オーディンに帰還した僕は伯父上から大いに褒められた。
早速、三長官を兼任しようと薦められたが断る。
粛清フラグは早めに叩き折らねば。
僕は部下の昇進をお願いし、討伐に参加した将兵は大体一階級昇進した。
主だったところでは、アーダルベルトさんとゼークトのヒゲが元帥に、ミッターマイヤーが上級大将。
メックリンガーさんにミュラーとかの諸提督が大将。
シュトライトさんとシューマッハさんが中将、フェルナーくんは少将となった。
唯一、生者ではオーベルシュタインのみ二階級特進で上級大将である。
戦死したオフレッサーのおっさんは帝国元帥に、役職はそのまま装甲擲弾兵総監。
同じく戦死したおっさんの部下も二階級特進、お墓は公営墓地の一角にまとめることにした。
おっさんのお墓自体は普通のものだったが、僕の希望で『銀河最強の戦士、ここに眠る』と入れてもらった。
さて、続いては陰謀のお時間である。
帰りの最中、オーベルシュタインから粛清の危険性を説かれるまでも無く、僕の立ち位置の微妙さは承知していた。
過去の歴史を見てもわかるように、いかほどの親族血族が権力を争って殺しあってきたか。
その上、エリザベート陛下ちゃんの婿候補第一位らしいので、他の貴族からの嫉妬がやばいらしい。
というわけで出る杭が打たれる前に、さっさと頭を引っ込めねば。
まずは宇宙艦隊司令長官をゼークトのヒゲに譲る。
その押さえと僕の連絡役にシュトライトさんを起用。
領地はあえて辺境を貰い、ついでにイゼルローンの指揮権も強請ってみる。
伯父上はご機嫌だったので、だいたいの要望は通った。
司令長官を引くと言うのには不思議顔であったが、僕が自分が地位に固執していると伯父上の派閥の人たちに悪い、みたいな事を言っら納得してくれた。
オーベルシュタインのカンペはすごいなあ。
こうして、僕はフレーゲル辺境伯となり私兵10000と共にイゼルローンに赴任することとなった。
同行したのはアーダルベルトさんとオーベルシュタインにメックリンガーさん、シューマッハさんにフェルナーくん。
ついでに親友アルフレットも同行した。
なんでも辺境の民の暮らしを詩にしたいとか。
僕のイゼルローン赴任と共に、シュトックハウゼンともう一人の大将は中央へと栄転していった。
要塞司令官は僕、フレーゲル元帥。
駐留艦隊司令官はアーダルベルトさん、ファーレンハイト元帥である。
駐留艦隊は私兵を合わせて25000。
私兵といっても最初期からのファーレンハイト艦隊を中心に連れてきたので練度などは問題なかった。
あと領地に貰った辺境星域の内政官にには、一緒に連れてきたカール・ブラッケとオイゲン・リヒターを起用。
シルヴァーベルヒには断られた。あとは忘れたのでさそっていない。
財源はないけど搾取はしないから税収でがんばってね、と下からの改革を目指す二人に丸投げする。
正直、原作で何がどうなった的なことが無かった気がしていたので、気軽に改革が成功したら他の辺境星域にも施行して良いよと言ったのだが。
まさか、本当に数年で人口・税収を倍にしてくるとは思わなかった。
メックリンガーさんは日々の業務の間に辺境星域を視察、暇を見つけては風景画などを描いている。
親友アルフレットは毎日暇なので、ちょくちょく辺境星域を旅し、しんみりくるポエムを創っていた。
イゼルローンに拘ったのはオーベルシュタイン。
理由は不明であるが、オーベルシュタインの言うことに間違いは無いので素直に聞く。
アーダルベルトさんが言うにはロイエンタールが同盟に亡命した場合、色々と面倒になるとのことだ。
なるほど、ロイエンタールか。
メルカッツさんは戦死したので、そのへんのことは一切考えてなかった。
幸い、その後数年にわたり叛乱軍がイゼルローンに攻め寄せることは無かった。
あと地球教を思い出したので、オーベルシュタインと対策を練る。
このまま大きな軍事行動も無ければ、無事天寿をまっとうできるかな~と考えているときに思い出した地球教。
あの連中、帝国と同盟が平和になるとまずいんだった。
僕は原作通り連中の本拠地を襲撃するしかないと思っていたのだが、流石オーベルシュタインは格が違った。
なんと、連中の手先であるルビンスキーのハゲ野郎を巻き込んで、一気に殲滅することを提案してきたのである。
