドラゴンは単体では能力値の低い上級モンスターだ。

が、その本質は同名モンスターを二体融合する事で生まれる双頭龍にある。

その攻撃力は2800という、最上級クラスを誇る。

だが、その召喚には当然、融合の魔法カードが必要となる……



「貴様に一つ、教えておいてやろう」

「――――?」



瀬人が自分の場の伏せリバースへと掌を向ける。



「オレの場の伏せリバース

 このカードは魔法マジックカード、融合。

 つまり今、オレはフィールドにサンダー・ドラゴン二体を融合したモンスターを召喚出来る」



夜行が息を詰まらせた。

……が、すぐに瀬人のその態度に疑念が働く。



「……なるほど。グングニールの攻撃力では、双頭の雷龍サンダー・ドラゴンには勝てません。

 ですが、それがどうしたと言うのです。まさか、だから、サレンダ―をしろとでも?

 ミスト・ボディを装備したグングニールは、戦闘では破壊されない。

 多少のダメージを受けようと、次のターンには効果を発動し……」

「馬鹿め」



唐突に放たれる侮辱。

怒るより先に、面食らった夜行が呆けた。

そして、侮辱の言葉を投げられた側が怒る前に、投げた当人が怒り露わに語気を荒げる。



「貴様は生かして帰さんと言った筈だ。

 喜べ、オレの領域には貴様が死ぬまで愉しめる殺人アトラクションが豊富に在るぞ。

 そしてこれも言った筈だ。

 最強のデュエリストには、常に最強の手札が舞い込む。

 真の最強を見せてやる、と。

 オレは更なる魔法マジックカード、天使の施しを発動!

 デッキから3枚のカードをドローし、手札のサンダー・ドラゴン2枚を墓地へ送る!」

「サンダー・ドラゴンを、何故……!」

「ドローするまでもない、既にオレのデッキからは最強のモンスターの鼓動が聞こえている……!」



天使の施しのカード効果は、ドロー後に充実した手札から墓地ヘ送るカードを選択するもの。

だと言うのに、瀬人はドロー以前にサンダー・ドラゴンをセメタリーに送っていた。

最早手順など知った事か、と。

手札を捨てた後にドローする瀬人。



「馬鹿な、サンダー・ドラゴンと融合。

 確かに揃っているのであれば、これだけでわたしへの反撃の手段となる……!

 それなのに、何故……! そんな事が……!」

「オレが引いた3枚のカードは……」



瀬人が引いた手札をそのまま、夜行に見せる。

その光景に、夜行は茫然とする以外の答えを知らない。

並んだカードは3枚。3枚は全てモンスターカードであり、同名モンスター。



「3体の……!」

青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン

 伏せリバース魔法マジック発動オープン! 融合!

 融合の魔法効果により、手札の3体の青眼ブルーアイズを融合!」



瀬人が1ターン目から伏せていたカードが今、明かされる。

彼が宣言した通り、それは融合の魔法カードだ。

フィールドに三体の白龍が降臨する。

融合の魔法効果で手札から直接、融合形態へとトランスするのだ。



次元が歪み、三体の曇りなき白き身体を呑み込んでいく。

本来交わる事のない肉体が混じり合い、新たな姿へと変貌する。

研ぎ澄まされた刃ほどに洗練され輝かしい身体は、より美しく。

鳥獣以上に風に舞い、空を裂く雄々しき翼は、より雄大に。

最強の破壊を息吹く頭は三つ全てを有し、その威容をより強大にして身に纏い。

今、この戦場を席巻する。



「現れよ、青眼の究極竜ブルーアイズ・アルティメットドラゴン!!!」



青い眼光が三対、地上を睥睨する。

地に張った薄氷の塊を。

下に見下ろされる氷龍は地に這いながら天を仰ぐ。

空を支配する究極の姿を。



「ぐっ……!」



究極竜アルティメットドラゴン

攻撃力4500を誇る他の追随を許さぬ究極の竜。

その破壊力は比べるまでも無い。グングニールでは、遠く及ばない。



攻撃力の差分は2000程。そして、夜行のライフもまた2000。

ここより逆転へと繋げる切り札を未だ秘めているか?



―――――否。



勝敗は既に決している。



「――――この瞬間、オレは手札の更なるモンスター効果を発動する!」

「手札のモンスター……何を」



残る瀬人の手札は1枚。

その最後の1枚を掲げて、瀬人はより大きく声を張り上げる。



青眼の光龍ブルーアイズ・シャイニングドラゴンの効果発動!

 自分フィールドの究極竜アルティメットを生贄に捧げる事で、このモンスターは特殊召喚できる!」

「究極竜を生贄に……!?」



轟臨した三頭を持つ竜の究みを、天へと捧げる。

その儀式の意図は、更にその先。

龍という存在が極致に到り、世界の根幹を成す要素の一つに昇華する。



青眼ブルーアイズよ!

 今こそ勝利の栄光をその身に宿し、神を! 究極を! 超越し、新たな姿へ進化せよ!」



世界の一様、光の化身として再来する。



――――その姿は、今までのそれとは一線を隔していた。

腕を持たず、翼竜のように翼そのものが肩から生えている。

額、胴、翼、脚、各所に青い瞳のような宝玉が煌き、

全身は光を鎧として纏ったが故に、機械的な印象を受けるものへと変貌した。



新たな青眼ブルーアイズを目の当たりにした夜行がたじろぐ。

そうして一歩背後に足が退いた事を自覚し、夜行の顔が引き攣った。



「くっ、だが! 光龍シャイニングドラゴンの攻撃力は3000!

 究極竜アルティメットから攻撃力が下がった事で、わたしのライフを削り切る事が出来なく―――!」

光龍シャイニングドラゴンの更なる効果!

 墓地のドラゴン族モンスター一体につき、攻撃力を300ポイントアップする!

 オレの墓地には、四体の青眼ブルーアイズと、カイザー・グライダーの計五体!

 よって、攻撃力は1500ポイントアップする!」



胴体の中央にある青い宝玉の中に、五つの光がぼうと灯る。

光はやがて全身に波動を伝播し、その存在強度を高めていく。

翼を大きく空に広げ、霧と同化した氷龍をその視線の先に捉え―――



「真なる最強の力、とくと味わうがいい!

 行け、青眼の光龍ブルーアイズ・シャイニングドラゴン! シャイニング・バーストッ!!」



顎を開く。

充填時間など瞬きに等しく、瞬間に光の怒涛が迸った。

着弾までにかかる時間は、それを更に下回る。

一秒以下の僅かな間隙。

その狭間で、弾むような夜行の声が放たれた。



「この瞬間、墓地のネクロ・ガードナーの効果を発動!

 このカードを墓地から除外することで、その攻撃を無効にする!」



夜行のディスクのセメタリースペースが輝いたかと思えば、

彼の目前の空間に魔法陣が描かれ、ぽかりと黒い穴が開く。

その穴の奥に姿を見せるのは、悪魔の姿。

冥界へと穴を開けたそれは、役目は終えたとばかりに姿を消す。

と、同時に。

光龍の攻撃がその暗黒へと突き刺さり、そのまま呑み込まれた。



閉じる穴。

絶対的な威力の光はしかし、敵を屠る事なく消失した。

その事実に顔を崩し、夜行が笑む。



「フフフ・・・・・・

 わたしは貪欲な壺の効果でこのカードを引き、そしてグングニールの効果で墓地へと送っていた。

 どうですか。貴方の最強モンスターがしかし、何も出来ずに攻撃を終えるさまは」



光龍シャイニングドラゴンが口の端から光を零しながら、顎を閉じる。

砲撃はそこまでで打ち止め。

あれがどのようなモンスターであろうとも、攻撃は1ターンに一度だけしか許されない。

そしてその攻撃が無駄撃ちされた事で、



「そして! 貴方には手札も、伏せカードも残されていない!

 わたしの! 最後のターンです!」



夜行がデッキからカードを抜き、そのまま墓地へと直ぐに送る。

そのエネルギーを糧に、グングニールが鳴動した。



「グングニールの効果発動!

 手札を1枚墓地へと送り、貴方の青眼ブルーアイズを破壊する!」



グングニールが高らかに咆哮をあげると同時。

空気が凝固し、氷の槍が空間を埋め尽くすほど無数に顕在化した。

氷龍の放つ赤光の視線は、光龍だけを確かに捉えている。

更にもう一つ咆哮。

その雄叫びに併せ、雪崩でも起こしたかのように、無数の氷槍が光龍目掛け殺到した。



「これで、貴方の青眼ブルーアイズは終わりだ!

 わたしの氷結界の龍の力で、砕け散るがいい!!」

「終わりだと? ならば見るがいい、我が最強のしもべの誇る新たな効果を!!」



なに、と。

声をあげる前には、氷弾は青眼の全身に着弾していた。

光の鎧を貫き、その肉体を蹂躙して凍結し、果てに衝撃で粉砕する。

逃れ得ぬ破壊の未来。

夜行が見た、予想された未来のヴィジョン。

しかしそれは適わなかった。



バキバキと音を立て崩れる氷細工。

氷で成した槍は、光の鎧を貫けずに砕け散っていた。

全身を休まず叩き続ける凶器の雨。

それは何十、何百、何千と確実にその身体を打ち、しかし傷一つ与えずに砕け散る。

標的とされている光龍は微動だにしない。

する必要もないと、見せ付けるように。



「馬、鹿な・・・・・・! 何故」

青眼の光龍ブルーアイズ・シャイニングドラゴン

 オレの最強のしもべの新たなる姿は、効果の対象に選ばれた時、その効果を受けるか否かオレの意思で決定する。

 無論、貴様のモンスターの効果を受ける事など、オレが許可しない!」



龍が身を捩り、光の波動を迸らせる。

一瞬の内に全てが蒸発させられる氷の槍弾。

夜行は言葉を詰まらせて、その光景に立ち尽くす。

だが立ち呆けは数秒。

それでも、と。まだ手段は尽きていない。

あれがいかなる耐性を身につけていようとも、こちらにも戦闘破壊耐性が与えられている。



夜行の指が素早くカードの向きを変え、それに従い氷龍は姿勢を変えた。



「わたしは、グングニールを守備表示に変更・・・・・・!

