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No.26037の一覧
[0] 【ネタ】トリップしてデュエルして(遊戯王シリーズ)[イメージ](2011/11/13 21:23)
[1] リメンバーわくわくさん編[イメージ](2014/09/29 00:35)
[2] デュエルを一本書こうと思ったらいつの間にか二本書いていた。な…なにを(ry[イメージ](2011/11/13 21:24)
[3] 太陽神「俺は太陽の破片 真っ赤に燃えるマグマ 永遠のために君のために生まれ変わる~」 生まれ変わった結果がヲーである[イメージ](2011/03/28 21:40)
[4] 主人公がデュエルしない件について[イメージ](2012/02/21 21:35)
[5] 交差する絆[イメージ](2011/04/20 13:41)
[6] ワシの波動竜騎士は百八式まであるぞ[イメージ](2011/05/04 23:22)
[7] らぶ&くらいしす! キミのことを想うとはーとがばーすと![イメージ](2014/09/30 20:53)
[8] 復活! 万丈目ライダー!![イメージ](2011/11/13 21:41)
[9] 古代の機械心[イメージ](2011/05/26 14:22)
[10] セイヴァードラゴンがシンクロチューナーになると思っていた時期が私にもありました[イメージ](2011/06/26 14:51)
[12] 主人公のキャラの迷走っぷりがアクセルシンクロ[イメージ](2011/08/10 23:55)
[13] スーパー墓地からのトラップ!? タイム[イメージ](2011/11/13 21:12)
[14] 恐れぬほど強く[イメージ](2012/02/26 01:04)
[15] 風が吹く刻[イメージ](2012/07/19 04:20)
[16] 追う者、追われる者―追い越し、その先へ―[イメージ](2014/09/28 19:47)
[17] この回を書き始めたのは一体いつだったか・・・[イメージ](2014/09/28 19:49)
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[26037] セイヴァードラゴンがシンクロチューナーになると思っていた時期が私にもありました
Name: イメージ◆294db6ee ID:a8e1d118 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/26 14:51
「………貴方、死にそうな顔してるわよ」



レッド寮の外でXにもたれかかっていた俺に、ユニファーが声をかけてくる。

こんな夜に一体何をやっているのだろう、こいつは。

既にあのデュエルの次の夜となっているのだから、時間が経つのは早い。

俺たちは誰も今日アカデミアに登校しなかったので、きたのだろうか。



「ああ、まあな。どこかの可愛い女の子がエロいサービスでもしてくれれば治る気がするんだが」



ユニファーの顔が『何言ってんだ、コイツ』みたいな表情となる。

ああ、その眼で見下ろされると心が落ち着いてくる。

何と言うか賢者タイムみたいな感じ。

そんなところで俺はその反応で概ね満足したのだが、ユニファーは顎に手を当てて何か考え込む。

ほんの数秒悩んでいたユニファーは得心したかのように肯くと、俺に向き直る。



「ちゅーしてあげよっか?」

「…………」



微笑むこいつが気持ち悪い事この上ない。

相手も自分の微笑みが俺に精神的ダメージを与えている事を知っているのか、嬉しげだ。

何と言う。こいつ、もうちょっと恥じらいとかそんなのないのか。

とりあえず頭を下げる。



「ごめんなさい」

「大分、参ってるみたいね。ほっといてくれ、って感じかしら」



しれっと態度を元に戻して、ユニファーは俺を見下ろす。

感じてる癖にわざわざあんな事言ったのかよ。

何と言うツンデレ。



「貴方がサービスを要求したんでしょ」

「いや、お前にはしてない」



チョップされた。

俺が尚もボケた、ズレたやり取りを続けようと口を開くとまたチョップ。

もう一度口を開こうにも、ユニファーに見据えられてできなかった。



「こうやってふざけてれば落ち着く? 助かるの?」

「い、や……さあ、どうかな」



見据えられている。見透かされていた。

目を逸らす俺に、ユニファーは溜め息を吐くと指を差す。



「事情を知らない私に言えた事じゃないけど、立ったら?」

「…………ああ、分かってる。すぐ立つ」



こちらも溜め息を吐いて、四肢に力を込める。



「そう。なら、応援しておくわ」



そう言ってユニファーは踵を返し、食堂に向かっていく。

あちらには今、十代たちが集まって作戦会議を行っている。

尤も、さして有効な作戦が出てくるわけでもないようだが。

闇のアイテムが存在せず、かつダークネスとなっていた吹雪からのアドバイスがなければそうなるだろう。

とはいえ、その程度で引き下がる連中でもないから、このまま放っておけば、みんなあの湖畔に行くだろう。

ならば、俺がやらねばならないのは……



『ストップ。ストップです二人とも』

「………なんだ?」

「何かしら?」



突然今まで黙っていたXが喋り始める。

何やら焦っている様子なので何かあったかと思いきや、こいつはまた変な事を言い始める。



『何でしょう。その分かり合ってる的な言い合い。ずるいですよ、マスターは私の嫁です。あげませんよ』

「いや、いらないけど」

「一体いつ、俺がお前の嫁になった」



いつも通り、ヘッドライトで抗議するXの暴走を受け流しつつ、俺は立ち上がる。

そう言ってしまえば黙ると思いきや、Xは止まらなかった。

ぷんぷんという怒っています的擬音を出す代わりに、ブンブンとエンジンを吹かし、騒ぎ立てる。



『なんと、私のマスターがいらないとな。それは聞き逃せません。

 欲するべきでしょう。私的に考えて』

「ああ、この子めんどくさいなぁ……」



ユニファーが圧されている。中々レアな映像である。



「ええ、そうね。凄く欲しいわ(棒)」

『あげませんよ』

「残念ね。飽きたら譲って頂戴、無料なら引き取るわよ(棒)」

『飽きるだなんてそんな……私とマスターはそんなふしだらな付き合い方はしてません!』

「お前もう黙ってくれるか?」



いい加減話を進めようぜ。と、俺ですら思い始めたわ。

やれやれ、と首を振って食堂の方へと歩いて行くユニファーを見送る。

さて、アホな事をやって俺の調子も戻った事だ。

そんな事分かり切っていた話だろうに。



俺がシリアスを演じて一体何の意味があるというのだ。

この状況の原因に俺の存在は多分に含まれているだろう。

ああ、ならば落ち込んでいる間に何かやった方が有意義じゃないか。

落ち込む暇があれば、翔を笑わせるためのネタの仕込みをやった方が幾分かマシだろう。



ユニファーが食堂の中に入るのを見送り、背を伸ばす。



「………じゃ、ネタの仕込みしに行くか」

『具体的には』



分かっているくせに訊きやがる。



「うむ、まず翔の好みをリサーチだ。その辺りはブラコンカイザーをとっ捕まえる事にしよう」

『なるほど。では……』

「行こう」



出来る事を。出来る事だけを。伸ばせるだけ、伸ばして届く範囲にあるものを。

結果が出せるか否はカードに訊けばいい。

Xが俺のデッキをDホイールの車体から吐き出し、俺はそれを受け取る。

デッキホルダーにそいつをセットして、俺はホープ・トゥ・エントラストに跨った。



轟音を上げて、奔り出すバイク。

恐らくでもなく100%食堂のみんなに気付かれただろうが、気にしたら負けだ。

追い付かれる前に殴り込み、結果を出す事を考えよう。

変に小細工している時間をとっていれば、みんな湖を目掛けて出発してしまう。



――――それでも遊星なら、遊星ならやってくれるとか。

――――それでも十代なら、十代ならやってくれるとか。

――――それでも遊戯なら、遊戯ならやってくれるとか。

俺の心が縋れるものはたくさんある。

だけど、縋って引き摺られてるばかりでは、俺を支えてくれてる奴に悪いだろう。

時たまくらい、カッコいいところを見せてやらなきゃ。



『――――マスターは、いつでも私の大事なカッコいいマスターですよ』

「人の心読むな」



転移する。

最早何も躊躇う事などない。











湖畔に転移した俺は湖面に敷かれているレッドカーペットを認めると、速度を落とさずそのまま突っ込んだ。

巨大なバイクを上に乗せても、波紋一つ広げない湖の上を走る。

前方に広がる城門は開かれており、俺の訪問を待ち侘びていた様子であった。



ボロボロの城の中に突っ込んだ俺たちは、そのまままっすぐに大広間まで走った。

瓦礫と窓ガラスの破片を踏み潰しながら走り抜けた先に広がる、崩壊した広間。

かつての荘厳な拵えの残骸のみを残し、そこは既に廃墟になり下がっていた。



その区域に踏み込んだと同時、大広間の中央階段の最上に立つ、緑色の髪の女性を見つける。

瞬間、かけたブレーキングの反動で俺の身体が斜め上に吹き飛ばされた。

即座にXの形状が変化する。

運転席がスタンド、横部分に落下防止のガードがスライドしてきて、前輪が横倒しに。

後部が縦に分割されて、同時に三つとなったホイールが高速で回転を始める。



一瞬で変形を終え、浮上し始めたXが落下を始めた俺の真下につける。

空中でそれに着地して、二階に立っているカミューラと目線の高さが合う場所まで浮上。

眼を合わせた。



「フフフ……中々面白い手品を見せてくれるものね」



ぱちぱちと手を叩きながら、カミューラはXを、そして俺を見据える。



「俺と、デュエルをしてもらおうか」

「――――何でワタシが、七星門の鍵も持っていないアナタと?」



そう言ってカミューラは失笑するが、俺は態度を変えない。

何が何でもデュエルする気だったし、それに、あいつには恐らく、俺とデュエルする理由がある。

殆ど勘の話だが、間違っていない筈だ。



「おい、デュエルしろよ」

『……心読む前に空気読んだらどうですか、マスター』

「……? ま、いいでしょう。気付いているようだし、控える必要もないし」



そう言ってカミューラはその腕に黄金の、牙を模したデュエルディスクを出現させた。

更に、手の中に二体の人形。クロノスとカイザーだ。

それを俺に見せびらかして、にんまりと嗤う。



「七星門の鍵を持っていないアナタには、この二人を取り戻すための特別アンティルールを課すわ」



アンティ。その名の通り、ルールで賭けを行う行為。

しかし、あいつには俺から奪って意味のあるものは持っていないと思うが。

どちらにせよ、俺はあの二人を取り戻すために来たのだから、受けざるを得ない。



「ちなみに、このルールはワタシにカイザー亮対策のカード、

 そして鍵の守護者の情報を余す事なく教えてくれた男からの要求でもあるわ」

「―――――――!」



つまり――――パラドックスに連なるもの。

俺を狙う必要がある相手は、現状イリアステルにしかいない筈だ。

そしてイリアステルならば、過去の時代であろうとある程度の影響力を持っている。

それこそ、影丸理事長にちょっとした要求を通すくらいのものは。



「あんたはその二人を。俺は……Xを」

「あら、ホープ・トゥ・エントラストという名だと聞いていたけど。

 まぁいいわ。要するにそのバイクを賭ける、と言う事でいいのだから」



そう言ってカミューラは二人の人形を横に放り投げた。

ぱふん、と床で一度跳ねて、その動きを止める。



「フフフ……ワタシの目的は、幻魔を復活させ、その力で我がヴァンパイア一族を蘇らせる事。

 それは知っているのでしょう。でも、あの男から出された指示は知らない」

「…………」

「少しだけ、教えてあげるわ。まず、ワタシの与えられた指示は二つ。

 アナタからそのバイクを奪い取る事と、もう一つ……」

「うるさい、黙ってろ」



まるで義務のようにそう喋り始めたカミューラの言葉を潰し、俺が奪い取る。

俺はここに話をしにきたわけじゃないし、それに、



「絶対に、渡さない。こいつは、俺の相棒モノだ」

「フ、フフフ――――! ならその絆、ワタシの爪と牙でズタズタに引き裂いてさしあげましょう!」

「「デュエルッ!!!」」



互いが5枚のカードを手札として加える。

デュエルディスクが最初にターンプレイヤーとして選択するのは、俺―――!

デッキに思い切り掌を叩き付けるように置き、深呼吸。

絶対に勝つ。何が何でも。



「俺のタァーンッ、ドロォーッ!!」



デッキホルダーからカードを引き抜く。

手札のカードを示し合わせ、更にデッキの中のカードを思い描く。

相手の戦術を可能な限り予想する事で、対策を打ち立てる。

最悪なのは、幻魔の扉からの1ターンキル。



どれだけ周到に戦術を積み上げようと、それを根底から叩き崩す力を持っているカードだ。

警戒するに越した事はない。

だが、それで攻撃を疎かにすれば不死の亡者の進軍が待ち受けている。

ならば、幻魔の力などモノともしない者たちで、攻めきる。



「俺は、サイレント・マジシャン LV4を攻撃表示で召喚!」



白光が溢れて、俺の前方に描かれた魔法陣から小柄な少女が現れる。

青い宝玉の飾りがついた白いトンガリ帽子を被り、同じく白を基本にところどころ青のアクセントが入った魔導衣。

灰色がかった白い髪は後ろに跳ね放題。両手で構えた短いロッドを、カミューラへ向ける。



それは万丈目準が先の対校デュエルで披露したアームド・ドラゴンと同じく、レベルアップモンスターの一種。

そして王の器、つまり武藤遊戯の扱ったモンスター。

姿と能力は原型のそれと比べ変わっているが、そのポテンシャルの高さは変わらない。



「サイレント・マジシャン……なるほどね。

 幻魔の扉を使われてもいいように、魔力を無効化する事に長けたモンスターを投じて来たというわけね」



サイレント・マジシャンがLVを上げた姿、LV8まで到達すると、

自分に降りかかる相手の魔法を全て無力化する能力が開花する。

つまり、幻魔の扉に破壊されないのだ。

そして、サイレント・マジシャンがレベルを上げる方法は一つ。

相手プレイヤーのドロー。



「そして、魔法マジックカード、手札抹殺を発動!

 互いのプレイヤーは手札を全て墓地へ送り、捨てた枚数分のカードをデッキよりドローする!」



残る4枚の手札を墓地へ送り、同じく4枚のカードをドローする。

カミューラの方を見れば、当然その効果に従って5枚のカードを墓地へ送り、新たな5枚を引き直す。

もし最初の手札の中に幻魔の扉があれば、最も楽な話であったが。

彼女の表情を見る限り、それはないだろう。



だが、それでも。

相手プレイヤーがカードをドローしたこの瞬間、サイレント・マジシャンはそのLVを上昇させる。

尤もこの場合のLVというのは、モンスターのレベルの事で無く、いっそ比喩表現と言うべきものだが。



「サイレント・マジシャンの効果発動!

 相手がデッキからカードをドローするたびに、このカードに魔力カウンターを一つ乗せる!」



白いトンガリ帽子に取り付けられた宝玉が光を灯し、ゆらめく。

その光は最大値から五分の一。

つまり、五つのカウンターが溜まった瞬間こそが、この魔術師の本領発揮だ。

だが、相手がそれをただ待ってくれるかと言えば、確実に否。



「カードを1枚セット! ターンエンドッ!」

「ワタシのターン!」

「このターンのドローフェイズ、サイレント・マジシャンの魔力カウンターを一つ追加だ!」



宝玉の中に宿る光が増す。五分の二の光。

サイレント・マジシャンの元々の攻撃力は1000程度だが、魔力を充実させる事で通常を上回る威力を発揮する。

その証こそが魔力カウンター。相手の手札が増える度に上昇する魔力は、一度につき500ポイントの攻撃力を上昇させる。

渦巻く魔力を制御する少女の攻撃力は、今や2000。

下級モンスターではそう簡単に上回れまい。



だが、そんな事は意に介さずカミューラは自らの手札から1枚のカードを取る。

叩きつけるようにデュエルディスクに置かれたカードを読み取り、現されるソリッドヴィジョン。



「出でよ、ピラミッド・タートルッ!!」



階下で瓦礫の散乱した床をぶち抜き、大亀がのっそりと身を乗り出してくる。

その最大の特徴は名の通り、甲羅の代わりに背負っている黄金の三角睡。つまり、ピラミッドだ。

その能力は高くなく、攻撃力は1200。守備力も1400ほど。

しかし、その能力こそが真骨頂。



「ピラミッド・タートル……!

 背負った墓地ピラミッドが破壊された時、アンデットモンスターを呼び出す現世と冥界を繋ぐ亀……!」



ピラミッド・タートルは戦闘により破壊された時、デッキから守備力2000以下のアンデットをデッキより特殊召喚できる。

アンデットモンスターはその死者・亡者というコンセプトからか、守備力というものがそも低数値に設定されデザインされている。

それは弱点の一つであるが、この亀の作る通路の存在から、それはある種の長所として考える事もできるのだ。



「その通り……さあ、行きなさい! ピラミッド・タートルで、サイレント・マジシャンを攻撃!!」

「っ、迎撃しろ! サイレント・マジシャンッ!!」



地上でピラミッドを背負った亀が唸る。

空中でそれを見下ろす魔術師の少女が杖を両手で構え、その攻撃に対して警戒の姿勢。

ぐぉ、と大きく亀の身体が低く押し込められる。

跳躍の体勢。

その身体が解き放たれる前に、魔術師は杖を前方に翳した。

白光が杖の先端に満ち満ちて、解き放たれるのを待ち侘びる。



強靭な四肢が跳躍、ただ一点のために使用される。

踏み縛った地面を崩しながら跳び上がった。

黄金の王墓、三角睡の頂点で空中の相手を串刺しにするための攻撃。

高速で地上より打ち上げられたその凶器を前に、魔術師の少女は微塵と臆さず立ち向かう。



「サイレント・バーニングッ!!!」



杖の先端から迸る白光が、自身に向かい来る亀の突撃を焼き払う。

瞬く間に光の雨に焼かれて崩壊するピラミッド。

積み上げられたブロックが粉砕されて、亀は再び地上に向けて失墜していく。



だがしかし、そのピラミッドの中より渦巻く影が現れる。

破壊された王墓が造る道を通り、現世に降りるアンデット。

自身を上回る攻撃力を持つ相手に仕掛け、自爆する事で戦闘破壊に誘発する効果を使ったのだ。

二体の攻撃力の差分、800ポイントを消費する事となったのは、必要経費と言う事か。



「ピラミッド・タートルが戦闘で破壊されたこの瞬間、その能力が発動する!

 デッキより守備力2000以下のアンデット、カース・オブ・ヴァンパイアを特殊召喚!!

 そして、特殊召喚されたヴァンパイアで、魔術師の小娘を攻撃よ!!」



ピラミッドがばら撒くブロックの中から飛び出した影が、その姿を明確にしていく。

水浅黄色の頭髪を持つ、土気色の肌のヒトガタ。

人間の外見をしていながらそれは人間ではなく、別種族。

蝙蝠を翼を有し、夜を支配する生命。その正体こそ、ヴァンパイア。



「ネイル・ファング・ブローッ!!」



彼は翼を羽搏かせて、攻撃態勢を未だ崩していないサイレント・マジシャンに向かって飛翔する。

弾けるように跳ぶ身体が鋭利な爪で魔術師の少女を引き裂くべく、振り翳す。

しかし、迎撃の体勢を崩していない少女にその奇襲は通用しない。

下方より迫撃を仕掛けてくる吸血鬼の爪を一切恐れず、少女はただひたすらに敵を見据えた。

煌々とした白光が杖の先に迸らせて、迫りくる敵の身体を滅却する。



闇を消滅させる光の豪雨に晒されて、吸血鬼はさながら陽光に中てられたかの如く、溶解を始める。

現世に現れたばかりのヴァンパイアは、すぐさまその身体を光の魔力で薙ぎ払われる。

呻き声を上げながら有翼ながらも人間と同じ造形の姿は、瞬く間にごぽごぽと黒い液体に変じていく。

殆ど抵抗もなく溶けた相手に、少女はその杖の構えを解く。



ああなってしまえば、もう反撃を試みる事も出来まい。或いはそんな油断からか。

しかし、今魔術師の少女が相手取るのは、真っ当な怪物ではなく、不死の化物であった。

少女の放つ光の魔力が途切れたその刹那、沸騰するように気泡をたてる黒い液体が渦を巻いた。

魔術師の反応は一拍遅れた。故に、体勢を立て直す間もなかった。



渦巻く闇は少女の姿を包むように、抱くように奔流する。

僅か半秒での決着であった。

少女の肢体を余す事なく呑み込んだ闇は、そのまま重力に従って床に落ち、弾けて飛んだ。



詰まるところ、相討ち。



魔力カウンターを二つ蓄えたサイレント・マジシャンの攻撃力は2000に及んでいた。

しかし、それを今相手取った吸血鬼の攻撃力もまた2000に達している。

それらが力をぶつからせれば、共に倒れる事は必定。

共にしもべを失ったこの現状。だがしかし、今墓場に送られるのは不死の怪物、ヴァンパイア。



「カース・オブ・ヴァンパイアが、サイレント・マジシャンと相討ったこの瞬間、

 カース・オブ・ヴァンパイア自身の不死の特殊能力発動!

