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No.26037の一覧
[0] 【ネタ】トリップしてデュエルして(遊戯王シリーズ)[イメージ](2011/11/13 21:23)
[1] リメンバーわくわくさん編[イメージ](2014/09/29 00:35)
[2] デュエルを一本書こうと思ったらいつの間にか二本書いていた。な…なにを(ry[イメージ](2011/11/13 21:24)
[3] 太陽神「俺は太陽の破片 真っ赤に燃えるマグマ 永遠のために君のために生まれ変わる~」 生まれ変わった結果がヲーである[イメージ](2011/03/28 21:40)
[4] 主人公がデュエルしない件について[イメージ](2012/02/21 21:35)
[5] 交差する絆[イメージ](2011/04/20 13:41)
[6] ワシの波動竜騎士は百八式まであるぞ[イメージ](2011/05/04 23:22)
[7] らぶ&くらいしす! キミのことを想うとはーとがばーすと![イメージ](2014/09/30 20:53)
[8] 復活! 万丈目ライダー!![イメージ](2011/11/13 21:41)
[9] 古代の機械心[イメージ](2011/05/26 14:22)
[10] セイヴァードラゴンがシンクロチューナーになると思っていた時期が私にもありました[イメージ](2011/06/26 14:51)
[12] 主人公のキャラの迷走っぷりがアクセルシンクロ[イメージ](2011/08/10 23:55)
[13] スーパー墓地からのトラップ!? タイム[イメージ](2011/11/13 21:12)
[14] 恐れぬほど強く[イメージ](2012/02/26 01:04)
[15] 風が吹く刻[イメージ](2012/07/19 04:20)
[16] 追う者、追われる者―追い越し、その先へ―[イメージ](2014/09/28 19:47)
[17] この回を書き始めたのは一体いつだったか・・・[イメージ](2014/09/28 19:49)
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[26037] 主人公のキャラの迷走っぷりがアクセルシンクロ
Name: イメージ◆294db6ee ID:a8e1d118 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/10 23:55
「ごめんなさい、遅れたわ」

「いや、気にするな」



夜の帳が下りた景色、海原を見つめていたカイザー亮に声をかける明日香。

灯台が放つ光が上でゆっくりと巡回している許で、今宵の近況報告は幕を開けた。

とはいえ、さして報告し合う事もない。

明日香がこのデュエルアカデミア高等部に来てから定期的に行っている、半ば義務化した習慣だ。

議題はいつも決まって、天上院明日香の兄にして、カイザー亮の親友。天上院吹雪の事だった。

行方不明の彼の情報を求め、こうやって互いの調査した結果を交換し合う為の場。



だったのだが、調査はあっという間に行き詰まり、この場が有意義に使われた事は数えるくらいだ。

もうすぐこの学園に入学して、1年になると言うのにだ。

冬季の長期休暇も終え、あとは幾つかの学校行事を残し、明日香は進級、そしてカイザーは卒業を待つばかり。

尤も、三幻魔、そしてセブンスターズと呼ばれる学園の未来を揺るがす案件にぶつかっている事は忘れてはならないが。



そう。セブンスターズ。

カイザー亮は、セブンスターズの一人、ヴァンパイア・カミューラに敗北を喫した。

その原因はほぼ100%一つの事柄。弟、丸藤翔が人質に取られてしまった事にあるだろう。

だからそれは、カイザー亮の無敗神話、完全パーフェクトの名を傷付けるものではない。

だと言うのに、明日香から見て、カミューラ戦後の丸藤亮の様子は、明らかに気落ちしている状態だった。



「………どうかしたの? 最近、あなたらしくないわ」

「いや……気にするな。原因は分かっている。オレ個人の問題だ」



そう言って眼を逸らすカイザー。

だが矢張り、その眼に以前のような強さは感じられなかった。

何が原因か。それだけでも何とか訊けないかと明日香は頭を回し、質問を考え始める。

しかし、その質問の内容が固まる前に、カイザーの方の口が開かれた。



「エックス」

「え?」

「エックス。明日香、彼の事をどう見る」



明日香としては妙な質問だと思わざるを得なかった。

カイザー亮がカミューラとのデュエルに関係して、彼に疑問を持つのはさしておかしくはない。

だが、彼の心がエックスを捉えたのだとしたら、きっとそれはデュエルに直結して考えるだろう。

デュエルを通し、カードを交わし、相手の心をリスペクトする。

それがカイザー、丸藤亮だからだ。



だが、質問された以上は答えるべきだろう。

しかしなんとも、明日香のイメージとしては、あれは何と言うか、言葉にし辛い類のモノであった。

デュエルの腕は、と問われれば。思った以上に遥かにやる、と言ったところか。

最初はオシリスレッドレベルならばそう大した事はないレベルか、と思っていたのだが。

十代の話を聞き、試験で行われるデュエルを見て、そしてカミューラとの一戦を見て、出した結論。

それは、自分と同格。あるいはそれ以上と見るべきだと言う事だ。

オシリスレッドにいるのは――――まあ、筆記があの惨状では妥当だ、というかよく入学できたものだ。



分かり易く言えば、この学園の入学テストは筆記実技各100点の合計200点。

そして、合格最低ラインは120点と言ったところか。

彼の場合、平均して筆記は5点だ。壊滅的とかそんなレベルではない。

最近は漸くギリギリ1門足らずに赤点、レベルまで上がってきたようだが……最初は本気で酷かった。

つまり、本来は実技100点でも合格できるラインではなかったのだが……

まあ、聞けば補欠合格だそうなので、本当に偶然、偶々ギリギリ合格ラインで、補欠枠がでたから入れたのだろう。



そんな彼だ。

どう見る、と問われても中々に適切な言葉選びは出来そうにない。

ならば、こういう時は安牌を切るに限る。



「面白い人よ」

「―――――ああ、そうだな」

「……そうね。悪いんだけど、本当に難しくて。でもどうして?

 あなたがそんな風に興味を持つのは、珍しい事だと思うけど」



問われたカイザーは眼を瞑り、数秒の間黙りこくる。

明日香が続く何かを待っていると、ゆっくりと眼を開き、口を開いたカイザーは小さな声で呟くように言う。

―――――その言葉に、明日香は難しい顔をして、返答に窮するのであった。











「行くぞ! 超必殺ッ!!!

 アルティメットシャイニングサバイブブラスターキングアームドハイパークライマックスエンペラーコンプリートエクストリームプトティラ……」

『長い。既にアウトです。って言うか、何故最終フォームの名前を並べたんですか』



平成ライダー最終フォームの名前を並べれば厨二全開な名前になると思った。反省はしていない。



『とりあえずプトティラがアウトです。浮いちゃってるザウルス』

「マジでか。それはまずいドン」

『そもそも名前なんて要りませんから』



あのカミューラ戦で出した謎パワーの命名という至上の命題を破却される。

名前はあった方がいいと思うんだが。だって、こう、力の入り方が大きく変わると思うし。

俺もライディングデュエル中に、クリアマインドォッ! とか叫んでみたい。



『まあ、強いて名付けるのであるとすれば、分かり易く【エックスדX”】とかどうでしょう?』

「嫌だ」

『え? マスターは受けがいいんですか?』



無言でDホイールのボディを蹴飛ばす。

慣れたもので、脚を傷めない蹴り方が身についてきている辺り、俺とこいつの普段が窺える。

相棒の方もけろりとしたもので、そんな事にビクともせずに喋り続けている。



『まぁ実際にあのシステムの発現が任意でなく、特定条件下によるものである以上、つけても意味ないですよね』

「んー、好きな時に使えるようにはならないのか?」

『それは何とも。私にしても、あの機能のコントロール領域は取得できてないので。

 でもそのうち好きな時に使えるようになると思います。そういうものでしょう? こういう能力って』



メタい事を言っても、現状で使えない事に変わりはない。

これから、まだセブンスターズのあれこれが続くと思うと、それはもう十代の後ろに隠れる事しかできない。

まあ、それも些か以上に魅力的な解決策ではあるのだが。

しかし男の子的にはそれはまた情けなすぎるので、可能ならばあれをモノにしたいと思う。

そうなってくると、こっちの時代でのんびり過ごしていては難しい。



あれを発現させるに最も有効なのは、普通に考えてこいつを使ったライディングデュエルだろう。

そうなると俺の選択肢は限りなく0に近い。と言うかフォーチュンカップ以外にあり得ない。

ついでに言うならば――――それは、遊星とのデュエル以外での発現はあり得ない。



「リベンジマッチ……だな。ハ――――勝てる気がしない」



そう言って、Xの画面をタッチし、デッキの編集画面に入る。

勝てる気はしないが、勝ちに行かないという選択肢はあり得ない。

ああ、カミューラとの闇のデュエルなんて眼じゃないほどに震えが来る。

そうだ。



「今度は取るぞ。遊星から、白星をな」

『ええ。………龍可に会いに行く約束はどうしますか?

 ああ、あと全開不動遊星とデュエルした時は、マスターが特に痛々しい言動をしていたと記録されていますが』



思考停止。

龍可はいい。まあ、デュエルが終わったら会いに行けばいい、と言うか下手すれば勝手にくるだろう。

だが、そういえば思い起こせばフフフ…デッドエンドシュートとか言ってたじゃん、あの時の俺。

やばい、これは死ぬる。



くそ、これだからプロットも作らずノリで書いてる奴はダメなんだ。

そもそもこのSS自体4話の魔神戦くらいで終わる筈だったのにここまで続いてるのがおかしい。

キャラ設定をちゃんとしないから俺があんな痛々しい発言を……

大体ここまできて俺の本名すら設定されてないとはどういう事だ。いつまでエックスで通すんだ、俺は。

マズイ……これは非常にまずいぞ……?



「どうする……今遊星の中の俺は、あの謎のボス風味、いや中ボス風味なキャラの筈……

 流石にあのキャラを再び、しかも衆目の前では無理だ。死ぬ。いや、死にたくなる。

 ならばどうする。考えろ、考えるんだ、俺……!!」



流石にあの厨二病キャラと、今の特別特徴のない、どこにでもいる一般市民C的キャラの両立は不可。

―――――よし、双子の弟で行こう。



『ねーよ』

「心を読むな。―――まぁ、俺にかかればこの程度の逆境はどうにでもなるけどな」



ゴーズの衣装を取り出す。そう、タイタンの時に使ったあれである。

しかしGXだから迷わずこれを使ったものの、5D’sでは流石に無理だろう。

みんな大好きブルーノちゃんと被ってしまう。



つまり俺には新たなコスチュームプレイの境地を開拓する必要が生じた、と言う事か。

どうしようかな。

この部屋には結構な数のコスプレ衣装が放置されているわけだが。

特撮的なスーツとかないかな、着てみたいんだが。まあ、あの状態でデュエルとか無理だろう。

エスパー・ロビン的なのでいいや。

よさげなのは……



カオス・ソルジャー、ブラック・マジシャン、エルフの剣士、ハーピィ・レディ、切り込み隊長などなど……

うん、なんだな。顔隠せない奴らばっかだ。

――――普通になんかフード付きのマントとかでいいかなぁ。何だかめんどくなってきた。

適当な布を見繕い、持ち上げる。それを何となしに顔に巻き付けてみた。

鏡を見る。



「デビルかっけぇ!」

『それに気付くとは矢張り天才か。

 こりゃあその格好のセンスのよさに気付いた人物はロード=エルメロイII世をはるかに越える名伯楽に違いないぜ!