 ターンエンド・・・・・・」

「フゥン、無駄な足掻きだ。行くぞ、オレのターン!」



手札はそのドローカードのみ。

だが、その事実に何も出来ずに終われと願うのは、余りに無謀。

真のデュエリストのドローであれば、それは常に最強の手札を呼び込む。

事実、瀬人のドローカードを見る目は、何の曇りもかかっていない。



「オレは手札からエネミーコントローラーを発動!」



海馬がそのカードを発動すると、目前に巨大なゲームコントローラーが出現する。

そのコントローラーから伸びるコードの接続先は、エネミー。

相手フィールドに存在する、グングニール以外にない。

コードは氷龍の胸元に接続され、その自由を一時的に奪い去る。

今、この龍に命令を下せるのは夜行ではなく、瀬人だけだ。



コントローラーだけに、その機能はコマンド入力によって成される。

巨大なコントローラーのボタンを、迷うことなく掌で押し込んでいく。



「うっ・・・・・・!?」

「下、上、C、A! このコマンドにより、貴様のグングニールを攻撃表示に変更!」



蠢く氷の巨体。

霜を振り撒き起き上がる身体は、霧化しているところもある。

が、最早そんな事は些事。

あれを突き抜ける光の波動は、確実に夜行の息の根を止める。

その一撃に備え、光龍が全身の青色の宝玉を輝かせていく。



「行くぞ、天馬夜行! 喰らえ、シャイニング・バァアアアストッ!!!」



全身に漲る青い光。

それは体内を伝導し、口腔へと移動する。

解き放たれるまで、一秒と必要ない。

大きく開かれた顎。その奥に蓄えられた光が、一条の光線となって駆け抜けた。



標的たるグングニールの身体が霧化し、その攻撃の衝撃に備える。

瞬く間に霧散したそれを、しかし光芒は全て呑み込んだ。

閃光が霧を全て蒸発させ、その威力に陰りすら見せぬまま、夜行へと殺到する。



「あッ、く・・・・・・!?」



爆裂。

破壊の光風が着弾し、夜行のライフだけでなくその身体も巻き上げる。

ライフカウンターから減少の電子音を発しながら、舞う。

その身体の行き先は―――



「―――」



瀬人が僅かに顔を顰める。

その次の瞬間に夜行の身体は、瀬人が突き破ってきた窓から、外に放り出されていた。

悲鳴もなく消え去る姿。

その影を追い、瀬人が窓際にまで駆け寄る。



下を見て、しかし彼の姿は無い。

地上まで30メートル弱。

普通ならば下でトマトのように潰れていなければおかしいが・・・・・・

その様子はない。



「チッ・・・・・・」



自身が割った硝子の破片を踏み躙りながら、歩みを始める。

向かう先は既に決まっている。

まずは、襟章と一体化している通信機で、この会社のコントロールに連絡。



「磯野」

『は、はっ!? せ、瀬人様! ご無事なのです・・・」

「上空にオレの専用機を待機させている、回収しておけ。

 それと、サーバー室へ連絡しろ。

 オレが今からそちらに出向く、それまでに異常なデータが増えていないか洗い出しておけとな」

『はっ! は? 今からです―――』



通信を切断。

すぐさま足をサーバー室の方へ向ける。

与太話、と切って捨てるのは簡単だ。

だが手段不明の改竄現象が発生しているのは、紛れもない事実。

天馬如きにそれが出来る筈がない。



また、天馬夜行のあの尋常ならざる様子。

あれは何者かから相当な方法の扇動を受けての行動だった筈だ。

そうとなれば、あのオカルト話を吹き込み、この襲撃を企てさせた何者か。

そいつがこの事件の黒幕。

と、断定にまでは至らないが、相当深いところにいるのはまず間違いないだろう。



「このオレをここまで虚仮にしたのだ。

 相応の報いは受けてもらうぞ・・・・・・!」











よくよく考えなくても、ここに午前5時集合でよかったんじゃなかろうか。

などと思ったが、空気が読めていない気がするので、言うのはやめた。

未だ時計は20:00に満たない。

これからまだ10時間近く待たなきゃいけないのだ。



十代とサンダーと三沢の攻防は結局十代の勝利で終わったものの、今は第二戦をやっている。

納得出来ないとサンダーが抗議したためだ。

サンダーがアームド・ドラゴン Lv7を繰り出し、

負けじと十代が繰り出したのはプラズマヴァイスマン。

効果破壊には効果破壊と言わんばかりだ。

テーブルでデュエルするという光景がシュールに感じる辺り、俺ももう駄目かも分からんね。



「スペード10、J、Q、K、A。ロイヤルストレートフラッシュ」

「嘘!?」



手元にキングラウザーがあれば、そのまま入れてしまいたくなる手札を公開する。

デュエリスト同士でトランプをすると、大体おかしな事になるものだ。



「エックスくんってトランプ強いね……」

「さっきから強い役ばかりなんだな」

「凄いドロー運ね……」

「明日香相手には黒星の方が多いのにこの言われよう……」



トランプを使った遊びを始めて、ババ抜き、七並べ、大富豪等やり切った結果、

何故かこの人数でポーカーになった。

いや、俺がキングラウザーごっこしたかったからなんだけど。

強いだなんだといわれても、明日香には勝ち越されているのだから嫌味だ。



「それはさておき、流石にあと10時間トランプ三昧は地味に辛いぞ。

 今の内に仮眠しておいた方がいいんじゃないか?」

「そうね……襲撃時間はあくまで予想でしかないし、順番に仮眠をとりましょうか。

 二人組を2チーム、三人組を1チーム作って3時間ごとに」



20時から23時までAチーム。

23時から2時までがBチーム。

2時から5時までがCチーム。

そして5時から全チームで見張り、と言う事に……

明らかにAチームが楽でCチームが辛い……



「いや……Aチームに今から2時まで見てもらって、2時から5時までB。

 5時から7時半までCチームでいいんじゃないか?」



3時から5時までトメさんが入るから、Bチームは2人組を選ぶべきだろう。

三人組はまあ、一番時間の長いAチームが妥当だろうか。

などと考えながらの提案に、明日香は顎に手を添え、ふぅむと考え込んだ。



「ん。そうね、その方がいいわ。明日も授業があるんだもの。

 2時から起きっぱなしじゃ、授業に気が入らないわよね。

 と、いうわけだけど。万丈目くんはどう思うかしら?」



目を離した隙にいつの間にか負けていたサンダーに話しかける。

流石に二連敗は応えたか、机に突っ伏していた。

と、思ったらすぐに起き上ってくる。

その目からは、負けを欠片も認めていない様子が窺える。

俺が屈しない限り、貴様が勝ったわけではない! ですね、わかります。



「ああ、それでいこう。

 ならオレと十代はAチームだ。もう一度デュエルだ、十代!」

「万丈目、今はオレと十代のデュエル中だぞ」

「ええい、貴様など早く負けろ!」

「へへ、二人ともやる気十分だな。よっしゃ、オレも燃えてきたぜ!」



盛り上がってるなぁ。

しかしそうとなると……



「じゃあBチームがボクと隼人くんでいいかな」

「Cチームの時間が一番、セブンスターズが来る可能性がある時間帯だ。

 オレたちにはちょっと、荷が重いんだな」

「そうなるよね……

 俺と明日香がCチームか。じゃあ、5時までたっぷり寝させてもらうか」



な、と明日香に同意を求めると、何やら難しい顔でそうねと返された。

何ぞ。そんなに俺とのチームが嫌なのか。

俺が密かにショックを受けていると、トメさんが部屋に入ってくる。



「みんな、ありがとうねぇ。

 ほら、これ夜食の差し入れだから。みんなで食べて頂戴」



そう言って手にしたお盆に乗ったおにぎりを掲げる。

この時間にこれ食って、すぐ寝て、って。かなり酷い流れな気がするが……

折角なのだから食わない手は無いだろう。

案の定、十代はすぐに食い付いた。



「おおっ! トメさんのおにぎり、うっまいんだよなぁっ!

 早く食おうぜ、なっ!」

「おっ、おい待て十代! デュエルの途中だぞ!?」

「腹が減っちゃデュエルは出来ぬ。まずは腹拵え!」



三沢を振り切り、十代はお盆に飛び付いた。

大量に並んだおにぎりの中から、どれを取ろうか迷うように、視線をふらつかせる。



「まったく……」



しょうがない、と三沢もデュエルを中断して立ち上がる。



「うまそー! 中の具は何なんだな」

「梅、おかか、シャケの三種類だよ。

 精をつけて頑張って、今夜はわたしも一緒に泊まるから」



にこやかにそう告げるトメさん。

忙しいトメさんまでこうもめいっぱい巻き込む事になると、流石に気がひける。

ちなみにアニメでこのシーンのおにぎりは、画面が切り替わるごとに形と数が変わりまくるぞ。

海苔の巻き方とか大きさが凄い勢いで変化するからな。

要チェックだ。



「シャケはどれかな?」

「そこの……」

「待った!」



隼人の疑問にトメさんが指で示そうとするや否や、十代が間に割って入った。

楽しそうに笑う十代は、おにぎりの乗った皿を見て言う。



「利きおにぎりだ。オレもシャケが好きだぜ。順番で引こう!」



ちゃう。それ“利き”ちゃう。

くじ引きや。

そう言って提案する十代に対し上がる、ブーイングの声。



「えー、みんなで分ければいいんだな」

「そいつの言う通りだ。わざわざなんでそんな面倒な事を」

「万が一、食べたい具が食べれなかった奴がいたら、そいつには不満が残るだろう。

 セブンスターズを相手にするために、より強いチームワークが必要とされる今。

 そんな不用意な事をするべきではないとオレは思うが」

「うーん、そっかー?」



三沢のマジレスを受け、消沈する十代。

おにぎりの具一つで崩れるチームワークとは一体何なのか。

しかしフォア・ザ・チームの大切さを知るブレ、じゃない。

三沢からのアドバイスだ。避けるに越した事はないだろう。



ふむ……

例えばベクターがナッシュのおにぎりの中にピーマンとたまねぎを混ぜたとする。

切れるナッシュ。煽るベクター。ナッシュが叫ぶ、ヴェクタァアアアアアアッ!!!

