僕がヤンの名に慄いているうちに、所謂アスターテ会戦最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
まあでも、ヤンが指揮を執るまでこっちの優勢は確実だもんね。
その上、僕がいようがいまいがこの分艦隊の戦闘力に変わりは無いしね。
今回の先鋒は双璧が務める模様。
中央にラインハルト本隊、左右に両分艦隊が配置されている。
「すでに相手は逃げ腰だ。対する此方の士気は比べるに値せん。下手に小細工するより、正面からぶつかるほうが相手の行動を縛れるからな」
原作のときから感じていた疑問が顔に浮かんだのか、ファーレンハイトさんが今回の戦闘状況を解説してくれる。
疑問は、わざわざ正面から戦いに臨んだラインハルトの行動である。
なるほど。
この後、とどめに中央突破を狙うわけだが、それにしくじった感がするせいでミスに思えたのか。
「流石だな。相手が不甲斐ない、という面があるのを差し引いてもあの二人の艦隊機動に卒が無い」
真っ先に飛び出たミッターマイヤー艦隊に、追随するロイエンタール艦隊がまごつく敵艦を瞬く間に火球へと変えていく。
というか、速すぎる。
なんだこの練度?
強襲したミッターマイヤーが引くと同時に、叛乱軍の一部が釣られ、それをロイエンタールが掃討する。
各々2000の艦艇の動きに見えない。
「うわ、3回の強襲で敵の前衛がボロボロだ」
「うむ、敵は二人の連動についていけない。さて、止めといくか」
僕が呆気にとられ、ファーレンハイトさんがそう言うと同時に、旗艦ブリュヒンヒルドからの通信回線が繋がった。
『全艦、一斉射撃。ファイエル!』
覚醒ラインハルトが簡潔な指示の後、号令を下す。
双璧が崩した陣形に、いまだ15000を超える帝国艦艇から一斉に放たれた攻撃が叛乱軍に襲い掛かる。
そしてそれにまったく対応できていない叛乱軍。
今の一撃で2000近く吹っ飛んだんじゃないか? これ。
普通ならここで勝負ありなのにな~。
「ふむ、やったか? これは」
あ、その台詞は……
『敵の混乱に乗じ、半包囲に移行する』
え?
どういうこと?
「フレーゲル分艦隊、左翼のメルカッツ分艦隊にあわせて前進!」
僕が頭に疑問視を浮かべまくっている最中にも、状況は進行している。
こういう時、ファーレンハイトさんは僕を無視して指揮とか執ってくれるので非常に助かる。
いや、そうじゃない。
あれ?
どうなってるの?
ヤンが全回線で、私の指揮なら負けはしない(キリッ! とかやる場面じゃなかった?
ラインハルトが中央突破を逆手に取られるんじゃないのか?
混乱している僕を尻目に、帝国軍はあれよあれよと叛乱軍を押し込んでゆく。
「ん? まともに機能してない? 叛乱軍グダグダ?」
ふと、叛乱軍の動きが初めの敵艦隊、その最後のほうの動きと重なって見える。
「おそらく旗艦が沈んだな。その後は分艦隊旗艦と思わしき艦をあの二人が集中的に叩いている。後は見ての通りだ」
僕の呟きが聞こえたのか、ファーレンハイトさんが簡潔に解説してくれた。
え?
旗艦が沈んだ?
え?
え?
ヤン死んだ?
え?
マジで死んだのか?
叛乱軍の反撃は、すでに散発的になっていた。
やけくそになったのか、此方に突っ込んでくる艦艇。
盲目的にその場で反撃している艦艇。
反転回頭して逃げようとしている艦艇。
そんなあらゆる叛乱軍の艦艇に、分け隔てなくこちらの攻撃は降り注いだ。
3時間後、残敵掃討は終了した。
終わってみれば、此方の被害は1000未満、戦死者も正確にはまだわからないが10万に届くことはなさそうとか。
完全勝利にも程があるでしょう……
対する同盟は三個艦隊壊滅とか、涙目すぎるというのに。
というかヤンがデビュー前に死亡とか、イミフすぎる。