 これからはそのお方を魔王と呼んでみんなで尊敬しよう!! 魔王、凄くカッコいいです! 魔王、惚れ直しました!』

「ごめんなさい。俺が悪かったから許して下さい」



なんでちょっとしたネタを織り交ぜただけでここまで精神をズタボロにされねばならぬ。

ってか何故型月から名伯楽を持ってきた。厨二的な意味でって事かよ、ちくしょう。

自分の部屋で厨二発言を繰り返して何が悪いんだ、誰に迷惑かけてるでもないのに。



『魔王カッコいいよ魔王』

「ないわー。俺の嫁ならここで許してくれてるわー」

『はーい。じゃあ止めまーす』



簡単である。毎度おなじみのやりとりであった。

まあそんな事はさておいてだ。問題となるのは、実際どうするかなのだが。

顔を隠すのはこの布でいいとしよう。

――――あれ、そういえば。



「お前はどうやって隠すの? お前に乗ってたら即バレだよね?」

『その発想はなかった』

「何故考えていなかったし。ああやってられねーよなぁ、おい」



Xでデュエルするという前提条件が既にアウトだった件。

もういっそ別のDホイールに乗るとかどうだろう。何の意味があるのか知らないが。

いいやもう。あのキャラだろうが今のキャラだろうが。

しかしまあとりあえず開会式にはこの謎の顔を布でぐるぐる巻きデュエリストになって出ておこうか。

それからの事はその都度考えるより他にないだろう。



「さて、とりあえず行くか」

『あいあいさー』











「よし! どう、遊星。龍可にそっくりでしょ!?」

「流石双子、全然分かんないよ」



ライトグリーンの髪を額の前で二つに纏め、ピンクのパーカーを羽織った姿の龍亞。

要するに龍可の姿を真似た龍亞である。

龍可とは違いやんやと騒ぐ少年に対し、腰を曲げた着物姿の老人、矢薙はからからと笑う。

それを見ていた、帽子を目深に被って正体を隠している本物の龍可が、顔を顰める。



「でしょでしょでしょ!」



ぴょんぴょんよ跳ね回る龍亞の脚が地面につくタイミングを見計らい、その脚を蹴り付ける。

足首の辺りを思い切り蹴り付けられた龍亞が、顔を歪めて悲鳴を上げた。



「わたしそんなんじゃない!」

「まあまあまあ、ちゃんとやるから安心しろって」



怒り声もなんのその、すぐさま立ち直った龍亞は、そう言って龍可の肩を叩き、遊星の許へくねくねと歩いて行く。



「じゃあ遊星、行きましょうか」

「ああ」



無言でそのやり取りを見守っていた遊星は、かけられた声に応えて、踵を返す。

二人並んで、デュエル・オブ・フォーチュンカップの開会式へと向かうために。

龍亞の歩幅に合わせ、ゆっくりと歩く遊星が視線を向けずに呟く。



「化粧は止めた方がいい」

「ああ、やっぱりぃ?」



その二人を見送りながら頬を膨らませる龍可と、笑っている矢薙。

そして、両目の下にマーカーの入った髪を海胆のように尖らせた男、氷室。

氷室の眼が微かに眇められ、遊星の背中に視線を送る。



――――遊星。このフォーチュンカップ、何か仕組まれたものに違いない。気をつけろ……



ネオドミノシティ治安維持局長官の座に就くレクス・ゴドウィン。

わざわざ自分自身で出向き、シティに侵入し囚われていた遊星を解放するような取り計らい。

更に特別調査室長……自身の側近を遣わし、遊星の友人を人質にしている事を仄めかし、この大会への参戦を強要した。

あの男はその目的が知れない。

氷室は何か大きなうねりに巻き込まれているような感覚を覚えながら、心の中でもう一度。

気をつけろ、と呟いた。











ぐいーんと動き始めた奈落の足場。

徐々にせり上がり、それは俺たちの姿をスタジアムに現した。

俺の立ち位置は龍可、龍亞の隣。遊星の二つ隣である。バレちゃいそうで怖い。

とりあえず俺は顔に布を巻き付け、ついでに全身を覆うマントを羽織っているのだが。

って言うかこれ完全に死羅(笑)の位置だよね。

なに、俺始まる前にムクロにやられて服を奪われそうなんだけど。アッー!



空中に投影された巨大スクリーンに、俺たちの顔が順々に映し出されていく。

一人3秒程度の投影時間で、何度か移り変わったそれは、最後に遊星の顔を映し出した。

それを見た観客席から、驚きの声が上がる。



「お、おい、マーカー付きがいるぞ!」

「本当だ……」

「あんな奴選ぶくらいなら、俺らを選んで欲しいよな」

「誰かの招待状、盗んできたんだろう……」



なんだな、このアウェイ感。

全周囲からひしひしと伝わってくる遊星への侮蔑の視線。

俺に向けられたものじゃないが、正直俺ならこれは引き籠るわ。

と言っても、下手に喋ると正体がバレるので、遊星には話しかけられないのだが。

それにちょっとこの空気は俺には重い。



「遊星……」

「心配するな」



不安げな龍亞に、遊星はいつもと調子を変える事なく言葉を返した。

気にしていない、と言う事なのだろう。

この大会への参加者、俺を除く7名の内の数名が、その空気を厭うかのように顔を顰めた。

その中の一人、ここに並び立つもののなかでも、特に身体の大きい黒い肌の男。

彼は、大会MCの手からマイクを取ると、壇上の中心へと歩を進めた。



『お集まりの諸君!!!』



マイクを通して、スタジアム全体に響く声。

それを聞いた観客たちが、一斉に静まり返った。

彼はそうなる事を確認した後、ここにいる全員へとそのセリフを続ける。



『ワタシの名はボマー。ここに立つデュエリストとして、諸君が一体何を見ているのか問いたい』



向き直り、ボマーはその指を遊星へと突き付ける。



『この男は我々と同じ条件で選ばれた、紛れもないデュエリストだ!

 カードを持てば、マーカーがあろうがなかろうが皆同じだ。

 この場に立っている事に、何ら恥じるものはない。

 むしろ下らぬ色眼鏡で彼を見る諸君の言葉は、暴力に他ならないッ!!!』



そう言って踵を返し、ボマーは元の立ち位置に戻っていく。

スタジアムに入る全員が彼の言葉に圧倒され、遊星へと向けられる罵詈雑言は消えていた。

その様子を見ていた、レクス・ゴドウィンはゆっくりと手を打ち始める。

パチ、パチ、パチと。

最初はゴドウィン一人のみだった拍手が、今まで悪態を吐いていた観客にまで広がり、喝采と化す。

喝采の中で、ゴドウィンは立ち上がり、マイクへと歩み寄った。



『心強い言葉をありがとう、ボマーくん。

 ワタクシがこの場を用意したのは、まさに今、キミが語った事が全てなのです。

 ワタクシはレクス・ゴドウィン。ネオドミノシティ治安維持局を預かる者。

 そして、日頃の治安維持への感謝を籠めて、この大いなるデュエルの祭典を企画した者でもあります。

 デュエリストは、身分も貧富の差も関係ありません。真の平等がここにあるのです!』



そう言ってゴドウィンが掲げた拳。

それを合図に、観客席の人間たちが沸き立つ。

周囲から放たれる熱気をそのままに、ボマーから返してもらったマイクを手にしたMCが、空中に投影されたスクリーンを示した。



『さあ、一回戦の組み合わせはこうだぁッ!!』



大仰なまでに動作の大きい彼に合わせ、頭部のリーゼントが揺れる。

スクリーンの中でトーナメント表の写真が目まぐるしく入れ換わり、その組み合わせを作り出していく。



一回戦・龍可VSボマー。

二回戦・十六夜アキVSジル・ド・ランスボウ。

三回戦・不動遊星VS宇宙仮面デュエリストBLACK・RX。

四回戦・来宮虎堂VSプロフェッサー・フランク。



あ、終わった。

これはもう一回も勝てずに負け抜けですね、分かります。

って言うかあの名前久しぶりに見たわ。何話ぶりだよ、あの謎ネーミング。

って言うか死羅どこ行ったんだろう。俺のせいでクビか。

まあ、一度もデュエルしてないから作者も書きようがないよな、普通に。

死神ブーメランビートとか新しいな。



「あ! 俺一回戦だ、やった!」



ボマーと並び表示された映像を指差し、龍亞は声を張り上げた。

ライバルを見る眼で、龍亞の視線がボマーへと向かう。

その視線を受け、彼は微かに微笑み、視線を正面に戻した。











そして、二人のデュエルが始まった。

龍可に扮装している事を忘れるほどにデュエルに夢中になる龍亞と、龍可のシグナーとしての力を引き出そうとするボマー。

その調子は、明らかにボマーの優勢に傾いていた。

モンスターの召喚時、800ポイントのバーンダメージを与えるサモン・リアクター・AI。

トラップの発動時、それを破壊して更に800ポイントのダメージを与えるトラップ・リアクター・RR。

魔法マジックの発動時、それを破壊して800ポイントのダメージを与えるマジック・リアクター・AID。



その三体のモンスターを並べられ、龍亞はその行動を封じこまれている。

何より、その状況に追い詰められた事により、龍亞は心が折れかけていた。



「まずいな……」



選手用の控室にあるスクリーンでそれを見ながら、遊星は呟く。

って言うかこの二人きりの状況は俺の心臓に悪い。疲れるわ。



「ガグガドララ、スガゾジョゲヅベバギ」

「………?」



何となく裏声でグロンギ語で呟くと、遊星に妙な眼で見られた。

当り前だろうが。

すーっと俺は視線を逸らしてスクリーンの龍亞を見る。



ディフォーマーの展開力を最大に発揮し、ガジェット・トレーラーを呼び出している。

その一撃はボマーを捉えたように見えたが、彼はトラップカードを発動していた。

デルタ・リアクター。

三体のリアクターシリーズをリリースする事で、召喚条件を無視してジャイアント・ボマー・エアレイドを特殊召喚するトラップだそうだ。

多分サモンがエアレイドを呼び出す効果持っている筈なのに、それでも使っているのか。

って言うか、召喚条件を無視して、というテキストがある以上、

エアレイドの方にサモンの効果でしか出せないという条件がついているのだろう。



ガジェット・トレーラーの攻撃力は2900止まり。

その攻撃力では、攻撃力3000のジャイアント・ボマー・エアレイドは攻略できない。

成すすべなく、ボマーの攻勢に晒される龍亞。

手札コストでカードを破壊する効果によって、破壊されるガジェット・トレーラー。

そのまま、龍亞はダイレクトアタックによって、そのライフを0にした。



退場する龍亞を迎えに行くためか、遊星が待合室から出ていく。

俺も、このまま遊星と一緒にいたら息が詰まってしょうがない。

遊星が戻ってくる前に退場しておくとしよう。



そう思って遊星が向かったのとは真逆の通路に入る。

適当にぶらついていれば、そのうち放送か何かで呼び出されるだろう。

って言うか、どっかにレッドデーモンズヌードル売ってないだろうか。

キングの本拠地スタジアムなのだから、そのくらいあってしかるべきではないだろうか。

あ、でも金がない。



「ふぅ、そんな事考えたら腹減ってきた」



でも金はない。出場選手に弁当の支給とかないのだろうか。

役に立たん運営め。

結局、ぶらぶらするしかやる事がないという結論。



「よお、アンタ。腹減ってんのかよ。なら食わせてやろうか?」

「?」



いきなり後ろから声をかけられて、振り返る。

燃える炎のような髪を逆立たせたサングラスの男。

何だかちくちくしそうな衣装で、俺の背後に立つ男は、炎城ムクロ以外の何物でもなかった。



「えーと」

「気にすんなよ、なぁ? どうよ、オレと一緒にそこらに飯でも食いにいかねぇか?」



確実に尻を狙われている。いや、俺をリタイアさせて自分が遊星と闘うつもりなのだろう。

殴り合ったら100パーセント負けるし、ここはデュエルで穏便に片付けよう。

うむ。



「ああ、それはいいな。デュエルして、俺が勝ったらお前の奢り。

 俺が負けたら、この服とフォーチュンカップへの参加権、って事でいいのかな?」

「――――ハッ、分かってるじゃねぇか。なら話は早ぇ……

 この炎城ムクロ、スピードでは誰にも負けねぇつもりだったが、アンタの話の早さには負けたぜ」



ニヤリと笑うムクロ。

とりあえず俺もニヤリと笑っておいた。

これで負けたらもうどうしようか。パラドックスが襲来してくるんじゃなかろうか。

ちょっとそれは勘弁してほしいので、何気に絶対負けられないデュエルである。



こっちにこい、と言わんばかりに首を振り、歩き始めるムッキー。オッペケペムッキー!

それにしてもムッキーの影の薄さは矢張り滑舌の良さが問題なのだろうか。

それともやっぱり最強(笑)なのがいけなかったのか。

生身でキングラウザー振り回してカテゴリーA倒す程度の能力は持ってるのにね。

ただしギャレンには絶対負ける。何故か。



そんな事を考えながら後に続き、デュエルスタジアムの外まで連れて行かれる。

そしてそこで立ち止まるムッキー。

周囲から、大会参加者の中でも断トツに怪しい外見の俺に対し、好奇の視線が殺到する。

……こんな衆目にさらされながらやるんですか。



えー、と思いつつもムッキーの次の行動に任せてみる。

すると彼は、大きく両手を広げ、衆人に対して堂々と宣言をしはじめた。



「待たせたなァ! 炎城ムクロの登場だ!

 今からオレと、この宇宙仮面なんたらとやらがデュエルして、勝った方がこのフォーチュンカップへの参加権を得るデュエル!