そこでボケるV兄様、これがスシというものか。

Vの弟子であるカイトがそれを訂正する。キャラメルだよ、元気が出る魔法のお菓子さ。

そしてベクターが言う、お菓子食って腹痛いわー。



なるほど。まるで意味がわからんぞ。

自分で言っておいてなんだけど。

さておき、そこを弟分がフォローに回った。



「でも面白そうだし、一周だけやってみようよ!」

「……まあ、一周だけならいいんじゃないかしら」

「明日香も食うんだ、ふ……いや何でも」



睨まれた。

明日香と翔の反応に、三沢とサンダーと隼人も溜め息混じりに頷いた。



「よっしゃ! じゃあオレから行くぜ! オレのターン、ドロー!」



同意が得られた十代が、テンション高めにおにぎりを選ぶ。

多数の握り飯の中から選びとった一つを、そのまま口の中へ。

大口を開けて、パクリ。

口の中に取り込んだご飯を咀嚼し、その中身を確かめる。

……まあ、この部分だけ切り取れば利きおにぎりなのかもしれない。



「むぐ、んぐ……ん、シャケしょーかん」

「何がしょーかんだ。食い物を振り回すな、行儀の悪い」



宣言通りシャケを引き当てた十代が、そのおにぎりをこちらに見せる。

十代に食われて欠けた白米の中には、シャケの紅色が確かに見てとれた。

と。

そんな十代に、辛辣な言葉を浴びせるサンダー。



「何だよ。機嫌悪いな、万丈目。ほら、お前も食えよ」

「サンダー!」



がるる、と噛み付く万丈目。

負けがこむとこうなるのは仕方ないやもしれない。



「へへ、まだまだ腕はなまっちゃいないぜ。

 タマゴパンが盗まれてなきゃ、記録更新だったのによ」



残念そうに呟く十代を見て、全員が苦笑。

召喚したシャケにぎりを食べ始める十代につられ、全員がそれを手にし、口へと運び始めた。







時刻は5時過ぎ。

十代、万丈目、三沢はひたすらデュエルをやって、そのままぐっすり。

翔と隼人はトメさんの仕込みを手伝ったらしく、やはりそのままぐっすり。

トメさんにも休んでもらっている。

音を立てるわけにもいかない上、灯りも使ってはいけない現状。

ちゃんと睡眠をとったとはいえ、眠くなってくる。

しょうがないので、カードを弄り倒すしかないわけだ。



水属性鳥獣族少なすぎる。

これでどうやってたたかえばいいんだ。



俺のPDAはXがどうやってか改造し、最新弾までのカードが使えるようになっている。

つまりこれだけでデッキレシピ管理は完璧だ。

授業中の暇な時、本来あるはずのない時間だが。

その空き時間を使って考えたデッキをPDAで保存しておき、こうやって実現できるのだ。

と言ってもそこは本来あるはずのないカード群。

誰かを相手に回すわけにもいかず、精々がXを相手にチェックする程度だが。

ちなみにXのデッキは俺が作った別のレシピから、ランダムに選んでいる。



とまあ、そんなわけで。

今俺は水鳥獣のデッキレシピに悩んでいるわけだが。

何よりエースを張らせたい神葬零嬢が天使族なのがどうなんだ、という。



「中々纏まらない、なぁ」

「デッキ調整?」



呟くと、明日香に声をかけられる。

電気も当然消しているので、本を読む事も出来ずに退屈していたらしい。

そんな明日香は、俺の後ろに回り込むとデッキ編集画面を覗き込んだ。



「………見た事のないモンスターが多いわね。

 黒い枠のモンスターカード、はシンクロモンスターとは違うの?」

「うん? ……黒い枠のカードはダークシンクロモンスター。

 足し算じゃなくて引き算でレベルを調整するんだよ」



なるほどね、と。明日香は納得した様子だった。

少なくとも嘘は言っていない。

黒い枠にダークシンクロというのがあるのは事実だ。(ただしアニメに限る)

エクシーズ召喚、ユニファーに口裏合わせを頼むべきだろうか。

とりあえず、この場では素直にHEROを手持ちにするから関係ないが。

既にホープ使った事あるけれど。



その話はそれだけなのか、明日香は黙って俺の隣の椅子に腰を降ろした。

うん? と首を傾いで明日香を見る。

彼女は少しだけ逡巡した様子で口籠り、しかし俺に向かって口を開いた。



「ちょっと、いいかしら」

「なに?」



訊いても、答えは中々返ってこない。

本気で悩んでいる様子だ。

なにを悩んでいるかは俺には分からないが、相当重要な事なのだろう。



「……亮の、カイザーの事なんだけど」

「カイザー? うん」



カイザーがMに目覚めた、とか。

確かにそれは人に話すのは躊躇われるな。

でもあの人、公共の電波に乗せられてるプロデュエルですら趣味全開だし。

よくよく考えると、あれって全国放送でSMデュエルして……

って、まあ囚人が一時的に出てきてデュエルしてるような組織だもんな。

プロデュエル界。全然おかしくなかったわ。

そもそも社長からして、プロの傭兵や殺人鬼が高校生を殺しにかかる番組を全国放送でやってたわ。

殺人鬼ががっつり焼死してもそのまま続行してたし。

チャッピーだかチョッピーだか。



もういろいろといいんじゃないかな。

と、俺が大分失礼な事を考えていると、明日香はやや言い辛そうに続けた。



「貴方と……いえ、やっぱり何でもないわ」

「え、そこで止めるの」



と思ったら、中断された。



「でも、きっとそう遠くない内に、彼から話をされると思うわ。

 わたしからもお願いなのだけれど、出来る限り聞いて上げて欲しいの」

「まあ、特別変な事でもなければ」



カイザーが俺に、と言っても実感がわかない。

そもそも俺ってカイザーと大した会話もしたことないし。



「わざわざ俺にって、なんかカイザーに対して変な事したか。俺?」



俺の疑問を明日香にぶつけ、ようとしたら、明日香はこちらを向いていなかった。

その視線の先には、この事務室の出入り口がある。

こちらに視線を送り、口元で人差し指をたてる。

俺がその動作に対して肯首を返すと、足音を立てないように扉に歩み寄っていく。



この扉は自動ドアだが、今は電源を落している。

近付いても何の反応も示さない。

そっと忍び寄った扉に張り付いて、硝子の向こう側の光景を覗く。

そこではドローパンのワゴンに身を寄せた巨漢が居た。



―――大山だ。



大山はゆっくりと両手を挙げ、精神統一と思われる動作をこなす。

一連の動作はゆるりとしたものであるがしかし。

その流水の如く留まる事なく流るる所作は、見る者の視線を釘付けにした。



「………なんだ、あれ。感謝の正拳突きでも始める気か」

「しっ、黙ってて」



果たして大山はドロー修行の結果、感謝に辿り着いたのか否か。

ゆっくりとした動作で前準備を終えると、その手をワゴンの中に突っ込んだ。

すぐさま腕を引き抜き、ドローパンを一つ取り上げる。

その姿を見た明日香は即行動へと移った。



「あれが犯人に間違いないわね――――!

