1.はじまりはじまり
唐突だが、俺は死んだ。
詳細は割愛するが、確実に。
俺は死んだ。
……死んだ、はずなんだ。
けれど、意識がある。体の感覚が無い…というか、希薄なのは、ここがあの世とやらだからだろうか。
しかし、意識だけがあるというのも中々どうして、つらいものがあるな。
体が無いからなのかどうかは知らないが、何も見えないし聞こえない。試しに声を出してみようとしたが、まあ出る訳がないよな。呼吸をしてる感覚すらないんだから。
……ひょっとして、ずっとこのままなんだろうか。
この気が狂いそうな暗黒と静寂の中に意識だけ……ぞっとしないな。
つーか、死んでからの方が精神的にとはいえキツイってどうなんだ?
思考は出来るがただそれだけ、ここが何処なのかすらわからないし、どうにかなる見込みも無い。
ずっと、ずぅっとこのまま何をすることも出来ず、ただ思考するだけの存在として在り続ける。……普通に発狂エンドだな。
もしくは、そのうち俺は考える事をやめ……ってどこの究極生命体だよ! カー○か!? ○ーズ様なのか!?
…はぁ。一人ボケ突っ込みも虚しいな。というかそういうキャラでもないしね、俺。
なんとなく、家族のことを考えてみる。
母さん、姉ちゃん、そして妹。ちゃんと飯食ってるかな? うちの女衆はやれば出来るくせに家事をやろうとしないからなあ。親父、すまん。完全女性上位の我が家で俺の離脱は親父の負担が増えるだけなんだがこればかりはどうしようもない。親父がこっち来たら愚痴くらいは付き合ってやるよ。
…あ、やばい。何か本格的にへこんできた。マイナス思考ループに陥る前に何かで気を紛らわせねば!
おぉーい! だぁーれかぁー、いませんかー!?
叫んでみる。…いや、声でないからあくまでイメージってか、思考でなんだけども。
『呼んだー?』
返事キタ―――――!!?
えっちょ、おま何処に居るの!? ねぇ何処? ってか随分軽い返事だったなぁおい!
『ここだよー?』
その声が聞こえた…いやむしろ意識に直接響いた? 途端。
辺りの闇が眩い闇に変わる。…って何か判りにくいな。
例えるなら目を閉じた状態で電気スタンドを間近に持ってこられたような…瞼越しに強い光を感じているようなあの感覚を意識で直接感じて……ああいや、やっぱ例えるのは無理だ。
まあとにかく、この光(?)が声の主なのだろうか。
それよりまずは。
ここは何処だ? お前は何だ? ってか状況把握できないんだけど教えて……って何で会話が成り立っているのかも判らん! どういうことだー!?
あああああ!!
もう聞きたい事が多すぎて何から聞けばいいのかわっかんねー!!
俺がその声の主に宥められて落ち着いたのはそれから数分?(時間の概念もあやふやだから多分その位、としかわからない。もっと長いか、或いは短いかもしれない)後のことだった。
んで。
落ち着いた俺が声の主と話して……というかあっちが俺の思考を読み取って回答をこっちに寄越してきているので「話す」というのとはまたちょっと違うような気もするが……いや、大変だったんだよ。アイツとの会話。何しろこっちの思考を丸読みしてるからちょっと思考が逸れると話自体が脱線どころか大気圏突破しちゃう勢いで本題から離れていくし、軌道修整もあっちからこっち、ってかんじに振り幅がでかくてまともに話が進みやしない。しかも向こうは修正する気が無いから、必然的に俺ばかりが苦労するわけだ。
正直、話の内容とそれに費やした時間の9割9分5厘くらいは全くといっていいほど無意味なものだった。
それはさて置いて、とりあえずわかったこと。
・俺は死んだ。これはもう確定。仮死状態とかでもなく完全に「終わっている」らしい。
・でもその死は本来あるべきものじゃなかった。つまりは全くのイレギュラーだった。
・しかもその際、何でか俺の魂は、俺がもと居た世界から弾き出されてしまった。
・で此処……「俺の居た世界」と「他の世界」の狭間とでも言うべき場所に居る。
ちなみに通常、死んだものはその世界の流れに溶け込む……平たく言うと輪廻の輪に組み込まれるらしいんだが、かなりとんでもない確率でイレギュラーにイレギュラーが重なった末、異物扱いされたらしい。