 さあ、テメェら! このオレがキングという栄光への片道切符を手に入れる様、存分に見て行きなッ!!!」



ムッキーが大見得を切り、デュエルディスクを起動する。

すると観衆も騒ぎ立て、やんややんやと声を張り上げて来た。

俺もまたデュエルディスクを起動させ、対峙する。

今まで黙っていたXが小さく声をかけてきた。



『いいんですか? 次の十六夜アキとジル・ド・ランスボウのデュエル見なくて』

「それより、そのデュエルが終わる前に決着つけないと不戦敗だ」



デュエルディスクが対戦相手のディスクを認識し、通信を始める。

互いの通信機能でランダムに抽選される先攻が俺に渡された。

ライフカウンターが4000という数値を示し、互いのプレイヤーがカードを5枚ドローする。



「速攻で行くぜ!」

「上等ッ、やってみなァッ!!」

「「デュエルッ!!」」



デッキに手をかけて、一番上のカードを二本の指で挟みこみ、一気にカードを引き抜く。

引き抜く腕は肘を真っ直ぐに伸ばすまで止めず、思い切り真横にまで手を伸ばす体勢。



「俺のターン、ドローッ!!」



いい加減慣れたもので、もうこの習慣が身についてしまっている。

俺のドローが映像化したら、もう大体バンクになってる感じ。

それはそれとして、即座に手札と合わせて考えて、戦術を決定させる。



「俺はE・HEROエレメンタルヒーロー フォレストマンを守備表示で召喚ッ!」



地面のコンクリートを下からぶち破り、樹木の腕が生えてくる。

自分で打ち破った穴の縁にその手をかけ、身体を乗り出してくる巨体。

現れたのは緑葉の体色を持つ、半身が樹木に覆われた戦士。

その戦士は俺の目の前で膝を着くと、両腕を身体の前で交差させて、身体の色を緑から青へと変化させた。



伏せリバースカードを2枚セット! ターンエンド」

「へっ、HEROデッキぃ? オイオイ、それがこれからライディングデュエルをやろうって奴のデッキかよ!

 スタンディングじゃちと格好つかねぇが見せてやるぜ―――オレのスピードデュエルをなァ!」



ムクロの手がデッキにかけられて、カードを1枚引き抜く。

口許を僅かに歪め、サングラスの奥でその眼が引き絞られたのは見間違いではあるまい。

スピードデュエル、という名の通り、彼のデッキはライディングデュエルに特化したもの。

更に言うならば、モンスター効果によるライフダメージに特化したそれ。



そんな事をつらつらと考えていれば、ムクロはその間にも引いたカードを手札に加え、手札から別のカードを抜いていた。

俺に対し、突き付けるように見せられるカードの正体。



「オレは手札のスカル・コンダクターの効果を発動ッ!

 このカードを手札から墓地へと送り、手札から攻撃力の合計が2000ジャストになるように、

 アンデット族モンスターを2体まで特殊召喚する事ができる!

 オレの手札には、攻撃力1000のバーニング・スカルヘッドが2体! こいつらを特殊召喚するぜッ!!」



ムクロの目前に二つの骸骨が突如、出現した。

その白骨は身体と言うべきか、頭と言うべきか。全身から炎を噴き出し、カタカタと嗤う。

都合、手札3枚という最初のターンのメインフェイズを迎えた時に持っている筈の手札半分を費やした特殊召喚。

それが齎したものが、二体の低級モンスターだけなわけがない。



「バーニング・スカルヘッドの効果発動!

 こいつが手札からの特殊召喚に成功した時、相手に1000ポイントのダメージを与える!

 そしてそれが、二体分! つまり2000ポイントのダメージってわけだ!!」



カタカタと嗤う骸骨から立ち上る炎が噴き上がり、放物線を描いて俺に向かい、落ちてくる。



「うわっ、怖ッ!?」



降り注ぐ炎の滝。

それに呑み込まれた俺の耳に、ディスクのカウンターが削られていく事を示す音が聞こえてくる。

一瞬でライフの半分、2000ものダメージを叩き込まれた。

と言うより、迫ってくる炎というのがトラウマすぎる。

太陽神はホントに俺のトラウマと化してしまっているな。それでも好きなのだが。

そんな筈ないのに、チリチリと身体が焼けていくような錯覚すら覚える。



「へっ、どうよ! 今のでライフ半分。そして2つ分のスピードカウンター。そいつらを相手から根こそぎ奪い取る!

 これがオレの独走デュエル! この調子でスピードキングまで一直線だぜェ!」



俺のスーパートラウマを掘り返し、嬲ってきやがる相手を見据える。

バチバチと空気を爆ぜさせて拡大する炎がゆっくりと晴れていく。

霧散した火の粉を片手を適当に振って払い除け、その先に立つムクロに臨む。

彼は一気に手札を消費し、こちらに攻勢を仕掛けて来た。

だが、それでもまだ終わりではない。



更に1枚のカードを引き抜き、その正体を俺へと明かす。

そのカードに描かれているのは、最上級モンスターの姿に他ならない。



「そして、二体のバーニング・スカルヘッドをリリースッ!

 アドバンス召喚ッ!! ぶっちぎれぇッ! スカル・フレイムゥッ!!」



カタカタと骸骨が顎骨を打ち鳴らし、徐々にその姿に罅を入れていく。

砕け散っていく二つの頭蓋骨が虹色の光を生み出し、それが一つに固まった。

骸骨の仮面を被り、炎の鬣を後ろに流し、襤褸の法衣に身を包む漆黒の影。

碧色の眼を見開き、その影は俺を睨み据える。

真紅のマントを靡かせて、舞い降りたそれこそ、炎城ムクロのエース。



「どぉうよ、コイツがオレのエース! スカル・フレイムだ!!

 さあスカル・フレイム! バトルだ、フォレストマンを破壊しろッ!!」



暗く濁った影の腕が揺らめき、その中に火を灯す。

バサバサとマントを風にはためかせながら、影は両腕に灯した炎を一つに合わせ、前へと突き出した。

解き放たれる炎の濁流。

放たれた一撃は紛う事なく樹木の戦士を狙い澄まされたもの。



両腕を交差させたままにそれの直撃を受けたフォレストマンが、濁流に押し流されて焼き払われた。

身体を包む樹木が一瞬のうちに炭化し、ボロボロに崩れ、吹き飛ばされていく。

フォレストマンを呑み込み、しかし勢いを殺さずに俺の真横を通り過ぎ、背後のスタジアムの壁まで突き抜ける炎。



「どうよォ!」

「こうよォ! 伏せリバースカード発動オープン、ヒーロー・シグナルッ!!」



地上を焼く炎の渦が天へと立ち上り、それが炎の紋様を描いて行く。

炎で描かれた崩れたHの文字。

それは、破壊されたE・HEROエレメンタルヒーローの遺志を受け継ぐ新たな戦士を呼び出すコールシグナル。



「ヒーロー・シグナルの効果で、モンスターが戦闘によって破壊されたこの瞬間、手札またはデッキから、

 レベル4以下のE・HEROエレメンタルヒーローを特殊召喚する事ができるッ!

 俺はデッキのモンスターを選択―――来い、E・HEROエレメンタルヒーロー エアーマンッ!!!」



瞬間、嵐が吹き荒れた。

地を這う炎が吹き散らされて掻き消され、燃えるHの紋様もまた、消失する。

先程まで天に浮かんでいたその文字があった場所には、それに代わるよう新たな戦士が飛翔していた。

プロペラのフィンを高速で回転させ、周囲の風を操る風の戦士。

空色の身体に青い鎧。その戦士は頭部を隠すヘルメットのバイザーの奥で眼光鋭く、相手を睨み据える。



「更に、エアーマンの効果を発動ッ!

 このモンスターの召喚・特殊召喚に成功した時、デッキからHEROヒーローと名の付くモンスターを一体手札に加える!」



エアーマンが両手を握り拳に変え、自身の目の前で交差させた。

大きく身体を逸らし、全開に力ませる。

その込められた力に呼応するかのように、背後のプロペラが高速で回転を始めた。

ハァッ、と掛け声とともに思い切り振り絞られる力を乗せて、その翼から竜巻が吐き出される。



即座に俺は、デュエルディスクを装着した腕を大きく掲げ、上に突き出した。

竜巻は俺の腕を巻き込むように通り過ぎて行き、頭上で吹き飛ぶ。

その風は俺のデッキからカードを1枚だけ、器用に吹き飛ばしていた。

頭上から落ちてくる1枚のカードを引っ掴み、相手へと見せつける。



「俺が手札に加えるのは、E・HEROエレメンタルヒーロー オーシャンッ!」

「へっ、なら伏せリバースカードを1枚セットして、ターンエンドだ!」



奴がエンド宣言をした瞬間、ディスクの魔法マジックトラップゾーンのスイッチを起動させる。



「ならばこのエンドフェイズにトラップを発動!

 永続トラップ、リミット・リバース! 墓地の攻撃力1000以下のモンスターを特殊召喚するッ!

 俺の墓地に存在するモンスターは一体のみ。蘇れ、フォレストマンッ!!」



再び大樹の力を宿した戦士がその姿をフィールドに現す。

リミット・リバースに依って蘇ったフォレストマンには、攻撃表示でなければ破壊される制約がつく。

守備力2000を誇るフォレストマンを一息に葬り去るスカル・フレイムの攻撃力は2600。

攻撃力1000のフォレストマンは愚か、1800の数値を持つエアーマンとて足許にも及ばない。

だが、



「俺のターン、ドローッ!! このスタンバイフェイズ、フォレストマンの効果が発動する!!

 自分のデッキ、もしくは墓地の融合の魔法マジックを手札に加える事ができるッ!

 俺はデッキに眠る魔法マジックカード、融合を手札ヘと加える!!」

「融合か……」



フォレストマンが腕を大地に叩き付けると、俺の足許から木々が生え盛る。

俺のデッキへと絡み付いたその木々が、その中から1枚のカードを引き抜きだした。

木に絡め取られたそのカードを受け取ると、それらは崩れ落ちていく。



「炎城ムクロッ! お前は自分のデュエルをスピードデュエルと称したが、こんな程度じゃ足りないぜ!」

「あぁッ!? んだとコラァッ!!」

「スピードキングを自称するならぶっちぎりで抜き去ってみせな―――そいつを俺は力任せに止めてやるぜ!

 魔法マジックカード、融合発動ッ!! 手札のオーシャンと、フィールドのフォレストマンを融合ッ!」



俺の目前に渦潮が立ち上り、その中より一人の戦士が姿を現す。

頭部に魚類のヒレに似た触覚を生やした、透き通る海色の肉体の戦士。

E・HEROエレメンタルヒーロー オーシャン。

そのオーシャンと並び立つ樹木の戦士、フォレストマンの足許から無数の木の蔦が伸びて来た。

二体のモンスターを覆い隠すように包み込んだそれは、球体を形作る。

タマゴのようなカタチになった木の蔦の中で、二体の戦士の力を束ね、新たなる戦士を生誕させる。



「融合召喚ッ! 出でよ、E・HEROエレメンタルヒーロー ガイアッ!!!」



周囲の大地を揺るがし、地の柱を隆起させ、木の蔦を内側から吹き飛ばし、新たなる戦士が目覚めた。

黒鉄の全身の各所には朱色の宝玉が埋め込まれ、鈍く輝く黒と明るく光る朱がコントラストを演出している。

重々しい全身鉄の塊のボディは、その防御力・そして攻撃力の高さを窺わせる。

だが、とムクロはその存在に対して自信を揺らさず、啖呵を切った。



「だがそんな鈍そうなモンスターじゃあ、オレのスカル・フレイムは捉えられねェ!」



炎の鬣を風に揺らし、影の妖術師は宙空を旋回してみせる。

ガイアの鈍重な動きの攻撃では、躱され、逆に爆炎で熔解させられるのが関の山。

それに足る火力をあの妖術師は持ち合わせている。

ただそんな事はこちらも承知の上。それを理解した上で、この地のエレメントを持つ戦士に恃んだ。

しかしだが、と今度は俺が口火を切る。



「ガイアは融合召喚に成功した時、相手モンスター一体の攻撃力を半減させるッ!

 そのスピード、奪わせてもらうぜ――――大地に縛り付けろ、ガイアッ!!」

「あんだとぉッ!?」



大空を自在に駆け回るその妖術を前すれば、スピードの無いガイアの一撃は空を切る。

だが、それは真正面から挑戦しようとすればの話。

ガイアには誕生の際に発生したエネルギーを用い、大地を裂き、隆起させる事で敵を封じる効果がある。



黒鉄の巨体が拳を大きく振り上げ、そのまま鉄塊の如きそれを、大地へと叩き付けた。

一気に砕け裂けていく大地。スタジアムの地上は瞬く間に、先に見たサテライトのそれを遥かに凌ぐ惨状へと変容する。

砕けた地面の中から尖鋭な地柱が無数に突き上げられ、飛行していた妖術師に向かい、殺到した。

よもや地中からの攻撃があるものか、と。

想定の埒外を行く不意打ちに眼を見開き、スカル・フレイムは動きを一瞬止めた。



その僅かな間隙。大地の槍がそれを突き貫く。

突き刺さった槍に、まるで魂を吸い上げられたかのように、眼に見えて炎の鬣が萎む。

逆に、拳を大地へと埋めたガイアの身体には、本来以上の能力が満ちていく。

やがて地の槍は崩れ落ち、ばらばらと消え去る。

解放された妖術師は、全身を貫かれたダメージに悲鳴を上げ、のたうち、大地を目掛けて失墜する。



「更に、ガイアはこの効果で半減させた攻撃力の数値分、自信の攻撃力をアップさせる―――

 スカル・フレイムの攻撃力は2600、よってスカル・フレイムの攻撃力を1300にダウン!