 ワタシのライフ500ポイントを支払う事で、次のスタンバイフェイズに攻撃力を500上げて復活する!!」



床に溜まった黒い液体から、形状を固定されないまま生首のようなものが突き出て来た。

その首は真っ直ぐに自身の主人の許へと向かい、その首筋へと牙を突き立てる。

ぐじゅ、と肉を裂く音がこちらまで聞こえてきた。

そのままずるずると減っていくカミューラのライフは、残り2700。



サイレント・マジシャンは破壊されればそのまま。それも、もし再度召喚しても魔力カウンターはリセットされている。

しかし、あの不死の怪物は弱くなるどころかより力を増して、こちらへと牙を剥く。

無論、その代価は相応に支払う必要がある。その儀式が、今目の前で行われている吸血行為。

血を吸い終わった生首が、床の黒い水溜りに還る。

首筋から血を流すカミューラは、そこを手でさする事でその傷を消した。



「………俺、そーゆー怖い演出苦手なんで控えて欲しいかな」

「あら、可愛い事を言うのね。でも残念、吸血鬼に血を吸うなと言われてもねぇ」



くすくすと嗤う。

それは確かに。別に、こっちが気にしなければいいだけの話だ。

眼を細めて、そういうグロテスクな場面を見逃してしまえばいいだろう。



目線の高さはこちらが合わせていると言うのに、カミューラはそれでも俺を見下ろす。

立ち位置とかではなくて、もっと根本的なところで。



「それに血を啜るのであれば、ヴァンパイアなどより人間の方がよっぽど特技よ。

 我が一族に化物のレッテルを張り付けて殺し、その血を流させてきたのはどちらさま?」

「………御尤もな話なんだろうが、俺には関係ないね」

「そうね。アナタに責任を取ってもらってもしょうがないわ。

 アナタの魂は責任などを背負う事ではなく、我が一族復活の贄としてその天命を果たすのだから。

 ワタシはこれでターンエンド」



俺は再びデッキに手をかける。

ふぅ、と一つ溜め息。

大丈夫だ、いける。絶対に負けられないんだ、心なんか動かしてる場合じゃない。

同情とかそんなものは後ですればいい。悔やむくらいなら後悔だ。

先に何か覚えてしまえば、頭で処理できない俺はもう動けないんだから。

だから、俺は空気の読めないただのバカでいい。



「俺のターンッ! ドローッ!!!」

「この瞬間! 我が眷族、カース・オブ・ヴァンパイアがその身体を再構成し、蘇る!!」



床の黒い闇が盛り上がり、その中から土気色の肌のヴァンパイアが出現する。

闇はそのまま吸血鬼に背負われ、蝙蝠の翼となって大きく広がった。

バサリと一度羽搏いた彼は、カミューラの目前まで飛び上がると、その翼を畳み、外套のように身体に巻いた。



その攻撃力は上級モンスターと最上級モンスターの境界線の一つと言える、2500ポイント。

生半可な攻撃力ではそいつには届かない。

半端で届かないのならば、こちらもエースを切るまでだ。

デュエルディスクの伏せリバーススイッチを叩き、使用を宣言する。



トラップ発動! リミット・リバースッ!!

 墓地より攻撃力1000ポイント以下のモンスターを特殊召喚するッ! 俺が蘇生するのは勿論――――!

 サイレント・マジシャン LV4!!」



俺の目前で開かれたトラップカードのソリッドビジョンから光が溢れ、沈黙の魔術師が姿を現す。

当然、白いトンガリ帽子についた青い宝玉に宿る光はなくなっている。

それは蓄えられるべき魔力が枯渇している事を示し、攻撃力が1000である事を示す。



先程相討った敵と対峙してニヤリと嗤笑するヴァンパイアに反し、少女は僅かに体勢が退いていた。

この魔術師の少女が正統なる手段であの相手を上回るまで、相手が4回ドローする事を要する。

つまり、相手が4ターンを消費する事。

それほどの時間を、相手に劣る戦闘能力しか持たない少女の身体で稼ぐ事はできまい。



「ふん。そのモンスターを生贄に、更なる上級モンスターを呼び出すってわけ?

 でも、我が血の魔力を得たカース・オブ・ヴァンパイアに匹敵するモンスターが、都合よく手札にあるかしら?」

「勿論無い! 俺は更に、ガガガマジシャンを通常召喚!」

「はぁ?」



沈黙の魔術師に並び立つように、新たなる魔術師がその姿を現す。

紺色の魔導衣に身を包み、錆色のアーマーを肩と左足に取り付けている。

腰に巻いたベルトには四つの点が打たれており、翻る魔導衣の背には『我』の一文字。

足と腕に絡ませた鎖を揺らし、手を導衣のポケットに入れたまま、その魔術師は俺のフィールドで立ち誇る。

その攻撃力は1500。無論、ヴァンパイアを破る事などできない。



「たかが攻撃力1500、そんなモンスターでどうする気かしら。

 まさか、二体のモンスターの攻撃を合わせて互角だとでも?」

「え? あ、そう言えば合計2500だな、攻撃力」



攻撃力1000のサイレント・マジシャン。そして1500のガガガマジシャン。

そのまま足し算すれば、相手のモンスターと全くの互角である。

何やら面白い発想だと思うが、そんな事は全く関係ないだろう。

しかし、マジシャン同士。更に攻撃力の合計が2500。何やら、うまくできているものだ。



「だけど、違うな。足し算じゃない、エクシーズ召喚って言うんだ。こいつは!」

「エクシーズ……?」

「レベル4の、サイレント・マジシャン LV4とガガガマジシャンをオーバーレイッ!

 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築ッ!!」



二体の魔術師がその身体を光に変え、俺とカミューラの間に発生した次元の渦に飛び込んでいく。

渦を巻く銀河のような領域を造り出し、その中で二つの光が交わった。



Xのエクストラデッキ用のゾーンから吐き出されたカードを引き抜き、フィールドに降臨させる。

銀河が集束し、溶け合い一つとなった光が新たなる力を導く。



「現れろ、No.ナンバーズ39 希望皇ホープッ!!!」



その声と共に、光は新たなるカタチを描き出す。

剣を連想させる意匠のオブジェのような何か。白と黄金で現されるそれは、正しく希望の象徴なのだろう。

周囲に取り巻く二つの光の球を纏わりつかせながら、その剣は大きく発光した。

展開した刀身の部分が翼となり、パーツがスライドして、大きく広がる。

内部で格納されていた肩の装甲が開き、胴体がアーマーもまた、展開した。

頭部に黄金の三本角が現れ、真紅の眼が開かれる。

左の肩部に赤い文字で刻印された、39という数字こそが、No.ナンバーズの証。

腰の左右に吊るされた剣を武器とする、戦士族モンスターエクシーズ。

希望皇ホープ。



その戦士は俺の目前で浮遊し、カース・オブ・ヴァンパイアと対峙する。

互いの攻撃力は2500の同格。



「どうだ、これがエクシーズ召喚だッ!!」

「フィールドのモンスターを生贄に、融合デッキから融合なしで融合モンスターを特殊召喚するなんて……

 フフフ……なるほど、これがあの男の言っていたワタシの知らない、未知の戦術―――!」



納得された。

多分、シンクロ召喚の事を言っていたんだろうが、まぁ別に訂正の必要もあるまい。

だが、ホープを召喚したからと言って、カース・オブ・ヴァンパイアが倒せるわけではない。

攻撃力は互角。そして相討ちを取っても、相手は不死のヴァンパイア。再生能力を有している。

それを誰より理解しているカミューラの表情には、微塵も焦りはない。



「それで、どうするのかしら?」

「――――カードを2枚伏せて、ターンエンド」



当然、失うものしかないこちらから仕掛ける事はできない。

その剣は、今振るうためのものではない。



「フフフ――――! ならば、ワタシのターンッ!!」



だが、カミューラは自軍のバトルフェイズにそれを強制する権利がある。

俺が何の対策も取らなければ、吸血鬼は自らの身体を投げ捨て、ホープに相討ちを強いるだろう。

そうなれば俺のフィールドはガラ空き。

相手は更なる追撃を仕掛けて俺のライフを削り、不死の吸血鬼は再び蘇る。



こちらに消耗を強い、その上で不死者の軍勢がこちらを攻め立てる。

油断などしていればそのまま墓場まで引き摺りこまれる。

それこそがアンデットの恐怖。どこからでも存在を現し、相手が消滅するまでけして死なぬ者ども。

そして、その不死の軍勢を指揮する者こそが、ヴァンパイアの血族であるカミューラ。



「ワタシは、ヴァンパイア・レディを召喚!」



バイオレットのドレスを纏った、吸血鬼の一族の淑女が現れる。

ゆったりしたドレスの裾を翻して、その淑女は怪しく微笑んで見せた。



これで奴の場のモンスターは二体。

先の通り、ホープを相打ち取り、ヴァンパイア・レディによってこちらを侵略する気だろう。



「………!」

「さあ、まずはそのモンスターに退場願おうかしらぁ?

 行きなさい、カース・オブ・ヴァンパイアッ! シャープネスネイルブレェードッ!!」



吸血鬼が外套のように身体に巻き付けていた翼を広げる。

一つ、その翼を羽搏かせると、ホープの姿を目掛けて飛翔した。

カミューラの血の魔力を吸収した爪は、先程沈黙の魔術師に向けたそれを上回る切れ味を誇る。

例え希望皇が腰に携える剣、ホープ剣を抜き放ったとしても、それを折る事はできまい。

ならば、盾を使うまで――――!



「希望皇ホープの効果発動!

 オーバーレイユニット、ガガガマジシャンを墓地ヘ送る事でモンスターの攻撃を一度、無効にする!!」

「なんですって!?」



ホープのカードの下に重ねられたカードを引き抜く。

その瞬間、ホープの周囲を回っていた二つの光の内一つが、胸部の碧色の宝珠に取り込まれた。

光を取り込んだ胸部から溢れる光は、ホープの能力を余す事なく発揮させ、その翼を展開させる。

一度展開し、組み替えられて翼となっていた部位が、再変換されていく。

それは召喚された瞬間見せた、剣のオブジェの刀身を形作っていた部分。

それが新たなる形状へと組み替えられ、現す姿は、盾。



「ムーンバリアァッ!!」



黄金の光が盾から放たれ、相手の攻撃を防ぐための鉄壁と化す。

まるで満月のように広がる光の盾に突き立てられる、ヴァンパイアの爪。

ホープ剣さえ互角の勝負に持ち込むその爪を、光の盾は危うげもなく防いでみせる。

弾き返されるように、カミューラのフィールドへと押し返される。

そのヴァンパイアの姿を見て、カミューラは微かに舌打ちした。



「ふん、ヴァンパイアに月の力で対抗しようとはね……思ってもみなかったわ。

 でも見えたわ、そのモンスターの弱点。次のターン、同じ回避をすれば、もう逃げられない……!」

「ああ。ホープのムーンバリアは、オーバーレイユニットがコストとして必要だ。

 残るオーバーレイユニットはサイレント・マジシャンのみ。

 その上、オーバーレイユニットが存在しない時に攻撃対象として選択されば、自身の効果によって破壊される」



相手の攻撃を全て、問答無用で掻き消せるわけではない。

ホープが自身を守った盾を再度展開し、瞬く間に翼を組み替えていく。

俺たちの視線が捉える胸部の宝珠には、先程までの溢れる光は欠片も残っていなかった。

一つ分吸収された、衛星の如くホープを取り巻く光は残り一つ。



「黄金の月の加護――――

 そんなもの、我がヴァンパイアに力を与える紅い月の禍々しき光で呑み込んであげるわ」



Dホイールのデュエル画面が、バトルフェイズからメインフェイズ2に移り変わった。

当然だろう。ホープの攻撃力は2500。

攻撃力1550のヴァンパイア・レディでは力不足は否めない。

バトルフェイズの終了は必然。だが、だからと言ってカミューラはこのターンの攻めを終えた事にはならない。

ならば、俺はその先手を打つ。



「バトルフェイズが終了し、メインフェイズ2となったこの瞬間、伏せリバースカードを発動!

 トラップカード、トゥルース・リインフォース!!

 このカードの効果によって、デッキからレベル2以下の戦士族モンスターを特殊召喚する!

 俺が選ぶのは、レベル1の戦士族モンスター! ブースト・ウォリアーッ!!」



俺の前に光の柱が立ち上り、その内から炎を巻き上げる戦士が出現した。

濃紺のアーマーで包まれ、背後に炎を吐き出す四本のマフラーを背負った戦士。

燃えるような炎色の髪を逆立たせるその戦士は、両腕を交差させてそのボディを青く染めていく。

守備表示の証であるその状態になった戦士の役割は、その身で敵と戦う事にあらず。



「ブースト・ウォリアーが表側表示でフィールドに存在する時、

 俺のフィールドに存在する戦士族モンスターの攻撃力は、300ポイントアップするッ!

 つまりッ……!」



ホープが腰に携えた剣が、光を帯びる。

希望皇ホープの属する種族は、戦士族。つまり、ブースト・ウォリアーによる後押しを得る事のできる存在。

その攻撃力は、自身の元よりの数値にブーストされた分を加え、2800に至る。

このフィールドに君臨する、不死の吸血鬼を薙ぎ払う事のできる攻撃力。



トゥルース・リインフォースには発動ターン、バトルフェイズが行えなくなるデメリットがある。

しかしそれも、相手がバトルフェイズを終えた後の、相手ターン中に使ってしまえば無視できる。

これにより、次の返しのターン。こちらの攻撃が、通る。



「吸血鬼が不死でいられるのは、自身の糧となる血を啜る事のできている間だけ。

 その根源、お前のライフを削ぎ落してしまえば、不死なんてものは失われる!」

「あら、果たしてそうかしらぁ? このまま見逃すと思って?」



カミューラはそう言って、手札のカードに手をかけて引き抜く。

引き抜かれたカードが差し込まれるのは、魔法マジックトラップゾーン。



魔法マジックカード、ブラック・ホールを発動!!」



瞬間、俺たちの間に暗黒の渦が生まれた。

光さえ呑み込む闇は、呑み込む対象を選ばず全てを喰らい尽くす悪食。

フィールド上に存在するモンスター全てを破壊する、黒い孔。



それが、フィールドの全てを蹂躙するために拡大していく。

例えどんな攻撃をも止められるホープの盾であろうと、その闇の侵略は止められない。

カミューラのフィールドとて無事では済まないが、これを解放した以上続く手があるとみて間違いあるまい。

だが、そんな事はこちらも同じ事。



「さあ! 全て暗黒の渦中へ消えなさい!!」

「そいつはどうかな?」

「………っ!?」



暗闇の渦の中心から一条の光が立ち上る。

それはまるで、ブラックホールを内側から抉じ開けるように。

星の光差す道を描き出す。

フィールドを蹂躙する破壊の渦を逆に呑み干し、それを星の光に転換する術。

その名を、



トラップ発動! スターライト・ロードッ!!」



ブラックホールを内側から塗り潰す極光。

星の道を成し、その路を潜り抜け、一体の龍が白銀の翼を羽搏かせ、降臨する。

全てを呑み込む筈だった暗黒は光に散らされ、その威力を消失した。



光の道を辿り、俺のフィールドに降臨するのは白銀の龍。

スマートに洗練されたフォルム。風を纏う翼で、空を裂いて飛翔するドラゴン。

黄金の瞳を輝かせ、その龍は高らかに咆哮を上げた。



「なんですって!? ブラック・ホールが……!」

「スターライト・ロードは、俺のフィールドのカードが2枚以上破壊される効果が発動した時発動するトラップ

 その効果を無効にし、デッキのスターダスト・ドラゴンを呼び醒ますッ!!」



相手の戦術、クロノス教諭のデュエルを見てただけでも判断できたもの。

それは、カミューラのデッキに存在するモンスター除去カードの多さ。

特に、自身のモンスターごとフィールドを吹き飛ばす事も厭わぬ、破壊力を持つカードの採用。

そしてフィールドを薙ぎ払った後の焼け跡に君臨する不死者ども。



その傾向だけでも読めているならば、自然こちらの対策を決まってくる。

更に言うならば、カミューラはその戦術の多くを魔法マジックカードに頼っているのが見て取れた。

だからこその、

武藤遊戯をイメージした魔法マジックカード封じのサイレント。

不動遊星をイメージした破壊効果封じのスターダスト。

そして、不死者の身命を捨てた特攻すら封じる九十九遊馬のホープをメインとして仕立てた。



「くッ……!」



盛大に顔を顰めたカミューラは手札へと眼を移し、次にフィールドを見る。

僅かに歯軋りをした彼女は、手札から1枚のカードを引き抜く。



「カードをセットし、ターンエンド……!」



ピ、とDホイールのディスプレイがカミューラのターンから、俺のターンに切り替わった事を示す。



「俺のターン、ドロォーッ!!」



――――手札は今、引いたカードのみ。

この状況では発動する事のできないカード。ならば、



「行くぞ! ブースト・ウォリアーの効果でブーストされた、希望皇ホープの攻撃だ!!」



ホープの双眸が一際大きな、真紅の光を灯す。

腰にかけられた剣の柄を掴みとり、それを引き抜きつつ、思い切り上に投げ放った。

ブーメランのように飛行する剣はどこまで飛ぶか、という勢いだったが、その威力はすぐさま消える事となる。

屋内であるが故に、剣は天井に刀身を深く沈め込み、動きを止めた。



深々と突き刺さった剣を中心として、天井に罅が奔った。

ホープの翼が微かに震動して、その身体が剣の許へ向けて加速する。

加速を維持し、飛び上がった速度のままで剣の柄を引っ掴む。

天井を打ち砕きながら剣を引き抜きつつ、その刃をカース・オブ・ヴァンパイアに対して振るう。



「ホープ剣・スラァアアアアッシュッ!!!」



仄かに燃える炎を纏ったその剣は、ホープが元々持ち合わせる威力を凌駕する一撃。

今やホープに匹敵する魔力を獲得したとはいえ、ホープ自身が強くなればカース・オブ・ヴァンパイアの優位は崩れ落ちる。



吸血鬼がその腕を振り翳し、黒い血液の滴る爪をホープに向ける。

瓦礫の雨の中で交わる二つの刃。

先程までであれば、それは互いの得物が砕け、そして互いの獲物を討っていただろう。



しかしそれは覆り、炎のブーストを受けたホープの剣を相手にすれば、吸血鬼の爪が折れるが必定。

五指を並べ、一条にして放った貫手は、ほんの一瞬の交錯を経て砕かれた。

突き抜けた剣が肩口から腕を断ち切った。

噴き出す血液が互いの姿を隠すように広がり、潰れて断たれた腕が一本、宙を舞った。



僅か半秒の静寂。

それを打ち砕くのは、血の壁を突き抜けて奔る吸血鬼のもう一方の腕。

視界を覆う血流に遮られながらも、迷いなく正確にその胸を貫くため、爪を立てる。

ホープが剣を引き戻すまでの更なる半秒。その間があるのであれば、それは恰好の獲物。

血の壁の中に埋もれている剣を認識している吸血鬼は、そう思考する。



だが希望皇の振るうホープ剣を、その程度の戦術で凌駕しようなどと。

ザブリ、と肉が断たれる音と共に、カース・オブ・ヴァンパイアのもう肩腕の肘から先が舞った。

撒き散らされる黒い血液は四散し、血の壁も重量に従い、その幕を下ろす。



晴れた視界に吸血鬼が見た物は、二刀。

初撃を放った右腕でのホープ剣はそのままに、左腕で二刀目のホープ剣を逆手に取っている。

血よりなお紅い、ホープの眼光が吸血鬼の姿を捉えた。

生存本能。否、死を解さぬ不死者にそのようなものはあるまい。

ただ純粋な畏れ。人を餌とする不死の怪物ですら、光の戦士の剣に畏れを成し、僅かにでも退いた。

瞬間、左手で逆手に構えたホープ剣を順手に持ち替え、両腕で刃を閃かせる。



―――一拍遅れ、吸血鬼の身体がX字に裂け、四つに分かれて崩れ落ちた。

崩れ、地面に散らばった吸血鬼の身体がドロドロに溶けていく。

攻撃力の差は300。故に与えるダメージも300。

残るカミューラのライフは、このダメージがそのまま通りさえすれば、2400となる。



「くっ……! カース・オブ・ヴァンパイアの効果発動!

 このカードが戦闘によって破壊された時、500ポイントライフを支払い、次のスタンバイフェイズに再生させる!!」



そう。カース・オブ・ヴァンパイアが不死たりえるのは、血を啜っていられるからだ。

ぐちゃぐちゃと黒い血溜まりから伸びた生首がカミューラの首に食らい付く。

つまり、このコスト分と合わせて、今のカミューラのライフは1900まで落ち込んだ。

このペースで維持していけば、遠からず復活できなくなるだろう。

無論、まだ俺の攻撃は終わっていないのだから。



「ならば、スターダスト・ドラゴンの追撃! ヴァンパイア・レディに攻撃!」



白銀の龍がその口腔に音波を蓄積する。

微かに漏れ出した超音波が原因の耳鳴りを覚えつつ、その攻撃指令を下す。



「シューティング・ソニィイイイイック!!!」



解放される。

銀色のブレスとなるまで圧縮された音波の塊が、相手を打ち砕くべき迸った。

その戦闘力は先程のヴァンパイアと比べれば落ちる。

ならば、カース・オブ・ヴァンパイアや、希望皇ホープと肩を並べるスターダストに、淑女が対抗する術はない。

迫りくる閃光に息を呑み、顔を庇うように腕を前に出す。

しかし、そんなものが通用するような侵攻ではない。



超音波の奔流に呑み込まれたヴァンパイア・レディの身体は瞬く間に崩壊し、砕けた。

超過するダメージはその背後に存在するカミューラの許まで貫通し、そのライフを抉り取っていく。

ヴァンパイア・レディの攻撃力は1550。

攻撃力2500のスターダストの一撃を受ければ、超過ダメージは950となる。

1900となっていたライフの丁度半分を持って行かれたカミューラは、膝を床に落とした。



「くっ………! よくも―――!」

「このままストレートで持って行かせてもらうぜ。

 あんたが持って行った全てを、俺たちの許に戻してもらう―――!」



このまま、幻魔の扉を使わせずに勝てばそれでいい。

そうすればカイザーとクロノス教諭は取り戻せる。

ついでにあのカミューラも魂を幻魔に奪われる事なく万々歳だろうよ。



「チィッ、ワタシのタァーンッ!!」



カミューラがゆっくりと立ち上がり、デッキからドローする。

そのカードを引いた瞬間、カミューラの顔が変わった。

表情の変化、などというレベルではない。口が裂けたかと思うほどの破顔。

頬の上からでも分かる、鋭利な牙の存在。まさしく、吸血鬼のそれ。



「………」



果たしてそれは。

だが、相手のカードが例え幻魔の扉だったとしても、スターダストが存在する今、それは通用しない。

カミューラがドローしたカードを手札に加え、別のカードを取り上げた。

既に彼女の顔は、普段のものに戻っていた。



「フフフ……戻してもらう、ねぇ?

