さあ、ロイエンタール抹殺会議の始まりである。
参加者は僕に、なにやらマリーンドルフに姓が変わりそうなアーダルベルトさん、司会担当のオーベルシュタインにフェルナーくんとメックリンガーさん。
それにミッターマイヤーを筆頭に、アイゼナッハ、ケスラー、シュタインメッツ、ビッテンフェルト、ミュラー、レンネンカンプの各提督。
他にはモルト中将に、ホフマイスターさんやバイエルラインなんかの各艦隊の幕僚などが揃っている。
討伐対象はウィルヘルム・フォン・リッテンハイム3世。
およびそれに与した大小1200ほどの貴族たちと、叛乱に参加した将兵である。
まあ、僕の一番の抹殺対象はロイエンタールなわけだが。
会議というが、さほど複雑なわけではない。
要は賊軍70000をガルミッシュ要塞に封じ込めつつ、キフォイザー星系を包囲し戦力差で押し潰してしまおうというわけだ。
ただ、原作と違って要塞内で自爆してくれるわけではないので、レンテンベルク要塞のように粘られるとちょっと面倒臭いねというぐらいのものだ。
オフレッサーのおっさんはこちら側だし、それも大した問題ではない。
問題はメルカッツさんにロイエンタール、ケンプ、ワーレンの指揮で戦闘が長引く場合である。
原作でリップシュタットの盟約に参加した3740名の貴族であるが、こちらについたのが約600名、あちらについたのがおよそ1200名。
残る2000名ぐらいが中立である。
僕なんかは完全に分かれると思っていたのだが、多くの貴族は日和見しているわけである。
アンスバッハさんの話では、派閥で見れば中立のうち7割ほどが伯父上よりの貴族であるが、今回の事件に関しては動きを見せないとのことである。
その理由もオーベルシュタインが解説してくれた。
またしても原因は僕だった。
リッテンハイム侯はなんとか戦力を掻き集めたものの、実質正規軍を掌握する伯父上のほうが優勢である。
故に伯父上側で参戦しても戦功を上げれないと中立を宣言しているようなのだ。
ただ、賊軍には与しないよという誓紙を伯父上に提出しているので、伯父上も不機嫌ながら連中の不義理を許しているらしい。
まあ、変に突っ込むとあっちに付きそうだしなあ。
さてこの連中、本来の狙いは僕の苦戦である。
正規軍を掌握したとはいえ、先の侵攻作戦の損害も回復しておらず、メルカッツさんやロイエンタールが持っていった分を考えれば、こちらに与した貴族の私兵を含めても倍に届かない。
そのうえ、ゼークト艦隊をガイエスブルクに駐屯させているので、ここオーディンにある僕が動かせる戦力は100000ほどだ。
数では勝るが、あの面子に防戦に徹されたら苦戦は免れないだろう。
貴族連中がそれを分かっているかは不明だが、つまるところ僕が苦戦しているところに颯爽と参戦し戦功を頂くということを狙っているようだ。
また、賊軍が優勢になったら反旗を翻し、リッテンハイム側につくという一石二鳥も考えているらしい。
つまり、僕はこの賊軍討伐で苦戦することは許されないということである。
マジか。
オーベルシュタインが諸将に、本人立案の賊軍討伐の作戦を淡々と解説していくなか、僕は無い知恵を絞ってどうにか短期決戦で終わらせる方法を考えていた。
このオーベルシュタインの作戦では賊軍討伐までに三ヶ月から半年ほどかかることを想定している。
賊軍を挑発しつつ各個撃破し、最終的に参戦した日和見貴族どもを盾に強引に要塞を落とす流れだ。
が、相手はあのメルカッツさんとロイエンタール。
うまく挑発に乗ってくるだろうか?
原作だとオーディンの留守番はモルト中将と三万の兵だったが、ここではそういうわけにもいかないのでケスラーとレンネンカンプの艦隊が留守番である。
二人とも少々不満顔である。
が、今一強いイメージが無いのである、この二人。
ケスラーは憲兵総監で、レンネンカンプはヤンにしてやられた記憶しかない。
まあ、ただ留守番というのもあれなので、勝利した暁には二人とも大将への昇進を約束する。
そもそも裏を衝かれなければいいわけで、ミッターマイヤーとシュタインメッツの艦隊を別ルートでキフォイザーへと向かわせる。
そしたら、
「よろしいのか? 司令長官も私が賊軍のロイエンタールと友誼があることはご存知のはずだが」
とか寝ぼけたことを仰った。
オーベルシュタインがギラリと義眼に鈍い光を点す。怖いよ。
「問題ない。ミッターマイヤー大将が軍令に背くことは無いと確信している。別働隊の指揮を任せる」
原作を知っていればミッターマイヤーが裏切る事がないのは自明の理である。
僕がそう言うと、彼は複雑そうな顔で了承した。
で、最後に実質的にアーダルベルトさんが指揮を執る、僕の本隊がキフォイザーを目指すわけだ。
途中での戦闘が無ければシャンタウ星系でミッターマイヤーの別働隊と合流、キフォイザーのガルミッシュ要塞で決戦である。
ゼークトのヒゲが合流してくれれば相当有利なのだが、イゼルローンの轍があるから果たしてガイエスブルクから出てくるかなあ。
そのへんはシュトライトさんとシューマッハさんに期待するしかないか。
という感じで作戦は決まった。
12月26日、オーディンを出征。
12月29日、フレイア星系のレンテンベルク要塞に到着。
いい事思いついた僕は、アーダルベルトさんとオーベルシュタインを呼んで相談。