 ガイアは元々の攻撃力2200に1300の数値を加え、攻撃力3500ッ!!」

「攻撃力3500だとォッ!?」

「さあ、ガイアの攻撃だ。スカル・フレイムを破壊しろッ!」



ガイアが拳を再び振り上げ、そのまま再度叩き落とす。

大地の隆起が地の槍として大地へと叩きつけられた妖術師へと牙を剥く。

地裂隆起は大地に這い蹲っていたスカル・フレイムを容易に呑み込み、粉砕する。

突き抜けるた威力はそのままムクロを襲い、そのライフポイントを削り取っていく。

しかし、迫りくる無数の槍の群れを前に、展開されるカードのソリッドヴィジョン。

立ちはだかる1枚のカードの壁は、殺到する槍全ての攻撃を受け止め、それを文字通り紙一重でムクロへは通さない。



「そいつはそのまま通せねェな、トラップ発動! ガード・ブロックゥッ!!

 一度だけ戦闘ダメージを0にして、カードを1枚ドローする!」

「っ……! だが続くエアーマンは止まらない! 行け、エアーマンッ!!」



デッキから1枚カードを引き抜いたムクロへの攻撃指令を下す。

それに応え、大空の戦士がその鋼の翼を駆動させる。

高速で回転するプロペラが突風を巻き起こし、そのエネルギーを蓄えていく。

耳鳴りを周囲に撒き散らすほどに凝った風を解き放つ。



「ぬ、がが……! クソっ……!」



エアーマンの攻撃力は1800。

その威力を十全と発揮された竜巻は、過たずにムクロの身体を呑み込む暴力。

大地からの侵食と、大空からの侵略。

片方は完全に凌ぎ切られてしまったが、続く一撃を止める方法はない。

ムクロのライフカウンターが電子音とともに激しく変動し、1800のライフを削られる。

故に、2200。



「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

「へっ、よぉアンタ。相手にダメージを2000ポイント与えたとするだろ?

 その時、200ポイント与えてから、1800ポイントのダメージを与えた時。

 そして、1000ポイントのダメージを二回与えた時。どっちの方がお得だと思う?」



いきなり何を言い出すのだろう。

ムクロは結構楽しげに、俺に向かって指二本を立ててみせる。

それはまた、状況に依るとしか言えないと思う。

だが、よっぽど変な状況でない限り、大きな違いはないだろう。

多分ゴーズのカイエントークンに気をつけろ、とかそういう話じゃないのだろうし。



「………変わらないと思うけど」

「分かってねェなァ、オイ! 1000ポイント二回なら、相手のスピードカウンターを二つ削れる!

 だが、200と1800じゃあ一つしか削れねェ!

 分かるか、つまりダメージの与え方をコントロールする事で奪う、スピードアドバンテージって奴さ!!

 バトルは相手のモンスターに大きく左右される要素。

 つまり、ダメージコントロールってのは、効果ダメージでするもんなのさ。

 相手と同じ土俵に立って相撲をとる戦闘と違い、自分のスピードでダメージを与える。

 つまり、オレの独走状態って事だァッ!!」



言いたい事は分かるんだが、スタンディングデュエルで宣言されてもな。

とは言え、引き離されたままでもよくない。

ならばと俺はムクロに指を突き付け、こちらからの宣言をする。



「追い付いて―――引き摺り下ろす!」

「そォうよッ、やってみなァ!! オレのターンッ!」



デッキに手をかけ、カードを引き抜く。

そのカードの正体を眼にしたムクロの口許が微かに吊り上げられた。



「オレは墓地のスカル・フレイムをゲームから取り除く事で、手札のスピード・キング☆スカル・フレイムを特殊召喚!!」



埋葬された妖術師のカードが墓地から吐き出されると同時、ムクロはそのカードを取り上げた。

代わりにディスクのモンスターゾーンに置かれるのは、新たなるモンスターカード。

スカル・フレイムの身体はそのままに、存在していなかった下半身に強靭な四肢が加わる。

さながら、ケンタウロスのような半人半馬の肉体。

妖術による飛翔能力の代わりに、その黒と金で彩られた力強い四肢で大地を駆ける能力を得た。

炎の鬣を大きく振り回し、疾走する王者はここに降臨する。



「ガイアの攻撃力アップはお前のエンドフェイズまでだったなァ!

 失速したそいつにゃあ、オレのスピード・キング☆スカル・フレイムは止められないぜ!!」

「くっ……!」



スピード・キング☆スカル・フレイム(名前長い)の攻撃力は2600。

攻撃力2200に戻ったガイアでは、相手の侵攻を留める事は出来ないだろう。

スカル・フレイムはその掌中に燃え盛る炎を湛え、俺を睨み据えた。



「まずはスピード・キング☆スカル・フレイムの効果を発動!

 1ターンに一度、墓地のバーニング・スカルヘッドの数×400ポイントのダメージを相手プレイヤーに与える!

 オレの墓地に存在するバーニング・スカルヘッドは二体、800ポイントのダメージを受けなァッ!!」



振るわれた腕に呼応し、スカル・フレイムの周囲に二つの頭蓋骨が浮かぶ。

カタカタと嗤う骸骨が炎と化して、妖術師が指差す俺に向け、殺到する。

二体の炎の骸骨が一気呵成に俺に群がり、肩と腕へと喰らい付いてきた。

そいつらは俺のライフをそのまま食い千切り、昇華していく。

ライフポイントはあっという間に1200。既に底が見えてきている。



「ぐっ……!」

「次はバトルだ! スピード・キング☆スカル・フレイムで、E・HEROエレメンタルヒーロー ガイアを攻撃!!」



蹄鉄で大地を砕き、半馬の身体を疾駆させる。スピード・キングの名に恥じぬ風の如き疾走。

風に流れる炎の鬣と真紅のマントで背後を燃やし立てながら、妖術師は影のような漆黒の両腕を前に突き出した。

灯る炎は掌の中で圧し固められ、小さな太陽となる。

巨体を揺り動かし、迎撃の体勢を取ろうとするガイアに、彼の妖術師は体勢を整える間も与えず、その太陽を叩き付けた。

黒鉄の身体が溶解し、液状化してぶち撒けられる。

くずおれる巨体が地面に沈み、その瞳から光を消した。



「ガイアを粉砕ッ!」



その攻撃力の差は400。

俺に残されたライフポイントは、僅か800。

スピード・キング☆スカル・フレイムの効果を次のターン使われれば、もう止められない。



「オレはカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

「くっ……! 俺のターンッ!!

 ―――手札から魔法マジックカード、融合回収フュージョン・リカバリーを発動!

 その効果により、墓地の融合と融合召喚に使用したモンスター一体を手札に戻す。

 俺が選択するのは、E・HEROエレメンタルヒーロー オーシャンッ!!」



墓地から現れたカードを引き抜き、相手に見せつける。

この状況で最もやらなければならないのは、スピード・キング☆スカル・フレイムのバーン効果を封じる事。

そのためには、戦闘に依る破壊を行うのが最も手っ取り早い。

相手の伏せリバースカードは1枚。

それが何かは気になるが、ここで仕掛けなくては次のターンにまたバーンダメージを喰らう事となる。



――――幸い、このターンのドローで俺の手札には融合解除がきた。

攻撃誘発型のトラップなどならば、これで回避して更なる追撃を仕掛けられる。

だとすれば、ここで融合先のモンスターとして選ぶべきなのは、



「融合発動! フィールドのエアーマンと、手札のオーシャンを融合!

 降臨せよ、偉大なる風の戦士! E・HEROエレメンタルヒーロー Great TORNADOグレイト トルネードッ!!」



オーシャンが杖を振るい構えた。

それと並び立つようにエアーマンが降り立ち、その翼のプロペラを高速で回す。

翼の羽が巻き起こす竜巻は大きく膨れ、二体のモンスターの姿を呑み込んでいく。

突然の竜巻に曝されたムクロが顔を庇うように腕を上げ、唸る。

炎の鬣をその竜巻で揺らしながら、その風の壁を隔てた内側へと視線を向けるスカル・フレイム。



竜巻の中から現れる戦士は、黒と緑色の二色で彩られたボディに、白い鎧を装着していた。

ボロボロの布切れを首から引っ提げ、それを自身が起こす暴風に委ねている。

その戦士はゆっくりと俺のフィールドに舞い降り、対峙する半馬の妖術師に対し、その猛威を奮う。



弾けるように解き放たれる突風がスカル・フレイムを打ち据え、その身体を吹き飛ばす。

腕で顔を庇っているムクロの真横まで吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられる。

下半身の四肢がミシリと軋み、その速度を生み出す脚に極度の負担をかけられた。

最早あの脚で、先程と同等の速度を出す事は敵わないだろう。



「なにィ!?」

Great TORNADOグレイト トルネードの効果!

 このカードの融合召喚に成功した時、相手フィールド上のモンスター全ての攻撃力を半分にする!!

 この効果により、スピード・キング☆スカル・フレイムの攻撃力を1300にダウン!」



融合素材としたエアーマン、そしてオーシャン共に下回る1300。

融合解除とZeroを合わせる事で、スカル・フレイムを破壊する方法もある。

だが、それは逆に攻撃力2500のZeroを出せば融合解除以外の攻める手段がないと言う事だ。

反して召喚時に相手の攻撃力を半減させるGreat TORNADOならば、そのまま攻撃を仕掛ける事ができる。

更に相手の攻撃力を半減させておけば、相手がトラップで反撃してきても、融合解除で回避。

フィールドに戻したエアーマンとオーシャンでスカル・フレイムを抜き、ダイレクトアタックで抜ける。



Great TORNADOグレイトトルネード!!

 スピード・キング☆スカル・フレイムを攻撃だ、スーパァアアアセルッ!!!」



Great TORNADOグレイトトルネードが両腕を前へと突き出し、竜巻を放つ。

まるでドリルのように研ぎ澄まされた風の螺旋が、スカル・フレイムを目掛けて殺到した。

攻撃力2800を持つGreat TORNADOグレイトトルネードの攻撃ならば、攻撃力1300のスカル・フレイムでは止められまい。

あの伏せリバースカードの中身は何か。

何だとしても、凌ぎ、攻め切ってみせよう。



そう考えていたのは数秒間。

迎い来る竜巻の群れを前に、ムクロはニヤリと笑ってみせた。



伏せリバース魔法マジック! 速攻魔法、異次元からの埋葬を発動!!」

「速攻魔法……!?」



スピードにやたら拘り、ライディングデュエルの事語ってたのに魔法マジックか。

まぁそれはいい。だがしかし、奴の使った魔法マジックは考え得る限りでも、かなり不味いカードだ。



「スピード・キング☆スカル・フレイムの召喚コストとしてゲームから除外したスカル・フレイムを墓地へと戻す!

 更に、スピード・キング☆スカル・フレイムがフィールドから墓地ヘ送られた時、墓地のスカル・フレイムを特殊召喚出来るんだぜ!!」

「くっ……!」



このままこの攻撃は通るが、それにより復活するスカル・フレイム。

スカル・フレイム自身もまた、攻撃力2600を誇る最上級モンスターだ。

この攻撃に続き、融合解除による追撃も行えない。

更にスカル・フレイムにはバーニング・スカルヘッドが墓地に存在する時、発動できる効果がある。

俺とて理解してデュエルをしているが、俺の残りライフは800。

最早1ダメージだって喰らいたくない状況だ。



竜巻は脚を負傷した半馬の妖術師の身体を打ち抜き、抉っていく。

苦渋の叫びを上げて、その身体が炎を噴き上げ、爆発してみせた。

しかしその中からは、下半身の四肢を捨てた、導衣に身を包む妖術師が姿を現す。

ムクロのライフは残り700まで削り取ったが、後は続かない。



「カードを2枚セットし、ターンエンド……」

「オレのターン! スカル・フレイムの効果発動!

 ドローフェイズにドローする代わりに、墓地のバーニング・スカルヘッドを一体手札に加える事が出来る……!」



デュエルディスクから吐き出されたカードを俺に見せる。

そのモンスターは手札から特殊召喚された時、俺のライフを1000削る特殊能力を持っている。

だが、



「そしてスカル・フレイムの更なる特殊効果を発動!

 バトルフェイズを行わない代わりに、手札のバーニング・スカルヘッドを特殊召喚できるッ!!

 バーニング・スカルヘッドを守備表示で特殊召喚ッ!!」



スカル・フレイムが翳した掌から溢れるように盛った炎が、中に頭蓋骨を浮かべる。

そう。最早俺のライフは風前の灯、800ポイント。

バーニング・スカルヘッドの効果が使えるのであれば、それを使い終わらせるに越した事はない。

ムクロがカタカタと嗤う頭蓋骨を指し示し、その能力の解放を命じた。



「行けぇ! バーニング・スカルヘッドッ!!