 ならば、先にワタシがアナタたちに奪われたものを戻して欲しい所よ。

 我らヴァンパイアはお前たち人間にこの世界を追われた。命を奪われたッ!

 ワタシから全てを奪ったものたちは、一体何の理由があってそれを行ったと言うの?

 ワタシが奪われたものを取り戻すための犠牲を強いているように、それも何かの犠牲として必要だったの?

 ただ自身とは違う存在として迫害し、殺害する事でお前たちは何を得たと言うの!?

 我らを滅ぼした者は正義? お前たちを滅ぼそうとする者は悪? そんなもの、人間の身勝手にすぎないわ!

 ワタシから見れば、悪こそお前たちの方だったのだからッ!!」

「―――――ぅ……い、言っただろ……! 良いか悪いかなんて俺が知るか!

 俺はそれを、このデュエルで止めてやるッ!!」

「ふん、ならば味わいなさい! フィールド魔法、不死の王国-ヘルヴァニアを発動!!」



周囲の風景が変わっていく。

先程まで朽ちていた吸血鬼の居城は、その魔法の影響で寂びれる前の姿へと戻っていく。

豪華絢爛な拵えの、今にもダンスパーティを開けそうな、綺麗なホール。

しかしそれは見た目ばかり。

空気に混じって漂う濃密な瘴気を肌で感じる。ぴりぴりと焼かれるように熱くなってくる。

だがそれも、スターダストの効果を突破できない。



「そして! 融合デッキよりサイバー・エンド・ドラゴンを除外・・・・・・・・・・・・・・・・!!!」

「なん……だとッ……!?」

「ワタシがあの男から与えられた指令は二つ。

 アナタの大事なそれを奪う事と、カイザー亮からサイバー・エンド・ドラゴンを奪う事ッ!!」



見誤っていた。

リミッター解除のようなサポートは、幻魔の扉で奪ったモンスター用だと思っていた。

だが、違う。本来はこっちを目的として渡されたカード。



銀色の装甲を持つ機械龍。

手足を持たず、大蛇と言った方が正しく意匠が伝わるだろう外見。

その特徴はそれぞれ形状の違う、三つの首。

本来の頭部を隠すためか、白と黒のマスクを被せられた龍頭は、喚き立てるように咆哮を上げる。

二枚の黒く染まった翼をゆったりと動かしながら、その機械龍はカミューラの背後に出現した。



「これこそアナタたち人間の罪の結晶の姿―――Sin サイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚!!!」



轟音を撒き散らし、暴れ狂う機械龍。

茫然とその姿を見ていると、滞空している俺の下から、声がする。



「サイバー・エンドだと……! どういうことだ!?」



飛び込んできたのはサンダーと十代、続いて三沢と明日香が続き、その後ろから翔と隼人、大徳寺とユニファーが入ってくる。

彼らも突然カミューラの場に現れたそのモンスターに、目を奪われていた。

カミューラはそれにも構わず、腕を振るって機械龍に攻撃命令を下す。



「サイバー・エンド・ドラゴンで、スターダスト・ドラゴンを攻撃ッ!

 エターナル・エヴォリューション・バーストッ!!!」



機械龍がその三つの首の口を同時に開き、その奥から白光を放つ。

溢れる光の渦は間違いなくスターダストを狙ったものであり、避ける事は敵うまい。

Sin サイバー・エンドの攻撃力は4000もの威力。

攻撃力2500のスターダストには抵抗などできる余地がない。

だが、俺の場には無敵の盾を持つ戦士が残っている。



「オーバーレイユニット、サイレント・マジシャンを墓地へ送り、希望皇ホープの効果を発動!!

 その攻撃を無効にするッ!!」



ホープがスターダストの前に躍り出る。

周囲を取り巻いていた残り一つの光を胸に吸収し、その能力を発揮する。

翼が展開し、盾の姿へと組み替えられていく。

前方に翳されて、満月の如く輝く盾がサイバー・エンドの放つ極光を受け止める。

その攻撃は盾に直撃して拡散し、背後へと受け流されていく。

しかしその代償か、盾となっていた翼が微塵と砕け、ホープは翼を失う。



ソリッドヴィジョンなどではない。

実在の威力を持つ、破滅の光の奔流。

受け流された光はそのまま俺の背後の壁へと突き刺さり、周囲を破壊していく。



「グッ、ぅ………!」

「キィハハハハハハハッ!! どうかしら、これが闇のデュエルの恐怖よ!!」



フィールド魔法の効果により綺麗に整えられた城が、またも打ち崩される。

舞い上がった粉塵を吸わぬように口許を抑えながら、みんなが俺を見上げている。



「エックス! 大丈夫か!?」

「………っ、ああ。まぁ、な……!」



大丈夫などであるものか。今にも逃げだしたい。

十代がいるおかげでなおさらだ。十代なら、俺より巧くやってくれる。

俺が勝手にややこしくしたくせに、そんな思考で逃げたがる。

でも、それでも凡骨以下の馬の骨より下な雑魚にだって、意地の一つはある。筈、だと思いたい。



「ま、この程度のあれこれなんて、俺からすればまだ地味すぎるって言うか……

 僕は全国大会にもシルバーを持っていた事があるんだぜ!」

「え、ごめん。何言ってるか分からない」



翔も元気そうで何よりだ。うん、何より。



「やはり闇のデュエルは危険よ……! エックス、何故七星門の鍵を持っていないアナタが!」

「ここで俺が勝って帰ったらカッコいいだろ? 惚れてもしらんぞ?」

「大丈夫、それはないから」



明日香は相変わらず十代一筋。いやいいんだけどさ。

ここは、絶対無事に帰ってきてね、CHU♪ってなってもいいよね。

俺間違ってないよね?



「だが、何故カミューラがサイバー・エンド・ドラゴンを……!」



三沢がそう言ってカミューラの場のSin サイバー・エンドを見上げる。

サンダーも同じく、このフィールドを席巻するサイバー・エンドを見上げていた。

だが、隼人と大徳寺先生は見ている場所が違った。



「それもそうなんだけど、エックスのフィールドにいるモンスターは何なんだ……?

 見た事ないモンスターがいるんだな」

「今、攻撃を無効にしたモンスターと、あのドラゴンですのにゃ……」



二人の疑問に俺が答える必要もなく、その解答を知るユニファーが口を開いた。



「シンクロモンスター……

 今から数年前、ペガサス・J・クロフォード氏が開発に着手した新たなタイプのモンスター。

 尤も、通常の市場には未だ出回っていないモンスターだけど」

「知ってるのか、ユニ!」



あ、十代がユニファーを渾名で呼んでる。少しうらやましい。

その言葉に静かに肯いたユニファーは、解説を続ける。



「“チューナー”と呼ばれる特別なモンスターと、通常のモンスターのレベルを合わせて特殊召喚するモンスターよ。

 カード自体はメインデッキでなく、融合デッキに納めておく。

 つまり生贄がフィールド上のモンスター限定になり、チューナーとチューニングされる側のモンスターが必要になる代わりに、

 特定の魔法や手札に特殊召喚するためのモンスターをキープする必要のない、儀式と融合のハイブリット」

「なんだって!? それは本当かい!?」

「何で貴方が言うのかしら」



とりあえず驚いてみたら怒られた。

だが、それを聞いても特段驚いた様子のないみんな。何だかその反応は寂しい。

もっと、なんだってー! とかあると思ってた俺がバカなのか。



「なるほどな……それがあのモンスターたちってわけか」

「面白い召喚方法だ、レベルを調整して召喚するモンスター」

「………何かムツカシイ召喚方法だな」

「アニキ、足し算だよ?」

「じゃあそのうち引き算とか掛け算もでるのか? んー……」



頭を悩ませる十代に、ボクに訊かれてもと首を傾げる翔。



「でも、何で彼は本来市場に出回っていないそんなモンスターを持っているのかにゃあ?」



―――――変な答えは、何か不味い気がする。

ゆっくりとしている暇はないが、だからと言ってそう簡単に巧い答えなどでてこない。

息を詰まらせた俺に、微かに溜め息を吐くユニファー。



「私の伝手よ。親がカードデザイナーなものでね。

 デュエルアカデミアの生徒をやっているのだって、そういうカードのテストの場として相応しい環境だからだし。

 一人だと試験しなきゃいけないカードが多すぎて、彼にも手伝いを頼んでいたのよ」



一同そーなのかー、という表情。

あいつの父親が死んでいるのは、明日香も知らない事だった、と。

とにかく、巧く誤魔化してくれた事に感謝しつつ、カミューラに視線を戻す。



「無論、そういうカードでの公式デュエルは御法度だけれど。

 尤も―――――闇のデュエル、なんてものではそんなこと気にしないようだけど」

「フフフ、当然じゃない。ありとあらゆる手段を尽くして、相手を闇に叩き貶す。

 唯一にして絶対な決まりはそれだけ。そんなもの、注意にすらならないわ」



それはありがたい。が、相手はパラドックスから大量の情報を得ている。

まして、シンクロ召喚が破滅の引き金となった世界の住人からの情報なのだ。

どれだけの注意と、知識を叩き込まれたのか知れない。



だけど、それでも。



「カミューラ……いや、あえてこう呼ばせてもらう。ヴァンパイア・かゆうま」

「?」



完全な疑問符だった。発音が似ているからと言ってやった結果がこれである。

精神的にバイオハザードにも程がある。かゆい、うま

既にターンが俺に移譲されている事を確認し、デッキへと手をかけた。



「俺は、迷わない。この馬鹿にまともな思考を期待したお前が馬鹿だったようだな。馬鹿め。

 俺はお前を倒す! そしてカイザーとクロノス先生の魂を取り戻す!

 ただそれだけを考えてデュエルさせてもらう。そして、絶対に勝利を掴み取る!」

「―――――フフフ、出来るものならやってみなさい」



お前が一族の命運を背負っているのだとしても、俺は今、十代たちを背負っている。

そして何より、相棒の上に跨っている。だとすれば、相手がどんな矜持を見せようと、それに屈する事は出来ない。

俺にも負けられないものがある。



「俺のターン、ドロー! ―――手札より魔法マジックカード、調和の宝札を発動!

 手札の攻撃力1000以下のドラゴン族チューナーモンスター、デブリ・ドラゴンを墓地に送る事で、カードを2枚ドローする!!」

「チューナーモンスター専用魔法マジックか……

 なるほど。今回エックスは、そのシンクロ召喚というテーマに合わせたデッキを作っているようだな」



三沢が冷静に俺のデッキを分析するのを見つつ、しかし万丈目が舌を鳴らした。



「チッ……小手先の対策なんかより、自分の使いなれたデッキの方が良かっただろうな……

 もし、あのサイバー・エンドをどうにか出来なければ、ここで終わりだぞ……!」

「小手先なんかじゃないさ。エックスは、自分のカード全部信じてるぜ」



十代はそう言うが、確かに今のユニファーの嘘の話で考えれば、万丈目の方が正しかろう。

借り物のカードを手に、魂を賭ける闇のデュエルへの挑戦。

本来ならばそんな事あり得ないと思うのが普通だろう。

だが、十代はまるで全部知っているかのように、それを否定してみせた。



「十代……?」



ユニファーも不思議そうに見るだけだ。



「万丈目の言った通り、小手先の技術なんかじゃ駄目だろうけど。

 デュエルは心だぜ。カードと心を繋ぎ合わせてる今のエックスは、きっと強いぜ」

魔法マジックカード発動! バラエティ・アウトッ!!

 シンクロモンスターをデッキに戻す事で、そのレベルと同じになるように、墓地のチューナーモンスターを特殊召喚する!

 スターダスト・ドラゴンのレベルは8! よって、合計がレベル8になるようにチューナーを召喚する!!」



フィールドで羽搏くスターダストの身体が消えていく。

モンスターゾーンに置かれたカードを取り上げ、エクストラデッキ用のスペースに入れる。

同時に、墓地に置かれたチューナーモンスターのソリッドビジョンが俺の前に浮かび出た。

尤も、俺に選択の余地無く、墓地のチューナーの合計レベルは8以外にない。



「俺はレベル4、デブリ・ドラゴン! レベル3、ジャンク・シンクロン! レベル1、チェンジ・シンクロンを守備表示で特殊召喚!!」



墓地から出て来たカードを引き抜き、そのまま3枚をフィールドに。



スターダストの意匠によく似た、二周り小さい白銀のドラゴン。

しかし肩と胸部がサファイアのように透き通る結晶になっていた星屑とは反し、星屑の破片のそれは琥珀色。

スマートな印象を与えたスターダストとは矢張り真逆に、マッシヴな印象を受ける肉体。

その名を、デブリ・ドラゴン。



橙色の装甲。三頭身程度のボディを、金属製のフレームで造られた四肢を動かす戦士。

背負ったエンジンを吹かし、首に巻かれた白いマフラーを風に流し、青くなった身体で両腕を交差させる。

その名を、ジャンク・シンクロン。



白と橙の二色で彩られる機械の身体。小さな身体に背負ったウイングで風を切る機械人形。

手足を振り回しながら現れたそれの頭部には、スイッチらしきものが取り付けてある。

その名を、チェンジ・シンクロン。



「―――――ッ、いつの間にそんなモンスターたちを、墓地ヘ……!」

「手札抹殺……俺が墓地へ送ったのは、4体のモンスター……さあ、後は何が残ってるかな?」



カミューラが顔を顰める。

しかし、そんな顔をすぐに元の表情へ戻した彼女は、くすくすと咽喉を鳴らした。



「フフフ……そんな雑魚モンスターが幾ら並ぼうが、ワタシのサイバー・エンド・ドラゴンの前では何の意味もない」

「そいつはどうかな?

 あんたは前のターン、カース・オブ・ヴァンパイアを攻撃に参加させなかった……

 つまり、あんたのサイバー・エンドには、自軍のモンスターの攻撃を制限させる効果がある、って事だ」



Sin サイバー・エンド・ドラゴン。

その召喚のためには、フィールド魔法の存在と、エクストラデッキのサイバー・エンド・ドラゴンが必要となる。

だがこれはつまり、フィールド魔法さえあればどのタイミングでも簡単に出てくるのが、このモンスターの特性であると言えよう。

しかしその召喚条件の緩さに比べて圧倒的な能力には、デメリットの存在でブレーキがかけられていた。

それが、フィールド魔法が失われた時、破壊される事。Sinと名の付くモンスターは同時に二体以上フィールドに並べない事。

そして、バトルフェイズに自身以外の存在を参加不能にする事。



俺は予測などしたわけでもなく、それを知識として知っている。

故に、自信満々でそれを口にした。

何故ならば、オリジナルだとすればサイバー・エンドを除外せず、墓地に送っている筈だからだ。

その考えは的を射ていたらしく、カミューラは鼻を鳴らした。



「つまり、お前は1ターンに一度しか攻撃できない……

 ふっ、俺の予測が正しければ、そのサイバー・エンドからは貫通能力も失われている筈だ……

 カードを1枚セットし、ターンエンドッ!!」



キリッ、とそんな久しぶりにやった気がする格好つけ。

それを見たカミューラはまたも笑い、その言葉を簡単に肯定してみせた。



「ワタシのターン、ドロー! ……ええ、アナタの言う通り。全て正解よ」



しかし不敵。何かあるのかと、こちらが身構える事を強要するように。

それほどにあからさまだった。

だとすれば、相手もこっちに驚き、慌てふためく事を期待しているのだろう。

このデュエルを喜劇にでもしたいのだろうか。

いや、元から喜劇みたいなものなのだろう。相手にとっては、俺は闇の生贄にすぎないのだから。



「装備魔法、メテオ・ストライクを発動!

 このカードをSin サイバー・エンド・ドラゴンに装備する事で、貫通能力を与えるッ!!」

「……なるほどね。だが、その攻撃を簡単に通すとでも――――!」



瞬間、サイバー・エンドの頭の一つが口を開き、閃光を吐きだした。

その攻撃は全力に程遠い牽制であったか、一条のみで放たれたためにさしたる威力も持たぬ一撃。

だった、が。その閃光はホープの胸部を撃ち貫く。

白い身体に金の装飾。しかし翼を既に失っていたホープは、そのまま光の粒子となって消え失せた。



「フフフ……確か、あの光を失った希望皇ホープは攻撃対象となった時、自壊するのよねぇ?」

「―――――ああ」



自身を取り巻く光、オーバーレイユニットを全て使い果たしたホープは、攻撃対象とされた時、自壊する効果がある。

サイバー・エンドの攻撃対象となった時点で自壊し、そのまま戦闘が巻き戻され、サイバー・エンドは新たなる獲物を定め直す。

三つの首が顎を開き、定める相手の姿は、チェンジ・シンクロン。



「チェンジ・シンクロンの守備力は0! さあ、一撃でアナタのライフを抉り取ってさしあげるわ!!」

「不味い……! サイバー・エンドの攻撃が通れば、一発でエックスの負けだぞ!?」



俺のライフは無傷の4000。

しかし、攻撃力4000のサイバー・エンドから、ダイレクトアタックに等しい攻撃を受ければ結果は自明。

俺の身体は一撃で消し飛ぶ事になるだろう。

だが、そう易々とそんな必殺の攻撃を通して堪るものか。



「吹き飛びなさい、エターナル・エヴォリューション・バァアアアアアストッ!!!」



三つの口から同時に、三つの光が解き放たれる。

放たれた直後に混じり合う三条の光が束ねられ、極光と化して矮小な機械人形へと迫りくる。

即座に伏せリバースカードの使用を選択し、襲いかかってくるだろう衝撃に備える。

直後、極光がチェンジ・シンクロンの身体を呑み込み、半秒とせずに蒸発させた。



その、モンスター一体を呑み込んだ事による減衰もまるでなく、極光はままに俺に向かってくる。

攻撃力が守備表示モンスターの守備力を上回った時、超過した数値分のダメージを与える特性。

オリジナルのサイバー・エンド・ドラゴンの持つ特殊能力。

それを持たぬSinモンスターであるが故に、装備魔法で後付けされたものである。

しかし、その威力には何ら変わりない。

圧倒的攻撃力で守りを突き破り、薙ぎ払う白い極光。エターナル・エヴォリューション・バースト。



「エターナル・エヴォリューション・バースト、相手は死ぬ。

 なんて行くと思うなよ、トラップ発動! ガード・ブロックッ!!」



極光の中で、何かが爆裂した。

内部から吹き飛ばされた光の乱流が崩れ、拡散していく。

弾け飛んだ威力はそのまま城の壁や床を蹂躙し、被害を拡大させた。

床に敷き詰められたカーペットが炎上し、パチパチと音を立てる。

それを見たカミューラがニヤリと口許を歪めた。



「あら、躱せたのね。尤も―――」



下へと視線を送る。

十代たちの前に弾かれた閃光の雨が降り注いでおり、周囲が焼かれていた。



「アナタとオーディエンスの方々、どちらが先に避け損なうか愉しみねぇ?

 タァーン・エ・ン・ド」

「ひぃいいい……! こんなのに当たったら死んでしまうのにゃあ!?

 こ、このままここにいてもエックスくんの邪魔になるし、さっさとお暇させてもら……」



大徳寺先生が踵を返し、すぐさま出口へと向かおうとする。

しかし、暗闇に包まれた通路の中で、真紅の眼光は数十、あるいは幾百というほどに輝いた。

それはまさに吸血鬼の居城に相応しい蝙蝠の眼光であり、かつその蝙蝠はこの場に相応な吸血蝙蝠の類。

キシシシ、と何かが鳴くような、軋るような音を立てて光る通路を前に、大徳寺先生は止まった。



「あら、帰らないのかしら。

 申し訳ないけれど、その子たちは躾がなっていなくてね……帰る前にミイラにならないよう気をつけて帰るといいわ」

「ひぃいい!? ミイラは嫌なのにゃあああっ!」

「――――だが、確かに不味いぞ。翔を人質にカイザーを倒したあいつは、その気になれば見境なく……!」

「みんな」



時既に遅いだろう大徳寺の言葉はスルーし、三沢が言う。

俺はその言葉を遮り、自分が今出来る事をする。

デュエルをしている当事者である俺が声を出した事で、三沢も喋るのを止め、俺に注視した。

全員の視線が集まったのを見て、続ける。



「俺、悪いけどみんなを守るための戦いは無理だわ」

「「「「「「「「……………」」」」」」」」



それはまさしく見捨てた、と言っても過言でない。

いや、どう聞いても、むしろ自分可愛さに見捨てたセリフに相違ないだろう。

でも罵倒も叱責もこなかった。そういうものなのだろうか。

それともただの絶句だろうか。



「………当り前だ、キサマのデュエルの責任を押し付けるな。

 大体、デュエルは自分の為にやるものだ、勝手にしろ。ただし! 負けた時に言い訳は聞かんぞ!」

「全く……そんな事以前の問題よ」

「ああ、どうやらオレたちは自分の身も守れない奴だと思われているらしいな」

「先生は助けて欲しいのにゃぁ」

「大徳寺先生は黙ってて欲しいんだな」



サンダーが溜め息とともに吐き出し、明日香がこめかみに指を当てる怒ってますポーズ。

呆れるような三沢に、何となく挟んでくる大徳寺先生に、それを抑える隼人。

そして、



「エックスくん、今更だけど頼みがあるんだ」

「………」



翔が俺を見上げて、そう言ってくる。



「お兄さんを助けて。ボクじゃきっと出来なくて、今はキミにしか頼めないんだ」

「――――守ってくれ、じゃなくていいのか? まあ土下座して頼まれれば、守ってやる事も考えないでもない」

「そんな事いいよ。ボクは、お兄さんにもう守られてるんだ。もう絶対に、足を引っ張る事だけはしない」



なら、必要なのは頼む事なんかじゃない。

いつだったか、似て非なる事があったようななかったような。



「俺は信じたぜ。翔、十代」

「ああ! 今回はオレたちの番だろ? オレの知ってるエックスなら絶対負けない。

 今帰れば食堂貸し切りだぜ、ドローパンの奢りは明日になっちゃうけどな」

「俺のDPを使いきらせた事は絶対に許さない」



十代と翔と隼人と明日香と三沢と大徳寺とユニファーが眼を逸らす。

サンダーだけ仲間はずれである。

顔を顰めるサンダー。どうやら、疎外感を感じているらしい。

そうして、俺はカミューラに眼を戻す。



「……茶番は終わったかしら?」

「いや? 終わらないよ、ずっと。

 俺が生きている限り、ずっとこんな茶番が続くんだよ。それが、あんたが大嫌いな人間の、人の生き方だ」

「そう。目障りな事、この上ないわ」

「だろうな。俺も傍から見てればそう思うだろうよ。

 でもやっぱりずっとそんな事の繰り返しだ。終わりなんて無い、馬鹿みたいな日常の連鎖だよ。

 だから絶対の確信を持って言えるんだ。俺は幸せで、不幸のどん底なあんたの気持が分からない。

 あんたの絶望は他人事で、俺には絶対理解できない。俺の幸せもあんたの他人事で、理解できないだろ。

 だから、言うよ」



目を瞑り、すぅと息を吸う。

自分でも言ってる事が分からない。けど、それでも、それならばと。



「デュエルを続けよう。決着がつくまで」

「それで一体何が変わると? まさか、デュエルを通じて分かりあえるとでも?

