作戦に何か感じたのか、ファーレンハイトさんが勝手に先鋒を申し出てしまった。
なんだこれ? 歴史の修正力とかいうやつか?
「ほう、あの艦隊を実質的に率いているのはファーレンハイト少将か……」
「ああ、あの男は部下をうまく扱う程度の才覚は持っている」
「……」
僕がラインハルトの威風に気圧されている間に、フレーゲル分艦隊は先鋒に決まってしまった。
分艦隊旗艦ダルムシュタットに戻るなり、ファーレンハイトさんは張り切って部下に指示を出している。
基本的に戦場で僕に出来ることはない。
邪魔をしないのが一番だ。
なんだか原作通り展開が進むと、逆に不安になってくるな。
帝国艦隊は覚醒ラインハルトの作戦通り、正面から接近していた叛乱軍に先制攻撃を仕掛けることに成功した。
「ファイエル!」
ファーレンハイトさんの号令と共に、先鋒5000の一斉攻撃がおよそ12000の敵軍に降り注いだ。
僕は例によって提督席でそれを眺めているだけだ。
「……ホント、半年前とは雲泥の差だ」
この半年間ファーレンハイトさんと共に行った、伯父上の私兵の訓練を思い出し、僕は感慨に耽る。
本当、訓練開始当初はどうしようもなかったものだ。
勝手な判断で攻撃するわ、移動するわで、命令は無視するもの! とでも考えている様な連中ばかり。
それをファーレンハイトさんの指示の元、僕が伯父上の威光をちらつかせながらバシバシ指導していく。
かなりの数の貴族士官に恨まれた自覚はある。
が、結局彼らも、僕と同じで伯父上の権勢にぶら下がっている子爵以下のボンボンたちだ。
伯父上のお気に入りである僕に逆らうような気迫のあるやつはいなかった。
そして、ファーレンハイトさんが兵士たちの支持を集めたことは言うまでもない。
うん、そうなるよね。
さて、僕が回想に耽っているうちに、叛乱軍の組織的抵抗は見られなくなっていた。
ファーレンハイトさんの指示で旗艦に通信を繋ぐと、ちょうどメルカッツさんが掃討戦の具申をしているところであった。
覚醒ラインハルトは原作と同じくそれを却下し、即座に次の艦隊へと進軍を開始するよう命令を出した。
次の先鋒はメルカッツさん。双璧は最後の締めを務めるのかな? たしか原作ではここで無双していた気がしたけど。
その命令を聞いていたファーレンハイトさんは実に楽しそうだった。
なんで?
そんなこんなで4時間後、時計回りに迂回した帝国艦隊は叛乱軍の後背を取ることに成功していた。
老練なメルカッツさんの分艦隊の一糸乱れぬ行動!
凄いと、見とれるしかない。
伯父上の私兵30000全てがあの行動を取れれば、リップシュタットでも多少安心できるのに……
「あ……」
「これは、なんと……」
そういや反転迎撃はここか。
叛乱軍の全艦艇が回頭する。
結果、無防備な艦艇側面がさらけ出される。
それを見逃す帝国軍指揮官はこの場にいなかった。
戦闘に要した時間は、先の艦隊撃破にかかった時間のおよそ半分。
こちらの被害は言うまでもなかった。
帝国艦隊には戦勝ムードすら漂っていた。
残る叛乱軍の艦隊は戦闘前の三分の一。
純粋な数で見ても、負ける要素はまず無いだろう。
しかし僕はそんな気分にはなれなかった。
ヤン・ウェンリーである。
この僕、フレーゲル男爵がヤンというチートと関わることなど、原作を考えればあろうはずも無いため、今の今まで存在を忘れていた。
「……何も考え付かない」
とはいえ、ヤンの存在を思い出したとはいえ、僕がそれに対して何が出来るのか考えもつかない。
尊敬するヘイン○さんですら倒せなかったチート・オブ・チートである。
いったい僕に何が出来るというのか。
そんな僕の苦悩をあざ笑うかのように、帝国艦隊は叛乱軍と正面から対峙している。
うん。何をしても、もう遅いよね。