 手札から特殊召喚された事により、相手に1000ポイントのダメージを与えるぜぇッ!!」



燃える骸骨が俺に向かい、迫ってくる。

その一撃を受ければ決着。俺の敗北に到る。

だとして、ここで投げ出す事なんてあり得ないだろう。



わぁああ、という歓声と言うか、悲鳴と言うか。

そんな声が背後のスタジアムから聞こえてきていた。

十六夜アキのデュエルだろう。もう黒薔薇の魔女云々で、大騒ぎなのかもしれない。

だとしたら、次の遊星と俺のデュエルも間近だ。



そう。遊星とのデュエルだ。

勝てない、なんてずっと言ってるし、心底勝てるわけないと思ってる。

だけど何より誰よりも――――あいつに勝ちたい。

この世界にきて最初のデュエルの相手で、最初に黒星をくれたあいつに。

リベンジマッチ。

だったらこんなとこで、負けられるわけがないじゃないか。



「そうだ。負けたくないとは思わない――――とっくに負けてるんだ、今更じゃないか。

 だけど、勝ちたい。だったらこんなとこで、負けられないよなぁ―――!!」



デュエルディスクを嵌めた左腕を前に出し、右手の指で伏せリバーススイッチを入力。

そして、突撃してくる燃える骸骨をそのデュエルディスクで受け止めた。

空気が爆ぜ、ダメージとなって襲いかかってくる炎の波。

それを見ていたムクロは、自身の勝利を確信したか、大きく宣言してみせる。



「これでテメェのライフは0! さあ、フォーチュンカップの参加権、オレが頂くぜェ!!」



にやりと。

その言葉を否定するように、俺のライフは800のまま変化せず、ダメージを処理しない。

そんな状態にムクロも何かされたと勘付いたか、俺のフィールドへと即座に視線を移した。

俺のフィールド、このバーニング・スカルヘッドの効果を無効にしたもの――――

表に返された、1枚のトラップカード。

ダメージ・ポラリライザー。



「ダメージ・ポラリライザーだと!?」

「そう、カウンタートラップ、ダメージ・ポラリライザーッ!!

 ダメージを与える効果の発動と効果を無効にし、互いのプレイヤーが1枚ずつカードをドローするカード!

 この効果により、バーニング・スカルヘッドの効果は無効になった!」



デュエルディスクから紫電が奔り、突っ込んできていたバーニング・スカルヘッドを跳ね返す。

溢れる炎は分散し、俺とムクロ。二人のデュエルディスクに叩きつけられた。

その衝撃でデッキトップから吹き飛ばされる、互いのカード。

それを二人同時に掴み取り、その正体を検める。

―――――来た! 最後の一撃を繋ぐための、キーカードッ!



俺の口許が微かに緩み、しかしその瞬間、ムクロの口許もまた、大きく吊り上げられた。

もう奴には、バトルフェイズでの行動は許されていない。

ならば、何が来る。



「よく躱したじゃねぇか! だが、お前の回避は、オレの追走に繋がったぜ!!

 魔法マジックカード、アドバンス・ドローを発動し、スカル・フレイムをリリース!

 カードを2枚ドローする!」



エースモンスターのリリース。

アドバンス・ドローはレベル8以上のモンスターをリリースし、デッキから2枚のカードをドローするカード。

スカル・フレイムのレベルはジャスト8。

つまりそのコストの対象内に含まれており、リリースするモンスターとして使用できる。



妖術師はその身を炎へと変えて、ばらばらと散っていく。

その火の粉は、コントローラーであるムクロに対して、更なる手札の増強を許した。

デッキが輝き、ムクロに引き抜かれる事を待つカードたちが叫びを上げる。

だがしかし。

確かに2枚のドローには繋がるが、次のターンにガラ空きのフィールドを晒す事になる。

だとすれば、当然繋ぐ一手が続く筈だ。

3枚になった手札の中に、一体何が舞い込んでいる……



――――いや、相手のエースはスカル・フレイムだ。

だがしかし、そのスカル・フレイムには更にもう一段階、上位存在へのシフトが隠されている。

それが先程ムクロのフィールドに降臨した、スピード・キング☆スカル・フレイム。

再び墓地にスカル・フレイムが埋葬されたというのであれば、その召喚条件は満たされているのだ。

つまり奴は、真正面からぶっちぎりにくる―――!

奴は残る3枚の手札の内、2枚をこちらへと見せつけてくる。



魔法マジックカード、死者転生を発動!

 手札の3枚目のバーニング・スカルヘッドを墓地へと送り、墓地のスピード・キング☆スカル・フレイムを手札ヘ加えるぜ!!」

「――――更なるバーニング・スカルヘッド!?」



確かにスピード・キング☆スカル・フレイムは脅威だ。

その上、それはここにきて最大限まで能力を上げた。

奴の最強のエースの効果は、1ターンに一度のバーン。

そのダメージ量は、墓地のバーニング・スカルヘッドの数×400ポイント。

このターン、墓地のバーニング・スカルヘッドをスカル・フレイムの効果でサルベージし、

同じくスカル・フレイムの効果で特殊召喚した。

つまり今ムクロの墓地のスカルヘッドは1枚のみ。

スピード・キング☆スカル・フレイムのバーン効果が発動しても、400ポイントのダメージで済んだ。

筈、だった。

しかしこの瞬間、スピード・キングを引き上げるために更なるスカルヘッドが墓地へと送られる。

これで奴の効果によるダメージは、丁度俺のライフと同じ、800ポイントの威力を得た。



「そしてぇ、墓地のスカル・フレイムをゲームから取り除く事で、スピード・キング☆スカル・フレイムを特殊召喚ッ!!」



ムクロの足許から炎が立ち昇り、妖術師の姿を描いていく。

半人半馬の身体を得たスカル・フレイムの進化態。スピード・キング☆スカル・フレイム。

その両腕が大きく横に開かれて、その掌に炎が灯る。

墓地に眠る二体のスカルヘッドから得たエネルギーを昇華する、一撃。



「くっ……!」

「バトルフェイズは行えねぇが、この効果は使えるんだぜェッ!!

 スピード・キング☆スカル・フレイムの効果により、墓地のバーニング・スカルヘッド二体分、800のダメージを与えるッ!

 行けよォッ―――!! スピード・キング☆スカル・フレイムゥッ!!!」



スカル・フレイムが一際大きく腕を広げ、次の瞬間に両手を前に突き出した。

両掌の炎が交わり、一つに。極大に膨れ上がった火炎弾が俺へと向けられる。

大気を赤く赤く染め上げて、その小規模な太陽は俺へと、解き放たれた。

真正面から思い切り叩きつけられるフレアが、俺を呑み込む。



「これで終わりだァッ!」



俺に直撃した炎が弾け、周囲に熱波を撒き散らす。

業火の海と化した風景を見据え、ムクロがその口から喝采を叫ぶ。

その声に応え、にぃと口を吊り上げた。



トラップカード、エレメンタル・チャージッ!!

 自分フィールドのE・HEROエレメンタルヒーロー一体につき、ライフを1000ポイント回復するッ!!」

「なぁにィッ!?」



Great TORNADOグレイトトルネードがマントを風に靡かせて、その腕を大きく振るう。

巻き起こす旋風が周囲の炎を巻き上げて、その威力を掻き消していく。

確かに俺は今の効果でライフを全て奪い取られる。

だが、持ち得ているライフが尽きるその前に、俺は風の戦士の放つ命の息吹を受け、そのライフを回復していた。

800のライフは1800まで回復し、しかしスカル・フレイムの効果により1000にまで削られる。



「どうやらこのターン、風を乗りこなしたのは俺みたいだな」

「へっ、だがまだオレのターンは終わってないぜ。

 墓地のバーニング・スカルヘッドの効果を発動ッ! このカードを除外し、除外されているスカル・フレイム一体を墓地に戻す……

 更にカードを1枚伏せ、ターンエンドォッ!!」



――――墓地のバーニング・スカルヘッドを減らした。

セメタリーゾーンから引き抜いたスカルヘッドの代わりに、スカル・フレイムを墓地へ送るムクロ。

それはスカル・フレイム。そして当然、スピード・キング☆スカル・フレイムにとっても喜ばしい事ではない。

だがしかし、スカル・フレイムが墓地に存在する事。

それ自体がこちらに対しての抑止力となりえる。

何故ならば今この瞬間から、スピード・キング☆スカル・フレイムを破壊すれば、スカル・フレイムが復活する事に繋がるからだ。



そしてスカル・フレイムは、墓地にバーニング・スカルヘッドが1枚でもあれば、その効果を使える。

ドローフェイズに手札に加え、そのまま特殊召喚する。

それで俺のライフ、1000ポイントは綺麗さっぱり持って行かれる。

ここで逃せば、負けるのは俺だ。なら、ここで引き摺り下ろすぜ、その馬上から――――!



「俺のターンッ、ドロォーッ!! このスタンバイフェイズに伏せリバースカード発動オープンッ!!

 融合解除ッ! その効果により、Great TORNADOグレイトトルネードをデッキに戻し、エアーマンとオーシャンを特殊召喚するッ!!」



Great TORNADOグレイトトルネードの姿が光に変わり、二つに分かれる。

二つの光はそれぞれ別の戦士の姿を取り、俺の許へと降り立つ。

鋼の翼と、回転翼を持つ風の戦士たるエアーマン。

そして、白い杖を取りまわす大海の色の戦士、オーシャン。



「エアーマンの特殊召喚に成功したこの瞬間、デッキからHEROと名の付くモンスター一体を手札に加えるッ!

 俺はデッキから、E・HEROエレメンタルヒーロー クノスペを手札ヘ!」



エアーマンの翼のプロペラが大きく回転を始め、竜巻を生み出した。

その竜巻が俺の腕を浚い、嵌められたデュエルディスクにセットされたデッキの中からカードを1枚、弾き飛ばした。

跳ね上げられたそのカードを指で挟みとり、手札に加える。

更にデュエルディスクをムクロに見せつけるように前へと突き出した。

そのデュエルディスクに向け、オーシャンが手にした杖を振るい、セメタリーゾーンを小突く。

途端、水流が溢れ返り、1枚のカードと共に吐き出された。



「更に! オーシャンがスタンバイフェイズにフィールドにいる時、墓地のHEROを手札に戻す事ができる……!

 俺が戻すのは、E・HEROエレメンタルヒーロー ガイアッ!

 こいつを手札ではなく、エクストラデッキに戻す――――!」



水の中から拾い上げたカードを掴み取り、相手に見せつける。

それは直接手札を増やす事に繋がらず、アドバンテージにはなりえない。

だが、融合召喚以外の召喚に対する制限がかかっている融合HEROを墓地に置いておく意味は薄い。

こうしてデッキに戻しておけば、再度の融合召喚に繋げられるのだから。

それに――――



「スタンバイフェイズを終了、そしてメインフェイズ! 行くぞ、エアーマン、オーシャン!

 手札から魔法マジックカード発動、融合ッ!!!」



オーシャンが大地に杖を立て、足許に水を渦巻かせる。

溢れる水流をエアーマンの翼が巻き起こす風が巻き上げて、天へと向けて遡らせた。

二体の姿が水壁の中に消え、やがて水柱が天を衝く。



「融合召喚ッ!!」



雲を突き抜けた水の柱が内側から弾け、その中から緑と白のボディが現れる。

先程融合解除の効果によりデッキに戻された風の融合HERO、Great TORNADOグレイトトルネード

肩にかかるボロボロのマントを腕で軽く払い、風の戦士はその瞳を大きく開示した。

渦を巻く大気と水流が彼の戦士の力により一所に集束し、爆裂する。

瞬間に暴れ狂う水と風の塊が大地へと叩き込まれ、地面が捲れるような衝撃が大地を襲った。



大地を踏みしめていたスピード・キング☆スカル・フレイムを風の暴虐を襲撃する。

氾濫する水と爆発の風圧がその身に威力を刻みこむ。

下半身を支える強靭な四肢が圧し折れんばかりに暴れる風。

頭部に燃え盛る炎の鬣を消し尽くさんとする水流。

それを一身に受け、本来持ち得ている能力が根こそぎ抉り取られていく。



「ぬ、ぐぁあああっ!」

Great TORNADOグレイトトルネードの融合召喚時、相手のモンスターの攻撃力を半減させる!

 更に、クノスペを召喚ッ!!」



頭部と両腕、三つの蕾を揺らしながら、小さな戦士が現れた。

葉の脚でしっかと地面を踏み締めたその戦士は、力強く瞳に闘志を漲らせる。

その小さな身体を巻き上げる突風。

重量のないその身を巻き上げるのは、風の戦士が操るもの。



「クノスペの効果!