 だとしたら、本当におめでたいわ………ワタシの憎しみを理解すれば、より距離が開くだけよ?」

「言っただろ、俺にはあんたが分からない。

 だけど、分かり合っていなくても、デュエルはできるんだ。同じ場所で、同じ目線で、同じ事を目指して――――

 今、たった一つだけ俺たちの心には共通点があるだろ? “この相手に勝つ、絶対に負けない”

 理解し合う事はできなくても、同じ志。抱いて行けるじゃないか。それで十分、あんたと俺は、デュエリスト同士だ」



ギリ、とカミューラが歯を食い縛る音がこちらまで聞こえた。

怒っているのだろう。人間からそんな事を言われて、そんな風に考えられて。



「――――フン、だとしてもワタシの勝ちは揺るがないッ!

 ヴァンパイア一族全てを背負ったワタシは、負けるわけにはいかないのだからッ!!」

「ああ、生憎俺は何も背負ってないよ。みんな下ろしたら、一緒に立ってくれたから」



カードを引き抜く。

大丈夫、もう何も怖くない。などと言うと、マミるかもしれないので自重しよう。



「それに、デュエルができるなら……デュエルでカードを交わし合えば、きっと少しだけ分かりあえると思う。

 いや、そうでなくてもこうしている間だけは、誰でも考えてるんだ。

 あいつは次どうするか、どんな戦術で攻めてくるか、どんなコンボで凌いでくるか………

 その人が抱えてる想いの重さなんて知れないけれど、それでも相手の心を見ようとしてる。

 だから、俺は―――――」



トクン、とまるで鼓動のような音が聞こえた。

その音は直下。俺が乗る、ホープ・トゥ・エントラストが放つ音。

まるで、パラドックスに会った時に垣間見たような、このDホイールが放つ何かの光。

それが何かは知らないけど、嫌な気分じゃなかった。



「俺は、チューニング・サポーターを召喚!」



金属の鍋のようなものを被った、機械の人形。

小さな身体は被りモノを頭として含めても三頭身程度、その頭をマフラーで隠す存在。

戦闘力ではまるでサイバー・エンドの相手にならないだろう。

しかし、その本領はその名の通り、チューニングにある。



「チューニング・サポーターの本来のレベルは1だが、シンクロ召喚の際にレベルを2として扱える!

 そして、レベル2のチューニング・サポーターと、レベル1のブースト・ウォリアーに、

 レベル3のジャンク・シンクロンをチューニングッ!!!」



ジャンク・シンクロンが腰のスターターを引き、背後のエンジンを始動させた。

輪郭が薄れ、ジャンク・シンクロンの身体が三つの光の星になる。

その三つの星は並び立つチューニング・サポーターとブースト・ウォリアーを取り囲んだ。

囲まれた二体の身体も解けていき、合計六つの星と化す。



「シンクロ召喚! 来いッ、ジャンク・ガードナーッ!!」



六つの星が成す光の道を潜り抜け、深緑の戦士が躍り出た。

両腕に盾を装備している、機械の戦士。

深緑の身体を守備表示を示す青色に変えて、サイバー・エンドの前に立ちはだかる。



「チューニング・サポーターをシンクロ素材にした事で、カードを1枚ドローッ!

 そして、ジャンク・ガードナーの効果発動ッ!! 1ターンに一度、相手モンスターの表示形式を変更するッ!!

 Sin サイバー・エンド・ドラゴンを守備表示に変更!!」



両腕の盾を組み合わせ、自身の姿を覆うほどの一枚のシールドにする。

その際に打ち付けられた盾同士が火花を散らし、衝撃を放った。

突風の如く襲いかかる衝撃がサイバー・エンドを打ち据え、その身体を跪かせる。

拒否しようとするサイバー・エンドの意思を破壊し、その身体を大地に抑え付けた。



「フン、だとしてもサイバー・エンドの守備力を突破するのは、そんなひ弱なモンスターでは無理ねぇ」



サイバー・エンドの守備力は2800。

対する俺の場のジャンク・ガードナーは攻撃力1400であり、残るデブリ・ドラゴンも1000しかもたない。

つまり、守備表示にしても破壊する事はできない。ただの時間稼ぎだ。



「その通り、ただの時間稼ぎにしかならない。ターンエンドだ」

「ワタシのターン! Sin サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃表示に変更ッ!!」

「この瞬間、ジャンク・ガードナーの効果を再び発動ッ! 1ターンに一度、相手モンスターの表示形式を変更する!!

 対象は勿論―――――ッ!!」



地面に縫われていたサイバー・エンドが首を持ち上げ、身体を起き上がらせた。

瞬間、再びジャンク・ガードナーが盾を打ち合わせ、火花と共に衝撃波を放つ。

起き上がったばかりの身体が、直後に床に押し付けられて沈み込む。

ギシギシと金属のボディが軋みを上げ、三つの首からそれぞれ憤怒の呻きを吐き出す機械龍。



「なるほど、相手ターンにも使えると言う事ね……フン、ならばこれでターンエンドよ」

「俺の、ターンッ!!」



カードを引いて、場を検める。

サイバー・エンド・ドラゴンもだが、何より厄介なのはフィールド魔法・不死の王国-ヘルヴァニア。

あれさえ破壊できれば自然Sin サイバー・エンドは破壊される。

だが、Sin サイバー・エンドを破壊してもヘルヴァニアを残せば、次のターンの切り返しで破壊効果を使われてしまう。



「なら、こいつだ! サイレント・ソードマン LV3を守備表示で召喚!!」



右目が隠れるような兜を被り、青いコートを着込んだ小さな戦士。

右腕一本で身の丈ある剣を一振りし、肩に乗せる。

それを見た万丈目サンダーが、微かに驚愕を滲ませた声色で呟いた。



「レベルアップモンスター……!」

「しかもあれは、伝説のデュエリスト・武藤遊戯が使っていると言われている幻のカード。

 サイレント・ソードマン LV0のリメイクモンスターだ……!」



丁寧に三沢が注釈を付けてくれる。

なるほど、こっちでの扱いは、LV0のリメイクと言う事か。

ならば、遊戯が所有しているLV0が、オリジナルのサイレント・ソードマンとして存在しているのだろう。

まあ、それは今はいい。



サイレント・ソードマンにはサイレント・マジシャンと同じく、成長し、魔法の効力を無効化する能力がある。

たとえヘルヴァニアに頼ろうと、成長したサイレント・マジシャンならば凌げる。



「ターンエンド……!」



僅かばかりの休戦。互いに相手を打ち崩すための、戦略の仕込み。

どちらが仕掛けるか。そんな事、決まっているだろう。だって、俺は……



「ワタシのターン、ドローッ! ――――カードを1枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターンッ! ドロォーッ!!」



あんたの事を知っている。何があって、どうしたのかを詳細知り尽くしているわけじゃない。

まるで視界がブレるように、その場面がちらつく。

吸血鬼の居城に攻め入る人間。迎え撃つ吸血鬼。阿鼻叫喚の地獄絵図。

そんな中で、子供の手を引いて走る女性。森の中に逃げ込む二人を追い詰めていく人間。

やがて、未成熟な子供を連れている事が原因か、追い詰められる二人。

その状況で胸に杭を立てて葬られる子供。女性の悲鳴。



俺に、一体何が分かる。分かりはしない。

けど、でも分かろうという努力を捨てるのは違う、と思えた。

結局、俺は一生をかけて臨んでも、彼女を理解できないだろう。それは絶対だ、間違いない。

でもそこで諦めてしまえば、きっと何も残らない。

俺か彼女か、どちらかが闇に喰われてお終いだ。



負ける気はない。だけど、そのまま倒して何が残るんだろう。

結局理解できずに消えていく一人のヴァンパイアを見送る、ただの人間。

しょうがない、そんなのどうしようもない。

十代だって、突き詰めてしまえばカミューラに勝っただけだ。理解してやる事はできなかった。

だから、俺もそうなる。



―――――『何故? あなたは遊城十代ではないでしょう』



そう、俺は十代じゃない。だから、どんな相手にも諦めずに勝利を目指す強さなんてない。



―――――『だったら、あなたがいる意味はない。ただ、邪魔なだけですね』



まったくだ。何で俺、こんなとこにいるんだろう。

こんなもの放置。いや、俺さえいなければずれずに予定調和だった事柄なのにな。

死んで侘びようにも状況を悪くするだけの悪手。どうしようもない。

でも、そう、だからこそ。

これだけ事態を悪化させた俺だからこそ、死力を尽くして戻さなければならない理由がある。

いや、でも欲を言うならば―――――



ホープ・トゥ・エントラストの鼓動は、徐々に速く音を奏でる。

規則性が出てきて、まるで心臓の鼓動のように思えた。



「サイレント・ソードマンの効果!

 スタンバイフェイズにフィールドのこのカードを生贄に、デッキからサイレント・ソードマン LV5を特殊召喚する!」



沈黙の剣士が時を経て、その身長を大きく伸ばす。

子供のような姿だった剣士は一気に大人になり、その剣もまた、今の身の丈に等しい規格になった。

青いコートの裾を渦巻く風でばたつかせ、右の腕一本で大剣を易々を振るう。

この姿となったサイレント・ソードマンは、相手の魔法マジック全てを受け付けない。

つまり、ヘルヴァニアの破壊効果すら、彼には傷一つつけられない。



だが、このカードが受け付けないのは、相手の魔法効果のみ。



「更に魔法マジックカード、破天荒な風を発動ッ!

 次の自分のスタンバイフェイズまで、モンスター一体の攻撃力と守備力を1000ポイントアップするッ!!」

「よし! サイレント・ソードマン LV5は自分の使う魔法の効果は受ける。

 これで、攻撃力が3300までアップし、サイバー・エンドの守備力を上回ったッ!」

「この効果は次の自分スタンバイフェイズまで有効。

 本来の攻撃力2300では攻撃力2500のカース・オブ・ヴァンパイアからの反撃を気をつけなければならないけど、

 それも封殺した」

「しかも、相手が攻撃力を増しても、ジャンク・ガードナーの表示形式変更があるんだな」

「そして何より、ヘルヴァニアの効果はサイレント・ソードマンに通用しない。

 相手の魔法マジックを防ぎ、自分の魔法マジックで活路を開く。とんだマジックコンボだぜ」



沈黙の剣士の周囲の風が凪ぐ。

一瞬の静寂を経て、噴き上がるように突風が吹き荒れた。

ばたばたと暴れるコートも構わず、剣士は自らの剣で風を薙ぎ払い、その暴風を剣に纏わせる。

荒れ狂う風の威力をその刀身に込め、サイレント・ソードマンは膝を折り、一気に身体を沈ませた。



「サイレント・ソードマンで、Sin サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃ッ!!」



沈黙の剣LV5。魔法を斬り裂く剣は、風の加護を纏い、そのレベルを更に飛躍させている。

金属の塊である機械龍の身体さえ、その閃きで易々と斬り捨てるだろう。

沈みこんでいた剣士の身体が躍動し、宙を舞う。

跳び上がると同時に大きく振り被った剣。

それを屈するサイバー・エンドに向けて振り下ろすべく、振り上げた剣の反動で頭を下に。

身体を反転させたままに辿り着く天井に足を着き、そのまま先程以上に身体を縮込めた。

バキン、と天井に亀裂を入れた瞬間。

上に来るためのそれとは比較にならぬ、爆発のような踏み切りで、眼下で寝そべる機械龍に向かって跳んだ。



突き出される身の丈ほどの大剣は、そのままサイバー・エンドを貫くように見えて。



トラップ発動! 妖かしの紅月レッドムーン!!」



二体のモンスターを遮る、真紅の満月に阻まれた。

満月に対して突き立てられる沈黙の剣。その勢いを全て止められ、サイレント・ソードマンの突進力は尽きた。

微かに顔を歪め、沈黙の剣士は満月を蹴り飛ばし、その勢いで剣を引き抜いて俺の許に帰還する。



「フフフ……手札のアンデットモンスター、ヴァンパイア・ロードをコストとして墓地に送り、効果を発動。

 相手モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分のライフを得る!」



真紅の満月が音もなく、その形態を液体に変え、カミューラに降り注いだ。

血の雨、血の滝のような情景に呑み込まれ、ほんの数秒だったが、彼女の姿が見えなくなる。

再び姿を現した時、そのライフカウンターは4250という数値を差していた。

950のライフは、3300の回復を得て元の数値をも超えるライフを叩きだしたのだ。



今使用されたのは俺がスターライト・ロードを使用した直後に伏せたカード。

ホープや、スターダストの攻撃に使わなかった理由は、ホープの効果で攻撃が無効にされた場合、不発にされるからか……

こちらのモンスターの特性を読み、見切ってくる。



「ああっ、止められちゃった……!」

「もうちょっとだったのに、惜しかったんだな……」

「――――破天荒な風の効果と、ジャンク・ガードナーで、次のターンの反撃は封じてる。

 でも、次のターン何とかしなければ……」



手札のカードを1枚引き抜き、セットする。



「カードを1枚セットしてターンエンド」

「ワタシのターンッ、ドロー!」



カミューラがドローしたカードを確認して、手札に加える。

その後にフィールドを見る。



攻撃力は未だ3300のサイレント・ソードマン。

そして、守備力2600のジャンク・ガードナーと、守備力2000のデブリ・ドラゴン。

ジャンク・ガードナーはともかく、デブリ・ドラゴンならば易々と破壊できるだろう。

だが、Sin サイバー・エンドには自身以外の攻撃を封印するデメリット効果が備わっている。

攻撃力2500を持っているものの、カース・オブ・ヴァンパイアが戦闘に参加できないわけがそこにある。

もし、相手が攻撃をするためサイバー・エンドの表示形式を変更すれば、そのタイミングでジャンク・ガードナーの効果。

再び守備表示に戻ってもらう。



もし、それを打開するためにヘルヴァニアの効果が発動したとしてもだ。

サイレント・ソードマンだけは破壊されずにフィールドに残り、効果破壊されたヴァンパイアは帰還する事が出来ない。

次のターン、そのガラ空きのフィールドに、サイレント・ソードマンが斬り込む。

ダイレクトアタックを成功させた沈黙の剣士は、そのレベルを7に上げ、魔法の完全無効効果を発揮する。

俺にもデメリットが大いにある事は確かだが、この状況ならばそれでも十分俺の有利。



だからこそ、少なくとも彼女はこのフィールドで出来る事はない。



「………ターンエンド」

「俺のターン、ドロォッ!!」



そしてそのドローにより手札は2枚。

先程の膠着は俺が先に動き、彼女はそれを凌いだ。だが、ここからは更なる光速の攻めだ。



「行くぞッ! 魔法マジックカード、シンクロキャンセル!

 シンクロモンスターをデッキに戻し、そのシンクロ素材としたモンスター一組を特殊召喚するッ!

 舞い戻れ、ジャンク・シンクロン! ブースト・ウォリアー! チューニング・サポーターッ!」



橙色の鎧を纏った、エンジンを背負った機械戦士。

背部にブースターを四本生やした、濃紺の鎧の戦士。

そして、鍋のような被りモノをした小さな機械の人形。

盾の戦士が消えて、その召喚に貢献した三体のモンスターが俺のフィールドに舞い戻る。

そして、ブースト・ウォリアーの効果により沈黙の剣士の攻撃力がブーストされる。

しかし、それでも2600。

サイバー・エンドを倒すには及ばない。



「フン。で、それがどうかしたのかしらぁ?」

「これからどうかするんだよ! 手札から更に速攻魔法、スター・チェンジャーを発動!

 フィールドのモンスター一体のレベルを1つ、上げるか下げる事ができる!

 俺はレベル1のブースト・ウォリアーのレベルを2に変更する!

 そして、チューニング・サポーターはシンクロ素材となる時、レベル2として扱える!

 レベル2のブースト・ウォリアーとチューニング・サポーターの二体に、

 レベル4のデブリ・ドラゴンをチューニング!!」



デブリ・ドラゴンが両翼を大きく広げ、高らかに吼える。

翼の先から身体の中心に向けて徐々に光と化していくデブリ・ドラゴン。

その身体が全身を光へと変えた瞬間、ぱんと四つの星となって弾けた。

四つの星が円環を描き、リング状の光となる。



その中へと飛び込んでいく二体のモンスター。

ブースト・ウォリアーとチューニング・サポーターの身体も同じように光と化し、それぞれ二つ。

四つの星となって弾け飛んだ。

合計のレベルは8。つまり、



「さっきのドラゴンッ!?」

「ああ、そうだよ。翔けろッ! スターダスト・ドラゴンッ!!」



風が啼くような雄叫びが、城の中で反響する。

星屑を翼からこぼしながら、白銀の星屑龍は再びフィールドに降臨した。

だが、それでもまだ終わりじゃない。



「チューニング・サポーターの効果により、カードを1枚ドローするッ!

 更に、墓地のレベル・スティーラーの効果を発動!

 俺の場のレベル5以上のモンスター一体のレベルを一つ下げ、特殊召喚する事ができる!

 俺はサイレント・ソードマン LV5をレベル4にして、レベル・スティーラーを特殊召喚ッ!!」



俺の足許に穴が開き、その中から光とともにテントウムシが現れた。

そのテントウはサイレント・ソードマンの背中に体当たりして、そのまますり抜ける。

ふ、と背中の甲殻に大きな一つ星が浮かび上がり、沈黙の剣士の格が一つ、下がった。



「なに……? そんなモンスター……!」

「だから、手札抹殺で送ったっていっただろう? あと、一体さ」



ギリ、とカミューラが歯を食い縛り、こちらを睨む。



「更にトラップカード発動、レベル・リチューナーッ!!

 フィールドのモンスター一体のレベルを、最大二つまで下げる事ができる!