俺は世界に居てはいけない存在、ノイズだったんだよ!! ……いかん、余りの事に誰にともなくトンデモな主張をしてしまった。もしここにノリのいい編集者が三人ほどいたら、「な、なんだってー!?」と打てば響くようなリアクションが返ってきていただろう。
しかし、絶対遵守の力を得た覚えも、反逆を起こした記憶も無いんだが。
むしろ周囲に流されるままに平凡な人生を送ってきたつもりなんだがなぁ。
で、まあ声の主…自己紹介されたが発音できない&聞き取れない上、ピカソのフルネームやバンコクの正式名称並みに長ったらしい名前だったので仮に【カミサマ】としておこう。実際、それに近い存在らしいし。……まあ、所詮は平凡よりやや下のいまいち出来の悪い俺の頭で処理した情報だ。どこかに間違いがあるかも知れんが誰に迷惑が掛かるわけでもないし、知ったことか。
とまあここまで説明されて、俺には三つの選択肢が与えられた。
一つ。このまま此処に居る。
二つ。俺の存在を消滅させる。
三つ。……元の世界とは異なる、別の世界の人間或いはそれに準じた知性体として転生する。
なんとなく解るかもしれないが、実質選択肢なんか無いよなぁ、これ。
一つ目の選択肢……ただでさえおかしくなりそうなのにこれ以上此処に居ようとは思えない。さっきも言ったが発狂エンドも某究極生命体エンドも真っ平ゴメンだ。
二番目も遠慮願いたい。一度死んで魂(?)になったと思ったら今度はそれすらも消えるって。【カミサマ】が言うには「精神がもたないだろうからいっそのこと消えとく?」とのことだが、相変わらず妙に言動が軽いな、コイツ。内容は洒落にならんが。
三番目。これが一番マシだろう。というか他がアレすぎる。
ちなみに「元の世界に転生」というのは駄目らしい。なんでも、一度世界に拒絶された存在を組み込むとその世界に歪みが生じ、世界も個人の人生もろくでもない結果になるとか。
流石に世界を巻き込んでのバッドエンドが確定している人生を選ぶほど酔狂じゃない。俺は平凡に、そこそこ幸せに生きたいんだ。
一応、俺の事情も考慮して幾つかの特典をつけて転生させてくれるらしい。
まあ、生まれの貴賤とかではなく、あくまでも個人の能力として、って言うことだったけど。
……転生物にありがちの強くてニューゲームって奴ですね。わかります。
何か希望はあるかって聞かれたので、サバイバル技術と医療知識及び技術を希望してみた。どんな世界に行くことになるのかはわからないが、少なくともそれらがあればどんな未開の地でも多少は生きられる確率が上がるだろう。それなりに文明の発展しているところなら医者として収入も得られるだろうし、くいっぱぐれる事もないだろう。……多分、な。
何か他にも特典くれるみたいな事言ってたけど力のなんたらとか知恵がどうとかって言われてもねぇ……。いや、くれるんならもらうけどさ。俺が持ってても宝の持ち腐れにしかならんと思うよ?
これまでの流れを回想しつつ、考えをまとめているうちに転生の準備が出来たらしい。
どこかへと引っ張られるような感覚と、その先に温かさ? のようなものを感じるような……やはりよくわからん。
『いってらー』
いってきまーす! って最後まで軽いな! 思わず普通に返しちまったじゃねぇか!
2.転生! 驚愕! 絶望! ……orz
そんなこんなでこんにちは。俺ですよ?
無事におぎゃあと生まれて五年目。前世の記憶が完全復活した俺は………この上なく打ちひしがれていた。
物心ついた頃から何かこう、もやもやしたものを感じていた俺は記憶を取り戻す事でやっと、その正体に行き着き、そして愕然とした。
この世界……俺たちが暮らす惑星の名前は「オールドラント」というらしい。
なーんか聞き覚えがあるぞ…? いや、まさかな…。偶然だよね!
俺の所属国は「マルクト帝国」といい、その国でもかなりクソ寒いこの街…「ケテルブルク」で生まれ育った。
やっぱりこれ、「テイルズ オブ ジ アビス」の世界だよな……。しかも、俺の記憶が確かならば、この街の出身で物語上重要な人物が三人は居たよなぁ…。
そして、最後…今の今まで考えないように、全力で意識しないようにしていた(現実逃避とも言う)俺の――「僕」の名前は。
サフィール・ワイヨン・ネイス。
…………? ←とっさに思い出せない。
……
…
! ←思い出した。
ディストかよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!