 自分フィールドにこのカード以外のE・HEROエレメンタルヒーローがいる時、攻撃されず、直接攻撃を行えるッ!!」



クノスペの小さな身体がGreat TORNADOグレイトトルネードの肩に乗せられる。

葉っぱの脚でその肩を踏み締め、子供のような顔にむんと力を入れた。



ムクロのライフは残り700。

対し、クノスペの攻撃力は600と、僅か100ポイントばかり足りない。

クノスペ自身、攻撃力を上昇させる効果を持ってはいるが、その効果を発動させるトリガーは相手へダメージを与える事。

それができるのであれば、攻撃力を上昇させる意味もない。



スピード・キング☆スカル・フレイムの攻撃力は1300。

攻撃力2800のGreat TORNADOグレイトトルネードで攻撃すれば、そこでこのデュエルは決着するだろう。

だが、奴の場にはもう1枚、伏せリバースカードが伏せられている。

例えば、ガード・ブロック。

スピード・キング☆スカル・フレイムの破壊自体は無効にしないが、ダメージを無効にするトラップ

だとすればこちらはそのまま残り100のライフを削れず、かつ相手ターンにスカル・フレイムを残す事になる。

スカル・フレイムを残す事は、そのままスカルヘッドの効果を使用される事を意味している。

俺の残りライフ1000ポイント、全てを持って行かれる。



だが、俺の手札2枚。

その中に、必殺の一撃に繋ぐ、最後のカードは呼び込まれている――――!



「さあ、最後のバトルフェイズだ――――! 行くぞ、炎城ムクロォッ!!」

「来なァ――――! 宇宙仮面なんたらかんたら、ああくそぉお、覚えてねェッ!!」



Great TORNADOグレイトトルネードが鳴動する。

振るわれる腕に連動して叫ぶ風。

こちらの攻撃で、100ポイント以上のダメージを通した瞬間、相手の負けだ。

まるで瀕死の様子のスピード・キング☆スカル・フレイムに対して、風の戦士は掌を突き出した。

大きく唸り、その竜巻は大地に立つ半人半馬の妖術師に向け、解き放たれた。

ごうごうと鳴き声を上げながら荒れ狂う風の渦が、アスファルトの地面を砕き、撒き散らす。

迫りくる自身の死。

その正体である風を見据えて、妖術師はその四肢を全力で駆動させた。



「――――――ッ!?」

「相手が風とあっちゃあ逃げるわけにゃあいかねェぜ!

 さあ、スピード・キング☆スカル・フレイム! その風を利用して、テメェは更に速く疾りなァ―――!

 トラップ発動、パワー・フレームッ!!!」



半人半馬の肉体を光の四角形が包み込む。

同時に、巨大な竜巻がその肉体を蹂躙するべく、暴虐の牙を剥く。

今の弱った妖術師では一瞬の内に呑み込まれ、四肢の悉くを裁断されるのが関の山。

だっただろう、僅か半秒前までは。



周囲を取り巻く光の線が忙しなく動き、大地を駆ける王者へ牙を剥く風の力を取り込ませていく。

粉砕された大地を縦横無尽に踏み縛り、炎の鬣で天を焼き、地上の王者は駆け抜ける。



「くっ……!」

「パワー・フレームの効果により、Great TORNADOグレイトトルネードの攻撃は無効!

 更に発動したパワー・フレームをスピード・キング☆スカル・フレイムに装備カードとして装備!

 攻撃してきたモンスターの攻撃力との差分だけ、攻撃力をアップするッ!! 攻撃力1500ポイントアップだぜェ!!」



大地を穿つ蹄がアスファルトの破片を巻き上げる。

二本の前脚を大きく上げ、雄々と叫ぶ。同時に炎の鬣がまるで蛇のようにのたうち、風を焦がす。

Great TORNADOグレイトトルネードが放つ破壊の威力を全て背負い、それを己が速さに転換する。

威風堂々、振りまく威風は天に聳える風の戦士と同等のもの。



「これで攻撃力は互角……! テメェに成す術はねェッ――――!」



互いに攻撃力は2800。

その上、Great TORNADOグレイトトルネードはこのターンの攻撃を既に完了された。

このままクノスペで追撃したとして、奴のライフは100残る。

そして次のターン、奴はGreat TORNADOグレイトトルネードとスピード・キング☆スカル・フレイムを相討たせる。

それにより、スピード・キング☆スカル・フレイムの持つスカル・フレイムを復活させる効果を誘発。

他のHEROが消えた事で攻撃対象にされてしまうクノスペには、その攻撃を躱す事はできない。

だが、それは――――



次のターンの事だろう?



瞬間、大地が隆起し、地面を踏み砕かんばかりに猛っていた妖術師が大地の檻に囚われた。

盛り上がる土の格子は幾重にもスピード・キング☆スカル・フレイムを包み込み、その速度を完封せしめる。

なに、というムクロの驚愕の声が上がった。

にぃと唇を微かに歪めると、残る手札2枚の内の片割れ、俺の最後の攻撃手段を開示する。



「速攻魔法発動――――超融合ッ!!! 手札1枚をコストに、融合を行うッ!!!」

「バトルフェイズ中に、融合…だと……!?」



天空に舞うGreat TORNADOグレイトトルネード、そしてクノスペ。

二体の身体が砕け、新たなる姿へと再構成されていく。

閃光とともに現れるのは黒鉄の巨躯。強固なボディに橙色の煌めきを湛え、双眸を黄金に輝かせる。

その姿は紛う事なき地の戦士。E・HEROエレメンタルヒーロー ガイア。



「ガイアは融合召喚された時、相手モンスター攻撃力を半減させ、その数値分攻撃力をアップする!!

 当然半減させるのはスピード・キング☆スカル・フレイムッ!!」



風の力を得て、その攻撃力は2800まで上昇している。

元々ガイアが持つ攻撃力は2200。そのままでは遠く及ばない。

だがしかし、大地の隆起は彼の妖術師がその力を十全と発揮するための四肢の駆動を封印している。

更に、超々高々度において降臨したガイアは、その超重量が地面へと引き寄せる引力を全て拳に乗せる事となる。

檻に囚われた妖術師はその力を五分しか発揮できず、またガイアは風の戦士が残した力を自身の攻撃として最大限利用する。

まるで隕石の如く、拳を振り上げた巨神が大地へと落下してきた。

全てが乗せられたその巨大な拳に宿る攻撃力は、3600――――!



「粉砕しろ、ガイアァッ!! コンチネンタルッ・ハンッマァアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」



全身を拘束された妖術師が眼を見開く。

叩き下ろされる拳は大気を打ち抜き、灼熱に燃え上がる巨神の鉄槌。

炎の鬣を迫る拳の起こす突風で乱しながらもがき続けるものの、その反逆は意味を成さない。

全ての威力を乗せて振り下ろされる巨腕。

それは過たずに地に縛られた疾走者を捉え、圧砕せしめた。



「ぬぁああああああああああっ!!!」



衝撃波が周囲を蹂躙しながら突き進み、ムクロへと襲撃する。

大地を陥没させる隕石の一撃が起こす威力はその身体を楽々と空に跳ね上げ、背後へと吹き飛ばした。



―――――突っ込むのもアホらしいほど、今更か。

奴のライフカウンターが0を指示し、フィールドに残っていたモンスターたちの姿が消える。

変形し、待機状態になったデュエルディスクを引っ提げて、ムクロに歩み寄る。



「俺の勝ちだ」

「ちっ、くしょー……いいデュエルだったぜ、しゃあねェ、オレの代わりに存分に闘ってきな!」



お前の代わりも何も、元から参加者は俺だったわけだが。

ぐっとサムズアップするムクロに対し、手を差し出す。

一瞬だけきょとんとした奴は、にやりと笑うとその手を掴む。

尻餅をついた身体を引き起こすと、立ち上がったムクロの手を離し、互いに平手を撃ち合わせる。

ッパァン、と乾いたいい音を立てる。



「勝ってきな!」

「後でちゃんとメシ奢れよ」



スタジアムの中から、次のデュエルの告知が漏れ聞こえてくる。

もうアキのデュエルは終わったらしい。

次は、俺と遊星のデュエルだ。

それも、ライディングデュエル。さて、俺がこの時代にきた目的、果たす時がきたようだ。











『まだ宇宙仮面デュエリストBLACK・RXが姿を見せないぞォ!

 どうなっているんだぁ! 宇宙仮面デュエリストBLACK・RX選手! この声が聞こえていたら、早くスタジアムまできてくれぇ!!』



リーゼントの司会者がマイクで声を張り上げる。

各所に設けられたスピーカーから反響する声は、スタジアム全体に響き渡っている事だろう。

龍亞はその声を聞いて、はぁと大きく溜め息を吐いた。



「なんだよ、こんな遅刻してくる奴選ぶくらいなら、おれを選んでくれればよかったのに」

「龍亞は出て負けたじゃない」



龍可は自分の代わりに出場し、敗北していた龍亞に溜め息を吐く。

それに龍亞があの場に出ていたって、遊星にまた負けるに決まっている。

遊星はスタジアムのライディングコースで赤いDホイールに跨り、対戦相手を待っていた。

遅刻選手とマーカー付きデュエリスト。

観客席は、言っては悪いが余り盛り上がっていない。



ただ龍可にしてみれば、遊星がどのようなデュエルをするのか、という興味は深い。

あのカードとの絆は一朝一夕ではあるまい。

このまま相手の、宇宙……なんとかさんが現れなければ、それも見れない。

それは流石に残念だ。



『ああ、えーと……これ以上は大会進行に支障を来すため、大会の運営から通達がきたぞぉ!

 このままライディングデュエルのスタートシグナルを点灯し、その間中に彼が現れなかった場合、不動遊星選手の不戦勝が決定だァ!!

 では、不動遊星選手は、スピードワールドの効果を発動してくれぇ!!!』



司会者に言われた通り、遊星がDホイールのスピードワールド起動スイッチを押す。

周囲に広がっていくフィールド魔法の効果エフェクトが世界を飾り、そしてシグナルが点灯した。

八つのシグナルでなるスタートシグナルが一つ、点灯。



司会者が残念そうにマイクを下ろす

これは実質、デュエルを行わずの不戦勝で確定してしまったからだろう。

シグナルが二つ、三つと点灯した。

その瞬間、前を見ていた遊星が後ろを振り返った。

スタジアムのDホイール入場口から轟く、ホイールの駆動音。



四つ、五つ、と連続して点灯していくシグナル。

その瞬間、入場口から一台の巨大なDホイールが飛び出してきた。

そのDホイールの正体に、遊星も、龍亞もそして龍可も。

驚愕を露わに、絶句した。



「「エックス!?」」

「ん? 龍亞、龍可、奴を知っているのか?」



氷室の声にも応えず、龍可は特にその姿に見入る。

―――――違う、明確にあの時とは。

本当に涙を零してしまいそうな、とても温かい光の中にいる二人。

何故だかは分からないけれど、伝わってくる何か。



『おぉおおっと! 宇宙仮面デュエリストBLACK・RX選手、どうやら間にあったようだぁあああ!

 いざ、ライディングデュエル・アァックセルェッショォオオオン!!!』



六つ。そして七つ目。

遊星がアクセルを解放し、そのモーメントエンジンの駆動を全開にした。

突如現れた巨大なDホイールもまた、減速せずに入場したままにスタートラインを突き抜けるべく、更に加速。

最後のシグナルの点灯。

その瞬間に、互いのDホイールはスタートラインを切っていた。











「お前は……!」

「久しぶりだな、遊星。もう会う事はないだろうと思っていたが、そんな事はなかった」



俺が追走するカタチでスタートラインを切り、開幕したこのデュエル。

そのデュエル自体を開始する前に、若干の会話フェイズが挿入されたりされなかったり。

マシンの性能はこちらが上。

後ろから大きく膨れ、追い上げる形で遊星に並ぶ。



「細かい事は要らない、だろう?