 俺は、ジャンク・シンクロンのレベルを3から1までダウンさせ、更なるシンクロ召喚に繋げる――――!」

「連続シンクロ召喚!」

「サイレント・ソードマンはレベル4となり、他の二体はレベル1。

 レベル6のモンスター……また、ジャンク・ガードナーを召喚する気か……?」



ジャンク・シンクロンの体内から二つの光が吐き出され、砕け散る。

その状態でその調律の戦士は、腰に取り付けられたスターターに手をかけた。

ぐい、と引っ張られるとそれに連動して背中のエンジンが始動し、ジャンク・シンクロンの身体が不安定に揺れ始めた。

光となって解けていくジャンク・シンクロンの身体が生み出す光は一つ。

そしてそれを追うように、レベル・スティーラーが飛び上がった。



「レベル1! レベル・スティーラーに、レベル1となったジャンク・シンクロンをチューニングッ!!」

「レベル2のシンクロモンスター……!」



その宣言を聞き、光のリングとなったジャンク・シンクロンの許へ飛ぶレベル・スティーラーを見る。

そして、ユニファーが顔を曇らせた。



「………ジャンク・ガードナーとサイレント・ソードマン、二体の布陣で相手の攻撃と魔法マジックの牽制。

 それでもっと時間は稼げた筈。何故、わざわざレベルの低いモンスターを……?」



それが格付けである以上、自然レベルが高いモンスターは高いステータスと、強力な効果を持つ事となる。

ならば、ジャンク・ガードナーを召喚せずにレベル2のモンスターを召喚する事とした理由は。

言うまでもないだろう。それこそが光速の進軍の布石。



「そして! 二体のモンスターが織り成す光の道へ続け、スターダスト・ドラゴン!!」



翼を広げた龍が吼える。

空高く舞い上がった光のリングを、レベル・スティーラーが通った瞬間、その翼を羽搏かせ、星屑龍は飛翔した。

ごうと吹き荒れる竜巻のような突風を翼で切り裂き、天井で溢れる光へ向かう。



「!? まさか、レベル10のモンスターのシンクロ召喚っ!?」

「いや、だが……もう、上で新しいモンスターが……」



ジャンク・シンクロンとレベル・スティーラー。

二体のモンスターが交わった光から、スターダストの到着を待つまでもなく、一体のモンスターが現出していた。

レーシングカーのようなボディに、タイヤから両腕を生やし、車体の下に下半身すら持っているモンスター。

さして戦闘力が高そうには見えず、また実際そうなのだろう。

だがその眼光は、眼下に立つカミューラに照らし合わせられている。



「………!」



瞬間、そのモンスターがカミューラに向けて跳びかかる。

そして一歩遅れてその背後につくスターダスト・ドラゴンが雄叫びを上げた。



「フン、そんなモンスターで何がしたいのかは知らないけれど……

 ワタシの場にはまだ、サイバー・エンドも、ヴァンパイアもいるのよ?」

「ああ、だからこそそれを――――超えるッ! 光さえも追い越してッ!!!」



カミューラへ向けて加速する身体が風に溶け、薄れていく。

バラバラに散らばっていくような、光が風の中に撹拌され、後に続く龍に光を纏わせた。

風の中に溶けた光まるで鎧のようにを纏わせて、龍の速度は光速へと達する。

目前まで迫り来た龍に対してカミューラが身構えた瞬間、ふっ、と。



暴風と化していたそれは忽然と姿を消した。



「なに……!?」

「光を越えるその翼で、闇の帳を切り裂けッ! シューティング・スター・ドラゴンッ!!」



戸惑うカミューラを見据え、俺が言い放った瞬間。

俺の背後の空間を貫き、その龍は姿を現した。



白銀はよりホワイトに近しい色に。

スマートな体躯はそのまま、不自然な肥大化などはない、しかしより強靭なフォルムに。

頭部は、頭の先から胴までマスクで覆い隠したかのようなデザイン。

まるでブレードのように研ぎ澄まされた翼を広げ、それは俺の目前に舞い降りる。



「―――――すっげぇ……!」



黄金の双眸を輝かせ、翼を一度羽搏かせる。

闇夜そのものの城の中で、一点だけ光を零す流星の存在が、あるいは紅い月さえも凌駕する。



「いや、だが……エックスは、あの二体でシンクロモンスターを召喚したんじゃ……

 スターダスト・ドラゴンも合わせて、レベル10を召喚していたのか……?

 だったら、あの車のようなモンスターは……」

「いい質問だ、ミッチー」



いや、ミッチーじゃない。と三沢が言う。

俺は墓地に送る筈の二体、スターダストと、フォーミュラ・シンクロンのカードを見せる。



「俺がレベル・スティーラーとジャンク・シンクロンのシンクロで召喚したのは、

 レベル2のシンクロチューナーモンスター、フォーミュラ・シンクロン。

 そして、更なるシンクロ召喚。シンクロモンスターと、シンクロチューナーによって発動されるシンクロ召喚。

 アクセルシンクロ召喚によって召喚したのが、この――――」

「シューティング・スター・ドラゴンというわけぇ?

 フン、でもそんな大仰に出て来たところで、ワタシの場のサイバー・エンドとカース・オブ・ヴァンパイアを破壊出来るのかしら?

 例え出来たとして――――」



デッキのトップに手をかけて、カードを1枚ドローする。

顔を顰めるカミューラへと視線を送り、俺は不敵に笑ってみせる。



「逸るなよ。フォーミュラ・シンクロンのシンクロ召喚成功時、俺はカードを1枚ドロー出来るのさ。

 そして、シューティング・スター・ドラゴンの効果は、デッキの上からカードを5枚確認し、

 その中のチューナーモンスターの数だけ、このターン攻撃をする事ができる!!」

「シューティング・スター・ドラゴンの効果は連続攻撃なのか!」

「ちぃっ、でもそう易々と連続攻撃が決まるわけが……!」



チューニング・サポーターが齎してくれたカードを引き抜き、ディスクに差しこむ。



「だが、可能性を引き上げる事は出来る! 魔法マジックカード、貪欲な壺を発動!!

 墓地のモンスター五体。

 スターダスト・ドラゴン、フォーミュラ・シンクロン、チェンジ・シンクロン、ジャンク・シンクロン、デブリ・ドラゴン。

 この五体をデッキに戻してシャッフルし、その後、2枚のカードをドローする!」



これで、デッキに三体のチューナーを戻しての効果発動。

これならば十分、複数回の攻撃効果が狙える。

デッキトップに手をかけて、目を瞑り、大きく一度息を吐く。

直後に見開いた眼でデッキを見据え、その効果の発動を宣言した。



「シューティング・スター・ドラゴンの効果を発動ッ!

 デッキの上から5枚のカードを確認し、その中のチューナーの数だけ、攻撃をすることができる!!

 1枚目、ターボ・シンクロン! 2枚目、破壊竜ガンドラ! 3枚目、封印の黄金櫃!

 4枚目、ダブル・アップ・チャンス! ――――5枚目、デブリ・ドラゴンッ!!

 合計二回の攻撃権利を獲得ッ!!」

「よし、シューティング・スターの攻撃力は3300!

 守備表示のサイバー・エンド・ドラゴンならば破壊する事ができる!

 それに、攻撃力の下がったサイレント・ソードマンでは倒せないカース・オブ・ヴァンパイアも……!」

「そしてガラ空きのカミューラに、サイレント・ソードマンでダイレクトアタックが決まれば、勝敗は決する」

「え? でも、サイレント・ソードマンの攻撃力だけじゃ足りないよ?」



万丈目が自信満々に言い放った勝敗の決着について、翔が疑問の声を上げた。

その言葉に対してやれやれ、と言った風情で指を立て、説明を開始しようとするサンダー。

しかし、それに割り込んで明日香が説明を始める。



「サイレント・ソードマン LV5のレベルアップ条件はダイレクトアタックの成功。

 それをクリアすれば、次の自分のターンにLV7となり、全ての魔法マジックカードを封印する……」

「でも、その前にカミューラのターンで復活したカース・オブ・ヴァンパイアにやられちゃうんだな」



レベルアップモンスターの使い手としてか、それを説明しようと思っていたサンダーの口がぱくぱく。

そこで、明日香の説明に疑問を持った隼人が質問を更に増やす。

それならば注釈しようと再び口を開こうとして、



「それでは、次のターンに再びシューティング・スター・ドラゴンの攻撃を攻撃表示で受けなければならないのにゃ。

 カース・オブ・ヴァンパイアをシューティング・スターに破壊されれば、彼女のライフは3450。

 そこで復活効果のライフコストを支払えば、2950となり、サイレント・ソードマンのダイレクトアタックで650。

 次のターン、攻撃表示のカース・オブ・ヴァンパイアがシューティング・スターに破壊されれば800のダメージを受け、敗北」



再び、今度は大徳寺先生に邪魔をされる。

そっか、と納得した翔と隼人の背後でぐぬぬと唸るサンダー。

しかし、それではまだもう一つ予測不足だ。



「シューティング・スター・ドラゴンのレベルを1つ下げる事で、墓地のレベル・スティーラーを攻撃表示で召喚ッ!」



シューティング・スターの胴体から、赤い甲殻のテントウムシが染み出すように現れた。

レベル10であったシューティング・スターのレベルが9へと減じ、その代わりにそのレベルを食べた昆虫の召喚。

レベル・スティーラーの攻撃力は600。

攻撃に参加させてもライフを削り切る事はできずに、50ポイント残す事になるだろう。

だが、残りライフが僅か50に達するなどとは、どれほどに心労をかける事になるか分かったものではない。



「さあ、行くぜ! 撃ち砕け、シューティング・スター・ドラゴンッ!!

 Sin サイバー・エンド・ドラゴンと、カース・オブ・ヴァンパイアに攻撃!

 スターダスト・ミラージュッ!!!」



シューティング・スターが脚部と腕部を格納し、首をまっすぐ伸ばす。

水平に広げられた翼はまるで戦闘機のよう。

カミューラの頭上までその形態で飛行し、その身体はデッキのチューナー、未来の力を得て、本領を発揮する。

赤と白、纏う光の色が違う二つの身体に分身して、流星は闇を切り裂き、舞う。



地面に押し付けられているサイバー・エンドに一体何ができようと言うのか。

精々牽制に吼える事だろうが、光速に達する流星の速度には、そのまま音速で広がる咆哮では届かない。

サイバー・エンドが啼いた事実すら置き去りにして、白い光を纏った流星が機械龍の装甲を貫いた。

ベキベキと拉げて飛散する金属片の中、白い光は速度も落とさずに奔り抜ける。



対するヴァンパイアは抵抗するべく、血の魔力で磨がれた五指の爪を構える。

闇色の蝙蝠の翼を広げ、真逆の翼の侵攻へと神経を研ぎ澄ませ――――

瞬間、胴体が半ばから千切れ飛んでいた。

間違いなく全身全霊での対応は、反応する間も与えられる事なく摘まれた。

赤い光の流星は、真っ二つになり吹き飛んだヴァンパイアの眼から真紅の光が消えるのを認めると、飛び去る。



その攻撃力は何らかの特殊能力からくるものではなく、ましてボディの硬さからくるものでもない。

ただ単純に、ひたすらに、速いが故の物理的な破壊力。

止めようもない速度での全力の体当たり。速さで真正面から粉砕する至高の攻撃。

それこそが、シューティング・スター・ドラゴンの持つ、最大最強の一撃であり、連撃。

スターダスト・ミラージュ。



「く、ぅぐぅ……!!」



背後で爆発する機械龍の残骸と、砕け散るヴァンパイアに挟まれて、衝撃に揉まれるカミューラ。

そのライフは攻撃表示であったカース・オブ・ヴァンパイアをシューティング・スターの攻撃力が上回っただけ、

削り、抉り取られていく。カウントは3450。

そして、更にカース・オブ・ヴァンパイアに血を分け与えるのであれば、更に500。



「チィ……カース・オブ・ヴァンパイアの効果は使用しないわ……!」

「―――――! なら、斬り込め! サイレント・ソードマン LV5の追撃ッ!!」



バラバラに、灰と化して散るヴァンパイアの死骸。

そのどす黒い灰を掻き分けて、片手に大剣を携える剣士が跳んだ。

兜に覆われ、視界が半減しているとは思えぬ正確な侵攻。

ガラ空きとなっているカミューラのフィールドを踏み越え、目指すのはプレイヤー自身。



目前まで迫った沈黙の剣士を見据え、彼女はしかし不敵に嗤った。

振り抜かれる刃が、カミューラの身体を袈裟に叩き斬る寸前。



トラップ発動ッ! リビングデッドの呼び声ぇッ!!

 復活するモンスターは勿論、カース・オブ・ヴァンパイアッ!!!」



起き上がる伏せリバースカードが、そのイラストを露わにする。

墓地から蘇る魂が描かれたソリッドヴィジョンの内から、噴き上がる瘴気の渦。

微かに戸惑った沈黙の剣士の足が一拍止まり、また剣も止まる。その瞬間、凶刃が奔った。



瘴気の内から突き出される鋭利な爪。

それは一瞬のみであれ、動きを止めた剣士の心臓を狙い澄ました必死の一撃。

躱す間も、防御する間も与えられずに、その刃は剣士の胸を目掛けて突き出され、

突き出した腕、そして蘇った肉体諸共に、それの鋭さを圧倒的に凌駕する、沈黙の剣に両断されていた。

葬られた筈のカース・オブ・ヴァンパイアは至極あっさりと、再び沈黙の剣によって葬られたのだ。

剣撃の威力をヴァンパイアの肉体に叩き込み、勢力を消化した剣士は、侵攻を止めて、俺の許へ退く。



リビングデッドの呼び声は、墓地のモンスターを攻撃表示で特殊召喚するトラップ

だが、己の持つ不死の効果の範囲外で蘇った吸血鬼の攻撃力は、魔力の増大がなく2000のまま。

攻撃力2300を誇る沈黙の剣士の一撃を耐える事はできない。

超過したダメージは300ポイント。更にライフカウンターの減少は進み、3150。



しかし、それを見てなおカミューラは表情を崩さず、むしろ嗤いの色を濃くしていく。



「カース・オブ・ヴァンパイアの効果を発動ッ! ライフコスト500を支払い、不死の能力を発動するッ!!」



頭頂部から股にかけ、真っ二つに斬り裂かれていた身体が崩れ、黒い血溜まりと化す。

その裡から牙を持ったドロドロの頭部のみが生え、カミューラの首へとその牙を突き立てる。

ライフカウンターは2650まで減少し、黒い血はその場で再び崩れ去った。



「うまく凌がれた……! ダイレクトアタックを阻止し、かつライフダメージの最小限化……

 その上、次のターンに確りとカース・オブ・ヴァンパイアの温存までされてしまった……!」

「………だけど、それだけであのモンスターを倒す事はできない。

 このままならば、次のターンでエックスの勝ち……!」

「まだだッ! レベル・スティーラーで、追撃のダイレクトアタック!」



テントウムシが飛び上がり、その身体のままカミューラに向け、突撃した。

カミューラはそれを微動だにせずに真正面から受け止め、片手で弾き返して見せる。

レベル・スティーラーが俺の場に戻ると同時、カミューラのライフは2050まで下がる。



「……俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド」

「ワタシのターン、ドロー!

 このスタンバイフェイズで、我が血の魔力を得たカース・オブ・ヴァンパイアは復活!!」



カミューラの足許で暗黒が凝り、人型を織り成していく。

広げられた蝙蝠の翼を折り畳んでマントとして纏い、不死の怪物は真紅の双眸を輝かせた。

その攻撃力は先程のように、2500に届いている。



「更に魔法マジックカード、強欲な壺を発動し、カードを2枚ドロー。

 ………フフフ、例えどれだけのモンスターが並ぼうと、ワタシの優位は揺るがない―――!

 Sin サイバー・エンド・ドラゴンが破壊されたのならば、最早発動を躊躇う理由もないのよぉ?

 フィールド魔法、不死の王国-ヘルヴァニアの効果を発動ッ!!

 手札のヴァンパイア・バッツをコストとして墓地へ送り、フィールドの全モンスターを破壊する!!!」



手札から選ばれたカードが墓地に送られた瞬間、城の壁の至る所から瘴気が滲み出てくる。

途端、重圧を増して、俺たちの存在をも圧し潰すかのように、この異形の住処はその本領を発揮した。

それはフィールド全てのモンスターに剥かれる牙。

しかし、これを逃れる事を可能にする者こそ、俺のフィールドに存在するサイレント・ソードマン LV5。

だが、それ以上に今、俺の場にはシューティング・スター・ドラゴンがいる。

だからこそ魔法マジックカードに破壊されぬサイレント・ソードマンがいるこの状況で、奴はこのカードの効果を発動した。



「確かにサイレント・ソードマンは破壊されないが、カミューラはアンデット使い……!

 墓地のモンスターが当然のように蘇ってくるぞ!」

「この状況で切り出してくると言う事は……奴め、手札にモンスターを特殊召喚するカードを温存してたのか……!」

「そう! さあ、見せてあげるわ……不死の吸血鬼たちの侵略を!」

「―――――そいつはどうかな?」



俺は手を振るい、真横に控えているシューティング・スターへと手を向ける。

輝きを増す黄金の眼光は、正しく星の様。



「なに……!」

「シューティング・スターの効果は、連続攻撃だけじゃあない。

 1ターンに一度、カードを破壊する効果を無効にし、破壊する事ができる――――!!」

「何ですって……ッ!?」



四肢に力を込めた流星龍が、その翼を大きく撓らせて、再び全開に広げた。

吹き荒れる烈風が周囲に充満していた瘴気を凪ぎ、その汚染を妨げる。

全てのモンスターを破壊する効果が発動したとしても、それはこのシューティング・スターの前には通用しない。

巻き起こした風は瘴気を払うだけでは収まらず、城の壁も、廊下も、天井も剥がし取っていく。

フィールド魔法の効果によりメイキングされていた城の、本来の姿が露わにされる。



ボロボロの城の、大広間。

その中央階段の上に立っているカミューラは、その光景に茫然としていた。

反撃の切り札を破壊されたショックか、はたまた別の原因か。

ゆっくりと顔を俯けていくカミューラを見て、万丈目は言う。



「戦意喪失、これで決まったな……」

「ああ、これでカイザーとクロノス先生も――――」

「そうだ、お兄さんは……」



翔の視線がカミューラの近くを彷徨い、床に投げ出されていた人形を見つけ出した。

ほっと胸を撫で下ろす翔。

それを見た隼人も同じく安心したかのように大きく息を吐き、明日香もまた、安堵する。



「よかったんだな、翔」

「よかった……これでもう、二人のように人形にされるデュエリストはいなくなるのね」

「―――――ねぇ、明日香。その、カイザー亮は何故彼女に負けたのかしら……

 言っては悪いけど、カイザーが負けるほどのデュエリストには――――」

「気をつけろエックス! そいつ、まだだッ!!」



ユニファーの言葉が気にかかり、そちらに目を向けた瞬間、十代の叫び声が聞こえた。

『ソノ効果ハ、1ターンに一度キリ―――二枚目以降ノ破壊効果ハ防ゲン!!!』

――――フラッシュバックするトラウマ。

即座にカミューラへと眼を戻し、その姿を見る。



俯いたままに、小刻みに揺れている肩。

突然と上げられた顔は、頬が裂けんばかりに口を歪め、牙を剥いた吸血鬼の顔。

スローモーションに見えるほど、ゆっくりと手札から引き抜かれるカード。

俺が僅かに捉えたそのカードの色は、魔法マジックの色。

つまりは、



「し、まッ………!!」

魔法マジックカード、幻魔の扉を発動―――――ッ!!!

 相手フィールドのモンスター全てを破壊した後、このデュエルで使用されたモンスター一体を、

 あらゆる条件を無視して、お互いのデッキ・手札・墓地から特殊召喚するッ!!!」



カミューラの背後に青銅の扉がせり上がってくる。

先程のヘルヴァニアの放つ瘴気などとは比べ物にならない、圧倒的な邪気。

全てを侵し、害する魔の胎動。

ギギギ、と呻きを上げながら開いて行く絶望の扉の中が、垣間見える。



マグマの如く紅き魔龍、くすんだ黄金の魔獣、黒々と濁った蒼の悪魔。

否、俺にはその正体など分かっている。

神炎皇ウリア、降雷皇ハモン、幻魔皇ラビエル。合わせて三幻魔と呼ばれる、三柱の悪魔たち。

龍の咆哮、魔獣の嘶き、悪魔の哄笑。

こちらの魂を侵す、幻魔の侵攻が波動となってフィールドを侵食していく。



破壊を無効にする星の輝きは、1ターンに一度に限定された効果。

それを越える破壊の渦は、最早シューティング・スターとはいえ止められない。

その波動に耐え切れるのは、魔力を拡散させる術を持つ、沈黙の剣士ただ一人。

シューティング・スターの白い身体が闇に侵され、黒く染まり、崩れ落ちていく。

響く断末魔は数秒で途切れ、その姿を消滅させた。



「ぐっ……! シューティング・スター・ドラゴン……!」

「あの男の言った通りのようね、幻魔の扉に対するアナタの切り札の正体は――――!

 その力は1ターンに一度の、破壊無効効果!」

「――――――な、」



おかしい。

シューティング・スター・ドラゴンの効果が、1ターンに一度の破壊無効効果……?

違うだろう。さっき言ってたじゃないか。サイレント・ソードマン LV0、と。

ならば、そこで出てくるべき効果は、回数制限のない破壊無効効果の筈だ。

遊星のオリジナル、あるいはZ‐ONEのコピーは、OCGと違い、破壊無効効果の回数制限など持っていない―――!

――――俺がシューティング・スターを召喚したのは、二度。

遊戯と、カード魔神を相手取った時。

そのどちらかを見ていた? ならば、おかしいと感じなかったのか。その、効果の違いを……!!











「どういうことだ、モクバ。分かるように説明しろ」

『だから、大変なんだってば兄サマ!