 みんな、起きなさい! 行くわよ!」



懐から取り出した携帯用の防犯ブザーを青春スイッチオン。

轟くサイレン。飛び起きる皆。引っくり返る大山。

勿論俺もびっくりしている。

自動ドアを手動で開き、明日香が表へと躍り出ていく。



「な、なん……あ? お、ど、どこだここは……?」

「ああ……! 来たのか、セブンスターズ!?」

「んん、ぐ。ふぁああ……あれ、まだ夜?」

「早く起きる!」



騒音を撒き散らす防犯ブザーが、休憩組の中に投げ込まれる。

明日香は一体どこにこんなに持っていたのか。

とりあえずうるさくてかなわないので、俺も表に行く。

あの起こし方はいいとして、トメさんもあそこで寝てる事を考慮すべきだと思う。



表に出てすぐ、壁にある電灯スイッチを叩く。

点灯する照明が、巨漢の身体を照らしだした。

筋肉の塊みたいな体格で、しかも半分破けたズボン以外を身に着けていないせいでそれが際立つ。

しかしこういう時のズボンって何でこの破け方になるんだろうな。

膝下は原型を留めない程度にボロボロなのに、腰回りには小さな切れ目一つない。

悟空だってどんな死闘を経ようと、ズボンは無事だし。



「こんな時間に購買に忍び込んで、何の目的かしら。

 返答次第によっては、貴方をここで捕まえるわよ」

「ぬぅ……!」



怖じない明日香の態度に、大山が一歩後退った。

そんな中に、叩き起こされた皆が奥から飛び出てくる。

寝ぼけ眼を擦りながらのその集団。

その中の一人、トメさんの姿を見た瞬間、大山の様子が変わった。



「―――――AH! アーアアーッ!!!」



叫ぶ。

ガラス戸が衝撃に打ち震え、ガタガタと悲鳴を上げる。

その反応は最早本能の域。全員、すぐさま手で耳を覆っていた。

あれの雄叫びは聞いてはならないものであると、本能がそう理解したのだろう。

なんというバーバリアン・ハウリング。

こちらのバトルフェイズやら推理フェイズやらを威嚇する咆哮でぶっ飛ばし、逃走態勢に突入。

ドローパンのカートを押し出し、ボブスレーが如く発進した。



突っ込む先は当り前のように金属製のシャッターだ。

それを力づくで突き破り、巨漢の姿は外へと消えていった。



……彼がカートから一つ引き当てた包みがその場に落ちている。

それを拾い上げて、包装紙を破いてみれば、それは疑いようもなく黄金のタマゴパンだ。

彼は確かに引き当てていた。

せっかくなのでそれを食べつつ、一言つぶやく。



「恐るべし、ドロー運」

「食べてないで、早くなさい!」



俺に叱責を一つくれた明日香が、続けて総員に指示を放った。



「追うわよ!」

「あいつがセブンスターズか!」

「逃がすかっ……! 行くぞ、十代、三沢! オレに続け!」







「ア――――アア―――!!!」



木々の間に垂れ下がる蔓に目掛け飛び付き、それを飛び渡っていく。

本来ならば、彼自身の体重で蔓が切れていなければおかしい。

だがその不可能を覆すのが、彼の超人的なバランス感覚だ。

蔓にかかる体重を分散し、まるで鳥の羽が舞うように木々の間を跳び移っていく。



「まるで、ターザン、なん、だなぁ……!」



地を走る以外に追跡手段を持たない俺達では、その野生児アクションには追い付けない。

全力で走っていても、どんどん距離が開けられていく。

いかに俺がバイク乗りでも、あの巨大バイクで森の中を走るのは無理……

でもないが、もはやそれは自然破壊に等しい行為だと言えるのではないだろうか。

そもそもXは連れてきてないし。まあ呼べばくるけど。



「ええい、このままでは逃げられるぞ! こうなったら……!」

「どうする気だ、万丈目!」

「サンダー!」



走りながら律儀に訂正するサンダー。

その身体が思い切り躍動し、飛び跳ねた。

跳び付いた先は木の幹。

手足をわしゃわしゃと繰って、幹を這い上がっていく黒コートの男、万丈目サンダー。

高所にある太い枝まで登るが否や、手に近い蔓を掴んで跳躍の姿勢―――!



「おい! 万丈目、お前まさか……!」

「決まっている。奴と同じ方法で、追いかける――――!

 行くぞ、サ―――――ンダァ――――――!!!」



なんだその掛け声、と突っ込む暇すら許さずに彼は跳んだ。

しっかりとロープのように太い、蔓を握りしめながら。

蔓は先端に重石を得て、蔓の生え際を基点に揺れ動く。

まさしくペンデュラム。大きく揺らせば大きく戻る。

サンダーが飛び立った木をスケール1とするならば、目指す先はスケール8の隣の木。

サンダー自身が振り子に乗って、光のアークを天空に描――――



ぶっつん、と。

何かが切れる音と、吊られていた筈の身体に感じる突然の浮遊感。

なに、と。焦燥に駆られて悲鳴染みた声を上げる。

上を見上げれば、蔓はもうどことも繋がっていやしない。

音の正体、浮遊感の原因、答えは一瞬にして組みあがった。

その答えに対する反応は、絶句以外に無い。

そして、重力に慈悲は無い。



――――落下。

小枝や草葉を折って潰して地面に到着。

その有様を見た十代が悲痛に叫ぶ。



「ま、万丈目ぇえええええええええええっ!!!」







なんやかんや、万丈目を置き去りに追跡を続行。

木々の間を抜けると、ターザンは切り立った岩壁を背に立ち止まっていた。

木よりも遥かに背の高い崖。

これを素手では登れまい。

何せ10m以上はある切り立った岩壁だ。

装備があるならいざ知らず、これを何の装備もなしに、しかも半裸でなどと……



雲海に衝き刺さるような巨大岩山を、何の装備も無しに素手で登りきるなど……

無理だと思いたかったが、そうでもなかった。

デュエリストならばこの程度できるかもしれない。かっとビングさえあれば。

ダメかもしれないが、ダメじゃないかもしれない。



「追い詰めたぜ、セブンスターズ! 万丈目の弔いデュエルだ!」



セブンスターズ、と声をかけられた大山は、一瞬キョトンと呆けた。

が、すぐに立ち直る。

大山はすぐさま身を翻し、崖の正面にあった川の中へと飛び込んでみせた。

どっぱーん、と立ち上る水柱と飛沫。



「川に飛び込んだ!?」

「夜間、しかも水中ではろくに動けない筈よ……どうするつもり?」



明日香の疑問。

答えはすぐに返ってきた。

なんと、その筋肉の塊は水流に逆らって、川に流入している滝を遡り始めていたのだ。

水流で削られた岩壁をしっかと掴み、当然のように登っていく。



「滝を昇ってる!?」

「スゲー!」



驚く翔、はしゃぐ十代。

そしてもう一人。



「この崖を滝昇りで越えるつもりか――――ならば!」



脱ぐ三沢。

瞬きの内に下着を残して脱ぎ捨てて、彼は湖の中へと飛び込んだ。

そして同じように、滝を昇り始めるという異様な光景を作り出す。



「逃がす、もの、か! ぬおおおおおお――――!」



三沢の咆哮が轟いて、加速する。

水を掻き分け、崖を登る手の動きは最早スクリューが如し。

二人は少しずつ上へと昇る。

だが三沢の方が僅かに速いか、或いは体重の差が出たか。

もしくは大山を追走する三沢という並びが生んだ水流のスリップストリームか。

二人の距離は少しずつ詰められていき――――



「大山くん!」

「っ!」



唐突に、大山の腕が止まる。

停止した大山の意識が、目の前の滝から背後のトメさんへと流れ―――

気を抜いたが為か、岸壁を掴んでいた握力が抜けた。



重力に従う水の動きに逆らう為の力をなくしたのならば、次は重力に従う羽目になる。

突き進んでいた筈の大山が、停止どころか逆流―――

いや、今までが逆流だったのだから、これは正しい流れだろう。

とにかく、大山が普通に流される事で損害を被るのは、それを追うものだ。



「ぶ、うぁああああああああっ!?」



水流に従い上から流れ落ちる大山の身体に、三沢が巻き込まれた。

ただでさえ普通ではない状態だったのだ。

支える事はおろか、回避すら行える筈もない。

滝を半ば以上まで昇っていた二人がこんがらがって川の中へ墜落する。

だっぱーん、と盛大な水音を立てて逆立つ水柱。

……大山の身体と水面に挟まれた三沢は、相当のダメージを受けた事だろう。

水没する二人を見た十代が、叫ぶ。



「み、三沢ぁああああああああああああっ!!!」







あっという間に犠牲者二人目だ。

なんという手際か。



水中から大山は三沢を引きずりつつ、這い上がってきた。

随分と容易に成し遂げてくれたが、それが並大抵の筋力では不可能なのは自明。

彼のパワーは尋常ではない。

だからどうしたということはもちろんない。



「くぅっ……三沢と万丈目がこんなにあっさり! これが、セブンスターズ……!」

「やっぱり、大山くん!」

「やっぱり、ターザン?」



湖中から出てきた大山に、トメさんが駆け寄った。

俺は大体知っているが、俺以外にはこの状況が整理出来ていない。

セブンスターズと戦うつもりでいた十代が、疑問を口にする。



「……トメさん、誰なんだこいつ」



問いかけられた方は、久し振りの再開に笑顔を浮かべながら、答えをくれた。



「大山平くん。オベリスクブルーの生徒だった子よ。

 とっても優秀な子だったんだけど、一年前に突然行方不明になって……

 まさかこんなところにいたなんて……」

「行方不明者……!」



明日香が小さく声を震わせた。

無論、JOINの事だろう。

トメさんはそのまま、懐かしむような口振りで大山の事を話してくれる。



「でも大山くん、よくタマゴパンを引き当てられたわねぇ。

 一年前はあなた、何度やっても……」

「わぁっ!? あぁああああ!?」



顔を崩し、羞恥に赤らんでトメさんの言葉を遮る大山。

だが、タマゴパン泥棒はタマゴパンだけを正確に盗んでいった盗人だ。

何度やっても目当てのパンを引けない奴では、この状況はあり得ない。



「どういうことだよ、トメさん」

「大山くんも十代ちゃんたちと同じように、よく購買部に来てはドローパンを買ってくれてねぇ……

 でも、一度もタマゴパンを引き当てられた事がなくて……」

「一度もって……でも、こいつの引きはすごいぜ。別人じゃないのか?」



疑問としては、当然そこだ。

正確無比なタマゴパンハンターが今回の下手人。

何度引いても一度も引けなかった彼に、その役割がどうして務まろうか。



「フフフフ、ハハハハハ!」



突然として、大山は笑い始めた。



「そう。そうだよ、ボクは生まれ変わったんだ。

 この一年山にこもり、引きの修行をして!」

「生まれ変わった…?」



何故そこで山にこもるという選択肢を見出してしまったのか。

その疑問に答えたわけではなかろうが、大山は大儀であるかのように続きを語る。



「そうだ。ボクはかつて、オベリスクブルーで筆記試験は毎回トップの成績を収めていた。

 でも、実践になると……ここ一番の引きが、まったく……!

 引きが欲しい……! ボクは地平線の彼方で輝く太陽へ、心底そう願った。

 ――――答えはなかった。ただ波が寄せては引いていくだけ。

 何億年も前から、未来永劫変わらない……その時ボクは気付いた。

 デュエルのドローと同じだと! ドローも変わらない、波のように。

 ボクは思った、引きの神髄は自然の中にこそある」



少なくとも、ドローの修行じゃなくてシャッフルの修行の方が効果あるよ。きっと。



「そしてボクは、山にこもった。

 自然に身を委ねる、自然の叡智を身につける、自然そのものになる。

 強い引きを得るために、ボクは一年間修行した。

 そして、修行の完成を確かめるため、オレは試した。因縁のタマゴパン……!

 そう。確かに身についていた。この手に、引きの強さが……!