 前に送った言葉をもう一度、送らせてもらうぜ。訊きたい事があれば、デュエルで訊き出せ。ってな」

「………ああ、行くぞッ!!」



互いのDホイールが吼え、限界に迫る加速力を発揮する。

僅かばかり俺が先行する形でコーナーを曲がり、その瞬間に俺たちは5枚の手札を引き抜いた。

フォーチュンカップにおける先攻の決定権は、通常のデュエル通り、オートに選択される。

これは、フォーチュンカップがライディングデュエルの大会でなく、

ライディングとスタンディングの混合で行われている事が理由だろうか。

まあその理由自体はさして重要な事でもない。



「「デュエルッ!!!」」



先攻が託されたのは遊星。

彼はそれを認識すると素早くデッキから1枚のカードを引き抜き、6枚の手札のうち、半分を取り上げた。

流れるような動作でカードをDホイールに滑らせていく。



「カードを2枚伏せ、マッシヴ・ウォリアーを守備表示で召喚ッ!!」



巌の如き面に赤い光を灯し、動く岩塊のような戦士が光のエフェクトを纏い、現れた。

四本の腕で支えるのは円盤状の岩石の塊。本来地を踏み締めるのだろう、四脚は今は浮遊している。



「ターンエンドだ」

「俺のターンッ!!」







「いい一手目だ。

 例えどれだけ強力な攻撃力を持ったモンスターが出てきても、これでそう簡単には突破されないだろう」



氷室は観客席で腕を組み、呟く。

その言葉を聞いているのかいないのか、龍亞と龍可は茫然とスタジアムのコースに見入っている。

そんな二人の代わりと言うか何と言うか、眼鏡をかけた龍亞たちと同じ年頃の少年。

早野天兵は氷室の呟いた言葉に反応し、おずおずと言葉をかけてきた。



「でも、あのモンスターの能力じゃ簡単に破壊されちゃいそうですけど」



少し怯えているように見えるその少年に対し、怖がらせないよう注意しつつ、氷室は言葉を返す。



「マッシヴ・ウォリアーは1ターンに一度だけ、戦闘で破壊されないモンスターだ。

 その上、プレイヤーに振りかかる戦闘ダメージを全て0にする。

 例え貫通効果をもったモンスターを出したとしても、戦闘ダメージは与えられない。

 そんな、突破に一苦労する壁モンスターなのさ」

「へぇ……」







なんて、そんな事を信じているわけがないだろう?

なあ、遊星――――?

お前は分かってくれてるよな、俺が全身全霊でお前にぶつかりたいと思っていると。

そんな一枚岩を張っているだけなら、ここで終わるぜ。

微かに笑って、手札から2枚のカードを取り上げる。



「手札のレベル1モンスター、グローアップ・バルブを墓地へ送る事で、手札からパワー・ジャイアントを特殊召喚ッ!」



1枚のカードを墓地に送る事で、召喚出来る上級モンスター。

墓地へとカードを差し込み、パワー・ジャイアントのカードをフィールドに叩き付けた。

俺の前方に広がる光の渦が粒子を撒き散らし、それを一所に集束させていく。

色取り取り、鮮やかなクリスタルを繋ぎ合わせて造り上げられたボディ。

角張ったデザインのパーツは不格好に見えるが、その四肢から感じられる力強さはその名に恥じぬもの。

そのゴーレムのボディから一つ、光の星が飛び出して、霧散した。



「パワー・ジャイアントはレベル6の上級モンスターだが、手札のレベル4以下のモンスターを墓地に送る事で、特殊召喚出来る。

 その際、手札から墓地へ送ったモンスターのレベル分、パワー・ジャイアントのレベルを下げる。

 墓地に送ったグローアップ・バルブのレベルは1! よってレベルは5にダウンッ!!」

「上級モンスターを特殊召喚……!」



デジャブだろう。遊星の声が僅かに揺れた。

それはそうだ。覚えない筈がない。これは遊星がよく知るデュエリストの扱うモンスターの内の一体なのだから。

尤も、俺が墓地に送ったもう一体のモンスターの方にはまだ、覚えはないだろうが。

更にセメタリーに送られたグローアップ・バルブの効果を起動する。



「墓地に送られたチューナーモンスター、グローアップ・バルブの効果を発動ッ!!

 デッキトップのカードを墓地へ送る事で、このカードを墓地から特殊召喚するッ!」



デュエル中に一回のみ、と回数制限が設けられた特殊効果。

墓地を肥やしながらフィールドにアドバンテージを稼ぎ出す、最高クラスの復活効果。

デッキに手をかけて、1枚引き抜く。

唇を歪め、横に並ぶ遊星へと視線を送る。

訝しげな表情をしている遊星に対し、俺は微かに笑いながら声をかけた。



「あの時のリベンジマッチだ」

「………ッ!」

「俺が望んだ、俺の持てるパワーを尽くす。さあ、行くぜッ!!

 デッキトップのBFブラックフェザー-精鋭のゼピュロスを墓地ヘ!!」



俺はライディングデュエルという形式のデュエルにおいて、セルフで魔法マジック制限がかかる。

Spスピードスペルというカードを1枚たりとも所持していないからだ。

だがその代わりに、それすら気にならなくなるほどに、俺は遊星に対する絶対的なアドバンテージを保有している。

いや、遊星にだけではない。俺が知る、遊戯王に登場する人物全てに対しての圧倒的なまでの情報アドバンテージ。

それがあっても負けてきた俺に言えた事ではないのかもしれないが。



だからこそ、BFブラックフェザーの名を聞いた時の遊星の反応も予想できていた。



BFブラックフェザー……! クロウと同じタイプのデッキか……!? いや――――!」



俺の目前に現れる巨大な球根。

それは頭頂部に白い幾重にも重なる白い花弁を咲かせ、同時に球根の中心に瞳を開いた。

不気味にすら思える巨大な一つ目球根が出て来たのは冥界より。

つまりその瞬間、更なるトリガーが引き放たれたのだ。



「墓地のモンスターの特殊召喚に成功したこの瞬間、手札からドッペル・ウォリアーを特殊召喚ッ!!!」



黒い軍服を着込んだ兵士が光とともに出現し、俺の隣に降り立った。

両腕でがっしりと構え、脇に挟みこんだ銃。それの威力はたかが知れている。

だがしかし、この兵士の本領は戦闘にはない。

そう、誰よりも知っているよな。不動、遊星――――

そして、まず一手目――――!! 合計のレベルは、8だ。



「レベル8の、シンクロモンスターッ……!」

「さあ、遊星! 今の俺は前回とは違う意味で自重していないぜ、フライングもフライング――――

 誰に何を言われたって、もう俺は舞台から降りないッ!

 ならさぁ、やれる全てをやってみるのがいいと思うんだよな。

 構わないよ。何が起きても、何があっても、何を覚えても、俺は、俺たちは―――――ッ!!!」



視界が赤く、思考が鋭く、研ぎ澄まされていく。

ホープ・トゥ・エントラストのボディの各所が展開し、そこから赤い粒子を放出する。

200Km/hで流れて行く風景がスロウになり、周囲に満ちる人の心の断片が流れ込む。

オーディエンスの心が聞きたいわけじゃない。

ただただひたすらに、不動遊星をロックする。

相棒と一つにした心の中に、自然と流れ込んでくる一つのワード。

――――機械仕掛けの心境地。



なるほど、洒落ている。

あのジジイがどうしてそんな名前にしたかは知らないが、そのまま使わせてもらおう。

尤も、俺たちのまたアホみたいなセンスも合わせ、どうルビるかは勝手に決めさせてもらうが。

右腕を掲げると、そこに、赤い光が集束していく。



「なに……っ、ぐ――――!」



遊星の腕にもまた、ドラゴン・テイルの痣が浮かぶ。

恐らくは観客席の龍可も、ディバインとともに帰還している途中だろうアキも、そして玉座に頂くジャックも。

そして、ゴドウィンが保管しているルドガーの腕も。

俺の腕に集った光が、一つの痣を描いて行く。今世において、ジャック・アトラスの宿す痣。

ドラゴン・ウィング――――!



俺にはオリジナルのそれを扱う事などできない。

だが、それに近しい力の片鱗を、この相棒と一緒にならば扱う事を許される。

故にそれは、



「『俺たちが導きだした答え、機械仕掛けの心境地オートマティック・クリアマインドォオオオッ!!!』」



視界がより赤く赤く。紅に染まった世界の中で、三体のモンスターが燃え上がる。



「『レベル5、パワー・ジャイアントとレベル2、ドッペル・ウォリアーに、レベル1、グローアップ・バルブをチューニングッ!!!』」



球根がその瞳を閉じ、純白の花の中央から光の星を一つ、吐き出す。

星と化したグローアップ・バルブの抜けがらは瞬く間に枯れ落ち、消失していく。

その一つ星が取り囲むのは宝石のゴーレムと、黒い軍服の兵士の姿。

巨大な光輪になった星に取り囲まれた二体の身体が透け、輪郭のみを光として残し、消えていく。

光の輪郭が弾け、七つの星と化す。

合計の星は8。それが導くモンスターの姿は――――



「『ファイブディーズ・オブ・ワンッ!!

 羽搏けッ、ドラゴン・ウィングッ! レッド・デェエエエモンズッ!!』」



紅蓮の炎が溢れ、その中から龍の巨躯が躍り出る。

頭部には悪魔の如き三本角。真紅と黒、さながら溶岩の如き彩色で飾られる肉体。

膨れ上がった筋肉の鎧は圧倒的なパワーの証明。

ばさりと背後に大きく翼膜を広げ、飛翔する絶対的な破壊力を持つ、紅蓮魔龍。



「『ドラゴォオオオオオオオオオオンッ!!!!』」



雄々、と。

咆哮とともに放たれたブレスがスタジアムを紅蓮に変える。

燃え盛る空を悠々と、王者の貫録を持って駆ける魔龍。

その名は、レッド・デーモンズ・ドラゴン。



「レッド……デーモンズッ……!」







『おぉおおっとお!? これは一体どういう事だぁ!

 宇宙仮面デュエリストBLACK・RX選手が召喚したのはなんとぉおおっ!

 デュエルキング、ジャック・アトラスのエースモンスター、レッド・デーモンズ・ドラゴンだぁああああ!』



リーゼントの司会者がこれでもかとその髪を揺らし、フィールドに出現したレッド・デーモンズを指差す。

キングをキングたらしめる、ジャック・アトラス最強のしもべ。

ジャック・アトラス自身がオリジナルのそれを不動遊星に託した事を知らぬ人間たちの顔に浮かぶのは、困惑と驚愕。

自分自身がキングのそのモンスターに屈した過去を持つ、氷室の戸惑いは他者を遥かに凌いでいた。



「どういう事だ……何故あのモンスターを……!?」

「なんでエックスが、レッド・デーモンズを……?」



龍亞もまた、ジャックのモンスターであるレッド・デーモンズを召喚したエックスに対し、疑念の眼差しを向ける。

だが観客席中が困惑に包まれる中、一人だけ。

一人だけその困惑に囚われず、エックスを見ている人間がいた。



腕に浮かんだ龍の痣。

赤き竜の腕の痣、ドラゴン・クローの紋様が強く発光し、焼けるような熱さが伝わってくる。

やっぱりだと、思うところがある。

そう。これなのだ。Xから感じられた、懐かしい、泣いてしまいそうなほどに温かい光。



「エンシェント・フェアリー・ドラゴン……」



覚えのない名前が口から毀れる。

それは確かに知っている筈なのに、何故か思い出せない名前。

まるで靄がかった視界の奥に見える世界にいる、誰かの名前。

すぅ、と突然現れたクリボンが頬ずりしてくる。

まるで急ぐ必要はないと、諭してくれているような。



「あなたは、もしかして知ってるの? ……エックス」











『きぃましたきぃ~ましたぁあ~! D‐センサーにびんっびんきてますよぉ!

 ジャック・アトラス! 不動遊星! 龍可! そして宇宙仮面デュエリストBLACK・RX!!