 海馬コーポレーションのデュエル・リング・サーバーに未知のカードデータが突然出てきて、

 しかもそれが勝手に入力された上、正規のカードとして認識されちゃってるんだ!!』

「バカな……! あれのデータ入力は、海馬コーポレーションと、インダストリアルイリュージョン社以外のモノには出来ん筈だ。

 まして、外部からのアクセスなどではない」



ペガサスの邸宅に乗り込み、2枚のカードを受け取った直後。

海馬コーポレーションのアメリカ支部に戻るべく、ブルーアイズ・ホワイト・ジェットに乗り込んだ時の事。

会社に残してきたモクバからの通信が複数入っていた事を見つけ、発進する前にその通信を繋ぐと、モクバは大声でそんな事を言った。

世界中の全デュエルディスクにデータを送信する都合上、デュエル・リング・サーバーは確かに外部からアクセスできる。

無論、デュエルディスクに限った話であり、それを通信端末から行い、なおかつ中のデータを改竄する事など不可能極まる。

だがしかし、モクバの話ではそれがやってのけられた、と言う事だった。



『とにかく、勝手に増えたデータを送るよ。この、白いモンスターカードなんだけど……!』

「――――白い、モンスターカード、だと……!?」



通信装置の画面の端に、そのカードデータのコピーが送信されてくる。

送られてきた画像が少しずつ表示され、そのカードのイラストが露わになる。

白いカード枠。カードテキストに記された、チューナー、そしてシンクロの文字。

スターダスト・ドラゴン、あるいはフォーミュラ・シンクロン、あるいはニトロ・ウォリアー、あるいはセイヴァー・スター・ドラゴン。

そしてあるいは、シューティング・スター・ドラゴン。



「どういう事だ………? モクバ、これはいつ出現した」

『いつって……つい10分くらい前だよ。送信元のデュエルディスクは、反応がどっかに消えちゃったけど』

「デュエルディスク? このカードデータは、デュエルディスクから送られてきたのか?」

『うん……いや、でも、よく分からないんだ。

 何と言うか、順番が逆になったみたいで………

 デュエルで使ってデュエルディスクが認識したデータを、サーバーが登録しちゃったって言うか……』



デュエルディスクは本来、サーバーに登録されたデータを投影する、ソリッドヴィジョン生成装置付きデュエルツールにすぎない。

そんなものから、サーバーのデータの書き換えが行えるわけがないのだ。

どういう事だ、と海馬瀬人は自身の足許のアタッシュケースに眼を向けた。



『まるで、未来のサーバーからデータをコピーしちゃったみたいな……』

「なんだと……?」

『いや、サーバーとの通信履歴を確認したらそのデュエルディスク、まだ造られてない筈のものなんだ……

 デュエルディスクのデータ通信基盤に登録されてる製造番号が、ありえない番号で、製造年月日が数年後で……』

「――――モクバ、そのデュエルディスクがデュエルしていた場所を特定できるか?」

『あ、うん。それはすんでるんだ。その、遊戯ン家なんだけど……』



モクバの言葉にフン、と鼻を鳴らして黙考する。

過去の象徴であるもう一人の遊戯の前に、未来からのカードが現れる。

対照となる存在が故に際立つ。



「ふぅん、まぁいい。オレの築き上げた海馬コーポレーションのデュエル・リング・サーバーに細工をした事は確かなのだ。

 例え何が目的であろうと、オレのものに手を出した事を後悔させてやるまで」

『じゃあ、やっぱり兄サマは日本へ?』

「いや、先にそちらへ戻る。――――少々、気にかかる事もあるからな」



モクバにそう言い、通信を切る。

―――ペガサス・J・クロフォードの語る……いや、騙る破滅の光などという与太話。

氷結界の龍というモンスターのカードを手に取った時に垣間見たヴィジョン。

その風景の中に、この……シューティング・スター・ドラゴンという名のカードがあったように思う。

それだけではない。



モクバが送信してきたカードの情報を見て、その中の1枚の拡大して表示する。

矢張り見た事のないこの、E・HEROエレメンタルヒーロー ネオス。

このカードもあった筈だ。そして、自分のよく知る、ブラック・マジシャンのカードも。

そして、四人。いや、五人のデュエリスト。

電波の悪いテレビのように、ノイズ塗れの映像を一瞬だけ見ただけだったからか、詳細は分からない。



だが、一人のデュエリストを相手に、四人のデュエリストが闘っていた様子に見えた。

いや、四人ではなく三人であったか? まるで、ノイズでダブって見えていただけで、三人だったかもしれない。

ハッキリしない自分の脳に微かに舌打ちすると、コメカミを抑え、眼を瞑る。



「――――チッ、気にしても何も変わらんか」



ならば、それでいい。

例え何があろうとも、海馬瀬人という人間は、己が力で立ちはだかる壁を粉砕して進む男だ。

仮に破滅の光とやらが実在し、牙を剥いてくるならばそれでよし。

そんなオカルト現象など、自らの手で爆砕して踏み躙ってこそ、海馬瀬人である。

ブルーアイズ・ホワイト・ジェットを起動させ、レバーに手をかける。



「ふぅん……例え何が来ようとも、我が青眼ブルーアイズが木端微塵に粉砕してくれるわァッ!!!

 フフフ、ワァアーハハハハハハハハッ!!! ァーッハッハッハッハッハッハッ!!!!」



高らかに宣言し、ジェットを離陸させ、その飛行能力を全開にする。

一気に加速して海馬コーポレーションへと向かうジェット機。











『そう、彼が扱うシューティング・スター・ドラゴンには本来あるべき能力が喪失しているのです』



無限に広がる白の平行線。

気が狂うほどに白いその世界で、Z-ONEはパラドックスに向け、そう呟いた。

パラドックスはその言葉を何も言わずに聞いている。

Z-ONEはそのまま言葉を続けた。



『アクセルシンクロモンスターに共通する、光速で次元を越える事で行う除外効果。

 そして、シューティング・スターの能力。

 赤き竜の化身、スターダスト・ドラゴンの能力をより強化した無制限の破壊無効効果。

 これは恐らく、どちらも使い手が揺るぎなき境地クリアマインドに到達し得た事により、会得した能力』

「つまり彼は、クリアマインドに到っていない、と?」

『ええ。それ故に彼のシューティング・スター・ドラゴンは未成熟な状態で生来されている』



白い世界の中に、エックスが二度召喚したシューティング・スターの姿が映し出される。

ともに、アクセルシンクロの宣言とともに生来されているが、あれはアクセルシンクロではない。

相手の攻撃宣言と同時、除外され、攻撃を無効にする姿が映された。



『戦闘状態という精神が極限まで研ぎ澄まされるその一点、そのタイミングのみ、光速に達する。

 故に彼のシューティング・スターの効果は相手に攻撃される一瞬にしか発動せず、また』



魔神の連続破壊効果。

ラーの翼神竜のゴッド・フェニックスにより、破壊されるシューティング・スターが映された。



『赤き竜の力を最大限に発揮する破壊無効効果も、中途半端な状態になっている』

「だが、Z‐ONE……シューティング・スター・ドラゴンは……」

『そう。力の一部を制限されているとはいえ、アクセルシンクロモンスターに違いはない。

 ならば何故、揺るぎなき境地クリアマインドに到らぬ彼に、その力が使えるのか。

 鍵は、貴方の知る彼の造り上げた最期のタマゴにある』



シューティング・スター・ドラゴンの姿が消え、ホープ・トゥ・エントラストが映し出される。

フロント、サイド、リア、と。様々な角度から映し出されるDホイールの姿。

確かにこのDホイールの性能には舌を巻くが、その程度だ。

何もおかしいところはない。ただ、一点を除いて。



「あのナビゲーションAIの正体、と言う事か」

『ええ。あれはAIなどではない。

 この荒廃した世界から私たち以外の人間の姿が消え、どれほどの時が刻まれてきたか……』



哀しみを押し殺した声で呟くZ‐ONE。

ゆっくりと眼を閉じて、彼らを悼むように、小さく息を吐く。



『人が消え、同時にこの世界には“心”が消えた。

 正しき心も、そして邪なる心も、全ては虚無ゼロと成り果てた。

 それは古から連綿と続いてきた、赤き竜と邪神の戦いの終焉を意味していたのです。何故ならば』

「遊星粒子の読み取る人の心。その両側面である二つの神は、人の終焉とともに同じく終焉する。

 人の心が無いのであれば、遊星粒子は遊星歯車と同じ性質を持つだけの、粒子の一種にすぎない」

『そう。この世界に神は最早、存在しない。

 幾度となく世界を救い、人を救い、新たなるステージへと人と世界を導き続けて来た存在は、もういない。

 自らの存在が導いた全てを滅ぼすとともに、眠りについた。そう、眠りについたのです。

 人の心が再び現れればそれを読み取り、新たな神を生み出す存在は』



虚無からは何も生み出さない。それが遊星粒子。

人の心が在る時に、それを読み取ってカタチにするのが遊星粒子。

正しき心は赤き竜と呼ばれる神に、悪しき心は地縛神と言う名の邪神に。

そこまで聞いたパラドックスは、タマゴと言う名の表現をそこで理解する。



「つまり、あのDホイールのそれはAIなどではなく―――――

 Dホイーラーという専用の、限定的な“人の心エサ”を与えた遊星粒子。新たな神の温床だと?」

『あれがどのような形で孵化するか。私には分かりません。

 彼が一体何を考え、あのDホイールを彼に託したのかは、今や知る事のできない事。

 ならば、出来る限り見守りましょう。彼が、どのような結果を見せてくれるかを――――』



眼を閉じたZ‐ONEの身体が、ゆらゆらと流れていく。

それを見送ったパラドックスは白い仮面を手に、もう片手に手にした1枚のカードを見る。

何も描かれていない白いカード。











「そしてワタシは、お前の墓地のシューティング・スター・ドラゴンを特殊召喚ッ!!」



三幻魔が蠢く扉の中から、黄金の瞳を真紅に染めた白龍が飛来した。

その姿が紛う事なく、シューティング・スター・ドラゴンに違いない。

幻魔の扉の効果はフィールドのモンスター破壊に留まらず、こちらのエースを問答無用で奪い去る。



フィールドに生来したシューティング・スターが翼を広げ、嘶く。

こちらが満を持して召喚した切り札は、あっさりと敵に奪われたのだ。



「くっ……!!」

「さあ、バトルフェイズよぉッ! シューティング・スター・ドラゴンで、サイレント・ソードマンを攻撃ッ!!」



対象とされたサイレント・ソードマンが剣を構え、コートを風に靡かせた。

相手からの魔法攻撃を全てシャットアウトする沈黙の剣士は、幻魔の魔力に当てられてもなお、存命している。

だが、その戦闘力で見るならば、サイレント・ソードマンのそれは、シューティング・スターのそれを圧倒的に下回る。

腕を折り畳み、脚部を格納し、飛行形態へと変形したシューティング・スターの眼光が沈黙の剣士を捉えた。



神速の突撃は回避不能。

ならば、迎え撃つ。にしても、剣士の技量では光速の相手を捉え、なおかつ斬り伏せるほどの実力は持っていない。

だとすれば、どうするか。

結論は一つ、相手の加速のタイミングに合わせた、己の最速に依って放たれる刺突撃。

足を広げ、相手に対して半身に構え、柄を持つ右腕を大きく引き絞る。

瞬きなどすれば一瞬で消し飛ばされるほどの突撃。自然、剣士の眼も細められる。



真紅の双眸が光を零し、翼が風を裂く。

刹那の後に自身の身体が千切れ飛ぶ威力の一撃が来る事を察知した剣士は、その剣を解放した。

肩を振り抜き、肘を弾けさせ、ただ一直線に。真正面に放たれる必殺の一閃。

音を置き去りに突き出された剣は、煌々と光る双眸の光すら置き去りに加速した一撃と衝突する。



衝突した瞬間、剣はまるで当然のように砕け散る。

圧倒的なパワーの差は、一瞬の拮抗すら齎さなかった。

剣を砕かれたままの体勢で、反応は驚愕の表情だけで、沈黙の剣士は肉体を貫かれた。

一撃の許に粉砕され、光の粒子へと還るサイレント・ソードマン。



サイレント・ソードマンの攻撃力は2300。

対して、シューティング・スターの攻撃力は3300という数値。その差は1000ポイント。

無傷だったライフ4000を一気に四分の一、抉り取っていく衝撃波。

身体を打ち据えるそれに、Xにしがみ付く事で何とか耐える。



「ぐ、ぅ………ッ!!」



だが、それで終わりではない。

幻魔の扉が破壊するのは、相手フィールド。つまり俺のフィールドのみ。

まだ、このターンのスタンバイフェイズで舞い戻った、不死者がフィールドに存在しているのだ。



「更に! カース・オブ・ヴァンパイアで、ダイレクトアタックッ!!」

「ぐ、そっ……!」



吸血鬼の肢体が奔る。

元々サイレント・ソードマンの肉体を構成していた光の粒子を突き抜け、暗黒の不死者が迫る。

不安定な足場故に崩れかける体勢を必死に保ちながら、その敵襲に備えた。

漆黒の爪を凶器に、貫手が俺の胸を抉る。

途端、まるで本当に肉を裂かれ、中身を削がれたかのような痛みが、が、が



「ッぅ―――――――ァ、ぁッ!?」



ズぶりと突き刺され、そして引き抜かれた爪。

無論身体に実際の傷などないし、ただの錯覚以外の何物でもない。

実際肉を裂かれて中身をあんな爪で掻き回された日には、死んでない筈がないじゃないか。

だから大丈夫。大丈、夫……!



爪を引き抜いたヴァンパイアが脚をゆっくりと数秒かけて振り上げ、その十倍の速度で振り抜いた。

Dホイールのボディを蹴り抜いた一撃に揺さぶられ、背後の壁まで吹き飛ばされ、衝突する。

ボロボロの城の壁はあっさりと崩れ落ち、そのまま埋もれる俺たち。



「づ、ぁ………い、ってぇ……!」

「フフフ……カードを1枚伏せて、ターンエンド。あぁ、そうそう。

 その前に幻魔の扉のコスト、このカードをプレイしたプレイヤーが敗北した時、その魂が幻魔に捧げられる……

 この効果の対象を―――――アナタのお友達に移し替えてあげましょうかぁ!」



カミューラが背後の青銅の扉の中から溢れる瘴気を、十代たちにいる階下に差し向ける。

下に充満していく瘴気の渦の中で悪意が蠢き、周囲を塗り潰していく。

その光景に十代たちは息を呑み、足を下げる。



「ひぃいい……なんかきたのにゃぁ……!」

「くそ、あの女……! 命を賭けたインチキカードのくせに、賭けてるのが他人の命ってのはどういう事だ……!」

「これだ……! ボクは前も、このカードの効果でお兄さんの人質にされて……!」

「さあ、アナタのターンよ! もしアナタがワタシを倒せれば、みぃんな一気に幻魔の生贄になってもらうのだけれどねぇ!」



そう言い放つカミューラには、何の迷いもない。

彼女自身が言っていた筈だ。このデュエルは、相手を闇に叩き落とすためだけのもの。

そこにルールなど不要で、無用なのだと。

背後の壁に手をかけて、何とか足を立て、身体を持ち上げる。



「―――――やらせねーよ」

「フフフ……格好をつけた強がりがまだ保つなんてねぇ、思ったより男らしいのね」



デッキに指をかけて、引き抜く。



「そんなことないさ、やっぱ駄目だ。

 俺はやっぱりそういうの向いてないし、できないっぽいわ。だから、任せとく」

「ああ、頼むぜ。相棒!」

『クリクリィ~!』

「!?」



十代はいつの間にか腕にデュエルディスクを装着し、そのディスクにハネクリボーのカードを置いていた。

ブラウンの毛に包まれた、一頭身のボールのようなモンスター。

小さな、白い翼を羽搏かせて、そのモンスターは精一杯視線を尖らせて、カミューラを睨む。

その姿を見止めたカミューラが、一歩後退った。



「デュエルモンスターズの精霊ッ……!」

「行くぜ、ハネクリボーッ! 進化する翼とのコンボでハネクリボーは、LV10に進化するッ!!

 この魔法の力、全部あいつに返してやれッ!!!」



ハネクリボーの身体が光に包まれ、その姿を変えていく。

小さな白い翼は大きくなり、黄金のドラゴンの装飾を背負ったハネクリボーは、翼を一度羽搏かせた。

巻き起こる烈風が周囲に充満していた瘴気を、真っ直ぐ見据えるカミューラに向け、跳ね返して見せる。

吹き抜ける衝撃に巻き込まれ、下に滞留した闇は全て、カミューラの許へ。



「な、なんですって!?」



カミューラの身体にその瘴気が纏いつき、渦を巻く。

腕を振るい、纏わりつくそれを払おうとするも、如何にもならないだろう。

それを見た俺は、まるで自分がやった事のようにどや顔で語りかける。



「くっ……!」

「これが十代の力だ……! どうだ、驚きの余り声も出ないだろう」

「……なんでお前が偉そうなんだ」



そうだ。何があろうと、十代が出てれば、絶対に負けるわけがない。

信頼とかそんなもの超越した次元で確信できる。例え俺がずらした世界でも、十代は負けない。

だから、同じ理由で、俺がこんな場にいるべきでないという確信もできる。

それでも、それでもだ。今、俺は、ここに――――いる。

自分の意思でここにきたんだ。自分の願いでこの場に立ったんだ。



でもそう、欲を言うならば、俺がこの場にいる、意味が欲しいんだ。

俺がいて、俺がいたからこその何かを一つでも。

俺がマイナスにしたのであれば、せめて何か、プラスを残したい。

誰に分かってもらえないでも、俺自身の心を支える何かを欲している。

だから、



「―――――だから、俺はカミューラ。あんたの事が知りたい」

「ハァ………? フン、追い詰められて命乞いかしらぁ?」



理解を諦めたくない。分かり合う事を諦めたくない。

カミューラが人の魂を生贄にするヴァンパイアだから、理解できないなんて言えない。

理解できないのはヴァンパイアだからじゃない。彼女が誰より苦しんできたからだ。

それが共有などできないし、分かった振りなんて余計にできないから繋がらない。

このデュエルで、それが分かった。



どちらかが消えるこのデュエルでは、絶対に俺たちの距離は縮まらない。

でも、何百回もデュエルして、何千回もデュエルすれば、本当に僅かだけども、縮まる可能性は0じゃない。

0じゃないんだ。だから、絶対に諦めない。

だから、俺は力が欲しい。勝っても負けても、ここで終わらせない。次に繋ぐための力が――――!



『そんな貴方だから、私は今、私でいられる』

「――――何でもいい。ここで終わらせたくない……次に繋げたい。

 もし、続くのであれば俺にできなくても、誰か、分かってくれる人がいるかもしれない――――!

 終わらせたくない。いや、そうじゃない―――――終わらせないッ!!」



こぉーん、と。Xが初めて聞く音を出す。

そんな事はどうでもよくて、ただひたすらにカミューラを見据える。

俺の答えは出た。後は前に進むだけだ。

その瞬間、バヂン、とまるでコンセントを引き抜いた時のテレビのように、視界がトんだ。

暗闇の中で、それでも俺が見るモノは変わらない。



『マスターだったから私は私。――――ファイナルフェイズです。

 貴方の心の全てを私に託して下さい。私は貴方の全てを受け入れる準備があります。

 私に全てを預ける覚悟ができているのならば、ただ一言、下さい』

「預けるなんてお断りだ……俺は、俺がやる!

 そのセリフ、全部そっくりそのまま返してやるッ! お前が来いッ、相棒!!!」



選んだ答えは互いに同じ。当り前だ、俺とこいつは、同じなんだから。

互いに互いを受け容れて、互いに互いを預けない。

異身同心、一つの心が造った二つの人格を合わせて、今俺たちは“俺”だ。



ブラックアウトしていた視界が戻る。

闇に包まれていた世界が紅く、紅く映る。

ノイズがかった視界の中にカミューラを捉え、遊星粒子が読み取る心がイメージを断片的に伝えてきた。

先程見ていた、ヴィジョンがより鮮明になって、俺の中に刻まれる。

一度眼を瞑り、首を横に振る。

再びそれを開くと、もうそのヴィジョンは映っていなかった。



―――――理解するのは、現在のカミューラだ。

そんな過去を見る必要はない。今彼女が何を思い、何を想っているか。

それは彼女自身にしか分からない。過去を覗き、分かった気になる意味なんてない。



「―――――なに、それは……!?」



Xの各所がスライドし、排熱とともに赤い光を解き放っている。

俺の身体からもまた、そんな光が放たれているのかもしれない。

だけど、そんな事は後回しだ。

現在は、俺のターンだ。このターン引いたカードを確かめ、そのままフィールドへ。



「『魔法マジック発動! 光の護封剣!!』」



カミューラの周囲、カース・オブ・ヴァンパイアとシューティング・スターを囲うように、光の十字剣が出現した。

それはモンスターの侵攻を限られた時間だけ、絶対的に停止させる聖剣。

例えシューティング・スター・ドラゴンだとしても変わりない。



「くっ……!」

「『ターンエンド』」



視界がぐらぐらと揺れて渦巻き目が回る。

頭が痛くなってくる真っ赤な世界の中で、俺はだからこそ神経を研ぎ澄ます。

“心”が視える。遊星粒子に乗せられた人の、あるいはカードの想いが。



「エックスくんが、何か……変わった?」

『あぁん、万丈目のあにき! ドラゴンの旦那が、何かすっごく嬉しそうよん?』

「―――――光と闇ライトアンドダークネスが……?」



下から聞こえてくる声。そこには、俺には本来分からない筈の精霊の声が混じっている。

ふぅ、と大きく息を吐き、拳を握る。



「『来い、カミューラ! 俺の狙いを読み切ってみろ、できなければ俺が勝つ――――!

 お前が読み切って、俺に勝ったその時は――――あんたに“心”を理解された、俺の勝ちだ――――!!』」

「なぁにをワケの分からない事を……! ワタシのタァーンッ!!」



俺の唯一の生命線。光の護封剣が破壊されれば、そのまま俺の負け。

だが、俺が見据えているのはそこから先。

ドローカードを見たカミューラは微かに顔を顰めて、しかしそのカードをそのままディスクに差し込む。



「手札から魔法マジックカード、生者の書-禁断の書物-を発動!

 自分の墓地のアンデットモンスター一体を特殊召喚し、相手の墓地からモンスター一体を除外する!!」

「―――――!」



奈落に通じる孔が開き、その中から無数の蝙蝠が溢れだす。

その蝙蝠たちが集束して造り出すのは、蝙蝠の翼を持つ青年。

水浅黄色の髪に、土気色の肌をした不死身の怪物。

翼をマントのように羽織いながら、その吸血鬼は嗤笑をあげた。



「ワタシが特殊召喚するのは、ヴァンパイア・ロードッ!!