 うぅ……頑張ったなぁ、オレ」



そして泣き始める大山。いつの間にか一人称が変わっているのはなぜか。



「オレも、タマゴパンが売り場デッキにある時に外した事ないぜ?」

「なにっ!?」

「どーだい? オレも引きにはちょっとばかし自信があるんだ。

 このオレと決闘たたかう事で、卒業試験としたらどうだ?」

「フッ……面白いな。この引きの強さ、デュエルで試してみたかった」



なんでわざわざ挑発するのか。

もう事件解決でいいというのに。

もうすぐ夜明けというこの時間で、なんでこいつこんな元気なんだろう。



「アニキぃ……」

「なにがなにやら」







「「デュエル!!」」



二人が距離をとり、デュエルディスクを展開。

互いが手札を5枚補充して、始まるデュエル。



「オレの先攻で行くぜ! ドロー!」



あらやだ先攻ドローですって。久し振りに見たわ。

少なくとも一番上で三沢とドローの特訓してた辺りでは、まだ先攻ドローがあった筈なんだが。

書いてた時期的に。おかしいなー。



「よし! オレはスパークマンを攻撃表示で召喚!」



十代がカードをディスクへ放つ。

ソリッドヴィジョンの生み出す光が、雷へと変じて轟いた。

雷光の中から姿を現すのは、黄金の鎧を纏う、紺身の戦士。



隙なく構える戦士の後ろに立つ十代は、さらに1枚手札を抜いた。



そのカードをディスクの側面スリットへ差し込む。

するとカードは裏面表示で、十代の足元に敷かれるように現れた。



「更にカードを1枚伏せ、ターンを終了するぜ。

 活きの良い引きを見せてくれよ!」

「一年間の修行の成果を見せてやるぜ!

 オレのターン、ドローッ!!」



ドローカードを確認した大山の顔が、不敵に笑う。



「まずはカードを1枚伏せる。

 そしてこのドローカード、ドローラーを召喚!

 アーアアーッ!!」



大山の足元より、岩を固めて作られたかのような重機がせり出してくる。

岩を削り出して作ったような強面のゴリラのような上半身。

腕はそれらしい意匠ではあるものの、間接がないために腕としての役割は果たすまい。

手の先にはローラーがついており、腕らしきものはただのシャーシとして扱われるのだろう。

下半身は完全に地均しのための巨大ローラー。

その名に相応しい、ド級のローラーぶりだ。



「ドローラーの攻撃力と守備力は、手札からデッキに戻した枚数の500倍となる。

 オレは、手札を4枚戻す!」

「カードを全部!?」

「えぇ!? 手札なくなっちゃうよ!?」

「カードをデッキに戻した数だけ、攻撃力を上げるモンスター……

 Wiraqocha Rasca……」



手札をすべてデッキに戻し、シャッフル。

デッキホルダーへとそれをセットし直して、大山は十代に向き直った。



「ドローラーで、スパークマンを攻撃! ローラープレス!!」



ドローラーの巨体が動く。

三つの鉄輪が同人に回転を開始し、巨体が徐々に加速していく。

自身の数倍、あるいは十数倍の質量の進撃を前に、雷の戦士は身構えた。



背負ったフィンから放電し、掌中に集めて光弾と化す。

バチバチと弾ける電光を圧し留め、凝縮して一個に固め、

目前まで押し迫った相手を目掛けて解き放つ―――!

空気を焼いて雷速で奔る弾丸は、ドローラーの胴体へと確実に着弾した。

灰色のボディが一瞬だけ赤く灼熱し、

しかしすぐにその傷跡にすらならない命中痕は消え去った。



雷弾の衝撃は、一秒たりともローラーの侵攻を遅らせない。

攻撃を放ち硬直するスパークマンが咽喉を引き攣らせるかのような悲鳴を漏らした。

直後、その紺と金とで彩られた戦士の姿を、ローラーが覆い隠す。

ドローラーがそのまま走り抜けると、地面に薄っぺらくなった戦士の身体が張り付いていた。



巨体が通り過ぎた後から、地面に張り付いていた潰れたスパークマンの末路が剥がれて舞う。

ぺらぺらの体はそのまま砕け散る。

その衝撃波が十代のもとまで届き、ライフカウンターの数値に変化をもたらす。

攻撃力の差分は400。

十代のライフは3600にまで削れ、フィールドからはモンスターが消えた。



そして、潰し消されたモンスターの行き先は想像外の位置だと知らされる。

戦闘で破壊されたモンスターの行き先は、基本的には墓地しかない。

だというのに、スパークマンの末路はそこではなかった。

墓地へ送ろうとしたところ、デュエルディスクはその処理を拒否した。



「なに!?」

「ドローラーに破壊された攻撃表示モンスターは、墓地へは行かず、デッキの一番下に行く。

 墓地から引き上げる事はできないぞ。これでターンエンド」

「む…やるな、オレのターン、ドロー!」



十代の顔に不敵な笑みが浮かぶ。

その表情を浮かべるに到った理由は、当然にドローカードにある。

引き当てたのは、エースを呼ぶための一枚。

複数のモンスターの力を束ね、新たな力を生み出す魔術の札。



「手札より、融合を発動!」



指繰りカードを取り回す。

腕を振るいながらの指回しが、融合カードを二転、三転と転がした。

素早く、しかし正確な指回しがカードを取り逃すことはない。

十代のその妙技こそ、新たなモンスターを迎えるための儀式だ。

指先がカードを確かに挟み込み、その表を相手の目にしかとさらす。

ついで、十代の背後に二体の戦士の姿が浮かびあがった。



一体目は全身を緑色の体毛で覆う、白翼の戦士。

二体目は水色のアーマーを着込んだ、腕に放水口を持つ戦士。

二人は揃い踏み、十代の背後で堂々と胸を張る。



「手札のフェザーマン、バブルマンを融合!」



次元が歪み、二つの姿を飲み込んでいく。

その中で一体如何なる工程を経ているのか、二つ分の影はやがて一つに纏め上げられた。

歪みからまるでトビウオが如く飛び出したのは、元となった二人とはまるで違う姿の戦士。

筋肉の鎧を纏い、その上に更に軽装鎧。

顔をマスクで覆い隠して、背中へ黒い長髪と赤いマフラーを流した装い。



「融合召喚! 来い、E・HEROエレメンタルヒーロー セイラーマン!!」



両の腕に錨の繋がった鎖を巻きつけ、しかし何の重さも感じさせない体捌き。

鎖に髪に、靡いて騒ぐ諸々を器用に操り姿勢を整える。

十代の前で屈んだ姿勢をとった戦士の足元に、攻撃力の表示が浮かび上がった。

その表示を見た大山が、訝しむような声を漏らす。



「攻撃力1400…? その程度のモンスターでは、オレのドローラーは倒せないぞ!」



大山のフィールドで、自身の存在を主張するかのように岩の巨体が唸りを上げる。

その巨体の装甲の堅牢さは、セイラーマンの有する錨では貫けまい。

今のまま挑みかかろうものならば、逆に轢き潰されるのが定めだろう。



だが、そんな事はわかっている。

この戦士を呼び出したのは、呼び出すに足る理由があったからだ。

大山の放つ挑発めいた台詞を、不敵な笑みで受け止める十代の表情こそが、その証左。



「さあ、それはどうかな?」

「ぬ!?」



手札の1枚を手にして返す言葉。

自信に溢れた表情と口振り。

その様子から、何かあると確信する事に迷う余地もあるまい。

警戒を強める大山の前で、十代はその1枚をデュエルディスクへ差し込んだ。

直後、現れるソリッドヴィジョン。

それを見て、大山の表情に浮かぶ警戒の色が、一気に驚愕へと塗り替えられた。



「なに!?」

「オレはカードを1枚セット!」



十代の思わせ振りな1枚の正体は、物言わぬセットカード。

勝負を持ち越すつもりの1枚か、と歯噛みする大山。

相手が浮かべたその様相を、十代は不敵な笑顔で突破する―――!