まあ、実際あのハゲからしても連中は目上の瘤だろうし、うまくいくやもしれん。
一応最悪を考えて、フェルナーくんに指示し地球教の巡礼者に紛れさせて情報部の人間を派遣し、地球の位置を確認しておく。
アーダルベルトさんに頼んで高速戦艦中心の機動艦隊5000を即座に展開できるようにする。
ハゲとの交渉が失敗したときの保険だ。
幸いにも、ルビンスキーのハゲはこちらの提案に乗ってきた。
なんだかんだで、あのハゲもうるさい老人どもには辟易していたということだろう。
その後、ロイエンタール捜索の名目でフェザーンに乗り込み、地球教幹部を一斉に検挙する。
同時に、本拠地である地球の地下施設もじっくり軌道上から爆撃。
地球襲撃艦隊は爆撃後も半年ほど軌道上に留まり、脱出者の検挙に務めた。
帝国、同盟に存在する教徒はルビンスキーの息がかかった人間に、それまでどおり表向きの活動をさせることでテロリストとしての側面をゆっくりと消していく。
足掛け3年ほどかかったが、ルビンスキーとオーベルシュタインという悪夢のコンビにより、地球教はだいたい無力化された。
まあ、ルビンスキーのハゲの力が増したのは面倒だが、僕にはあまり関係ないのでよしとする。
そんなこんなで、僕はイゼルローンでそれなりに平和に過ごしていた。
帝国暦493年、6月。副宰相リヒテンラーデ侯死去。
中央で伯父上と暗闘を繰り返していた陰謀家の爺がついに死んだ。
伯父上を排除すべく、いろいろと策謀を練っていたようだが、結局私有の武力を持っていなかったことと、僕がさっさと辺境に引っ込んだことでだいたい失敗したらしい。
まあ、伯父上も爺を排除するのに手間取り、あまり国政を好き勝手できなかったようではあるが。
なんだかんだで爺を死ぬまで排除できなかったのは、リッテンハイム事件が短期で終わってしまったため、権勢を手にしたのが初めに伯父上の味方をした門閥貴族のみだったことに起因する。
で、伯父上も日和見した連中にはリッテンハイム派から奪った富の分配などしなかったので、潜在的には伯父上派だった連中も爺の誘いにのる場合が多々見られたとの事。
しかし、なんだかんだで軍は伯父上側であり、私兵も他の連中の私兵とは比べ物にならないほど練度に勝っている。
結局、爺が武力で伯父上に対抗することは無かった。
それでも、爺も死ぬまでぼろを出さなかったこともあり、伯父上も中々好き勝手できなかったようである。
まあ、僕には関係の無い話だが。
同年、8月。
アンスバッハさんに呼ばれたので、オーベルシュタインの進言に従い私兵10000を率いてオーディンに帰還。
理由は不明だったのだが、オーディンについて判明した。
伯父上が危篤である。
……これもオーベルシュタインの仕業だろうか? 正直、怖くて聞けない。
伯父上は僕にエリザベート陛下ちゃんと結婚し、ブラウンシュバイク家を継ぐように言うとそのまま意識不明に陥った。
僕は一緒にいたエリザベート陛下ちゃんと共にあわあわと混乱していたのだが、アンスバッハさんとオーベルシュタインが抜かりなく事を進めてくれました。
そして伯父上はそのまま目覚めることなく、ヴァルハラへと旅立っていった。
結局、僕の両親のこととか聞かず仕舞いだったけど、伯父上のこと大好きだったよ。
うん、結構無茶振り振られたりもしたけど、今じゃいい思い出だしね。
オットー伯父さん、ブラウンシュバイク家のことは任されました。
翌日、僕はエリザベート陛下ちゃんと結婚し、帝国宰相となった。
さて、人事である。
とくに考えることなく、オーベルシュタインを軍務尚書に任命。
アーダルベルトさんは統帥本部総長に、ゼークトのヒゲは留任。
国務尚書にマリーンドルフ伯。
工部尚書にシルヴァーベルヒを任命したら今度はちゃんと来た。
あとは辺境でちゃんと成果を上げたカール・ブラッケとオイゲン・リヒターをそれぞれ民政尚書、財務尚書とする。
残りは覚えていないので、マリーンドルフ伯とカール、オイゲンの推薦で残りの尚書を決めた。
まあ、伯父上の派閥連中は大反対したが。
反対しなかったのは、身内人事でそれなりのポストを手に入れた昔の取り巻き連中ぐらいか。
おかげで反乱祭りである。
