さて、僕がこの苦境に陥ったのには原因がある。
無論、伯父上の命令であるが、今回の件には黒幕がいた。
フェザーン自治領主、アドリアン・ルビンスキーのハゲ野郎である。
事態は半月前にさかのぼる。
「あの孺子めが、事もあろうにローエングラム伯爵を名乗るようになったのは、ヨヒアム! そなたにも責任があるのだぞ!」
伯父上に怒られた。
正直、僕程度ではどうにもならなかったに違いないのだが、こういうときに反論すると余計怒るので黙って俯く。
というか今更このことを蒸し返されるとは思わなかった。
もう4月も半ばとなり、覚醒ラインハルトがローエングラム伯になったのは一月以上も前のことだ。
とりなして貰おうと、傍らに控えるアンスバッハさんに視線を送るが、反応してくれなかった。
なんてこった。
「だが、ワシは寛大であるからな。そなたに失地挽回の機会を与える」
ん?
どゆこと?
「あのフェザーンの黒狐めから、叛徒どもがイゼルローン攻略の報がきた。そなたは要塞司令官となり、叛徒どもに身の程を教えてやるのだ!」
はぁ?
「それをもって、孺子の一件は帳消しとする」
そう言って、伯父上はいい笑顔で執務室を後にした。
その後、アンスバッハさんが色々と補足してくれた。
要するに、伯父上は僕をローエングラム伯の対抗馬としたいらしい。
で、そんな時にフェザーンから同盟のイゼルローン要塞攻略艦隊が編成されたとの一報が入る。
それでこんな事を思いついたとのこと。
なにそれ。
アンスバッハさんも見てないで止めてくださいよ。
え? 貴方なら出来るって?
いやいや、ヤンじゃあるまいし。
無茶だから伯父上を説得しましょうよ。
だが、現実は非情である。
僕のイゼルローン要塞派遣はあっという間に決まってしまった。
本来であれば果報を寝て待つつもりであったというのに、流されるまま僕は碌な準備もできずにイゼルローン要塞に赴任することとなったのだ。
結局、原作通りゼークト大将は出撃してしまった。
一応、原作のシュトックハウゼン大将が言ったような嫌味は言ってないのだが、オーベルシュタインの意見にも耳を貸さずに行ってしまった。
……これ、ルビンスキーのハゲ野郎の謀略だろ。
原作以上にアスターテで勝ちすぎたもんな、多分あっちで調整しているんだろう。
そもそも、同盟の極秘情報を一番に伯父上が耳にするのがおかしい。
原作でアムリッツァのときはなんかは、フェザーンにいた人から政府のほうに連絡がいったはずなのだ。
それなのに一番に伯父上。
おそらく伯父上が派閥の誰かを派遣して、無駄な犠牲が出るよう情報を流したのだ。
そもそも、あのハゲも要塞が落ちるとは思ってないだろうし。
主砲を撃つだけで勝てた昔はともかく、最近では勝ってもそれなりに被害を食らうのがイゼルローン要塞の現状だ。
門閥貴族の馬鹿がやれば被害を増やしてくれると踏んだのだろう。
そんなことを考えながら司令部でぼけっとしていると、例の味方が攻撃を受けているとの報が入った。
砲撃戦の指示を出す。
「叛乱軍、およそ30000! ですが要塞主砲範囲に入ってきません!」
あれ?
半個艦隊じゃない?
そこ、勝てないこと分かってやがるぜ。とか言ってる場合か!
30000だと?
駐留艦隊不在で、丸裸の要塞に30000もの大艦隊とか無茶振り過ぎるだろ。
僕は幕僚の味方艦受け入れに許可を出しつつ、予想外の事態に大慌てだった。
ひょとして駐留艦隊全滅した?
オーベルシュタイン死んだ?
そんなことより、僕、大ピンチじゃね?