「セイラーマンの効果発動!」



錨を下ろす。

腕に巻き付いた鎖がたちまち解けて、重力に従い地に落ちる。

錨の着地点は十代が今し方セットしたカードの、ソリッドヴィジョンの上。

そのまま上に乗るかと思いきや、錨はカードを突き抜けて沈んでいった。

カードの上から突き刺さり、突き抜けたから下に続くかと言えば、しかしそうではない。

錨はカードを突き抜けてどこかへと消え去っていた。



その様子を見た大山が、状況を察する。

切り札の如くカードをセットした十代。そして今、セットカードの上に乗るセイラーマン。



「カードをセットする事で発動する効果か! 一体、どんな効果なんだ!?」

「こんな効果だぜ!」



セイラーマンが足下に敷いたセットカードから、水柱が噴き上がった。

戦士の巨体を覆い尽くす水流に、大山の視線が引き付けられる。

一度噴出した水の柱は、すぐに重力に逆らう勢いを失くし、飛沫となって落水。



地面を叩く集中豪雨が、破裂音にも似た盛大な水音を奏でる中。

水のカーテンが晴れたその場からはしかし、既にセイラーマンの姿は消え去っていた。



「消えた…!?」



息を呑むと同時に、驚きの声。

離れた場所に見入っていた大山が狼狽える。

瞬間、大山の足下から先程のように水流が噴き上がった。



視界いっぱいを覆う水飛沫。

自身の足下から突如として出現したそれに、大山が踏鞴を踏んだ。

荒れ狂う飛沫ごと飛来するのは、セイラーマンの腕から吊るされていた錨。



「自分フィールドに魔法・罠カードがセットされている時、

 セイラーマンは相手フィールドにモンスターがいても、ダイレクトアタックが出来る!」



錨に貫かれた大山の前に、ライフカウンターのソリッドヴィジョンが浮かび上がる。

そこに表示されていた4000という数値がみるみる減り、2600まで低下した。

すぐさま錨が引き戻される。

見事に鎖が腕に巻き付き、錨はセイラーマンの腕へと固定された。



「オレはこれでターンエンドだ」

「ぬぅ……!」



確かにダイレクトアタックを受け、ライフを大きく削られた。

だが攻撃力1400のセイラーマンを、攻撃力2000のドローラーの前に放置する所業。

ターンが回れば、確実に反撃を受ける布陣。

と、セイラーマンの背後に伏せられたカードの映像に目をやる大山。



―――あのカードが、ただセイラーマンの効果発動条件を満たすためだけのもの。

な、筈があるまい。

恐らく、あれはセイラーマンの効果を後押しするための旗であると同時に、

モンスター同士の戦闘が不得手である彼を守る盾に違いない。

今、この状況で突破出来得るか? 否。

ドローラーを動かすための油の代わりに、手札はすべてデッキの中に戻している。

今この場にあるのは、ドローラーとセットカード1枚。

その上、セットカードは発動こそ自由なものの、確実に成功する効果を持っているわけではない。

しかもそのカードの効果だけを見るならば、ギャンブルカードと言ってもいい。

それも、成功率38分の1。



言うだけあって、奴の引きの強さを疑うことに意味はないだろう。

こちらのドローラーを擦り抜けて強襲をかけてくるに至った戦術は、

ドローカードである融合を起点としたものであった。

ならばこそ、ドローで逆転するべきなのだ。

いや、ドローだけがここからの逆転を可能とするのだ。



大山平の積み上げたドロー経験は、十代のそれを圧倒的に凌駕する。

だからこそ、ここで退くわけにはいかない。

ドローの導く結果が、目の前の相手に劣るなどと、けして認めるわけにはいかないのだから。



「―――オレのドローフェイズ!

 カードをドローする前に、この伏せリバースカードを発動する!」



立ち上がるトラップカード。

その正体こそ現状38分の1のギャンブルであり、大山平という男が求めたものの集大成。

今までこの山で積み重ねたものの集積が、奇跡を呼ぶに足るか否か。

最後に秤へかける時が来た。



「永続トラップ、奇跡のドロー!

 このカードはドロー前に、これからドローするカードの名前を1枚宣言する。

 ドローしたカードが宣言した通りのカードだった場合、相手に1000ポイントのダメージ。

 違っていた場合は、自分が1000ポイントのダメージを受ける……」

「ドローカードを当てる!?」



翔の声は当惑のものだ。

残るデッキの枚数は38枚、そこから特定の1枚を引き当てる―――

いや、引き当てる1枚を宣言するなど、現実的ではない。

だが。



「おもしれぇな、ワクワクするトラップじゃないか!」



十代がそのカードを見る目は輝いている。

そんな十代を相手に、大山が言葉を向けた。



「当たらないと思っているだろう」

「わからねえ」

「わかるんだよ。引きの神髄を体得した、このオレなら!」



素直に言葉を返す十代に、大にした声でまた返す。

漫才のような間の取り方で言葉を交わした後、大山は目を瞑った。







――――集中し、自身の裡側に沈んでいく。

心の中に留め置くデッキレシピから、1枚だけを選び抜く行為。

それを成す為に心を広げる。



意識を埋没させた心の裡は、四方を壁に覆われた狭い暗闇だ。

―――認識を拡大する為、この壁を排除する。

それが長い時を経て至った自然との調和に臨む心構え。

壁が消えれば、外から流れ込むものを遮っていたものは一切なくなる。

光、空気、音。

様々な要素が雪崩れ込み、意識を押し流そうとしてくる。

混濁したのは一瞬、すぐに自分を取り戻す。

するとどうだろう。

意識のみの世界に、自分の身体を認識する事が出来た。

素足で岩肌を踏みしめる感触、指の合間も擦り抜けていく微風の感覚。

一つずつ、自分の身体と意識に差がないか確認を行っていく。



口を開く。肺に空気を大きく取り込む。吐き出す。

―――眼を開ける。

広がるのは今まで大山が向き合っていたものとは違う光景。

今立っているのは滝壺だ。

水面に頭を出している大きな岩の上に立っている。

目の前には水柱、滝の落ち込み口だ。

弾ける水飛沫が身体を打つ感覚が染み渡っていく。

目を凝らして見ると、その滝の水流の中には、カードが混ざって流れている。

留まる事を知らず流入し続ける瀑布に、止む事なく流され続けるカードの群れ。



一見、不自然な光景にも見えよう。

だが、これこそが己の見つけた自然の摂理。

運命とは絶えず流動する水物。

そこから望むものを得ようと願うのであれば、何一つ誤る事は許されない。

流れ込み続ける滝の中に潜む無限のカードの中から、唯一無二の一枚を引き当てる。

ただ一瞬見過ごせば、手に入れたいものは滝壺の底へ沈没するだろう。

逃してはいけない一瞬は、カードの裏側しか見えないこの場からでは推測する事さえ不可能。

正解の知れないタイミング。しかし、そこで達成しなければならない。

無数に流れている正体不明のカードの中から望んだ1枚だけを正確にドローする事を。



――――不可能だ。

――――そう。不可能だった。



その常識を大山は永きに渡る修行の末、獲得した奥義によって凌駕した。

まずは自然と同一化する事により、全身を以てして感じるのだ。

カードが水を切りながら流れる事で生まれる僅かな揺らぎ。

揺らぎは飛沫と波紋となり、世界と融合した大山の存在をも揺らす。



無限に等しい数ほど存在するデュエルモンスターズのカード。

だが、そのカードの実態は、せかいにたった1枚ずつしかないものだ。

無数のカードは、けして同一の存在ではない。

唯一無二の1枚が、無数に存在しているだけだ。

だからこそ、それぞれのカードが起こす世界の揺らめきには、観測できない程度であっても必ず誤差がある。

それが見える。感じるのだ。

ずっと求め続けてきた声が聞こえる。

ここにいる、と。



何千、何万種。何億、何兆枚。

数えても数え切れない種類のカードがある。

その中から選んだ、選ばれた。

“大山平”だけの40枚。

何十億という決闘者がカードを求める世界において、在り得ない確率で巡り合ったカードたち。

その巡り合いこそ、全人類の中から伴侶を選ぶこと以上の難事が故。



―――たかが数え切れぬ程度しかない関知しないカードに混じったからといって、

―――この指先が過つ事があろうものか。



皮膚で感じる。筋肉が震える。

――――きたのだ。待ち望んでいた戦友が。

既知の波動を放つ1枚のカードを求め、滝の中へと腕を突き立てる。

天下る水勢が、こちらの身体を引き摺り込まんと猛威を奮う。

その勢いを凌ぐ気勢でもって、水流の中から1枚のカードを掴み取った。

指先から全身に伝播する熱。

水に持っていかれた体温が、一気に全身に戻ってくる。

そして、今こそ叫ぶのだ。

この、身体から今にも溢れんばかりに漲った熱量を吐き出すように。



――――意識が浮かぶ。



現世に戻ってくると、既にデッキに指をかけている姿勢だ。

昂揚感のままに突き動かされる。

叫ぶのは今から己の手に収まるカードの名。







「ドローカードは、カードローン! ドロォーッ!!!」



宣言するが否や、大山の指先がデッキからカードを引き抜いた。

それを大上段に掲げ、カードの正体を見せつけるような姿勢をとる。

そのカードは間違いなくカードローン。

宣言通りの存在が、彼の手に収まっていた。



「当たった……!」

「そんな……」



的中した結果起こされる現象は、既に説明済み。

大山は十代へと指先を向け、その確定された効果を再び告げる。



「1000ポイントのダメージを受けてもらうぜ」

「うっ、ぐぅうう……!」



十代の身体に電光が奔る。

同時に浮かぶライフカウンターの中で、ライフポイントが急降下した。

その数値は2600。



「そしてオレはこの、カードローンを続けて発動する」



ドローカードを的中させるという離れ技を披露し、しかし喜色一つ浮かべない。

彼にとってはこれこそが真実であり、正しい結果以外の何物でもない、ということだろう。

合間もおかず続くカードが、フィールドに現れる。

そのカードが光を放ち、光は十代の身体を取り巻くように揺らめいた。



自身に纏わりつく光に怪訝な顔を浮かべた十代の前に、再びライフカウンターが出現する。
今度は数値が減るわけではなく、逆にライフが回復していく。

対して、大山には電光が襲い掛かり、カウンターに表示された数値が減らされる。



「カードローンの発動には相手のライフポイントを1000回復させ、

 そして自分自身は1000ポイントのダメージを受ける必要がある」



十代のそれは残り3600まで回復。

対する大山の残りライフは、1600まで減らされてしまった。



「これにより、カードローンの効果でオレはカードを1枚ドローできる!

 ただし、この効果でドローしたカードは、エンドフェイズにデッキに戻さなければならない」

「そこまでして、引きに拘るのか…」



大山は指先をデッキに重ね、カードを手繰った。

手に入れたカードを、己の眼で確かめる。



「来た! この引きを見よ、手札から魔法マジックカード、ドローボウを発動!