え゛ぇー、アビスの二次創作は結構読んでたけどこういう場合って転生先は大抵主人公のレプリカルークとかPTメンバーじゃねぇの? あ、でもゲーム通りにいくとルーク死ぬんだよな。EDで戻ってきたのも公式では明言されてないけど大爆発とか考えるとアッシュっぽいし。
PTメンバーもなぁ……厳しめ系ばかり読んでいたのもあるけど、本編とTOW2で愛想が尽きてるからそれはそれで嫌だな。……まぁその中の一人とはどう足掻いても関わらざるを得ないんだけど。
何しろ同じ街に居る訳だし。……以前読んだssみたいにツッコミ感覚で譜術とかぶっ放さないだろうな、あの陰険鬼畜眼鏡……その場合十中八九的は俺だからホント勘弁して欲しい。
……ん?
あれ? そういえばディストって最終的にどうなるんだっけ?
いや、白状すると据え置き機のハードは妹が独占状態で、アビスは妹がやってるのを横で見ていただけなんだよね。だから所々知らないことが多かったり、二次創作と知識がごっちゃ混ぜになっているんだけどアレは見ていて自分でやる気失せたわ。アクゼリュス前後とか思い出すだけで胸糞悪い。
まあそれは置いといて。
同じ六神将でもシンクやアリエッタの最期は印象深かったけどディストは……無理。思い出せない。
ゲームだとやられキャラのイメージが強いし、二次創作だとおかんキャラ……というか文句言いながらも面倒見のいい苦労人って言うイメージが強くてそれ以外が印象に残ってない。綺麗さっぱり、すっぱりと。
…まあ多分死ぬんだろうけどさ。
ま、まあアレだ。とにかく平穏に過ごせればいいわけだからダアトに亡命もせずマルクト国内で何もせずに大人しくしていれば六神将になる事も無く……あれ?
・何もしない(六神将にならない)
↓
・ヴァンにレプリカ技術が伝わらない。よしんば伝わったとしてフォミクリ―用音機関はディストが開発したもの(原型となった譜術はジェイドの開発したものだけど、音機関として譜業化したのはディストだよな、確か?)だからヴァンにはどうしようもない。
↓
・ルークをはじめとするレプリカたちが生まれない。
↓
・予言成就に向けてまっしぐら。世界終了のお知らせ。もしくはヴァンが何かやらかして終了。
あれ? あっるえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!??
いやいやいや。マジか?
『ディストかよ!』とか言ってたら実は割と世界の命運握っていたでござる。……いかん、混乱のあまり語尾が武士になってしまった。
あ! あいつがいた! 確かス……スプー…は違うな。スピカ? そんな綺麗な名前じゃなかった。スピン……ちょっと近くなった? スピノ…ザ? そう、スピノザとかいうジジイ。
あいつもヴァンの配下だったし俺が居なくてもどうにかなるかも!
……いや、駄目だ。信用できない。何しろあいつのやったことって「地核振動停止作戦を密告してシェリダン襲撃、虐殺の手引きをした」だけだもんな。
ゲーム内であいつの技術者(研究者だっけ?)としての評価についてほぼ全くといっていいほど触れて無いから過度の期待はしないほうがいいかも。何か小物臭かったような覚えもあるし。
つまりあれか。俺が――現サフィール・ワイヨン・ネイスであり、約30年後、死神の二つ名を冠する(自称は薔薇、だったか)六神将、ディストに転生しちまった俺が最低でもフォミクリー用音機関を完成させないとオールドラントは予言どおり、或いは自棄を起こしたヴァン・グランツのせいで滅んで終わる、と。
ヴァンによるホド崩落を阻止するってのも考えたけどあれは別にヴァンの意志ではなかったからどうしたらいいものか見当もつかない。別にレプリカ使わなくても擬似超振動なんて第七音譜術師がいれば起こせるわけだしな。何よりあいつが行動起こさないと世界がパッセージリングの存在や瘴気をはじめとする危険に気付かない。
前世では十代のうちに死んで、その次は40前に世界が滅んで、滅ばなくてもゲームどおりの内容ならろくでもない結末で人生終了って、これなら世界道連れにしてでも元の世界に転生したほうがまだマシだったような気がしてきたよ。
恨むぜ、【カミサマ】。いやこの場合はローレライ、か?
こうして、二十一世紀の現代日本に生きる、平凡な日常とささやかな幸せを愛する一般人だった俺は、この星そのものを含めた世界の命運を間接的にとはいえ担わせられることとなり、がっくりと肩を落として地を這うような重いため息をついたのだった。
3.決意
はいこんにちは。生まれ変わって現在サフィーr……言いにくいな。つか長いんだよこの名前。ディストでいいや。ディスト(予定)な俺です。まだ一応この名前名乗れないけどな!