 これに十六夜アキを含めれば、5人のシグナーがすぅべてっ! 揃った事になります!!』

「ヒッヒッヒ! ゴドウィン長官の仰られた通り、あの男こそが5人目のシグナーだったと……」

「いえ、それは違います」



シグナーの反応を測定するD‐センサーを見ていた阿久津から通信。

それはこの場で、シグナーとされる5人の人間が出揃った事を示していた。

その事実に昂ぶる二人を抑え、ゴドウィンは静かに笑う。

わざわざ見る必要はないと、ジャック・アトラスはこの場にいない。

そうなれば特別言葉を選ぶ必要もあるまい。



「彼はシグナーではありません。

 何故ならば、既に全ての痣は揃っているのですから……彼はそう、祈る者」

「『??』」



5000年の昔。

赤き竜の化身たちと星の民は、現世を襲った邪神たちと世界の命運を賭けて闘った。

辛くも勝利したのは赤き竜。

彼の神は邪神をこの星の大地に封印した。それこそが現代においても残る、ナスカに描かれた地上絵。

世界に平和を齎した神は、その姿を五つの痣に分かち、自らをも封印した。



そして封印されていた赤き竜は今から3000年前。

星の民の統治者、星竜王の戦乱を治めるべく捧げられた祈りに応え、眼を醒ました。

復活した姿こそが、今にまで伝承される赤き竜の痣。そして、五体の龍。

その力を宿したものは赤き竜の戦士、シグナーと呼ばれる存在となった。



もし、あの彼が何なのかと問われれば、間違いなくシグナーではない。

強いて言うならば、赤き竜と交信し、その目醒めを促す存在。星竜王に位置する存在だ。

そう。彼の役割はダークシグナーと闘う事でも、世界を救う事でもないのだ。

星竜王は万物を司る“竜の星”。つまり、赤き竜の声に導かれ、独自の社会と文化を築いたと言う。

そのように、彼が成すべき事は一つ。

赤き竜の声に応える事。星竜王ならぬ、声竜応などとでも言ったものか。



赤き竜はダークシグナー、地縛神との決戦に向け、シグナーを成長させる事を望んでいる。

それを成すべくして、彼はここに導かれたのだ。

薄く笑い、眼下で続くデュエルへと眼を向ける。











「『ドッペル・ウォリアーがシンクロ素材となった事により、ドッペルトークンを二体、特殊召喚する!』」



フィールドに降臨した紅き魔龍の横に、デフォルメされたドッペル・ウォリアーが二体、現れる。

きししと笑う小さな兵士の姿を認め、遊星の顔が更に険しくなった。

俺のターンがここで終わるわけがない。

更に手札からカードを1枚引き抜くと、それをDホイールに叩き付けた。



「『そして、BFブラックフェザー-極北のブリザードを通常召喚ッ!!』」



その名とは逆に白い身体のでっぷりとした鳥が羽搏く。

ブリザードはXの上に降り立つと、その黄色い嘴でセメタリーをこつこつと叩いた。

墓地から溢れる黒い閃光が、俺を包み込むほどに膨れ上がる。



「『ブリザードの召喚に成功した時、墓地に存在するレベル4以下のBFブラックフェザーを特殊召喚できる。

 つまり、グローアップ・バルブの効果で墓地へ送られた、精鋭のゼピュロスを!!』」



黒い双翼が広がる。人型の鳥獣は頭部の蒼い鬣を揺らし、腕を振るう。

綺麗に揃えられた手の五指は鋭く研ぎ澄まされており、その威力を物語っている。

まるで忍者のような格好をしている黒き翼の鳥人は、墓地から立ち上る光とともに俺のフィールドに躍り出た。

そして、ここで再びレッド・デーモンズを除くモンスターたちのレベルの合計は、8。



「『レベル4の精鋭のゼピュロスと、レベル1のドッペルトークン二体!

 三体のモンスターに、レベル2の極北のブリザードをチューニングッ!!!』」



ブリザードがその丸々とした身体を羽搏きで浮かせ、大きく飛び上がる。

はらはらと舞い散る白と黒の混じり合った羽根。

その羽根に飾られた風の中で、三体のモンスターの身体が崩れていく。

合計6つ。光の星と化した連中を引き連れ、ブリザードはくぇと一鳴きした。

弾けるようにその身体も2つの星へ。



「『ファイブディーズ・オブ・ワンッ!!

 薙ぎ払え、ドラゴン・テイルッ! ブラックフェザァアアアアアッ!! ドラゴォオオオオオオオオンッ!!!』」



2つの光の輪を潜る6つの星がその光を極限まで高め、崩壊した。

途端に溢れ返る光が渦巻き、その内から一体の龍を生み出す。

黒い鬣を風に流し、その中に埋もれた真紅の眼光を輝かせる。

細く長い胴体の胸からはその名と反する、白い翼が幾重にもなって広げられた。

胸の直下にはまるで肋骨のような刃が六つ。胴体の先端には薄く広がる尾が揺れる。

大きく翼を広げたブラックフェザー・ドラゴンはその嘴を大きく開け、吼えた。







『う、宇宙仮面デュエリストBLACK・RX選手!

 レッド・デーモンズ・ドラゴンに続き、更なるドラゴンを召喚したぞぉおおお!

 なんだこのドラゴンは、見た事がないモンスターだぁああああ!!』



張り上げられた声は、観客たちの驚嘆の声を連動させた。

その止まらない召喚劇に僅か、氷室も感嘆で顔を曇らせる。

腕を組み、黙りこむ。

そんな中で、矢薙が氷室の肩を掴み、くいと引く。

反応してそちらを向くと、矢薙は実に愉しそうな顔をしていた。



「氷室ちゃん、氷室ちゃん! あの人、ファイブディーズって言ってたよな。

 それってつまり、五体のドラゴンのうち、一体。って事じゃないのかな?

 つまりあの黒いドラゴンと、レッド・デーモンズ・ドラゴンはシグナーの龍かもしれないよ!」

「……ファイブ、D’s……」



だが、それならばあの男が持っているのはおかしいだろう。

黒いドラゴンはともかく、レッド・デーモンズはキングのモンスターの筈だ。

それこそ、シグナーという伝説で讃えられるモンスターならば、そんなに何枚もカードがある筈がない。



「ブラックフェザー・ドラゴン……」



龍可が呟く。

そちらへと眼を向けると、普段の様子とは大きく違い―――と言っても、氷室は普段の様子を深く知っているわけではないが。

先程までとは大きく違う様子。左手で強く、右腕を抑えている。

その様子を不審に思い、氷室は龍可に声をかけた。



「腕がどうかしたのか、龍可」

「……ううん、何でもないの」



全く何でもない筈がないだろう様子で、龍可はスタジアムを奔る二人を見つめる。

いや、見つめているのは遊星の対戦相手の方だろうか。

龍亞と龍可は最初からあの男を知っていた様子だ。知り合いなのだろう。

氷室もデュエルの方に眼を戻す。

このデュエル、どう転んでも何かが大きく変わる。そう感じる空気。



――――負けるなよ、遊星。











「『更に! 手札のクリエイト・リゾネーターは、

 自分フィールドにレベル8以上のシンクロモンスターが存在する時、特殊召喚出来るッ!!』」



白いマスクを被った二、三頭身ほどの小悪魔が出現した。

背後に水色の羽の扇風機みたいなものを背負っている。

悪魔に種族する割に、二枚の白い翼が生えている様子は、まるで正反対で不自然にすら思える。

そのクリエイト・リゾネーターは手にした音叉を振り回し、

ブラックフェザーとレッド・デーモンズに並び立つ。



「『墓地の精鋭のゼピュロスの効果を発動ッ!

 フィールドのカード1枚を手札に戻し、墓地のこのカードを特殊召喚する事が出来るッ!!

 クリエイト・リゾネーターを手札に戻す事で、ゼピュロスを特殊召喚ッ!!』」



クリエイト・リゾネーターの姿が消える。

俺はフィールドのモンスターゾーンに置かれているそのカードを取り外し、代わりに墓地からスライドしてきたカードをフィールドに。



蒼い鬣に黒い翼。

細身の身体は研ぎ澄まされた刃のような鋭さを持ち合わせている。

グローアップ・バルブと同様。この効果はデュエル中に一度と、絶対的なルールによって制限されたもの。

その唯一の手段を今ここで、切る。



「『再びクリエイト・リゾネーターを特殊召喚ッ!!

 そしてレベル4、精鋭のゼピュロスに、レベル3、クリエイト・リゾネーターをチューニングッ!!』」



再度現れた小悪魔がその手に持った音叉を叩き、キィンと音波を響かせた。

途端にクリエイト・リゾネーターの身体は光の輪郭のみを残し、消滅していく。

解れていく輪郭が崩れ落ちた後には、3つの光の星だけ残る。

その星は空を舞うゼピュロスの身体に纏わりつき、円を描く軌道で躍った。

ゼピュロスの身体はやがてクリエイト・リゾネーターと同じく光の輪郭へと変えられていく。

鳥獣が残す星は4つ。合わせた星の数は無論、7。



「『ファイブディーズ・オブ・ワンッ!!

 踏み潰せ、ドラゴン・レッグッ!! ブラック・ローズッ、ドラゴォオオオオオオオオオオンッ!!!』」



暗紅の薔薇が咲き乱れる。

全身で薔薇の花弁を連想させるフォルムを体現するドラゴン。

重なり合った羽が幾重となり、花弁の翼を構成している。

長く伸びた首を揺らし、おさげのように頭部から垂れるトサカを振り乱す。

顎を開き、生誕を示す咆哮。

全身各所から垂らした棘の蔓を引っ提げて、三体目の龍は降臨した。



「ブラック・ローズ・ドラゴンだと!? 十六夜のモンスター、か……!?」

「『イエスでノーだよ。こいつは、“俺”のしもべだ――――!!』」



三体の龍を従え、遊星の前へと躍り出る。

加速力はこちらに分がある。

それを活かし、前から遊星へとプレッシャーを叩き付けていく。

獲物を前に唸りを上げるドラゴンの軍勢を前に、遊星は息を呑んでいた。

くっ、と。俺もまた微かに息を呑むと、自らのしもべたちに指令を下す――――



「『さあ、遊星! お前の全力を引き出してやるよ――――!!

 俺の全身全霊、全てを賭けてなぁ―――――!!!』」











後☆書☆王



ムッキーとのデュエルは久々何もないな。

ガイアはなんとなく土龍をイメージしてるっぽい。金龍かわいいよ金龍。水龍きもいよ水龍、だがそれがいい。

ところで金龍はレベル4と5であんなに外見違うのに、なんで水龍はレベル3、4、5とみんな同じなの?

あと火龍の出番が登場して直後にやられるだけってのは哀しいよ。まあ特に意味はない。



速さが武器、と言ったらやっぱりみんなクーガーを思い浮かべるのかな。まあ俺もだけど。

でも、VAVA・Mk-Ⅱとかも浮かぶ。あのVAVA格好よすぎだと思う。

ところでVAVAはあの頭でどうやってバーボン呑んでたの? 流し込んでるの?



遊星戦は……んー、なんだろ。

まあそれは次回に。デュエルの内容自体はもう出来てるから、後は文にするだけ。

まあそれに時間がかかるのだが。



①相手が強力モンスターを召喚する

②主人公が「なん…だと…!」

③俺たちの戦いはこれからだ的な雰囲気になりつつ、エンディングテーマ

④次回予告でネタバレ←いまここ

⑤次週はアバンタイトルで前回の強力モンスターの召喚シーンのダイジェスト

こんな流れがやりたかった。この流れが大好きなのだ。

ちなみにゼピュロスの効果は忘れてるんじゃなく、次回の冒頭に入れる予定なだけなんだぜ。

いや、黒薔薇出す前に発動してなきゃいけないんだけどさ。

遊星やアンチノミーはトップ、オーバートップなので主人公はオートマ。

特に意味はない。



それにしても主人公のキャラがどんどん俺の考えていたキャラから逆走していく。

こんな普通に主人公なセリフを言う性格にした覚えないんだけどなー。

って言うか誰だこいつ。もっと普通に変態なのが書きたい。

デュエルの内容自体も考えるのに手間食うし、遊戯王以外の息抜きSSでも書いてみようか。



とりあえず仮面ライダーBLACK RX×シュタインズゲートとか。



SERNに捕まり、ゲル化させるため、タイムマシンで過去に送られる南光太郎。

しかしその瞬間不思議な事が起こり…?

「オレは確かに、ほんの少し前まであのタイムマシンの中にいた。

 そしてお前たちの策に乗り、タイムマシンの力で過去に送られたんだ!

 オレはオレの身体が圧縮され、ブラックホールの中心点に取り込まれる寸前、バイオライダーに瞬間的に変身していた。

 そしてオレ自身の身体を液状化させ、ブラックホールの中心点を潜り抜け、液状化したまま過去に辿り着いたんだ!

 過去に着いたオレはRXに戻り、キングストーンの導きでこの時代に戻ってきた!!」

そして引き抜かれるリボルケイン。

君は光の戦士だ、というフレーズで始まる処刑用BGM。

もう許してやれよ。



どうだ! ――――ないな、これは。





ファンゴ様よりご指摘。

>>>ファイブディーズ・オブ・ワンッ

>>これマジかっこいい惚れる口上だと思うんだけど、直訳すると「一の五竜」。

>>「五竜の一」とすれば”ワン・オブ・ファイブディーズ”なのではと

>>逆に「壱の五竜」とすれば黒羽や黒薔薇は”5d's of two”、”5d's of three”と宣言されても……とか



なん、だと……! か、勘違いしないでよね! 適当にセリフ書いたら、そうなっちゃてただけなんだから!

と、まあ純粋に間違えただけなのですが。

さして意味を考えずに適当なセリフを書いたと言うのも本気ではありますが。

ただまぁ、俺の圧倒的な英語力を修正したらしたで二重に恥ずかしいので、意味をこじつけます。

個人的に逆にするよりこっちの方が発音が好みと言うのもある。



「分かたれた力の一欠片、その姿こそ赤き竜の化身!」的な意味に脳内で変換して下さい。

どちらにしろ直した方が自然? そりゃそうだ。

そうなってくるとザ・フラグメント・オブ・ファイブディーズとか?

日本語でおk。

私の圧倒的廃センスな英語力のご指摘、ありがとうございます。



ノーバディ様よりご指摘。

>>誤字?

>>四本の腕で支えるのは円盤状の岩石の塊。本来血を踏み締めるのだろう、四脚は今は浮遊している。

>>本来血を→本来地を

修正しました。ありがとうございます。


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