というか、意図的にオーベルシュタインがルビンスキーを通じて反乱に誘導しているらしい。
しかも、ここ5年戦争が無かったもんだから軍の連中も張り切ってる。
特に平民出身は、出世できて貴族を倒せて二度嬉しいらしい。
反乱はオーベルシュタインのコントロール下で小規模に多発し、軍功の稼ぎ場となった。
また、辺境星域の行政改革成功は貴族領内での暴動につながり、自滅する貴族も多く見られるようになる。
この反乱祭りは3年ほど継続したのだが、大規模な戦闘は起きず、しかも祭りの前には2000以上いた貴族が500以下に減少した結果、帝国の国力は普通に上がったのである。
そして、叛乱軍はこの期間もイゼルローンに押し寄せることは無かった。
「我が友ヨヒアム、日々忙しそうだね」
「いや、まあ意外とそうでもない」
「というと?」
「宰相というのもこの二言があれば、まあ何とかなるもんで。『その案件はオーベルシュタインと協議して決定するように』と『その案件はオーベルシュタインの裁量に任せる』って言っとけばまず間違いない」
「我が友ヨヒアム、ファーレンハイト元帥とオーベルシュタイン元帥の意見が対立していた場合はどうするんだい?」
「オーベルシュタインを選ぶ」
「ほう?」
「公務ならアーダルベルトも正しいが、オーベルシュタインのほうがより正しい。無論、私事ならアーダルベルトを優先するけど」
~アルフレット・フォン・ランズベルクの日記より~
帝国暦498年。待望の第一子誕生である。
子供が生まれた翌日、オーベルシュタインが王朝をブラウンシュバイクに変更してはどうかと進言してきた。
ようやく、オーベルシュタインがいままで協力してくれたことに納得がいった僕は頷いた。
帝国暦499年、ブラウンシュバイク王朝成立。新帝国暦元年となる。
新帝国暦15年。
フェザーンにてブラウンシュバイク朝銀河帝国と新自由惑星同盟の国交正常化式典が執り行われた。
両国の代表は、帝国宰相ヨヒアム・フォン・フレーゲル公爵と同盟初代大統領ジェシカ・エドワーズ。
両者が書類にサインを終え、握手を交わすと、式典会場から盛大な拍手が起こった。
それを会場端で眺めるのは端麗な容姿をそのままに見目麗しく初老の域に達したオスカー・フォン・ロイエンタール。
新自由惑星同盟で統合作戦本部長ユリアン・グリーンヒル元帥の下で、次長の職務にある。
かつて、最大の敵と目した男が成し遂げたこの結果を考える。
(まあ、もっとも奴自身はたいした事をしていないのであろうが)
そう思い、実際にそうであるのだが、ロイエンタールは感慨に耽る。
そんな彼に、同年代、いや少し老けているであろう頭一つばかり背の低い男が近づく。
「ひさしぶりだ、ロイエンタール」
「ミッターマイヤーか」
帝国軍教育総監ウォルフガング・ミッターマイヤーは四半世紀ぶりの再会に顔を綻ばす。
宇宙艦隊司令長官を経て、教育総監に就任したミッターマイヤーはフェザーンから時折伝え聞くかつての親友の名に、一縷の望みを懸けてこの式典に出席したのだ。
変わらぬ長身の親友に、最近背が縮んだ自身に苦笑する。
「元気か?」
「ああ」
実に四半世紀の間、顔をあわせていなかった二人であるが、結局その間戦争も無く、恨みやらなにやらも死別することも無く再会を交わした。
「この後、どうだ?」
「卿の奢りか?」
「バカいえ、ワリカンだ」
「ケチになったな。まあ、よかろう」
一晩で語りきるのは無理であろう二人のこれまでの人生。
しかし、共に再会することは無いと考えていた嘗てを思えば、これから先時間はいくらでもあるといえるだろう。
この国交正常化式典がフレーゲルの最後の公務となった。
帰国後、宰相を引退。
21年にわたる長期政権に幕を閉じた。
同時にブラウンシュバイク朝初代皇帝、エリザベート1世も退位。
息子のフランツに帝位を譲り、リップシュタットの別邸で夫婦生活を営む。
その後、フレーゲルが天寿を全うするまで両国間で大規模な戦闘は発生せず、後世に『繁栄の半世紀』などと言われる時代に、平凡ではないが平穏な人生を送ることとなる。
一人の凡人による物語が、英雄たちの伝説を始まることなく銀河の歴史へと埋もれさせた。
これはそんなお話である。
~ 完 ~