 ―――カードを1枚引け。そのカードをオレが当てる。

 もし当たった場合、お前の手札とフィールド上の全てのカードは、デッキに戻してシャッフルする」



ドローボウ、泥棒とかかっているのか。

ならば相手プレイヤーのドローカードは盗品に当たるのだろう。

相手に盗ませ、それを正しく看破し捕まえて、逆に相手の全てを奪う。

マッチポンプと言える。

だが、この効果では火打ちの火力と火消しの水力がつりあっていない。

相手に与えるものは炎上させるに容易いものだ。

しかしそうして点けた火を消してみせようよ思ったところで、

どこで燃えているのかすらわからないではないか。



「当たったら、十代の場はがら空き…!」

「そう何度も当たるわけが…」







再び落ちる。

先程と同じ手順を踏み、自身の中へと沈み込む。

そうして眼を開けて、映るのは滝の流れだ。

此度、この流れの中から引き寄せるのは、自分のカードではない。

遊城十代が引くカードだ。



確かに十代のデッキがE・HEROエレメンタル・ヒーローだというのは分かっている。

だがそのデッキレシピを正確に知っているわけではない。

精々38分の1だった、先のドローとは決定的に違う。

自分のデッキですらない、そこ至るというのであれば、

最早それは自身の鍛練という過程が導きだす結果として、余りにも逸脱している。

だから、そう。



――――大山平はそこまで至るべく、自然の中に己を融かし込んだのだ。

――――ドローの神髄は自然との融和、融合。

――――自然と合一する事で、自然の流れを理解する。

――――デッキからカードをドローするという行為は、滝口から水が落ちて滝壺に流れ込む現象とよく似ている。

――――つまりデュエルとは、二本の滝が同じ場所に流れ込む事で生まれる大自然が生む奇跡。

――――場所によりけり滝崖の形状は違い、同じものは二つとない。

――――連綿と続く時間と水の流れが研磨し形作った、唯一無二の結晶。

――――それが滝。そしてそれこそがデッキ。



自分と相手がカードで鬩ぎ合ったのはまだ僅かな時間だけ。

だが、それでも。

十代のデッキが生む衝撃は、感じ入っている。

自分のデッキと、十代のデッキ。

二つがぶつかりあう事で発生する対流。

それは本来一つだけの流れを大きく乱し、湖の中で複雑な乱水流となって暴れ狂う。

その乱れ具合を、全身で確かめる。

足場に敷く岩が水中で、一体どのような水流をその身に受けているのか。



……激流だ。

足元から立ち上ってくるそれを全身で受け止めて、見極める。

今、この瞬間。

この湖という戦場に流れ込んだ1枚の正体は――――







「ズバリ! 融合解除!!」

「ははっ、すげーな!」



眼を見開いて、そうと宣言する大山。

デッキからドローした十代は、引いたカードを見て楽しそうに笑う。

手首を翻した十代の手にあるカードは、間違いなく融合解除の一枚だ。



「また当たった!?」



十代のフィールドに置かれていた全てが消える。

効果の発揮条件を満たされたドローボウは、その威力を存分に発揮した。

手札、フィールド、すべてのカードをデッキへ戻しシャッフル。



「まずいぞ、アニキ…」



翔の言葉通りに、何もなくなった十代のフィールドに進軍する大山のしもべ。



「ドローラーで、プレイヤーへダイレクトアタック!

 ローラープレス!!」



ドローラーの巨体が動く。

巨大ローラーを回すモーターが動作し、巨体は前方への進撃を始める。

地響きを轟かせながらの走行の目的は、宣告通りに十代の圧砕。

手札もフィールドも、何一つ残っていない十代に反撃の手段はない。



「ぐぅうううっ…!」



巨大ローラーが十代を潰すように重なって、擦り抜けていく。

ソリッドヴィジョンであるが故に、それは当然の光景だが……

立体映像が立体映像らしく、実際に危害を加えないという現象。

それがなんだか、



(なんだろう。すごく、こう、その、なんだ……

 ソリッドヴィジョンらしからぬ、というか。いや、これが普通なんだけど。

 ZEXALを見てからだと不自然に感じるというか)



そんな妙な感想は知らないとばかりに、デュエルは続く。

十代のライフはダイレクトアタックにより2000減ずる。

呻く十代を見て、しかし表情一つ変えない大山。



「ターンエンドだ」

「オレのターン、ドロー!」



十代は場にも手札にもカードがない。

正真正銘、今のドローカードが唯一の反撃手段だ。

だが、その一手だけではどうしようもないらしい。

ドローカードを目にした十代は、それを守備表示でモンスターゾーンに置く。



「オレはダーク・カタパルターを守備表示で召喚!」



渦巻く光。

その明るさの陰から、黒鉄の装甲が現れた。

亀のように蹲っているが為に、背負ったレールが高らかに天を突く。

その、角にも見える二本のレールは、彼の名の如く射出機の役割を本来は果たす。

だが、今回はその役目をまっとうする隙はないだろう。



「ターンを終了するぜ」



以外にあるまい。



「十代、ちょっとまずいんだな……

 次のターンのドローで、あの奇跡のドロー! の効果で、カードを当たられたら……!」



十代の残りライフは1600。

奇跡のドロー! の効果で1000ポイントダメージを受けても、まだ残る。

だが残りライフは600となり、風前の灯も寸前だ。

もしドローカードがモンスターであれば、カタパルターでドローラーを止められない以上、

ダイレクトアタックを通すしかなくなる。

これまでの大山のデュエルから考えれば、既に十代は詰んでいる―――



――――だが、それも大山平の心次第だ。







――――いよいよだ。

――――次のドローカードを当てる事が出来れば、オレは勝てる。



――――勝てるんだ!



――――ダーク・カタパルターを守備表示。

――――そうだ、シールドクラッシュを引き当てれば……!

――――あの魔法効果は、守備モンスターを破壊する。

――――そうすれば、奇跡のドロー! 効果と、ドローラーの攻撃で3000ダメージ。

――――十代を倒せる……!



今までと同じように、自分の中へと落ちる。

……同じように、同じように、同じように――――

そう、自分の心を融かそうとしているのに、一向に感覚がつかめない。

先程までは感じられた筈の風も、水飛沫も、何もない。



目の前に流れ込む滝が見えているのに、しかし水が黒く濁って水流の中に眼が通らない。

小さく呻く。

何故だ、と呻いてもしかし光景は変わらなかった。

自分の到達した場所は、確かな真実である筈だ。

デッキは、望めば必ず応えてくれた。

そう、今までだって連続でドローカードを当てたじゃないか。

神髄にまで到ったオレの意思に、カードは必ず応えてくれる。

だからオレが今、ここで、必要とするカードを叫べばいい。

そうだ。それで良い筈だ……!







「うぅ……! 奇跡のドロー! の効果発動!

 宣言するドローカードの名は――――シールドクラッシュ!!」



姑息な手を……

なんでシールドクラッシュで画像検索するとドルべが出てくるんですかね。



名前を叫ぶと同時にドローした大山の表情が凍る。

そしてそれをカードを効果の処理のため、公開する。

その手にあったカードは、シールドクラッシュどころか、魔法マジックですらない。

通常モンスターカード、ドローンであった。



「「「外した……!」」」

「ぐぁああああ……!」



大山に奔る電撃。

それはライフポイントを1000ポイント持っていく効果ダメージだ。

これで大山の残るライフは600。

予定とは真逆の展開であろう彼の顔に、焦燥が色濃く表れた。



「くっ、ドローンを攻撃表示で召喚!」



ドローラーの隣に、黒い人型が浮かび上がる。

まるで人影が地面から這い出で、そのまま立ち上がったかのような姿。

しかし、所々に橙色と緑色のラインが走る黒い体が、ただの影でないと感じさせる。



「オレの方が圧倒的に有利なんだ……! どんな事があっても、オレが勝つ!

 ドローラーでダーク・カタパルターを攻撃! ローラープレス!」



宣言と同時にまたも動き出す巨体。

あれの形状の目的は、フィールドを整える事に一貫している。

無論、すべてをひき潰すという方法に限ってだ。

だからこそ、動き方は何一つ変わらない。

地響きを起こしながら侵攻し、踏み潰し、元の位置に戻る。

その流れに巻き込まれては、金属の塊といえども敷物と化すより他になかった。



「ダーク・カタパルター……!」

「まだ攻撃は続いている!

 ドローンでプレイヤーにダイレクトアタック! オドローン!!」



黒い影は攻撃指令にしかし動かない。

だが、その指示を無視しているわけでもない。

ただ立ち尽くすだけの影から染み出すように、同じ姿の人影が現れたのだ。

それはまるで動きの軌跡を残すかのように、幾多の分身を生み出しながら十代へと襲来する。

特段素早いわけではないのに、置き去りにした分身達が残像を化して描く影の歩み。

その最先端。

一番前のドローンが十代に接触するや、一気に分身が増して包囲の陣形を組んだ。

そこから始まる怒涛の乱撃。瞬く間に十代のライフが700という数値まで減少した。



攻撃を完了したドローンの分身は消滅。

残った影は、大山の元で佇む基点となる存在だけだった。



「ターンエンド。

 どうだ、これでお前のライフは700。

 次のターン、お前の壁モンスターをドローラーで破壊して、再びドローンでダイレクトアタック!

 それで終わりだ。勝負あったな、これでオレの修行も完成する……」

「わかってねぇな。お前の修行はとっくに完成してたんだよ」



勝ち誇る大山に、十代の言葉。

自分に向けられたその台詞に、大山の声が震えた。



「なに……!」

「お前、“引き”の事を自然の力がどうだの言ってるけど、

 それよりなにより、お前さっきまでワクワクしてたろ? カードを引く事に。

 ドローすることが愉しいから、その為のデッキを作ったんだろ?

 だったら最後までワクワクしなきゃ。

 勝ちなんて意識するなよ。だからお前はさっき外したんだ」

「ふ、ふざけるな! “引き”の極意がそんなくだらん事である筈がない!!」

「それがそうなんだよ、タマゴパンを思い出せよ。

 ワクワクする事に、引きの神様は応えてくれるんだ」



そう言ってデッキに手を懸ける。

そうしてドローに臨む姿を見て、気圧される。

大山は半歩、無意識に後退った。



―――奴は、何故だ。

―――ドローの神髄へと到った筈のオレのように、自然と一体化しているわけではない。

―――ワクワクする?

―――ドローを極めたならば、ドローカードの正体は最早引くまでもなく決定的だ。

―――だから、そんな事はありえない…!



