そんなわけでロイエンタールがリッテンハイム側に組した。
とはいってもリッテンハイムに組したロイエンタールを僕がどうこうできるわけでもない。
ファーレンハイトさんも笑いながら飲んでいたので特に何もしなかった。
まあ、この時のことをオーベルシュタインに知らせておけば、と僕は死ぬほど後悔することになるのだが。
翌日、僕は宇宙艦隊司令部で戦力のチェック。
リップシュタット戦役はなくなったが、これまでの流れからそれに類する事件がおこると思ったからだ。
とりあえずこの間の侵攻作戦で失った戦力の再編である。
参加したのは正規軍60000と貴族の私兵が70000、だいたい損失が20000と30000。
実はこんなもんだと、艦艇の補充は問題なかったりする。
特に今は新造艦の建艦ラッシュで、被害に目をつぶればいい入れ替えの機会になっていたりする。
兵員の補充のほうがはるかに大変で、戦死者およそ800万人。
正規軍が200万ほどで、残りは貴族の私兵である。
基本的に必要の無い従卒や従者などを余分に乗せているので、倍ぐらい余計に死んでいる。
まあ、私兵分は自分のところ以外はどうでもいいや。
正規軍の再編成である。
常備120000から20000ほど減少しているが、予備役を招集するほどでもないだろう。
真っ先にやっておくことはローエングラム元帥府の戦力解体である。
うーんと、各提督の艦隊は後回しでいいや。
先にラインハルトの艦隊を解体しよう。
しかし、この旗艦どうするか。
無茶苦茶目立つから乗りたくないしなあ……
そんなこんなで終業時間、今日もファーレンハイトさんと飲みに行こうと誘う。
が、断られる。
最近ちょくちょくこんな風に奢ると言っても乗ってこない事が多い。
多分、給料が増えたから僕の顔を見ずに飲みたい日もあるのだろうと、僕もたまには親友アルフレットのとこにでも顔を出すことにした。
そこで知る驚愕の事実!
なんとファーレンハイトさんはマリーンドルフさん家にお呼ばれしているらしい。
親友アルフレットの言うには、先のカストロプ動乱の際に捕まっていたマリーンドルフ伯を救出したのが切っ掛けらしい。
カストロプからの帰還するまでの間に、すっかりファーレンハイトさんを気にいったマリーンドルフ伯は、オーディンに帰還したその日の夜から頻繁に家に招待するようになったそうだ。
いいネタを手に入れた、早速明日ファーレンハイトさんをからかうとしよう。
僕は親友アルフレットのポエムを聞きながら、どうやってぎゃふんと言わせるか考えるのであった。
「きのうはおたのしみでしたね」
と、僕が出仕したファーレンハイトさんにニヤニヤしながら言うと、一瞬表情を凍らせるものの、
「フフン、羨ましかろう?」
と、ドヤ顔で返された。
ぐぬぬ……
さて、昨日の続きということで、伯父上の元帥府を含めて艦艇を配置しなければ、と長官室まで歩いているとたまたますれ違ったワーレンに親の敵でも見るかのように睨まれた。
ええー、僕何かした?
その理由は長官室で判明する。
なんと、ケンプとワーレンがリッテンハイム侯の戦闘技術顧問になっていた。
……ロイエンタールの野郎、ケンプとワーレン引っこ抜いていきやがった!
あの時、二人もメックリンガーに倣うだろうとか言ってたんで油断した。
ミッターマイヤーはともかく、あいつ絶対僕らに気づいてたに違いない。
まあ、ケンプは分かる。
あの人かなり上昇志向強いし、ファーレンハイトさんの下風にいていいのか? とか言ったんだろう。
だが、ワーレンはなんで? しかもあんなに感情をむき出しにして。
後で分かったのだが、ルッツの死因が僕で、同盟侵攻時に僕の機嫌を損ねたせいで謀殺されたと告げたらしい。
オーベルシュタインじゃないんだから、僕がやったなんて信じるなよワーレン。
ロイエンタールめ……
と、ロイエンタールにケンプとワーレンを持ってかれたわけだが、ミッターマイヤーにケスラー、ビッテンフェルトは残っているのでよしとする。
名目上、帝国軍を掌握した僕はさっそく周囲をブラウンシュバイク派閥に変更していく。
一応、ミュッケンベルガーのおっさんから委譲された形になっているので、ラインハルトのようなカリスマ不在の僕でも反発は殆ど無い。
そのおっさんは伯父上から爵位をもらい、政争横目に悠々隠居生活である。
羨ましい。
うう、思考がそれた、対リッテンハイム戦を考えねば。
とりあえず、ファーレンハイトさんを主軸に艦隊を再編する。
もとのブラウンシュバイク元帥府は新たにゼークトのヒゲおやじを指揮官に迎え、シュトライトさんとシューマッハさんに任せる。
真っ先に仲間になりに来たメックリンガーは幕僚総監として迎える。
このときオーベルシュタインが反対しなかったのが気になった。
そのオーベルシュタインは参謀長に、原作通り部下としてフェルナーくんを配置。
このときオーベルシュタインは中将に昇進させた。
格下に指図されるとビッテンフェルトとかが反発しそうだったから、同格にしておけば問題なかろうという配慮である。
艦隊司令には原作でラインハルトが重用した面子を集める。
アイゼナッハ、シュタインメッツ、ミュラー、レンネンカンプといった感じである。
これに残ったミッタマイヤー、ケスラー、ビッテンフェルトを加えると、なんか普通に勝てそうな気になってきた。
内訳は、
ブラウンシュバイク艦隊:20000 ゼークト上級大将
ファーレンハイト艦隊 :20000 ファーレンハイト上級大将
ミッターマイヤー艦隊 :15000 ミッターマイヤー大将
アイゼナッハ艦隊 :10000 アイゼナッハ中将
ケスラー艦隊 :10000 ケスラー中将
シュタインメッツ艦隊 :10000 シュタインメッツ中将
ビッテンフェルト艦隊 :10000 ビッテンフェルト中将
ミュラー艦隊 :10000 ミュラー中将
レンネンカンプ艦隊 :10000 レンネンカンプ中将
以上である。
伯父上の私兵と帝国正規軍を併せ、115000の大兵力である。
そう考えれば、ロイエンタールにケンプ、ワーレンがいるリッテンハイム側は大体7、80000ぐらいなんで、楽勝とはいかんが普通に勝てそうじゃないか?