 そしてお前の墓地から除外するモンスターは、サイレント・ソードマン LV5!!」



Xのセメタリースペースからカードが吐き出される。

相手に指定された、サイレント・ソードマンのカードをゲームから取り除く。

これでサイレント・ソードマンが最上級となり、フィールドに出る事はほぼ不可能。

あらゆる魔法マジックをキャンセルする、対魔法の剣士は、召喚する事ができない。



カミューラは更にカードを手札から引き抜き、俺に見せつける。

そのカードこそ、カミューラの従える最強のモンスターにして、彼女たちヴァンパイアの始祖の姿。



「更に! ヴァンパイア・ロードをゲームから除外する事で、手札のヴァンパイアジェネシスを特殊召喚ッ!!!」



フィールドに舞い戻ったヴァンパイアの肉体が膨張する。

纏ったタキシードが膨張する筋肉に内側から破壊され、弾け飛ぶ。

土気色の肌が紫色に染まっていく。

美青年といった相貌だった彼のヴァンパイアは、まるで野獣の如き姿へと変貌を遂げる。

筋肉の量が四、五倍にまで膨れ上がらせた吸血鬼は、翼を大きく広げ、吼えた。



「我らヴァンパイアの真祖。その力で、葬り去ってやるわ――――残り2ターン、ターンエンドッ!」

「『俺のターン、ドロー! ……カードを1枚伏せ、ターンエンド』」



引いたカードをそのままフィールドにセットし、ターンを終了させる。

光の剣が僅かに薄れている。

このまま何も出来ずに過ごせば、俺を守る護封剣は消え去るだろう。



「フフフ……ワタシのタァーン! フ……トラップ発動、転生の予言!!

 墓地のカードを2枚までデッキに戻し、シャッフルする!

 ワタシがデッキに戻すカードは、ワタシの墓地のSin サイバー・エンド・ドラゴン。そして、幻魔の扉ッ!!」

「あいつ……! あのカードをまた使う気か!?」

「く……圧倒的に有利な状況でも、まるで手を抜く気がない……! まずいぞ、今度あのカードが発動されれば……!」

「だが、それだけじゃあないわ! 更に永続魔法、一族の結束を発動ッ!!」



ヴァンパイアジェネシス、そしてカース・オブ・ヴァンパイアの魔力が高まり、溢れる。

先程までのそれを凌駕するそれは、眠りし同胞の魂が与えてくれる不死の魔力。

機械族のSin サイバー・エンドがデッキに戻された事で、アンデットの一族はその力を十全と発揮するのだ。

フィールドにはドラゴン族のシューティング・スターがいるものの、冥界で蠢動する不死者のそれには関係がない。



「一族の結束は、墓地のモンスターが一種族に統一されている場合、フィールドの同族モンスターの攻撃力を800アップする!

 これにより真祖のヴァンパイアは攻撃力3800、そして呪われしヴァンパイアは3300!!

 さあ、残り1ターン! ターンエンドよッ!!」

「『俺の、タァーン! ―――ターンエンド……!』」

「フフフ……! 何も出来ないと言うのなら、そのまま最期を迎えなさい!

 ワタシのターン、ドローッ! 引いたカードは魔法マジックカード、天使の施し!!

 新たに3枚のカードをドローしてから、2枚のカードを墓地へ送る!!」



デッキの上から3枚のカードを捲ったカミューラがニヤリと口許を歪める。

4枚となった手札の中から2枚を引き抜き、墓地へと送った。

あからさまな何らかの攻撃手段の取得。

微かに歯を食い縛り、その攻撃に備える。



「永続魔法! ジェネシス・クライシスを発動ッ!!

 このカードは、ヴァンパイアジェネシスがフィールドに存在する時、

 1ターンに一度、デッキからアンデット族モンスター一体を手札に加える事のできるカードッ!

 ワタシはこの効果により、デッキから龍骨鬼を手札ヘ!!」



ディスクから取り外したデッキを広げ、その中からカードを1枚引き抜く。

こちらに見せつけるカードの正体は、宣言された通りに龍骨鬼のモンスターカード。

ジェネシス・クライシスの効果は、広く強力なデッキからのサーチ能力。

その真骨頂は、支配者・ヴァンパイアジェネシスの能力と同時に発動される事で発揮される。



真紅の光を放つ瞳が輝き、始祖の吸血鬼が大きく鳴いた。

漲る魔力を受け、爆発的に肉体が膨れあがる。

翼爪から紫電が撒き散らし、周囲の目前に次元の孔を造り上げていく。

冥府へと繋がる不死者の道。



「ヴァンパイアジェネシスの効果! 1ターンに一度、手札のアンデットを墓地へ送る。

 そのアンデットのレベルより下のレベルを持つアンデットを特殊召喚するッ!!

 ワタシはヴァンパイア・バッツを守備表示で特殊召喚ッ!!」



広げた翼を含めれば、カミューラの身の丈を遥かに上回る全長を持つ蝙蝠が現れる。

巨大な蝙蝠は顎を大きく開き、その咽喉の奥底から超音波を放出した。

その音波に呼応して、始祖の吸血鬼と呪われし吸血鬼の二体の肉体が強化される。

翼を折り畳み、身体を丸めてカミューラの前に降り立つ蝙蝠。

ヴァンパイア・バッツの持つ特殊能力は、同族モンスターの攻撃力アップ効果。



「『っ……!』」

「この効果により我がフィールドのアンデット族の攻撃力は200ポイントアップ!

 カース・オブ・ヴァンパイアは3500、そしてヴァンパイアジェネシスの攻撃力は4000!!

 そして、ワタシの最後の手札は魔法マジックカード、サイクロン!

 さあ、1ターン前倒しでこのデュエルに決着をつけてさしあげるわぁッ!!!」



カミューラが風に取り巻かれ、自身の周囲に聳える光の剣を消し飛ばした。

光の拘束が解かれた不死の怪物たちが、歓喜の雄叫びを放つ。

城の中を反響して響き渡る野獣の咆哮。



「まずい……! エックスの場はガラ空きなんだぞ!?」

「エックス!」

「せめて伏せられているカードの中に、攻撃を防ぐためのカードがあれば……!」

「ヴァンパイアジェネシスよ! その男に最期の攻撃を―――!! ヘルビシャス・ブラァアアアアッドッ!!!」



真祖の吸血鬼の身体が、闇色に光、次の瞬間には霧散していた。

血色の濃霧と化した吸血鬼は、そのままの姿で俺を目指し、殺到する。

残りライフが500しかない俺が、攻撃力4000に達するこの攻撃を受ければ、一溜まりもない。

嵐の如く迫りくるその暴力を前に、俺は手札から1枚のカードを引き抜いた。



「『手札の速攻のかかしの効果を発動ッ!

 相手モンスターのダイレクトアタック宣言時、このカードを墓地へ送り、攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させる!!』」



金属製のフレームで組み上げられ、ボロボロのハットと暗紅のサングラスで頭部を隠したかかし。

フレームの末尾に据え付けられたブースターから炎を吹かし、かかしは目前に迫った濃霧の中に飛び込んだ。

魔力を帯びた霧に引き裂かれ、爆散する速攻のかかし。

内側で爆裂したかかしの破壊力に吹き飛ばされる濃霧と化した真祖の身体。



跳ね返されたヴァンパイアジェネシスの身体が、カミューラの許まで弾き返される。

霧が凝縮されて、再び真祖の吸血鬼が肉体を取り戻す。

自らのフィールドに舞い戻った真祖の姿を見て、舌打ちするカミューラ。



「チィ……!」

「よし、何とか凌いだぞ……!」

「でも、もうエックスくんに逆転の手段は―――」



俺には手札が2枚。伏せリバースが2枚。

対するカミューラは手札を使い切ってはいるものの、フィールドに攻撃力3000を越えるモンスターが3体。

シューティング・スター・ドラゴン、ヴァンパイア・バッツ、カース・オブ・ヴァンパイア、ヴァンパイアジェネシス……

フィールドの永続魔法、ジェネシス・クライシスには、ヴァンパイアジェネシスがフィールドから離れた時、自壊する効果がある。

それも、その効果はフィールドのアンデット族モンスター全てを巻き込む、強烈なデメリット効果だ。

だからこそ、何とかジェネシスを破壊する事ができれば、まだ道は開ける。

しかし、相手に奪われたシューティング・スターは破壊無効効果を持っている。更に、攻撃無効効果もだ。

ああ、ダメだ……



「『楽しくなってきた……!』」

「は?」

「何だ、あいつ。十代みたいな事を言い始めたぞ……」



デッキの一番上に手をかけて、一度大きな深呼吸。



「『だけど、このターンで終わりだ――――! ファイナルタァーンッ、ドローッ!!!』」



引き抜いたカードに、笑みを浮かべる。

疑念なんて何一つ抱く余地のない、俺たちの全力で魅せる。俺たちの意思。



「『理解する必要なんてない。だが、受けてもらうぜ、俺たちの最後の力ッ!

 そして見せてやる、俺が選び取った結末を――――!! 魔法マジックカード、調律を発動ッ!!

 デッキからシンクロンと名の付くチューナーモンスターを手札に加え、デッキをシャッフル。

 その後、デッキの上からカードを1枚墓地へ送るッ!』」



オートでサーチされたカードを引き抜くと、デッキが勝手にシャッフルされた。

そのデッキのシャッフルを終えたのを見届け、デッキの上のカードを引き抜き、墓地ヘ。

この効果で墓地ヘ送られたカードを見て、微かに笑う。



「『アンノウン・シンクロンをデッキから手札に加え、デッキトップのADチェンジャーを墓地ヘ!

 そして、アンノウン・シンクロンは相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、特殊召喚できる!!

 アンノウン・シンクロンを特殊召喚ッ!!』」



ぽぅ、と俺の前方に小さな光が灯る。

薄い鉄板を折り曲げて球体状に固めた謎の塊。鉄板の隙間でぎょろりと蠢く一つの眼。

小さな塊であるが、その中身は確認する事のできない、謎の生命体。

アンノウン・シンクロン。

更に、残り2枚の手札をカミューラへと見せつける。



「『魔法マジックカード、ワン・フォー・ワンを発動ッ!!

 手札のボルト・ヘッジホッグをコストに効果を発動! デッキから、レベル1のモンスターを特殊召喚するッ!!

 俺が召喚するのは――――』」



デッキから1枚のカードがスライドして、俺に差しだされる。

そのカードを引き抜き、フィールドへと。

ほのかな赤い光に包まれた、透き通るような赤の小さな身体を持つ竜。

アンノウン・シンクロンの横を通り、小さな竜は高く飛び上がった。



「『レベル1のチューナーモンスター、救世竜 セイヴァー・ドラゴン!!』」

「幾ら並べようが、そんな弱小モンスターではワタシのヴァンパイア軍団は揺るがない――――!」



カミューラの声を聞きながら、しかし俺は不敵に笑う。

セメタリーゾーンに手を持っていき、今し方墓地へ送ったばかりのカードを拾い上げる。

そのカードは、ボルト・ヘッジホッグ。



「『墓地のボルト・ヘッジホッグは、フィールドにチューナーモンスターが存在する場合、特殊召喚できるッ!!

 墓地よりボルト・ヘッジホッグを特殊召喚だ!!』」



にー、と鳴き声を上げる黄色の毛色のネズミ。

ハリネズミが針を背負っているように、このネズミはその名の通り、無数のボルトを背負っている。

出揃う三体のモンスターはしかし、相手フィールドのモンスターに比較すれば、弱々しい事は確かだ。

このままでは、天地が引っくり返ろうと、勝ちはない。

だが、それでも勝つ。



「『トラップ発動、ギブ&テイクッ!!

 自分の墓地のモンスターを相手フィールドに守備表示で特殊召喚し、そのモンスターのレベル分、俺の場のモンスターのレベルを上げるッ!

 お前の場に特殊召喚するのは、俺の墓地の、レベル4のガガガマジシャンッ!!

 そのレベル分、レベル2のボルト・ヘッジホッグのレベルをアップさせ、レベル6へッ!』」



バヂン、と雷光を纏いながらガガガマジシャンがカミューラのフィールドに現れる。

腕を交差させ、膝をついて防御の姿勢を取る魔術師。

その周囲に四つの星が現れて、それがボルト・ヘッジホッグへと向け、放たれる。

星はそのままボルト・ヘッジホッグの中に吸収されて、レベルをアップさせる。

が、三つの星は吸収されたものの、最後の一つが途中で止まった。

それは、更に続くカードもまた、墓地からと言う事。



「『レベル6となったボルト・ヘッジホッグのレベルを5へと下げ、墓地のレベル・スティーラーを特殊召喚ッ!!』」



墓地より再び舞い戻る赤いテントウが、残った星を食み、その甲殻に大きな一つ星を浮かべる。



「フィールドにモンスターがいない状態から、一気に四体のモンスターが出揃った……!」

「だけど、まともに戦闘できるモンスターがいない……! これじゃあ、次のターンを凌ぐだけで精一杯―――」

「『レベル1のレベル・スティーラーに、レベル1のアンノウン・シンクロンをチューニングッ!』」



俺の周囲を渦巻く赤い光はより強さを増し、高まっていく。

鉄板が剥がれていく事で、内部に潜んでいた未確認の生命の姿が晒され―――る、前に。その姿は光と化す。

一つの光の環となったその光の中に、テントウムシが飛び込む。

二体のモンスターが光と化した事で、新たなるモンスターがフィールドに導かれる。



「『来いッ! 希望を繋ぐ力、フォーミュラ・シンクロンッ!!

 更に、フォーミュラ・シンクロンのシンクロ召喚成功時、カードを1枚ドローできるッ!』」



F1カーのようなフォルムのボディ。ホイールが肩になり、そこから腕。

車体の下には力強い下半身が存在し、そのボディを支えている。

肩部のホイールが高速で回り、火花を散らす。

それこそF1選手の被るヘルメットのようなデザインの頭部の、赤い眼差しで敵を睨む。



そのままドローした、もう1枚の手札。

――――繋がったッ……! さあ、行くぞ。



「『俺はジャンク・シンクロンを召喚ッ!』」



橙色の鎧の、三頭身ほどの調律の戦士。

金属製のフレームで駆動する四肢と、背後に背負ったエンジン。

風になびく純白のマフラーを片手で払い、彼は腕を大きく振るった。



冥界へと通じる孔が開き、その中から自軍のモンスターを呼び出すスキル。

ジャンク・シンクロンの能力では開けられる孔に制限があり、無制限にモンスターが出せるわけではない。

出す事ができるのは、レベル2以下のモンスター。

飛び出してくるのは鍋のような被りモノをした、小さな機械人形。



「『ジャンク・シンクロンの召喚に成功した時、墓地のレベル2以下のモンスターを呼び出せる。

 俺が召喚したのは、レベル1のチューニング・サポーターッ!!

 そしてぇ……! レベル5となっているボルト・ヘッジホッグに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!

 それによって生み出される、レベル8のスターダスト・ドラゴン!!

 更にレベル1のチューニング・サポーターと合わせて、レベル1の救世竜 セイヴァー・ドラゴンをチューニングッ!!』」

「一気に四体のモンスターをシンクロ素材にして、連続シンクロ召喚を……!?」



ジャンク・シンクロンが腰のスターターを引き、エンジンを始動させ、三つの星となる。

その三つの星に包まれる事でボルト・ヘッジホッグは五つの星となり、八つの星は新たなるモンスターを生み出す。

白銀の龍の輪郭が少しずつ露わになっていくその光の中に、チューニング・サポーターは飛び込んだ。

宙を舞う小さな赤い竜がその、輪郭のみを見せるドラゴンを呑み込むほどに大きく変容する。

ドラゴンとサポーターは、巨大化したセイヴァー・ドラゴンの中に取り込まれ、その瞬間、爆発的に光が膨れた。



「『奇跡の光よ、闇を照らせ――――! シンクロモンスター、セイヴァー・スター・ドラゴンをシンクロ召喚ッ!!』」



蒼銀が白光を破り、フィールドに顕現する。

透き通るクリスタルのような身体で、薄く細い四枚の羽を合わせて一つの翼とし、計四枚の翼を大きく広げる。

四肢を持ち、力強い肉体であったシューティング・スターとは対象に、東洋の蛇に近しい龍の姿を連想させるフォルム。

救世竜の力を得て、昇華された新たなる姿。

僅か1ターンのみ奮う事の出来る、究極の制圧力。

闇に鎖された城のな中を、光で塗り替えていくセイヴァー・スター・ドラゴン。



それを見たカミューラが眼を見開いて、足を一歩下げる。



「攻撃力、3800……! まさか、あの状況からこんなモンスターを……!」

「よっしゃぁッ! これなら行けるぜ!」

「『―――――いや、まだだ……セイヴァー・スターはこのエンドフェイズ、デッキに戻るモンスター。

 それに、シューティング・スターには、相手の攻撃を1ターンに一度、無効にする効果がある……』」

「そんな……せっかく出したのに、戻っちゃうなんて……」



俺がこの状況でのなおも不利だと認めると、カミューラは態度を持ち直した。

光に中てられ、崩れていた表情もすぐさま元にもどしている。



「フフフ……驚いたけど、どうやら万策尽きたようね」

「『いや、もう一度だけ。俺には、シンクロ素材となったチューニング・サポーターの効果で、ドローが許される』」



つまりそれが最後のドロー。

緊張などないし、焦りも微塵もない。なぜならば、疑った事なんて一度とてない。

俺の心中とは逆に、最後のドローに自然、周囲の雰囲気が硬くなっていく。

デッキへと手をかけて、カミューラへと眼を向け、微笑む。



「!?」

「『これが、俺の最後の攻撃だ……あんたがどんな奴か、ちょっとしか分からなかったけど。ちょっとだけ、分かった。

 だから絶対にここで終わらせない……!

 デュエルは何かを終わらせるものじゃない、何かがそこから始まるものだって信じてるから―――!』」



カードをドローする。

その瞬間、最後の攻撃が確定した。



「『セイヴァー・スターの効果ッ! 1ターンに一度、相手モンスターの効果を無効にし、その能力を得る!!』」

「まさか、ヴァンパイア・バッツの効果を無効にし、ヴァンパイアジェネシスと相討つつもり?

 そんな事はアナタのシューティング・スターの効果で、無効にしてあげるわ!

 それとも、アナタのシューティング・スター・ドラゴンの効果を無効にするのかしらぁ?」



セイヴァー・スターが翼を大きく広げ、その頭部から放たれる光で相手モンスターを照らす。

その光、サプリメイション・ドレインに中てられたモンスターの効果は無効となる。

そしてセイヴァー・スターは、その効果を自身の効果として使用する事ができるのだ。

ならば、この効果でシューティング・スターの効果を無効にし、連続攻撃権の取得に全てを賭けるか。

――――否、だ。



「『俺が効果を無効にするのは、ガガガマジシャンッ!!』」

「なに……!?」



サプリメイション・ドレインの光に呑み込まれたガガガマジシャンのベルト、八つの星が刻まれたバックルから光が消える。

そして、その効果を次に繋ぐための、最後のドローカードをフィールドへと叩き付けた。

迸る光芒がフィールド全体を満たして、何かの紋様をデュエルフィールドに描き上げていく。

瞬間、シューティング・スターが悲鳴を上げた。



「なに……これは!?」



同時に、ガガガマジシャンもまた。

カミューラのフィールドに存在していた俺のモンスターたちが、俺のフィールドに戻ってくる。

紅い月の魅了の魔力を跳ね返し、二体のモンスターは、その心を取り戻した。



「『魔法マジックカード、所有者の刻印の効果!

 フィールドの全てのモンスターのコントロール権は、元々のプレイヤーのフィールドに戻る!!』」

「くっ……そんな――――!」



俺の場に戻ったのは攻撃表示のシューティング・スターと、守備表示のガガガマジシャン。

その状態で墓地へと手を伸ばし、調律の効果で墓地へ送られたカードを取り上げる。



「『墓地のADチェンジャーをゲームから除外し、ガガガマジシャンを攻撃表示に変更ッ!』」



膝を着き、腕を交差させていた魔術師が立ち上がる。

チェーンをじゃらりと擦らせ、魔導衣のポケットに手を突き入れながら、態度悪く立つガガガマジシャン。



「『そして、セイヴァー・スターがコピーした、ガガガマジシャンの効果を発動ッ!!

 1ターンに一度、このカードのレベルを1から8までの任意の数値にする事ができるッ!

 俺が指定するのは、レベル1!!!