「このドローで全てが決まるんだ。な、ワクワクしてくるだろう?」



自然と融け、未来予知に匹敵する能力を発揮した大山平。

その中には十代のような精神性はない。

いや、あったのかもしれない。

だが彼は、あの領域に到る過程において、それを切り捨てている。

ドローとはそのような精神に依るものではなく、もっとマクロな視点で見るべきものと。



「くっ、ドローできるわけがない…! この状況で、逆転の為のカードを…」



出来てしまったのなら。

大山平が何より望んだ、逆境を跳ね返すドロー運を十代が発揮出来てしまっては―――

彼の修行が何の意味もないものだったと、言われているようなものではないか。



ピンチを跳ね返す、逆転のドローカード。

まるで自分が、勝利の女神に微笑まれているかのような感覚。

誰もが認めるであろう、改心のドロー。

デュエリスト。いや、それがトランプであってもいい、麻雀であってさえもかまわない。

運に依る“引き”を僅かでも孕むゲームに、ある程度の深さで関わったことがある者全て、

程度に差はあれど、誰もが感じたことはあるだろう。

ただ、今のは運が良かった。という、ただそれだけのもの。、



それを、覚えられなかったからこそ、大山平は今こうしている。

運という要素そのものを、自然の一つとして取り込み、手に入れる。

そうすることで、他の誰にも到達できない場所へと来たつもりだった。

だが、



「オレのターン、ドロー!!」



十代のドローが、大山の思考を切った。

最早隠す意味もないと思っているのか、十代はそのまま引いたカードを見せる。



「オレの引いたカードは、戦士の生還!」

「そんなカード、引いたところでなんになる―――!」



墓地の戦士族モンスターカードを手札に戻す魔法マジック

十代の墓地の戦士族には、融合素材として送られた2体がある。



「面白い事になるんだよ!

 オレは戦士の生還を手札から発動! 墓地から戦士族モンスター1体を手札に加える!

 オレが手札に戻すモンスターは、E・HEROエレメンタルヒーロー バブルマン!!」



セメタリーゾーンから現れる、バブルマンのカード。

それを手にとって、挑戦的な笑顔を浮かべる十代。



「バブルマンは、手札にもフィールドにも他のカードが無い状態で召喚した時、

 2枚のカードをドローする特殊効果がある。

 このデュエルはあんたの修行の成果を確認する、ドローデュエルだ。

 だったらオレも、この土壇場で試させてもらうぜ、自分のドロー運って奴をさ」



言いながら、十代はバブルマンを召喚する。

水色のアーマーを着用した戦士が姿を現す。

その戦士の体が淡く輝いたかと思うと、次いで十代のデッキが光り始めた。



「バブルマンの効果発動!

 このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、手札・フィールドにこのカード以外のカードが存在しない場合、

 カードを2枚ドローする! 行くぜ、ドロー!!」



手札を更に2枚加え、十代の笑顔がより深くなる。



「何を、引いた―――」

「オレは手札から融合回収フュージョン・リカバリーを発動!

 墓地の融合カードと、融合素材となったモンスター1体を手札に戻す!」



十代のデュエルディスク、そのセメタリーゾーンから溢れる光。

そこから吐き出された2枚のカードを手札に入れて、目的を果たした融合回収を墓地へと送る。

手札に戻す2枚のカード。

それを大山に見せ付ける。それは間違いなく、融合の魔法カードと、セイラーマンの素材となったフェザーマンだ。



「そしてオレは、融合を発動!

 融合するのは、フィールドのバブルマン、そして手札のフェザーマン!」

「なに……まさか、ドローボウの効果によってデッキに戻されたセイラーマンを、再び……!」



十代の背後に、緑色と橙色の空間の歪みが発生する。

モンスターを取り込み、混合させる特殊空間だ。

バブルマンが飛び上がり、そのエリアへと入り込むと、隣に白翼の戦士が現れた。

同じような光景を、大山は先に見ている。

またもその繰り返しか、と声を荒げた大山を制するように、十代は最後の手札を見せた。



「これは、最初にお前がドローラーで葬ったカード。

 墓地にやらず、デッキに戻し、シャッフルした。そいつが、オレの許に戻ってきてくれたぜ!」



奔る雷光。

二体の戦士の間に現れたのは、金色のボディーアーマーを装着した青い肌の戦士。

その姿もまた、大山は既に目にした事があった。



「スパークマン!? まさか、これは……!」

「ああ! オレたちのピンチに、HEROが駆け付けてくれたのさ!」



引き当てたのか、と。そう叫ぶ事も出来なかった。

十代のドローは、大山のドローとは全く違う。

運すらも取り込み、排し。ただ己の実力で向き合い、手に入れようとした大山。

だが十代は運任せで、良いも悪いもない。

それをただ、心の底から楽しんでいる。



「バブルマン、フェザーマン、スパークマン。三体のモンスターで、融合!」

「モンスター三体融合…!」



朝焼けを覆い隠す暗雲が流れ込んだ。

灰色をした雲の塊の中では、低く重い雷鳴が啼いている。



「現れろ! E・HEROエレメンタルヒーロー テンペスター!!!」



雲間から雷光が落ちる。

落雷に弾け飛ぶ大地に、嵐の戦士が舞い降りていた。

風、水、光―――三つの力の融合から産まれた力。

それがすべて、一つの身に集約していく。

三人の戦士以上に鍛え抜かれた身体。

その上から、スパークマンの鎧、フェザーマンの翼、バブルマンの武装。

受け継がれた力を纏い立つ。

全てを重ねたその力は――――



「攻撃力、2800……!」

「さあ、行くぜ! テンペスターで、ドローラーを攻撃!」



翼を広げる―――

フェザーマンのそれよりも、より鋭さを増した刃のような翼だ。

それがまさしく風を切り、嵐の戦士を天空へと舞い上げる。

雷の速さで以って空へと翔け、雲の中へと突っ込んだ。

立ち込める暗雲の中で静止―――

その場で、右腕そのものである銃口を、天空より下界へと突き付ける。

テンペスターの右腕は、バブルマンの武装の面影を残しつつも、そのシステムと威力は別格のもの。



テンペスターが攻撃の姿勢をとった事でか、暗雲が引いていく。

―――いや、雲が引いていくのではない。そう見えているだけで、実際の所そうではない。

その場を満たす雷雲こそは、水、風、光のエレメントで構成された、嵐の戦士の力そのものなのだから。

消えていくように見せた雲は、全て彼の許へと集っているだけだ。

構えた銃口の先に、極彩色に輝く球体が生まれている。

暴風、豪雨、雷光。嵐という災厄が持つ全ての破壊力が、銃口へと集約されているのだ。



やがて、周囲の雷雲は全て消えた。

空を覆う天蓋となっていた雲も、それに含まれた水も、唸っていた雷も。

その全てが、直径30センチもないだろう、一個の球体へと圧縮されていた。



雲は晴れ、視界はよく通る。

嵐の戦士が、バイザーの奥に隠された瞳で敵を捉えた。

右腕の銃身に左手を宛がう。

空から地表への、超長距離射撃なれど、しかし照準にかかる時間は一秒とない。

翼で姿勢を整える。風を操り、発射の反動を力任せに押さえつけられるように整える。

後は、一言―――!



「カオス・テンペストォッ!!!」



降った。

同時に撃ち放つ暴虐の弾丸。

狙いに誤りはなく、確実な精度で照準した対象に殺到する。

回避が叶わないのは、けしてドローラーの巨体が鈍重だからというだけではない。

確かな狙いで放たれた疾風の如きその攻撃に、回避の暇など存在しないのだ。



着弾する。

ドローラーの頭部を正確に撃ち抜く嵐の弾丸。

それは貫通する事なく、顔面から胸部まで突き抜けた時点で、静止した。

貫通する威力がなかったわけではない。

ただこれが、最も破壊力を発揮する方法である、という事実だ。



ドローラーの体内で静止した弾丸の圧縮が解ける。

嵐を中に封じ込めたそれが解ければ、どうなるかなど明白だろう。

限界まで縮められた風が、水が、雷が。

解放されるべく、外側へと逃げ出していく。

圧縮体はドローラーの体内だ。その周囲は当然ドローラーの身体で包まれている。

カラクリで出来た内部が、風で拉げ、水で断たれ、雷に溶かされていく。



――――破裂。

内部に満ちた衝撃を逃す術は、それ以外に無かった。

千切れ飛ぶ金属片が山となり、半ばから曲がったローラーが転がれもせずに揺れる。

その衝撃が大山の残りライフを削ぎ取り、デュエルは終わりを迎えた。



「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」







「オレは、“引き”を何も、分かっちゃいなかった……!」

「分かってたって言ってるじゃないか」



膝を落とし、敗北に打ちひしがれる大山。

そんな彼に十代は歩み寄り、声をかけている。



「いや、まだ修行が足りない……」



大山は苦悶染みた声でそう言う。

だが、デュエルを通じて彼と会話した十代には、大山の真意が既に見えていたのだろう。

溜息一つ、もう一度声をかける。



「ドローパン。一緒に引かないか? タマゴパン、当てようぜ」

「……っ!」



そう、声をかけられた大山の体が震えた。

目元には涙が滲み出し、遂には溢れる。

彼は体と同じくらい声を震わせながら、小さく、絞りだすように言う。



「ほんとうは…本当は、タマゴパンが食べたくて、山を、降りたんだ……!」



そう告白した彼と、目線を合わせるようにしゃがむトメさん。

その手が、震える彼の肩に優しく置かれた。



「帰ろう、大山くん」

「うう、ぅ……トメさぁーん!!」



こうして、一つの事件が終結した。

この事件は後に“黄金のタマゴパン事件”として、

特に語り継がれるような事もなく、当事者の中でそんなこともあったなー、程度に記憶されたかもしれない。

されなかったかもしれない。











後日。

大山が普通に復学し、十代とともにドローパンを漁る横で、

明日香が黄金のタマゴパンを引き当てて大喜びしたとかなんとか。



















後☆書☆王



最強デュエリストのデュエルはすべて必然!

ドローカードさえもデュエリストが導く!



大山を書く為に山籠もりしてドローの特訓してたらこんなに時間かかってしまいました(大嘘)

許してください! 真月がなんでもしますから!


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.061788082122803