帝国暦487年、ラインハルト・フォン・ミューゼル大将は20000の艦隊を率い、同盟領へと侵攻した。
「星を見ているのか?」
いえ、今までの人生を考えています。
ファーレンハイトさんの言葉に、僕は頭を振った。
「どうしてこうなった……」
僕は今、アスターテ星域にいます。
昨年で急速に原作と隔離した歴史により、この先の出来事が一切読めなくなった僕は、来るべきリップシュタット戦役に備え、ファーレンハイトさんと一緒に艦隊の整備に勤しんでいた。
ファーレンハイトさんの艦隊5000に、伯父上の私兵が30000。
これがブラウンシュバイク元帥府の戦力である。
が、現状、まともに戦力になるのはファーレンハイトさんの艦隊のみである。
伯父上の私兵は贔屓目にも見るべきところがない、烏合の衆そのものだ。
これを来るべき日までに、何とか運用できるレベルに持っていくのが目標だ。
年明けと共に、帝国軍上層部と伯父上らが忙しく動き始め、ラインハルトの出兵が決定していた。
この機にラインハルトを亡き者にせんとの動きである。
関係ないね、と僕は艦隊整備に力を入れていたのだが、シューマッハさんの一報を聞いて飛び上がらんほどに驚いた。
叛乱軍討伐艦隊:20000
ラインハルト艦隊:10000
・参謀長:メックリンガー准将
・幕僚:ロイエンタール少将
ミッターマイヤー少将
メルカッツ分艦隊:5000
フレーゲル分艦隊:5000
「どういうことなの?」
僕は伯父上の元帥府の参謀長ではなっかったですか?
それが艦隊を率いるとかどうなってんの?
というかコレ、ラインハルトを亡き者にとか言ってる割りに、かなりガチな編成じゃありません? 僕を除いてだけど。
「どうやら、ブラウンシュバイク公は本気でミューゼル大将を殺しにかかったようだな」
えー? ファーレンハイトさん。どういうこと?
どうやらこういうことらしい。
ミュッケンベルガーのおっさんは、前回の戦いでラインハルトに翳りが見えたと捉え、戦力の減ったラインハルト艦隊に融通の利かないメルカッツさんを加え、失点の追加を目論んだようだ。
対する伯父上は、それを手緩いと断定。追加で僕に私兵を率いさせ、ラインハルトを戦死に追い込みたい考えみたいだ。
いやいやいや……意味が分からない。
伯父上の中で、僕はどんだけ使える提督になっていますか?
僕死んじゃいますよー?
まあ、伯父上に限らず僕ら門閥貴族は同盟なんて見てないもんね。
「さて、どうする? 正直、卿の力ではどうにもならんと思うが」
「お願い、付いてきて!」
ファーレンハイトさんの意地悪な問いかけに、僕は即答する。
ブライドとかよりも命が大事だ。
「……まあ、よかろう。が、タダという訳にはいかんな」
「帰還後、一ヶ月おごりで!」
「ふむ、決まりだな」
そんな僕とファーレンハイトさんのやり取りを、シューマッハさんが見ていた。
(安いなー)
さて、侵攻した僕ら20000の艦隊を待ち構えていたのは、40000の叛乱軍。
こんなところだけ、呆れるぐらいに原作どおりである。
「旗艦より召集がかかったぞ」
ファーレンハイトさんが言う。
同盟が倍の戦力を繰り出してきたため、艦橋には悲観的な空気が漂っている。
無理を言って、分艦隊の中核1000はファーレンハイトさんの艦隊から出してもらったのだが、それでもこの空気である。
「普通なら撤退だね」
「その知らせかもしれんぞ?」
前世知識からないと知っている僕が言うと、ラインハルトの立場的にありえんと言わんばかりにファーレンハイトさんが笑った。
メルカッツさんの発言より始まった議論の場、というよりラインハルトの独演会は30分ほどで終わりを告げる。
ここ最近、ラインハルトを直に見てなかったけど、こんなヤバいオーラみたいのでてたか?
僕みたいな凡人、ちょいと呼吸に難が出るほど気圧されるんですが。
……ひょっとして、覚醒してる?
作戦は3方から迫る叛乱軍を、各個撃破することに決定した。