アーダルベルトさんは笑いながら、オーベルシュタインは相変わらず良く分からない表情で肯定の意を示す。
よし、二人がいいと言ってくれれば成功したも確実である。
早速、実行に移すことにした。
『賊軍に告ぐ。貴様らに帝国貴族としての矜持が残っているのであれば、正々堂々私との決戦に応じよ! 繰り返す、賊軍に……』
「早速してやられたな、ロイエンタール。貴族どもはフレーゲルの挑発に怒髪天を衝く勢いだ」
「うむ、メルカッツ総司令が盟主を諌めているが……まあ、意味があるまい」
「どうする? 当初の予定ではここで打撃を与え、中立の連中をこちらに引き込むはずだが」
「いや、フレーゲルの挑発に乗る」
「というと?」
「戦場であいつを殺せば、こちらの勝ちだ。あちらとしても長引くのは不本意だろうが、こちらとしても長期戦はその後に影響が出るからな。ここで一気に勝負に出る」
「偶然、両方の利害が一致したわけか? これがフレーゲルの策だとしたら……厄介な話に巻き込んでくれる」
「勝てば良いのさ、ケンプ。それに、フレーゲルの策ということはあるまい。策だとしたら例のオーベルシュタインとかいう男だろう」
「ほう。たしか先の撤退を立案したとかの?」
「そうだ。フレーゲル自身は無能ではないが平凡な男だ。が、人を見抜く才に長けている。おそらく一目で対象をある程度まで把握できるはずだ……最早異能に近いな」
「それで、よく敵対する気になったな。それならばフレーゲルの元でも出世は望めるわけだろう?」
「簡単な話だ。それだとファーレンハイトの上にはいけん。奴も門閥貴族の常で身内に甘い、俺がファーレンハイトより優れているとしても奴が頭角を伸ばす前からの側近の上には置かんだろう」
「要はファーレンハイトの下につきたくないということか? くそ、やはり貧乏くじか。そうなるとルッツの話もウソか?」
「さあな、それは知らん。さっきも言ったが、勝てば良いのさ」
「……それしかないということか。となれば、別働隊と合流する前に叩きたいところであるが」
「ミッターマイヤーが遅れることはありえん。が、先にシャンタウに陣取れば各個撃破……いや、私兵連中にそこまで期待するのは無駄だな。ワーレンに15000ほど指揮させて足止めに徹するの限界か」
「それでようやく数で互角か、練度を考えると頭が痛い」
「長期戦でも同じように出てくる問題だ。ぼろが出る前にけりをつけるしかあるまい」
見事、僕の策は成功した。
罵られた賊軍の貴族たちは盟主と共にガルミッシュ要塞を出立したと偵察艦隊から連絡が入る。
その戦力、実に70000。
全力出撃である。
あれ? オーディンに20000、別働隊に25000。
今、本隊55000?
なんかやばくね?
やばかった。
ミッターマイヤーの別働隊は本隊と同時にシャンタウ星系に到着してくれたのだが、ルートが違うのでまだ合流していない。
賊軍はそれを見越していたのか、15000ほどの艦隊を別働隊の押さえに当て、残る全軍でこちらに突っ込んできたのである。
アーダルベルトさんは歓喜の笑みを浮かべ、オーベルシュタインは相変わらずの無表情。
対する僕は、半分意識を飛ばしかけながら提督席に座っていた。
つーか、賊軍強くね?
いや、原作でもメルカッツさんとアーダルベルトさん指揮の部隊は普通に強かった。
指揮官がよければ練度はさほど問題にならないということなのか?
……あー、ヤン艦隊もそんな感じだった気もする。
そういや、獅子に率いられた羊の群れ云々という話もあるしなあ。
そんなどうでもいい事を考えているうちに二時間ほど経過していた。
今のところ五分五分。
ミッターマイヤーの別働隊は優勢だが突破までは至っていない。
だんだん乱戦気味になってきたし、例の戦法の出番かな?
装甲擲弾兵吶喊のお時間である。
本来、ラインハルトをぶっ殺すために考えていた戦法であるが、先の同盟領侵攻時にも有効だったため、僕的には必殺技みたいなもんである。
お、ついにワルキューレの戦闘範囲に敵旗艦を含んだ艦隊が入ったか?
数こそこの場ではほぼ同数だが、ほぼ正規兵で構成されるこちらは相手に比べて有利な点がある。
貴族の私兵に空母は殆ど無い。
よってワルキューレが縦横無尽する乱戦で優位に立てるのだ。
そしてオフレッサーのおっさん率いる装甲擲弾兵はこちら側である。
ゆえに艦載機の支援のもと、揚陸艦の敵旗艦強行突入が可能になるのだ。
『ケンプ提督、戦死!』
「なにっ? 詳しく話せ!」
『はっ、オフレッサー上級大将率いる装甲擲弾兵に突入され戦死なさいました』
「ちぃ、あの時の作戦か。聞いた時には石器時代の勇者のよい活用法と感心したものだが、確かに突入されたらあの男を止めようが無いな……」
よし、賊軍の一部が崩れた。
オフレッサーのおっさんからの通信(音声のみ)後、指揮官のケンプが死んだので艦隊運動が一気に適当になった。
どうもこの戦法、ラインハルトの首を上げるためだけに考えていたから気づかなかったのだが、指揮官と共に旗艦の幕僚陣もミンチになるため、分艦隊の指揮官が優秀じゃないとそのまま艦隊が崩壊する利点があった。
特に今回は貴族の私兵なのでそれが顕著である。
ふふふ、次はロイエンタール貴様の番だ。
ミッターマイヤーの別働隊もそろそろけりがつく。
死ね、ロイエンタール! オフレッサーのおっさんに首を刈られて死んでしまえ!
『オフレッサー上級大将、戦死!』
な・に・が・お・き・た!