うん、軍は何とかなったと思う。
今度はアンスバッハさんに頼んで貴族連中の動向を調べてもらう。
数日中に情報が届いた。流石仕事が速い。
大小4000ぐらいの貴族のうち、リッテンハイム側に1200前後、こちら側に600ほど。
残る半分は中立だ。
あちら側についた貴族で知っているのはロイエンタールぐらいか。
こちらというと、リヒテンラーデ侯にゲルラッハ子爵、親友アルフレットのランズベルク伯。
中立と思ったマリーンドルフ伯もこちら側だったのが意外である。ファーレンハイトさんがらみかな?
中立のは知ってる名前はないなあ。
ファーレンハイトさんも、連中は勝った方になびくから無視してもよかろうとか言ってるし問題ないだろう。
『ローエングラム伯が倒れただけで我々が離散したように、フレーゲルが死ねばあちらの結束は簡単に崩れる』
しかし、僕はアホか。
宇宙艦隊司令長官になった時、ラインハルトの立ち位置と認識したのにこの様である。
ロイエンタールが暗殺用に特殊部隊送ってきやがった。
オーベルシュタインの機転で、オフレッサーのおっさんたちが護衛にいなかったら普通に死んでたぞ。
くそ、許さん。
僕は用意しておいたエチケット袋をしまいながら、口元を拭う。
改めて、ロイエンタールをブチ殺す決意を固めるのだった。
そして、この事件に僕以上にブチ切れたのが伯父上。
宰相の権限をフルに活用して一晩でリッテンハイム侯討伐の根回しを終わらせた。
といっても、副宰相のリヒテンラーデと共に、軍務尚書エーレンベルクと統帥本部総長シュタインホフに圧力をかけただけだが。
それでもその翌日にリッテンハイムらを拘束すべく、軍が動いたのだから問題ないのだろう。
なのだが、見事に空振り。
リッテンハイム派の貴族は、ロイエンタールの指示で所領に戻っており、リッテンハイムもその例外ではなった。
どうも、本格的にロイエンタールが暗躍しているようだ。
あの野郎、両陣営が本格的に準備を終える前に事を起こして、状況を混乱させようとしているらしい。
そして何故か不明だが、混乱の最中に僕を殺すことでブラウンシュバイク・リヒテンラーデ陣営を瓦解させるということだ。
他はともかく、ここが分からん。
死んで陣営が瓦解するとなれば、普通伯父上かエリザベート陛下ちゃんだろ。
とまあ一部理解できないところがあるものの、オーベルシュタインが大体先読み・解説してくれるので、実に助かる。
さて、逃げたリッテンハイムたちは私兵と共にキフォイザー星系に集結、正義派諸侯軍を名乗った。
正直、展開が速すぎて僕はそちらの方まで手をまわす余裕は無かった。
オーベルシュタインの手回しで、ゼークトのヒゲおやじの艦隊がアルテナ星系のほうで艦隊訓練してなかったら領地がやばかったかも。
つーか、まだ年が明けててないよ。
12月だよ、展開速すぎだよ!
しかも正義派諸侯軍の総司令官はメルカッツ上級大将。
ロイエンタールは副司令兼参謀長らしい。
うん、メルカッツさんは原作だと伯父上に脅されてたから、問題ないと思ってなんもしてなかった。
これでケンプとワーレンもあっちだからなあ。
帝国暦487年、12月19日。
宇宙艦隊司令長官である僕に、リッテンハイム侯ら賊軍の討伐令が発せられた。