 更に、レベル10のシューティング・スターのレベルを9に下げ、墓地のレベル・スティーラーを特殊召喚ッ!!!』」



セイヴァー・スターの身体から九つの星が吐き出され、消滅する。

シューティング・スターは一つだけ星を吐き出して、その星を墓地から現れたテントウムシに喰わせた。

そしてこの瞬間、ピースが揃った。



「『レベル1! シンクロモンスター、セイヴァー・スター・ドラゴンッ!!!』」



蒼銀の翼が大きく羽搏き、その身体に蓄えられていたエネルギーを解放する。

ガガガマジシャンはレベル変更の起動効果と、シンクロ素材に出来ないというルール効果を併せ持つ。

しかし、セイヴァー・スターがコピーできるのは起動効果と、誘発効果のみ。

ルール効果も、永続効果もコピーする事はできない。

故に、レベル変更効果を持ちながら、シンクロ素材とする事が可能となる。



「『レベル9! アクセルシンクロモンスター、シューティング・スター・ドラゴンッ!!!』」



白い刃のような翼を大きく広げて、流星龍は解放され、真紅から再び黄金に戻った双眸から光を放つ。

漲るエネルギーは、並ぶセイヴァー・スターとの相乗によって、限界を越えた次元に到達する。

並び立つ二体の星龍の身体から放たれる光と風が氾濫し、周囲の風景を塗り潰していく。

俺以外の全員が、荒れ狂う風の威力に眼を瞑り、腕で顔を庇っている。

しかしその中でも、最後のシンクロ召喚は続く。



「『そして、レベル2! シンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンッ!!!』」



並ぶ二体の龍の間に、ボディを軋ませながらフォーミュラ・シンクロンが割り込む。

二つの星を束ね、最終形態。最高の形態へと昇華させるための、最後のピース。

火花を散らし、重圧に耐えかねた身体に亀裂が奔り、スパークし、炎すら噴き上げる。

星龍たちが放つ閃光と暴風を一つに纏め上げるという、不可能を可能とする存在。



全身が端から崩れ落ちていくような状態で、それでも導き手は眼を爛々ろ輝かせ、アクセルを踏み込む。

拉げていくボディはやがて光の輪郭と化して、吹き消されるように風に打ち崩された。

光の輪郭はそれでも、二つの星となって力強く輝き、二体の龍を取り囲むように円を描く。



「『三体のシンクロモンスターによる、シンクロ召喚! デルタアクセルシンクロッ!!!』」



キィイイン、という鼓膜を揺さぶる耳障りな音が響くと同時、暴風と閃光が一瞬で消失した。

そのまま数秒、カミューラが、十代たちが、ゆっくりと眼を開いた時、そこには何も残っていない。

何が起こった、と。疑問を口に出す前に、その衝撃が城全体を襲った。

天井が砕かれて、瓦礫が降り注ぐ。

大穴を穿たれた天井。そこから覗くのは、今宵出ている月の姿ではない。

天を覆い尽くすほどに巨大な光―――――まるで太陽の如く、地上へと光を注ぐ光源。



「なん、ですって………? まさか、あれは――――!」



召喚され、ゆっくりと流れていく時間の中で、その光が徐々に晴れていく。

眼を焼かんばかりの光は静まり、それはこの城に収まりきらないほどに巨大な姿を露わにした。



「あんな巨大なモンスター……見たことない」

「綺麗な光―――あれが、デルタアクセルシンクロモンスター……?」



スターダスト・ドラゴンに酷似した頭部。

先端から生えた鋭利な角は途中で反り返しており、刃として扱い、敵を裂く事すら出来そうなほどに研ぎ澄まされている。

首から胴体、それに手足の関節はネイビー。そして手足自体はシューティング・スターのような、澄んだ白。

鉤爪のような五指を持つ巨大な腕に、脚と言うよりは尾が三本あるようにも見える風な下半身。

胸部の中心で輝くのは碧色の巨大な宝珠。

薄く長い、翼と呼ぶよりは羽と呼ぶ方が適正と思える、背後の四枚の羽。



「『今こそその力を解き放て、シューティング・クェーサー・ドラゴンッ!!!』」



月より明く、夜闇すら晴らすような龍が今、咆哮を上げた。

震える大気が城を揺らし。注がれる星光が闇を照らし。そして、下される一撃が魔物を滅ぼす。

最大最強のモンスターを降臨させた俺は、手を大きく掲げて、叫ぶ。



「『バトルッ! シューティング・クェーサー・ドラゴンで、ヴァンパイアジェネシスを攻撃ッ!!!

 天地創造撃ッ!!! ザ・クリエーション・バァアアアアストォオオオオオオオッ!!!!!』」



シューティング・クェーサー・ドラゴンが右腕を大きく掲げ、その掌に光を灯す。

蒼銀の光球が燃え上がるように噴き出て、その光を場内の敵を向け、隕石の如く撃ち放つ。

放たれた瞬間に光球は内部にセイヴァー・スターの姿を映し、更なる加速を見せる。



迎え撃つはヴァンパイアの始祖。

互いに攻撃力は4000に及ぶ、最強モンスター同士が行う、最大の激突。

地の底から噴き上がるような地獄の雄叫びとともに、身体を霧散させて対抗するジェネシス。

互いが互いを目掛けて突撃した結果、衝突は城内であり、城外。

城と外との境目で、その力をぶつけ合う事となった。



瘴気の渦と救星の一撃が真正面からぶつかり合い、その衝撃波が城を破壊していく。

城の外壁を更に破砕し、粉塵を撒き散らし、遂には衝突地点での巨大な爆発を発生させる。

爆炎と衝撃が城の中へと雪崩れ込み、その炎はカミューラのフィールドを蹂躙した。



「『シューティング・クェーサーとヴァンパイアジェネシスの攻撃力は互角ッ!

 そして、ヴァンパイアジェネシスが破壊されたこの瞬間、永続魔法ジェネシス・クライシスの効果が発動するッ!!』」

「ぐっ……! ジェネシス・クライシスはヴァンパイアジェネシスがフィールドから消えた時、

 フィールドに存在するこのカードとアンデットモンスターを全て破壊する効果を持っている………!

 でも、」



カミューラのフィールドが罅割れ、隆起する。

大地が割れ、立ち上ってくる瘴気の渦に捉われるカース・オブ・ヴァンパイアと、ヴァンパイア・バッツ。

瘴気がその二体を捉えた途端、裂けた大地が元の状態へと巻き戻されていく。

その大地とともに瘴気に引き摺られ、冥界へと引きずり込まれていく中で、二体は激しく反抗する。



カース・オブ・ヴァンパイアの不死の能力は戦闘に限ったもの。

この効果で破壊されれば、もう復活能力を用いる事はできないのだ。

下半身は既に大地の巻き戻しに巻き込まれ、圧し潰された状態で埋まっている。

それでも何とか逃れようと翼を羽搏かせ、手を伸ばす。

しかしその抵抗も空しく、数秒保ずに断末魔ごとその身体は大地の中に取り込まれた。

唯一地表に出ていた肩手の、手首から先。それも、砂のようにざらりと崩れ去る。



二体のモンスターが埋葬され、しかし大地を食い破り、巨大な蝙蝠が姿を現す。

ギギ、と牙を打ち鳴らしながらヴァンパイア・バッツは蘇る。



「ヴァンパイア・バッツは戦闘及び、効果による破壊をデッキの同名モンスターを墓地へ送る事で無効にするッ!」

「『ならば、ガガガマジシャンで、ヴァンパイア・バッツに追撃ッ!!』」



チェーンを振るい、ガガガマジシャンが宙を翔ける。

握り締めた拳を引き、腰溜めにしたそれを翼を折り畳み、防御の姿勢になっている蝙蝠に叩き付けた。

翼が裂け、破壊された筈のヴァンパイア・バッツ。

だが、その真紅の瞳が大きく光を放つと、砕かれた翼を再生させて、ガガガマジシャンを弾き返した。



「再びヴァンパイア・バッツの効果! デッキから同名モンスターを墓地へ送り、破壊を無効にするわッ!

 これでアナタのフィールドにはその攻撃力600の弱小昆虫のみ!

 同じく守備力600のヴァンパイア・バッツを破壊する事は――――――!?」



瞬間、ガガガマジシャンの背後に描かれる魔法陣。

その光の魔法陣が強烈な白光を放ち、そこから新たなる力を導きだす。

それこそ、俺のフィールドに残された最後のトラップ



「『そいつはどうかなぁ!

 俺はガガガマジシャンの攻撃宣言時、トラップを発動していたッ!

 マジシャンズ・サークルッ!!』」



魔法陣の裡から、一体の魔法使いが現れる。

青い衣装に身を包んだ、玩具の魔法使い。

長帽子を被った頭部からは逆立つ赤い頭髪。魔導衣を象ったパーツを組み合わせ、造り上げられたボディ。

マントのような造形の肩に取り付けられたパーツを揺らし、先端に琥珀色が輝く杖を構えた。



「『マジシャンズ・サークルは、魔法使いの攻撃宣言時に発動するトラップ

 この効果により、互いのプレイヤーはデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族モンスターを特殊召喚するッ―――!』」

「くっ……! ワタシのデッキには魔法使い族モンスターはいない……!」



カミューラのフィールドにも同じように出現していた光の魔法陣が薄れ、消えていく。

その魔法陣を口惜しげに見送ったカミューラに対し、宣言する。



「『マジシャンズ・サークルの効果により特殊召喚されたトイ・マジシャンによる追撃ッ!!』」



肩のマントのパーツを跳ね上げ、玩具の魔術師は蝙蝠を目掛け、奔る。

杖の先端の宝玉に光が灯り、魔力が迸った。

守備の姿勢で固まる蝙蝠に対し突き付けられる琥珀の杖から、溜め込まれた魔力が吐き出され、不死の蝙蝠の身体を侵していく。



光に呑み込まれた蝙蝠の全身に、生命体には有り得ない分割線が幾条も。

毛皮と肉が角張った無機なブロックへと変容し、生命というシステムから外れる。

如何に不死存在であろうと、生命という枠組みから外されれば、それは不死の機能を発揮されない。

トイ・マジシャンが杖を横に振るうと、そのブロックがバラバラに砕けて散った。



「『もうデッキにヴァンパイア・バッツは残っていない……このまま破壊だッ!』」

「つっ……だが、お前の場に残った攻撃モンスターはレベル・スティーラーのみ……!

 その攻撃力は600! ワタシのライフ、2050を削り切る事はできない!

 そして次のターン、攻撃力1100以上のモンスターをワタシがドローすれば、アナタのライフ500は削り切れるッ!!」

「『言っただろ、ファイナルターンだと!』」



手を掲げる。すると、俺の周囲を渦巻く赤い光より強まり、突風を巻き起こす。

天井付近で未だ立ち込める粉塵が、その風によって掻き分けられ、空を晴らした。

その先に広がる光景に、カミューラが絶句した。



「そんな……シューティング・クェーサー・ドラゴンですって……!?」



月明かりよりなお明るく。

月が放つ光は、そのモンスターが放つ光の反射なのではないかと思えるほどの輝光。

再び天頂に向けて上げられた腕の中には、白い光がたゆたっている。

雄々、と昂ぶる覇気を咆哮とともに吐き出す星龍。



「あ、あのモンスターはヴァンパイアジェネシスと相討ちになった筈……!」

「『ジャンク・シンクロン、チェンジ・シンクロン、レベル・スティーラー……そして、シールド・ウォリアー。

 手札抹殺で墓地に送った4枚目のカード。

 墓地のシールド・ウォリアーをゲームから除外する事で、戦闘破壊を一度だけ無効にする――――』」



墓地から取り除いていた、シールド・ウォリアーのカードを見せる。

こちらのフィールドに残った最強最大のモンスターを前に、カミューラは戦慄した。

が、即座に冷静さを取り戻したか、不敵な笑みを浮かべた。



「だが、そのモンスターは既に攻撃宣言を完了している!

 次のワタシのターン、ワタシのドローで決着がつく事に変わりは―――――!」

「『シューティング・クェーサー・ドラゴンの効果は、シューティング・スターと似て非なる連続攻撃ッ!

 シューティング・クェーサーの攻撃権は、チューナー以外のシンクロ素材の数となる。

 つまり、シューティング・スターと、セイヴァー・スター! 二度の攻撃が可能となる――――!』」



遥か天空に聳える巨大な星龍の手にたゆたう光が圧し固められ、球体となった。

その光を蓄えた腕を引き絞り、眼下に存在する場内に存在するカミューラを目標に、解き放つ。



「そ、んな……バカな――――! ワタシが、負ける……!?」

「『天地創造撃 ザ・クリエーション・バースト、第二打ァッ! スターダスト・ミラァージュッ!!!』」



解き放たれた光はシューティング・スター・ドラゴンを形作り、カミューラを目掛けて飛翔する。

その身体が飛翔する中で五つの光に分散し、それぞれが赤、橙、青、黄、白の光を纏った姿と化した。

茫然と立ち尽くすカミューラの周囲に、五つの流星が降り注いだ。

彼女の腕のデュエルディスクが、ライフポイント0を指示し、ぴーと音を鳴らす。



轟音とともに崩落する場内の景色。カミューラの立つ中央階段も激しく揺さぶられ、崩落が迫った。

だがそれよりも、その腕のデュエルディスクから噴き出す闇が、彼女の背後でカタチを成していく。

禍々しき青銅の扉。それは、カミューラがこのデュエルで用いた幻魔の扉に他ならない。

ゆっくりと開く扉から、三つの悪意が敗者の魂を喰らうべく、その手を伸ばす――――!



「ひ―――――!?」



そう。それも、俺の赤く染まった視界には視えている。

だからこその、最後の攻撃。

俺がこのよく分からない力を欲したのは、何のためだ。この瞬間のためだろう―――!

ルールなんて知った事か、やれない事なぞ、ないんだ。



幻魔の扉から伸ばされた腕が、彼女の魂を捉える。

瞬間、打ち砕かれた天井の孔から、白く巨大な腕が場内へと叩き込まれた。



「『この瞬間、カミューラのデッキで発動した幻魔の扉の効果に対し、シューティング・クェーサーの効果を発動ッ!

 シューティング・クェーサーは1ターンに一度、モンスター、魔法マジックトラップの効果を無効にし、破壊する!!

 “このカードをプレイしたプレイヤーがデュエルに敗北した時、その魂を幻魔に捧げる”

 この効果を無効にし、破壊するッ! やってみせろ、シューティング・クェーサー・ドラゴンッ!!!!!』」



天井を更に破壊しながら突っ込まれた腕が、カミューラの背後の幻魔の扉へと伸ばされる。

魂を掴み、闇に引き摺りこむ腕を引き千切りながら、その手は青銅の扉を握り締めた。

バキバキと悲鳴を上げながら徐々に潰されていく扉の中で、三体の幻魔が吼える。

邪悪な波動を孕んだ断末魔がシューティング・クェーサーに対し襲いかかった。



「『逃がすかよ――――! 歩み寄れなんて言わねぇよ、だから、俺が勝手に向かって行ってやる――――!

 だからそこから動くな、その場所にいろ! こんなモノで消させたりして、たまるかよォ―――――!!!』」



星龍が鳴動する。自身を侵す悪魔の叫びに身体を震わせて、しかし怯みはしない。

黄金の双眸を輝かせ、体内の全てを振り絞るかのように、星龍は昂ぶる感情を根こそぎ咽喉から吐き出した。

世界を震撼させる咆哮に掻き消され、幻魔たちの怨嗟が、崩れ落ちていく。



幻魔の扉を掴んだシューティング・クェーサーが、それを粉砕するべく全てを注ぐ。

拉げ、裂け、割れ、砕け、地獄に通じる扉は、その効果を万全と発揮する事なく、粉砕された。

砕け散った扉の破片すら星の光が焼き尽くし、完全なる消滅を与える。



カミューラのデッキから弾き出された幻魔の扉のカードが、音もなく燃え上がる。



「あ、あ………!」

「『は、ぁ……! ハァ、ハァ、ハァ……決着だ。さあ、次は適当に雑談でもしようぜ。

 そんでもってまたデュエルだ。相手の考えに納得いくまで、殴り合おうぜ。カミューラ……」



俺たちを取り囲んでいた赤い光が消失し、意識が急速に遠くなっていく。

ああ、そんなデメリットつきか、このよくわからん状態は。

ま、いい。それならそれで。

ブラックアウトした視界で最後に視たのは、1枚のカードだった。











あのデュエルから一夜明けて。

聞いた話によると、シューティング・クェーサーの攻撃で崩落が始まっていた城は、完全に崩れてしまったらしい。

カイザーとクロノス先生の人形は約束通りカミューラが元に戻し、しかし彼女は一言も喋らなかったそうだ。

二人を戻した後、吸血蝙蝠で追いたてるように城の中から十代たちを追い出したらしい。

ちなみに、俺を一人だけ乗せてXが独走状態で最速で逃げたらしい。流石俺の相棒。

俺たちが脱出すると、城はそのまま崩れ去り、カミューラがその後どうなったかは誰も知らない。



そう聞いた。が、唯一俺には、どうなるか知らせてくれたようだ。

みんなは倒れた俺を保健室に運んでくれて、その俺は今朝眼を覚ましたわけだが。

保健室の窓際に一通、手紙があった。

俺に対するラブレターなわけでもなかったし、さして長々しい文章でもなかった。



ただ、鋭い爪で微妙に破けていたところを見るに、カミューラから、恐らく蝙蝠を使って送られたものであろう事は分かった。

要約すると、負けた自分はもう諦めて、再び眠りにつく。と言った話である。

殴り愛を強要していた俺に対し、探すなよ? 絶対に探すなよ? という命令であったと言う事だ。

多分、ネタフリじゃなくて真実もう目覚める気がないのだろう。

なら、俺は探さないし探せない。



それに、彼女が消えず、そして人の魂を生贄に同族を復活させようとする事も止めた。

それだけで十分じゃないか。

俺ができたのは、カミューラの命を何とかかんとか消す事無く、心を一歩に満たない半歩分変えただけ。

たったそれだけで、遊戯王GXという話の根幹にかかわる部分にプラスを与えられたわけじゃない。

ただの自己満足だけど、それで十分。



そんな小さな、しかし俺が齎す事のできた結果に、俺は大いに満足して、その手紙を何度も読み返すのであった。











白紙のカードに、過去に送った“端末”からデータが送り返されてくる。

紫色のカード枠。三つ首の機械龍が描かれたイラスト。

名を、サイバー・エンド・ドラゴン。

デッドコピーしたSin サイバー・エンドから送られてきた情報が得た、オリジナルのサイバー・エンドの転写。

オリジナルに比べればその格は落ちるだろうが、それは仕方あるまい。

さして手を入れずに取得できただけ、僥倖とするべきだろう。



「サイバー・エンド・ドラゴン―――

 そしてあれが、あの男が引き出した、ホープ・トゥ・エントラストの力……!

 シューティング・クェーサー・ドラゴン、私も、Z-ONEも……

 そして恐らく誰も知らぬ、新たなデルタアクセルシンクロモンスター――――!」











後☆書☆王



遊戯遊星遊馬の遊遊遊コンボ。

遊星が抜けない。落としてからの劇的な逆転は遊星のカード抜きだと難しいでござる。ソリティア的な(ry

できなくはないけど、元から超絶ごちゃ混ぜデッキなので、色々バランスとると遊星デッキをベースにするのが一番いい。

そうでないとあの謎な機械Sinの二の舞となる。

まあ一応ロマンコンボ追求型にしてはいるけどね。要するにガガガが必要だった。

ごちゃ混ぜデッキ以外で勝った事のない主人公。これは要らない新しさだったな。

最終回では遊戯アテム十代覇王遊星遊馬デッキだな、これは。



しかし、やっぱ遊星以外のカードの影が薄くなるのが問題か。ガンドラ出したかったな。

まあ、星屑系列は出番が多いけどうちの主人公が使うとかませ犬化してたしな。

やっと活躍した、って思う事にしよう。

それにしても色んな意味で情報アドって大事だね。



さて、セブンスターズ編での主人公の唯一のデュエルも消化したところで、

フォーチュンカップを終わらせにかからないとな。



主人公的能力の発露。エックス+X=X’sエックス

モデルは多分サイトスタイル。エックスなのにEXEとはこれいかに。

尤も、ホープ・トゥ・エントラストの機能の一つなのでエックスの能力なわけではない。

ホープ・トゥ・エントラスト内のブラックボックス。

搭乗者の心を読み取り、搭乗者専用の自我を形成する、遊星粒子を用いた“心”の回路で生まれたのがX。

その“心”と搭乗者自身の心を合わせる事で発現する事が可能となるシステム。

発現すると、両者の精神がより高いレベルで同調し、エックスの心が遊星粒子の溶け込む事となる。

どうなるかと言うと、凄く光る。何故ならカッコいいから。

Xがホープ・トゥ・エントラストを介し、エックスの肉体に干渉して力を発揮し、赤き竜的(地縛神的)力を一時的に与える。

遊星粒子に乗って流れてくる相手の心や、カードの心をより高い精度で感じる事ができるようにもなる。

なお、この状態でXはエックスのみならず、エックスを介してそれ以外の人間の心を読み取っている。

ただし、マスターと一体化する事によりXのテンションがアホみたいにあがる。

ついでにエックスの消耗も激しくなる。長時間維持して限界を迎えると、勝手に解除されてぶっ倒れる。

しかし、意味のない無駄なデメリット設定にすぎないので気にする必要はないだろう。厨二乙。

デュエルで何時間もかかんねーよ。精々ディアブロのバトルロイヤルくらいか。フラグ?



行間は昔HTML形式のとこに投稿してた名残りかな。

メモ帳で書いてる時、全部の行に<br>タグつけるようにしてるから。

まあ俺自身はどっちでもいいので、

1:パターンAがいい。

2:パターンBがいい。

3:オレから見ればまだ地味すぎるぜ。もっと○○で××なパターンCにするとかさ!

で、選んでくれればそうします。

多数決で選ばせてもらいますので、少数派に入ってしまった人にはごめんなさいです。

誰も答えてくれなかったらとりあえず俺が感想掲示板で自演するので、無視してくれても。



TF5の制限リストがマジ自重しない。

俺の究極完全態とマシンナーズフォースとゲートガーディアンをリリースして召喚したラーの翼神竜が火を噴くZE!



普段行かないトコに行ったら、エクシーズ始動になってるDTがあったんだ。

勿論、エクシーズ始動のカードが入ってます、ってなってる奴。

でもふらっと一回回したら、オメガの裁きのカードがでてきたんだよ。

これって怒るトコだと思うんだけどさ、百円回して出て来たのがガイアだったんだ。

これって怒ればいい? 喜べばいい?

そしてメロウガイストが1枚も出ない。





y.h様よりのご指摘。

>>クエン酸の攻撃名の初めの『ザ』は冠詞だからザ・クリエイションのがよくね?

>>クロウさんは繋げて言ってたけど、言葉の意味的にわかりやすくなると思う。



修正しました。ご指摘、ありがとうございます。

THE・クリエイションバーストにすると櫂くんっぽくなる。



q-true様よりご指摘。

>>誤字報告

>>>「サイバー・エンド・ドラゴン―――

>>> そしてあれが、あの男が引き出した、ホープ・トゥ・エントラストの力……!」

>>> シューティング・クェーサー・ドラゴン、私も、Z-ONEも……

>>> そして恐らく誰も知らぬ、新たなデルタアクセルシンクロモンスター――――!」

>>」が一つ余分かと思います。



ありがとうございます。修正しました。



これまでの意見を聞くところ、今まで通りのAパターンの方がいいのかな。

最初に意見下さったlia様に申し訳ないですが、今まで通りになってしまうようです。

すみませんが、ご了承ください。


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