テンション高めなのも理由がある。あれからよく考えてみたんだがディストはコーラル城のフォンスロット開放イベントまでレプリカルークと接触してないんじゃないか? じゃなきゃ完全同位体のデータなんて既に持ってるだろうし。つまりレプリカルークを作ったのはスピノザ辺りで、ディストがヴァンの一味に加入したのはそれ以降ってことだよな。
そう考えると俺の責任って殆ど無いからかなり楽。フォミクリー音機関だってベルケンドの連中やマルクトの技術者あたりが力を合わせれば作れるんじゃないのー? あの眼鏡もそこらへんの知恵は回るみたいだし。
一般常識は無いけどな!
というわけで俺は俺のやりたい事をやるぜヒャッハー!
とまあ空元気で騒ぐのもこのくらいにして。
…………はぁ。
…誰にとも無くモノローグを垂れ流す程度にたそがれています。察してください。
何でって?
寒いんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!
寒い! 寒いよケテルブルク!! こんなの耐えられねぇよ! 温帯に属する日本の、若干北のほうとはいえ首都出身だぞ俺!? あと夏生まれだしな!!
……いや、多分肉体的には補正がかかってるんだと思う。この体はまごうことなくオールドラント産で、元の俺の身体なら間違いなく凍死できる寒さでも多少耐えられそうではあるんだが、いかんせん精神的には「寒いの苦手」ってのが根付いちまってるから、外の銀世界を見ただけでお腹一杯。遊ぶ気になんてなれません。
俺のイノセンス(某対アクマ武器ではない。念のため)はそんじょそこらの幼児にも引けを取らないぜ!! …なんて、思っていた時期が俺にもありました。
向ける視線は窓の外。
このクソ寒い中、あんな冷たいものをぶつけ合ってよく笑ってられるな。すげーよ幼児マジすげー。この寒さで雪合戦して、よく死なないな。冗談抜きで心臓麻痺の危険性があるぞ。
…どうでもいいところで【カミサマ】にねだった医療知識がでてきたな。一応転生時につけてもらった特典は機能しているようで何よりだ。……活用される機会はほぼなさそうだが。
そんなわけで俺は基本一日中引きこもり、暖かい暖炉の前で本を読んで過ごしている。
友達? んなもんいるわけない。敢えて挙げるなら愛と勇気ならぬ布団と暖炉だけが友達だ。あと本。
しかし流石5歳児の身体、ちょっと厚い本だと保持する事すら一苦労だ。
こういう時、炬燵があればなあってつくづく思う。ごろんと横になって本をひろげれば随分楽だし、そのまま寝ることだって出来る。ああ炬燵、ビバ炬燵。
まさか異世界で最も恋しくなるのがコタツだとは夢にも思わなかったが、好きなものは好きなんだからしょうがない。
いっそ作るか? 電気無いから掘り炬燵とかになりそうだけど。あ、でもそれだと横になりにくそうだな。やはり音機関で再現するしかないようだ。
………よし、勉強しよう。
すべては炬燵のために!! ハイル炬燵! ジーク炬燵!!
完成した暁にはオールドラントに暖房革命を巻き起こし、ガッポガポのウッハウハだ!!
そして富と名誉を手に入れ、人は俺を王と呼び称えるだろう。そう――
暖房王に、俺はなるっ!!
それこそが、俺がこの世界で成すべき事だと信じて決意を固める。
……季節の移ろいの乏しいオールドラントで暖房器具の普及などケテルブルク周辺のような気候の土地以外では殆ど意味のない(大抵暖炉や温石で事足りるため)ことだと気づくのは、故郷を飛び出した後のことだったりするのだが、それはまた別の話だ。
(あとがき)
どうも、寒くてタイプミス連発の凰雅です。
このssですが、TOW3発売記念…というよりその前にゲーム雑誌でヴァン・グランツ参戦を知って
「よっしゃー! これでTOA厳しめサイトが盛り上がるぜー!!(←アビス厳しめss大好き)」
とヒャッハーした挙句、
「よし! 考えていた一人称の練習はヴァン転生物でやろう!」
と決意したのもつかの間、ネタがまったく浮かばず、気がついたらこうなってました。これから更にカオスに、捏造設定てんこ盛りになっていくであろうこのssですが、楽しんでいただけたら幸いです。
題名未定……? ぎゃ、逆転検事2が終わったらね!